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特許7294012蛋白質安定化剤および安定化された蛋白質を含有する試薬、ならびに試薬に含有される蛋白質の安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】蛋白質安定化剤および安定化された蛋白質を含有する試薬、ならびに試薬に含有される蛋白質の安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 4/10 20060101AFI20230613BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230613BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230613BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C07K4/10
G01N33/50 F
G01N33/48 A
C07K1/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019165380
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021042166
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】原 真佐夫
(72)【発明者】
【氏名】今村 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134733(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216628(WO,A1)
【文献】特開昭54-044004(JP,A)
【文献】特開平11-246597(JP,A)
【文献】特開2018-168263(JP,A)
【文献】特開平09-224942(JP,A)
【文献】特表2007-519408(JP,A)
【文献】特開平10-045794(JP,A)
【文献】Food Hydrocolloids,2016, Vol. 61, pp. 720-729
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N、C07K
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラビアゴムからの精製物であって、重量平均分子量が900,000~3,500,000である植物性プロテオグリカンを含有する、蛋白質安定化剤。
【請求項2】
さらに、2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体を含有する、請求項1に記載の蛋白質安定化剤。
【請求項3】
植物性プロテオグリカンの含有量が0.001質量%~10質量%である、請求項1または2に記載の蛋白質安定化剤。
【請求項4】
2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体の含有量が0.001質量%~10質量%である、請求項またはに記載の蛋白質安定化剤。
【請求項5】
安定化された蛋白質を含有する試薬であって、アラビアゴムからの精製物であって、重量平均分子量が900,000~3,500,000である植物性プロテオグリカンを0.001質量%~10質量%含有する、試薬。
【請求項6】
さらに、2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体を0.001質量%~10質量%含有する、請求項に記載の試薬。
【請求項7】
蛋白質を含有する試薬に、アラビアゴムからの精製物であって、重量平均分子量が900,000~3,500,000である植物性プロテオグリカンを、試薬中の前記プロテオグリカンの含有量が0.001質量%~10質量%となるように添加することを含む、試薬中の蛋白質の安定化方法。
【請求項8】
さらに、2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体を、試薬中の前記共重合体の含有量が0.001質量%~10質量%となるように添加することを含む、請求項に記載の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬に含有される蛋白質を安定化し得る蛋白質安定化剤、および安定化された蛋白質を含有する試薬、ならびに、試薬に含有される蛋白質を安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査、体外診断、コンパニオン診断等の分野において、酵素免疫測定法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、核酸分析、免疫染色等の生化学的測定が広く用いられている。また近年は、これらの生化学的測定技術を応用した食品分析、環境分析も広く行われるようになっている。
上記生化学的測定において正確性は必須要件である。
従って、生化学的測定用の試薬に含有される酵素、抗体、標識抗体などの蛋白質の生理活性等を長期間安定に維持することが重要である。
