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特許7294607熱電変換モジュールの製造方法、及び、熱電変換モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】熱電変換モジュールの製造方法、及び、熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20230613BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20230613BHJP
   H10N 10/13 20230101ALI20230613BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20230613BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/01
H10N10/13
H10N10/852
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018064074
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019176052
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】森田 亘
(72)【発明者】
【氏名】関 佑太
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-182160(JP,A)
【文献】特表2013-508983(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/17
H10N 10/01
H10N 10/13
H10N 10/852
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をおいて並んだ複数の帯状部と、該複数の帯状部に連結された支持部とを含み、隣り合う前記帯状部の間に空隙を有し、前記支持部と前記帯状部とが一体的に連結されるようにパターニングされたシート状熱伝導体を準備し、
交互に隣接して配置されたP型熱電素子とN型熱電素子とを含む熱電素子層を準備し、
前記シート状熱伝導体と前記熱電素子層とを位置合わせし、
前記シート状熱伝導体を、熱電素子層に接合して接合体を得た後、当該接合体の前記支持部を含む部位を切断して除去することを含む、熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記接合体から、前記支持部を含む部分を切断して除去することをさらに含む、請求項1に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記シート状熱伝導体は、前記支持部が、前記複数の帯状部の一方の端部同士を連結するように設けられている、請求項1又は2に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記シート状熱伝導体は、平面視で四角形状であり、かつ、前記支持部が少なくとも前記四角形の対向する二辺に相当する位置に設けられている、請求項1~3のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記シート状熱伝導体の前記支持部がアライメントマークを含んでいる、請求項1~4のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
【請求項6】
一対の主面と該一対の主面を囲む側面とを備える熱電変換モジュールであって、
基材と、
前記基材上に形成された、交互に隣接配置されたP型及びN型熱電素子を含む熱電素子層と、
前記熱電素子層の主面に接合層を介して配置された複数の帯状熱伝導体と、を備え、
前記複数の帯状熱伝導体は、前記P型及びN型熱電素子の並び方向に、前記P型及びN型熱電素子の接合部に対応づけて、隣り合う帯状伝導体の間に空隙を有するように配置され、
前記側面は、少なくとも前記複数の帯状熱伝導体の切断面と、前記基材の切断面と、前記接合層の切断面とが、幾何学上の同一の平面に含まれるように形成された切断面である、熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱と電気との相互エネルギー変換を行う熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールの製造方法、及び、熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換を利用したエネルギー変換技術として、熱電発電技術及びペルチェ冷却技術が知られている。熱電発電技術は、ゼーベック効果による熱エネルギーから電気エネルギーへの変換を利用した技術である。この技術は、熱電変換を実現するための熱電変換素子を動作させるのに多大なコストを必要としないので、特にビル、工場等の施設で使用される化石燃料資源等から発生する未利用の廃熱エネルギーを電気エネルギーとして回収できる省エネルギー技術として大きな脚光を浴びている。ペルチェ冷却技術は、熱電発電とは逆に、ペルチェ効果による電気エネルギーから熱エネルギーへの変換を利用する技術である。この技術は、例えば、ワインクーラーや携帯可能な小型冷蔵庫に用いられている。この技術は、その他にも、コンピュータに用いられるCPUの冷却手段や、精密な温度制御が必要な部品や装置(例えば、光通信の半導体レーザー発振器)の温度制御手段としても用いられる。
【0003】
このような熱電変換を利用した熱電変換素子において、インプレーン型の熱電変換素子が知られている。インプレーン型とは、温度差を熱電変換層の厚さ方向ではなく、熱電変換層の面方向に生じさせることにより、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換素子のことをいう。
また、平坦でない面を有する廃熱源や放熱源等へ設置することを鑑み、設置場所を制限されることがないように、熱電変換素子には、屈曲性を有することが要求されることがある。
特許文献1には、インプレーン型の屈曲性を有する熱電変換素子が開示されている。具体的には、P型熱電素子とN型熱電素子とを直列に接続するとともに、その両端部に熱起電力取り出し電極を配置して熱電変換モジュールを構成し、この熱電変換モジュールの両面に2種類の熱伝導率の異なる材料で構成された柔軟性を有するフィルム状基板を設けたものが示されている。フィルム状基板には、熱電変換モジュールとの接合面側に熱伝導率の低い材料(ポリイミド)が設けられる一方、熱電変換モジュールの接合面と反対側に熱伝導率の高い材料(銅)が、基板の一部分に重なるように設けられている。
特許文献2には、インプレーン型の熱電変換モジュールの両面に、高熱伝導部と低熱伝導部とを交互に設けた熱伝導性接着シートを含む、屈曲性を有する熱電変換素子が開示されている。
特許文献3には、発電層の両面にポリイミド層や粘着材層等を介して熱伝導性の高い銅ストライプを交互に配置した熱電変換素子が開示されている。この熱電変換素子を製造するために、ポリイミド層にストライプ状の銅が埋め込まれたポリイミド層を用いたり、銅貼りポリイミドをエッチングして銅ストライプを形成することで熱伝導層を形成したりすることが記載されている。
近年、熱電変換素子の利用が広まるにつれて、熱電変換素子の大面積化や、熱電変換素子が期待される発電性能を正確に発揮できることが求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-186255号公報
【文献】国際公開第2015/046253号
【文献】国際公開第2015/098574号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~3に記載されるように、熱伝導層は、放熱を効率的に行うために、ストライプ状に間隔をあけて配置するなど、パターン配置する必要がある。しかしながら、熱電変換モジュールの面積を大きくしたり、熱電変換モジュールに含まれる熱電素子の数を多くしたりすると、パターニングされた熱伝導層を熱電素子に対して正確に配置することが難しくなるという問題があった。
また、上述したような、精密な温度制御を行う用途では、意図したとおりの性能が発揮されることが求められるし、複数のモジュールを併用するような用途では、各モジュールの性能が均一であることが求められる。このような用途において、パターニングされた熱伝導層を熱電素子に対して正確に配置できないと、温度制御の精度が低下したり、複数の熱電変換モジュールの性能にばらつきが生じたりするなどの問題につながる恐れがある。
高い熱電性能を保持しつつ、このような要請に対応できる精度の高い組み立てを実現でき、しかも、できるだけ簡易に熱電変換素子を製造できるような製造方法が求められている。しかしながら、製造方法について十分検討がなされていなかった。上記特許文献1においては、高熱伝導部を配置する手順について詳しい説明がなく、特許文献2では、樹脂層に金属フィラー等を含有させることで高熱伝導部を形成しており、温度差をつけ難い構成となっている。また、特許文献3には、熱伝導層と粘着材層との貼り合せの際の詳細な手順が記載されていない。
