(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】バスバー位置決め構造及び電気機器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230613BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2021182944
(22)【出願日】2021-11-10
【審査請求日】2022-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 佑典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔太
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-023664(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/116606(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の二つの電気部品を接続するバスバーが配置される一対の端子台と、
一方の前記端子台に立設されて前記バスバーの配置を位置決めする位置決めピンと、
を有し、
前記バスバーには、
前記位置決めピンが挿入される挿入孔と、
一方の前記電気部品の端子と当該バスバーを締結させる締結具が挿通される第一締結孔と、
他方の前記電気部品の端子と当該バスバーを締結させる締結具が挿通される第二締結孔と、
が形成され、
前記電気機器は、インバータ装置であり、
一方の前記電気部品は、前記インバータ装置の直流コンデンサであり、
他方の前記電気部品は、前記インバータ装置のパワーモジュールであり、
前記挿入孔は、前記バスバーにおいて前記第一締結孔と前記第二締結孔の最短経路よりも電流密度が低くなる領域の位置に配され、
前記電流密度が低くなる領域は、前記バスバーにおいて前記第二締結孔から前記第一締結孔までの距離よりも離れた当該バスバーの一端側の領域であること
を特徴とするバスバー位置決め構造。
【請求項2】
前記挿入孔の口径は、前記第一締結孔及び前記第二締結孔の口径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のバスバー位置決め構造。
【請求項3】
前記挿入孔に挿入された前記位置決めピンは当該挿入孔から突出しないことを特徴とする請求項1または2に記載のバスバー位置決め構造。
【請求項4】
請求項1に記載のバスバー位置決め構造を有することを特徴とする電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置等の電気機器に適用されるバスバーの位置決め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置において直流コンデンサとスイッチング素子とが低インダクタンス且つ低インピーダンスのバスバーにより接続されることが多い。前記バスバーとしては例えば特許文献1の回転機駆動装置に適用されるサージ抑制用のバスバーが挙げられる。本バスバーによれば、スイッチング素子のスイッチング動作時のサージ電圧低減による過電圧破壊が抑制され、バスバーの低インピーダンス化による電力損失の低減、さらには、省スペース並びに低コストの効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のバスバーは位置決めピンを備えていないので位置精度良くねじ締結するためには手間を要する。そこで、前記バスバーに位置決めピンを設ければ、放電防止のための異なるバスバーの縁面距離の確保を迅速に正確に行える。
【0005】
しかしながら、前記バスバーに位置止めピンにより固定するためには、当該バスバーに位置止めピン用の貫通孔を確保しなければならない。
【0006】
前記バスバーに前記貫通孔が形成されると、当該バスバーのインダクタンス並びにインピーダンスが増大し、スイッチング素子のスイッチング動作時のサージ電圧を低減できなくなる、さらには、当該バスバーの電力損失を低減できなくなる、おそれがある。
【0007】
本発明は、以上の事情を鑑み、バスバーの組み立て性の向上と共にインダクタンス並びにインピーダンスの低減を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の一態様は、電気機器の二つの電気部品を接続するバスバーが配置される一対の端子台と、一方の前記端子台に立設されて前記バスバーの配置を位置決めする位置決めピンと、を有し、前記バスバーには、前記位置決めピンが挿入される挿入孔が形成され、前記バスバーには、一方の前記電気部品の端子と当該バスバーを締結させる締結具が挿通される第一締結孔と、他方の前記電気部品の端子と当該バスバーを締結させる締結具が挿通される第二締結孔が形成され、前記挿入孔は、前記バスバーにおいて、前記第一締結孔から前記第二締結孔までの距離よりも離れた当該バスバーの一端側の位置に配されたことを特徴とするバスバー位置決め構造である。
【0009】
