(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/06 20060101AFI20230613BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230613BHJP
C08K 5/372 20060101ALI20230613BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20230613BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230613BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/04
C08K5/372
C08L93/04
C08L91/00
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2021198330
(22)【出願日】2021-12-07
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-235663(JP,A)
【文献】特開2019-131742(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026477(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/075829(WO,A1)
【文献】特開2019-019310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が-40℃以上のスチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、白色充填剤およびカーボンブラックを合計で100質量部以上、環状ポリスルフィドを0.3~10質量部、熱可塑性樹脂を8~50質量部配合してなり、
前記スチレンブタジエンゴムが、そのスチレン含有量が30~40質量%であり、その末端に変性基を有し、前記ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂を質量比1:1で配合した混合物において、前記ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂のガラス転移温度から計算される前記混合物のガラス転移温度の理論値Tgaと、前記混合物のガラス転移温度の測定値Tgmとの差Tga-Tgmが10℃以上である、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の軟化点が100~180℃である、請求項
1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、テルペン、テルペンフェノール、ロジン、ロジンエステル、C5成分、C9成分から選ばれる少なくとも1つからなる樹脂である、請求項
1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
さらに、前記熱可塑性樹脂とは異なる他の熱可塑性樹脂を配合してなり、前記他の熱可塑性樹脂の軟化点の値が、前記熱可塑性樹脂の軟化点の値に対し0.9倍未満1.1倍超であり、前記他の熱可塑性樹脂が前記熱可塑性樹脂に対し10質量%以上である、請求項1~
3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を両立させるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能タイプのタイヤに求められる性能として、操縦安定性、ドライグリップ性および耐摩耗性が挙げられる。特にドライグリップ性能は、通常の温度状態から高温状態に至る広範な温度範囲で優れることが求められる。
【0003】
例えば、特許文献1は、熱可塑性樹脂、特定の環状ポリスルフィド、およびカーボンブラックの配合を規定したタイヤトレッド用ゴム組成物が、ドライグリップ性および耐摩耗性を改良することを開示する。しかし、需要者が高性能タイプのタイヤに求める性能は更に高まり、特許文献1に記載されたタイヤトレッド用ゴム組成物においても、更なる改良が求められている。とりわけ、操縦安定性、広い温度範囲でのドライグリップ性能、および耐摩耗性をより高いレベルで両立させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を従来より高いレベルで両立させるタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ガラス転移温度が-40℃以上のスチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、白色充填剤およびカーボンブラックを合計で100質量部以上、環状ポリスルフィドを0.3~10質量部、熱可塑性樹脂を8~50質量部配合してなり、前記スチレンブタジエンゴムが、そのスチレン含有量が30~40質量%であり、その末端に変性基を有し、前記ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂を質量比1:1で配合した混合物において、前記ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂のガラス転移温度から計算される前記混合物のガラス転移温度の理論値Tgaと、前記混合物のガラス転移温度の測定値Tgmとの差Tga-Tgmが10℃以