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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230613BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230613BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230613BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230613BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019092348
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020185919
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021325(WO,A1)
【文献】特開2017-165219(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162769(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪を転舵させる転舵シャフトを含む車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源であるモータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する操舵制御装置であって、
前記指令値に反映させるべき前記転舵シャフトに作用する軸力を操舵状態に応じて演算する第1の演算部と、
車載される上位制御装置が操舵制御に介入する際に生成する配分指令の値に対して徐変処理を施すことにより、前記上位制御装置の操舵制御に対する介入度合いを示す値を時間に対して徐々に変化させるかたちで演算する第2の演算部と、
前記第1の演算部により演算される前記軸力に対して前記第2の演算部により演算される前記介入度合いを示す値を反映させることにより、前記指令値に反映させるべき最終的な軸力を演算する第3の演算部と、
操舵状態および前記第3の演算部により演算される前記最終的な軸力に基づきステアリングホイールの操作に応じて回転するシャフトの目標回転角を演算する第4の演算部と、
前記配分指令の値に対して徐変処理を施すことにより、前記上位制御装置が操舵制御に介入する際に生成する上位指令値に対する第1の配分比率、および前記第4の演算部により演算される前記目標回転角に対する第2の配分比率を、それぞれ時間に対して徐々に変化させるかたちで演算する第5の演算部と、
前記第1の配分比率および前記上位指令値から得られる値と前記第2の配分比率および前記第4の演算部により演算される前記目標回転角から得られる値とを用いて前記シャフトの最終的な目標回転角を演算する第6の演算部と、
前記シャフトの実際の回転角を前記第6の演算部により演算される前記シャフトの最終的な目標回転角に一致させるフィードバック制御を通じて前記指令値に反映させるべき指令値成分を演算する第7の演算部と、を有している操舵制御装置。
【請求項2】
前記第2の演算部は、前記上位制御装置の操舵制御に対する介入度合いを示す値として自動運転率を演算し、
前記第3の演算部は、前記自動運転率あるいは前記自動運転率に応じたゲインを前記第1の演算部により演算される前記軸力に反映させることにより、前記指令値に反映させるべき最終的な軸力を演算する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトを備え、
前記モータは、前記ステアリングシャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータである請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記ステアリングホイールと前記転舵シャフトとの間の動力伝達経路として機能するシャフトを備え、
前記モータは、前記シャフトまたは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生させるアシストモータである請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を機械的に分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両が走行しているとき、操舵装置の制御装置は、反力モータを通じて操舵反力を発生させる反力制御を実行するとともに、転舵モータを通じて転舵輪を転舵させる転舵制御を実行する。
【0003】
ここで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が機械的に分離されているため、転舵輪に作用する路面反力がステアリングホイールに伝わりにくい。したがって、運転者は路面状況を、ステアリングホイールを通じて手に感じる操舵反力(手応え)として感じにくい。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1に記載の操舵制御装置は、操舵角に基づく理想的なラック軸力であるフィードフォワード軸力と、車両の状態量(横加速度、転舵電流、およびヨーレート)に基づく推定軸力であるフィードバック軸力とを演算する。操舵制御装置は、フィードフォワード軸力およびフィードバック軸力に所定の配分比率を乗算した値を合算することにより最終的な軸力を演算し、この最終的な軸力に基づき反力モータを制御する。フィードバック軸力には路面状態が反映されるため、反力モータにより発生される操舵反力にも路面状態が反映される。したがって、運転者は、路面状態を操舵反力として感じることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-148299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、車両の安全性あるいは利便性をより向上させるための様々な運転支援機能を実現するための運転支援システムの開発が進められている。近年では、システムが運転を代替する自動運転機能を実現するための自動運転システムの開発も盛んに行われている。運転支援システムあるいは自動運転システムの制御装置(以下、「上位制御装置」という。)は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各車載システムの制御装置に対して個別の制御を指令する。操舵制御装置は、上位制御装置により生成される指令値に基づき反力モータおよび転舵モータの駆動を制御する。
【0007】
運転支援システムあるいは自動運転システムが車両に搭載される場合、つぎのようなことが懸念される。たとえば反力モータが発生する操舵反力は、ステアリングホイールの挙動にも影響を及ぼす。このため、運転者によって手動運転が行われるときと、運転支援あるいは自動運転が行われるときとで、操舵制御装置が実行する反力制御に対する要求が異なることがある。たとえば運転者によって手動運転が行われるときと運転支援あるいは自動運転が行われるときとでは、反力モータが発生する操舵反力が異なることが考えられる。このことに起因して、車両の操舵モードが手動運転と運転支援との間、あるいは手動運転と自動運転との間で切り替えられるとき、運転者はステアリングホイールを介した手応えが急変することなどによって違和感を覚えるおそれがある。
【0008】
なお、車両の操舵機構に対してモータのトルクをアシスト力として付与するEPS(電動パワーステアリング装置)に運転支援機能あるいは自動運転機能を搭載する場合についても、ステアバイワイヤ方式の操舵制御装置と同様の課題が存在する。
【0009】
本発明の目的は、自動操舵制御から手動操舵制御へ切り替える際、運転者に与える違和感を低減することができる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、転舵輪を転舵させる転舵シャフトを含む車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源であるモータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する。前記指令値に反映させるべき前記転舵シャフトに作用する軸力を操舵状態に応じて演算する第1の演算部と、車載される上位制御装置が操舵制御に介入する際に生成する配分指令の値に対して徐変処理を施すことにより、前記上位制御装置の操舵制御に対する介入度合いを示す値を時間に対して徐々に変化させるかたちで演算する第2の演算部と、前記第1の演算部により演算される前記軸力に対して前記第2の演算部により演算される前記介入度合いを示す値を反映させることにより、前記指令値に反映させるべき最終的な軸力を演算する第3の演算部と、を有している。
【0011】
上位制御装置が操舵制御に介入するときと、上位制御装置が操舵制御に介入しないときとで、モータが発生する駆動力に対する要求が異なることが考えられる。このため、上位制御装置が操舵制御に介入する状態と、上位制御装置が操舵制御に介入しない状態との間で切り替わるとき、運転者はステアリングホイールを介した手応えが急変することなどによって違和感を覚えることが懸念される。
