(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】導電性高分子導電体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20230613BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20230613BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20230613BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C08G61/12
C08L65/00
C08K5/42
H01B1/12 F
(21)【出願番号】P 2019147784
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】516043742
【氏名又は名称】エーアイシルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】及川 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】岡野 秀生
(72)【発明者】
【氏名】平田 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】成田 勝徳
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特許第6476480(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/148249(WO,A1)
【文献】特開2011-124029(JP,A)
【文献】特開2000-090732(JP,A)
【文献】特開2003-268082(JP,A)
【文献】特開2018-055866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G61/00-61/12
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に導電性高分子が付着された導電性高分子導電体
の製造方法であって、
前記基材は、シルク、綿、及び、合成繊維のうちの少なくとも1種を含み、
前記導電性高分子は、酸化剤及びドーパントとしてp-トルエンスルホン酸の鉄塩を添加したポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンであり、p-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体とエタノールと水とを含む反応溶液を用い、前記反応溶液におけるp-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体との割合(p-トルエンスルホン酸の鉄塩:ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体)を、モル比で、1:0.2から1:0.6の範囲内とし、
前記反応溶液における水の割合を、10体積%以上30体積%以下の範囲内として重合させ
る
ことを特徴とする導電性高分子導電体
の製造方法。
【請求項2】
エタノールと、p-トルエンスルホン酸の鉄塩と、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体とを含み、p-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体との割合(p-トルエンスルホン酸の鉄塩:ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体)が、モル比で、1:0.2から1:0.6の範囲内である混合溶液を作製する工程と、
前記混合溶液に水を混合して
前記反応溶液を作製する工程と、
前記反応溶液を前記基材に塗布し、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体を重合させる工程と
を含むことを特徴とする
請求項1記載の導電性高分子導電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を用いた導電性高分子導電体、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PEDOT-PSS{ポリ(3.4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)}等の導電性高分子をシルクよりなる基材に付着させた導電性高分子繊維が知られている(例えば、特許文献1参照)。