(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】自動接合システム
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K20/12 344
B23K20/12 346
(21)【出願番号】P 2019146257
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】山中 宏介
(72)【発明者】
【氏名】半田 岳士
(72)【発明者】
【氏名】土屋 清美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聡
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸樹
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-269779(JP,A)
【文献】特開2016-215264(JP,A)
【文献】特開2000-263254(JP,A)
【文献】特開2002-153983(JP,A)
【文献】特開2002-301579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台の上に配置された第一金属部材と第二金属部材とを、前記第一金属部材の表面よりも前記第二金属部材の表面が低くなるように端面同士を突き合わせて段差を備えた突合せ部を形成した状態で固定する固定装置と、
摩擦攪拌を行う回転ツールを備え、前記突合せ部を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌装置と、
前記固定装置に設けられ前記架台の温度の測定及び前記温度の調整を行う温度調整部と、
前記固定装置及び前記摩擦攪拌装置を制御する制御装置と、を備え、
前記回転ツールは、基端側ピン、及び前記基端側ピンに連続して形成される先端側ピンを有し、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく、前記基端側ピンの外周面に階段状のピン段差部が形成され、
前記摩擦攪拌装置は、前記回転ツールの所定の狙い角度を維持しつつ、前記ピン段差部の段差底面で塑性流動材を押さえながら前記突合せ部に沿って摩擦攪拌を行い、
前記制御装置は、摩擦攪拌接合を行う前の前記温度が所定の数値範囲内か否かを判定する判定部を備えていることを特徴とする自動接合システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記温度を上昇又は下降させるように前記温度調整部を制御可能であり、
前記温度が前記所定の数値範囲外と判定された場合、前記制御装置は前記温度が前記所定の数値範囲内に含まれるように前記温度を上昇又は下降させることを特徴とする請求項1に記載の自動接合システム。
【請求項3】
前記温度が前記所定の数値範囲外と判定された場合、前記制御装置は当該第一金属部材及び当該第二金属部材を数値範囲外品と判定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動接合システム。
【請求項4】
摩擦攪拌接合後の接合部のバリ高さ及び表面粗さの少なくとも一方を測定する検査部をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の自動接合システム。
【請求項5】
前記摩擦攪拌装置は、前記回転ツールに作用する軸方向の反力荷重を測定する荷重測定部を有し、
前記摩擦攪拌装置は、前記荷重測定部の結果に基づいて前記反力荷重が概ね一定となるように荷重制御されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の自動接合システム。
【請求項6】
前記架台の表面側はアルミニウム又はアルミニウム合金板で形成され、その表面に陽極酸化被膜が施されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の自動接合システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動接合システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、金属部材の端部同士を突き合わせて突合せ部を形成し、当該突合せ部に沿って回転ツールを移動させて摩擦攪拌接合を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属部材の配置位置がずれていたり、金属部材の稜線が曲がっていたりすると、予め設定された移動ルートから回転ツールが外れてしまうおそれがある。特に、金属部材同士の表面の高さ位置が異なると、回転ツールの位置がわずかにずれるだけで、バリが多く発生する、接合表面が荒れる、接合部にアンダーカットが発生する等の不具合が生じるおそれがある。また、金属部材の温度が低いと、塑性化領域に空洞欠陥が発生するおそれがある。
【0005】
このような観点から、本発明は、表面の高さ位置が異なる金属部材同士を好適に摩擦攪拌接合することができる自動接合システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、架台の上に配置された第一金属部材と第二金属部材とを、前記第一金属部材の表面よりも前記第二金属部材の表面が低くなるように端面同士を突き合わせて段差を備えた突合せ部を形成した状態で固定する固定装置と、摩擦攪拌を行う回転ツールを備え、前記突合せ部を摩擦攪拌接合する摩擦攪拌装置と、前記固定装置に設けられ前記架台の温度の測定及び前記温度の調整を行う温度調整部と、前記固定装置及び前記摩擦攪拌装置を制御する制御装置と、を備え、前記回転ツールは、基端側ピン、及び前記基端側ピンに連続して形成される先端側ピンを有し、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく、前記基端側ピンの外周面に階段状のピン段差部が形成され、前記摩擦攪拌装置は、前記回転ツールの所定の狙い角度を維持しつつ、前記ピン段差部の段差底面で塑性流動材を押さえながら前記突合せ部に沿って摩擦攪拌を行い、前記制御装置は、摩擦攪拌接合を行う前の前記温度が所定の数値範囲内か否かを判定する判定部を備えていることを特徴とする。
【0007】
かかる自動接合システムによれば、基端側ピンのピン段差部の段差底面で塑性流動材を押さえながら摩擦攪拌接合を行うことで、バリの発生やアンダーカットの発生を防ぐとともに、接合表面をきれいにすることができる。また、温度調整部の温度が所定の数値範囲内か否かを判定する判定部を備えることにより、温度に起因する不具合を防ぐことができる。
【0008】
また、前記制御装置は、前記温度を上昇又は下降させるように前記温度調整部を制御可能であり、前記温度が前記所定の数値範囲外と判定された場合、前記制御装置は前記温度が前記所定の数値範囲内に含まれるように前記温度を上昇又は下降させることが好ましい。
【0009】
かかる自動接合システムによれば、第一金属部材及び第二金属部材の温度に起因する空洞欠陥の発生を抑制することができる。
【0010】
また、前記温度調整部の温度が前記所定の数値範囲外と判定された場合、前記制御装置は当該第一金属部材及び当該第二金属部材を数値範囲外品と判定することが好ましい。
【0011】
かかる自動接合システムによれば、品質管理を容易に行うことができる。
【0012】
また、摩擦攪拌接合後の接合部のバリ高さ及び表面粗さの少なくとも一方を測定する検査部をさらに備えることが好ましい。
【0013】
かかる自動接合システムによれば、品質管理をより容易に行うことができる。
【0014】
また、前記摩擦攪拌装置は、前記回転ツールに作用する軸方向の反力荷重を測定する荷重測定部を有し、前記摩擦攪拌装置は、前記荷重測定部の結果に基づいて前記反力荷重が概ね一定となるように荷重制御されていることが好ましい。
【0015】
かかる自動接合システムによれば、回転ツールの反力荷重を概ね一定にすることができるため、接合精度を高めることができる。
【0016】
また、前記架台の表面側はアルミニウム又はアルミニウム合金板で形成され、その表面に陽極酸化被膜が施されていることが好ましい。
【0017】
かかる自動接合システムによれば、架台の耐摩耗性、耐食性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る自動接合システムによれば、表面の高さ位置が異なる金属部材同士を好適に摩擦攪拌接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る回転ツールを示す側面図である。
【
図3】回転ツールの第一変形例を示す断面図である。
【
図4】回転ツールの第二変形例を示す断面図である。
【
図5】回転ツールの第三変形例を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る自動接合システムの全体斜視図である。
【
図7】本実施形態に係る自動接合システムの要部斜視図である。
【
図8】本実施形態に係る自動接合システムのブロック図である。
【
図9】本実施形態に係る許容範囲を説明するための模式平面図である。
【
図10】本実施形態に係る差分を説明するための模式平面図である。
【
図11】本実施形態に係る摩擦攪拌接合中の回転ツールの位置を説明するための模式平面図である。
【
図12】本実施形態に係る回転ツールの挿入状態を示す断面図である。
【
図13】本実施形態に係る自動接合システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図14A】実施例の試験1において、第一金属部材及び第二金属部材の段差寸法を示す模式図である。
【
図14B】実施例の試験1において、第一金属部材及び第二金属部材の段差寸法が大きい状態を示す模式側面図である。
【
図14C】実施例の試験1において、第一金属部材及び第二金属部材の段差寸法が小さい状態を示す模式側面図である。
【
図14D】実施例の試験1において、第一金属部材及び第二金属部材の段差寸法が小さい他の状態を示す模式側面図である。
【
図15】実施例の試験1の段差寸法とバリ高さとの関係を示すグラフである。
【
図16】実施例の試験2の走行距離と接合前の隙間量との関係を示すグラフである。
【
図17】実施例の試験2の開始位置側の隙間量と、開始位置側のバリ高さとの関係を示すグラフである。
【
図18】実施例の試験2の終了位置側の隙間量と、終了位置側のバリ高さとの関係を示すグラフである。
【
図19】実施例の試験3の概要を示す模式平面図である。
【
図20】実施例の試験3の接合距離とY方向位置との関係を示すグラフである。
【
図21A】実施例の試験3の接合距離が100mmの位置の断面図である。
【
図21B】実施例の試験3の接合距離が600mmの位置の断面図である。
【
図21C】実施例の試験3の接合距離が800mmの位置の断面図である。
【
図22A】実施例の試験3の接合距離が1000mmの位置の断面図である。
【
図22B】実施例の試験3の接合距離が1200mmの位置の断面図である。
【
図22C】実施例の試験3の接合距離が1800mmの位置の断面図である。
【
図23A】実施例の試験3の接合距離が100mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
【
図23B】実施例の試験3の接合距離が600mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
【