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物によれば、ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂を質量比1:1で配合した混合物が、その混合物のガラス転移温度の理論値Tgaと、ガラス転移温度の測定値Tgmとの差Tga-Tgmが10℃以上を満たすように、ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂を選択し、スチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むジエン系ゴム、白色充填剤、カーボンブラック、環状ポリスルフィド、および熱可塑性樹脂を所定量配合することにより、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を従来より高いレベルで両立させることができる。
【0008】
前記スチレンブタジエンゴムは、そのスチレン含有量が30~40質量%で、その末端に変性基を有するとよい。また、前記熱可塑性樹脂は、テルペン、テルペンフェノール、ロジン、ロジンエステル、C5成分、C9成分から選ばれる少なくとも1つからなる樹脂であり、その軟化点が100~180℃であるとよい。
【0009】
さらに、タイヤ用ゴム組成物は、前記熱可塑性樹脂とは異なる他の熱可塑性樹脂を配合してなり、前記他の熱可塑性樹脂の軟化点が、前記熱可塑性樹脂の軟化点に対する比で0.9未満1.1超であり、前記他の熱可塑性樹脂が前記熱可塑性樹脂に対し10質量%以上であるとよい。
【0010】
上述したタイヤ用ゴム組成物は、タイヤのトレッド部を好適に構成することができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物でトレッド部を構成したタイヤは、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を従来より高いレベルで両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
タイヤ用ゴム組成物はゴム成分にジエン系ゴムを含み、ジエン系ゴムはガラス転移温度(以下、「Tg」と記載することがある。)が-40℃以上のスチレンブタジエンゴムを含む。Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムを含有することにより、耐摩耗性およびドライグリップ性能を優れたものにすることができる。スチレンブタジエンゴムのTgは、好ましくは-40℃~-10℃、より好ましくは-30℃~-10℃であるとよい。スチレンブタジエンゴムのTgをこのような範囲にすることにより、タイヤの温度が高くなってもドライグリップ性能を確保することができる。本明細書において、ジエン系ゴムのTgは、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とすることができる。また、ジエン系ゴムが油展品であるときは、油展成分(オイル)を含まない状態におけるジエン系ゴムのTgとする。
【0012】
Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムは、ジエン系ゴム100質量%中、30質量%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。また、Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムは、ジエン系ゴム100質量%中、100質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0013】
Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムは、そのスチレン含有量が30~40質量%であり、その末端に変性基を有するのが好ましい。Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムのスチレン含有量は30~40質量%、好ましくは31~39質量%である。スチレン含有量をこのような範囲内にすることにより、ゴム組成物の引張破断強度、特に高温状態での引張破断強度を高くし、耐摩耗性を優れたものにすることができる。本明細書において、スチレンブタジエンゴムのスチレン含有量は1H-NMRにより測定するものとする。
【0014】
Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムは、その末端に変性基を有するとよい。末端に変性基を有することにより、シリカの分散がより良好になり好ましい。変性基の種類は、特に限定されるものではないが、例えばエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、アミド基、オキシシリル基、シラノール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボニル基、アルデヒド基、等が好ましく挙げられる。
【0015】
