(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ハイドロキシアパタイト粒子分散液、その製造方法及びハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
C01B25/32 Q
(21)【出願番号】P 2021105179
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】土肥 政文
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014118(JP,A)
【文献】特開2015-186905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 - 25/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイト粒子と、該粒子の分散媒体とを含む、ハイドロキシアパタイト粒子分散液であって、
固有振動数30Hzでの音叉振動式粘度計による粘度は、19~21℃のいずれかの温度において2.0~50.0mPa・sの範囲内であり、
前記粒子の濃度は、前記分散液の全質量基準で0.1~4.0質量%である、分散液。
【請求項2】
前記粘度は3.0~19.0mPa・sであり、前記濃度は1.0~2.95質量%である、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記粒子の濃度(質量%)に対する、前記分散液の粘度(mPa・s)の比は3.0~6.0である、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の分散液。
【請求項5】
機能材を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の分散液。
【請求項6】
前記機能材は、金属イオンを担持させた担体及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項5に記載のハイドロキシアパタイト粒子分散液。
【請求項7】
ハイドロキシアパタイト粒子と、該粒子の分散媒体とを含む濃縮前分散液を濃縮して、固有振動数30Hzでの音叉振動式粘度計による粘度を、19~21℃のいずれかの温度において2.0~50.0mPa・sの範囲内とし、且つ前記粒子の濃度を0.1~4.0質量%とする、ハイドロキシアパタイト粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記濃縮前分散液において、前記粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の分散液に含まれるハイドロキシアパタイト粒子を、膜状に基材に保持させる工程を備える、ハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシアパタイト粒子分散液、その製造方法及びハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン等の光触媒は、酸化分解力や親水性に優れるために、タイルやガラス等の建築外装材、天井材等の建築内装材、サイドミラー等の車両用部材といった、様々な基材に塗布されて用いられている。光触媒を基材に固定するための結合剤としては、アクリル樹脂を含むバインダー樹脂(特許文献1)、オルガノポリシロキサン(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-18159号公報
【文献】特開2002-363494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光触媒を塗布する対象物は近年多様化してきており、上述した硬質性の素材のみならず、柔軟な素材、多孔質又は繊維質の素材も対象になりつつある。光触媒は、活性にムラが生じないよう均一に塗布されることが好ましいが、表面が平坦でない素材や、柔軟性、多孔質或いは繊維質の素材に対しては、膜状に均一に塗布することは極めて困難である。すなわち、多様な基材への適用のためには、より高い基材への付着性が求められるにも拘わらず、特許文献1及び2に示されるような現状の結合剤では、十分な付着性を得ることが困難であった。
【0005】
また、均一な塗布のためには結合剤自体が水媒体等の中で安定に存在することが必要であり、特に結合剤が粒子状である場合は、粒子状結合剤の分散安定性が求められる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ハイドロキシアパタイト粒子を含む分散液であって、分散安定性が高く、光触媒等の機能材を添加した場合であっても、繊維質素材を含む各種基材の表面に優れた付着性を発揮する分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ハイドロキシアパタイト粒子と、この粒子の分散媒体とを含む、ハイドロキシアパタイト粒子分散液であって、固有振動数30Hzでの音叉振動式粘度計による粘度は、19~21℃のいずれかの温度において2.0~50.0mPa・sの範囲内であり、上記粒子の濃度は、上記分散液の全質量基準で0.1~4.0質量%である、分散液を提供する。
【0008】
本発明は、ハイドロキシアパタイトが、光触媒等を各種基材に塗布するための結合剤として有用であることを見出したことに基づくものであり、更に、ハイドロキシアパタイトを分散液とした上で濃度及び粘度を上記範囲とすることで、基材表面に膜状に均一に付着させることが可能であるという新規知見に基づくものである。このような特性により、分散液は、繊維質素材を含む各種基材の表面に優れた付着性を発揮する。加えて、分散媒体が揮発した後は、ハイドロキシアパタイトに由来する消臭性及び難燃性が発揮され、ハイドロキシアパタイトは、以下に述べるとおり光触媒等の機能材に対して安定であるため、機能材を添加した場合であっても、これらの特性が長期間持続する。
