(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】光電変換素子の製造方法、光電変換素子、光電変換素子におけるn型半導体層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230613BHJP
H10K 30/10 20230101ALI20230613BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20230613BHJP
H10K 71/60 20230101ALI20230613BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/10
H10K30/30
H10K71/60
(21)【出願番号】P 2021115791
(22)【出願日】2021-07-13
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128141
【氏名又は名称】飯田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳仁
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】落合 三二
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-241243(JP,A)
【文献】国際公開第2007/083729(WO,A1)
【文献】特開2002-145615(JP,A)
【文献】特開2011-006665(JP,A)
【文献】MALI, Sawanta S. et al.,“Synthesis and characterization of planar heterojunction hybrid polymer solar cells based on copper pthalocyanine (CuPc) and titanium dioxide”,Ceramics International,2014年,Vol. 40,pp. 643-649,DOI: 10.1016/j.ceramint.2013.06.050
【文献】MALI, Sawanta S. et al.,“Nanocoral architecture of TiO2 by hydrothermal process: Synthesis and characterization”,Applied Surface Science,2011年,Vol. 257,pp. 9737-9746,DOI: 10.1016/j.apsusc.2011.05.119
【文献】SHEN, Liang et al.,“Performance improvement of TiO2/P3HT solar cells using CuPc as a sensitizer”,Applied Physics Letters,2008年,Vol. 92, Article Number: 073307,pp. 1-3,DOI: 10.1063/1.2884270
【文献】ZHENG, Yichen et al.,“Preparation and Characterization of TiO2 Barrier Layers for Dye-Sensitized Solar Cells”,ACS Applied Materials & Interfaces,2014年,Vol. 6,pp. 10679-10686,DOI: 10.1021/am502421w
【文献】WANG, Mingqing & WANG, Xiaogong,“P3HT/TiO2 bulk-heterojunction solar cell sensitized by a perylene derivative”,Solar Energy Materials and Solar Cells,2007年,Vol. 91,pp. 1782-1787,DOI: 10.1016/j.solmat.2007.06.006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H01L 31/18-31/20
H01L 31/04-31/078
H10K 71/00-71/80
Scopus
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層して構成される光電変換層と、を有する光電変換素子の製造方法であって、
四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、
前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、
前記n型半導体層の表面上に前記p型半導体層を形成するp型半導体層形成工程と、
を備えることを特徴とする、
光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記n型半導体層側加熱工程は、
前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を加熱して、前記被膜から水分を除去する水分除去工程と、
前記水分除去工程で水分を除去された前記被膜を加熱して焼成し、前記n型半導体層を生成する焼成工程と、
を有することを特徴とする、
請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程では、前記被膜から、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO
2)を含む前記n型半導体材料が生成され、
且つ前記n型半導体材料で構成され、前記p型半導体層との接合面に複数の凸部が形成される前記n型半導体層が生成されることを特徴とする、
