(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20230613BHJP
F04C 23/02 20060101ALI20230613BHJP
F04C 18/02 20060101ALI20230613BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20230613BHJP
H02K 1/28 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H02K1/22 A
F04C23/02 H
F04C18/02 311M
F04B39/00 106D
H02K1/28 A
(21)【出願番号】P 2019236288
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】浜名 祥三
(72)【発明者】
【氏名】大坪 正輝
(72)【発明者】
【氏名】高山 裕基
(72)【発明者】
【氏名】安谷屋 拓
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096670(JP,A)
【文献】特開2013-090479(JP,A)
【文献】特開2019-122075(JP,A)
【文献】特開2019-161941(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02113985(EP,A1)
【文献】特開2011-019298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
F04C 23/02
F04C 18/02
F04B 39/00
H02K 1/28
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、駆動軸心周りで回転可能な駆動軸と、
前記ハウジング内に設けられ、前記駆動軸を回転させるモータ機構と、
前記ハウジング内に設けられ、前記駆動軸によって駆動され、流体の圧縮を行う圧縮機構とを備えた電動圧縮機であって、
前記モータ機構は、前記ハウジング内に固定される環状のステータと、前記ステータ内に配置されるロータとを有し、
前記ロータは、前記駆動軸心方向に積層された複数の鋼板からなるロータ本体と、前記ロータ本体に設けられた複数の永久磁石と、前記各鋼板よりも肉厚に形成され、前記ロータ本体を前記駆動軸心方向で挟持する一対のプレートと、前記ロータ本体と前記各プレートとを前記駆動軸心方向に締結する
複数の締結具とを有し、
前記各鋼板及び前記各プレートには、前記駆動軸が挿通される挿通孔と、前記挿通孔の外周側に位置して前記挿通孔の周方向に並ぶ複数の連通孔と、前記挿通孔の周方向で隣り合う各連通孔同士の間に位置して前記締結具が挿通される締結孔と
、前記挿通孔の周方向で隣り合う前記各連通孔同士の間に位置しておらず、前記挿通孔の周方向で隣り合う前記各連通孔同士の間に位置する前記締結孔に挿通される前記締結具とは別の前記締結具が挿通される締結孔とが形成され、
前記駆動軸は、前記各鋼板に形成された前記挿通孔内に嵌合され、
前記各プレートには、前記各プレートに形成された前記挿通孔と前記連通孔とを連通するとともに、前記ロータ本体と対向する切欠きが形成されていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記切欠きは、前記駆動軸心方向に前記各プレートを貫通している請求項1記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電動圧縮機が開示されている。この電動圧縮機は、ハウジングと、駆動軸と、モータ機構と、圧縮機構とを備えている。駆動軸、モータ機構及び圧縮機構は、いずれもハウジング内に設けられている。駆動軸はハウジング内において駆動軸心周りで回転可能となっている。モータ機構は、駆動軸を駆動軸心周りで回転させる。圧縮機構は、駆動軸によって駆動され、流体としての冷媒を圧縮する。
【0003】
より具体的には、モータ機構は、ステータとロータとを有している。ステータはハウジング内に固定されている。ロータには駆動軸が固定されている。ロータはステータ内に配置されており、駆動軸とともに駆動軸心周りに回転可能となっている。ロータは、ロータ本体と、複数の永久磁石と、一対のプレートとを有している。ロータ本体は、駆動軸心方向に積層された複数の鋼板からなる。各永久磁石は、それぞれロータ本体に設けられている。各プレートは、各鋼板よりも肉厚に形成されている。各プレートは、ロータ本体を駆動軸心方向で挟持している。
【0004】
また、各鋼板及び各プレートには、挿通孔と複数の連通孔とがそれぞれ形成されている。挿通孔には駆動軸が挿通される。各連通孔は、挿通孔の外周側に位置しており、挿通孔の周方向に並んでいる。
【0005】
この電動圧縮機では、駆動軸は、各鋼板に形成された挿通孔に嵌合することで、ロータ本体、ひいてはロータに固定されている。また、同文献には具体的な記載が存在しないものの、一般的には、ロータ本体と各プレートとは、締結具によって締結される。
【0006】