【0009】
ハイドロキシアパタイト粒子の付着の態様としては、例えば、粒子状に付着する態様(ハイドロキシアパタイトの一次粒子又は二次粒子が、連続した膜としてではなく粒子として基材に付着する態様)、及び展着する態様(ハイドロキシアパタイト粒子が膜状に基材に付着する態様)があるが、上述した付着は、展着する態様に対応する。
【0010】
従来、結合剤に機能材を分散させるためには、分散剤の添加が必要になることがあった。また、結合剤が、光触媒の表面を被覆するマスキングと呼ばれる現象が起き、特に光触媒が対象物に塗布された当初に、光触媒の活性が、想定よりも低下してしまうこともあった。さらには、結合剤として有機樹脂バインダーを用いた場合、光触媒が対象物に塗布された後の時間経過にともない、光触媒によって徐々に樹脂が破壊され、結果として機能材を塗布した基材全体が脆くなったり、基材表面が変色したりすることも問題となっていた。これに反し、本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散液では、分散剤を使わずとも、機能材の分散性を向上でき、分散後の分散安定性も優れるようになる。加えて、マスキングも生じにくいため、光触媒の活性を高く維持することが可能である。その上、ハイドロキシアパタイト粒子は光触媒による破壊を受けにくいため、本発明のハイドロキシアパタイト粒子分散液を用いて得られたハイドロキシアパタイト付着基材は、耐光性及び耐候性に優れ、さらには耐熱性にも優れる。しかも、ハイドロキシアパタイトは高い生体適合性を有しているため、本発明の分散液を塗布して得られた基材は、生体用材料として使用することも可能となる。
【0011】
ハイドロキシアパタイト粒子分散液の粘度は3.0~19.0mPa・sであり、かつ、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度は、ハイドロキシアパタイト粒子分散液の全質量基準で1.0~2.95質量%であることが好ましい。粘度及び濃度がこの範囲にあることにより、機能材の分散性に更に優れ、かつ、繊維材料のパディング加工に適した分散液となる。
【0012】
ハイドロキシアパタイト粒子の濃度(単位:質量%)に対する、ハイドロキシアパタイト粒子分散液の粘度(単位:mPa・s)の比(ハイドロキシアパタイト粒子分散液の粘度/ハイドロキシアパタイト粒子の濃度)は3.0~6.0であることが好ましい。濃度及び粘度の比がこの範囲にあることにより、機能材の分散性に更に優れた分散液となる。
【0013】
ハイドロキシアパタイト粒子分散液は、機能材を更に含んでいてよく、機能材は、金属イオンを担持させた担体及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有していてよい。この場合、ハイドロキシアパタイト粒子分散液及びこの分散液を用いて得られたハイドロキシアパタイト付着基材の消臭性を向上させ、抗菌性、防カビ性、抗ウイルス性を付与することができる。
【0014】
ハイドロキシアパタイト粒子分散液における、ハイドロキシアパタイト粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmであることが好ましい。上記3種の平均粒子径が上記範囲にあることにより、分散液自体の分散安定性が向上し、各種基材に対する接着性も向上する。更に、機能材を含有させた場合でも、安定性及び接着性が損なわれることがなく、様々な基材の表面に機能材を付着させることが可能になる。
【0015】
本発明はまた、ハイドロキシアパタイト粒子と、この粒子の分散媒体とを含む濃縮前分散液を濃縮して、固有振動数30Hzでの音叉振動式粘度計による粘度を、19~21℃のいずれかの温度において2.0~50.0mPa・sの範囲内とし、且つ上記粒子の濃度を0.1~4.0質量%とする、ハイドロキシアパタイト粒子分散液の製造方法を提供する。
【0016】
ハイドロキシアパタイト溶液として市販されているものは、濃度が数十質量%と高いことが多く、基材にハイドロキシアパタイトを付着させる場合には、希釈して濃度を数%程度まで下げることが一般的である。しかし、希釈されたハイドロキシアパタイト溶液では、ハイドロキシアパタイト粒子の沈殿が生じ、基材に展着せず粒子状に付着してしまうことがあった。一方で、本発明の製造方法は、ハイドロキシアパタイト粒子と、この粒子の分散媒体とを含む濃縮前分散液を濃縮する点に特徴があり、これにより、上述した濃度及び粘度をそれぞれ0.1~4.0質量%及び2.0~50.0mPa・sに調整することが可能となる。この場合、ハイドロキシアパタイト粒子が沈殿せずに分散し、得られたハイドロキシアパタイト粒子分散液を基材に膜状に均一に塗布することができ、さらには機能材の分散性を向上させることができる。ここで、「濃縮」とは、濃縮前分散液から分散媒体の少なくとも一部が除去されることを意味し、例えば、濃縮前分散液から自然沈降や遠心分離によって生じた上澄みを除去することが該当する。
【0017】
なお、濃縮前分散液において、ハイドロキシアパタイト粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmであることが好ましい。上述のように、濃縮後に得られるハイドロキシアパタイト粒子分散液においても、このような粒子径の範囲であることが好ましいが、上記製造法によれば濃縮過程で粒子径の大きな変動がないため、濃縮前の分散液において上記粒子径範囲に収めておけば、濃縮後の分散液においても同様の粒子径範囲にすることが可能である。
