(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 7/09 20060101AFI20230613BHJP
H02M 1/12 20060101ALI20230613BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20230613BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20230613BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H03H7/09 A
H02M1/12
H01F27/00 S
H01F17/04 F
H01F27/24 E
(21)【出願番号】P 2020181756
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖也
(72)【発明者】
【氏名】小島 崇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 勝也
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/105727(WO,A1)
【文献】特開2020-017944(JP,A)
【文献】特開2001-160728(JP,A)
【文献】特開昭62-171462(JP,A)
【文献】特開2000-340437(JP,A)
【文献】特開2005-204438(JP,A)
【文献】特開2009-111278(JP,A)
【文献】特開平10-106861(JP,A)
【文献】特開平11-186055(JP,A)
【文献】特開2006-013717(JP,A)
【文献】特開2008-245037(JP,A)
【文献】特開2020-025043(JP,A)
【文献】特開2016-031965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0156194(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F17/00-21/12
27/00
27/02
27/06
27/08
27/23-27/26
27/28-27/29
27/30
27/32
27/36
27/42
30/00-38/12
38/16
38/42
H02J3/00-5/00
H02M1/00-1/44
H03H1/00-3/00
5/00-7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相電源から発生するコモンモードノイズを抑制するノイズフィルタであって、
第1入力端子と第1出力端子とを接続している第1導電線と、
第2入力端子と第2出力端子とを接続している第2導電線と、
第3入力端子と第3出力端子とを接続している第3導電線と、
前記第1導電線、前記第2導電線および前記第3導電線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる磁性体と、
を備えており、
前記第1導電線は、
前記第1入力端子と第1分岐部との間を延びている第1入力側導電線と、
前記第1分岐部と前記第1出力端子との間を延びている第1出力側導電線と、
前記第1分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第1コンデンサが介挿されている第1分岐線と、を備えており、
前記第2導電線は、
前記第2入力端子と第2分岐部との間を延びている第2入力側導電線と、
前記第2分岐部と前記第2出力端子との間を延びている第2出力側導電線と、
前記第2分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第2コンデンサが介挿されている第2分岐線と、を備えており、
前記第3導電線は、
前記第3入力端子と第3分岐部との間を延びている第3入力側導電線と、
前記第3分岐部と前記第3出力端子との間を延びている第3出力側導電線と、
前記第3分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第3コンデンサが介挿されている第3分岐線と、を備えており、
前記磁性体は、前記第1入力側導電線と前記第1出力側導電線との磁気結合、前記第2入力側導電線と前記第2出力側導電線との磁気結合、および前記第3入力側導電線と前記第3出力側導電線との磁気結合、を発生させることで、これらの間に生じる相互インダクタンスによって前記第1分岐線、前記第2分岐線および前記第3分岐線の寄生インダクタンスを減ずるように構成されて
おり、
第1分岐線、第2分岐線、および第3分岐線に配置されている、ノーマルモード電流の流入を抑制するノーマルモードチョークコイルをさらに備える、ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記磁性体は、第1下側部分と第2下側部分と第1上側部分と第2上側部分とを備えており、
前記第1下側部分は、前記第1入力側導電線、前記第2入力側導電線および前記第3入力側導電線の下方を横断して延びており、
前記第2下側部分は、前記第1出力側導電線、前記第2出力側導電線および前記第3出力側導電線の下方を横断して延びており、
前記第1上側部分は、前記第1分岐部、前記第2分岐部および前記第3分岐部の上方を通過して前記第1下側部分の一方の端部と前記第2下側部分の一方の端部の間を延びており、
前記第2上側部分は、前記第1分岐部、前記第2分岐部および前記第3分岐部の上方を通過して前記第1下側部分の他方の端部と前記第2下側部分の他方の端部の間を延びており、
前記第1上側部分と前記第2上側部分は、前記第1分岐部、前記第2分岐部および前記第3分岐部の上方で交差している、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記ノーマルモードチョークコイルは、
前記第1分岐線および前記第2分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第1のチョークコイル磁性体と、
前記第2分岐線および前記第3分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第2のチョークコイル磁性体と、
前記第3分岐線および前記第1分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第3のチョークコイル磁性体と、
を備えており、
前記第1分岐線および前記第2分岐線に流れるコモンモード電流によって、前記第1のチョークコイル磁性体に互いに逆向きに流れる磁束が発生し、
前記第2分岐線および前記第3分岐線に流れるコモンモード電流によって、前記第2のチョークコイル磁性体に互いに逆向きに流れる磁束が発生し、
前記第3分岐線および前記第1分岐線に流れるコモンモード電流によって、前記第3のチョークコイル磁性体に互いに逆向きに流れる磁束が発生する、請求項
1に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
前記第1のチョークコイル磁性体、第2のチョークコイル磁性体および第3のチョークコイル磁性体は、互いに一体である、請求項
3に記載のノイズフィルタ。
【請求項5】
前記第1分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第1の分岐線磁性体と、
前記第2分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第2の分岐線磁性体と、
