(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20230613BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20230613BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2019225344
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-126641(JP,A)
【文献】特開2018-042339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02P 6/00-6/34
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子がオン、オフすることにより電動機を駆動するインバータ回路と、
電圧指令値と搬送波との比較結果に応じた駆動信号により前記複数のスイッチング素子をオン、オフさせる制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、互いに直列接続される前記スイッチング素子が同時にオンすることが禁止されるデッドタイムにおいて前記電動機に流れる交流電流の極性により前記電圧指令値を補正するとともに、前記交流電流がゼロになる前後の一定期間における前記搬送波の周波数を、前記一定期間以外の期間における前記搬送波の周波数より大きくする
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御装置であって、
前記制御回路は、前記交流電流をd軸電流及びq軸電流に変換し、前記d軸電流及びq軸電流がd軸電流指令値及びq軸電流指令値に近づくように前記電圧指令値を求めるとともに、前記一定期間における前記d軸電流指令値を、前記一定期間以外の期間における前記d軸電流指令値より大きくする
ことを特徴とする電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の制御装置として、電動機に流れる交流電流をd軸電流及びq軸電流に変換し、そのd軸電流及びq軸電流がd軸電流指令値及びq軸電流指令値に近づくように電圧指令値を求め、その電圧指令値と搬送波との比較結果に応じた駆動信号によりインバータ回路に備えられる複数のスイッチング素子をそれぞれオン、オフさせることで電動機の駆動を制御するもの、いわゆる、ベクトル制御により電動機の駆動を制御するものがある。
【0003】
また、電動機の他の制御装置として、互いに直列接続されるスイッチング素子が同時にオンすることが禁止されるデッドタイムにおいて、交流電流の極性により電圧指令値を補正するものがある。
【0004】
しかしながら、上記他の制御装置では、交流電流がゼロ付近になる場合、交流電流に含まれる高周波電流により交流電流の極性が頻繁に切り替わるため、デッドタイムにおける電圧指令値の補正精度が低下し、電動機の駆動の制御性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、さらに他の制御装置として、d軸電流指令値を比較的大きくするものがある。このように、d軸電流指令値を比較的大きくすることで、交流電流の振幅値が大きくなり、ゼロ付近の交流電流の傾きが大きくなる。これにより、高周波電流により交流電流の極性が頻繁に切り替わることを抑えることができるため、デッドタイムにおける電圧指令値の補正精度の低下を抑制することができる。関連する技術として、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、d軸電流指令値を比較的大きくする制御装置では、交流電流の振幅値だけでなく交流電流に含まれる高周波電流の振幅値も大きくなるため、交流電流の極性が頻繁に切り替わることを抑えることができないおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の一側面に係る目的は、電動機に流れる交流電流に含まれる高周波電流により、電動機の駆動の制御性が低下することを抑制することが可能な電動機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る一つの形態である電動機の制御装置は、複数のスイッチング素子がオン、オフすることにより電動機を駆動するインバータ回路と、電圧指令値と搬送波との比較結果に応じた駆動信号により複数のスイッチング素子をオン、オフさせる制御回路とを備える。
【0010】
制御回路は、互いに直列接続されるスイッチング素子が同時にオンすることが禁止されるデッドタイムにおいて電動機に流れる交流電流の極性により電圧指令値を補正するとともに、交流電流がゼロになる前後の一定期間における搬送波の周波数を、一定期間以外の期間における搬送波の周波数より大きくする。
【0011】
これにより、一定期間内のデッドタイムにおいて、交流電流に含まれる高周波電流の振幅値を小さくさせることができるため、交流電流の極性が頻繁に切り替わることを抑制することができる。そのため、電圧指令値の補正精度を向上させることができ、電動機の駆動の制御性が低下することを抑制することができる。
【0012】
また、制御回路は、交流電流をd軸電流及びq軸電流に変換し、d軸電流及びq軸電流がd軸電流指令値及びq軸電流指令値に近づくように電圧指令値を求めるとともに、一定期間におけるd軸電流指令値を、一定期間以外の期間におけるd軸電流指令値より大きくする。
【0013】
これにより、一定期間における交流電流の傾きが比較的大きくなるため、一定期間内のデッドタイムにおいて交流電流の極性が頻繁に切り替わることをさらに抑制することができる。そのため、電圧指令値の補正精度をさらに向上させることができ、電動機の駆動の制御性が低下することをさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電動機に流れる交流電流に含まれる高周波電流により、電動機の駆動の制御性が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【
図2】実施例1における制御回路の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図3】実施例1における交流電流と閾値と搬送波との関係を示す図である。
