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特許7294671発光性粒子の製造方法、発光性粒子およびバイオイメージング材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】発光性粒子の製造方法、発光性粒子およびバイオイメージング材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20230613BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230613BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C09K11/06
G01N21/64 F
G01N33/58 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020500983
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2019006243
(87)【国際公開番号】W WO2019163808
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018028152
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018098573
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの 平成30年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】土`屋 陽一
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】池末 浩大
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199751(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0026642(KR,A)
【文献】特許第6323970(JP,B1)
【文献】特表2010-529460(JP,A)
【文献】特開2011-029460(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111196(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/06
G01N 21/64
G01N 33/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤と、水とを含むエマルジョン材料を、前記ホスト材料が融解する条件下で攪拌してエマルジョンを形成する工程と、前記エマルジョンを冷却する工程を含むことを特徴とする、最大径が100μm未満の発光性粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ホスト材料と前記有機発光材料と前記界面活性剤とを含む液状混合物を乾燥させた後、水を添加して攪拌することにより前記エマルジョン材料を得る工程をさらに含む、請求項1に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項3】
前記攪拌時に超音波を照射する、請求項2に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項4】
前記エマルジョンとして、水中油滴型のエマルジョンを形成する、請求項1~3のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項5】
前記冷却が1℃/分以上の速度で降温するステップを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項6】
前記冷却により、融解したホスト材料をガラス転移させる、請求項1~5のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ホスト材料が融解する条件下での攪拌を、超音波を照射しながら行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項8】
粒径によって粒子を選別する工程をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項9】
前記エマルジョンを冷却する工程の後、過剰な界面活性剤を除去する工程をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項10】
前記水が、不活性ガス置換を行った脱気水である、請求項1~9のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項11】
前記工程のすべてを不活性ガス下で行う、請求項1~10のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項12】
前記エマルジョン材料がアシストドーパントをさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の発光性粒子の製造方法。
【請求項13】
ガラス状のホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤とを含み、
