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特許7294313正極活物質、正極、非水電解質蓄電素子、正極活物質の製造方法、正極の製造方法、及び非水電解質蓄電素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】正極活物質、正極、非水電解質蓄電素子、正極活物質の製造方法、正極の製造方法、及び非水電解質蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230613BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230613BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20230613BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20230613BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20230613BHJP
   C01B 33/20 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01G11/46
H01G11/86
C01G51/00 A
C01B33/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020501635
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2019003543
(87)【国際公開番号】W WO2019163476
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018027954
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】水野 祐介
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153599(JP,A)
【文献】特開2017-130359(JP,A)
【文献】国際公開第2014/118834(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115052(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/183653(WO,A1)
【文献】特開2018-139172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01G 11/46
H01G 11/86
C01G 51/00
C01B 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される酸化物を含む正極活物質。
[Li2-2z2x2y]O ・・・(1)
(上記式(1)中、Mは、Co、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせである。Aは、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、下記式(a)~(d)を満たす。
0<x≦0.08 ・・・(a)
0<y<1 ・・・(b)
x+y≦z<1 ・・・(c)
0.2<x/(x+y) ・・・(d))
【請求項2】
上記酸化物が、逆蛍石型構造に属する結晶構造を有する請求項1の正極活物質。
【請求項3】
上記式(1)中のx及びzが、下記式(e)を満たす請求項1又は請求項2の正極活物質。
0.01≦x/(1-z+x)≦0.2 ・・・(e)
【請求項4】
上記酸化物のX線回折図において、回折角2θ=33°付近の回折ピークの半値幅が0.3°以上である、請求項1から請求項のいずれか1項の正極活物質。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項の正極活物質を有する非水電解質蓄電素子用の正極。
【請求項6】
請求項の正極を有する非水電解質蓄電素子。
【請求項7】
遷移金属元素Mと典型元素Aを含む材料をメカノケミカル法により処理することを備え、
上記材料が、
上記遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物と上記典型元素Aを含む化合物とを含む、又は
上記遷移金属元素M及び上記典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物を含み、
上記遷移金属元素Mが、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせであり、
上記典型元素Aが、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせであり、
上記材料中の上記遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))が、0.2より大きく、
X線回折図において、回折角2θ=33°付近の回折ピークの半値幅が0.3°以上である正極活物質の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項の正極活物質又は請求項の正極活物質の製造方法で得られた正極活物質を用いて正極を作製することを含む、非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法。
【請求項9】
請求項1からのいずれかの正極活物質と、導電剤と、を含む混合物をメカニカルミリング処理することを備える、非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法。
【請求項10】
請求項又はの非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法によって製造された正極を備える、非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、正極、非水電解質蓄電素子、正極活物質の製造方法、正極の製造方法、及び非水電解質蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子の正極及び負極には、各種活物質が採用されており、正極活物質としては、様々な複合酸化物が広く用いられている。正極活物質の一つとして、LiOにCo、Fe等の遷移金属元素を固溶させた遷移金属固溶金属酸化物が開発されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-107890号公報
【文献】特開2015-32515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正極活物質には、電気容量が大きいこと、平均放電電位が高いことなどが求められる。電気容量が大きく、平均放電電位が高ければ、放電エネルギー密度がより高まり、蓄電素子の更なる小型化などが可能となる。しかし、上記従来のLiOに遷移金属元素が固溶された正極活物質は、平均放電電位が十分に高いものではない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、平均放電電位が高い正極活物質、このような正極活物質を有する正極及び非水電解質蓄電素子、上記正極活物質の製造方法、上記正極の製造方法、並びに上記非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、下記式(1)で表される酸化物を含む正極活物質(I)である。
[Li2-2z2x2y]O ・・・(1)
(上記式(1)中、Mは、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせである。Aは、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、下記式(a)~(d)を満たす。