また正確性には、試薬の投入量が一定であることも必須要件である。生化学的測定においては、試薬を溶液の状態で用いることが多いため、溶液の状態の試薬(以下「試薬溶液」ということがある)を収容している容器から、ピペットなどの分注用器具で試薬溶液を採取し、次の工程で用いる容器へ分注する際、試薬溶液の液切れが良く、該溶液が分注用器具に残らないことが重要である。
【0003】
試薬に含有される蛋白質の多くは、種々の要因、例えば溶液の状態で冷蔵保存した際、自己凝集等により容易に変性、失活してしまう。それゆえ、試薬に含有される蛋白質に求められる安定性とは、具体的には、蛋白質を含有する試薬、特に溶液の状態の試薬を冷蔵保存した場合の安定性であるといえる。「冷蔵保存した場合の安定性」とは、試薬溶液の長期保存、あるいは自動分析装置における試薬のオンボード保存を念頭に置いた安定性である。
【0004】
蛋白質を溶解させた溶液を安定化する方法としては、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と略称することがある)を試薬溶液に添加する方法が一般的に知られている。
しかし、上記方法による蛋白質の安定化効果は十分であるとはいえない。さらに、BSAの使用には、狂牛病をはじめとした感染症リスクの問題が存在する。また、BSAには、ロットの相違により安定化効果が大きく変動し、ロットによっては十分な効果が得られないという問題があった。また、BSA同士の相互作用により試薬溶液の粘度が増加し、ピストン式ピペットなどにおける液切れが悪くなるという問題があった。
【0005】
そこで、BSAの代替として、特許文献1はアミノ酸エステルやポリアミンを、特許文献2はホスホリルコリン基を有する重合体を、非特許文献1はアミノ酸を、非特許文献2はポリエチレングリコールを、それぞれ用いることにより、試薬に含有される蛋白質を安定化する技術を開示している。
しかしながら、上記のいずれの方法においても、蛋白質の安定化効果は十分であるとはいえなかった。
それゆえ、生化学的測定において用いられる試薬に含有される蛋白質を十分に安定化することができ、試薬溶液の液切れにも影響を及ぼさない蛋白質安定化剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-108850号公報
【文献】特開平10-045794号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】K. Shiraki et al.; J. Biochem. (2002) 132 pp. 591-595
【文献】J. L. Cleland et al.; J. Biol. Chem. (1992) 267 pp. 13327-13334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、生化学的測定において用いられる試薬に含有される酵素、抗体、標識抗体などの蛋白質を安定化することができる蛋白質安定化剤、および安定化された蛋白質を含有し、さらに溶液の状態とした際の液切れが良い試薬を提供することにある。
また、本発明の課題は、生化学的測定において用いられる試薬に含有される蛋白質の安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、プロテオグリカンが、試薬に含有される蛋白質を良好に安定化することができ、更に溶液の状態の試薬の液切れを良好とし得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]アラビアゴムからの精製物であって、重量平均分子量が900,000~3,500,000である植物性プロテオグリカンを含有する、蛋白質安定化剤。
[2]さらに、2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体を含有する、[1]に記載の蛋白質安定化剤。
[3]植物性プロテオグリカンの含有量が0.001質量%~10質量%である、[1]または[2]に記載の蛋白質安定化剤。
[4]2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体の含有量が0.001質量%~10質量%である、[]または[]に記載の蛋白質安定化剤。
[5]安定化された蛋白質を含有する試薬であって、アラビアゴムからの精製物であって、重量平均分子量が900,000~3,500,000である植物性プロテオグリカンを0.001質量%~10質量%含有する、試薬。
[6]さらに、2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体を0.001質量%~10質量%含有する、[]に記載の試薬。
[7]蛋白質を含有する試薬に、アラビアゴムからの精製物であって、重量平均分子量が900,000~3,500,000である植物性プロテオグリカンを、試薬中のプロテオグリカンの含有量が0.001質量%~10質量%となるように添加することを含む、試薬中の蛋白質の安定化方法。
[8]さらに、2-メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位を含む共重合体を、試薬中の前記共重合体の含有量が0.001質量%~10質量%となるように添加することを含む、[]に記載の安定化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蛋白質安定化剤は、生化学的測定において用いられる試薬に含有される蛋白質を安定化することができる。特に、前記試薬を溶液の状態で保存した際、該試薬に含有される酵素、抗体、標識抗体などの蛋白質を良好に安定化することができる。