前記有機発光材料が遅延蛍光材料である、最大径が100μm未満の発光性粒子。
【請求項14】
前記ホスト材料が、ベンゼン環またはビフェニル環がカルバゾリル基で置換された構造を有する化合物である、請求項13に記載の発光性粒子。
【請求項15】
ガラス状のホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤とを含み、
さらにアシストドーパントを含む、最大径が100μm未満の発光性粒子。
【請求項16】
前記アシストドーパントが遅延蛍光材料である、請求項15に記載の発光性粒子。
【請求項17】
前記界面活性剤がグリセロリン脂質の誘導体である、請求項13~16のいずれか1項に記載の発光性粒子。
【請求項18】
前記ホスト材料と前記界面活性剤のモル濃度での含有比(ホスト材料/界面活性剤)が20以上である、請求項13~17のいずれか1項に記載の発光性粒子。
【請求項19】
請求項13~18のいずれか1項に記載の発光性粒子からなるバイオイメージング材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光効率が高い有機系の発光性粒子の製造方法、発光性粒子、および、その発光性粒子を用いたバイオイメージング材料に関する。
【背景技術】
【0002】
発光性粒子は、血中に分散させて生体の各組織に送達させることや、in vivoもしくはin vitroで細胞内に導入することができることから、バイオイメージング材料等の生物医学用途への応用が期待されており、そうした用途に用いることを目指して様々なタイプの発光性粒子が研究開発されている。
例えば、量子ドットやランタノイド錯体を内包した微粒子をバイオイメージング材料として用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。量子ドットは、CdSe、InP、CuInSのような無機半導体結晶からなる発光性ナノ粒子であり、高い発光効率と高い光安定性を有することが知られている。しかし、量子ドットは、細胞内の活性酸素種によって分解され易く、長期間の細胞トレースには不向きであることに加え、その重金属イオンによる生体への悪影響や細胞毒性が問題になる。また、ランタノイド錯体は、Sm3+、Eu3+等のランタノイド金属イオンに有機配位子を配位させたものであり、やはり、その重金属イオンの生体への影響が懸念される。
一方、水溶性有機ナノ粒子をバイオイメージング材料に使用することも提案されている(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)。従来用いられている水溶性有機ナノ粒子は、会合誘起発光性を示す有機色素を、液体中で超音波印加により微粒子化し、界面活性剤にて微粒子を安定化させたものである。水溶性有機ナノ粒子は、量子ドットやランタノイド錯体で用いられるような重金属元素を含んでいないため、安全性が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-190976号公報
【文献】特開2006-199798号公報
【文献】中国特許公開CN105400507A号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Qian and B. Z. Tang, Chem(2017),3(1),56-91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、水溶性有機ナノ粒子のような有機系の発光性粒子は、重金属元素を含んでいないために安全性が高く、バイオイメージング材料として有望である。しかし、本発明者らが、従来の方法で作製した水溶性有機ナノ粒子の発光特性を評価したところ、発光効率が十分に高いとは言えず、特に、水中において非極性溶媒中に比べて発光効率が大幅に低下する傾向が認められた。これは、水のような極性溶媒中では、色素の電荷分離状態が溶媒和によって安定化され無輻射失活が促進されることで蛍光が消光するためであると考えられる。生体や細胞のような水系被検体に用いられるバイオイメージング材料にあっては、水中で十分な発光効率を示すことが必須となり、従来の水溶性有機ナノ粒子は、こうした点で十分に満足のいくものとは言えないのが実情である。
そこで本発明者らは、重金属元素を含まない発光性粒子であって、水中においても高い発光効率を発現し、光安定性が高い発光性粒子の製造方法、および、そのような発光性粒子を提供することを目的として鋭意検討を進めた。さらに、こうした発光性粒子を用いることで、安全性が高く、生体細胞や生体物質の分布や動態を明瞭に現すことができるバイオイメージング材料を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、有機半導体のホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤と、水とを含むエマルジョン材料を、ホスト材料が融解する条件下で攪拌してエマルジョンを形成した後、冷却することにより、発光効率および光安定性が高い有機系の発光性粒子が得られるとの知見を得るに至った。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0007】