0<x<1 ・・・(a)
0<y<1 ・・・(b)
x+y≦z<1 ・・・(c)
0.2<x/(x+y) ・・・(d))
【0008】
本発明の他の一態様は、リチウム、遷移金属元素M及び典型元素Aを含む酸化物を含有し、上記遷移金属元素Mが、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせであり、上記典型元素Aが、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせであり、上記酸化物中の上記遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))が、0.2より大きく、上記酸化物が逆蛍石型結晶構造に属する結晶構造を有する正極活物質(II)である。
【0009】
本発明の他の一態様は、当該正極活物質(I)又は当該正極活物質(II)を有する非水電解質蓄電素子用の正極である。
【0010】
本発明の他の一態様は、当該正極を備える非水電解質蓄電素子である。
【0011】
本発明の他の一態様は、遷移金属元素Mと典型元素Aを含む材料をメカノケミカル法により処理することを備え、上記材料が、上記遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物と上記典型元素Aを含む化合物とを含む、又は上記遷移金属元素M及び上記典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物を含み、上記遷移金属元素Mが、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせであり、上記典型元素Aが、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせであり、上記材料中の上記遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))が、0.2より大きい正極活物質の製造方法である。
【0012】
本発明の他の一態様は、当該正極活物質(I)又は当該正極活物質(II)を用いて正極を作製することを含む非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0013】
本発明の他の一態様は、上記正極活物質と導電剤を含む混合物をメカニカルミリング処理することを備える、非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法である。
【0014】
本発明の他の一態様は、当該正極を備える、非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平均放電電位が高い正極活物質、このような正極活物質を有する正極及び非水電解質蓄電素子、上記正極活物質の製造方法、上記正極の製造方法、並びに上記非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3図3は、合成例1、2、7~9で得られた各酸化物のX線回折図である。
図4図4は、実施例1~5及び比較例1~2で得られた各正極活物質のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る正極活物質は、下記式(1)で表される酸化物(i)を含む正極活物質(I)である。
[Li2-2z2x2y]O ・・・(1)
(上記式(1)中、Mは、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせである。Aは、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、下記式(a)~(d)を満たす。
0<x<1 ・・・(a)
0<y<1 ・・・(b)
x+y≦z<1 ・・・(c)
0.2<x/(x+y) ・・・(d))
【0018】
当該正極活物質(I)は、平均放電電位が高い。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。上記酸化物(i)は、典型的には、LiOに対して遷移金属元素Mと共に典型元素Aが所定比率で固溶された複合酸化物である。また、上記典型元素Aは、カチオンとなることができ、LiOに固溶可能なp-ブロック元素である。ここで、従来のLiOにCoが固溶された複合酸化物における充放電反応(酸化還元反応)は、Co3d-O2p混成軌道での電子授受であるとされる。Co以外の遷移金属元素Mが固溶された場合も同様に、M3d-O2p混成軌道での電子授受により酸化還元反応が生じるとされる。これに対し、LiOに遷移金属元素Mと共に典型元素Aが所定割合で固溶された上記酸化物(i)においては、酸素原子Oが、M3d-O2p混成軌道の他、Asp-O2pのsp混成軌道を形成すると推測される。このAsp-O2pのsp混成軌道による結合は非常に強固であるため、O2p軌道での電子授受に必要なエネルギーが大きくなり、放電電位が高まるものと推測される。
【0019】
なお、本明細書における正極活物質の酸化物の組成比は、充放電を行っていない酸化物、あるいは次の方法により放電末状態とした酸化物における組成比をいう。 まず、非水電解質蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の充電終止電圧となるまで定電流充電し、充電末状態とする。30分の休止後、0.05Cの電流で正極の電位が1.5V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電し、完全放電状態状態とする。解体した結果、金属リチウム電極を負極に用いた電池であれば、以下に述べる追加作業は行わず、正極を取り出す。金属リチウム以外を負極に用いた電池である場合は、正極電位を正確に制御するため、追加作業として、電池を解体して正極を取り出した後に、金属リチウム電極を対極とした試験電池を組み立て、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、正極電位が2.0V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電を行い、完全放電状態に調整した後、再解体し、正極を取り出す。取り出した正極から、正極活物質の酸化物を採取する。ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。
【0020】
上記酸化物(i)が、逆蛍石型構造に属する結晶構造を有することが好ましい。上記酸化物(i)がこのような結晶構造を有する場合、逆蛍石型結晶構造を有するLiOに対して遷移金属元素Mと共に典型元素Aが所定比率で固溶された結晶構造が形成されていると推測され、当該正極活物質(I)の平均放電電位がより高まる。
【0021】
上記式(1)中のx及びzが、下記式(e)を満たすことが好ましい。
0.01≦x/(1-z+x)≦0.2 ・・・(e)
【0022】
上記式(e)における比x/(1-z+x)は、上記酸化物(i)におけるリチウムと遷移金属元素Mとの合計含有量(2-2z+2x)に対する遷移金属元素Mの含有量(2x)のモル比率である。式(e)を満たす場合、LiOに対する遷移金属元素Mの固溶量がより十分なものとなり、放電容量を大きくすることなどができる。
【0023】
本発明の他の一実施形態に係る正極活物質は、リチウム、遷移金属元素M及び典型元素Aを含む酸化物(ii)を含有し、上記遷移金属元素Mが、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせであり、上記典型元素Aが、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせであり、上記酸化物(ii)中の上記遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))が、0.2より大きく、上記酸化物(ii)が逆蛍石型結晶構造に属する結晶構造を有する正極活物質(II)である。