前記第3分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第3の分岐線磁性体と、
をさらに備えている、請求項1または2に記載のノイズフィルタ。
【請求項6】
3相電源から発生するコモンモードノイズを抑制するノイズフィルタであって、
第1入力端子と第1出力端子とを接続している第1導電線と、
第2入力端子と第2出力端子とを接続している第2導電線と、
第3入力端子と第3出力端子とを接続している第3導電線と、
前記第1導電線、前記第2導電線および前記第3導電線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる磁性体と、
を備えており、
前記第1導電線は、
前記第1入力端子と第1分岐部との間を延びている第1入力側導電線と、
前記第1分岐部と前記第1出力端子との間を延びている第1出力側導電線と、
前記第1分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第1コンデンサが介挿されている第1分岐線と、を備えており、
前記第2導電線は、
前記第2入力端子と第2分岐部との間を延びている第2入力側導電線と、
前記第2分岐部と前記第2出力端子との間を延びている第2出力側導電線と、
前記第2分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第2コンデンサが介挿されている第2分岐線と、を備えており、
前記第3導電線は、
前記第3入力端子と第3分岐部との間を延びている第3入力側導電線と、
前記第3分岐部と前記第3出力端子との間を延びている第3出力側導電線と、
前記第3分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第3コンデンサが介挿されている第3分岐線と、を備えており、
前記磁性体は、前記第1入力側導電線と前記第1出力側導電線との磁気結合、前記第2入力側導電線と前記第2出力側導電線との磁気結合、および前記第3入力側導電線と前記第3出力側導電線との磁気結合、を発生させることで、これらの間に生じる相互インダクタンスによって前記第1分岐線、前記第2分岐線および前記第3分岐線の寄生インダクタンスを減ずるように構成されて
おり、
前記第1分岐部は、前記第1入力側導電線の一部と前記第1出力側導電線の一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複する第1重複領域を形成するようにループ形状を備えており、
前記第2分岐部は、前記第2入力側導電線の一部と前記第2出力側導電線の一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複する第2重複領域を形成するようにループ形状を備えており、
前記第3分岐部は、前記第3入力側導電線の一部と前記第3出力側導電線の一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複する第3重複領域を形成するようにループ形状を備えており、
前記磁性体は、前記第1重複領域、前記第2重複領域および前記第3重複領域の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる、ノイズフィルタ。
【請求項7】
3相電源から発生するコモンモードノイズを抑制するノイズフィルタであって、
第1入力端子と第1出力端子とを接続している第1導電線と、
第2入力端子と第2出力端子とを接続している第2導電線と、
第3入力端子と第3出力端子とを接続している第3導電線と、
前記第1導電線、前記第2導電線および前記第3導電線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる磁性体と、
を備えており、
前記第1導電線は、
前記第1入力端子と第1分岐部との間を延びている第1入力側導電線と、
前記第1分岐部と前記第1出力端子との間を延びている第1出力側導電線と、
前記第1分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第1コンデンサが介挿されている第1分岐線と、を備えており、
前記第2導電線は、
前記第2入力端子と第2分岐部との間を延びている第2入力側導電線と、
前記第2分岐部と前記第2出力端子との間を延びている第2出力側導電線と、
前記第2分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第2コンデンサが介挿されている第2分岐線と、を備えており、
前記第3導電線は、
前記第3入力端子と第3分岐部との間を延びている第3入力側導電線と、
前記第3分岐部と前記第3出力端子との間を延びている第3出力側導電線と、
前記第3分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第3コンデンサが介挿されている第3分岐線と、を備えており、
前記磁性体は、前記第1入力側導電線と前記第1出力側導電線との磁気結合、前記第2入力側導電線と前記第2出力側導電線との磁気結合、および前記第3入力側導電線と前記第3出力側導電線との磁気結合、を発生させることで、これらの間に生じる相互インダクタンスによって前記第1分岐線、前記第2分岐線および前記第3分岐線の寄生インダクタンスを減ずるように構成されて
おり、
前記ノイズフィルタは、前記第1導電線、前記第2導電線および前記第3導電線が垂直に貫通している基板をさらに備えており、
前記基板に垂直な方向からみたときに、前記第1導電線、前記第2導電線および前記第3導電線の各々は三角形の頂点の位置に配置されており、
前記基板の第1面側には、前記第1入力側導電線、前記第2入力側導電線および前記第3入力側導電線が配置されており、
前記基板の第2面側には、前記第1出力側導電線、前記第2出力側導電線および前記第3出力側導電線が配置されており、
前記第1導電線と前記基板との接触部には、前記第1分岐部が形成されており、
前記第2導電線と前記基板との接触部には、前記第2分岐部が形成されており、
前記第3導電線と前記基板との接触部には、前記第3分岐部が形成されており、
前記第1分岐線は、前記第1分岐部から延びているとともに前記基板上に配置されている渦巻き状の第1コイルパターンであり、
前記第2分岐線は、前記第2分岐部から延びているとともに前記基板上に配置されている渦巻き状の第2コイルパターンであり、
前記第3分岐線は、前記第3分岐部から延びているとともに前記基板上に配置されている渦巻き状の第3コイルパターンであり、
前記磁性体は、
前記第1コイルパターンの中心を通り前記基板を垂直に貫通している第1ピラー部分と、
前記第2コイルパターンの中心を通り前記基板を垂直に貫通している第2ピラー部分と、
前記第3コイルパターンの中心を通り前記基板を垂直に貫通している第3ピラー部分と、
前記基板の第1面側において前記第1入力側導電線、前記第2入力側導電線および前記第3入力側導電線の周囲を取り囲んでいるとともに、前記第1ピラー部分、前記第2ピラー部分および前記第3ピラー部分の前記基板の第1面側の端部を互いに接続している第1環状部と、
前記基板の第2面側において前記第1出力側導電線、前記第2出力側導電線および前記第3出力側導電線の周囲を取り囲んでいるとともに、前記第1ピラー部分、前記第2ピラー部分および前記第3ピラー部分の前記基板の第2面側の端部を互いに接続している第2環状部と、
