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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】遠心式流動場分画装置
(51)【国際特許分類】
   B03B 5/28 20060101AFI20230613BHJP
   B04B 5/00 20060101ALI20230613BHJP
   B04B 7/06 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B03B5/28 A
B04B5/00 Z
B04B7/06 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021569836
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048424
(87)【国際公開番号】W WO2021140935
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020002310
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 健吾
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116445(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/116441(WO,A1)
【文献】特開平1-182736(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108461241(CN,A)
【文献】米国特許第4468269(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03B 5/28
B04B 5/00
B04B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有し、前記回転軸まわりに回転可能に設けられたロータと、
前記ロータを覆うカバーと、
前記カバーの内側に配置され、前記回転軸まわりに前記ロータを覆う保護部材と、
前記保護部材と前記カバーとの間に配置された緩衝部材と、
破断可能に設けられ、前記保護部材を前記カバーに固定する固定部と、を備え、
前記ロータは、前記回転軸が水平方向を向くように配置され、
前記ロータが回転している最中に前記ロータの一部が分解されて前記保護部材に接触した場合に、前記固定部が破断して、前記保護部材および前記緩衝部材が前記ロータの衝撃を受けつつ前記ロータと移動可能とすることにより、前記ロータの運動エネルギーが緩衝される、遠心式流動場分画装置。
【請求項2】
前記カバーは、前記緩衝部材の外周部を設置するための設置部を含み、
前記設置部は、前記回転軸に平行な方向に第1端部を有し、
前記保護部材は、前記回転軸に平行な方向おいて、前記第1端部が位置する側に第2端部を有し、
前記固定部は、前記第1端部と前記第2端部とを接続する1つ以上の接続部材を含む、請求項1に記載の遠心式流動場分画装置。
【請求項3】
前記固定部は、前記カバーの内表面と前記保護部材とを接続するように設けられている、請求項1に記載の遠心式流動場分画装置。
【請求項4】
前記ロータの内周面に沿って設けられ、液体試料が流動する流路部材と、
前記流路部材から漏出する前記液体試料を回収する漏液回収トレイと、を備え、
前記漏液回収トレイは、前記保護部材と前記ロータとの間に配置され、前記回転軸まわりに前記ロータを覆う周壁部を有する、請求項1に記載の遠心式流動場分画装置。
【請求項5】
前記漏液回収トレイを前記カバーに固定するトレイ固定部をさらに備え、
前記トレイ固定部は、前記ロータが回転している最中に前記ロータの一部が分解されて前記漏液回収トレイに接触した場合に、破断するように設けられている、請求項4に記載の遠心式流動場分画装置。
【請求項6】
前記漏液回収トレイの下部には、回収された漏液を排出する配管が接続されており、
前記漏液回収トレイの前記下部側において、前記周壁部の内周面は、前記配管に向けて傾斜する傾斜部を有する、請求項4に記載の遠心式流動場分画装置。
【請求項7】