[1] ホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤と、水とを含むエマルジョン材料を、前記ホスト材料が融解する条件下で攪拌してエマルジョンを形成する工程と、前記エマルジョンを冷却する工程を含むことを特徴とする、最大径が100μm未満の発光性粒子の製造方法。
[2] 前記ホスト材料と前記有機発光材料と前記界面活性剤とを含む液状混合物を乾燥させた後、水を添加して攪拌することにより前記エマルジョン材料を得る工程をさらに含む、[1]に記載の発光性粒子の製造方法。
[3] 前記攪拌時に超音波を照射する、[2]に記載の発光性粒子の製造方法。
[4] 前記エマルジョンとして、水中油滴型のエマルジョンを形成する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[5] 前記冷却が1℃/分以上の速度で降温するステップを含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[6] 前記冷却により、融解したホスト材料をガラス転移させる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[7] 前記ホスト材料が融解する条件下での攪拌を、超音波を照射しながら行う、[1]~[6]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[8] 粒径によって粒子を選別する工程をさらに含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[9] 前記エマルジョンを冷却する工程の後、過剰な界面活性剤を除去する工程をさらに含む、[1]~[8]いずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[10] 前記水が、不活性ガス置換を行った脱気水である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[11] 前記工程のすべてを不活性ガス下で行う、[1]~[10]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
[12] 前記エマルジョン材料がアシストドーパントをさらに含む、[1]~[11]のいずれか1つに記載の発光性粒子の製造方法。
【0008】
[13] [1]~[12]のいずれか1つに記載の製造方法により製造される発光性粒子。
[14] ガラス状のホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤とを含むことを特徴とする、最大径が100μm未満の発光性粒子。
[15] 前記有機発光材料が遅延蛍光材料である、[14]に記載の発光性粒子。
[16] 前記ホスト材料が、ベンゼン環またはビフェニル環がカルバゾリル基で置換された構造を有する化合物である、[14]または[15]に記載の発光性粒子。
[17] さらにアシストドーパントを含む、[14]~[16]のいずれか1つに記載の発光性粒子。
[18] 前記アシストドーパントが遅延蛍光材料である、[17]に記載の発光性粒子。
[19] 前記界面活性剤がグリセロリン脂質の誘導体である、[14]~[18]のいずれか1つに記載の発光性粒子。
[20] 前記ホスト材料と前記界面活性剤のモル濃度での含有比(ホスト材料/界面活性剤)が20以上である、[14]~[19]のいずれか1つに記載の発光性粒子。
[21] [13]~[20]のいずれか1つに記載の発光性粒子からなるバイオイメージング材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発光性粒子の製造方法によれば、重金属元素を含まない発光性粒子でありながら、水中においても高い発光効率を発現するとともに、光安定性が高い発光性粒子を製造することができる。本発明のバイオイメージング材料は、こうして製造された発光性粒子を含むことにより、安全性が高く、且つ、生体細胞や生体物質の分布や動態を明瞭に現すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例粒子1の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例粒子1がHEK293細胞へ取り込まれた様子を示す顕微鏡写真である。
図3】実施例3、4で作製した発光性粒子、比較粒子1、2の光安定性の評価結果を示すグラフである。
図4】実施例5で作製した発光性粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例6で作製した発光性粒子の発光スペクトルである。
図6】実施例6で作製した発光性粒子の過渡減衰曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0012】
<発光性粒子の製造方法>
本発明の発光性粒子の製造方法は、最大径が100μm未満の発光性粒子の製造方法であって、ホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤と、水とを含むエマルジョン材料を、ホスト材料が融解する条件下で攪拌してエマルジョンを形成する工程と、エマルジョンを冷却する工程を含むことを特徴とする。