この電動圧縮機では、ハウジング内において、ロータ、ひいてはモータ機構が駆動軸を駆動軸心周りに回転させる。これにより、圧縮機構が作動し、冷媒の圧縮が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の電動圧縮機では、各プレートによってロータ本体を駆動軸心方向に挟持することにより、各プレートによって、ロータ本体、つまり各鋼板が駆動軸心方向に拘束されつつ、駆動軸心方向に押圧される。ここで、各鋼板は各プレートよりも肉厚が薄い。これにより、各鋼板に形成された挿通孔は、各鋼板が駆動軸心方向に押圧された際の荷重によって、径方向へ延びるよう変形し得る。特に、各プレートとロータ本体を締結具によって締結する構造においては、締結具の周囲が局所的に強く押圧されることから、各鋼板では、挿通孔の内周面が局所的に内側へ突出し得ることになる。この場合、この電動圧縮機では、挿通孔の内周面において、内側へ突出した部分が駆動軸と干渉することで、各鋼板に形成された挿通孔に駆動軸を好適に嵌合させることができなくなり、駆動軸をロータに好適に固定できない問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、駆動軸をロータに好適に固定可能な電動圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電動圧縮機は、ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、駆動軸心周りで回転可能な駆動軸と、
前記ハウジング内に設けられ、前記駆動軸を回転させるモータ機構と、
前記ハウジング内に設けられ、前記駆動軸によって駆動され、流体の圧縮を行う圧縮機構とを備えた電動圧縮機であって、
前記モータ機構は、前記ハウジング内に固定される環状のステータと、前記ステータ内に配置されるロータとを有し、
前記ロータは、前記駆動軸心方向に積層された複数の鋼板からなるロータ本体と、前記ロータ本体に設けられた複数の永久磁石と、前記各鋼板よりも肉厚に形成され、前記ロータ本体を前記駆動軸心方向で挟持する一対のプレートと、前記ロータ本体と前記各プレートとを前記駆動軸心方向に締結する複数の締結具とを有し、
前記各鋼板及び前記各プレートには、前記駆動軸が挿通される挿通孔と、前記挿通孔の外周側に位置して前記挿通孔の周方向に並ぶ複数の連通孔と、前記挿通孔の周方向で隣り合う各連通孔同士の間に位置して前記締結具が挿通される締結孔と、前記挿通孔の周方向で隣り合う前記各連通孔同士の間に位置しておらず、前記挿通孔の周方向で隣り合う前記各連通孔同士の間に位置する前記締結孔に挿通される前記締結具とは別の前記締結具が挿通される締結孔とが形成され、
前記駆動軸は、前記各鋼板に形成された前記挿通孔内に嵌合され、
前記各プレートには、前記各プレートに形成された前記挿通孔と前記連通孔とを連通するとともに、前記ロータ本体と対向する切欠きが形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電動圧縮機では、ロータ本体は駆動軸心方向に積層された複数の鋼板からなり、各鋼板は各プレートよりも肉厚が薄い。そして、この電動圧縮機では、一対のプレートによってロータ本体を駆動軸心方向に挟持しつつ、締結具によって、ロータ本体と各プレートとを駆動軸心方向に締結する。ここで、この電動圧縮機では、各プレートには切欠きが形成されており、この切欠きは、各プレートに形成された挿通孔と連通孔とを連通するとともに、ロータ本体と対向する。
【0012】
そして、各プレートにおいて切欠きが存在する個所では、ロータ本体に対する駆動軸心方向の拘束力が小さくなる。これにより、この電動圧縮機では、締結具によって、ロータ本体と各プレートとを駆動軸心方向に締結する際、各鋼板は、切欠き側に向かって駆動軸心方向に変形し易くなる。この結果、各鋼板、すなわちロータ本体において、挿通孔の内周面が局所的に内側へ突出し難くなるため、この電動圧縮機では、各鋼板に形成された挿通孔に駆動軸を好適に嵌合させることができる。
【0013】
したがって、本発明の電動圧縮機によれば、駆動軸をロータに好適に固定できる。
【0014】
ここで、本発明において、各プレートに設ける切欠きの位置は、既に貫通形成されている挿通孔と連通孔との間の箇所となる。この箇所は、各プレートにおいて、他の箇所よりも比較的剛性が低いため、切欠きを設けることによる各プレート全体の剛性に対する影響は小さい。このため、この電動圧縮機では、ロータ全体としての剛性を殆ど低下させることなく、各鋼板に形成された挿通孔に駆動軸を好適に嵌合させることができる。
【0015】
切欠きは、駆動軸心方向に各プレートを貫通していることが好ましい。この場合には、各プレートに挿通孔や連通孔を形成する際に、切欠きも同時に形成することが可能となるため、各プレートに対する加工が容易となる。このため、この電動圧縮機では生産性が向上することで、製造コストを低廉化することができる。また、切欠きが駆動軸心方向に各プレートを貫通することにより、この電動圧縮機では、ロータ本体と各プレートとを駆動軸心方向に締結する際、各鋼板が切欠きに向かって駆動軸心方向に変形し易くなるため、各鋼板に形成された挿通孔が径方向へより変形し難くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電動圧縮機によれば、駆動軸をロータに好適に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例の電動圧縮機を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例の電動圧縮機に係り、
図1のX部分を示す要部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例の電動圧縮機に係り、ロータ本体及び永久磁石を前方側から見た正面図である。
【
図4】
図4は、実施例の電動圧縮機に係り、第1プレートを前方側から見た正面図である。
【
図5】
図5は、実施例の電動圧縮機に係り、第2プレートを後方側から見た背面図である。
【
図6】
図6は、実施例の電動圧縮機に係り、ロータを前方側から見た正面図である。
【
図7】
