(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】研削盤
(51)【国際特許分類】
B24B 5/04 20060101AFI20230613BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20230613BHJP
【FI】
B24B5/04
B24B41/06 J
(21)【出願番号】P 2019136913
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂 公裕
(72)【発明者】
【氏名】矢野 健二
(72)【発明者】
【氏名】石川 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 育也
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220498(JP,A)
【文献】特開2003-245855(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0232584(US,A1)
【文献】特開2015-213975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/04
B24B 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の軸方向の第一端の第一センタ穴を支持し且つ前記第一センタ穴との摩擦力により前記工作物と一体的に回転する第一センタ部材、及び、前記第一センタ部材を回転駆動する第一駆動装置を備える第一主軸装置と、
前記工作物の軸方向の第二端の第二センタ穴を支持し且つ前記第二センタ穴との摩擦力により前記工作物と一体的に回転する第二センタ部材を備える第二支持装置と、
回転可能に設けられ、前記工作物の外周面を研削する砥石車と、
前記工作物に対して前記砥石車を接近離間させる送り装置と、
を備え、
前記第一センタ部材は、前記第一センタ穴に接触する部位を球面状に形成され、
前記第二センタ部材は、前記第二センタ穴に接触する部位を球面状に形成された、研削盤。
【請求項2】
前記第二支持装置は、前記第二センタ部材、及び、前記第二センタ部材を回転駆動する第二駆動装置を備える第二主軸装置であり、
前記工作物は、前記第一駆動装置及び前記第二駆動装置のみの回転駆動力により回転駆動される、請求項1に記載の研削盤。
【請求項3】
前記第二支持装置は、自由回転可能な前記第二センタ部材を備える心押装置であり、
前記工作物は、前記第一駆動装置のみの回転駆動力により回転駆動される、請求項1に記載の研削盤。
【請求項4】
前記第一センタ部材と前記第一センタ穴との接触、及び、前記第二センタ部材と前記第二センタ穴との接触は、線接触である、請求項1-3の何れか1項に記載の研削盤。
【請求項5】
前記第一センタ部材及び前記第二センタ部材は、前記工作物を両端から軸方向に押圧した状態で、
前記工作物が撓んでいる場合には前記工作物に回転力を伝達することにより前記工作物を縄跳び状に回転させる、請求項1-4の何れか1項に記載の研削盤。
【請求項6】
前記第一駆動装置及び前記第二駆動装置は、モータである、請求項2に記載の研削盤。
【請求項7】
前記第一センタ部材及び前記第二センタ部材は、
回転可能に設けられたセンタ部材本体と、
前記センタ部材本体の先端にろう付けされ球体形状に形成された先端部材と、
を備える、請求項1-6の何れか1項に記載の研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作物の両端をセンタ部材により支持する研削盤が記載されている。当該研削盤においては、両センタ部材は、モータによって回転駆動されており、センタ部材と工作物のセンタ穴との摩擦力によって工作物と一体的に回転する。つまり、工作物は、両センタ部材の回転駆動力と、両センタ部材と両センタ穴との摩擦力とによって、回転される。
【0003】
ここで、両センタ部材は、工作物を回転させるための摩擦力を発生させるために、工作物を両端から軸方向に押圧している。そのため、工作物は、撓んだ状態で縄跳び状に回転することになる。つまり、工作物に回転振れが生じることになる。工作物の回転振れ量が大きくなると、工作物の外径精度が悪化する。そのため、両センタ部材が回転しながら工作物を支持する構造においては、工作物に生じる曲げモーメントを低減することが重要な事項となる。
【0004】