【0018】
本発明はまた、上述したハイドロキシアパタイト粒子分散液に含まれるハイドロキシアパタイト粒子を、膜状に基材に保持させる工程を備える、ハイドロキシアパタイト付着基材の製造方法を提供する。
【0019】
ここで、「膜状」は、上述した展着の態様に対応する。すなわち、上記製造方法によれば、基材に対して、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を展着させることができる。なお、ハイドロキシアパタイト粒子は基材の表面に膜状に付着するが、ここでいう表面は、最表面をのみを意味するものではなく、基材の内部の表面をも意味する。すなわち、基材が、多孔質、繊維質(マルチフィラメント繊維、不織布等)の場合は、最表面のみならず、その内部にも付着する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ハイドロキシアパタイト粒子を含む分散液であって、分散安定性が高く、光触媒等の機能材を添加した場合であっても、繊維質素材を含む各種基材の表面に優れた付着性を発揮する分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例4のハイドロキシアパタイト粒子分散液を用いて得られたハイドロキシアパタイト付着基材の一表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図2】実施例4のハイドロキシアパタイト粒子分散液を用いて得られたハイドロキシアパタイト付着基材の
図1とは別の表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図3】比較例6のハイドロキシアパタイト粒子含有液を用いて得られたハイドロキシアパタイト付着基材の一表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図4】比較例6のハイドロキシアパタイト粒子含有液を用いて得られたハイドロキシアパタイト付着基材の
図3とは別の表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
実施形態に係るハイドロキシアパタイト粒子分散液(以下、単に「分散液」ともいう。)は、ハイドロキシアパタイト粒子と、このハイドロキシアパタイト粒子を分散する分散媒体とを含む。ハイドロキシアパタイト粒子分散液の粘度は2.0~50.0mPa・sの範囲内であり、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度は0.1~4.0質量%である。なお、原料となる分散液については、「濃縮前分散液」のように記載し、実施形態に係る「分散液」とは区別する。
【0024】
ここで、ハイドロキシアパタイトは、CanA10-n(PO4)mB6-m(OH)2(Aは、Sr2+、Pb2+、Mg2+、Zn2+、Mn2+、Fe2+、Na+、K+から選択される陽イオンであり、BはCO3
2‐、SO4
2‐、SiO4
2‐から選ばれる陰イオンであり、n=0~10、m=0~6である。)で表される化合物を意味する。したがって、Ca10(PO4)6(OH)2で表される化合物はその一態様として含まれる。
【0025】
分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度は、例えば、0.5~3.5質量%であることが好ましく、1.0~2.95質量%であることがより好ましく、1.0~2.9質量%であることが更に好ましい。分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度が上記範囲であると、ハイドロキシアパタイト粒子の基材表面への付着性が高まるだけでなく、基材の内部への浸透性も高まる。このことは、実施形態に係る分散液が、高い基材加工性を有しているため、濃度を上記範囲のように低くすることができるともいうことができる。したがって、実施形態に係る分散液を用いれば、ハイドロキシアパタイト付着基材の製造にかかるコストを削減することができる。また、分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度が上記範囲であると、繊維材料のパディング加工により適した分散液となる。
【0026】
ハイドロキシアパタイト粒子の濃度は、例えば、合成原料からの計算で算出できる他、ハイドロキシアパタイト粒子分散液中のハイドロキシアパタイト粒子を硝酸で溶解し、カルシウム濃度を陽イオン分析カラム(株式会社島津製作所製;IC-C1)を用いて電気伝導度検出器(株式会社社島津製作所製;CDD-10AVP)にて測定し、得られたカルシウムイオン濃度から算出することができる。
【0027】
分散液の粘度は2.5~40.0mPa・sであることが好ましく、3.0~19.0mPa・sであることがより好ましく、3.0~15.0mPa・sであることが更に好ましい。
【0028】
分散液の粘度は、音叉振動式粘度計を用いて測定することができる。測定に際し、音叉振動式粘度計の検出器の固有振動数は30Hzとし、液温は19~21℃のいずれかの温度とする。
【0029】
分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度及び分散液の粘度は、それぞれ、0.5~3.5質量%及び2.5~40.0mPa・sであることが好ましく、1.0~2.95質量%及び3.0~19.0mPa・sであることがより好ましく、1.0~2.9質量%及び3.0~15.0mPa・sであることが更に好ましい。濃度及び粘度が上記範囲であると、機能材の分散性に更に優れる。
【0030】