前記漏液回収トレイは、前記保護部材と一体に構成されている、請求項4に記載の遠心式流動場分画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転可能に設けられたロータを含む遠心式流動場分画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料に含まれる粒子をサイズ及び比重に応じて分級する方法として、流動場分画法(Field Flow Fractionation)が知られている。例えば、欧州特許出願公開第2524733号明細書(特許文献1)には、流路内に液体試料を流入させて当該流路を回転させることにより、液体試料中の粒子を遠心力によって分級する遠心式流動場分画装置の一例が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の遠心式流動場分画装置は、シャフトを中心に回転するロータと、ロータの周囲に設けられたカバーを備える。当該カバーは、逆U字形状を有し、湾曲部が上方を向くようにベース部に固定されている。カバーは、金属材料で構成されており、ロータが分解した場合に、部品の一部が装置外に飛散することを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】欧州特許出願公開第2524733号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠心式流動場分画装置において、分級の下限等の性能を向上させるために、ロータの遠心加速度を高くすると、ロータの運動エネルギーが大きくなる。遠心力によってロータが分解した場合には、エネルギーが大きい状態で分解したロータの一部がカバーに衝突する。このような場合には、カバーが大きく破損することが懸念される。
【0006】
また、エネルギーが大きい状態で分解したロータの一部がカバーに衝突した場合には、ロータの回転力が当該装置を備えたシステム本体に伝達される。特に、ロータの回転軸が水平方向を向く場合には、ロータ回転方向と同じ向きの回転力がシステム本体に伝達されることにより、システム本体が転倒することも起こり得る。
【0007】
本開示は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、安全性を向上させることができる遠心式流動場分画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に基づく遠心式流動場分画装置は、回転軸を有し、上記回転軸まわりに回転可能に設けられたロータと、上記ロータを覆うカバーと、上記カバーの内側に配置され、上記回転軸まわりに上記ロータを覆う保護部材と、上記保護部材と上記カバーとの間に配置された緩衝部材と、破断可能に設けられ、上記保護部材を上記カバーに固定する固定部と、を備える。上記ロータは、上記回転軸が水平方向を向くように配置される。上記ロータが回転している最中に上記ロータの一部が分解されて上記保護部材に接触した場合に、上記固定部が破断して、上記保護部材および上記緩衝部材が上記ロータの衝撃を受けつつ、前記ロータと移動することにより、上記ロータの運動エネルギーが緩衝される。
【0009】
上記構成によれば、ロータの回転軸が水平方向に向くように設置する場合であっても、上記のように固定部を用いることで、通常の状態において保護部材と緩衝部材とをロータに接触しないように固定することができる。
【0010】
さらに、ロータを高速回転させている最中にロータの一部が分解した場合には、当該ロータの一部は、回転した状態を維持しつつ運動エネルギーが高い状態で保護部材に衝突する。この際、保護部材には、ロータの回転力を含む衝撃が入力される。ここで、保護部材を固定する固定部は破断可能に設けられているため、保護部材に入力された衝撃によって固定部が破断する。これにより、ロータからの衝撃によって、保護部材と緩衝部材とが変形しながら回転する。
【0011】
保護部材と緩衝部材とが変形することにより、分解したロータの運動エネルギーを消費することができる。このため、ロータが、保護部材と緩衝部材とをカバーに向けて押し込む場合であっても、カバーが破損することを抑制することができる。
【0012】
また、保護部材と緩衝部材とが回転することにより、分解されたロータの回転力も消費され、ロータの回転力が、カバーに直接入力されることを防止できる。特に、ロータの回転軸が水平方向を向いている場合には、ロータ回転方向と同じ向きの回転力が作用する。このような回転力がカバーに直接入力されることが防止できるため、遠心式流動場分画装置を備えたシステムが転倒することも防止することができる。
【0013】
