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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
A61B3/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018143802
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020018475
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390000594
【氏名又は名称】株式会社レクザム
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昌克
(72)【発明者】
【氏名】山本 大地
(72)【発明者】
【氏名】川井 淳
(72)【発明者】
【氏名】高田 智仁
(72)【発明者】
【氏名】井関 裕司
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-204773(JP,A)
【文献】特開2005-230328(JP,A)
【文献】特開2015-185021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/12
3/13-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の角膜表面の涙液層の状態に関する測定を行う眼科装置であって、
角膜表面にリングパターンを投光する投光手段と、
角膜表面で反射したリングパターンの反射像を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影されたリングパターンの反射像において特定した中心位置から、所定の角度ごとに半径方向に延びる直線と、リングパターンとの交点におけるリングパターンの反射像の輝度値の極大部分の前記直線方向の鈍りの程度を示す鈍り情報を、下記(1)式を用いてそれぞれ算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された複数の鈍り情報に関する出力を行う出力手段と、を備えた眼科装置。
【数1】
ただし、(1)式中、I p+m は前記直線方向のサンプリング点M p+m の輝度値であり、サンプリング点M p+m は、mが大きくなるにつれて前記中心位置から離れていく前記直線方向におけるサンプリング点であり、I は極大値である輝度値であり、kは1以上の整数である。
【請求項2】
被検眼の角膜表面の涙液層の状態に関する測定を行う眼科装置であって、
角膜表面にリングパターンを投光する投光手段と、
角膜表面で反射したリングパターンの反射像を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影されたリングパターンの反射像において特定した中心位置から、所定の角度ごとに半径方向に延びる直線と、リングパターンとの交点におけるリングパターンの反射像の輝度値の極大部分の前記直線方向の鈍りの程度を示す鈍り情報を、輝度値のピークから前記中心位置側の複数の輝度値の傾きと、輝度値のピークから外側の複数の輝度値の傾きとを用いてそれぞれ算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された複数の鈍り情報に関する出力を行う出力手段と、を備えた眼科装置。
【請求項3】
前記撮影手段は、前記リングパターンの反射像を繰り返し撮影し、
前記算出手段は、繰り返し撮影された各反射像について鈍り情報を算出し、
前記出力手段は、前記鈍り情報の時間変化を示す情報を出力する、請求項1または請求項2記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の角膜表面の涙液層の状態に関する測定を行う眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検眼の角膜表面に形成される涙液層の状態を測定する眼科装置が知られている(特許文献1参照)。その特許文献1に記載された眼科装置では、被検眼の角膜表面に投影した所定のパターン光の反射像に関する濃度値分布(輝度値分布)を用いることによって、涙液層の状態に関する評価、例えばドライアイの評価等を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-204773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被検眼の虹彩領域と瞳孔領域では、パターン光の反射像のベース光量が異なっている。