ところで、特許文献2には、両センタ部材が回転しない構造を有しており、回り金によって工作物を回転させる研削盤が記載されている。この構造においては、工作物は、撓んだ状態となるとしても、縄跳び状に回転することはない。つまり、工作物に回転振れが生じることはない。そのため、工作物が撓んでいたとしても、工作物の外径精度に影響を及ぼすことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-220498号公報
【文献】実公平4-45761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、センタ穴の加工精度によっては、センタ穴が傾きを有している場合がある。そのため、センタ穴とセンタ部材とが局所的な接触となる。接触箇所によっては、工作物に大きな曲げモーメントを生じる原因となる。この場合、両センタ部材が回転しながら工作物を支持する構造において、工作物の回転振れ量が大きくなるため、工作物の外径の研削精度が悪化することになる。
【0007】
本発明は、工作物のセンタ穴が傾きを有しているとしても、工作物に生じる曲げモーメントを低減することによって工作物の回転振れ量を低減することができ、結果として工作物の外径の研削精度を向上することができる研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る研削盤は、工作物の軸方向の第一端の第一センタ穴を支持し且つ前記第一センタ穴との摩擦力により前記工作物と一体的に回転する第一センタ部材、及び、前記第一センタ部材を回転駆動する第一駆動装置を備える第一主軸装置と、前記工作物の軸方向の第二端の第二センタ穴を支持し且つ前記第二センタ穴との摩擦力により前記工作物と一体的に回転する第二センタ部材を備える第二支持装置と、回転可能に設けられ、前記工作物の外周面を研削する砥石車と、前記工作物に対して前記砥石車を接近離間させる送り装置とを備える。前記第一センタ部材は、前記第一センタ穴に接触する部位を球面状に形成され、前記第二センタ部材は、前記第二センタ穴に接触する部位を球面状に形成されている。
【0009】
第一センタ部材の先端が、球面状に形成されているため、第一センタ穴の傾きに関わりなく、第一センタ部材と第一センタ穴とが局所的に接触することを防止できる。従って、第一センタ部材と第一センタ穴との接触によって工作物に生じる曲げモーメントを小さくすることができる。また、第二センタ部材の先端も、球面状に形成されている。そのため、第二センタ部材と第二センタ穴との接触によって工作物に生じる曲げモーメントを小さくすることができる。従って、第一センタ部材及び第二センタ部材が回転しながら工作物を支持する構造において、工作物の回転振れ量を小さくすることができ、結果として、工作物の外径の研削精度を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】第二支持装置として第二主軸装置を適用した場合における工作物Wの研削時の回転振れを説明する図である。
【
図5】第二支持装置として心押装置を適用した場合における工作物Wの研削時の回転振れを説明する図である。
【
図6】センタ部材とセンタ穴との接触状態を説明する断面図であって、センタ穴の中心軸が工作物Wの中心軸に対して傾いていない状態を示す。
【
図7】センタ部材とセンタ穴との接触状態を説明する断面図であって、センタ穴の中心軸が工作物Wの中心軸に対して傾いている状態を示す。
【
図8】比較例としてのセンタ部材とセンタ穴との接触状態を説明する断面図であって、センタ穴の中心軸が工作物Wの中心軸に対して傾いている状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.研削盤の構成)
研削盤1の構成について、
図1を参照して説明する。研削盤1は、工作物Wを支持した状態で、砥石車16を回転させながら工作物Wに対して相対的に接近離間させることで、工作物Wの外周面を研削する。研削盤1は、砥石台トラバース型の研削盤、テーブルトラバース型の研削盤などを適用可能である。また、研削盤1は、円筒研削盤、カム研削盤などを適用可能である。なお、本例においては、研削盤1は、砥石台トラバース型の円筒研削盤を例にあげる。
【0012】
研削盤1は、主として、ベッド11、第一主軸装置12、第二支持装置13、トラバースベース14、砥石台15、砥石車16、定寸装置17、及び、制御装置18を備える。ベッド11は、床面上に設置されている。
【0013】