請求項2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記p型半導体層形成工程では、複数の前記凸部の少なくとも一部に嵌合する複数の凹部が、前記p型半導体層における前記n型半導体層との接合面に設けられることを特徴とする、
請求項3に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料とn型半導体材料を含むバルクヘテロ接合構造の光電変換層と、を有する光電変換素子の製造方法であって、
四塩化チタンと前記p型半導体材料を含む混合溶液の被膜を形成する成膜工程と、
前記成膜工程で成膜された前記混合溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記四塩化チタンを前記n型半導体材料に変化させ、前記光電変換層を生成する加熱工程と、
を備えることを特徴とする、
光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層して構成される光電変換層と、を有する光電変換素子の製造方法であって、
四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、
前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、
を備えることを特徴とする、
光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記n型半導体層側加熱工程では、前記被膜から、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO
2
)を含む前記n型半導体材料が生成され、且つ前記n型半導体材料で構成され、前記p型半導体層との接合面に複数の凸部が形成される前記n型半導体層が生成されることを特徴とする、
請求項6に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層して構成される光電変換層と、を有する光電変換素子における該n型半導体層の製造方法であって、
四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、
前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、
を備えることを特徴とする、
光電変換素子におけるn型半導体層の製造方法。
【請求項9】
前記n型半導体層側加熱工程では、前記被膜から、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO
2
)を含む前記n型半導体材料が生成され、且つ前記n型半導体材料で構成され、前記p型半導体層との接合面に複数の凸部が形成される前記n型半導体層が生成されることを特徴とする、
請求項8に記載の光電変換素子におけるn型半導体層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子の製造方法、光電変換素子、及び光電変換素子におけるn型半導体層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、色素増感型光電変換素子は、色素付き電極、電解層、および対極から構成される。色素付き電極は、透明導電膜が形成された基板上に酸化チタン層を成膜させ、その酸化チタン層に色素を吸着させたものである。電解層は、酸化還元可能な電解質が溶解した溶液で、色素付き電極と対極で挟み込まれる。対極は、白金や炭素等で構成される。
【0003】
上記色素増感型光電変換素子に光が入射すると、色素が光を吸収し、色素から酸化チタンへの電子注入が起こる。この電子は、酸化チタン及び透明導電膜を経由して外部に移動する。そして、電子を失った色素は、電解液を経由して対極から供給される電子を受け取り、元に戻る。以上が、上記色素増感型光電変換素子の発電機構である。
【0004】
そして、酸化チタン層における酸化チタン粒子のネッキングを増やすには、四塩化チタンで処理すると良いとされている。このため、色素増感型光電変換素子の酸化チタン層を四塩化チタン水溶液で処理する色素増感型の光電変換素子が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記色素増感型光電変換素子における四塩化チタン処理は、酸化チタン粒子のネッキングを増やすものの、酸化チタン粒子表面の結晶性を低下させるか、又は、格子欠陥を生じさせるという問題がある。
【0007】
上記色素増感型光電変換素子では、以上のような問題点はあるが、本願発明者は、四塩化チタンを利用して製造した光電変換素子は、特性が向上すると推測した。そこで、本発明は、四塩化チタンを利用した光電変換素子の製造方法、及び、光電変換素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光電変換素子の製造方法は、2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層して構成される光電変換層と、を有する光電変換素子の製造方法であって、四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、前記n型半導体層の表面上に前記p型半導体層を形成するp型半導体層形成工程と、を備えることを特徴とする。また、本発明の光電変換素子の製造方法は、2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層して構成される光電変換層と、を有する光電変換素子の製造方法であって、四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、を備えることを特徴とする。