(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0202 20160101AFI20230613BHJP
H01M 8/026 20160101ALI20230613BHJP
H01M 8/0267 20160101ALI20230613BHJP
【FI】
H01M8/0202
H01M8/026
H01M8/0267
(21)【出願番号】P 2020091647
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】堀 良輔
(72)【発明者】
【氏名】大平 紘敬
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】福田 健太郎
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-73565(JP,A)
【文献】特開平9-82344(JP,A)
【文献】特開平2-129858(JP,A)
【文献】特開平6-216431(JP,A)
【文献】特開2015-32477(JP,A)
【文献】特表2017-510954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの化学反応により発電する複数の燃料電池セル(11)を有する燃料電池スタック(31)と、
前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給装置(60)と、
前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給するとともに、前記燃料電池スタックを冷却する酸化剤ガス供給装置(50)とを備え、
前記燃料電池スタックは、
燃料ガスを前記燃料電池スタックの内部に導入するための燃料入口部(32)と、
燃料ガスを前記燃料電池スタックの内部から導出するための燃料出口部(33)と、
前記燃料電池スタックのうち、前記燃料出口部よりも前記燃料入口部に近い部分である燃料上流部(31u)と、
前記燃料電池スタックのうち、前記燃料入口部よりも前記燃料出口部に近い部分である燃料下流部(31d)とを備え、
前記燃料電池セルは、
酸化剤ガスの流路を形成しているカソードセパレータ(15、615)と、
燃料ガスの流路を形成しているアノードセパレータ(16)とを備え、
前記カソードセパレータは、
前記燃料下流部の一部を構成している下流カソードセパレータ(15d、615d)と、
前記燃料上流部の一部を構成しており、前記下流カソードセパレータよりも放熱性の高い上流カソードセパレータ(15u、615u)とを備えている燃料電池システム。
【請求項2】
前記上流カソードセパレータにおける酸化剤ガスの流路は、前記下流カソードセパレータにおける酸化剤ガスの流路よりも酸化剤ガスと接触する表面積が大きい請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記カソードセパレータは、酸化剤ガスの流路に設けられている放熱促進部(55、255、355、455、555)を備えている請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記放熱促進部は、前記カソードセパレータから突出して設けられている放熱フィン(55f)である請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記放熱フィンは、前記燃料ガスの流れの上流から下流に向かって、前記カソードセパレータからの突出量が小さくなる請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記放熱フィンは、前記酸化剤ガスの流れの上流から下流に向かって、前記カソードセパレータからの突出量が大きくなる請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記放熱促進部は、酸化剤ガスの流れを撹拌する撹拌部(255s)である請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記カソードセパレータは、酸化剤ガスの流れの上流から下流に向かって、互いに形状の異なる複数の前記放熱促進部を備えている請求項3から請求項7のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記カソードセパレータは、
燃料ガスとの反応に用いられる酸化剤ガスが流れる反応用流路部(15r)と、
燃料ガスとの反応に用いられない酸化剤ガスが流れる冷却用流路部(15c)とを備え、
前記放熱促進部は、前記反応用流路部よりも前記冷却用流路部に多く設けられている請求項3から請求項8のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記カソードセパレータは、
燃料ガスとの反応に用いられる酸化剤ガスが流れる反応用流路部(15r)と、
燃料ガスとの反応に用いられない酸化剤ガスが流れる冷却用流路部(615c)とを備え、
前記上流カソードセパレータにおける前記冷却用流路部は、前記下流カソードセパレータにおける前記冷却用流路部よりも断面積が小さい請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記上流カソードセパレータは、前記下流カソードセパレータよりも放熱性の高い材料で構成されている請求項1から請求項10のいずれかに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、空気流の熱伝達を局所的に高めるために、熱伝導構造を有する空冷式燃料電池のセパレータプレートを開示している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池において、カソード側で発生した水蒸気が逆拡散によってアノード側に移動することがある。アノード側に移動した水蒸気が冷却されて凝縮すると液体の水になり、アノード側での燃料ガスのスムーズな流れを阻害することとなる。燃料電池は、燃料ガスが適切に供給されなければ、適切な発電を行うことができない状態となる。
【0005】
逆拡散などによるアノード側への水蒸気の移動は、燃料ガスの流れの上流から下流にかけて場所によらず発生し得る。このため、燃料ガスの流れにおいて下流に位置する部分ほど、多くの水蒸気を含みやすく、凝縮して液体の水が発生しやすいこととなる。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、燃料電池システムにはさらなる改良が求められている。
【0006】