分散剤の濃度は、後述する濃縮前分散液を濃縮する際に、除去する分散媒体の量を調整することにより調整することができる。ここで、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が初めから0.1~4.0質量%となるように作製された濃縮前分散液では、その粘度は2.0~50.0mPa・sの範囲に入らないことがあるが、濃縮によりハイドロキシアパタイト粒子の濃度が0.1~4.0質量%の範囲に調整された分散液では、その粘度は2.0~50.0mPa・sの範囲に収まることが今回初めて見出された。なお、分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度及び分散液の粘度を上記範囲に調整するためには、必ずしも濃縮を実施しなければならない訳ではない。
【0031】
分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子の濃度(質量%)に対する分散液の粘度(mPa・s)の比は、3.0~6.0にすることができる。この比は、3.0~5.0であることが好ましい。濃度に対する粘度の比が上記範囲であると、機能材の分散性を更に向上させることができる。
【0032】
ハイドロキシアパタイト粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmにすることができる。体積平均粒子径(MV)は下記式(1)により求めることができ、面積平均粒子径(MA)は下記式(2)により求めることができ、個数平均粒子径(MN)は下記式(3)により求めることができる。
【数1】
[式中、d
iは分散液中でi番目に大きい粒子の粒子径を示し、v
iはその粒子の体積を示す。]
【数2】
[式中、d
iは分散液中でi番目に大きい粒子の粒子径を示し、a
iはその粒子の面積を示す。]
【数3】
[式中、d
iは分散液中でi番目に大きい粒子の粒子径を示し、v
iはその粒子の体積を示す。]
【0033】
MVは、6.3~8.3μmであることが好ましく、6.7~7.7μmであることがより好ましい。MAは、4.6~6.6μmであることが好ましく、5.1~6.1μmであることがより好ましい。MNは、0.4~6.0μmであることが好ましく、1.8~4.4μmであることがより好ましく、2.7~3.9μmであることがさらに好ましく、2.8~3.8μmであることが特に好ましい。MV、MA及びMNを、それぞれ、上記の範囲にするためには、例えば、カルシウム源の溶液(水酸化カルシウム溶液)及びリン酸源の溶液(リン酸溶液)の濃度、反応温度、反応中の温度変化量、反応中の攪拌速度、反応時間、反応後の分散液保管温度、反応後の分散液保管期間を後述の範囲で調節する方法が挙げられる。製造時に着目すれば、カルシウム源の溶液(水酸化カルシウム溶液)及びリン酸源の溶液(リン酸溶液)の濃度、反応温度、反応中の温度変化量、反応中の攪拌速度及び反応時間の少なくとも1つ(好ましくは全て)を後述の範囲で調節するとよい。
【0034】
MV、MA及びMNは、例えば、以下の手順により測定することができる。まず、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が1.0質量となるように分散液を調製する。次いで、得られた分散液を、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、US-150E;振幅24μm;周波数19.5±0.5kHz)で60秒間前処理する。次いで、20℃の条件で、粒子屈折率を1.64、粒子形状を非球形、分散媒体屈折率を水の20℃における屈折率である1.333として、粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、MT3300EXII)により粒度分布を測定する。なお、分散媒体が水でない場合には、分散媒体屈折率は当該分散媒体の屈折率に調整する。次いで、得られた粒度分布に基づき、前記式(1)~(3)を算出する。
【0035】
なお、上述したMV、MA及びMNの範囲及び好適な範囲は、分散液のみならず、濃縮前分散液にも妥当する。
【0036】
分散液は、機能材を含んでいてよい。機能材としては、金属イオンを担持させた担体及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有していてよい。この場合、分散液及びこの分散液が付着した基材(ハイドロキシアパタイト付着基材)の消臭性を向上させ、基材に抗菌性、防カビ性、抗ウイルス性を付与することができる。
【0037】
分散液における、機能材の濃度(質量%)に対する、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度(質量%)の比(ハイドロキシアパタイト粒子の濃度/機能材の濃度)は、0.05~5.00とすることができる。この比は、0.10~3.00であることが好ましく、0.15~2.00であることがより好ましい。機能材の濃度に対する、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が上述の範囲であると、機能材の機能を十分に発揮させることが可能になる。
【0038】
金属イオンとしては、銅イオン、銀イオン、金イオン、鉛イオン、白金イオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオン、錫イオン、亜鉛イオン等が挙げられる。担体としては、ガラス粒子、セラミック粒子、シリカ粒子、窒化硼素粒子、白金化合物粒子等が挙げられる。
【0039】
金属酸化物粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化酸化珪素等の粒子が挙げられる。
【0040】