【0012】
この点、上記の構成によれば、たとえば上位制御装置が操舵制御に介入するとき、第2の演算部による配分指令に対する徐変処理の実行を通じて、上位制御装置の操舵制御に対する介入度合いを示す値が時間に対して徐々に変化するかたちで演算される。そしてこの徐々に変化する介入度合いを示す値が第3の演算部によって、第1の演算部により演算される軸力に反映されることにより、指令値に反映させるべき最終的な軸力が演算される。このため、最終的な軸力は、徐々に変化する介入度合いを示す値に応じて徐々に変化する。すなわち、最終的な軸力の急激な変化、ひいては当該最終的な軸力が反映される指令値の急激な変化が抑制される。したがって、操舵機構に付与される駆動力の急激な変化が抑えられるため、運転者は操舵機構に付与される駆動力の変化に伴う違和感を覚えにくい。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、前記上位制御装置の操舵制御に対する介入度合いを示す値として自動運転率を演算するようにしてもよい。この場合、前記第3の演算部は、前記自動運転率あるいは前記自動運転率に応じたゲインを前記第1の演算部により演算される前記軸力に反映させることにより、前記指令値に反映させるべき最終的な軸力を演算することが好ましい。
【0014】
上記の操舵制御装置において、第4の演算部、第5の演算部、第6の演算部、第7の演算部を有していてもよい。第4の演算部は、操舵状態および前記第3の演算部により演算される前記最終的な軸力に基づきステアリングホイールの操作に応じて回転するシャフトの目標回転角を演算する。第5の演算部は、前記配分指令の値に対して徐変処理を施すことにより、前記上位制御装置が操舵制御に介入する際に生成する上位指令値に対する第1の配分比率、および前記第4の演算部により演算される前記目標回転角に対する第2の配分比率を、それぞれ時間に対して徐々に変化させるかたちで演算する。第6の演算部は、前記第1の配分比率および前記上位指令値から得られる値と前記第2の配分比率および前記第4の演算部により演算される前記目標回転角から得られる値とを用いて前記シャフトの最終的な目標回転角を演算する。第7の演算部は、前記シャフトの実際の回転角を前記第6の演算部により演算される前記シャフトの最終的な目標回転角に一致させるフィードバック制御を通じて前記指令値に反映させるべき指令値成分を演算する。
【0015】
この構成によれば、たとえば上位制御装置が操舵制御に介入するとき、第5の演算部による配分指令に対する徐変処理の実行を通じて、第1の配分比率および第2の配分比率の急激な変化が抑制される。このため、第6の演算部で使用される最終的な目標回転角の急激な変化、ひいては操舵機構に付与される駆動力の急激な変化が抑えられる。すなわち、操舵機構に付与される駆動力が徐々に変化する。したがって、運転者は操舵機構に付与される駆動力の変化に伴う違和感を覚えにくい。
【0016】
上記の操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトを備え、前記モータは、前記ステアリングシャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータであってもよい。
【0017】
上記の操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、前記ステアリングホイールと前記転舵シャフトとの間の動力伝達経路として機能するシャフトを備え、前記モータは、前記シャフトまたは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生させるアシストモータであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の操舵制御装置によれば、自動操舵制御から手動操舵制御へ切り替える際、運転者に与える違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図。
図2】操舵制御装置の第1の実施の形態の制御ブロック図。
図3】第1の実施の形態における操舵反力指令値演算部の制御ブロック図。
図4】第1の実施の形態における軸力演算部の制御ブロック図。
図5】操舵制御装置の第2の実施の形態における軸力演算部の制御ブロック図。
図6】操舵制御装置の第3の実施の形態における調停処理部の制御ブロック図。
図7】操舵制御装置の第4の実施の形態における調停処理部の制御ブロック図。
図8】(a),(b),(c),(d)は、操舵制御装置の第5の実施の形態におけるステアリングホイールの動作の変化を示す正面図。
図9】電動パワーステアリング装置に搭載される操舵制御装置の第6の実施の形態の制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
【0021】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。ステアリングシャフト12は操舵機構を構成する。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。
【0022】
<操舵反力を発生させるための構成:反力ユニット>
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0023】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相(U,V,W)のブラシレスモータが採用される。反力モータ31(正確には、その回転軸)は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0024】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、舵角(操舵角)θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき舵角θを求めることができる。
【0025】
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わる操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
【0026】
<転舵力を発生させるための構成:転舵ユニット>
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0027】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41(正確には、その回転軸)は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は車幅方向(図中の左右方向)に沿って移動する。
【0028】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14をハウジング(図示略)の内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる支持機構(図示略)によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0029】
<制御装置>
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両に設けられて車両の走行速度である車速Vを検出する。
【0030】
制御装置50は、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力、操舵トルクTおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。制御装置50は、実際の舵角θを目標操舵角に追従させるべく実行される舵角θのフィードバック制御を通じて舵角補正量を演算し、この演算される舵角補正量を目標操舵反力に加算することにより操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0031】
制御装置50は、転舵モータ41の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。このピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。制御装置50は、前述した目標操舵角を使用して目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0032】
ここで、車両には、安全でより良い運転を実現するために運転者の運転操作を支援する運転支援システム、あるいはシステムが運転を代替する自動運転機能を実現する自動運転システムが搭載されることがある。この場合、車両においては、制御装置50と他の車載システムの制御装置との協調制御が行われる。協調制御とは、複数種の車載システムの制御装置が互いに連携して車両の動きを制御する技術をいう。車両には、たとえば各種の車載システムの制御装置を統括制御する上位制御装置500が搭載される。上位制御装置500は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各種の車載制御装置に対して個別の制御を指令する。