また、本発明により、安定化された蛋白質を含有する試薬を提供することができ、本発明の前記試薬は、溶液の状態で長期間にわたって安定に冷蔵保存することができ、溶液の状態とした際のピペット等分注用器具における液切れが良い。
さらに、本発明により、生化学的測定において用いられる試薬に含有される蛋白質を良好に安定化することができる、蛋白質の安定化方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、蛋白質安定化剤(以下、本明細書にて「本発明の安定化剤」ともいう)を提供する。
本発明の安定化剤は、プロテオグリカンを含有する。
【0012】
本発明の安定化剤に含有されるプロテオグリカンは、特殊な構造を有する糖とタンパク質の複合体であり、動物性および植物性のプロテオグリカンが存在する。
動物性のプロテオグリカンは、1個のコアタンパク質に、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸等のグリコサミノグリカンが複数本共有結合した糖タンパク質であり、細胞外マトリックスの一成分として、臓器、脳、皮膚、軟骨など体内に広く分布している。
植物性のプロテオグリカンは、アラビノガラクタンとコアタンパク質が一定の様式で結合したものであり、正式にはアラビノガラクタン-プロテイン(AGP)と呼ばれており、植物の細胞壁や樹液に細胞外マトリックスとして存在する。
本発明において、プロテオグリカンとしては、動物性プロテオグリカン、植物性プロテオグリカンのいずれも用いることができるが、製造コストや、近年の植物性原料が好まれる傾向等を考慮すると、植物性プロテオグリカンを用いることが好ましい。
【0013】
植物性プロテオグリカンとしては、マメ科ネムノキ亜科のアカシア(Acacia)属に属するアラビアゴムノキ(Acacia senegal Willdenow)、またはその同属近縁植物から得られるアラビアゴムを原料とするものが好ましく用いられる。ここで、アラビアゴムは、前記植物の樹皮の傷口から滲出する分泌液を乾燥させたものである。
動物性プロテオグリカンと同等またはそれ以上の生理活性を有するものが得られることから、本発明の目的には、アラビアゴムノキ(Acacia senegal Willdenow)、またはそのセヤル種であるAcacia seyal Delileから得られるアラビアゴムを原料とするものがより好ましく、アカシアゴムノキ(Acacia senegal Willdenow)から得られるアラビアゴムを原料とするものがさらに好ましく用いられる。
【0014】
本発明において、プロテオグリカンとして好ましく用いられる植物性プロテオグリカンは、上記したアラビアゴムノキ等の植物から得たアラビアゴムから、主にアラビノガラクタンとグリコプロテインを除いた精製物として得られる。
本発明の目的には、植物性プロテオグリカンは、多角度光散乱検出器および示差屈折率検出器をオンライン接続したサイズ排除クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が900,000~3,500,000であるものが好ましく用いられ、1,000,000~3,000,000であるものがより好ましく用いられる。
また、アンプライト(Amplite)(商標)アルデヒド定量キット(比色)(Colorimetric Aldehyde Quantitation Kit)(製品番号:10051)(エイエイティー バイオクウェスト(AAT Bioquest)社製)等のアルデヒド定量キットにより測定される総アルデヒド含有量が、0.005μmol当量/g~2μmol当量/gであるものが好ましく用いられる。
本発明において、植物性プロテオグリカンは、水溶液、分散液等の液状の形態、粉末等の固形状の形態のいずれの形態で用いてもよい。
【0015】
本発明の安定化剤には、上記したプロテオグリカンは1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
動物性プロテオグリカンは、サケ鼻軟骨、サメ鰭軟骨及びイカ頭部軟骨等の動物組織から抽出、精製等して製造して用いてもよいが、各社から提供されている市販の製品を用いることもできる。
本発明において、動物性プロテオグリカンは、水溶液、分散液等の液状の形態、粉末等の固形状の形態のいずれの形態で用いてもよい。
一方、植物性プロテオグリカンは、0.5質量%~40質量%に調整されたアラビアゴム水溶液を、ポーラスI型強塩基性アニオン交換樹脂および強酸性カチオン交換樹脂に供して精製することにより、好適に製造することができるが、一般的に有効成分含有量が約1質量%の水溶液として市販されている製品を用いることもできる。
植物性プロテオグリカンのかかる市販の製品としては、たとえば日油株式会社製の「フィトプロテオグリカン(登録商標)」が挙げられる。
【0016】
プロテオグリカンは糖鎖部とタンパク質部からなり、プロテオグリカンの蛋白質部が蛋白質に対して吸着効果を示す。一方で、糖鎖部は蛋白質部と比べて遥かに大きな慣性半径を有し、蛋白質間の自己凝集を防ぐことができる。また、プロテオグリカンの糖鎖部は枝分かれ構造を有するため、一般のポリマー成分よりも分子量が大きいにも関わらず、粘度が低く、蛋白質の凹凸部位に入り込みやすい、という特徴を有する。これらの特性により、プロテオグリカンを含有する本発明の安定化剤は、蛋白質の失活を防ぎ、優れた蛋白質安定化効果を発揮する。
