(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20230613BHJP
B32B 33/00 20060101ALI20230613BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230613BHJP
E04F 13/18 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B33/00
B32B27/00 E
E04F13/18 C
(21)【出願番号】P 2022038669
(22)【出願日】2022-03-11
【審査請求日】2023-03-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜井 玲子
(72)【発明者】
【氏名】西根 祥太
(72)【発明者】
【氏名】西垣 亮介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昂秀
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/201105(WO,A1)
【文献】特開2017-047593(JP,A)
【文献】特開2022-025625(JP,A)
【文献】特開2022-025616(JP,A)
【文献】国際公開第2021/149480(WO,A1)
【文献】特開2021-024102(JP,A)
【文献】特開平06-312495(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0025050(KR,A)
【文献】国際公開第2022/054644(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/054645(WO,A1)
【文献】特開2023-043665(JP,A)
【文献】特開2023-049868(JP,A)
【文献】特開2023-051325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
E04F 13/00-13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、装飾層及び艶消層を順に有し、
前記艶消層の前記装飾層とは反対側の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、
前記表面における測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像において、
RSm(曲線要素の平均長さ)が20.00μm以上であり、かつ
前記測定画像における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.00以下である、
積層体。
【請求項2】
前記測定画面において、輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)が、5.00μm以上である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記測定画面において、輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、3.00μm以下である請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記不規則なシワが、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、前記複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部とにより構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記艶消層が、樹脂及びシワ形成安定剤を含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記シワ形成安定剤が前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とする平均粒子径を有し、前記シワ形成安定剤を、前記樹脂100質量部に対して0.5質量部以上で含むものである請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材がシート状である請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記艶消層が、前記基材の一方の面の全面にわたって設けられる請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記表面形状の60°グロス値が、20.0以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
JIS K7361-1:1997に準拠して測定した全光線透過率が、20%以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
化粧シートとして用いられる請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装用部材;外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材;窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材;また、箪笥、棚、机等の一般家具;食卓、流し台等の厨房家具;家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板;車両の内装又は外装用部材等の表面を装飾し、保護するための物品として、またいわゆる化粧材又は化粧シート等が用いられている。そして、かかる化粧材としては、例えば、所望の機能を有する表面層を有するものが用いられている。
【0003】
これらの用途に用いられる化粧材には、その意匠性を向上させるために艶消効果(「マット効果」とも称される。)を用いて質感を向上させる手法が汎用される。艶消効果を用いた化粧材として、例えば、特許文献1には、基材シートの片面に絵柄層及び隠蔽層を有し、もう一方の面にマット層、グロス層等の艶調整層を有する化粧シートが提案されている。特許文献1の化粧シートでは、艶調整層のマット層とグロス層が有する光沢の差により、絵柄層、隠蔽層を引き立てるという意匠効果が得られており、その実施例では、全面に設けられるマット層には樹脂分100重量部あたりに球形状アルミナ10重量部及び炭酸カルシウム40重量部の合計50重量部の艶消剤を添加したマットインキが用いられている。
【0004】
また特許文献2には、基材上に、印刷層と透明樹脂層とを順に有し、該透明樹脂層の最表面にエンボス模様を施した化粧材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-062081号公報
【文献】特開2011-073207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
艶消効果により質感を向上させる手法としては、上記特許文献1のように艶消剤(「matting agent」、「マット剤」とも称される。)を用い、それ自体が有する光拡散効果により艶消効果を得る手法、上記特許文献2のようにエンボス加工を施すことで最表面に凹凸形状を形成する手法等が主に挙げられる。
しかし、特許文献1のように艶消剤を用いる場合、艶消効果をより優れたものとするにはその使用量を増加させる必要があるが、その使用量が多くなるにつれて、艶消剤が塗膜から脱落し、かつ塗膜を傷つけることで耐擦傷性が低下し、また艶消剤の欠落による艶変化により傷が目立ちやすくなる、あるいは艶消剤と樹脂との界面の微小間隙に汚染物質が浸透する、さらに艶消剤自体に汚染物質が吸着することで耐汚染性が低下するなどの理由により、表面特性が低下する傾向にある。他方、表面特性の低下を抑制するために使用量を少なくすると艶消効果が低下する傾向にあり、表面特性と艶消効果とは二律相反の関係にある。そのため、艶消剤を用いたマット効果には限界がある。
また、特許文献2のようにエンボス加工を用いる場合、エンボスの版の作製は多大な手間がかかり容易なことではなく、さらに所望の柄ごとに版を作製する必要が生じる。そのため、顧客の需要の多様性に十分に対応しやすい手法であるとはいえない。
【0007】
ところで、顧客の需要の多様性は多岐にわたっており、上記のような視覚的な艶消効果だけでなく、触感表現にも求められるようになっている。例えば、上記特許文献1のような艶消剤を用いる場合、その使用量を増加させることにより、艶消剤の輪郭が化粧シートの表面に表出することで、多少ざらつきを感じさせる触感が発現する場合がある。また特許文献2のようにエンボス加工を用いる場合、エンボス版により賦型される表面の凹凸形状に起因する触感が発現する場合がある。しかし、いずれの場合も触感の表現に着目するものではなく、触感の点で十分な表現ができているとはいえない状況にある。すなわち、従来の化粧シート、化粧材は、優れた艶消効果と触感とを両立し得るものとはいえなかった。本開示においては、触感の中でも特に「手触りが良い触感」、すなわち「手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感」に着目した。
【0008】
本開示は、優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつ手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感に優れる積層体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本開示は、
基材、装飾層及び艶消層を順に有し、
前記艶消層の前記装飾層とは反対側の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、
前記表面における測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像において、
RSm(曲線要素の平均長さ)が20.0μm以上であり、かつ
前記測定画像における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.0以下である、
積層体、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつ手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感に優れる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の積層体の一実施形態を示す平面視における模式図である。
【
図2】本開示の積層体の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】本開示の積層体の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】実施例1で得られた積層体の表面の1箇所の測定領域(縦204μm×横272μm)の測定画面である。
【
図5】実施例2で得られた積層体の表面の1箇所の測定領域(縦204μm×横272μm)の測定画面である。
【
図6】比較例1で得られた積層体の表面の1箇所の測定領域(縦204μm×横272μm)の測定画面である。
【
図7】実施例1で得られた積層体の表面の9箇所の測定領域を連結した測定画面である。
【
図8】実施例2で得られた積層体の表面の9箇所の測定領域を連結した測定画面である。
【
図9】比較例1で得られた積層体の表面の9箇所の測定領域を連結した測定画面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[積層体]
以下、本開示の積層体について説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、実施例の数値は数値範囲の上下限に用い得る数値である。
【0013】
本開示の積層体は、
基材、装飾層及び艶消層を順に有し、
艶消層の装飾層とは反対側の表面(積層体は艶消層側が使用者に視認できるように使用する使用態様を考慮し、以後、艶消層の装飾層とは反対側の面(艶消層の基材とは反対側の面でもある。)のことを単に「表面」と称することがある。)が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、
前記表面における測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像において、
RSm(曲線要素の平均長さ)が20.00μm以上であり、かつ
前記測定画像における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.00以下である、というものである。
【0014】
〔表面形状について〕
まず、本開示の積層体の艶消層が有する表面の不規則なシワにより構成される凹凸形状(以下、単に「表面形状」とも称する。)の性状について説明する。
本開示の積層体の表面形状は、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有しており、表面における測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像において、RSm(曲線要素の平均長さ)が20.00μm以上であり、かつ前記測定画像における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.00以下という表面性状を有する。すなわち、本開示の積層体は、不規則なシワにより構成される凹凸形状が存在することにより、上記RSm(曲線要素の平均長さ)及び基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)の表面性状が、所定の範囲内のものとなる。
【0015】
これらのRSm(曲線要素の平均長さ)、また後述する輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)、輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)は、二次元表面性状パラメータ、基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)は三次元表面性状パラメータとも称され、表面形状を二次元的、又は三次元的に解析した性状であり、その多少によって艶消効果の視認性及び質感、また触感は変わり得る。
本開示の積層体は、その表面形状が、RSm(曲線要素の平均長さ)が20.0μm以上であり、かつ基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.0以下であるという表面性状を有することにより、優れた艶消効果の視認性及び質感を発現するとともに、触感として手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感」を発現するものとなる。以下、「手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感」のことを、「滑るような触感」と称することがある。また、「艶消効果の視認性及び質感」については、以下単に「艶消効果」と称することがある。
【0016】
「手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような」触感は官能的な表現であるが、本明細書における「手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような」触感は一般的に「手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑る」と感じる触感であるもの全てが包含される。より具体的には、手を動かしながら指の腹で触った際に、すべすべとして滑らかな面を触れた際に感じる触感を意味する。なお、「滑るような触感」と似たような触感としては「さらさらした触感」が挙げられるが、「さらさらした触感」はより乾いた物の表面の触感に近く、「滑るような触感」は「すべすべとして滑らかな面」の触感である点で相違する。また、「滑るような触感」と似たような触感としては「しっとりした触感」も挙げられるが、「しっとりした触感」はより湿った物の表面の触感に近く、若干の「引っ掛かり」を感じさせる点で、「滑るような触感」とは相違する。
