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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
G01B11/06 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020150784
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022045215
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2022-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】友田 達規
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-020318(JP,A)
【文献】特開2006-071316(JP,A)
【文献】特開2020-085769(JP,A)
【文献】特開2017-207316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3波長以上の単色光を出射する光源と、
前記単色光を透過する第1の摺動部と、
前記第1の摺動部を透過した前記単色光の一部を反射し他部を透過する半透膜と、
前記半透膜を透過した前記単色光を反射する第2の摺動部と、
荷重を付与しながら前記第1の摺動部と前記第2の摺動部とを相対運動させる荷重付与部と、
前記半透膜で反射した前記単色光と前記第2の摺動部で反射した前記単色光を干渉させた干渉画像を取得する撮像部と、
前記干渉画像による前記単色光の波長域ごとの輝度分布画像を色相分布画像に変換し、予め定められた光学膜厚と色相値の対応関係に基づいて前記色相分布画像の画素ごとの色相値を光学膜厚に変換して光学膜厚分布画像を取得し、前記半透膜と前記第2の摺動部との間に形成された透明膜の光学膜厚分布を演算する演算部と、を含み、
前記演算部は、色相分布画像の各画素の色相値を正弦成分、余弦成分に分離し、前記正弦成分、前記余弦成分の各々に対して色相フィルタリング処理を行った後、逆正接をとって元に戻すことによって、前記色相分布画像における特異画素を除去するための色相フィルタリング処理をさらに実行する
測定装置。
【請求項2】
前記色相フィルタリング処理で用いるフィルタがガウシアンフィルタである
請求項に記載の測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記色相フィルタリング処理前の色相分布に対応する光学膜厚値候補の中から、色相フィルタリング処理後の色相から得た光学膜厚に最も近い光学膜厚の値を選択することによって色相分布画像の鮮明さを復元する処理をさらに実行する
請求項1または請求項2に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚を測定する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜厚を測定する測定装置の従来技術の一例として、例えば特許文献1に開示された膜厚測定装置が知られている。特許文献1に係る膜厚測定装置では、白色偏光干渉法によって、接触状態にあるガラス板と試料の間の干渉画像を取得する。ガラス板には、クロム薄膜とシリカ薄膜が形成されている。その色情報をHSV色空間に変換して色相値を求め、二面間のすきまの厚さとの較正結果に基づき、すきまの厚さあるいは膜厚ゼロに相当する真実接触部を可視化する。
【0003】
また、特許文献2に開示された油膜厚さの測定装置も知られている。特許文献2に係る測定装置は、透明板と、光源と、顕微鏡と、カメラと、演算装置とを備える。光源およびカメラは、透明板の上面側に配置される。光源は、複数の波長域の光を透明板と転動体との接触部に瞬間的に照射する。カメラは、干渉光が入射されたときに顕微鏡で拡大された接触部を撮影して干渉画像を生成する。演算装置は、波長域ごとの強度を干渉画像から取得して油膜厚さに変換する。測定装置は、光源の発光時間をL[μs]、転動体の回転速度をV[m/s]、顕微鏡倍率をM、カメラの撮像素子サイズおよび画素数をS[μm]、NPとしたとき、0<L×V+(S/NP)/M≦5を満たす。
【0004】
さらに、特許文献3に開示された摺動装置も知られている。特許文献3に係る摺動装置では、透明摺動材と反射摺動材とが荷重を受けながら相対運動し、液体膜は、透明摺動材と反射摺動材との間に存在し、透明摺動材および液体膜は、光を透過する材質から構成され、反射摺動材は、光を反射する材質から構成される。白色光源からの光を、バンドパスフィルタを用いて3波長の単色光から構成される光にし、透明摺動材と液体膜とを透過させて反射摺動材へ照射して光干渉を生じさせ、カメラは、生じた光干渉における、波長が異なる2以上の光の各々の輝度を計測する。演算装置は、カメラによって計測された2以上の光の各々の輝度に基づいて、液体膜の膜厚を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-020318号公報
【文献】特開2017-207316号公報