【0017】
本発明の安定化剤は、さらに2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)に基づく構成単位を含む共重合体(以下「MPC共重合体」と表記することがある)を含有し得る。
本発明の安定化剤に含有され得るMPC共重合体としては、MPCに基づく構成単位と、疎水性単量体に基づく構成単位を含む共重合体が挙げられ、疎水性単量体に基づく構成単位としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド誘導体等に基づく構成単位が例示される。
【0018】
MPCに基づく構成単位は、下記の式(1)で表される。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイルまたはメタクリロイル」を意味する。
【0019】
【化1】
【0020】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示す。)
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位は、下記の式(2)で表される。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸またはメタクリル酸」を意味する。
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1~24のアルキル基を示す。)
【0024】
式(2)中、Rで示されるアルキル基は、炭素数1~24の直鎖または分岐のアルキル基であり、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドコシル等が例示される。
【0025】
従って、式(2)で表される(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル(ラウリル)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル(ステアリル)、(メタ)アクリル酸ドコシル(ベヘニル)等に基づく構成単位が挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位として、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル等、上記式(2)中、Rで示されるアルキル基がジアルキルアミノ基やハロゲン原子等で置換されている(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、Rで示されるアルキル基が、ヒドロキシル基および第4級アンモニオ基で置換された構造を有する2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに基づく構成単位も、疎水性単量体に基づく構成単位として例示される。
【0026】
(メタ)アクリルアミド誘導体に基づく構成単位は、下記の式(3)で表される。ここで、「(メタ)アクリルアミド」とは、「アクリルアミドまたはメタクリルアミド」を意味する。
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基を示し、mは1~3の整数を示す。)
【0029】
本発明の目的には、(メタ)アクリルアミド誘導体に基づく構成単位として、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド、またはN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドに基づく構成単位を含む共重合体が好ましい。
【0030】
本発明においては、MPC共重合体として、MPCに基づく構成単位と、上記疎水性単量体に基づく構成単位を1種または2種以上含む共重合体を用いることができる。
本発明の目的には、疎水性単量体に基づく構成単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに基づく構成単位、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドに基づく構成単位、および(メタ)アクリルアミド誘導体に基づく構成単位からなる群より選択される1種または2種以上を含む共重合体が好ましく用いられる。
【0031】
MPCに基づく構成単位と、上記疎水性単量体に基づく構成単位のMPC共重合体中におけるそれぞれの含有量の比([MPCに基づく構成単位]:[疎水性単量体に基づく構成単位])(n:n)は、モル比にて95:5~65:35であり、好ましくは90:10~70:30であり、より好ましくは85:15~75:25である。
【0032】
本発明の安定化剤に含有されるMPC共重合体の重量平均分子量は10,000~5,000,000であり、好ましくは、20,000~1,000,000である。
MPC共重合体の重量平均分子量が10,000未満であると、慣性半径が減少し、液切れ性の改善効果が望めない場合があり、重量平均分子量が5,000,000より大きいと、粘度が急激に上昇し、蛋白質安定化剤、さらには該安定化剤を含有する試薬を調製することが困難となる恐れがある。
