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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】平版印刷インキおよびその印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/105 20140101AFI20230613BHJP
   C09D 11/103 20140101ALI20230613BHJP
【FI】
C09D11/105
C09D11/103
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019149596
(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公開番号】P2021031515
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 智也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和哉
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119123(JP,A)
【文献】特開2017-137421(JP,A)
【文献】特開2010-168418(JP,A)
【文献】特開2007-238795(JP,A)
【文献】特開2006-111849(JP,A)
【文献】特開2015-134895(JP,A)
【文献】特開昭53-042903(JP,A)
【文献】米国特許第04148767(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキッド樹脂と、ロジン変性フェノール樹脂と、顔料とを含有する平版印刷インキであって、
前記アルキッド樹脂が、多価アルコール(A)と、環状構造を有する有機酸(B)と、油脂(C)との反応物であり、
前記環状構造を有する有機酸(B)が、環状構造を有する多塩基酸(B1)、および、ロジン酸(B2)を含有し、
前記ロジン酸(B2)の配合量が、全反応化合物中0.1~45質量%であり、
前記アルキッド樹脂の重量平均分子量が、10,000~130,000であり、
前記アルキッド樹脂中の重量平均分子量1,000以下の成分の含有量が、前記アルキッド樹脂全量に対して10質量%以下であることを特徴とする平版印刷インキ。
【請求項2】
前記アルキッド樹脂の酸価が、5~20mgKOH/gであることを特徴とする請求項記載の平版印刷インキ。
【請求項3】
前記油脂(C)が、含水率0.3質量%以下、かつ、ヨウ素価90~150であることを特徴とする請求項1または2記載の平版印刷インキ。
【請求項4】
前記アルキッド樹脂の含有量が、平版印刷インキ全量に対して0.1~20質量%であることを特徴とする請求項1~いずれか記載の平版印刷インキ。
【請求項5】
請求項1~いずれか記載の平版印刷インキを基材に印刷してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書籍、チラシ、カタログ、新聞等の印刷物に使用される平版印刷インキ(以下、「インキ」と略す。)に関することであり、特定のアルキッド樹脂をインキに含有させることにより、インキの流動性を向上させ、基材上へのインキ着肉が良好な印刷物が得られることを特徴とする印刷インキおよびその印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インキ用樹脂としてロジン類を含む樹脂酸を使用したロジン変性フェノール樹脂が使用されているが、ロジン変性フェノール樹脂はホルムアルデヒドを反応工程で使用しており、作業環境等の観点からホルムアルデヒドを使用しないロジン変性アルキッド樹脂等が検討されつつある。また近年環境の観点から、印刷インキ用溶剤は芳香族成分を1% 以下にしたパラフィン、オレフィン、ナフテン系のアロマーフリーソルベント(以下、「AFソルベント」とも称する。) が使用されている。これらのAFソルベントはロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂等の印刷インキ用樹脂の溶解性が悪い場合が多い。そこで、これらのソルベントに溶解しやすい樹脂の開発が盛んに行われているが、これと並行して、樹脂とソルベントの溶解性不足を補う素材として、油変性アルキッド樹脂の使用が検討されている。
【0003】
平版印刷インキは5~100Pa・sの比較的粘度の高いインキである。平版印刷機の機構は、インキが印刷機のインキ壺から複数のローラーを経由して版面の画線部に供給され、湿し水を使用する平版印刷では非画線部に湿し水が供給され、湿し水を使用しない水無し平版印刷では非画線部がシリコン層でできておりインキを反発し、紙上に画像が形成される。
【0004】
近年では、印刷時の省人、省力化、自動化、高速化の要求が高まってきており、特に印刷スピードは益々高速化してきている。そして、様々な印刷条件下に於いてトラブルレスで長時間安定して高品位な印刷物が得られるインキが望まれている。高品位印刷物の条件として特に基材への着肉が良好なインキの要望が強い。
