(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】高電子移動度トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20230613BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20230613BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/80 F
(21)【出願番号】P 2019164843
(22)【出願日】2019-09-10
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓真
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-114267(JP,A)
【文献】特開2019-145605(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105355557(CN,A)
【文献】特開2013-026442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体によって構成されバリア層及び電子供給層を含む半導体積層の表面を覆う第1のSiN膜を減圧CVD法により形成する工程と、
前記第1のSiN膜上に第2のSiN膜をプラズマCVD法により形成する工程と、
開口パターンを有するレジストマスクを前記第2のSiN膜上に形成する工程と、
前記開口パターンを介して前記第1及び第2のSiN膜にドライエッチングを施し、前記第1及び第2のSiN膜に開口を形成して前記半導体積層の表面を露出させる開口形成工程と、
前記開口を介して前記半導体積層にドライエッチングを施し、前記半導体積層にリセスを形成するリセス形成工程と、
前記開口内及び前記リセス内にゲート電極を形成する工程と、
を含み、
前記開口形成工程において、前記開口の側壁を前記半導体積層の表面の法線に対して傾斜させ、前記開口の幅を前記半導体積層から遠ざかるほど拡大さ
せ、
前記開口形成工程の前記ドライエッチングではフッ素系ガスを用い、
前記リセス形成工程の前記ドライエッチングでは塩素系ガスを用い、
前記フッ素系ガスはSF
6
であり、前記開口形成工程の前記ドライエッチングの圧力は2Pa以上3Pa以下である、高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記塩素系ガスはCl
2
及びSiCl
4
の混合ガスであり、前記リセス形成工程の前記ドライエッチングの圧力は0.3Pa以上3.0Pa以下である、請求項1に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項3】
窒化物半導体によって構成されバリア層及び電子供給層を含む半導体積層の表面を覆う第1のSiN膜を減圧CVD法により形成する工程と、
前記第1のSiN膜上に第2のSiN膜をプラズマCVD法により形成する工程と、
開口パターンを有するレジストマスクを前記第2のSiN膜上に形成する工程と、
前記開口パターンを介して前記第1及び第2のSiN膜にドライエッチングを施し、前記第1及び第2のSiN膜に開口を形成して前記半導体積層の表面を露出させる開口形成工程と、
前記開口を介して前記半導体積層にドライエッチングを施し、前記半導体積層にリセスを形成するリセス形成工程と、
前記開口内及び前記リセス内にゲート電極を形成する工程と、
を含み、
前記開口形成工程において、前記開口の側壁を前記半導体積層の表面の法線に対して傾斜させ、前記開口の幅を前記半導体積層から遠ざかるほど拡大させ、
前記開口形成工程の前記ドライエッチングではフッ素系ガスを用い、
前記リセス形成工程の前記ドライエッチングでは塩素系ガスを用
い、
前記塩素系ガスはCl
2
及びSiCl
4
の混合ガスであり、前記リセス形成工程の前記ドライエッチングの圧力は0.3Pa以上3.0Pa以下である、高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記半導体積層の表面に対する前記開口の側壁の平均角度は40°以上80°以下である、請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記リセスの深さは1.0nm以上2.5nm以下である、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記リセス形成工程後において、前記開口の側壁と前記リセスの内面とが滑らかに連続する、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の高電子移動度トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電子移動度トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置に関する発明が記載されている。