この導電性高分子繊維は、導電性、親水性、引っ張り強度、耐水強度を有しているので、特に、生体電極の材料として利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の導電性高分子繊維は、洗濯を繰り返すと表面の導電性高分子が剥がれてしまい導電性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、洗濯耐久性を向上させることができる導電性高分子導電体、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の導電性高分子導電体は、基材に導電性高分子が付着されたものであって、基材は、シルク、綿、及び、合成繊維のうちの少なくとも1種を含み、導電性高分子は、酸化剤及びドーパントとしてp-トルエンスルホン酸の鉄塩を添加したポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンであり、p-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体とエタノールと水とを含む反応溶液を用い、反応溶液におけるp-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体との割合(p-トルエンスルホン酸の鉄塩:ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体)を、モル比で、1:0.2から1:0.6の範囲内として重合させたものである。
【0007】
本発明の導電性高分子導電体の製造方法は、シルク、綿、及び、合成繊維のうちの少なくとも1種を含む基材に、酸化剤及びドーパントとしてp-トルエンスルホン酸の鉄塩を添加したポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンよりなる導電性高分子を付着させた導電性高分子導電体を製造するものであって、エタノールと、p-トルエンスルホン酸の鉄塩と、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体とを含み、p-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体との割合(p-トルエンスルホン酸の鉄塩:ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体)が、モル比で、1:0.2から1:0.6の範囲内である混合溶液を作製する工程と、混合溶液に水を混合して反応溶液を作製する工程と、反応溶液を基材に塗布し、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体を重合させる工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性高分子導電体によれば、導電性高分子を、p-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体とエタノールと水とを含み、p-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体との割合を所定の範囲内とした反応溶液を用いて重合させたものにより構成したので、洗濯耐性を向上させることができる。
【0009】
特に、反応溶液における水の割合を1体積%以上30体積%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0010】
本発明の導電性高分子導電体の製造方法によれば、エタノールと、p-トルエンスルホン酸の鉄塩と、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体とを含み、p-トルエンスルホン酸の鉄塩とポリ3,4-エチレンジオキシチオフェンの単量体との割合が所定範囲の混合溶液を作製したのち、この混合溶液に水を混合して反応溶液とし、基材に塗布して重合させるようにしたので、本発明の導電性高分子導電体を容易に得ることができ、洗濯耐性を向上させることができる。
【0011】
特に、反応溶液における水の割合を1体積%以上30体積%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る導電性高分子導電体の概略構成を表す図である。
【
図2】
図1に示した導電性高分子導電体を製造する製造装置の構成を表す図である。
【
図3】実施例1-1及び比較例1-1に係る導電性高分子導電体、並びに、基材のX線回折の結果を表す特性図である。
【
図4】実施例1-1、比較例1-1、及び、基材のX線回折の結果を重ねて表す特性図である。
【
図5】実施例1-1~1-3及び比較例1-1に係る導電性高分子導電体の洗濯回数による抵抗値の変化を示す特性図である。
【
図6】実施例2-1~2-3及び比較例2-1に係る導電性高分子導電体の洗濯回数による抵抗値の変化を示す特性図である。
【
図7】実施例3-1~3-3に係る導電性高分子導電体の洗濯回数による抵抗値の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係る導電性高分子導電体10の概略構成を表すものである。この導電性高分子導電体10は、基材11に導電性高分子12が付着されたものであり、例えば、導電性高分子電極として用いることができる。
【0015】
基材11を構成する材料はどのようなものでもよいが、繊維が好ましく、例えば、シルク及び綿等の天然繊維、及び、合成繊維等の化学繊維からなるうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。生産性及び伸縮性に優れるからである。特に、異形断面を有する合成繊維(すなわち異形断面糸)を含むようにすれば、繊維の間にも導電性高分子12が付着し、洗濯耐性を高めることができるので好ましい。