なお、MPC共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定され、プルラン換算の分子量で示される。
【0033】
MPC共重合体の重合形態は特に限定されず、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体が好ましい。
また、MPC共重合体は、MPCに基づく構成単位および疎水性単量体に基づく構成単位以外に、他の構成単位を含む共重合体であってもよい。
他の構成単位は、通常共重合体の構成単位となり得るものから、本発明の効果に影響を与えない範囲で適宜選択することができる。他の構成単位としては、たとえば、(メタ)アクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸の環状アルキルエステル;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のヘテロ環で置換されたアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香族基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸とモノテルペンアルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸グリシジル;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体等に基づく構成単位を挙げることができる。
これら他の構成単位は1種または2種以上を含むことができ、MPC共重合体中におけるその含有量は、MPCに基づく構成単位および疎水性単量体に基づく構成単位の合計量に対して40モル%以下であり、好ましくは20モル%以下である。
【0034】
MPC共重合体は、自体公知の製造方法により製造することができる。
たとえば、MPCおよび(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の疎水性単量体、ならびに必要に応じて上記他の構成単位に相当する単量体を含む単量体混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素等の不活性ガス雰囲気下において、溶液重合等の公知の方法により重合させて製造することができる。
その際の各単量体の含有量比は、MPC共重合体中における各構成単位の含有量比に相当する比とすればよい。
【0035】
本発明の安定化剤には、上記したMPC重合体は1種を選択し、単独で含有させてもよく、2種以上を選択し、組み合わせて含有させることもできる。
本発明の安定化剤に含有させるMPC共重合体の形態としては、粉末等の固形状、溶液、分散液等の液状のいずれでもよい。
【0036】
本発明においては、上記したプロテオグリカン、またはプロテオグリカンおよびMPC共重合体の混合物を、そのまま本発明の安定化剤とすることができる。
また、本発明の特徴を損なわない範囲で、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、被覆剤、基剤、溶剤、希釈剤、溶解補助剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、pH調整剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤等、一般的な製剤用添加剤を加えて、周知の製剤化手段、たとえば第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条に記載された方法に従い、粉末状、顆粒状、タブレット状等の固形状、ペースト状等の半固形状、溶液状、懸濁液状、分散液状、乳液状等の液状等の形態とすることもできる。
【0037】
本発明の安定化剤には、プロテオグリカン、またはプロテオグリカンおよびMPC共重合体は、後述する蛋白質を含有する試薬におけるこれらの含有量が、後述する含有量となるように、含有される。
本発明の安定化剤が、プロテオグリカンとMPC共重合体とを含有する場合、これらの含有量比(プロテオグリカン:MPC共重合体)は、重量比にて、好ましくは0.001:10~10:0.001であり、より好ましくは0.005:5~5:0.005である。
【0038】
本発明の安定化剤は、後述する蛋白質を含有する試薬に対し、プロテオグリカン、またはプロテオグリカンおよびMPC共重合体の含有量が、後述する含有量となるように添加される。
【0039】
生化学的測定において、蛋白質を含有する試薬が溶液の状態で用いられることが多いことから、液状の該試薬に容易に添加、混合することができ、または容易に混和させ得るという観点からは、本発明の安定化剤は、好ましくは液状の形態で提供される。
液状の形態の本発明の安定化剤は、プロテオグリカンまたはプロテオグリカンおよびMPC共重合体を、水や緩衝液に添加し、均一に溶解して調製することができる。
水としては、精製水、脱イオン水等の純水を用いることが好ましい。
緩衝液としては、生化学的測定に用いられる蛋白質を含有する試薬の調製に通常用いられる緩衝液を用いることができ、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられる。これら緩衝液は、1種または2種以上を用いることができる。
【0040】
