(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】顔面神経麻痺治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/30 20060101AFI20230613BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20230613BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230613BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230613BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20230613BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230613BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20230613BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
A61K38/30
A61K9/00
A61K47/42
A61P25/02
A61L31/04 120
A61L31/14 400
A61L31/16
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2019077660
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-01-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月30日に国立大学法人山形大学医学部(山形市)で開催された第35回山形形態機能研究会にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月20日に国立大学法人山形大学医学部(山形市)で開催された山形大学医学部実験動物セミナー第29回研究成果発表会にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年6月7日に山形テルサ(山形市)で開催された第41回日本顔面神経学会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504237832
【氏名又は名称】ノーベルファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】欠畑誠治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤吏
(72)【発明者】
【氏名】古川孝俊
(72)【発明者】
【氏名】杉山元康
(72)【発明者】
【氏名】後藤崇成
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】喉頭, (2011), 23, [2], p.62-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00
A61K 47/00-47/69
A61L 31/00-31/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道から挿入し、鼓室内から顔面神経に到達する位置に設けた顔面神経管開放部位に留置して、顔面神経麻痺を治療するための組成物であって、
インスリン様成長因子1(IGF-1)を、ゼラチンスポンジに担持させた、顔面神経麻痺治療用組成物。
【請求項2】
インスリン様成長因子1(IGF-1)、及びゼラチンスポンジを含む顔面神経麻痺治療用キットであって、ゼラチンスポンジに担持させたインスリン様成長因子1(IGF-1)を、外耳道から挿入し、鼓室内から顔面神経に到達する位置に設けた顔面神経管開放部位に留置して使用する、顔面神経麻痺治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経再生効果を有する物質を生体吸収性高分子からなる担体に担持させた、顔面神経麻痺治療用組成物に関する。また本発明は、神経再生効果を有する物質、及び生体吸収性高分子からなる担体を含む顔面神経麻痺治療用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
末梢性顔面神経麻痺は、外観に少なからぬ影響を与えるため、時として社会的な孤立を招く場合があるなど、患者のQOLを下げる場合が少なくない。そのため、治療が強く望まれる疾患の一つであるといえる。
【0003】
顔面神経麻痺の約80~90%は、Bell麻痺あるいはHunt症候群である。顔面神経麻痺は、側頭骨内に位置する顔面神経管内において、顔面神経がウィルスの影響を受けて炎症を起こし、絞扼状態となって虚血状態に陥るために発症すると考えられている。近年、顔面神経麻痺に対して、ステロイドの抗炎症効果を利用した、抗ウィルス薬併用ステロイド大量投与療法が行われ、一定の効果を挙げている(非特許文献1)。しかしこの方法によっても、一部の患者については効果が見られないといった問題がある他、全身への副作用が大きく合併症があるとステロイドを使用できないといった問題もある。
【0004】