この半導体装置は、チャネル層、電子供給層、キャップ層、絶縁膜、及びゲート電極を有する。チャネル層は、GaNからなる。電子供給層は、チャネル層上に設けられ、AlGaN、InAlNおよびInAlGaNの何れかからなる。キャップ層は、電子供給層上に設けられ、n型GaNからなる。絶縁膜は、キャップ層上に設けられ、開口部を有する。ゲート電極は、開口部内のキャップ層に接して設けられている。開口部内におけるキャップ層の厚さは、開口部外の領域のキャップ層の厚さよりも小さい。開口部外の領域におけるキャップ層の厚さは5nm以下である。
【0003】
特許文献2には、窒化物半導体からなるヘテロ接合電界効果トランジスタに関する発明が記載されている。この電界効果トランジスタは、半導体層と、半導体層に下部を埋没するようにして半導体層上に設けられたゲート電極とを備える。半導体層は、バリア層と、バリア層の上に形成されたキャップ層とを有する。
【0004】
特許文献3には、高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)に関する発明が記載されている。このHEMTは、基板上に形成されたバッファ層と、アルミニウム(Al)及び窒素(N)、並びにインジウム(In)またはガリウム(Ga)の少なくとも1つを含み、バッファ層上に形成されたバリア層と、N、並びにInまたはGaの少なくとも1つを含み、バリア層上に形成されたキャップ層と、キャップ層に直接連結され、その層上に形成されたゲートとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-011088号公報
【文献】特開2011-091075号公報
【文献】特開2013-089970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高電子移動度トランジスタのゲート電極を形成する際、半導体層の表面にリセス(凹部)を形成し、ゲート電極の下部をリセス内に埋め込むことがある。これにより、通電中の閾値の変動を抑制することができるからである。しかしながら、リセスの深さは数nmと極めて浅く、リセスを再現性良く安定的に形成することは難しい。
【0007】
そこで、本開示は、ゲート電極のためのリセスを再現性良く安定的に形成することが可能な高電子移動度トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る高電子移動度トランジスタの製造方法は、窒化物半導体によって構成されバリア層及び電子供給層を含む半導体積層の表面を覆う第1のSiN膜を減圧CVD法により形成する工程と、第1のSiN膜上に第2のSiN膜をプラズマCVD法により形成する工程と、開口パターンを有するレジストマスクを第2のSiN膜上に形成する工程と、開口パターンを介して第1及び第2のSiN膜にドライエッチングを施し、第1及び第2のSiN膜に開口を形成して半導体積層の表面を露出させる開口形成工程と、開口を介して半導体積層にドライエッチングを施し、半導体積層にリセスを形成するリセス形成工程と、開口内及びリセス内にゲート電極を形成する工程と、を含む。開口形成工程において、開口の側壁を半導体積層の表面の法線に対して傾斜させ、開口の幅を半導体積層から遠ざかるほど拡大させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ゲート電極のためのリセスを再現性良く安定的に形成することが可能な高電子移動度トランジスタの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る製造方法によって製造されるトランジスタ1Aの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、ゲート電極23とキャップ層6との接触部分を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1Aの製造方法を説明するための図である。
【
図4】
図4の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1Aの製造方法を説明するための図である。
【
図5】