【
図4】実施例2における制御回路の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施例2における交流電流と閾値と搬送波との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
図1は、実施形態の電動機の制御装置の一例を示す図である。
【0017】
図1に示す制御装置1は、例えば、電動フォークリフトやプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される電動機Mの駆動を制御するものであって、インバータ回路2と、制御回路3と、電流センサSe1~Se3とを備える。
【0018】
インバータ回路2は、直流電源Pから供給される直流電力により電動機Mを駆動するものであって、コンデンサCと、スイッチング素子SW1~SW6(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))とを備える。すなわち、コンデンサCの一方端が直流電源Pの正極端子及びスイッチング素子SW1、SW3、SW5の各コレクタ端子に接続され、コンデンサCの他方端が直流電源Pの負極端子及びスイッチング素子SW2、SW4、SW6の各エミッタ端子に接続されている。スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は電流センサSe1を介して電動機MのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は電流センサSe2を介して電動機MのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は電流センサSe3を介して電動機MのW相の入力端子に接続されている。
【0019】
コンデンサCは、直流電源Pから出力されインバータ回路2へ入力される電圧Vinを平滑する。
【0020】
スイッチング素子SW1は、制御回路3から出力される駆動信号S1に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW2は、制御回路3から出力される駆動信号S2に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW3は、制御回路3から出力される駆動信号S3に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW4は、制御回路3から出力される駆動信号S4に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW5は、制御回路3から出力される駆動信号S5に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW6は、制御回路3から出力される駆動信号S6に基づいて、オンまたはオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオンまたはオフすることで、直流電源Pから出力される直流電力が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電力に変換され、それら交流電力が電動機MのU相、V相、及びW相の入力端子に入力され電動機Mの回転子が回転する。
【0021】
電流センサSe1~Se3は、ホール素子やシャント抵抗などにより構成される。電流センサSe1は電動機MのU相に流れる交流電流Iuを検出して制御回路3に出力し、電流センサSe2は電動機MのV相に流れる交流電流Ivを検出して制御回路3に出力し、電流センサSe3は電動機MのW相に流れる交流電流Iwを検出して制御回路3に出力する。なお、交流電流Iu、Iv、Iwを特に区別しない場合、単に、交流電流Iとする。
【0022】
制御回路3は、ドライブ回路4と、演算部5とを備える。
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などにより構成され、演算部5から出力される電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と搬送波(三角波、ノコギリ波、または逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号S1~S6をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。例えば、ドライブ回路4は、電圧指令値Vu*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S2を出力し、電圧指令値Vu*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S1を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S2を出力する。また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vv*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S4を出力し、電圧指令値Vv*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S3を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S4を出力する。また、ドライブ回路4は、電圧指令値Vw*が搬送波以上である場合、ハイレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ローレベルの駆動信号S6を出力し、電圧指令値Vw*が搬送波より小さい場合、ローレベルの駆動信号S5を出力するとともに、ハイレベルの駆動信号S6を出力する。
【0023】
演算部5は、マイクロコンピュータなどにより構成され、座標変換部6と、推定部7と、減算部8と、速度制御部9と、d軸電流指令値出力部10と、減算部11、12と、電流制御部13と、座標変換部14とを備える。例えば、マイクロコンピュータが不図示の記憶部に記憶されているプログラムを実行することにより、座標変換部6、推定部7、減算部8、速度制御部9、d軸電流指令値出力部10、減算部11、12、電流制御部13、及び座標変換部14が実現される。