以上のように、上記遠心式流動場分画装置にあっては、カバーの破損を抑制でき、当該装置を備えたシステムの転倒も防止できるため、安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、安全性を向上させることができる遠心式流動場分画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1に係る分析システムの構成を示す概略図である。
図2】実施の形態1に係る分析システムを模式的に示す概略斜視図である。
図3】実施の形態1に係る分析システムに具備される遠心式流動場分画装置の回転部の分解斜視図である。
図4】実施の形態1に係る遠心式流動場分画装置の模式断面図である。
図5】実施の形態2に係る遠心式流動場分画装置の模式断面図である。
図6】実施の形態3に係る遠心式流動場分画装置の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る分析システムの構成を示す概略図である。図1を参照して、実施の形態1に係る分析システム100について説明する。
【0018】
図1に示すように、分析システム100は、遠心式流動場分画装置1、キャリア貯留部2、送液ポンプ3、ロータリーバルブ4、試料注入装置5、検出器6及びキャリア回収部7を備える。
【0019】
遠心式流動場分画装置1は、流動場分画法(Field Flow Fractionation)を用いて液体試料に含まれる粒子を比重に応じて分級する装置である。
【0020】
キャリア貯留部2には、例えば水又は有機系溶媒などからなるキャリア流体が貯留されている。キャリア流体は、送液ポンプ3によりキャリア貯留部2内から送り出され、ロータリーバルブ4を介して遠心式流動場分画装置1に供給される。試料注入装置5は、ロータリーバルブ4と遠心式流動場分画装置1との間に設けられており、試料注入装置5から試料が注入されたキャリア流体が、液体試料として遠心式流動場分画装置1に供給されるようになっている。ただし、試料注入装置5はポンプ3とロータリーバルブ4との間に設けてもよい。
【0021】
液体試料には、分析対象となる多数の粒子が含まれている。液体試料に含まれる粒子は、遠心式流動場分画装置1において遠心力が付与されることにより分級され、比重に応じて異なるタイミングで遠心式流動場分画装置1から流出する。遠心式流動場分画装置1から順次流出する粒子は、ロータリーバルブ4を介してキャリア流体とともに検出器6へと送られ、当該検出器6において検出された後、キャリア回収部7に回収される。遠心式流動場分画装置1に対する液体試料の供給の開始又は停止は、ロータリーバルブ4を回転させることにより切り替えることができる。
【0022】
図2は、実施の形態1に係る分析システムを模式的に示す概略図である。なお、図2においては、便宜上、後述するカバー30の一部を破線で示している。図2を参照して、分析システム100および遠心式流動場分画装置1について説明する。
【0023】
図2に示すように、分析システム100は、遠心式流動場分画装置1を収容する筐体20を備える。筐体20は、ベース部21と、ベース部21に対して開閉可能に設けれた上部側ケース22とを備える。
【0024】
遠心式流動場分画装置1は、ベース部21に固定されている。遠心式流動場分画装置1は、回転シャフト11と、回転軸L(図3参照)を有する回転部10と、カバー30と、保護部材40と、緩衝部材50と、漏液回収トレイ60と、固定部70と、トレイ固定部75とを含む。
【0025】
回転シャフト11は、水平方向に延在するように設けられている。回転シャフト11は、上記ベース部21に設けられた保持部23に回転可能に保持されている。回転シャフト11には、回転部10が固定されており、回転部10は、回転シャフト11の回転に伴って回転軸L(図3参照)まわりに回転する。
【0026】
回転シャフト11は中空状に形成されており、液体試料は、例えば回転シャフト11の一端部から回転シャフト11内に供給される。回転部10には、分級前の液体試料が導入される導入部12(図3参照)と、分級後の液体試料が導出される導出部13(図3参照)とが設けられている。
【0027】
導入部12及び導出部13は、それぞれ配管(図示せず)を介して回転シャフト11内に連通している。これにより、回転シャフト11内に供給された液体試料は、配管を介して導入部12から回転部10に導入され、当該回転部10において試料液体中の粒子が分級された後、導出部13から配管を介して回転シャフト11に導かれ、検出器6へと送られるようになっている。
【0028】