【0033】
上位制御装置500は、制御装置50による操舵制御に介入する。上位制御装置500は、運転席などに設けられる図示しないスイッチの操作を通じて、自己の運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能をオン(有効)とオフ(無効)との間で切り替える。
【0034】
上位制御装置500は、たとえば車両に目標車線上を走行させるための指令値Sとして付加角度指令値を演算する。付加角度指令値は、その時々の車両の走行状態に応じて、車両を車線に沿って走行させるために必要とされる操舵角の目標値(現在の操舵角に付加すべき角度)である。制御装置50は、上位制御装置500により演算される指令値Sを使用して反力モータ31および転舵モータ41を制御する。
【0035】
また、上位制御装置500は、制御装置50に対する配分指令Sとしてフラグを生成する。フラグは、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンであるかオフであるかを示す情報である。上位制御装置500は、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンであるときにはフラグの値を「1」に、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオフであるときにはフラグの値を「0」にセットする。
【0036】
<制御装置の詳細構成>
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
【0037】
<反力制御部>
反力制御部50aは、舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
【0038】
舵角演算部51は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づきステアリングホイール11の舵角θを演算する。
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクT、車速Vおよび舵角θに基づき操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値Tを演算する。ちなみに、操舵反力指令値演算部52は、操舵反力指令値Tを演算する過程でステアリングホイール11の目標舵角θを演算する。操舵反力指令値演算部52については、後に詳述する。
【0039】
通電制御部53は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部53は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Iを検出する。この電流値Iは、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部53は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する(電流Iのフィードバック制御)。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0040】
<転舵制御部>
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、ピニオン角フィードバック制御部62、通電制御部63を有している。
【0041】
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θからピニオン角θを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。
【0042】
ピニオン角フィードバック制御部62は、操舵反力指令値演算部52により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、ピニオン角フィードバック制御部62は、ピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部62は、実際のピニオン角θを目標ピニオン角θ (ここでは、目標舵角θに等しい。)に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御(PID制御)を通じてピニオン角指令値T を演算する。
【0043】
通電制御部63は、ピニオン角指令値T に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部63は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部63は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ64を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Iを検出する。この電流値Iは、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部63は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する(電流値Iのフィードバック制御)。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
【0044】
<操舵反力指令値演算部>
つぎに、操舵反力指令値演算部52について詳細に説明する。
図3に示すように、操舵反力指令値演算部52は、加算器70、目標操舵トルク演算部71、トルクフィードバック制御部72、軸力演算部73、目標舵角演算部74、舵角フィードバック制御部75、および調停処理部76を有している。
【0045】
加算器70は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTとトルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T とを加算することにより、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin を演算する。
【0046】
目標操舵トルク演算部71は、加算器70により演算される入力トルクTin に基づき目標操舵トルクT を演算する。目標操舵トルクT とは、ステアリングホイール11に印加すべき操舵トルクTの目標値をいう。目標操舵トルク演算部71は、入力トルクTin の絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵トルクT を演算する。
【0047】
トルクフィードバック制御部72は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および目標操舵トルク演算部71により演算される目標操舵トルクT を取り込む。トルクフィードバック制御部72は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを目標操舵トルクT に追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御(PID制御)を通じて第1の操舵反力指令値T を演算する。
【0048】
軸力演算部73は、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、軸力演算部73は、電流センサ64を通じて検出される転舵モータ41の電流値I、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。軸力演算部73は、目標ピニオン角θ 、転舵モータ41の電流値I、および車速Vに基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力Faxを演算する。軸力演算部73については、後に詳述する。
【0049】
目標舵角演算部74は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、トルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T 、軸力演算部73により演算される軸力Fax、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。目標舵角演算部74は、これら取り込まれる操舵トルクT、第1の操舵反力指令値T 、軸力Faxおよび車速Vに基づき、ステアリングホイール11の目標舵角θを演算する。具体的には、つぎの通りである。
【0050】
目標舵角演算部74は、第1の操舵反力指令値T および操舵トルクTの総和である入力トルクTin から軸力Faxをトルクに換算したトルク換算値(軸力に応じた操舵反力)を減算することにより、ステアリングホイール11に対する最終的な入力トルクTin を求める。目標舵角演算部74は、最終的な入力トルクTin から次式(A)で表される理想モデルに基づいて目標舵角θ(目標操舵角)を演算する。この理想モデルは、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されている操舵装置を前提として、入力トルクTin に応じた理想的な転舵角に対応するステアリングホイール11の舵角(操舵角)を予め実験などによりモデル化したものである。