【文献】特開2017-053690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術に係る測定装置では以下のような課題があった。特許文献1に関連して、白色光源には様々な波長成分が含まれているため、光学膜厚と色相の較正曲線は観測系(カメラ、レンズ、光源)固有のものとなり、別個に較正作業が必要となるという課題がある(較正曲線固有補正問題)。また、色相は0~1の範囲で折り返すため、膜厚換算可能範囲は1周期(約265nm)に限られるという課題がある(較正曲線周期問題)。
【0007】
また、特許文献2、3に関連して、以下のような課題もあった。すなわち、摩耗などにより試料に面粗度が大きい箇所が存在すると、その部分は乱反射によって反射光の強度が減衰するため較正曲線から外れ、膜厚換算が困難となる。図9は、この問題を説明するための試料の干渉画像であり、図9(a)は摩耗がない試料の干渉画像を、図9(b)は部分的な摩耗を含む試料の干渉画像を各々示している。このように、摩耗を含む試料では、干渉画像における反射光の強度が著しく低下する。このことは、潤滑現象を経時的に観察する場合に摩耗の発生を許容できないことを意味しており、完全非接触の潤滑現象しか取り扱えないなど測定の自由度を著しく低下させる要因になる(乱反射問題)。
【0008】
また、ガラスと試料との間にオイルが存在するとき、該オイルによる吸光(吸収)現象が発生し、反射光は波長とオイル種類に依存する吸収係数に従って減衰する。精度よく膜厚推定を行うためには、この吸収係数を波長およびオイル種類ごとに求める必要がある(吸収問題)。
【0009】
さらに、干渉画像を一括で膜厚に換算する際、上記のような理由あるいはその他の理由によってRGB輝度が局所的に異常になった場合、その部分のみ周囲と大きく異なる膜厚が得られるため、膜厚分布としての信頼性が低下する(特異画素問題)。
【0010】
また、理論上は較正作業が不要だが、上記の問題がなかったとしてもRGB輝度が較正曲線に完全に一致することは稀であり、実用上は事前に複数の参照点を選択し、それらのRGB輝度と膜厚値の関係を手動で入力して較正曲線を補正する必要がある(較正曲線手動補正問題)。
【0011】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたもので、試料の表面状態の影響が抑制され、より簡易に膜厚の測定が可能な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の測定装置は、3波長以上の単色光を出射する光源と、前記単色光を透過する第1の摺動部と、前記第1の摺動部を透過した前記単色光の一部を反射し他部を透過する半透膜と、前記半透膜を透過した前記単色光を反射する第2の摺動部と、荷重を付与しながら前記第1の摺動部と前記第2の摺動部とを相対運動させる荷重付与部と、前記半透膜で反射した前記単色光と前記第2の摺動部で反射した前記単色光を干渉させた干渉画像を取得する撮像部と、前記干渉画像による前記単色光の波長域ごとの輝度分布画像を色相分布画像に変換し、予め定められた光学膜厚と色相値の対応関係に基づいて前記色相分布画像の画素ごとの色相値を光学膜厚に変換して光学膜厚分布画像を取得し、前記半透膜と前記第2の摺動部との間に形成された透明膜の光学膜厚分布を演算する演算部と、を含み、前記演算部は、色相分布画像の各画素の色相値を正弦成分、余弦成分に分離し、前記正弦成分、前記余弦成分の各々に対して色相フィルタリング処理を行った後、逆正接をとって元に戻すことによって、前記色相分布画像における特異画素を除去するための色相フィルタリング処理をさらに実行する。
【0017】
また、請求項に記載の発明は、請求項記載の発明において、前記色相フィルタリング処理で用いるフィルタがガウシアンフィルタである。
【0018】
また、請求項に記載の発明は、請求項または請求項に記載の発明において、前記演算部は、前記色相フィルタリング処理前の色相分布に対応する光学膜厚値候補の中から、色相フィルタリング処理後の色相から得た光学膜厚に最も近い光学膜厚の値を選択することによって色相分布画像の鮮明さを復元する処理をさらに実行する
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る測定装置によれば、試料の表面状態の影響が抑制され、より簡易に膜厚の測定が可能な測定装置を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態に係る測定装置の一例を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る、(a)は光学膜厚とRGB輝度の関係を示す図、(b)は光学膜厚と色相値の関係を示す図である。
図3】実施の形態に係る、(a)は光学膜厚変換処理を説明するための図、(b)は基準膜厚決定処理を説明するための図である。
図4】(a)は部分摩耗を含む干渉画像を色相分布に変換した画像、(b)は(a)の画像に対して本実施の形態に係る光学膜厚変換処理を施した画像を、各々示している。
図5】(a)は特異画素が存在する場合の干渉画像と、当該干渉画像を光学膜厚分布に変換した際に発生する光学膜厚の異常分布との関係を示す図、(b)は多数の構造欠陥を含む干渉画像に対して、色相フィルタリング処理を行う前の色相分布画像と、色相フィルタリング処理を行った後の色相分布画像を示している。
図6】(a)は本実施の形態に係る色相フィルタリング処理の原理を説明するための図、(b)は本実施の形態に係る色相フィルタリング処理を適用した場合の光学膜厚分布の画像である。