本発明の製造方法で製造する発光性粒子は、最大径が100μm未満の発光性粒子である。本発明における発光性粒子の「最大径」とは、走査型電子顕微鏡観察により測定される発光性粒子の最大径のことをいう。ただし、走査型電子顕微鏡観察で発光性粒子の粒子径が測定できない場合には、動的光散乱で測定される体積頻度分布における最大モード径を、本発明における発光性粒子の「最大径」であることとする。ここで、本発明の製造方法では、発光性粒子が粒子集合体をなして製造される。そのうち最大径が100μm未満であるものは、製造された粒子集合体の一部であっても全部であってもよいが、粒子集合体の全部が、最大径100μm未満の発光性粒子であることが好ましい。発光性粒子の最大径は、好ましくは10μm未満、より好ましくは1μm未満、さらに好ましくは100nm未満、さらにより好ましくは50nm未満、特に好ましくは10nm未満である。
発光性粒子の形状は、特に限定されず、球状、回転楕円体、棒状、幾何学的な形状、不規則な形状等のいずれであってもよいが、球状や回転楕円体であることが好ましい。球状の発光性粒子では、その直径が最大径に相当し、その他の形状の発光性粒子では、その長軸方向の長さが最大径に相当する。
【0013】
本発明の発光性粒子の製造方法では、こうした発光性粒子を製造する際、発光材料として重金属元素を含まない有機発光材料を使用するため、得られる発光性粒子も重金属元素を含まないものとなる。そのため、量子ドットやランタノイド錯体で生じるような、重金属元素による生体への悪影響や細胞毒性の問題を回避することができる。
また、本発明では、ホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤と、水とを含むエマルジョン材料を、ホスト材料が融解する条件下で攪拌してエマルジョンを形成した後、このエマルジョンを冷却するため、その融解したホスト材料が冷却により固化する過程で、有機発光材料の発光分子がホスト材料からなるマトリックス内にドープされた状態になってホスト・ゲスト構造が形成されると考えられる。そのため、得られた発光性粒子では、ホスト材料のマトリックスによって、発光分子が外部環境の影響から遮断され、例えば水のような極性溶媒中においても、その発光分子の分子構造や空間位置が安定に保持される。また、発光材料の会合を防ぐこともできる。これにより、高い発光効率と高い光安定性が得られ、また、発光波長の長波長化も抑制することができる。
以下において、本発明の発光性粒子の製造方法の各工程について具体的に説明する。
【0014】
[1]エマルジョン形成工程
この工程では、ホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤と、水とを含むエマルジョン材料を、ホスト材料が融解する条件下で撹拌してエマルジョンを形成する。これにより、融解したホスト材料に有機発光材料が溶解して油状混合物が形成され、その油状混合物が液滴となって水中に分散する。その結果、ホスト材料と有機発光材料の油状混合物を液体粒子(分散質)とし、水を分散媒とする水中油滴(O/W)型のエマルジョンが形成される。ここで、界面活性剤はエマルジョンを安定化する乳化剤として機能する。
以下において、エマルジョン材料を構成する各材料について説明する。
【0015】
(ホスト材料)
本発明における「ホスト材料」とは、有機化合物からなり、上記のエマルジョンの液体粒子、および、本発明の製造方法で得られる発光性粒子を構成する材料であって、エマルジョン材料における配合量が、有機発光材料よりも大きいもののことをいう。ホスト材料のエマルジョン材料における配合量(重量)は、有機発光材料の配合量(重量)の5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、20倍以上であることがさらに好ましい。これにより、ホスト材料のマトリックスにより発光性粒子を外部環境の影響から確実に遮断することができる。
また、本発明で用いるホスト材料は、最低励起一重項エネルギー準位および最低励起三重項エネルギー準位の少なくとも一方が、有機発光材料よりも高い有機化合物であることが好ましく、最低励起一重項エネルギー準位および最低励起三重項エネルギー準位の両方が、有機発光材料よりも高い有機化合物であることがより好ましい。これにより、ホスト材料で生成した励起一重項エネルギーや励起三重項エネルギーを効率よく有機発光材料に移動させることができ、また、有機発光材料に生成した励起一重項エネルギーや励起三重項エネルギーを有機発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。
さらに、ホスト材料はガラス状態をとりうる有機化合物であることが好ましい。これにより、ホスト材料にて、有機発光材料を外部環境の影響から遮断しつつ、該ホスト材料における光の散乱を抑えて、有機発光材料からの放射光を外部へ効率よく取り出すことができる。
ホスト材料がガラス状態をとりうる有機化合物であることは、示差走査熱量分析により判定することができる。ここで、ホスト材料のガラス転移温度Tgは30~150℃であることが好ましく、40~100℃であることがより好ましく、50~80℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度Tgは示差走査熱量計により測定される温度のことをいう。
ホスト材料の融点は、ホスト材料が融解する条件下での撹拌を、実用的な温度で行う点から、大気圧下において40~200℃であることが好ましく、50~100℃であることがより好ましく、60~80℃であることがさらに好ましい。ここでの融点は、示差熱分析で測定される融点であることとする。ただし、示差熱分析で融点を測定できない場合には、示差走査熱量分析で測定される値を融点とし、さらに、これらの方法で融点を測定できない場合には、融点測定装置により測定される値を融点とする。