【0051】
in =Jθ*′′+Cθ*′+Kθ …(A)
ただし、「J」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12の慣性モーメントに対応する慣性係数、「C」は転舵シャフト14のハウジングに対する摩擦などに対応する粘性係数(摩擦係数)、「K」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12をそれぞればねとみなしたときのばね係数である。粘性係数Cおよび慣性係数Jは、車速Vに応じた値となる。また、「θ*′′」は目標舵角θの二階時間微分値、「θ′」は目標舵角θの一階時間微分値である。
【0052】
ちなみに、上位制御装置500による運転支援制御または自動運転制御の実行を通じて、指令値Sとして付加角度指令値が演算される場合、指令値Sは目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに加算される。この指令値Sが加算された最終的な目標舵角θは、軸力演算部73および舵角フィードバック制御部75へそれぞれ供給される。
【0053】
舵角フィードバック制御部75は、舵角演算部51により演算される舵角θ、および目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを取り込む。舵角フィードバック制御部75は、舵角演算部51により演算される実際の舵角θを目標舵角θに追従させるべく舵角θのフィードバック制御を通じて第2の操舵反力指令値T を演算する。
【0054】
調停処理部76は、トルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T 、舵角フィードバック制御部75により演算される第2の操舵反力指令値T 、および上位制御装置500により演算される配分指令Sを取り込む。調停処理部76は、配分指令Sに応じて、第1の操舵反力指令値T および第2の操舵反力指令値T に基づき操舵反力指令値Tを演算する。調停処理部76としては、つぎの3つの構成(a1)~(a3)のうちいずれか1つの構成が採用される。
【0055】
(a1)調停処理部76は、配分指令Sとしてのフラグの値に基づき、第1の操舵反力指令値T および第2の操舵反力指令値T のいずれか一方を操舵反力指令値Tとして設定する。調停処理部76は、配分指令Sとしてのフラグの値が「0」であるとき、第1の操舵反力指令値T を最終的な操舵反力指令値Tとして設定する。調停処理部76は、配分指令Sとしてのフラグの値が「1」であるとき(より正確には、フラグの値が「0」ではないとき)、第2の操舵反力指令値T を操舵反力指令値Tとして設定する。
【0056】
(a2)調停処理部76は、配分指令Sとしてのフラグの値に基づき、第1の操舵反力指令値T に第2の操舵反力指令値T を加算することにより操舵反力指令値Tを演算したり、第1の操舵反力指令値T をそのまま操舵反力指令値Tとして設定したりする。調停処理部76は、配分指令Sとしてのフラグの値が「0」であるとき、第1の操舵反力指令値T をそのまま操舵反力指令値Tとして設定する。調停処理部76は、配分指令Sとしてのフラグの値が「1」であるとき、第1の操舵反力指令値T と第2の操舵反力指令値T とを合算することにより、操舵反力指令値Tを演算する。
【0057】
(a3)調停処理部76は、まず配分指令Sとしてのフラグの値に応じて、第1の操舵反力指令値T に対する第1の配分比率、および第2の操舵反力指令値T に対する第2の配分比率を演算する。ただし、第1の配分比率および第2の配分比率は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される状態変数を考慮して設定するようにしてもよい。つぎに、調停処理部76は、第1の配分比率を第1の操舵反力指令値T に乗じた値と第2の配分比率を第2の操舵反力指令値T に乗じた値とを合算することにより、操舵反力指令値Tを演算する。
【0058】
<軸力演算部>
つぎに、軸力演算部73について詳細に説明する。
図4に示すように、軸力演算部73は、理想軸力演算部81、推定軸力演算部82、配分演算部83、徐変処理部84、および乗算器85を有している。
【0059】
理想軸力演算部81は、目標ピニオン角θ および車速Vに基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である理想軸力F1を演算する。理想軸力演算部81は、制御装置50の図示しない記憶装置に格納された理想軸力マップを使用して理想軸力F1を演算する。理想軸力F1は、目標ピニオン角θ (あるいは目標ピニオン角θ に所定の換算係数を乗算することにより得られる目標転舵角)の絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。なお、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
【0060】
推定軸力演算部82は、転舵モータ41の電流値Iに基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F2を演算する。ここで、転舵モータ41の電流値Iは、路面状態(路面摩擦抵抗)に応じた外乱が転舵輪16に作用することに起因して目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間の差が発生することによって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流値Ibには、転舵輪16,16に作用する実際の路面反力が反映される。このため、転舵モータ41の電流値Iに基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。推定軸力F2は、車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ41の電流値Ibに乗算することにより求められる。
【0061】
配分演算部83は、理想軸力F1に対する配分比率(ゲイン)、および推定軸力F2に対する配分比率をそれぞれ個別に設定する。配分演算部83は、理想軸力F1および推定軸力F2に対してそれぞれ個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより、混合軸力F3を演算する。配分比率は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数に応じて設定される。
【0062】
徐変処理部84は、上位制御装置500により生成される配分指令Sとしてフラグを取り込む。徐変処理部84は、配分指令Sとしてのフラグの値(ここでは、「0」または「1」)に対して、時間に対する徐変処理(徐々に変化させるための処理)を施すことにより自動運転率DRを演算する。たとえば、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオフからオンへ切り替えられたとき、上位制御装置500は配分指令Sとしてのフラグの値を「0」から「1」へ切り替える。このとき、徐変処理部84は、自動運転率DRの値を「0」から「1」へ向けて、たとえば「0.1」刻みで徐々に変化させる。
【0063】
ちなみに、自動運転率DRとは、車両の運転に対するシステムの関与の度合い(ここでは、操舵制御に対する上位制御装置500の介入度合い)を示す値をいう。技術レベルの高度化に応じて運転支援システムが複合化あるいは高度化されるにつれて、システムの運転への関与度合いが高まる。たとえば、自動運転率DRが100%であるとき、システムが完全に運転を代替する。逆に、自動運転率DRが0%であるとき、走行環境の認識、危険判断、および車両の運転操作(操舵、加減速など)を運転者がすべて行う。
【0064】
徐変処理部84としては、つぎの2つの構成(b1),(b2)のいずれか一方の構成が採用される。
(b1)徐変処理部84は、単位時間当たりの配分指令Sとしてフラグの値の変化量を所定の制限値に制限する、いわゆる時間に対する変化量ガード機能を有すること。ただし、徐変処理部84は、操舵速度、目標操舵速度、操舵トルク、または操舵トルク微分値に応じて制限値を変更するようにしてもよい。
【0065】
(b2)徐変処理部84として、ローパスフィルタを採用すること。ただし、ローパスフィルタは、操舵速度、目標操舵速度、操舵トルク、または操舵トルク微分値に応じてカットオフ周波数を変更可能としてもよい。
【0066】
乗算器85は、配分演算部83により演算される混合軸力F3と徐変処理部84により演算される自動運転率DRとを乗算することにより、軸力Faxを演算する。
<第1の実施の形態の作用および効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の作用および効果を得ることができる。
【0067】
(1)上位制御装置500が操舵制御に介入するときと、上位制御装置500が操舵制御に介入しないときとで、反力モータ31が発生する操舵反力(駆動力)に対する要求が異なることが考えられる。この場合、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンとオフとの間で切り替えられるとき、運転者はステアリングホイールを介した手応えが急変することなどによって違和感を覚えることが懸念される。