液状の形態の本発明の安定化剤におけるプロテオグリカンの含有量は、0.001質量%~10質量%であり、試薬の液切れ性に及ぼす影響の観点からは、好ましくは0.005質量%~5質量%である。
プロテオグリカンの含有量が0.001質量%未満では、十分な蛋白質安定化作用を発揮することができず、プロテオグリカンの含有量が10質量%を超えると、安定化剤の粘度が急激に上昇し、取扱いが困難となる恐れがある。
【0041】
液状の形態の本発明の安定化剤におけるMPC共重合体の含有量は、0.001質量%~10質量%の範囲で適宜選択することができ、試薬の液切れ性に及ぼす影響の観点から、0.005質量%~5質量%の範囲で選択することが好ましい。
MPC共重合体の含有量が0.001質量%未満であると、試薬の液切れ性を十分に改善できない場合があり、MPC共重合体の含有量が10質量%を超えると、逆に試薬の液切れ性を損なう場合がある。
【0042】
本発明の安定化剤により安定化される蛋白質としては、特に限定されないが、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、リパーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等の酵素、免疫グロブリンG、免疫グロブリンE等の抗体、前記抗体と前記酵素の複合体(酵素標識抗体)等の標識抗体等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の安定化剤は、酵素免疫測定法で多用される酵素標識抗体の安定化に好適に用いることができる。
【0043】
本発明の安定化剤は、試薬に含有される酵素、抗体、標識抗体等、上記蛋白質を安定化することができ、特に、溶液中で蛋白質と共存することによって、蛋白質の失活を防止し、その生理活性を長期間維持することができる。
従って、本発明の安定化剤は、上記蛋白質を含有する試薬を溶液の状態にて長期間保存することを可能とし得る。
【0044】
また、本発明は、安定化された蛋白質を含有する試薬(以下、本明細書にて「本発明の試薬」ともいう)を提供する。
本発明の試薬は、プロテオグリカンを含有する。
本発明の試薬に含有されるプロテオグリカンについては、本発明の安定化剤において上記した通りである。
本発明の試薬には、上記したプロテオグリカンは、1種または2種以上を含有させることができる。なお、プロテオグリカンは、上記した本発明の安定化剤として調製され、添加されてもよい。
【0045】
本発明の試薬におけるプロテオグリカンの含有量は、0.001質量%~10質量%であり、蛋白質の安定化効果および試薬の液切れ性の観点から、好ましくは0.005質量%~5質量%である。
プロテオグリカンの含有量が0.001質量%未満では、十分な蛋白質安定化作用を発揮することができず、プロテオグリカンの含有量が10質量%を超えると、試薬の粘度が急激に上昇し、試薬の調製等、取扱いが困難となる恐れがある。
【0046】
本発明の試薬は、さらにMPC共重合体を含有し得る。
本発明の試薬に含有されるMPC共重合体については、本発明の安定化剤において上記した通りである。
本発明の試薬には、上記したMPC共重合体は、1種または2種以上を含有させることができる。なお、MPC共重合体は、上記した本発明の安定化剤として調製され、添加されてもよい。
【0047】
本発明の試薬におけるMPC共重合体の含有量は、0.001質量%~10質量%の範囲で適宜選択することができ、液切れ性の観点から、0.005質量%~5質量%の範囲で選択することが好ましい。
MPC共重合体の含有量が0.001質量%未満であると、本発明の試薬の液切れ性が十分でない場合があり、MPC共重合体の含有量が10質量%を超えると、逆に本発明の試薬の液切れ性を損なう場合がある。
【0048】
本発明の試薬に含有される安定化された蛋白質については、本発明の安定化剤により安定化される蛋白質として上記した通りである。
本発明の試薬における蛋白質の含有量は、蛋白質の種類等によって適宜設定され、例えば、10-15質量%~1質量%の範囲で、安定化される蛋白質の種類や、本発明の試薬の使用目的に合わせて調整することが好ましい。
【0049】
さらに、本発明の試薬には、本発明の特徴を損なわない範囲で、通常この分野で用いられる一般的な添加剤を含有させることができる。
かかる添加剤として、例えば、ポリオール、ポリエーテル、生化学的測定の目的に用いられる蛋白質以外の蛋白質、アミノ酸類、無機塩類、緩衝剤、キレート剤、有機酸、界面活性剤、生化学試薬、防腐剤、有機溶剤等が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、グリセロール、スクロース、グルコース等が挙げられる。
ポリエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール等が挙げられる。
生化学的測定の目的に用いられる蛋白質以外の蛋白質としては、例えば、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リシン、ヒスチジン等のアミノ酸およびこれらの塩、ペプチド等が挙げられる。
無機塩類としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、リン酸塩、硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。
緩衝剤としては、例えば、トリスヒドロキシメチルアミノエタン、トリス(2-ヒドロキシエチル)アミノメタン等が挙げられる。