第一主軸装置12は、ベッド11の上面に設けられ、工作物Wを工作物Wの中心軸線回り(Z軸回り)に回転可能に支持する。第一主軸装置12は、工作物Wの軸方向の第一端(
図1の左端)の第一センタ穴H1を支持する第一センタ部材12aを備える。第一センタ部材12aは、先細形状に形成されており、第一センタ部材12aの先端側が、第一センタ穴H1を支持する部位となる。第一センタ部材12aは、第一主軸台本体12cに回転可能に設けられている。第一センタ部材12aは、第一主軸台本体12cに対して、工作物Wの軸方向に移動可能に設けられている。そして、第一センタ部材12aは、第一センタ穴H1との摩擦力により、工作物Wと一体的に回転する。
【0014】
第一主軸装置12は、さらに、第一センタ部材12aを回転駆動する第一駆動装置12bを備える。第一駆動装置12bは、モータにより構成されている。第一駆動装置12bも、第一主軸台本体12cに対して、第一センタ部材12aと一体的に工作物Wの軸方向に移動可能である。
【0015】
つまり、第一主軸装置12は、第一センタ部材12aと工作物Wの第一センタ穴H1との摩擦力によって、工作物Wに対して回転力を伝達する。ここで、第一主軸装置12は、工作物Wの外周面に係合する回り金及びチャックなどの他の回転力伝達装置を有していない。従って、第一主軸装置12は、工作物Wに接触する部位としては、第一センタ部材12aのみを有する。
【0016】
第二支持装置13は、第一主軸装置12と同様に工作物Wに対して回転駆動力を伝達する第二主軸装置を構成してもよいし、回転駆動力を有しない心押装置として構成してもよい。
図1においては、第二支持装置13は、第二主軸装置を構成する場合を例にあげる。なお、第二支持装置13が、心押装置を構成する場合には、第二主軸装置における第二駆動装置を有しない構成となる。
【0017】
第二支持装置13は、ベッド11の上面において、第一主軸装置12に対向する位置に設けられている。第二支持装置13は、工作物Wを工作物Wの中心軸線回り(Z軸回り)に回転可能に支持する。第二支持装置13は、工作物Wの軸方向の第二端(
図1の右端)の第二センタ穴H2を支持する第二センタ部材13aを備える。第二センタ部材13aは、先細形状に形成されており、第二センタ部材13aの先端側が、第二センタ穴H2を支持する部位となる。第二センタ部材13aは、第二支持台本体13cに回転可能に設けられている。第二センタ部材13aは、駆動力を有していないため、第二支持台本体13cに対して自由回転可能となる。第二センタ部材13aは、第二支持台本体13cに対して、工作物Wの軸方向に移動可能に設けられている。そして、第二センタ部材13aは、第二センタ穴H2との摩擦力により、工作物Wと一体的に回転する。
【0018】
第二支持装置13は、さらに、第二センタ部材13aを回転駆動する第二駆動装置13bを備える。第二駆動装置13bは、モータにより構成されている。第二駆動装置13bも、第二支持台本体13cに対して、第二センタ部材13aと一体的に工作物Wの軸方向に移動可能である。
【0019】
つまり、第二支持装置13は、第二センタ部材13aと工作物Wの第二センタ穴H2との摩擦力によって、工作物Wに対して回転力を伝達する。ここで、第二支持装置13は、工作物Wの外周面に係合する回り金及びチャックなどの他の回転力伝達装置を有していない。従って、第二支持装置13は、工作物Wに接触する部位としては、第二センタ部材13aのみを有する。
【0020】
トラバースベース14は、ベッド11の上面において、工作物Wの中心軸線方向(Z軸方向)に移動可能に設けられている。トラバースベース14は、ベッド11に設けられたモータ14aの駆動により移動する。砥石台15は、トラバースベース14の上面において、工作物Wに接近及び離間する方向(X軸方向)に移動可能に設けられている。砥石台15は、トラバースベース14に設けられたモータ15a(送り装置)の駆動によりX軸方向に移動する。
【0021】
砥石車16は、円盤状に形成され、砥石台15に回転可能に支持されている。砥石車16は、砥石台15に設けられたモータ16aの駆動により回転する。砥石車16は、複数の砥粒を結合材により固定されて構成されている。砥粒には、一般砥粒と超砥粒が存在する。一般砥粒としては、アルミナや炭化ケイ素などのセラミックス質の材料などが良く知られている。超砥粒は、ダイヤモンドやCBNである。定寸装置17は、ベッド11の上面に設けられ、工作物Wの外周面に接触可能な一対の接触子を備えており、工作物Wの研削部位である外周面の直径を計測する。
【0022】