【0068】
この点、本実施の形態の軸力演算部73には、上位制御装置500により生成される配分指令Sに対して時間に対する徐変処理を施す徐変処理部84が設けられている。そして軸力演算部73は、配分演算部83により演算される混合軸力F3に対して、徐変処理部84による徐変処理を通じて演算される自動運転率DRを乗算することにより、最終的な軸力Faxを演算する。
【0069】
このため、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンとオフとの間で切り替えられるとき、徐変処理部84による配分指令Sに対する徐変処理の実行を通じて、最終的な軸力Faxの急激な変化が抑制される。すなわち、目標舵角θ(目標ピニオン角θ )、第2の操舵反力指令値T 、操舵反力指令値T、ひいてはステアリングホイール11に付与される操舵反力の急激な変化が抑えられる。したがって、運転者は操舵反力の変化に伴う違和感を覚えにくい。また、手動運転と運転支援との間、あるいは手動運転と自動運転との間の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0070】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、軸力演算部73の構成の点で第1の実施の形態と異なる。
【0071】
図5に示すように、軸力演算部73は、理想軸力演算部81、推定軸力演算部82、配分演算部83、徐変処理部84、および乗算器85に加え、ゲイン演算部86を有している。ゲイン演算部86は、徐変処理部84と乗算器85との間の演算経路に設けられている。ゲイン演算部86は、徐変処理部84により演算される自動運転率DRに基づき、配分演算部83により演算される混合軸力F3に対するゲインGを演算する。このゲインGは、製品仕様などに応じて、混合軸力F3、ひいては最終的な軸力Faxをより細やかに調節する観点に基づき演算される。ゲイン演算部86は、たとえば自動運転率DRの値が大きくなるほど、より小さな値のゲインGを演算する。乗算器85は、配分演算部83により演算される混合軸力F3と、ゲイン演算部86により演算されるゲインGとを乗算することにより最終的な軸力Faxを演算する。
【0072】
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態における(1)の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(2)自動運転率DRに応じたゲインGを混合軸力F3に乗ずることにより、最終的な軸力Faxが得られる。自動運転率DRに対するゲインGの変化特性を調整することによって、より細やかに軸力Faxを調整することが可能となる。また、より適切な軸力Faxを演算することもできる。
【0073】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有しており、操舵反力指令値演算部52の構成の点で第1の実施の形態と異なる。本実施の形態は、先の第2の実施の形態に適用してもよい。
【0074】
図3に二点鎖線で示すように、操舵反力指令値演算部52において、目標舵角演算部74と舵角フィードバック制御部75との間の演算経路には、調停処理部90が設けられている。調停処理部90は、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θ、上位制御装置500により演算される指令値S(ここでは、付加角度指令値)、および配分指令Sを取り込む。調停処理部90は、配分指令Sに応じて、目標舵角θおよび指令値Sに基づき最終的な目標舵角θを演算する。
【0075】
図6に示すように、調停処理部90は、徐変処理部91、乗算器92、減算器93、乗算器94、および加算器95を有している。
徐変処理部91は、上位制御装置500により生成される配分指令Sとしてフラグを取り込む。徐変処理部91は、配分指令Sとしてのフラグの値(ここでは、「0」または「1」)に対して、時間に対する徐変処理を施すことにより配分比率DRを演算する。配分比率DRは、上位制御装置500により演算される指令値Sに対するものである。また、配分比率DRは、車両の運転に対するシステムの関与の度合い(ここでは、操舵制御に対する上位制御装置500の介入度合い)を示す自動運転率としてみることもできる。
【0076】
乗算器92は、指令値Sに対して配分比率DRを乗ずることにより、配分比率DRに応じた指令値S を演算する。
減算器93は、制御装置50の記憶装置に格納された固定値である「1」から配分比率DRの値を減算することにより配分比率DRを演算する。このため、配分比率DRの値が「1(100%)」であるとき、配分比率DRの値は「0(0%)」になる。配分比率DRの値が「0」であるとき、配分比率DRの値は「1」になる。配分比率DRは、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに対するものである。
【0077】
乗算器94は、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに対して配分比率DRを乗ずることにより、配分比率DRに応じた目標舵角θ を演算する。
加算器95は、乗算器92により演算される配分比率DRに応じた指令値S と、乗算器94により演算される配分比率DRに応じた目標舵角θ とを加算することによって、舵角フィードバック制御部75において使用される最終的な目標舵角θを演算する。
【0078】
したがって、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態における(1)の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(3)調停処理部90は、上位制御装置500からの配分指令Sに基づく配分比率DRを指令値Sに乗じた値と、配分比率DRに基づく配分比率DRを目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに乗じた値とを合算することにより、舵角フィードバック制御部75で使用される最終的な目標舵角θを演算する。そして、調停処理部90には、上位制御装置500からの配分指令Sに対して時間に対する徐変処理を施す徐変処理部91が設けられている。
【0079】
このため、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンとオフとの間で切り替えられるとき、徐変処理部91による配分指令Sに対する徐変処理の実行を通じて、2つの配分比率DR,DRの急激な変化が抑制される。このため、舵角フィードバック制御部75で使用される最終的な目標舵角θの急激な変化、ひいてはステアリングホイール11に付与される操舵反力の急激な変化も抑えられる。したがって、ステアリングホイール11に付与される操舵反力が徐々に変化することにより、運転者は操舵反力の変化に伴う違和感を覚えにくい。また、手動運転と運転支援との間、あるいは手動運転と自動運転との間の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0080】
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有しており、操舵反力指令値演算部52の構成の点で第1の実施の形態と異なる。本実施の形態は、先の第2の実施の形態および第3の実施の形態に適用してもよい。
【0081】
図2に二点鎖線で示すように、転舵制御部50bには、調停処理部100が設けられている。調停処理部100は、反力制御部50aにおける操舵反力指令値演算部52と転舵制御部50bにおけるピニオン角フィードバック制御部62との間の演算経路に設けられている。調停処理部100は、先の図3に示される操舵反力指令値演算部52の目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、調停処理部100は、上位制御装置500により演算される指令値S(ここでは、付加角度指令値)、および配分指令Sを取り込む。調停処理部100は、配分指令Sに応じて、目標ピニオン角θ および指令値Sに基づき最終的な目標ピニオン角θ を演算する。
【0082】
図7に示すように、調停処理部100は、徐変処理部101、乗算器102、減算器103、乗算器104、および加算器105を有している。
徐変処理部101は、上位制御装置500により生成される配分指令Sとしてフラグを取り込む。徐変処理部101は、配分指令Sとしてのフラグの値(ここでは、「0」または「1」)に対して、時間に対する徐変処理を施すことにより配分比率DR11を演算する。配分比率DR11は、上位制御装置500により演算される指令値Sに対するものである。また、配分比率DR11は、車両の運転に対するシステムの関与の度合い(ここでは、操舵制御に対する上位制御装置500の介入度合い)を示す自動運転率としてみることもできる。
【0083】
乗算器102は、指令値Sに対して配分比率DR11を乗ずることにより、配分比率DR11に応じた指令値S11 を演算する。