【0017】
「滑るような触感」を有するものとしては、その表面の加工、また後述する布地であればその織り方等によってかわり得るため一概にはいえないが、例えば、表面がコートされたコート紙ではない上質紙、細番手から極細番手といわれる60~120番手程度の細めの糸を用いたオックスフォード生地等の布地、絹、綿等の天然繊維の他、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維を用いて繻子織したサテン生地、ベビースキン等が挙げられる。また、例えばシルク、テンセル(「リヨセル」とも称される。)等の天然繊維の生地等の布地;真鍮、金、銀、銅、アルミ、スチール、ステンレス等の金属、中でもヘアライン加工、ヘアライン加工、シルキーブラスト加工等の各種表面加工されたもの;等も、「滑るような触感」を有し得るものとして挙げられる。なお、金属におけるヘアライン加工、シルキーブラスト加工等の表面加工については、加工の度合い等によって「さらさら」な触感ではなくなるものも存在するが、そのような加工がされたものが含まれないことはいうまでもない。また、他の布地等については、使用する糸の太さ、織り方等によって「滑るような触感」ではなくなるものも存在するが、そのようなものが含まれないことはいうまでもない。
よって、本開示の積層体は、これらの布地、金属の表面等の意匠を表現したいような用途に好ましく用いられる。この場合、本開示の積層体は、所望の意匠を表現するよう、布地、金属等の各種材質の表面の模様を有する装飾層を有することが好ましい。本開示の積層体が有する装飾層の詳細については、後述する。
【0018】
本開示において、積層体の表面が有する表面性状は、表面における測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像から解析される性状であり、任意の9箇所の測定領域において測定した測定値の平均値とする。また、任意の9箇所については、互いに離れた箇所としてもよいし、互いに近接又は接していてもよい。
また、1箇所の測定領域におけるこれらの表面性状のうち、RSm(曲線要素の平均長さ)、輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)、及び輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)の二次元表面性状パラメータは、前記1箇所の測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像において、縦方向に8の断面、横方向に7の断面について測定して得られた各種表面性状の平均値とする。
【0019】
以上のようにして測定された、表面性状は、その積層体の表面形状が有する表面性状と捉えることができる。このようにして測定された表面性状が、上記の所定の範囲を満足することで、艶消効果とともに滑るような触感が得られているからである。
【0020】
(RSm(曲線要素の平均長さ))
上記測定により得られる、RSm(曲線要素の平均長さ)は、JIS B0601:2013に準拠して測定される、輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)である。本開示の積層体の表面における輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)は、20.00μm以上である。RSmが20.00μm未満であると、艶消効果及び滑るような触感、とりわけ滑るような触感が得られない。
【0021】
RSm(曲線要素の平均長さ)は、輪郭曲線の横方向のパラメータであり、基準長さにおける輪郭曲線要素の長さの平均である。RSm(曲線要素の平均長さ)の数値が小さいほど凸部の幅が狭くなり、より幅が狭い凸部を有する傾向があること示す指標となる。そのため、RSm(曲線要素の平均長さ)が20.00μm未満と小さくなると、より幅が狭い凸部を多く有しやすくなるので、ざらつきが目立つようになり、滑るような触感が得られなくなる。これを考慮すると、RSm(曲線要素の平均長さ)は、好ましくは30.00μm以上、より好ましくは40.00μm以上、更に好ましくは45.00μm以上である。
【0022】
また、RSm(曲線要素の平均長さ)の数値が大きいほど凸部の幅が広くなり、表面形状は幅が広い凸部を多く有することとなり、手の動きに対して平面上で引っ掛かりが目立ちやすくなる。これを考慮すると、RSm(曲線要素の平均長さ)の上限としては、好ましくは130.00μm以下、より好ましくは120.00μm以下、更に好ましくは115.00μm以下である。RSm(曲線要素の平均長さ)が上記範囲内であると、幅が適度な凸部を多く有する傾向となることから、滑るような触感とともに、艶消効果が向上する。
なお、本明細書におけるRSm(曲線要素の平均長さ)の測定にあたり、カットオフ値は0.8mmである。
【0023】
(Sku(クルトシス))
上記測定により得られる、Sku(クルトシス)は、ISO25178-2:2012に準拠して測定される、Sku(クルトシス)であり、平均面からの高さ分布の尖りの度合いを示す指標となるものである。Sku(クルトシス)は、通常測定領域の全面に対して測定される三次元表面性状パラメータであり、当該全面における平均面からの高さ分布の尖り具合を示すものであるが、本開示の積層体においては、Sku(クルトシス)のうち、測定画像における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)に着目している。すなわち、基準面(上記測定領域の全面に対する平均面ともいえる。)以上の高さにおける凸部による、高さ分布の尖りの度合いに着目している。積層体の表面を手で触った際、基準面よりも上にない凸部は、手と直接触れることはなく、触感には寄与しにくい。そこで、本開示の積層体では、その表面を手で触った際に直接触れることになる凸部である、基準面よりも上にある凸部の形状に着目することで、より確実に滑るような触感を得ることが可能となる。なお、本明細書では、「基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)」を単に「Sku(クルトシス)」とも称する。
【0024】
本開示の積層体の表面における、基準面以上の高さにおける、前記基準面からの高さ分布の尖りの度合いを示すSku(クルトシス)は、4.0以下である。Sku(クルトシス)が4.0を超えると、艶消効果及び滑るような触感、とりわけ滑るような触感が得られない。
【0025】
Sku(クルトシス)は、3であると、表面形状は表面の全面に対する基準面に対して対称(正規分布)となり、Skuが3を超えると高さ分布が尖った形状を有し、Skuが3未満となると高さ分布がつぶれる形状を有する傾向にあると把握できるという測定値である。よって、基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.0以下であるということは、基準面以上の高さを有する凸部について、高さ分布(凸部の頂部近傍)が、緩やかに尖った形状を有するもの(Sku(クルトシス)が3超4.0以下)、又はつぶれた形状を有するもの(Sku(クルトシス)が3未満)が存在していることを意味する。表面を手で触った際に直接触れることになる凸部がこのような形状を有することで、手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感が得られることとなる。
他方、Sku(クルトシス)が4.0を超えると、基準面以上の高さを有する凸部が、高さ分布(凸部の頂部近傍)が、尖った形状を有するものとなるため、ざらつきが目立つようになり、滑るような触感が得られなくなる。
【0026】
本開示の積層体は、既述のようにRSm(曲線要素の平均長さ)とともに、Sku(クルトシス)が所定の数値範囲内となることで、優れた艶消効果及び滑るような触感が得られる。すなわち、本開示の積層体は、表面の不規則なシワにより構成される凹凸形状として、幅が適度であるとともに、頂部近傍が緩やかに尖った形状又はつぶれた形状の凸部の形状を多く有する形状を採用することにより、優れた艶消効果及び滑るような触感を有するものとなる。
【0027】
Sku(クルトシス)が大きくなるほど、凸部の頂部近傍がより鋭い形状となるため、ざらつきが目立つようになり、滑るような触感が低下する。これを考慮すると、既述のRSm(曲線要素の平均長さ)との関係で、Sku(クルトシス)は、好ましくは3.9以下、より好ましくは3.7以下、更に好ましくは3.5以下である。
他方、Sku(クルトシス)が小さくなるほど、凸部の頂部近傍がより緩やかな形状となるため、ざらつきが抑制され、滑るような触感が向上する。これを考慮すると、Sku(クルトシス)の下限としては、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは2.2以上である。
【0028】
本開示の積層体の表面形状は、既述のように、特定のRSm(曲線要素の平均長さ)とSku(クルトシス)とを有するものであり、RSm(曲線要素の平均長さ)の規定による凸部の幅が適度であるという特徴と、Sku(クルトシス)の規定による凸部の頂部近傍の形状が緩やかに尖った形状又はつぶれた形状であるという特徴と、を兼ね備えたものとなる。
本開示の積層体の表面形状は、頂部近傍が緩やかに尖った形状又はつぶれた形状である凸部を、適度な幅で有することから、表面を指の腹で触れた際に、適度な接触頻度で、緩やかに尖った形状又はつぶれた形状の先端形状を感じることができる。このような感覚が、手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感につながるものと考えられる。また、そのような凸部が存在することで、相対的に凹部を有することとなるため、艶消効果も得られているものと考えられる。艶消効果の発現についての詳細は、後述する。
【0029】
本開示の積層体の表面形状は、後述する
図1に示される平面視にて視認される不規則なシワにより構成される凹凸形状を有している。本開示の積層体の表面形状について、RSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)、好ましくは後述するRz(最大高さ)、Ra(算術平均粗さ)は、RSm(曲線要素の平均長さ)を有することで特定の数値範囲内となりやすくなる。他方、不規則なシワにより構成される凹凸形状は、特定の数値範囲内のRSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)、好ましくは後述するRz(最大高さ)、Ra(算術平均粗さ)を有することで、形成しやすくなる。このように、RSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)等と不規則なシワにより構成される凹凸形状とは、表裏一体の関係にあるといえる。そして、このような表面形状を有することで、滑るような触感とともに艶消効果が向上することとなる。
【0030】
積層体の表面形状において、上記特定の数値範囲内のRSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)、好ましくは後述するRz(最大高さ)及びRa(算術平均粗さ)とするためには、既述ように、
(1)艶消層の表面に不規則なシワにより構成される凹凸形状を形成する、
ことが肝要である。そのためには、
(2)艶消層形成用の樹脂組成物の組成配合、特に重合性モノマー及び重合性オリゴマーの種類、官能基数、分子量、シワ形成安定剤の有無、シワ形成安定剤を使用する場合はシワ形成剤の粒径及び含有量を適正化する、
(3)艶消形成用の樹脂組成物の照射条件、特に艶消層の表面部分を硬化収縮させ得る100nm以上380nm以下の波長光の波長、積算考量、紫外線出力密度等を適正化する、
(4)上記の他、基材の種類及び厚さ、艶消層の厚さ等を適正化する、
ことが好ましい。これらを適正化することにより、本開示の積層体の表面形状について、RSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)を上記特定の数値範囲内とし、好ましくは後述するRz(最大高さ)及びRa(算術平均粗さ)を所定の数値範囲内としやすくなる。
【0031】
(Rz(最大高さ))
本開示の積層体の表面形状は、Rz(最大高さ)が、5.00μm以上であることが好ましい。本開示において、Rz(最大高さ)は、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであり、輪郭曲線の山及び高さパラメータの一つである。より具体的には、基準長さにおける輪郭曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さとの和である。
Rz(最大高さ)の数値が大きいほど、谷からみて形状の大きい(高い)凸部が存在し、そのような凸部が多く存在する傾向があることを示す指標となる。よって、上記RSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)を満足する表面形状において、Rz(最大高さ)が5.00μm以上であると、既述のSku(クルトシス)の規定による凸部の頂部近傍の形状が緩やかに尖った形状又はつぶれた形状となるという特徴が強調され、滑るような触感が向上する。また艶消効果も向上する。
【0032】
Rz(最大高さ)は、好ましくは5.25μm以上、より好ましくは5.50μm以上、更に好ましくは6.00μm以上、より更に好ましくは6.25μm以上であり、上限として好ましくは20.00μm以下、より好ましくは18.00μm以下、更に好ましくは15.00μm以下である。Rz(最大高さ)が上記範囲内であると、艶消効果及び滑るような触感が向上する。
なお、本明細書におけるRz(最大高さ)の測定にあたり、カットオフ値は0.8mmである。
【0033】
(Ra(算術平均粗さ))
本開示の積層体の表面形状は、Ra(算術平均粗さ)が、3.00μm以下であることが好ましい。本開示において、Ra(算術平均粗さ)は、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータの一つであり、基準長さにおける輪郭曲線において、平均面からの高低差の平均値である。Ra(算術平均粗さ)の数値が小さいほど、表面形状における凸部、これに応じて形成する凹部がより小さくなり、より滑らかで均一な形状となる傾向があることを示す指標である。よって、上記RSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)を満足する表面形状において、Ra(算術平均粗さ)が3.00μm以下であると、表面形状が有する凸部の形状をより均一かつ穏やかなものがより多く存在することになるため、突飛な触感が抑えられ、特に滑るような触感が向上する。また艶消効果も向上する。
【0034】
Ra(算術平均粗さ)は、好ましくは2.80μm以下、より好ましくは2.60μm以下、更に好ましくは2.40μm以下であり、下限として好ましくは0.10μm以上、より好ましくは0.40μm以上、更に好ましくは0.60μm以上である。Ra(算術平均粗さ)が上記範囲内であると、艶消効果及び滑るような触感が向上する。
なお、本明細書におけるRa(算術平均粗さ)の測定にあたり、カットオフ値は0.8mmである。
【0035】
〔層構成について〕
本開示の積層体は、基材、装飾層及び艶消層を順に有するものであり、
図2に示される層構成を有するものである。また、物品の機械的強度、後加工適性、意匠外観等の、諸需要に応じた各種要求性能により柔軟に対応する観点、また製造適性、使用取扱い適性等の観点から、
図3に示されるような基材、装飾層及び艶消層以外の層が積層してなる積層体も挙げられる。
以下、本開示の積層体を構成する各層について、基材から説明する。
【0036】
〔基材〕