を備えている、ノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ノイズフィルタに関する。特に、3相電源から発生するコモンモードノイズを抑制するノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている3相ノイズフィルタは、コモンモード電流抽出回路を備えている。コモンモード電流抽出回路は、電源ラインから分岐した分岐線に配置された、3個の単相リアクトルとコンデンサを備えている。3個の単相リアクトルの各々の巻線は、三相の中の任意の2つの相の組み合わせに属する2つの巻線が直列に接続されて3個の巻線対を形成している。コモンモード電流に対して鉄心の磁束を打ち消しあうことで、各単相リアクトルは、コモンモード電流に対してインダクタンスを示さないようになっている。コモンモード電流抽出回路は、コモンモードに対しては低インピーダンスを、ノーマルモードに対しては高インピーダンスを示す。そのため、コモンモード電流のみをバイパスし、信号であるノーマルモード電流は負荷に伝えるというモード選択的な動作が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、3個の単相リアクトルは、三相の中の任意の2つの相の組み合わせにより構成されている。構造が複雑であり、分岐線の配線パターンが長くなってしまう結果、分岐線のコモンモードに対する寄生インダクタンスが大きくなってしまい、コモンモードノイズのフィルタ性能が悪化してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するノイズフィルタの一実施形態は、3相電源から発生するコモンモードノイズを抑制するノイズフィルタである。ノイズフィルタは、第1入力端子と第1出力端子とを接続している第1導電線を備える。ノイズフィルタは、第2入力端子と第2出力端子とを接続している第2導電線を備える。ノイズフィルタは、第3入力端子と第3出力端子とを接続している第3導電線を備える。ノイズフィルタは、第1導電線、第2導電線および第3導電線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる磁性体を備える。第1導電線は、第1入力端子と第1分岐部との間を延びている第1入力側導電線と、第1分岐部と第1出力端子との間を延びている第1出力側導電線と、第1分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第1コンデンサが介挿されている第1分岐線と、を備える。第2導電線は、第2入力端子と第2分岐部との間を延びている第2入力側導電線と、第2分岐部と第2出力端子との間を延びている第2出力側導電線と、第2分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第2コンデンサが介挿されている第2分岐線と、を備える。第3導電線は、第3入力端子と第3分岐部との間を延びている第3入力側導電線と、第3分岐部と第3出力端子との間を延びている第3出力側導電線と、第3分岐部から分岐してグラウンドに接続しているとともに第3コンデンサが介挿されている第3分岐線と、を備える。磁性体は、第1入力側導電線と第1出力側導電線との磁気結合、第2入力側導電線と第2出力側導電線との磁気結合、および第3入力側導電線と第3出力側導電線との磁気結合、を発生させることで、これらの間に生じる相互インダクタンスによって第1分岐線、第2分岐線および第3分岐線の寄生インダクタンスを減ずるように構成されている。
【0006】
上記実施形態のノイズフィルタでは、第1~第3導電線の周囲に磁性体を配設することにより、第1~第3分岐線のコモンモード電流に対する寄生インダクタンスを減ずることができる。分岐線に複雑な構造を配置する必要がないため、分岐線の寄生インダクタンスの増大を抑制することができる。これら2つの効果により、コモンモードノイズのフィルタ性能を向上させることができる。
【0007】
磁性体は、第1下側部分と第2下側部分と第1上側部分と第2上側部分とを備えていてもよい。第1下側部分は、第1入力側導電線、第2入力側導電線および第3入力側導電線の下方を横断して延びていてもよい。第2下側部分は、第1出力側導電線、第2出力側導電線および第3出力側導電線の下方を横断して延びていてもよい。第1上側部分は、第1分岐部、第2分岐部および第3分岐部の上方を通過して第1下側部分の一方の端部と第2下側部分の一方の端部の間を延びていてもよい。第2上側部分は、第1分岐部、第2分岐部および第3分岐部の上方を通過して第1下側部分の他方の端部と第2下側部分の他方の端部の間を延びていてもよい。第1上側部分と第2上側部分は、第1分岐部、第2分岐部および第3分岐部の上方で交差していてもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0008】
第1分岐線、第2分岐線、および第3分岐線に配置されている、ノーマルモード電流の流入を抑制するノーマルモードチョークコイルをさらに備えていてもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0009】
ノーマルモードチョークコイルは、第1分岐線および第2分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第1のチョークコイル磁性体を備えていてもよい。ノーマルモードチョークコイルは、第2分岐線および第3分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第2のチョークコイル磁性体を備えていてもよい。ノーマルモードチョークコイルは、第3分岐線および第1分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第3のチョークコイル磁性体を備えていてもよい。第1分岐線および第2分岐線に流れるコモンモード電流によって、第1のチョークコイル磁性体に互いに逆向きに流れる磁束が発生してもよい。第2分岐線および第3分岐線に流れるコモンモード電流によって、第2のチョークコイル磁性体に互いに逆向きに流れる磁束が発生してもよい。第3分岐線および第1分岐線に流れるコモンモード電流によって、第3のチョークコイル磁性体に互いに逆向きに流れる磁束が発生してもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0010】
第1のチョークコイル磁性体、第2のチョークコイル磁性体および第3のチョークコイル磁性体は、互いに一体であってもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0011】
ノイズフィルタは、第1分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第1の分岐線磁性体をさらに備えていてもよい。ノイズフィルタは、第2分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第2の分岐線磁性体をさらに備えていてもよい。ノイズフィルタは、第3分岐線の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる第3の分岐線磁性体をさらに備えていてもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0012】
第1分岐部は、第1入力側導電線の一部と第1出力側導電線の一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複する第1重複領域を形成するようにループ形状を備えていてもよい。第2分岐部は、第2入力側導電線の一部と第2出力側導電線の一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複する第2重複領域を形成するようにループ形状を備えていてもよい。第3分岐部は、第3入力側導電線の一部と第3出力側導電線の一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複する第3重複領域を形成するようにループ形状を備えていてもよい。磁性体は、第1重複領域、第2重複領域および第3重複領域の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいてもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0013】