図7は、実施例の電動圧縮機に係り、ロータに駆動軸が固定されている状態を示す前方側から見た正面図である。
【
図8】
図8は、比較例の電動圧縮機に係り、ロータを前方側から見た正面図である。
【
図9】
図9は、比較例の電動圧縮機に係り、加熱による特定領域の変形を示すロータ本体及び永久磁石を前方側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。実施例の電動圧縮機は、具体的には、スクロール型電動圧縮機である。この電動圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両の冷凍回路を構成している。
【0019】
図1に示すように、実施例の電動圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸3と、モータ機構5と、圧縮機構7とを備えている。ハウジング1は、ハウジング本体11と、第1カバー13と、第2カバー15とを有している。
【0020】
本実施例では、
図1に示す実線矢印によって、電動圧縮機の前後方向及び上下方向を規定している。そして、
図2以降では、
図1に対応して、電動圧縮機の前後方向及び上下方向を規定している。なお、これらの各方向は説明の便宜上のための一例であり、電動圧縮機は、搭載される車両等に対応して、その姿勢が適宜変更される。
【0021】
図2に示すように、ハウジング本体11は、前壁11aと周壁11bとを有している。前壁11aは、ハウジング本体11の前端に位置しており、ハウジング本体11の径方向に延びている。周壁11bは、前壁11aと接続しており、前壁11aから駆動軸3の駆動軸心O方向で後方に向かって延びている。これらの前壁11aと周壁11bとにより、ハウジング本体11は、駆動軸心O方向に延びる略円筒状に形成されている。ここで、駆動軸心O方向は、電動圧縮機の前後方向と平行である。こうして、ハウジング本体11は、駆動軸心O方向、つまり電動圧縮機の前後方向に延びる有底の筒状をなしている。
【0022】
また、ハウジング本体11には、吸入口11cと、複数のボルト孔11dとが形成されている。さらに、ハウジング本体11の内部には、モータ室111が形成されている。
【0023】
吸入口11cは、ハウジング本体11の径方向に延びており、ハウジング本体11の外部と、モータ室111とを連通している。また、吸入口11cは、配管(図示略)によって蒸発器(図示略)と接続されている。これにより、モータ室111内には、蒸発器を経た低温かつ低圧の冷媒ガスが吸入される。冷媒ガスは、本発明における「流体」の一例である。つまり、モータ室111は吸入室としても機能する。
図1に示すように、各ボルト孔11dは、駆動軸心O方向に延びており、ハウジング本体11の後端に開口している。なお、
図1では、複数のボルト孔11dのうちの一つを図示している。
【0024】
第1カバー13は、駆動軸心O方向でハウジング本体11の前方側に位置している。第1カバー13は図示しない複数のボルトによって、ハウジング本体11の前壁11aに固定されている。第1カバー13は有底の筒状に形成されており、内部にインバータ回路(図示略)を収容している。
【0025】
第2カバー15は、駆動軸心O方向でハウジング本体11の後方側に位置している。第2カバー15は、複数のボルト15aによって、ハウジング本体11の後端に固定されている。なお、
図1では、複数のボルト15aのうちの一つを図示している。第2カバー15は有底の筒状に形成されており、内部に吐出室(図示略)が形成されている。吐出室は、配管(図示略)によって凝縮器(図示略)と接続されている。
【0026】
図1及び
図2に示すように、駆動軸3は、モータ室111内を含め、ハウジング本体11の内部に設けられている。
図2に示すように、駆動軸3は、駆動軸心O方向に延びる円柱状をなしており、小径部3aと、大径部3bと、テーパ部3cとを有している。小径部3aは、駆動軸3の前端側に位置している。大径部3bは、小径部3aよりも後方側に位置している。大径部3bは、小径部3aよりも大径に形成されている。テーパ部3cは、小径部3aと大径部3bとの間に位置している。テーパ部3cは前端で小径部3aと接続している。そして、テーパ部3cは、後方に向かうにつれて拡径しつつ、後端で大径部3bに接続している。
【0027】
駆動軸3は、小径部3aがラジアル軸受19を介して、ハウジング本体11の前壁11aに回転可能に支承されている。これにより、駆動軸3は、モータ室111内で駆動軸心O周りに回転可能となっている。
【0028】
モータ機構5は、モータ室111内に設けられている。モータ機構5は、ステータ5aとロータ5bとを有している。ステータ5aは、モータ室111内において、周壁11bの内周面に固定されている。ステータ5aは、インバータ回路と接続されている。
【0029】
ステータ5aは、ステータコア501とコイルエンド503とを有している。ステータコア501は円筒状に形成されている。ステータコア501には、コイル505が捲回されている。コイルエンド503は、ステータコア501から駆動軸心O方向で前後に突出する環状をなしている。
【0030】
ロータ5bは、ステータ5a内に配置されている。ロータ5bは、ロータ本体51と、複数のマグネットコア52と、第1プレート53と、第2プレート54と、ロータウェイト55と、複数の締結ピン56とを有している。各マグネットコア52は、本発明における「永久磁石」の一例である。また、第1プレート53及び第2プレート54は、本発明における「プレート」の一例である。
【0031】
ロータ本体51は、同一形状をなす複数枚の電磁鋼板510によって形成されている。各電磁鋼板510は、本発明における「鋼板」の一例である。
