(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】研削システム、補正量推定装置、コンピュータプログラム及び研削方法
(51)【国際特許分類】
B24B 27/00 20060101AFI20230613BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20230613BHJP
B24B 49/16 20060101ALI20230613BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20230613BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20230613BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20230613BHJP
B23Q 23/00 20060101ALI20230613BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B24B27/00 A
B24B49/10
B24B49/16
B23Q15/12 Z
G05B19/404 K
G05B19/4155 V
B23Q23/00
B23Q17/09 H
(21)【出願番号】P 2021561572
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044359
(87)【国際公開番号】W WO2021107139
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-04-21
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横矢 剛
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-15956(JP,A)
【文献】特開昭63-47058(JP,A)
【文献】特開2017-1122(JP,A)
【文献】米国特許第4886529(US,A)
【文献】特開2014-155986(JP,A)
【文献】特開2011-125986(JP,A)
【文献】特開昭62-203756(JP,A)
【文献】特開平7-205022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/00 - 27/00
B24B 49/10
B24B 49/16
B23Q 15/12
G05B 19/18 - 19/46
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報を取得する反力関連情報取得部と、
工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の前記反力関連情報の差分を取得する差分算出部と、
前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定する補正量推定部と、
目標位置と、前記補正量に基づいて加工時における前記研削工具の位置を制御する加工制御部と、
を有する研削システム。
【請求項2】
前記補正量推定部は、前記差分を機械学習モデルに入力して前記補正量を得る、請求項1に記載の研削システム。
【請求項3】
前記研削工具の研削砥石についての前記補正量の累積値である累積補正量を算出する累積補正量算出部を有し、
前記加工制御部は、異なる工作物に対して加工を行う場合、目標位置及び前記累積補正量に基づいて加工時における前記研削工具の位置を制御する請求項1又は2に記載の研削システム。
【請求項4】
前記工作物の加工対象箇所を区分し、前記補正量推定部は、区分ごとに前記補正量を推定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の研削システム。
【請求項5】
前記研削工具は電動機制御支持機構により支持され、前記反力関連情報は、前記研削工具の押し付け方向についての電動機の外力トルクである、請求項1~4のいずれか1項に記載の研削システム。
【請求項6】
前記反力関連情報を第2の機械学習モデルに入力し、前記工作物の同一箇所における推定反復加工回数を推定する推定反復加工回数推定部を有する請求項1~5のいずれか1項に記載の研削システム。
【請求項7】
工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報の差分を取得する差分算出部と、
前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定する補正量推定部と、
を有する補正量推定装置。
【請求項8】
コンピュータを、
工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報の差分を取得する差分算出部と、
前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定する補正量推定部と、
を有する補正量推定装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項9】