開示される1つの目的は、安定して発電可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示された燃料電池システムは、燃料ガスと酸化剤ガスとの化学反応により発電する複数の燃料電池セル(11)を有する燃料電池スタック(31)と、燃料電池スタックに燃料ガスを供給するための燃料ガス供給装置(60)と、燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給するとともに、燃料電池スタックを冷却する酸化剤ガス供給装置(50)とを備え、燃料電池スタックは、燃料ガスを燃料電池スタックの内部に導入するための燃料入口部(32)と、燃料ガスを燃料電池スタックの内部から導出するための燃料出口部(33)と、燃料電池スタックのうち、燃料出口部よりも燃料入口部に近い部分である燃料上流部(31u)と、燃料電池スタックのうち、燃料入口部よりも燃料出口部に近い部分である燃料下流部(31d)とを備え、燃料電池セルは、酸化剤ガスの流路を形成しているカソードセパレータ(15、615)と、燃料ガスの流路を形成しているアノードセパレータ(16)とを備え、カソードセパレータは、燃料下流部の一部を構成している下流カソードセパレータ(15d、615d)と、燃料上流部の一部を構成しており、下流カソードセパレータよりも放熱性の高い上流カソードセパレータ(15u、615u)とを備えている。
【0008】
開示された燃料電池システムによると、下流カソードセパレータよりも放熱性の高い上流カソードセパレータを備えている。このため、下流カソードセパレータを有する燃料下流部の温度を、上流カソードセパレータを有する燃料上流部の温度よりも高く維持できる。したがって、水蒸気を多く含みやすい燃料下流部において、燃料ガスの流路中で水蒸気が凝縮されて液体の水が発生することを抑制できる。よって、安定して発電可能な燃料電池システムを提供できる。
【0009】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】燃料電池スタックへの反応ガスの供給を説明するための説明図である。
【
図4】燃料上流部の燃料電池セルを示す拡大斜視図である。
【
図5】燃料下流部の燃料電池セルを示す拡大斜視図である。
【
図6】燃料電池スタック内部の反応ガス流路を示す断面図である。
【
図7】第2実施形態における燃料上流部の燃料電池セルを示す拡大斜視図である。
【
図8】第3実施形態における燃料上流部の燃料電池セルを示す拡大斜視図である。
【
図9】第4実施形態における燃料上流部の燃料電池セルを示す拡大斜視図である。
【
図10】第5実施形態における燃料上流部の燃料電池セルを示す拡大斜視図である。
【
図11】第6実施形態における燃料電池スタック内部の反応ガス流路を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0012】
第1実施形態
燃料電池システム1は、燃料ガスと酸化剤ガスとの化学反応によって、発電を行うシステムである。燃料電池システム1は、例えば燃料電池ハイブリッド車(FCHV)に搭載されて走行用モータへ供給する電力を発電する。また、燃料電池システム1は、定置型燃料電池システムとして、電気と熱を同時に取り出して給湯や暖房などを行う。
【0013】
図1において、燃料電池システム1は、燃料電池スタック31と酸化剤ガス供給装置50と燃料ガス供給装置60とを備えている。燃料電池スタック31は、酸化剤ガスと燃料ガスとの化学反応で発電を行う発電装置である。燃料電池スタック31は、燃料ガスを燃料電池スタック31の内部に導入するための燃料入口部32を備えている。燃料電池スタック31は、燃料ガスを燃料電池スタック31から外部に導出するための燃料出口部33を備えている。
【0014】
燃料電池スタック31のうち、燃料ガスの流れにおいて、燃料出口部33よりも燃料入口部32に近い部分は燃料上流部31uである。一方、燃料電池スタック31のうち、燃料ガスの流れにおいて、燃料入口部32よりも燃料出口部33に近い部分は燃料下流部31dである。言い換えると、燃料電池スタック31は、燃料ガスの流れに沿って全体を二等分した場合に、燃料入口部32を含む燃料上流部31uと、燃料出口部33を含む燃料下流部31dとに分けられる。
【0015】
酸化剤ガス供給装置50は、燃料電池スタック31に化学反応用の酸化剤ガスを供給する供給機能を有する。また、酸化剤ガス供給装置50は、化学反応によって発熱している燃料電池スタック31の温度を下げる空冷機能を有する。酸化剤ガス供給装置50は、送風機51とガイド部材52とを備えている。送風機51は、燃料電池スタック31に対して酸化剤ガスである酸素を含んだ空気を供給するための装置である。送風機51は、燃料電池スタック31側から空気を吸い込み、燃料電池スタック31とは反対側に空気を吐き出すこととなる。燃料電池システム1は、燃料電池スタック31に対する水冷機能を備えず、空冷機能を備える空冷式燃料電池システムである。
【0016】
送風機51は、燃料電池スタック31に対向して設けられている。送風機51は、燃料上流部31uを通過するように送風する上流送風機51uと、燃料下流部31dを通過するように送風する下流送風機51dとを備えている。送風機51としては、回転軸の軸方向に沿って風を送る軸流送風機を採用可能である。ただし、送風機51は、軸流送風機に限らず、回転軸の径方向に風を送る遠心送風機なども採用可能である。また、送風機51に代えて、コンプレッサを用いて圧縮した空気を燃料電池スタック31に供給してもよい。
【0017】
ガイド部材52は、送風機51と燃料電池スタック31とをつないで、酸化剤ガスの流路を形成している。ガイド部材52は、燃料電池スタック31の全体に酸化剤ガスが流れるようにガイドするとともに、燃料電池スタック31を通過せずに風が流れることを抑制している。ガイド部材52は、燃料電池スタック31から送風機51に向かって徐々に風路が小さくなるように形成されている。
【0018】
燃料ガス供給装置60は、燃料ガスタンク61と供給弁62と排出弁63とを備えている。燃料ガスタンク61は、燃料ガスである水素ガスを高圧の状態で貯蔵するタンクである。燃料ガスタンク61を複数のタンクで構成してもよい。これによると、1つのタンクが空になった場合であっても、他のタンクから燃料ガスの供給を継続することができる。
【0019】
燃料ガスタンク61と燃料電池スタック31とをつなぐ燃料ガス配管には、供給弁62が設けられている。供給弁62は、燃料ガスタンク61から燃料電池スタック31に供給する燃料ガスの量を調整するための弁装置である。供給弁62を開くことで燃料電池スタック31に燃料ガスを供給し、供給弁62を閉じることで燃料電池スタック31への燃料ガスの供給を停止する。供給弁62は、開度を電気的に制御可能な電磁弁である。ただし、供給弁62を電磁弁以外の弁装置で構成してもよい。
【0020】