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。
有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキルエステル、アルキルベタイン等が挙げられる。
生化学試薬としては、例えば、フラビン類、コリパーゼ等の補酵素、ヌクレオシド、ヌクレオチド等の核酸類等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、パラオキシ安息香酸製剤、デヒドロ酢酸製剤、プロクリン製剤等が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、イソアミルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、クロロホルム、フェノール等が挙げられる。
本発明の試薬には、これら添加剤は、必要に応じて1種または2種以上を含有させることができる。
【0050】
本発明の試薬は、プロテオグリカン、またはプロテオグリカンおよびMPC共重合体、酵素、抗体、標識抗体等の蛋白質に必要に応じて上記した他の添加剤を加え、一般的な製剤化手段により、粉末状、顆粒状、タブレット状等の固形状、ペースト状等の半固形状、溶液状、懸濁液状、分散液状、乳液状等の液状等の形態とすることができる。
また、本発明の試薬は、上記した本発明の安定化剤に上記蛋白質を添加して調製することもできる。
【0051】
本発明の試薬は、溶液の状態における安定性に優れるため、プロテオグリカン、またはプロテオグリカンおよびMPC共重合体、ならびに酵素、抗体、標識抗体等の蛋白質を水または緩衝液に溶解させて、溶液状の形態として調製することが好ましい。あるいは、上記した本発明の安定化剤と上記蛋白質を水または緩衝液に溶解させて溶液状としてもよい。
また、本発明の試薬は、水に溶解させて水溶液として保存してもよく、緩衝液に溶解させて緩衝液の溶液として保存してもよい。
水としては、精製水、脱イオン水等の純水が好ましく用いられる。
緩衝液としては、生化学的測定において通常用いられる緩衝液を用いることができ、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられる。また、これらを2種以上混合して用いてもよい。
【0052】
上記した本発明の安定化剤が液状の形態で提供される場合には、該安定化剤に酵素、抗体、標識抗体等の蛋白質を添加して溶解し、または前記蛋白質を水溶液もしくは緩衝液に溶解した溶液として添加して混合し、本発明の試薬とすることができる。
蛋白質または蛋白質の水溶液もしくは緩衝液の溶液は、本発明の試薬中における蛋白質の最終的な含有量が、上記したように、蛋白質の種類や本発明の試薬の使用目的等に応じて適宜設定され、調整された含有量となるように添加される。
【0053】
本発明の試薬は、上記したように、溶液の状態での保存安定性に優れる。
蛋白質の安定化に好適な温度は-30℃~40℃であり、特に好ましくは0℃~30℃である。
すなわち、本発明の試薬を、当該温度範囲内で、溶液の状態で保存した場合、試薬中の蛋白質を長期間安定に保存することができ、その生理活性を維持することができる。
【0054】
本発明はさらに、生化学的測定において用いられる試薬に含有される蛋白質の安定化方法(以下、本明細書にて「本発明の方法」ともいう)を提供する。
本発明の方法は、蛋白質を含有する試薬に、プロテオグリカンを添加することを含む。
本発明の方法において、試薬に含有される蛋白質については、本発明の安定化剤において、安定化される蛋白質として上記した通りである。
また、本発明の方法において、試薬に添加されるプロテオグリカンについては、本発明の安定化剤において上記した通りである。
本発明の方法において、上記したプロテオグリカンは、1種または2種以上を添加することができる。なお、プロテオグリカンは、上記した本発明の安定化剤として調製し、添加してもよい。
本発明の方法におけるプロテオグリカンの添加量は、生化学的測定に用いられる試薬中のプロテオグリカンの含有量が、上記した本発明の試薬における含有量となる量とすることができる。
【0055】
本発明の方法は、さらにMPC共重合体を添加することを含む。
本発明の方法において、さらに添加されるMPC共重合体については、本発明の安定化剤において上記した通りである。
本発明の方法において、上記したMPC共重合体は、1種または2種以上を添加することができる。なお、MPC共重合体は、上記した本発明の安定化剤として調製し、添加してもよい。
本発明の方法におけるMPC共重合体の添加量は、生化学的測定に用いられる試薬中のMPC共重合体の含有量が、上記した本発明の試薬における含有量となる量とすることができる。
【0056】
本発明の方法により、生化学的測定に用いられる試薬に含有される蛋白質を安定化することができ、前記試薬の長期保存が可能となる。
本発明の方法は、生化学的測定に用いられる試薬を水溶液や緩衝液の溶液等、溶液の状態で保存する際に好適に適用することができる。
【実施例
【0057】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
[実施例1~4、比較例1、2]蛋白質安定化剤
表1に示す処方に従って、実施例1~4および比較例1、2の各蛋白質安定化剤を下記の通り調製した。