【0024】
当該正極活物質(II)は、平均放電電位が高い。この理由は定かではないが、上述した正極活物質(I)と同様の理由が推測される。すなわち、当該正極活物質(II)に含まれる酸化物(ii)も、典型的には、LiOに対して遷移金属元素Mと共に典型元素Aが所定比率で固溶された複合酸化物であり、上述した酸化物(i)と同様の作用効果が生じるものと推測される。
【0025】
本発明の一実施形態に係る正極活物質は、上記酸化物のX線回折図において、回折角2θ=33°付近の回折ピークの半値幅が0.3°以上であることが好ましい。
【0026】
このような構成によれば、平均放電電位が高い正極活物質を確実に提供できる。
【0027】
酸化物のX線回折測定は、X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いた粉末X線回折測定によって、線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとして行う。このとき、回折X線は、厚み30μmのKβフィルターを通り、高速一次元検出器(D/teX Ultra 2)にて検出される。また、サンプリング幅は0.02°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。また、得られたX線回折パターンを、PDXL(解析ソフト、Rigaku製)を用いて自動解析処理する。ここで、PDXLソフトの作業ウィンドウで「バックグラウンドを精密化する」及び「自動」を選択し、実測パターンと計算パターンの強度誤差が1500以下になるように精密化する。この精密化によってバックグラウンド処理がされ、ベースラインを差し引いた値として、各回折線のピーク強度の値、及び半値幅の値、等が得られる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る正極は、当該正極活物質(I)又は当該正極活物質(II)を有する非水電解質蓄電素子用の正極である。当該正極は、当該正極活物質(I)又は当該正極活物質(II)を有するため、平均放電電位が高い。
【0029】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、当該正極を備える非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ということもある。)である。当該蓄電素子は、正極の平均放電電位が高い。
【0030】
本発明の一実施形態に係る正極活物質の製造方法は、遷移金属元素Mと典型元素Aを含む材料をメカノケミカル法により処理することを備え、上記材料が、上記遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物と上記典型元素Aを含む化合物とを含む、又は上記遷移金属元素M及び上記典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物を含み、上記遷移金属元素Mが、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせであり、上記典型元素Aが、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせであり、上記材料中の上記遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))が、0.2より大きい正極活物質の製造方法である。
【0031】
当該製造方法によれば、平均放電電位が高い正極活物質を製造することができる。
【0032】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法は、当該正極活物質(I)又は当該正極活物質(II)を用いることを含む、非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法である。
【0033】
当該製造方法によれば、正極の平均放電電位が高い蓄電素子とすることのできる正極を製造することができる。
【0034】
本発明の他の実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法は、上記正極活物質(I)又は正極活物質(II)と導電剤と、を含む混合物をメカニカルミリング処理することを備える、非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法である。
【0035】
当該製造方法によれば、平均放電電位が高い正極活物質を製造することができるという上記効果に加え、十分な放電性能を備えた非水電解質蓄電素子とすることのできる正極を製造することができる。
【0036】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、上記非水電解質蓄電素子用の正極の製造方法によって製造された正極を備える、非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0037】
当該製造方法によれば、正極の平均放電電位が高い蓄電素子を製造することができる。
【0038】
以下、本発明の一実施形態に係る正極活物質、正極活物質の製造方法、正極、正極の製造方法、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法について、順に説明する。
【0039】
本明細書において、平均放電電位は次の条件で求める。正極活物質を有する正極を作製する。ここで、導電剤としてアセチレンブラックを用い、正極における正極活物質とアセチレンブラックの質量比率は1:1とする。上記正極を作用極として、金属リチウムを対極及び参照極に用いた三極式セルを作製する。電解液として、ECとDMCとEMCとを30:35:35の体積比で混合した非水溶媒に1mol/dmの濃度でLiPFを溶解させた非水電解質を用いる。25℃の環境下で充放電試験を行う。電流密度は、正極が含有する正極活物質の質量あたり20mA/gとし、定電流(CC)充放電を行う。充電から開始し、充電は、上限電気量300mAh/g又は上限電位4.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とする。放電は、上限電気量300mAh/g又は下限電位1.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とする。この試験で得られた放電カーブに基づき、正極活物質の質量あたりの放電エネルギー密度(mWh/g)を求める。これを正極活物質の質量あたりの放電電気量(mAh/g)で除した値を平均放電電位(vs.Li/Li)とする。即ち、上記放電エネルギー密度は、横軸xを放電電気量(mAh/g)とし、縦軸yを正極電位(V vs.Li/Li)とし、(0,0)を原点とする第一象限に放電カーブを描き、その充放電カーブの始点及び終点の座標がそれぞれ(0,y1)及び(x,y2)であるとき、(0,0)、(0,y1),(x,y2)、(x,0)で囲まれる面積に対応する。このxは300mAh/gを超えることがなく、このy1およびy2は4.5V(vs.Li/Li)を超えることがない。
【0040】
<正極活物質(I)>
本発明の一実施形態に係る正極活物質(I)は、下記式(1)で表される酸化物(i)を含む。
[Li2-2z2x2y]O ・・・(1)
上記式(1)中、Mは、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせである。Aは、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせである。x、y及びzは、下記式(a)~(d)を満たす。
0<x<1 ・・・(a)
0<y<1 ・・・(b)
x+y≦z<1 ・・・(c)
0.2<x/(x+y) ・・・(d)
【0041】