【0024】
座標変換部6は、推定部7から出力される位置θ^を用いて、電流センサSe1~Se3により検出される交流電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0025】
例えば、座標変換部6は、下記式1に示す変換行列C1を用いて、電流Iu、Iv、Iwを、d軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
【0026】
【0027】
推定部7は、電流制御部13から出力されるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*並びに座標変換部6から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて、電動機Mの回転子の回転速度(回転数)ω^及び位置θ^を推定する。
【0028】
例えば、推定部7は、下記式2及び式3により、逆起電力ed^及び逆起電力eq^を演算する。なお、Rは電動機Mに含まれる抵抗を示し、Lは電送機Mに含まれるコイルのインダクタンスを示す。
【0029】
ed^=Vd*-R×Id+ω^×L×Id ・・・式2
eq^=Vq*-R×Iq-ω^×L×Iq ・・・式3
【0030】
次に、推定部7は、下記式4により、誤差θe^を演算する。
【0031】
θe^=tan-1(ed^/eq^) ・・・式4
【0032】
次に、推定部7は、下記式5において誤差θe^がゼロになるような回転速度ω^を求める。なお、KpはPI(Proportional Integral)制御の比例項の定数を示し、KiはPI制御の積分項の定数を示す。
【0033】
ω^=Kp×θe^+Ki×∫(θe^)dt ・・・式5
【0034】
そして、推定部7は、下記式6により、位置θ^を演算する。なお、sはラプラス演算子を示す。
【0035】
θ^=(1/s)×ω^ ・・・式6
【0036】
減算部8は、外部から入力される回転速度指令値ω*と推定部7から出力される回転速度ω^との差Δωを算出する。
【0037】
速度制御部9は、減算部8から出力される差Δωを、q軸電流指令値Iq*に変換する。
【0038】
例えば、速度制御部9は、下記式7において差Δωがゼロになるようなq軸電流指令値Iq*を求める。
【0039】
Iq*=Kp×Δω+Ki×∫(Δω)dt ・・・式7
【0040】
d軸電流指令値出力部10は、所定のd軸電流指令値Id*を出力する。
【0041】
減算部11は、d軸電流指令値出力部10から出力されるd軸電流指令値Id*と、座標変換部6から出力されるd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。
【0042】
減算部12は、速度制御部9から出力されるq軸電流指令値Iq*と、座標変換部6から出力されるq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。
【0043】
電流制御部13は、減算部11から出力される差ΔId及び減算部12から出力される差ΔIqを、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に変換する。
【0044】
例えば、電流制御部13は、下記式8を用いてd軸電圧指令値Vd*を算出するとともに、下記式9を用いてq軸電圧指令値Vq*を算出する。なお、Lqは電動機Mに含まれるコイルのq軸インダクタンスを示し、Ldは電動機Mに含まれるコイルのd軸インダクタンスを示し、Keは誘起電圧定数を示す。
【0045】
Vd*=Kp×ΔId+Ki×∫(ΔId)dt-ωLqIq・・・式8
Vq*=Kp×ΔIq+Ki×∫(ΔIq)dt+ωLdId+ωKe・・・式9
【0046】
座標変換部14は、推定部7から出力される位置θ^を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vv*、Vv*、Vw*に変換する。
【0047】
例えば、座標変換部14は、下記式10に示す変換行列C2を用いて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換する。
【0048】
【0049】
または、座標変換部14は、下記式11の計算結果を、位相角δとする。
【0050】
δ=tan-1(-Vq*/Vd*) ・・・式11
【0051】
次に、座標変換部14は、位相角δと、位置θ^との加算結果を、目標位置θvとする。
【0052】
そして、座標変換部14は、不図示の記憶部に予め記憶されている、目標位置θvと、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*との対応関係を示す情報を参照して、目標位置θvに対応する電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を求める。
【0053】
また、座標変換部14は、目標位置θvがデッドタイム内に存在する場合、回転速度ω^が所望な回転速度になるように、または、q軸電流Iq(電動機Mのトルク)が所望なq軸電流Iqになるように、交流電流Iuの極性により電圧指令値Vu*を補正するとともに、交流電流Ivの極性により電圧指令値Vv*を補正するとともに、交流電流Iwの極性により電圧指令値Vw*を補正する。なお、デッドタイムは、互いに直列接続されるスイッチング素子SW1、SW2が同時にオンすることが禁止される期間、互いに直列接続されるスイッチング素子SW3、SW4が同時にオンすることが禁止される期間、及び互いに直列接続されるスイッチング素子SW5、SW6が同時にオンすることが禁止される期間とする。具体的には、座標変換部14は、デッドタイムにおいて、駆動信号S1、S2をローレベルにし、駆動信号S3、S4をローレベルにし、駆動信号S5、S6をローレベルにする。
【0054】
また、座標変換部14は、搬送波の周波数fをドライブ回路4に出力する。ドライブ回路4は、座標変換部14から出力される電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と、座標変換部14から出力される周波数fの搬送波との比較結果に応じた駆動信号S1~S6を出力する。
【0055】
<実施例1>