図3に示すように、各電磁鋼板510は円盤状に形成されている。各電磁鋼板510の中心、すなわちロータ本体51の中心には、固定孔51aが形成されている。また、各電磁鋼板510において、固定孔51aの外周側には、5個の貫通孔51bが形成されている。さらに、各電磁鋼板510において、各貫通孔51bの外周側には、第1ピン孔555~558と、10個の収容孔51cとが形成されている。固定孔51a、各貫通孔51b、各第1ピン孔555~558及び各収容孔51cは、それぞれ電磁鋼板510を駆動軸心O方向に貫通している。ここで、固定孔51a、各貫通孔51b、各第1ピン孔51c及び各収容孔51c同士は互いに離間しており、連通していない。
【0032】
固定孔51aは、駆動軸3の大径部3bと整合する丸孔に形成されている。より厳密には、固定孔51aは、大径部3bよりも僅かに小径をなす丸孔に形成されている。各貫通孔51bは略扇形状に形成されており、固定孔51aの周方向に等間隔で配置されている。各第1ピン孔555~558は丸孔に形成されており、各貫通孔51bの外周側で固定孔51aの周方向に配置されている。ここで、各第1ピン孔555~558のうち、第1ピン孔555及び第1ピン孔556は、各貫通孔51bの外周側であって、固定孔51aの周方向で隣り合う各貫通孔51b同士の間に配置されている。一方、第1ピン孔557及び第1ピン孔558は、各貫通孔51bの外周側に位置しているものの、固定孔51aの周方向で隣り合う各貫通孔51b同士の間には配置されていない。これにより、固定孔51a、各貫通孔51b及び各第1ピン孔555、556は、それぞれ本発明における「挿通孔」「貫通孔」及び「締結孔」の一例である。より詳細には、固定孔51a、各貫通孔51b及び各第1ピン孔555、556は、「各鋼板に形成された挿通孔」、「各鋼板に形成された貫通孔」及び「各鋼板に形成された締結孔」の一例である。各収容孔51cは矩形状に形成されており、各貫通孔51bの外周側で固定孔51aの周方向に配置されている。なお、各貫通孔51b、各第1ピン孔555~558及び各収容孔51cの形状や個数は適宜設計可能である。
【0033】
図2に示すように、各電磁鋼板510は、駆動軸心O方向に互いに積層されている。この際、各電磁鋼板510同士は、固定孔51a同士を駆動軸心O方向に整合させているとともに、各貫通孔51b、各第1ピン孔555~558及び各収容孔51c同士を駆動軸心O方向に整合させている。こうして、ロータ本体51が形成されている。つまり、ロータ本体51では、固定孔51a、各貫通孔51b、各第1ピン孔555~558及び各収容孔51cがそれぞれ駆動軸心O方向に貫通している。これにより、ロータ本体51は駆動軸心O方向に延びる略円筒体をなしている。なお、
図2では、説明を容易にするため、各電磁鋼板510の板厚の他、各電磁鋼板510の個数を簡略化して図示している。
【0034】
また、これらの固定孔51a及び各貫通孔51bが形成されることにより、
図3に示すように、各電磁鋼板510、すなわちロータ本体51において、固定孔51aと各貫通孔51bとの間となる個所は、特定領域511とされている。一方、ロータ本体51において、各貫通孔51bよりも外周側となる個所は、外周領域512とされている。つまり、各第1ピン孔555~558及び各収容孔51cは、外周領域512に配置されている。さらに、ロータ本体51において、各貫通孔51b同士の間となる個所は、それぞれ接続部513とされている。各接続部513は、特定領域511と外周領域512とに接続している。つまり、ロータ本体51において、特定領域511及び外周領域512は、互いの間に存在する各貫通孔51b及び各接続部513によって、略円筒体をなしている。ここで、ロータ本体51の径方向における特定領域511の肉厚は、ロータ本体51の径方向における外周領域512の肉厚に比べて薄くなっている。
【0035】
図2及び
図3に示すように、各マグネットコア52は、駆動軸心O方向に延びる矩形の柱状に形成されている。各マグネットコア52における駆動軸心O方向の長さは、ロータ本体51における駆動軸心O方向の長さとほぼ同じに形成されている。各マグネットコア52は、各収容孔51cにそれぞれ収容されている。これにより、
図3に示すように、各マグネットコア52は、ロータ本体51の外周領域512において、固定孔51aの周方向に配置されている。
【0036】
図2に示すように、第1プレート53は、ロータ本体51に対して、駆動軸心O方向で前方側に位置している。第1プレート53は、円盤状をなす金属の板材によって形成されている。より具体的には、第1プレート53は、各電磁鋼板510よりも駆動軸心O方向の肉厚が厚い板材によって形成されている。つまり、第1プレート53は、各電磁鋼板510よりも肉厚である。また、
図6及び
図7に示すように、第1プレート53は、各電磁鋼板510、すなわちロータ本体51よりも小径の円盤状をなしている。
【0037】
図4に示すように、第1プレート53の中心には、第1挿通孔53aが形成されている。また、第1プレート53において、第1挿通孔53aの外周側には、5個の第1連通孔53bが形成されている。さらに、第1プレート53において、各第1連通孔53bの外周側には、第2ピン孔535~538が形成されている。第1挿通孔53a、第1連通孔53b及び各第2ピン孔535~538は、それぞれ第1プレート53を駆動軸心O方向に貫通している。ここで、第1連通孔53bと各第2ピン孔535~538とは互いに離間しており、連通していない。
【0038】
第1挿通孔53aは丸孔に形成されている。より厳密には、
図2及び