当該正極活物質(I)は、上記酸化物(i)を含有するため、平均放電電位が高い。また、当該正極活物質(I)は、十分な大きさの放電容量及び十分な高さの放電エネルギー密度を有する。
【0042】
遷移金属元素Mとしては、Coを含むことが好ましく、Coがより好ましい。
【0043】
典型元素Aにおける13族元素としては、B、Al、Ga、In、Tl等を挙げることができる。14族元素としては、C、Si、Ge、Sn、Pb等を挙げることができる。典型元素Aとしては、13族元素及び14族元素が好ましい。また、典型元素Aとしては、第3周期元素(Al、Si等)及び第4周期元素(Ga及びGe)が好ましい。これらの中でも、典型元素Aとしては、Al、Si、Ga及びGeがより好ましく、Al及びGeがさらに好ましく、Alが特に好ましい。これらの典型元素Aを用いることで、平均放電電位をより高めることができる。
【0044】
上記式(1)中のxは、LiOに対して固溶した遷移金属元素Mの含有量に関係し、上記式(a)を満たす。xの下限としては、0.01が好ましく、0.03がより好ましく、0.05がさらに好ましく、0.06がよりさらに好ましい。xを上記下限以上とすることで、放電容量を大きくすることなどができる。さらに、放電エネルギー密度をより高める観点などからは、xの下限は、0.07がよりさらに好ましいこともある。一方、xの上限としては、0.5が好ましく、0.2がより好ましく、0.1がさらに好ましく、0.08がよりさらに好ましいこともあり、0.07が特に好ましいこともある。xを上記上限以下とすることで、平均放電電位をより高めることができる。
これらの理由から、上記式(1)中のxは、0.01以上0.5以下が好ましく、0.03以上0.2以下がより好ましく、0.05以上0.1以下がさらに好ましく、0.06以上0.08以下がよりさらに好ましい。
【0045】
上記式(1)中のyは、LiOに対して固溶した典型元素Aの含有量に関係し、上記式(b)を満たす。yの下限としては、0.01が好ましく、0.02がより好ましく、0.03がさらに好ましく、0.04がよりさらに好ましく、0.05が特に好ましい。yを上記下限以上とすることで、平均放電電位をより高めることができる。一方、yの上限としては、0.5が好ましく、0.2がより好ましく、0.1がさらに好ましく、0.07がよりさらに好ましい。yを上記上限以下とすることで、平均放電電位をより高めることができる。さらに、放電エネルギー密度をより高める観点からは、yの上限は、0.05がよりさらに好ましいこともある。
これらの理由から、上記式(1)中のyは、0.01以上0.5以下が好ましく、0.02以上0.2以下がより好ましく、0.03以上0.1以下がさらに好ましく、0.04以上0.07以下が特に好ましい。
【0046】
上記式(1)中のzは、Liの含有量に関係し、上記式(c)を満たす。なお、x+y=zが成り立つ場合、逆蛍石構造のLiOのリチウムサイトの一部が遷移金属元素M及び典型元素Aで置換された関係となる。但し、遷移金属元素M及び典型元素Aの価数の関係から、x+y<zであっても効果に影響を与えるものではない。zの下限としては、0.02でもよく、0.1が好ましく、0.2がより好ましく、0.25がさらに好ましい。一方、zの上限としては、1でもよく、0.5が好ましく、0.4がより好ましく、0.35がさらに好ましい。
よって、上記式(1)中のzは、0.02以上1以下でもよく、0.1以上0.5以下が好ましく、0.2以上0.4以下がより好ましく、0.25以上0.35以下がさらに好ましい。
【0047】
上記式(d)におけるx/(x+y)は、上記酸化物(i)における遷移金属元素Mと典型元素Aとの合計含有量(2x+2y)に対する遷移金属元素Mの含有量(2x)のモル比率である。x/(x+y)の下限は、0.3が好ましく、0.4がより好ましく、0.5がさらに好ましい。x/(x+y)を上記下限以上とすることで平均放電電位をより高めることができる。さらに、放電エネルギー密度をより高める観点からは、x/(x+y)の下限は、0.6がよりさらに好ましいことがあり、0.7がよりさらに好ましいこともある。一方、x/(x+y)の上限は、1未満であるが、0.9が好ましく、0.8がより好ましく、0.7がさらに好ましく、0.6がよりさらに好ましいこともある。x/(x+y)を上記上限以下とすることで平均放電電位をより高めることができる。
これらの理由から、上記式(d)におけるx/(x+y)は、0.3以上0.9以下が好ましく、0.4以上0.8以下がより好ましく、0.5以上0.7以下がさらに好ましい。0.6がよりさらに好ましいこともある。
【0048】
上記式(1)中のx及びzが、下記式(e)を満たすことが好ましい。
0.01≦x/(1-z+x)≦0.2 ・・・(e)
【0049】
上記式(e)におけるx/(1-z+x)は、上記酸化物(i)におけるリチウムと遷移金属元素Mとの合計含有量(2-2z+2x)に対する遷移金属元素Mの含有量(2x)のモル比率である。x/(1-z+x)の下限としては、0.03が好ましく、0.05がより好ましく、0.08がさらに好ましい。x/(1-z+x)を上記下限以上とすることで、放電容量を大きくすることなどができる。さらに、放電エネルギー密度をより高める観点からは、x/(1-z+x)の下限は、0.10がよりさらに好ましい場合もある。一方、x/(1-z+x)の上限としては、0.16が好ましく、0.13がより好ましく、0.10がさらに好ましい。x/(1-z+x)を上記上限以下とすることで、平均放電電位をより高めることができる。
これらの理由から、上記式(e)におけるx/(1-z+x)は、0.03以上0.16以下が好ましく、0.05以上0.13以下がより好ましく、0.08以上0.10以下がさらに好ましい。
【0050】
上記式(1)中のx、y及びzが、下記式(f)を満たすことが好ましい。
0.02≦(x+y)/(1-z+x+y)≦0.2 ・・・(f)
【0051】
上記式(f)における(x+y)/(1-z+x+y)は、上記酸化物(i)におけるリチウムと遷移金属元素Mと典型元素Aとの合計含有量(2-2z+2x+2y)に対する遷移金属元素Mの含有量と典型元素Aとの合計含有量(2x+2y)のモル比率である。(x+y)/(1-z+x+y)の下限は、0.1が好ましく、0.13がより好ましく、0.14がさらに好ましく、0.15がよりさらに好ましいこともある。(x+y)/(1-z+x+y)を上記下限以上とすることで、平均放電電位をより高めることができる。一方、(x+y)/(1-z+x+y)の上限は、0.18が好ましく、0.16がより好ましい。(x+y)/(1-z+x+y)を上記上限以下とすることで、平均放電電位をより高めることができる。さらに、放電エネルギー密度をより高める観点からは、(x+y)/(1-z+x+y)の上限は、0.15がさらに好ましいこともある。
これらの理由から、上記式(f)における(x+y)/(1-z+x+y)は、0.1以上0.18以下が好ましく、0.13以上0.16以下がより好ましく、0.14以上0.15以下がさらに好ましいこともある。
【0052】
上記酸化物(i)は、逆蛍石型構造に属する結晶構造を有することが好ましい。なお、酸化物の結晶構造は、X線回折図(XRDスペクトル)に基づく公知の解析方法により特定することができる。酸化物(i)の好適な態様においては、逆蛍石型構造を有するLiOの結晶構造内に、遷移金属元素M及び典型元素Aが固溶した構造であってよい。
【0053】
当該正極活物質(I)は、上記酸化物(i)以外の他の成分を含んでいてもよい。但し、当該正極活物質(I)に占める酸化物(i)の含有量の下限は、70質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。この酸化物(i)の含有量の上限は100質量%であってよい。当該正極活物質(I)は、実質的に上記酸化物(i)のみからなるものであってよい。このように、当該正極活物質(I)の大部分が酸化物(i)から構成されることで、平均放電電位をより高めることができる。
【0054】
<正極活物質(II)>