実施例1における制御回路3は、交流電流Iuがゼロになる前後の一定期間Tu1における搬送波の周波数fを、一定期間Tu1以外の期間Tu2における搬送波の周波数fより大きくする。また、実施例1における制御回路3は、交流電流Ivがゼロになる前後の一定期間Tv1における搬送波の周波数fを、一定期間Tv1以外の期間Tv2における搬送波の周波数fより大きくする。また、実施例1における制御回路3は、交流電流Iwがゼロになる前後の一定期間Tw1における搬送波の周波数fを、一定期間Tw1以外の期間Tw2における搬送波の周波数fより大きくする。なお、一定期間Tu1、Tv1、Tw1を特に区別しない場合、単に、一定期間T1とする。また、期間Tu2、Tv2、Tw2を特に区別しない場合、単に、期間T2とする。
【0056】
図2は、実施例1における制御回路3の動作の一例を示すフローチャートである。
制御回路3は、交流電流Iの絶対値が閾値Ith以下である場合(ステップS11:Yes)、座標変換部14において、搬送波の周波数fを周波数f1に設定する(ステップS12)。なお、閾値Ithは、交流電流Iの極性が頻繁に切り替わる期間が最も長くなるときの交流電流Iに基づいて予め設定されているものとする。交流電流Iの極性が頻繁に切り替わる期間とは、単位時間あたりの交流電流Iの極性の切り替わり回数が所定値以上である状態が継続している期間とする。
【0057】
一方、制御回路3は、交流電流Iの絶対値が閾値Ithより大きい場合(ステップS11:No)、座標変換部14において、搬送波の周波数fを周波数f2に設定する(ステップS13)。なお、周波数f1>周波数f2とし、例えば、周波数f1:周波数f2=2:1または周波数f1:周波数f2=4:1とする。
【0058】
これにより、交流電流Iの絶対値が閾値Ith以下である期間における搬送波の周波数fを、交流電流Iの絶対値が閾値Ithより大きい期間における搬送波の周波数fより大きくすることができる。すなわち、交流電流Iがゼロになる前後の一定期間T1における搬送波の周波数fを、一定期間T1以外の期間T2における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0059】
図3は、実施例1における交流電流Iuと閾値Ithと搬送波との関係を示す図である。なお、
図3に示す2次元座標の横軸は目標位置θvを示し、横軸は電流または電圧を示す。
【0060】
制御回路3は、正の交流電流Iuが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Iuが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tu1)における搬送波の周波数fを周波数f1に設定し、正の交流電流Iuが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Iuが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tu2)における搬送波の周波数fを周波数f2に設定する。
【0061】
これにより、一定期間Tu1における搬送波の周波数fを、期間Tu2における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0062】
同様に、制御回路3は、正の交流電流Ivが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Ivが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tv1)における搬送波の周波数fを周波数f1に設定し、正の交流電流Ivが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Ivが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tv2)における搬送波の周波数fを周波数f2に設定する。
【0063】
これにより、一定期間Tv1における搬送波の周波数fを、期間Tv2における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0064】
また、制御回路3は、正の交流電流Iwが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Iwが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tw1)における搬送波の周波数fを周波数f1に設定し、正の交流電流Iwが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Iwが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tw2)における搬送波の周波数fを周波数f2に設定する。
【0065】
これにより、一定期間Tw1における搬送波の周波数fを、期間Tw2における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0066】
一般に、搬送波の周波数fが大きくなるほど、交流電流Iに含まれる高周波電流の振幅値が小さくなる。
【0067】
そのため、交流電流Iがゼロになる前後の一定期間T1では、一定期間T1以外の期間T2に比べて、交流電流Iに含まれる高周波電流の振幅値を小さくすることができる。
【0068】
このように、実施例1の制御装置1では、交流電流Iがゼロになる前後の一定期間T1における搬送波の周波数fを、一定期間T1以外の期間T2における搬送波の周波数fより大きくする構成であるため、一定期間T1において、交流電流Iに含まれる高周波電流の振幅値を比較的小さくさせることができる。これにより、一定期間T1内のデッドタイムにおいて、交流電流Iに含まれる高周波電流の振幅値を比較的小さくさせることができるため、交流電流Iの極性が頻繁に切り替わることを抑制することができる。そのため、デッドタイムにおける電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の補正精度を向上させることができ、電動機Mの駆動の制御性の低下を抑制することができる。
【0069】