図5の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1Aの製造方法を説明するための図であって、トランジスタ1Aのうちゲート電極23付近の製造方法を拡大して示している。
【
図6】
図6の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1Aの製造方法を説明するための図であって、トランジスタ1Aのうちゲート電極23付近の製造方法を拡大して示している。
【
図7】
図7の(a)及び(b)は、一実施形態に係るトランジスタ1Aの製造方法を説明するための図であって、トランジスタ1Aのうちゲート電極23付近の製造方法を拡大して示している。
【
図8】
図8の(a)は、従来の製造方法を示す断面図である。
図8の(a)及びその部分拡大図である。
図8の(b)は、
図8の(a)の部分拡大図である。
【
図9】
図9は、従来の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を列記して説明する。一実施形態に係る高電子移動度トランジスタの製造方法は、窒化物半導体によって構成されバリア層及び電子供給層を含む半導体積層の表面を覆う第1のSiN膜を減圧CVD法により形成する工程と、第1のSiN膜上に第2のSiN膜をプラズマCVD法により形成する工程と、開口パターンを有するレジストマスクを第2のSiN膜上に形成する工程と、開口パターンを介して第1及び第2のSiN膜にドライエッチングを施し、第1及び第2のSiN膜に開口を形成して半導体積層の表面を露出させる開口形成工程と、開口を介して半導体積層にドライエッチングを施し、半導体積層にリセスを形成するリセス形成工程と、開口内及びリセス内にゲート電極を形成する工程と、を含む。開口形成工程において、開口の側壁を半導体積層の表面の法線に対して傾斜させ、開口の幅を半導体積層から遠ざかるほど拡大させる。
【0012】
通常のドライエッチングの条件では、ドライエッチングの異方性を活かして、サイドエッチングを抑えつつ深さ方向にエッチングを進行させる。第1及び第2のSiN膜に開口を形成する際にこのような条件でドライエッチングを行うと、開口の側壁が半導体積層の表面の法線にほぼ沿った形となる。本発明者は、このような開口側壁の形状故に、開口側壁付近のリセス部分がエッチングされにくくなり、リセス形状の再現性・安定性を損ねていることを突き止めた。上記の製造方法では、第1及び第2のSiN膜に開口を形成する際、該開口の側壁を半導体積層の表面の法線に対して傾斜させ、該開口の幅を半導体積層から遠ざかるほど拡大させる。これにより、開口側壁付近のリセス部分がエッチングされ易くなるので、リセスを再現性良く安定的に形成することが可能となる。
【0013】
上記の製造方法において、半導体積層の表面に対する開口の側壁の平均角度は40°以上80°以下であってもよい。例えばこのような傾斜角度を開口側壁に与えることにより、開口側壁付近のリセス部分が顕著にエッチングされ易くなり、リセスを更に再現性良く安定的に形成することができる。
【0014】
上記の製造方法において、開口形成工程のドライエッチングではフッ素系ガスを用い、リセス形成工程のドライエッチングでは塩素系ガスを用いてもよい。この場合、SiN膜の開口と、窒化物半導体層のリセスとをそれぞれ好適に形成することができる。
【0015】
上記の製造方法において、フッ素系ガスはSF6であり、開口形成工程のドライエッチングの圧力は2Pa以上3Pa以下であってもよい。通常、SiN膜に開口を形成する際にはサイドエッチングを抑えつつ深さ方向にエッチングを進行させるが、その際のドライエッチングの圧力は1Pa程度である(フッ素系ガスがSF6である場合)。これに対し、例えば2Pa以上3Pa以下といった比較的大きな圧力でもってSiN膜の開口を形成すれば、開口の側壁を効果的に傾斜させることができ、上記の製造方法を容易に実現することができる。
【0016】
上記の製造方法において、塩素系ガスはCl2及びSiCl4の混合ガスであり、リセス形成工程のドライエッチングの圧力は0.3Pa以上3.0Pa以下であってもよい。例えばこのような条件によって、リセスを再現性良く安定的に形成することができる。
【0017】
上記の製造方法において、リセスの深さは1.0nm以上2.5nm以下であってもよい。このように浅いリセスであっても、上記の製造方法によれば、再現性良く安定的に形成することが可能となる。
【0018】