植物性プロテオグリカン、MPC共重合体、BSAを、それぞれ表1に示す含有量となるようにリン酸緩衝液(pH=7.4)に添加し、均一になるまで攪拌して溶解させ、蛋白質安定化剤とした。
なお、植物性プロテオグリカンとしては「フィトプロテオグリカン」(日油株式会社製)(重量平均分子量=約1,200,000、総アルデヒド含有量=1.8μmol当量/g)を用い、MPC共重合体としては、MPC・メタクリル酸ブチル共重合体(MPCおよびメタクリル酸ブチルの共重合組成比[MPC/メタクリル酸ブチル](モル比)=80/20、重量平均分子量=600,000)を用いた。
また、BSAとしては、「A2153」(シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)社製)を用いた。
【0059】
[試験例1]蛋白質安定化効果の評価
実施例1~4および比較例1、2の蛋白質安定化剤について、下記の通り、冷蔵保存時の蛋白質安定化効果の評価を行った。
西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼを、2μg/mLとなるようにリン酸緩衝液(pH=7.4)に添加し、均一になるまで攪拌して溶解させ、蛋白質溶液を調製した。上記実施例および比較例の各蛋白質安定化剤1mLに前記蛋白質溶液50μLを加え、均一になるまで攪拌し、評価用溶液を調製した。
上記評価用溶液を4℃にて1日、4日、8日、13日、21日、および28日間保存し、96ウェルプレートに10μLずつ加え、そこにABTS(2,2’-アゾビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)アンモニウム塩)溶液(セラケア ライフサイエンス(SeraCare Lifescience)社製)100μLを加えて、室温で30分間振とうした。振とう後、1質量%のドデシル硫酸ナトリウム溶液100μLを加えて、反応を停止させた。410nmにおける吸光度を測定し、蛋白質安定化効果を評価した。
すなわち評価用溶液を調製した直後と、1日、4日、8日、13日、21日、および28日間それぞれ保存した後に、評価用溶液の吸光度を下記測定条件下に測定し、下記数式(数式1)により、酵素活性残存率(%)を算出した。
蛋白質安定化効果は、酵素活性残存率により評価され、酵素活性残存率が高いほど蛋白質安定化効果が高いことを表す。85%以上の酵素活性残存率を維持した日数を、高活性維持期間(日)とした。
なお、蛋白質溶液を同様にリン酸緩衝液(pH=7.4)と混合して得た溶液を対照として、同様に蛋白質安定化効果を評価した。
評価結果は、表1に併せて示した。
<測定条件>
測定機器:DSファーマバイオメディカル株式会社製プレートリーダー
測定温度:室温
測定波長:410nm
【0060】
【数1】
【0061】
[試験例2]液切れ性の評価
本発明の蛋白質安定化試薬の液切れ性について、次の方法により評価した。ピペットマン (P1000、ギルソン社製)に、ピペットチップ(ロングチップ、ワトソン社製)を取り付け、試験例1で調製した評価用溶液および対照をそれぞれ1,000μL採取し、全量を吐出し、初期吐出液の重量を測定した。ピペットチップを交換せずに、この操作を60回繰り返し、61回目の最終吐出液の重量を測定した。下記数式(数式2)により、液切れ指数を算出し、下記評価基準により液切れ性を評価した。評価結果は、表1に併せて示した。
【0062】
【数2】
【0063】
<評価基準>
液切れ指数=99.95~100:◎
液切れ指数=99.90以上99.95未満:○
液切れ指数=99.90未満:×
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、対照では、ペルオキシダーゼは速やかに失活したが、植物性プロテオグリカンを含有する実施例1~4の各蛋白質安定化剤は、冷蔵保存条件において、いずれも保存期間(28日間)中、ペルオキシダーゼの高活性を維持した。
これに対し、BSAを含有する比較例2の蛋白質安定化剤では、十分なペルオキシダーゼ安定化効果は認められなかった。
また、本発明の実施例1~4の各蛋白質安定化剤を含有する評価溶液は、いずれも液切れ性に優れると評価されたが、比較例1、2の各蛋白質安定化剤を含有する評価溶液は、いずれも液切れ性に劣ると評価された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上、詳述したように、本発明により、生化学的測定において用いられる試薬を溶液状態で保存した際にも、該試薬に含有される酵素、抗体、標識抗体等の蛋白質を良好に安定化することのできる蛋白質安定化剤を提供することができる。
また、本発明により、生化学的測定において用いられる試薬に含有される蛋白質が、溶液状態で長期間にわたって安定に冷蔵保存され、ピペットなど分注用器具における液切れも良好な試薬を提供することができる。
さらに、本発明により、生化学的測定において用いられる試薬に含有される蛋白質を良好に安定化することのできる安定化方法を提供することができる。
従って、本発明は、試薬に含有される蛋白質の生理活性が安定に維持されることが求められる分野、好適には臨床検査、体外診断、コンパニオン診断、食品分析、環境分析等の分野において、酵素免疫測定法、免疫比濁法、核酸分析、免疫染色等の生化学的測定等への展開が期待される。またこれらの分野に限らず、医療機器、製薬、バイオセンシングなど、幅広い分野での応用が期待される。