制御装置18は、NCプログラム及びPLCの制御プログラムに基づいて、各駆動装置を制御する。NCプログラムは、動作指令データに基づいて生成され、制御装置18は、当該NCプログラムに基づいて、各駆動装置12b,13b,14a,15a,16a,17を制御する。PLCの制御プログラムは、入力機器の指令信号のON/OFFに応じて出力機器を動作する。
【0023】
(2.第一主軸装置12の構成)
第一主軸装置12の構成について、
図2を参照して説明する。第一主軸装置12は、ベッド11の上面に配置されている。第一主軸装置12は、第一主軸台本体12c、第一ラム軸12d、第一主軸12e、第一センタ部材12a、第一駆動装置12b、第一ボールねじ12g、第一ナット12h、第一スライド駆動装置12fを備える。
【0024】
第一主軸台本体12cは、ベッド11の上面に固定されている。第一ラム軸12dは、筒状に形成されており、第一主軸台本体12cに対して工作物Wの軸方向に移動可能に支持されている。第一主軸12eは、第一ラム軸12dの内周面に軸受を介して回転可能に支持されている。第一主軸12eは、第一ラム軸12dと共に、第一主軸台本体12cに対して、工作物Wの軸方向に移動可能となる。
【0025】
第一センタ部材12aは、第一主軸12eの先端に固定されている。第一センタ部材12aの先端は、球面状に形成されている。第一センタ部材12aは、工作物Wの第一端の第一センタ穴H1を支持する。第一駆動装置12bは、第一ラム軸12dの後端に固定されており、第一駆動装置12bの回転軸部材が第一主軸12eの後端にカップリングを介して連結されている。第一駆動装置12bは、モータにより構成される。つまり、第一駆動装置12bは、第一主軸12e及び第一センタ部材12aを回転駆動する。
【0026】
第一ボールねじ12gは、第一ラム軸12dの径方向外側において、第一ラム軸12dの移動軸方向に軸平行となるように第一主軸台本体12cに回転可能に支持されている。第一ナット12hは、第一ボールねじ12gに螺合されており、且つ、第一ラム軸12dに固定されている。つまり、第一ナット12hが、第一ボールねじ12gに沿って移動することによって、第一ラム軸12dを軸方向に移動させる。第一スライド駆動装置12fは、第一主軸台本体12cに固定されており、第一スライド駆動装置12fの回転軸部材が第一ボールねじ12gの一端にカップリングを介して連結されている。第一スライド駆動装置12fは、モータにより構成される。つまり、第一スライド駆動装置12fは、第一ボールねじ12gを回転駆動することによって、第一ナット12h及び第一ラム軸12dを軸方向に移動させる。
【0027】
(3.第二支持装置13の第一例(第二主軸装置)の構成)
第二支持装置13の第一例としての第二主軸装置の構成について、
図3を参照して説明する。第二支持装置13は、ベッド11の上面に配置されている。ここで、
図3には、第二支持装置13が、第二主軸装置を構成する場合を図示する。
【0028】
第二支持装置13は、第二支持台本体13c、第二ラム軸13d、第二支持軸13e、第二センタ部材13a、第二駆動装置13b、第二ボールねじ13g、第二ナット13h、付勢プレート13i、付勢部材13j、第二スライド駆動装置13fを備える。
【0029】
第二支持台本体13cは、ベッド11の上面に固定されている。第二ラム軸13dは、筒状に形成されており、第二支持台本体13cに対して工作物Wの軸方向に移動可能に支持されている。第二支持軸13eは、第二ラム軸13dの内周面に軸受を介して回転可能に支持されている。第二支持軸13eは、第二ラム軸13dと共に、第二支持台本体13cに対して、工作物Wの軸方向に移動可能となる。
【0030】
第二センタ部材13aは、第二支持軸13eの先端に固定されている。第二センタ部材13aの先端は、球面状に形成されている。第二センタ部材13aは、工作物Wの第二端の第二センタ穴H2を支持する。第二駆動装置13bは、第二ラム軸13dの後端に固定されており、第二駆動装置13bの回転軸部材が第二支持軸13eの後端にカップリングを介して連結されている。第二駆動装置13bは、モータにより構成される。つまり、第二駆動装置13bは、第二支持軸13e及び第二センタ部材13aを回転駆動する。
【0031】