上記の製造方法のリセス形成工程後において、開口の側壁とリセスの内面とが滑らかに連続してもよい。上記の製造方法によれば、開口側壁付近のリセス部分がエッチングされ易くなるので、このように開口の側壁とリセスの内面とを滑らかに連続させることができる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の高電子移動度トランジスタの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、一実施形態に係る製造方法によって製造されるトランジスタ1Aの一例を示す断面図である。
図1に示されるように、トランジスタ1Aは、基板2、半導体積層7、SiN膜11(第1のSiN膜)、SiN膜12(第2のSiN膜)、ソース電極21、ドレイン電極22、及びゲート電極23を備える。半導体積層7は、基板2側から順に、バッファ層3、チャネル層4、バリア層5、及びキャップ層6を含む。トランジスタ1Aは高電子移動度トランジスタ(HEMT)であり、チャネル層4とバリア層5との界面に2次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)が生じることにより、チャネル層4内にチャネル領域が形成される。
【0021】
基板2は、結晶成長用の基板である。基板2として、例えばSiC基板、GaN基板、又はサファイア(Al2O3)基板が挙げられる。本実施形態では、基板2はSiC基板である。バッファ層3は、チャネル層4及びバリア層5を異種基板である基板2上にエピタキシャル成長するための緩衝層である。バッファ層3は、窒化物半導体で構成され、例えばAlN層である。バッファ層3の厚さは、例えば10nm以上100nm以下である。チャネル層4は、基板2上(本実施形態ではバッファ層3上)にエピタキシャル成長した層であり、上述した2次元電子ガスが生じ、ドレイン電流が流れるチャネル領域を有する。チャネル層4は、窒化物半導体で構成され、例えばGaN層である。チャネル層4の厚さは、例えば400nm以上2000nm以下である。
【0022】
バリア層5は、チャネル層4上にエピタキシャル成長した層である。バリア層5は、チャネル層4よりも電子親和力が大きい窒化物半導体で構成され、例えばAlGaN層、InAlN層、またはInAlGaN層を含む。バリア層5には不純物が含まれてもよい。本実施形態では、バリア層5は、n型のAlGaN層である。バリア層5の厚さは、例えば5nm以上30nm以下である。キャップ層6は、バリア層5上にエピタキシャル成長した層である。キャップ層6は、窒化物半導体で構成され、例えばGaN層である。キャップ層6も不純物を含んでもよい。本実施形態では、キャップ層6は、n型GaN層からなる。キャップ層6の厚さの下限値は、例えば1.5nmである。キャップ層6の厚さの上限値は、例えば5.0nmである。
【0023】
SiN膜11は、キャップ層6上に設けられた窒化シリコン(SiN)からなる絶縁性の保護膜である。SiN膜11は、半導体積層7の表面を保護するために設けられる。後述するように、SiN膜12よりもエッチング耐性を高めるために、SiN膜11は減圧CVD(LowPressure Chemical Vapor Deposition;LPCVD)法によって形成される。減圧CVD法では成膜温度が高温のため、SiN膜11の膜質は緻密である。
【0024】
SiN膜11の厚さの下限値は例えば10nmであり、上限値は例えば100nmである。SiN膜11には、ゲート開口11aと、ソース開口11bと、ドレイン開口11cとが形成されている。ゲート開口11aは、ソース開口11bとドレイン開口11cとの間に位置する。ゲート開口11a内では、キャップ層6が露出している。ゲート開口11aの側壁は、ゲート開口11aの幅が半導体積層7から離れるほど徐々に拡がるように、半導体積層7の表面(本実施形態ではキャップ層6の表面)の法線Bに対して傾斜している。なお、本実施形態では、法線Bは半導体積層7の厚さ方向(積層方向)に沿っている。ソース開口11b及びドレイン開口11c内では、キャップ層6が除去されておりバリア層5が露出している。
【0025】
ソース電極21は、ソース開口11bを塞ぎ、かつ、半導体積層7上にも設けられ、ソース開口11bを介してバリア層5と接している。ドレイン電極22は、ドレイン開口11cを塞ぎ、かつ、半導体積層7上にも設けられ、ドレイン開口11cを介してバリア層5と接している。ソース電極21及びドレイン電極22は、オーミック電極であり、例えばチタン(Ti)層とアルミニウム(Al)層との積層構造を合金化して形成されたものである。ソース電極21及びドレイン電極22は、Al層の上に他のTi層をさらに積層化した上で合金化されてもよい。
【0026】