タイヤ用ゴム組成物を構成するゴム成分は、Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴム以外に他のジエン系ゴムを含むことができる。他のジエン系ゴムとして、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、Tgが-40℃未満のスチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴム、イソプレンブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、等を挙げることができる。なかでも天然ゴム、ブタジエンゴム、Tgが-40℃未満のスチレンブタジエンゴム、等が好ましい。他のジエン系ゴムを含有することにより、耐摩耗性を向上することができる。他のジエン系ゴムは変性基を有してもよく、その変性基の種類は上述したものを例示することができ、Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムの末端変性基と同じでも異なってもよい。他のジエン系ゴムは、1つ以上を配合してもよく、その含有量の合計は、ジエン系ゴム100質量%から、Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴムの含有量を引いた残量であればよい。
【0016】
天然ゴム、ブタジエンゴムおよびTgが-40℃未満のスチレンブタジエンゴムは、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるものであれば特に制限されるものではない。天然ゴムを配合することにより、タイヤの耐摩耗性を確保することができる。また、ブタジエンゴムを配合することにより、タイヤの耐摩耗性能を確保することができる。更に、Tgが-40℃未満のスチレンブタジエンゴムを配合することにより、タイヤのウェットグリップ性を確保することができる。
【0017】
タイヤ用ゴム組成物は、白色充填剤およびカーボンブラックを配合する。白色充填剤およびカーボンブラックは、配合量の合計がジエン系ゴム100質量部に対し100質量部以上、好ましくは100~300質量部、より好ましくは110~150質量部である。白色充填剤およびカーボンブラックを配合することにより、耐摩耗性などのタイヤ耐久性と操縦安定性を確保することができる。白色充填剤として、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等を挙げることができる。なかでもシリカが好ましく挙げられる。これら白色充填剤は単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
カーボンブラックは、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるものであれば特に制限されるものではない。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、好ましくは80~250m2/g、より好ましくは90~230m2/g、さらに好ましくは95~220m2/gであるとよい。窒素吸着比表面積が80m2/g以上であるとドライグリップ性能およびタイヤ耐久性を確保することができる。また250m2/g以下にすることにより発熱性が過大になるのを抑制することができる。カーボンブラックは、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2に準拠して求めることができる。
【0019】
カーボンブラックは、ジエン系ゴム100質量部に、好ましくは5~100質量部、より好ましくは7~80質量部配合することができる。カーボンブラックを5質量部以上配合することにより、タイヤ耐久性を確保することができる。また剛性を確保し操縦安定性を確保することができる。カーボンブラックを100質量部以下にすることにより、発熱性が過大になるのを抑制することができる。
【0020】
シリカを配合することにより、ウェットグリップ性能を向上することができる。シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。またシリカの表面をシランカップリング剤により表面処理が施された表面処理シリカを使用してもよい。
【0021】
タイヤ用ゴム組成物は、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましく、シリカの分散性を良好にすることができる。シランカップリング剤は、通常シリカと共に配合する種類を用いることができる。シランカップリング剤は、シリカ量の好ましくは5~15質量%、より好ましくは8~12質量%を配合するとよい。
【0022】
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に環状ポリスルフィドを0.3~10質量部配合する。環状ポリスルフィドを配合することにより、ゴム組成物の引張破断強度、特に高温状態での引張破断強度を高くし、耐摩耗性を優れたものにすることができる。すなわち、後述する熱可塑性樹脂を比較的多量に配合したタイヤ用ゴム組成物であっても、高温状態での引張破断強度を高くし、耐摩耗性を確保することができる。
【0023】
環状ポリスルフィドとして、例えば下記式(I)で示される化合物を挙げることができる。このような環状ポリスルフィドを配合することにより、優れたドライグリップ性能を長く持続することができる。また、環状ポリスルフィドは、高温状態におけるゴム強度を高くするため、熱可塑性樹脂を配合したときにゴム組成物の耐摩耗性が低下するのを可及的に小さくすることができる。
【化1】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2~20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数2~20のオキシアルキレン基又は芳香族環を含むアルキレン基、xは平均2~6の数、nは1~20の整数である。)
【0024】