図7】実施形態に係る膜厚欠損部補完処理について説明するための図である。
図8】実施の形態に係る測定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図9】(a)は摩耗がない試料の干渉画像を示す図、(b)部分的な摩耗を含む試料の干渉画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、数式に表された斜体の文字について、斜体でない文字で記載している。
【0022】
<測定装置の構成>
図1を参照して、本実施の形態に係る測定装置10の構成の一例について説明する。測定装置10は、摺動面の透明膜の厚さ(光学膜厚)、例えば油膜の厚さを測定する装置であり、摺動装置とよばれる場合もある。測定装置10による光学膜厚測定の基本原理は光干渉法である。測定装置10は、大きく分けて、光学系30、摺動系40、および演算装置21を備えている。
【0023】
(光学系)
光学系30は、光源15、バンドパスフィルタ16、通路17、顕微鏡18、ハーフミラー19、およびカメラ20を含んでいる。光源15は、測定装置10で用いる測定光を生成する部位であり、本実施の形態では、一例として白色光源を用いている。バンドパスフィルタ16は、白色光である光源15の光から、単色光の測定光を抜き出す素子である。本実施の形態では、後述するように測定光として3波長の光を用いているので、バンドパスフィルタ16は、当該3波長の単色光を透過させる。バンドパスフィルタ16を透過した測定光は通路17を通りハーフミラー19で反射され、照射光Piとして摺動系へ入射される。顕微鏡18は図示を省略するレンズ等を含み、接触部(後述)を拡大する機能を有する。
【0024】
摺動系40で反射された反射光Prが、ハーフミラー19を透過して、カメラ20に入射される。カメラ20は、摺動系40で生じた光干渉における、3波長の光の各々の輝度を計測する。後述するように、本実施の形態では、単色光として、波長が600nm、560nm、470nm3波長を選択している。これらは一般的なカラーカメラのRGBの分光感度を考慮し、一般的なカラーカメラを光検出器として用いるためである。各単色光の半値全幅(FWMH)は約10nmである。本実施の形態では半値全幅は小さいほどよいが、半値全幅10nmの単色光を用いた場合でも妥当な結果が得られている。なお、本実施の形態では照射光Piを単色光のみから構成するためにバンドパスフィルタを用いたが、単色光を発する光源、例えばLEDやレーザーを組み合わせることによって実現してもよい。
【0025】
本実施の形態では、照射する光の波長にこれらの可視光を用いた場合を例に説明するが、測定装置10の測定原理においては可視光に限定されるものではなく、任意の波長を持つ光(電磁波)に対しても本測定原理は成立する。また、本実施の形態では単色光の数は3を用いているが、これは最低限の波長数であり、4以上の波長数としてもよい。
【0026】
(摺動系)
測定装置10の摺動系40は、透明部材11、半透明膜12、反射部材13、および荷重機構14を含んでいる。測定装置10の測定対象は、半透明膜12と反射部材13との間に形成される透明膜、例えば油膜(図示省略)の厚さである。該油膜は、反射部材13と半透明膜12とが接触している部分(「接触部」)に供給される、例えば潤滑剤である。油膜は、半透明膜12と反射部材13との間に存在し、透明部材11の光学系30側と反対側に設けられた半透明膜12と油膜とは接触するように配置され、反射部材13と油膜とは接触している。
【0027】
透明部材11および油膜は、3波長の光を透過し、反射部材13は3波長の光を反射する。光学系からの入射された照射光Piを、透明部材11と油膜とを透過させて反射部材13へ照射して光干渉を生じさせる。
【0028】
荷重機構14は、透明部材11を回転させ、透明部材11と反射部材13とに荷重を付加しつつ相対運動させる。
【0029】
演算装置21は測定装置10の全体を統括制御する装置であり、例えばPC(Personal Computer)等で構成されている。演算装置21は、図示を省略するCPU、ROM、RAM等を備え、後述する測定処理プログラムを実行する。すなわち、上記干渉画像から干渉光の輝度を波長域ごとに取得し、それら輝度を色相に変換し、色相を光学膜厚に換算する。
【0030】
(測定装置の動作)
まず、荷重機構14により、透明部材11が回転して、透明部材11と反射部材13とが荷重を受けながら相対運動しているときに、光源15からの白色光が、バンドパスフィルタ16に入射され、バンドパスフィルタ16を透過した3波長の単色光からなる照射光Piが、ハーフミラー19で反射して、摺動系40に入射される。3波長の単色光からなる照射光Piの一部は、半透明膜12と油膜との界面で反射し、3波長の単色光からなる照射光Piの他の一部(他部)は、反射部材13と油膜との界面で反射する。両反射光によって光干渉が生じているとき、カメラ20によって光干渉分布を撮像し、カメラ20によって撮像する毎に、画像が演算装置21に入力される。そして、入力された画像の各々について、演算装置21によって、後述する測定処理プログラムが実行される。
【0031】
<本実施の形態の背景技術>
(透明膜の定義)