ゲート電極23は、ソース電極21とドレイン電極22との間の半導体積層7上の領域に設けられ、SiN膜11に接し、また開口11aを介してキャップ層6に接している。具体的には、ゲート電極23は、ゲート開口11aを埋め込んでおり、ゲート開口11a内のキャップ層6と、ゲート開口11aの側壁とに接している。ゲート電極23はキャップ層6とショットキ接触する材料を含み、例えばニッケル(Ni)層と金(Au)層との積層構造を有する。この場合、Ni層がキャップ層6にショットキ接触する。なお、キャップ層6とショットキ接触できる材料としては、Niの他にPt(白金)等が挙げられる。Ni層の厚さは例えば200nmであり、Au層の厚さは例えば700nmである。
【0027】
図2は、ゲート電極23とキャップ層6との接触部分を拡大して示す断面図である。
図2に示すように、キャップ層6の表面にはリセス(凹部)6aが形成されている。リセス6aは、ゲート開口11aを介してキャップ層6がエッチングされることにより形成されたものである。リセス6aの深さ(言い換えると、キャップ層6のうちリセス6a以外の部分の厚さと、リセス6aの部分の厚さとの差)は、例えば1.0nm以上3.0nm以下である。また、キャップ層6のうちリセス6aの部分の厚さは、例えば0.5nm以上2.0nm以下である。リセス6aの底面のうち中央付近の部分は平坦である。リセス6aの底面は、ゲート開口11aの側壁に近づくにつれてせり上がり、リセス6aは次第に浅くなる。ゲート開口11aの側壁とリセス6aの底面(内面)とは、段差無く滑らかに連続する。言い換えると、リセス6aの端部はゲート開口11aの下端と重なっている。
【0028】
再び
図1を参照する。SiN膜12は、SiN膜11上に設けられた窒化シリコン(SiN)からなる膜である。後述するように、SiN膜11よりもエッチング耐性を低くするために、SiN膜12はプラズマCVD法によって形成される。プラズマCVD法では成膜温度が低温のため、SiN膜12の膜質はSiN膜11よりも疎である。SiN膜12の厚さの下限値は例えば10nmであり、上限値は例えば100nmである。SiN膜12には、開口12a,12b及び12cが形成されている。開口12aは、SiN膜11のゲート開口11a上に位置し、SiN膜11のうちゲート開口11a及びその周辺部を露出させる。ゲート電極23は、SiN膜12上に乗り上げており、SiN膜12の上面および開口12aの側壁に接している。開口12aの側壁は、開口12aの幅が半導体積層7から離れるほど徐々に拡がるように、半導体積層7の表面の法線Bに対して傾斜している。
【0029】
開口12bは、SiN膜12のうちソース電極21を覆う部分に形成されており、ソース電極21の上面を露出させる。ソース電極21は、開口12bを介して、図示しないソース電極パッドと接する。開口12cは、SiN膜12のうちドレイン電極22を覆う部分に形成されており、ドレイン電極22の上面を露出させる。ドレイン電極22は、開口12cを介して、図示しないドレイン電極パッドと接する。
【0030】
ここで、
図3から
図7を参照しながら本実施形態に係るトランジスタ1Aの製造方法を説明する。
図3から
図7それぞれの(a)及び(b)は、本実施形態に係るトランジスタ1Aの製造方法を説明する図である。なお、
図5から
図7は、トランジスタ1Aのうちゲート電極23付近の製造方法を拡大して示している。
【0031】
まず、
図3の(a)に示されるように、バッファ層3、チャネル層4、バリア層5、及びキャップ層6を含む半導体積層7を基板2上に形成する。例えば、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)を用いて、バッファ層3として機能するAlN層、チャネル層4として機能するGaN層、バリア層5として機能するAlGaN層、及びキャップ層6として機能するGaN層を、SiC基板上に順に成長する。
【0032】
次に、
図3の(b)に示されるように、半導体積層7の表面を覆うSiN膜11を成膜する。この工程では、ジクロロシランガス及びアンモニアガスを原料とする減圧CVD法により、SiN膜11をキャップ層6上に堆積する。この工程において、SiN膜11の成膜温度の下限値は例えば800℃であり、上限値は例えば900℃である。これは、プラズマCVD法における成膜温度よりも極めて高い温度である。但し、この温度は、半導体積層7の成長温度と同等か、それよりも低い。また、SiN膜11の成長圧力の下限値は例えば10Paであり、上限値は例えば100Paである。一実施例では、成膜圧力は50Paであり、成膜温度は850℃である。
【0033】
続いて、