減算器103は、制御装置50の記憶装置に格納された固定値である「1」から配分比率DR11の値を減算することにより配分比率DR22を演算する。このため、配分比率DR11の値が「1(100%)」であるとき、配分比率DR22の値は「0(0%)」になる。配分比率DR11の値が「0」であるとき、配分比率DR22の値は「1」になる。
【0084】
乗算器104は、目標舵角演算部74(図3参照)により演算される目標ピニオン角θ (ここでは、目標舵角θと同じ。)に対して配分比率DR22を乗ずることにより、配分比率DR22に応じた目標ピニオン角θp1 を演算する。
【0085】
加算器105は、乗算器102により演算される配分比率DR11に応じた指令値S11 と、乗算器104により演算される配分比率DR22に応じた目標ピニオン角θp1 とを加算することによって、ピニオン角フィードバック制御部62において使用される最終的な目標ピニオン角θ を演算する。
【0086】
したがって、第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態における(1)の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(4)調停処理部100は、上位制御装置500からの配分指令Sに基づく配分比率DR11を指令値S に乗じた値と、配分比率DR11に基づく配分比率DR22を目標舵角演算部74からの目標ピニオン角θ に乗じた値とを合算することにより、ピニオン角フィードバック制御部62で使用される最終的な目標ピニオン角θ を演算する。そして、調停処理部100には、上位制御装置500からの配分指令Sに対して時間に対する徐変処理を施す徐変処理部101が設けられている。
【0087】
このため、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンとオフとの間で切り替えられるとき、徐変処理部101による配分指令Sに対する徐変処理の実行を通じて、2つの配分比率DR11,DR22の急激な変化が抑制される。このため、ピニオン角フィードバック制御部62で使用される最終的な目標ピニオン角θ の急激な変化、ひいては転舵角θの急激な変化も抑えられる。したがって、転舵輪16,16の転舵角θが徐々に変化することにより、運転者は転舵角θの変化に伴う違和感を覚えにくい。また、手動運転と運転支援との間、あるいは手動運転と自動運転との間の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0088】
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第5の実施の形態を説明する。本実施の形態は、先の図6に示される徐変処理部91の動作の点で第3の実施の形態と異なる。
【0089】
ステアリングホイール11は、図示しない駆動機構の動作を通じて、その操作に適した操作位置と、所定の格納位置との間を移動可能に設けられている。駆動機構の動作は、制御装置50により制御される。
【0090】
制御装置50は、運転席などに設けられるスイッチの操作を通じて、自動運転制御機能がオフからオンへ切り替えられた旨認識されるとき、駆動機構を通じて、ステアリングホイール11を操作位置から格納位置へ退避させる。逆に、制御装置50は、運転席などに設けられるスイッチの操作を通じて、自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられた旨認識されるとき、駆動機構を通じて、ステアリングホイール11を格納位置から操作位置へ復帰させる。
【0091】
制御装置50は、自動運転制御を実行しているとき、転舵輪16,16を転舵させる転舵制御を実行する一方、反力モータ31を通じて操舵反力を発生させる反力制御を実行しない。すなわち、自動運転が行われているとき、転舵輪16,16は自動で転舵するものの、ステアリングホイール11は動作しない。
【0092】
調停処理部90は、上位制御装置500からの配分指令Sに基づき自動運転制御機能がオフからオンへ切り替えられた旨認識されるとき、舵角フィードバック制御部75へ供給する目標舵角θの値を強制的に「0」とする。調停処理部90は、たとえば加算器95により演算される最終的な目標舵角θに対して係数としての値「0」を乗ずることにより、舵角フィードバック制御部75へ供給する目標舵角θの値を「0」とする。
【0093】
ただし、調停処理部90は、軸力演算部73(図3参照)およびピニオン角フィードバック制御部62(図2参照)に対しては、加算器95により演算される最終的な目標舵角θを目標ピニオン角θ としてそのまま供給する。これにより、転舵輪16,16は目標ピニオン角θ に従って転舵動作を行う。
【0094】
調停処理部90は、上位制御装置500からの配分指令Sに基づき自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられた旨認識されるとき、加算器95により演算される目標舵角θを舵角フィードバック制御部75に対して供給する。もちろん、軸力演算部73およびピニオン角フィードバック制御部62に対しても、加算器95により演算される目標舵角θが目標ピニオン角θ として供給される。
【0095】
このようなステアリングホイール11の格納構造が採用されることに伴い、調停処理部90の徐変処理部91として、つぎの構成を採用している。
図6に二点鎖線で示すように、徐変処理部91はカウンタ91aを有している。徐変処理部91は、上位制御装置500からの配分指令Sに基づき自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられた旨認識されるとき、カウンタ91aを動作させる。また、徐変処理部91は、上位制御装置500からの配分指令Sに基づき自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられた旨認識されるとき、配分指令Sとしてのフラグの値に対する徐変処理を実行する実行状態から、配分指令Sとしてのフラグの値に対する徐変処理の実行開始を待機する待機状態へ切り替わる。
【0096】
徐変処理部91は、カウンタ91aを通じて計測される時間が定められた待機時間に達したとき、配分指令Sとしてのフラグの値に対する徐変処理を実行開始する。待機時間は、ステアリングホイール11が格納位置から操作位置へ移動するために必要とされる時間を基準として設定される。徐変処理部91が待機状態に維持されているとき、配分指令Sとしてのフラグの値は変化しない。ここでは、自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられることによって配分指令Sとしてのフラグの値は「1(100%)」から「0(0%)」へ切り替わるものの、徐変処理部91が待機状態に維持されているため、配分指令Sとしてのフラグの値は「1」に維持される。自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられてから待機時間だけ経過することによって徐変処理部91の待機状態が解除された以降、徐変処理部91により配分指令Sとしてのフラグの値に対して徐変処理が施されることにより、配分指令Sとしてのフラグの値は「1」から「0」へ向けて徐々に変化する。
【0097】
つぎに、第5の実施の形態の作用を説明する。
図8(a)に示すように、自動運転制御が実行されているとき、ステアリングホイール11は車室内における所定の格納位置に退避した状態に維持されている。
【0098】
図8(b)に示すように、運転席などに設けられるスイッチの操作を通じて、自動運転制御が解除されたとき、このことを契機としてステアリングホイール11が格納位置から操作位置へ向けて復帰を開始する。ただし、このときステアリングホイール11は回転しない。
【0099】
これは、つぎの理由による。すなわち、徐変処理部91は待機状態であるため配分指令Sとしてのフラグの値は「1」に保持されている。このため、指令値Sに対する配分比率DRの値は「1(100%)」、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに対する配分比率DRの値は「0」となる。また、自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられた状態であるため、上位制御装置500により演算される指令値Sの値は「0」である。ちなみに、自動運転制御機能がオフされている場合、上位制御装置500により指令値Sが演算されない構成が採用されるとき、調停処理部90の乗算器92は、指令値Sの値を「0」として取り扱う。したがって、徐変処理部91が待機状態に維持されている場合、加算器95により演算される最終的な目標舵角θの値は「0」となる。
【0100】
図8(c)に示すように、カウンタ91aにより計測される時間が待機時間に達するタイミングで、ステアリングホイール11は操作位置に復帰完了となる。また、カウンタ91aにより計測される時間が待機時間に達することを契機として徐変処理部91の待機状態が解除されることにより、徐変処理部91は配分指令Sとしてのフラグの値に対する徐変処理を実行開始する。配分指令Sとしてのフラグの値は「1」から「0」へ向けて徐々に変化することに伴い、指令値Sに対する配分比率DRの値は「1」から「0」へ向けて徐々に減少する一方、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに対する配分比率DRの値は「0」から「1」へ向けて徐々に増加する。すなわち、ステアリングホイール11の舵角θは、自動運転時の目標舵角θ(=0)から手動運転時の目標舵角θ(ここでは、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θ)へ徐々に近づいていく。