燃料電池スタック31と外部とをつなぐ燃料ガス配管には、排出弁63が設けられている。排出弁63は、燃料電池スタック31で反応に使われなかった燃料ガスなどの燃料電池スタック31から外部に排出する排出ガスの量を調整する弁装置である。ここで、排出ガスには、未反応の燃料ガス以外のガスも含まれる。例えば、排出ガスには、燃料電池スタック31での化学反応で生成した水としての水蒸気が含まれる。例えば、排出ガスには、燃料電池スタック31に酸化剤ガスとして供給され、一部燃料ガス側に漏れ出した空気が含まれる。排出弁63を開くことで燃料電池スタック31から排出ガスを排出し、排出弁63を閉じることで燃料電池スタック31からの排出ガスの排出を停止する。排出弁63は、開度を電気的に制御可能な電磁弁である。ただし、排出弁63を電磁弁以外の弁装置で構成してもよい。
【0021】
燃料電池スタック31で発電を行う場合には、供給弁62を開いて燃料電池スタック31に燃料ガスを供給する。また、供給した燃料ガスが消費されるまで排出弁63を閉じた状態とし、燃料ガスの消費が完了した場合に、排出弁63を開いて排出ガスを排出する。排出ガスが排出されることで、燃料電池スタック31内に新たに燃料ガスが供給されることとなる。ただし、常に排出弁63を開いた状態として、未反応の燃料ガスを含む排出ガスを排出してもよい。
【0022】
燃料電池スタック31を流れた未反応の燃料ガスをそのまま排出するのではなく、再び燃料電池スタック31に流す構成としてもよい。これによると、未反応の燃料ガスを燃料電池スタック31に再循環させて、化学反応に使用することができる。このため、未反応のまま排出される燃料ガスの量を削減して、燃料ガスを効率的に発電に利用することができる。ただし、燃料ガスを再循環させる構成を追加する分、燃料電池システム1全体のサイズが大型化しやすい。言い換えると、燃料ガスを再循環させる構成を備えないことで、燃料電池システム1全体のサイズを小型に設計しやすい。このため、燃料電池システム1の用途や使用環境等を考慮して、燃料ガスを再循環させる構成を採用するか否かを選択することが好ましい。
【0023】
燃料電池システム1は、負荷81と二次電池82と制御部90とを備えている。負荷81は、燃料電池スタック31で発電した電力を消費する装置である。負荷81は、例えば車両の走行に用いる走行用モータである。負荷81は、例えば給湯に用いるヒータ装置である。二次電池82は、燃料電池スタック31で発電した電力を蓄える装置である。二次電池82に蓄えた電力を用いて、負荷81を駆動してもよい。制御部90は、燃料電池システム1を構成する様々な装置の駆動を制御して、燃料電池スタック31の発電を制御している。
【0024】
図2において、上流送風機51uと下流送風機51dとは、互いに隣接して設けられている。上流送風機51uと下流送風機51dとは、ともに軸流送風機である。上流送風機51uの回転軸は、燃料上流部31uと対向している。下流送風機51dの回転軸は、燃料下流部31dと対向している。
【0025】
燃料電池スタック31は、複数の燃料電池セル11が積層されて構成されている。燃料電池セル11の積層方向は、Z方向である。ここで、Z方向は、上下方向のことであり、燃料電池スタック31のZ方向の両端面は、燃料電池スタック31の上面と下面とに対応している。ただし、燃料電池セル11の積層方向は、上下方向に限られない。送風機51は、燃料電池セル11の積層方向に交差する方向に風を流している。送風機51の送風方向は、X方向である。ここで、X方向は、送風機51の回転軸の軸方向に一致している。X方向とZ方向に2つの方向に直交する方向は、Y方向である。
【0026】
燃料入口部32は、燃料電池スタック31の下面に設けられている。このため、燃料ガスは、燃料電池セル11の積層方向に沿って燃料電池スタック31内部に導入されることとなる。燃料出口部33は、燃料電池スタック31の下面に設けられている。このため、燃料ガスは、燃料電池セル11の積層方向に沿って燃料電池スタック31内部から導出されることとなる。
【0027】
図3において、燃料電池セル11は、膜電極接合体12と酸化剤ガス拡散層14aと燃料ガス拡散層14bとカソードセパレータ15とアノードセパレータ16とを備えている。膜電極接合体12は、電解質膜の一方の面にアノード電極を配設し、他方の面にカソード電極を配設して構成された接合体である。アノード電極やカソード電極は、白金などの触媒をカーボンなどの担持体で担持して構成されている。膜電極接合体12は、MEAとも呼ばれる。
【0028】
各燃料電池セル11は、燃料ガスとして機能する水素ガスと酸化剤ガスとして機能する酸素を含む空気とが供給されることで、電気エネルギを出力することとなる。より詳細には、アノード側では、水素が水素イオンと電子に変化する反応が引き起こされる。一方、カソード側では、水素イオンと電子と酸素とが反応して水が生成する反応が引き起こされる。
【0029】
酸化剤ガス拡散層14aと燃料ガス拡散層14bとは、酸化剤ガスや燃料ガスなどの反応ガスを拡散させる機能を有する。酸化剤ガス拡散層14aと燃料ガス拡散層14bとは、ガス透過性および電子伝導性を有する多孔質部材で構成されている。
【0030】
カソードセパレータ15とアノードセパレータ16とは、例えば、導電性を有する材料である金属やカーボンで構成されている。カソードセパレータ15は、酸化剤ガスが流れる流路を形成している。カソードセパレータ15において、酸化剤ガスの流れる方向は、X方向である。アノードセパレータ16は、燃料ガスが流れる流路を形成している。アノードセパレータ16において、燃料ガスの流れる方向は、Y方向である。酸化剤ガス拡散層14aは、カソードセパレータ15と膜電極接合体12との間に位置している。燃料ガス拡散層14bは、アノードセパレータ16と膜電極接合体12との間に位置している。
【0031】
膜電極接合体12は、化学反応が引き起こされる反応面として機能する部分よりも外側に燃料ガスの流通可能なマニホールド19を備えている。酸化剤ガス拡散層14aと燃料ガス拡散層14bとは、拡散層として機能する部分よりも外側に燃料ガスの流通可能なマニホールド19を備えている。カソードセパレータ15は、酸化剤ガスが流れる流路を形成している部分よりも外側に燃料ガスの流通可能なマニホールド19を備えている。アノードセパレータ16は、燃料ガスが流れる流路を形成している部分の端に燃料ガスを燃料電池セル11の積層方向であるZ方向に流通可能なマニホールド19を備えている。
【0032】
マニホールド19は、燃料入口部32から導入された直後の燃料ガスが流れる上流マニホールド19uを備えている。マニホールド19は、燃料出口部33から導出される直前の燃料ガスが流れる下流マニホールド19dを備えている。このマニホールド19によって複数の燃料電池セル11を貫通して燃料ガスをアノードセパレータ16に形成された燃料ガスの流路に流すことができる。
