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特許7294315アルミナのダメージを抑制した組成物及びこれを用いた半導体基板の製造方法
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  • 特許-アルミナのダメージを抑制した組成物及びこれを用いた半導体基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】アルミナのダメージを抑制した組成物及びこれを用いた半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230613BHJP
   C11D 7/10 20060101ALI20230613BHJP
   C11D 7/08 20060101ALI20230613BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20230613BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20230613BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
C11D7/10
C11D7/08
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020503538
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007408
(87)【国際公開番号】W WO2019167970
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018037143
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】尾家 俊行
(72)【発明者】
【氏名】堀田 明伸
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
(72)【発明者】
【氏名】菊永 孝裕
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076032(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076033(WO,A1)
【文献】特開2001-249465(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/10
C11D 7/08
C11D 7/26
C11D 7/32
C11D 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリウム化合物(A)を0.00005~1質量%及びフッ素化合物(B)を0.01~20質量%で含有し、pHが5.8~8.0の範囲にあり、過酸化水素の含有量が0.002質量%未満である組成物。
【請求項2】
バリウム化合物(A)が、硝酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウム、亜硫酸バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、過酸化バリウム、クロム酸バリウム、酸化バリウム、シアン化バリウム、臭化バリウム、炭酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ヨウ化バリウム、テトラフルオロホウ酸バリウム、硫酸バリウム及び硫化バリウムからなる群より選択される1以上を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
バリウム化合物(A)が、硝酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム及び水酸化バリウムからなる群より選択される1以上を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
フッ素化合物(B)が、フッ酸又はフッ化物塩を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
pHが5.8~7.4の範囲にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ベンゾトリアゾール化合物(C)を0.01~10質量%更に含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ピロリドン構造を有する化合物(D)を0.0005~1質量%更に含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
50℃におけるアルミナのエッチングレートが、40Å/min(4.0×10-9 /min)以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
50℃におけるコバルトのエッチングレートが、1.0Å/min(1.0×10-10 /min)以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
50℃における低誘電率層間絶縁膜のエッチングレートが、1.0Å/min(1.0×10-10 /min)以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