本実施の形態では、摺動材料の間に存在する透明膜の厚さ分布を測定可能な測定装置について説明するが、その前に透明膜の定義を記す。本実施の形態において透明膜とは、水の膜のような透過による光の減衰をほぼ生じない膜のみを意味するのではなく、エンジン油の膜のような透過による光の減衰を生じる膜、すなわち着色透明膜も意味する。さらに、摺動面間に存在する光を透過する領域という意味において、液体や固体が含まれない場合の摺動面間のすき間も意味する。具体例としては、空気中や真空中で表面粗さを持つ表面同士が摺動する場合における表面粗さの谷部などである。本実施の形態では、特に指示のない場合、透明膜は上記を意味する。
【0032】
(透明膜厚さ分布測定の重要性)
機械要素の摺動部では、多くの場合において摺動面間に透明膜が存在する。例えば、多くの摺動部は油などの液体で潤滑されており、それらの液体は多くの場合に透明であるため、摺動面間には透明膜が存在する。また、摺動材料と周囲の物質の化学反応により摺動材料表面に透明膜が形成されることがある。具体例としては、エンジン油中で鋼を摩擦した場合におけるZnDTPの反応被膜や大気中で鋼を摩擦した場合における酸化膜が挙げられる。これらはいずれも透明である。さらに、摺動面間に物体としての透明膜は存在しないが光を透過する領域が存在する場合がある。具体例としては、上記の空気中や真空中で表面粗さを持つ表面同士が摺動する場合における表面粗さの谷部などである。このような場合においても、その領域の厚さ分布を測定することは有益である。なぜなら膜厚ゼロ点の分布は真実接触点分布を意味するからである。
【0033】
これらの透明膜厚さ分布は摩擦特性に影響するため、透明膜厚さ分布を測定することは摺動部設計において重要である。
【0034】
(光干渉法)
透明膜厚さ分布、特に油膜厚さ分布の測定方法として広く普及している手法に「光干渉法」がある。これは光の干渉を用いて透明膜厚さを測定する手法である。
【0035】
光干渉法の原理は以下のとおりである。すなわち、摺動材の一方を光を透過する材質で構成し、もう一方の摺動材の材料を光を反射する材質で構成する。これらの摺動材はそれぞれ“透明摺動材”、“反射摺動材”とよばれる場合がある。光源から透明摺動材を透過させて透明膜越しにもう一方の摺動材へ光を照射する。このとき、透明摺動材と透明膜の屈折率差を適切に設定し、その界面で光を一部反射し一部透過するようにする。屈折率差が小さく反射が十分に生じない場合には、透明摺動材の透明膜と接する表面に部分反射膜を成膜する場合もある。
【0036】
透明膜を透過した光は反射摺動材で反射され、再び透明膜および透明摺動材を透過して光源方向に戻る。本実施の形態では、透明摺動材-透明膜界面で反射された光を「表面反射光」、反射摺動材で反射された光を「裏面反射光」という。表面反射光と裏面反射光は光路差が生じるため光干渉を生じ、反射摺動材表面を透明摺動材側から透明膜越しに光検出器(カメラ等)で観察すると、光干渉が観察される。この光干渉の色(波長と輝度)には光路差、すなわち透明膜厚さが影響するため、干渉色から透明膜厚さに関する情報が得られる。これが光干渉法の原理である。
【0037】
<本実施の形態の測定原理>
本実施の形態に係る測定装置10は、上記の光干渉による膜厚の測定方法に対して、上述した問題を解決することを意図している。以下、本実施の形態に係る測定装置10の測定原理についてより詳細に説明する。本実施の形態では、測定に用いる単色光の波長の数を3波長とした形態を例示して説明する。
【0038】
各単色光(j=1、2、3)の反射光輝度Iは、I1j、I2jを各々表面における反射光(表面反射光)の強さ、裏面における反射光(裏面反射光)の強さとし、λを波長、tを測定対象の光学膜厚として、以下の(式1)で表される。図2(a)は、3波長の各々を、λ=600nm、λ=560nm、λ=470nmとした場合の(式1)をプロットした図である。なお、以下の説明では、測定装置10の測定対象を、一例として油膜とした場合を例示して説明する。


【0039】
ここで、輝度については、データ処理上は0~255の整数値で扱うことが多いが、本実施の形態では、0から1の範囲の数値で定義する。また、各単色光の反射光輝度Iはそれぞれ撮影画像のRGB輝度に対応しており、カメラの分光感度に対しクロストーク現象が発生しない範囲で波長組合せを選択する。以下の説明では、3波長の各々を、λ=600nm、λ=560nm、λ=470nmとしている。
【0040】
上記(式1)は、上述した従来技術における問題点のうち、乱反射問題および吸収問題による輝度の減少がない場合の式であり、乱反射問題および吸収問題を考慮した場合の反射光強度は、以下の(式2)のように変更される。

ここで、Rは裏面における乱反射による減衰率、kは測定対象である油膜の吸収係数である。
【0041】
一方、色相Hは、RGB輝度(I、I、I)を用いて、以下の(式3)で定義される。

ただし、(0≦H≦2π)
【0042】
従来技術においては、色相について各輝度の大小関係で場合分けした式を用いる場合もあるが、本実施の形態では、取り扱いの容易さを勘案して逆三角関数およびラジアンで色相を定義する。(式3)に示す色相の式に、上記の単色光による反射光を、I=I、I=I、I=Iとして代入すると、(式3)は以下に示す(式4)のようになる。
【0043】
ここで、Rおよびkが波長によらず等しいと仮定し、さらに光量および受光感度を、表面反射光強度についてI11=I12=I13、裏面反射光強度についてI21=I22=I23が成立するように調整した場合、(式2)を(式4)に代入して整理すると以下の(式5)が得られる。