図23C】実施例の試験3の接合距離が800mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
【
図24A】実施例の試験3の接合距離が1000mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
【
図24B】実施例の試験3の接合距離が1200mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
【
図25】実施例の試験3の接合距離が1800mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
【
図26】実施例の試験3の回転ツールの位置とバリ高さ及び酸化被膜高さとの関係を示すグラフである。
【
図27】実施例の試験3の摩擦攪拌接合中の回転ツールの位置を示す模式平面図である。
【
図28】実施例の試験3の接合速度と空洞欠陥サイズとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。まずは、本実施形態に係る自動接合システムで用いる回転ツールについて説明する。
【0021】
〔回転ツール〕
回転ツールは、摩擦攪拌接合に用いられるツールである。
図1に示すように、回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されており、基軸部F1と、基端側ピンF2と、先端側ピンF3とで主に構成されている。基軸部F1は、円柱状を呈し、摩擦攪拌装置の主軸に接続される部位である。
【0022】
基端側ピンF2は、基軸部F1に連続し、先端に向けて先細りになっている。基端側ピンF2は、円錐台形状を呈する。基端側ピンF2のテーパー角度Aは適宜設定すればよいが、例えば、135~160°になっている。テーパー角度Aが135°未満であるか、又は、160°を超えると摩擦攪拌後の接合表面粗さが大きくなる。テーパー角度Aは、後記する先端側ピンF3のテーパー角度Bよりも大きくなっている。
図2に示すように、基端側ピンF2の外周面には、階段状のピン段差部F21が高さ方向の全体に亘って形成されている。ピン段差部F21は、右回り又は左回りで螺旋状に形成されている。つまり、ピン段差部F21は、平面視して螺旋状であり、側面視すると階段状になっている。本実施形態では、回転ツールFを右回転させるため、ピン段差部F21は基端側から先端側に向けて左回りに設定している。
【0023】
なお、回転ツールFを左回転させる場合は、ピン段差部F21を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、ピン段差部F21によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材の外部に溢れ出る金属を低減することができる。ピン段差部F21は、段差底面F21aと、段差側面F21bとで構成されている。隣り合うピン段差部F21の各頂点F21c,F21cの距離X1(水平方向距離)は、後記する段差角度C及び段差側面F21bの高さY1に応じて適宜設定される。
【0024】
段差側面F21bの高さY1は適宜設定すればよいが、例えば、0.1~0.4mmで設定されている。高さY1が0.1mm未満であると接合表面粗さが大きくなる。一方、高さY1が0.4mmを超えると接合表面粗さが大きくなる傾向があるとともに、有効段差部数(被接合金属部材と接触しているピン段差部F21の数)も減少する。
【0025】
段差底面F21aと段差側面F21bとでなす段差角度Cは適宜設定すればよいが、例えば、85~120°で設定されている。段差底面F21aは、本実施形態では水平面と平行になっている。段差底面F21aは、ツールの回転軸から外周方向に向かって水平面に対して-5°~15°内の範囲で傾斜していてもよい(マイナスは水平面に対して下方、プラスは水平面に対して上方)。距離X1、段差側面F21bの高さY1、段差角度C及び水平面に対する段差底面F21aの角度は、摩擦攪拌を行う際に、塑性流動材がピン段差部F21の内部に滞留して付着することなく外部に抜けるとともに、段差底面F21aで塑性流動材を押えて接合表面粗さを小さくすることができるように適宜設定する。
【0026】
図1に示すように、先端側ピンF3は、基端側ピンF2に連続して形成されている。先端側ピンF3は円錐台形状を呈する。先端側ピンF3の先端は回転軸に対して垂直な平坦面F4になっている。先端側ピンF3のテーパー角度Bは、基端側ピンF2のテーパー角度Aよりも小さくなっている。
図2に示すように、先端側ピンF3の外周面には、螺旋溝F31が刻設されている。螺旋溝F31は、右回り、左回りのどちらでもよいが、本実施形態では回転ツールFを右回転させるため、基端側から先端側に向けて左回りに刻設されている。
【0027】
なお、回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F31を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、螺旋溝F31によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材の外部に溢れ出る金属を低減することができる。螺旋溝F31は、螺旋底面F31aと、螺旋側面F31bとで構成されている。隣り合う螺旋溝F31の頂点F31c,F31cの距離(水平方向距離)を長さX2とする。螺旋側面F31bの高さを高さY2とする。螺旋底面F31aと、螺旋側面F31bとで構成される螺旋角度DAは例えば、45~90°で形成されている。螺旋溝F31は、被接合金属部材と接触することにより摩擦熱を上昇させるとともに、塑性流動材を先端側に導く役割を備えている。
【0028】
回転ツールFは、適宜設計変更が可能である。
図3は、本発明の回転ツールの第一変形例を示す側面図である。
図3に示すように、第一変形例に係る回転ツールFAでは、ピン段差部F21の段差底面F21aと段差側面F21bとのなす段差角度Cが85°になっている。段差底面F21aは、水平面と平行である。このように、段差底面F21aは水平面と平行であるとともに、段差角度Cは、摩擦攪拌中にピン段差部F21内に塑性流動材が滞留して付着することなく外部に抜ける範囲で鋭角としてもよい。
【0029】
図4は、本発明の回転ツールの第二変形例を示す側面図である。
図4に示すように、第二変形例に係る回転ツールFBでは、ピン段差部F21の段差角度Cが115°になっている。段差底面F21aは水平面と平行になっている。このように、段差底面F21aは水平面と平行であるとともに、ピン段差部F21として機能する範囲で段差角度Cが鈍角となってもよい。
【0030】
図5は、本発明の回転ツールの第三変形例を示す側面図である。
図5に示すように、第三変形例に係る回転ツールFCでは、段差底面F21aがツールの回転軸から外周方向に向かって水平面に対して10°上方に傾斜している。段差側面F21bは、鉛直面と平行になっている。このように、摩擦攪拌中に塑性流動材を押さえることができる範囲で、段差底面F21aがツールの回転軸から外周方向に向かって水平面よりも上方に傾斜するように形成されていてもよい。
【0031】
[1.自動接合システム]
次に、
図6に示すように、本発明の実施形態に係る自動接合システム1について説明する。なお、以下の説明では「裏面」の反対側の面を「表面」とする。
【0032】
図6及び
図7に示すように、自動接合システム1は、搬送装置2と、固定装置3と、摩擦攪拌装置4と、制御装置5とを含んで構成されている。自動接合システム1は、第一金属部材101と第二金属部材102の端部同士を自動で摩擦攪拌接合するシステムである。
【0033】
図7に示すように、第一金属部材101及び第二金属部材102は、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金等の摩擦攪拌可能な金属で形成された板状部材である。第二金属部材102の板厚寸法は、第一金属部材101の板厚寸法よりも小さくなっている。第一金属部材101及び第二金属部材102は、本実施形態では、例えば、アルミニウム合金で形成されている。
【0034】
図7に示すように、第一金属部材101の端面101aと、第二金属部材102の端面102aとが突き合わされて突合せ部J1が形成されている。第一金属部材101の裏面101c及び第二金属部材102の裏面102c同士は面一となっているため、表面101b,102bには段差が形成されている。すなわち、第一金属部材101の表面101bよりも第二金属部材102の表面102bの高さ位置が低くなるように、端面101a,102a同士が突き合わされている。
【0035】
なお、第一金属部材101及び第二金属部材102は、摩擦攪拌接合工程ごとに順次搬送され、接合後に固定装置3の外部へ取り出されるが、各第一金属部材101及び第二金属部材102を識別するために、接合の順番で通し番号(以下、「ワーク番号」という。)を付すものとする。また、本実施形態では、第一金属部材101及び第二金属部材102の板厚寸法が異なっているが、第一金属部材101及び第二金属部材102の板厚寸法を同一にして表面101b,102bの高さ位置に差を設けて突き合わせてもよい。
【0036】
[1-1.搬送装置]
搬送装置2は、
図6及び
図8に示すように、アームロボット11と、基部フレーム12と、4つの吸着部13とを含んで構成されている。アームロボット11は、制御装置5と電気的に接続されている。制御装置5の搬送制御部51(
図8参照)は、アームロボット11の搬送動作を制御する装置である。アームロボット11は、多関節のアーム11a及びアーム駆動部(図示省略)を備えており、搬送制御部51から送信される制御信号に基づいて立体的な動作が可能となっている。
【0037】
基部フレーム12は、アームロボット11のアームの先端に取り付けられた枠状部材である。基部フレーム12は、アーム11aの軸方向に対して垂直に取り付けられている。吸着部13は、基部フレーム12の四隅に、基部フレーム12の平面に対して垂直に設けられている。吸着部13は、搬送制御部51の制御信号に基づいて、先端に設けられた吸着パッド13aに負圧又は正圧を作用させることができる。つまり、吸着パッド13aに負圧を作用させることで、第一金属部材101又は第二金属部材102の四隅を吸着することでき、正圧を作用させることにより第一金属部材101又は第二金属部材102を離脱させることができる。これにより、アームロボット11は、第一金属部材101及び第二金属部材102を固定装置3の予め設定された位置にそれぞれ搬送することができる。例えば、接合前の第一金属部材101及び第二金属部材102は、搬送装置2による第一金属部材101及び第二金属部材102の吸着が可能な範囲内の位置にある材料配置エリア(図示省略)にそれぞれ積層して配置しておくことができる。搬送装置2は、材料配置エリアに配置された第一金属部材101及び第二金属部材102を、それぞれ一部材ずつ架台21の所定位置まで搬送することができる。
【0038】
また、アームロボット11は、摩擦攪拌接合後に、接合された第一金属部材101及び第二金属部材102(以下、「被接合金属部材103」とも言う。)を固定装置3から取り出して、所定の位置に搬送することができる。アームロボット11は、例えば、制御装置5に合格品と判定された場合は被接合金属部材103を合格品配置エリア15(
図6参照)に搬送し、数値範囲外品と判定された場合は被接合金属部材103を数値範囲外品配置エリア16に搬送することができる。なお、数値範囲外品とは、制御装置5で所定の数値範囲内ではない(数値範囲外)と判定された被接合金属部材103を言う。