アルミナ層を有する半導体基板のドライエッチング残渣除去に使用される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を用いてドライエッチング残渣を除去する工程を含む、アルミナ層を有する半導体基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を用いてドライエッチング残渣を除去する工程を含む、アルミナ層を有する半導体基板の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体集積回路の製造工程においてアルミナのダメージを抑制し、半導体集積回路の表面に存在するドライエッチング残渣を除去可能な組成物、およびこれを用いた半導体基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路のドライエッチング工程において、一般的には、エッチングガス成分、被エッチング層、マスク層(レジストやハードマスク等)等に由来する残渣物(ドライエッチング残渣と称す)が生じる。このドライエッチング残渣を除去せずに次の工程に進むと歩留まりが低下するため、ドライエッチング残渣を除去する工程が必要となる。
ドライエッチング残渣を酸素プラズマで除去する場合、酸素プラズマなどに曝された材質がダメージを受け、電気特性が著しく劣化するという問題が生じる。そのため、酸素プラズマ工程と同程度にドライエッチング残渣を除去し、その他の材質にはダメージを与えない方法が求められる。
配線材料であるコバルトに達するまでドライエッチングを行う場合、コバルトがドライエッチングのガスに晒され変質し、電気特性に影響を与える場合がある。そのため、コバルトの上にエッチストップ層を設け、ドライエッチングでエッチストップ層に到達するまでビアを形成し、次いでコバルトへの影響が少ない方法で、ビアの底のエッチストップ層を除去し、コバルトを露出させる工程が考えられる。
一般的に、ドライエッチングでビアを形成する際は、フッ素系のガスが選択されるが、エッチストップ層としてアルミナを選択すると、アルミナはフッ素系のガスへの耐性が高いため、薄い膜でもエッチストップ層として機能する利点がある(非特許文献1)。
エッチストップ層としてアルミナを選択する場合、このドライエッチング残渣を除去する工程では、同時にアルミナへのダメージを抑制する必要があり、これを達成可能な薬液が求められている。
また、アルミナだけでなくコバルトや低誘電率層間絶縁膜のダメージの抑制も基板の構成によっては必要になってくる。
また、ドライエッチング時にマスクとして使用されるハードマスクはシリコン系やチタン系が一般的に用いられるが、近年ジルコニア系のハードマスクも使用される例もある(非特許文献2)。そのため、ジルコニア系ハードマスクが使用される場合は、ドライエッチング残渣にジルコニアが含まれることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】16th MME workshop, Goeteborg, Sweden, 2005 “Etch stop materials for release by vapor HF etching”
【文献】M Padmanaban et al, J. Photopolym.Sci.Technol.,27(2014)503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、アルミナのダメージを抑制し、ドライエッチング残渣を除去可能な組成物、およびこれを用いた半導体基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により本課題を解決できることを見出した。本発明は以下の通りである。
【0006】
[1] バリウム化合物(A)を0.00005~1質量%及びフッ素化合物(B)を0.01~20質量%で含有し、pHが2.5~8.0の範囲にある組成物。
[2] バリウム化合物(A)が、硝酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウム、亜硫酸バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、過酸化バリウム、クロム酸バリウム、酸化バリウム、シアン化バリウム、臭化バリウム、炭酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ヨウ化バリウム、テトラフルオロホウ酸バリウム、硫酸バリウム及び硫化バリウムからなる群より選択される1以上を含有する[1]に記載の組成物。
[3] バリウム化合物(A)が、硝酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム及び水酸化バリウムからなる群より選択される1以上を含有する[1]に記載の組成物。
[4] フッ素化合物(B)が、フッ酸又はフッ化物塩を含有する[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5] pHが3.1~7.4の範囲にある、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6] 過酸化水素の含有量が0.002質量%未満である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の組成物。