【0044】
すなわち、光量および受光感度を事前に調整(キャリブレーション)すれば、(式5)に示すように、色相Hは各単色光の波長と光学膜厚のみに依存する。このため、本実施の形態に係る測定装置10によれば、上述した乱反射問題および吸収問題の影響を抑制することができる。このことは、色相HはRGB輝度の大きさとは無関係であるため、Rおよびkによって較正曲線における振幅(すなわち、RGB輝度の大きさ)が減少しても、I1j、I2jによって決定される振幅中心と、振幅の減衰率(R、k)が各単色光で等しければ、色相Hは変化しないことによる。
【0045】
図2(b)は、(式5)に基づいて、光学膜厚が0nm~1500nmの範囲で作成した、光学膜厚tと色相Hの較正曲線を示している。ここで、上述したように、本実施の形態では、波長をλ=600nm、λ=560nm、λ=470nmとしている。この較正曲線は、カメラ20、レンズ(顕微鏡18)の組み合わせによらず、選択した単色光の波長組み合わせから(式5)を用いて解析的に算出される。そのため、事前較正が不要となり、上述した、光学膜厚と色相の較正曲線が観測系(カメラ、レンズ、光源)固有のものとなるという較正曲線固有補正問題を解決することができる。
【0046】
<色相から光学膜厚への一括換算:光学膜厚変換処理>
以上から、光学膜厚と色相の較正曲線が解析的に導出され、(式5)を用いて色相を光学膜厚に変換することができる。しかしながら、上述したように色相は約250nmの周期で折り返すため(図2(b)では、周期P1、P2、P3を示している)、一つの色相に対し複数の膜厚候補値が存在するという、上述した較正曲線周期問題と同様の問題は依然と解決されていない。つまり、(式5)を用いても換算可能範囲が折り返し周期内に限られてしまうという問題は残っている。そのため、本実施の形態では、色相が光学膜厚0nmから図2(b)に点線Rで示される1040nmまでの範囲で単調減少すること、さらに同値となる膜厚同士は約250nm離れていることに着目し、膜厚を一意に決定する新規な方法を採用している。ここで、色相の単調減少について付言すると、図2(b)に示すように、色相は約250nmの光学膜厚の周期(図2(b)に示す、P1、P2、P3の周期)で0~2πの範囲の値をとるが、各周期内では単調減少しているので、各周期の曲線を連続させた場合、光学膜厚全体が単調減少するということである。ただし、色相が単調減少する範囲、繰り返しの光学膜厚の周期は、3波長の組み合わせによって変化する。以下、この考え方に従った色相から光学膜厚への変換方法(以下、「光学膜厚変換処理」という場合がある)について詳細に説明する。
【0047】
光学膜厚分布は試料の表面の凹凸、傾斜等によって決定されるが、解像度が十分に大きい場合はレーザーテクスチャなどの極端な段差やキズなどの欠陥を除けば、隣接画素間の光学膜厚の変化は高々数nm~10数nm範囲に留まると考えられる。その場合、ある参照画素(以下、「基準画素」)の光学膜厚とその隣接画素の色相が既知であれば、隣接画素の光学膜厚は色相から得られる複数の光学膜厚値候補のうち、基準画素の光学膜厚に最も近いもので一意に決定することができる。ただし、この決定方法は、基準画素の光学膜厚(以下、「基準膜厚」)の近傍で色相が単調変化することを前提条件としている。すなわち、最初に任意の基準画素の光学膜厚を所定の方法で決定しさえすれば、上記仮定の下に、基準画素から順に光学膜厚を決定していくことができる。つまり、最終的に基準画素の周囲の色相すべてについて、一意に光学膜厚に換算することができる。以下、本光学膜厚変換処理についてより具体的に説明する。
【0048】
[手順1]:任意の基準画素を選択し、基準画素の色相に対応する光学膜厚(以下、「基準膜厚」という場合がある)を決定する。ここで、基準膜厚の決定は、複数の光学膜厚値候補の中から、所定の手順に基づいて一つの光学膜厚に決定することをいう。所定の手順の1つは手動によるもので、例えば人間が基準画素の色相を視認し、あるいは経験則により、図2(b)の色相曲線と対比してどの色相の周期に入るかを決定し、その周期の光学膜厚を基準画素の光学膜厚として採用する。基準膜厚の決定方法には、手動によるもの以外に自動で決定する方法があるが、自動で基準膜厚を決定する方法(基準膜厚決定処理)については後述する。
【0049】
[手順2]:隣接する画素に移動し、色相に対応する光学膜厚値候補の中から移動元(基準画素)に近い光学膜厚を選択する。むろん、この選択は自動的に行うことができる。
[手順3]:[手順2]を直線的に実行し、干渉画像の端部に到達するまで繰り返す。
[手順4]:基準画素に戻り、[手順2]、[手順3]をすべての方向について繰り返し、干渉画像の全体について光学膜厚分布に換算する。
【0050】
図3(a)を参照して、上記光学膜厚変換処理の手順について具体的に説明する。図3(a)では、4個の画素PX1、PX2、PX3、PX4が横方向に並んでいる。
【0051】
まず、[手順1]で基準画素を画素PX1に選択し、該基準画素の色相値を決定する。
図3(a)の例では、基準画素の色相値が3.14と決定された場合を例示している。色相値が決定されると対応する光学膜厚値候補が決定されるので、例えば視認によって人が光学膜厚値候補の中からいずれかを決定し、当該色相値が図2(b)に示す色相曲線のいずれの周期内にあるか決定する。その結果、光学膜厚の候補(767nm、511nm、256nm)の中から基準画素の色相値に対応する光学膜厚は、511nmと決定される。