図9は、虹彩領域と瞳孔領域とのベース光量の違いについて説明するための模式図である。なお、図9の測定方法は、後述する図6と同様であるとする。また、図9において、ベース光量を破線で示している。図9から分かるように、虹彩領域のベース光量は、瞳孔領域のベース光量よりも高くなっている。そのため、虹彩領域と瞳孔領域とで涙液層の状態が変化していなかったとしても、虹彩からの背景反射光を含む濃度値分布を用いた測定では、例えば、虹彩領域におけるコントラスト(輝度値の山と谷)と、瞳孔領域におけるコントラストとが変化することになり、涙液層の状態を正しく測定することができなかった。
【0005】
また、涙液層の状態を観察する際には、一定の期間(例えば、10秒や15秒など)にわたって継続的な測定を行うこともある。そのように、一定の期間にわたって被検眼にパターン光が投影されると、そのパターン光の影響により、瞳孔の直径が変化する。その結果、測定開始時点は瞳孔領域であるが、測定期間中に虹彩領域となる測定点が生じることになる。そのように、測定期間中に瞳孔領域から虹彩領域となった測定点では、涙液層に変化がなかったとしても、ベース光量に変化が生じることになり、その測定点を含む反射像に関する濃度値分布にも変化が生じることになる。その結果、正確な評価を行うことができなくなる恐れがある。
【0006】
一般的にいえば、被検眼の角膜表面に投光したパターン光の反射像に関する輝度値分布を用いて涙液層の状態に関する測定を行った場合に、虹彩領域と瞳孔領域とのベース光量が異なることにより、正確な測定を行うことができないことがあるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、被検眼の角膜表面の涙液層の状態に関する測定を行う際に、虹彩領域と瞳孔領域とのベース光量の変化の影響を低減することができる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による眼科装置は、被検眼の角膜表面の涙液層の状態に関する測定を行う眼科装置であって、角膜表面に所定のパターンを投光する投光手段と、角膜表面で反射したパターンの反射像を撮影する撮影手段と、撮影手段によって撮影された反射像の輝度値の極大部分の鈍りの程度を示す鈍り情報を算出する算出手段と、算出手段によって算出された鈍り情報に関する出力を行う出力手段と、を備えたものである。
このような構成により、反射像の輝度値の極大部分の鈍り情報を用いて涙液層の状態に関する測定を行うことができる。そのため、虹彩領域と瞳孔領域とのベース光量の変化に関わらず、適切な測定を行うことができるようになる。
【0009】
また、本発明による眼科装置では、撮影手段は、パターンの反射像を繰り返し撮影し、算出手段は、繰り返し撮影された各反射像について鈍り情報を算出し、出力手段は、鈍り情報の時間変化を示す情報を出力してもよい。
このような構成により、涙液層の時間変化について知ることができるようになる。このような場合に、瞳孔径の変化した領域、すなわち測定開始時には瞳孔領域であるが測定期間中に虹彩領域となる領域についても、適切な測定を行うことができる。
【0010】
また、本発明による眼科装置では、所定のパターンは、リングパターンであり、算出手段は、リングパターンの反射像において特定した中心位置から、所定の角度ごとに半径方向に延びる直線と、リングパターンとの交点における鈍り情報をそれぞれ算出し、出力手段は、算出手段によって算出された複数の鈍り情報に関する出力を行ってもよい。
このような構成により、例えば、多重のリングパターンを用いることによって、被検眼の角膜表面の全体にわたって鈍り情報を算出することができるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明による眼科装置によれば、涙液層の状態に関する測定を、パターンの反射像の輝度値そのものを用いて行うのではなく、輝度値の極大部分における鈍りの程度を示す鈍り情報を算出することによって行うため、瞳孔領域と虹彩領域とのベース光量の変化の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態による眼科装置の構成を示す模式図
図2】同実施の形態による眼科装置の動作を示すフローチャート
図3】同実施の形態における輝度値の測定について説明するための図
図4】同実施の形態におけるパターンの投光された被検眼等の一例を示す図