分散媒体は、作業場の安全性を確保するため、水であることが好ましいが、分散媒体が水のみで構成されている必要はない。例えば、分散媒体はアルコール(エタノール、メタノール等)等の他の成分を含んでいてよい。
【0041】
分散液は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、顔料、水系分散剤、防腐剤、消臭分解剤、抗菌剤、抗カビ剤、抗ウイルス剤が挙げられる。これらは、有機物質(タンパク質等の生体物質を含む)でもよく、無機物質でもよい。その他の成分としては、例えば、ピリジン系薬剤、スルファミド系薬剤、ジヨードメチル系薬剤、スルフォン系薬剤、ニトリル系薬剤、チアゾール系薬剤、トリアジン系薬剤等が分散液に含まれていてよく、この場合、分散液に抗菌性、防カビ性、抗ウイルス性等を付与することができる。ジヨードメチル系薬剤又はスルフォン系薬剤としては、Diiodomethyl-P-tolylsulfoneが挙げられる。
【0042】
分散液を得る方法に関し、分散媒体が水の場合について説明する。まず、水酸化カルシウム及びリン酸を水にそれぞれ溶解させ、水酸化カルシウム溶液及びリン酸溶液を得ることができる(なお、溶液に代えて懸濁液を用いてもよい。)。次に、(1)水酸化カルシウム溶液に対して、リン酸溶液を段階的に滴下し、攪拌させながら反応させる、(2)リン酸溶液に対して、水酸化カルシウム溶液を段階的に滴下し、攪拌させながら反応させる、(3)水に、水酸化カルシウム溶液及びリン酸溶液を段階的に滴下して、攪拌させながら反応させる等の工程を実施して、濃縮前分散液を得ることができる。
【0043】
水酸化カルシウム溶液の濃度は0.0005~0.0200mol/L、リン酸溶液の濃度は0.0003~0.0120mol/Lにすることができる。ここで、リン原子に対するカルシウム原子のモル比は、例えば1.67±0.33であり、1.67±0.20、1.67±0.15、1.67±0.10又は1.67にしてもよい。
【0044】
反応温度、すなわち、分散媒体、水酸化カルシウム溶液、リン酸溶液の温度は、0℃超40℃以下にすることができる。ここで、ハイドロキシアパタイト粒子及びその分散液を製造する際には、乾式法、湿式法及び水熱法のように、カルシウム源とリン酸源となる出発物質又はそれらの混合反応物を加熱して高い温度にするのが一般的である。しかし、今回、上記のような低い温度範囲であっても、目的とする分散液が得られることが分かった。よって、上記方法によれば、分散液の製造にかかるコストを低減することができる。但し、上記方法において一切の加熱が妨げられるわけではない。
【0045】
反応中の温度変化量、すなわち、反応の開始から反応の終了までの間における、分散媒体、水酸化カルシウム溶液、リン酸溶液それぞれの最高温度と最低温度の差は、5℃以下にすることができる。
【0046】
反応中の攪拌速度は、円柱状の容器を用い、容器の内径に対する攪拌子の長さ(容器の内径方向の攪拌子の長さ)の比が0.18~0.25であり、鋭利ではない攪拌子を用いた場合に、100~1000回/分にすることができる。なお、円柱状の容器としては、内径14cmの2Lビーカーや、内径19cmの5Lビーカー等を用いることができ、攪拌子としては、幅(容器の内径方向の長さ)3.5cmの十字状攪拌子を用いることができる。
【0047】
反応時間、すなわち、水酸化カルシウム溶液及び/又はリン酸溶液の第1段階目の滴下を開始し、攪拌を開始してから、所定量の溶液の滴下を完了させ、攪拌を停止させるまでの時間は、0.5~48時間にすることができる。
【0048】
このようにして得られた濃縮前分散液を濃縮して、粘度が2.0~50.0mPa・sであり、ハイドロキシアパタイト粒子の濃度が0.1~4.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得る。濃縮する方法は、例えば濃縮前分散液を一定時間静置したり遠心分離したりすることで生じる上澄みを除去する工程を含んでいてよい。
【0049】
静置時間は、1日以上にすることができ、5日以上にすることも、10日以上にすることもできる。静置時間が長いほど、ハイドロキシアパタイト粒子の沈降が進むため、除去可能な上澄みが増え、分散液の濃度を大きくできる傾向にある。静置時の温度は、0℃超40℃以下にすることができる。
【0050】
遠心分離の回転速度は、1,000~3,500rpmにすることができる。遠心分離の時間は、数分間にすることができる。遠心分離時の温度は、0℃超40℃以下にすることができる。
【0051】
分散液保管温度は、0℃超40℃以下にすることができる。反応後の分散液保管期間は、1日以上2年以下にすることができる。なお、分散液の保管は、上述した温度範囲で、冷暗所で行うことができる。
【0052】
ハイドロキシアパタイト付着基材は、分散液に由来するハイドロキシアパタイト粒子を、膜状に基材に保持させることで製造することができる。ハイドロキシアパタイト粒子を基材の表面に保持させる方法としては、例えば、吸尽処理、スプレー処理、塗布処理、パディング処理、浸漬処理等が挙げられる。また、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を製造する際の反応浴に基材を浸漬しておき、ハイドロキシアパタイト粒子の製造と基材表面へのハイドロキシアパタイト付着を同時に行うこともできる。これらの処理を行う際、温度及び圧力は任意に選択可能である。
【0053】
上記処理のうち、パディング処理を例にとって説明する。パディング処理とは、加工液に基材を浸漬して液を吸収させ,ローラーの間を通して液を生地に均一に浸透させた後、乾燥(熱処理)させて基材に加工液を均一に付与させる加工である。本実施形態において、基材を分散液に浸漬する時間は、例えば、数秒間~数分間とすることができる。また、分散液の温度は基材の性質に従って適宜選択する。乾燥時の温度は220℃以下とするのが好ましく、170℃以下とするのがより好ましい。乾燥温度を上記範囲にすることで、分散媒体の蒸発に伴うハイドロキシアパタイト粒子の脱落を抑制することができる。