研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報を取得し、
工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の前記反力関連情報の差分を取得し、
前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定し、
目標位置と、前記補正量に基づいて加工時における前記研削工具の位置を制御する、
研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削システム、補正量推定装置、コンピュータプログラム及び研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、研磨加工の加工条件を示す研磨加工条件データを、環境の現在状態を表す状態変数として観測し、該状態変数に基づいて、前記研磨加工の加工条件に対する前記研磨工具の摩耗量をモデル化した学習モデルを用いた学習乃至予測をする機械学習装置を備える研磨工具摩耗量予測装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研削機による工作物の研削は、所望の加工結果が得られるまで繰り返し研削工具を加工箇所に押し付け研削することによりなされる。そして、加工が進むにしたがって、工作物だけでなく、研削工具も同時に摩耗していくため、加工精度を確保するためには加工後の工作物を測定し再加工の必要の有無や条件の判断が必要であり、生産性の向上がむつかしい。
【0005】
特許文献1記載の発明はこの点研磨工具の摩耗を機械学習装置を利用して予測するものであり、種々の加工条件に基づいて研磨工具の摩耗を推定しているが、工具の摩耗量は工作物の状態に強く依存するため、同発明により工具の摩耗量を正確に見積もることは困難である。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、研削システムにおいて、工作物の状態を反映した押し付け方向の補正量を取得することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下のとおりである。
【0008】
本発明の一側面に係る研削システムは、研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報を取得する反力関連情報取得部と、工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の前記反力関連情報の差分を算出する差分算出部と、前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定する補正量推定部と、目標位置と、前記補正量に基づいて加工時における前記研削工具の位置を制御する加工制御部と、を有する。
【0009】
また、本発明の別の一側面に係る研削システムでは、前記補正量推定部は、前記差分を機械学習モデルに入力して前記補正量を得てよい。
【0010】
また、本発明の別の一側面に係る研削システムでは、前記研削工具の研削砥石についての前記補正量の累積値である累積補正量を算出する累積補正量算出部を有し、前記加工制御部は、異なる工作物に対して加工を行う場合、目標位置及び前記累積補正量に基づいて加工時における前記研削工具の位置を制御してよい。
【0011】
また、本発明の別の一側面に係る研削システムでは、前記工作物の加工対象箇所を区分し、前記補正量推定部は、区分ごとに前記補正量を推定してよい。
【0012】
また、本発明の別の一側面に係る研削システムでは、前記研削工具は電動機制御支持機構により支持され、前記反力関連情報は、前記研削工具の押し付け方向についての電動機の外力トルクであってよい。
【0013】
また、本発明の別の一側面に係る研削システムでは、前記反力関連情報を第2の機械学習モデルに入力し、前記工作物の同一箇所における推定反復加工回数を推定する推定反復加工回数推定部を有してよい。
【0014】
また、本発明の一側面に係る補正量推定装置は、工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報の差分を算出する差分算出部と、前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定する補正量推定部と、を有する。
【0015】
また、本発明の一側面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報の差分を算出する差分算出部と、前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定する補正量推定部と、を有する補正量推定装置として機能させる。
【0016】
