(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】荷方向制御システム
(51)【国際特許分類】
B66C 3/20 20060101AFI20230613BHJP
B66C 13/08 20060101ALI20230613BHJP
B66C 13/40 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B66C3/20
B66C13/08 H
B66C13/40 D
(21)【出願番号】P 2019105732
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-259787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0209156(US,A1)
【文献】特開平06-218685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B25J 1/00-21/02
B66C 1/00- 3/20
E04G 21/14-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに荷物を吊り下げた状態で当該荷物を運搬するクレーンの荷方向制御システムであって、
前記荷物の方向を指示する操作具と、
前記荷物を直接的又は間接的に掴持するマニュピュレータと、を具備し、
前記操作具の操作態様に応じて前記マニュピュレータが前記荷物を回転させて当該荷物の方向を調節
し、
前記荷物の地上高を把握し、
前記フックを通る垂線を中心とした前記荷物の回転半径を把握し、
前記マニュピュレータが同地上高で同回転半径を維持しつつ前記荷物を回転させて当該荷物の方向を調節する、ことを特徴とした荷方向制御システム。
【請求項2】
建築物の三次元モデルを取得し、
前記三次元モデルに基づいて前記荷物が取り付けられる方向を認識し、
前記荷物の方向をオペレータに教示する或いは前記マニュピュレータに直接的に指示する、ことを特徴とした請求項
1に記載の荷方向制御システム。
【請求項3】
前記操作具の操作態様を送信する送信機を前記クレーンに設け、
前記操作具の操作態様を受信する受信機を前記マニュピュレータに設け、
前記クレーンと前記マニュピュレータを互いから離隔した位置に配置可能としている、ことを特徴とした請求項1
または請求項2に記載の荷方向制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷方向制御システムに関する。
【0002】
従来より、代表的な作業車両であるクレーンが知られている。クレーンは、主に走行体と旋回体で構成されている。走行体は、複数の車輪を備え、自走可能としている。旋回体は、ブームのほかにワイヤロープやフックを備え、荷物を吊り下げた状態でこれを運搬可能としている。
【0003】
ところで、荷物が建築物を構成する鋼材などである場合、荷物を適切な位置に適切な方向で設置しなければ取り付けることができない。そのため、荷物に括り付けたロープを引張って荷物を回転させ、方向を調節する作業を行うことがある(特許文献1参照)。しかし、ロープを引張って荷物を回転させる作業は、特に高所で行う場合に危険であるし、運搬効率の向上を考える上で障害になってしまうという問題があった。また、運搬途中で荷物が回転すると、荷物が周囲の建築物などに衝突してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フックに吊り下げられた荷物の方向を調節できる荷方向制御システムを提供する。具体的には、運搬効率の向上を実現でき、かつ荷物が周囲の建築物などに衝突するのを防ぐ荷方向制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに荷物を吊り下げた状態で当該荷物を運搬するクレーンの荷方向制御システムであって、
前記荷物の方向を指示する操作具と、
前記荷物を直接的又は間接的に掴持するマニュピュレータと、を具備し、
前記操作具の操作態様に応じて前記マニュピュレータが前記荷物を回転させて当該荷物の方向を調節し、
前記荷物の地上高を把握し、
前記フックを通る垂線を中心とした前記荷物の回転半径を把握し、
前記マニュピュレータが同地上高で同回転半径を維持しつつ前記荷物を回転させて当該荷物の方向を調節する、ものである。
【0008】
第二の発明は、第一の発明に係る荷方向制御システムにおいて、
建築物の三次元モデルを取得し、