図5】同実施の形態におけるパターンの投光された被検眼等の一例を示す図
図6】同実施の形態における被検眼の半径方向の輝度値の変化の一例を示す図
図7】同実施の形態におけるリングパターンに直交する方向における輝度の一例を示す図
図8】同実施の形態における鈍り度の総和の時間変化の一例を示す図
図9】瞳孔領域と虹彩領域とのベース光量の違いについて説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による眼科装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による眼科装置は、角膜表面に投光されたパターンの反射像の輝度値の極大部分の鈍り情報を算出するものである。
【0014】
図1は、本実施の形態による眼科装置1の構成を示す模式図である。本実施の形態による眼科装置1は、被検眼2の角膜表面の涙液層の状態に関する測定を行うものであり、接眼レンズ3、フィールドレンズ4、絞り(ピンホール)5、及び結像レンズ6を有する光学系の構成と、照明用光源7と、投光手段13と、撮影手段14と、算出手段15と、出力手段16と、制御手段17とを備える。なお、眼科装置1は、例えば、涙液層の状態に関する測定のみを行うものであってもよく、または、ケラトメータ等の機能を有するものであってもよい。
【0015】
照明用光源7は、被検眼2の照明用の光源であり、被検者の瞼の状態等を検者が確認するなどのために被検眼2に照射されるものである。照明用光源7から発せられる照明光は、例えば、遠赤外の光であってもよい。
【0016】
投光手段13は、被検眼2の角膜表面に所定のパターンを投光する。所定のパターンは、例えば、線状のパターンであってもよく、点状のパターンであってもよく、それらの組み合わせであってもよい。線状のパターンは、例えば、1本のラインを有するパターンであってもよく、複数のラインを有するパターンであってもよい。そのラインは、例えば、曲線であってもよく、直線であってもよい。曲線のパターンは、例えば、1個のリングを有するリングパターンであってもよく、複数のリングを同心円状に有する多重のリングパターンであってもよい。点状のパターンは、例えば、1個の点(ポイント)を有するパターンであってもよく、複数のポイントを有するパターンであってもよい。複数のポイントを有するパターンは、例えば、規則的に配置されている複数のポイントのパターンであってもよく、ランダムに配置されている複数のポイントのパターンであってもよい。前者の場合には、複数のポイントのパターンは、例えば、正方格子や矩形格子、三角格子などの格子点に配置された複数のポイントの集合であってもよい。なお、所定のパターンに含まれる複数のラインの幅は同じであり、複数のポイントの直径は同じであることが好適である。本実施の形態では、投光手段13が、プラチドドーム11と、測定用光源12とを有しており、所定のパターンが、プラチドドーム11による複数の同心円状のパターン、すなわち多重のリングパターン(プラチドリング)である場合について主に説明する。プラチドドーム11は、同心の複数のリング状の開口を有するドーム状の光学マスクであり、測定用光源12から発せられた測定光によって、被検眼2の前眼部に、複数の同心円状のパターンであるリングパターンを投光する。測定用光源12から発せられる測定光の波長は問わない。その測定光は、例えば、可視光であってもよく、近赤外光などであってもよい。測定光が可視光である場合に、その波長は、例えば、650nmや750nm等であってもよい。なお、被検眼2にリングパターンを投光する方法は問わない。また、被検眼2へのリングパターンの投光はすでに公知であり、その詳細な説明を省略する。
なお、照明用光源7及び測定用光源12はそれぞれ、光学系の光軸を中心として環状に配列されていてもよい。
【0017】
被検眼2の角膜表面に投光されたリングパターンは、角膜表面で反射する。そして、反射したパターンは、接眼レンズ3、フィールドレンズ4、絞り5、結像レンズ6を介して結像する。撮影手段14は、そのパターンの反射像を撮影する。撮影手段14は、例えば、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等であってもよい。撮影手段14は、パターンの反射像を繰り返し撮影するものであってもよい。その繰り返しての撮影は、所定の時間間隔ごとに行われてもよい。
【0018】