また、本発明の光電変換素子におけるn型半導体層の製造方法は、2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料を含むp型半導体層とn型半導体材料を含むn型半導体層が積層して構成される光電変換層と、を有する光電変換素子における該n型半導体層の製造方法であって、四塩化チタン水溶液の被膜を形成するn型半導体層側成膜工程と、前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記n型半導体層を生成するn型半導体層側加熱工程と、を備えることを特徴とする。また、本発明の光電変換素子の製造方法、又は本発明の光電変換素子におけるn型半導体層の製造方法において、前記n型半導体層側加熱工程では、前記被膜から、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO
2
)を含む前記n型半導体材料が生成され、且つ前記n型半導体材料で構成され、前記p型半導体層との接合面に複数の凸部が形成される前記n型半導体層が生成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光電変換素子の製造方法において、前記n型半導体層側加熱工程は、前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を加熱して、前記被膜から水分を除去する水分除去工程と、前記水分除去工程で水分を除去された前記被膜を加熱して焼成し、前記n型半導体層を生成する焼成工程と、を有することを特徴とする。そして、前記水分除去工程は、前記n型半導体層側成膜工程で形成された前記四塩化チタン水溶液の前記被膜を加熱して、前記被膜から水分を除去する第一加熱工程を少なくとも含むことが好ましいが、更に別の工程が含まれてもよい。また、前記焼成工程は、前記水分除去工程で水分を除去された前記被膜を加熱して焼成する第一加熱工程を少なくとも含むことが好ましいが、更に別の工程が含まれてもよい。
【0010】
また、本発明の光電変換素子の製造方法において、前記焼成工程では、前記被膜から、少なくとも結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)を含む前記n型半導体材料が生成され、且つ前記n型半導体材料で構成され、前記p型半導体層との接合面に複数の凸部が形成される前記n型半導体層が生成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の光電変換素子の製造方法において、前記p型半導体層形成工程では、複数の前記凸部の少なくとも一部に嵌合する複数の凹部が、前記p型半導体層における前記n型半導体層との接合面に設けられることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光電変換素子の製造方法は、2つの電極と、2つの前記電極の間に形成され、p型半導体材料とn型半導体材料を含むバルクヘテロ接合構造の光電変換層と、を有する光電変換素子の製造方法であって、四塩化チタンと前記p型半導体材料を含む混合溶液の被膜を形成する成膜工程と、前記成膜工程で成膜された前記混合溶液の前記被膜を所定時間加熱して、前記四塩化チタンを前記n型半導体材料に変化させ、前記光電変換層を生成する加熱工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光電変換素子の製造方法において、前記加熱工程は、前記成膜工程で形成された前記混合溶液の前記被膜を加熱して水分を除去する水分除去工程と、前記水分除去工程で水分を除去された前記被膜を加熱して焼成して、前記光電変換層を生成する焼成工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光電変換素子は、上記に記載の光電変換素子の製造方法で製造された光電変換素子であって、前記n型半導体材料は、酸化チタン(TiO2)、及び、酸化チタン(TiO2)の前駆体及び不可避不純物で構成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の光電変換素子は、上記に記載の光電変換素子の製造方法で製造された光電変換素子であって、前記n型半導体材料は、酸化チタン(TiO2)、及び、酸化チタン(TiO2)の前駆体及び不可避不純物で構成され、前記n型半導体層は、前記p型半導体層との接合面に複数の凸部を有し、前記p型半導体層は、前記n型半導体層との接合面に複数の前記凸部に嵌合する複数の凹部を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の光電変換素子は、上記に記載の光電変換素子の製造方法で製造された光電変換素子であって、前記n型半導体層における前記p型半導体層との接合面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したときに、前記n型半導体層における前記p型半導体層との接合面には、SEM像に白い斑点として表示される複数の凸部が形成され、前記p型半導体層における前記n型半導体層との接合面には、前記凸部に嵌合する複数の凹部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光電変換素子によれば、短絡電流密度が向上するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(A)は、本発明の実施形態における光電変換素子の断面図である。(B)は、本発明の実施形態における光電変換素子の変形例の断面図である。
【
図2】(A)は、本発明の実施形態における光電変換素子の光電変換層の断面図である。(B)は、本発明の実施形態における光電変換素子の光電変換層の変形例の断面図である。