本発明の一実施形態に係る正極活物質(II)は、リチウム、遷移金属元素M及び典型元素Aを含む酸化物(ii)を含有する。上記遷移金属元素Mは、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせである。また、上記典型元素Aは、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせである。上記酸化物(ii)において、上記遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))は、0.2より大きい。また、上記酸化物(ii)は逆蛍石型結晶構造に属する結晶構造を有する。
【0055】
当該正極活物質(II)は、上記酸化物(ii)を含有するため、平均放電電位が高い。また、当該正極活物質(II)は、十分な高さの放電エネルギー密度を有する。
【0056】
上記酸化物(ii)は、好ましくは上記式(1)で表すことができる。すなわち、酸化物(ii)におけるLi、遷移金属元素M及び典型元素Aの好ましい組成比率、並びに好ましい遷移金属元素M及び典型元素Aの種類は、上述した酸化物(i)と同様である。酸化物(ii)は、Li、O、遷移金属元素M及び典型元素A以外の他の元素をさらに含んでいてもよい。但し、酸化物(ii)に占めるLi、O、遷移金属元素M及び典型元素Aの合計モル比率の下限は、90モル%が好ましく、99モル%がより好ましい。
【0057】
当該正極活物質(II)は、上記酸化物(ii)以外の他の成分を含んでいてもよい。但し、当該正極活物質(II)に占める酸化物(ii)の好ましい含有量は、上述した正極活物質(I)に占める酸化物(i)の含有量と同様である。
【0058】
<正極活物質の製造方法>
当該正極活物質(I)及び正極活物質(II)は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る正極活物質の製造方法は、
遷移金属元素Mと典型元素Aを含む材料をメカノケミカル法により処理することを備え、
上記材料が、
(α)上記遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物と上記典型元素Aを含む化合物とを含む、又は
(β)上記遷移金属元素M及び上記典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物を含み、
上記遷移金属元素Mが、Co、Fe、Cu、Mn、Ni、Cr又はこれらの組み合わせであり、
上記典型元素Aが、13族元素、14族元素、P、Sb、Bi、Te又はこれらの組み合わせであり、
上記材料中の上記遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))が、0.2より大きい。
【0059】
当該製造方法によれば、所定の元素を含む一種又は複数種の材料をメカノケミカル法によって処理することにより、リチウム、遷移金属元素M及び典型元素Aを所定の含有比率で含む複合酸化物を含有する正極活物質を得ることができる。
【0060】
メカノケミカル法(メカノケミカル処理などともいう)とは、メカノケミカル反応を利用した合成法をいう。メカノケミカル反応とは、固体物質の破砕過程での摩擦、圧縮等の機械エネルギーにより局部的に生じる高いエネルギーを利用する結晶化反応、固溶反応、相転移反応等の化学反応をいう。当該製造方法においては、メカノケミカル法による処理によって、LiOの結晶構造中に遷移金属元素M及び典型元素Aが固溶した構造を形成する反応が生じていると推測される。メカノケミカル法を行う装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミルなどの粉砕・分散機が挙げられる。これらの中でもボールミルが好ましい。ボールミルとしては、タングステンカーバイド(WC)製のものや、酸化ジルコニウム(ZrO)製のものなどを好適に用いることができる。
【0061】
ボールミルにより処理する場合、処理の際のボール回転数としては例えば100rpm以上1,000rpm以下とすることができる。また、処理時間としては、例えば0.1時間以上10時間以下とすることができる。また、この処理は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下又は活性ガス雰囲気下で行うことができるが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0062】
メカノケミカル法による処理に供される材料は、(α)遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物と典型元素Aを含む化合物とを含む混合物であってもよいし、(β)遷移金属元素M及び典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物であってもよい。
【0063】
遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物としては、LiCoO、LiCrO、LiFeO、LiNiO、LiCuO、LiMnOなどが挙げられる。これらの遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物は、逆蛍石型結晶構造に属する結晶構造を有するものであってもよく、他の結晶構造を有するものであってもよい。なお、これらのリチウム遷移金属酸化物は、例えばLiOとCoO等とを所定比率で混合し、窒素雰囲気下で焼成することにより得ることができる。
【0064】
典型元素Aを含む化合物としては、リチウムと典型元素Aとを含む酸化物が好ましい。このような化合物としては、LiAlO、LiGaO、LiInO、LiSiO、LiGeO、LiSnO、LiBO、LiSbO、LiBiO、LiTeO等を挙げることができる。なお、上記の各酸化物は、例えばLiOとAl等とを所定比率で混合し、窒素雰囲気下で焼成することにより得ることができる。この典型元素Aを含む化合物は、逆蛍石型結晶構造に属する結晶構造を有していてもよく、その他の結晶構造を有していてもよい。
【0065】
遷移金属元素Mを含むリチウム遷移金属酸化物と典型元素Aを含む化合物とを含む混合物を材料に用いる場合、混合物中に含まれる遷移金属元素Mと上記典型元素Aとの合計含有量に対する上記遷移金属元素Mの含有量のモル比率(M/(M+A))が、0.2より大きくなるよう、用いる材料の種類や混合比が調整される。
【0066】
遷移金属元素M及び典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物としては、Li5.5Co0.5Al0.5、Li5.8Co0.8Al0.2等のLi(0<a≦6、0<b<1、0<c<1、0.2<b/(b+c))で表されるリチウム遷移金属酸化物を挙げることができる。遷移金属元素M及び典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物は、焼成法などの公知の方法により得ることができる。これらのリチウム遷移金属酸化物の結晶構造は特に限定されず、例えば空間群P42/nmcに帰属可能な結晶構造(LiCoO等の結晶構造)、空間群Pmmn-2に帰属可能な結晶構造(LiAlO等の結晶構造)等、材料となった各酸化物の結晶構造であってよく、複数の結晶構造を含んでいてよい。なお、上記空間群の表記における「-2」は2回回反軸の対象要素を表し、本来「2」の上にバー「-」を付して表記すべきものである。上記遷移金属元素M及び典型元素Aを含むリチウム遷移金属酸化物は、複数の相が共生する酸化物であってもよい。このような酸化物としては、例えばAl固溶LiCoOとCo固溶LiAlOとが共生する酸化物などを挙げることができる。このような酸化物をメカノケミカル法による処理に供することで、LiOの結晶構造中に遷移金属元素であるCo及び典型元素であるAlが固溶した構造が形成される反応が生じると推測される。
【0067】
<正極>