図4の(a)に示されるように、SiN膜11の一部を選択的にエッチングし、ソース開口11b及びドレイン開口11cを形成する。例えば、レジストマスクを介する選択的なドライエッチングにより、SiN膜11にソース開口11b及びドレイン開口11cを形成する。さらに、ソース開口11b及びドレイン開口11c内のキャップ層6を、塩素系ガスを反応ガスとするドライエッチングにより除去する。これにより、ソース開口11b及びドレイン開口11c内においてバリア層5が露出する。その後、ソース開口11b内にソース電極21を形成し、ドレイン開口11c内にドレイン電極22を形成する。この工程では、ソース電極21及びドレイン電極22を、例えば真空蒸着及びリフトオフにより形成する。その後、これらをオーミック電極とするための熱処理による合金化を行う。
【0034】
続いて、
図4の(b)に示されるように、SiN膜11上にSiN膜12を成膜する。SiN膜12は、SiN膜11、ソース電極21及びドレイン電極22を含む半導体積層7上の全面を覆う。この工程では、シランガス及びアンモニアガスを原料とするプラズマCVD法により、SiN膜12を堆積する。この工程において、SiN膜12の成膜温度の下限値は例えば300℃であり、上限値は例えば350℃である。このように成膜温度を低くできるのは、SiNの成膜過程をプラズマが補助するからである。SiN膜12の成膜圧力の下限値は例えば50Paであり、上限値は例えば200Paである。一実施例では、成膜圧力は133Paであり、成膜温度は350℃であり、RFパワーは200Wである。
【0035】
続いて、
図5の(a)に示されるように、開口パターンRaを有するマスクRをSiN膜12上に形成する。開口パターンRaの形成位置及び平面形状は、ゲート開口11aの形成位置及び平面形状に対応する。マスクRは、例えば紫外線露光用レジスト若しくは電子線露光用レジストからなる。開口パターンRaは、例えば紫外線露光若しくは電子線露光により形成される。開口パターンRaの幅L
0は、EB露光の場合には例えば50nmであり、紫外線露光の場合には例えば400nmである。幅L
0は、SiN膜11のゲート開口11aの所望の最小幅L
1(
図5の(b)を参照)から逆算して決定されるとよい。
【0036】
続いて、
図5の(b)に示されるように、開口パターンRaを介してSiN膜11,12に対し選択的にドライエッチングを施すことにより、SiN膜11,12に開口11a,12aを形成して半導体積層7を露出させる(開口形成工程)。この工程では、SiN膜11,12に対して共通のエッチング条件を適用し、SiN膜11,12に有意なサイドエッチを生じさせる。ドライエッチングは、例えば反応性イオンエッチング(ReactiveIon Etching;RIE)である。エッチングガスとしては、例えばフッ素系ガスが用いられる。フッ素系ガスとしては、例えば、SF
6,CF
4,CHF
3,C
3F
6,及びC
2F
6からなる群から1つ以上が選択される。RIE装置は、誘導結合型(InductiveCoupled Plasma;ICP)のものであってもよい。フッ素系ガス(SF
6)を用いる場合のエッチング条件としては、反応圧力を2Pa以上3Pa以下(一実施例では2Pa)に、RFパワー(ICPパワー)を50W以上300W以下(一実施例では100W)に、Biasパワーを5.0W以上50W以下(一実施例では10W)にそれぞれ設定する。この工程では、RFパワーと同様に、反応圧力もイオンの平均自由工程に影響するので、エッチングの異方性の程度を左右する。
【0037】
図6の(a)は、
図5の(b)の一部を拡大して示す断面図である。従来、反応圧力は例えば1Paといった大きさに設定される。これに対し、本実施形態では上記のように反応圧力を1Paよりも十分に大きく設定する。この場合、エッチングの異方性が緩和され(等方性が増し)、
図6の(a)に示されるようにSiN膜11,12の開口11a,12aの側壁に有効な傾斜が生じる。これにより、開口11a,12aの幅が半導体積層7から離れるほど徐々に拡がるように、開口11a,12aの側壁が半導体積層7の表面の法線Bに対して傾斜する。半導体積層7の表面に沿った基準面に対する、開口11aの側壁の平均角度θ
1、及び開口12aの側壁の平均角度θ
2は共に40°以上80°以下である。開口11a,12aの側壁は平坦ではないため、これらの側壁の角度には面内ばらつきが存在する。故に、ここではθ
1,θ
2を平均角度として定義する。一実施例では、平均角度θ
1,θ
2は共に60°である。
【0038】
続いて、