本開示の積層体を形成する基材は、その形態(あるいは形状)は特に制限なく、例えばフィルム、シート又は板、多面体、多角柱、円柱、球体、回転楕円体等の各種形状の中から好ましく採用することができる。ここで、フィルム、シート及び板は、相対的に厚みの薄いものからフィルム、シート及び板と称されるが、本明細書中においては、これら三者を厳密に区別する意義は特になく、フィルム、シート及び板の相違によって、本開示の権利解釈に相違が生じることはないものとする。よって、本明細書においては、フィルム、シート及び板については、これらを「シート」、「シート状」等と総称することがある。
本開示の積層体の基材の形状としては、シート状であることが好ましい。基材がシート状であると、特に後述する艶消層を設けやすいことから製造適性が向上し、また例えば樹脂成形品に貼着等により一体化しやすいため、後加工適性が向上する。
【0037】
基材の構成材料としては、特に限定されず、樹脂、金属、非金属無機材料、繊維質材料、木質系材料等の各種材料を用途に応じて適宜選択することができる。これらの各種材料により構成される基材を一層、又はこれらの各種材料により構成される基材を二層以上組み合わせた複数層として用いることができる。複数層とする場合、異種材料の層を2層以上積層して一体化し、各層の材料の有する諸機能を互いに補完することができる。
【0038】
複数層の基材を採用する場合、複数層を構成する各層を、例えば材料Aで構成される層と、材料Bで構成される層とを積層してなる積層体を「A/B」と表記する場合;
(1)樹脂/木質系材料
(2)樹脂/金属
(3)樹脂/繊維質材料
(4)樹脂/非金属無機材料
(5)樹脂1/樹脂2(例えば、「オレフィン樹脂/アクリル樹脂」等の異なる樹脂により構成される複数の層を有する場合)
(6)金属/木質系材料
(7)金属/非金属無機材料
(8)金属/繊維質材料
(9)金属1/金属2(例えば、「銅/クロム」等の異なる金属により構成される複数の層を有する場合)
(10)非金属無機材料/繊維質材料
等の態様が好ましく挙げられる。
また、基材が複数層である場合、複数層の各層間に、隣接する各層の接着性を向上させるための層として、接着剤層、粘着剤層、プライマー層(アンカー層、易接着層とも称される。)を更に有するものであってもよい。
【0039】
基材に用いられ得る樹脂としては、各種の合成樹脂、天然樹脂等が挙げられる。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂が挙げられ、積層体の製造適性、取扱い適性、後加工適性等を考慮すると、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、アイオノマー、各種オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレングリコール-テレフタル酸-イソフタル酸共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のアクリル樹脂;ナイロン6、ナイロン66等に代表されるポリアミド樹脂;三酢酸セルロース、セロファン、セルロイド等のセルロース樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等のスチレン樹脂;ポロビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂等が好ましく挙げられる。
天然樹脂としては、天然ゴム、松脂、琥珀等が好ましく挙げられる。
また、硬化性樹脂としては、後述する艶消層の構成材料として例示する熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂等が好ましく挙げられる。
【0041】
基材に用いられ得る金属としては、例えばアルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム又はアルミニウム合金;鉄、炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄又は鉄合金;銅、真鍮、青銅等の銅又は銅合金;金、銀、クロム、ニッケル、コバルト、錫、チタニウム等が好ましく挙げられる。また、金属により構成される基材としては、これらの金属をめっき等により表面に施したものも好ましく挙げられる。
【0042】
基材に用いられ得る非金属無機材料としては、例えばセメント、ALC(軽量気泡コンクリート)、石膏、ケイ酸カルシウム、木片セメント等の非セラミック窯業系材料;陶磁器、土器、ガラス、琺瑯等のセラミック窯業材料;石灰岩(大理石を含む。)、花崗岩、安山岩等の天然石等が好ましく挙げられる。
【0043】
基材に用いられ得る繊維質材料としては、例えば薄葉紙、クラフト紙、上質紙、和紙、チタン紙、リンター紙、硫酸紙、パラフィン紙、パーチメント紙、グラシン紙、壁紙用裏打紙、板紙、石膏ボード用原紙等の紙;ポリエステル樹脂繊維、アクリル樹脂繊維、絹、木綿、麻等のタンパク質又はセルロース系の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維からなる織布又は不織布等が好ましく挙げられる。これらの材料のうち、紙により構成される紙基材の繊維間又は紙基材と組み合わせて用いられる他の基材との層間強度を向上させるため、また毛羽立ち防止のため、更に、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の各種樹脂を添加(抄造後にこれらの樹脂を含浸又は抄造時に内填)させたものであってもよい。樹脂を添加した紙としては、例えば紙間強化紙、樹脂含浸紙等が好ましく挙げられる。
また、繊維質材料で構成される層と、樹脂で構成される層とを積層してなる積層体としては、建材分野で汎用される壁紙用裏打紙の表面に、塩化ビニル樹脂層、オレフィン樹脂層、アクリル樹脂層等の各種樹脂で構成される層を積層した壁紙原反等が好ましく挙げられる。
【0044】
基材に用いられ得る木質系材料としては、例えば杉、檜、松、欅、楢、樫、胡桃、ラワン、チーク、ゴムの木等の各種木材により構成される単板、合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等が好ましく挙げられる。
【0045】
基材としては、上記の材料により構成される基材を制限なく用いることができ、また所望の性状等に応じて適宜選択すればよい。艶消効果及び滑るような触感の向上の観点から、樹脂により構成される基材、繊維質材料により構成される基材が好ましく、樹脂により構成される基材がより好ましい。
樹脂の中でもオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましく、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂がより好ましく、オレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、塩化ビニル樹脂としてはポリ塩化ビニルが好ましく、ポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、繊維質材料の中でも、紙が好ましい。これらの材料により構成される基材を用いることで、特に上記表面形状が得られやすく、滑るような触感を向上させやすくなる。
【0046】
単層又は積層体からなる基材の形状及び寸法は、特に制限なく用途、所望の諸性能、また後加工適性等を考慮しながら適宜選択すればよい。
フィルム、シート及び板の形状を採用する場合、積層体の設計上の代表的な寸法として厚さがあるが、かかる厚さも特に制限なく、製造適性、使用取扱い適性、後加工適性また機械的強度、経済性等を考慮すると、好ましくは10μm以上10cm以下の範囲から選択すればよい。フィルム、シートの形状を採用する場合、好ましくは20μm以上300μm以下の範囲から選択すればよく、板の形状を採用する場合、好ましくは1mm以上2cm以下の範囲から選択するとよい。
【0047】
基材は、積層体を構成する、後述する艶消層等の他の層との密着性、積層体を積層する樹脂成形品等の被着材との密着性の向上の観点から、その少なくとも一方の面に、酸価法、凹凸化法等の物理的表面処理、また化学的表面処理等の易接着性向上のための表面処理を施すことができる。
酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン-紫外線処理法等が挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、基材の種類に応じて適宜選択すればよく、表面処理による易接着性向上効果、また作業適性等の点から、コロナ放電処理法が好ましい。
【0048】
基材は、着色されていてもよいし、着色されていなくてもよく(透明でもよく)、着色されている場合、着色の態様には特に制限はなく、透明着色であってもよいし、不透明着色(隠蔽着色)であってもよく、これらは任意に選択できる。
【0049】
基材は、着色されている場合、着色剤としては、例えば、チタン白等の白色顔料、鉄黒、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー、ニッケル-アゾ錯体、アゾメチンアゾ系黒色顔料、ペリレン系黒色顔料等の有機顔料又は染料;アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等の着色剤が挙げられる。例えば、積層体を積層する樹脂成形品等の被着材の表面色相がばらついている場合に、表面色相を隠蔽し、所望に応じて設けられる装飾層の色調の安定性を向上させたい場合は、白色顔料等の無機顔料を用いればよい。
【0050】
樹脂による基材を着色する場合は、樹脂中への着色剤の添加(混練、練り込み)、樹脂と着色剤とを含む塗料の塗膜の塗布による形成等の、いずれの手段を採用することができる。紙、織布、不織布等の繊維質材料による基材を着色する場合は、パルプや繊維材料との混抄、あるいは塗膜形成等のいずれかの手段、又はこれらの併用により行うことができる。
木質系材料による基材を着色する場合は、染料による染色、あるいは塗膜形成のいずれかの手段、又はこれらの併用により行うことができる。金属による基材を着色する場合、塗膜形成の他、陽極酸化法を用いて表面に金属酸化物皮膜を形成する電解着色法等を採用することができる。また、非金属無機材料による基材を着色する場合、塗膜形成、あるいは基材中への添加のいずれかの手段、又はこれらの併用により行うことができる。
【0051】
基材には、必要に応じて、添加剤が配合されてもよい。添加剤としては、主に樹脂の場合において、例えば、炭酸カルシウム、クレーなどの無機、水酸化マグネシウムなどの難燃剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。添加剤の配合量は、表面特性、加工特性等を阻害しない範囲であれば特に制限はなく、要求特性等に応じて適宜設定できる。
【0052】
本開示の積層体の耐候性を向上させる観点から、上記添加剤の中でも、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を用いることが好ましい。
紫外線吸収剤、光安定剤としては、後述する艶消層に含み得るものとして例示するものが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤、その他各種添加剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0053】
本開示においては、上記の基材を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることもできる。複数の紙基材を組み合わせたものであってもよいし、紙基材と繊維基材、紙基材と樹脂基材、繊維基材と樹脂基材、紙基材と繊維基材と樹脂基材とを組み合わせたものであってもよい。また、樹脂基材については、上記樹脂基材の単層、あるいは同種又は異種樹脂による複層のいずれの構成であってもよい。
【0054】
基材の厚さは上記の通りであるが、基材が上記樹脂のフィルム又はシートの場合、20μm以上が好ましく、また上限として300μm以下が好ましく、製造適性、使用取扱い適性、後加工適性、また機械的強度、経済性等を考慮すると、40μm以上がより好ましく、上限として200μm以下がより好ましく、また100μm以下が更に好ましい。
これと同様の理由から、基材が紙である場合、坪量は、通常20~150g/m2が好ましく、30~100g/m2がより好ましい。
【0055】
〔艶消層〕
本開示の積層体における艶消層は、後述する装飾層上に設けられる層であり、その表面が上記の表面形状、すなわち不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、RSm(曲線要素の平均長さ)が20.00μm以上であり、かつSku(クルトシス)が4.00以下である表面形状を有する層である。また、
図2及び3に示されるように、表面形状を有する面が上記基材側とは反対側の面となるように設けられる層である。
よって、本開示の積層体は、その表面に艶消層を有することから、積層体の機械的強度、製造適性等を考慮すると、艶消層は、樹脂組成物の硬化物、好ましくは硬化物樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物により構成される層であることが好ましい。
【0056】
艶消層を形成する上記樹脂組成物としては、優れた艶消効果を有し、かつ滑るような触感に優れる積層体を得ることを考慮すると、樹脂及びシワ形成安定剤を含む樹脂組成物(以下、「艶消層形成用の樹脂組成物」と称することがある。)が好ましい。すなわち、本開示において艶消層は、樹脂及びシワ形成安定剤を含む層であることが好ましい。
【0057】
(シワ形成安定剤)
シワ形成安定剤は、艶消層の少なくとも一方の表面で不規則なシワの形成を安定させることで、不規則なシワにより構成される凹凸形状を発現させる。そして、艶消層の全面にわたり均一に艶消効果の視認性を発現させて、部分的な艶のムラが低減されることで、安定的な艶消効果の視認性、そして艶消層の全面にわたり不規則なシワが安定して形成することによる面状態の均一性、を付与する機能を有するものである。そして、艶消層が有する不規則なシワは、滑るような触感の発現にも大きく寄与する。本明細書において、「安定的な艶消効果の視認性」について、以下、「安定的な艶消効果の視認性」といった表現、これに準ずる表現を用いる場合がある。また、「面状態の均一性」は、「質感」と称することがある。
よって、従来技術におけるいわゆる「艶消剤」と本開示における「シワ形成安定剤」とは、例えその構成物質、平均粒子径が同じであった場合においても、両者の艶消の機構(作用)、艶消を発現させるための構造、及び使用量と、表面の艶(グロス値)の程度との関係において異なるものとなる。また、不規則なシワを形成することにより、滑るような触感を発現させる点でも、「艶消剤」とは異なるものである。
【0058】
上記特許文献1等の従来技術において、艶消表現のために用いられてきた艶消剤は、物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果の視認性を発現するものである。具体的には、一般に艶消剤と称されるものは、一般に艶消剤粒子と周囲の樹脂及び空気との屈折率差を有し、その粒子の輪郭形状に対応した光線の反射及び屈折性界面による光拡散効果により艶消効果の視認性を発現するものである。一方、本開示の積層体において、シワ形成安定剤は、粒子それ自体による光線の反射及び屈折による光拡散が艶消効果の視認性を発現するのではなく、シワ形成安定剤に起因して艶消層の表面における不規則なシワの形成を安定させることで、かかる表面と空気との屈折率差界面での光拡散効果により積層体に安定的に艶消効果の視認性とともに質感を付与するというものである。よって、本開示で用いられるシワ形成安定剤は、それ自体が艶消効果の視認性を発現する艶消剤とは、仮に、両者の構成物質、平均粒子径が同じであったとしても、両者の艶消の機構及び作用、艶消を発現させるための構造等は異なるものである。
【0059】
さらに、「シワ形成安定剤」と「艶消剤」とは、含有量と表面の艶(グロス値)との関係においても異なる。同じ物質Aをシワ形成開始剤AW(W:シワ,wrincle)として用い、これを特定量Cで含有させて表面にシワを形成させた場合の表面の60°グロス値G60°