【0039】
[1-2.固定装置]
固定装置3は、第一金属部材101及び第二金属部材102を固定するとともに、摩擦攪拌接合の台座となる装置である。
図6及び
図8に示すように、固定装置3は、架台21と、吸引部22と、温度調整部23と、クランプ部24とを含んで構成されている。
【0040】
<架台>
架台21は、上部の表面に第一金属部材101及び第二金属部材102が配置される台であって、外形が直方体を呈する。架台21の上部表面における中央位置には、架台21の長手方向の稜線21aに対して垂直な基準位置Y0が設定されている。基準位置Y0は、第一金属部材101及び第二金属部材102の位置決めの基準となる位置である。第一金属部材101及び第二金属部材102は、基準位置Y0の位置において突合せ部J1を形成するように配置される。ここで、以下の説明におけるX方向、Y方向、Z方向は
図6,
図7に示す矢印に基づく。
図6,
図7に示すように、X方向、Y方向、Z方向は互いに直行している。X方向は、架台21の上部平面において、基準位置Y0に対して平行となっている。Y方向は、架台21の上部平面において、基準位置Y0に対して垂直となっている。Z方向は、架台21の上部平面に対して垂直となっている。
【0041】
架台21の表面側の中央部には、基準位置Y0に沿って凹溝25aが形成されている。凹溝25a内には、基準位置Y0に沿って、突合せ部J1に対応する位置に載置部25が設けられている。載置部25は、本実施形態では架台21のX方向の長さと概ね同じ長さからなり、第一金属部材101と第二金属部材102との摩擦撹拌接合によって形成される塑性流動領域の幅と同程度かこれよりも大きい幅に形成されている。また、載置部25は、アルミニウム又はアルミニウム合金板で形成されている。載置部25の表面側には陽極酸化被膜が施されている。載置部25は、架台21の表面に配置されて、その上に載置された第一金属部材101及び第二金属部材102を支持するとともに、第一金属部材101及び第二金属部材102の温度調整を行うためのバッキングプレートとして機能する。
【0042】
<吸引部>
吸引部22は、第二金属部材102の端部を裏面102c側から吸引する装置である。吸引部22は、吸引管26と、ホース28と、吸引機29とを含んで構成されている。吸引管26は、断面矩形の中空管である。
図7に示すように、吸引管26は、架台21の表面側においてX方向と平行に設けられた凹溝25a内に設置されている。凹溝25a内において、第一金属部材101側に配置される載置部25と、第二金属部材102側に配置される吸引管26とが、長手方向で隣接して設置されている。吸引管26の表面と、載置部25の表面は面一になっている。本実施形態では、例えば、吸引管26の表面長手方向の第一金属部材101側の稜線26aは、基準位置Y0に対して第二金属部材102の側に位置するように設定されている。
【0043】
吸引管26の表面には、所定の間隔で複数の孔部27が開口している。吸引管26は、ホース28を介して吸引機29に連結されている。吸引機29は、吸引して負圧を発生させる機械であり、制御装置5の吸引制御部52(
図8参照)と電気的に接続されている。制御装置5の吸引制御部52は、吸引機29の吸引動作を制御する。つまり、吸引機29は、吸引制御部52から送信される制御信号に基づいて吸引ON又は吸引OFFとすることができる。吸引部22は、孔部27周りに負圧を発生させることにより、第二金属部材102の端部を吸引して、当該端部の浮き上がりを防ぐことができる。
【0044】
なお、本実施形態では、第二金属部材102を吸引するようにしたが、第一金属部材101及び第二金属部材102の両方を吸引するようにしてもよい。吸引管26は複数本設けてもよい。
【0045】
<温度調整部>
温度調整部23は、
図6及び
図8に示すように、固定装置3の架台21の内部に設けられ、架台21の温度の測定、及び架台21表面の温度調整を行う装置である。温度調整部23は、ヒーター(図示省略)、及び温度センサ23a(
図8参照)を含んで構成されている。架台21の表面側から、載置部25と、温度センサ23aと、ヒーターとが、この順で設けられている。ヒーターは、基準位置Y0に沿って、載置部25と概ね同じ位置に対応するように配置されている。温度センサ23aは載置部25の温度を測定し、ヒーターは載置部25の温度を調整する。温度調整部23は、制御装置5の温度制御部53と電気的に接続されている。温度調整部23は、温度制御部53から送信される制御信号に基づいて、ヒーターの動作を制御可能に構成されている。例えば、ヒーターを作動させることで載置部25を加温し、又はヒーターを停止させることで載置部25を室温付近まで冷却することができるように構成されている。このようにして、温度調整部23は、温度センサ23aによって架台21表面の載置部25の温度を測定し、ヒーターによって架台21表面の載置部25の温度を調整することができる。そして、載置部25の温度を調整することで、第一金属部材101及び第二金属部材102の温度を上昇又は下降させることができる。なお、温度調整部23は、さらに冷却装置を備え、この冷却装置を作動させることで載置部25を冷却するようにしてもよい。
【0046】
各摩擦攪拌接合を行う前において、温度調整部23の温度センサ23aで計測された結果は、ワーク番号と関連付けられて制御装置5の温度制御部53に送信されるとともに、記憶部44に格納される。温度センサ23aで計測された結果は、ワーク番号とともに制御装置5の表示部43に表示されるようにしてもよい。
【0047】
<クランプ部>
クランプ部24は、
図7及び
図8に示すように、架台21の周囲に移動可能に配置され、架台21に対して第一金属部材101及び第二金属部材102を固定又は解除する装置である。クランプ部24は、制御装置5のクランプ制御部54(
図8参照)から送信される制御信号に基づいて、第一金属部材101及び第二金属部材102の固定又は解除を行う。つまり、クランプ部24は、架台21に第一金属部材101及び第二金属部材102が配置された後、第一金属部材101及び第二金属部材102に近接しつつ、第一金属部材101及び第二金属部材102を架台21に移動不能に拘束する。一方、クランプ部24は、摩擦攪拌接合が終了したら拘束を解除して、被接合金属部材103を取り出す際に干渉しない位置まで退避する。
【0048】
[1-3.摩擦攪拌装置]
摩擦攪拌装置4は、
図6及び
図8に示すように、アームロボット31と、回転駆動部32と、荷重付与部33と、測定部34と、荷重測定部35とを含んで構成されている。摩擦攪拌装置4は、回転ツールFを回転させつつ移動させて第一金属部材101と第二金属部材102とを摩擦攪拌接合する装置である。
【0049】
アームロボット31は、制御装置5と電気的に接続されている。制御装置5の摩擦攪拌制御部55(
図8参照)は、アームロボット31の摩擦攪拌接合動作を制御する装置である。アームロボット31は、多関節のアーム31a及びアーム駆動部(図示省略)を備えており、摩擦攪拌制御部55から送信される制御信号に基づいて立体的な動作が可能となっている。
【0050】
回転駆動部32は、回転ツールFを回転させるモータ等の回転駆動手段を含んで構成されている。回転駆動部32、荷重付与部33及び荷重測定部35は、筐体39(
図6参照)内に収容されている。回転駆動部32の先端には、回転ツールFを着脱可能なチャック部が設けられている。摩擦攪拌制御部55(
図8参照)は、回転ツールFが所定の回転数となるように回転駆動部32を制御する。
【0051】
荷重付与部33(
図8参照)は、回転ツールFの軸方向に移動可能なシリンダ機構等を含んで構成されており、摩擦攪拌接合中において、第一金属部材101及び第二金属部材102に対する回転ツールFの押圧力を調整する部位である。
【0052】
荷重測定部35は、回転ツールFとモータ等の回転駆動手段との間に介設されており、摩擦攪拌接合中に回転ツールFが受ける軸方向の反力荷重を測定する装置である。荷重測定部35で計測された結果は、ワーク番号と関連付けられて制御装置5の摩擦攪拌制御部55に送信されるとともに、記憶部44に格納される。
【0053】
荷重測定部35で計測された結果は、ワーク番号とともに制御装置5の表示部43に表示されるようにしてもよい。摩擦攪拌制御部55は、回転ツールFの反力荷重が、予め設定された設定荷重に近づくように荷重付与部33をフィードバック制御する。
【0054】
回転ツールFの押圧力(設定荷重)は、本実施形態では、例えば、2000~4000Nに設定され、好ましくは2500~3500Nに設定されている。
【0055】
<測定部>
測定部34は、回転駆動部32の外側に取り付けられた測定装置である。測定部34は、本実施形態ではラインセンサを用いている。測定部34は、照射されたラインレーザの反射光により、突合せ部J1(接合部)周りの凹凸、隙間、形状等を取得可能になっている。測定部34で計測された結果は、ワーク番号と関連付けられて制御装置5の摩擦攪拌制御部55に送信されるとともに、記憶部44に格納される。測定部34で計測された結果は、ワーク番号とともに制御装置5の表示部43に表示されるようにしてもよい。
【0056】
より詳しくは、測定部34は、摩擦攪拌接合を行う前にアームロボット31によって突合せ部J1に沿って移動することにより、突合せ部J1の段差寸法h、隙間量D及び第一金属部材101の稜線位置Ypを測定することができる。段差寸法hは、第一金属部材101の表面101bから第二金属部材102の表面102bまでの高さ寸法である。隙間量Dは、第一金属部材101の端面101aから第二金属部材102の端面102aまでの距離である。稜線位置Ypは、
図7に示すように、第一金属部材101の突合せ部J1に面する上面側の稜線101eの形状(XY平面上の位置)である。
【0057】
また、測定部34は、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Yn(XY平面上の位置:
図11参照)を測定することができる。また、測定部34は、摩擦攪拌接合前の回転ツールFの位置Yb(初期位置Yb
0:
図9参照)を測定することができる。この初期位置Yb
0は、摩擦攪拌接合を行う際に、回転ツールFを第一金属部材101及び第二金属部材102に挿入する直前の回転ツールFの位置である。
【0058】
また、測定部34は、摩擦攪拌接合後に突合せ部J1(接合部)に沿って移動することにより、接合部のバリ高さS(アンダーカット)及び表面粗さRaを測定することができる。つまり、測定部34は、摩擦攪拌接合後に接合部の状態、接合品質を確認するための検査部として機能することもできる。アンダーカットとは、第一金属部材101及び第二金属部材102の各表面101b,102bが接合前よりも凹んでいる(削れている)状態を言う。なお、本実施形態では、測定部34は、接合部のバリ高さS(アンダーカット)及び表面粗さRaの少なくとも一方を測定するようにしてもよい。また、測定部(検査部)34は、回転駆動部32を収容する筐体39の外側に取り付けたが、例えば、他のアームロボットに取り付けてもよい。また、測定部と検査部とは別の装置であってもよい。
【0059】
[1-4.制御装置]
制御装置5は、
図8に示すように、搬送装置2、固定装置3及び摩擦攪拌装置4の全体の動作を制御する制御装置である。制御装置5は、演算部(CPU(Central Processing Unit):図示省略)と、キーボード、タッチパネル等の入力部42と、モニター、ディスプレイ等の表示部43と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read only memory)等の記憶部44とを含んで構成されている。