算出手段15は、撮影手段14によって撮影された反射像における輝度値の極大部分の鈍りの程度を示す鈍り情報を算出する。所定のパターンがラインを有する場合に、算出手段15は、撮影された反射像のラインに直交する方向における輝度値の極大部分の鈍り情報を算出してもよい。また、所定のパターンがポイントを有する場合に、算出手段15は、撮影された反射像のポイントを通過する任意の方向における輝度値の極大部分の鈍り情報を算出してもよい。なお、ポイントに関する鈍り情報は、反射像のポイントの中心を通過する直線における鈍り情報であることが好適である。リングパターンの反射像が撮影される場合には、反射像のラインはリングとなる。したがって、リングパターンの反射像が撮影される場合には、算出手段15は、そのリングパターンの反射像において、中心位置を特定する。その中心位置の特定は、例えば、多重のリングパターンに含まれる最も直径の小さいリングの中心を特定することによって行われてもよい。そして、算出手段15は、その特定した中心位置から、所定の角度ごとに半径方向に延びる直線と、リングパターンとの交点における鈍り情報をそれぞれ算出する。
【0019】
ここで、算出手段15が特定した中心位置からの半径方向に延びる直線方向におけるデータを取得する方法について説明する。図3は、そのデータの取得について説明するための図である。図3において、算出手段15は、特定した中心位置から、半径方向に延びる角度θの直線上の輝度値をサンプリングする際に、中心位置からの距離が同じである近傍の輝度値を用いてもよい。近傍の輝度値とは、例えば、中心位置から半径方向に延びる、角度θ-n×δから角度θ+n×δまでのδごとの輝度値であってもよい。なお、nは1以上の整数であり、δは正の実数である。図3では、n=2としている。また、算出手段15が、特定した中心位置から半径方向に延びる直線方向におけるデータの取得を、角度間隔Δθで行う場合には、n×δ<Δθ/2となることが好適である。Δθは特に限定されるものではないが、例えば、5度、10度、15度等であってもよい。Δθが10度である場合には、中心位置から放射状に延びる36個の直線上の輝度値がサンプリングされることになる。上記のように角度θの輝度値の取得を行う場合には、算出手段15は、角度θ-n×δ、θ-(n-1)×δ、…、θ、…、θ+(n-1)×δ、θ+n×δの2n+1個の輝度値の代表値を、角度θの輝度値として取得してもよい。代表値は、例えば、平均値や中央値、最大値等であってもよい。具体的には、図3において、算出手段15は、角度θの直線100上の輝度値を取得する際に、角度θ+δの直線101上の輝度値、角度θ+2δの直線102上の輝度値、角度θ-δの直線103上の輝度値、角度θ-2δの直線104上の輝度値をも用いてもよい。すなわち、算出手段15は、位置200の輝度値を取得する際に、位置200~204の輝度値の代表値を取得してもよい。同様に、算出手段15は、角度θに対応する直線100上の輝度値を、中心側から順番に、位置300~304の輝度値の代表値、位置400~404の輝度値の代表値、位置500~504の輝度値の代表値、位置600~604の輝度値の代表値のように取得してもよい。このようなデータの取得を行うことによって、例えば、リングパターンの反射像が途切れている角度であっても、近傍の角度から反射像のデータを取得することができ、半径方向に延びる直線とリングとの交点の位置を特定することができるようになる。なお、ここでは、算出手段15が、ある角度θの直線について、近傍の輝度値を含めた複数の輝度値の代表値として輝度値を取得する場合について説明したが、そうでなくてもよい。例えば、図3において、算出手段15は、直線100上の輝度値データを、中心側から順番に、位置200の輝度値、位置300の輝度値、位置400の輝度値というようにサンプリングしてもよい。また、算出手段15は、半径方向に延びる直線上の輝度値の取得を、特定した中心位置から半径方向に延びるΔθごとの直線について行ってもよい。
【0020】
図4は、角膜表面の涙液層が崩壊していない被検眼2の撮影画像の一例を示す図であり、図5は、角膜表面の涙液層が崩壊している被検眼2の撮影画像の一例を示す図である。より詳細には、図4(a)、図5(a)は、角膜表面で反射したリングパターンの反射像の撮影画像であり、図4(b)、図5(b)は、中心位置から所定の角度ごとに半径方向に延びる直線を撮影画像に重ねて示した図であり、図4(c)、図5(c)は、算出された鈍り情報に応じた色を重ねて表示した撮影画像である。なお、図4(a)、図5(a)で示される多重のリングパターンの場合には、撮影開始時点においては、例えば、内側から5,6個のリングが被検眼2の瞳孔内に存在することになる。
【0021】