回転シャフト11には、回転駆動部の一例であるモータ(不図示)が連結されている。このモータの駆動により回転部10を回転させて、回転部10内の液体試料に遠心力を付与することができる。モータの駆動は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む制御部(不図示)によって制御される。ただし、回転部10は、モータ以外の回転駆動部を用いて回転させることも可能である。
【0029】
図3は、実施の形態1に係る分析システムに具備される遠心式流動場分画装置の回転部の分解斜視図である。図3を参照して、遠心式流動場分画装置1の回転部10について説明する。
【0030】
図3に示すように、回転部10は、例えばロータ14、スペーサ15、流路部材16、固定部材17及び楔状部材18などが組み立てられることにより、全体として円筒状の部材として構成されている。
【0031】
ロータ14は、有底円筒形状を有する。ロータ14は、端面壁141と、端面壁141の周縁から回転軸Lに沿って延びる側壁部143を有する。側壁部143は、環状形状を有する。
【0032】
端面壁141は円板状に形成され、その中央部に回転シャフト11を挿通させるための挿通孔142が形成されている。回転シャフト11は、挿通孔142に挿通された状態で端面壁141に固定されている。これにより、上述のように、回転シャフト11の回転に伴って、回転軸Lまわりにロータ14を回転させることができる。
【0033】
ロータ14の内側(側壁部143の内側)の空間には、スペーサ15、流路部材16、固定部材17及び楔状部材18が収容される。スペーサ15、流路部材16及び固定部材17は、それぞれ長尺形状の部材が円弧状に湾曲された形状を有している。スペーサ15、流路部材16及び固定部材17は、ロータ14の内周面に沿って、この順序で積層された状態で固定される。スペーサ15、流路部材16及び固定部材17の曲率半径は、例えば50~200mm程度である。
【0034】
流路部材16は、ロータ14の内周面(特定的には側壁部143の内周面)に沿って設けられている。流路部材16は、液体試料が流動するように設けられている。
【0035】
流路部材16は、例えば厚みが1mm以下の薄板状であり、周方向の両端部が間隔を隔てて対向することにより略C字状に形成されている。流路部材16の内部には、周方向に延びる流路161が形成されている。
【0036】
流路部材16は、ロータ14側に形成された円弧状の外周面162と、回転軸L側に形成された円弧状の内周面163とを有する。外周面162と内周面163との間に、流路161が形成されている。
【0037】
流路部材16の内周面163における周方向の一端部には、流路161への液体試料の流入口164が形成されている。流路部材16の内周面163における周方向の他端部には、流路161からの液体試料の流出口165が形成されている。流入口164から流路161内に流入した液体試料は、流路161内を通って流出口165から流出される。
【0038】
液体試料中の粒子を分級する際には、上記モータの駆動によって回転部10を回転させる。回転部10の回転数を徐々に上昇させ、所定の値に到達させる。所定の値に回転数が維持された状態で流入口164から液体試料が注入される。
【0039】
流路161内に液体試料が一定時間だけ注入された後、ロータリーバルブ4の切替によって液体試料の供給が停止される。一方、回転部10は、回転状態が維持され、これにより、流路161内の液体試料中の粒子が遠心沈降する。その後、ロータリーバルブ4の切替によって液体試料の供給が再開され、一定時間経過後に回転部10の回転数が徐々に下降される。
【0040】
これにより、液体試料中の比重が小さい粒子から順に、流路161内の液体試料の流れに乗って下流側へと送られ、流出口165から順次流出する。このように、流路161内における液体試料中の粒子が遠心力によって分級され、比重に応じて異なるタイミングで流出口165から流出して検出器6へと送られる。
【0041】
固定部材17は、流路部材16よりも厚みが大きい部材であり、例えば厚みが10mm程度に形成されている。固定部材17は、流路部材16と同様に、周方向の両端部が間隔を隔てて対向することにより略C字状に形成されている。固定部材17の周方向の長さは、流路部材16の周方向の長さとほぼ一致している。固定部材17は、流路部材16の内側(回転軸L側)に、流路部材16の内周面163に沿って設けられている。
【0042】