【0101】
図8(d)に示すように、やがて指令値Sに対する配分比率DRの値が「0」に達する一方、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに対する配分比率DRの値が「1」に達する。これにより、自動運転制御から手動運転制御への遷移が完了する。この遷移が完了するタイミングで、ステアリングホイール11の舵角θは手動運転時の目標舵角θ(ここでは、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θ)に一致する。
【0102】
したがって、第5の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(5)自動運転制御の実行時にステアリングホイール11を操作位置から格納位置へ退避させる構成が採用される場合、自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられたとき、ステアリングホイール11の退避位置から操作位置への復帰が完了するまでの期間、最終的な目標舵角θは「0」に維持される。このため、ステアリングホイール11が操作されない状況であるにもかかわらず、ステアリングホイール11が無駄に回転されることが抑制される。
【0103】
(6)また、自動運転制御機能がオンからオフへ切り替えられたとき、ステアリングホイール11の退避位置から操作位置への復帰が完了した後、徐変処理部91によって配分指令Sとしてのフラグの値に対する徐変処理の実行が開始される。配分指令Sとしてのフラグの値が「1」から「0」へ向けて徐々に変化することに伴い、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに対する配分比率DRの値が「0」から「1」へ向けて徐々に増加する。これにより、ステアリングホイール11の舵角θは、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θへ向けて徐々に近づいていく。したがって、自動運転制御から手動運転制御への切り替えをスムーズに行うことができる。
【0104】
<第6の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をEPS(電動パワーステアリング装置)の制御装置に具体化した第6の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0105】
EPSは、図1に示されるステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されている。すなわち、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール11の回転操作に伴い転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。また、EPSは、図1に示される反力モータ31および転舵モータ41のいずれか一方と同じ位置に設けられるアシストモータを有している。アシストモータは、操舵補助力(アシスト力)を発生する。
【0106】
図9に示すように、EPS200の制御装置201は、アシストモータ202に対する通電制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵補助力を発生させるアシスト制御を実行する。制御装置201は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、車速センサ501を通じて検出される車速V、アシストモータ202に設けられる回転角センサ203を通じて検出される回転角θに基づき、アシストモータ202に対する給電を制御する。
【0107】
制御装置201は、ピニオン角演算部211、アシスト指令値演算部212、および通電制御部213を有している。ピニオン角演算部211は、アシストモータ202の回転角θを取り込み、この取り込まれる回転角θに基づきピニオンシャフト13の回転角であるピニオン角θを演算する。アシスト指令値演算部212は、操舵トルクTおよび車速Vに基づきアシスト指令値Tas を演算する。アシスト指令値Tas は、アシストモータ202に発生させるべき回転力であるアシストトルクを示す指令値である。通電制御部213は、アシスト指令値Tas に応じた電力をアシストモータ202へ供給する。アシストモータ202に対する給電経路には、電流センサ214が設けられている。電流センサ214は、アシストモータ202へ供給される実際の電流の値である電流値Iを検出する。
【0108】
つぎに、アシスト指令値演算部212の構成を詳細に説明する。
アシスト指令値演算部212は、アシストトルク演算部221、軸力演算部222、目標ピニオン角演算部223、ピニオン角フィードバック制御部(ピニオン角F/B制御部)224、および調停処理部225を有している。
【0109】
アシストトルク演算部221は、操舵トルクTに基づいて第1のアシストトルクTas1 を演算する。アシストトルク演算部221は、加算器231、目標操舵トルク演算部232、およびトルクフィードバック制御部233を有している。加算器231は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTとトルクフィードバック制御部233により演算される第1のアシストトルクTas1 とを加算することにより、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin を演算する。目標操舵トルク演算部232は、加算器231により演算される入力トルクTin に基づき目標操舵トルクT を演算する。目標操舵トルク演算部232は、入力トルクTin の絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵トルクT を演算する。トルクフィードバック制御部233は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および目標操舵トルク演算部232により演算される目標操舵トルクT を取り込む。トルクフィードバック制御部233は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを目標操舵トルクT に追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御(PID制御)を通じて第1のアシストトルクTas1 を演算する。
【0110】
ちなみに、アシストトルク演算部221として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、アシストトルク演算部221は、操舵トルクTのフィードバック制御ではなく、操舵トルクTと第1のアシストトルクTas1 との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップを使用して、第1のアシストトルクTas1 を演算する。アシストトルク演算部221は、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、第1のアシストトルクTas1 の絶対値をより大きな値に設定する。
【0111】
軸力演算部222は、先の図4に示される第1の実施の形態の軸力演算部73と同様の機能を有している。軸力演算部222は、電流センサ214を通じて検出されるアシストモータ202の電流値I、目標ピニオン角演算部223により演算される目標ピニオン角θ 、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込み、これらアシストモータ202の電流値I、目標ピニオン角θ 、および車速Vに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力Faxを演算する。また、軸力演算部222は、徐変処理部222aを有している。この徐変処理部222aは、先の図4に示される徐変処理部84と同様の機能を有している。徐変処理部222aは、配分指令Sとしてのフラグの値(ここでは、「0」または「1」)に対して、時間に対する徐変処理(徐々に変化させるための処理)を施す。
【0112】
目標ピニオン角演算部223は、先の図3に示される第1の実施の形態の目標舵角演算部74と同様の機能を有している。目標ピニオン角演算部223は、アシストトルク演算部221により演算される第1のアシストトルクTas1 、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および軸力演算部222により演算される軸力Faxを使用して、先の式(A)で表される理想モデルに基づき目標ピニオン角θ を演算する。
【0113】