前記三次元モデルに基づいて前記荷物が取り付けられる方向を認識し、
前記荷物の方向をオペレータに教示する或いは前記マニュピュレータに直接的に指示する、ものである。
【0009】
第三の発明は、第一または第二の発明に係る荷方向制御システムにおいて、
前記操作具の操作態様を送信する送信機を前記クレーンに設け、
前記操作具の操作態様を受信する受信機を前記マニュピュレータに設け、
前記クレーンと前記マニュピュレータを互いから離隔した位置に配置可能としている、ものである。
【発明の効果】
【0010】
第一の発明に係る荷方向制御システムは、荷物の方向を指示する操作具を具備している。また、荷物を直接的又は間接的に掴持するマニュピュレータを具備している。そして、操作具の操作態様に応じてマニュピュレータが荷物を回転させて荷物の方向を調節する。かかる荷方向制御システムによれば、フックに吊り下げられた荷物の方向を調節できる。具体的には、ロープを引張って荷物を回転させる作業が不要となるので、運搬効率の向上を実現できる。また、運搬途中においても荷物の方向を調節できるので、荷物が周囲の建築物などに衝突するのを防ぐことが可能となる。
さらに、第一の発明に係る荷方向制御システムは、荷物の地上高を把握する。また、フックを通る垂線を中心とした荷物の回転半径を把握する。そして、マニュピュレータが同地上高で同回転半径を維持しつつ荷物を回転させて荷物の方向を調節する。かかる荷方向制御システムによれば、荷物の方向を調節する際に、荷物が傾いたり揺れたりすることがなくなるので、更に運搬効率の向上を実現できる。更に荷物が周囲の建築物などに衝突するのを防ぐことが可能となる。
【0012】
第二の発明に係る荷方向制御システムは、建築物の三次元モデルを取得する。また、三次元モデルに基づいて荷物が取り付けられる方向を認識する。そして、荷物の方向をオペレータに教示する或いはマニュピュレータに直接的に指示する。かかる荷方向制御システムによれば、少なくともオペレータが荷物の方向を間違えないので、更に運搬効率の向上を実現できる。
【0013】
第三の発明に係る荷方向制御システムは、操作具の操作態様を送信する送信機をクレーンに設けている。また、操作具の操作態様を受信する受信機をマニュピュレータに設けている。そして、クレーンとマニュピュレータを互いから離隔した位置に配置可能としている。かかる荷方向制御システムによれば、クレーンから遠く離れた位置まで荷物を運搬する場合であっても前述の効果を得られる。また、荷物が長尺であったとしても前述の効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図7】マニュピュレータカメラが撮影した画像を示す図。
【
図8】建築物の三次元モデルと荷物の三次元モデルの画像を示す図。
【
図9】クレーンとマニュピュレータが協調して荷物を運搬している状況を示す図。
【
図10】荷物の方向を調節している状況における画像を示す図。
【
図11】クレーンとマニュピュレータが協調して荷物を運搬している状況を示す図。
【
図12】クレーンとマニュピュレータが協調して荷物を運搬している状況を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願に開示する技術的思想は、以下に説明する実施形態のほか、他の実施形態にも適用できる。
【0016】
まず、
図1及び
図2を用いて、クレーン1について説明する。
【0017】
クレーン1は、主に走行体2と旋回体3で構成されている。
【0018】
走行体2は、左右一対の前輪21と後輪22を備えている。また、走行体2は、荷物Lの運搬作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ23を備えている。なお、走行体2は、アクチュエータによって、その上部に支持する旋回体3を旋回自在としている。
【0019】
旋回体3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム31を備えている。そのため、ブーム31は、アクチュエータによって旋回自在となっている(矢印A参照)。また、ブーム31は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(矢印B参照)。更に、ブーム31は、アクチュエータによって起伏自在となっている(矢印C参照)。
【0020】