【0006】
本発明は、上記問題を鑑み、製造の手順が簡易でありながら、精度よく熱伝導体を配置することができる、フレキシブル熱電変換モジュールの製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、精度よく配置された熱伝導体を備える熱電変換モジュールを提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、複数の帯状部とこれらの複数の帯状部に連結する支持部とを含むシート状熱伝導体を準備し、また、一対の主面のうち一方に、交互に隣接して配置されたP型熱電素子とN型熱電素子とを含む熱電素子層を準備し、両者を位置合わせしてから、シート状熱伝導体を熱電素子層に接合することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
[1]間隔をおいて並んだ複数の帯状部と、該複数の帯状部に連結された支持部とを含むシート状熱伝導体を準備し、
交互に隣接して配置されたP型熱電素子とN型熱電素子とを含む熱電素子層を準備し、
前記シート状熱伝導体と前記熱電素子層とを位置合わせし、
前記シート状熱伝導体を、熱電素子層に接合して接合体を得ることを含む、熱電変換モジュールの製造方法。
[2]前記接合体から、前記支持部を含む部分を切断して除去することをさらに含む、[1]に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
[3]前記シート状熱伝導体は、前記支持部が、前記複数の帯状部の一方の端部同士を連結するように設けられている、[1]又は[2]に記載の熱電変換モジュールの製造方法。
[4]前記シート状熱伝導体は、平面視で四角形状であり、かつ、前記支持部が少なくとも前記四角形の二辺に相当する位置に設けられている、[1]~[3]のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
[5]前記シート状熱伝導体は、隣り合う前記帯状部の間に空隙を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
[6]前記シート状熱伝導体の前記支持部がアライメントマークを含んでいる、[1]~[5]のいずれかに記載の熱電変換モジュールの製造方法。
[7]複数の帯状部と、該複数の帯状部に連結する支持部とを含むシート状熱伝導体、及び、
該シート状熱伝導体に接合された、交互に隣接配置されたP型熱電素子とN型熱電素子、を備える、熱電変換モジュール。
[8]一対の主面と該一対の主面を囲む側面とを備える熱電変換モジュールであって、
複数の帯状熱伝導体を備え、
前記側面は、少なくとも前記複数の帯状熱伝導体の切断面を含む熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造の手順が簡易でありながら、精度よく熱伝導体を配置することができる、熱電変換モジュールの製造方法を提供できる。また、本発明によれば、精度よく配置された熱伝導体を備える熱電変換モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施態様に係る熱電変換モジュール100を示す部分断面図であり、図2におけるI-I線に沿う断面図である。
図2】熱電変換モジュール100の面方向の構成を示す平面図である。
図3】熱電変換モジュール100の構成を説明するための図である。図3(A)は、基板2の主面上に設けられた電極3の配置パターンを示す平面図であり、図3(B)は、電極3を備える基板2の主面上に設けられたP型熱電素子層5及びN型熱電素子層4の配置パターンを示す平面図である。
図4】熱電変換モジュールの製造方法の実施形態を示す説明図である。図4(A)は、電極3が設けられた基板2を準備する工程、図4(B)は、基板2の一方の主面上に、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4からなる熱電素子層6を形成する工程、図4(C)は、熱電素子層6上に第1接合層81を形成する工程、をそれぞれ示している。
図5】熱電変換モジュール100を作製する途中段階の様子を示す図である。図5(A)は、シート状熱伝導体9を、基板2上の熱電素子層6に貼り合せる前の基板2の平面図であり、図5(B)はシート状熱伝導体9の平面図である。
図6】シート状熱伝導体9を貼り合せた後の熱電変換モジュール100aの平面図である。
図7】熱電変換モジュールの製造方法の実施形態を示す説明図である。図7(D)は、第1熱伝導体として機能し得るシート状熱伝導体9を第1接合層上に設ける工程、図7(E)は、第2熱伝導体として機能し得るシート状熱伝導体9Rを基板2の他方の主面上に形成する工程を、それぞれ示している。いずれも、図6におけるVII-VII線に沿う断面図である。
図8】熱電変換モジュール(接合体)100aの面方向の構成、及び、切断箇所を示す平面図である。
図9】熱電変換モジュールの製造方法の実施形態を示す説明図である。図9(F1)は、シート状熱伝導体9の支持部と基板2の余白部とを含む部位を切断する様子を示し、図9(G1)は、切断後の様子を示す。いずれも、図8におけるIX-IX線に沿う断面図である。
図10】熱電変換モジュールの製造方法の実施形態を示す説明図である。図10(F2)は、シート状熱伝導体の支持部と基板の余白部とを含む部位を切断する様子であって、図9とは異なる辺から見た様子を示し、図10(G2)は、切断後の様子を示す。いずれも、図8におけるX-X線に沿う断面図である。
図11】切断後の熱電変換モジュール100のコーナー付近の部分斜視図である。
図12】第2の実施態様に係る熱電変換モジュール100bを示す平面図である。
図13】第3の実施態様に係る熱電変換モジュール100cを示す平面図である。
図14】第4の実施態様に係る熱電変換モジュール100dを示す平面図であり、多数個取りする前の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の実施形態に係る熱電変換モジュールの製造方法によって得られる最終製造物である、熱電変換モジュールの基本構成を説明する。
【0011】
[熱電変換モジュール]
本発明の実施形態に係る熱電変換モジュールは、複数の帯状熱伝導体、及び、交互に隣接して配置されたP型熱電素子とN型熱電素子とを含む熱電素子層を備えている。
そして、この熱電変換モジュールは、一対の主面と該一対の主面を囲む側面とを備えており、このうち側面は、少なくとも複数の帯状熱伝導体の切断面を含んでいる。特に、以下で説明する熱電変換モジュールにおいては、上記側面が、複数の帯状熱伝導体の切断面と、熱電素子層の切断面とを含んでいる。したがって、帯状熱伝導体と熱電素子層とは、当該側面において通常面一となっている。
熱電素子層は、一対の主面を有する基板の一方の主面に設けられていてもよい。また、熱電素子層と帯状熱伝導体は、接合層を間に介して接合されていてもよい。熱電変換モジュールは、全体として、屈曲可能なフレキシブル性のあるフレキシブル熱電変換モジュールとしてもよい。
【0012】
以下、図面を使用して、本発明の熱電変換モジュールの第1の実施形態であるフレキシブル熱電変換モジュールを例にとって、熱電変換モジュールの構成及び製造方法を説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施態様であるフレキシブル熱電変換モジュール100の部分断面図であり、後述する図2にI-I線に沿う断面図に相当する。図1に示すように、フレキシブル熱電変換モジュール100は、一対の平行な主面を備えるシート形状のものであり、電極3を有するフィルム基板2の一方の面に設けられた、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4からなる熱電素子層6と、熱電素子層6の基板2と反対側の面に、第1接合層81を介して設けられた、高熱伝導性材料からなる第1熱伝導体91と、基板2の熱電素子層6とは反対側の面に、第2接合層82を介して設けられた、高熱伝導性材料からなる第2熱伝導体92と、を備えている。なお、理解を容易にするため、図1及び以降の図面においては、各部材や各層の厚みや長さ等は誇張して図示されている。これらの図面における各部の寸法によって本発明は何ら限定されない。
【0014】
図2は、熱電変換モジュール100の面方向の構成を示す平面図である。より具体的には、熱伝導体91側から見た図であり、理解を容易にするため、第1接合層81を省略して図示している。図2に示すように、熱電変換モジュール100においては、フィルム基板2は平面視で四角形状であり、一対の主面を囲むように4辺に側面が形成されている。また、フィルム基板2の一方の主面上に設けられている電極3に重なるように、複数の列状に形成された熱電素子層6が設けられている。熱電素子層6の各列は、交互に隣り合って配置された複数のP型熱電素子層5と複数のN型熱電素子層4とで構成されている。
【0015】