【0005】
基材への着肉が劣化する要因として、印刷時にインキの転移性が悪く、基材に印刷されたインキ膜厚が低下することが挙げられる。また、基材が用紙の場合、インキ転移性が悪いとブランケット、インキローラー、版面に紙繊維が付着し、着肉不良などの紙面品質の低下を引き起こすだけでなく、ローラー洗浄や版交換など生産性の著しい低下も引き起こす。
【0006】
従来、平版印刷において着肉を向上させる方法として、インキのタック値を低減させ、紙繊維の脱落を防ぐ方法がとられてきた。タック値低減の方法として様々な改良がされており、炭酸カルシウム、有機ベントナイト、二酸化珪素等の体質顔料を通常量より多く練りこみ、タック値を下げる検討がされているが、低タック化には効果があるものの、インキの流動性の低下、転移性の劣化による濃度ムラを招くおそれがある。また、体質顔料は一般に硬くて微分散が難しく、インキ中に粗大粒子が残る場合があり、粗大粒子が、印刷機の版、ブランケット厚胴、ガイドロール等に悪影響を与え、版磨耗の促進、堆積することによる画線かすれ、こすれ汚れ等の印刷不良の原因となる。
【0007】
また、インキのタック値を下げ、着肉を向上させる方法として、特許文献1に示されるようにポリブデン、ポリブタジエンを含有させると、インキ粘度と流動性の調整が困難になり、インキ転移性を低下させる原因となる。
【0008】
オフセット印刷インキ用ワニス中に含有させる樹脂としては、優れた印刷適性から一般的にロジン変性フェノール樹脂を使用しているが、ワニス化する際に用いられるゲル化剤量を、通常より多く配合することで、ワニスに含まれる樹脂比率を下げ、タック低減を狙った検討が行われてきたが、インキが過度に乳化しやすくなり、水棒絡み、転移性低下、ローラー剥げ等の印刷トラブルが発生する原因となる場合がある。
【0009】
また、ワニスに使用されている樹脂自体を高分子化することにより、ワニス中の樹脂比率を下げ、タック値低減を狙った検討も行われてきた。しかし、特許文献2、3に示されるように、高分子量樹脂の使用では、溶解性・流動性が低下し、転移不良による濃度変動、光沢の低下など、印刷物の品質低下を引き起こす。
【0010】
特許文献4には、印刷インキに特定のアルキッド樹脂を含有することで、カーボンブラックを高濃度に含有する場合でも、インキの流動性が高く、着肉性が良好な印刷インキが得られることが記載されている。しかし、アルキッド樹脂の分子量に関する規定がなく、低分子量体が多く存在する場合にはインキが過乳化状態になり易く、着肉性が劣化したり、インキミストが増加したりする。
【0011】
また、特許文献5にはカーボンブラックの分散剤として優れた特性を有するギルソナイト樹脂に替えて、特定の中性カーボンブラックとアルキッド樹脂を組み合わせることにより、浸透乾燥方式の平版墨インキにおいてドライダウンが抑制できることが記載されている。しかし、アルキッド樹脂の分子量によっては、着肉性の劣化や、インキミストの増加など、印刷適正が悪化する場合があり、市場で望まれるインキの提供には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-255181号公報
【文献】特開2002-322411号公報
【文献】特開2008-156429号公報
【文献】特開2015-134895号公報
【文献】特開2017-193605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は高速印刷時において、インキ流動性に優れながらも、インキミストの発生も抑えられ、着肉良好な印刷物を得ることが可能な平版印刷インキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題解決に向けた研究の結果、多価アルコール(A)と、環状構造を有する有機酸(B)と、油脂(C)との反応物であり、特定の分子量の範囲や分布を有することを特徴とするアルキッド樹脂を含有した平版印刷インキは、インキ流動性に優れ、印刷物の着肉が良好でかつ、インキミストの発生が低減されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、アルキッド樹脂と、ロジン変性フェノール樹脂と、顔料とを含有する平版印刷インキであって、
前記アルキッド樹脂が、多価アルコール(A)と、環状構造を有する有機酸(B)と、油脂(C)との反応物であり、
前記環状構造を有する有機酸(B)が、環状構造を有する多塩基酸(B1)、および、ロジン酸(B2)を含有し、
前記ロジン酸(B2)の配合量が、全反応化合物中0.1~45質量%であり、
前記アルキッド樹脂の重量平均分子量が、10,000~130,000であり、
前記アルキッド樹脂中の重量平均分子量1,000以下の成分の含有量が、前記アルキッド樹脂全量に対して10質量%以下であることを特徴とする平版印刷インキに関する。
【0017】
さらに本発明は、前記アルキッド樹脂の酸価が5~20mgKOH/gであることを特徴とする上記平版印刷インキに関する。
【0018】
さらに本発明は、前記油脂(C)が、含水率0.3質量%以下、かつヨウ素価90~150であることを特徴とする上記平版印刷インキに関する。
【0019】