加えて、ブーム31には、ワイヤロープ32が架け渡されている。ブーム31の先端部分から垂下するワイヤロープ32には、フック33が取り付けられている。また、ブーム31の基端側近傍には、ウインチ34が配置されている。ウインチ34は、アクチュエータと一体的に構成されており、ワイヤロープ32の巻き入れ及び巻き出しを可能としている。そのため、フック33は、昇降自在となっている(矢印D参照)。なお、旋回体3は、ブーム31の側方にキャビン35を備えている。キャビン35の内部には、旋回レバー71や伸縮レバー72、起伏レバー73、巻回レバー74などが設けられている。
【0021】
次に、
図3及び
図4を用いて、マニュピュレータ4について説明する。
【0022】
マニュピュレータ4は、主に走行体5と旋回体6で構成されている。
【0023】
走行体5は、左右一対の前輪51と後輪52を備えている。また、走行体5は、荷物Lの方向を調節する際に接地させて安定を図るアウトリガ53を備えている。なお、走行体5は、アクチュエータによって、その上部に支持する旋回体6を旋回自在としている。
【0024】
旋回体6は、その後部から前方へ突き出すようにブーム61を備えている。そのため、ブーム61は、アクチュエータによって旋回自在となっている(矢印E参照)。また、ブーム61は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(矢印F参照)。更に、ブーム61は、アクチュエータによって起伏自在となっている(矢印G参照)。
【0025】
加えて、ブーム61には、その先端部分にクランプ62が設けられている。クランプ62は、二つのプレート63が互いに対向しており、それらがリンクを介して連結されている。また、クランプ62は、アクチュエータと一体的に構成されており、二つのプレート63を近接又は離隔することを可能としている。そのため、クランプ62は、二つのプレート63によって荷物Lを掴持自在としている(矢印H参照)。また、クランプ62は、他のアクチュエータと一体的に構成されており、ブーム61に対して左右又は上下に揺動することを可能としている。そのため、クランプ62は、荷物Lを掴持したままで揺動自在となっている(矢印I及び矢印J参照)。なお、クランプ62が直接的に荷物Lを掴持するのではなく、荷物Lに括り付けたロープを介して間接的に掴持するとしてもよい。
【0026】
次に、
図5から
図8を用いて、荷方向制御システム7について説明する。
【0027】
荷方向制御システム7は、クレーン1に搭載されたクレーン側コントローラ(以降「第一コントローラ8」とする)を含んでいる。
【0028】
第一コントローラ8は、記憶部8aを有している。記憶部8aは、クレーン1の制御に要する様々なプログラムが記憶されている。
【0029】
また、第一コントローラ8は、送受信部8bを有している。送受信部8bは、サーバコンピュータS或いは後述する第二コントローラ9から様々な情報を取得できる。例えば建築物Bの三次元モデル(コンピュータ上に作成された三次元のデジタルモデル)M1やその鋼材である荷物Lの三次元モデル(コンピュータ上に作成された三次元のデジタルモデル)M2などの情報を取得することができる。なお、送受信部8bは、クレーン1の座標やブーム31の姿勢などの情報を第二コントローラ9に送信できる。
【0030】
更に、第一コントローラ8は、演算処理部8cを有している。演算処理部8cは、各種レバー71~74の操作態様に基づいて電気信号に変換し、クレーン1のアクチュエータを稼動させる各種バルブ81~84へ送信する。こうして、第一コントローラ8は、各種レバー71~74の操作態様に応じたブーム31の稼動(旋回動作・伸縮動作・起伏動作)及びウインチ34の稼動(巻入動作・巻出動作)を実現する。
【0031】
詳しく説明すると、クレーン1のブーム31は、アクチュエータによって旋回自在となっている(
図1における矢印A参照)。本願においては、かかるアクチュエータを旋回用モーター36と定義する(
図1参照)。旋回用モーター36は、方向制御弁である旋回用バルブ81によって適宜に稼動される。なお、旋回用バルブ81は、第一コントローラ8の指示に基づいて稼動される。ブーム31の旋回角度や旋回速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0032】
また、クレーン1のブーム31は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(
図1における矢印B参照)。本願においては、かかるアクチュエータを伸縮用シリンダ37と定義する(