図3は、熱電変換モジュール100の構成をさらに詳しく説明するための図である。図3(A)は、フィルム基板2の主面上に設けられた電極3の配置パターンを示す平面図であり、図3(B)は、フィルム基板2の熱電素子層6側の主面上に設けられたP型熱電素子層5及びN型熱電素子層4の配置パターンを示す平面図である。図3(A)に示すように、電極3は、熱電変換モジュール100からの熱起電力の取り出し、又は、熱電変換モジュール100への電圧印加のための端子となる2つの第1電極部3a、互いに隣り合うP型熱電素子層5とN型熱電素子層4とを電気的に接続するための多数の第2電極部3b、及び、熱電素子層の各列を互いに電気的に接続するための複数の第3電極部3cを含む。各電極部3a~3cはそれぞれ島状に分かれて配置されている。
【0016】
図3(B)に示すように、P型熱電素子層5とN型熱電素子層4で構成される熱電素子層の列が、複数並んで配置されている。熱電素子層の各列において、端部以外の隣り合う熱電素子層4、5の接合部に重なるように第2電極部3bが配置されている。なお、本図においては、第2電極部3bは熱電素子層に覆われて見えない位置にあるため、図示していない。熱電素子層の各列の一方の端部に接するように、第3電極部3cが配置されている。第3電極部3cは、ある熱電素子層の列の一方の端部のP型熱電素子層5又はN型熱電素子層4と、次の熱電素子層の列の一方の端部のN型熱電素子層4又はP型熱電素子層5とを電気的に接合している。熱電素子層の各列の他方の端部も同様に次の熱電素子層の列の端部と第3電極部3cによって電気的に接合されている。両端に位置する熱電素子層の列における一方の端部の熱電素子が、第1電極部3aにそれぞれ接続されている。こうして、基板2上に二次元的に配置されたP型熱電素子層5及びN型熱電素子層4が、各電極部3a~3cによって電気的に直列接続され、結果的に、フィルム基板2の主面上で蛇行するように通電経路が形成されている。熱電素子層の列が線形に配置される場合には、熱電素子層自体に自立性があればフィルム基板2はなくてもよいが、図3(B)に示すように熱電素子層が二次元的に配置される場合には、フィルム基板2を用いることが好ましい。
【0017】
図2に戻って、熱電素子層6のフィルム基板2とは反対側の面に、図示を省略した第1接合層81を介して、複数の第1熱伝導体91が設けられている。第1熱伝導体91は、熱電素子層の列に交差するように配置された複数の薄い帯状に形成されている。第1熱伝導体91は、P型熱電素子層5とN型熱電素子層4との接合部を一つおきに覆っている。第2熱伝導体92も、各熱電素子列に交差する、複数の薄い帯状に形成されており、図2には示していないが、フィルム基板2の主面に垂直な方向から見て、第1熱伝導体91によって覆われていない熱電素子の接合部に対応する位置に、第2接合層82を介して、第2熱伝導体92が設けられている。結果的に、帯状の熱伝導体91、92の並び方向の縦断面において、第1熱伝導体91と第2熱伝導体92とが、熱電素子層6に対して互い違いに配置されている。なお、フィルム基板2の主面に垂直な方向において、第1熱伝導体91の端部と第2熱伝導体92の端部とが一致していてもよいし、重なっていてもよいし、離れていてもよいが、これらの位置関係は正確に位置決めされている。
【0018】
熱伝導層が存在することにより、熱電変換モジュールの内部の熱電素子に対して、面内方向に十分に温度差を付与することが可能となり、熱電変換モジュール100の面内に温度差が生じる結果、2つの第1電極部の間に熱起電力を生じさせることができる。特に、熱電変換モジュール100の表裏2つの面に対して温度差をつけると、2つの第1電極部の間により顕著に熱起電力を生じさせることができる。フィルム基板を用いるとともに、電極3、熱電素子層6、熱伝導層91、92を薄く形成することにより、熱電変換モジュール100全体を、薄型でフレキシブルなものとすることができる。
【0019】
なお、図3(A)、図3(B)においては、第2電極部3bの数を42個(=7個×6列)、第3電極部3cの数を5個、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層の数をそれぞれ24個(=4個×6列)としており、また、図2では、第1熱伝導体91の数を4本としているが、これらの数は適宜変更可能である。各電極部3aの大きさや位置も適宜変更可能である。また、図3(A)では、2つの第1電極部3aを基板2の一つの辺に接するように配置しているが、これに限るものではなく、熱電変換デバイスの用途分野や使用環境等に合わせて、2つの第1電極部3aを基板2の別々の辺に接するように配置しても構わない。熱電変換モジュール100を構成する各部の材質や大きさ等の詳細については後述する。
【0020】
[熱電変換デバイスの製造方法]
本実施形態の熱電変換モジュールの製造方法は、(a)熱伝導性の材料からなり、間隔をおいて並んだ複数の帯状部と、この複数の帯状部に連結された支持部とを含むシート状熱伝導体を準備し、(b)交互に隣接して配置されたP型熱電素子とN型熱電素子とを含む熱電素子層を準備し、(c)シート状熱伝導体と熱電素子層とを位置合わせし、(d)シート状熱伝導体を、熱電素子層に接合して接合体を得ることを少なくとも含む。そして、(e)シート状熱伝導体の支持部を含む部分を接合体から切断して除去することをさらに含むことができる。
以下、熱電素子層が一対の主面を有するフィルム基板の一方の主面に設けられており、熱電素子層のフィルム基板とは反対側の面と、フィルム基板の熱電素子層の反対側の面のいずれにも帯状熱伝導体を設け、熱電素子層と帯状熱伝導体、及び、フィルム基板と帯状熱伝導体が、接合層を間に介して接合されている場合を例として、図面を用いて各工程を詳しく説明する。図4は、熱電変換モジュールの製造方法の実施形態を示す説明図である。図4(A)は、電極3が設けられた基板2を準備する工程、図4(B)は、基板2の一方の主面上に、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4からなる熱電素子層6を形成する工程、図4(C)は、熱電素子層6上に第1接合層81を形成する工程、をそれぞれ示している。また、図5は、熱電変換モジュール100を作製する途中段階の様子を示すである。図5(A)は、基板2上の熱電素子層6にシート状熱伝導体9を貼り合せる前の基板2の平面図であり、図5(B)はシート状熱伝導体9の平面図である。
【0021】
<シート状熱伝導体を準備する工程>
まず、図5(B)に示すように、間隔をおいて並列に配置された帯状部9aとこれらに連結する2つの支持部9bと両支持部9bに連結する第1連結部9cとを備える、熱伝導性材料からなるシート状熱伝導体9を準備する。帯状部9aと支持部9bと第1連結部9cは一体的に連結されており、切断等により各部の間を破壊しなければ分離不能である。このようなシート状熱伝導体は、例えば、熱伝導性材料からなるシートを、フォトリソグラフィー法等の公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、図5(B)に示すように、支持部となる部分の熱伝導性材料を残しつつ、熱伝導性材料の帯状部となるべき部分の間をパターン状に除去して、複数の帯状部とこれらの一方の端部同士を連結するように設けられている支持部とを備えるように加工することができる。この場合、支持部は熱電変換モジュールの積層構造の厚み方向において、帯状部9aと支持部9bと第1支持部9cとが同一の層に属している。また、支持部9bが複数の帯状部9aの一方の端部同士に連結してこれらを支持しているので、後述する位置決めの際に、複数の帯状部9aを一括して正確に位置決めさせやすく、また、取り扱いやすい。また、熱伝導性材料のシートをパターニングした後においても、帯状部9aは支持部9bにより連結されているため、熱伝導性材料からなるシートを別途工程フィルム等により支持しながら行う必要はなく、熱伝導性材料の単体に対してパターニング処理を行うことが可能となる。なお、並列とは、隣り合う帯状部同士が互いに接しないように間隔をあけて配列されていることを意味し、隣り合う帯状部同士が平行に並んでいてもよいし、平行でなくてもよい。
支持部9bがシート状熱伝導体9の端部にあるので、帯状部9aを正確な位置に保持すしやすく、また、フィルム基板2との位置合わせも容易に行うことができる。
【0022】
本実施形態のシート状熱伝導体9のように、シート状熱伝導体9として、平面視で四角形状であり、かつ、支持部9bが少なくともこの四角形の二辺に相当する位置に設けられているものを用いることが好ましい。二以上の辺に支持部を有するシート状熱伝導体であると、シート状熱伝導体の強度を保ちやすく、貼り合せが容易になる。また、帯状部9aの保持がより確実になる。
また、後述する位置決めを精度よく行うために、図5に示すように、支持部9bと第1連結部9cの少なくとも一方にアライメントマークAM2を設けておくことが好ましい。
【0023】