また、実施例1の制御装置1は、電動機Mの回転子の1周期のうちの一定期間T1のみにおいて、搬送波の周波数fを比較的大きくする構成であるため、回転子の1周期のうちの全ての期間において、搬送波の周波数fを比較的大きくする場合に比べて、スイッチング素子SW1~SW6の単位時間あたりのスイッチング回数を抑えることができ、スイッチング素子SW1~SW6のスイッチング回数増加による損失を低減することができる。
【0070】
<実施例2>
実施例2における制御回路3は、交流電流Iuがゼロになる前後の一定期間Tu1´におけるd軸電流指令値Id*を、一定期間Tu1´以外の期間Tu2´におけるd軸電流指令値Id*より大きくする。また、実施例2における制御回路3は、交流電流Ivがゼロになる前後の一定期間Tv1´におけるd軸電流指令値Id*を、一定期間Tv1´以外の期間Tv2´におけるd軸電流指令値Id*より大きくする。また、実施例2における制御回路3は、交流電流Iwがゼロになる前後の一定期間Tw1´におけるd軸電流指令値Id*を、一定期間Tw1´以外の期間Tw2´におけるd軸電流指令値Id*より大きくする。なお、一定期間Tu1´、Tv1´、Tw1´を特に区別しない場合、単に、一定期間T1´とする。また、期間Tu2´、Tv2´、Tw2´を特に区別しない場合、単に、期間T2´とする。
【0071】
また、実施例2における制御回路3は、一定期間Tu1´における搬送波の周波数fを、期間Tu2´における搬送波の周波数fより大きくする。また、実施例2における制御回路3は、一定期間Tv1´における搬送波の周波数fを、期間Tv2´における搬送波の周波数fより大きくする。また、実施例2における制御回路3は、一定期間Tw1´における搬送波の周波数fを、期間Tw2´における搬送波の周波数fより大きくする。
【0072】
図4は、実施例2における制御回路3の動作の一例を示すフローチャートである。
制御回路3は、交流電流Iの絶対値が閾値Ith以下である場合(ステップS21:Yes)、d軸電流指令値出力部10において、d軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*1に設定し(ステップS22)、座標変換部14において、搬送波の周波数fを周波数f1に設定する(ステップS23)。
【0073】
一方、制御回路3は、交流電流Iの絶対値が閾値Ithより大きい場合(ステップS21:No)、d軸電流指令値出力部10において、d軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*2に設定し(ステップS24)、座標変換部14において、搬送波の周波数fを周波数f2に設定する(ステップS25)。なお、d軸電流指令値Id*1>d軸電流指令値Id*2とする。また、周波数f1>周波数f2とし、例えば、周波数f1:周波数f2=2:1または周波数f1:周波数f2=4:1とする。
【0074】
これにより、交流電流Iの絶対値が閾値Ith以下である期間におけるd軸電流指令値Id*を、交流電流Iの絶対値が閾値Ithより大きい期間におけるd軸電流指令値Id*より大きくすることができるとともに、交流電流Iの絶対値が閾値Ith以下である期間における搬送波の周波数fを、交流電流Iの絶対値が閾値Ithより大きい期間における搬送波の周波数fより大きくすることができる。すなわち、交流電流Iがゼロになる前後の一定期間T1´におけるd軸電流指令値Id*を、一定期間T1´以外の期間T2´におけるd軸電流指令値Id*より大きくすることができるとともに、一定期間T1´における搬送波の周波数fを、一定期間T1´以外の期間T2´における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0075】
図5は、実施例2における交流電流Iuと閾値Ithと搬送波との関係を示す図である。なお、
図5に示す2次元座標の横軸は目標位置θvを示し、横軸は電流または電圧を示している。
【0076】
実施例2における制御回路3は、正の交流電流Iuが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Iuが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tu1´)におけるd軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*1に設定し、正の交流電流Iuが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Iuが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tu2´)におけるd軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*2に設定する。
【0077】
また、実施例2における制御回路3は、正の交流電流Iuが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Iuが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tu1´)における搬送波の周波数fを周波数f1に設定し、正の交流電流Iuが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Iuが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tu2´)における搬送波の周波数fを周波数f2に設定する。
【0078】
これにより、一定期間Tu1´におけるd軸電流指令値Id*を、期間Tu2´におけるd軸電流指令値Id*より大きくすることができるとともに、一定期間Tu1´における搬送波の周波数fを、期間Tu2´における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0079】
同様に、実施例2における制御回路3は、正の交流電流Ivが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Ivが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tv1´)におけるd軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*1に設定し、正の交流電流Ivが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Ivが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tv2´)におけるd軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*2に設定する。