【0033】
カソードセパレータ15は、上流カソードセパレータ15uと下流カソードセパレータ15dとを備えている。上流カソードセパレータ15uは、カソードセパレータ15のうち燃料上流部31uを構成している部分である。下流カソードセパレータ15dは、カソードセパレータ15のうち燃料下流部31dを構成している部分である。
【0034】
図4において、カソードセパレータ15は、波型の板部材である。カソードセパレータ15は、酸化剤ガスの流路として反応用流路部15rと冷却用流路部15cとの2種類の流路部を備えている。反応用流路部15rは、酸化剤ガス拡散層14a側が開放されている流路部である。反応用流路部15rを流れている酸化剤ガスは、酸化剤ガス拡散層14aに流れ込み、化学反応に使用される。一方、冷却用流路部15cは、酸化剤ガス拡散層14aとは反対側が開放されている流路部である。冷却用流路部15cを流れている酸化剤ガスは、酸化剤ガス拡散層14aに流れ込むことができない。ただし、燃料電池セル11をX方向に貫通するように酸化剤ガスが通過することになる。このため、燃料電池セル11の冷却に大きく寄与する。反応用流路部15rと冷却用流路部15cとは、Y方向に交互に並んで形成されている。
【0035】
上流カソードセパレータ15uにおいて、冷却用流路部15cには、放熱促進部55である放熱フィン55fが設けられている。放熱促進部55とは、放熱性能の向上に寄与する部分のことである。放熱フィン55fは、上流カソードセパレータ15uからZ方向に突出して設けられている。放熱フィン55fは、X方向を長手方向とする板形状である。放熱フィン55fの上流カソードセパレータ15uからの突出量は、上流カソードセパレータ15uの高さよりも小さい。言い換えると、放熱フィン55fのZ方向の大きさは、上流カソードセパレータ15uのZ方向の大きさよりも小さい。このため、燃料電池セル11を積層した状態において、放熱フィン55fのZ方向の端部は、隣接する燃料電池セル11と接触しない。したがって、放熱フィン55fと隣接する燃料電池セル11との間の隙間を酸化剤ガスが通過することができる。
【0036】
放熱フィン55fのZ方向の大きさは、上流カソードセパレータ15uのZ方向の大きさの半分以上の大きさである。放熱フィン55fは、冷却用流路部15cのY方向の略中央部分に設けられている。放熱フィン55fは、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの最上流部である始端部から最下流部である終端部まで連続して設けられている。
【0037】
上流カソードセパレータ15uに放熱フィン55fが設けられていることで、酸化剤ガスと上流カソードセパレータ15uが接触する表面積を大きく確保することができる。放熱フィン55fが大きいほど、酸化剤ガスと上流カソードセパレータ15uが接触する表面積を大きく確保することができる。1つの冷却用流路部15c内に、複数の放熱フィン55fを設けてもよい。
【0038】
図5において、下流カソードセパレータ15dには、放熱促進部55に相当する構成は設けられていない。このため、下流カソードセパレータ15dは、上流カソードセパレータ15uに比べて、酸化剤ガスと接触する表面積が小さく、放熱性が低いこととなる。
【0039】
図6において、燃料電池セル11がZ方向に積層されているため、カソードセパレータ15とアノードセパレータ16とがZ方向に交互に並んでいる。ここで、燃料電池セル11を構成している膜電極接合体12、酸化剤ガス拡散層14a、燃料ガス拡散層14bについては、図示を省略している。
【0040】
放熱フィン55fは、複数の冷却用流路部15cごとに設けられている。冷却用流路部15cと反応用流路部15rとは、Y方向において交互に形成されている。このため、上流カソードセパレータ15uにおいて、放熱フィン55fを有する流路部と、放熱フィン55fを有さない流路部とが交互に形成されていることになる。一方、下流カソードセパレータ15dにおいて、放熱フィン55fは設けられていない。
【0041】
アノードセパレータ16の内部には、滞留水Wが存在することがある。滞留水Wの発生する理由について、以下に説明する。燃料電池セル11の化学反応では、カソード側に水が生成する。さらに、酸化剤ガスとして空気を供給する場合には、供給される空気に水分が含まれている。このように、燃料電池スタック31の発電中において、カソードセパレータ15側には、水分が存在している状態となる。また、燃料電池スタック31の発電にともない、膜電極接合体12は発熱する。このため、カソードセパレータ15側に存在する水分は、膜電極接合体12によって加熱されて、水蒸気となりやすい。
【0042】
膜電極接合体12を構成している電解質膜は、水素イオンだけでなく水蒸気を透過する膜である。このため、膜電極接合体12において、カソード側に存在している水蒸気は、膜電極接合体12を透過してアノード側に移動する。カソード側からアノード側に水蒸気が移動する現象は、逆拡散と呼ばれる。アノード側に移動した水蒸気は、冷却されてアノードセパレータ16の表面に凝縮する。この凝縮水がアノードセパレータ16の表面に留まることで、滞留水Wとなる。逆拡散は、膜電極接合体12の電解質膜の膜厚が薄いほど発生しやすい。
【0043】
また、燃料電池セル11においては、カソード側を流れていた酸化剤ガスの一部がアノード側に漏れ出すことがある。このため、カソード側を流れている燃料ガスには、一部の酸化剤ガスが混ざった状態となる。酸化剤ガスとして空気を供給する場合には、燃料ガス中にカソード側から漏れ出した窒素や水などが混ざることとなる。このカソード側から漏れ出した水についても、膜電極接合体12を透過した水蒸気と同様にアノードセパレータ16の表面で凝縮して、滞留水Wとなり得る。
【0044】
カソード側で発生した水蒸気のアノード側への逆拡散や、カソード側からアノード側に酸化剤ガスの一部が漏れ出す現象は、燃料電池セル11全体で起こり得る。したがって、燃料ガスの流れにおいて、下流に位置する燃料ガスほど多くの水が混ざった状態となりやすい。よって、燃料電池セル11を流れる燃料ガスの流れにおいて、下流に位置する部分ほど滞留水Wが発生しやすく、滞留水Wの量が多くなりやすい。
【0045】
滞留水Wは、アノードセパレータ16における燃料ガスの流路を狭めて、圧力損失を増大させる。言い換えると、滞留水Wが存在することで、アノードセパレータ16を燃料ガスが適切に流れにくい状態となる。このため、アノードセパレータ16に形成された複数の流路部のうち、滞留水Wが存在する流路部は、滞留水Wが存在しない流路部に比べて流れる燃料ガスの量が少なくなる。したがって、適切な発電に必要な燃料ガスの供給が受けられず、その燃料電池セル11における発電量が低下してしまう。このように、燃料電池セル11ごとの滞留水Wの有無および滞留水Wの量によって、燃料電池セル11ごとの発電量にばらつきが生じ、燃料電池スタック31全体としての発電量が低下する。