ノイズフィルタは、第1導電線、第2導電線および第3導電線が垂直に貫通している基板をさらに備えていてもよい。基板に垂直な方向からみたときに、第1導電線、第2導電線および第3導電線の各々は三角形の頂点の位置に配置されていてもよい。基板の第1面側には、第1入力側導電線、第2入力側導電線および第3入力側導電線が配置されていてもよい。基板の第2面側には、第1出力側導電線、第2出力側導電線および第3出力側導電線が配置されていてもよい。第1導電線と基板との接触部には、第1分岐部が形成されていてもよい。第2導電線と基板との接触部には、第2分岐部が形成されていてもよい。第3導電線と基板との接触部には、第3分岐部が形成されていてもよい。第1分岐線は、第1分岐部から延びているとともに基板上に配置されている渦巻き状の第1コイルパターンであってもよい。第2分岐線は、第2分岐部から延びているとともに基板上に配置されている渦巻き状の第2コイルパターンであってもよい。第3分岐線は、第3分岐部から延びているとともに基板上に配置されている渦巻き状の第3コイルパターンであってもよい。磁性体は、第1コイルパターンの中心を通り基板を垂直に貫通している第1ピラー部分と、第2コイルパターンの中心を通り基板を垂直に貫通している第2ピラー部分と、第3コイルパターンの中心を通り基板を垂直に貫通している第3ピラー部分と、を備えていてもよい。磁性体は、基板の第1面側において第1入力側導電線、第2入力側導電線および第3入力側導電線の周囲を取り囲んでいるとともに、第1ピラー部分、第2ピラー部分および第3ピラー部分の基板の第1面側の端部を互いに接続している第1環状部を備えていてもよい。 磁性体は、基板の第2面側において第1出力側導電線、第2出力側導電線および第3出力側導電線の周囲を取り囲んでいるとともに、第1ピラー部分、第2ピラー部分および第3ピラー部分の基板の第2面側の端部を互いに接続している第2環状部を備えていてもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1のノイズフィルタ1の斜視図である。
【
図2】実施例1のノイズフィルタ1の分解斜視図である。
【
図3A】ノイズフィルタ1のコモンモードに対する等価回路(その1)である。
【
図3B】ノイズフィルタ1のコモンモードに対する等価回路(その2)である。
【
図4】ノイズフィルタ1のコモンモード電流の経路を示す図である。
【
図5】ノイズフィルタ1のノーマルモードに対する等価回路である。
【
図6】ノイズフィルタ1のノーマルモード電流の経路を示す図である。
【
図7】実施例2のノイズフィルタ1aの斜視図である。
【
図8】実施例3のノイズフィルタ1bの分解斜視図である。
【
図9】ノイズフィルタ1bのコモンモード電流の経路を示す図である。
【
図10】ノイズフィルタ1bのノーマルモード電流の経路を示す図である。
【
図11】ノイズフィルタ1bのノーマルモードにおける等価回路である。
【
図12】ノイズフィルタ1bの測定結果の一例である。
【
図13】比較例のノイズフィルタの測定結果の一例である。
【
図14】実施例4のノイズフィルタ1cの分解斜視図である。
【
図15】実施例5のノイズフィルタ1dの斜視図である。
【
図16】実施例5のノイズフィルタ1dの分解斜視図である。
【
図17】コモンモードにおける磁性体230の磁束経路を示す図である。
【
図18】ノイズフィルタ1dのコモンモード電流の経路を示す図である。
【
図19】ノイズフィルタ1dのノーマルモード電流の経路を示す図である。
【
図21】3次元構造のノーマルモードチョークコイルである。
【
図23】実施例5のノイズフィルタ1dの変形例である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
以下、本明細書が開示する技術が適用されたノイズフィルタについて説明する。なお、以下で参照する各図において、実質的に機能が共通する構成要素については共通の符号を付し、その説明を省略することがある。
【0016】
<ノイズフィルタの構成>
図1にノイズフィルタ1の斜視図、
図2にその分解斜視図を示す。ノイズフィルタ1は、3相電源から発生するコモンモードノイズを抑制する3相フィルタである。ノイズフィルタ1は、第1入力端子IN1と第1出力端子OUT1とを接続している第1導電線11を備える。第2入力端子IN2と第2出力端子OUT2とを接続している第2導電線12を備える。第3入力端子IN3と第3出力端子OUT3とを接続している第3導電線13を備える。第1導電線11、第2導電線12および第3導電線13の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいる磁性体30を備える。第1導電線11、第2導電線12および第3導電線13は、互いに絶縁された状態で積層されている。
【0017】
第1導電線11は、平板状に成形された金属のバスバーで構成されている。第1入力端子IN1は、ノイズ源となるコンバータ又はインバータ等の電力変換器に接続されている。第1出力端子OUT1は、モータ等の負荷に接続されている。第1導電線11は、第1入力端子IN1と第1分岐部11jとの間を延びている第1入力側導電線11Aを備える。また、第1分岐部11jと第1出力端子OUT1との間を延びている第1出力側導電線11Bを備える。また、第1分岐部11jから分岐している第1分岐線11Cを備える。第1分岐線11Cは、第1導電線11と一体成型された金属のバスバーである。第1分岐線11Cの他端は、導体のハトメ40を介して、基板50の裏面に形成されている不図示のグラウンドに接続されている。第1分岐線11Cには、第1コンデンサ21が介挿されている。この例では、第1コンデンサ21は、2並列のチップコンデンサとして構成されている。
【0018】
第2導電線12は、第2入力端子IN2と第2分岐部12jとの間を延びている第2入力側導電線12Aを備える。また、第2分岐部12jと第2出力端子OUT2との間を延びている第2出力側導電線12Bを備える。また、第2分岐部12jから分岐して、ハトメ40を介してグラウンドに接続している第2分岐線12Cを備える。第2分岐線12Cには、第2コンデンサ22が介挿されている。第2導電線12の構造は、前述の第1導電線11と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0019】
第3導電線13は、第3入力端子IN3と第3分岐部13jとの間を延びている第3入力側導電線13Aを備える。また、第3分岐部13jと第3出力端子OUT3との間を延びている第3出力側導電線13Bを備える。また、第3分岐部13jから分岐して、ハトメ40を介してグラウンドに接続している第3分岐線13Cを備える。第3分岐線13Cには、第3コンデンサ23が介挿されている。第3導電線13の構造は、前述の第1導電線11と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0020】
このように、ノイズフィルタ1は、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aの寄生のインダクタンスと、第1コンデンサ21~第3コンデンサ23と、第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bの寄生のインダクタンスと、で構成されているLCL構成のT型のノイズフィルタである。なお、本明細書が開示する技術は、この例に限らず、他の種類のノイズフィルタにも適用可能である。