本発明の一実施形態に係る正極は、上述した当該正極活物質(I)又は当該正極活物質(II)を有する非水電解質蓄電素子用の正極である。当該正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0068】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0069】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0070】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0071】
上記正極活物質として、上述した当該正極活物質(I)又は正極活物質(II)を含む。上記正極活物質としては、当該正極活物質(I)及び正極活物質(II)以外の公知の正極活物質が含まれていてもよい。全正極活物質に占める当該正極活物質(I)及び正極活物質(II)の含有割合としては、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましい。当該正極活物質(I)及び正極活物質(II)の含有割合を高めることで、平均放電電位を十分に高めることができる。上記正極活物質層における上記正極活物質の含有割合は、例えば30質量%以上95質量%以下とすることができる。
【0072】
上記導電剤としては、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛やカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックの種類としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの中でも、導電性及び塗工性の観点より、炭素質材料が好ましい。なかでも、アセチレンブラックやケッチェンブラックが好ましい。導電剤の形状としては、粉状、シート状、繊維状等が挙げられる。
【0073】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0074】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0075】
上記フィラーとしては、蓄電素子性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラスなどが挙げられる。
【0076】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は容器に収納され、この容器内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記容器としては、二次電池の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。
【0077】
(正極)
当該二次電池に備わる正極は、上述したとおりである。
ここで、上記正極活物質と導電剤を混合する際に、上記正極活物質と導電剤を含む混合物をメカニカルミリング処理することが好ましい。後述する実施例に示すように、上記典型元素Aを含む正極活物質を用いる場合に、導電剤を含む状態でメカニカルミリング処理することにより、十分な放電性能を備えた非水電解質蓄電素子とすることのできる正極を確実に製造することができる。
【0078】
ここで、メカニカルミリング処理とは、衝撃、ずり応力、摩擦等の機械的エネルギーを与えて、粉砕、混合、又は複合化する処理をいう。メカニカルミリング処理を行う装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミルなどの粉砕・分散機が挙げられる。これらの中でもボールミルが好ましい。ボールミルとしては、タングステンカーバイド(WC)製のものや、酸化ジルコニウム(ZrO)製のものなどを好適に用いることができる。なお、ここでいうメカニカルミリング処理は、メカノケミカル反応を伴うことを要しない。
【0079】
ボールミルにより処理する場合、処理の際のボール回転数としては例えば100rpm以上1,000rpm以下とすることができる。また、処理時間としては、例えば0.1時間以上10時間以下とすることができる。また、この処理は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下又は活性ガス雰囲気下で行うことができるが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0080】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0081】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0082】
上記負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0083】
上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0084】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0085】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0086】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0087】
(非水電解質)
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。
【0088】
上記非水溶媒としては、一般的な二次電池用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。
【0089】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0090】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもDMC及びEMCが好ましい。
【0091】
電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiPF(C、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0092】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0093】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
当該蓄電素子は、上記正極活物質(I)又は上記正極活物質(II)を用いることにより製造することができる。例えば、当該蓄電素子の製造方法は、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極をセパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を容器に収容する工程、並びに上記容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより当該蓄電素子を得ることができる。
【0094】
上記正極を作製する工程において、上記正極活物質(I)又上記正極活物質(II)を用いる。上記正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合材ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。上記正極合材ペーストには、正極活物質等、正極合材を構成する各成分が含まれる。
【0095】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、当該非水電解質蓄電素子の正極において、正極合材は明確な層を形成していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極合材が担持された構造などであってもよい。