固定部材17における周方向の両端部には、係止具の一例であるボルト19をねじ込むための複数のねじ孔171が形成されている。流路部材16における周方向の両端部には、固定部材17の各ねじ孔171に対向する位置に複数の挿通孔166が形成されている。これにより、各挿通孔166に外側からボルト19を挿通させ、各ねじ孔171にねじ込むことによって、流路部材16を固定部材17に取り付けることができる。ただし、係止具は、ボルト19に限らず、ピンなどの他の部材により構成されていてもよい。
【0043】
また、固定部材17における周方向の両端部には、流路部材16の内周面163に形成された流入口164及び流出口165に対向する位置に、それぞれ貫通孔172が形成されている。固定部材17の内周面には、各貫通孔172に連通するように導入部12及び導出部13が取り付けられている。これにより、導入部12から導入された液体試料は、一方の貫通孔172を介して流入口164から流路161内に流入し、流路161内を周方向に流通した後、流出口165から他方の貫通孔172及び導出部13を介して導出される。
【0044】
流路部材16内の流路161は、キャリア流体の種類や分析の条件などに応じて異なる高さに設定される。そのため、流路部材16は、流路161の高さに応じて異なる厚みに形成され、複数種類の流路部材16の中から最適な流路部材16が選択されて固定部材17に取り付けられる。
【0045】
上記のようにして流路部材16が取り付けられた固定部材17は、ロータ14の内側の空間に挿入され、ロータ14との間に流路部材16を挟み込むようにしてロータ14の内周面に沿って固定される。このとき、略C字状の固定部材17の両端部間に楔状部材18が取り付けられることにより、当該両端部を拡げる方向に力が加えられる。
【0046】
これにより、C字状の固定部材17がロータ14の内周面側に強く押し当てられ、流路部材16がロータ14側に押圧されて固定される。液体試料中の粒子を分級させる際には、ロータ14が高速で回転されることにより、流路161内が高圧(例えば1MPa程度)となり、流路161の内外の圧力差が大きくなる。本実施の形態においては、固定部材17とロータ14との間に流路部材16を挟持することにより、流路部材16の外周面162及び内周面163が上記圧力差で流路161側とは反対側に変形することを防止できる。
【0047】
本実施の形態では、流路部材16とロータ14との間にスペーサ15が挟持されるようになっている。スペーサ15の材質は、特に限定されるものではないが、例えばPET(Polyethylene Terephthalate)などの樹脂又は金属により形成されている。スペーサ15は、流路部材16よりも若干長く形成されている。スペーサ15の周方向の両端部には、流路部材16の各挿通孔166に対向する位置に長孔151が形成されている。
【0048】
流路部材16の各挿通孔166に挿通されたボルト19の頭部は、スペーサ15の各長孔151内に収容される。各長孔151は、周方向に延びるように形成されている。
【0049】
各長孔151内に各ボルト19の頭部を収容させた状態で、楔状部材18により固定部材17の両端部が拡げられて、固定部材17がロータ14の内周面側に強く押し当てられる。この場合には、各長孔151内で各ボルト19の頭部が周方向にスライドしながら、固定部材17とロータ14との間にスペーサ15及び流路部材16が挟持される。
【0050】
スペーサ15は、例えば厚みが1mm以下の薄板状であり、流路部材16の厚みに応じて異なる厚みのものが選択される。すなわち、スペーサ15の厚みと流路部材16の厚みとの合計値がほぼ一定となるように、最適な厚みを有するスペーサ15が選択される。また、スペーサ15は、ロータ14の内周面の損傷を防止する機能も有している。ただし、スペーサ15は省略することも可能である。
【0051】
図4は、実施の形態1に係る遠心式流動場分画装置の模式断面図である。図2および図4を参照して、遠心式流動場分画装置1の詳細な構成について説明する。
【0052】
図2および図4に示すように、カバー30は、回転部10(ロータ14)を覆うように設けられている。カバー30は、内部にロータ14を収容する。カバー30は、略箱形形状有し、ステンレス鋼等の金属部材によって構成されている。カバー30には、水平方向に回転シャフト11が貫通する。
【0053】
カバー30は、筐体20が有するベース部21に固定されている。本体部31と、閉塞部材32と、設置部33とを含む。本体部31は、水平方向の一方側に開口するように設けられている。閉塞部材32は、本体部31の開口を閉塞するように設けられている。設置部33は、本体部31に設けられており、本体部31の内表面から上下方向に突出するように設けられている。設置部33は、緩衝部材50の外周部を設置するための部位である。設置部33は、回転軸Lに平行な方向に第1端部33aを有する。