[7] ベンゾトリアゾール化合物(C)を更に0.01~10質量%含有する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の組成物。
[8] ピロリドン構造を有する化合物(D)を更に0.0005~1質量%含有する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の組成物。
[9] 50℃におけるアルミナのエッチングレートが、40Å/min(4.0×10-9nm/min)以下である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の組成物。
[10] 50℃におけるコバルトのエッチングレートが、1.0Å/min(1.0×10-10nm/min)以下である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の組成物。
[11] 50℃における低誘電率層間絶縁膜のエッチングレートが、1.0Å/min(1.0×10-10nm/min)以下である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の組成物。
[12] アルミナ層を有する半導体基板のドライエッチング残渣除去に使用される、[1]~[11]のいずれか一項に記載の組成物。
[13] [1]~[12]のいずれか一項に記載の組成物を用いた、アルミナ層を有する半導体基板の製造方法。なお、本発明の製造方法は、[1]~[12]のいずれか一項に記載の組成物を用いてドライエッチング残渣を除去する工程を含む。
[14] [1]~[12]のいずれか一項に記載の組成物を用いてドライエッチング残渣を除去する工程を含む、アルミナ層を有する半導体基板の洗浄方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物を使用することにより、半導体回路の製造工程において、アルミナのダメージを抑制しつつ、被処理物表面上のドライエッチング残渣を除去することが可能となり、高精度、高品質の半導体基板を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ビアの底がアルミナの場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、チタン系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。
図2】ビアの底がコバルトまたはコバルト合金の場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、チタン系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。
図3】ビアの底がアルミナの場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、ジルコニア系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。
図4】ビアの底がコバルトまたはコバルト合金の場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、ジルコニア系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における組成物は、バリウム化合物(A)及びフッ素化合物(B)を含有する。以下これらについて詳細に説明する。
【0010】
[バリウム化合物(A)]
本願のバリウム化合物(A)はバリウムを含有する無機物であり、アルミナを防食する効果がある。
バリウム化合物(A)の具体例として、硝酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウム、亜硫酸バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、過酸化バリウム、クロム酸バリウム、酸化バリウム、シアン化バリウム、臭化バリウム、炭酸バリウム、メタホウ酸バリウム、ヨウ化バリウム、テトラフルオロホウ酸バリウム、硫酸バリウム、硫化バリウム、及び水酸化バリウムと酸を反応させた塩が挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。
これらの中で硝酸バリウム、酢酸バリウム、塩化バリウム及び水酸化バリウムが高い水溶性があり、入手が容易なため好ましい。
バリウム化合物(A)の組成物中の濃度(含有量)は0.00005~1質量%、好ましくは0.00025~0.75質量%、さらに好ましくは0.001~0.1質量%、特に好ましくは0.004~0.06質量%である。この範囲にあることでアルミナへのダメージを効果的に抑制できる。
【0011】
[フッ素化合物(B)]
本発明におけるフッ素化合物(B)は、フッ素原子を含有する化合物(ただし、炭素-フッ素(C-F)結合を有するものを除く)であり、具体例として、フッ酸、フッ化物塩、テトラフルオロホウ酸、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸塩、ヘキサフルオロリン酸及びヘキサフルオロリン酸塩などが挙げられる。
ここでフッ化物塩は、フッ酸と、無機アルカリ又は有機アルカリとの塩であれば特に限定されない。フッ化物塩の具体例としては、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラプロピルアンモニウム及びフッ化テトラブチルアンモニウムなどが好ましく挙げられる。