AW(C)は、同物質Aを単なる艶消剤AMとして用い、これを特定量Cで含有させるも表面にシワが形成しない場合の表面の60°グロス値G60°
AM(C)よりも明らかに低下する。すなわち、以下の関係式が成立する。
G60°
AW(C)<G60°
AM(C)
【0060】
本開示の積層体における艶消層は、従来艶消剤として用いられてきた剤を含んでもよいが、艶消剤を用いても得られない程度に極めて優れた艶消効果が安定的に得られ、滑るような触感が得られるという発明の効果の特徴を考慮すると、艶消剤を含まないことが好ましい。このように、本開示の積層体は、従来艶消効果の視認性を得るために用いていた艶消剤を実質的に含まなくても、極めて優れた艶消効果の視認性及び質感を有するものであるといえる。ここで、「艶消剤を含まない」とは、艶消剤を全く含まないことに加えて、含んでいても艶消剤自体の作用効果に基づく艶消効果の視認性を有することがない、具体的には艶消剤の含有量が樹脂100質量部に対して15.0質量部未満、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下であることを意味する。
なお、本願明細書において「艶消剤」は、既述のように頭出しの効果により凸部を形成する観点から、具体的には艶消剤が含まれ得る層、すなわち艶消層の厚さの100%超及び30μm超のいずれか小さい方を下限とする平均粒子径を有する粒子を意味する。
【0061】
本開示においては、シワ形成安定剤としては、艶消剤ではない、平均粒子径が艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とするものであれば特に制限なく用いることができる。
艶消効果及び滑るような触感を向上させることを考慮すると、平均粒子径が艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とするシワ形成安定剤について、その平均粒子径により区別される二種のシワ形成安定剤の少なくともいずれかを用いることが好ましい。二種のシワ形成安定剤は、具体的には、平均粒子径が1μm以上、かつ前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とするシワ形成安定剤1、及び平均粒子径が1μm未満であるシワ形成安定剤2である。
【0062】
本開示においては、二種のシワ形成安定剤の少なくともいずれかを用いれば、不規則なシワの形成が安定し、安定的に優れた艶消効果が得られ、また滑るような触感も得られる。本開示においては、シワ形成安定剤1、シワ形成安定剤2を単独で、またシワ形成安定剤1とシワ形成安定剤2とを併用することができる。シワ形成安定剤1とシワ形成安定剤2とを併用することがより好ましい。併用することで、艶消効果及び滑るような触感が向上する。
【0063】
シワ形成安定剤としては、例えば有機粒子、無機粒子を用いることができる。
有機粒子を構成する有機物としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル-スチレン共重合体樹脂、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル樹脂、ベンゾグアナミン-メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、シリコーン、フッ素系樹脂及びポリエステル系樹脂等が挙げられる。
無機粒子を構成する無機物としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、アルミノシリケート及び硫酸バリウム等が挙げられ、これらの中でも透明性に優れるシリカが好ましい。
【0064】
シワ形成安定剤の形状としては、特に制限はないが、例えば球形、多面体、鱗片状、不定形等が挙げられる。
【0065】
シワ形成安定剤1の平均粒子径は、1μm以上、かつ前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とする。安定的に艶消効果を向上させ、滑るような触感を向上させることを考慮すると、シワ形成安定剤1の平均粒子径は、好ましくは1.3μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは1.8μm以上であり、上限としては、艶消層の厚さに対しては、好ましくは艶消層の厚さの90%以下、より好ましくは艶消層の厚さの80%以下、更に好ましくは艶消層の厚さの70%以下であり、絶対値については、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは8μm以下、より更に好ましくは7μm以下であり、艶消層の厚さに対する上限と絶対値の上限とを任意に組み合わせた場合のいずれか小さい方とすればよい。例えば、艶消層の厚さの90%以下及び20μm以下のいずれか小さい方を上限としてもよいし、艶消層の厚さの90%以下及び10μm以下のいずれか小さい方を上限とすることもできる。なお、艶消層の厚さについては後述する。
【0066】
シワ形成安定剤2の平均粒子径は、1μm未満である。不規則なシワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、滑るような触感を向上させることを考慮すると、シワ形成安定剤2の平均粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上であり、上限として好ましくは900nm以下、より好ましくは700nm以下、更に好ましくは500nm以下である。
本明細書において、シワ形成安定剤の平均粒子径は、レーザ光回折法による粒度分布測定における体積平均値d50として測定したものである。
【0067】
シワ形成安定剤による不規則なシワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、滑るような触感を向上させることを考慮すると、シワ形成安定剤(シワ形成安定剤1とシワ形成安定剤2とを併用する場合はこれらの合計含有量)の含有量は、艶消層を形成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.75質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上、より更に好ましくは1.2質量部以上である。一方、上限としては、好ましくは25.0質量部以下、より好ましくは15.0質量部以下、更に好ましくは10.0質量部以下、より更に好ましくは7.5質量部以下、特に好ましくは6.0質量部以下である。上限については、安定的な艶消効果の向上、また滑るような触感の向上の点では特に制限はないが、上限が上記範囲内であると、例えば艶消層形成用の樹脂組成物の塗布性等による化粧材の生産性、また効率的に艶消効果の視認性及び質感が向上する。
【0068】
シワ形成安定剤1とシワ形成安定剤2とを併用する場合、シワ形成安定剤1及びシワ形成安定剤2の各々の含有量としては、合計の含有量が上記範囲内であれば特に制限はないが、シワ形成安定剤2の含有量は樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上であり、上限として好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは7.5質量部以下、更に好ましくは5.0質量部以下、より更に好ましくは3.5質量部以下である。また、シワ形成安定剤1とシワ形成安定剤2との配合割合は、これらの合計量を100質量部とした場合のシワ形成安定剤1の配合量として、好ましくは5.0~95.0質量部、より好ましくは10.0~90.0質量部、更に好ましくは15.0~75.0質量部、より更に好ましくは30.0~50.0質量部である。
【0069】
シワ形成安定剤としては、既述のように有機粒子、無機粒子を用い得るが、これらの粒子の種類自体は、従来艶消剤としても用いられるものを含むものともいえ、例えば上記の特許文献1に記載の化粧シートのマット層には、球形状アルミナ、炭酸カルシウムといった艶消剤が用いられている。球形状アルミナ、炭酸カルシウムといった艶消剤が、物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果の視認性を発現するためには、特許文献1に記載されるように、樹脂分100重量部あたりに球形状アルミナ10重量部及び炭酸カルシウム40重量部の合計50重量部程度の含有量で使用する必要がある。しかし、本開示においては、既述のように少量の含有量としても、すなわち物理的な形状に起因する光拡散効果により、それ自体が艶消効果の視認性を発現するために必要な含有量より少ない含有量としても、艶消剤により得られる効果に比べて極めて優れた艶消効果が得られており、更に滑るような触感をも得られている。
よって、本開示の積層体は、実質的に艶消剤を含まないにも関わらず、表面に不規則なシワが安定して形成することにより、艶消剤を用いた場合に比べてより優れた艶消効果の視認性が安定的に得られていると同時に質感も得られ、更に滑るような触感をも得られている、といえる。
【0070】
(艶消層の表面形状)
本開示の積層体における艶消層は、上記表面形状を有する層であり、好ましくは上記の特定のシワ形成安定剤を特定の含有量で含む艶消層形成用の樹脂組成物の硬化物により構成される層である。既述のように艶消層の表面において不規則なシワの形成が安定することで、シワの形状に起因する光拡散効果により安定的に艶消効果を発現し、滑るような触感をも発現する層となる。
図1は本開示の積層体の一実施形態を示す平面視における模式図であり、実施例で得られた積層体の表面の画像を模式化したものである。
図1には、本開示の積層体は、その表面、すなわち艶消層の表面に不規則なシワが形成されていることが示されている。ここで、「平面視」は、
図1~3に示されるXYZ座標系で、Z軸正方向から積層体の表面を見ることを意味する。
【0071】
艶消層の少なくとも一方の表面に発現する不規則なシワは、上記表面形状、すなわち上記の特定の数値範囲内にあるRSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)、好ましくはその他Rz(最大高さ)及びRa(算術平均粗さ)を有する表面形状を呈するものであれば特に制限はなく、不規則なシワの発現により上記表面形状を有するものとなるため、シワ形成安定剤により形成が安定し、安定的に艶消効果を発現し、かつ滑るような触感をも発現することとなる。
不規則なシワについて、優れた艶消効果とともに滑るような触感を得るには、艶消層の少なくとも一方の表面は、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有することを要する。そして艶消効果の向上とともに滑るような触感の向上を図るため、不規則なシワは、複数の突起部により形成する複数の凸部と、複数の突起部により囲まれて形成する凹部と、により構成されていることが好ましく、突起部は線条の突起部を有していることが好ましい。本明細書において、「線条の突起部」(以下、「線条突起部」とも称する。)とは、突起部の長さと幅との比(長さ/幅)が3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であることを意味し、長さ及び幅の決定方法は後述の通りである。
本開示において、より好ましい不規則なシワは、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部により構成されるもの、である。
【0072】
これらの不規則なシワに関する態様としては、例えば
図1に示される態様が挙げられる。
図1には、積層体の表面、すなわち艶消層の表面に、平面視において不規則なシワを有していること、また不規則なシワが、湾曲した複数の線条突起部により形成する複数の凸部3と、複数の突起部(複数の凸部3)により囲まれて形成する凹部2とを含むことにより構成されていること、また湾曲した複数の凸部3の少なくとも一部が、各々蛇行する線条突起部により形成され、蛇行する線条突起部に囲まれるようにして、蛇行する凹部2が形成していることも示されている。本開示の積層体は、
図1に示される不規則なシワの形成の安定により安定的に艶消効果を発現し、かつ滑るような触感をも発現している。
【0073】
ここで「湾曲」とは、平面視において、連続する線条の凸部3の延在方向が一方側から他方側に反転している部分を1箇所以上有することを意味する。延在方向が一方側から他方側に反転している部分の例としては、例えば線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したとき(平面視形状の幅を0とみなしたとき)に連続曲線で近似される場合に、変曲点を有する形態等が挙げられる。また、線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したときに直線で近似される場合に、V字型の折線又は3角形の1頂点を挟む2辺で近似される部分を有する形態等が挙げられる。
【0074】
また「蛇行」とは、平面視において、連続する線条の凸部3の延在方向が一方側から他方側に反転している部分(以下、「反転部分」とも称する。)を、少なくとも2箇所以上有し、線条の凸部3をその延在方向に進んだときに、互いに隣接する2箇所において交互に線条の凸部3の延在方向が逆向きに反転部分する部分を有することを意味する。例えば、線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したときに連続曲線で近似される場合に、ローマ字「S」で近似される部分を有する形態等が挙げられる。また、線条の凸部3の平面視形状の幅を無視したときに直線で近似される場合に、ローマ字「W」で近似される部分を有する形態等が挙げられる。
【0075】
本明細書において、不規則とは、一定の法則を有する形状、また一定の法則をもって配列される、いわゆるパターン化している、とはいえないことを意味する。不規則ではない形状、すなわち規則的な形状の典型的な例としては、例えば円柱形状の単位レンズをその長手方向と直行する方向に複数個が互いに隣接して配列した、いわゆる「レンティキュラーレンズ(lenticular lens)」のように、特定の方向に一定の周期性をもって配列した形状等が挙げられる。よって、本開示における不規則なシワは、一つの突起部の形状自体が周期性等の一定の法則をもって形成される形状ではなく不規則であること、また複数の突起部により形成する複数の凸部の形状が一定の法則をもって形成及び配列されるものではなく不規則であること、またこのような複数の突起部により囲まれた凹部の形状も不規則であること、を包含するものである。
本開示の積層体において、一つの突起部(一つの凸部)の形状自体、複数の突起部(複数の凸部)の各々の形状及びその配列、複数の突起部により囲まれた凹部の形状のいずれかが不規則であれば、不規則なシワを有することによる艶消効果、かつ滑るような触感は得られるが、いずれもが不規則であることが好ましい。本開示の積層体は、不規則なシワを有することにより、その艶消効果の視認性及び質感は向上し、極めて優れた艶消効果を安定的に発現し、かつ滑るような触感を発現するものとなる。
【0076】
既述のように、艶消層は、その少なくとも一方の表面に不規則なシワにより構成される凹凸形状を有する。凹凸形状における凸部と凹部とは、例えば本開示の積層体の表面の画像の明度差を利用して、濃度分布画像で最も濃い部分を階調255とし、濃度分布画像で最も薄い部分を階調0として、階調0~255について、階調0~127を凹部、階調128~255を凸部と、二値化処理して区分すればよい。
【0077】
本開示の積層体の表面は、少なくともその一部に不規則なシワにより構成される凹凸形状を有していればよく、全面にわたって不規則なシワにより構成される凹凸形状を有することが好ましい。不規則なシワが形成する箇所(すなわち、艶消層を有する箇所)は、積層体の表面であれば特に制限はなく、表面の少なくとも一部に存在していれば、不規則なシワの形成による艶消効果及び滑るような触感は発現する。例えば、不規則なシワにより構成される凹凸形状(すなわち艶消層)は、装飾層の絵柄に応じた箇所、例えば絵柄層上に形成すると、絵柄が周囲に比べてより艶消された箇所として視認されるため、意匠性の向上を図ることができる。この場合、艶消層を設けた箇所と設けない箇所が存在することとなるが、上記の表面性状を満足していれば、艶消効果及び滑るような触感が得られる。