高度麻痺症例に対しては、全身麻酔下の顕微鏡下手術である、顔面神経減荷術がサルベージ治療として追加される場合がある。しかしこの方法は、患者への侵襲性が大きいことに加え、必ずしも十分な治療効果が望める治療方法とは言い難く、現在欧米では得られるメリットよりも侵襲度の方が高いとしてほとんど行われなくなっている現状にある(非特許文献2)。
【0005】
一方、顔面神経麻痺の治療については、他にも種々の方法が検討され、報告されている。例えば、ラットの顔面神経切断モデルを用いた実験において、患部へのインスリン様成長因子1(以下、IGF-1という)の持続投与により、顔面神経の再生が確認されたとの報告が行われている(非特許文献3)。
【0006】
また最近では、ゼラチンハイドロゲルに担持させた塩基性繊維芽細胞成長因子(以下、bFGFという)を、耳後部切開を行って患部に留置することにより、ヒトのBell麻痺に対する治療効果が得られるとの報告も行われている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Furukawa T.,et al.,“Benefits of High-dose Steroid+Hespander+Mannitol Administration in the Treatment of Bell’s Palsy”,Otology&Neurotology,Volume 38,Issue 2(2017),p.272
【文献】Smouha E et al.,“Surgical treatment of Bell’s palsy:current attitudes”,J LARYNGOSCOPE,VOLUME 121,NUMBER 9(2011)p.1965
【文献】Panayotis K. Thanos et al., “Insulin-like growth factor-I promotes nerve regeneration through a nerve graft in an experimental moel of facial paralysis”,Restorative Neurology and Neuroscience 15(1999)p.57
【文献】Naohito Hato et al.,“Facial Nerve Decompression Surgery Using bFGF-Impregnated Biodegradable Gelatin Hydrogel in Patients with Bell Palsy.”, Otolaryngology-Head and Neck Surgery,146(4),(2012)p.641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した通り、顔面神経麻痺に対しては、種々の治療法が提案されている。しかし、例えば、抗ウィルス薬併用ステロイド大量投与療法では、一部の患者については効果が見られないといった問題がある他、全身への副作用が大きく合併症があるとステロイドを使用できないといった問題があり、顔面神経減荷術では侵襲性が高いといった問題がある。
【0009】
また、非特許文献3に記載された、患部へのIGF-1の持続投与による方法は、侵襲性が高いといった問題に加え、持続投与にポンプを使用する必要があるため、汎用性に欠けるといった問題がある。加えて、用いられているモデルが側頭骨外で神経を切断したモデルであるため、顔面神経麻痺における実際の臨床を反映したものとは言い難く、IGF-1による顔面神経麻痺を治療するための条件等についての開示や示唆もない。
【0010】
さらに、非特許文献4に記載された方法では、耳後部切開を行う必要がある。広く臨床にて実施することを考えると、より侵襲性の低い方法を用いることが望ましい。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、患者への侵襲性が低く、かつ、より治療効果の高い、顔面神経麻痺を治療するための組成物並びにキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、IGF-1をはじめとする神経再生効果を有する物質を、鼓室内留置に適した形状に整形した、生体内吸収性高分子の担体に担持させた組成物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、外耳道から挿入し、鼓室内から顔面神経に到達する位置に設けた顔面神経管開放部位に留置して、顔面神経麻痺を治療するための組成物であって、神経再生効果を有する物質を、生体吸収性高分子からなる担体に担持させた、顔面神経麻痺治療用組成物である。
【0014】
顔面神経は、脳幹から側頭骨内の顔面神経管を通って顔面まで走行している。そして、顔面神経と鼓室とは、側頭骨の薄い部分を介して隣接している。従って、鼓室内から側頭骨に微小な開放部分を設けることにより、鼓室から顔面神経に到達する経路を確保することができる。本発明は、この開放部位に留置して用いるための、顔面神経麻痺治療用組成物であり、神経再生効果を有する物質を、生体吸収性高分子からなる担体に担持させたことを特徴としている。神経再生効果を有する物質を生体吸収性高分子からなる担体に担持させることによって、神経再生効果を有する物質を、一定期間持続的に顔面神経に到達させることができる。従って、本発明によれば、侵襲性が低く、より高い顔面神経麻痺の治療効果を得ることが可能となる。
【0015】