【0021】
磁性体30は、第1下側部分30Aと第2下側部分30Bと第1上側部分30Cと第2上側部分30Dと、を組み合わせて構成されている。磁性体30は、Mn-Zn、Ni-Zn等の材料を焼結したフェライト等を成形した磁性プレートである。第1下側部分30Aは、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aを短手方向に沿って横断するように、これらの下方を通過して延びている。第2下側部分30Bは、第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bを短手方向に沿って横断するように、これらの下方を通過して延びている。第1下側部分30Aの端部30A1および30A2と、第2下側部分30Bの端部30B1および30B2は、基板50の孔部50hを貫通している。第1上側部分30Cは、第1分岐部11j、第2分岐部12jおよび第3分岐部13jの上方を通過して、第1下側部分30Aの一方の端部30A1と第2下側部分30Bの一方の端部30B2との間を接続するように延びている。第2上側部分30Dは、第1分岐部11j、第2分岐部12jおよび第3分岐部13jの上方を通過して、第1下側部分30Aの他方の端部30A2と第2下側部分30Bの他方の端部30B1との間を接続するように延びている。第1上側部分30Cと第2上側部分30Dは、第1分岐部11j、第2分岐部12jおよび第3分岐部13jの上方で交差している。なお、ここでいう「下」及び「上」という表現は、便宜の上で第1導電線に対する相対的な位置関係を特定するためだけに用いられており、空間上の上下関係を特定するものではない。
【0022】
このような磁性体30が配設されていると、入力側から出力側に流れる電流を正としたとき、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aから生じる磁束と第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bから生じる磁束とが互いに強め合う。よって、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aと第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bとの間に生じる相互インダクタンスの符号が正となるように、磁気結合することができる。そして、発生させた相互インダクタンスによって、第1分岐線11C、第2分岐線12Cおよび第3分岐線13Cの寄生インダクタンスを減少させることができる。詳しい動作については後述する。
【0023】
必要に応じて、第1下側部分30Aおよび第2下側部分30Bと第1上側部分30Cおよび第2上側部分30Dとの間には、ギャップが設けられていてもよい。このようなギャップのギャップ間の距離等を調整することにより、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aと第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bとのの間に生じる相互インダクタンスを調整することができる。
【0024】
<フィルタの動作>
ノイズフィルタ1のコモンモードに対する等価回路を
図3Aおよび
図3Bに示す。第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aの各々には、その配線パターンに起因したインダクタンスL
11A~L
13Aが存在している。第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bの各々にも、その配線パターンに起因したインダクタンスL
11B~L
13Bが存在している。第1分岐線11C~第3分岐線13Cには、その配線パターンに起因したインダクタンスと第1コンデンサ21~第3コンデンサ23の等価直列インダクタンス(ESL:Equivalent Series Inductance)の合計である、インダクタンスL
11C~L
13Cが存在している。
【0025】
図4に示すように、コモンモード電流に対しては、3線ですべて同じ向きにu相、v相、w相の電流UI、VI、WIが流れる。磁性体30には、同じ向きの磁束UF、VF、WFが発生して強め合う。この磁束は、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aと第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bの磁気結合を強める。第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aの一部と、第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bの一部とが正の磁気結合をし、これらの間に正の相互インダクタンスM
1~M
3が生じる(
図3A参照)。そして第1分岐線11C~第3分岐線13Cに負の相互インダクタンスが発生し、寄生インダクタンスが低減される(
図3B参照)。すなわち、正の相互インダクタンスM
1~M
3の各々は、第1分岐線11C~第3分岐線13CのインダクタンスL
11C~L
13Cから減算される。
【0026】
一方、ノーマルモード電流は、3線の電流の和が0になるように流れる。ここでは例として、対称な3相交流を用いて説明する。対称な3相交流では、3相の第1導電線11~第3導電線13を120°ごとに位相がずれた状態で流れる。そして、導電線の周辺に発生する磁束は、重ねた3線に流れる電流を足し合わせたものに比例する。従って、ノーマルモードでの導電線の周辺の磁束は、位相にかかわらず0となる。
【0027】
例えば、電流の振幅を1とすると、ある位相θでの電流UIはsinθ、電流VIはsin(θ-120°)、電流WIはsin(θ-240°)、となる。θ=90°の各相の電流が入力された場合、ノーマルモード電流の流れは
図6に示すようになる。電流VIおよびWIの向きは、電流UIと逆向きになる。また電流VIおよびWIの大きさは、電流UIの半分となる。よって磁束VFおよびWFの向きが磁束UFと逆向きになり、互いに打ち消し合うため、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aと第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bとの磁気結合は小さくなる。なお
図6では、大きな電流UIおよび磁束UFを実線で記載し、小さな電流VI、WIおよび磁束VF、WFを点線で記載している。上記の関係は、θがどんな値でも成り立つ。相互インダクタンスが発生しないため、
図5の等価回路に示すように、ノーマルモード電流に対しては、第1分岐線11C~第3分岐線13CのインダクタンスL
11C~L
13Cの低減効果はほとんどなくなる。
【0028】
<効果>
磁性体30を配設することにより、第1分岐線11C~第3分岐線13Cの寄生インダクタンスを、コモンモード電流に対して減少させることができる。第1分岐線11C~第3分岐線13Cを、コモンモードに対しては低インピーダンスを示し、ノーマルモードに対しては高インピーダンスを示すように構成することができる。不要成分であるコモンモード電流のみをグラウンドへバイパスし、必要成分であるノーマルモード電流を選択的に負荷に伝えるという、モード選択的な動作が可能となる。すなわち、コモンモード電流に対してのみ、高周波でのフィルタ性能を向上させることができる。
【0029】