また、本発明の一側面に係る研削方法は、研削加工中の研削工具の押し付け反力に関する反力関連情報を取得し、工作物の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の前記反力関連情報の差分を算出し、前記差分に基づいて、前記研削工具の押し付け方向の補正量を推定し、目標位置と、前記補正量に基づいて加工時における前記研削工具の位置を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係る研削システムの例の全体構成を示す概略図である。
【
図2】研削システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】第n回目の研削加工と、第n+1回目の研削加工において得られた反力関連情報であるトルク指令値と、その差分の例を示す図である。
【
図4】第n回目の研削加工と、第n+1回目の研削加工において得られた反力関連情報であるトルク指令値と、その差分の例を示す図である。
【
図5】研削システムを利用した機械学習モデルの学習装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】研削システムにおいて、推定反復加工回数を推定するための構成の概要を示す図である。
【
図9】検証システムのロボット構成を示す図である。
【
図10】ディスクグラインダと砥石のスペックを示す表である。
【
図12】研磨回数2回毎の溶接ビードの外観を示す図である。
【
図13】研磨動作2,4,6,8,10回目における外乱トルクτ
dのデータの一例を示す図である。
【
図14】学習により生成したNNモデルから評価データを用いて推定した結果を示す表である。
【
図15】同じ砥石の研磨作業を11~15個目のワークまで続けて研磨動作10回を実施した場合の推定結果を示す表である。
【
図16】反復回数推定部を備えた研削システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の好適な実施形態に係る研削システム100の例の全体構成を示す概略図である。
【0019】
研削システム100は、研削工具1と、研削工具1を工作物2に相対的に移動可能に支持し、工作物2に対する研削加工を可能とする支持機構3を含む。また、
図1には、加工中の工作物2を支持する支持台4と、支持機構3を制御する制御器5が示されている。
【0020】
ここで、研削工具1は、本実施形態ではディスクグラインダーであり、グラインダー本体6と、その先端に取り付けられた研削砥石7を有している。また、支持機構3は、一般的な多軸産業用ロボットを用いており、そのエンドエフェクタとして研削工具1が取り付けられている。制御器5は、ロボットコントローラである。
【0021】
また、工作物2は、ここでは、鋼板をビード溶接した部材であり、その溶接ビード8が畝状に盛り上がっているため、研削システム100は、その溶接ビード8の不要な盛り上がりを研削加工により表面が滑らかになるよう除去することをその加工目的とするものを例示している。
【0022】
なお、
図1に示した研削システム100は一例であり、その具体的な各部の構成を他の構成に置き換えても本発明の要旨に差し支えはない。例えば、研削工具1は、
図1では一般的に市販されるディスクグラインダーを使用したものとして示しているが、研削システム100専用に研削工具1を設計・製作してもよい。また、支持機構3はここでは垂直多関節ロボットを用いたものとして示しているが、これ以外に、スカラロボット、直交ロボットや、ガントリ機構など各種機構を用いてよいし、研削工具1を支持する側だけでなく、工作物2を支持する支持台4が可動するものであってもよい。
【0023】
さらに、制御器5はロボットコントローラだけでなく、サーボコントローラやPLC(Programable Logic Controller)、PCなど、支持機構3を自動制御するための機器であればどのようなものであってもよく、またこれらの複数の機器を組み合わせたものであってもよい。そして、工作物2は、研削加工を要する対象であればどのようなものであるかは限定されず、図示した溶接ビード8の不要部の除去のような平面研削のほか、回転対象の内面又は外面研削、切断等、種々の研削加工を必要とするものであってよい。
【0024】
図2は、研削システム100の機能構成を示すブロック図である。制御器5には、加工制御部50が設けられており、支持機構3に対してプログラム制御による位置制御を行うことにより、支持機構3によって支持された研削工具1を工作物2に対して所望の軌跡で移動させる。本実施形態では、支持機構3は電動機により駆動される電動機制御支持機構であるため、加工制御部50には、電動機を駆動するためのモータコントローラが含まれており、支持機構3に含まれる各電動機をサーボ制御するものとなっている。
【0025】
支持機構3には、反力関連情報取得部30が設けられ、研削加工中の研削工具1の押し付け反力に関する反力関連情報を取得するようになっている。ここで、反力関連情報は、直接、又は何らかの換算により、研削工具1の押し付け反力を示しうる情報を意味しており、押し付け反力そのものであってもよいし、その他の情報であってもよい。押し付け反力そのものは、例えば、支持機構3にロードセルを介して研削工具1を取り付け、これを直接測定することなどによって得られる。その他の情報としては、本実施形態に係る研削システム100においては、研削工具1の押し付け方向についての支持機構3の電動機に作用する反力トルク、すなわち、トルク指令値を反力関連情報として用いている。電動機の制御情報、特に、電流指令値やトルク指令値を反力関連情報として採用すると、支持機構3に、反力関連情報を取得するための特別の追加の構成を要しないため経済的である。以降、本実施形態においては、反力関連情報として、支持機構3の電動機のトルク指令値を用いるものとする。