ピニオン角フィードバック制御部224は、先の図3に示される第1の実施の形態の舵角フィードバック制御部75と同様の機能を有している。ピニオン角フィードバック制御部224は、目標ピニオン角演算部223により算出される目標ピニオン角θ およびピニオン角演算部211により算出される実際のピニオン角θをそれぞれ取り込む。ピニオン角フィードバック制御部224は、実際のピニオン角θが目標ピニオン角θ に追従するように、ピニオン角θのフィードバック制御としてPID(比例、積分、微分)制御を行う。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部224は、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように第2のアシストトルクTas2 を演算する。
【0114】
調停処理部225は、先の図3に示される第1の実施の形態の調停処理部76と同様の機能を有している。調停処理部225は、トルクフィードバック制御部233により演算される第1のアシストトルクTas1 、ピニオン角フィードバック制御部224により演算される第2のアシストトルクTas2 、および上位制御装置500により演算される配分指令Sを取り込む。調停処理部225は、配分指令Sに応じて、第1のアシストトルクTas1 および第2のアシストトルクTas2 に基づきアシスト指令値Tas を演算する。
【0115】
通電制御部213は、アシスト指令値Tas に基づきアシストモータ202に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部213は電流センサ214を通じて検出される電流値Iを取り込む。そして通電制御部213は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすようにアシストモータ202に対する給電を制御する。これにより、アシストモータ202はアシスト指令値Tas に応じたトルクを発生する。すなわち、操舵状態に応じた操舵アシストが行われる。
【0116】
なお、制御装置201において、先の軸力演算部222における徐変処理部222aに代えて、あるいは徐変処理部222aに加えて、つぎの構成を設けてもよい。
図9に二点鎖線で示すように、制御装置201は調停処理部241を有していてもよい。調停処理部241は、先の図6に示される第3の実施の形態の調停処理部90と同様の機能を有している。調停処理部241は、目標ピニオン角演算部223により演算される目標ピニオン角θ 、上位制御装置500により演算される指令値S、および配分指令Sを取り込む。調停処理部241は、配分指令Sに応じて、目標ピニオン角θ および指令値Sに基づき最終的な目標ピニオン角θ を演算する。
【0117】
したがって、第6の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(7)運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンとオフとの間で切り替えられるとき、徐変処理部222aによる配分指令Sに対する徐変処理の実行を通じて、最終的な軸力Faxの急激な変化が抑制される。すなわち、目標ピニオン角θ 、第2のアシストトルクTas2 、アシスト指令値Tas 、ひいてはステアリングホイール11に付与されるアシスト力の急激な変化が抑えられる。このため、運転者はアシスト力の変化に伴う違和感を覚えにくい。また、手動運転と運転支援との間、あるいは手動運転と自動運転との間の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0118】
(8)制御装置201が調停処理部241を有している場合には、つぎの効果も得られる。すなわち、運転支援制御機能あるいは自動運転制御機能がオンとオフとの間で切り替えられるとき、調停処理部241による配分指令Sに対する徐変処理の実行を通じて、指令値Sに対する配分比率、および目標ピニオン角演算部223により演算される目標ピニオン角θ に対する配分比率の急激な変化が抑制される。このため、ピニオン角フィードバック制御部224で使用される最終的な目標ピニオン角θ の急激な変化、ひいてはステアリングホイール11に付与されるアシスト力の急激な変化も抑えられる。したがって、ステアリングホイール11に付与されるアシスト力が徐々に変化することにより、運転者はアシスト力の変化に伴う違和感を覚えにくい。また、手動運転と運転支援との間、あるいは手動運転と自動運転との間の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0119】
<他の実施の形態>
なお、前記各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1~第5の実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、先の図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【0120】
・第1~第5の実施の形態において、軸力演算部73により演算される推定軸力として、推定軸力F2に加え、あるいは推定軸力F2に代えて、つぎの(c1)~(c4)のうち少なくとも一の軸力を使用してもよい。第6の実施の形態の軸力演算部222においても同様である。
【0121】
(c1)横加速度およびヨーレートの少なくとも1つに基づき演算される推定軸力。
(c2)軸力センサを通じて検出される軸力。
(c3)タイヤ力センサを通じて検出されるタイヤ力、または当該タイヤ力に基づき演算されるタイヤ軸力。
【0122】
(c4)推定軸力F2、混合軸力F3および推定軸力F4に対して個別に設定される所定の分配比率を乗算した値を合算することにより得られる推定軸力。
・第1~第6の実施の形態において、最終的な軸力Faxとして、理想軸力F1、推定軸力F2、および先の(c1)~(c4)の力のうちいずれか1つを使用してもよい。
【0123】
・第1~第6の実施の形態において、上位制御装置500が、指令値Sとして付加角度指令値ではなく付加トルク指令値を演算することも想定される。この場合、第1~第5の実施の形態の操舵反力指令値演算部52および第6の実施の形態のアシスト指令値演算部212は、付加トルク指令値を付加角度指令値に変換し、この変換される付加角度指令値を使用するようにしてもよい。ただし、操舵反力指令値演算部52およびアシスト指令値演算部212には、付加トルク指令値を付加角度指令値に変換する変換部を設ける。
【0124】
・第1~第5の実施の形態において、操舵反力指令値演算部52として先の図3に示される調停処理部76を割愛した構成を採用してもよい。この場合、舵角フィードバック制御部75により演算される第2の操舵反力指令値T が操舵反力指令値Tとして使用される。また、第6の実施の形態において、アシスト指令値演算部212として先の図9に示される調停処理部225を割愛した構成を採用してもよい。この場合、ピニオン角フィードバック制御部224により演算される第2のアシストトルクTas2 がアシスト指令値Tas として使用される。
【0125】
・第1の実施の形態において、軸力演算部73の徐変処理部84により演算される自動運転率DRは、配分演算部83により演算される混合軸力F3ではなく、理想軸力F1あるいは推定軸力F2の演算に使用される状態変数、すなわち目標ピニオン角θ としての目標舵角θ、あるいは転舵モータ41の電流値Iに乗算するようにしてもよい。また、第2の実施の形態におけるゲイン演算部86により演算されるゲインGについても同様である。これらのことは、第6の実施の形態の軸力演算部222においても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0126】
10…操舵装置、11…操舵機構を構成するステアリングホイール、12…操舵機構を構成するステアリングシャフト(シャフト)、14…操舵機構を構成する転舵シャフト、16…転舵輪、31…反力モータ(モータ)、41…転舵モータ、44…ピニオンシャフト(シャフト)、50,200…制御装置(操舵制御装置)、74…目標舵角演算部(第4の演算部)、75…第7の演算部を構成する舵角フィードバック制御部、81…第1の演算部を構成する理想軸力演算部、82…第1の演算部を構成する推定軸力演算部、83…第1の演算部を構成する配分演算部、84…徐変処理部(第2の演算部)、85…乗算器(第3の演算部)、91…第5の演算部を構成する徐変処理部、92…第6の演算部を構成する乗算器、93…第5の演算部を構成する減算器、94…第6の演算部を構成する乗算器、95…第6の演算部を構成する加算器、202…アシストモータ、223…目標ピニオン角演算部(第4の演算部)、224…第7の演算部を構成するピニオン角フィードバック演算部、500…上位制御装置、DR…自動運転率(介入度合いを示す値)、DR…配分比率(第1の配分比率)、DR…配分比率(第2の配分比率)、F1…理想軸力、F2…推定軸力、F3…混合軸力、Fax…軸力(最終的な軸力)、G…ゲイン、S…配分指令(外部指令)、S…指令値(上位指令値)、T…操舵反力指令値、T …第2の操舵反力指令値(指令値成分)、T…操舵トルク、θ…舵角、θ…目標舵角(目標回転角)、θ…ピニオン角、θ …目標ピニオン角(目標回転角)。
図1
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