【0060】
また、制御装置5は、主制御部41と、搬送制御部51と、吸引制御部52と、温度制御部53と、クランプ制御部54と、摩擦攪拌制御部55とを備えている。主制御部41は、搬送制御部51、吸引制御部52、温度制御部53、クランプ制御部54及び摩擦攪拌制御部55の各制御を統括する部位である。また、主制御部41は、一の摩擦攪拌接合が完了した後、記憶部44からそのワーク番号の判定結果を読み出して、当該第一金属部材101及び第二金属部材102(被接合金属部材103)が数値範囲外品と判定されたか否かを判定する判定部(図示省略)を備えている。
【0061】
主制御部41、搬送制御部51、吸引制御部52、温度制御部53、クランプ制御部54、及び摩擦攪拌制御部55は、自動接合プログラムとしてROMに格納されている。演算部がROMから自動接合プログラムを読み込んで、RAMに展開して実行することで、主制御部41、搬送制御部51、吸引制御部52、温度制御部53、クランプ制御部54、及び摩擦攪拌制御部55の各部位として機能させる。自動接合プログラムは、CD-ROM(Compact Disc Read only memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read only memory)等の光ディスク;USB(Universal Serial Bus)メモリ、SDメモリ等のフラッシュメモリ等の記録媒体に記録されて配布されてもよく、インターネット、イントラネット等の通信ネットワークを通じて配布されてもよい。制御装置5は、記録媒体から自動接合プログラムを読みだしたり、通信ネットワークを介して自動接合プログラムを受信したりすることで、自動接合プログラムを取得して実行することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、各制御部を制御装置5内に一括して設けたが、装置ごとに制御部を設けてもよいし、制御装置5と各装置で制御部を共有してもよい。
【0063】
<搬送制御部>
搬送制御部51は、搬送装置2に制御信号を送信して第一金属部材101及び第二金属部材102を架台21の所定位置まで搬送する制御を行う。一方、搬送制御部51は、一の摩擦攪拌接合が終了しクランプ部24が退避したら、架台21から被接合金属部材103を取り出す制御を行う。
【0064】
また、搬送制御部51は、一度でも数値範囲外品との判定を受けたと主制御部41で判定された場合、架台21から当該被接合金属部材103を取り出して、数値範囲外品配置エリア16に搬送する制御を行う。一方、搬送制御部51は、主制御部41で数値範囲外品との判定を一度も受けていないと判定された場合、架台21から当該被接合金属部材103を取り出して、合格品配置エリア15に搬送する制御を行う。なお、数値範囲外品か否かの判定によらず、摩擦攪拌接合後に被接合金属部材103を同じ位置に搬送するように制御してもよい。
【0065】
<吸引制御部>
吸引制御部52は、クランプ部24が第一金属部材101及び第二金属部材102を架台21に固定した後、吸引部22に制御信号を送信して吸引機29を吸引ONとし、架台21に固定された第二金属部材102の端部を吸引する制御を行う。吸引制御部52は、その摩擦攪拌接合が終了したら、吸引OFFとする制御を行う。
【0066】
<温度制御部>
温度制御部53は、温度調整部23に制御信号を送信して設定された温度となるようにヒーターを作動又は停止させる制御を行う。温度調整部23の所定の数値範囲は、定義設定すればよいが、例えば、30~120℃に設定し、好ましくは60~90℃に設定する。
【0067】
また、温度制御部53は、判定部65を備えている。判定部65は、一の摩擦攪拌接合の直前において、温度制御部53の温度センサ23aから送信された結果(温度T)が所定の数値範囲内か否かを判定する。なお、温度Tは、架台21表面の温度、より具体的には載置部25の温度を表すものである。
【0068】
判定部65は、温度Tを所定の数値範囲外と判定した場合、その第一金属部材101及び第二金属部材102をワーク番号と関連付けて数値範囲外品と判定する。判定部65は、当該判定結果を主制御部41に送信するとともに記憶部44に格納する。当該判定結果は、表示部43に表示させるようにしてもよいし、判定結果に応じて音や光などを出力する報知手段で報知するようにしてもよい。また、判定部65は、主制御41に設けてもよい。
【0069】
なお、温度センサ23aから送信された結果が所定の数値範囲外と判定された場合、温度制御部53は、温度調整部23のヒーターの制御により載置部25を加温又は冷却させて、温度センサ23aから送信される結果が所定の数値範囲に含まれるように制御してもよい。
【0070】
<クランプ制御部>
クランプ制御部54は、クランプ部24に制御信号を送信して架台21に載置された第一金属部材101及び第二金属部材102を固定(セット)する制御を行う。また、摩擦攪拌接合が終了したら、クランプ部24に制御信号を送信して第一金属部材101及び第二金属部材102の固定を解除する制御を行う。
【0071】
なお、摩擦攪拌接合前の固定状態(段差寸法h、隙間量D、温度T)が所定の数値範囲外と判定された場合、クランプ部24は、直ちに第一金属部材101及び第二金属部材102の固定を解除する制御を行ってもよい。この場合、例えば、搬送装置2のアームロボット11で第一金属部材101及び第二金属部材102の位置を微修正するようにしてもよいし、当該第一金属部材101及び第二金属部材102を架台21から取り出して、新たな第一金属部材101及び第二金属部材102を配置するようにしてもよい。
【0072】
<摩擦攪拌制御部>
摩擦攪拌制御部55は、摩擦攪拌装置4に制御信号を送信して第一金属部材101と第二金属部材102とを摩擦攪拌接合する制御を行う。摩擦攪拌制御部55は、目標移動ルート生成部61と、許容範囲生成部62と、修正移動ルート生成部63と、判定部64とを備えている。
【0073】
目標移動ルート生成部61は、
図9に示すように、回転ツールFの目標移動ルートR1を生成する部位である。ここで、
図9は、摩擦撹拌接合を行う際に回転ツールFが移動する目標移動ルートR1と、無負荷の状態で回転ツールFが移動する修正移動ルートR2との関係を示す模式図である。目標移動ルートR1は、突合せ部J1の摩擦攪拌接合を行う際に、回転ツールFが移動する目標となる軌跡を設定するものである。目標移動ルート生成部61は、摩擦攪拌接合を行う前に測定部34から送信された稜線位置Ypを目標移動ルートR1として算出する。第一金属部材101の稜線101eは、公差等により必ずしも直線にはなっていないため、稜線位置Ypは概ねギザギザな線となる。目標移動ルートR1は、稜線位置Ypと同一のルート(ギザギザなルート)としてもよいし、最小二乗法等に基づいて直線としてもよい。
【0074】
許容範囲生成部62は、摩擦攪拌接合中に回転ツールFのY方向の移動を許容する許容範囲Mを設定する。
図9に示すように、許容範囲Mは、例えば、稜線位置Ypを中心として幅方向に距離m,mとなる境界線Ma,Mbで囲まれた範囲として算出する。より詳しくは、許容範囲Mは、境界線Ma,Mb、第一金属部材101の稜線101f,101g、第二金属部材102の稜線102f,102gで囲まれた範囲となる。許容範囲Mの大きさは、摩擦攪拌接合で要求される精度等に合わせて適宜設定すればよいが、例えば、距離mを0.3~0.6mmで設定してもよい。特には、第一金属部材101側の許容範囲M
1、第二金属部材102側の許容範囲M
2よりも広く設定することが好ましい。なお、許容範囲Mの境界線Ma,Mbは稜線位置Ypに応じてギザギザな線としてもよいし、最小二乗法等に基づいて直線としてもよい。また、境界線Ma,Mbは本実施形態では稜線位置Ypから等距離としたが、異なる距離に設定してもよい。
【0075】
修正移動ルート生成部63は、修正移動ルートR2を生成する部位である。修正移動ルートR2は、突合せ部J1の摩擦攪拌接合を行う際に、回転ツールFがこのルートに沿って移動するように制御される軌跡を示す。回転ツールFを修正移動ルートR2に沿って移動するように制御することで、回転ツールFは目標移動ルートR1に沿って移動するように摩擦攪拌接合が行われる。
【0076】
ここで、
図10は、テスト軌跡Q1と、テスト軌跡Q2をと示す模式図である。
図10に示すように、摩擦攪拌接合を行う前に、一対の金属部材301,302を用いて修正移動ルートR2を生成するためのテスト試行を行う。金属部材301,302は、実際に摩擦攪拌接合を行う第一金属部材101及び第二金属部材102と同じ、若しくは、近い材料、厚さ等であることが好ましい。つまり、第一金属部材101及び第二金属部材102による突合せ部J1と同様に、金属部材301,302同士を突き合わせて突合せ部J30を形成する。すなわち、このテスト試行では、第一金属部材101及び第二金属部材102と比して、同様の材種の金属からなり、同様の板厚寸法を有する板状部材を、同様の高さの段差を形成するようにして突き合わせた、表面の高さ位置が異なる二つの金属部材301,302を用いることが好ましい。
【0077】
テスト軌跡Q1は、回転ツールFを金属部材301,302に挿入しないで、予め設定された設定移動ルートに従って、試験的に摩擦攪拌装置4を移動させた走行軌跡を示している。つまり、テスト軌跡Q1は、無負荷状態で摩擦攪拌装置4のアームロボット31を移動させた走行軌跡である。このとき、回転ツールを金属部材301,302に挿入せずに無負荷の状態で移動させたものであれば、回転ツールFを取り付けずに移動させたものであってもよい。なお、本明細書において、「走行軌跡」は、単に「軌跡」と称することがある。
【0078】
一方、テスト軌跡Q2は、回転ツールFを金属部材301,302に挿入して、予め設定されたテスト軌跡Q1と同じ設定移動ルートに従って、試験的に摩擦攪拌を行った軌跡である。テスト軌跡Q1とテスト軌跡Q2は、いずれも同じ設定移動ルートにしたがって移動させたにも関わらず、実際に摩擦攪拌を行うことで所定の差分(差分YL)が発生する。
【0079】
これは、表面の高さ位置が異なるように突き合わされた二つの金属部材に回転ツールFが接触することで、アームロボット31に生じるたわみによって回転ツールFの位置がテスト軌跡Q1からテスト軌跡Q2に変位することに起因すると推察される。また、アームロボット31の癖、金属部材の材料抵抗等にも影響を受けていると推察される。したがって、摩擦攪拌接合でテスト軌跡Q2を走行させたい場合は、差分YLを考慮して設定移動ルートを設定する必要がある。差分YLは、第一金属部材101及び第二金属部材102の摩擦攪拌接合前に、金属部材に回転ツールFを挿入した状態で摩擦攪拌接合を行ったテスト試行と、無負荷の状態で行ったテスト試行とを行い、これらに基づいて予め算出することができる。より詳しくは、差分YLは、第一金属部材101及び第二金属部材102による突合せ部J1と同様に突合せ部を形成した金属部材に回転ツールFを挿入した状態で摩擦攪拌接合を行いながら回転ツールFを移動させた場合のテスト軌跡Q2と、回転ツールFを金属部材に挿入せずに無負荷の状態で移動させた場合のテスト軌跡Q1との走行軌跡の差分(差分の平均)から算出することができる。なお、テスト軌跡Q1及びテスト軌跡Q2を得るための設定移動ルートは、突き合わせた金属部材の突合せ部J30をテスト軌跡Q2が通過するように設定することが好ましい。特には、テスト軌跡Q2の開始位置付近で突合せ部J30を通過して、突合せ部J30に沿って、厚板の金属部材側に向けて移動するように設定移動ルートを設定することが好ましい。なお、テスト試行を行う際は、金属部材301,302の少なくとも一方に回転ツールFを挿入してテスト軌跡Q1,Q2を取得すればよい。