実施例1のノイズフィルタ1では、磁性体30を配設するだけでよいため、第1分岐線11C~第3分岐線13Cの配線を複雑に構成する必要がない。配線簡略化により、第1分岐線11C~第3分岐線13Cの寄生インダクタンスの増大を抑制することができる。コモンモード電流に対するフィルタ性能を向上させることができる。
【実施例2】
【0030】
図7に、実施例2のノイズフィルタ1aを示す。実施例2のノイズフィルタ1aは、実施例1のノイズフィルタ1(
図1)に対して、第1分岐線11C~第3分岐線13Cに分岐線磁性体31~33を備えた形態である。実施例1のノイズフィルタ1と同様の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0031】
第1分岐線11C~第3分岐線13Cは、領域R1において基板50の水平方向に互いに離れて配置されている。分岐線磁性体31~33の各々は、基板50を貫通して、第1分岐線11C~第3分岐線13Cの周囲を取り囲んでいる。
【0032】
<効果>
まず、課題について説明する。ノーマルモード電流はコモンモード電流に比べて大きいため、ノーマルモード電流が第1分岐線11C~第3分岐線13Cへ流れると、第1コンデンサ21~第3コンデンサ23が焼損する恐れがある。また、ノーマルモード電流は電力変換用半導体素子の出力であるため、フィルタを通すと(すなわち、第1分岐線11C~第3分岐線13Cへ流れると)、電圧変化がなまり、半導体素子の発熱が大きくなってしまう。したがって、コモンモードフィルタの性能は高くする(すなわちコモンモード電流を第1分岐線11C~第3分岐線13Cへ流す)必要があるが、ノーマルモードフィルタの性能は低くする(すなわちノーマルモード電流を第1出力側導電線11B~第3出力側導電線13Bへ流す)必要がある。換言すると、ノーマルモードフィルタ性能に対するコモンモードフィルタ性能の比率(コモン/ノーマルフィルタ性能比)を高くする必要がある。しかし実施例1のノイズフィルタ1(
図1)では、コモン/ノーマルフィルタ性能比を十分に高くすることができない場合がある。
【0033】
実施例2のノイズフィルタ1aが備える分岐線磁性体31~33は、モードに関係なく作用する。よって、第1分岐線11C~第3分岐線13Cに存在するインダクタンスL11C~L13Cは、コモンモードおよびノーマルモード両方で増加するため、ノーマルモードフィルタおよびコモンモードフィルタの性能が悪化する。しかし、実施例1のコモンモードノイズフィルタ(磁性体30によるフィルタ)によって、インダクタンスL11C~L13Cを、コモンモードに対してのみ低減することができる。これにより、分岐線磁性体31~33によるコモンモードフィルタの性能悪化を、磁性体30によりキャンセルできるため、ノーマルモードフィルタの性能のみを悪化させることができる。その結果、コモン/ノーマルフィルタ性能比を高くすることが可能となる。
【実施例3】
【0034】
図8に、実施例3のノイズフィルタ1bの分解斜視図を示す。実施例3のノイズフィルタ1bは、実施例1のノイズフィルタ1(
図1)に対して、ノーマルモード電流の流入を抑制するノーマルモードチョークコイルを、第1分岐線11C~第3分岐線13Cに備えた形態である。実施例1のノイズフィルタ1と同様の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0035】
基板50は両面基板となっている。基板50の表側に配置されている配線を実線で、裏面に配置されている配線を破線で示している。第1導電線11は基板50の表側に配置されており、第2導電線12および第3導電線13は裏側に配置されている。第1導電線11~第3導電線13は、互いに平行に同一方向へ伸びている。
【0036】
第1分岐線11Cは、第1分岐部11jから領域R11および領域R13を通り、第1コンデンサ21を介してハトメ41に接続している。第2分岐線12Cは、第2分岐部12jから領域R12および領域R11を通り、第2コンデンサ22を介してハトメ42に接続している。第3分岐線13Cは、第3分岐部13jから領域R13および領域R12を通り、第3コンデンサ23を介してハトメ43に接続している。ハトメ41~43は、不図示のグラウンドに接続している。
【0037】
第1チョークコイル磁性体31bは、中心軸を通る断面で円筒を分割した構造を備えている。第1チョークコイル磁性体31bの上側半分と下側半分(不図示)とは、孔部50h1を介して合体する。これにより第1チョークコイル磁性体31bは、領域R11において、第1分岐線11Cおよび第2分岐線12Cの周囲を取り囲んでいる。同様にして、第2チョークコイル磁性体32bは、孔部50h2を介して合体する。第2チョークコイル磁性体32bは、領域R12において、第2分岐線12Cおよび第3分岐線13Cの周囲を取り囲んでいる。同様にして、第3チョークコイル磁性体33bは、孔部50h3を介して合体する。第3チョークコイル磁性体33bは、領域R13において、第3分岐線13Cおよび第1分岐線11Cの周囲を取り囲んでいる。
【0038】
<フィルタの動作>
図9にコモンモード電流の流れ方を示す。
図9では、磁性体30および第1チョークコイル磁性体31b~第3チョークコイル磁性体33bは、記載を省略している。コモンモードでは、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aのすべてで同じ向きにu相、v相、w相の電流UI、VI、WIが流れる。第1チョークコイル磁性体31bに囲まれている領域R11において、第1分岐線11Cおよび第2分岐線12Cにはコモンモードの電流UIおよびVIが互いに逆向きに流れる。これにより第1チョークコイル磁性体31bには、互いに逆向きに流れる磁束UFおよびVFが発生する。第2チョークコイル磁性体32bに囲まれている領域R12において、第2分岐線12Cおよび第3分岐線13Cにはコモンモードの電流VIおよびWIが互いに逆向きに流れる。これにより第2チョークコイル磁性体32bには、互いに逆向きに流れる磁束VFおよびWFが発生する。第3チョークコイル磁性体33bに囲まれている領域R13において、第3分岐線13Cおよび第1分岐線11Cにはコモンモードの電流WIおよびUIが互いに逆向きに流れる。これにより第3チョークコイル磁性体33bには、互いに逆向きに流れる磁束WFおよびUFが発生する。従って磁束を打ち消し合うため、コモンモード電流に対してはほとんどインダクタンスを示さない。
【0039】
その結果、実施例3のノイズフィルタ1bのコモンモードにおける等価回路は、実施例1のノイズフィルタ1のコモンモードの等価回路(
図3)と同様になる。すなわち、ノーマルモードチョークコイルによっては、第1分岐線11C~第3分岐線13Cにインダクタンスは追加されない。
【0040】
一方、ノーマルモード電流の流れを
図10に示す。
図10では、θ=90°の各相の電流が入力された場合を示している。電流VIおよびWIの向きは、電流UIと逆向きになる。また電流VIおよびWIの大きさは、電流UIの半分となる。なお
図10では、大きな電流UIを太い矢印で記載し、小さな電流VI、WIを細い矢印で記載している。領域R11において、第1分岐線11Cおよび第2分岐線12Cにはノーマルモードの電流UIおよびVIが同方向に流れる。また領域R13において、第3分岐線13Cおよび第1分岐線11Cにはノーマルモードの電流WIおよびUIが同方向に流れる。その結果、領域R11およびR13では、磁束が強め合うため、インダクタンスが増加する。
【0041】
図11に、実施例3のノイズフィルタ1bのノーマルモードにおける等価回路を示す。ノーマルモードチョークコイルによって、第1分岐線11C~第3分岐線13CにインダクタンスL