フッ素化合物(B)は、ドライエッチング残渣を除去する効果がある。これらの中でドライエッチング残渣の除去性が高く、入手が容易なフッ酸及びフッ化物塩が好ましい。また、これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。
フッ素化合物(B)の組成物中の濃度(含有量)は0.01~20質量%、好ましくは0.02~17.5質量%、さらに好ましくは0.03~15.0質量%、特に好ましくは0.05~10.0質量%である。この範囲にあることでアルミナへのダメージを効果的に抑制できる。
【0012】
[ベンゾトリアゾール化合物(C)]
本発明では、コバルトまたはコバルト合金への防食性を高めるためにベンゾトリアゾール化合物(C)を加えても良い。
ベンゾトリアゾール化合物(C)とは、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物であり、具体例として、ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、及び2,2’―[[(メチル―1H―ベンゾトリアゾール―1―イル)メチル]イミノ]ビスエタノールなどが挙げられる。他にも、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物であれば使用できる。これらは単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。
ベンゾトリアゾール化合物(C)を使用する場合、ベンゾトリアゾール化合物(C)の組成物中の濃度(含有量)は、通常0.01~10質量%、好ましくは0.025~7.5質量%、さらに好ましくは0.05~5.0質量%、特に好ましくは0.1~1.0質量%である。この範囲にあることでコバルトまたはコバルト合金へのダメージを効果的に抑制できる。
【0013】
[ピロリドン構造を有する化合物(D)]
本発明では、低誘電率層間絶縁膜及びコバルトまたはコバルト合金への防食性を高めるためにピロリドン構造を有する化合物(D)を加えても良い。
本発明に使用されるピロリドン構造を有する化合物(D)とは、繰り返し単位にピロリドンのユニットを含むオリゴマーあるいはポリマーであり、具体的にはポリビニルピロリドン、ピロリドンのユニットを含むランダム共重合体、ピロリドンのユニットを含む交互共重合体、ピロリドンのユニットを含むブロック共重合体、ピロリドンのユニットを含む分岐ポリマーである。
ピロリドン構造を有する化合物(D)の重量平均分子量は、通常1000~5000000、好ましくは1300~3500000、さらに好ましくは1600~2800000、特に好ましくは2000~1200000であり、ピロリドン構造を有する化合物(D)中のピロリドンのユニットの繰り返し単位の比率は、通常50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、特に好ましくは70%以上である。これらの範囲内にあることで低誘電率層間絶縁膜と、コバルトまたはコバルト合金へのダメージを効果的に抑制できる。
ピロリドン構造を有する化合物(D)としては、例えば第一工業製薬株式会社製のピッツコール(商標)シリーズが入手可能であり、好適に使用可能である。
ピロリドン構造を有する化合物(D)を使用する場合、ピロリドン構造を有する化合物(D)の組成物中の濃度(含有量)は通常0.0005~1質量%、好ましくは0.001~0.75質量%、さらに好ましくは0.002~0.5質量%、特に好ましくは0.003~0.1質量%である。上記範囲内であると低誘電率層間絶縁膜と、コバルトまたはコバルト合金へのダメージを効果的に抑制できる。
【0014】
[その他の成分]
本発明の組成物には、所望により本発明の目的を損なわない範囲で従来から半導体用組成物に使用されている成分を配合してもよい。
例えば、溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル、添加剤として、アルカリ、酸、キレート剤、界面活性剤、消泡剤、酸化剤、還元剤、金属防食剤及び水溶性有機溶剤などを添加することができる。
【0015】
[水]
本発明の組成物の残部は水である。本発明に使用できる水としては、特に限定されないが、蒸留、イオン交換処理、フイルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーテイクルなどが除去されたものが好ましく、純水がより好ましく、超純水が特に好ましい。
組成物中の水の濃度(含有量)は、45~100質量%が好ましく、より好ましくは90~100質量%、さらに好ましくは95~100質量%である。
【0016】
[組成物の調製方法]
本発明の組成物は、バリウム化合物(A)、フッ素化合物(B)及び必要に応じてその他の成分に水(好ましくは超純水)を加えて均一になるまで攪拌することで調製される。
組成物のpHの範囲は、2.5~8.0、好ましくは2.7~7.8、さらに好ましくは2.9~7.6、特に好ましくは3.1~7.4であり、なお好ましくは7.0未満、さらになお好ましくは3.1~6.5である。pHがこの範囲であることにより、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、低誘電率層間絶縁膜、窒化シリコンへのダメージを効果的に抑制しつつ、ドライエッチング残渣を除去できる。