第二ボールねじ13gは、第二ラム軸13dの径方向外側において、第二ラム軸13dの移動軸方向に軸平行となるように第二支持台本体13cに回転可能に支持されている。第二ナット13hは、第二ボールねじ13gに螺合されている。付勢プレート13iは、プレート状に形成され、第二ナット13hに固定されている。付勢プレート13iの一部は、第二ラム軸13dの後端側の内部空間に配置されており、第二支持軸13eを挿通するように配置されている。付勢部材13jは、例えば、コイルスプリングや皿バネにより形成されており、付勢プレート13iと第二ラム軸13dのフランジ面との軸方向間に配置されている。つまり、付勢部材13jは、付勢プレート13iに対して、第二ラム軸13dを工作物W側へ付勢する力を発揮する。
【0032】
第二スライド駆動装置13fは、第二支持台本体13cに固定されており、第二スライド駆動装置13fの回転軸部材が第二ボールねじ13gの一端にカップリングを介して連結されている。第二スライド駆動装置13fは、モータにより構成される。つまり、第二スライド駆動装置13fは、第二ボールねじ13gを回転駆動することによって、第二ナット13h及び付勢プレート13iを軸方向に移動させる。そして、第二スライド駆動装置13fは、付勢部材13jを介して、第二ラム軸13d、第二支持軸13e及び第二センタ部材13aを軸方向に移動させる。
【0033】
(4.第二支持装置13の第二例(心押装置)の構成)
第二支持装置13の第二例としての心押装置は、
図3に示す、第二支持装置13の第一例としての第二主軸装置において、少なくとも第二駆動装置13bを備えない構成からなる。なお、第二駆動装置13bを不要とすることから、第二支持装置13における第二支持軸13eの長さ及び形状等を変更することも可能である。
【0034】
(5.工作物Wの回転振れ)
第二支持装置13の第一例(
図3に示す)として第二主軸装置を適用する場合の研削盤1による支持構造において、
図4を参照して工作物Wの回転振れについて説明する。上述したように、第一センタ部材12aは、第一駆動装置12bにより回転駆動され、第二センタ部材13aは、第二駆動装置13bにより回転駆動される。
【0035】
従って、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aは、工作物Wを両端から軸方向に押圧した状態となる。さらに、工作物Wの回転力は、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aのみから伝達される。従って、工作物Wが撓んでいる場合には、
図4に示すように、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aは、工作物Wに回転力を伝達することにより工作物Wを縄跳び状に回転させることになる。
【0036】
特に、工作物Wは、第一駆動装置12b及び第二駆動装置13bのみの回転駆動力により回転駆動される。つまり、工作物Wの回転力は、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aのみから伝達される。第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aの回転軸線から接触点までの径が小さいため、第一センタ部材12aと第一センタ穴H1との摩擦力、及び、第二センタ部材13aと第二センタ穴H2との摩擦力は、大きくする必要がある。従って、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aによる工作物Wに対する軸方向への押圧力は大きくなり、工作物Wが撓む可能性が極めて高くなる。そして、工作物Wが縄跳び状に回転することで、工作物Wの回転振れは、工作物Wの撓み量の最大値に相当する。
【0037】
第二支持装置13の第二例(図示せず)として心押装置を適用する場合の研削盤1による支持構造において、
図5を参照して工作物Wの回転振れについて説明する。第一センタ部材12aは、第一駆動装置12bにより回転駆動され、第二センタ部材13aは、駆動力が伝達されず、自由回転可能とされる。
【0038】
この場合も、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aは、工作物Wを両端から軸方向に押圧した状態となる。さらに、工作物Wの回転力は、第一センタ部材12aのみから伝達され、第二センタ部材13aは、自由回転可能であることから当該回転力を規制しないように作用する。従って、工作物Wが撓んでいる場合には、
図5に示すように、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aは、工作物Wに回転力を伝達することにより工作物Wを縄跳び状に回転させることになる。