【0026】
制御器5には、加工制御部50に加え、補正部51が設けられており、加工制御部50に対し、本実施形態では累積補正量を出力するようになっている。ここで、補正部51の構成の詳細な説明の前に、補正部51による補正の意味について説明する。
【0027】
研削工具1による研削加工においては、加工の進展に伴い、研削砥石7の摩耗が避けられない。そして、研削砥石7の摩耗は、研削加工の加工点の後退を意味するため、研削工具1を支持機構3による位置制御によって研削加工を行うと、研削砥石7摩耗の進展に伴って、加工点がずれ、工作物2に対し所望の形状の加工が行えなくなってしまう。そのため、正確な研削を行うためには、研削砥石7の摩耗量を何らかの方法により見積もり、それに見合った補正を支持機構3による位置制御に加えなければならない。
【0028】
研削砥石7の摩耗量を加工の都度高精度に測定するのは、測定機の設置や調整など研削システム100の複雑化やコスト増のほか、保守管理がむつかしくなる。一方で、研削砥石7の摩耗量を推定しようとしても、研削砥石7の摩耗量は、研削加工における工作物2の研削量に大きく依存するため、工作物2の加工対象箇所の形状などにより大きく変化してしまい、研削システム100側の条件のみによってこれを推定することは難しい。
【0029】
そこで、本実施形態に係る研削システム100では、補正部51に差分算出部52が設けられ、工作物2の同一箇所における反復加工について異なる反復回において取得された2の反力関連情報の差分を算出する。
【0030】
一般に、研削加工においては、一度の研削によって所望の工作物2の形状を得られることは少ないため、同一箇所を所望の形状が得られるまで複数回同じ軌跡に沿って研削する。
【0031】
図3は、研削システム100において、工作物2の同一箇所における反復加工において、第n回目の研削加工と、第n+1回目の研削加工において得られた反力関連情報であるトルク指令値と、その差分の例を示す図である。
図3の上段のグラフには、第n回目のトルク指令値を実線で、第n+1回目のトルク指令値を破線で示し、下段のグラフには、第n回目のトルク指令値から第n+1回目のトルク指令値を引いた差分を実線で示した。
【0032】
トルク指令値は、研削加工時に研削工具1を工作物2に押し付けたときの押し付け反力を反映するため、加工を要する部分が大きいほど、支持機構3に強い押し付け反力が生じる。そのため、トルク指令値の波形は、工作部2の加工を要する部分の形状を反映したものとなっている。そして、研削加工が進展するにしたがって、加工を要する部分は削れてその大きさが小さくなっていくため、後の反復回におけるトルク指令値のほうが、先の反復回におけるトルク指令値よりも小さくなる傾向にある。
【0033】
そして、異なる反復回において取得されたトルク指令値の差は、先の反復回における加工を要する部分の形状と、後の反復回における加工を要する部分の形状の差を反映したものとなるため、先の反復回から後の反復回の間の加工を要する部分の形状の変化量を反映するものに他ならない。
図3に示した例だと、下段のグラフに示した差分は、n回目の加工によって生じた加工を要する部分の形状の変化量、すなわち、研削工具1による研削量に関連付けられる。
【0034】
よって、本実施形態に係る研削システム100では、この差分に基づいて、さらに、補正部51に設けられた補正量推定部53により、研削システム100の押し付け方向の補正量を推定する。
【0035】
この補正量の推定のアルゴリズムは、差分に基づいて補正量を合理的に推定できるものであればいかなるものであっても差し支えはない。また、この補正量は、研削砥石7の摩耗による研削工具1の加工点のずれを含む、研削加工を高精度に行う際に必要な補正量であればどのようなものであってもよい。本実施形態では、補正量として、研削砥石7の摩耗による加工点の移動距離(以降では単に「摩耗量」という。)を用いているが、この移動距離に加え、加工時反力による支持機構3のたわみ補償などの機械的変化量を含む量を補正量とするなどしてもよい。
【0036】
そして、すでに述べたように、
図3の下段のグラフに示したような差分と、必要な補正量との間には相関があると考えられるが、両者の間の精度の高い変換関係を発見するのは、必ずしも容易ではない。そこで、本実施形態に係る研削システム100の補正量推定部は、この差分と摩耗量との間の関係をあらかじめ学習させておいた機械学習モデルを用い、かかる機械学習モデルに差分を入力することにより、出力として補正量を得ている。
【0037】
なお、この機械学習モデルのアーキテクチャは特に限定されるものではないが、入力値である差分が時系列データであるため、RNN(再帰型ニューラルネットワーク)によるものが好適である。機械学習モデルの学習については後述する。
【0038】