さらに本発明は、前記アルキッド樹脂の含有量が、平版印刷インキ全量に対して0.1~20質量%であることを特徴とする上記平版印刷インキに関する。
【0020】
さらに本発明は、上記平版印刷インキを基材に印刷してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、高速印刷時において、インキ流動性に優れながらも、インキミストの発生も抑えられ、着肉良好な印刷物を得ることが可能な平版印刷インキが提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の多価アルコール(A)としては、少なくとも3価以上のアルコールを含むことが好ましい。3価以上のアルコールの具体例としては、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、ペンタエリスリトール、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、ジグリセリン、ジトリメチロ-ルプロパン、ジペンタエリスリト-ル、ソルビトール、イノシトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。
また、3価以上のアルコールを含んでいれば、2価のアルコールを併用してもよい。2価のアルコールの具体例としては、直鎖状アルキレン2価アルコールである1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール等が、
分岐状アルキレン2価アルコールである2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等が、
環状アルキレン2価アルコールである1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールF、水素添加ビスフェノールS、水素添加カテコール、水素添加レゾルシン、水素添加ハイドロキノン等が挙げられる。
アルキッド樹脂全量に対する、多価アルコール(A)の配合量は、全反応化合物中(ここで、全反応化合物とは、前記(A)と(B)と(C)との反応における反応化合物の全量である。)5~30質量%であることが好ましく、8~25質量%であることがより好ましく、8~20質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
次に、環状構造を有する有機酸(B)について説明する。
【0024】
本発明の環状構造を有する有機酸(B)とは芳香環または脂肪族環を少なくとも一つ以上有する有機酸のことである。環状構造を持つ有機酸を使用したアルキッド樹脂を、平版印刷インキに含有することにより、インキの流動性が大きく向上し、また印刷物の着肉性を良好にすることができる。
【0025】
本発明の環状構造を有する有機酸(B)としては、環状構造を有する多塩基酸(B1)を含むことが好ましい。
本発明における環状構造を有する多塩基酸(B1)としては、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、カンファー酸、デカリンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸等の脂環族カルボン酸、
フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
アルキッド樹脂中の、環状構造を有する多塩基酸(B1)の配合量は、全反応化合物中5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明の環状構造を有する有機酸(B)には、さらにロジン酸(B2)を含むことが好ましい。
本発明におけるロジン酸(B2)としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、メルクシロジンなどの天然ロジン、該天然ロジンから誘導される重合ロジン、天然ロジンや重合ロジンを不均化または水素添加して得られる安定化ロジン等が挙げられる。
アルキッド樹脂中の、ロジン酸(B2)の配合量は、全反応化合物中45質量%以下であることが好ましく、0.1~40質量%であることがより好ましく、5~30質量%であることがさらに好ましく、5~25質量%であることが最も好ましい。
ロジン酸(B2)を用いたアルキッド樹脂を含むことで、インキ流動性がさらに良化する。一方、ロジン酸(B2)の配合量が45質量%を超えると、アルキッド樹脂の酸価の上昇に繋がり、印刷着肉不良と印刷濃度変化に対する応答性の劣化を引き起こす。
【0027】
本発明において油脂(C)とは、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセリライドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が、炭素-炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するトリグリセリライドである。例として、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油等が挙げられる。