【
図3】(A)は、本発明の実施形態における光電変換素子のn型半導体層のp型半導体層との接合面(境界面)を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100,000倍で観察した際のSEM像写真である。(B)は、本発明の実施形態における光電変換素子の陰極の表面を、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100,000倍で観察した際のSEM像写真である。
【
図4】(A)は、本発明の実施形態における光電変換素子の光電変換層の拡大断面図であり、凸部の凸面全体と凹部の凹面全体が接触するように凹部に凸部が嵌合した状態を示している。(B)は、本発明の実施形態における光電変換素子の光電変換層の拡大断面図であり、凸部の凸面の一部と凹部の凹面の一部が接触するように凹部に凸部が嵌合した状態を示している。
【
図5】本発明の実施形態における光電変換素子(平面へテロ接合構造)の製造の流れを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態における光電変換素子(バルクヘテロ接合構造)の製造の流れを示すフローチャートである。
【
図7】(A)は、本発明の実施形態における光電変換素子の実施例と比較例の電流-電圧特性曲線である。(B)は、(A)の曲線における光電変換素子の実施例と比較例の短絡電流密度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1~
図5は発明を実施する形態の一例であって、図中、
図1及び
図2と同一の符号を付した部分は同一物を表わす。
【0020】
<光電変換素子の全体構成>
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態における光電変換素子1を説明する。本発明の実施形態における光電変換素子1は、
図1に示すように、陽極(第一電極)2と、陰極(第二電極)3と、光電変換層4と、を備える。光電変換素子1は、基板5の一方側の面上に、陰極(第二電極)3、光電変換層4、陽極(第一電極)2の順に積層される。
【0021】
<基板>
基板5は、例えば、透明な材料により構成される板状の部材である。また、基板5は、変形可能な材料(例えば、可撓性を有する材料)により構成されてもよいし、そうでない材料により構成されてもよい。具体的に基板5の材料としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス、石英ガラス等のガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)などの絶縁性材料が一例として挙げられる。基板5の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、100μm~100mmの範囲にすればよい。
【0022】
<陽極(第一電極)>
陽極2は、少なくとも導電性を有する材料により構成されていればよい。陽極2を構成する材質として、例えば、導電性高分子化合物、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素系化合物、及び、以上の混合体のいずれかが一例として挙げられる。導電性高分子化合物として、例えば、PEDOT-PSSが一例として挙げられるが、これに限定されるものではなく、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールおよびそれらの誘導体等であってもよい。なお、PEDOT-PSSとは、ポリアニオンを添加したイオンを含む置換ポリチオフェンでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)から成る複合物の略称である。
【0023】
また、陽極2は、単層、または、複数の材料が積層された態様であってもよい。また、陽極2は、導電性および光透過性を有する材料により構成されてもよい。その場合、陽極2は、以下で説明する陰極3の材料のいずれかで構成されてもよい。
【0024】
<陰極(第二電極)>
陰極3は、導電性および光透過性を有する材料により構成されることが好ましい。光透過性を有する材料は、例えば、透明な材質が挙げられる。具体的に陰極3を構成する材質としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性金属酸化物が一例として挙げられる。
【0025】
また、陰極3は、単層、または、複数の材料が積層された態様であってもよい。また、陰極3は、上記説明した陽極2の材料で構成されてもよい。
【0026】
<光電変換層>
光電変換層4は、外部から入射する光に起因して電子と正孔とを発生させるものである。そして、光電変換層4は、陽極2および陰極3の間に形成される。
図1に示すように、光が入射すると、光電変換層4において励起子が生成され、電子と正孔とが発生する。そして、電子は陰極3側へ、正孔は陽極2側へ移動する。その結果、陽極2および陰極3に接続された(図示しない)外部回路に、電流(光励起電流)が流れる。
【0027】
光電変換層4は、n型半導体材料およびp型半導体材料を含有している。光電変換層4においてn型半導体材料とp型半導体材料との接合構造は、
図2(A)に示すように、平面的な接合界面を有する平面へテロ接合構造であってもよいし、
図2(B)に示すように、三次元的に混合させたバルクヘテロ接合構造(バルクヘテロジャンクション構造)であってもよい。なお、より具体的に平面へテロ接合構造とは、p型半導体を含むp型半導体層に、n型半導体を含むn型半導体層が積層され、これら2つの層が接触する面がpn接合界面となる接合構造である。また、より具体的にバルクヘテロ接合構造(バルクヘテロジャンクション構造)とは、p型半導体とn型半導体との混合物により形成され、単一の層で形成される接合構造である。