このようにして得られた補正量は、トルク指令値を取得した異なる2の反復回の間の研削加工によって生じた研削砥石7の摩耗量を示す。そして、研削砥石7の摩耗は、加工の都度累積していくため、最終的に支持機構3の位置制御に対してする補正は、この補正量の累積値に基づくものとなる。
【0039】
そのため、補正部51に設けられた累積補正量算出部54では、補正量推定部53により補正量の推定がなされる都度、これを累積して累積補正量を算出して保持し、かかる累積補正量を加工制御部50に出力する。
【0040】
この累積補正量は、研削工具1の研削砥石7の個体の摩耗量に対応する量であるから、使用中の研削砥石7についての量として保持され、研削砥石7が交換された場合にはその値はリセットされる。
【0041】
加工制御部10は、以上のようにして得られた累積補正量を補正部51から受領し、研削加工の際に、あらかじめプログラムされた目標位置に加え、累積補正量にも基づいて、研削工具1の位置を制御する。より具体的には、研削工具1の目標位置の押し付け方向の座標に累積補正量を加算する。したがって、加工制御部50は、その目標位置と、補正量推定部53により推定された補正量に基づいて、加工時における研削工具1の位置を制御しているといえる。
【0042】
また、累積補正量は、使用中の研削砥石7についての量であるから、当然に、ある工作物2に対する研削加工が完了し、別の異なる工作物2に交換された場合であっても、研削砥石7が交換されない限りは引き続き使用される。したがって、加工制御部50は、異なる工作物2に対して加工を行う場合、目標位置及び累積補正量に基づいて加工時における研削工具1の位置を制御することになる。
【0043】
なお、以上説明した研削システム100の制御器5において、補正部51を独立した機器として構成した場合には、これを補正量推定装置として観念することができる。その場合は、補正量推定装置は、上で説明した差分算出部52、補正量推定部53、及び累積補正量算出部54を有する独立した機器である。
【0044】
補正量推定装置は、専用の装置として設計してもよいし、一般的なコンピュータを用いて実現してもよい。
図5は、補正量推定装置として用いることのできる一般的なコンピュータ11の構成を示す図である。コンピュータ11は、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)11a、メモリであるRAM(Random Access Memory)11b、外部記憶装置11c、GC(Graphics Controller)11d、入力デバイス11e及び11f(Inpur/Output)306がデータバス11gにより相互に電気信号のやり取りができるよう接続されている。なお、ここで示したコンピュータ11のハードウェア構成は一例であり、これ以外の構成のものであってもよい。
【0045】
外部記憶装置11cはHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の静的に情報を記録できる装置である。またGC11dからの信号はCRT(Cathode Ray Tube)やいわゆるフラットパネルディスプレイ等の、使用者が視覚的に画像を認識するモニタ11hに出力され、画像として表示される。入力デバイス11eはキーボードやマウス、タッチパネル等の、ユーザが情報を入力するための一又は複数の機器であり、I/O11fはコンピュータ11が外部の機器と情報をやり取りするための一又は複数のインタフェースである。I/O11fには、有線接続するための各種ポート及び、無線接続のためのコントローラが含まれていてよい。
【0046】
コンピュータ11を機械学習データ生成装置1及び機械学習装置2として機能させるためのコンピュータプログラムは外部記憶装置11cに記憶され、必要に応じてRAM11bに読みだされてCPU11aにより実行される。すなわち、RAM11bには、CPU11aにより実行されることにより、
図2の補正部51として示した各種機能を実現させるためのコードが記憶されることとなる。かかるコンピュータプログラムは、適宜の光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等の適宜のコンピュータ可読情報記録媒体に記録されて提供されても、I/O11fを介して外部のインターネット等の情報通信回線を介して提供されてもよい。
【0047】
図5は、研削加工の加工対象の長さが長く、あるいは加工対象部分の形状が加工途中で大きく変化しているなどの場合における、工作物2の同一箇所における反復加工において、第n回目の研削加工と、第n+1回目の研削加工において得られた反力関連情報であるトルク指令値と、その差分の例を示す図である。
【0048】
この場合、同一反復回において得られたトルク指令値を複数の区間、
図5に示した例では、区間a、区間b及び区間cの3つの区間に区分しており、同様に第n回目のトルク指令値と第n+1回目のトルク指令値との差分もまた、同様の3つの区間に区分している。そして、補正量推定部53には、この区分ごとの差分を入力し、結果として、区分ごとの補正量を得るようにしてよい。
【0049】
最終的な累積補正量は、このようにして得られた区分ごとの補正量の累積値となる。