なお、本発明の組成物は、過酸化水素を実質的に含まないことが好ましく、過酸化水素の組成物中の濃度(含有量)は0.002質量%未満とすることがより好ましい。
【0017】
[組成物の使用方法]
本発明の組成物を使用する温度は、通常20~70℃、好ましくは30~60℃、特に好ましくは40~55℃である。ドライエッチングの条件や使用される半導体基板の構成により適宜選択すればよい。
本発明の組成物を使用する時間は、通常0.2~60分である。ドライエッチングの条件や使用される半導体基板の構成により適宜選択すればよい。
本発明の組成物は、例えば、半導体基板の表面に接触させて使用することができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物を半導体基板の表面に接触させることにより、半導体基板の表面からドライエッチング残渣を除去することができる。本発明の特に好ましい態様によれば、半導体基板がアルミナを含有するアルミナ層を有する場合に、アルミナ層に含有されるアルミナのダメージを抑制しながら、半導体基板の表面からドライエッチング残渣を除去することができる。
半導体基板の表面に本発明の組成物を接触させる方法は特に制限されなく、例えば滴下(枚葉スピン処理)またはスプレーなどの形式により半導体基板の表面に本発明の組成物を接触させる方法、または半導体基板を本発明の組成物に浸漬させる方法などを採用することができる。本発明においては、いずれの方法を採用してもよい。
本発明の組成物を使用した後のリンス液としては、有機溶剤も水もどちらも使用できる。
【0018】
[半導体基板]
本発明の組成物が好適に使用できる半導体基板としては、
シリコン、非晶質シリコン、ポリシリコン、ガラスなどの基板材料;
酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン及びこれらの誘導体などの絶縁材料;
コバルト、コバルト合金、タングステン、チタン-タングステンなどの材料;
ガリウム-砒素、ガリウム-リン、インジウム-リン、インジウム-ガリウム-砒素、インジウム-アルミニウム-砒素などの化合物半導体及びクロム酸化物などの酸化物半導体、特に低誘電率層間絶縁膜を使用している基板であり、いずれの材料を有する半導体基板も、アルミナを含有するアルミナ層を有することが好ましい。具体的には、例えば、エッチストップ層などとしてアルミナ層を有する。
アルミナ層におけるアルミナの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0019】
本発明で除去対象となるドライエッチング残渣は、例えばチタン系やジルコニア系のハードマスクをマスクとし、ドライエッチングにより低誘電率層間絶縁膜にビアやトレンチを形成する際に生じたものが挙げられる。この場合、ドライエッチング残渣の一部は、エッチングガスと、チタン系ハードマスクまたはジルコニア系ハードマスクが接触することで生じる。したがって、除去対象のドライエッチング残渣は、通常チタンまたはジルコニウムを含む。
【0020】
本発明の組成物は、ドライエッチング残渣を除去する工程においてアルミナのダメージを十分に抑制できることが好ましい。例えば、本発明の組成物に前記半導体基板を浸漬し、50℃で測定したときのアルミナのエッチングレートは、好ましくは40Å/min(4.0×10-9nm/min)以下、より好ましくは35Å/min(3.5×10-9nm/min)以下、さらに好ましくは33Å/min(3.3×10-9nm/min)以下、特に好ましくは15Å/min(1.5×10-9nm/min)以下である。
また、本発明の一態様において、半導体基板が、アルミナに加えて、コバルトまたはコバルト合金、さらには低誘電率層間絶縁膜を有する場合は、それらのダメージを抑制できることがより好ましい。
例えば、本発明の組成物に前記半導体基板を浸漬し、50℃で測定したときのコバルトのエッチングレートは、好ましくは5.0Å/min(5.0×10-10nm)以下、より好ましくは3.0Å/min(3.0×10-10nm/min)以下、さらに好ましくは1.0Å/min(1.0×10-10nm/min)以下、さらにより好ましくは0.5Å/min(0.5×10-10nm/min)以下、特に好ましくは0.3Å/min(0.3×10-10nm/min)以下である。
また、本発明の組成物に前記半導体基板を浸漬し、50℃で測定したときの低誘電率層間絶縁膜のエッチングレートが、5.0Å/min(5.0×10-10nm)以下、より好ましくは3.0Å/min(3.0×10-10nm/min)以下、さらに好ましくは1.0Å/min(1.0×10-10nm/min)、さらにより好ましくは0.5Å/min(0.5×10-10nm/min)以下、特に好ましくは0.2Å/min(0.2×10-10nm/min)以下である。
【0021】
[アルミナ層を有する半導体基板の製造方法]
本発明の半導体基板の製造方法は、本発明の組成物を用いてドライエッチング残渣を除去する工程を含む。例えば、ドライエッチングによりビアやトレンチを形成した後、ドライエッチング残渣を除去する前のアルミナ層を有する半導体基板を、本発明の組成物と接触させて、半導体基板の表面からドライエッチング残渣を除去する工程を含む。
【0022】