【0039】
特に、工作物Wは、第一駆動装置12bのみの回転駆動力により回転駆動される。つまり、工作物Wの回転力は、第一センタ部材12aのみから伝達される。そのため、第一センタ部材12aと第一センタ穴H1との摩擦力、及び、第二センタ部材13aと第二センタ穴H2との摩擦力は、大きくする必要がある。従って、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aによる工作物Wに対する軸方向への押圧力は大きくなり、工作物Wが撓む可能性が極めて高くなる。そして、工作物Wが縄跳び状に回転することで、工作物Wの回転振れは、工作物Wの撓み量の最大値に相当する。
【0040】
(6.センタ部材12a,13aの構成)
第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aの一例について、
図6を参照して説明する。上述したように、第一センタ部材12aは、第一主軸12eの軸方向の先端側の端面に固定されている(
図2に示す)。第二センタ部材13aは、第二支持軸13eの軸方向の先端側の端面に固定されている(
図3に示す)。ここで、本例においては、第一センタ部材12aと第二センタ部材13aは、同一に構成されている。以下において、第一センタ部材12a及び第二センタ部材13aを、総称として、センタ部材12a,13aと称する。
【0041】
センタ部材12a,13aは、センタ部材本体12a1,13a1を備える。センタ部材本体12a1,13a1は、基端側(
図6の左側)に、第一主軸12e又は第二支持軸13eの軸方向端面に形成された孔に嵌合可能な軸部を有する。また、センタ部材本体12a1,13a1は、軸方向中央部に(
図6の左右方向中央部)、第一主軸12e及び第二支持軸13eの軸方向端面に締結するためのフランジ部を有する。そして、センタ部材本体12a1,13a1は、先端側(
図6の右側)における回転中心部分に、円形の凹所を有する。センタ部材本体12a1,13a1は、例えば、炭素工具鋼(SK材)や炭素鋼等により形成されている。
【0042】
センタ部材12a,13aは、センタ部材本体12a1,13a1の先端面に設けられた先端部材12a2,13a2を備える。先端部材12a2,13a2は、センタ部材本体12a1,13a1の先端面の中央凹所の開口縁に当接した状態で、位置決めされている。これにより、先端部材12a2,13a2の中心が、センタ部材本体12a1,13a1の中心軸線上に位置するようにできる。先端部材12a2,13a2は、例えば、超硬により形成されている。加工上の低コスト化を図るために、先端部材12a2,13a2は、球体形状に形成された玉軸受の球体(球状転動体)が用いられている。玉軸受の球体は、種類、サイズが豊富で、多量生産されて安価である。ただし、先端部材12a2,13a2は、球体形状ではなく、センタ穴H1,H2との接触面が球面状を有すればよく、部分球面状に形成されるようにしてもよい。
【0043】
センタ部材12a,13aは、センタ部材本体12a1,13a1の先端面と先端部材12a2,13a2とを接合するために、ろう材12a3,13a3によりろう付けされている。球体形状である先端部材12a2,13a2の中心は、センタ部材12a,13aの回転中心軸線上に位置する。
【0044】
(7.センタ穴H1,H2の形状)
工作物Wの第一センタ穴H1及び第二センタ穴H2の一例について、
図6を参照して説明する。第一センタ穴H1は、工作物Wの軸方向の第一端の中心に形成されており、第二センタ穴H2は、工作物Wの軸方向の第二端の中心に形成されている。ここで、本例においては、第一センタ穴H1と第二センタ穴H2は、同一に構成されている。以下において、第一センタ穴H1及び第二センタ穴H2を、総称して、センタ穴H1,H2と称する。
【0045】
センタ穴H1,H2は、工作物Wの軸方向端面に開口を有する凹所である。センタ穴H1,H2の開口側は、開口側に行くほど大径となるテーパ面H1a,H2aを有する。
図6においては、センタ穴H1,H2の奥側が、円筒面を有する部位であり、開口側が、テーパ面H1a,H2aを有する部位である。ただし、センタ穴H1,H2は、テーパ面H1a,H2aのみにより形成されるようにしてもよい。また、センタ穴H1,H2におけるテーパ面H1a,H2aの角度は、任意に設定可能である。
【0046】
(8.センタ部材12a,13aとセンタ穴H1,H2との接触態様)
センタ部材12a,13aとセンタ穴H1,H2との接触態様について、
図6及び
図7を参照して説明する。