アルキッド樹脂中の、油脂(C)の含有量は、全反応化合物中15~85質量%であることが好ましく、20~75質量%であることがより好ましい。
【0028】
また、油脂(C)として、回収、再生処理された植物油を用いても良い。回収植物油の再生処理方法としては、濾過、静置による沈殿物の除去、および活性白土等による脱色といった方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
油脂(C)は、含水率0.3質量%以下(0~0.3質量%)、ヨウ素価90~150であることが好ましく、より好ましくはヨウ素価100~140である。含水率を0.3重量%以下にすることにより、水分に含まれる塩分などイオン化物質の樹脂合成に与える影響を除去できる。また、ヨウ素価を90以上150以下とすることで、乾燥性、すなわち酸化重合性の良いインキとすることが可能となる。
【0030】
本発明におけるアルキッド樹脂の製造方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、多価アルコール(A)と油脂(C)と触媒とを、反応窯にて230~280℃に加熱し、1~10時間アルコール交換反応を行い、150℃まで冷却した後、環状構造を有する有機酸(B)及びキシレンを添加し200~300℃まで加熱し、1~20時間エステル化反応をさせた後、減圧脱溶剤を行うことで得ることができる。
上記触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0031】
異なる製造方法として、環状構造を有する有機酸(B)及び油脂(C)を、反応窯にて230~300℃に加熱し、1~10時間酸交換反応を行い、150℃まで冷却した後、多価アルコール(A)、触媒及びキシレンを添加し、200~280℃まで加熱し、1~20時間エステル化反応をさせた後、減圧脱溶剤を行うことで得ることができる。
上記触媒としては、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、硫酸、塩酸等の鉱酸、トリフルオロメチル硫酸、トリフルオロメチル酢酸等が挙げられる。
【0032】
本発明におけるアルキッド樹脂の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(標準ポリスチレン換算、溶離液:テトラヒドロフラン)において、10,000~130,000が好ましく、25,000~130,000がより好ましい。10,000未満であるとインキミストの増加や、インキタック増加による印刷原反の紙剥けを引き起こすため好ましくない。また130,000以上であるとインキ粘度の大幅な上昇による印刷原反の紙剥けに繋がるため好ましくない。
【0033】
また、本発明におけるアルキッド樹脂において、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合は10質量%以下であることが特徴である。アルキッド樹脂の重量平均分子量が上記の好ましい範囲内であっても、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が10質量%以上であると、印刷時に使用する湿し水との乳化インキの含水率が上昇し、インキミストの発生が増加してしまうとともに、着肉性の劣化を引き起こす原因となる。重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合を10質量%以下に制御することによって、インキの流動性が良好であり、かつインキミストの発生が抑制されるとともに、印刷物の着肉性に優れた平版印刷インキを得ることが可能となる。
アルキッド樹脂中の重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合は、アルキッド樹脂の重量平均分子量の測定と同様にゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって分子量分布曲線を作成し、分子量1,000以下の積分値によって算出できる。
【0034】
本発明におけるアルキッド樹脂の酸価は、0.1~20mgKOH/gであることが好ましく、5~20mgKOH/gであることがより好ましい。酸価を前記範囲内とすることで、インキにした時の乳化適性が好適となり、良好な印刷着肉となる。
なお、アルキッド樹脂の酸価は、中和滴定法で測定した値である。
【0035】
本発明の平版印刷インキにおけるアルキッド樹脂の含有量は、平版印刷インキ全量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。アルキッド樹脂を0.1質量%以上含むことにより、インキの流動性を良好にすることができ、20質量%以下にすることで、インキミストの発生を抑制することができる。
【0036】
本発明の平版印刷インキは、上述したアルキッド樹脂、顔料、ロジン変性フェノール樹脂等から製造される。