本発明の一態様は、前記バスバー位置決め構造において、前記挿入孔の口径は、前記第一締結孔及び前記第二締結孔の口径よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様は、前記バスバー位置決め構造において、前記挿入孔に挿入された前記位置決めピンは当該挿入孔から突出しないことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様は、前記バスバー位置決め構造において、前記電気機器は、インバータ装置であり、一方の前記電気部品は、前記インバータ装置の直流コンデンサであり、他方の前記電気部品は、前記インバータ装置のパワーモジュールであることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様は、上記のバスバー位置決め構造を有する電気機器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上の本発明によれば、バスバーの組み立て性の向上と共にインダクタンス並びにインピーダンスの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】電気機器に適用された本発明の一態様であるバスバー位置決め構造の平面図。
【
図2】
図1のバスバーにハーネスが接続された状態の平面図。
【
図4】
図1のバスバーが接続されるパワーモジュールの基本回路図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1に示された本発明の一態様であるバスバー位置決め構造1は、電気機器の一例であるインバータ装置2の筐体10内の端子台3,4に適用される。
【0017】
バスバー位置決め構造1は、バスバーPが配置される一対の端子台3と、バスバーNが配置される一対の端子台4と、この端子台3,4でのバスバーP,Nの配置を位置決めする位置決めピン5,6と、を有する。
【0018】
(バスバーP)
バスバーPは、
図2に示したように、ハーネス7の接続端子71と、インバータ装置2の電気部品の一つである直流コンデンサCのP極側の接続端子C1と、を接続する。尚、ハーネス7は、前記電気部品の一つである
図4に示すスイッチング素子S1~S6を備えた回路を有するパワーモジュール11のP極側端子に接続される。
【0019】
バスバーPには、後述の一方の端子台3の位置決めピン5が挿入される挿入孔P1と、接続端子71とパワーモジュール11のP極側端子をバスバーPと締結させる締結具9が挿通される第一締結孔P2と、接続端子C1をバスバーPと締結させる締結具9が挿通される第二締結孔P3と、が形成されている。
【0020】
挿入孔P1は、同図のバスバーPにおいて、直流コンデンサCの接続端子C1との接続部(第二締結孔P3)とハーネス7の接続端子71との接続部(第一締結孔P2)との距離よりも離れたバスバーPの一端側の領域a1における任意の位置に配される。挿入孔P1の口径は第一締結孔P2,第二締結孔P3の口径よりも小さく設定される。尚、挿入孔P1は、挿入された位置決めピン5が突出しない範囲であれば貫通孔であってもよい。
【0021】
(バスバーN)
バスバーNは、パワーモジュール11のN極側端子に接続されたハーネス8の接続端子81と、直流コンデンサCのN極側の接続端子C2と、を接続する。
【0022】
バスバーNには、後述の一方の端子台4の位置決めピン6が挿入される挿入孔N1と、接続端子81とパワーモジュール11のN極側端子をバスバーNに締結させる締結具9が挿通される第一締結孔N2と、接続端子C2をバスバーNと締結させる締結具9が挿通される第二締結孔N3と、が形成されている。
【0023】
挿入孔N1は、同図のバスバーNにおいて、直流コンデンサCの接続端子C2との接続部(第二締結孔N3)とハーネス8の接続端子81との接続部(第一締結孔N2)との距離よりも離れたバスバーNの一端側の領域a2における任意の位置に配される。挿入孔N1の口径は第一締結孔N2,第二締結孔N3の口径よりも小さく設定される。挿入孔N1も、挿入孔P1と同様に、挿入された位置決めピン6が突出しない範囲であれば貫通孔であってもよい。
【0024】
(端子台3)
一対の端子台3のうち
図3に示された一方の端子台3は、筐体10内に導入されたP極側のハーネス7の接続端子71とパワーモジュール11のP極側端子が接続される端子部31を備える。端子部31には、バスバーPの第一締結孔P2に挿通された締結具9が螺着される締結孔310が形成されている。
【0025】
前記一対の端子台3のうち他方の端子台3は、筐体10内に配置された直流コンデンサCの接続端子C1が接続される端子部32を備える。端子部32には、バスバーPを介して接続端子C1を端子部32に接続させる締結具9が螺着される締結孔320が形成されている。
【0026】
(端子台4)
一対の端子台4のうち一方の端子台4は、前記一方の端子台3と並列に配置され、筐体10内に導入されたN極側のハーネス8の接続端子81とパワーモジュール11のN極側端子が接続される端子部41を備える。端子部41には、バスバーNの第一締結孔N2に挿通された締結具9が螺着される締結孔410が形成されている。
【0027】
前記一対の端子台4のうち他方の端子台4は、前記他方の端子台3と並列に配置され、直流コンデンサCの接続端子C2が接続される端子部42を備える。端子部42には、バスバーNを介して接続端子C2を端子部42に接続させる締結具9が螺着される締結孔420が形成されている。
【0028】
(位置決めピン5,6)
位置決めピン5は、前記一方の端子台3において、バスバーPの挿入孔P1に対応する位置に立設される。位置決めピン5の高さ及びバスバーPの厚さは、バスバーPの挿入孔P1から位置決めピン5が突出しないように設定される。
【0029】
位置決めピン6は、前記一方の端子台4において、バスバーNの挿入孔N1に対応する位置に立設される。位置決めピン6の高さ及びバスバーNの厚さは、バスバーNの挿入孔N1から位置決めピン6が突出しないように設定される。