上記式(I)の環状ポリスルフィドにおいて、Rがアルキレン基又はオキシアルキレン基であるとき、その炭素数は、好ましくは2~18、より好ましくは4~8であるとよい。また、アルキレン基及びオキシアルキレン基に対する置換基としては、例えばフェニル基、ベンジル基、メチル基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、シリル基などを例示することができる。xは好ましくは平均3~5、より好ましくは平均3.5~4.5にするとよい。また、nは好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5の整数にするとよい。このような環状ポリスルフィドは、通常の方法で製造することができ、例えば特開2007-92086号公報に記載の製造方法を例示することができる。
【0025】
環状ポリスルフィドの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.3~10質量部、好ましくは1.0~7.5質量部にするとよい。環状ポリスルフィドの配合量が0.3質量部未満であると、ドライグリップ性能を高いレベルで長く持続する効果を向上する効果が得られない。また熱可塑性樹脂を配合したゴム組成物の耐摩耗性低下を十分に抑制することができない。なお環状ポリスルフィドの配合量が10質量部を超えると走行初期のドライグリップ性能が低下する。
【0026】
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に特定の熱可塑性樹脂を8~50質量部配合する。特定の熱可塑性樹脂を配合することにより、優れた操縦安定性と、タイヤが通常の温度状態にあるときから高温状態に至る広範な温度範囲で優れたドライグリップ性を発揮することができる。また、上述した環状ポリスルフィドを併用することにより、耐摩耗性も向上することができる。
【0027】
タイヤ用ゴム組成物において、特定の熱可塑性樹脂は、ジエン系ゴムとの間で以下の関係を満たすものとする。すなわち、ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂を質量比1:1で配合した混合物において、ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂のガラス転移温度から計算される混合物のガラス転移温度の理論値Tgaと、混合物のガラス転移温度の測定値Tgmとの差Tga-Tgmが10℃以上になるようにする(以下、この関係を満たす特定の熱可塑性樹脂を、「熱可塑性樹脂A」ということがある。)。差Tga-Tgmを10℃以上にすることにより、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を従来より高いレベルで両立させることができる。差Tga-Tgmは、好ましくは10~30℃、より好ましくは12~25℃であるとよい。差Tga-Tgmが10℃以上であることは、ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂が非相溶関係にあると考えられ、熱可塑性樹脂の硬質性が残り、操縦安静性および高温状態でのグリップ性の向上に寄与すると考えられる。本明細書において、混合物のガラス転移温度の理論値Tgaは、ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂のガラス転移温度および質量比から加重平均値として算出することができる。また、ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂のガラス転移温度、並びに混合物のガラス転移温度Tgmは、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度として測定するものとする。なお、サーモグラムに複数の転移域があるときは、最も大きな転移域における中点を混合物のガラス転移温度Tgmとする。
【0028】
熱可塑性樹脂とは、タイヤ用ゴム組成物へ通常配合する樹脂であり、分子量が数百から数千くらいで、タイヤ用ゴム組成物に粘着性を付与する作用を有する。熱可塑性樹脂として、テルペン、テルペンフェノール、ロジン、ロジンエステル、C5成分、C9成分から選ばれる少なくとも1つからなる樹脂が好ましい。例えば、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂などの天然樹脂、石油系樹脂、石炭系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂などの合成樹脂が挙げられる。
【0029】
テルペン系樹脂としては、例えばα-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、リモネン樹脂、水添リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えばガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジンおよびフマル化ロジン等の変性ロジン、これらのロジンのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル、メチルエステルおよびトリエチレングリコールエステルなどのエステル誘導体、並びにロジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂Aは、軟化点が好ましくは100~180℃、より好ましくは120~165℃であるとよい。熱可塑性樹脂の軟化点が100℃未満であると、ドライグリップ性能を向上する効果が得られなくなる。また、熱可塑性樹脂の軟化点が180℃を超えると、タイヤの作動性に影響を及ぼすことがある。熱可塑性樹脂の軟化点は、JIS K5902に準拠して測定した値とする。