【0080】
修正移動ルート生成部63では、
図9に示すように、目標移動ルートR1及び差分YLに基づいて、修正移動ルートR2を算出する。本実施形態では、
図10に示すように、実際に摩擦攪拌接合を行ったテスト軌跡Q2は、無負荷の状態のテスト軌跡Q1から左側(薄板側)へ差分YLだけ略平行に変位する傾向があるため、修正移動ルートR2は、目標移動ルートR1に対して右側(厚板(第一金属部材101)側)へ差分YLだけ変位させた位置に設定する。つまり、摩擦攪拌制御部55は、修正移動ルートR2で回転ツールFが移動するように制御することにより、差分YLが吸収されて、目標移動ルートR1上を回転ツールFが移動して、摩擦撹拌接合が行われるようになる。
【0081】
なお、テスト軌跡Q1及びテスト軌跡Q2の差分YLが小さい又は無い場合は、修正移動ルートは設定せずに、目標移動ルートR1に基づいて回転ツールFを移動させてもよい。また、差分YLの取得(算出)は摩擦攪拌接合ごとに行う必要はないが、例えば、回転ツールFを交換する場合、第一金属部材101及び第二金属部材102の板厚寸法、材種、表面の高さ位置等を変更する場合に応じて取得し、差分YLと修正移動ルートR2を算出することが好ましい。
【0082】
修正移動ルート生成部63は、判定部64によって摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置が許容範囲M外と判定された場合、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置に応じて回転ツールFの位置を再設定した修正移動ルートR2を算出することが好ましい。具体的には、摩擦攪拌接合中の回転ツールFのY方向の位置が第一金属部材101側となっていた箇所では、この箇所の回転ツールFの位置が第二金属部材102側となるように修正移動ルートR2を再設定する。同様に、摩擦攪拌接合中の回転ツールFのY方向の位置が第二金属部材102側となっていた箇所では、この箇所の回転ツールFの位置が第一金属部材101側となるように修正移動ルートR2を再設定する。
【0083】
判定部64は、
図8に示すように、測定部34から送信される結果が所定の数値範囲内か否かを判定する部位である。つまり、判定部64は、摩擦攪拌接合前の段差寸法h、隙間量D、温度T、回転ツールFの初期位置Yb
0がそれぞれ所定の数値範囲内か否かを判定する。また、判定部64は、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynが所定の数値範囲(許容範囲M)内か否かを判定する。また、判定部64は、摩擦攪拌接合後の接合部のバリ高さS及び表面粗さRaの両方が所定の数値範囲内か否かを判定する。
【0084】
<段差寸法h>
判定部64は、摩擦攪拌接合を行う前に測定部34を突合せ部J1に沿って移動させることで、測定部34から送信された結果(段差寸法h(mm))が、所定の数値範囲内か否かを判定する。
【0085】
本実施形態では、第一金属部材101の板厚寸法は2.0mmであり、第二金属部材102の板厚寸法は1.2mmに設定しているため、設定段差寸法は0.8mmである。段差寸法hの所定の数値範囲は適宜設定すればよいが、例えば、第一金属部材101及び第二金属部材102の設定段差寸法hが0.8mmである場合、0.75≦h≦0.93と設定することができる。判定対象となる段差寸法hは、測定部34で取得された全数でもよいし、接合長全体に対する段差寸法の平均値であってもよいし、最大値であってもよいし、もしくは所定間隔ごとの複数の段差寸法を抽出してそれぞれ判定してもよい。
【0086】
判定部64は、段差寸法hを所定の数値範囲外と判定した場合、その第一金属部材101及び第二金属部材102をワーク番号と関連付けて数値範囲外品と判定する。判定部64は、当該判定結果を主制御部41に送信するとともに記憶部44に格納する。当該判定結果は、表示部43に表示させるようにしてもよいし、判定結果に応じて音や光などを出力する報知手段で報知するようにしてもよい。
【0087】
<隙間量D>
また、判定部64は、摩擦攪拌接合を行う前に測定部34を突合せ部J1に沿って移動させることで、測定部34から送信された隙間量D(mm)が、所定の数値範囲内か否かを判定する。隙間量Dの所定範囲は適宜設定すればよいが、例えば、0≦D≦0.4と設定することができる。判定する隙間量Dは、測定部34で取得された全数でもよいし、接合長全体に対する隙間量の平均値でもよいし、最大値であってもよいし、もしくは所定間隔ごとの複数の隙間量を抽出してそれぞれ判定してもよい。
【0088】
判定部64は、隙間量Dを所定の数値範囲外と判定した場合、その第一金属部材101及び第二金属部材102をワーク番号と関連付けて数値範囲外品と判定する。判定部64は、当該判定結果を主制御部41に送信するとともに記憶部44に格納する。当該判定結果は、表示部43に表示させるようにしてもよいし、判定結果に応じて音や光などを出力する報知手段で報知するようにしてもよい。
【0089】
<初期位置>
また、判定部64は、摩擦攪拌接合を行う前に、測定部34によって回転ツールFの初期位置Yb0を測定することで、測定部34から送信された初期位置Yb0が、修正移動ルートR2の開始位置に対して所定の数値範囲内か否かを判定する。初期位置Yb0の所定範囲は適宜設定すればよいが、修正移動ルートR2の開始位置を中心として、例えば、0mm以上、0.3mm以下の範囲内と設定することができる。特には、修正移動ルートR2の開始位置を中心として、Y方向に0mm以上、0.3mm以下の範囲内と設定することができる。
【0090】
判定部64は、初期位置Yb0を所定の数値範囲外と判定した場合、その第一金属部材101及び第二金属部材102をワーク番号と関連付けて数値範囲外品と判定する。判定部64は、当該判定結果を主制御部41に送信するとともに記憶部44に格納する。当該判定結果は、表示部43に表示させるようにしてもよいし、判定結果に応じて音や光などを出力する報知手段で報知するようにしてもよい。
【0091】
<許容範囲M>
また、判定部64は、摩擦攪拌接合中に測定部34から送信された回転ツールFの位置Ynが、許容範囲(数値範囲)M内か否かを判定する。
図11は、摩擦攪拌接合を行った後の回転ツールFの位置Yn(移動軌跡)を示す模式図である。
図11では、説明の便宜上、Y方向の移動が理解しやすいようにX方向とY方向の縮尺を変更して描画している。
図11では、図中の下側から上側に向けて回転ツールFを移動させており、回転ツールFの位置Ynは許容範囲M内を移動している。
【0092】
許容範囲Mの範囲は適宜設定すればよいが、例えば、稜線位置Ypの全長方向に対して稜線位置Ypを中心としたY方向の第一金属部材101側に0.6mm(m=0.6)、第二金属部材102側に0.3mm(m=0.3)となる位置で囲まれた領域と設定することができる。
【0093】
判定部64は、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynを許容範囲(数値範囲)M外と判定した場合、その第一金属部材101及び第二金属部材102をワーク番号と関連付けて数値範囲外品と判定する。判定部64は、当該判定結果を主制御部41に送信するとともに記憶部44に格納する。当該判定結果は、表示部43に表示させるようにしてもよいし、判定結果に応じて音や光などを出力する報知手段で報知するようにしてもよい。
【0094】
<バリ高さS及び表面粗さRa>
また、判定部64は、摩擦攪拌接合後において、摩擦攪拌装置4の測定部(検査部)34を接合部(塑性化領域W)に沿って移動させることによって得られたバリ高さS及び表面粗さRaの両方が所定の数値範囲内か否かを判定する。バリ高さSは適宜設定すればよいが、例えば、0≦S≦0.1mmに設定することができる。また、表面粗さRaは適宜設定すればよいが、例えば、0≦Ra≦5.0μmに設定することができる。判定するバリ高さS及び表面粗さRaは、測定部34で取得された全数でもよいし、接合長全体に対する平均値でもよいし、最大値であってもよいし、もしくは所定間隔ごとの複数のバリ高さS及び表面粗さRaを抽出してそれぞれ判定してもよい。
【0095】
図12は、本実施形態に係る回転ツールの挿入状態を示す断面図である。
図12に示すように、摩擦攪拌接合中においては、回転ツールFを鉛直線に対して第二金属部材102側に所定の狙い角度θで傾けた状態で移動させる。回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域Wが形成されている。狙い角度θは、適宜設定すればよい。本実施形態では、例えば、上方から見た場合に先端側ピンF3の平坦面の中心F5が目標移動ルートR1と重なるように設定している。
【0096】
摩擦攪拌接合における挿入深さは、適宜設定すればよいが、本実施形態では基端側ピンF2の外周面を第一金属部材101の表面101b及び第二金属部材102の表面102bにそれぞれ接触させつつ、先端側ピンF3が架台21に接触しない程度に設定している。
【0097】
本実施形態では、回転ツールFを右回転させて、進行方向右側に第一金属部材101が位置するように回転ツールFの回転方向及び進行方向を設定している。回転ツールFの回転方向及び進行方向は適宜設定すればよいが、本実施形態では回転ツールFの移動軌跡に形成される塑性化領域Wのうち、第二金属部材102側がシアー側となり、第一金属部材101側がフロー側となるように設定している。
【0098】
なお、シアー側(Advancing side:アドバンシング側)とは、被接合部に対する回転ツールの外周の相対速度が、回転ツールの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側を意味する。一方、フロー側(Retreating side:リトリーティング側)とは、回転ツールの移動方向の反対方向に回転ツールが回動することで、被接合部に対する回転ツールの相対速度が低速になる側を言う。
【0099】
なお、本実施形態の自動接合システム1では、例えば、摩擦攪拌接合を行う際に、回転ツールFの傾斜角度を進行方向に対して所定の角度で前傾又は後傾させてもよい。
【0100】
[2.動作フロー]
次に、本実施形態に係る自動接合システム1の動作フローの一例について説明する。
図13は、本実施形態に係る自動接合システムの動作の一例を示すフローチャートである。
本実施形態に係る自動接合システム1では、制御装置5から各装置に送信される制御信号に基づいて自動で摩擦攪拌接合を行う。
【0101】
図13に示すように、ステップST1において、搬送制御部51は、搬送装置2を制御して第一金属部材101及び第二金属部材102を固定装置3の所定位置に搬送させる。第一金属部材101及び第二金属部材102はクランプ部24で固定されるとともに、吸引部22によって第二金属部材102の端部が吸引される。
【0102】
ステップST2において、摩擦攪拌制御部55は、摩擦攪拌装置4の測定部34を突合せ部J1に沿って移動させて固定状態(セット状態)を測定させる。つまり、測定部34で、段差寸法h、隙間量D及び第一金属部材101の稜線101eを測定する。また、測定部34で、回転ツールFの初期位置Yb0を測定する。測定部34は測定結果を摩擦攪拌制御部55に送信する。また、温度調整部23の温度センサ23aは、測定結果を温度制御部53に送信する。
【0103】