【0054】
なお、設置部33は、上記のように本体部31の内表面から上下方向に突出する構成に限定されず、緩衝部材50の外周部を当接可能に設けられる限り、適宜の構成を採用することができる。
【0055】
保護部材40は、カバー30の内側に配置され、回転軸L回りにロータ14を覆う。保護部材40は、ロータ14の径方向外側に配置されている。保護部材40は、環状形状を有し、ロータ14から離れて配置されている。より特定的には、保護部材40は、ロータ14の外周に圧入されたリング部材90から離れて配置されている。リング部材90は、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の樹脂部材によって構成されている。
【0056】
保護部材40は、回転軸に平行な方向において、上記第1端部33aが位置する側に第2端部40aを有する。保護部材40は、金属部材によって構成されている。
【0057】
緩衝部材50は、保護部材40とカバー30との間に配置されている。緩衝部材50は、環状形状を有する。緩衝部材50は、たとえば、発泡スチロール等の樹脂部材で構成されている。緩衝部材50は、カバー30(より特定的には設置部33)と保護部材40によって挟持されている。
【0058】
緩衝部材50は、ロータ14が回転している最中にロータ14の一部が分解されて保護部材40に接触した場合に、後述する固定部70が破断することで、ロータ14の衝撃を受けつつ移動可能となる。
【0059】
固定部70は、保護部材40をカバー30に固定する。固定部70は、上記設置部33の第1端部33aと上記保護部材40の第2端部40aとを接続する接続部材71を有する。接続部材71は、締結部材によって第1端部33aおよび第2端部40aに締結されている。
【0060】
固定部70は、複数設けられていてもよい。この場合には、複数の固定部70は、回転軸Lまわりに間隔をあけて設けられている。これにより、保護部材40を安定して固定することができる。
【0061】
固定部70の各々は、破断可能に設けられている。固定部70の各々は、ロータ14が回転している最中にロータ14の一部が分解されて保護部材40に接触した場合に、破断するように設けられている。
【0062】
一般的に、上記導入部12または導出部13が緩んだり、流路部材16に隙間ができたりした場合には、液体試料が、流路部材16から漏出することが起こり得る。ここで、本実施の形態においては、流路部材16から漏出する液体試料を回収する漏液回収トレイ60が設けられている。このため、液体試料が漏出した場合であっても、漏液回収トレイ60によって液体試料を回収し、液体試料が飛散することを防止することができる。液体試料は、緩衝部材50を劣化させる場合がある。このため、漏液回収トレイ60によって液体試料を回収することにより、緩衝部材50の劣化を抑制することができる。
【0063】
漏液回収トレイ60は、円板形状を有する板状部61と、周壁部62とを有する。板状部61は、回転軸Lに直交する方向(特定的には上下方向)に沿って延在する。板状部61の中央には、回転シャフト11が貫通する貫通孔61aが設けられている。周壁部62は、板状部61の周縁から回転軸L方向に沿って延びる。
【0064】
周壁部62は、保護部材40とロータ14(より特定的にはリング部材90)との間に配置され、回転軸Lまわりにロータ14を覆う。周壁部62は、ロータ14から離れて配置されている。
【0065】
漏液回収トレイ60の下部には、流路部材16から漏出した液体試料を排出する配管80が接続されている。具体的には、板状部61側に位置する周壁部62の根元部に配管80が接続されている。
【0066】
漏液回収トレイ60の下部側において、周壁部62の内周面62bは、配管80向けて傾斜する傾斜部を有する。これにより、液回収トレイ60の下部側において周壁部62の内側に回収された漏液を効率よく配管80に導入することができる。
【0067】
漏液回収トレイ60は、トレイ固定部75によってカバー30に固定されている。トレイ固定部75は、上述の固定部70とほぼ同様の構成を有する。トレイ固定部75は、上記設置部33の第1端部33aと、漏液回収トレイ60の板状部61とを接続部材によって接続する。当該接続部材は、締結部材によって第1端部33aと板状部61とに締結される。トレイ固定部75は、固定部70同様に破断可能に設けられている。
【0068】