【0096】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0097】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を含む正極合材を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して巻回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。この正極の活物質として、本発明の一実施形態に係る正極活物質(I)又は正極活物質(II)が使用される。また、電池容器3には、非水電解質が注入されている。
【0098】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0099】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
[合成例1]LiCoOの合成
LiOとCoOとを3:1のモル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、LiCoOを合成した。
【0101】
[合成例2]LiAlOの合成
LiOとAlとを5:1のモル比で混合した後、大気雰囲気下、900℃で20時間焼成し、LiAlOを得た。
【0102】
[合成例3]LiGaOの合成
LiOとGaとを5:1のモル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、LiGaOを得た。
【0103】
[合成例4]LiSiOの合成
LiOとSiOとを2:1のモル比で混合した後、大気雰囲気下、900℃で12時間焼成し、LiSiOを得た。
【0104】
[合成例5]LiGeOの合成
LiOとGeOとを2:1のモル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、LiGeOを得た。
【0105】
[合成例6]LiZnOの合成
LiOとZnOとを3:1のモル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、LiZnOを得た。
【0106】
[合成例7]Li5.8Co0.8Al0.2の合成
LiOとCoOとAlを29:8:1のモル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、Li5.8Co0.8Al0.2を得た。
【0107】
[合成例8]Li5.5Co0.5Al0.5の合成
LiOとCoOとAlを11:2:1のモル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、Li5.5Co0.5Al0.5を得た。
【0108】
[合成例9]Li5.2Co0.2Al0.8の合成
LiOとCoOとAlを13:1:2モル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、Li5.2Co0.2Al0.8を得た。
【0109】
(リチウムコバルト酸化物、リチウムアルミニウム酸化物及びリチウムコバルトアルミニウム酸化物のX線回折測定)
上記合成例で得られたLiCoO(合成例1)、LiAlO(合成例2)、Li5.8Co0.8Al0.2(合成例7)、Li5.5Co0.5Al0.5(合成例8)及びLi5.2Co0.2Al0.8(合成例9)について、X線回折測定を行った。気密性のX線回折測定用試料ホルダーを用い、アルゴン雰囲気下で粉末試料を充填した。用いたX線回折装置、測定条件、及びデータ処理方法は上記の通りとした。各X線回折図(XRDスペクトル)を図3に示す。
【0110】
合成例1(LiCoO)のXRDスペクトルからは、空間群P42/nmcに帰属可能な単一相が確認でき、目的のLiCoOが合成されたことが確認できる。
合成例2(LiAlO)のXRDスペクトルからは、空間群Pmmn-2に帰属可能な単一相が確認でき、目的のLiAlOが合成されたことが確認できる。
合成例7(Li5.8Co0.8Al0.2)のXRDスペクトルからは、LiCoOが主相として確認でき、LiAlOの相もわずかに検出され、いずれもピークシフトが生じていることがわかる。Al固溶LiCoOとCo固溶LiAlOとが共生していると推測される。
合成例8(Li5.5Co0.5Al0.5)のXRDスペクトルからは、LiCoOとLiAlOの両相が確認でき、いずれもピークシフトが生じていることがわかる。Al固溶LiCoOとCo固溶LiAlOとが共生していると推測される。
合成例9(Li5.2Co0.2Al0.8)のXRDスペクトルからは、LiAlOのみが確認でき、ピークシフトが生じていることがわかる。Coが、LiAlO中に置換固溶したと推測される。
【0111】
[実施例1]
得られたLiCoOとLiAlOとを5:4のモル比で混合した後、アルゴン雰囲気下でタングステンカーバイド(WC)製ボールミルにて、回転数400rpmで2時間処理した。このようなメカノケミカル法による処理により、実施例1の正極活物質(Li1.389Co0.139Al0.111O)を得た。
【0112】
[実施例2~6、比較例1~5]
用いた材料、ボールミルの種類、回転数及び処理時間を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~6及び比較例1~5の各正極活物質を得た。なお、表1中、ZrOは、酸化ジルコニウム製ボールミルを表す。また、表1には、得られた正極活物質(酸化物)の組成式をあわせて示す。
【0113】
【表1】
【0114】
(正極活物質のX線回折測定)
上記実施例及び比較例で得られた各正極活物質について、上記と同様の方法にてX線回折測定を行った。いずれも、LiOと同様の結晶構造(逆蛍石型結晶構造)を主相として有することが確認できた。図4に実施例1~5及び比較例1~2の各正極活物質のX線回折図(XRDスペクトル)を示す。
【0115】
(X線回折図上の特徴について)
図4からわかるように、実施例に係る正極活物質のX線回折図は、回折角2θ=33°付近に特徴的な回折ピークが観察される。図3と対比してわかるように、上記33°付近の回折ピークは、メカノケミカル処理を経由することで半値幅が顕著に増大している。具体的には、メカノケミカル処理を施す前の材料においては、上記33°付近の回折ピークの半値幅はいずれも0.3°未満であり、例えば合成例1では0.10°、合成例2では0.16°、合成例8では0.15°であった。一方、メカノケミカル処理を経由して得られた正極活物質においては、上記33°付近の回折ピークの半値幅はいずれも0.3°以上であり、例えば実施例1では1.10°、比較例1では0.83°であった。
【0116】
(正極の作製)
各実施例及び比較例で得られた正極活物質とアセチレンブラックとを1:1の質量比で混合し、直径5mmのWC製ボールが250g入った内容積80mLのWC製ポットに投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数200rpmで2時間乾式粉砕することで、正極活物質とアセチレンブラックとの混合粉末を調製した。
【0117】
得られた正極活物質とアセチレンブラックとの混合粉末に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒にPVDF粉末を溶解した溶液を加え、正極合材ペーストを作製した。この正極合材ペーストにおける、正極活物質とアセチレンブラックとPVDFの質量比は2:2:1(固形分換算)とした。この正極合材ペーストをメッシュ状のアルミニウム基材に塗布し、乾燥後プレスすることにより正極を得た。
【0118】
(非水電解質蓄電素子(評価セル)の作製)
ECとDMCとEMCとを30:35:35の体積比で混合した非水溶媒に、1mol/dmの濃度でLiPFを溶解させ、非水電解質を調製した。上記正極及び非水電解質を用い、また、負極及び参照極をリチウム金属として、評価セル(蓄電素子)としての三極式ビーカーセルを作製した。上記正極の作製から評価セルの作製までの操作は、全て、アルゴン雰囲気下にて行った。