さらに本発明は、神経再生効果を有する物質と、生体吸収性高分子を含む、顔面神経麻痺治療キットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、侵襲性が低く、より高い顔面神経麻痺の治療効果を有する、治療用組成物、並びにキットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】閉眼率測定において計測した上下瞼間距離を表す図である。
【
図2】強閉眼を想定した実験系における、閉眼率の経時変化を示す図である。
【
図3】弱閉眼を想定した実験系における、閉眼率の経時変化を示す図である。
【
図4】IGF-1投与モデル及びコントロールモデルにおけるENoG値の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の顔面神経麻痺治療用組成物は、鼓室内留置に適した形状の生体吸収性高分子の担体に神経再生効果を有する物質(以下、神経再生物質という)を担持させたことを特徴とする。
【0019】
本発明において、有効成分であり生体吸収性高分子に担持させる神経再生物質は、神経再生効果を奏する物質であればよく、特に限定されない。具体的には例えば、IGF-1、bFGF、肝細胞増殖因子(HGF)、またはグリア細胞株由来栄養因子(GDNF)等を用いることができる。これらのうち好ましいものとして、IGF-1を用いることができる。
【0020】
生体吸収性高分子は、生体吸収性を有し、かつ、神経再生物質を担持可能な担体(例えば多孔性担体)を調製可能なものであれば、特に限定されない。例えば、ゼラチンまたはキトサン等を挙げることができる。これらのうち好ましいものとして、ゼラチンを用いることができる。そして生体吸収性能分子からなる担体は、上述の生体吸収高分子により形成された担体であり、好ましいものとして、ゼラチンスポンジを用いることができる。
【0021】
以下、IGF-1を担持させたゼラチンスポンジを例にとり、本発明の顔面神経麻痺治療用組成物について、具体的に説明する。
【0022】
(顔面神経麻痺治療用組成物の調製方法)
ゼラチンスポンジは、豚や牛等から抽出したゼラチンを、多孔性の構造に加工したものである。ゼラチンスポンジを調製するための材料として、豚、牛等の動物由来のコラーゲンを酸又はアルカリで加水分解あるいは加熱分解して得られたタンパク質を精製するといった、公知の方法により得られたゼラチンを、用いることができる。このようなゼラチンは一般に市販されている。本発明において用いるゼラチンの種類は特に限定されないが、医薬品として用いることから、日本薬局方「ゼラチン」又は日本薬局方「精製ゼラチン」を用いることが望ましい。
【0023】
ゼラチンスポンジは、公知の方法(例えば、「国際公開2009/157558号」記載の方法)を用いて調製することができる。具体的には、(I)ゼラチンを加温した水に溶解させ、45℃以上に保ったまま孔径0.2μmのフィルターを用いて濾過する、(II)得られたゼラチン水溶液を、ホモジナイザー等を用いて激しく撹拌して発泡させる、(III)発泡させたゼラチン水溶液を公知の方法(例えば、凍結させた溶液を0.1Torrに減圧するといった条件)にて直ちに凍結乾燥する、(IV)得られた凍結乾燥物を所望の厚さ(例えば1cm)のシート状に切断する、といった工程により、得ることができる。また、上記工程に加え、(V)得られたシートを加熱してさらにゼラチンを熱架橋させる(例えば、150℃で6時間程度加熱)、という工程を加えても良い。この工程により、得られたゼラチンスポンジの強度を増強させることができ、そのため安定性の向上した組成物とすることができる。なお、ゼラチン水溶液におけるゼラチン濃度は、所望の物性となるように、適宜調整する。具体的には、吸水試験における吸水量(水で浸潤後の質量を浸潤前の質量で除した値)が、約40~50倍となるように調整すればよく、通常は、5.5~6.5%とすることができる。
【0024】
ゼラチンスポンジへのIGF-1の担持は、所望の形状(例えば、直径約1.5cm、厚さ約1cmの円柱状)に切り出したゼラチンスポンジにIGF-1の水溶液を滴下、あるいは浸潤させることによって、行うことができる。ゼラチンスポンジの形状及び大きさは、留置する部位の状態によって、適宜調整される。具体的には、各症例における中耳腔容積、正円窓窩形態に応じて、術者が適切な大きさ(例えば、鼓室内に設けた前記開放部位を覆うのに十分な大きさ)に裁断し、必要量を担持させる。
【0025】
また担持させるIGF-1の量は、患者の病状等に応じて適宜調整される。通常は、1回あたりの投与濃度(10mg/mL)に調整されたIGF-1の生理食塩水溶液を、患部の形状に合わせて切り出したゼラチンスポンジに含浸させて用いればよい。患者の状態により、複数回の患部への投与を実施することもある。
【0026】
(顔面神経麻痺治療用組成物の使用方法)
本発明の顔面神経麻痺治療用組成物は、鼓室内に設けた顔面神経管開放部位に直接留置して、用いることができる。具体的にIGF-1担持ゼラチンスポンジの場合を例にとり説明すると、局所麻酔下で、外耳道を12時から6時まで弧状に切開し、皮膚と鼓膜を剥離する。そして、鼓室内の顔面神経管側の側壁を切開し、側頭骨に微小な穴をあけて顔面神経管を開放する。その開放部に、適当な大きさに切断したIGF-1担持ゼラチンスポンジを、専用の器具を用いて留置する。留置されたIGF-1担持ゼラチンスポンジからIGF-1が徐々に患部に浸透してゆき、顔面神経麻痺を効果的に治療することが可能となる。
【0027】
(その他の実施形態)