図1参照)。伸縮用シリンダ37は、方向制御弁である伸縮用バルブ82によって適宜に稼動される。なお、伸縮用バルブ82は、第一コントローラ8の指示に基づいて稼動される。ブーム31の伸縮長さや伸縮速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0033】
更に、クレーン1のブーム31は、アクチュエータによって起伏自在となっている(
図1における矢印C参照)。本願においては、かかるアクチュエータを起伏用シリンダ38と定義する(
図1参照)。起伏用シリンダ38は、方向制御弁である起伏用バルブ83によって適宜に稼動される。なお、起伏用バルブ83は、第一コントローラ8の指示に基づいて稼動される。ブーム31の起伏角度や起伏速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0034】
更に、クレーン1のフック33は、アクチュエータによって昇降自在となっている(
図1における矢印D参照)。本願においては、かかるアクチュエータを巻回用モーター39と定義する(
図1参照)。巻回用モーター39は、方向制御弁である巻回用バルブ84によって適宜に稼動される。なお、巻回用バルブ84は、第一コントローラ8の指示に基づいて稼動される。フック33の吊下長さや昇降速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0035】
加えて、荷方向制御システム7は、マニュピュレータ4に搭載されたマニュピュレータ側コントローラ(以降「第二コントローラ9」とする)を含んでいる。
【0036】
第二コントローラ9は、記憶部9aを有している。記憶部9aは、マニュピュレータ4の制御に要する様々なプログラムが記憶されている。
【0037】
また、第二コントローラ9は、送受信部9bを有している。送受信部9bは、サーバコンピュータS或いは前述した第一コントローラ8から様々な情報を取得できる。例えば建築物Bの三次元モデル(コンピュータ上に作成された三次元のデジタルモデル)M1やその鋼材である荷物Lの三次元モデル(コンピュータ上に作成された三次元のデジタルモデル)M2などの情報を取得することができる。なお、送受信部9bは、マニュピュレータ4の座標やブーム61の姿勢などの情報を第一コントローラ8に送信できる。
【0038】
更に、第二コントローラ9は、演算処理部9cを有している。演算処理部9cは、各種レバー71~74の操作態様に基づいて電気信号に変換し、マニュピュレータ4のアクチュエータを稼動させる各種バルブ91~94へ送信する。こうして、第二コントローラ9は、各種レバー71~74の操作態様に応じたブーム61の稼動(旋回動作・伸縮動作・起伏動作)及びクランプ62の稼動(掴持動作・揺動動作)を実現する。
【0039】
詳しく説明すると、マニュピュレータ4のブーム61は、アクチュエータによって旋回自在となっている(
図3における矢印E参照)。本願においては、かかるアクチュエータを旋回用モーター66と定義する(
図3参照)。旋回用モーター66は、方向制御弁である旋回用バルブ91によって適宜に稼動される。なお、旋回用バルブ91は、第二コントローラ9の指示に基づいて稼動される。ブーム61の旋回角度や旋回速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0040】
また、マニュピュレータ4のブーム61は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(
図3における矢印F参照)。本願においては、かかるアクチュエータを伸縮用シリンダ67と定義する(
図3参照)。伸縮用シリンダ67は、方向制御弁である伸縮用バルブ92によって適宜に稼動される。なお、伸縮用バルブ92は、第二コントローラ9の指示に基づいて稼動される。ブーム61の伸縮長さや伸縮速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0041】
更に、マニュピュレータ4のブーム61は、アクチュエータによって起伏自在となっている(
図3における矢印G参照)。本願においては、かかるアクチュエータを起伏用シリンダ68と定義する(
図3参照)。起伏用シリンダ68は、方向制御弁である起伏用バルブ93によって適宜に稼動される。なお、起伏用バルブ93は、第二コントローラ9の指示に基づいて稼動される。ブーム61の起伏角度や起伏速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0042】
更に、マニュピュレータ4のクランプ62は、アクチュエータによって揺動自在となっている(