【0016】
基材11の形状は、例えば、糸状、布状、又は、シート状が好ましく挙げられ、布状又はシート状の場合には、織物、編み物、あるいは、不織布のいずれでもよい。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のものであり、繊維を熱、機械的または化学的な作用によって接着または絡み合わせたものである。なお、基材11が糸状の場合には、基材11に導電性高分子12を付着させた糸状の導電性高分子導電体10をそのまま用いてもよいが、布状又はシート状に形成して用いてもよい。
【0017】
導電性高分子12としては、p-トルエンスルホン酸の鉄塩(以下、pTSと記す)を添加したポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTと記す)が好ましい。すなわち、導電性高分子12は、pTSとPEDOTとを含んでいる。pTSは、PEDOTの単量体、すなわち3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、EDOTと記す)を重合させる際の酸化剤として機能すると共に、PEDOTに導電性を発現させるためのドーパントとして機能するものである。
【0018】
PEDOTは、pTSと、PEDOTの単量体(すなわちEDOT)と、エタノールと、水とを含む反応溶液を用いて重合させたものであることが好ましい。PEDOTの結晶化度が低くなり、基材11に対する付着性が向上し、洗濯耐性を向上させることができるからである。PEDOTの結晶性については、例えば、X線回折において2θ=5度から7度付近に結晶性ピークが現れるので、この結晶性ピークの強度を測定することにより判断することができる。反応溶液における水の割合(水/反応溶液)は、1体積%以上30体積%以下の範囲内であることが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0019】
また、PEDOTは、反応溶液におけるpTSとPEDOTの単量体との割合(pTS:PEDOTの単量体)を、モル比で、1:0.2から1:0.6の範囲内として重合させたものであることが好ましい。導電性と洗濯耐性をより向上させることができるからである。また、このような割合で重合させることにより、導電性高分子12のPEDOTのうち、pTSが配位しているPEDOTの割合を10%以上50%以下とすることができる。なお、PEDOTのうちpTSが配位しているPEDOTの割合は、例えば、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光)により得られたPEDOTのピークと、pTSが配位しているPEDOTのピークとの面積比から求めることができる。
【0020】
導電性高分子12は、基材11の全面に形成されていてもよく、一部に形成されていてもよい。例えば、基材11が糸状の場合には、
図1(A)に示したように、基材11の全面に形成されていてもよく、基材11が布状又はシート状の場合には、
図1(B)に示したように、片面に形成されていてもよく、図示しないが、両面に形成されていてもよい。また、導電性高分子12は、基材11の表面に付着しているが、基材11の表面にしみ込んでいてもよい。
【0021】
また、導電性高分子導電体10は、
図1(C)に示したように、導電性高分子12の表面に、水系架橋剤が架橋した被覆膜13を有していることが好ましい。洗濯耐性をより向上させることができるからである。水系架橋剤というのは水溶性の架橋剤であり、例えば、イソシアネートを含むイソシアネート系の架橋剤が挙げられる。
【0022】
この導電性高分子導電体10は、例えば、次のようにして製造することができる。
図2は、導電性高分子導電体10を製造する製造装置20の構成を表わすものである。この製造装置20は、例えば、pTSとPEDOTの単量体とエタノールと水とを含む反応溶液を製造し、基材11に塗布する塗布部21と、反応溶液を塗布した基材11を加熱してPEDOTの単量体を重合させる加熱部22と、基材11を塗布部21から加熱部22に移動させる移動手段23とを備えている。
【0023】
塗布部21は、例えば、pTSとエタノールとを含む第1液を収納する第1タンク21Aと、PEDOTの単量体とエタノールとを含む第2液を収納する第2タンク21Bと、水を収納する第3タンク21Cと、これら第1タンク21A、第2タンク21B、及び、第3タンク21Cと接続され、第1液、第2液、及び、水を混合して反応溶液を作製し、基材11に塗布する混合・塗布部21Dを有している。加熱部22は、例えば、温風装置22Aを有しており、基材11に温風を当てて加熱するようになっている。移動手段23は、基材11を挟む複数対のローラー23Aを有しており、これらのローラー23Aにより基材11は支持及び移動されるようになっている。
【0024】
導電性高分子導電体10は、この製造装置20を用いて、例えば、次のようにして製造することが好ましい。まず、第1タンク21Aに収納したpTSとエタノールとを含む第1液と、第2タンク21Bに収納したPEDOTの単量体とエタノールとを含む第2液とを混合・塗布部21Dに入れ、混合して混合溶液を作製する(ステップS101;混合溶液作製工程)。その際、pTSとPEDOTの単量体との割合(pTS:PEDOTの単量体)が、モル比で、1:0.2から1:0.6の範囲内となるように、第1液と第2液との混合割合を調整することが好ましい。