図4では、各区分は時間に対しなされているが、研削加工は時間の経過に伴って工作物2上を移動する研削工具1によってなされるから、この区分は、工作物2の加工対象箇所を区分するものに他ならない。このように適切に工作物2の加工対象箇所を区分し、区分ごとに補正量を推定するようにすると、研削加工の途中で加工条件が大きく変動するような場合に高い精度で補正量が得られる。
【0050】
例えば、工作物2の加工対象箇所の前半分と後半分で溶接ビード8の大きさが顕著に異なっているなど、加工条件が大きく異なる場合、それらをまとめて補正量の推定を行うよりも、加工条件が概ね等しいと考えられる前半分とあと半分に分けて補正量の推定を行った方が、より正確な補正量の推定が行えるためである。工作物2の加工対象箇所の区分は、一定間隔ごとに区分を行ってもよいし、工作物2の性状に応じて、任意の間隔で区分を行ってもよい。
【0051】
補正量推定部53において用いる機械学習モデルの学習は、上で説明したように、差分を入力とし、補正量を出力するように機械学習モデルを学習できる方法であればどのようなものであってもよく、特に限定されるものではない。よって、以下には、かかる学習方法の一例を記載する。
【0052】
図6は、研削機を利用した機械学習モデルの学習装置101の機能構成を示すブロック図である。なお、同図では、
図2に示した研削システム100と同等の構成には同符号を付し、その重複する説明は省略するものとする。
【0053】
機械学習装置101は、研削システム100と同様の、研削工具1が取り付けられ、反力関連情報取得部30を有する支持機構3と、支持機構3を制御する加工制御部50を有する制御器5に加え、学習器9及び累積補正量測定器10が設けられた構成となっている。
【0054】
累積補正量測定器10は、本例では、支持機構3に取り付けられた研削工具1の研削砥石7の摩耗量を測定する測定器である。この摩耗量の測定は、研削砥石7の表面位置を任意のセンサ、例えば非接触式レーザセンサや、任意の接触式センサによって測定したり、又は、支持機構3を駆動して研削工具1をあらかじめ設置した基準面に押し当て、研削砥石7と基準面が接触した時点の支持機構3の座標を検出したりすることによってなされてよい。すなわち、累積補正量測定器10は、独立した機器であってもよいし、機械学習装置101の既存の1又は複数の機器を利用して構成されるものであってもよい。
【0055】
この時測定されるのは、研削砥石7の摩耗量、すなわち、これまでの研削加工による摩耗の累積値であるから、本例においては、累積補正量を実測していることに他ならない。
【0056】
従って、任意の工作物2に対して反復加工を行う際に、任意の反復回において加工時の反力関連情報の実測値を反力関連情報取得部30により取得するとともに、同じく任意の反復回について、累積補正量の実測値を得ることができる。
【0057】
学習器9は、差分算出部90、機械学習モデル91及び補正量算出部92を有している。差分算出部90は、反力関連情報取得部30により取得された反力関連情報、ここではトルク指令値を入力することにより、異なる反復回において取得された2の反力関連情報の差分を算出することができる。
【0058】
また、補正量算出部92は、異なる反復回において取得された2の累積補正量の実測値の差から、当該反復回の間における加工により生じた補正量を現実に算出することができる。
【0059】
したがって、学習器9は、実測に基づいて得られた差分を入力データ、同じく実測に基づいて得られた補正量を正解データとして機械学習モデル91を繰り返し学習させることにより、機械学習モデル91を学習させることができる。
【0060】
なお、学習器9を実現するハードウェアは特に限定されない。制御器5の一部として学習器9が実現されてもよいし、例えば、
図4に示した一般的なコンピュータ11を学習器9として使用してもよい。また、
図6に示した機械学習装置101の例では、学習器9が直接指示機構3及び累積補正量測定器10と接続され、支持機構3を駆動して研削加工を実行するごとに機械学習モデル91の学習がなされる構成を示したが、これ以外に、反力関連情報と累積補正量の実測値をあらかじめ多数取得して蓄積しておき、後に、独立して構成した学習器9を用いてまとめて学習を行うようにしてもよい。
【0061】
さらに、研削システム100は、工作物2の同一箇所における反復加工を行う際に、加工の完了までに要する反復回数の推定値である推定反復加工回数を推定する構成を有していてもよい。以下、研削システム100において、推定反復加工回数を推定するための構成を記す。
【0062】
<システム概要>
図7にシステム構成の概要を示す。本システムではロボットが研磨作業を行いながら収集した制御トルクデータを用いて,作業対象の状態を推定するモデル生成をする。ロボットの手先には研磨作業を行うためのディスクグラインダを取付ける。ディスクグラインダと手先の間には,ダンパー機構が備わっており,接触してもある程度の外力は吸収される。ロボットコントローラ(以降,RC)は,MotoPlus(注)アプリにより作業時のデータを収集してUSBメモリへ保存する。保存したデータを用いて,PC内の機械学習用ソフトウェアで学習を行う。学習モデルには,入力層,出力層を含めて四層からなるニューラルネットワーク(以降,NN)を用いる。学習したNNモデルをUSBメモリを介して,RCにダウンロードする。RCは作業時の制御トルクデータをこのNNに入力し,その出力結果に基づいて作業状態を推定する。