【0078】
また
図1にも示されるように、不規則ながらもある程度の均質性をもった複数の突起部により形成される複数の凸部と、凸部により囲まれた凹部と、を有していることが好ましい。よって、1の凸部(突起部)において、その幅が極端に変化する形状は、上記の表面形状になりにくく、艶消効果の視認性及び質感を得るにあたり好ましい態様とはいえないし、また滑るような触感を得るにあたっても好ましい態様とはいえない。不規則なシワを形成する凸部(突起部)、凹部の形状について、安定的に艶消効果を向上させ、かつ滑るような触感を向上させる上で優位となり得る具体的な態様について、以下説明する。不規則なシワが以下の形状を有することにより、上記表面形状を呈しやすくなり、艶消効果及び滑るような触感が向上する。
【0079】
艶消層の少なくとも一方の表面に形成する不規則なシワにより構成される凹凸形状について、その凸部の高さ(突起部の高さ)は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上であり、上限としては10μm以下程度である。また、凸部の幅は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.5μm以上であり、上限として好ましくは10μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下である。凸部の高さ及び幅が上記範囲内であると、上記表面形状を呈しやすくなり、凹部との関係で、安定的に艶消効果が向上し、かつ滑りやすい触感が向上する。
ここで、凸部の上記寸法は、本開示の積層体の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における任意の10の凸部(突起部)、すなわち合計100の凸部の平均値である。また、
図1に示されるように、1の凸部(突起部)においてその幅は同じではなく広狭があるため、1の凸部(突起部)の幅は、1の凸部(突起部)における任意の5箇所の幅の平均値とする。凸部(突起部)の高さについても同様とする。
【0080】
凹部の深さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上であり、上限としては10μm以下程度である。また、凹部の幅は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上であり、上限として好ましくは10μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは2μm以下である。凹部の深さ及び幅が上記範囲内であると、上記表面形状を呈しやすくなり、凸部との関係で、安定的に艶消効果が向上し、かつ滑るような触感が向上する。
ここで、凹部の寸法は、上記の凸部の寸法と同様に決定する。
【0081】
凸部の頂から凹部の底までの距離、すなわち凸部と凹部との高低差は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、上限として好ましくは20μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは7μm以下である。距離が上記範囲内であると、上記表面形状を呈しやすくなり、安定的に艶消効果が向上し、かつ滑るような触感が向上する。
ここで、凹部の寸法は、上記の凸部の寸法と同様に決定する。
【0082】
凸部の占有割合は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上であり、上限として好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、更に好ましくは60%以下である。凸部の占有割合が上記範囲内であると、上記表面形状を呈しやすくなり、凸部に囲まれる凹部の占有割合との関係で、安定的に艶消効果が向上し、かつ滑るような触感が向上する。
ここで、凸部の占有割合は、本開示の積層体の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における凸部の占有割合の平均値である。
【0083】
凸部及び凹部は、略同一方向及び略同一幅の箇所を有していてもよいが、艶消効果の向上、かつ滑るような触感の向上を考慮すると、その長さは短いことが好ましい。具体的には、略同一方向及び略同一幅の凸部及び凹部が連続する長さは、好ましくは95μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは70μm以下であり、下限として好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上である。長さが上記範囲内であると、シワがより不規則となるため、安定的に艶消効果が向上し、かつ滑るような触感が向上する。
ここで、本開示の積層体の任意の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における任意の10の凸部及び凹部(すなわち合計100の凸部及び凹部)について、その80%以上が上記の条件を満たすものであることが好ましく、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、より更に好ましくは95%以上である。また、本明細書における「略同一」の「略」は、概ね同じであることを意味し、枝分かれすることなく、方向の場合は±3°以内の違いを意味し、幅の場合は±5%以内の違いを意味する。
【0084】
また、100μm四方の領域における凸部(突起部)の数は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは30以上であり、上限として好ましくは200以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは70以下である。凸部の数が上記範囲内であると、安定的に艶消効果が向上し、かつ滑るような触感が向上する。
凸部の数は、本開示の積層体の10箇所(100μm四方の領域×10箇所)における凸部の数の平均値である。
【0085】
図2は、本開示の積層体の一実施形態を示す断面図であり、積層体1をその厚さ方向に平行な面で切断した断面図である。積層体1の厚さ方向は、
図2におけるZ方向である。
凹部の形状としては、例えば
図2の2aのように鋭角状のものでもよいし、また2bのように半円又は半楕円状のものであってもよく、これらの組合せであってもよい。また一つの凸部が一部に凹部を有する、
図2の2cのような形状であってもよい。
他方、凸部の形状としては、
図2の3a、3bのように幅の広狭はあるものの、半円又は半楕円の形状を呈する。
【0086】
艶消層の厚さは、安定的に艶消効果を発現し、かつ滑るような触感を発現し得る程度に上記の不規則なシワを形成することができる厚さであれば特に制限はないが、作製のしやすさ等も考慮すると、通常1μm以上であり、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上、より更に好ましくは5μm以上であり、上限として好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下、より更に好ましくは100μm以下である。
本明細書において、艶消層の厚さは、積層体の断面について、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像から20箇所の厚さを測定し、20箇所の値の平均値とする。なお、SEMの加速電圧は3kV、倍率は厚さに応じて設定とする。また、他の層の厚さについても同様である。
【0087】
艶消層は、その全面に上記の表面形状を呈する層であり、本開示の積層体が表面の少なくとも一部に表面形状を有するものであればよいことから、積層体の表面の少なくとも一部に設けられていればよく、その全面に設けられていてもよい。
艶消層は、積層体において需要者が視認し、また触れる箇所に設けられていれば、すなわち上記表面形状は、積層体において需要者が視認し、また触れる箇所に設けられていれば、艶消効果及び滑るような触感という発明の効果は得られることとなる。
【0088】
また、基材がフィルム、シート、又は板の形状を呈する場合も、艶消層は、積層体において需要者が視認し、また触れる箇所に設けられていればよく、その一方の面の少なくとも一部に設けられていればよく、その全面に設けられていてもよく、艶消効果及び滑るような触感の向上の観点から、
図2及び3に示されるように、一方の面の全面にわたって設けられていることが好ましい。
【0089】
(樹脂)
艶消層を形成する樹脂としては、上記シワ形成安定剤を所定量で含む艶消層形成用の樹脂組成物を形成し、硬化することにより硬化物となり艶消層を構成する樹脂であればよい。このような樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂が挙げられる。艶消層は、
図4~6にも示されるように、本開示の積層体の最表面に設けられ得る層である。そのため、シワ形成安定剤によりシワを形成しやすい樹脂であることの他、積層体としての使用性向上を考慮すると、加工特性、耐汚染性、耐擦傷性、耐候性等の表面特性を発現しやすい樹脂であることが好ましく、電離放射線硬化性樹脂はこれらの観点から好ましい樹脂である。本開示の積層体は、艶消層に含まれるシワ形成安定剤の含有量が極めて少ないため、その表面特性として、艶消層を形成する樹脂の性能がより直接的に発揮されることとなる。
【0090】
電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線硬化性官能基を有する樹脂のことであり、電離放射線硬化性官能基は電離放射線の照射によって架橋硬化する基であり、例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基などが好ましく挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクロイル基を示す。また、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを示す。
また、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合及び/又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も含まれる。
【0091】
電離放射線硬化性樹脂としては、電子線硬化性樹脂及び紫外線硬化性樹脂が挙げられる。シワ形成安定剤によるシワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させること、滑るような触感を向上させることを考慮すると、紫外線硬化性樹脂が好ましい。
電離放射線硬化性樹脂は、具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0092】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好ましく、少なくとも多官能モノマー、中でも多官能(メタ)アクリレートモノマーを用いることが好ましい。ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有し、かつ電離放射線硬化性官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0093】
シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させること、滑るような触感を向上させること、更に後加工特性、耐擦傷性及び耐候性等の表面特性を向上させることを考慮すると、多官能(メタ)アクリレートモノマーの官能基数は2以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましい。また、上記官能基数であると、特に上記の表面形状が得られやすく、滑るような触感を向上させやすくなる。
これらの多官能(メタ)アクリレートは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
また、特に滑るような触感を向上させるために、上記多官能モノマーとともに、単官能モノマーを併用することが好ましい。単官能モノマーとしても、多官能モノマーと同様に、電離放射線硬化性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。
【0095】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2つ以上の電離放射線硬化性官能基を有する多官能オリゴマー、好ましくは電離放射線硬化性官能基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する、多官能(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、及びノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー等がある。
【0096】
これらの重合性オリゴマーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
重合性オリゴマーとしては、上記の中でも、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート(メタ)アクリレートオリゴマーがより好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが更に好ましい。これらの重合性オリゴマーを用いると、シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させることができ、滑るような触感を向上させることができ、更に後加工特性、耐擦傷性及び耐候性等の表面特性を向上させることができる。
【0097】
これらの重合性オリゴマーの官能基数は、2以上8以下のものが好ましく、上限としては、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。官能基数が上記範囲内であると、シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させることができ、滑るような触感を向上させることができ、更に加工特性、耐擦傷性及び耐候性等の表面特性を向上させることができる。
また、これと同様の理由により、これらの重合性オリゴマーの重量平均分子量は、900以上7,500以下が好ましく、1,000以上7,000以下がより好ましく、1,200以上6,000以下が更に好ましく、1,400以上2,900以下がより更に好ましい。ここで、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。
【0098】
本開示において、艶消層を形成する樹脂としては、上記重合性オリゴマーと重合性モノマーとを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、重合性オリゴマーとしては多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーがより好ましい。また、重合性モノマーとしては少なくとも単官能モノマーを用いることが好ましく、単官能モノマーと多官能モノマーとを組み合わせて用いることがより好ましく、単官能(メタ)アクリレートモノマーと多官能性(メタ)アクリレートモノマーとを組み合わせて用いることがさらに好ましい。シワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、かつ滑るような触感を向上させることができ、更に加工特性、耐擦傷性及び耐候性等の表面特性を向上させることもできる。
組み合わせて用いる場合、これと同様の理由により、重合性オリゴマーと重合性モノマーとの合計100質量部に対する重合性オリゴマーの含有量は、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、より更に好ましくは25質量部以上であり、上限として好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、より更に好ましくは35質量部以下である。