【0028】
本実施形態における光電変換層4のn型半導体材料は、所定の濃度の四塩化チタン水溶液を所定の温度で所定時間加熱して焼成した際に生成される生成物で構成される。その生成物は、酸化チタン(TiO2)、酸化チタン(TiO2)の前駆体、及び不可避不純物で構成される。酸化チタン(TiO2)の前駆体として、例えば、TiO(2+X)やTiClOYが挙げられる。ちなみに、酸化チタン(TiO2)は、二酸化チタンと称してもよい。なお、上記生成物は、酸化チタン(TiO2)の比率が95%以上で、酸化チタン(TiO2)の前駆体の比率が5%以下であることが好ましい。また、上記生成物は、酸化チタン(TiO2)の比率が90%以上で、酸化チタン(TiO2)の前駆体の比率が10%以下であってもよい。また、上記生成物としての酸化チタン(TiO2)、及び酸化チタン(TiO2)の前駆体は、結晶構造を有することが好ましい。
【0029】
また、光電変換層4におけるn型半導体材料には、上記生成物の他に、例えば、フラーレン、フラーレン誘導体、酸化物半導体(例えば、酸化亜鉛)、及び、その他の電子受容性化合物のうち少なくとも1つが含有されていてもよい。すなわち、光電変換層4におけるn型半導体材料は、上記生成物のみで構成されてもよいし、上記生成物および上記上げた電子受容性化合物の混合体により構成されてもよい。この場合であっても、上記生成物、又は、上記混合体が設けられる過程で意図せずに含まれてしまう不可避成分が含有される場合、その材料もn型半導体材料に含まれる。
【0030】
光電変換層4におけるp型有機半導体材料として、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体(例えば、P3HT(ポリ(3-ヘキシルチオフェン)))、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体等が一例として挙げられる。
【0031】
光電変換素子1の出力電圧は、n型半導体材料のLUMOとp型半導体材料のHOMOの値の差で決定される。LUMOとHOMOの値がバンドギャップエネルギーとなるため、n型半導体材料としての上記生成物のバンドギャップエネルギーが大きい場合、n型半導体材料のLUMOが大きくなり、高い出力電圧を得ることが可能となる。
【0032】
本実施形態において、n型半導体材料とp型半導体材料は、それぞれ別々の層(n型半導体層41、p型半導体層42)を構成する。そして、n型半導体層41とp型半導体層42の接合は、平面へテロ接合構造となる。n型半導体層41は、上記生成物により構成される。
【0033】
図3(A)に、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100000倍でn型半導体層41のp型半導体層42との接合面(第一接合面:境界面、以下同様。)41Aを観察した際のSEM像の写真を示す。また、
図3(B)に、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率100,000倍でn型半導体層41を設ける前の陰極3付き基板5の陰極3の表面を観察した際のSEM像の写真を示す。
図3(A),(B)のSEM像の写真を比較すると、n型半導体層41の接合面41Aには、複数の粒状の白い斑点が一様に分布している。p型半導体層42とn型半導体層41が積層する方向を積層方向Kと定義した際、粒状の白い斑点は、
図4(A)に示すように、n型半導体層41の表面の平面部分41Bを起点として、積層方向Kに沿い、p型半導体層42に向かって凸となる凸部43である。つまり、n型半導体層41のp型半導体層42との接合面を、(その接合面に対向する側から)走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したときに、n型半導体層41のp型半導体層42との接合面には、SEM像に白い斑点として表示される複数の微細な凸部43が形成される。
図3(A)のSEM像の写真に示す接合面41Aの領域において凸部43(白い斑点を構成する各白い点)は、概ね一様に分布しているが、これに限定されるものではなく、偏在して分布していてもよい。なお、複数の凸部43には、高さや幅が様々なものが混在してもよいし、高さ又は幅が略同一のものが含まれてもよい。
【0034】
p型半導体層42は、自身の接合面(第二接合面:境界面、以下同様。)42Aにおいてn型半導体層41に接合(接触)する。そして、p型半導体層42は、
図4(A)に示すように、n型半導体層41の凸部43に嵌合(係合)する凹部44を有する。p型半導体層42は、凸部43に凹部44が嵌合して、凸部43に凹部44が覆い被さった状態(嵌合した状態)で、n型半導体層41に係合(接触)する。そして、n型半導体層41とp型半導体層42の互いの接合面での接触面積を多く確保するため、
図4(A)に示すように、凸部43の凸面全体と凹部44の凹面全体が接触するように凸部43に凹部44が嵌合する領域が多く設けられることが好ましい。なお、
図4(B)に示すように、凸部43の凸面一部と凹部44の凹面一部が接触するように凸部43に凹部44が嵌合するような領域があってもよい。
【0035】
接合面41A,42Aに光が当たると、そこで電子と正孔が発生して電流が流れる。接合面が平滑である仮想n型半導体層及び仮想p型半導体層の接触面積に比べて、本実施形態におけるn型半導体層41の接合面41Aとp型半導体層42の接合面42Aの接触面積は大きい。このため、本実施形態における光電変換素子1は、光が当たったときに発生する電子と正孔の量が多くなる。結果、本実施形態における光電変換素子1は、仮想n型半導体層及び仮想p型半導体層を有する光電変換素子に比べて電流電圧特性が良くなる。
【0036】