図7に示すように、第1挿通孔53aは、ロータ本体51の固定孔51a及び駆動軸3の大径部3bよりもよりも大径をなす円形に形成されている。第1連通孔53bは、ロータ本体51の各貫通孔51bと整合する略扇形状に形成されており、第1挿通孔53aの周方向に等間隔で配置されている。各第2ピン孔535~538は、ロータ本体51の各第1ピン孔555~558と整合する丸孔に形成されており、第1挿通孔53aの周方向に配置されている。ここで、各第2ピン孔535~538のうち、第2ピン孔535及び第2ピン孔536は、各第1連通孔53bの外周側であって、第1挿通孔53aの周方向で隣り合う各第1連通孔53b同士の間に配置されている。一方、第2ピン孔537及び第2ピン孔538は、各第1連通孔53bの外周側に位置しているものの、第1挿通孔53aの周方向で隣り合う各第1連通孔53b同士の間には配置されていない。これにより、第1挿通孔53a、各第1連通孔53b及び各第2ピン孔535、536は、それぞれ本発明における「挿通孔」「貫通孔」及び「締結孔」の一例である。より詳細には、第1挿通孔53a、各第1連通孔53b及び各第2ピン孔535、536は、「各プレートに形成された挿通孔」、「各プレートに形成された貫通孔」及び「各プレートに形成された締結孔」の一例である
。
【0039】
また、これらの第1挿通孔53a及び各第1連通孔53bによって、
図4に示すように、第1プレート53には、第1拘束部53dと、第1外周部53eと、5個の第1ブリッジ部53fとが形成されている。第1拘束部53dは、第1挿通孔53aと各第1連通孔53bとの間に位置している。第1外周部53eは、各第1連通孔53bの外周側に位置している。各第1ブリッジ部53fは、各第1連通孔53b同士の間にそれぞれ位置している。各第1ブリッジ部53fは、第1拘束部53dと第1外周部53eとに接続している。
【0040】
また、第1プレート53には、5つの第1切欠き53gが形成されている。各第1切欠き53gは、本発明における「切欠き」の一例である。各第1切欠き53gは、第1挿通孔53aと各第1連通孔53bとの間にそれぞれ位置している。各第1切欠き53gは、第1プレート53の径方向に延びており、第1挿通孔53aと各第1連通孔53bとに接続している。また、各第1切欠き53gは、第1プレート53を駆動軸心O方向に貫通している。これにより、第1プレート53では、第1拘束部53dが各第1切欠き53gによって第1プレート53の径方向に切り欠かれている。つまり、第1拘束部53dは、各第1切欠き53gによって5個に分割されている。
【0041】
図2に示すように、第2プレート54は、ロータ本体51に対して、駆動軸心O方向で後方側に位置している。第1プレート53と同様、第2プレート54も各電磁鋼板510よりも駆動軸心O方向の肉厚が厚い板材によって形成されている。また、第2プレート54についても、各電磁鋼板510、すなわちロータ本体51よりも小径の円盤状をなしている。
【0042】
図5に示すように、第2プレート54には、第2挿通孔54aと、5個の第2連通孔54bと、第3ピン孔545~548とが形成されている。各第3ピン孔545~548のうち、第3ピン孔545及び第3ピン孔546は、各第2連通孔54bの外周側であって、第2挿通孔54aの周方向で隣り合う各第2連通孔54b同士の間に配置されている。一方、第3ピン孔547及び第3ピン孔548は、各第2連通孔54bの外周側に位置しているものの、第2挿通孔54aの周方向で隣り合う各第2連通孔54b同士の間には配置されていない。また、第2プレート54には、第2拘束部54dと、第2外周部54eと、5個の第2ブリッジ部54fとが形成されている。さらに、第2プレート54において、第2挿通孔54aと各第2連通孔54bとの間には、第2切欠き54gがそれぞれ形成されている。第2挿通孔54a、各第2連通孔54b及び各第3ピン孔545、546についても、それぞれ本発明における「各プレートに形成された挿通孔」、「各プレートに形成された貫通孔」及び「各プレートに形成された締結孔」の一例である。また、各第2切欠き54gも、本発明における「切欠き」の一例である。なお、第2挿通孔54a等の構成を含め、第2プレート54の構成は、第1プレート53と同様であるため、詳細な説明を省略する。つまり、第2プレート54においても、第2拘束部54dは、各第2切欠き54gによって第2プレート54の径方向に切り欠かれている。このため、第2拘束部54dも各第2切欠き54gによって5個に分割されている
。
【0043】
図4に示すように、ロータウェイト55は、略円弧状なす金属の板材によって形成されている。
図2に示すように、ロータウェイト55は、第1、2プレート53、54よりも板厚が厚く設定されている。また、
図4に示すように、ロータウェイト55には、第4ピン孔55a、が形成されている。各第4ピン孔55a、55bは、それぞれ第1プレート53の第2ピン孔537、538と整合する丸孔に形成されており、ロータウェイト55を駆動軸心O方向に貫通している。なお、ロータウェイト55の形状や板厚は、適宜設計可能である。
【0044】
図2に示すように、ロータ5bでは、駆動軸心O方向の前方側から、ロータウェイト55、第1プレート53、ロータ本体51及び第2プレート54がこの順で配置されている。ロータ本体51には、各マグネットコア52が既に設けられている。また、ロータ5bでは、ロータ本体51の固定孔51aと、第1、2プレート53、54の第1、2挿通孔53a、54aとを駆動軸心O方向で整合させるとともに、ロータ本体51の各貫通孔51bと、第1、2プレート53、54の各第1、2連通孔53b、54bとを駆動軸心O方向で整合させる。さらに、ロータ5bでは、ロータ本体51の各第1ピン孔555~558と、第1、2プレート53、54の各第2、3ピン孔535~538、545~548と、ロータウェイト55の各第4ピン孔55a、55bとを駆動軸心O方向で整合させる。そして、この状態において、