本発明で使用される顔料としては、酸化チタンなどの白顔料、ミネラルファーネスイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS,ハンザイエローG,キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG,タートラジンレーキなどの黄顔料、インダスレンブリリアントオレンジRK、ピラゾンオレンジ、バルカンオレンジ、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGKなどの橙色顔料、パーマネントレッド4R、リオノールレッド、ピラロゾンレッド、ウオッチングレッツドカルシウム塩、レーキレッドD,ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3Bなどの赤色顔料、ファーストバイオレットB、メチルバイオレットレーキなどの紫色顔料、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBCなどの青色顔料、ピグメントグリーンB、マラカイドグリーンレーキ、ファイナスイエリーグリーンGなどの緑色顔料、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランブラック、アニリンブラックなどの黒色顔料などが挙げられる。
【0037】
また本発明で使用されるロジン変性フェノール樹脂としては、常法の反応方法により、石炭酸、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、(ターシャリ)ブチルフェノール、(ターシャリ)オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、ヘキシルフェノールおよびこれらの混合物等のフェノール類と、ホルムアルデヒドとを縮合反応させたレゾールまたはノボラックフェノール樹脂と、ロジン類を反応させ、さらにグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールをエステル化反応させた、重量平均分子量が5,000~200,000、軟化点80~180℃(より好ましくは130~170℃)の樹脂が使用できる。
【0038】
また、平版印刷インキ中への、その他添加剤として、耐摩擦、ブロッキング防止、スベリ、スリキズ防止を目的とする各種添加剤を使用することができ、必要に応じて、レベリング剤、帯電防止剤、界面活性剤、消泡剤等を添加してもよい。
【0039】
本発明の平版印刷インキの組成の一例としては、
・ロジン変性フェノール樹脂 5~75質量%
・植物油 5~80質量%
・石油系溶剤 0~80質量%
・顔料 5~40質量%
・アルキッド樹脂 0.1~20質量%
・その他添加剤 0~5重量%
などが好ましい組成として挙げられる。
【0040】
本発明の平版印刷インキは、通常、湿し水を使用する平版オフセット印刷に好適に使用することができる。しかし、このような実施形態に限らず、上記インキは、湿し水を使用しない水無し平版印刷においても好適に使用することができる。
本発明の印刷物を得る印刷機についてはオフセット印刷機であれば特に限定することなく使用することができ、オフセット輪転印刷機、新聞印刷機、枚葉印刷機等が挙げられる。
【0041】
上記インキが適用される基材は、平版印刷に用いられる用紙を特に限定すること無く使用することができる。使用可能な基材の具体例として、アート紙、コート紙、キャストコート紙などの塗工紙や上質紙、中質紙、新聞用紙などの非塗工紙、ユポなどの合成紙等が挙げられる。
【実施例
【0042】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。尚、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0043】
<分子量の測定>
分子量は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320)で測定した。溶離液はテトラヒドロフランを、カラムにはTSKgel SuperHM-M(東ソー(株)製)3本を用いた。測定は流速0.6ml/分、注入量20μl、カラム温度40℃で行った。標準ポリスチレンサンプルにより検量線を作成し、重量平均分子量を求めた。
また、分子量分布曲線において、重量平均分子量1,000以下の成分の積分値を計算し、アルキッド樹脂中の重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合を算出した。
【0044】
<酸価>
酸価は、中和滴定法によって測定した。具体的には、先ず、アルキッド樹脂1gをキシレン:エタノール=2:1の重量比で混合した溶媒20mLに溶解させた。次いで、先に調製したアルキッド樹脂の溶液に、指示薬として2重量%のフェノールフタレイン溶液を1mL加えた後に、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で中和滴定を行った。酸価の単位は、mgKOH/gである。
【0045】
(樹脂合成例1)
攪拌機、水分離管、温度付き四つ口フラスコにイソフタル酸249部、大豆油(含水率0.1%、ヨウ素価125)615部を、反応窯にて275℃まで加熱し、4時間酸交換反応を行った。150℃まで冷却した後、トリメチロールプロパン135部、パラトルエンスルホン酸1部、キシレン50部を添加し、275℃まで加熱し、5時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量118,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が6.9質量%、酸価13の樹脂1を得た。