【0052】
以下[手順2]に従って、基準画素であるPX1に隣接する画素PX2の色相値が2.09であると自動的に決定され、周期P2の範囲において光学膜厚が527nmであると自動的に決定される。以下、画素PX3、PX4についても同様である。
【0053】
上述の方法は、従来知られている白色光源に対する位相シフト法に近いが、位相シフト法では色相についてアンラッピング処理を行う必要があり、そのため後述するフィルタリング処理およびフィルタリング除去処理が煩雑になる。そこで、本実施の形態では、色相を変換せず色相のままで取り扱うこととしている。
【0054】
<実施例>
図4を参照して、本実施の形態に係る測定装置10の効果について説明する。図4(a)は、図9(b)に示す部分摩耗を含む干渉画像を変換して得られた色相分布を示し、図4(b)は図4(a)に対し本実施の形態に係る光学膜厚変換処理を施して得られた光学膜厚分布を示している。なお、図4(b)では見やすさのため摺動部以外をマスキングしている。図9(b)に示すように、元の干渉画像においては摩耗によりRGB輝度が大きく低下しているにもかかわらず、色相を用いることでデータとして問題のないレベルの光学膜厚が得られていることがわかる。
【0055】
<基準膜厚決定処理>
ここで、基準画素を選定し、基準膜厚を決定する処理を自動的に実行する基準膜厚決定処理について説明する。図2(a)は、測定波長である3波長の各々を、λ=600nm、λ=560nm、λ=470nmとした場合の光学膜厚とRGB輝度の較正曲線を示した図であった。乱反射問題、あるいは吸収問題によるRGB輝度の低下がなく、光学膜厚がこの範囲に収まっている場合、干渉画像の各画素のRGB輝度はこの較正曲線上のいずれかのRGB輝度の組み合わせと一致するはずである。このことを踏まえ、注目画素のRGB輝度Ipjと、図2(a)に示すRGB較正曲線上の任意の光学膜厚tに対応する反射光のRGB輝度値I(t)の誤差ノルムv(t)を下記の(式6)で定義する。
【0056】
いま、各画素の色相値から得られる複数の膜厚候補値を(式6)に代入して得られる複数の誤差ノルムのうち、最小となるものをその画素の最小誤差ノルム、それを与える膜厚候補値を暫定膜厚値と定義する。RGB輝度が全く低下していない画素ではこの最小誤差ノルムは0となり、この最小誤差ノルムを与える暫定膜厚値が実際の光学膜厚値となるはずである。
【0057】
しかしながら、実際はほとんどの画素は乱反射問題や吸収問題によってRGB輝度が低下していることに起因して最小誤差ノルムは0とならない。さらに輝度低下が大きければ間違った暫定膜厚値が選ばれている可能性があり、その場合は最小誤差ノルムも大きいと考えられる。逆に言えば、最小誤差ノルムが小さい画素は輝度低下が小さく信頼性が高いといえるため、そのような画素を基準画素に選択すればよい。具体的には以下の手順によって最も信頼性の高い基準画素を自動選択し、基準膜厚を自動決定する。
[手順1]:各画素の色相値から複数の膜厚候補値を算出する。これらを(式6)に代入して得られる複数の誤差ノルムのうち、最小となるものをその画素の最小誤差ノルム、それを与える膜厚候補値を暫定膜厚値として記憶する。
[手順2][手順1]の処理をすべての画素に対し行い、最も最小誤差ノルムが小さい画素を基準画素とし、その暫定膜厚値を基準膜厚値とする。
【0058】
上記基準膜厚決定処理により、信頼性の高い基準画素および基準膜厚値を自動で決定することが可能である。しかしながら、まれに特異画素を誤検出する可能性がある。その場合は、手動で輝度が低下していない画素を基準画素として選択し、その画素について上記[手順1]の処理を行い、光学膜厚値を自動決定すればよい。
【0059】
図3(b)を参照して、基準膜厚決定処理についてより具体的に説明する。図3(b)に示す例では、画素PX1の干渉色(RGB輝度:R=0.356、G=0.727、B=0.728)が色相に変換され、画素PX1の色相値が3.14となっている。この場合の光学膜厚の候補は図2(b)に示す周期P1、P2、P3に対応して、各々256nm、511nm、767nmとなる。このとき、これらの光学膜厚に対する誤差ノルムは、各々0.521、0.001、0.497となる。従って、画素PX1の最小誤差ノルムは0.001となる([手順1])。この場合の暫定膜厚値は511nmである。最小誤差ノルムをすべての画素について算出した結果、画素PX1の最小誤差ノルムが最も小さかったとすると、画素PX1が基準画素として選択され、基準膜厚は511nmと決定される。
【0060】
<色相フィルタリング処理>
上述した手順により、従来技術における問題を回避」しつつ、干渉画像を精度よく光学膜厚に換算することが可能となる。ここで、上記手順では、極端な段差などがなく画素間の光学膜厚の変化が数nm~10数nm留まっていることを前提としていた。しかしながら、実際にはカメラのノイズ、局所的なキズ、異物等によって色相が大きく乱れる画素が存在することがある(以下、「特異画素」)。例えば、図9(a)の干渉画像では摩耗こそ無いものの、構造欠陥により光学膜厚が急変する部分を多数含んでいる。このような場合、上記手順では隣接画素の情報をひきずるため、ある点が特異画素である場合、その画素における光学膜厚だけでなく、それ以降の画素の光学膜厚換算においても不正確な値が得られる。