図6に示すように、各第1~4ピン孔555~558、535~538、545~548、55a、55bに対して、各締結ピン56が駆動軸心O方向に挿通されているとともに、各連結ピンの56の前端及び後端がかしめられている。
【0045】
こうして、ロータ5bでは、ロータ本体51と、第1、2プレート53、54と、ロータウェイト55とが駆動軸心O方向に締結されて一体化されている。つまり、ロータ5bでは、ロータ本体51が第1、2プレート53、54によって駆動軸心O方向の両側から挟持されている。これらにより、ロータ5bでは、ロータ本体51を構成する各電磁鋼板510同士が互いに分離することが防止されている。
【0046】
また、ロータ本体51が第1、2プレート53、54によって駆動軸心O方向の両側から挟持されることにより、固定孔51aと、第1、2挿通孔53a、54aとが駆動軸心O方向で連通した状態となっている。さらに、各貫通孔51bと、各第1、2連通孔53b、54bとについても、駆動軸心O方向で連通した状態となっている。ここで、各貫通孔51b及び各第1、2連通孔53b、54bは、ロータウェイト55によって、第1プレート53側、つまり、駆動軸心O方向の前方側の一部が塞がれている。
【0047】
そして、
図6に示すように、ロータ5bでは、ロータ本体51の特定領域511に対して、第1プレート53の第1拘束部53dが駆動軸心O方向で前方側から面接触している。同様に、特定領域511に対して、第2プレート54の第2拘束部54dが駆動軸心O方向で後方側から面接触している(
図2参照)。これらにより、特定領域511、ひいてはロータ本体51は、第1拘束部53d及び第2拘束部54dによって、駆動軸心O方向に拘束されている。一方、
図6に示すように、第1プレート53の各第1切欠き53gは、特定領域511とは非接触となっている。詳細な図示を省略するものの、第2プレート54の各第2切欠き54gについても同様に、特定領域511とは非接触となっている。つまり、各第1、2切欠き53g、54gが存在する個所では、特定領域511は第1プレート53及び第2プレート54と非接触となっており、駆動軸心O方向に拘束されてはいない。
【0048】
また、ロータ本体51の外周領域512に対して、第1プレート53の第1外周部53e及び第2プレート54の第2外周部54eがそれぞれ駆動軸心O方向の両側から面接触している。これにより、ロータ本体51に設けられた各マグネットコア52は、第1、2プレート53、54、より具体的には、第1、2外周部53e、54eと駆動軸心O方向で対向している。こうして、第1、2外周部53e、54eは、各マグネットコア52が各収容孔51cから駆動軸心O方向に脱落することを防止している。さらに、ロータ本体51の各接続部513に対して、第1プレート53の各第1ブリッジ部53f及び第2プレート54の各第2ブリッジ部54fが前後方向から面接触している。
【0049】
図2及び
図7に示すように、ロータ5bには駆動軸3が嵌合、より具体的には焼き嵌めされて固定されている。ロータ5bに駆動軸3を焼き嵌めするに当たっては、ロータ5bに対して誘導加熱が行われている。具体的には、誘導加熱によって、固定孔51aの周囲、つまり、特定領域511を含め、第1、2拘束部53d、54dを加熱し、固定孔51aを熱膨張によって拡径させる。そして、この状態で、固定孔51a及び第1、2挿通孔53a、54aに対して、大径部3bを駆動軸心O方向に挿通させる。こうして、固定孔51aに対して、大径部3bが焼き嵌めされることで、ロータ5bに駆動軸3が固定されている。これにより、ロータ5bと駆動軸3とが一体化され、駆動軸心O周りに一体で回転可能となっている。なお、第1、2挿通孔53a、54aは、大径部3bよりも大径に形成されているため、第1、2挿通孔53a、54aには、大径部3bが挿通されているのみであり、大径部3bの固定はされていない。
【0050】
図1に示す圧縮機構7としては、公知のスクロール型圧縮機構が採用されている。圧縮機構7は、ハウジング本体11内において、モータ室111よりも後方側で周壁11bの内周面に固定された固定スクロールと、固定スクロールに対向して配置され、駆動軸3によって回転可能な可動スクロールとを有している。固定スクロールと可動スクロールとは噛合して両者間に圧縮室を形成している。なお、固定スクロール、可動スクロール及び圧縮室については、いずれも図示を省略する。
【0051】
以上のように構成されたこの電動圧縮機では、
図2の破線矢印で示すように、蒸発器を経た低温低圧の冷媒ガスが吸入口11cからモータ室111内に吸入される。また、インバータ回路によってモータ機構5に給電が行われる。これにより、ロータ5bが駆動軸3とともに駆動軸心O周りで回転し、圧縮機構7が作動する。そして、モータ室111内に吸入された冷媒ガスは、第1プレート53側から、各第1連通孔53b内、各貫通孔51b内及び各第2連通孔54b内を流通して、圧縮機構7に導入される。つまり、この電動圧縮機では、各貫通孔51b及び各第1、2連通孔53b、54bが冷媒ガスを圧縮機構7に導入させる導入通路として機能する。こうして、圧縮機構7に導入された冷媒ガスは、圧縮室で圧縮され、吐出室から吐出口を経て凝縮器に吐出される。
【0052】
また、この電動圧縮機では、モータ室111内の冷媒ガスによって、ステータ5a及びロータ5bを冷却することが可能となっている。さらに、この電動圧縮機では、各貫通孔51b内及び各第1、2連通孔53b、54b内を流通する冷媒ガスによっても、ロータ5bを好適に冷却することが可能となっている。また、各貫通孔51b及び各第1、2連通孔53b、54bが導入通路として機能するため、ハウジング本体11内に導入通路を別途に設ける必要がない。