シート状熱伝導体として、帯状部よりも熱伝導性が低い材料からなる低熱伝導部を支持部がさらに支持しているものを用いてもよいが、図5(B)の例のように、隣り合う帯状部の間に空隙を有することが好ましい。隣り合う帯状部の間に空隙を有する場合、熱電素子層のシート状伝導体が設けられる面上において、当該空隙が存在する領域には大気が存在することになり、大気の熱伝導率は通常0.02W/(m・K)程度と非常に小さいので、帯状部の熱伝導率との差に起因して、例えば、熱電変換モジュールをゼーベック素子として用いた場合に、熱電素子層中に大きな温度差を発生させることが可能である。その結果、熱電変換モジュールの起電力を大きくすることができる。隣り合う帯状部の間に低熱伝導部が存在している場合には、低熱伝導部が帯状部同士を連結することにより、支持部を設けなくてもシート状熱伝導体の貼り合せ時の位置決めの精度を向上させることができる場合がある。一方、隣り合う帯状部の間に空隙が存在する場合には、帯状部同士は連結されていないため、上記の位置決めの精度を向上させるために支持部を設けることの意義が大きい。なお、熱電変換モジュールが、隣り合う帯状部の間に低熱伝導部を有する場合、低熱伝導部の熱伝導率は、0.01~1.5W/(m・K)程度である。このような低熱伝導部は、例えば、上記のように熱伝導性材料のシートをパターニングして図5(B)に示すようなシート状熱伝導体を得た後に、さらに、帯状部間の空隙に硬化性樹脂を充填し、次いで、硬化させることによって形成することができる。
【0024】
<電極が形成された基板を準備する工程>
一方、図4(A)に示すように、電極3が一方の主面にパターン配置されたフィルム基板2を準備する。電極3が形成されたフィルム基板を準備するためには、フィルム基板2上に前述した電極材料等を用いて電極層を形成すればよい。基板上に電極を形成する方法としては、基板上にパターンが形成されていない電極層を設けた後、フォトリソグラフィー法を主体とした公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターンに加工する方法、または、スクリーン印刷法、インクジェット法等により直接電極層のパターンを形成する方法等が挙げられる。
パターンが形成されていない電極層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)等のドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法、電解めっき法、無電解めっき法、金属箔の積層等が挙げられ、電極層の材料に応じて適宜選択される。
【0025】
<熱電素子層を形成する工程>
図4(B)に示すように、電極3がパターン配置された基板2の一方の主面上に、熱電半導体組成物を用いて、P型熱電素子層5及びN型熱電素子層4からなる熱電素子層6を形成し、基板2及び熱電素子層6からなる熱電変換モジュール7を作製する。熱電半導体組成物を基板上に塗布する方法としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ドクターブレード等の公知の方法が挙げられ、特に制限されない。塗膜をパターン状に形成する場合は、所望のパターンを有するスクリーン版を用いて簡便にパターン形成が可能なスクリーン印刷、スロットダイコート等が好ましく用いられる。
次いで、得られた塗膜を乾燥することにより薄膜を形成する。塗膜の乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。乾燥時の加熱温度は、80~150℃の範囲とすることができる。乾燥時の加熱時間は、加熱方法により異なるが、数秒~数十分とすることができる。
また、溶媒を使用して熱電半導体組成物を調製した場合、この組成物の塗膜を乾燥するための加熱温度は、使用した溶媒を乾燥できる温度範囲であれば特に制限はない。
【0026】
<第1接合層を形成する工程>
図4(C)に示すように、熱電素子層6の、基板2とは反対側の面上に第1接合層81を形成する。接合層は公知の方法で形成することができる。接合層は、熱電素子層の面に直接形成してもよいし、予め剥離シート上に形成した接合層を、熱電素子層に貼り合わせて、接合層を熱電素子層に転写させることにより形成してもよい。
【0027】
接合層は単層のものでもよいし、複数の層で構成されるものでもよい。後者の場合は、予め複数の層を含む接合層を準備しておき、これを熱電素子層に貼り合せてもよいし、複数の層を構成する各層を順次熱電素子層上に積層して複数の層で構成される接合層を熱電素子層上に形成してもよい。
【0028】
<熱電素子層が設けられた基板とシート状熱伝導体とを位置合わせする工程>
熱電素子層が設けられた基板とシート状熱伝導体とを貼り合せるのに先立って、両者の位置合わせを行う。具体的には、図5(A)に示すように、フィルム基板2の、電極3や熱電素子層6が設けられる本体部2aの周囲にある余白部2b上に設けられたアライメントマークAM1と、図5(B)に示すように、シート状熱伝導体9の支持部9bに設けられたアライメントマークAM2とを用いるなどして、両者を正確に位置合わせする。
本実施形態のように、フィルム基板2の余白部2b、及び、シート状熱伝導体9の支持部9bもしくは第1連結部9cのうち少なくとも一方がアライメントマークを含むものとすることにより、後述する切断工程を経て、余白部2b、支持部9b及び第1連結部9cを含む部位を除去する場合は、熱電変換モジュール内にアライメントマークを配置するスペースが不要となり、熱電変換モジュールのサイズが必要以上に大きくなることを防止することができる。
【0029】
<第1熱伝導体を設ける工程>
次に、第1接合層81の面上の少なくとも一部に第1熱伝導体91を設ける。第1熱伝導体91を設けるに当たっては、シート状熱伝導体9にストレスをかけないようにしてシート状熱伝導体9を第1接合層81上に載置し、シート状熱伝導体9端部を基板2に向けてローラー等により連続的に押圧し、この端部から他の領域に向けて徐々に貼り合せを行うことができる。シート状熱伝導体9を第1接合層81上に載せ、ダイヤフラム、SEAL方式精密枚葉貼合機等によりシート状熱伝導体全体を押圧して一度に貼り合せをしてもよい。
【0030】
なお、貼り合せの際、熱電素子層6上に形成した第1接合層81上に第1熱伝導体91を設けることが、熱電変換モジュールの製造を容易にする観点から好ましいが、第1接合層81上に第1熱伝導層91を設けてから、第1熱伝導層91付きの接合層81上をフィルム基板2に設けることもできる。
【0031】
図6は、第1熱伝導体として機能し得るシート状熱伝導体9を熱電素子層6に貼り合せた後の、シート状熱伝導体9側から見た平面図である。理解を容易にするため、第1接合層81は図示を省略している。図7(D)は、後述するシート状熱伝導体9a’を設ける前の、図6におけるVII-VII線に沿う断面図である。図6及び図7(D)に示すように、貼り合せを行った段階では、シート状熱伝導体9の支持部9bとフィルム基板2の余白部2bに相当する部分が含まれたままである。
【0032】
<第2熱伝導体を設ける工程>
次に、図7(E)に示すように、第2熱伝導体92として機能し得るシート状熱伝導体9Rを、基板2の他方の主面上に、第2接合層82を介して設ける。図7(E)は、シート状熱伝導体9Rを設けた後の、図6におけるVII-VII線に沿う断面図である。シート状熱伝導体9Rも、シート状熱伝導体9と同様に、帯状部、支持部、第1連結部を備えている。シート状熱伝導体9Rの帯状部9Raは、図7(E)に示すように、シート状熱伝導体9の帯状部9aの並び方向の断面において、帯状部9aと互い違いになるように設けられている。
第2熱伝導体92となるシート状熱伝導体9R、及び、第2接合層82は、第1熱伝導層91となるシート状熱伝導体9、及び、第1接合層81を設けるのと同様の手順で設けることができる。なお、蒸着とそれに続くパターニングや、印刷等によって、熱伝導層が直接形成されているフィルム基板を用いる場合は、第2接合層82をなくすことができる。この場合、熱電変換モジュールの製造工程が簡素化されるとともに、熱電変換モジュールを薄くすることができる。
こうして、図8に示すように、図2に示す構成に支持部9b及び第1連結部9cに相当する部位が追加された構成を有する接合体100aが得られる。この接合体100aは、第1熱伝導体91となるシート状熱伝導体9及び第2熱伝導体となるシート状熱伝導体9Rを備えている。接合体100aは、設置するのに支障がなければ、そのまま熱電変換モジュールとして用いることも可能である。したがって、この貼り合せが完了した時点の接合体100aを、熱電変換モジュール100aもしくは切断前の熱電変換モジュール100aとも称する。熱電変換モジュール100aは、支持部9b、第1連結部9c及び余白部2bが存在することで面方向のサイズが大きくなりやすいものの、これらの部分が存在することで、モジュールの強度や耐衝撃性が高くなるという利点がある。
このように、切断前の熱電変換モジュールは、(a)複数の帯状部と、この複数の帯状部に連結された支持部とを含むシート状熱伝導体、及び、(b)交互に隣接配置されたP型熱電素子とN型熱電素子とを含む熱電素子層を備えている。
【0033】
<必須でない部位を切断する工程>
次に、接合体100aから、熱電変換に必須ではない部位を切断して除去する。図8に符号CLで示すように、第1電極部3aが設けられた辺以外の3辺に位置する、支持部9b及び第1連結部9cと、熱電素子層6との間の位置を切断線として、カッターCTで切り込みを入れる。
図9(F1)、図9(G1)は、図8におけるIX-IX線に沿う断面図であり、シート状熱伝導体9の支持部9bとフィルム基板2の余白部2bとを含む部位を、帯状部9aの延在方向に沿って切断する様子を示している。切断によって、図9(G1)に示すように、第1電極部3aが設けられた辺とは反対側の辺における、接合体100aの一対の主面を囲む側面に、切断面51が形成される。