NMが追加されている。これにより、ノーマルモード電流に対しては、第1分岐線11C~第3分岐線13Cは高インピーダンスとなる。
【0042】
<フィルタ性能の測定結果>
図12および
図13の各々に、ノーマルモードフィルタ性能NMおよびコモンモードフィルタ性能CMを示す。
図12は、実施例3のノイズフィルタ1bの測定結果の一例である。
図13は、比較例のノイズフィルタの測定結果の一例である。比較例のノイズフィルタは、実施例3のノイズフィルタ1bから、磁性体30および第1チョークコイル磁性体31b~第3チョークコイル磁性体33bを除去したフィルタである。縦軸のフィルタ性能は、入力端子に入力された電流が出力端子へどの程度伝達されたかを示している。フィルタ性能の値がマイナスになるほど、出力端子への伝達が少なくなるため、フィルタ性能が高いことを示している。
【0043】
図13の比較例では、ノーマルモードフィルタ性能NMおよびコモンモードフィルタ性能CMは、同程度である。しかし
図12の実施例3では、ノーマルモードフィルタ性能NMを、全周波数帯域において低くすることができている。実施例3のノイズフィルタ1bでは、第1チョークコイル磁性体31b~第3チョークコイル磁性体33bを備えたノーマルモードチョークコイルによって、ノーマルモードフィルタ性能NMに比較したコモンモードフィルタ性能CM(コモン/ノーマルフィルタ性能比)を高めることができることが分かる。特に、0.1MHz以上の高周波側で、コモン/ノーマルフィルタ性能比を高めることができる。
【実施例4】
【0044】
実施例4のノイズフィルタ1cの分解斜視図を、
図14に示す。実施例4は、分岐部および分岐部の周囲の磁性体の形状を変更した実施例である。実施例1のノイズフィルタ1と同様の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。なお
図14では、基板の図示を省略している。
【0045】
第1入力側導電線111A~第3入力側導電線113A、および、第1出力側導電線111B~第3出力側導電線113Bは、互いに別体となっており、互いに絶縁されている。第1分岐部111jは、第1入力側導電線111Aと一体に形成されており、端部E11から-y方向へ突出するとともに、-x方向へ伸びている。ビア配線141は、第1分岐部111jの端部E12と、第1出力側導電線111Bの端部E13とを接続している。すなわち第1分岐部111jは、第1重複領域A1を形成するように、ループ形状を備えている。第1重複領域A1は、第1入力側導電線111Aの一部と第1出力側導電線111Bの一部とが、同一方向に電流が流れる向きで重複している領域である。
【0046】
同様にして第2分岐部112jは、第2重複領域A2を形成するように、ループ形状を備えている。第2重複領域A2は、第2入力側導電線112Aの一部と第2出力側導電線112Bの一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複している領域である。同様にして第3分岐部113jは、第3重複領域A3を形成するように、ループ形状を備えている。第3重複領域A3は、第3入力側導電線113Aの一部と第3出力側導電線113Bの一部とが同一方向に電流が流れる向きで重複している領域である。
【0047】
磁性体130は、略I字形状の下側部分130Aと、略U字形状の上側部分130Bと、を備えている。下側部分130Aと上側部分130Bとは、組み合わせることで環状構造を有する磁性体130となる。磁性体130は、第1重複領域A1~第3重複領域A3の少なくとも一部を取り囲んでいる。
【0048】
<効果>
磁性体130によって、第1入力側導電線111A~第3入力側導電線113Aから生じる磁束と第1出力側導電線111B~第3出力側導電線113Bから生じる磁束とを互いに強め合うことができる。実施例1の磁性体30と同様の効果を得ることができる。また、第1入力側導電線111A~第3入力側導電線113Aおよび第1出力側導電線111B~第3出力側導電線113Bが磁性体130を貫通している部分(第1重複領域A1~第3重複領域A3)を、直線形状にすることができる。実施例1の磁性体30(
図2参照)に比して、磁性体130の形状を簡略化できる。磁性体130の体積を縮小することや、磁性体130の製造コストを削減することが可能となる。
【実施例5】
【0049】
実施例5のノイズフィルタ1dの斜視図を
図15に示す。また分解斜視図を
図16に示す。実施例5のノイズフィルタ1dは、実施例3のノイズフィルタ1b(
図8)が備える磁性体30および第1チョークコイル磁性体31b~第3チョークコイル磁性体33bを一体化した構造である。ノイズフィルタ1dは、磁性体230、基板250、第1導電線211~第3導電線213、を備えている。
【0050】
基板250に垂直な方向からみたときに、第1導電線211、第2導電線212および第3導電線213の各々は、三角形の頂点の位置に配置されている。すなわち、基板250の中心を通る中心軸CAに対して、第1導電線211~第3導電線213は対称に配置されている。
【0051】
第1入力側導電線211Aと基板250の表面との接触部には、第1分岐部211Ajおよび分岐電極211tが形成されている。第1分岐部211Ajは、第1入力側導電線211Aから分岐している導線である。分岐電極211tは基板250表面に形成されており、貫通孔を備えている。同様に、第1出力側導電線211Bには、第1分岐部211Bjが形成されている。第1分岐部211Bjは、第1出力側導電線211Bから分岐している導線である。第1分岐部211Ajと分岐電極211tと第1分岐部211Bjとを貫通するねじ等の締結部(不図示)を用いることにより、これら3者が電気的に接続している。すなわち、第1入力側導電線211Aは、第1分岐部211Ajおよび211Bjを介して第1出力側導電線211Bに接続している。従って、第1導電線211が垂直に基板250を貫通している構造が形成されている。
【0052】
分岐電極211tから延びている第1分岐線211Cは、孔部250h2の周囲に渦巻き状に配置されており、コイルパターンを形成している。第1分岐線211Cの端部211Ceは基板250の裏面側に延びており、裏面に配置されているコンデンサ221を介してグラウンド電極250gへ接続している。
【0053】
同様にして、第2入力側導電線212Aの第2分岐部212Ajと分岐電極212tと第2分岐部212Bjとが電気的に接続している。従って、第2導電線212が垂直に基板250を貫通している構造が形成されている。コイルパターンを形成している第2分岐線212Cの端部212Ceは、コンデンサ222を介してグラウンド電極250gへ接続している。また同様にして、第3入力側導電線213Aの第3分岐部213Ajと分岐電極213tと第3分岐部213Bjとが電気的に接続している。従って、第3導電線213が垂直に基板250を貫通している構造が形成されている。コイルパターンを形成している第3分岐線213Cの端部213Ceは、コンデンサ223を介してグラウンド電極250gへ接続している。
【0054】
磁性体230は、下側部分230Aおよび上側部分230Bを備えている。上側部分230Bは、第1ピラー部分230B1~第3ピラー部分230B3、および、第1環状部230Brを備えている。第1環状部230Brは、第1ピラー部分230B1~第3ピラー部分230B3の上端部を互いに接続している。第1環状部230Brは、第1入力側導電線211A~第3入力側導電線213Aの周囲を取り囲んでいる。同様にして、下側部分230Aは、第1ピラー部分230A1~第3ピラー部分230A3、および、第2環状部230Arを備えている。第2環状部230Arは、第1ピラー部分230A1~第3ピラー部分230A3の下端部を互いに接続している。第2環状部230Arは、第1出力側導電線211B~第3出力側導電線213Bの周囲を取り囲んでいる。