【0046】
燃料電池システム1において滞留水Wの影響を抑制できる理由について、以下に説明する。カソードセパレータ15は、上流カソードセパレータ15uの方が下流カソードセパレータ15dよりも放熱性が高い。言い換えると、下流カソードセパレータ15dは、上流カソードセパレータ15uよりも放熱性が低く、発電に伴う発熱によって温度が高くなりやすい。したがって、下流カソードセパレータ15dを含む燃料下流部31dは、上流カソードセパレータ15uを含む燃料上流部31uよりも温度が高くなりやすい。滞留水Wは、水蒸気が凝縮することで発生する。このため、温度の高い燃料下流部31dでは、水蒸気の凝縮が引き起こされにくく、滞留水Wが発生しにくくなる。また、温度の高い燃料下流部31dでは、発生した滞留水Wを蒸発させて、解消しやすいことも、滞留水Wの影響を抑制できる理由の1つである。
【0047】
上述した実施形態によると、燃料電池システム1は、下流カソードセパレータ15dと、下流カソードセパレータ15dよりも放熱性の高い上流カソードセパレータ15uとを備えている。このため、燃料ガス中に水蒸気を多く含みやすい燃料下流部31dの温度が燃料上流部31uの温度よりも高い状態を維持しやすい。したがって、燃料下流部31dの燃料ガス流路で水蒸気が冷却されて凝縮することを防ぎやすい。よって、凝縮した滞留水Wによって燃料ガスのスムーズな流れが阻害されにくく、適切な燃料ガスの供給を維持しやすい。以上により、安定して発電可能な燃料電池システム1を提供できる。
【0048】
上流カソードセパレータ15uにおける酸化剤ガスの流路は、下流カソードセパレータ15dにおける酸化剤ガスの流路よりも酸化剤ガスと接触する表面積が大きい。このため、シンプルな構成で下流カソードセパレータ15dに比べて上流カソードセパレータ15uの放熱性を高めることができる。
【0049】
カソードセパレータ15は、酸化剤ガスの流路に設けられている放熱促進部55を備えている。このため、放熱促進部55の形状や配置を適切に調整することで、カソードセパレータ15の放熱性を容易に変更できる。
【0050】
放熱促進部55は、上流カソードセパレータ15uに設けられ、下流カソードセパレータ15dには設けられていない。このため、下流カソードセパレータ15dにも放熱促進部55を設けた場合に比べて、燃料上流部31uと燃料下流部31dとの温度差を大きく確保しやすい。ここで、燃料上流部31uと燃料下流部31dとの温度差が小さ過ぎる場合には、燃料上流部31uの目標温度と燃料下流部31dの目標温度とを両立できない場合がある。したがって、燃料上流部31uと燃料下流部31dとの温度差を大きく確保可能にすることは、燃料上流部31uと燃料下流部31dとのそれぞれで適切に発電を維持するために重要である。
【0051】
放熱促進部55は、カソードセパレータ15から突出して設けられている放熱フィン55fである。このため、放熱フィン55fを設けていない部分に比べて、酸化剤ガスと接触する表面積を拡大しやすい。特に、放熱フィン55fは、酸化剤ガスの流速が遅い場合であっても、安定して放熱性を高く発揮しやすい構成である。
【0052】
放熱促進部55は、反応用流路部15rよりも冷却用流路部15cに多く設けられている。このため、反応用流路部15rに多くの放熱促進部55が設けられてしまい、化学反応に必要な酸化剤ガスが不足するといった事態を抑制しやすい。したがって、燃料電池スタック31に対する化学反応用の酸化剤ガスの供給を安定して維持するとともに、燃料上流部31uの温度を適切に低下させやすい。ここで、反応用流路部15rに放熱促進部55を設ける場合には、化学反応用の酸化剤ガスの供給を安定して維持できる形状および配置とすることが好ましい。
【0053】
放熱促進部55は、冷却用流路部15cに設けられ、反応用流路部15rには設けられていない。このため、放熱促進部55が冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れを妨げることがない。したがって、燃料電池スタック31に化学反応用の酸化剤ガスを安定して供給するとともに、燃料上流部31uの温度を適切に低下させやすい。
【0054】
放熱促進部55の形状や配置は、上述の例に限られず、所望の放熱性能が発揮可能な範囲で任意の形状および配置を採用可能である。
【0055】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、放熱促進部255が撹拌部255sを備えている。また、1つの冷却用流路部15c内に撹拌部255sと放熱フィン255fとを備えている。
【0056】
図7において、上流カソードセパレータ15uの冷却用流路部15cには、放熱促進部255が設けられている。放熱促進部255は、酸化剤ガスの流れを乱すための撹拌部255sを備えている。撹拌部255sは、上流カソードセパレータ15uからZ方向に突出して設けられた凸部である。撹拌部255sは、X方向を長手方向とする板形状である。撹拌部255sの上流カソードセパレータ15uからの突出量は、上流カソードセパレータ15uの高さよりも小さい。言い換えると、撹拌部255sのZ方向の大きさは、上流カソードセパレータ15uのZ方向の大きさよりも小さい。
【0057】
撹拌部255sは、冷却用流路部15cのY方向の略中央部分に設けられている。撹拌部255sは、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの最上流部である始端部を含む位置に設けられている。撹拌部255sのX方向の大きさは、上流カソードセパレータ15uのX方向の大きさよりも小さい。冷却用流路部15cの終端部を含む部分には、撹拌部255sが設けられていない。このため、燃料電池セル11をX方向から視認した際に、始端部側からは撹拌部255sが視認でき、終端部側からは撹拌部255sが視認できないこととなる。
【0058】
放熱促進部255は、放熱フィン255fを備えている。放熱フィン255fは、酸化剤ガスの流れにおいて、撹拌部255sよりも下流側に設けられている。放熱フィン255fのX方向の大きさは、撹拌部255sのX方向の大きさよりも大きい。放熱フィン255fのY方向の大きさは、撹拌部255sのY方向の大きさよりも小さい。放熱フィン255fのZ方向の大きさは、撹拌部255sのZ方向の大きさよりも大きい。言い換えると、撹拌部255sと放熱フィン255fとは、互いに異なる形状である。
【0059】