図10(F2)、図10(G2)は、図8におけるX-X線(基板2に垂直な方向から見て、第2電極部2bに重なるように帯状部9aをその延在方向に沿って貫く線)に沿う断面図であり、シート状熱伝導体9の支持部9bとフィルム基板2の余白部2bとを含む部位を、帯状部9aの並び方向に沿って切断する様子を示す。切断によって、図10(G2)に示すように、上述した辺とは異なる2辺において、接合体100aの側面に切断面50が形成される。
【0034】
図11は、切断後の熱電変換モジュール100のコーナー付近の部分斜視図である。図11に示すように、切断工程を経て、接合体には切断面50と切断面51が形成される。各切断面には切断痕が残され、特に、切断面50は、熱電変換モジュールの側面を構成し、当該側面は、少なくとも熱伝導体91の切断面を含む。フレキシブル熱電変換モジュールは、例えば、平面視で四角形状であり、図10(F2)の例では、シート状熱伝導体91、第1接合層81、フィルム基板2、第2接合層82を同時に切断したため、この四角形の少なくとも一辺における側面全体が切断面となる。なお、第2熱伝導体92を設ける際においても、パターニングされたシート状熱伝導体を用いる場合は、切断工程によって、第2熱伝導体92となるシート状熱伝導体も含めて、各層の切断面が幾何学上同一の平面に含まれるように切断面が形成されることになる。
このように、複数の帯状部を有するシート状熱伝導体を貼り合せた後に、切断を行うことにより、熱電変換に必須ではない部位が切り離されるため、熱電変換モジュールのサイズが必要以上に大きくなることを防止できる。また、帯状部9aの並び方向に切断を行うことで、複数の帯状部9aがフレキシブル熱電変換モジュールの端部に達した状態で、これらの端部を揃った状態にすることができる。したがって、簡易な手順で、熱電変換モジュールの端部と帯状部の端部の位置や、複数の帯状部同士の端部の位置を精度よく一致させた熱電変換モジュールを作製することができる。
【0035】
また、本実施形態の熱電変換モジュールによれば、熱電変換モジュールの端部と帯状部の端部の位置や、複数の帯状部同士の端部の位置が精度よく一致して配置される結果、所期の性能を正確に発揮し得る熱電変換モジュールとすることができる。
[フレキシブル熱電変換モジュール及びその製造方法の他の実施形態]
図12は、熱電変換モジュールの第2の実施態様である熱電変換モジュール100bの平面図である。図12に示すように、熱電変換モジュール100bには、シート状熱伝導体9’として、平面視で四角形状であり、かつ、支持部がこの四角形の対向する二辺に相当する位置に設けられているものを用いている。2つの支持部9’bは、帯状部9’aの両端にそれぞれ連結している。本実施形態のシート状熱伝導体9’においては、支持部9’bが二辺に設けられ、かつ、上述の第1の実施形態で用いたシート状熱伝導体9に設けられていた第1連結部9cを有していないため、熱伝導体の使用量を減らすことができる。支持部が二辺に設けられているので、帯状部の位置決めやシート状熱伝導体9’のフィルム基板2への貼り合せの作業性は損なわれにくい。
【0036】
図13は、熱電変換モジュールの第3の実施態様である熱電変換モジュール100cの平面図である。図13に示すように、熱電変換モジュール100cには、シート状熱伝導体9’’として、第1の実施形態で用いたシート状熱伝導体9の帯状部9a、支持部9b及び第1連結部9cと同様の構成である、帯状部9’’a、支持部9’’b及び第1連結部9’’cを備えるとともに、隣り合う帯状部9’’aの端部以外の部分同士を互いに連結する第2連結部9’’dをさらに備えるものを用いている。第2連結部9’’dは、熱電素子層の各列間に位置するように、帯状部9’’aの並び方向に延びている。シート状熱伝導体9’’では第2連結部9’’dを設けることでシート状熱伝導体9’’全体の強度を高めることができる。図8で説明したのと同様に、支持部9’’b及び第1連結部9’’cと、これらに対応する余白部とに相当する部位を切断して除去した後、帯状部9’’aが帯状熱伝導体となり、第2連結部9’’dが、隣り合う一対の帯状熱伝導体同士を連結する連結体となる。
【0037】
図14は、熱電変換モジュールの第4の実施態様である熱電変換モジュール100dの平面図である。熱電変換モジュール100dは、熱電変換モジュールを多数個取りするための接合体でもある。熱電変換モジュール100dは、切断後に各々が熱電変換モジュールとなる複数のモジュール部を有する。本実施形態では、4個の熱電変換モジュール部(第1熱電変換モジュール部~第4熱電変換モジュール部)100d~100dを含んでいる。熱電変換モジュール100dは、これら複数のモジュール部に対応する形状を有するシート状熱伝導体9’’’が貼り合せられている。
図14に示すように、シート状熱伝導体9’’’は、熱電変換モジュール部100d~100dにそれぞれ対応して、帯状部9’’’a~9’’’aを備えている。また、帯状部9’’’a~9’’’aの一端が連結する端部側支持部9’’’b~9’’’bと、帯状部9’’’a~9’’’aの他端が連結する中央支持部9’’’bとを備えている。さらに、中央支持部9’’’bの中央部に交わるように配置され、かつ、各帯状部の延在方向に沿って延びる第3連結部9’’’cを備えている。本実施形態の中央支持部9’’’bのように、シート状熱伝導体の支持部は、シート状熱伝導体の端部以外の位置に配置することもできる。
熱電変換モジュール100dにおいては、第1モジュール部100dと第2モジュール部100d、及び、第2モジュール部100dと第4モジュール部100dとが、中央支持部9’’’bを挟んで対称に配置されている。
これらの各支持部を含む部分が除去されるように、これらの支持部とそのすぐ隣にある熱電素子層6との間の領域において各支持部に沿う切断線CLに沿ってカッターで切断することにより、4つの熱電変換モジュールを得ることができる。なお、熱電変換モジュール部の個数はあくまでも一例であり、4個より多くてもよいし4個より少なくてもよい。各モジュールの向きやサイズも任意に設定することができる。
【0038】
以下、熱電変換モジュールを構成する各部の詳細について、説明する。
【0039】
<シート状熱伝導体及び帯状熱伝導体>
本実施形態の熱電変換モジュールに用いる熱伝導体は帯状のものであり、図1で示したように、P型熱電素子とN型熱電素子とが交互に隣接して配置された熱電変換モジュールにおいて、熱電素子層の主面のうち、少なくとも一方の主面に規則的に複数配置され、熱を特定の方向に選択的に放熱させるものである。これにより、熱電変換モジュールの面内方向に、温度差を付与することができる。より大きな温度差を付与する観点からは、図1に示すように、熱電素子層の一方の主面と他方の主面との両方に、それぞれ複数の熱伝導体を設けることが好ましい。
【0040】
帯状熱伝導体は、上述したように、複数の帯状部とそれらに連結する支持部とを備えるようにパターニングされたシート状熱伝導体を、熱電素子層が一方の主面に設けられた基板の主面上に接合層を介する等の手段で接合した後、支持部を含む部分を切断除去することによって、形成される。なお、熱電素子層上にフィルム基板を介して配置される熱伝導体についても同様の手順で形成することができる。接合層は省略することも可能であり、この場合は、例えば、熱電素子層上に直接、又はフィルム基板等の他の層を介して熱伝導体がパターン配置されたものを用いて熱電変換モジュールを作製することができる。
【0041】
<シート状熱伝導体>
複数の帯状部とそれらに連結する支持部とを備えるシート状熱伝導体は、熱伝導性の高い材料によって構成されたものである。このようなシート状熱伝導体は、例えば、パターニングされていないシート状熱伝導体を、フォトリソグラフィー法を主体とする公知の物理的処理もしくは化学的処理、又はそれらを併用する等により、所定のパターン形状に加工する方法で作製することができる。
パターニングされていないシート状熱伝導体は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理気相成長法)、もしくは熱CVD、原子層蒸着(ALD)等のCVD(化学気相成長法)などのドライプロセス、又はディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ドクターブレード法等の各種コーティングや電着法等のウェットプロセス、銀塩法等によって、表面に剥離層を備える支持体や、剥離性の高い材料からなる支持体上に、熱伝導性材料を積層することで作製することができる。また、金属箔等のシート状の導電体をそのまま用いることもできる。
表面に剥離層を備える支持体や、剥離性の高い材料からなる支持体上に、スクリーン印刷法、インクジェット法等によって、複数の帯状部とそれらに連結する支持部に対応する部位を直接形成し、上記支持体から剥離することで、シート状熱伝導体を作製してもよい。このような場合には、予めパターン形状にシート状熱伝導体を作製してもよい。
【0042】