【0046】
(樹脂合成例2)
攪拌機、水分離管、温度付き四つ口フラスコにイソフタル酸220部、ガムロジン59部、大豆油576部を、反応窯にて275℃まで加熱し、4時間酸交換反応を行った。150℃まで冷却した後、トリメチロールプロパン144部、パラトルエンスルホン酸1部、キシレン50部を添加し、275℃まで加熱し、5時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量109,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が9.5質量%、酸価5の樹脂2を得た。
【0047】
(樹脂合成例3)
攪拌機、水分離管、温度付き四つ口フラスコにイソフタル酸260部、大豆油644部を、反応窯にて280℃まで加熱し、2時間酸交換反応を行った。150℃まで冷却した後、グリセリン95部、パラトルエンスルホン酸1部、キシレン50部を添加し、260℃まで加熱し、9時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量21,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が7.1質量%、酸価17.7の樹脂3を得た。
【0048】
(樹脂合成例4)
グリセリン130部、大豆油403部、水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて260℃まで加熱し、2時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、イソフタル酸225部、ガムロジン241部、キシレン50部を添加し275℃まで加熱し、10時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量29,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が9.6質量%、酸価12.8の樹脂4を得た。
【0049】
(樹脂合成例5)
攪拌機、水分離管、温度付き四つ口フラスコにイソフタル酸195部、大豆油718部を、反応窯にて280℃まで加熱し、1時間酸交換反応を行った。150℃まで冷却した後、ぺンタエリスリトール73部、グリセリン13部、パラトルエンスルホン酸1部及びキシレン50部を添加し、270℃まで加熱し、5時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量40,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が7.6質量%、酸価7の樹脂5を得た。
【0050】
(樹脂合成例6)
グリセリン127部、大豆油219部、水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて265℃まで加熱し、2時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、イソフタル酸231部、ガムロジン422部、キシレン50部を添加し275℃まで加熱し、10時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量25,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が9.5質量%、酸価15.7の樹脂6を得た。
【0051】
(樹脂合成例7)
ぺンタエリスリトール51部、グリセリン46部、大豆油665部、水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて260℃まで加熱し、1時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、イソフタル酸237部、キシレン50部を添加し260℃まで加熱し、5時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量69,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が7.2質量%、酸価24.9の樹脂7を得た。
【0052】
(樹脂合成例8)
攪拌機、水分離管、温度付き四つ口フラスコにイソフタル酸295部、大豆油607部を、反応窯にて280℃まで加熱し、2時間酸交換反応を行った。150℃まで冷却した後、グリセリン97部、パラトルエンスルホン酸1部、キシレン50部を添加し、260℃まで加熱し、6時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量88,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が7.2質量%、酸価24.9の樹脂8を得た。
【0053】
(樹脂合成例9)