【0080】
また、実施例2における制御回路3は、正の交流電流Ivが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Ivが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tv1´)における搬送波の周波数fを周波数f1に設定し、正の交流電流Ivが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Ivが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tv2´)における搬送波の周波数fを周波数f2に設定する。
【0081】
これにより、一定期間Tv1´におけるd軸電流指令値Id*を、期間Tv2´におけるd軸電流指令値Id*より大きくすることができるとともに、一定期間Tv1´における搬送波の周波数fを、期間Tv2´における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0082】
また、実施例2における制御回路3は、正の交流電流Iwが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Iwが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tw1´)におけるd軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*1に設定し、正の交流電流Iwが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Iwが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tw2´)におけるd軸電流指令値Id*をd軸電流指令値Id*2に設定する。
【0083】
また、実施例2における制御回路3は、正の交流電流Iwが正の閾値Ith以下である、または、負の交流電流Iwが負の閾値Ith以下である期間(一定期間Tw1´)における搬送波の周波数fを周波数f1に設定し、正の交流電流Iwが正の閾値Ithより大きい、または、負の交流電流Iwが負の閾値Ithより大きい期間(期間Tw2´)における搬送波の周波数fを周波数f2に設定する。
【0084】
これにより、一定期間Tw1´におけるd軸電流指令値Id*を、期間Tw2´におけるd軸電流指令値Id*より大きくすることができるとともに、一定期間Tw1´における搬送波の周波数fを、期間Tw2´における搬送波の周波数fより大きくすることができる。
【0085】
一般に、d軸電流指令値Id*が大きくなるほど、交流電流Iの振幅値が大きくなる。
そのため、実施例2は、実施例1に比べて、交流電流Iがゼロになる前後の一定期間における交流電流Iの傾きが大きくなり、交流電流Iの極性が頻繁に切り替わることをさらに抑制することができる。
【0086】
このように、実施例2の制御装置1では、一定期間T1´において、搬送波の周波数fだけでなくd軸電流指令値Id*も比較的大きくするため、交流電流Iの極性が頻繁に切り替わることをさらに抑制することができる。これにより、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の補正精度をさらに向上させることができ、電動機Mの駆動の制御性の低下をさらに抑制することができる。
【0087】
また、実施例2の制御装置1は、電動機Mの回転子の1周期のうちの一定期間T1´のみにおいて、d軸電流指令値Id*及び搬送波の周波数fを比較的大きくする構成であるため、回転子の1周期のうちの全ての期間において、d軸電流指令値Id*及び搬送波の周波数fを比較的大きくする場合に比べて、スイッチング素子SW1~SW6などに流れる電流やスイッチング素子SW1~SW6の単位時間あたりのスイッチング回数を抑えることができ、スイッチング素子SW1~SW6などに流れる電流増加による損失やスイッチング素子SW1~SW6のスイッチング回数増加による損失を低減することができる。
【0088】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0089】
上記実施形態の制御装置1は、ベクトル制御により電動機Mの駆動を制御する構成であるが、ベクトル制御以外の制御方法により電動機Mの駆動を制御するように構成してもよい。例えば、ベクトル制御以外の制御方法として、制御装置1は、回転速度指令値(目標回転速度)及び電流指令値(目標トルク)の少なくとも1つに応じて電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を求め、電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と搬送波との比較結果に応じた駆動信号S1~S6によりスイッチング素子SW1~SW6をそれぞれオン、オフさせる。
【0090】
また、上記実施形態の制御装置1は、推定部6で推定される位置θ^を座標変換部6、14に出力する構成であるが、エンコーダやレゾルバなどの検出器で検出される、電動機Mの回転子の位置θを位置θ^の代わりに座標変換部6、14に出力するように構成してもよい。
【0091】
また、上記実施形態の制御装置1は、電流センサSe1~Se3を備える構成であるが、電流センサSe1~Se3のうちの2つの電流センサを備えるように構成してもよい。このように構成する場合、制御装置1は、2つの電流センサにより検出される2つの交流電流を用いて残りの交流電流を求める。
【符号の説明】
【0092】
1 制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路
4 ドライブ回路
5 演算部
6 座標変換部
7 推定部
8 減算部
9 速度制御部
10 d軸電流指令値出力部
11 減算部
12 減算部
13 電流制御部
14 座標変換部