帯状熱伝導体の配置位置、形状、サイズ、厚み等は、熱電変換モジュールの熱電素子層、すなわち、P型熱電素子とN型熱電素子の配置や形状等に合わせて適宜調整すればよい。例えば、第1実施態様の熱電変換モジュールでは、フィルム基板の主面に垂直な方向から見たときに、直列方向に隣り合う1対のP型熱電素子及びN型熱電素子に重なる帯状熱伝導体について、上記直列方向における当該帯状熱伝導体の幅が、上記一対のP型及びN型熱電素子の直列方向の全幅に対して、好ましくは0.30~0.70、より好ましくは0.40~0.60、さらに好ましくは0.48~0.52、特に好ましくは0.50である。この範囲にあると、熱を特定の方向に選択的に放熱することができ、面内方向に効率よく温度差を付与できる。熱電素子層の一方の主面上に設けられる帯状熱伝導体は、直列方向の任意の1対の隣接するP型熱電素子P1とN型熱電素子N1について、これらの境界に重なるように配置され、P1とは逆側でN1と隣接するP型熱電素子P2とN1との境界に重なる位置には帯状熱伝導体が配置されず、一つおきのP型熱電素子とN型熱電素子の境界と重なる位置に帯状熱電導体が配置されることが好ましい。このように、帯状熱伝導体を配置することにより、上記1対のP型熱電素子P1とN型熱電素子N1との境界と、隣接する1対のN型熱電素子N1とP型熱電素子P2との境界に、より大きな温度差を付与できる。
そして、第1の実施形態の熱電変換モジュールのように、熱電素子層の表裏両面に帯状熱伝導体を配置する場合は、熱電素子層の主面の法線方向からみたときに、互いに重ならないか、重なる部分が小さいように配置し、かつ、直列方向のP型熱電素子とN型熱電素子の交互の配列に対しては、それらの境界ごとに両面に互い違いに配置することが好ましい。
【0043】
熱伝導体の熱伝導率は、5~500(W/m・K)とすることが好ましく、より好ましくは10~450(W/m・K)、さらに好ましくは15~420(W/m・K)である。熱伝導率が上記の範囲にあると、熱電素子層の面内方向に、効率よく温度差を付与することができる。
【0044】
熱伝導体を構成する熱伝導材料としては、銅、銀、鉄、ニッケル、クロム、アルミニウム等の単金属、ステンレス、真鍮(黄銅)等の合金が挙げられる。この中で、好ましくは、銅(無酸素銅含む)、ステンレスであり、熱伝導率が高く、加工性が容易であることから、さらに好ましくは、銅である。
典型的な熱伝導材料を以下に示す。
・無酸素銅
無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)とは、一般的に酸化物を含まない99.95%(3N)以上の高純度銅のことを指す。日本工業規格では、無酸素銅(JIS H 3100, C1020)および電子管用無酸素銅(JIS H 3510, C1011)が規定されている。
・ステンレス(JIS)
SUS304:18Cr-8Ni(18%のCrと8%のNiを含む)
SUS316:18Cr-12Ni(18%のCrと12%のNi、モリブデン(Mo)を含むステンレス鋼)
【0045】
熱伝導体の厚さは、40~550μmが好ましく、60~530μmがより好ましく、80~510μmがさらに好ましい。熱伝導体の厚さがこの範囲であれば、熱を特定の方向に選択的に放熱することができ、P型熱電素子とN型熱電素子とを電極を介し交互にかつ電気的に直列接続した熱電変換モジュールの面内方向に、効率よく温度差を付与することができる。
【0046】
<接合層>
熱伝導体を熱電素子層に直接的又は間接的に接合するための接合層を構成するものとしては、接着剤が好ましく用いられる。接着剤は、感圧接着剤(粘着剤)であってもよい。接着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。これらの中でも、安価であり、耐熱性に優れるという観点からアクリル系重合体をベースポリマーとした接着剤、ゴム系ポリマーをベースポリマーとした接着剤が好ましく用いられ、これらは粘着剤としてもこのましく用いられる。
接合層を構成する接着剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。接着剤に含まれ得るその他の成分としては、例えば、有機溶媒、高熱伝導性材料、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、及び濡れ性調整剤などが挙げられる。
【0047】
接合層の厚さは、接合性能を向上させつつ、熱電変換モジュールの熱電変換性能への影響を低減させる観点から、好ましくは1~100μm、より好ましくは3~50μm、さらに好ましくは5~30μmである。
【0048】
また、接合層は単層のものに限らず、複数層からなるものでもよい。接合層が複数層からなる場合、接着性を有する層とこれを保持する補助基材層とを含むことが好ましい。
また、接合層が低い水蒸気の透過性を備えていることが好ましい。接合層が接着層を兼ねる封止層を含んでいてもよいし、複数層のうち特定のもの(例えば、上記補助基材層)が、例えば、ガスバリア層を備える等により、ガスバリア性能を有していてもよい。この場合、接合層全体の水蒸気透過率が、JIS K7129:2008で規定される40℃×90%RHにおける水蒸気透過率で、1000g・m-2・day-1以下であるか、このような水蒸気透過率を示す封止層や補助基材層を含んでいることが好ましい。水蒸気透過率が1000g・m-2・day-1を超えると、大気中等の水蒸気が、接合層を透過しやすくなることから、熱電素子層に用いる熱電半導体層が腐食等により劣化し、その結果として、熱電素子層の電気抵抗値が増大し、熱電性能が低下しやすくなる。
【0049】
<フィルム基板>
フィルム基板としては、熱電変換モジュールにフレキシブル性を付与し易いプラスチックフィルムを用いることが好ましい。なかでも、屈曲性に優れ、後述する熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、基板が熱変形することなく、耐熱性及び寸法安定性が高いという点から、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリアラミドフィルム、ポリアミドイミドフィルムが好ましく、さらに、汎用性が高いという点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0050】
フィルム基板の厚さは、屈曲性、耐熱性及び寸法安定性の観点から、1~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
また、上記フィルムは、分解温度が300℃以上であることが好ましい。
【0051】
<電極>
電極は、P型熱電素子とN型熱電素子との電気的な接続の安定性を図り、熱電素子層に十分な熱電性能を発揮させるために設けられる。
電極には、各種の電極材料を用いることができる。接続の安定性、熱電性能の観点から、導電性の高い金属材料を用いることが好ましい。好ましい電極材料としては、金、銀、ニッケル、銅、これらの金属の合金、これらの金属や合金を積層したもの等が挙げられる。
電極の厚さは、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは30nm~150μm、さらに好ましくは50nm~120μmである。電極層の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり熱電素子層のトータルの電気抵抗値を低く抑えられる。また、電極として十分な強度が得られる。
<熱電素子層>
熱電素子層は、熱電半導体微粒子、耐熱性樹脂、並びに、イオン液体及び無機イオン性化合物の一方又は双方を含む熱電半導体組成物からなる層であることが好ましい。
【0052】
(熱電半導体微粒子)
熱電素子に用いる熱電半導体微粒子は、熱電半導体材料を、微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕することが好ましい。
【0053】
P型熱電素子層及びN型熱電素子層を構成する材料としては、温度差を付与することにより、熱起電力を発生させることができる材料であれば特に制限されず、例えば、P型ビスマステルライド、N型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料;GeTe、PbTe等のテルライド系熱電半導体材料;アンチモン-テルル系熱電半導体材料;ZnSb、ZnSb、ZnSb等の亜鉛-アンチモン系熱電半導体材料;SiGe等のシリコン-ゲルマニウム系熱電半導体材料;BiSe等のビスマスセレナイド系熱電半導体材料;β―FeSi、CrSi、MnSi1.73、MgSi等のシリサイド系熱電半導体材料;酸化物系熱電半導体材料;FeVAl、FeVAlSi、FeVTiAl等のホイスラー材料、TiS等の硫化物系熱電半導体材料等が用いられる。
【0054】
これらの中でも、本実施形態に用いる熱電半導体材料は、P型ビスマステルライド又はN型ビスマステルライド等のビスマス-テルル系熱電半導体材料であることが好ましい。
P型ビスマステルライドは、キャリアが正孔で、ゼーベック係数が正値であり、例えば、BiTeSb2-Xで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Xは、好ましくは0<X≦0.8であり、より好ましくは0.4≦X≦0.6である。Xが0より大きく0.8以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、P型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