図4(a)、図5(a)を比較すれば明らかなように、涙液層が崩壊していない場合には、反射像における多重のリングパターンの各リングが崩れていないが、涙液層が崩壊している場合には、反射像における多重のリングパターンの各リングが崩れている。また、所定の角度方向について、リングパターンの反射像の中心からの距離と、輝度値との関係を示すと、図6で示されるようになる。図6で示される輝度値は、例えば、被検眼の撮影画像から上記のようにしてサンプリングされたものである。図6において、リングが崩れていない画像、すなわち涙液層が崩壊していない被検眼の画像に関する輝度値の変化を破線で示しており、リングが崩れている画像、すなわち涙液層が崩壊している被検眼の画像に関する輝度値の変化を実線で示している。図6では、反射像のリングの位置において、輝度値がピークとなっている。図6から明らかなように、涙液層が崩壊している被検眼に関する輝度値のピークの形状が、涙液層が崩壊していない被検眼に関する輝度値のピークの形状よりも鈍っていることが分かる。逆に言えば、涙液層が崩壊していない被検眼に関する輝度値のピークの形状の方が、涙液層が崩壊している被検眼に関する輝度値のピークの形状よりも鋭く尖った形状になっている。したがって、輝度値のピーク形状の鈍りの程度を示す鈍り情報を算出することによって、涙液層が崩壊している程度を知ることができるようになるため、その鈍り情報を算出手段15によって算出する。なお、算出手段15によって算出される鈍り情報は、結果として、パターンの反射像の輝度値の極大部分(ピーク)の鈍りの程度を知ることができるものであれば、どのようなものであってもよい。鈍り情報は、例えば、鈍りの程度が大きくなるほど大きい値となる鈍り度であってもよく、鈍りの程度が大きくなるほど小さい値となる尖り度であってもよい。本実施の形態では、鈍り情報が鈍り度である場合について主に説明する。したがって、以下の説明では、鈍り情報が鈍り度であるとして説明することがある。
【0022】
次に、算出手段15が鈍り度を算出する方法について説明する。図7は、角度θの直線方向について取得された、一つのピークに関する輝度値と、中心からの距離との関係を示す図である。図7において、円状の各図形が、サンプリング点に関する輝度値と、中心からの距離との関係を示している。なお、サンプリング点Mpが極大値に対応するようにしており、サンプリング点Mpから離れるにつれて、添え字が大きく、または小さくなるようにしている。算出手段15は、あるピークに関する鈍り度Bを、次式によって算出してもよい。
【数1】
【0023】
ここで、サンプリング点Mp+dの輝度値をIp+dとしている。dは任意の整数である。したがって、例えばIpは極大値である輝度値である。また、a,bはそれぞれ正の実数の定数であり、kは1以上の整数である。なお、aの値を変更することによって、輝度値のピークの形状が鈍り度に与える影響(感度)を変更することができる。上式の総和の部分は、輝度値のピークの形状が尖っているほど大きな値となるため、aを大きい値にすることによって、感度を上げることができ、また、aを小さい値にすることによって、感度を下げることができる。また、定数bは、例えば、鈍り度Bが正の値となるように適宜、決定されることが好適である。また、kは、角度θの直線における輝度値のサンプリング点の間隔に応じて、輝度値のピークの形状が適切に含まれる値に設定されることが好適である。例えば、図7で示される場合には、k=2に設定されてもよい。
【0024】
リングに直交する方向における輝度値のピークの形状は、虹彩領域と瞳孔領域とに応じて輝度値のベースラインが変化したとしても、大きく変化することはない。そのため、輝度値のピークにおける形状を用いて鈍り情報を算出することによって、虹彩領域と瞳孔領域における輝度値のベースラインの変化の影響を低減することができ、被検眼の角膜表面の涙液層の状態に関する適切な測定を実現することができるようになる。
なお、鈍り度Bの算出方法は一例であって、他の方法によって鈍り度を算出してもよい。例えば、ピークから中心側の複数の輝度値の傾きと、ピークから外側の複数の輝度値の傾きとを用いて、鈍り度を算出するようにしてもよい。
【0025】