また、ホスト材料として、大気圧下において、水の沸点未満(すなわち、100℃未満)の融点を有する有機化合物を用いることも好ましい。これにより、大気圧下、さらには減圧下においても、水を沸騰させることなくホスト材料を融解させることができるため、ホスト材料が融解する条件下での攪拌を簡易な加熱装置を用いて行うことや、減圧として低温で行うことが可能となる。
【0016】
有機化合物の融点は、アルキル基等の置換基の導入により制御することができる。したがって、ホスト材料には、既知のホスト材料にアルキル基を導入したアルキル化誘導体を好ましく用いることができる。ここで、融点を制御するために導入するアルキル基は直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は、特に制限されないが、4以上であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、8~12であることがさらに好ましい。導入するアルキル基の数は特に制限されず、1本であっても、2本以上であってもよい。2本以上のアルキル基を導入する場合、複数のアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
以下に、ホスト材料として好ましい化合物を例示する。ただし、本発明において用いることができるホスト材料はこの化合物によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0018】
【化1】
【0019】
また、後に例示するホスト材料として用いることができる化合物例、その他の既知のホスト材料、それらのアルキル化誘導体も用いることが可能である。中でも芳香環がカルバゾリル基で置換された構造を有する化合物が好ましく、ベンゼン環またはビフェニル環がカルバゾリル基で置換された構造を有する化合物がより好ましい。
【0020】
(有機発光材料)
本発明における「重金属元素を含まない有機発光材料」とは、励起状態から基底状態へ失活する際に光を放射しうる有機化合物からなり、ホスト材料とともに、エマルジョンの液体粒子および本発明の製造方法で得られる発光性粒子を構成する材料であって、重金属元素を含まない材料のことをいう。ここでいう「重金属元素」は、単体であるときの比重が4以上である金属元素であって、単体を構成している重金属元素、無機化合物を構成している重金属元素、錯体化合物を構成している重金属元素、イオンになった重金属元素のすべてを包含する。また、「重金属元素を含まない」とは、重金属元素を実質的に含まないことを意味し、不可避的な重金属元素の混入を排除するものではない。具体的には、「重金属元素を含まない」とは、重金属元素の含有量が10ppm未満であることをいう。重金属元素の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析で測定し、ICP 発光分析で測定できない場合はICP質量分析により測定することができる。また、「重金属元素を含まない有機発光材料」は、無機元素を実質的に含まないものであってもよい。「重金属元素を含まない有機発光材料」として、例えば、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、ホウ素原子からなる群より選択される原子のみからなるものや、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子からなる群より選択される原子のみからなるものや、炭素原子、水素原子、窒素原子からなる群より選択される原子のみからなるものや、炭素原子、水素原子、窒素原子、ホウ素原子からなる群より選択される原子のみからなるものなどを用いることができる。なお、有機発光材料は励起状態から基底状態へ失活する際に光を放射しうる有機化合物からなる材料であり、バッファ溶液や界面活性剤等の他の材料と区別される。
【0021】
本発明で用いる有機発光材料の種類は、特に限定されず、蛍光材料、重金属錯体以外のりん光材料、遅延蛍光材料のいずれであってもよく、遅延蛍光材料を用いることもできる。
「遅延蛍光材料」とは、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じうる有機化合物からなる材料のことをいい、その励起一重項状態からの失活の際、蛍光を放射する。ここで放射される蛍光は、基底状態からの直接遷移により生じた励起一重項状態からの蛍光よりも通常遅れて観測されるため、遅延蛍光と称されている。こうした遅延蛍光材料を有機発光材料として用いると、励起一重項エネルギーのみならず、励起三重項エネルギーも励起一重項エネルギーに変換して蛍光発光に効率よく利用することができるため、高い発光効率を得ることができる。また、逆項間交差を経由した発光であるために、エネルギー印加から発光までの時間が長く、長寿命発光を実現することができる。また、中でも熱エネルギーの吸収により逆項間交差を生じる熱活性化型の遅延蛍光材料(thermally activated delayed fluorescence materials、TADF材料)であることが好ましい。