【0031】
タイヤ用ゴム組成物は、上述した熱可塑性樹脂Aとは異なる他の熱可塑性樹脂Bを配合することができる。本明細書において、他の熱可塑性樹脂Bは、ジエン系ゴムとの関係で上述した差Tga-Tgmが10℃未満であり、ジエン系ゴムへの相溶性を有する熱可塑性樹脂をいう。他の熱可塑性樹脂Bの種類は特に、制限されるものではなく、上述した熱可塑性樹脂の中から、ジエン系ゴムとの関係で差Tga-Tgmが10℃未満となるものを適宜、選択することができる。
【0032】
他の熱可塑性樹脂Bの軟化点は、特に制限されるものではないが、他の熱可塑性樹脂Bの軟化点の値が、熱可塑性樹脂Aの軟化点の値に対し好ましくは0.9倍未満1.1倍超であるとよい。すなわち、他の熱可塑性樹脂Bの軟化点は、熱可塑性樹脂Aの軟化点の±10%の範囲外であるとよい。より好ましくは、他の熱可塑性樹脂Bの軟化点の値が、熱可塑性樹脂Aの軟化点の値の0.9倍未満であるとよい。熱可塑性樹脂Aの軟化点を、このように設定することにより、広い温度領域で高いグリップ性能を発揮でき、好ましい。
【0033】
また、タイヤ用ゴム組成物に他の熱可塑性樹脂Bの配合量を配合する場合、他の熱可塑性樹脂Bの配合量は、熱可塑性樹脂Aに対し好ましくは10質量%以上、より好ましくは10~250質量%、さらに好ましくは25~100質量%であるとよい。他の熱可塑性樹脂Bをこのような範囲で配合することにより、ドライグリップ性能の温度依存性が小さくなり好ましい。
【0034】
タイヤ用ゴム組成物は、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またかかる添加剤は一般的な方法で混練してタイヤ用ゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0035】
タイヤ用ゴム組成物は、タイヤのトレッド部を好適に構成することができる。タイヤは空気入りタイヤ、非空気式タイヤのいずれでもよい。上述したタイヤ用ゴム組成物でトレッド部を構成したタイヤは、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を従来より高いレベルで両立させることができる。
【0036】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1~2に示す配合からなるタイヤ用ゴム組成物(実施例1~7、比較例1~5)を、硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練りした後、ミキサーから放出して室温冷却した。これを上述した1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに投入し、硫黄および加硫促進剤を加えて混合することにより、タイヤ用ゴム組成物を調製した。また表3に記載した配合剤の配合量は、表1~2に記載したジエン系ゴム100質量部に対する質量部で示した。なお、各タイヤ用ゴム組成物において、それぞれのジエン系ゴムと熱可塑性樹脂を質量比1:1で配合した混合物に関し、各ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂のガラス転移温度および質量比から加重平均値を混合物のガラス転移温度の理論値Tgaとして算出した。また、混合物のガラス転移温度の測定値Tgmを、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件により測定したサーモグラムから転移域の中点の温度として求めた。なお、サーモグラムに複数の転移域があるときは、最も大きな転移域における中点を混合物のガラス転移温度Tgmとした。得られた混合物のガラス転移温度の理論値Tgaと測定値Tgmの差Tga-Tgmを算出し、表1~2に記載した。
【0038】
得られたタイヤ用ゴム組成物を使用して、15cm×15cm×0.2cmの金型中で、160℃、20分間加硫して加硫ゴムシートを作製し、下記の方法により動的粘弾性を測定し、操縦安定性、ドライグリップ性能の温度依存性の指標にすると共に、高温下での引張試験を行い耐摩耗性の指標とした。
【0039】
動的粘弾性評価
上記で得られた加硫ゴムシートの動的粘弾性を、JIS-K6394の規定に準じて、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定し、20℃、60℃および100℃において、貯蔵弾性率E’、損失弾性率E″および複素弾性率E*(いずれも単位は[MPa])を求めた。
【0040】
上記により得られた20℃の貯蔵弾性率E’は、比較例1の値を100とする指数とし、表1~2の「操縦安定性」の欄に示した。この指数が大きいほど、20℃の貯蔵弾性率E’が大きく、操縦安定性が優れることを意味する。
【0041】
上記により得られた損失弾性率E″および複素弾性率E*から以下の計算式により、60℃および100℃のロスコンプライアンスLCを算出した。
LC=E″/(E*)2
上記式において、LCはロスコンプライアンス[MPa-1]、E″は損失弾性率[MPa]、E*は複素弾性率[MPa]である。