図4における矢印I及び矢印J参照)。本願においては、左右方向へ揺動させるアクチュエータを左右揺動用シリンダ69と定義する(
図3及び
図4参照)。また、上下方向へ揺動させるアクチュエータを上下揺動用シリンダ70と定義する(
図3及び
図4参照)。左右揺動用シリンダ69及び上下揺動用シリンダ70は、方向制御弁である揺動用バルブ94によって適宜に稼動される。なお、揺動用バルブ94は、第二コントローラ9の指示に基づいて稼動される。クランプ62の揺動角度や揺動速度は、図示されていないセンサによって検出される。
【0043】
更に加えて、荷方向制御システム7は、クレーン1の操作具として回転ダイヤル75を含んでいる。また、荷方向制御システム7は、クレーンカメラ76とマニュピュレータカメラ77とディスプレイ85を含んでいる。
【0044】
回転ダイヤル75は、フック33に吊り下げられた荷物Lの方向を指示するものである。回転ダイヤル75は、キャビン35の内部における運転座席の近傍に配置されている(
図2参照)。なお、回転ダイヤル75は、第一コントローラ8に接続されている。そのため、第一コントローラ8は、回転ダイヤル75の操作態様に基づいて荷物Lをどのくらい回転させるべきか認識することができる。また、第二コントローラ9も、第一コントローラ8からの情報を受けて同じく認識することができる。
【0045】
クレーンカメラ76は、建築現場を上方から撮影するものである。クレーンカメラ76は、建築物Bや荷物Lを上方から撮影できるよう、クレーン1のブーム31に取り付けられている(
図1参照)。また、クレーンカメラ76は、第一コントローラ8に接続されている。そのため、第一コントローラ8は、建築現場における建築物Bやフック33に吊り下げられた荷物Lの位置と方向(方位に対する角度)を把握することができる。なお、第二コントローラ9も、第一コントローラ8からの情報を受けて同じく把握することができる。
【0046】
マニュピュレータカメラ77は、建築現場を横方から撮影するものである。マニュピュレータカメラ77は、建築物Bや荷物Lを横方から撮影できるよう、マニュピュレータ4のブーム61或いはクランプ62に取り付けられている(
図3及び
図4参照)。また、マニュピュレータカメラ77は、第二コントローラ9に接続されている。そのため、第二コントローラ9は、建築現場における建築物Bやフック33に吊り下げられた荷物Lの位置と方向(方位に対する角度)を把握することができる。なお、第一コントローラ8も、第二コントローラ9からの情報を受けて同じく把握することができる。
【0047】
ディスプレイ85は、クレーンカメラ76又はマニュピュレータカメラ77が撮影した画像を映し出すものである(
図6又は
図7参照)。ディスプレイ85は、オペレータが各種レバー71~74や回転ダイヤル75を操作しながら視認できるよう、キャビン35の内部における運転座席の前側に取り付けられている(
図2参照)。また、ディスプレイ85は、第一コントローラ8に接続されている。そのため、第一コントローラ8は、ディスプレイ85を通じてオペレータへ情報を提供することができる。この点、第二コントローラ9も、第一コントローラ8を介してオペレータへ情報を提供することができる。なお、オペレータは、クレーンカメラ76が撮影した画像を映し出すかマニュピュレータカメラ77が撮影した画像を映し出すかを任意に選択できる。ディスプレイ85に建築物Bの三次元モデルM1やその鋼材である荷物Lの三次元モデルM2を映し出した場合は、三次元モデルM1における三次元モデルM2に相当する部分がハイライトするとしてもよい(
図8における※印部参照)。
【0048】
次に、
図9及び
図10を用いて、荷方向制御システム7の機能について説明する。
【0049】
ここでは、ディスプレイ85にクレーンカメラ76が撮影した画像を映し出していることを前提に説明する。また、地表面から荷物Lまでの高さを「地上高h」と定義する(
図1参照)。また、フック33を通り、かつ重力が作用する方向に対して平行となる直線を「垂線p」と定義する(
図1参照)。
【0050】
まず、第一コントローラ8は、ブーム31の姿勢(伸縮長さ・起伏角度)及びウインチ34の状態(巻き出し量=吊下長さ)に基づいて荷物Lの地上高hを認識する。同時に、第一コントローラ8は、クレーンカメラ76が撮影した画像に基づいて荷物Lの方向を認識する。そして、第一コントローラ8は、これらの情報を第二コントローラ9と共有する。こうすることで、クレーン1とマニュピュレータ4は、協調しながら荷物Lを運搬することができる。なお、荷物Lの地上高hを認識する方法並びに荷物Lの方向を認識する方法については限定しない。例えばブーム31やフック33にGNSS(全球測位衛星システム)を設けて位置を測定し、その位置を利用する方法が考えられる。ブーム31にレーザ走査機を設けて点群データを作成し、その点群データを利用する方法も考えられる。