【0099】
(樹脂組成物)
艶消層は、上記シワ形成安定剤を所定含有量で含む樹脂組成物の硬化物により構成されることが好ましく、樹脂組成物は、好ましくは上記樹脂と、上記シワ形成安定剤を所定含有量で含むものである。本開示で用いられる樹脂組成物は、上記シワ形成安定剤及び樹脂の他、所望の性能等に応じて、他の成分を含んでもよい。
【0100】
上記樹脂が紫外線により硬化する紫外線硬化性樹脂である場合、光重合開始剤、光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、紫外線を用いても(電離放射線を用いなくても)樹脂を硬化させることができ、実用に資する表面特性が得られる。
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサントン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0101】
艶消層は本開示の積層体の最表面に設けられ得る層であることから、耐候性を有する層であることが好ましく、例えば紫外線吸収剤、光安定剤等の各種耐候剤を含むことが好ましい。
紫外線吸収剤としては、化粧材、化粧シート等に汎用される紫外線吸収剤を特に制限なく用いることができ、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。光安定剤としても、化粧材、化粧シート等に汎用される光安定剤を特に制限なく用いることができ、例えばピペリジニルセバケート系光安定剤等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。また、これらの紫外線吸収剤、光安定剤は、分子中に(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性二重結合を有する反応性官能基を有するものであってもよい。
これらの紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0102】
〔60°グロス値及び85°グロス値〕
本開示の積層体は、優れた艶消効果の視認性及び質感を有する積層体である。本明細書において「艶消」は、光沢を視認しにくいことを意味し、積層体の色調、柄等によりかわるため一概にはいえないが、例えば60°グロス値が20.0以下、好ましくは10.0以下程度であれば一般的に「艶消」と扱うものとする。
【0103】
これまで、例えば黒色その他暗色を呈する積層体では、艶消剤を用いても60°グロス値が20.0以下、好ましくは10.0以下という優れた艶消効果の視認性を得るのは可能ではあった。ここで、「暗色」とは、明度が低く、例えばJIS Z8781-4:2013に準拠して測定されるCIE(国際照明委員会)L*a*b*表色系におけるL*値(以下、単に「L*値」と称することがある。)が、通常40以下程度、好ましくは30以下であることを意味する。
しかし、艶消剤を多く使用することから、層形成時のスジ、ムラが発生するため容易に製造できるものではなく、また表面特性が低下するものとなっていた。また例えば黒色その他暗色以外の色調を呈する積層体についても、艶消剤を用いても60°グロス値の数値に下限があり、黒色を呈する積層体と同様であり、いずれにしても表面特性に優れ、また艶消効果の視認性及び質感にも優れる積層体を容易に得られなかった。このような傾向は、60°グロス値を小さくするほど顕著となる。
【0104】
本開示の積層体では、所定の平均粒子径を有するシワ形成安定剤を組み合わせて用い、かつその含有量を既述のように少量とすることにより、安定的に極めて優れた艶消効果の視認性及び質感が得られるに至っただけでなく、滑るような触感も得られている。また、シワ形成安定剤の使用量を極めて少量に抑えることで、樹脂組成物の著しい粘度上昇を抑えられることにより、層形成が容易となり、艶消層に用いられる樹脂の特性に応じた、優れた耐汚染性、耐擦傷性、耐候性等の表面特性を自ずと有するものとなる。
【0105】
本開示の積層体は、既述のように色調に応じてかわるため一概に規定することはできないが、例えば黒色その他暗色を呈する場合は、前記艶消層側の60°グロス値として10.0以下、更に7.5以下、5.0以下、4.0以下、3.5以下と極めて優れた艶消効果の視認性を発現し得るものである。
【0106】
また、黒色その他暗色以外の色調を呈する積層体についても、上記60°グロス値を有し得るものである。本開示の積層体の前記艶消層側の60°グロス値は、積層体の最表面を形成する層の表面の60°グロス値と実質的に同じであり、更に他の層を有しない限り、艶消層の表面の60°グロス値となる。更に他の層を有し、かつ艶消層より表面側に他の層が設けられる場合、60°グロス値は他の層の60°グロス値を意味することとなるが、本開示の積層体が特定の60°グロス値を有するのは、実質的には艶消層の構成によるものである。
本明細書において、艶消層側の60°グロス値は、JIS K 5600-4-7:1999に準拠して測定した60°鏡面光沢度のことであり、任意の10箇所におけるグロスメータ等を用いて艶消層側から測定し得る値の平均値である。
【0107】
また、本開示の積層体は、85°グロス値として、好ましくは25.0以下、より好ましくは20.0以下であり、この点からも「艶消」と扱うことができる。なお、本開示の積層体の85°グロスが極めて低い、例えば7.0程度を下回る場合、艶消層が不規則なシワにより構成される凹凸形状以外にも、例えばマクロな凹凸(ユズ肌、梨地状等)を形成している傾向が見られる。そのため、本開示の積層体において良好としている滑りやすい触感を達成するには、必ずしも値が低いほど好ましいという訳ではなく、実質下限値が存在することはいうまでもない。
本開示の積層体は、既述のように色調に応じてかわるため一概に規定することはできないが、例えば黒色その他暗色を呈する場合は、前記艶消層側の85°グロス値として、上記の25.0以下、20.0以下、さらに15.0以下と極めて優れた艶消効果の視認性を発現し得るものである。また、60°グロス値と同様に、85°グロス値について、黒色その他暗色以外の色調を呈する積層体についても、上記85°グロス値を有し得るものである。
85°グロス値は、60°グロス値と同様、JIS K 5600-4-7:1999に準拠して測定される85度鏡面光沢度であり、任意の10箇所におけるグロスメータ等を用いて艶消層側から測定し得る値の平均値である。
【0108】
〔装飾層〕
本開示の積層体は、意匠性を向上させるため、装飾層を有する。装飾層は、上記の基材と艶消層との間に設けられる層である。また、後述する透明性樹脂層を有する場合、基材、装飾層、透明性樹脂層及び艶消層の順に設ければよい。
【0109】
装飾層は、例えば、全面を被覆する着色層であってもよいし、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される絵柄層であってもよい。ここで、「全面を被覆する着色層」は、「ベタ着色層」とも称され、
図2及び3中の「6a」によって示される層であり、「絵柄層」は
図2及び3中の「6b」で示される。また、
図2及び3に示されるように、ベタ着色層と絵柄層とを組み合わせたものであってもよい。
【0110】
絵柄層の絵柄(模様)としては、特に制限なく所望に応じた絵柄を採用すればよく、例えば木材板表面の年輪や導管溝等の木目柄、大理石、花崗岩等の石板表面の石目柄、布帛表面の布目柄、皮革表面の皮シボ柄、幾何学模様、文字、図形、またこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。
また、「滑るような触感」を有するものとして例示した、布地、金属の表面、ベビースキンの絵柄である、各々布目柄、ヘアライン等の金属表面加工の柄、革シボ柄等の絵柄も好ましく挙げられる。本開示の積層体の「滑るような触感」と、「滑るような触感」を有する物の絵柄と、を組み合わせることで、よりリアルな意匠を表現することができる。
【0111】
装飾層に用いられるインキとしては、バインダー樹脂に顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜混合したものが使用される。
装飾層のバインダー樹脂としては特に制限はなく、例えば、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等の樹脂が挙げられる。また、1液硬化型樹脂、イソシアネート化合物等の硬化剤を伴う2液硬化型樹脂など、種々のタイプの樹脂を用いることができる。
【0112】
着色剤としては、隠蔽性及び耐候性に優れる顔料が好ましい。顔料は基材に用いられ得る顔料として例示したものと同様のものを用いることができる。
着色剤の含有量は、装飾層を構成する樹脂100質量部に対して、5質量部以上90質量部以下が好ましく、15質量部以上80質量部以下がより好ましく、30質量部以上70質量部以下がさらに好ましい。
【0113】
装飾層は、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤、着色剤等の添加剤を含有してもよい。
装飾層の厚さは、所望の絵柄に応じて適宜選択すればよく、被着材の地色を隠蔽し、かつ意匠性を向上させることを考慮すると、0.5μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましく、2μm以上5μm以下が更に好ましい。
【0114】
〔全光線透過率〕
本開示の積層体は、既述のように透明ではない材料により構成される基材、後述する装飾層等が採用される場合があり、また外装用部材、内装用部材等の用途に用いられ得るものである。上記基材、また後述する装飾層を有すること、また上記用途に用いられる場合を考慮すると、本開示の積層体の、JIS K7361-1:1997に準拠して測定した全光線透過率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下である。
本明細書において、積層体の全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準拠して測定した全光線透過率のことであり、任意の10箇所における測定の平均値である。
【0115】
〔その他の層〕
本開示の積層体は、上記基材、艶消層及び装飾層の他、その他の層として、例えばプライマー層、透明性樹脂層、接着層等を必要に応じて有し得る。これらの層を有する本開示の積層体の一実施形態を示す断面図を
図3に示す。
図3は、本開示の積層体の一実施形態を示す断面図であり、積層体1をその厚さ方向に平行な面で切断した断面図である。ここで、「厚さ方向」は、
図3におけるZ方向のことを意味する。
図3に示される艶消化粧材1は、基材5、装飾層6、接着層7、透明性樹脂層8、プライマー層9及び艶消層4を順に有している。
【0116】
(プライマー層)
本開示の積層体は、例えば複数の層により構成される場合、複数の層の層間密着性を向上させるために、プライマー層を有してもよい。
例えば艶消層と基材との間、また
図3に示されるように透明性樹脂層と艶消層との間に、層間密着性の向上のため、プライマー層を設けることができる。
【0117】
プライマー層は、主としてバインダー樹脂から構成され、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含有してもよい。
【0118】
バインダー樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、ポリカーボネート系ウレタン-アクリル共重合体(ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端、側鎖に2個以上の水酸基を有する重合体(ポリカーボネートポリオール)由来のウレタン-アクリル共重合体)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂(硝化綿)、酢酸セルロース樹脂等の樹脂が好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
また、バインダー樹脂は、これら樹脂に、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤等の硬化剤を添加し、架橋硬化したものであってもよい。これらの中でも、アクリルポリオール樹脂等のポリオール系樹脂をイソシアネート系硬化剤で架橋硬化したものが好ましく、アクリルポリオール樹脂をイソシアネート系硬化剤で架橋硬化したものがより好ましい。
【0119】
プライマー層の厚さは、0.1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上8μm以下がより好ましく、2μm以上6μm以下がさらに好ましい。
【0120】
本開示の積層体は、樹脂成形品等の被着材との接着性の向上等を目的として、基材を有する場合は、基材の艶消層が設けられる側とは反対側に、プライマー層(「裏面プライマー層」とも称される。)を有することもできる。
【0121】
(透明性樹脂層)
本開示の積層体は、その強度を高めるため、また装飾層の保護等の観点から、透明性樹脂層を有してもよい。透明性樹脂層は、装飾層を保護するため、装飾層と艶消層との間に設ければよい。
【0122】
透明性樹脂層を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下、「ABS樹脂」とも称される。)、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、これらの中でも後加工適性等の観点からポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂が好ましい。また、これらの各種樹脂を2種類以上積層して、又は混合して使用してもよい。
【0123】
透明性樹脂層は、装飾層を視認できる程度に透明であればよく、無色透明の他、着色透明及び半透明であってもよい。すなわち、本明細書において、「透明性」とは、無色透明の他、着色透明及び半透明も含むことを意味する。
【0124】
透明性樹脂層は、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤、また着色剤等の添加剤を含有してもよい。
透明性樹脂層の厚さは、装飾層の保護、また後加工適性等を考慮すると、20μm以上150μm以下が好ましく、40μm以上120μm以下がより好ましく、60μm以上100μm以下が更に好ましい。
【0125】
(接着剤)
本開示の積層体が、基材と透明性樹脂層を有する場合、基材と透明性樹脂層との間には、両層の密着性を向上するために接着層を有してもよい。
また、接着層と装飾層との位置関係は特に限定されず、具体的には、基材に近い側から装飾層、接着層及び透明性樹脂層をこの順に有していてもよいし、基材に近い側から接着層、装飾層及び透明性樹脂層をこの順に有していてもよい。
【0126】
接着層は、例えば、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等の接着剤から構成することができる。これら接着剤の中でも、ウレタン系接着剤が接着力の点で好ましい。
ウレタン系接着剤としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等の各種ポリオール化合物と、イソシアネート化合物等の硬化剤とを含む2液硬化型ウレタン樹脂を利用した接着剤が挙げられる。
【0127】
接着層の厚さは、効率よく所望の接着力を得るため、0.1μm以上30μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下がより好ましく、2μm以上10μm以下がさらに好ましい。
【0128】
[積層体の製造方法]
本開示の積層体の第一の製造方法は、基材上に装飾層を設ける装飾層形成工程、前記装飾層上に、硬化性樹脂及びシワ形成安定剤を含む艶消層形成用の樹脂組成物を塗布し、少なくとも100nm以上380nm以下の波長光で照射して艶消層を形成する艶消層形成工程を備える、ことを特徴とするものである。
第一の製造方法により、例えば