上記の遠心式流動場分画装置1によれば、ロータ14の回転軸Lが水平方向に向く場合であっても、上記のように固定部70を用いることで、通常の状態において保護部材40と緩衝部材50とをロータ14に接触しないように固定することができる。
【0069】
さらに、ロータ14を高速回転させている最中にロータ14の一部が分解した場合には、当該ロータ14の一部は、回転した状態を維持しつつ運動エネルギーが高い状態で保護部材40に衝突する。この際、保護部材40には、ロータ14の回転力を含む衝撃が入力される。ここで、保護部材40を固定する固定部70は破断可能に設けられているため、保護部材40に入力された衝撃によって固定部70が破断する。これにより、保護部材40および緩衝部材50がロータ14の衝撃を受けつつ移動する。具体的には、保護部材40および緩衝部材50は、ロータ14からの衝撃によって変形しながら回転する。
【0070】
保護部材40と緩衝部材50とが変形することにより、分解したロータ14の運動エネルギーが緩衝(消費)される。このため、ロータ14が、保護部材40と緩衝部材50とをカバー30に向けて押し込む場合であっても、カバー30が破損することを抑制することができる。
【0071】
また、保護部材40と緩衝部材50とが回転することにより、分解されたロータ14の回転力も消費され、ロータ14の回転力が、カバー30に直接入力されることを防止できる。特に、ロータ14の回転軸Lが水平方向を向いている場合には、ロータ回転方向と同じ向きの回転力が作用する。このような回転力がカバー30に直接入力されることが防止できるため、カバー30が固定された分析システム100が転倒することも防止できる。
【0072】
このように、上記遠心式流動場分画装置1にあっては、カバー30の破損を抑制でき、当該装置を備えた分析システム100の転倒も防止できるため、安全性を向上させることができる。
【0073】
さらには、ロータ14の周囲に漏液回収トレイ60が設けられることにより、高速回転によってロータ14が分解された場合には、漏液回収トレイ60によってもロータ14の衝撃を吸収することができる。
【0074】
また、漏液回収トレイ60に衝撃が入力された場合には、トレイ固定部75が破断し、漏液回収トレイ60も、ロータ14の回転力によって回転する。これにより、漏液回収トレイ60によっても、ロータ14の回転力を消費することができ、分析システム100が転倒することをさらに防止できる。
【0075】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2に係る遠心式流動場分画装置の模式断面図である。図5を参照して、実施の形態2に係る遠心式流動場分画装置1Aについて説明する。
【0076】
図5に示すように、実施の形態2に係る遠心式流動場分画装置1Aは、実施の形態1に係る遠心式流動場分画装置1と比較した場合に、漏液回収トレイ60が省略されている点において相違する。その他の構成についてはほぼ同様である。
【0077】
このような場合であっても、実施の形態2に係る遠心式流動場分画装置1Aにあっては、実施の形態1に係る遠心式流動場分画装置1とほぼ同様の効果が得られる。
【0078】
(実施の形態3)
図6は、実施の形態3に係る遠心式流動場分画装置の模式断面図である。図6を参照して、実施の形態3に係る遠心式流動場分画装置1Cについて説明する。
【0079】
図6に示すように、実施の形態3に係る遠心式流動場分画装置1Cは、実施の形態1に係る遠心式流動場分画装置1と比較した場合に、固定部70Cの構成が主として相違する。その他の構成については、ほぼ同様である。
【0080】
固定部70Cは、カバー30の内表面と保護部材40とを接続するように設けられている。固定部70Cは、たとえば、回転軸Lと平行な方向沿って延びるように設けられている。
【0081】
また、保護部材40には、係合部41が設けられている。係合部41は、緩衝部材50に向けて突出する突起部によって構成されている。緩衝部材50には、上記係合部41に係合される被係合部51を有する。被係合部51は、溝部によって構成されている。上記係合部41が被係合部51に係合することにより、保護部材40が緩衝部材50から分離することを抑制することができる。また、回転軸方向における保護部材40および/または緩衝部材50の位置決めを容易に行なうことができる。
【0082】
なお、係合部41が突起部によって構成されており、被係合部51が溝部によって構成されている場合を例示して説明したが、これに限定されない。係合部41が溝部によって構成されており、被係合部51が溝部に係合する突起部によって構成されていてもよい。
【0083】