遅延蛍光材料としては、例えば最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差ΔESTが0.3eV以下である化合物や0.2eV以下である化合物を採用することができ、特定の位置が1つ以上のアクセプター性基(A)と1つ以上のドナー性基(D)で置換された芳香環を有し、ΔESTが0.3eV以下、好ましくは0.2eV以下である化合物を用いることが好ましい。ここで、アクセプター性基(A)とは、ハメットのσ値が正である置換基のことをいい、ドナー性基(D)とは、ハメットのσ値が負である置換基のことをいう。「ハメットのσ値」に関する説明と各置換基の数値、ハメットのσ値が正である置換基および負である置換基の具体例については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)の記載を参照することができる。芳香環は炭化水素からなる芳香族炭化水素環であってもよいし、ヘテロ原子を含む芳香族ヘテロ環であってもよく、単環であっても縮合環であってもよい。ΔESTの測定方法および遅延蛍光材料の具体例については後述する。
【0022】
本発明の製造方法で得られる発光性粒子において、発光は有機発光材料から生じる。この発光は蛍光発光、りん光発光、遅延蛍光発光のいずれであってもよく、有機発光材料の分子とホスト材料の分子の会合により形成されたエキサイプレックスからの発光であってもよい。また、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
【0023】
(界面活性剤)
界面活性剤は、エマルジョン中において、ホスト材料と有機発光材料により形成された液体粒子と、分散媒である水との界面張力を下げるとともに、界面に保護膜をつくって水中の液体粒子を安定化するように機能する。
界面活性剤には、ホスト材料や有機発光材料と化学反応を起こさず、また、細胞毒性の問題がなく、生体に対して安全であるものを用いることができ、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、天然系の界面活性剤を好ましく用いることができる。
非イオン界面活性剤として、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル等のHLB6~18を有するものや、これらの誘導体等を挙げることができる。
陰イオン界面活性剤として、例えばアセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10~18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2~4でアルキル基の炭素原子数が10~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8~18のアルキルスルホコハク酸エステル塩や、これらの誘導体等を挙げることができる。
天然系の界面活性剤として、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;炭素原子数12~18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルや、これらの誘導体等を挙げることができる。
これらのうち、グリセロリン脂質の誘導体を用いることがより好ましく、グリセロリン脂質にエタノールアミンがリン酸エステル結合した化合物の誘導体であることがさらに好ましく、そのエタノールアミンにポリエチレングリコールが連結した構造を有するアミン末端PEG(polyethylene glycol)化リン脂質であることがさらにより好ましい。
アミン末端PEG化リン脂質の好ましい例として、下記一般式(A)で表される化合物を挙げることができる。
【化2】
【0024】
一般式(A)において、RおよびRは各々独立に置換もしくは無置換のアルキル基を表し、Rは置換基を表す。nは1~500の整数である。
およびRにおけるアルキル基は、直鎖状であっても分枝状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、1~30であることが好ましく、6~25であることがより好ましく、10~20であることがさらに好ましい。アルキル基は置換基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。RとRは互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
における置換基として、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基を挙げることができる。アルコキシ基は置換基で置換されていてもよいが、無置換であることが好ましい。また、アルコキシ基の炭素は、特に制限されないが、1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~5であることがさらに好ましい。アミノ基は、無置換であることも好ましく、カルボニル基を有する置換基で置換されていることも好ましい。アミノ基がカルボニル基を有する置換基で置換された構造の具体例として、アミノ基の窒素原子にカルボニル基が結合してアミド結合が形成されており、そのアミド結合にカルボニル基を有する複素環が連結した構造が挙げられる。
以下に、界面活性剤として好ましい化合物を例示する。ただし、本発明において用いることができる界面活性剤はこれらの化合物によって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、nは1~500の整数である。また、界面活性剤として使用する化合物は、単体であってもよいし、混合物であってもよい。