【0025】
次いで、混合・塗布部21Dに第3タンク21Cに収納した水を入れ、混合して反応溶液を作製する(ステップS102;反応溶液作製工程)。その際、反応溶液における水の割合(水/反応溶液)が1体積%以上30体積%以下の範囲内となるように、混合割合を調整することが好ましい。このように、混合溶液に後から水を添加して反応溶液を作製するのは、水を添加すると反応溶液が早く劣化してしまうからである。
【0026】
続いて、反応溶液を作製したのち、できるだけ早く、反応溶液を基材11に塗布し、PEDOTの単量体を重合させて導電性高分子12を基材11に付着させる(ステップS103;重合工程)。その際、加熱部22において必要に応じて加熱することが好ましく、加熱した後、例えば、室温において反応させることが好ましい。加熱温度は、例えば、20℃から60℃とすることが好ましい。加熱時間は、例えば、5分から60分とすることが好ましい。反応時間は10分から24時間とすることが好ましい。
【0027】
そののち、例えば、水洗いをし、乾燥させる(ステップS104;水洗・乾燥工程)。なお、混合溶液作製工程(ステップS101)から水洗・乾燥工程(ステップS104)は、複数回繰り返して行うことが好ましく、2回以上繰り返すようにすればより好ましい。導電性と洗濯耐性をより向上させることができるからである。更に、導電性高分子12を形成したのち、導電性高分子12の表面に、水系架橋剤を架橋させた被覆膜13を形成することが好ましい(ステップS105;被覆膜形成工程)。洗濯耐性を向上させることができるからである。被覆膜13は、例えば、導電性高分子12の表面に水系架橋剤を塗布した後、熱処理を行うことにより形成することができる。熱処理は、例えば、乾燥させるドライ処理を行った後、焼成する焼成処理を行うことが好ましい。
【0028】
このように本実施の形態の導電性高分子導電体10によれば、導電性高分子12を、pTSとPEDOTの単量体とエタノールと水とを含み、pTSとPEDOTの単量体との割合を所定の範囲内とした反応溶液を用いて重合させたものにより構成したので、洗濯耐性を向上させることができる。
【0029】
特に、反応溶液における水の割合を1体積%以上30体積%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0030】
本実施の形態の製造方法によれば、エタノールとpTSとPEDOTの単量体とを含み、pTSとPEDOTの単量体との割合が所定範囲の混合溶液を作製したのち(ステップS101;混合溶液作製工程)、この混合溶液に水を混合して反応溶液とし(ステップS102;反応溶液作製工程)、基材11に塗布して重合させる(ステップS103;重合工程)ようにしたので、本実施の形態の導電性高分子導電体10を容易に得ることができ、洗濯耐性を向上させることができる。
【0031】
特に、反応溶液における水の割合を1体積%以上30体積%以下とするようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0032】
(実施例1-1~1-3)
まず、pTSとエタノールとを含む第1液と、PEDOTの単量体とエタノールとを含む第2液とをそれぞれ調整し、第1液と第2液とを混合して混合溶液を作製した(ステップS101;混合溶液作製工程)。pTSとPEDOTの単量体との割合(pTS:PEDOTの単量体)は、モル比で、1:0.2から1:0.6とした。次いで、この混合溶液に水を混合して反応溶液を作製した(ステップS102;反応溶液作製工程)。反応溶液における水の割合(水/反応溶液)は、20体積%とした。
【0033】
続いて、直ちに、反応溶液を基材11に塗布し、加熱したのち、25℃、湿度60%の室内に2時間保持してEDOTを重合させ、導電性高分子12を付着させた(ステップS103;重合工程)。基材11にはポリエステル製の布を用いた。加熱温度は40℃とし、加熱時間は実施例1-1~1-3で変化させ、実施例1-1は6分、実施例1-2は9分、実施例1-3は12分とした。そののち、水洗いをし、乾燥させた(ステップS104;水洗・乾燥工程)。更に、混合溶液作製工程(ステップS101)から水洗・乾燥工程(ステップS104)を順にもう1回行った。
【0034】
(比較例1-1)
実施例1-1~1-3に対する比較例1-1として、実施例1-1~1-3と同一の混合溶液に水を添加せずにそのまま同一の基材に塗布し、実施例1-1~1-3と同様にしてEDOTを重合させて導電性高分子を付着させた。重合時の条件は、加熱時間を12分としたことを除き、他は実施例1-1~1-3と同一とした。また、重合させたのち、実施例1-1~1-3と同様に水洗・乾燥を行い、更に、実施例1-1~1-3と同様に、混合溶液の塗布、重合、水洗、乾燥を順にもう1回行った。
【0035】
(実施例1-1~1-3及び比較例1-1の結果)
得られた各導電性高分子導電体10について、X線回折を行い導電性高分子12の結晶性を調べた。
図3(A)に実施例1-1の結果を、
図3(B)に比較例1-1の結果を示す。また、
図3(C)に基材のX線回折の結果を参考として示す。更に、
図4に実施例1-1と比較例1-1と基材の結果を重ねて示す。
図3及び