【0054】
ハイドロキシアパタイト粒子を付着させる基材としては、木材、綿、羊毛、麻、パルプ(木材パルプ、リンターパルプ等)等の天然素材;レーヨン、タンパク繊維、コラーゲン繊維等の再生繊維素材;アセテート等の半合成素材;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の合成樹脂素材;ガラス、石膏、炭素、活性炭素、チタン、アルミナ、ジルコニア、ステンレス等の無機素材等を含むものが挙げられる。これらの素材は単独で基材としてもよく、2以上の素材を組み合わせて基材としてもよい。分散媒体として水を使用する場合には、親水性の基材を用いることで、分散液が基材に浸透しやすくなり、ハイドロキシアパタイト粒子が基材の表面に付着しやすくなる。親水性の基材としては、木材、パルプ、綿等の天然素材が挙げられる。また、基材に前処理をすることなく、上述した浸漬処理等の処理に付すことができる。なお、上記処理前に基材を洗浄したり、塗料等のコーティング剤で塗装したりすることが妨げられるわけではない。
【0055】
基材の形状は特に限定されず、板状、シート状、フィルム状等の平面形状にすることができる。平面形状の基材としては、例えば、石膏ボード、木材ボード、板紙、段ボール紙、織布、不織布、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルムが挙げられる。なお、本発明において不織布とは、繊維が絡み合ったウェブ構造を有するフェルト等だけでなく、ウェブ構造や抄紙構造を有する紙類も意味する。基材はまた、立体形状にすることもできる。立体形状の基材としては、ポリウレタンを主成分とする樹脂組成物を発泡させた、スポンジ状のポリウレタン発泡フォームや、金属製又はセラミック製フィルターが挙げられる。
【0056】
基材の表面は、平滑であってもよく、凹凸状であってもよく、多孔状であってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づき発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、表中、「HAP」は「ハイドロキシアパタイト」を意味する。
【0058】
[ハイドロキシアパタイト粒子分散液の調製]
(製造例1)
水酸化カルシウム水溶液(0.055質量%)25Lに、リン酸水溶液(0.043質量%)25Lを段階的に滴下し、反応温度を20℃、反応中の温度変化量を3℃、撹拌速度を500回/分、反応時間を1時間として反応させ、0.050質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液(濃縮前分散液)50Lを得た。なお、濃縮前分散液において、ハイドロキシアパタイト粒子の、体積平均粒子径(MV)、面積平均粒子径(MA)及び個数平均粒子径(MN)は、それぞれ、7.2μm、5.6μm及び3.3μmであった。
【0059】
(実施例1)
製造例1で得られた濃縮前分散液を、10~20℃で静置し、自然沈降させた。2日後に完全に分離した上澄み液47.55Lを除去し、沈殿物を撹拌して、濃度1.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。得られた分散液の粘度を粘度計(音叉振動式(SV型)粘度計 SV-10A、株式会社エー・アンド・デイ)で測定したところ、3.1mPa・sであった(固有振動数:30Hz、測定温度:19~21℃)。
【0060】
(実施例2)
製造例1で得られた濃縮前分散液を20℃で7日間静置した後、上澄み液48.65Lを除去し、濃度1.8質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。得られた分散液の粘度を上記粘度計で測定したところ、6.7mPa・sであった。
【0061】
(実施例3)
実施例2と同様にして得られた濃度1.8質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を1L用意し、遠心分離機(HITACHI製HIMAC)を用いて、回転速度1,100rpmで1分間遠心分離した。その後、上澄み液0.29Lを除去し、濃度2.5質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。得られた分散液の粘度を上記粘度計で測定したところ、9.4mPa・sであった。
【0062】
(実施例4)
製造例1で得られた濃縮前分散液を20℃で11日間静置した後、上澄み液49.1Lを除去し、濃度2.7質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。得られた分散液の粘度を上記粘度計で測定したところ、11.4mPa・sであった。
【0063】
(実施例5)
実施例2と同様にして得られた濃度1.8質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を1L用意し、遠心分離機(HITACHI製HIMAC)を用いて、回転速度1,800rpmで1分間遠心分離した。その後、上澄み液0.38Lを除去し、濃度2.9質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。得られた分散液の粘度を上記粘度計で測定したところ、14.0mPa・sであった。
【0064】
(実施例6)