ステップST3において、温度制御部53の判定部65及び摩擦攪拌制御部55の判定部64は、第一金属部材101及び第二金属部材102のセット状態が所定の数値範囲内か否かをそれぞれ判定する。判定部64,65が、段差寸法h、隙間量D、温度T、回転ツールFの初期位置Yb0の全てを数値範囲内と判定した場合(ステップST3のYES)、ステップST5に移行する。段差寸法h、隙間量D、温度T、及び回転ツールFの初期位置Yb0の少なくとも一つが数値範囲外と判定された場合(ステップST3のNO)、判定部64又は判定部65はワーク番号と関連付けてその第一金属部材101及び第二金属部材102を数値範囲外品と判定し(ステップST4)、ステップST5に移行する。
【0104】
ステップST5において、摩擦攪拌制御部55(修正移動ルート生成部63)は、稜線位置Yp及び予め取得した差分YLに基づいて修正移動ルートR2を生成する。具体的には、稜線位置Ypを目標移動ルートR1として算出するとともに、目標移動ルートR1に対して厚板側へ略平行に差分YLだけ変位させた位置に修正移動ルートR2を設定する。
【0105】
ステップST6において、摩擦攪拌制御部55は、摩擦攪拌装置4を制御して所定の回転速度で回転する回転ツールFを第一金属部材101及び第二金属部材102に挿入して移動させることで摩擦攪拌接合を行わせる。具体的には、摩擦攪拌制御部55は、回転ツールFを修正移動ルートR2に沿って移動するように制御する。このとき、第一金属部材101及び第二金属部材102への回転ツールFの挿入に伴い、回転ツールFの位置は、修正移動ルートR2の開始位置付近となる挿入前の初期位置Yb0から第二金属部材102側に差分YLの変位が生じて、稜線位置Yp付近に移動する。このようにして、回転ツールFが目標移動ルートR1に沿って移動するようにして摩擦攪拌接合が行われる。
【0106】
ステップST7において、摩擦攪拌制御部55の判定部64は、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynが、許容範囲(数値範囲)M内か否かを判定する。判定部64が、回転ツールFの位置Ynを許容範囲M内であると判定した場合(ステップST7のYES)、ステップST9に移行する。摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynが一部でも許容範囲M外であると判定された場合(ステップST7のNO)、判定部64はワーク番号と関連付けてその第一金属部材101及び第二金属部材102を数値範囲外品と判定し(ステップST8)、ステップST9に移行する。
【0107】
ステップST9において、摩擦攪拌接合が終了した後、摩擦攪拌制御部55は、摩擦攪拌装置4の測定部34を突合せ部J1に沿って移動させてバリ高さS及び表面粗さRaを測定させる。
【0108】
ステップST10において、摩擦攪拌制御部55の判定部64は、摩擦攪拌接合後のバリ高さS及び表面粗さRaの両方が所定の数値範囲内か否かを判定する。バリ高さS及び表面粗さRaの両方が所定の数値範囲内であると判定された場合(ステップST10のYES)、ステップST12に移行する。バリ高さS及び表面粗さRaの少なくとも一方が所定の数値範囲外と判定された場合(ステップST10のNO)、判定部64はワーク番号と関連付けてその被接合金属部材103を数値範囲外品と判定し(ステップST11)、ステップST12に移行する。
【0109】
ステップST12において、主制御部41は、一の摩擦攪拌接合工程中に数値範囲外品との判定を一度も受けていないか判定する。主制御部41が、数値範囲外品との判定を一度も受けていないと判定した場合(ステップST12のYES)、ステップST13に移行する。主制御部41が、数値範囲外品の判定を一度でも受けたと判定した場合(ステップST12のNO)、ステップST14に移行する。
【0110】
ステップST13において、搬送制御部51は、搬送装置2を制御して被接合金属部材103を取り出し、被接合金属部材103を合格品配置エリア15(
図6参照)に配置して終了する。
【0111】
ステップST14において、搬送制御部51は、搬送装置2を制御して被接合金属部材103を取り出し、被接合金属部材103を数値範囲外品として数値範囲外品配置エリア16に配置して終了する。
【0112】
以上本実施形態の動作フローの一例を説明したが、適宜変更が可能である。例えば、ステップST3においてセット状態に不具合がある場合、つまり、段差寸法h、隙間量Dが所定の数値範囲外である場合、クランプ部24を解除して、例えば、アームロボット11で第一金属部材101及び第二金属部材102の位置の修正を行ってもよいし、第一金属部材101及び第二金属部材102を固定装置3から取り出して、新たな第一金属部材101及び第二金属部材102を配置してもよい。また、ステップST3において、回転ツールFの初期位置Yb0が所定の数値範囲外である場合、回転ツールFの位置の調整を行ってもよい。
【0113】
また、ステップST3において、段差寸法h、隙間量D、温度T、及び回転ツールFの初期位置Yb0を判定しているが、これらの少なくとも一つを判定対象としてもよい。また、ステップST3において、温度Tが所定の数値範囲外であると判定された場合、温度調整部23によって加熱又は冷却して温度Tが所定の数値範囲内になってからステップST5に移行するようにしてもよい。なお、温度調整部23による温度Tの判定、及び加熱又は冷却は、摩擦攪拌接合工程中に行うようにしてもよい。
【0114】
また、ステップST3及びステップST7においてNOと判定された場合、自動接合システム1を停止させたり、当該判定結果を表示部43に表示させたり、さらには、判定結果に応じて音や光などを出力する報知手段で報知するようにしてもよい。
【0115】
[3.作用効果]
第一金属部材101の稜線101e(
図7参照)は、本来直線であることが好ましいが、公差等もあり厳密には直線にはなっていない。また、搬送装置2で第一金属部材101及び第二金属部材102を架台21に搬送し固定する際に、固定位置(セット位置)がずれることもある。したがって、架台21に設定された基準位置Y0(
図6参照)をなぞるように回転ツールFを直線移動させたとしても、実際にセットされた突合せ部J1から回転ツールFがずれてしまい、接合品質が低下するおそれがある。特に、本実施形態のように第一金属部材101と第二金属部材102との表面101b,102bの高さ位置が異なる場合、接合位置がわずかにずれるだけでも不具合が発生する傾向がある。
【0116】
しかし、本発明者らの検討により、突合せ部J1の摩擦撹拌接合を行う際に回転ツールFが実際に移動する位置の軌跡は、回転ツールFの移動が制御される位置の軌跡に対して、第二金属部材102側(薄板側)に向けて略平行に変位していることが見いだされた。本実施形態に係る自動接合システム1によれば、摩擦攪拌接合を行う前に測定した第一金属部材101の稜線位置Ypに基づいて回転ツールFの目標移動ルートR1を設定するとともに、目標移動ルートR1に対して第一金属部材101側(厚板側)に略平行に変位させた位置に修正移動ルートR2を設定する。そして、回転ツールFを修正移動ルートR2に沿って移動するように制御することで、回転ツールFを目標移動ルートR1に沿って摩擦攪拌接合を行うことができるようになった。このように、セットされた第一金属部材101ごとの稜線位置Ypに基づいて、突合せ部J1の摩擦撹拌接合を行う際に生じる変位を補償した位置に回転ツールFを移動するように制御することで、回転ツールFの変位を抑えた的確な移動ルートを容易に設定することができる。これにより接合品質を高めることができる。
【0117】
また、アームロボット31は、機械のたわみ、癖等があるとともに、回転ツールFが第一金属部材101及び第二金属部材102から受ける抵抗もあるため、制御装置5が設定した修正移動ルートR2に対して、回転ツールFが実際に移動するルートが目標移動ルートR1とずれる場合がある。この点、本実施形態では、稜線位置Ypに基づいた目標移動ルートR1と、予め算出された差分YLに基づいて修正移動ルートR2を設定することにより、回転ツールFが実際に移動するルートをより的確に設定することができる。このとき、本実施形態の目標移動ルートR1又は修正移動ルートR2によれば、その第一金属部材101及び第二金属部材102に応じた適切な位置で回転ツールFを移動させることができる。これにより接合品質をいっそう高めることができる。
【0118】
また、回転ツールFを薄板側の第二金属部材102側に狙い角度θで傾けつつ、基端側ピンF2のピン段差部F21の段差底面F21aで塑性流動材を押さえながら摩擦攪拌接合を行うことで、バリの発生やアンダーカットの発生を防ぐとともに、接合表面をきれいにすることができる。
【0119】
より詳しくは、基端側ピンF2の外周面を第一金属部材101及び第二金属部材102の表面101b,102bに接触させて塑性流動材を押さえることにより、バリの発生を抑制することができる。また、基端側ピンF2の外周面で塑性流動材を押えることができるため、接合表面(表面101b,102b)に形成される段差凹溝を無くすか若しくは小さくすることができるとともに、段差凹溝の脇に形成される膨出部を無くすか若しくは小さくすることができる。また、基端側ピンF2の階段状のピン段差部F21は浅く、かつ、出口が広いため、塑性流動材を段差底面F21aで押えつつ塑性流動材がピン段差部F21の外部に抜けやすくなっている。そのため、基端側ピンF2で塑性流動材を押えても基端側ピンF2の外周面に塑性流動材が付着し難い。よって、表面粗さRaを小さくすることができるとともに、接合品質を好適に安定させることができる。
【0120】
また、段差寸法hが所定の数値範囲外であると、バリ高さSが減少して、アンダーカットが発生するおそれがある。また、隙間量Dが所定の数値範囲外であると、バリ高さSが減少して、アンダーカットが発生するおそれがある。この点、本実施形態によれば、測定部34で摩擦攪拌接合前に得られた段差寸法h、隙間量Dのいずれかが所定の数値範囲外である場合、例えば、第一金属部材101及び第二金属部材102を固定装置3に再セットすることで、適切にセットした状態で摩擦攪拌接合を好適に行うことができる。また、所定の数値範囲外である場合、例えば、第一金属部材101及び第二金属部材102(被接合金属部材103)を数値範囲外品と判定することで品質管理を容易に行うことができる。
【0121】
ここで、回転ツールの移動ルートを設定して移動を制御したとしても、実際に摩擦撹拌接合を行った場合には、回転ツールの走行軌跡が変化して、稜線位置に沿って回転ツールが移動しない場合がある。例えば、摩擦攪拌装置4、中でもアームロボット31によっては、目標移動ルートR1に向けた回転ツールFの変位量が変化することがある。また、アームロボット31によっては、稜線位置Ypに対する回転ツールFの移動方向の傾きに変化が生じたり、回転ツールFの走行軌跡が部分的に変化したりすることがある。この他、回転ツールFの損耗や架台21の損傷によっても、回転ツールFの走行軌跡が変化することがある。また、第一金属部材101及び第二金属部材102、並びにこれらの突合せ条件が変わった場合にも、回転ツールFの走行軌跡が変化することがある。
【0122】
本実施形態に係る自動接合システム1によれば、摩擦攪拌接合中において、判定部64は、実際に移動している回転ツールFの位置Ynが許容範囲(所定の数値範囲)M内か否かを判定するため、接合品質をより向上させることができる。
【0123】