【0030】
(インバータ装置2の組み立て手順)
図1~3を参照してインバータ装置2の組み立て手順の一例について説明する。
【0031】
先ず、筐体10内の一対の端子台3にバスバーPが配置される。すなわち、
図1,3のように一方の端子台3の位置決めピン5及び締結孔310にバスバーPの挿入孔P1及び第一締結孔P2が各々会合してバスバーPの一端側が当該一方の端子台3の端子部31に配置される。このとき、バスバーPの第二締結孔P3が他方の端子台3の締結孔320と会合してバスバーPの他端側が端子台3の端子部32に配置された状態となる。
【0032】
次いで、筐体10内の一対の端子台4にバスバーNが配置される。すなわち、
図1のように一方の端子台4の位置決めピン6及び締結孔410にバスバーNの挿入孔N1及び第一締結孔N2が各々会合してバスバーNの一端側が当該一方の端子台4の端子部41に配置される。このとき、バスバーNの第二締結孔N3が他方の端子台4の締結孔420と会合してバスバーPの他端側が端子台4の端子部42に配置された状態となる。
【0033】
次いで、筐体10内に導入されたハーネス7,8の接続端子71,81が一方の端子台3,4の端子部31,41に各々配置される。また、直流コンデンサCの接続端子C1,C2が他方の端子台3,4の端子部32,42に各々配置される。
【0034】
そして、
図2,3のようにハーネス7の接続端子71及びバスバーPの第一締結孔P2に挿通された締結具9が一方の端子台3における端子部31の締結孔310に螺着される。また、直流コンデンサCの接続端子C1及びバスバーPの第二締結孔P3に挿通された締結具9が他方の端子台3における端子部32の締結孔320に螺着される。
【0035】
同様に、ハーネス8の接続端子81及びバスバーNの第一締結孔N2に挿通された締結具9が一方の端子台4における端子部41の締結孔410に螺着される。また、直流コンデンサCの接続端子C2及びバスバーNの第二締結孔N3に挿通された締結具9が他方の端子台4における端子部42の締結孔420に螺着される。
【0036】
以上のように
図2の筐体10内の端子台3,4にバスバーP,Nが接続固定される。
【0037】
(本実施形態の効果)
図2に示されたインバータ装置2のバスバーP,Nにおいて、第一締結孔P2と第二締結孔P3を最短で結ぶ白矢印の経路、及び、第一締結孔N2と第二締結孔N3を最短で結ぶ白矢印の経路が、インバータ装置2の電流経路に相当し、最も電流密度が高くなる。一方、第二締結孔P3,N3から第一締結孔P2,N2までの距離よりも離れたバスバーP,Nの一端側の領域a1,a2にて、電流密度が低くなる。
【0038】
バスバー位置決め構造1によれば、領域a1,a2の任意の位置に端子台3,4の位置決めピン5,6が挿入される挿入孔P1,N1が形成されたことで、バスバーP,Nのインダクタンス及びインピーダンスの増加を低減できる。特に、挿入孔P1,N1の口径が第一締結孔P2,N2,第二締結孔P3,N3の口径よりも小さく設定されることで、バスバーP,Nのインダクタンス及びインピーダンスの増加をより低減できる。
【0039】
また、
図3のように、位置決めピン5,6が挿入孔P1,N1から突出しないようにバスバーP,Nの厚みまたは位置決めピン5,6の高さが調整されることで、前記基本回路及び直流コンデンサC以外の他の電気部品を位置決めピン5,6上に配置できるので、バスバーを必要以上に拡大する必要がなくなる。
【0040】
以上のように、バスバー位置決め構造1によれば、バスバーのインダクタンス値やインピーダンス値を極力大きくしない位置に位置決めピン5,6及び挿入孔P1,N1が設定されることで、バスバーP,Nの放電防止の縁面距離を確保しつつ容易に組み立てられる。
【0041】
特に、挿入孔P1,N1を、接続ネジ端子部貫通孔を最短経路で結ぶ線よりもバスバーP,Nの端部側に設けることで、バスバーP,Nの組立性が向上する。また、バスバーP,Nのインダクタンス、インピーダンス、損失、発熱の増加を抑制できる。さらに、バスバーP,Nの低インダクタンス化によるスイッチング素子のサージ電圧が低減する。そして、バスバーP,Nの低インピーダンス化によるインバータ装置2の電力効率が向上する。
【0042】
尚、本発明のバスバー位置決め構造は、バスバーを用いるインバータ装置以外の電気機器にも適用できる。例えば、直流コンデンサCやスイッチング素子以外の電気部品間を接続する一般的なバスバーにおいても、バスバーP,Nと同様に、位置決めピンが挿入される孔を設けることで、インダクタンス及びインピーダンスの増加の低減を図ることができる。したがって、一般的なバスバーにおいても、電流の最短経路の線よりもバスバー端部側に位置決めピンが挿入される孔を備えることで、放電防止の縁面距離を確保した組み立てが容易となり、インピーダンスの増加を低減でき、電力の損失低効果が得られる。
【符号の説明】
【0043】
1…バスバー位置決め構造
2…インバータ装置
3…端子台、31,32…端子部、310,320…締結孔
4…端子台、41,42…端子部、410,420…締結孔
5,6…位置決めピン
7,8…ハーネス、71,81…接続端子
9…締結具
10…筐体
11…パワーモジュール、S1~S6…スイッチング素子
C…直流コンデンサ、C1,C2…接続端子
P…バスバー、P1…挿入孔、P2…第一締結孔,P3…第二締結孔、a1…領域
N…バスバー、N1…挿入孔、N2…第一締結孔,N3…第二締結孔、a2…領域