図2に示されるような、基材、装飾層及び艶消層を順に有し、艶消層の装飾層とは反対側の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、かつ特定のRSm(曲線要素の平均長さ)及びSku(クルトシス)を有する積層体を製造することができる。
【0129】
本開示の積層体の製造方法において、艶消層の形成にあたり、少なくとも100nm以上380nm以下という低波長の紫外線を、艶消層を形成するシワ形成安定剤を含む艶消形成用の樹脂組成物に照射することが肝要である。上記低波長の紫外線を照射して硬化させることにより、艶消層の少なくとも一方の表面に、不規則なシワを形成させることができ、積層体(艶消層)に艶消効果及び滑るような触感を付与することが可能となる。
【0130】
このような低波長の紫外線を、艶消層形成用の樹脂組成物に照射することにより、艶消層の少なくとも一方の表面においてシワが形成し艶消効果及び滑るような触感が発現する機構についての詳細は不明であるが、以下の機構によるものと推察される。
【0131】
艶消層形成用の樹脂組成物を所定の厚さで塗布した塗布層に低波長の紫外線を照射すると、紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、樹脂組成物の表面部分だけが硬化をはじめる。そのため、表面だけが硬化収縮を生じることとなり、不規則なシワが形成するものと考えられる。このように、不規則なシワの形成は、低波長の紫外線の照射により、艶消層形成用の樹脂組成物の表面からの一定の厚み方向のみが硬化した状態において生じていると考えられる。
【0132】
また、後述する実施例と比較例との対比より、シワ形成安定剤を含まない場合に不規則なシワの形成が不安定となり、艶消効果の視認性及び質感が艶消層の全面にわたって安定して、十分な程度には発現せず、また滑るような触感を十分に発現しない。このことから、艶消効果及び滑るような触感の安定的な発現は、低波長の紫外線による表面部分のみの硬化だけでは説明できない。すなわち、本開示の積層体が不規則なシワを安定的に有することで艶消効果及び滑るような触感を発現するには、シワ形成安定剤が含まれることが必要不可欠である。
シワ形成安定剤を含まない場合に不規則なシワの形成による安定的な艶消効果及び滑るような触感が得られていないことを考慮すると、シワ形成安定剤がシワ形成のきっかけとなる核のような機能を有しており、核を中心に、上記樹脂組成物の表面部分の樹脂が集まりシワの凸部(突起部)と、凸部(突起部)の形成とともに凹部が形成する。そして、その結果として不規則なシワの形成が安定し、安定的に艶消効果及び滑るような触感が発現するものと考えられる。
【0133】
本開示の製造方法で用いられるシワ形成安定剤、シワ形成安定剤を含む艶消層形成用の樹脂組成物は、上記の本開示の積層体で用いられ得るシワ形成安定剤、艶消層形成用の樹脂組成物として説明した内容と同じである。
【0134】
本開示の製造方法において、艶消層形成用の樹脂組成物を少なくとも100nm以上380nm以下の波長光で照射する。この照射により、既述のように紫外線のエネルギーが表面部分のみに浸透し、それより下層にはエネルギーが到達しないことにより、樹脂組成物の表面部分だけが硬化をはじめる。そのため、表面だけが硬化収縮を生じることで不規則なシワの形成が安定し、樹脂組成物表層は硬化物となり、艶消層を構成するものとなる。そして、かかる後、硬化の進行が遅い表面近傍部分から深さ方向に離れた深奥部分への硬化が進み、樹脂組成物の層は硬化物となり、もって樹脂組成物の全厚さにわたり硬化し、かつ表面に光拡散効果を発現し、滑るような触感を発現する不規則なシワを有する艶消層を構成するものとなる。深奥部分への硬化の進行を促進するには、後述するように、100nm以上380nm以下の波長光で照射した後、さらに他の照射処理を行うことが好ましい。
【0135】
少なくとも100nm以上380nm以下の波長光としては、例えば、Ar、Kr、Xe、Ne等の希ガス、F、Cl、I、Br等のハロゲンによる希ガスのハロゲン化物等ガス、又はこれらの混合ガスの放電によって形成される励起状態の2量体、すなわちエキシマ(excimer)からの紫外線波長域の光を含む「エキシマ光」が好ましい。エキシマ光の波長及び光源となるエキシマとしては、例えばAr2のエキシマから輻射される波長126nmの光(以下、「126nm(Ar2)」のように略称する。)、146nm(Kr2)、157nm(F2)、172nm(Xe2)、193nm(ArF)、222nm(KrCl)、247nm(KrF)、308nm(XeCl)、351nm(XeF)等の波長光を好ましく採用することができる。エキシマ光としては、自然放出光、誘導放出によるコヒーレンス(可干渉性)の高いレーザ光のいずれを用いることができるが、通常自然放出光を用いれば十分である。なお、光(紫外線)を放射する放電ランプは、「エキシマランプ」とも称されている。
エキシマ光は波長ピークが単一であり、また通常の紫外線(例えば、メタルハライドランプ、水銀ランプ等から放射される紫外線)と比べて波長の半値幅が狭いことが特徴として挙げられる。このようなエキシマ光を用いることで、不規則なシワの形成が安定し、安定的に艶消効果が向上し、滑るような触感も向上する。
【0136】
不規則なシワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、滑るような触感を向上させるため、波長としては好ましくは120nm以上、より好ましくは140nm以上、更に好ましくは150nm以上、より更に好ましくは155nm以上であり、上限として好ましくは320nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは250nm以下、より更に好ましくは200nm以下であり、最も好ましくは、172nm(Xe2)である。このように、本開示では、安定的に艶消効果を向上させ、滑るような触感を向上させるため、より短波長の波長光を用いることが好ましく、中波長紫外線(波長:280~320nm)、短波長紫外線(波長:280nm以下)がより好ましく、短波長紫外線が更に好ましい、ともいえる。
【0137】
本開示において、上記波長光の積算光量は、不規則なシワの形成を安定させて、安定的に艶消効果を向上させ、滑るような触感を向上させる観点から、好ましくは1mJ/cm2以上、より好ましくは10mJ/cm2以上、更に好ましくは30mJ/cm2以上、より更に好ましくは50mJ/cm2以上である。また上限としては特に制限はなく、波長光の照射に必要な灯数を低減し、また生産効率の向上等の生産性を考慮すると、好ましくは1,000mJ/cm2以下、より好ましくは500mJ/cm2以下、更に好ましくは300mJ/cm2以下である。これと同様の理由から、紫外線出力密度は、好ましくは0.001W/cm以上、より好ましくは0.01W/cm以上、更に好ましくは0.03W/cmであり、上限として好ましくは10W/cm以下、より好ましくは5W/cm以下、更に好ましくは3W/cm以下である。
また、上記波長光を照射する際の酸素濃度は、より低いことが好ましく、好ましくは1,000ppm以下、より好ましくは750ppm以下、更に好ましくは500ppm以下、より更に好ましくは300ppm以下である。
【0138】
本開示の積層体の製造方法における艶消層形成工程では、上記の少なくとも100nm以上380nm以下の波長光での照射の他、艶消層形成用の樹脂組成物の硬化に寄与する他の処理を行ってもよい。
例えば、既述の表面部分と表面から深さ方向に離れた深奥部分の硬化の進行度合いの違いによる不規則なシワの形成を安定させ、かつ深奥部分への硬化の進行を促進させるため、例えば380nmを超える波長光、好ましくは385nm以上400nm以下程度の波長光で予め照射して艶消層形成用の樹脂組成物を全体的に予備硬化させた後に、100nm以上380nm以下の波長光で照射してもよいし、また100nm以上380nm以下の波長光での照射後に、樹脂組成物を更に硬化させるために後硬化を行ってもよい。予備硬化、後硬化については、艶消層に求められる、例えば加工特性、耐汚染性等の表面特性等の所望の性状に応じて採用の要否を適宜決めればよい。また、上記波長光は紫外線に属するものであるが、紫外線に限らず他の電離放射線、例えば電子線等を用いることも可能である。例えば、後硬化においては、艶消層の表面特性の向上の観点から、電子線が好ましく用いられ得る。
【0139】
本開示の製造方法において、艶消層は、艶消層形成用の樹脂組成物を、インクジェット法、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等の公知の方式で、特に滑るような触感を向上させるためにはインクジェット法、グラビア印刷法による方式で塗布した塗布層(未硬化樹脂層)を、少なくとも100nm以上380nm以下の波長光で照射して形成することができる。
【0140】
また、本開示の製造方法で得られる積層体は、上記の本開示の積層体で採用し得る層として説明した、基材、装飾層の他、透明性樹脂層等の他の層を有し得る。
例えば、接着層及びプライマー層は、各層を形成する組成物を含む塗布液を、上記の公知の方式で塗布し、必要に応じて、乾燥、硬化することにより形成することができる。また、透明性樹脂層を形成する場合は、透明性樹脂層を形成する樹脂フィルムをドライラミネート等により形成することができる。
【0141】
(用途)
本開示の積層体は、後述するようにそのまま化粧部材として、また被着材に積層させて化粧部材として用いることができる。
【0142】
また、本開示の積層体は、賦型シート、転写シートとして用いることもできる。賦型シートとして用いる場合、エンボス加工に用いられるエンボス版、賦型シート等として用いることができ、これにより本開示の積層体が有する表面形状が賦型された化粧部材、熱硬化性樹脂化粧板等を製造することができる。
【0143】
〔化粧部材〕
本開示の積層体は、そのまま化粧部材として用いることもできるし、また被着材と積層、複合、又は組み合わせて化粧部材として用いることも可能である。いずれとするかは、所望に応じて決定すればよい。本開示の積層体は、基材としてシート状の基材を採用し、化粧シートとして使用することが好ましい。
【0144】
被着材を有する場合、化粧部材は、被着材と上記の本開示の積層体とを有するものであり、具体的には、被着材の装飾を要する面と、積層体の基材とを対向させて積層したものである。また、被着材を有する場合、積層のしやすさを考慮すると、本開示の積層体はフィルム又はシート形態を有していることが好ましい。
【0145】
(被着材)
被着材としては、各種素材の平板、曲面板等の板材、円柱、多角柱等の立体形状物品、シート(又はフィルム)等が挙げられる。例えば、杉、檜、松、ラワン等の各種木材から成る木材単板、木材合板、集成材、パーティクルボード、MDF(中密度繊維板)等の木質繊維板等の板材や立体形状物品等として用いられる木質部材;鉄、アルミニウム、銅、及びこれら金属の1種以上を含む合金等の金属からなる板材、立体形状物品、又はシート等として用いられる金属部材;ガラス、陶磁器等のセラミックス、石膏、セメント、ALC(軽量気泡コンクリート)、珪酸カルシウム系等の非セラミックス窯業系材料から成る板材や立体形状物品等として用いられる窯業部材;アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ゴム等の樹脂から成る板材、立体形状物品、及びシート等として用いられる樹脂部材等が挙げられる。また、これらの部材は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0146】
被着材は、上記の中から用途に応じて適宜選択すればよく、壁、天井、床等の建築物の内装用部材又は外壁、屋根、軒天井、柵、門扉等の外装用部材、窓枠、扉、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材を用途とする場合は、木質部材、金属部材及び樹脂部材から選ばれる少なくとも一種の部材からなるものが好ましく、玄関ドア等の外装部材、窓枠、扉等の建具を用途とする場合は、金属部材及び樹脂部材から選ばれる少なくとも一種の部材からなるものが好ましい。
【0147】
被着材の厚さは、用途及び材料に応じて適宜選択すればよく、0.1mm以上100mm以下が好ましく、0.3mm以上5mmがより好ましく、0.5mm以上3mm以下が更に好ましい。
【0148】
(接着剤層)
被着材と積層体とは、優れた接着性を得るため、接着剤層を介して貼着されることが好ましい。
【0149】
接着剤層に用いられる接着剤としては、特に限定されず、公知の接着剤を使用することができ、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、湿気硬化型接着剤、嫌気硬化型接着剤、乾燥硬化型接着剤、UV硬化型接着剤、感熱接着剤(例えば、ホットメルト型接着剤)、感圧接着剤等の接着剤が好ましく挙げられる。
【0150】
これらの接着剤に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、スチレン-アクリル共重合、ポリエステル樹脂、アミド樹脂、シアノアクリレート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。また、イソシアネート化合物等を硬化剤とする2液硬化型のウレタン系接着剤、エステル系接着剤も適用し得る。
また、接着剤層には、粘着剤を用いることもできる。粘着剤としては、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ゴム系等の各種粘着剤を適宜選択して用いることができる。
【0151】
接着剤層の厚さは特に制限はないが、優れた接着性を得るため、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましく、10μm以上30μm以下が更に好ましい。
【0152】
〔全光線透過率〕
本開示の積層体を用いた化粧部材は、既述のように積層体が透明ではない材料により構成される基材、装飾層等を備える場合、また透明ではない材料により構成される被着材が採用される場合があり、また外装用部材、内装用部材等の用途に用いられ得るものである。以上を考慮すると、本開示の積層体を用いた化粧部材の、JIS K7361-1:1997に準拠して測定した全光線透過率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0153】
(化粧部材の製造方法)
化粧部材は、本開示の積層体と被着材とを積層する工程を経て製造することができる。
本工程は、被着材と、本開示の積層体とを積層する工程であり、被着材の装飾を要する面と、本開示の積層体の基材側の面とを対向させて積層する。被着材と積層体との積層する方法としては、例えば、接着剤層を介して積層体を板状の被着材に加圧ローラーで加圧して積層するラミネート方法等が挙げられる。
【0154】
接着剤としてホットメルト接着剤(「感熱接着剤」とも称される。)を用いる場合、接着剤を構成する樹脂の種類にもよるが、加温温度は160℃以上200℃以下が好ましく、反応性ホットメルト接着剤では100℃以上130℃以下が好ましい。また、真空成形加工の場合は加熱しながら行うことが一般的であり、80℃以上130℃以下が好ましく、より好ましくは90℃以上120℃以下である。
【0155】
以上のようにして得られる化粧部材は、任意切断し、表面や木口部にルーター、カッター等の切削加工機を用いて溝加工、面取加工等の任意加飾を施すことができる。そして種々の用途、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装用部材;外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材;窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材;また、箪笥、棚、机等の一般家具;食卓、流し台等の厨房家具;家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板;車両の内装又は外装用部材等として好適に用いられる。
【0156】