また、鈍り度Bは、輝度値の一つのピークに関する値であるが、図6で示されるように、多重のリングパターンの反射像の中心位置から半径方向に延びるある角度の直線上には複数のピークが存在し、さらにそのような直線が、Δθの角度ごとに存在することになる。したがって、算出手段15は、多重のリングパターンの反射像の中心位置から所定の角度ごとに半径方向に延びる各直線上において、輝度値のピークごとの鈍り情報を算出してもよい。このようにして、被検眼の角膜の全域における各測定点について、鈍り情報を算出することができるようになる。各測定点の位置は、反射像の中心位置から放射状に等間隔で延びる直線と、多重のリングパターンの各リングとの交点の位置となる。なお、算出手段15は、例えば、被検眼の角膜のあらかじめ決められた範囲や領域について鈍り情報を算出してもよい。また、ある時点に撮影された撮影画像における複数の鈍り情報に関して、算出手段15は、合計値や代表値等を取得してもよい。代表値は、例えば、平均値や中央値、最大値等であってもよい。また、パターンの反射像の撮影が繰り返された場合には、算出手段15は、繰り返し撮影された撮影画像の各反射像について、角膜の各測定点における複数の鈍り情報の算出を行ってもよく、複数の鈍り情報に基づいて、合計値や代表値等を取得してもよい。
【0026】
出力手段16は、算出手段15によって算出された鈍り情報に関する出力を行う。その出力は、例えば、鈍り情報そのものの出力であってもよく、また、鈍り情報に関する判断結果や評価結果等の出力であってもよい。この鈍り情報に関する出力が行われることによって、被検眼の角膜表面の涙液層に関する測定結果が出力されることになる。また、複数の鈍り情報が算出された場合に、出力手段16は、複数の鈍り情報に関する出力を行う。出力手段16は、例えば、その複数の鈍り情報そのものを出力してもよく、複数の鈍り情報の合計値や代表値を出力してもよい。その合計値や代表値は、算出手段15によって算出されたものであってもよい。例えば、出力手段16は、図4(c)や図5(c)で示されるように、被検眼の撮影画像において、鈍り情報に応じた測定点の位置に、鈍り情報の値の範囲に応じた色を重ねて表示してもよい。そのようにすることで、どのあたりの涙液層が崩壊しているのかを容易に把握することができるようになる。また、撮影手段14によってパターンの反射像の撮影が繰り返され、算出手段15によって撮影画像ごとに鈍り情報が算出された場合には、出力手段16は、鈍り情報の時間変化を示す情報を出力してもよい。鈍り情報の時間変化を示す情報は、例えば、鈍り情報の時間変化を示すグラフであってもよく、各撮影時点における鈍り情報を示す情報であってもよい。具体的には、出力手段16は、図8で示されるように、経過時間に応じた鈍り度の総和(合計値)を示すグラフを出力してもよい。鈍り情報の時間変化を示す出力が行われることによって、被検眼の涙液層の状態に関する時間変化を知ることができるようになる。
【0027】
ここで、この出力は、例えば、表示デバイス(例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなど)への表示でもよく、所定の機器への通信回線を介した送信でもよく、プリンタによる印刷でもよく、スピーカによる音声出力でもよく、記録媒体への蓄積でもよく、他の構成要素への引き渡しでもよい。なお、出力手段16は、出力を行うデバイス(例えば、表示デバイスやプリンタなど)を含んでもよく、または含まなくてもよい。また、出力手段16は、ハードウェアによって実現されてもよく、または、それらのデバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0028】
制御手段17は、測定用光源12のオン/オフや、撮影手段14による撮影、算出手段15による鈍り情報の算出、出力手段16による出力等に関する処理タイミングの制御等を行う。
【0029】
次に、眼科装置1の動作について図2のフローチャートを用いて説明する。なお、照明用光源7は、鈍り情報に関する測定期間中は点灯していてもよい。また、このフローチャートにおいて、算出手段15は、1個の撮影画像において、複数の鈍り情報を算出するものとする。
(ステップS101)被検眼2と眼科装置1の光学系とを適切な位置関係に合わせるアライメントが行われる。このアライメントの処理は、手動で行われてもよく、または、自動で行われてもよい。
【0030】
(ステップS102)制御手段17は、アライメントが完了したかどうか判断する。そして、アライメントが完了した場合には、ステップS103に進み、そうでない場合には、ステップS101に戻る。その判断は、例えば、撮影手段14によって取得された撮影画像を用いて行われてもよい。
【0031】
(ステップS103)制御手段17は、測定用光源12を点灯させる。その結果、リングパターンが被検眼2の角膜表面に投光されることになる。また、制御手段17は、あらかじめ決められた期間(例えば、15秒など)にわたって、所定の時間間隔でリングパターンの反射像の撮影を行うように撮影手段14を制御する。その結果、撮影手段14によって、反射像の撮影画像が繰り返し取得されることになる。なお、1秒間の撮影回数は、例えば、5回や10回等であってもよい。取得された複数の撮影画像は、図示しない記録媒体で記憶されてもよい。