また、N型ビスマステルライドは、キャリアが電子で、ゼーベック係数が負値であり、例えば、BiTe3-YSeで表わされるものが好ましく用いられる。この場合、Yは、好ましくは0≦Y≦3(Y=0の時:BiTe)であり、より好ましくは0.1<Y≦2.7である。Yが0以上3以下であるとゼーベック係数と電気伝導率が大きくなり、N型熱電変換材料としての特性が維持されるので好ましい。
【0055】
熱電半導体微粒子の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは、30~99質量%である。より好ましくは、50~96質量%であり、さらに好ましくは、70~95質量%である。熱電半導体微粒子の配合量が、上記範囲内であれば、ゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が大きく、また電気伝導率の低下が抑制され、熱伝導率のみが低下するため高い熱電性能を示すとともに、十分な皮膜強度、屈曲性を有する膜が得られ好ましい。
【0056】
熱電半導体微粒子の平均粒径は、好ましくは、10nm~200μm、より好ましくは、10nm~30μm、さらに好ましくは、50nm~10μm、特に好ましくは、1~6μmである。上記範囲内であれば、均一分散が容易になり、電気伝導率を高くすることができる。
熱電半導体材料を粉砕して熱電半導体微粒子を得る方法は特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ウィリーミル、ローラーミル等の公知の微粉砕装置等により、所定のサイズまで粉砕すればよい。
なお、熱電半導体微粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分析装置(CILAS社製、1064型)にて測定することにより得られ、粒径分布の中央値とした。
【0057】
また、熱電半導体微粒子は、アニール処理(以下、「アニール処理A」ということがある。)されたものであることが好ましい。アニール処理Aを行うことにより、熱電半導体微粒子は、結晶性が向上し、さらに、熱電半導体微粒子の表面酸化膜が除去されるため、熱電変換材料のゼーベック係数(ペルチェ係数の絶対値)が増大し、熱電性能指数をさらに向上させることができる。アニール処理Aは、特に限定されないが、熱電半導体組成物を調製する前に、熱電半導体微粒子に悪影響を及ぼすことがないように、ガス流量が制御された、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、同じく水素等の還元ガス雰囲気下、または真空条件下で行うことが好ましく、不活性ガス及び還元ガスの混合ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。具体的な温度条件は、用いる熱電半導体微粒子に依存するが、通常、微粒子の融点以下の温度で、かつ100~1500℃で、数分~数十時間行うことが好ましい。
【0058】
(耐熱性樹脂)
熱電素子層に含まれる耐熱性樹脂は、熱電半導体微粒子間のバインダーとして働き、熱電変換材料の屈曲性を高めるためのものである。耐熱性樹脂は、特に制限されるものではないが、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理等により熱電半導体微粒子を結晶成長させる際に、樹脂としての機械的強度及び熱伝導率等の諸物性が損なわれず維持される耐熱性樹脂を用いる。
耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、エポキシ樹脂、及びこれらの樹脂の化学構造を有する共重合体等が挙げられる。耐熱性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性がより高く、且つ薄膜中の熱電半導体微粒子の結晶成長に悪影響を及ぼさないという点から、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が好ましく、屈曲性に優れるという点からポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。前述の支持体として、ポリイミドフィルムを用いた場合、該ポリイミドフィルムとの密着性などの点から、耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂がより好ましい。なお、本発明においてポリイミド樹脂とは、ポリイミド及びその前駆体を総称する。
【0059】
耐熱性樹脂は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の屈曲性を維持することができる。
【0060】
また、耐熱性樹脂は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、バインダーとして機能が失われることなく、熱電変換材料の屈曲性を維持することができる。
【0061】
耐熱性樹脂の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1~20質量%である。耐熱性樹脂の配合量が、上記範囲内であれば、高い熱電性能と皮膜強度が両立した膜が得られる。
【0062】
(イオン液体)
イオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、-50~500℃の幅広い温度領域において液体で存在し得る塩をいう。イオン液体は、蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、優れた熱安定性及び電気化学安定性を有していること、粘度が低いこと、かつイオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。また、イオン液体は、非プロトン性のイオン構造に基づく高い極性を示し、耐熱性樹脂との相溶性に優れるため、熱電変換材料の電気伝導率を均一にすることができる。
【0063】
イオン液体は、公知または市販のものが使用できる。例えば、ピリジニウム、ピリミジニウム、ピラゾリウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、イミダゾリウム等の窒素含有環状カチオン化合物及びそれらの誘導体;テトラアルキルアンモニウム系のアミン系カチオン及びそれらの誘導体;ホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、テトラアルキルホスホニウム等のホスフィン系カチオン及びそれらの誘導体;リチウムカチオン及びその誘導体等のカチオン成分と、Cl、Br、I、AlCl 、AlCl 、BF 、PF 、ClO 、NO 、CHCOO、CFCOO、CHSO 、CFSO 、(FSO、(CFSO、(CFSO、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、F(HF) 、(CN)、CSO 、(CSO、CCOO、(CFSO)(CFCO)N等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0064】
上記のイオン液体の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、イオン液体のカチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0065】
カチオン成分が、ピリジニウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、4-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、3-メチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、3-メチル-ヘキシルピリジニウムクロライド、4-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3-メチル-オクチルピリジニウムクロライド、3、4-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、3、5-ジメチル-ブチルピリジニウムクロライド、4-メチル-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4-メチル-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。この中で、1-ブチル-4-メチルピリジニウムブロミド、1-ブチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。
【0066】
また、カチオン成分が、イミダゾリウムカチオン及びその誘導体を含むイオン液体の具体的な例として、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-デシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムクロライド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフロオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムメチルスルフェート、1、3-ジブチルイミダゾリウムメチルスルフェート等が挙げられる。この中で、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムブロミド]、[1-ブチル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレイト]が好ましい。