<光電変換素子の製造方法>
次に、
図5を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法について説明する。まず、基板5に陰極3を形成する(陰極形成工程:ステップS100)。具体的には、例えば、上記<陰極(第二電極)>で説明した材料の被膜を設ける(陰極側成膜工程)。より具体的には、例えば、上記<陰極(第二電極)>で説明した材料をペースト状にして、印刷装置で基板5上に印刷することにより被膜を設ける。なお、上記<陰極(第二電極)>で説明した材料をスパッタ法や蒸着法やその他の成膜方法により基板5上に被膜を設けてもよい。
【0037】
そして、上記被膜が形成された基板5に対して所定温度(例えば、130℃)で所定時間(例えば、10分)加熱するアニール処理を行う(陰極側加熱工程)。これにより、基板5上に陰極3が出来上がる。
【0038】
続いて、陰極3上にn型半導体層41が形成される(n型半導体層形成工程)。具体的には、まず、陰極3上に四塩化チタン水溶液の被膜を形成する(n型半導体層側成膜工程:ステップS101)。より具体的には、例えば、所定の濃度に希釈化された四塩化チタン水溶液に少なくとも基板5の陰極3側を所定時間(例えば、10分~30分)浸漬する。これにより、基板5の陰極3側に、四塩化チタン水溶液の被膜が形成される。なお、四塩化チタン水溶液の被膜は、スピンコート法により基板5に設けられてもよいし、印刷又はその他の成膜方法により設けられてもよい。
【0039】
四塩化チタン水溶液の被膜が形成された基板5を、所定温度の雰囲気中で所定時間乾燥させる。つまり、四塩化チタン水溶液の被膜を加熱して、四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させる(第一加熱工程:ステップS102)。なお、第一加熱工程を四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させるという意味に捉えて、第一加熱工程を水分除去工程と見做してもよい。
【0040】
ちなみに、第一加熱工程(水分除去工程)において所定温度は、四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させることができる温度(水の沸点)であればよく、例えば、70℃~100℃の範囲内のものが好ましく、より好ましくは、80℃~90℃の範囲内のものが好ましい。また、第一加熱工程(水分除去工程)において所定温度は、所定時間において一定であってもよいし、変化させてもよい。また、第一加熱工程(水分除去工程)において所定時間は、四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させることができる時間であればよい。本工程において所定時間は、例えば、所定温度が80℃の場合、60分程度が好ましい。
【0041】
更に、第一加熱工程と第二加熱工程(焼成工程)の間の工程において、別の加熱工程が行われても、その加熱工程で四塩化チタン水溶液の被膜から水分を蒸発(除去)させていれば、その加熱工程も水分除去工程に含まれると見做してもよい。つまり、水分除去工程は、複数の加熱工程で構成されてもよい。
【0042】
なお、200℃以下では加熱温度では、結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)や結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)の前駆体は、ほとんど生成されない。この状態では、電子輸送性が極端に低いので、電荷分離した電子を電極まで輸送することがほとんどできない。一方、結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)は電子輸送性が高い。このため、結晶構造を有する酸化チタン(TiO2)が生成されるように、第一加熱工程(水分除去工程)を経た基板5の少なくとも被膜側を、所定温度(例えば、500℃)で所定時間(例えば、45分)加熱して焼成する(第二加熱工程(焼成工程):ステップS103)。つまり、基板5における水分が除去された被膜が基板5の陰極3上で焼成される。なお、第二加熱工程を、水分除去工程を経た基板5の少なくとも被膜側を所定時間加熱して焼成するという意味に捉えて、第二加熱工程を焼成工程と見做してもよい。
【0043】
焼成の過程で、水分が除去された被膜が酸化等の化学反応を起こして、基板5の陰極3上において既に説明した所定の生成物が生成される。そして、焼成の過程で、その所定の生成物は、n型半導体層41を形成し、同時に、n型半導体層41の接合面には、複数の凸部43が形成される。繰り返しになるが、所定の生成物として、酸化チタン(TiO2)、酸化チタン(TiO2)の前駆体、及び不可避不純物が挙げられる。
【0044】
なお、第二加熱工程(焼成工程)において所定温度(焼成温度)は、水分が除去された被膜を基板5に焼成できる温度であればよく、例えば、450℃~550℃が好ましい。所定温度(焼成温度)が450℃を超えると、酸化チタン(TiO2)、酸化チタン(TiO2)の前駆体は、確実にアナターゼ型の結晶構造となり、所定温度(焼成温度)が550℃を超えると、陰極3の抵抗率が増加してしまう可能性があるからである。ちなみに、所定温度(焼成温度)が500℃~550℃となると、酸化チタン(TiO2)、及び酸化チタン(TiO2)の前駆体には、アナターゼ型の結晶構造のものだけでなく、ルチル型の結晶構造のものも含まれると推測される。
【0045】
更に、第二加熱工程よりも後の工程において、別の加熱工程が行われても、その加熱工程が被膜を焼成させるものであれば、その加熱工程も焼成工程に含まれると見做してもよい。つまり、焼成工程は、複数の加熱工程で構成されてもよい。
【0046】