【0053】
ここで、この電動圧縮機では、ロータ5bにおいて、ロータ本体51と第1、2プレート53、54とが互いにずれることでロータ本体51から各マグネットコア52が脱落したり、ロータ本体51を構成する各電磁鋼板510同士が駆動軸心O方向に離間したりしないことが求められる。このため、この電動圧縮機では、各連結ピン56によって、ロータ本体51と第1、2プレート53、54とを駆動軸心O方向に強固に締結する必要がある。このため、ロータ本体51、すなわち各電磁鋼板510及び第1、2プレート53、54では、各連結ピン56の周囲が局所的に強く押圧されることになる。この点、この電動圧縮機では、各電磁鋼板510が第1、2プレート53、54よりも肉厚が薄くても、各連結ピン56によって、ロータ本体51と第1、2プレート53、54とを駆動軸心O方向に締結した際に固定孔51aの内周面が局所的に内側へ突出し難くなっている。この作用効果について、比較例との対比を基に具体的に説明する。
【0054】
図8に示すように、比較例の電動圧縮機では、ロータ5bの第1プレート53において、第1挿通孔53aと各第1連通孔53bとの間に第1切欠き53gが形成されていない。図示を省略するものの、第2プレート54においても、第2挿通孔54aと各第2連通孔54bとの間に第2切欠き54gが形成されていない。
【0055】
これにより、比較例の電動圧縮機では、第1、2拘束部53d、54dが分割されることがなく、第1、2拘束部53d、54dは、それぞれ略円環状をなしている。そして、これらの第1、2拘束部53d、54dが特定領域511に面接触している。このように、比較例の電動圧縮機では、特定領域511のほぼ全体が第1、2拘束部53d、54dによって、駆動軸心O方向の両側から拘束されている。ロータ5bにおける他の構成を含め、比較例の電動圧縮機における他の構成は実施例の電動圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0056】
比較例の電動圧縮機では、各連結ピン56によって、ロータ本体51と第1、2プレート53、54とを駆動軸心O方向に締結することにより、ロータ本体51、すなわち各電磁鋼板510が駆動軸心O方向に押圧される。ここで、各電磁鋼板510は第1、2プレート53、54よりも肉厚が薄い。また、特定領域511のほぼ全体が第1、2拘束部53d、54dによって、駆動軸心O方向の両側から拘束されている。これにより、比較例の電動圧縮機では、特定領域511を含め、各電磁鋼板510は駆動軸心方向に変形することができなくなる。つまり、各電磁鋼板510では、駆動軸心O方向に押圧された際の荷重に伴う変形を駆動軸心O方向に逃がすことができなくなる。このため、
図9に示すように、固定孔51aは、各電磁鋼板510が駆動軸心O方向に押圧された際の荷重によって、径方向へ延びるよう変形することになる。具体的には、第1ピン孔555および第1ピン孔556については、駆動軸心Oに向かう電磁鋼板510の径方向において、貫通孔51bが介在することなく電磁鋼板510の一部、つまり、接続部513がスポーク状に固定孔51aまで存在する。これにより、第1ピン孔555及び第1ピン孔556の周囲に局所的に作用する押圧力に伴うひずみ変形は、接続部513、すなわち電磁鋼板510におけるスポーク状の領域を伝播し、固定孔51a周りの局所的な突出として現れる。
【0057】
この結果、比較例の電動圧縮機では、固定孔51aの内周面が局所的に内側へ突出し易くなる。ここで、比較例の電動圧縮機では、誘導加熱によって、第1、2拘束部53d、54dを加熱するため、固定孔51aにおける上記の変形がより顕著となる。これらのため、比較例の電動圧縮機では、固定孔51aに駆動軸3の大径部3bを好適に嵌合させることができなくなり、駆動軸3をロータ5bに好適に固定できなくなる。
【0058】
これに対し、実施例の電動圧縮機では、
図3及び
図4に示すように、第1、2プレート53、54に対して、第1、2拘束部53d、54dの他に第1、2切欠き53g、54gがそれぞれ形成されている。そして、実施例の電動圧縮機では、
図2、
図6及び
図7に示すように、第1、2拘束部53d、54dが特定領域511に接触して特定領域511を駆動軸心O方向の両側から拘束するのに対し、各第1、2切欠き53g、54gは、特定領域511とは非接触となる。これにより、各第1、2切欠き53g、54gは、特定領域511を駆動軸心O方向に拘束しない。このため、実施例の電動圧縮機では、各第1、2切欠き53g、54gが存在する分、特定領域511に対する第1、2拘束部53d、54dの接触面積が小さくなる。特に、実施例の電動圧縮機では、第1、2プレート53、54に対して、各第1、2切欠き53g、54gがそれぞれ5つずつ形成されている。このため、特定領域511に対する第1拘束部53dと全体としての接触面積が十分に小さくなっているとともに、特定領域511に対する第2拘束部54dと全体としての接触面積が十分に小さくなっている。この結果、実施例の電動圧縮機では、各連結ピン56によって、ロータ本体51と第1、2プレート53、54とを駆動軸心O方向に締結した際における、第1、2拘束部53d、54dによる特定領域511への駆動軸心O方向の拘束が低減されている。
【0059】
これにより、実施例の電動圧縮機では、各連結ピン56によって、ロータ本体51と第1、2プレート53、54とを駆動軸心O方向に締結した際、各電磁鋼板510は、第1切欠き53g側や第2切欠き54g側に向かって駆動軸心O方向に変形し易くなる。つまり、各電磁鋼板510は、駆動軸心O方向に押圧された際の荷重に伴う変形を駆動軸心O方向に逃がすことができる。ここで、実施例の電動圧縮機でも、誘導加熱によって第1、2拘束部53d、54dを加熱するものの、この際にも、特定領域511は、第1切欠き53g側や第2切欠き54g側に向かって駆動軸心O方向に変形し易くなる。このため、