【0051】
また、第一コントローラ8は、建築物Bに三次元モデルM1を重ね合わせ、荷物Lを設置する位置と方向を認識する。同時に、荷物Lにも三次元モデルM2を重ね合わせ、これら三次元モデルM1・M2が存在している仮想空間上で設置する位置に対する相対距離と相対角度を認識する。こうすることで、第一コントローラ8は、設置する位置までの残りの距離と適切な方向をディスプレイ85に表示することができる。具体的には、荷物Lを適切な方向とするためのカーソルKをディスプレイ85に表示することができる。なお、荷物Lを設置する位置と方向を認識する方法並びに設置する位置に対する相対距離と相対角度を認識する方法については限定しない。例えばクレーンカメラ76或いはマニュピュレータカメラ77が撮影した画像に基づいて建築物Bや荷物Lの形状を認識し、その形状を利用する方法が考えられる。ブーム31にレーザ走査機を設けて点群データを作成し、その点群データを利用する方法も考えられる。
【0052】
その後、荷方向制御システム7においては、オペレータが回転ダイヤル75を操作してカーソルKに収まるように荷物Lの方向を調節する必要がある。第一コントローラ8は、オペレータによる回転ダイヤル75の操作態様を第二コントローラ9に送信する。こうすることで、マニュピュレータ4は、荷物Lを回転させて荷物Lの方向を調節することができる(
図10における矢印R参照)。このとき、マニュピュレータ4は、荷物Lの地上高hを維持するように荷物Lを回転させる。また、垂線pを中心とした荷物Lの回転半径rを維持するように荷物Lを回転させる。つまり、クレーンカメラ76が撮影した画像上に垂線pを中心とする回転半径rの円弧を描き、この円弧に沿うように荷物Lを回転させる。なお、オペレータが手動で回転ダイヤル75を操作するのではなく、プログラム上の回転ダイヤル75を通じて自動的に操作されるとしてもよい。
【0053】
ところで、このような荷方向制御システム7の機能について端的に説明すれば、オペレータが荷物Lの方向を調節できるということである。そうすると、荷物Lの方向を積極的に調節することで、例えば建築物Bと建築物Bの狭い隙間を縫うように荷物Lを運搬することも可能となる。少なくとも運搬途中においても荷物Lの方向を調節できるので、荷物Lが周囲の建築物Bなどに衝突するのを防ぐことが可能となる。
【0054】
以上のように、荷方向制御システム7は、荷物Lの方向を指示する操作具(回転ダイヤル75)を具備している。また、荷物Lを直接的又は間接的に掴持するマニュピュレータ4を具備している。そして、操作具(回転ダイヤル75)の操作態様に応じてマニュピュレータ4が荷物Lを回転させて荷物Lの方向を調節する。かかる荷方向制御システム7によれば、フック33に吊り下げられた荷物Lの方向を調節できる。具体的には、ロープを引張って荷物Lを回転させる作業が不要となるので、運搬効率の向上を実現できる。また、運搬途中においても荷物Lの方向を調節できるので、荷物Lが周囲の建築物Bなどに衝突するのを防ぐことが可能となる。
【0055】
加えて、荷方向制御システム7は、荷物Lの地上高hを把握する。また、フック33を通る垂線pを中心とした荷物Lの回転半径rを把握する。そして、マニュピュレータ4が同地上高hで同回転半径rを維持しつつ荷物Lを回転させて荷物Lの方向を調節する。かかる荷方向制御システム7によれば、荷物Lの方向を調節する際に、荷物Lが傾いたり揺れたりすることがなくなるので、更に運搬効率の向上を実現できる。更に荷物Lが周囲の建築物Bなどに衝突するのを防ぐことが可能となる。
【0056】
加えて、荷方向制御システム7は、建築物Bの三次元モデルM1を取得する。また、三次元モデルM1に基づいて荷物Lが取り付けられる方向を認識する。そして、荷物Lの方向をオペレータに教示する或いはマニュピュレータ4に直接的に指示する。かかる荷方向制御システム7によれば、少なくともオペレータが荷物Lの方向を間違えないので、更に運搬効率の向上を実現できる。
【0057】