図6においては、センタ穴H1,H2が高精度に形成されており、センタ穴H1,H2の中心軸が、工作物Wの中心軸に一致する。つまり、センタ穴H1,H2の中心軸が工作物Wの中心軸に対して傾いていない。
【0047】
この場合、センタ部材12a,13aとセンタ穴H1,H2との接触は、
図6の破線にて示すように、円状の接触線Tとなる。接触線Tの円形状の中心軸は、センタ部材12a,13aの中心軸に一致し、且つ、センタ穴H1,H2の中心軸に一致する。この場合、センタ部材12a,13aとセンタ穴H1,H2との接触部位によって、工作物Wに曲げモーメントは生じない。
【0048】
次に、
図7においては、センタ穴H1,H2の加工精度が低く、センタ穴H1,H2の中心軸が工作物Wの中心軸に対して傾いているとする。このとき、センタ部材12a,13aとセンタ穴H1,H2との接触は、
図7の破線にて示すように、円状の接触線Tとなる。接触線Tの円形状の中心軸は、センタ穴H1,H2の中心軸には一致するが、センタ部材12a,13aの中心軸に対しては傾きを有する。この場合、接触線Tの円形状の中心軸は、工作物Wの中心軸に対して傾きを有し、接触線T上の点が場所によってセンタ部材12a,13aの軸方向に異なる。しかし、場所による接触線T上の点のセンタ部材12a,13aの軸方向のずれが小さいため、工作物Wに生じる曲げモーメントは小さい。その結果、工作物Wは、センタ部材12a,13aから受ける力によって僅かに撓み変形し、僅かではあるが縄跳び状に回転することになる。
【0049】
(9.比較例のセンタ部材とセンタ穴との接触態様)
ここで、比較例として、センタ部材112a,113aとセンタ穴H1,H2との接触態様について、
図8を参照して説明する。比較例としてのセンタ部材112a,113aは、センタ部材本体112a1,113a1と、先端部材112a2,113a2とを備える。センタ部材本体112a1,113a1は、本例におけるセンタ部材本体12a1,13a1と実質的に同一である。先端部材112a2,113a2は、球体形状ではなく、円錐形状に形成されている。先端部材112a2,113a2は、先端側(工作物W側)が細くなるように、センタ部材本体112a1,113a1に、図示しないろう付けにより接合されている。
【0050】
そして、
図7と同様に、センタ穴H1,H2の中心軸が、工作物Wの中心軸に対して傾いているとする。この場合、センタ部材112a,113aとセンタ穴H1,H2との接触は、
図8の黒丸にて示すように、2カ所の点T1,T2による接触(点接触)となる。つまり、一方の接触点T1は、センタ穴H1,H2のテーパ面H1a,H2aの開口側の大径部分に位置し、他方の接触点T2は、テーパ面H1a,H2aの奥側の小径部分に位置する。接触点T1と接触点T2は、センタ部材112a,113aの軸方向に大きく離間しているため、工作物Wに生じる曲げモーメントは大きくなりやすい。
【0051】
(10.本例と比較例についての考察)
本例においては、センタ部材12a,13aの先端が、球面状に形成されているため、センタ穴H1,H2の傾きに関わりなく、センタ部材12a,13aとセンタ穴H1,H2との接触が線接触となり、局所的に接触することを防止できる。一方、比較例においては、センタ部材112a,113aの先端が、円錐形状に形成されているため、センタ穴H1,H2の傾き角度によっては、センタ部材112a,113aとセンタ穴H1,H2とが点接触となり、局所的な接触となる。
【0052】
これらを比較すると、本例においては、センタ部材12a,13aとセンタ穴H1,H2との線接触によって工作物Wに生じる曲げモーメントを、比較例に比べて小さくすることができる。従って、センタ部材12a,13aが回転しながら工作物Wを支持する構造において、工作物Wの回転振れ量を小さくすることができ、結果として、工作物Wの外径の研削精度を良好にすることができる。
【符号の説明】
【0053】
1:研削盤、12:第一主軸装置、12a:第一センタ部材、12b:第一駆動装置、12c:第一主軸台本体、12d:第一ラム軸、12e:第一主軸、13:第二支持装置、13a:第二センタ部材、13b:第二駆動装置、13c:第二支持台本体、13d:第二ラム軸、13e:第二支持軸、15:砥石台、15a:モータ(送り装置)、16:砥石車、12a1,13a1:センタ部材本体、12a2,13a2:先端部材、12a3,13a3:ろう材、H1:第一センタ穴、H2:第二センタ穴、H1a,H2a:テーパ面、T:接触線、T1,T2:接触点、W:工作物