【0061】
図5(a)を参照して、特異画素の影響について説明する。図5(a)<1>は、特異画素を含む干渉画像の一例であり、特異画素を基準画素とともに示している。図5(a)<2>は、図5(a)<1>に示す干渉画像から光学膜厚分布への変換過程を示している。図5(a)<2>に示すように。基準画素の位置Bから特異画素の位置Sにかけて直線状に光学膜厚への変換を行っていくと、位置Sから位置Bと反対側に光学膜厚の異常分布が広がっていく。従って、実用上はこの特異画素を除去することが必要となる。
【0062】
一般の画像処理においては、特異画素を除去するためにフィルタリング処理を施すことが多い。代表的なフィルタとしてガウシアンフィルタやメディアンフィルタが挙げられるが、これらはいずれも干渉画像のRGB輝度それぞれに対して個別に行うこととなる。通常の画像処理であればそのままで問題ないが、ここで取り扱う色相については通常のフィルタリング処理ではうまくいかない場合がある。なぜならば、色相はRGB輝度から彩度、明度の情報を除外し、R、G、Bの相対関係を抽出したものといえるが、干渉画像のRGB輝度に対するフィルタリング処理では彩度、明度の情報も含んでフィルタリングを行う。そのため、フィルタリング後の干渉画像における色相はそれらの影響を引きずってしまい、不自然な色の折り返しが発生するなど、光学膜厚換算に用いるには不適当な場合があるからである。このことは、乱反射問題、吸収問題等による輝度低下が大きい場合に特に顕著である。
【0063】
そこで、本実施の形態では、干渉画像ではなく色相に対しガウシアンフィルタを適用する新たな方法を採用した。色相Hは、0≦H≦2πで定義されているため、色相に対し直接ガウシアンフィルタを適用してしまうと、0と2πの折り返し部分が本来は連続であるにもかかわらず離れてしまい、不適切な色相分布となってしまう。この問題を回避するため、本実施の形態では色相Hを、以下の(式7)に示すように正弦成分Hsと余弦成分Hcに分離する。

Hs、Hcは、値が-1~1で定義され、かつ折り返しではないため、Hs、Hcに色相フィルタリング処理を行っても不連続は発生しない。そして、色相フィルタリング処理後の値をHs’、Hc’とすると、Hs’、Hc’を以下に示す(式8)で戻すことにより不連続を回避した色相フィルタリング処理後の色相H’が得られる。
【0064】
図9(a)に示す、多数の構造欠陥を含む干渉画像を変換して得られた色相フィルタリング処理前の色相分布(すなわち、(式5)による色相分布)を図5(b)<1>に、図5(b)<1>の色相分布に上記の手順で色相フィルタリング処理を行った色相分布(すなわち、(式8)に示す色相分布)を図5(b)<2>に示す。なお、本例ではフィルタとしてガウシアンフィルタを用いている。図5(b)<1>に示すように、色相フィルタリング処理前の色相分布には多数の色飛びが発生している。この色飛び自体は、欠陥部分の光学膜厚を示しているため一面では有意な情報であるが、換算誤差の要因となる。これに対し、図5(b)<2>を参照すると、色相フィルタリング処理により、これらの色飛びを、色相分布として問題のないレベルまで除去できている(つぶつぶが目だたなくなっている)ことがわかる。
【0065】
<色相フィルタリングの復元処理:鮮明さ復元処理>
上記色相フィルタリング処理により色相画像に特異画素が含まれていても色相からの自動膜厚換算が可能となる。しかしながら、色相フィルタリング処理した後の光学膜厚分布の画像は、フィルタリングにより鮮明さが低下している。そのため、元の鮮明さへの復元を行うことが好ましい。以下、図6(a)を参照して、この鮮明さ復元処理について具体的に説明する。
【0066】
まず、色相フィルタリング後の色相から光学膜厚を決定する。この決定は、上述した[手順1]~[手順4]に即して行う。図6(a)示す例では、画素PX1について520nm、画素PX2について530nm、画素PX3について550nmと決定されている。次に、各画素について、色相フィルタリング処理前の色相分布に対応する光学膜厚値候補の中から、色相フィルタリング処理後の色相から得た光学膜厚に最も近い光学膜厚の値を選択する。図6(a)に示す例では、画素PX1に対して511nm、画素PX2に対して527nm、画素PX3に対して579nmの値が選択されている。以上により、色相フィルタリング処理適用前の鮮明さを維持しつつ、特異画素が除かれた光学膜厚の分布画像を取得することができる。
【0067】
図6(b)は、図9(a)に示す干渉画像に対して、上記色相フィルタリング処理を適用して取得された光学膜厚分布の画像を示している。図6(b)では、見やすさのために、非摺動面の測定に直接関係のない部分をマスキングで除去している。図6(b)を参照して明らかなように、多数の欠陥を含んでいる場合でも、上記色相フィルタリング処理を適用すれば精度の良い光学膜厚分布を取得することができる。
【0068】
<膜厚欠損部補完処理>
上記色相フィルタリング処理を用いることにより、ほとんどの摺動面で光学膜厚換算が可能となるが、色相フィルタリング処理でも対応が困難な表面の状態がある。例えば、レーザーテクスチャなどによる極端な段差やキズなどの欠陥が含まれている場合である。
【0069】