図4に示したように、2θ=6度付近のPEDOTの結晶性ピークを見ると、実施例1-1は比較例1-1に比べて、ビーク強度が小さくなっており、結晶化度が低くなっていることが分かった。なお、
図3及び
図4では実施例1-1の結果を示したが、実施例1-2,1-3についても同様の結果が得られた。
【0036】
また、得られた各導電性高分子導電体10について、洗濯を1回から10回行い、洗濯前(すなわち洗濯0回)及び各洗濯後毎にシート抵抗を測定し、洗濯による抵抗の変化を調べた。洗濯方法は、JIS L 103法とした。シート抵抗は、三菱化学アナリテック製のLoresta‐AX MCP‐T370を用い、8mm離れた3点間での表面抵抗を測定した。得られた結果を
図5に示す。
【0037】
図5に示したように、本実施例によれば、比較例1-1に比べて、洗濯を繰り返した時のシート抵抗を小さくすることができた。すなわち、混合溶液に水を添加した反応溶液を用いてEDOTを重合させるようにすれば、PEDOTの結晶化度を低くすることができ、洗濯耐性を向上させることができることが分かった。
【0038】
(実施例2-1~2-3)
反応溶液作製工程(ステップS102)において、反応溶液における水の割合(水/反応溶液)を変化させ、混合溶液作製工程(ステップS101)から水洗・乾燥工程(ステップS104)を順に3回繰り返したことを除き、他は、実施例1-3と同様にして、導電性高分子導電体10を作製した。反応溶液における水の割合(水/反応溶液)は、実施例2-1が10体積%、実施例2-2が20体積%、実施例2-3が30体積%とした。
【0039】
(比較例2-1)
実施例2-1~2-3に対する比較例2-1として、実施例2-1~2-3と同一の混合溶液に水を添加せずにそのまま同一の基材に塗布したことを除き、他は、実施例2-1~2-3と同様にして導電性高分子導電体を作製した。
【0040】
(実施例2-1~2-3及び比較例2-1の結果)
得られた各導電性高分子導電体10について、実施例1-1~1-3と同様にして洗濯による抵抗の変化を調べた。得られた結果を
図6に示す。
図6に示したように、本実施例によれば、比較例2-1に比べて、洗濯を繰り返した時のシート抵抗を小さくすることができた。すなわち、混合溶液に水を添加した反応溶液を用いてEDOTを重合させるようにすれば、洗濯耐性を向上させることができることが分かった。
【0041】
(実施例3-1~3-3)
混合溶液作製工程(ステップS101)から水洗・乾燥工程(ステップS104)の繰り返し回数を変えたこと除き、他は、実施例1-3と同様にして、導電性高分子導電体10を作製した。繰り返し回数は、実施例3-1が3回、実施例3-2が2回、実施例3-3が1回とした。
【0042】
得られた各導電性高分子導電体10について、実施例1-1~1-3と同様にして洗濯による抵抗の変化を調べた。得られた結果を
図7に示す。
図7に示したように、実施例3-1,3-2の方が、実施例3-3に比べて、大幅に洗濯耐性が向上した。すなわち、混合溶液作製工程(ステップS101)から水洗・乾燥工程(ステップS104)を2回以上繰り返すことが好ましいことが分かった。
【0043】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素についても具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、また、他の構成要素を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
近年、日本において、高齢化が進み、健康状態監視や健康寿命を延ばすため、さりげないセンシングによって、心電(心電図のもとになる情報のこと。以下同様)や筋電などの生体情報を検出して、病気や怪我を予防し、また、病気を早期発見できるウェアラブル機器の開発が進められている。しかし、心電などを計測する際、従来はジェルや粘性のあるシールを貼って測定を行ったり、ベルトで強く押し付けたりする必要があり、長時間の装着は困難であった。また、使い捨てのシールなどを代用して利用されているが、装着時に違和感があり、肌が荒れるなどの問題がでることがある。
また、従来は、主にAg金属をコーティングしたものも一般的に利用されているが、生体への悪影響が懸念されている。さらに、湿気、汗で電極が酸化され、性能劣化を起こす問題もあった。すなわち、長時間使い続けても生体に悪影響を与えない電極であることが望まれている。
本願発明によれば、例えば、市販のアンダーウェアの表面に導電性高分子の単量体、酸化剤、及び、溶媒であるエタノールを含む混合溶液を塗布して化学反応によって重合させ、導電性の機能をアンダーウェアに持たせることができる。その電極は生体に強く押し付けることはなく測定でき、従来の製品より低コストでアンダーウェアを製作することができ、生体情報を検出できる。ウェアの価格が安くなればヘルスケアや介護用の支援ロボット、作業用の支援ロボット、フィットネス、作業服等に広く応用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…導電性高分子導電体、11…基材、12…導電性高分子、13…被覆膜、20…製造装置、21…塗布部、21A…第1タンク、21B…第2タンク、21C…第3タンク、21D…混合・塗布部、22…加熱部、22A…温風装置、23…移動手段、23A…ローラー