【0032】
(ステップS104)制御手段17は、複数の撮影画像について、鈍り度を算出するように算出手段15に指示する。その指示に応じて、算出手段15は、撮影画像ごとに、複数の鈍り度を算出する。その鈍り度の算出において、算出手段15は、例えば、撮影画像ごとに、リングパターンの反射像の中心位置を特定してもよく、または、そうでなくてもよい。後者の場合には、1個目の撮影画像において特定した中心位置を、他の撮影画像においても、中心位置として用いてもよい。また、算出手段15は、撮影画像ごとに、複数の鈍り度の総和や代表値を算出してもよい。
【0033】
(ステップS105)制御手段17は、算出手段15によって算出された複数の鈍り度に関する出力を行うように出力手段16に指示する。その指示に応じて、出力手段16は、複数の鈍り度に関する出力を行う。出力手段16は、例えば、算出手段15によって算出された鈍り度の総和の時間変化を示すグラフを出力してもよい。そして、被検眼2の角膜表面の涙液層に関する測定やその測定結果の出力は終了となる。
【0034】
なお、図2のフローチャートにおいて、リングパターンの反射像の撮影時に被検者が瞼を閉じた場合には、リングパターンを検出することができないため、その瞼を閉じたときの撮影画像は鈍り度の算出に用いないようにしてもよい。また、図2のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。
【0035】
以上のように、本実施の形態による眼科装置1によれば、反射像の輝度値のピーク形状を用いて鈍り情報を算出することによって、虹彩領域と瞳孔領域とにおける輝度値のベースラインの変化の影響を低減することができ、被検眼2の角膜表面の涙液層の状態に関する適切な測定を実現することができる。特に、所定の期間にわたって測定を行う場合における瞳孔径の変化に応じた影響についても低減することができ、精度の高い測定を実現することができる。また、リングパターンの撮影を繰り返して行い、時系列に沿った複数の撮影画像について鈍り情報の算出を行うことによって、鈍り情報の時間変化を取得することができ、涙液層の状態に関する時間変化を知ることができるようになる。また、一つの撮影画像から複数の鈍り情報を算出してそれぞれ出力することによって、被検眼2の角膜表面の複数の箇所について、涙液層の状態を知ることができるようになる。また、被検眼の涙液層の状態を知ることによって、例えば、ドライアイの評価等を行うこともできるようになる。
【0036】
なお、本実施の形態では、眼科装置1が被検眼2の前眼部の撮影を繰り返して行い、鈍り情報の時間変化を示す情報を出力する場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。例えば、眼科装置1は、ある時点における被検眼2の前眼部の撮影を行い、その撮影画像を用いて、その撮影時点の鈍り情報を算出して出力してもよい。また、その際に、ある時点の撮影画像について、複数の位置の鈍り情報をそれぞれ算出してもよく、または、ある測定点の鈍り情報を算出してもよい。後者の場合には、例えば、被検眼2の涙液層の状態を観察するのに適した測定点の鈍り情報が算出されてもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、被検眼2の角膜表面に投光される所定のパターンが多重のリングパターンである場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。例えば、所定のパターンは、格子状の複数のラインを有するパターンや、平行な複数の直線を有するパターン等であってもよく、規則的に配列された複数のポイントを有するパターン等であってもよく、1本のラインを有するパターンや、1個のポイントを有するパターンでもよい。そのような場合であっても、撮影された反射像のラインに直交する方向や、ポイントを通過する任意の方向における輝度値の極大部分の鈍り情報を算出することによって、涙液層の状態について知ることができる。
【0038】