【0025】
【化3】
【0026】
エマルジョン材料におけるホスト材料と界面活性剤の濃度を制御することにより、得られる発光性粒子の粒径分布の平均や分散(ばらつき)を調整することができる。具体的には、得られる発光性粒子の粒径は、ホスト材料と界面活性剤の濃度およびそれぞれの種類に依存するため、所望の粒径分布が得られるよう、ホスト材料と界面活性剤の種類を適宜選択し、その種類に応じて濃度を適宜調整することが好ましい。
エマルジョン材料におけるホスト材料と界面活性剤のモル濃度での配合比を低めに設定することにより、発光性粒子の粒径を小さく制御することができる。また、ホスト材料と界面活性剤のモル濃度での配合比を低めに設定し、水分散液での最終濃度を低くなるように調整すれば、一段と粒径の小さな発光性粒子を得ることができる。
【0027】
(水)
水はエマルジョンの分散媒となるものである。
エマルジョンの水には、脱気水、アルゴン等の不活性ガスで溶存ガスを置換した水、比抵抗が17MΩ・cm以上の超純水等を用いることが好ましく、中でも、脱気水を用いることがより好ましく、不活性ガス置換を行った脱気水を用いることがさらに好ましい。脱気水を用いることにより、発光効率および光安定性が高い発光性粒子を得ることができる。脱気水の作製方法として、凍結脱気法、煮沸や減圧により水を脱気する方法、水に超音波を照射することで脱気する方法等を挙げることができ、凍結脱気法を用いることが好ましい。
脱気水における酸素濃度は、5ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることがより好ましく、0.1 ppm以下であることがさらに好ましい。
水の使用量は、ホスト材料と有機発光材料と界面活性剤の合計量に対して、1~500000倍であることが好ましく、1000~10000倍であることがより好ましく、2500~5000倍であることがさらに好ましい。
【0028】
(その他の材料)
本発明で形成するエマルジョンの液体粒子および本発明の製造方法で得られる発光性粒子は、ホスト材料、重金属元素を含まない有機発光材料、界面活性剤以外の材料を含んでいてもよい。その他の材料として、アシストドーパントを挙げることができる。アシストドーパントは、ホスト材料の最低励起一重項エネルギー準位と、有機発光材料の最低励起一重項エネルギー準位の間の最低励起一重項エネルギー準位を有する有機化合物からなり、有機発光材料の発光をアシストするように機能する。このため、アシストドーパントを用いた本発明の発光性粒子は、有機発光材料から主として発光し、アシストドーパントからの発光は発光性粒子からの全発光の10%未満であることが好ましく、1%未満であることがより好ましく、まったく観測されなくてもよい。アシストドーパントには、遅延蛍光材料を用いることが好ましい。これにより、遅延蛍光材料にて、励起三重項エネルギーを励起一重項エネルギーに変換して有機発光材料に供給することができるため、有機発光材料の蛍光発光を効果的にアシストすることができる。遅延蛍光材料の説明と好ましい範囲、具体例については、有機発光材料として用いる遅延蛍光材料についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。アシストドーパントとしては、例えば炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子からなる群より選択される原子のみからなるものや、炭素原子、水素原子、窒素原子からなる群より選択される原子のみからなるものなどを用いることができる。
【0029】
エマルジョンにアシストドーパントを添加する場合、その添加量は、ホスト材料と有機発光性材料の合計量に対して、5重量%超であることが好ましく、10重量%超であることがより好ましく、15重量%超であることがさらに好ましい。また、アシストドーパントの配合量は、ホスト材料と有機発光性材料の合計量に対して、50重量%未満であることが好ましく、30重量%未満であることがより好ましく、20重量%未満であることがさらに好ましい。
【0030】
また、その他の材料として、ホスト材料とエキシプレックスを形成して発光しうる第2のホスト材料を添加してもよい。これにより、得られる発光性粒子の発光効率や光安定性をより高くすることができる。第2のホスト材料には、上記のホスト材料と構造が異なる有機化合物であって、ホスト材料としての機能、すなわち発光分子を外部環境から遮断する機能を奏するものを用いることができる。第2のホスト材料として用いうる有機化合物の好ましい範囲と具体例については、(ホスト材料)の項の記載を参照することができる。
【0031】
(エマルジョンの形成条件)
本発明では、ホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤と、水とを含むエマルジョン材料を、ホスト材料が融解する条件下で撹拌してエマルジョンを形成する。ホスト材料、重金属元素を含まない有機発光材料および界面活性剤は、それぞれ、1種類のものを単独で用いてもよいし、2種類以上のものを組み合わせて用いてもよい。