また、設置部33と緩衝部材50とにおいても上述と同様の係合部、および被係合部が設けられていてもよい。この場合には、緩衝部材50の位置決めを容易に行なうことができる。
【0084】
以上のように構成される場合であっても、実施の形態3に係る遠心式流動場分画装置1Cにあっては、実施の形態1に係る遠心式流動場分画装置1とほぼ同様の効果が得られる。
【0085】
なお、上述した実施の形態3においては、漏液回収トレイ60が設けられている場合を例示して説明したが、これに限定されず、漏液回収トレイ60が省略されてもよい。
【0086】
また、実施の形態1、3においては、漏液回収トレイ60が、保護部材40と別体で構成される場合を例示して説明したが、これに限定されず、保護部材40と一体で構成されていてもよい。この場合には、トレイ固定部を省略し、部品点数を削減することができる。
【0087】
[付記]
以上のように、本実施の形態は以下のような開示を含む。
【0088】
[構成1]
回転軸を有し、上記回転軸まわりに回転可能に設けられたロータと、
上記ロータを覆うカバーと、
上記カバーの内側に配置され、上記回転軸まわりに上記ロータを覆う保護部材と、
上記保護部材と上記カバーとの間に配置された緩衝部材と、
破断可能に設けられ、上記保護部材を上記カバーに固定する固定部と、を備え、
上記ロータは、上記回転軸が水平方向を向くように配置され、
上記ロータが回転している最中に上記ロータの一部が分解されて上記保護部材に接触した場合に、上記固定部が破断して、上記保護部材および上記緩衝部材が上記ロータの衝撃を受けつつ、移動可能となることにより、上記ロータの運動エネルギーが緩衝される、遠心式流動場分画装置。
[構成2]
上記カバーは、上記緩衝部材の外周部を設置するための設置部を含み、
上記設置部は、上記回転軸に平行な方向に第1端部を有し、
上記保護部材は、上記回転軸に平行な方向おいて、上記第1端部が位置する側に第2端部を有し、
上記固定部は、上記第1端部と上記第2端部とを接続する1つ以上の接続部材を含む、構成1に記載の遠心式流動場分画装置。
[構成3]
上記固定部は、上記カバーの内表面と上記保護部材とを接続するように設けられている、構成1に記載の遠心式流動場分画装置。
[構成4]
上記ロータの内周面に沿って設けられ、液体試料が流動する流路部材と、
上記流路部材から漏出する上記液体試料を回収する漏液回収トレイと、を備え、
上記漏液回収トレイは、上記保護部材と上記ロータとの間に配置され、上記回転軸まわりに上記ロータを覆う周壁部を有する、構成1から構成3のいずれかに記載の遠心式流動場分画装置。
[構成5]
上記漏液回収トレイを上記カバーに固定するトレイ固定部をさらに備え、
前記トレイ固定部は、前記ロータが回転している最中に前記ロータの一部が分解されて前記漏液回収トレイに接触した場合に、破断するように設けられている、構成4に記載の遠心式流動場分画装置。
[構成6]
上記漏液回収トレイの下部には、回収された漏液を排出する配管が接続されており、
上記漏液回収トレイの上記下部側において、上記周壁部の内周面は、上記配管に向けて傾斜する傾斜部を有する、構成5に記載の遠心式流動場分画装置。
[構成7]
上記漏液回収トレイは、上記保護部材と一体に構成されている、構成5または6に記載の遠心式流動場分画装置。
【0089】
以上、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1,1A,1C 遠心式流動場分画装置、2 キャリア貯留部、3 送液ポンプ、4 ロータリーバルブ、5 試料注入装置、6 検出器、7 キャリア回収部、10 回転部、11 回転シャフト、12 導入部、13 導出部、14 ロータ、15 スペーサ、16 流路部材、17 固定部材、18 楔状部材、19 ボルト、20 筐体、21 ベース部、22 上部側ケース、23 保持部、30 カバー、31 本体部、32 閉塞部材、33 設置部、33a 第1端部、40 保護部材、40a 第2端部、41 係合部、50 緩衝部材、51 被係合部、60 液回収トレイ、61 板状部、61a 貫通孔、62 周壁部、62b 内周面、70,70C 固定部、71 接続部材、75 トレイ固定部、80 配管、90 リング部材、100 分析システム、141 端面壁、142 挿通孔、143 側壁部、151 長孔、161 流路、162 外周面、163 内周面、164 流入口、165 流出口、166 挿通孔、171 ねじ孔、172 貫通孔、L 回転軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6