図7を参照して、上記のような場合に有用な光学膜厚換算の方法、すなわち膜厚欠損部補完処理について説明する。まず図7<1>に示すように、任意の基準画素1を選択し、直線に沿って光学膜厚換算を行う。この際の光学膜厚換算は、上記光学膜厚換算処理の[手順1]~[手順4]の方法に従って行う。そして、光学膜厚が不連続となる画素に到達したらその部分で換算を打ち切る。以上の処理により特異画素を起点とした直線状のデータ欠損を含む光学膜厚分布が得られる。
【0070】
次に、図7<2>に示すように、基準画素1以外の、特異画素を避けてデータ欠損に到達できる基準画素2を選択し、基準画素2から再度直線に沿って換算を行う。この際、基準画素1に対する光学膜厚換算により光学膜厚値がわかっている点を基準点として選べば、光学膜厚値を手動で選択する必要がない。本処理により、基準画素1に対す光学膜厚換算におけるデータ欠損部分でも光学膜厚値が得られる。代わりに新たなデータ欠損部分が生じるが、当該新たなデータ欠損部分には、第1の基準画素による光学膜厚換算で決定している光学膜厚値をそのまま入力し、上記処理を、特異画素以外のデータ欠損部分がなくなるまで繰り返すことにより、図7<3>に示すように、特異画素を除いた領域の光学膜厚分布を取得することができる。
【0071】
<測定処理>
図8を参照して、本実施の形態に係る測定装置10において実行される測定処理について説明する。図8は、測定装置10において実行される測定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。本測定処理プログラムは、例えば演算装置21が備える図示を省略するROM等の記憶手段に格納されており、図示を省略するCPUがROM等から本測定処理プログラムを読み出し、図示を省略するRAM等に展開して実行する。
【0072】
図8を参照し、ステップS10で、カメラ20から干渉画像を取得する。
【0073】
ステップS11で、ステップS10で取得した干渉画像を色相画像に変換する。
【0074】
ステップS12で、ステップS11で変換した色相画像に色相フィルタリング処理を行う。本色相フィルタリング処理では、色相を正弦成分、余弦成分に分離したうえで、フィルタとして例えばガウシアンフィルタを用いる。
【0075】
ステップS13で、上述した基準膜厚決定処理により、基準画素を選択し、基準膜厚を決定する。
【0076】
ステップS14で、上述した光学膜厚変換処理([手順1]~[手順4])を実行し、色相から光学膜厚への換算を行う。
【0077】
ステップS15で、特異画素に起因する膜厚欠損部があるか判定し、当該判定が否定判定となった場合はステップS16に移行する。一方、当該判定が肯定判定となり、特異画素に起因する欠損部分が発生した場合には、膜厚欠損部補完処理を実行し、当該欠損部分が埋まるまで基準画素を変えて光学膜厚換算を繰り返す。なお、膜厚欠損部補完処理は必要に応じて行えばよい処理で、必ずしも必須の処理ではない。
【0078】
ステップS16で、色相フィルタリング復元処理を行い、光学膜厚の画像の鮮明さを復元して、本測定処理プログラムを終了する。なお、色相フィルタリング復元処理は必要に応じて行えばよい処理で、必ずしも必須の処理ではない。
【0079】
以上詳述したように、本実施の形態に係る測定装置によれば、干渉画像の色相を用いた場合でも、干渉画像全体の光学膜厚換算を高速に実行することできる。また、測定装置10における換算可能な光学膜厚のレンジは、色相が光学膜厚に対して単調減少する範囲、例えば測定波長の組み合わせが(λ=600nm、λ=560nm、λ=470nm)である場合は、0nm~1040nmとなる、このことによって、光学膜厚換算可能な光学膜厚範囲が、光学膜厚の1周期(約265nm)に限定されるという、較正曲線周期問題の解決が図られている。
【0080】
ここで、図2(a)を参照すると、光学膜厚が0nm~200nmの範囲では、単調減少の勾配(傾き)が小さい区間があり、この区間では換算精度が悪化する恐れがある。その場合は、透明部材11の表面の半透明膜12の上にスペーサ層と呼ばれる透明膜を、例えば150nm~200nmの厚さで配置するとよい。このことにより、スペーサ層の厚さに屈折率を掛けた分だけ光学膜厚が実際よりも大きくなるため、精度が悪化する光学膜厚の範囲を回避することが可能である。
【0081】
また、本実施の形態では隣接画素の情報を参照し、さらに必要に応じ膜厚欠損部補完処理を行うことから、局所的な光学膜厚ずれの発生による信頼性低下、という上記特異画素問題の発生も抑制されている。また、本実施の形態に係る測定装置10では、上記基準膜厚決定処理を採用すれば、処理全体が自動化されるので、実際には手動の較正作業が必要になるという、上記較正曲線手動補正問題についても改善されている。以上のように、本発明は、上述した従来技術の問題点の解決を図るとともに、摺動面における光学膜厚のリアルタイム観察の適用範囲、利便性、精度を向上させることが可能となっている。
【符号の説明】
【0082】
10 測定装置
11 透明部材
12 半透明膜
13 反射部材
14 荷重機構
15 光源
16 バンドパスフィルタ
17 通路
18 顕微鏡
19 ハーフミラー
20 カメラ
21 演算装置
30 光学系
40 摺動系
P1、P2、P3 周期
PX1、PX2、PX3、PX4 画素
Pi 照射光
Pr 反射光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9