図6の(b)に示されるように、開口11a,12aを介して半導体積層7にドライエッチングを施し、半導体積層7にリセス6aを形成する(リセス形成工程)。ドライエッチングは、例えばRIEである。RIE装置は、誘導結合型(ICP)のものであってもよい。エッチングガスとしては、例えば塩素系ガスが用いられる。塩素系ガスは、例えばCl
2及びSiCl
4の混合ガスである。その場合、一実施例ではCl
2の流量は22sccmであり、SiCl
4の流量は8sccmである。また、エッチング条件としては、反応圧力を0.3Pa以上3.0Pa以下(一実施例では0.3Pa)に、RFパワー(ICPパワー)を20W以上200W以下(一実施例では100W)に、Biasパワーを2.0W以上20W以下(一実施例では5.0W)にそれぞれ設定する。
【0039】
前述したように、リセス6aの底面のうち中央付近の部分は平坦である。そして、リセス6aの底面は、ゲート開口11aの側壁に近づくにつれてせり上がり、リセス6aは次第に浅くなる。このようにしてリセス6aに形成される傾斜によって、ゲート開口11aの側壁とリセス6aの底面(内面)とは、段差無く滑らかに連続する。半導体積層7の表面に沿った基準面に対する、リセス6aの傾斜部分の角度θ3は例えば5°以上40°以下であり、平均角度は例えば10°である。
【0040】
続いて、
図7の(a)に示されるように、SiN膜12上からマスクRを除去(剥離)する。そして、
図7の(b)に示されるように、開口11a,12a内及びリセス6a内にゲート電極23を形成する。このとき、リセス6aの内面、開口11aの側壁、開口12aの側壁、及びSiN膜12の上面に接し、SiN膜12上に乗り上げるようにゲート電極23を形成するとよい。具体的には、SiN膜11に形成されたゲート開口11aを露出し、SiN膜12に形成された開口12aを覆うパターンをレジストにより形成する。その後、ゲート金属としてニッケル(Ni)、金(Au)の多層膜を、レジストパターンから露出した半導体積層7及びSiN膜11上に、例えば抵抗加熱式の真空蒸着法により堆積する。この時、レジスト上にもゲート金属は堆積するが、次工程においてレジストを除去することにより、レジスト上のゲート金属もレジストと同時に除去される(リフトオフ工程)。以上の工程により
図7(b)に示すゲート電極23が形成される。
【0041】
なお、上記の例では、ゲート金属を形成するレジストに、SiN膜12の開口12aを露出するパターンを設けることにより、ゲート電極23をSiN膜12に乗り上げさせている。しかしながら、ゲート電極23はSiN膜12には接していない構造でもよい。図示しないが、開口12aから離間した位置にゲート電極23を設けてもよい。
【0042】
以上に説明した本実施形態によるトランジスタ1Aの製造方法によって得られる効果について説明する。通常のドライエッチングの条件では、ドライエッチングの異方性を活かして、サイドエッチングを抑えつつ深さ方向にエッチングを進行させる。SiN膜11,12に開口11a,12aを形成する際にそのような条件でドライエッチングを行うと、
図8の(a)及びその部分拡大図である
図8の(b)に示されるように、開口11a,12aの側壁は半導体積層7の表面の法線Bにほぼ沿った形(すなわち、半導体積層7の表面に対してほぼ垂直)となる。この場合、リセス6aのうち開口11a,12aの側壁付近の部分がエッチングされにくくなり、
図9のA部に示されるようにリセス6aの端が開口11aの側壁に達しない。このような状態では、リセス6aの形状の再現性・安定性が損われる。
【0043】
リセス6aのうち開口11a,12aの側壁付近の部分がエッチングされにくくなる原因としては、次の2つが考えられる。1つは、SiN膜11,12を構成するSiNが、半導体積層7表面のエッチング対象領域の近傍に多く存在することである。リセス6aをドライエッチングにより形成する際、例えばエッチングガスがCl
2、SiCl
4等であっても、僅かではあるがSiNもエッチングされる。故に、半導体積層7表面のエッチング対象領域のうち開口11a,12aの側壁付近の部分には、Siが少なからず存在する。Siはエッチングガスの主因子であるClと結合し、エッチングガスの密度を局所的に低下させる。故に、エッチング対象領域のうち開口11a,12aの側壁付近の部分のエッチングレートが低下し、リセス6aは
図9に示されたような形状となる。他の1つは、マスクRがエッチング対象領域の一部に被るか若しくはエッチング対象領域に近過ぎるため、マスクRが庇となってイオンの進入を遮ることである。この場合、エッチング対象領域のうちイオンが遮られた部分のエッチングレートが低下し、リセス6aは
図9に示されたような形状となる。
【0044】