なお、ここで、説明の便宜上、本実施形態において第一加熱工程(水分除去工程)及び第二加熱工程(焼成工程)をまとめてn型半導体層側加熱工程と定義する。このn型半導体層側加熱工程を2つの工程に分けているのは、もし第一加熱工程(水分除去工程)を省いて第二加熱工程(焼成工程)を行った場合、高温で加熱するため、熱膨張でn型半導体層41にクラックが生じる可能性があり、そのようなことを避けるためである。本実施形態のようにn型半導体層側加熱工程を2工程にすることにより、クラックが無く、且つ複数の微細な凸部43が接合面に分布するn型半導体層41を設けることができる。なお、四塩化チタン水溶液に、更に上記説明したn型半導体材料である電子受容性化合物を加えてもよい。
【0047】
また、第一加熱工程(水分除去工程)より前、又は、第一加熱工程(水分除去工程)と第二加熱工程(焼成工程)の間、第二加熱工程(焼成工程)の後に、n型半導体層41を設ける上で別のことを主目的とする追加工程があってもよい。その追加工程は、主目的ではないが、結果として、水分除去工程、又は焼成工程の目的を果たすものであってもよいし、そうでなくてもよい。本実施形態の光電変換素子の製造方法のように、少なくとも第一加熱工程と第二加熱工程が含まれていれば、水分除去と焼成を行ってn型半導体層41を設けることができる。
【0048】
従来の色素増感型光電変換素子の製造方法では、既に設けられている半導体層(酸化チタン層)の半導体粒子間の結合性(ネッキング)の改善を目的として、半導体層(酸化チタン層)を四塩化チタン水溶液で処理している。一方、本実施形態における光電変換素子の製造方法では、既にある半導体層に四塩化チタン水溶液で処理を施すものではなく、四塩化チタン水溶液を主材料として用い、半導体層(n型半導体層41)そのものを形成させる。つまり、四塩化チタン水溶液を、一方(従来の色素増感型光電変換素子の製造方法)は、半導体層の改善処理で用い、他方(本実施形態における光電変換素子の製造方法)は、半導体層そのものを作る処理で用いているため、両者の製造方法は全く異なる。
【0049】
更に、本実施形態における光電変換素子の製造方法では、n型半導体層41に凸部43が形成され、それによりn型半導体層41とp型半導体層の42の接触面積を増大させ、光が当たったときに発生する電子と正孔の量を増大させている。つまり、本実施形態における光電変換素子の製造方法は、平面へテロ接合構造を前提としたものである。一方、従来の色素増感型光電変換素子は、光が当たったときに半導体層と電解液との間で電子の移動を生じさせて発電するものであり、平面へテロ接合構造における発電原理とは全く異なるものである。
【0050】
なお、n型半導体層41は、所定の濃度に希釈化された四塩化チタン水溶液を用いて、陰極3上に複数の凸部43を有するように形成された上記生成物を形成させることができれば、その他の処理方法で設けられてもよい。
【0051】
次に、n型半導体層41上にp型半導体層42が形成される(p型半導体層形成工程)。具体的には、まず、n型半導体層41上にp型半導体材料の被膜を形成する(p型半導体層側成膜工程:ステップS104)。より具体的には、例えば、p型有機半導体材料を所定の有機溶剤に溶解又は分散させた塗布液を、n型半導体層41上に塗布し、スピンコート法によりn型半導体層41上に塗布液の被膜を設ける。以上のようにして被膜を設けると、被膜は、n型半導体層41の凸部43の凸面全体に被膜の表面全体が接触した状態となる。なお、その被膜は、n型半導体層側成膜工程の場合と同様に、塗布液に少なくとも基板5のn型半導体層41側を塗布液に浸漬して設けてもよいし、印刷又はその他の成膜方法によりn型半導体層41上に設けられてもよい。
【0052】
そして、塗布液の被膜が形成された基板5に対して所定温度(例えば、100℃)で所定時間(例えば、10分)加熱するアニール処理を行う(p型半導体層側加熱工程:ステップS105)。これにより、n型半導体層41の凸部43に対して嵌合しつつ、凸部43に係合(接触)する凹部44を有するp型半導体層42が出来上がる。ちなみに、p型半導体層側加熱工程における加熱温度を大きくし過ぎると、
図4(B)に示すように、n型半導体層41の凸部43の凸面の一部と、p型半導体層42の凹部44の凹面の一部が接触していない状態を招くおそれがあるため、p型半導体層側加熱工程における加熱温度は、70℃~120℃の範囲のいずれかが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、p型半導体層側加熱工程は、上記n型半導体層側加熱工程の場合と同様に2工程(水分除去工程、焼成工程))に分けてもよい。この場合、水分除去工程に対応する工程における所定温度(焼成温度)は、n型半導体層側加熱工程と同様であってもよい。また、焼成工程に対応する工程における所定温度(焼成温度)は、p型半導体材料における結晶構造やその他の部分の抵抗率の増加を防ぐ観点から決定されることが好ましい。
【0053】
なお、
図6に示すように、光電変換層4をバルクヘテロ接合構造(バルクヘテロジャンクション構造)にする場合、四塩化チタンとp型半導体材料を含む混合溶液の被膜を陰極3上に形成すればよい(成膜工程)。そして、上記被膜が形成された基板5に対して所定温度(例えば、130℃)で所定時間(例えば、10分)加熱するアニール処理を行う(加熱工程)。これにより、陰極3上にバルクヘテロ接合構造(バルクヘテロジャンクション構造)の光電変換層4が出来上がる。なお、混合溶液の被膜に対する加熱工程も、上記n型半導体層側加熱工程の場合と同様に2工程に分けてもよい。この場合、焼成工程に対応する工程における所定温度(焼成温度)は、n型半導体材料及びp型半導体材料における結晶構造やその他の部分の抵抗率の増加を防ぐ観点から決定されることが好ましい。
【0054】