実施例2と同様にして得られた濃度1.8質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を1L用意し、遠心分離機(HITACHI製HIMAC)を用いて、回転速度2,500rpmで1分間遠心分離した。その後、上澄み液0.40L除去し、濃度3.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。得られた分散液の粘度を上記粘度計で測定したところ、24.1mPa・sであった。
【0065】
(実施例7)
実施例2と同様にして得られた濃度1.8質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を1L用意し、遠心分離機(HITACHI製HIMAC)を用いて、回転速度3,000rpmで1分間遠心分離した。その後、上澄み液0.44Lを除去し、濃度3.2質量%のハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。得られた分散液の粘度を上記粘度計で測定したところ、30.9mPa・sであった。
【0066】
(比較例1)
水酸化カルシウム水溶液(0.055質量%)25Lに、リン酸水溶液(0.043質量%)25Lを段階的に滴下し、反応温度を20℃、反応中の温度変化量を3℃、撹拌速度を500回/分、反応時間を1時間で反応させ、0.050質量%のハイドロキシアパタイト溶液50Lを得た。得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液の濃度を上記粘度計で測定したところ、1.4mPa・sであった。
【0067】
(比較例2)
水酸化カルシウム水溶液(2.30質量%)25Lに、リン酸水溶液(1.74質量%)25Lを段階的に滴下し、反応温度を20℃、反応中の温度変化量を3℃、撹拌速度を500回/分、反応時間を1時間で反応させ、2.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子含有液50Lを得た。得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液の粘度を上記粘度計で測定したところ、1.8mPa・sであった。
【0068】
(比較例3)
実施例2と同様にして得られた濃度1.8質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を1L用意し、遠心分離機(HITACHI製HIMAC)を用いて、回転速度4,000rpmで10分間遠心分離した。その後、上澄み液0.64Lを除去し、濃度5.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子含有液を得た。得られたハイドロキシアパタイト粒子分散液の粘度を上記粘度計で測定したところ、87.8mPa・sであった。
【0069】
(比較例4)
市販品であるハイドロキシアパタイト液(株式会社バイオアパタイト製、製品名:バイオアパタイトスラリー)を希釈して、濃度1.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子含有液を調製した。得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液の粘度を上記粘度計で測定したところ、1.4mPa・sであった。
【0070】
(比較例5)
比較例4と同一の市販品であるハイドロキシアパタイト液を希釈して、濃度2.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子含有液を調製した。得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液の粘度を上記粘度計で測定したところ、1.4mPa・sであった。
【0071】
(比較例6)
比較例4と同一の市販品であるハイドロキシアパタイト液を希釈して、濃度3.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子含有液を調製した。得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液の粘度を上記粘度計で測定したところ、1.6mPa・sであった。
【0072】
(比較例7)
比較例4と同一の市販品であるハイドロキシアパタイト液を希釈して、濃度4.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子含有液を調製した。得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液の粘度を上記粘度計で測定したところ、1.6mPa・sであった。
【0073】
(比較例8)
比較例4と同一の市販品であるハイドロキシアパタイト液を希釈して、濃度5.0質量%のハイドロキシアパタイト粒子含有液を調製した。得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液の粘度を上記粘度計で測定したところ、1.7mPa・sであった。
【0074】
なお、実施例のハイドロキシアパタイト粒子分散液におけるハイドロキシアパタイト粒子について、MV、MA及びMNは、それぞれ、4.8~8.6μm、3.4~6.9μm及び0.3~10.0μmの範囲内であった。一方、比較例2,4~8のハイドロキシアパタイト粒子含有液においては、3種の粒径の少なくとも1種は上記範囲外であった。
【0075】
[ハイドロキシアパタイト粒子の分散性評価]
実施例1~7で得られたハイドロキシアパタイト粒子分散液、及び、比較例1~8で得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液を観察し、ハイドロキシアパタイト粒子が分散しているか沈殿しているかを評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0076】