本発明の組成物の使用温度及び使用時間は、前記「組成物の使用方法」において述べたとおりである。アルミナ層を有する半導体基板については、前記「半導体基板」において述べたとおりである。アルミナ層を有する半導体基板の表面に本発明の組成物を接触させる方法は特に制限されなく、例えば滴下(枚葉スピン処理)またはスプレーなどの形式により半導体基板の表面に本発明の組成物を接触させる方法、または半導体基板を本発明の組成物に浸漬させる方法などを採用することができる。本発明においては、いずれの方法を採用してもよい。
【0023】
図1から4は、ドライエッチングによりビアを形成した後、ドライエッチング残渣を除去する前のアルミナ層を有する半導体基板の断面構造の一例を示したものである。
【0024】
図1は、ビアの底がアルミナの場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、チタン系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。図1では、半導体基材上に、配線材料としてコバルトまたはコバルト合金3、エッチストップ層としてアルミナ4が積層し、さらにその上に低誘電率層間絶縁膜5、チタン系ハードマスク2がこの順に積層している。ビアの底はアルミナ4であり、ビアおよびチタン系ハードマスク2の表面にチタン系ドライエッチング残渣1が付着している。
【0025】
図2は、ビアの底がコバルトまたはコバルト合金の場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、チタン系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。図2では、半導体基材上に、配線材料としてコバルトまたはコバルト合金3、エッチストップ層としてアルミナ4が積層し、さらにその上に低誘電率層間絶縁膜5、チタン系ハードマスク2がこの順に積層している。ビアの底はコバルトまたはコバルト合金3であり、ビアおよびチタン系ハードマスク2の表面にチタン系ドライエッチング残渣1が付着している。
【0026】
図3は、ビアの底がアルミナの場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、ジルコニア系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。図3では、半導体基材上に、配線材料としてコバルトまたはコバルト合金3、エッチストップ層としてアルミナ4が積層し、さらにその上に低誘電率層間絶縁膜5、ジルコニア系ハードマスク7がこの順に積層している。ビアの底はアルミナ4であり、ビアおよびジルコニア系ハードマスク7の表面にジルコニア系ドライエッチング残渣6が付着している。
【0027】
図4は、ビアの底がコバルトまたはコバルト合金の場合における、ドライエッチング残渣除去前の半導体基板における、低誘電率層間絶縁膜、コバルトまたはコバルト合金、アルミナ、ジルコニア系ハードマスクの構造を有する半導体基板の一形態における断面図の模式図である。図4では、半導体基材上に、配線材料としてコバルトまたはコバルト合金3、エッチストップ層としてアルミナ4が積層し、さらにその上に低誘電率層間絶縁膜5、ジルコニア系ハードマスク7がこの順に積層している。ビアの底はコバルトまたはコバルト合金3であり、ビアおよびジルコニア系ハードマスク7の表面にジルコニア系ドライエッチング残渣6が付着している。
【0028】
本発明の半導体基板の製造方法では、このようなドライエッチング残渣を除去する前のアルミナ層を有する半導体基板と、本発明の組成物とを接触させることで、半導体基板の表面からドライエッチング残渣を除去することができる。これにより、歩留まりよく、半導体基板を製造することができる。本発明の好ましい態様によれば、ドライエッチング残渣を除去する工程でアルミナ層に含有されるアルミナのダメージを十分に抑制することができる。また、本発明の一態様において、半導体基板が、アルミナに加えて、コバルトまたはコバルト合金、さらには低誘電率層間絶縁膜を有する場合は、それらのダメージを抑制することができる。これにより、電気特性に影響を与えることなく、半導体基板を製造することができる。
【0029】
[アルミナ層を有する半導体基板の洗浄方法]
本発明の半導体基板の洗浄方法は、本発明の組成物を用いてドライエッチング残渣を除去する工程を含む。例えば、ドライエッチングによりビアやトレンチを形成した後、ドライエッチング残渣を除去する前のアルミナ層を有する半導体基板を、本発明の組成物と接触させて、半導体基板の表面からドライエッチング残渣を除去する工程を含む。
【0030】
本発明の組成物の使用温度及び使用時間は、前記「組成物の使用方法」において述べたとおりである。アルミナ層を有する半導体基板の表面に本発明の組成物を接触させる方法についても、前記「アルミナ層を有する半導体基板の製造方法」で述べたとおりである。また、洗浄対象であるアルミナ層を有する半導体基板についても、前記「半導体基板」及び前記「アルミナ層を有する半導体基板の製造方法」において述べたとおりである。
【0031】
本発明の半導体基板の洗浄方法を用いることにより、半導体基板の表面からドライエッチング残渣を除去することができる。本発明の洗浄方法の好ましい態様では、ドライエッチング残渣を除去する工程でアルミナのダメージを十分に抑制できる。また、本発明の洗浄方法の一態様では、半導体基板が、配線材料としてコバルトまたはコバルト合金、さらには低誘電率層間絶縁膜を有する場合は、それらのダメージを十分に抑制できることができる。これにより、電気特性に影響を与えることなく、半導体基板を製造することができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の効果を奏する限りにおいて実施形態を適宜変更することができる。