【0055】
第1ピラー部分230A1~第3ピラー部分230A3の各々は、孔部250h2を介して、第1ピラー部分230B1~第3ピラー部分230B3に接続している。すなわち、第1ピラー部分230A1~第3ピラー部分230A3および第1ピラー部分230B1~第3ピラー部分230B3の各々は、コイルパターンの第1分岐線211C~第3分岐線213Cの中心を通って、基板250を垂直に貫通している。
【0056】
<磁性体230の機能>
磁性体230によって、以下の3つの機能が実現できる。第1に、第1分岐線211C~第3分岐線213Cのコモンモード電流に対する寄生インダクタンスを減少させる機能である(実施例1と同様)。第2に、ノーマルモードチョークコイルを、第1分岐線211C~第3分岐線213Cに配置する機能である(実施例3と同様)。第3に、コモンモードチョークコイルの機能である。以下に説明する。
【0057】
第1の機能を説明する。
図17に示すように磁性体230には、コモンモード電流に対しては、同じ向きの磁束UF、VF、WFが発生して強め合う。従って実施例1で説明したように、第1分岐線211C~第3分岐線213Cのコモンモード電流に対する寄生インダクタンスを減少させることができる。
【0058】
第2の機能を説明する。
図18に、コモンモード電流の流れ方を示す。領域R21において、第1分岐線211Cおよび第2分岐線212Cには、コモンモードの電流UIおよびVIが互いに逆向きに流れる。同様に、領域R22において、第2分岐線212Cおよび第3分岐線213Cには、コモンモードの電流VIおよびWIが互いに逆向きに流れる。同様に、領域R23において、第3分岐線213Cおよび第1分岐線211Cにはコモンモードの電流WIおよびUIが互いに逆向きに流れる。従って磁束を打ち消し合うため、コモンモード電流に対してはほとんどインダクタンスを示さない。その結果、実施例5のノイズフィルタ1dのコモンモードにおける等価回路は、実施例1のノイズフィルタ1のコモンモードの等価回路(
図3)と同様になる。すなわちコモンモード電流に対しては、第1分岐線211C~第3分岐線213Cにインダクタンスは追加されない。
【0059】
一方、ノーマルモード電流の流れを
図19に示す。
図19では、θ=90°の各相の電流が入力された場合を示している。領域R21において、第1分岐線211Cおよび第2分岐線212Cにはノーマルモードの電流UIおよびVIが同方向に流れる。また領域R23において、第3分岐線213Cおよび第1分岐線211Cにはノーマルモードの電流WIおよびUIが同方向に流れる。領域R21およびR23では、磁束が強め合うため、インダクタンスが増加する。その結果、実施例5のノイズフィルタ1dのノーマルモードにおける等価回路は、実施例3のノイズフィルタ1bのノーマルモードの等価回路(
図11)と同様になる。これにより、ノーマルモード電流に対して、第1分岐線211C~第3分岐線213Cを高インピーダンスとすることができる。
【0060】
第3の機能を説明する。第1環状部230Brは、第1入力側導電線211A~第3入力側導電線213Aの周囲を取り囲んでいる。コモンモードでは、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aのすべてで、同じ向きにu相、v相、w相の電流UI、VI、WIが流れる(
図18参照)。従って磁束が強め合うため、第1入力側導電線11A~第3入力側導電線13Aのインダクタンスがコモンモードに対して高インピーダンスとなる。同様にして、第2環状部230Arは、第1出力側導電線211B~第3出力側導電線213Bの周囲を取り囲んでいる。よって、第1出力側導電線211B~第3出力側導電線213Bのインダクタンスがコモンモードに対して高インピーダンスとなる。コモンモード電流の負荷への伝達を、抑制することが可能となる。
【0061】
<効果>
磁性体230では、上述の3つの機能を1つの磁性体で実現できるため、ノイズフィルタ1dを小型化することが可能となる。また、第1導電線211~第3導電線213を対称配置できるため、それぞれの線のインピーダンスの誤差を小さくすることができる。ノイズフィルタ1dの性能を高めることが可能となる。
【0062】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0063】
<変形例>
実施例3の第1チョークコイル磁性体31b~第3チョークコイル磁性体33b(
図8)の形状は、様々な変形が可能である。例えば
図20に示す磁性体330のように、一体型であってもよい。櫛形状の下側部分330Aと櫛形状の上側部分330Bとを組み合わせることで、環状構造を3つ備えた磁性体330を形成することができる。実施例3と同様にして、領域R11~R13を形成することが可能となる。
【0064】
実施例3のノーマルモードチョークコイルは、例えば、
図21に示すような3次元構造でもよい。第1分岐部411j~第3分岐部413j、および、チョークコイル磁性体431~433の各々は、三角形の頂点の位置に配置されている。第1分岐線411Cは、チョークコイル磁性体431および433の内部を通過して、不図示のグラウンドに接続されている。同様に第2分岐線412Cは、チョークコイル磁性体432および431の内部を通過して、グラウンドに接続されている。同様に第3分岐線413Cは、チョークコイル磁性体433および432の内部を通過して、グラウンドに接続されている。実施例3で説明したコモンモード電流の経路(
図9)およびノーマルモード電流の経路(
図10)は、
図21の3次元構造においても同様に実現することができる。従って、実施例3のノーマルモードチョークコイルと同様の効果を得ることができる。また3次元配置することにより、第1分岐線411C~第3分岐線413Cの配線長を、実施例3の第1分岐線11C~第3分岐線13Cに比して短くすることができる。第1分岐線411C~第3分岐線413Cの寄生インダクタンスの増大を抑制することが可能となる。
【0065】
図21に示したチョークコイル磁性体431~433の形状は、様々な変形が可能である。例えば
図22に示す磁性体530のように、一体型であってもよい。環状の下側部分530Aと環状の上側部分530Bとを組み合わせることで、実施例3と同様にして、領域R11~R13を形成することが可能となる。
【0066】
実施例5のノイズフィルタ1d(
図16)において、第1導電線211、第2導電線212および第3導電線213が垂直に基板250を貫通している構造は、様々な形態であってよい。例えば
図23の変形例に示すように、第1入力側導電線211A、第2入力側導電線212Aおよび第3入力側導電線213Aの各々は、孔部250h1を介して、基板250の裏面側に配置されている第1出力側導電線211B、第2出力側導電線212Bおよび第3出力側導電線213Bに接続してもよい。導電線の接続は、導体のスリーブ211S~213Sを用いて圧着することで行ってもよい。
【0067】
磁性体30の形状は、入力側導電線と出力側導電線とを一括で囲う形状であれば、どのような形状であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1~1d:ノイズフィルタ 11:第1導電線 11A:第1入力側導電線 11B:第1出力側導電線 11C:第1分岐線 12:第2導電線 12A:第2入力側導電線 12B:第2出力側導電線 12C:第2分岐線 13:第3導電線 13A:第3入力側導電線 13B:第3出力側導電線 13C:第3分岐線 21:第1コンデンサ 22:第2コンデンサ 23:第3コンデンサ 30:磁性体 40:ハトメ 50:基板