上流カソードセパレータ15uに撹拌部255sが設けられていることで、撹拌部255sの周囲の酸化剤ガスの流れを撹拌する。より詳細には、冷却用流路部15cに流入する酸化剤ガスが撹拌部255sに衝突することで酸化剤ガスの流れが変化することとなる。これにより、上流カソードセパレータ15uの表面に沿ってX方向に流れる酸化剤ガスを、X方向だけでなくY方向やZ方向にも流れるようにすることができる。言い換えると、撹拌部255sは、酸化剤ガスの流れを乱し、層流から乱流に変化させる。
【0060】
撹拌部255sの撹拌により、上流カソードセパレータ15uの表面付近を流れる酸化剤ガスが、表面付近の位置を維持したままX方向に沿って流れ続けることを抑制できる。したがって、上流カソードセパレータ15uの表面付近を流れて温度が上昇した酸化剤ガスは、上流カソードセパレータ15uの表面付近から引き離される。その後、上流カソードセパレータ15uの表面付近には、新しく温度が上昇する前の酸化剤ガスが引き寄せられることとなる。
【0061】
まとめると、酸化剤ガスの流れを撹拌することで、上流カソードセパレータ15uから近い位置を流れる酸化剤ガスを引き離し、上流カソードセパレータ15uから離れた位置を流れる酸化剤ガスを引き寄せることができる。これにより、上流カソードセパレータ15uと酸化剤ガスとの温度差が大きい状態を維持しやすい。よって、上流カソードセパレータ15uと酸化剤ガスとの間での熱交換効率を高めやすい。言い換えると、上流カソードセパレータ15uの熱を酸化剤ガスに放熱する放熱性を高めやすい。
【0062】
上述した実施形態によると、放熱促進部255は、酸化剤ガスの流れを撹拌する撹拌部255sである。このため、カソードセパレータ15を流れる酸化剤ガスのうち、カソードセパレータ15と接触して熱交換する酸化剤ガスの割合を高めることができる。したがって、撹拌部255sが設けられている上流カソードセパレータ15uにおける放熱性を高めやすい。特に、撹拌部255sによって酸化剤ガスの流れを熱交換効率の低い層流から熱交換効率の高い乱流に変化させることで、熱交換効率を大きく向上させることができる。
【0063】
カソードセパレータ15は、酸化剤ガスの流れの上流から下流に向かって、撹拌部255sと放熱フィン255fとを備えている。言い換えると、カソードセパレータ15は、酸化剤ガスの流れの上流から下流に向かって、互いに形状の異なる複数の放熱促進部255を備えている。このため、様々な形状の放熱促進部255を組み合わせて放熱性を細かく調整することができる。また、酸化剤ガスの流れの撹拌を目的とする撹拌部255sと、酸化剤ガスとの接触面積の拡大を目的とする放熱フィン255fとのように、異なる目的で放熱性の向上を実現する構成を組み合わせることができる。このため、複数の放熱促進部255として適切な組み合わせを採用することで、放熱性を向上させやすい。
【0064】
撹拌部255sは、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの最上流部である始端部を含む位置に設けられている。このため、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの最上流において、酸化剤ガスの流れを乱すことができる。したがって、酸化剤ガスの流れの上流から下流まで冷却用流路部15c全体にわたって熱交換効率向上の効果を得ることができる。
【0065】
撹拌部255sは、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの最上流部である始端部を含む位置に設けられ、終端部には設けられていない。言い換えると、撹拌部255sが視認できる側を酸化剤ガスの流れの最上流部となるように、燃料電池スタック31を設置することとなる。このため、燃料電池スタック31の適切な向きを認識しやすく、酸化剤ガス供給装置50に対する燃料電池スタック31の向きを誤って配置してしまうことを防止しやすい。
【0066】
放熱促進部255として、撹拌部255sと放熱フィン255fとを備えた構成を例に説明したが、放熱促進部255の構成は上述の構成に限られない。例えば、放熱促進部255を撹拌部255sのみで構成してもよい。また、放熱促進部255を酸化剤ガスの流れの上流から下流までの間に複数設けた撹拌部255sで構成してもよい。
【0067】
撹拌部255sとして、カソードセパレータ15からZ方向に突出して設けられた凸部を例に説明したが、酸化剤ガスの流れを撹拌する構成は凸部に限られない。例えば、カソードセパレータ15からZ方向に陥没して設けられた凹部で構成してもよい。あるいは、撹拌部255sを凸部と凹部とを組み合わせて構成してもよい。
【0068】
放熱促進部255の形状や配置は、上述の例に限られず、所望の放熱性能が発揮可能な範囲で任意の形状および配置を採用可能である。
【0069】
第3実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、放熱促進部355である放熱フィン355fが、冷却用流路部15cと反応用流路部15rとの両方の流路に設けられている。
【0070】
図8において、上流カソードセパレータ15uの冷却用流路部15cと反応用流路部15rとには、放熱促進部355として機能する放熱フィン355fが設けられている。放熱フィン355fは、上流カソードセパレータ15uからZ方向に突出して設けられている。冷却用流路部15cに設けられている放熱フィン355fは、Z方向のうち膜電極接合体12から離れる方向に突出している。一方、反応用流路部15rに設けられている放熱フィン355fは、Z方向のうち膜電極接合体12に近づく方向に突出している。
【0071】
放熱フィン355fは、X方向を長手方向とする板形状である。放熱フィン355fの上流カソードセパレータ15uからの突出量は、上流カソードセパレータ15uの高さよりも小さい。言い換えると、放熱フィン355fのZ方向の大きさは、上流カソードセパレータ15uのZ方向の大きさよりも小さい。このため、燃料電池セル11を積層した状態において、冷却用流路部15cに設けられている放熱フィン355fのZ方向の端部は、隣接する燃料電池セル11と接触しない。したがって、冷却用流路部15cに設けられている放熱フィン355fと隣接する燃料電池セル11との間の隙間を酸化剤ガスが通過することができる。また、反応用流路部15rに設けられている放熱フィン355fのZ方向の端部は、酸化剤ガス拡散層14aと接触しない。したがって、反応用流路部15rに設けられている放熱フィン355fと酸化剤ガス拡散層14aとの間の隙間を酸化剤ガスが通過することができる。
【0072】
放熱フィン355fのZ方向の大きさは、上流カソードセパレータ15uのZ方向の大きさの半分以上の大きさである。放熱フィン355fは、冷却用流路部15cのY方向の略中央部分に設けられている。放熱フィン355fは、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの最上流部である始端部から最下流部である終端部まで連続して設けられている。