図6に示すように、実施例の電動圧縮機では、固定孔51aの内周面が局所的に内側へ突出することが抑制されている。この結果、
図7に示すように、実施例の電動圧縮機では、固定孔51aに大径部3bを好適に嵌合させることが可能となっている。
【0060】
したがって、実施例の電動圧縮機によれば、駆動軸3をロータ5bに好適に固定できる。
【0061】
特に、この電動圧縮機では、第1、2切欠き53g、54gがそれぞれ第1、2プレート53、54を駆動軸心O方向に貫通している。このため、この電動圧縮機では、第1、2プレート53、54に第1、2挿通孔53a、54a、各第1、2連通孔53b、54b及び各第2、3ピン孔535~538、545~548を形成する際に第1、2切欠き53g、54gも同時に形成することが可能となっている。また、例えば、第1、2プレート53、54に対して、第1、2挿通孔53a、54aと各第1、2連通孔53b、54bとを連通する凹溝をそれぞれ形成し、この凹溝を第1、2切欠き53g、54gとする場合に比べて、第1、2プレート53、54に対する加工も容易となっている。このため、この電動圧縮機では生産性が高くなっており、その分、製造コストを低廉化することが可能となっている。
【0062】
また、各第1切欠き53gは、第1拘束部53dを第1プレート53の径方向に切り欠いており、各第2切欠き54gは、第2拘束部54dを第2プレート54の径方向に切り欠いている。これにより、この電動圧縮機では、第1、2プレート53、54による各電磁鋼板510同士の分離や各収容孔51cからの各マグネットコア52の脱落防止に必要な拘束力、すなわち剛性を確保しつつ、第1、2拘束部53d、54dを5つに分割することで、第1、2拘束部53d、54d全体としての剛性を好適に低下させることが可能となっている。この点においても、この電動圧縮機では、第1、2拘束部53d、54dによる特定領域511への駆動軸心O方向の拘束を好適に低減させることが可能となっている。
【0063】
また、この電動圧縮機では、ロータ本体51に対し、固定孔51aの外周に5個の貫通孔51bが形成されている。そして、第1、2プレート53、54では、各貫通孔51bに対応して、第1、2連通孔53b、54bがそれぞれ5個ずつ形成されている。これにより、この電動圧縮機では、モータ室111内に吸入された冷媒ガスが各貫通孔51b及び各第1、2連通孔53b、54bを好適に流通することができる。こうして、この電動圧縮機では、ロータ5bの内部を流通する冷媒ガスの流量を好適に多くすることができ、圧縮機構7に冷媒ガスを好適に導入させることが可能となっている。また、この電動圧縮機では、ロータ5bの内部を流通する冷媒ガスの流量が多くなることにより、冷媒ガスによって、ロータ5bを十分に冷却することが可能となっている。
【0064】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0065】
例えば、実施例の電動圧縮機では、各第1、2切欠き53g、54gが第1、2プレート53、54を駆動軸心O方向に貫通している。しかし、これに限らず、凹溝のように、第1、2プレート53、54を駆動軸心O方向に貫通させずに第1、2切欠き53g、54gを形成しても良い。
【0066】
また、固定孔51aに加えて、第1挿通孔53a及び第2挿通孔54aに対しても駆動軸3の大径部3bが固定される構成としても良い。
【0067】
さらに、固定孔51aに駆動軸3の大径部3bを焼き嵌めするに当たり、誘導加熱に換えて、加熱炉等を用いてロータ5bを加熱しても良い。
【0068】
また、焼き嵌めに換えて、圧入等によって固定孔51aに駆動軸3の大径部3bを嵌合させても良い。
【0069】
さらに、圧縮機構7として、ベーン式圧縮機構や斜板式圧縮機構等を採用しても良い。
【0070】
また、圧縮機構7は冷媒ガス以外の流体を圧縮しても良い。
【0071】
さらに、実施例の電動圧縮機では、各貫通孔51b及び各第1、2連通孔53b、54bを冷媒ガスの導入通路として機能させることにより、モータ室111内に吸入された冷媒ガスを各貫通孔51b及び各第1、2連通孔53b、54bに流通させつつ、この冷媒ガスによってロータ5bの冷却を行っている。しかし、これに限らず、ハウジング1内において、モータ室111とは別の場所に冷媒ガスを吸入させることにより、各貫通孔51b及び各第1、2連通孔53b、54bについて、ロータ5bの軽量化のための肉抜き部として機能させても良い。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は車両等の空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…ハウジング
3…駆動軸
5…モータ機構
5a…ステータ
5b…ロータ
7…圧縮機構
51…ロータ本体
51a…固定孔(挿通孔)
51b…貫通孔(連通孔)
52…マグネットコア(永久磁石)
53…第1プレート(プレート)
53a…第1挿通孔(挿通孔)
53b…第1連通孔(連通孔)
53g…第1切欠き(切欠き)
54…第2プレート(プレート)
54a…第2挿通孔(挿通孔)
54b…第2連通孔(連通孔)
54g…第2切欠き(切欠き)
56…締結ピン(締結具)
510…電磁鋼板(鋼板)
535、536…第2ピン孔(締結孔)
545、546…第3ピン孔(締結孔)
555、556…第1ピン孔(締結孔)
O…駆動軸心