尚、特に指定しない限り%は質量%を意味する。
【0033】
[評価用ウェハ]
<評価ウェハA>:チタン(Ti)系残渣の除去評価用
下層から、窒化シリコン、層間絶縁膜、窒化シリコン、酸化チタン、フォトレジストを製膜し、次いでフォトレジストをパターニングした。
フォトレジストをマスクとしてハードマスクの所定の箇所をドライエッチングで除去し、酸素プラズマによるアッシングでフォトレジストを除去した。さらにハードマスクをマスクとして、ドライエッチングにより窒化シリコン、層間絶縁膜にビアを形成した。
<評価ウェハB>:ジルコニア(Zr)系残渣の除去評価用
下層から、窒化シリコン、層間絶縁膜、窒化シリコン、ジルコニア、フォトレジストを製膜し、次いでフォトレジストをパターニングした。
フォトレジストをマスクとしてハードマスクの所定の箇所をドライエッチングで除去し、酸素プラズマによるアッシングでフォトレジストを除去した。さらにハードマスクをマスクとして、ドライエッチングにより窒化シリコン、層間絶縁膜にビアを形成した。
【0034】
<膜付きウェハ>:組成物によるアルミナ、コバルト、低誘電率層間絶縁膜へのダメージ評価用
アルミナ、コバルト、低誘電率層間絶縁膜(TEOS「テトラエトキシシリケート」)のそれぞれの材質が製膜された各膜付きウェハ(アルミナ膜付きウェハ、コバルト膜付きウェハ、TEOS膜付きウェハ膜付きウェハ)を用いた。
【0035】
[評価方法]
<残渣の除去評価>
各種組成物で処理した後の評価ウェハA及び評価ウェハBについてSEM観察を行った。
測定機器;株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡SU9000(倍率10万倍)
判定方法:
E:ドライエッチング残渣が完全に除去された。
G:ドライエッチング残渣が概ね完全に除去された。
P:ドライエッチング残渣の除去が不十分であった。
E、G判定を合格とした。
【0036】
<E.R.(エッチングレート)>
それぞれの膜付きウェハを50℃の組成物で処理し、処理前後の膜厚差を処理時間で除することでE.R.を算出した。膜付きウェハの膜厚は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 蛍光X線装置SEA1200VX(膜厚測定装置A)、あるいはn&kテクノロジー社製光学式膜厚計n&k1280(膜厚測定装置B)を用いて測定した。コバルト膜付きウェハは膜厚測定装置Aを、アルミナ膜付きウェハ、TEOS膜付きウェハ膜付きウェハは膜厚測定装置Bを用いて膜厚を測定した。
アルミナはE.R.が40Å/min以下
コバルトはE.R.が1.0Å/min以下
TEOSは1.0Å/min以下 の場合を良品とした。
【0037】
[実施例1~8及び比較例1~12]
試験には、評価ウェハA、評価ウェハBおよびアルミナ膜付きウェハを使用した。表1に記した組成物に50℃で浸漬し、その後、超純水によるリンス、乾燥窒素ガス噴射による乾燥を行った。評価ウェハAおよび評価ウェハBに関しては、全て1分間浸漬処理を行い、処理後のウェハをSEMで観察した。
アルミナ膜付きウェハに対しては5分間浸漬処理を行い、処理前後の膜厚からE.R.を算出した(比較例では、5分間の浸漬処理ではアルミナ膜が完全に溶解したため、比較例11以外は30秒間浸漬処理を行いE.R.を算出した)。
各組成物のpHは、25℃にてpHメーター(株式会社堀場製作所製pHメーターF-52)を使用して測定した。
実施例1~8においては、アルミナのダメージを防ぎながら、ドライエッチング残渣を完全に除去していることがわかる。
一方、比較例においては、アルミナのダメージを抑制し、被処理物表面のドライエッチング残渣を除去する目的には使用できないことがわかる。特に、比較例4~10においては、バリウムと同族のBe、Mg、Ca、Srにカチオンを変更したものを使用しているが、バリウム塩と同様の効果が得られていないことが分かる。
【0038】
【表1】
【0039】
[実施例9~13]
ベンゾトリアゾール化合物(C)及びピロリドン構造を有する化合物(D)を併用した表2の組成における評価を行った。試験には、評価ウェハA、評価ウェハB、アルミナ膜付きウェハ、コバルト膜付きウェハ及びTEOSの膜付きウェハを使用した。表2に記した組成物に50℃で浸漬し、その後、超純水によるリンス、乾燥窒素ガス噴射による乾燥を行った。評価ウェハA及び評価ウェハBに関しては、実施例1~8と同様に1分間浸漬処理を行い、処理後のウェハをSEMで観察した。アルミナ膜付きウェハに対しては、実施例1~8と同様に5分間浸漬処理を行い、E.R.を算出した。コバルトとTEOSの膜付きウェハに対してはそれぞれ30分間浸漬処理を行い、E.R.を算出した。実施例9,10においては、アルミナ、コバルトのダメージを防ぎながら、ドライエッチング残渣を完全に除去していることがわかる。さらに、実施例11~13においては、アルミナ、コバルト、低誘電率層間絶縁膜のダメージを防ぎながら、ドライエッチング残渣を完全に除去していることがわかる。
【0040】
【表2】
【符号の説明】
【0041】
1:チタン系ドライエッチング残渣
2:チタン系ハードマスク
3:コバルトまたはコバルト合金
4:アルミナ
5:低誘電率層間絶縁膜
6:ジルコニア系ドライエッチング残渣
7:ジルコニア系ハードマスク


図1
図2
図3
図4