トリメチロールプロパン79部、大豆油775部、水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて260℃まで加熱し、2時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、イソフタル酸145部、キシレン50部を添加し265℃まで加熱し、3時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量8,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が9.5質量%、酸価6.8の樹脂9を得た。
【0054】
(樹脂合成例10)
グリセリン93部、大豆油716部、水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて260℃まで加熱し、1時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、アジピン酸190部、キシレン50部を添加し260℃まで加熱し、3時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量63,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が6.6質量%、酸価8.3の樹脂10を得た。
【0055】
(樹脂合成例11)
ペンタエリスリトール45部、グリセリン123部、大豆油587部水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて260℃まで加熱し、1時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、イソフタル酸244部、キシレン50部を添加し260℃まで加熱し、5時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量101,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が14.3質量%、酸価25.5の樹脂11を得た。
【0056】
(樹脂合成例12)
トリメチロールプロパン173部、大豆油207部、水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて260℃まで加熱し、2時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、イソフタル酸219部、ガムロジン40部、キシレン50部を添加し275℃まで加熱し、6時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量143,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が22.2質量%、酸価14.8の樹脂12を得た。
【0057】
(樹脂合成例13)
攪拌機、水分離管、温度付き四つ口フラスコにイソフタル酸239部、大豆油633部を、反応窯にて280℃まで加熱し、4時間酸交換反応を行った。150℃まで冷却した後、トリメチロールプロパン127部、パラトルエンスルホン酸1部、キシレン50部を添加し、275℃まで加熱し、6時間エステル化反応させた後、重量平均分子量137,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が6.2質量%、酸価10の樹脂13を得た。
【0058】
(樹脂合成例14)
ペンタエリスリトール81部、大豆油62部、水酸化ナトリウム1部を、反応窯にて260℃まで加熱し、1時間アルコール交換反応を行った。150℃まで冷却した後、イソフタル酸189部、ガムロジン96部、キシレン50部を添加し260℃まで加熱し、4時間エステル化反応させた後、減圧脱溶剤を行い、重量平均分子量31,000、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が13.1質量%、酸価7.9の樹脂14を得た。
【0059】
樹脂の合成例について、表1に処方(固形分換算(質量%))と性状を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表1】
【0062】
(ロジン変性フェノール樹脂ワニスの作成)
撹拌機、水分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ロジン変性フェノール樹脂(重量平均分子量35,000、酸価10)400部、大豆油200部、JXエネルギー社製AFソルベント7号390部、ALCH(川研ファインケミカル(株)製、ALCH)10部を仕込み、窒素を吹き込みながら190℃にて1時間加熱撹拌してワニスを製造した。
【0063】
(平版印刷インキの実施例、比較例)
前記方法で得られたアルキッド樹脂1~14それぞれと、ロジン変性フェノール樹脂ワニスと、カーボン顔料(三菱化学製、三菱カーボンMA7)と、石油系溶剤(JXエネルギー社製、AFソルベント7号)とを、表2の配合組成にて、常法に従い三本ロールを用いて練肉分散し、実施例1~12、比較例A~Hのインキを得た。