【0067】
上記のイオン液体は、電気伝導度が10-7S/cmであることが好ましい。イオン伝導度が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0068】
また、上記のイオン液体は、分解温度が300℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0069】
また、上記のイオン液体は、熱重量測定(TG)による300℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0070】
イオン液体の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~20質量%である。イオン液体の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下が効果的に抑制され、高い熱電性能を有する膜が得られる。
【0071】
(無機イオン性化合物)
熱電素子層に含まれる無機イオン性化合物は、少なくともカチオンとアニオンから構成される化合物である。無機イオン性化合物は400~900℃の幅広い温度領域において固体で存在し、イオン伝導度が高いこと等の特徴を有しているため、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を抑制することができる。
【0072】
上記無機イオン性化合物を構成するカチオンとしては、金属カチオンを用いる。
金属カチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、典型金属カチオン及び遷移金属カチオンが挙げられ、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンがより好ましい。
アルカリ金属カチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs及びFr等が挙げられる。
アルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+等が挙げられる。
【0073】
上記無機イオン性化合物を構成するアニオンとしては、例えば、F、Cl、Br、I、OH、CN、NO 、NO 、ClO、ClO 、ClO 、ClO 、CrO 2-、HSO 、SCN、BF 、PF 等が挙げられる。
【0074】
熱電素子層に含まれる無機イオン性化合物は、公知または市販のものが使用できる。例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオン等のカチオン成分と、Cl、AlCl 、AlCl 、ClO 等の塩化物イオン、Br等の臭化物イオン、I等のヨウ化物イオン、BF 、PF 等のフッ化物イオン、F(HF) 等のハロゲン化物アニオン、NO 、OH、CN等のアニオン成分とから構成されるものが挙げられる。
【0075】
上記の無機イオン性化合物の中で、高温安定性、熱電半導体微粒子及び樹脂との相溶性、熱電半導体微粒子間隙の電気伝導率の低下抑制等の観点から、無機イオン性化合物のカチオン成分が、カリウム、ナトリウム、及びリチウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。また、無機イオン性化合物のアニオン成分が、ハロゲン化物アニオンを含むことが好ましく、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。
【0076】
カチオン成分が、カリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、KBr、KI、KCl、KF、KOH、KCO等が挙げられる。この中で、KBr、KIが好ましい。
カチオン成分が、ナトリウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、NaBr、NaI、NaOH、NaF、NaCO等が挙げられる。この中で、NaBr、NaIが好ましい。
カチオン成分が、リチウムカチオンを含む無機イオン性化合物の具体的な例として、LiF、LiOH、LiNO等が挙げられる。この中で、LiF、LiOHが好ましい。
【0077】
上記の無機イオン性化合物は、電気伝導率が10-7S/cm以上であることが好ましく、10-6S/cm以上であることがより好ましい。電気伝導率が上記範囲であれば、導電補助剤として、熱電半導体微粒子間の電気伝導率の低減を効果的に抑制することができる。
【0078】
また、上記の無機イオン性化合物は、分解温度が400℃以上であることが好ましい。分解温度が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0079】
また、上記の無機イオン性化合物は、熱重量測定(TG)による400℃における質量減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。質量減少率が上記範囲であれば、後述するように、熱電半導体組成物からなる薄膜をアニール処理した場合でも、導電補助剤としての効果を維持することができる。
【0080】
無機イオン性化合物の熱電半導体組成物中の配合量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。無機イオン性化合物の配合量が、上記範囲内であれば、電気伝導率の低下を効果的に抑制でき、結果として熱電性能が向上した膜が得られる。
なお、無機イオン性化合物とイオン液体とを併用する場合においては、熱電半導体組成物中における、無機イオン性化合物及びイオン液体の含有量の総量は、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0081】
P型熱電素子及びN型熱電素子の厚さは、特に限定されるものではなく、同じ厚さでも、異なる厚さでもよい。熱電変換モジュールの面内方向に大きな温度差を付与する観点から、同じ厚さであることが好ましい。P型熱電素子及びN型熱電素子の厚さは、0.1~100μmが好ましく、1~50μmがさらに好ましい。
【0082】
熱電変換モジュール平面上において、P型熱電素子とN型熱電素子とが交互に隣接して配置された方向に対し平行な方向の熱伝導体の最大長さをLとし、熱電変換モジュールを設置する面の最小曲率半径をRとした時に、L/R≦0.04を満たすことが好ましい。さらに好ましくは、L/R≦0.03である。上記の関係を満たすことにより、P型熱電素子とN型熱電素子とが交互に隣接して配置された方向に対し平行な方向の屈曲性が維持される。ここで、最小曲率半径とは、フレキシブル熱電変換モジュールを、既知の曲率半径を有する曲面に設置する前後で、フレキシブル熱電変換モジュールの出力取り出し用電極部間の電気抵抗値を測定し、その増加率が20%以下となる曲率半径の最小半径を意味する。
本実施の形態の製造方法によれば、手順が簡易でありながら、精度よく熱伝導体が配置された、フレキシブル熱伝変換モジュールを作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のフレキシブル熱電変換モジュールは、P型熱電素子とN型熱電素子とを電極を介し交互にかつ電気的に直列接続した熱電変換モジュールの面内方向に、効率よく温度差が付与される。このため、発電効率の高い発電が可能となり、従来型に比べ、熱電変換モジュールの設置数を少なくすることができ、ダウンサイジング及びコストダウンに繋がる。また同時に、本発明のフレキシブル熱電変換モジュールを用いることにより、平坦でない面を有する廃熱源や放熱源へ設置する等、設置場所を制限されることもなく使用できる。また、このような熱電変換モジュールを、複数の熱伝導体を高い位置精度で配置しつつ、簡便に製造することができる。
【符号の説明】
【0084】
2:基板
2a:本体部
2b:余白部
3:電極
3a:第1電極部
3b:第2電極部
3c:第3電極部
4:N型熱電素子層
5:P型熱電素子層
6:熱電素子層
9、9’、9’’、9’’’、9R:シート状熱伝導体
9a、9Ra、9’a、9’’a、9’’’a~9’’’a:帯状部
9b、9’b、9’’b:支持部
9’’’b~9’’’b:端部側支持部
9’’’b:中央支持部
9c、9’’c:第1連結部
9’’d:第2連結部
9’’’c:第3連結部
50、51:切断面
81:第1接合層
82:第2接合層
91:第1熱伝導体
92:第2熱伝導体
100、100a~100d:熱電変換モジュール
100d~100d:第1~第4熱電変換モジュール部
AM1、AM2:アライメントマーク
CT:カッター
CL:切断線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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