上記の課題に対し、本実施形態の製造方法では、SiN膜11,12に開口11a,12aを形成する際、ドライエッチングの条件を調整して、開口11a,12aの側壁を半導体積層7の表面の法線Bに対して傾斜させ、開口11a,12aの幅を半導体積層7から遠ざかるほど拡大させる。これにより、SiN膜11,12を構成するSiNを、エッチング対象領域の近傍から減じることができる。故に、エッチング対象領域のうち開口11a,12aの側壁付近の部分におけるSi濃度を低減し、エッチングガス密度の低下を抑制できるので、
図6の(b)に示されたように開口11a,12aの側壁までリセス6aを形成し、リセス6aを再現性良く安定的に形成することが可能となる。また、開口11a,12aの幅が半導体積層7から遠ざかるほど拡大するので、エッチング対象領域の隅々までイオンが進入し易くなる。このこともまた、開口11a,12aの側壁までのリセス6aの形成に寄与する。
【0045】
加えて、このようなエッチング条件下ではエッチングの等方性が増すので、マスクRもまたサイドエッチングされ易くなり、開口パターンRaの側壁がより後退する。故に、イオンの進入をマスクRが遮る度合いを低減し、エッチングレートの低下を抑制できるので、
図6の(b)に示されたように開口11a,12aの側壁までリセス6aを形成し、リセス6aをより再現性良く、且つより安定的に形成することが可能となる。
【0046】
本実施形態のように、半導体積層7の表面に対する開口11a,12aの側壁の平均角度θ1,θ2は40°以上80°以下であってもよい。例えばこのような傾斜角度を開口11a,12aの側壁に与えることにより、開口11a,12aの側壁付近のエッチング対象領域が顕著にエッチングされ易くなり、リセス6aを更に再現性良く安定的に形成することができる。
【0047】
本実施形態のように、開口形成工程のドライエッチングではフッ素系ガスを用い、リセス形成工程のドライエッチングでは塩素系ガスを用いてもよい。この場合、SiN膜11,12の開口11a,12aと、窒化物半導体層(半導体積層7)のリセス6aとをそれぞれ好適に形成することができる。
【0048】
本実施形態のように、フッ素系ガスはSF6であり、開口形成工程のドライエッチングの圧力は2Pa以上3Pa以下であってもよい。通常、SiN膜11,12に開口11a,12aを形成する際にはサイドエッチングを抑えつつ深さ方向にエッチングを進行させるが、その際のドライエッチングの圧力は1Pa程度である(フッ素系ガスがSF6である場合)。これに対し、例えば2Pa以上3Pa以下といった比較的大きな圧力でもって開口11a,12aを形成すれば、開口11a,12aの側壁を効果的に傾斜させることができ、上記の製造方法を容易に実現することができる。
【0049】
本実施形態のように、塩素系ガスはCl2及びSiCl4の混合ガスであり、リセス形成工程のドライエッチングの圧力は0.3Pa以上3.0Pa以下であってもよい。例えばこのような条件によって、僅か数nmの深さのリセス6aを再現性良く安定的に形成することができる。
【0050】
本実施形態のように、リセス6aの深さは1.0nm以上2.5nm以下であってもよい。このように浅いリセス6aであっても、上記の製造方法によれば、再現性良く安定的に形成することが可能となる。
【0051】
本実施形態のように、リセス形成工程後において、開口11a,12aの側壁とリセス6aの内面とが滑らかに連続してもよい。上記の製造方法によれば、開口11a,12aの側壁付近のエッチング対象領域がエッチングされ易くなるので、このように開口11a,12aの側壁とリセス6aの内面とを滑らかに連続させることができる。
【0052】
本発明による高電子移動度トランジスタの製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではオーミック電極(ソース電極21及びドレイン電極22)を形成した後にSiN膜12を形成しているが、SiN膜12を先に形成し、その後にオーミック電極を形成してもよい。また、SiN膜11,12をエッチングする際の条件(反応圧力、RFパワー(ICPパワー)、Biasパワー)は上記実施形態の例示に限定されず、本発明の効果を奏する範囲で様々な条件を適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1A…トランジスタ、2…基板、3…バッファ層、4…チャネル層、5…バリア層、6…キャップ層、6a…リセス、7…半導体積層、11…(第1の)SiN膜、11a…ゲート開口、11b…ソース開口、11c…ドレイン開口、12…(第2の)SiN膜、12a,12b,12c…開口、21…ソース電極、22…ドレイン電極、23…ゲート電極、B…法線、R…マスク、Ra…開口パターン。