【0073】
上流カソードセパレータ15uに放熱フィン355fが設けられていることで、酸化剤ガスと上流カソードセパレータ15uが接触する表面積を大きく確保することができる。放熱フィン355fが大きいほど、酸化剤ガスと上流カソードセパレータ15uが接触する表面積を大きく確保することができる。1つの冷却用流路部15c内に、複数の放熱フィン355fを設けてもよい。
【0074】
上述した実施形態によると、放熱促進部355は、上流カソードセパレータ15uの冷却用流路部15cと反応用流路部15rとの両方の流路に設けられている。このため、冷却用流路部15cのみに放熱促進部355が設けられている場合に比べて、上流カソードセパレータ15uの放熱性を高めやすい。
【0075】
反応用流路部15rに設けられている放熱フィン355fと酸化剤ガス拡散層14aとの間には、隙間が設けられている。このため、酸化剤ガス拡散層14aに酸化剤ガスが流れ込むことを、放熱フィン355fが阻害しにくい。
【0076】
冷却用流路部15cに設けられている放熱フィン355fと、反応用流路部15rに設けられている放熱フィン355fとを異なる形状としてもよい。例えば、反応用流路部15rの放熱フィン355fのZ方向の大きさを、冷却用流路部15cの放熱フィン355fのZ方向の大きさよりも小さくする。これによると、反応用流路部15rの圧力損失の増加を小さくして、膜電極接合体12に適切な量の酸化剤ガスを安定して供給しやすい。
【0077】
放熱促進部355の形状や配置は、上述の例に限られず、所望の放熱性能が発揮可能な範囲で任意の形状および配置を採用可能である。
【0078】
第4実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、放熱促進部455として機能する放熱フィン455fが設けられている。放熱フィン455fは、燃料ガスの流れの上流から下流に向かって、カソードセパレータ15からの突出量が小さくなるように構成されている。
【0079】
図9において、燃料電池セル11がZ方向に積層されているため、カソードセパレータ15とアノードセパレータ16とがZ方向に交互に並んでいる。ここで、燃料電池セル11を構成する膜電極接合体12、酸化剤ガス拡散層14a、燃料ガス拡散層14bについては、図示を省略している。
【0080】
放熱フィン455fは、複数の冷却用流路部15cごとに設けられており、冷却用流路部15cと反応用流路部15rとは、Y方向において交互に形成されている。このため、カソードセパレータ15において、放熱フィン455fを有している流路部と、放熱フィン455fを有していない流路部とが交互に形成されていることになる。また、放熱フィン455fは、上流カソードセパレータ15uと下流カソードセパレータ15dとの両方に設けられている。
【0081】
放熱フィン455fは、燃料ガスの流れの上流から下流に向かって、複数設けられている。放熱フィン455fの突出量は、Y方向において燃料入口部32に近い位置に設けられているほど大きい。言い換えると、放熱フィン455fの突出量は、Y方向において燃料出口部33に近い位置に設けられているほど小さい。このため、上流カソードセパレータ15uに設けられている放熱フィン455fの突出量は、下流カソードセパレータ15dに設けられている放熱フィン455fの突出量よりも大きいこととなる。
【0082】
放熱フィン455fの突出量は、Y方向に隣り合う放熱フィン455f同士で所定量ずつ異なる。例えば、最も小さい放熱フィン455fの突出量をF0とした場合、Y方向において1つと隣に設けられている放熱フィン455fの突出量は、F0の2倍に設定できる。また、さらにその隣の放熱フィン455fの突出量は、F0の3倍に設定できる。このように、突出量をF0の倍数に設定することで、Y方向に隣り合う放熱フィン455f同士の突出量をF0ずつ異ならせることができる。言い換えると、放熱フィン455fの突出量をY方向の位置に対して線形な関係とすることができる。
【0083】
放熱フィン455fの突出量は、Y方向の位置に対して線形な関係とする場合に限られない。例えば、Y方向の位置に対して放熱フィン455fの突出量を非線形な関係としてもよい。また、下流カソードセパレータ15dにおける放熱フィン455fの突出量を全てF0とし、上流カソードセパレータ15uにおける放熱フィン455fの突出量を全てF0の5倍とするなどしてもよい。
【0084】
放熱フィン455fの突出量が大きいほど、酸化剤ガスと接触する表面積が大きく、放熱性が高くなる。一方、放熱フィン455fの突出量が小さいほど、酸化剤ガスと接触する表面積が小さく、放熱性が低くなる。このため、上流カソードセパレータ15uの放熱性は、下流カソードセパレータ15dの放熱性よりも高くなる。
【0085】
上述した実施形態によると、放熱フィン455fは、燃料ガスの流れの上流から下流に向かって、カソードセパレータ15からの突出量が小さくなる。このため、カソードセパレータ15における放熱性を段階的に変化させることができる。したがって、カソードセパレータ15において、放熱性が高すぎる部分や低すぎる部分が生じることを抑制しやすい。
【0086】
放熱促進部455の形状や配置は、上述の例に限られず、所望の放熱性能が発揮可能な範囲で任意の形状および配置を採用可能である。
【0087】
第5実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、放熱促進部555として機能する放熱フィン555fが設けられている。放熱フィン555fは、酸化剤ガスの流れの上流から下流に向かって、カソードセパレータ15からの突出量が大きくなるように構成されている。
【0088】
図10において、上流カソードセパレータ15uの冷却用流路部15cには、放熱促進部555である放熱フィン555fが設けられている。放熱フィン555fは、上流カソードセパレータ15uからZ方向に突出して設けられている。放熱フィン555fは、X方向を長手方向とする板形状である。放熱フィン555fの上流カソードセパレータ15uからの突出量は、酸化剤ガスの流れの上流から下流に向かって徐々に大きくなるように構成されている。このため、冷却用流路部15cにおける表面積は、酸化剤ガスの最上流が最も大きく、最下流が最も小さくなる。
【0089】
放熱フィン555fの突出量は、X方向の位置に対して線形に変化する関係となっている。ただし、X方向の位置と放熱フィン555fの突出量との関係は、線形な関係に限られない。例えば、X方向の位置に対して放熱フィン455fの突出量を非線形な関係としてもよい。また、始端部からX方向の中央までの放熱フィン455fの突出量を一定のF0とし、X方向の中央から終端部までの突出量をF0の5倍としてもよい。この場合、放熱フィン555fは、X方向において段差を有する形状となる。