また、本実施の形態では、一つの撮影画像において複数箇所に関する鈍り情報が算出される場合について説明したが、図5(a)や図6から分かるように、涙液層が崩壊しているときには、通常、リングが崩れることによってピークが鈍るが、リングが途切れかけているような箇所においては、ピークの鋭さが保たれることもある。したがって、鈍り度の小さい範囲のデータは、涙液層が崩壊しているかどうかを適切に表していないと考えることもできる。一方、鈍り度が大きい範囲のデータは、涙液層が崩壊しているかどうかを適切に表していると考えられる。そのため、鈍り情報に関する代表値や総和が出力される場合には、所定の値の範囲の鈍り情報、例えば鈍りの程度が大きい方からN個の鈍り情報の総和や代表値が出力されてもよい。具体的には、大きい方からN個の鈍り度の総和や代表値、または、小さい方からN個の尖り度の総和や代表値が出力されてもよい。Nは、2以上の整数である。このように、涙液層が崩壊している場合には、一つの撮影画像に含まれる複数のピークの位置における鈍り情報の散らばり具合が大きくなる。したがって、出力手段16は、複数の鈍り情報に関する出力として、複数の鈍り情報の分散値を出力してもよい。その場合には、分散値が大きいほど、涙液層の崩壊の程度が大きいことが示されることになる。
【0039】
また、被検者によっては、測定を行っている間に眼瞼が徐々に下がってくることもある。そのような場合には、測定期間において、算出できる鈍り情報の個数が徐々に少なくなることになる。そのような状況において、鈍り情報の総和の時間変化を示す情報を出力すると、不適切な出力を行うことになる。例えば、仮に鈍り情報そのものは時間的に変化しなかったとしても、個数の減少に応じて鈍り度の総和は時系列に沿って減少することになるからである。このようなことを回避するため、算出手段15は、測定開始から測定終了までの間に撮影されたすべての撮影画像において鈍り情報を取得できる測定点を特定し、その特定した測定点の鈍り情報についてのみ、鈍り情報の総和の算出等に用いるようにしてもよい。例えば、ある角度θに応じた半径方向の直線について、中心からM個目までのピーク(測定点)については、すべての撮影画像において特定できた場合には、その角度方向については、中心からM個目までの鈍り情報を各撮影画像について算出するようにしてもよい。そのようなことを各角度の半径方向について行ってもよい。
【0040】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0041】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、または、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0042】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、または長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、または、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、または、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0043】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、または、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0044】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。このプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、CD-ROMなどの光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。また、このプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、または分散処理を行ってもよい。
【0045】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上より、本発明による眼科装置によれば、瞳孔領域における輝度値の変化の影響を低減できるという効果が得られ、被検眼の角膜表面の涙液層の状態に関する測定を行う眼科装置として有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 眼科装置
2 被検眼
11 プラチドドーム
12 測定用光源
13 投光手段
14 撮影手段
15 算出手段
16 出力手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9