また、修正移動ルート生成部63は、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置が許容範囲M外と判定された場合には、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置に応じて回転ツールFの位置を再設定した修正移動ルートR2を算出する。これにより、実際に移動している回転ツールFの位置Ynに基づいて、摩擦攪拌接合中の情報をフィードバックすることで、回転ツールFの走行軌跡をより的確に修正して、接合品質をさらに向上させることができる。
【0124】
さらに、摩擦攪拌接合後においては、検査部(本実施形態では測定部34と兼用)で摩擦攪拌接合後の接合部のバリ高さS及び表面粗さRaを測定することにより、接合品質をより高めることができる。
【0125】
つまり、本実施形態の自動接合システム1によれば、摩擦攪拌接合を行う全数をモニタリングすることができ、全数に対して品質検査を行うことができるため、品質管理を容易に行うことができる。また、摩擦攪拌接合前のセット状態(段差寸法h、隙間量D、温度T、回転ツールFの初期位置Yb0)を、品質管理の判断要素に入れることで、接合品質(品質の信頼度)をより向上させることができる。
【0126】
また、工程の途中で数値範囲外品と判定されても最後まで摩擦攪拌接合を行うことで、システムを停止させたり、第一金属部材101及び第二金属部材102を再セットさせたりする場合に比べて作業効率を高めることができる。また、工程の途中で数値範囲外品と判定されても、最後まで摩擦攪拌接合を行うことにより、数値範囲外品のデータを蓄積して、より好適な接合条件や数値範囲の設定に資することができる。
【0127】
また、本実施形態の自動接合システム1では、摩擦攪拌接合前、摩擦攪拌接合中及び摩擦攪拌接合後の要因を品質管理の判断要素に繰り入れることで、品質管理をバランスよく行うことができる。
【0128】
また、本実施形態では、摩擦攪拌装置4の荷重付与部33及び荷重測定部35により、反力荷重をフィードバックさせて回転ツールFが受ける反力荷重が概ね一定となるように荷重制御されているため、接合精度を高めることができる。つまり、本実施形態では、Y方向に関しては許容範囲Mを設けるとともに、Z方向については荷重制御がされているため接合精度をより高めることができる。
【0129】
また、架台21の表面側に載置部25が設けられるとともに、載置部25の表面側に陽極酸化被膜が施されているため、架台21の耐摩耗性、耐食性等を高めることができる。
【0130】
ここで、第二金属部材102は、板厚寸法が小さいためその端部が浮き上がりやすくなっている。また、後記する実施例でも示すように、第二金属部材102の端部が浮き上がり段差寸法hが過少となると接合不良になりやすい傾向もみられる。この点、本実施形態によれば、第二金属部材102の端部を裏面102c側から吸引する吸引部22を備えているため、第二金属部材102の端部の浮き上がりを抑制することができる。これにより、接合の精度をより向上させることができる。
【0131】
また、隙間量Dについては、後記する実施例に示すように、バリ高さSは終了位置側よりも開始位置側の隙間量に大きく影響する傾向がみられる。したがって、隙間量Dの判定対象については、例えば、開始位置から所定距離(例えば、5~15cm)における隙間量Dを抽出して、所定の数値範囲と対比・判定させてもよい。
【0132】
また、下記の実施例で示すように、温度Tが、例えば、30℃未満であると空洞欠陥が大きくなり、60~120℃であると空洞欠陥が小さいか、発生しない傾向がみられる。本実施形態のように、温度Tの所定の数値範囲を設定し、品質管理の判断要素に入れることで接合品質をより向上させることができる。
【実施例】
【0133】
<試験1:段差寸法hとバリ高さSとの関係>
次に、本発明の実施例について説明する。まず、段差寸法hとバリ高さSとの関係を確認するための試験1を行った。試験1では、
図14Aに示すように、第一金属部材101及び第二金属部材102を用意した。段差寸法hとは、第一金属部材101の表面101bから第二金属部材102の表面102bまでの寸法を言う。バリ高さSは、第二金属部材102の表面102bからバリの先端までの距離を測定部34で測定した。
【0134】
第一金属部材101及び第二金属部材102はいずれもアルミニウム合金である。第一金属部材101の板厚寸法は2.0mmであり、第二金属部材102の板厚寸法は1.2mmである。したがって、
図14Aに示すように、第一金属部材101及び第二金属部材102の裏面101c,102cの全面が架台21に面接触すると段差寸法hは0.8mmとなる。
【0135】
図14Bは、実施例の試験1において、第一金属部材及び第二金属部材の段差寸法が大きい状態を示す模式側面図である。
図14Bに示すように、両部材を突き合わせた際に、第一金属部材101の端部が上方に反り上がってしまうと、段差寸法hが大きくなる(過大となる)場合がある。第一金属部材101と架台21との間にゴミなどの異物が入り込んで反り上がることもある。
【0136】
一方、
図14Cは、実施例の試験1において、第一金属部材及び第二金属部材の段差寸法が小さい状態を示す模式側面図である。
図14Cに示すように、両部材を突き合わせた際に、第二金属部材102の端部が上方に反り上がってしまうと、段差寸法hが小さくなる(過少となる)場合がある。第二金属部材102と架台21との間にゴミなどの異物が入り込んで反り上がることもある。
【0137】
また、
図14Dは、実施例の試験1において、第一金属部材及び第二金属部材の段差寸法が小さい他の状態を示す模式側面図である。
図14Dに示すように、両部材を突き合わせた際に、第二金属部材102の端部が湾曲してしまうと、段差寸法hが小さくなる(過少となる)場合がある。特に、第二金属部材102は板厚が小さいため、端部が反ったり湾曲したりしやすい。
【0138】
試験1では、第一金属部材101及び第二金属部材102で一組の試験体を複数用意し、それぞれの試験体について突合せ部J1の全長にわたって測定部34を移動させて段差寸法hを測定した後、それぞれ同じ条件で摩擦攪拌接合を行った。接合後にも各試験体について突合せ部J1の全長にわたって測定部34を移動させてバリ高さSを計測した。
【0139】
図15は、実施例の試験1の段差寸法とバリ高さとの関係を示すグラフである。
図15では、複数の試験体から2体抽出し、さらにそれぞれの試験体から2地点を抽出して段差寸法hとバリ高さSを確認した。
図15の結果G1は、一方の試験体において段差寸法hが小さい位置を抽出しており、段差寸法h=0.73mmであり、バリ高さS=-0.185mmである。バリ高さSがマイナスの場合、アンダーカットになっていることを意味している。
【0140】
図15の結果G2は、一方の試験体において段差寸法hが概ね中央値となる位置を抽出しており、段差寸法h=0.75mmであり、バリ高さS=0.067mmである。
【0141】
図15の結果V1は、他方の試験体において段差寸法hが概ね中央値となる位置を抽出しており、段差寸法0.78mmであり、バリ高さS=0.065mmである。結果V2は、他方の試験体において段差寸法が大きい位置を抽出しており、段差寸法h=0.093mmであり、バリ高さS=0mmである。
【0142】
図15の結果から、段差寸法hは、バリ高さSに影響していることがわかる。結果G1であるとアンダーカットが発生しているため、段差寸法hは過小となっている。また、結果V2に示すように、段差寸法h=0.93mmを超えると、アンダーカットが発生する傾向がみられる。したがって、段差寸法hの所定の数値範囲は、例えば、0.75≦h≦0.93と設定することが好ましい。
【0143】
また、試験1によると、段差寸法hが中央値(0.8mm)付近から次第に大きくなると回転ツールFの位置Ynが、板厚が小さい第二金属部材102側に変位してバリ高さSが小さくなる傾向がみられた。一方、段差寸法hが過少になると(0.73mm程度になると)回転ツールFの位置Ynへの影響は小さいものの、第二金属部材102の端部の浮き上がり分だけ回転ツールFが第二金属部材102の端部を削り取り、アンダーカットが発生したと推察される。
【0144】
また、段差寸法hの過少側のグラフの傾きは、過大側のグラフの傾きよりも大きい。つまり、バリ高さSの低下量は、第二金属部材102の浮き上がりに大きく影響すると考えられる。
【0145】
<試験2:隙間量Dとバリ高さSの関係>
次に、隙間量Dとバリ高さSとの関係を確認するための試験2を行った。試験2では、第一金属部材101及び第二金属部材102で一組の試験体を各6体(試験体TP11,TP12,TP13,TP14,TP15,TP16)用意して、摩擦攪拌接合を行った。摩擦攪拌接合を行う前に、測定部34を突合せ部J1に沿って移動させて隙間量Dをそれぞれ計測した。隙間量Dは、摩擦攪拌接合前における各部材同士の隙間寸法である。第一金属部材101及び第二金属部材102はいずれもアルミニウム合金である。第一金属部材101と第二金属部材102との段差寸法hは0.8mmである。接合長は1800mmである。
【0146】
図16は、実施例の試験2の走行距離と接合前の隙間量との関係を示すグラフである。
図16に示すように、試験体TP11,TP12,TP13は、開始位置(走行距離0mm)から1000mmまでの隙間量を計測した結果である。試験体TP14,TP15,TP16は、終了位置(走行距離1800mmの位置)から1000mmまでの隙間量を計測した結果である。
図16に示すように、摩擦攪拌接合前の隙間量Dは、開始位置側では開始位置から離れるにつれて隙間量Dが徐々に小さくなっている。一方、摩擦攪拌接合前の隙間量Dは、走行距離の真ん中付近から終了位置に近づくにつれて隙間量Dが徐々に大きくなっている。第一金属部材101及び第二金属部材102の端面101a及び102aは、通常は略直線状に形成されている。このため、第一金属部材101及び第二金属部材102を突き合わせた際に、開始位置及び終了位置のいずれか一方が近接して、他方には隙間が生じるように、第一金属部材101及び第二金属部材102が平行よりもやや開いた状態で配置されることで、開始位置又は終了位置に近づくにつれて隙間量Dが大きくなったと考えられる。
【0147】
図17は、実施例の試験2の開始位置側の隙間量と、開始位置側のバリ高さとの関係を示すグラフである。
図18は、実施例の試験2の終了位置側の隙間量と、終了位置側のバリ高さとの関係を示すグラフである。
【0148】
図17では、
図16の試験体TP11から結果Ds1を抽出し、
図16の試験体TP12から結果Ds2を抽出し、
図16の試験体TP13から結果Ds3を抽出した。
結果Ds1では、隙間量D=0.6mm、バリ高さS=-0.01mmであった。
結果Ds2では、隙間量D=0.4mm、バリ高さS=0mmであった。
結果Ds3では、隙間量D=0mm、バリ高さS=0.029mmであった。
【0149】
図18では、
図16の試験体TP14から結果De1を抽出し、試験体TP15から結果De2を抽出し、試験体TP16から結果De3を抽出した。
結果De1では、隙間量D=0.95mm、バリ高さS=0.06mmであった。
結果De2では、隙間量D=0.70mm、バリ高さS=0.05mmであった。
結果De3では、隙間量D=0.30mm、バリ高さS=0.06mmであった。
【0150】
図17及び
図18に示すように、開始位置側の隙間量Dが大きくなると、開始位置側のバリ高さSは小さくなった。ただし、結果Ds1では、アンダーカットになっている。隙間量Dが大きくなると、同じ設定荷重(押込荷重)であっても回転ツールが深く挿入され、回転ツールFが板厚の小さい第二金属部材102側に変位したと考えられる。
【0151】