また、上記の建築物等に用いられる化粧部材の他、本開示の積層体は、そのまま単体で、又は積層体を他の素材(被着材)と積層、複合、又は組み合わせた形態で、包装材料、白板(ホワイトボード)又は黒板、クレジットカード、キャッシュカード、テレフォンカード、各種証明書類等の各種カード、各種キーボードの鍵盤、窓、扉、間仕切り等の透明板(窓硝子等)、人工皮革等に用いることができる。これらの用途において、通常は艶消効果及び滑るような触感を発現する、本開示の積層体が最表面に配置される形態とすることが好ましいが、用途、使用目的等に応じて、その他使用形態とすることももちろん可能である。
【0157】
(本開示の積層体)
以上説明してきた本開示の積層体は、以下のとおりである。
1.基材、装飾層及び艶消層を順に有し、
前記艶消層の前記装飾層とは反対側の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、
前記表面における測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像において、
RSm(曲線要素の平均長さ)が20.00μm以上であり、かつ
前記測定画像における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.00以下である、
積層体。
2.前記測定画面において、輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)が、5.00μm以上である上記1に記載の積層体。
3.前記測定画面において、輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、3.00μm以下である上記1又は2に記載の積層体。
4.前記不規則なシワが、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、前記複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部とにより構成される、上記1~3のいずれか1に記載の積層体。
5.前記艶消層が、樹脂及びシワ形成安定剤を含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記シワ形成安定剤が前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とする平均粒子径を有し、前記シワ形成安定剤を、前記樹脂100質量部に対して0.5質量部以上で含むものである上記1~4のいずれか1に記載の積層体。
6.前記基材がシート状である上記1~5のいずれか1に記載の積層体。
7.前記艶消層が、前記基材の一方の面の全面にわたって設けられる上記1~6のいずれか1に記載の積層体。
8.前記表面形状の60°グロス値が、20.0以下である上記1~7のいずれか1に記載の積層体。
9.JIS K7361-1:1997に準拠して測定した全光線透過率が、20%以下である上記1~8のいずれか1に記載の積層体。
10.化粧シートとして用いられる上記1~9のいずれか1に記載の積層体。
【実施例】
【0158】
次に、本開示を実施例により、さらに詳細に説明するが、本開示は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0159】
(表面性状の測定)
実施例及び比較例で得られた積層体の、RSm(曲線要素の平均長さ)、Sku(クルトシス)、Rz(最大高さ)及びRa(算術平均粗さ)は、積層体の表面形状の任意の1箇所及びその周辺8箇所の合計9箇所の測定領域(1箇所の測定領域は縦204μm×横272μmである。)について、形状解析レーザ顕微鏡(「VK-X150(制御部)/VK-X160(測定部)」、株式会社キーエンス製)を用い、対物レンズ:50倍、レーザ波長:658nm、測定モード:表面形状モード、測定ピッチ:0.13μm、測定品質:高速モードにて測定した。ここで、Sku(クルトシス)については、測定領域に対応する測定画面における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)とした。また、1箇所の測定領域における表面性状のうち、RSm(曲線要素の平均長さ)、Rz(最大高さ)及びRa(算術平均粗さ)は、前記1か所の測定領域に対応する測定画面において、縦方向に8の断面、横方向に7の断面について測定して得られた各種表面性状の平均値とし、これを任意の9箇所について同様に行った。そして9箇所における表面性状の平均値を、積層体の各種表面性状とした。
また、RSm(曲線要素の平均長さ)、Rz(最大高さ)及びRa(算術平均粗さ)のカットオフ値は0.8mmとした。
【0160】
(評価方法:60°グロス値及び85°グロス値)
実施例及び比較例で得られた積層体について、グロスメータ(「マイクログロス(機種名)」、BYKガードナー社製)を用いて、任意の10箇所について、JIS K5600-4-7:1999に準拠して60°鏡面光沢度(60°グロス値)及び85°鏡面光沢度(85°グロス値)を測定した。
【0161】
(質感(面状態の均一性)の評価)
実施例及び比較例で得られた積層体について、任意の成人20人に表面の質感(面状態の均一性)について評価させて、以下の基準で評価した。
A:18人以上が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。
B:15人以上17人以下が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。
C:14人以下が、面状態が均一であり、艶消効果の視認性が高いと評価した。
【0162】
(滑るような触感の評価)
実施例及び比較例で得られた積層体について、滑るような触感の基準となる触感の基準として刺繍、地模様等を有しない無地のサテン生地を用い、任意の成人20人に表面の触感について評価させて、以下の基準で評価した。
A:18人以上が、基準に近い触感であり、手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感であると評価した。
B:15人以上17人以下が、基準に近い触感であり、手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感であると評価した。
C:14人以下が、基準に近い触感であり、手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感であると評価した。
【0163】
[実施例1]
コロナ放電処理を施したポリプロピレンシート(厚さ:60μm)を基材とし、基材の一方の面に、印刷インキ(バインダー樹脂:2液硬化型アクリル-ウレタン樹脂)をグラビア法で塗布して着色層及び絵柄層からなる装飾層(厚さ:3μm)を設け、装飾層上に、2液硬化型アクリル-ウレタン樹脂含む樹脂組成物を塗布してプライマー層(厚さ:2μm)を設け、プライマー層上に、艶消層形成用の樹脂組成物(多官能ウレタンアクリレートオリゴマー1(平均官能基数:3、平均分子量:2400)30質量部、多官能アクリレートモノマー1(2官能、分子量:296):40質量部、単官能アクリレートモノマー(分子量:226):30質量部、シワ形成安定剤1(シリカ粒子、平均粒子径:4μm):5.0質量部、光重合開始剤(ベンゾフェノン系):0.8質量部)を、グラビア法により全面に塗布した(塗布量:5g/m2(乾燥時)、艶消層厚さ:5μm)。
次いでLEDから構成されるUV照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:395nm、紫外線量:6W/cm2)、エキシマ光照射装置を用いて紫外線を照射し(波長:172nm(Xe2)、紫外線出力密度:1W/cm、積算光量:10~100mJ/cm2、窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下))、更に高圧水銀灯を用いて照射して(紫外線出力密度:200W/cm)、艶消層を設け、基材、装飾層、プライマー層及び艶消層を順に有する積層体を得た。得られた積層体について、艶消層側から60°グロス値及び85°グロス値を測定したところ、各々2.0及び17.3であった。また、上記の方法により表面性状の測定、質感及び触感の評価を行った。これらの結果を第1表に示す。
【0164】
[実施例2]
実施例1において、艶消層形成用の樹脂組成物に含まれる多官能ウレタンアクリレートオリゴマー1を多官能ウレタンアクリレートオリゴマー2(平均官能基数:3、平均分子量:1590)30質量部、多官能アクリレートモノマー1を多官能アクリレートモノマー2(2官能、分子量:1342)30質量部、単官能アクリレートモノマーを40質量部に変更し、シワ形成安定剤1(シリカ粒子、平均粒子径:4μm)の添加量を2.0質量部、さらにシワ形成安定剤2(シリカ粒子、平均粒子径:20nm)3.0質量部を用い、艶消層形成用の樹脂組成物の塗布を、グラビア法による全面塗布から、インクジェット法によりパターン状の塗布(平均直径70μmの円形の空白部分(未塗布部分)をランダムに有する模様)とした以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。なお、空白部分の中心から、隣接する空白部分までの長さは100~300μmの範囲内とした。
得られた積層体について、上記の方法により、艶消層側の60°グロス値、85°グロス値、表面性状の測定を行い、また質感及び触感の評価を行った。これらの結果を第1表に示す。
【0165】
[実施例3]
実施例2において、艶消層形成用の樹脂組成物に含まれる樹脂成分について、多官能ウレタンアクリレートオリゴマー2及び多官能アクリレートモノマー2を、各々多官能ウレタンアクリレートオリゴマー1及び多官能アクリレートモノマー1に変更した以外は、実施例2と同様にして、積層体を得た。
【0166】
[比較例1]
実施例1において、艶消層形成用の樹脂組成物に含まれる樹脂成分を、多官能ウレタンアクリレートオリゴマー1(平均官能基数:3、平均分子量:2400)40質量部及び多官能アクリレートモノマー2(2官能、分子量:1342)30質量部とし、シワ形成安定剤の使用量を0質量部、すなわちシワ形成安定剤を使用せず、代わりに艶消剤(平均粒子径:8.0μm)を10質量部使用した以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。
得られた積層体について、上記の方法により、艶消層側の60°グロス値、85°グロス値、表面性状の測定を行い、また質感及び触感の評価を行った。これらの結果を第1表に示す。
【0167】
[比較例2]
実施例1において、艶消層形成用の樹脂組成物に含まれる樹脂成分を、多官能ウレタンアクリレートオリゴマー2(平均官能基数:3、平均分子量:1590)20質量部、多官能ウレタンアクリレートオリゴマー3(平均官能基数:3、平均分子量:3000)20質量部、及び多官能アクリレートモノマー1(2官能、分子量:296)30質量部とした以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。
得られた積層体について、上記の方法により、艶消層側の60°グロス値、85°グロス値、表面性状の測定を行い、また質感及び触感の評価を行った。これらの結果を第1表に示す。
【0168】
【0169】
第1表の結果から、本開示の積層体は、その艶消層側の60°グロス値が1.5~2.2となっており、艶消効果の視認性に極めて優れた積層体であり、質感にも優れるものであることが確認された。滑るような触感にも優れたものであることも確認された。また、実施例1の積層体は、その表面の少なくとも一部に艶消層が設けられたものであるが、優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつ滑るような触感に優れていることが確認された。
一方、シワ形成安定剤を含まない比較例1の積層体は、艶消剤を10.0質量部と実施例におけるシワ形成安定剤の含有量より多い量を含有させても、表面に不規則なシワの形成がなく、質感にも劣るものであり、表面形状としては、Sku(クルトシス)が大きいために滑るような触感に乏しいものであることが確認された。また、比較例1の積層体の触感は、滑るような触感に乏しく、むしろざらざらした触感であった。比較例2の積層体も、特にSku(クルトシス)が大きいために滑るような触感に乏しく、また質感にも劣るものであることが確認された。
【0170】
図4~6は、各々実施例1、2及び比較例1の積層体の1箇所の測定領域(縦204μm×横272μm)における形状解析レーザ顕微鏡による測定画面である。
実施例1及び2の積層体の表面形状は、
図4及び5に示されるように、不規則なシワによる凹凸形状が確認されており、滑るような触感が得られていることが分かる。
【0171】
他方、比較例1の積層体の表面形状は、
図6に示されるように、艶消剤に起因するものと思われる部分的に凸部が所々に現れており、また凸部の幅が広すぎるため、滑るような触感を有するものとはならなかった。
このように、測定画面からも、本開示の積層体は、その表面に不規則なシワによる凹凸形状を有しており、この凹凸形状により優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつ滑るような触感にも優れるという効果を発現することが確認された。
【0172】
また、
図7~9は、各々実施例1、2及び比較例1の積層体の9箇所の測定領域(1箇所の測定領域は縦204μm×横272μmである。)における形状解析レーザ顕微鏡による測定画面を連結したものである(一部重複部分があったため、連結した測定画面は縦545μm×横743μmの測定領域に該当する。)。このように連結した測定画面を観察することで、各例で得られた積層体の不規則なシワによる凹凸形状を俯瞰することができる。なお、この測定画面について、縦方向に25の断面、横方向に20の断面について測定した以外は、上記(表面性状の測定)と同様にして測定した各種表面性状は、上記第1表に記載される表面性状の数値とほぼ同じとなった。よって、積層体の不規則なシワによる凹凸形状の把握、また表面性状の測定において、9箇所の測定領域の測定画面を連結する手法は有効といえる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本開示の積層体は、優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつ滑るような触感に優れているため、種々の用途、例えば壁、天井、床等の建築物の内装用部材;外壁、軒天井、屋根、塀、柵等の外装用部材;窓枠、扉、扉枠、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具又は造作部材;また、箪笥、棚、机等の一般家具;食卓、流し台等の厨房家具;家電、OA機器等のキャビネット等の表面化粧板;車両の内装又は外装用部材等の各種部材用の化粧部材として、好適に用いられる。
また、上記の建築物等に用いられる化粧部材の他、本開示の積層体は、そのまま単体で、又は積層体を他の素材(被着材)と積層、複合、又は組み合わせた形態で、包装材料、白板(ホワイトボード)又は黒板、クレジットカード、キャッシュカード、テレフォンカード、各種証明書類等の各種カード、各種キーボードの鍵盤、窓、扉、間仕切り等の透明板(窓硝子等)、人工皮革等としても好適に用いられる。
【符号の説明】
【0174】
1:積層体
2:凹部
3:凸部(突起部)
4:艶消層
5:基材
6:装飾層
6a:着色層
6b:絵柄層
7:接着層
8:透明性樹脂層
9:プライマー層
【要約】
【課題】優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつ手の動きに対して平面上で引っ掛かりがなく、滑るような触感に優れる積層体を提供する。
【解決手段】基材、装飾層及び艶消層を順に有し、前記艶消層の前記装飾層とは反対側の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有し、前記表面における測定領域(縦204μm×横272μm)をレーザ顕微鏡(対物レンズ50倍)で測定した際の測定画像において、RSm(曲線要素の平均長さ)が20.00μm以上であり、かつ前記測定画像における基準面以上の高さにおけるSku(クルトシス)が4.00以下である、である。
【選択図】なし