【0090】
酸化剤ガスは、冷却用流路部15cを流れる過程で、カソードセパレータ15の表面と接触して熱交換する。このため、酸化剤ガスの温度は、酸化剤ガスの流れの上流で最も低く、下流で最も高くなりやすい。すなわち、酸化剤ガスの温度の観点からは、酸化剤ガスの流れの上流の放熱性が高く、下流の放熱性が低くなる。一方、冷却用流路部15cにおける表面積は、酸化剤ガスの最上流で最も小さく、最下流で最も大きくなるように構成されている。このため、冷却用流路部15cの表面積の観点からは、酸化剤ガスの流れの上流の放熱性が低く、下流の放熱性が高くなる。
【0091】
まとめると、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの上流側は、酸化剤ガスとの温度差が大きく、熱交換可能な表面積が小さいため、放熱性が中程度となる。一方、冷却用流路部15cにおける酸化剤ガスの流れの下流側は、酸化剤ガスとの温度差が小さく、熱交換可能な表面積が大きいため、放熱性が中程度となる。このように、放熱フィン555fを設けることで、冷却用流路部15cにおいて、X方向の放熱性の分布を同程度にすることができる。言い換えると、放熱フィン555fを設けることで、酸化剤ガスの流れ方向における温度分布のばらつきを解消することができる。
【0092】
上述した実施形態によると、放熱フィン555fは、酸化剤ガスの流れの上流から下流に向かって、カソードセパレータ15からの突出量が大きくなるように構成されている。このため、酸化剤ガスの流れの下流ほど放熱フィン555fの表面積を大きく確保できる。したがって、酸化剤ガスの流れ方向において放熱性に大きな偏りが発生してしまうことを解消できる。
【0093】
放熱促進部555の形状や配置は、上述の例に限られず、所望の放熱性能が発揮可能な範囲で任意の形状および配置を採用可能である。
【0094】
第6実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、上流カソードセパレータ615uは、下流カソードセパレータ615dよりも放熱性の高い材料で構成されている。また、上流カソードセパレータ615uにおける冷却用流路部615cのY方向の大きさは、下流カソードセパレータ615dにおける冷却用流路部615cのY方向の大きさよりも小さい。
【0095】
図11において、上流カソードセパレータ615uは、チタンやステンレスやアルミなどの金属材料で構成されている。一方、下流カソードセパレータ615dは、カーボンで構成されている。一般的に金属材料は、カーボンに比べて熱伝導性の高い材料である。このため、上流カソードセパレータ615uは、下流カソードセパレータ615dに比べて放熱性の高い材料で構成されていることとなる。
【0096】
上流カソードセパレータ615uの冷却用流路部615cは、下流カソードセパレータ615dの冷却用流路部615cに比べて、Y方向の大きさが小さい。一方、反応用流路部15rのY方向の大きさは、上流カソードセパレータ615uと下流カソードセパレータ615dとの両方で等しい大きさである。また、下流カソードセパレータ615dの冷却用流路部615cと反応用流路部15rのY方向の大きさは、互いに略等しい大きさである。まとめると、上流カソードセパレータ615uにおける冷却用流路部615cのみが、カソードセパレータ615の他の流路部に比べてY方向の大きさが小さい。
【0097】
冷却用流路部615cのZ方向の大きさは、上流カソードセパレータ615uと下流カソードセパレータ615dとの両方で等しい大きさである。ここで、流路部の断面積は、Y方向の大きさである流路幅とZ方向の大きさである流路高さとの積で算出される。このため、流路幅の小さな上流カソードセパレータ615uにおける冷却用流路部615cの断面積が他の流路部に比べて断面積が小さいこととなる。冷却用流路部615cの断面積が小さいほど、冷却用流路部615cを流れる酸化剤ガスの流速が速くなる。このため、断面積が小さいほど、上流カソードセパレータ615uの表面付近に多くの酸化剤ガスを流すことができる。言い換えると、断面積が小さいほど、放熱性を高めることができる。
【0098】
上述した実施形態によると、上流カソードセパレータ615uにおける冷却用流路部615cは、下流カソードセパレータ615dにおける冷却用流路部615cよりも断面積が小さい。このため、上流カソードセパレータ615uの冷却用流路部615cを流れる酸化剤ガスの流速を速くして、放熱性を高めることができる。また、上流カソードセパレータ615uに冷却用流路部615cを形成する数を多く確保できる。このため、放熱性を高めることができる。
【0099】
上流カソードセパレータ615uは、下流カソードセパレータ615dよりも放熱性の高い材料で構成されている。このため、燃料下流部31dの温度を燃料上流部31uの温度に比べて高く維持しやすい。したがって、水蒸気を多く含みやすい燃料下流部31dにおいて、水蒸気が凝縮して滞留水Wが発生することを抑制しやすい。
【0100】
上流カソードセパレータ615uを下流カソードセパレータ615dよりも放熱性の高い材料で構成するとともに、放熱フィン55fや撹拌部255sなどを設けてもよい。これによると、材料と構造の両方の観点から上流カソードセパレータ615uの放熱性を下流カソードセパレータ615dの放熱性を高めることができる。
【0101】
他の実施形態
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、1つの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0102】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 燃料電池システム、 11 燃料電池セル、 12 膜電極接合体、 15 カソードセパレータ、 15u 上流カソードセパレータ、 15d 下流カソードセパレータ、 15c 冷却用流路部、 15r 反応用流路部、 16 アノードセパレータ、 31 燃料電池スタック、 31u 燃料上流部、 31d 燃料下流部、 32 燃料入口部、 33 燃料出口部、 50 酸化剤ガス供給装置、 55 放熱促進部、 55f 放熱フィン、 60 燃料ガス供給装置、 255 放熱促進部、 255f 放熱フィン、 255s 撹拌部、 355 放熱促進部、 355f 放熱フィン、 455 放熱促進部、 455f 放熱フィン、 555 放熱促進部、 555f 放熱フィン、 615 カソードセパレータ、 615u 上流カソードセパレータ、 615d 下流カソードセパレータ、 615c 冷却用流路部