最後に、p型半導体層42上に陽極2を形成する(陽極形成工程:ステップS106)。具体的には、まず、p型半導体層42上に上記<陽極(第一電極)>で説明した材料の被膜を設ける(陽極側成膜工程)。より具体的には、例えば、上記<陽極(第一電極)>で説明した材料をペースト状にして、印刷装置で基板5上に印刷することにより被膜を設ける。なお、上記<陽極(第一電極)>で説明した材料をスパッタ法や蒸着法やその他の成膜方法によりp型半導体層42上に被膜を設けてもよい。
【0055】
そして、上記被膜が形成された基板5に対して所定温度(例えば、130℃)で所定時間(例えば、10分)加熱するアニール処理を行う(陽極側加熱工程)。これにより、p型半導体層42上に陽極2が出来上がる。以上により、光電変換素子1が完成する。
【0056】
なお、本実施形態における光電変換素子1に、
図1(B)に示すように、電子輸送層6、及び/又は、正孔輸送層7を設けたものもの本発明の範囲に含まれる。なお、電子輸送層6とは、光電変換層4で発生する電子を効率良く陰極3へと輸送する機能を担うものである。また、電子輸送層6は、陰極3と光電変換層4(n型半導体層41)の間に設けられる。なお、電子輸送層6を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、チタニウム(IV)イソプロポキシドが一例として挙げられ、フラーレンやその誘導体等の電子輸送性を有するn型半導体が挙げられる。
【0057】
正孔輸送層7は、光電変換層4で発生する正孔を効率良く陽極2へと輸送する機能を担う。正孔輸送層7は、正孔の移動度が高い材料で形成されることが好ましい。また、正孔輸送層7は、陽極2と光電変換層4(p型半導体層42)の間に設けられる。なお、正孔輸送層を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、低分子化合物であればNTCDAに代表される芳香族環状酸無水物等が一例として挙げられ、高分子化合物であれば、PEDOT-PSS、ポリ(3,4-エチレンジオキシ)チオフェン等に代表される公知の導電性高分子等が一例として挙げられる。
【0058】
光電変換素子1に、電子輸送層6、及び/又は、正孔輸送層7が設けられる場合、スパッタ法、蒸着法、スピンコート法、印刷等を含む成膜方法により対応する材料を対応する位置に積層させて電子輸送層6、及び/又は、正孔輸送層7を設ければよい。
【実施例1】
【0059】
次に、本願発明者は、本発明の実施例としての光電変換素子と、比較例としての光電変換素子を作成し、電流-電圧特性を評価する実験を行った。本実施例としての光電変換素子1は、FTO(フッ素ドープ酸化スズ透明導電膜)付ガラス基板(旭硝子製)の上に、光電変換層4、陽極2を順に成膜したものである。なお、FTO付ガラス基板におけるFTO部分が陰極3を構成し、ガラス基板部分が基板5を構成する。
【0060】
次に、溶媒としての純水に対して、40mM(モーラー)の四塩化チタン水溶液(大阪チタニウムテクノロジーズ製)を入れて混合した浸漬溶液を作成し、浸漬溶液にFTO付ガラス基板を10分浸漬する。その後、FTO付ガラス基板を80℃の雰囲気中で60分置いて浸漬溶液の水分を蒸発(除去)させる。そして、そのFTO付ガラス基板を500℃で45分焼成する。これにより、接合面に複数の微細な凸部43を有するn型半導体層41が出来上がる。ちなみに、
図3(A)のSEM像の写真は、本実施例における光電変換素子1のn型半導体層41の表面を撮影したものである。
【0061】
次に、5(mg/ml)のP3HT(ポリ(3-ヘキシルチオフェン))溶液(ardrich社製)を塗布液として、n型半導体層41上に塗布し、スピンコート法によりn型半導体層41上に塗布液の被膜を設ける。そして、被膜を100℃で10分間加熱するアニール処理を行う。これにより、p型半導体層42が出来上がり、光電変換層4が完成する。
【0062】
次に、導電性ペースト(Clevios(登録商標) S V3 Stab)を用いて、p型半導体層42上に、陽極2をスクリーン印刷した後、130℃10分間加熱するアニール処理を行う。これにより、本実施例としての光電変換素子が完成する。
【0063】
比較例としての光電変換素子は、本実施例としての光電変換素子とはn型半導体層41の構成が異なるだけで、それ以外は同様の方法で作成した。比較例としての光電変換素子におけるn型半導体層は、以下のように作成する。溶媒としての2-プロパノールに対して、2wt%のTi(IV)isopropoxideを入れて混合した溶液を作成し、FTO付ガラス基板に溶液を滴下し、2000rpmで30分間スピンコートを行う。その後、120℃で10分FTO付ガラス基板を焼成する。これにより、比較例としての光電変換素子におけるn型半導体層が出来上がる。
【0064】
以上のようにして作製された本実施例としての光電変換素子、及び比較例としての光電変換素子の電流-電圧特性を測定するのに、ソーラーシミュレーター(株式会社三永電機製作所製XES-4051)を用いた。その結果、得られた両光電変換素子の電流-電圧特性を
図7(A)に示し、短絡電流密度Jsc(mA/cm
2)を
図7(B)に示す。
図7(A),(B)から明らかなように、本実施例としての光電変換素子の方が比較例としての光電変換素子よりも短絡電流密度Jsc(mA/cm
2)が向上している。従って、本実施形態における光電変換素子1のように構成すれば、短絡電流密度が向上することが確認できた。
【0065】
尚、本発明の光電変換素子、及びその光電変換素子を製造する方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
1 光電変換素子
2 陽極(第一電極)
3 陰極(第二電極)
4 光電変換層
5 基板
6 電子輸送層
7 正孔輸送層
41 n型半導体層
41A 第一接合面
42 p型半導体層
42A 第二接合面
43 凸部
44 凹部