なお、比較例Aでは、市販のアルキッド樹脂(東新油脂社製、TOKYD-TY-MZ)を使用した。TOKYDの重量平均分子量は5,100、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合は7.9質量%、酸価は15.1であった。
【0064】
【表2】
【0065】
実施例および比較例で得られた平版印刷インキについて、下記の方法でインキ流動性、紙剥け、印刷紙面着肉、印刷紙面濃度変化、ミスチングを評価した。評価結果を表3に示す。
【0066】
<インキ流動性の評価>
インキピペットに一定容量の試験インキを測り盛り、水平に置いたガラス板流動計の基準線上に滴下させ、直ちにガラス板を垂直に立てる。垂直に立てた時から、10分後に試験インキが流れた長さを計測し、評価した。
(評価基準)
◎:150mm以上
○:100mm以上~150mm未満
△:50mm以上~100mm未満
×:50mm未満
◎、○、△が市場の要求水準を上回り、×は市場の要求水準を満たさない。
【0067】
オフ輪印刷機三菱重工株式会社製NEO800を用い、一般的な絵柄にて、評価開始時の紙面濃度が1.60となるようインキキーを調整し、以下の印刷条件にて、3000部印刷した。
CTP版:富士フイルム製XP-F
用紙:三菱製紙株式会社製パールコートN
湿し水:東洋インキ株式会社製アクアユニティWKKの2%水溶液
印刷速度:600rpm
チラー設定温度:25℃
水ダイアル値:水幅下限より5%高い値から15%高い値まで1000部ごと、5%刻みで変更
乾燥:熱風乾燥方式
<紙剥け>
株式会社東洋精機製デジタルインコメーターにインキ1.32ccをセットし、30℃、1200rpmの条件で1分後のタック値を測定する。また、印刷物の表面を観察し、印刷物の状態を評価する。タック値が高い程インキの粘着性が高く、紙剥けのトラブルが発生しやすいといえる。
(評価基準)
◎:5.0未満であり、紙剥けは確認されない。
○:5.0以上~6.0未満であり、紙剥けがほとんど確認されない。
△:6.0以上~7.0未満であり、紙剥けが一部で確認される
×:7.0以上で、紙剥けが目立つ。
◎、○、△が市場の要求水準を上回り、×は市場の要求水準を満たさない。
【0068】
<印刷紙面着肉の評価>
上記紙剥け試験で得られた1000部、2000部、3000部印刷時の印刷物を用いて、目視にて相対評価を行った。
(評価基準)
◎:極めて良好であり、市場の要求水準を大きく上回る
○:良好であり、市場の要求水準を上回る
△:市場の要求水準を満たしている
×:着肉が劣り、市場評価に値しない
【0069】
<印刷紙面濃度変化評価>
印刷評価開始時の紙面濃度を基準として、印刷終了までの紙面濃度変化率にて評価した。
(評価基準)
◎:紙面濃度変化率3%未満で極めて良好である
〇:紙面濃度変化率5%未満で良好である
△:紙面濃度変化率8%未満で市場要求水準を満たす
×:紙面濃度変化率8%以上で市場評価に値しない
【0070】
<ミスチング>
上記印刷試験前に、印刷機周辺に白紙をセッティングし、3000部印刷後のインキミストの発生度合いを目視評価した。
(評価基準)
◎:白紙にほとんどインキミストが飛散していない。
○:白紙の一部分に微量のインキミストが飛散している。
△:白紙全面に薄くインキミストが飛散している。
×:白紙全面にベッタリとインキミストが飛散している。
◎、○、△が市場の要求水準を上回り、×は市場の要求水準を満たさない。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例1~12は比較例に比べ良好な結果を示した。重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が10質量%以下であることで、乳化時に適切な水分量になり、着肉が劣化やインキミストの発生を防ぐと考えられる。また、ロジン酸を使用した実施例は、顔料分散性が向上することで、インキ流動性が特に良好であった。
【0073】
一方、比較例においては、
市販アルキッド樹脂として重量平均分子量の小さい樹脂を使用した比較例Aは十分なインキ流動性を示したものの、紙剥け、ミスチング及び着肉が劣る結果となった。
アルキッド樹脂に替えてギルソナイト樹脂を用いた比較例Bでも、着肉が劣る結果となった。
低重量平均分子量アルキッド樹脂を用いた比較例Cでは紙剥けや着肉が劣る結果となった。
直鎖構造を有する有機酸を使用した比較例Dはインキ流動性と着肉が劣る結果となった。
重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が10質量%を超過し、酸価が5mgKOH/g未満の樹脂11を使用した比較例Eは着肉が劣る結果となった。
重量平均分子量が130,000を超過し、重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が10質量%を超過している比較例Dは十分な流動性を発現しているが、紙剥けとミスチングが劣る結果となった。特にミスチングでは、インキミストが大量に発生する結果となった。
重量平均分子量が130,000を超過した比較例Gは紙剥けが劣る結果となった。
重量平均分子量1,000以下の成分の存在割合が10質量%を超過した比較例Hは着肉が劣る結果となった。