【0119】
(充放電試験)
実施例1~6及び比較例1~5の各正極活物質を用いて得られた評価セルについて、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内において、25℃の環境下で充放電試験を行った。電流密度は、正極が含有する正極活物質の質量あたり20mA/gとし、定電流(CC)充放電を行った。充電から開始し、充電は、上限電気量300mAh/g又は上限電位4.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とした。放電は、上限電気量300mAh/g又は下限電位1.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とした。充放電試験における充電電気量、放電電気量、平均放電電位及び放電エネルギー密度を表2、3に示す。なお、実施例1、2の結果は、表2と表3との双方に記載している。
【0120】
実施例2、6及び比較例3~5の各正極活物質については、上記と同様の評価セルを別途準備し、25℃の環境下で、充放電の上限電気量を350mAh/gに変更した試験を行った。即ち、充電を上限電気量350mAh/g又は上限電位4.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とし、放電を、上限電気量350mAh/g又は下限電位1.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了としたこと以外は上記と同様に充放電試験を行った。試験結果を表4に示す。なお、表4にも平均放電電位の欄を設けたが、表2、3に示した試験結果とは試験条件が異なるため、この欄の値は参考値である。
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
表2に示されるように、典型元素Aを所定量含有する実施例1~5は、高い平均放電電位を有することがわかる。これに対し、典型元素Aを含有していない比較例1、及び典型元素Aの代わりにZnを含有する比較例2は、平均放電電位が高くないことがわかる。
【0125】
表3に示されるように、遷移金属元素Mと典型元素Aとの和に対する遷移金属元素Mの含有比率を表す比x/(x+y)を0.2より大きくすることで、平均放電電位が高まることがわかる。特に比x/(x+y)が0.5近傍の場合、平均放電電位が特に高いことがわかる。また、表4に示されるように、比x/(x+y)が比較的高い方が、放電電気量や放電エネルギー密度はより高まる傾向にあることがわかる。
【0126】
上記実施例では、正極の作製において、正極活物質と、導電剤であるアセチレンブラックとの混合物に対してボールミル混合処理を行う工程を設けた。ここで、正極の作製において、正極活物質と導電剤の混合物に対してボールミル混合処理を行うことの効果を確認するための実験を行った。
【0127】
[実施例7]
アルゴン雰囲気下にて、実施例1の正極活物質(Li1.389Co0.139Al0.111O)0.75g、及びケッチェンブラック0.20gを混合し、直径5mmのWC製ボールが250g入った内容積80mLのWC製ポットに投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数200rpmで30分間乾式粉砕することで、正極活物質とケッチェンブラックとの混合粉末を調製した。
【0128】
上記混合粉末95質量部と、ポリテトラフルオロエチレン粉末5質量部を瑪瑙乳鉢で混錬し、シート状に成型した。このシートを直径12mmφの円盤状に打ち抜き、質量約0.03gの正極シートを作製した。上記正極シートをアルミニウムメッシュ製の集電体(直径21mmφ)に圧着し、実施例7の正極を得た。
【0129】
[比較例6]
アルゴン雰囲気下にて、実施例1の正極活物質(Li1.389Co0.139Al0.111O)0.75g、及びケッチェンブラック0.20gを瑪瑙乳鉢で十分混合することで、正極活物質とケッチェンブラックとの混合粉末を調製したことを除いては、実施例6と同様にして、比較例6の正極を得た。
【0130】
[比較例7]
比較例1の正極活物質(Li1.5Co0.25O)を用いたことを除いては、実施例7と同様にして、比較例7の正極を得た。
【0131】
[比較例8]
比較例1の正極活物質(Li1.5Co0.25O)を用いたことを除いては、比較例6と同様にして、比較例8の正極を得た。
【0132】
(非水電解質蓄電素子(評価セル)の作製)
実施例7及び比較例6~8の正極を用い、直径22mmφのリチウム金属を負極とし、ポリプロピレン製セパレータを介して積層し、実施例1で用いた非水電解質と同一組成の非水電解質を300μL適用して評価セル(蓄電素子)を構成した。評価セルの作製は、アルゴン雰囲気下にて行った。
【0133】
(充放電試験)
実施例7及び比較例6~8の各正極を用いて得られた評価セルについて、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内において、25℃の環境下で10サイクルの充放電試験を行った。電流密度は、正極が含有する正極活物質の質量あたり50mA/gとし、定電流(CC)充放電を行った。充電から開始し、充電は、上限電気量300mAh/g又は上限電位4.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とした。放電は、下限電位1.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とした。10サイクル目の放電容量を表5に示す。
【0134】
【表5】
【0135】
表5から、正極活物質と導電剤を含む混合物をメカニカルミリング処理することを備える正極の製造方法は、本発明の正極活物質に対して適用することにより、十分な放電性能を備えた非水電解質蓄電素子とすることのできる正極を提供できるという点において顕著な効果が奏されることがわかる。しかしながら、この作用機構については詳らかではない。
【0136】
本発明者は、この作用機構を推定するため、上記充放電試験後の実施例7及び比較例6の非水電解質蓄電素子からそれぞれ取り出した正極について、それぞれX線回折測定を行った。得られたX線回折図から、33°付近のピーク及び56°付近のピークからそれぞれ求めた結晶子サイズを表6に示す。
【0137】
【表6】
【0138】
表6から、本発明の正極活物質と導電剤を含む混合物をメカニカルミリング処理するかしないかにかかわらず、正極活物質の結晶子サイズは同程度であった。このことから、本発明の正極活物質と導電剤を含む混合物をメカニカルミリング処理することにより十分な放電容量が得られる効果は、正極活物質の結晶子サイズの変化によるものではないことが示唆された。
【0139】
本発明者は、この作用機構について次のように推察している。瑪瑙乳鉢等による一般的な混合方法では、正極活物質と導電剤とがバルク表面同士のみで接触した混合物が得られる。一方、ボールミル装置等を用いたメカニカルミリング処理により、粒子の粉砕と凝集がナノレベルで繰り返されるため、導電剤が正極活物質のバルク相内に取り込まれた状態の複合体が形成されると考えられる。実施例7および比較例6に用いた実施例1の正極活物質は、比較例7および8に用いた比較例1の正極活物質に比べ、正極活物質中のCo濃度が低いため、導電性に劣る。従って、このような正極活物質を用いた正極の挙動は、導電剤との複合形態に大きく左右される。よって、一般的な混合方法を用いた比較例6の正極は過電圧が生じやすいのに対し、メカニカルミリング処理により正極活物質と導電剤との良好な複合形態が形成されている実施例7の正極は優れた性能を示したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質蓄電素子、及びこれに備わる電極、正極活物質などに適用できる。
【符号の説明】
【0141】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4