(注)MotoPlus:RC内部で動作するアプリケーションソフトウェアを開発する機能
【0063】
<作業状態の推定方法>
一般的なセンサレスによる手先力の推定手法では,手先力Fは,動作軌道から推定される制御トルクと実際の制御トルクとの差分である外乱トルクをτdとしたとき,ヤコビアン行列Jを用いて,数1で算出できる。
【0064】
【0065】
ツールを内包した接触作業の状態SはFを入力したシステムとなるため,そのシステム関数をGとすると,数2となる。
【0066】
【0067】
ここで,数式3のように外乱トルクτdを入力としたシステム関数に置き換える。
【0068】
【0069】
【0070】
<技術評価>
本技術を用いた作業状態推定について評価する。推定する作業状態は,研磨の達成状態とする。
【0071】
<作業対象ワーク>
検証する研磨対象ワークを
図8に示す。これは厚さ4mmの鉄板に溶接作業を行って,溶接ビードを恣意的につけており,この溶接ビードの研磨を対象とする。溶接ビードの長さは,約155mm,高さは約2.5mmである。
【0072】
<検証システムの構成>
検証システムのロボット構成を
図9に示す。ロボットには6軸垂直多関節ロボットMOTOMAN-GP7(以降,GP7)を用い,RCにはYRC1000を用いる。GP7の先端にHiKOKI社製の電気ディスクグラインダG10SH5を取付ける。このディスクグラインンダは砥石を取り付けることでその回転面を押し付けて研磨を行うことができる。砥石にはHiKOKI社製のレジノイドフレキシブルトイシを用いる。研磨対象である溶接ビードはロボット前方に設置した台に固定した状態で研磨作業を行う。ディスクグラインダと砥石のスペックを
図10の表1,表2にそれぞれ示す。
【0073】
<研磨作業対象>
図11は研磨動作の概要である。手先をロボット手前側へ引く動作で研磨を実行する。この動作はあらかじめティーチング済みであり,GP7の各軸のうち,3軸(第2,3,5軸)のみを用いた作業となっている。
【0074】
実際に研磨を行いデータを収集する。1個の溶接ビードに対して10回研磨動作を行う。新品の砥石を用いた場合この10回の研磨動作で研磨はおおよそ完了することが経験上分かっている。また,新品の砥石によるデータを取るために10個のワークの研磨を終えたら,砥石を交換する。
図12は,研磨回数2回毎の溶接ビードの外観を示す。研磨する度に,溶接ビードが平らに近づいていっており,10回の研磨で,研磨を達成した状態となる。
【0075】
<評価結果>
50個のワークを10回研磨した計500データを用意した。このうち新品の砥石に交換してから5個目のワークを研磨した計50データを評価データとし,残りの450データで学習を行った。
図13は研磨動作2,4,6,8,10回目における外乱トルクτ
dのデータの一例である。
【0076】
学習により生成したNNモデルから評価データを用いて推定した結果を
図14の表3に示す。これは混合行列と呼ばれる表で,各正解ラベル(今回の場合は研磨回数)に対する推定されたラベルの個数を示している。対角線上の灰色の枠が各ラベルに対して正確に推定できた個数となる。結果,50データのうち,49データが正解のラベルもしくは±1回の範囲で推定できており,おおよそ精度よく推定できていることが言える。
【0077】
推論結果に失敗がある原因として,以下が想定される。今回推定するラベルとして研磨回数を採用したが,実際には研磨を行うごとに砥石が劣化し,同じ研磨回数でも研磨の良し悪しに差が生じて,より多くもしくは小さい研磨回数に誤認した。実際に,同じ砥石の研磨作業を11~15個目のワークまで続けて研磨動作10回を実施した場合の推定結果は
図15の表4のようになり,同じ砥石で研磨を続けるほど,ワークの研磨達成状況に到達していないと推定されることがわかる。これは言い換えると,砥石の劣化により十分に研磨ができていないことが判定可能である。
【0078】
すなわち,研磨動作を1回行う度に研磨状態を推定し,10回目の研磨動作と推定されたら,研磨作業を停止することにより,適切な研磨回数で自動終了させることに応用できると言える。
【0079】
以上の通り説明した構成により、推定反復加工回数を推定する推定反復回数推定部55を構成することができる。
図16は、反復回数推定部55を備えた研削システム100の機能構成を示すブロック図である。本例に係る研削システム100の各構成は基本的には
図2にて示したものと同一であるから、等しい構成には同符号を付して重複する説明は省略する。そして、
図2に示したものとは、制御器5に推定反復回数推定部55が設けられている点のみが相違している。
【0080】
推定反復回数推定部55は本例では、工作物2の同一箇所における推定反復加工回数を推定するものであるから、得られた推定反復加工回数を、現在行っている加工に要する残り時間の推定や、研削砥石7を交換するタイミングの判断に役立てることができる。