加えて、荷方向制御システム7は、操作具(回転ダイヤル75)の操作態様を送信する送信機(送受信機8b)をクレーン1に設けている。また、操作具(回転ダイヤル75)の操作態様を受信する受信機(送受信機9b)をマニュピュレータ4に設けている。そして、クレーン1とマニュピュレータ4を互いから離隔した位置に配置可能としている。かかる荷方向制御システム7によれば、クレーン1から遠く離れた位置まで荷物Lを運搬する場合であっても前述の効果を得られる。また、荷物Lが長尺であったとしても前述の効果を得られる。
【0058】
本実施形態に係る荷方向制御システム7においては、クレーンカメラ76が建築現場における建築物Bやフック33に吊り下げられた荷物Lを撮影することで、設置する位置までの残りの距離と適切な方向を計測することができる。同様に、マニュピュレータカメラ77が建築現場における建築物Bやフック33に吊り下げられた荷物Lを撮影することでも、設置する位置までの残りの距離と適切な方向を計測することができる。このような画像による計測においては、三次元モデルM1・M2に表れた形状を参照してキャリブレーションを図ることが考えられる。つまり、画像上における所定箇所の長さと三次元モデルM1・M2上における所定箇所の長さを比較してズレの修正を図ることが考えられる。
【0059】
次に、
図11を用いて、他の実施形態に係る荷方向制御システム7について説明する。
【0060】
本実施形態に係る荷方向制御システム7は、マニュピュレータ4が場所を問わずに設置された支持台に取り付けられる。かかる荷方向制御システム7において、マニュピュレータ4は、地表面はもちろん建築物Bのフロアなどに設置された支持台に取り付けられるとしてもよい。このような荷方向制御システム7であったとしても、本願に開示する技術的思想が及ぶものである。
【0061】
次に、
図12を用いて、他の実施形態に係る荷方向制御システム7について説明する。
【0062】
本実施形態に係る荷方向制御システム7は、クレーン1とマニュピュレータ4が融合している。かかる荷方向制御システム7において、マニュピュレータ4は、脱着自在であって、他のクレーン1に取り付けられるとしてもよい。また、別途設置された支持台などに取り付けられるとしてもよい。この場合、地表面はもちろん建築物Bのフロアなどに設置された支持台に取り付けられるとしてもよい。このような荷方向制御システム7であったとしても、本願に開示する技術的思想が及ぶものである。
【0063】
次に、
図13を用いて、遠隔操縦装置100について説明する。但し、遠隔操縦装置100は、遠隔操縦装置の一例であり、これに限定するものではない。
【0064】
遠隔操縦装置100には、旋回スティック171や伸縮スティック172、起伏スティック173、巻回スティック174が設けられている。また、遠隔操縦装置100には、回転ダイヤル175が設けられている。更に、遠隔操縦装置100には、ディスプレイ185が設けられている。
【0065】
クレーン1及びマニュピュレータ4は、オペレータが各種スティック171~174を操作すると、上述した各種レバー71~74を操作したときと同様に稼動する。また、クレーン1及びマニュピュレータ4は、オペレータが回転ダイヤル175を操作すると、上述した回転ダイヤル75を操作したときと同様に稼動する。このとき、ディスプレイ185には、クレーンカメラ76による画像が映し出される。従って、かかる遠隔操縦装置100を用いても、本願に開示する技術的思想を実現できる。
【0066】
最後に、本願に開示したクレーン1は、油圧式のアクチュエータ(旋回用モーター36・伸縮用シリンダ37・起伏用シリンダ38・巻回用モーター39)を備えている。しかし、油圧式のアクチュエータ(36・37・38・39)ではなく、電動式のアクチュエータであってもよい。同様に、本願に開示したマニュピュレータ4も、油圧式のアクチュエータ(旋回用モーター66・伸縮用シリンダ67・起伏用シリンダ68・左右揺動用シリンダ69・上下揺動用シリンダ70)を備えている。しかし、油圧式のアクチュエータ(66・67・68・69・70)ではなく、電動式のアクチュエータであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回体
31 ブーム
32 ワイヤロープ
33 フック
4 マニュピュレータ
5 走行体
6 旋回体
61 ブーム
62 クランプ
63 プレート
7 荷方向制御システム
75 操作具(回転ダイヤル)
8 クレーン側コントローラ(第一コントローラ)
8a 記憶部
8b 送受信部
8c 演算処理部
9 マニュピュレータ側コントローラ(第二コントローラ)
9a 記憶部
9b 送受信部
9c 演算処理部
B 建築物
L 荷物
M1 建築物の三次元モデル
M2 荷物の三次元モデル
h 地上高
p 垂線
r 回転半径