得られた結果から、60℃のロスコンプライアンスLC60および100℃のロスコンプライアンスLC100の比LC60/LC100を算出した。得られたロスコンプライアンスの比LC60/LC100は、比較例1の値を100とする指数とし、表1~2の「ドライグリップ性能の温度依存性」の欄に示した。この指数が小さいほど、ロスコンプライアンスの比LC60/LC100が小さく、ドライグリップ性能の温度依存性が抑制され優れることを意味する。
【0042】
ここで、ロスコンプライアンスLCの値が大きいほどエネルギーロスが大きく、ひいては発熱しやすくかつドライグリップ性能に優れる。また、温度60℃でのロスコンプライアンスLC60と温度100℃でのロスコンプライアンスLC100との比LC60/LC100が1よりも大きいと温度100℃よりも温度60℃でドライグリップ性能が優れ、通常の温度領域のときに優れたドライグリップ性能を発揮できる。他方、比LC60/LC100が1よりも小さいゴムでは、温度60℃よりも温度100℃でドライグリップ性能が優れ、高温のときに優れたドライグリップ性能を発揮できる。よって、比LC60/LC100同士(例えば上記で求めた指数)を比較するとき、比LC60/LC100の指数がより大きいとき、相対的に低温でのドライグリップ性能に優れ、一方、比LC60/LC100の指数がより小さいとき、高温でのドライグリップ性能に優れ、このとき通常の温度領域から高温領域に至るまで優れたドライグリップ性能が得られる。
【0043】
引張試験
上記で得られた加硫ゴムシートを使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベルJIS3号形試験片を作製し、100℃で500mm/分の引張り速度で引張り試験を行い、破断したときの引張り破断強度を測定した。得られた結果は、比較例1の値を100にする指数として表1,2の「耐摩耗性」の欄に記載した。この指数が大きいほど100℃の引張破断強度が強く耐摩耗性に優れることを意味する。
【0044】
【0045】
【0046】
表1~2において、使用した原材料の種類は、以下の通りである。
・NR:天然ゴム、TSR20、Tgが-65℃
・SBR-1:スチレンブタジエンゴム、JSR社製HPR620、Tgが-34℃、スチレン含有量が39質量%、末端変性基がイミド残基。
・SBR-2:スチレンブタジエンゴム、旭化成社製TUFDEN1834、Tgが-71℃、スチレン含有量が20質量%。
・カーボンブラック:東海カーボン社製シースト7HM
・シリカ:Solvay社製ZEOSIL 1165MP
・熱可塑性樹脂-1:フェノール樹脂、三井化学社製ネオポリマー170S、軟化点が160℃。
・熱可塑性樹脂-2:C5/C9樹脂、荒川化学社製タマノル803L、軟化点が150℃。
・熱可塑性樹脂-3:芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO-125、軟化点が125℃。
・環状ポリスルフィド:AKZO NOBEL FUNMTIONAL CHEMICALS社製THIOPLAST CPS 200、前記式(I)で示される化合物。
【0047】
【0048】
表3において、使用した原材料の種類は、以下の通りである。
・シランカップリング剤:Moment社製NXT SILANE
・オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・老化防止剤:LANXESS社製VULKANOX 4020
・ワックス:日本精鑞社製OZOACE-0015A
・硫黄:鶴見化学工業社製サルファックス5
・加硫促進剤:大内新興化学社製ノクセラーTOT-N
【0049】
表1~2から明らかなように実施例1~7のタイヤ用ゴム組成物は、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を両立させることが確認された。
比較例1のタイヤ用ゴム組成物は、本発明に記載した熱可塑性樹脂Aを配合しないので、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性が、熱可塑性樹脂Aを配合した各実施例に比べ劣る。
比較例2のタイヤ用ゴム組成物は、環状ポリスルフィドを配合しないので、100℃の引張破断強度が低く耐摩耗性が劣る。
比較例3のタイヤ用ゴム組成物は、Tgが-40℃以上のスチレンブタジエンゴム(SBR-1)が30質量%未満なので、100℃の引張破断強度が低く耐摩耗性が劣る。
比較例4のタイヤ用ゴム組成物は、本発明に記載した熱可塑性樹脂Aが8質量部未満なので、広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性を改良することができない。
比較例5のタイヤ用ゴム組成物は、本発明に記載した熱可塑性樹脂Aが50質量部を超えるので、100℃の引張破断強度が低く耐摩耗性が劣る。
【要約】
【課題】広い温度範囲でのドライグリップ性能および操縦安定性と、耐摩耗性を両立させるタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が-40℃以上のスチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に、白色充填剤およびカーボンブラックを合計で100質量部以上、環状ポリスルフィドを0.3~10質量部、熱可塑性樹脂を8~50質量部配合してなり、前記ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂を質量比1:1で配合した混合物において、前記ジエン系ゴムおよび熱可塑性樹脂のガラス転移温度から計算される前記混合物のガラス転移温度の理論値Tgaと、前記混合物のガラス転移温度の測定値Tgmとの差Tga-Tgmが10℃以上であることを特徴とする。
【選択図】なし