[ハイドロキシアパタイトの基材被膜性(展着状態)評価]
実施例1~7で得られたハイドロキシアパタイト粒子分散液、及び、比較例1~8で得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液を、それぞれ200mlビーカーに入れ、このビーカーに50cm×35cmの大きさに裁断したポリプロピレン繊維不織布を入れた。1秒間浸漬しマングルを通した後、ポリプロピレン繊維不織布を110℃で1分間セット(熱処理)してハイドロキシアパタイト付着基材を得た。得られたハイドロキシアパタイト付着基材の表面を走査電子顕微鏡(SEM)又はデジタルマイクロスコープ(VHX-8000)で観察した。結果を表1、表2及び
図1~8に示す。
【0077】
[機能材の分散性評価]
実施例1~7で得られたハイドロキシアパタイト粒子分散液、及び、比較例1~8で得られたハイドロキシアパタイト粒子含有液各100mlを200mlビーカーに入れ、このビーカーに機能材(イオンピュア ZAF HS(銀イオン含有ガラス粒子)、セブントール OM-1(酸化亜鉛及び酸化アルミニウムの粉末)又は酸化チタン)の粉体を0.2g投入した。ガラス棒でビーカー内を10秒間又は5分間攪拌した。攪拌が終了してから20分後に、ビーカー内の様子を確認した。10秒間の攪拌で、機能材が凝集したり沈殿したりすることなく、均一に分散した場合をA、機能材が分散するまでに5分間の攪拌が必要であった場合をB、5分間の攪拌を行っても機能材が水と分離し、沈殿が発生した場合をCと評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
(実施例8)
実施例1で得られた1.0質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を、200mlビーカーに入れ、酸化チタン(粒径60nm)を4.0質量%加え分散させた。このビーカーに、30cm×25cmの大きさに裁断したポリエステル繊維布を入れ、1秒間浸漬しマングルを通した後、160℃でセット(熱処理)して、評価サンプルを作成した。
【0081】
(比較例9)
シリコン系樹脂6.0質量%溶液に酸化チタン(粒径60nm)を4.0質量%加え、実施例8と同様に、バインダー担持評価サンプルを作成した。
【0082】
[消臭性の評価]
実施例8及び比較例9で得られた評価サンプルについて、SEKマーク繊維製品認証基準消臭性試験(JTETC法(紫外線照射(ブラックライト照射)を伴うもの))に基づき、メチルメルカプタン及び硫化水素に対する消臭性を評価した。結果を表3に示す。
【0083】
[外観の評価]
前記消臭性評価を行った実施例8及び比較例9で得られた評価サンプルについて、変色の有無を、目視で観察し、JIS L 841準拠のブルースケールに基づいて4級以上の場合を「変色無し」、4級未満から2級以上を「わずかに変色有り」、2級未満を「変色有り」と評価した。結果を表3に示す。
【0084】
[風合の評価]
実施例8及び比較例9で得られた評価サンプルについて、処理前後における風合の変化の有無を評価した。結果を表3に示す。
【0085】
【0086】
(実施例9~13)
実施例2で得られた1.8質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を、200mlビーカーに入れ、表4に示すように、銀イオン含有ガラス粒子(イオンピュア ZAF HS)、酸化亜鉛と酸化チタンの粉末(セブントール N-PC90)、酸化亜鉛と酸化アルミニウムの粉末(セブントール OM-1)又は有機機能材(Diiodomethyl-P-tolylsulfone、AAB668)を加えた。このビーカーに、30cm×25cmの大きさに裁断した綿織物を入れ、1秒間浸漬しマングルを通した後、160℃でセット(熱処理)して、評価サンプルを作成した。次いで、各評価サンプルについて、SEKマーク繊維製品認証基準(消臭性試験)に基づき、消臭性を評価した。また、各評価サンプルについて、放置時間を10時間に変更したこと以外はSEKマーク繊維製品認証基準(消臭性試験)に基づき、消臭性を評価した。アンモニアガスの減少率(体積%)を表4に示す。
【0087】
【0088】
(実施例14~17)
実施例5で得られた2.9質量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液を、200mlビーカーに入れ、銀イオン含有ガラス粒子(イオンピュア ZAF HS)、タングステン酸アンモニウム(LAPO CATALYS)、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムの粉末(セブントール OM-1)から選択される1種又は2種の機能材を加えた。このビーカーに、30cm×25cmの大きさに裁断したポリエステル不織布を入れ、1秒間浸漬しマングルを通した後、160℃でセット(熱処理)して、評価サンプルを作成した。
【0089】
[消臭性の評価]
実施例14~17で得られた評価サンプルについて、SEKマーク繊維製品認証基準消臭性試験(JTETC法(紫外線照射(ブラックライト照射)を伴うもの))に基づき、消臭性を評価した。アンモニアガスの減少率(%)を表5に示す。
【0090】
[抗菌性の評価]
実施例14~17で得られた評価サンプルについて、JIS L1902:2015の菌転写法に準拠して、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値を評価した。結果を表5に示す。
【0091】
[防カビ性の評価]
実施例14~17で得られた評価サンプルについて、SEKマーク繊維製品認証基準(抗かび性定量試験)に基づき、防カビ性を評価した。結果を表5に示す。
【0092】