本発明の顔面神経麻痺治療用組成物は、IGF-1の他、bFGF、肝細胞増殖因子(HGF)、グリア細胞株由来栄養因子(GDNF)等の神経再生物質を、IGF-1を担持させた場合と同様の方法によって、生体吸収性高分子からなる担体に担持させたものであってもよい。
【0028】
また、生体吸収性を有する高分子からなる担体についても、ゼラチンスポンジの他、例えばキトサンを用いて調製された担体を用いることもできる。ここで、キトサンの担体は、公知の方法にて得られたキトサン溶液又はゲルを、公知の方法によって凍結乾燥することにより、得ることができる。キトサンの溶液を凍結乾燥させる場合は、ゼラチンスポンジの場合と同様に、撹拌等の手段により発泡させ、凍結乾燥工程に供することが望ましい。
【0029】
(顔面神経麻痺治療用キット)
本発明の顔面神経麻痺治療用キットは、上述の神経再生物質、及び生体吸収性高分子からなる担体を、公知の容器にセットして製造することができる。例えば、神経再生物質としてIGF-1、生体吸収性高分子からなる担体としてゼラチンスポンジを公知の容器にセットする。キットにはさらに、IGF-1が凍結乾燥品である場合は、溶解用の生理食塩水や注射用水、シリンジ、ゼラチンスポンジを適当な大きさにカットするための器具、ゼラチンスポンジにIGF-1を担持させるためのトレイ等を含んでもよい。この場合、本発明の顔面神経麻痺治療キットは、キット内に含まれる神経再生効果を有する物質を、生理食塩液に溶解し、ゼラチンスポンジに含浸させて、本発明に係る顔面神経麻痺治療用組成物を調製し、上記と同様の手順で鼓室内の開放部に留置して用いられる。
【実施例】
【0030】
(1)モデル動物の作成
Hartley系(4週齢、オス)のモルモットを準備し、耳後部切開を置いた後、耳包と顔面神経本幹を同定した。その後、耳包後方から茎乳突孔にかけて一部を骨削開した。鋭匙鉗子などを用いて、茎乳突孔部の骨をはずし、顔面神経垂直部を露出した。露出した顔面神経を側頭骨内で、微小鉗子(BM563R Castroviejo)を用いて10分間クランプすることにより、側頭骨内顔面神経絞扼モデルモルモットを作成した。
【0031】
(2)IGF-1担持ゼラチンハイドロゲルの調製
IGF-1(オーファンパシフィック株式会社製)0.4mgを生理食塩水40μLに溶解し、IGF-1溶液を調製した。得られたIGF-1溶液に、ゼラチンハイドロゲル乾燥品(製品名:メドジェル(PI5)、株式会社メドジェル製)4mgを含浸させ、IGF-1担持ゼラチンハイドロゲルを調製した。
【0032】
(3)IGF-1担持ゼラチンハイドロゲルの患部への留置
調製したIGF-1担持ゼラチンハイドロゲルを、鼓室内で、顔面神経を覆う様に局所留置し、閉創した(以下、IGF-1投与モデルという)。
また、コントロールとして、IGF-1の代わりに生理食塩水を含浸させたゼラチンハイドロゲルを用いて同様の処置を行い、閉創した動物も作成した(以下、コントロールモデルという)。
【0033】
(4)治療効果の確認
1)閉眼率の測定
術側の眼球付近に、それぞれ3cmと6cmの距離から空気(風速約0.28m/s(3cm)、0.19m/s(6cm))を吹きかけることで閉眼を誘発し、その様子を60fpsモードでビデオ撮影した。空気を吹き付ける前の目の上下の大きさaと、空気を吹き付けた際の目の下部と上まぶた端部との距離bを測定し、(a-b)/aで定義される、閉眼率を測定した(
図1)。ここで、3cmから空気を吹きかけた実験は強閉眼を、6cmの距離から吹きかけた実験は弱閉眼を想定したものである。測定は、術後4週から8週にかけ、週に1回行い、コントロールモデルとIGF-1投与モデルのそれぞれについて、閉眼率の経時変化を調べた。また実験は、それぞれの群につき6匹の動物を用いて行った。
【0034】
また、術後8週時点で、閉眼率が100%であった場合を完治、100%に至らなかった場合を非治癒として、完治に至った動物の数を、コントロールモデルとIGF-1投与モデルとで比較した。
【0035】
強閉眼及び弱閉眼を想定した実験における閉眼率の経時変化を、それぞれ
図2及び
図3に示す。
この図に示すように、強閉眼及び弱閉眼の何れの実験系においても、IGF-1投与モデルは、コントロールモデルに比べて、閉眼率が回復する傾向が見られた。
また、表1に示すように、術後8週後において、完治した動物は、強閉眼並びに弱閉眼の実験系ともに、コントロールモデルでは確認されなかったのに対し、IGF-1投与モデルでは6匹中4匹について、完治が確認された。
【0036】
【0037】
2)電気生理学的評価
術側及び健側について、顔面表情筋上の皮膚に電極を貼付し、筋電図機械(品名:Power Lab 26T、バイオリサーチセンター株式会社製)を使用して測定された鼻の表情筋活動電位(compound muscle action potential)を用い、ENoG値(%)を算出した。なお、ENoG値の測定は、IGF-1担持ゼラチンハイドロゲル留置8週間後に行った。
【0038】
ENoG値の測定結果を、
図4に示す。この図に示すように、IGF-1投与モデルでは、コントロールモデルと比べて高いENoG値を示していた。
以上の結果より、顔面神経を露出させた鼓室内にてIGF-1を担持させた担体を留置することにより、顔面神経麻痺が回復することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の顔面神経麻痺治療用組成物、又はキットにより、侵襲性が低く、効果的に顔面神経麻痺を治療することが可能な医薬品を提供することができる。