図18に示すように、終了位置側では、終了位置側の隙間量Dによらず、終了位置側のバリ高さSは概ね一定だった。これは、突合せ部J1が接合されて摩擦攪拌接合が終了位置側に進むにつれて、隙間が徐々に小さくなることに起因すると推察される。また、摩擦熱によって第一金属部材101と第二金属部材102が膨張して隙間が小さくなることに起因すると推察される。
図17及び
図18の結果に鑑みると、終了位置側よりも開始位置側の隙間量Dの方がバリ高さSに大きく影響することが分かった。つまり、隙間量Dと所定の数値範囲を対比する際に、突合せ部J1の全長の隙間量を対象としてもよいが、例えば、開始位置から所定の距離(例えば、50~100mm)の隙間量を抽出して対比することが好ましい。
【0152】
<試験3:摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置とバリ高さ及び酸化被膜との関係>
次に、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置とバリ高さ及び酸化被膜との関係を確認するための試験3を行った。
図19に示すように、試験3では、第一金属部材101と第二金属部材102とを突き合わせて突合せ部J1を形成した後、回転ツールFを突合せ部J1沿って移動させるのではなく、あえて突合せ部J1から徐々に離間するように斜めに移動させ、回転ツールFの位置Ynと、バリ高さS及び酸化被膜Kとの関係について確認した。
図19及び
図20では、説明の便宜上、Y方向の移動が理解しやすいようにX方向とY方向の縮尺を変更して描画している。
図19では、図面の下側から上側に向けて回転ツールFを移動させている。
【0153】
図19では、回転ツールFを無負荷状態で移動させる際に制御する設定移動ルートRtと、回転ツールFを金属部材に挿入して摩擦攪拌を行った際に実際に通過した移動ルートRnとの関係を示している。
図19に示すように、本実施例では、回転ツールFの移動ルートRnは、地点αから地点βを通るように設定した。地点αは突合せ部J1上で、かつ、接合距離が100mmの位置である。地点βは接合距離が1800mmの位置で、かつ、突合せ部J1から第一金属部材101側へ1.0mmの位置である。
【0154】
図20は、本実施例において接合距離とY方向位置との関係を示したグラフである。
図20の設定移動ルートRtは、テスト試行用に設定した移動ルートである。位置Ytは、回転ツールFを挿入せずに、設定移動ルートRtに沿って移動させたときに、摩擦攪拌装置4の回転駆動手段の回転中心軸が実際に通った軌跡を示している。当該軌跡は、測定部34(ラインセンサ)で測定することができる。
図20中のマイナス側は、突合せ部J1を挟んで第一金属部材101側であり、プラス側は第二金属部材102側である。位置Ytに示すように、回転ツールFを装着せずに、無負荷状態で移動させると設定移動ルートRtと、回転中心軸が実際に通った軌跡は概ね重なる。
【0155】
一方、
図20に示すように、回転ツールFを装着し、設定移動ルートRtに沿って実際に摩擦攪拌接合を行うと、回転ツールFは回転ツールFの位置Ynで表される軌跡を通る。つまり、機械(アームロボット31)のたわみ、癖等があるとともに、回転ツールFが第一金属部材101及び第二金属部材102から受ける抵抗もあるため、開始位置で設定移動ルートRt上に回転ツールFを挿入しても、本実施例では回転ツールFは直ちにY=0の付近に変位し、その後は設定移動ルートRtからずれた位置を、設定移動ルートRtと概ね平行に移動する。
図20の(Yn-Yt)値で示すように、この実施例では、設定移動ルートRtと位置Ynで表される軌跡との間に約1.5mmずれ(差分)が発生している。したがって、摩擦攪拌接合では、この軌跡の差分を考慮して移動ルート(修正移動ルート)を設定することが好ましい。
【0156】
図21Aは、実施例の試験3の接合距離が100mmの位置の断面図である。
図21Bは、実施例の試験3の接合距離が600mmの位置の断面図である。
図21Cは、実施例の試験3の接合距離が800mmの位置の断面図である。
図22Aは、実施例の試験3の接合距離が1000mmの位置の断面図である。
図22Bは、実施例の試験3の接合距離が1200mmの位置の断面図である。
図22Cは、実施例の試験3の接合距離が1800mmの位置の断面図である。
【0157】
図21A~C、
図22A~Cは、突合せ部J1から摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynが、接合距離が進むにつれて突合せ部J1から離間している状態を示している。図中の点線は、回転ツールFの塑性化領域Wの範囲を示している。バリ高さSは、第二金属部材102の表面102bからの高さ寸法を計測している。
【0158】
図21Aに示すように、接合距離100mmの位置の突合せ部J1と回転ツールFの位置Ynは一致している。バリ高さS(S10)は0.034mmである。
図21Bに示すように、接合距離600mmの位置の突合せ部J1から回転ツールFの位置Ynまでの距離Ljは554μmである。バリ高さS(S11)は0.095mmである。
【0159】
図21Cに示すように、接合距離800mmの位置の距離Ljは686μmである。バリ高さS(S12)は0.105mmである。
【0160】
図22Aに示すように、接合距離1000mmの位置の距離Ljは743μmである。バリ高さS(S13)は0.092mmである。
図22Bに示すように、接合距離1200mmの位置の距離Ljは840μmである。バリ高さS(S14)は0.113mmである。
【0161】
図22Cに示すように、接合距離1800mmの距離Ljは1085μmである。バリ高さS(S15)は0.123mmである。
【0162】
図21A~21C、
図22A~22Cに示すように、回転ツールFの位置Ynが突合せ部J1から離間するにつれて、バリ高さS(第二金属部材102側のバリ高さ)が徐々に大きくなっていることがわかる。換言すると、回転ツールFの位置Ynが第二金属部材102側に寄るとバリ高さSが小さくなることがわかる。
【0163】
図23Aは、実施例の試験3の接合距離が100mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
図23Bは、実施例の試験3の接合距離が600mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
図23Cは、実施例の試験3の接合距離が800mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
図24Aは、実施例の試験3の接合距離が1000mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
図24Bは、実施例の試験3の接合距離が1200mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。
図25は、実施例の試験3の接合距離が1800mmの位置における突合せ部のマクロ断面図である。つまり、
図23A~23C、
図24A,24B、
図25は、各位置における突合せ部J1周りのマクロ断面図であって、酸化被膜Kの大きさ、形状を示している。
【0164】
図23Aに示すように、接合距離が100mmの位置(回転ツールFの位置Yn=0)における酸化被膜は存在しない(K0)。
図23Bに示すように、接合距離が600mmの位置(回転ツールFの位置Yn=554μm)における酸化被膜K(K1)は33μmである。
【0165】
図23Cに示すように、接合距離が800mmの位置(回転ツールFの位置Yn=686μm)における酸化被膜K(K2)は59μmである。
図24Aに示すように、接合距離が1000mmの位置(回転ツールFの位置Yn=743μm)における酸化被膜K(K3)は72μmである。
【0166】
図24Bに示すように、接合距離が1200mmの位置(回転ツールFの位置Yn=840μm)における酸化被膜K(K4)は115μmである。
図25に示すように、接合距離が1800mmの位置(回転ツールFの位置Yn=1085μm)における酸化被膜K(K5)は235μmである。
【0167】
図26は、実施例の試験3において、回転ツールの位置とバリ高さ及び酸化被膜高さとの関係を示すグラフである。
図26に示すように、バリ高さSは、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynが突合せ部J1から離間するにつれて徐々に大きくなっている。また、酸化被膜Kも、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynが突合せ部J1から離間するにつれて徐々に大きくなっている。換言すると、摩擦攪拌接合中の回転ツールFの位置Ynが、突合せ部J1に近接すると、バリ高さS及び酸化被膜Kのいずれも小さくなる。
【0168】
図26の結果によると、例えば、バリ高さS及び酸化被膜Kの高さの閾値を0.10mmと設定した場合、回転ツールFの位置Ynは、突合せ部J1から第二金属部材102側に向けて0.6mm(600μm)以内に設定することが好ましい。
【0169】
したがって、
図27に示すように、測定部34を突合せ部J1に沿って移動させて第一金属部材101の稜線を測定して稜線Ypを測定した場合、稜線Ypを中心にして第一金属部材101側に0.6mm(m=0.6mm)、第二金属部材102側に0.3mm(m=0.3)の範囲を許容範囲Mと設定することが好ましい。なお、当該許容範囲Mの範囲は、あくまで例示であって、要求される接合精度等に基づいて適宜設定すればよい。
【0170】
<試験4:温度と空洞欠陥サイズの関係>
次に、温度と空洞欠陥サイズとの関係を確認するための試験4を行った。試験4では、第一金属部材101及び第二金属部材102を4体(試験体TP41,TP42,TP43,TP44)用意して接合前に温度を設定し、それぞれの試験体で摩擦攪拌接合を行った。
【0171】
試験体TP41では、ヒーターなし(室温20℃)で摩擦攪拌接合を行い、接合速度を500mm/minから1250mm/minまで上昇させた。試験体TP42では、温度調整部23で30℃に設定して摩擦攪拌接合を行い、接合速度を600mm/minから1000mm/minまで上昇させた。
【0172】
また、試験体TP43では、温度調整部23で60℃に設定して接合速度を600mm/minから1000mm/minまで上昇させた。また、試験体TP44では、温度調整部23で90℃に設定した接合速度を600mm/minから1000min/minまで上昇させた。
【0173】
図28に示すように、試験体TP41では、温度調整部23の温度が20℃であり、空洞欠陥のサイズが著しく大きかった。接合速度を上昇させると、上昇させるにつれて空洞欠陥サイズは大きくなった。試験体TP42では、温度調整部23の温度が30℃であり、空洞欠陥サイズの大きさは約50μm
2であった。温度調整部23の温度を60~90℃に設定すると、空洞欠陥はほぼ見られなかった。この場合、接合速度を上昇させても空洞欠陥は見られなかった。
【0174】
以上より、温度調整部23の温度Tの所定の数値範囲は60≦T≦90と設定することが好ましい。この場合、接合速度を上昇させても空洞欠陥が発生しづらいため、空洞欠陥の発生を抑制しつつ、接合時間を短くすることができる。
【符号の説明】
【0175】
1 自動接合システム
2 搬送装置
3 固定装置
4 摩擦攪拌装置
5 制御装置
22 吸引部
F 回転ツール
F2 基端側ピン
F3 先端側ピン
R1 目標移動ルート
R2 修正移動ルート
θ 狙い角度
h 段差寸法
D 隙間量
T 温度