エマルジョン材料を調製する手順は特に限定されないが、ホスト材料と有機発光材料と界面活性剤とを含む液状混合物を乾燥させた後、水を添加して撹拌することによりエマルジョン材料を調製することが好ましい。これにより、分散状態が良好なエマルジョンを得ることができる。ホスト材料と有機発光材料と界面活性剤とを含む液状混合物を調製する際には、混合溶媒を用いることが好ましい。例えば、アルコールと極性溶媒(溶解度パラメータ10未満)の混合溶媒を好ましく用いることができ、具体例としてメタノールとクロロホルムの混合溶媒を挙げることができる。アルコールと極性溶媒の混合容積比率は1:20~20:1が好ましく、1:9~9:1がより好ましい。
エマルジョン材料を水等で分散した状態で超音波を照射することにより、エマルジョン材料の粒径を制御することができる。照射する超音波は、1kHz~100kHzであることが好ましく、5kHz~80kHzであることがより好ましく、10kHz~60kHzであることがさらに好ましい。また、超音波を照射する時間は、1分~240分であることが好ましく、30分~180分であることがより好ましく、60分~120分であることがさらに好ましい。超音波照射時間を長くすれば、発光性粒子の粒径を小さくすることができる。また、例えばエマルジョン材料調製時の界面活性剤濃度を高くするなどして、他の手段により発光性粒子の粒径を小さくする制御を行う場合は、超音波照射時間が短くても(あるいは超音波照射を行わなくても)、小さな粒径を有する発光性粒子を得ることができる。
【0032】
ホスト材料が融解する条件下でのエマルジョン材料の撹拌は、具体的には、エマルジョン材料を加熱することでホスト材料を融解させ、この状態でエマルジョン材料を撹拌することである。エマルジョン材料の加熱には、マイクロ波加熱、ヒータによる加熱、誘導加熱等のいずれの方法でも用いることができる。ただし、ホスト材料の大気圧下での融点が水の沸点以上である場合には、水の沸騰を避けるため、エマルジョン材料を高圧下で加熱してホスト材料を融解させることが好ましい。高圧下で加熱する装置として、オートクレーブやマイクロウェーブ照射装置を用いることができる。ここで、高圧下でエマルジョン材料を加熱する際には、水が亜臨界状態さらには超臨界状態にならないように留意する必要がある。具体的には、水の臨界点は374℃、22.1MPaであるので、オートクレーブ内がこの臨界点付近になったり、臨界点超になったりしないよう、温度・圧力制御に留意する必要がある。
エマルジョン材料の加熱温度は、加熱時の圧力でのホスト材料の融点をmpとしたとき、mp+0~mp+50℃とすることが好ましく、mp+1~mp+20℃とすることが好ましく、mp+2~mp+10℃とすることがより好ましい。
ここで、ホスト材料の融点mpは、示差熱分析で測定される融点であることとする。ただし、示差熱分析で融点を測定できない場合には、示差走査熱量分析で測定される値を融点とし、さらに、これらの方法で融点が測定できない場合には、融点測定装置により測定される値を融点とする。
エマルジョン材料の加熱は、加熱する系内の粒子がすべて融解する程度で十分であり、それ以上の加熱を行うと製造される発光性粒子の粒径が増大する傾向がある。例えば、マイクロ波を照射して加熱する場合は、マイクロ波の照射時間を系内の粒子がすべて融解する程度にすれば十分であり、それ以上の時間にわたって照射し続けると、製造される発光性粒子の粒径が増大する。
【0033】
エマルジョン材料の撹拌は、振盪機、超音波照射装置、圧力式分散機、プロペラ撹拌機、磁石式撹拌機等を用いて行うことができるが、高い回収率が得られることから、振盪機を用いて撹拌を行うことが好ましい。ここで、振盪条件は特に制限されず、エマルジョン材料の性状に応じて適宜選択できるが、例えば攪拌速度を10~3000rpmとするのが好ましい。また、エマルジョン材料の撹拌は、超音波を照射しながら行うのが好ましい。これにより、より効率よくエマルジョンを形成することができる。
【0034】
[2]粒径制御工程
この工程では工程[1]で形成したエマルジョンの粒径を必要に応じて制御することで、最終的な発光性微粒子の粒径を制御することができる。この粒径制御工程を行ってもよいし、行わなくてもよいが、粒径制御工程を行う方が、より好ましい。具体的な方法としては、ホスト材料が固化する前の液体粒子の状態で、リポソーム製造装置やエクストルーダーなどを用いて孔径の小さなフィルターに通すか、先に述べたように超音波照射によってエマルジョンの粒径を小さくすることができる。用いるフィルターとしては、孔径200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。
この工程は、後述する粒子選別工程[4]における冷却前に行う粒子選別工程に対応し、その他の条件については、粒子選別工程[4]の項の記載を参照することができる。
【0035】
[3]冷却工程
この工程では、工程[1]を経て形成したエマルジョン、もしくは、工程[1]および必要に応じて行った工程[2]を経て形成したエマルジョンを冷却する。これにより、融解したホスト材料が固化して液体粒子が固体粒子に変換し、ホスト材料と有機発光材料を含む固体の発光性粒子が得られる。ここで、冷却によるホスト材料の固化は、液体からガラス状態へのガラス転移であることが好ましい。これにより、ホスト材料によって外部環境の影響が抑えられ、発光効率が高い発光性粒子を得ることができる。
【0036】
冷却は、ホスト材料が融解する条件を解除した後、エマルジョンを自然放置することで行ってもよいし、冷却装置を用いて降温条件を制御しながら行ってもよいが、品質が高い発光性粒子を効率よく製造できることから、冷却装置を用いて冷却することが好ましい。
ここで、冷却工程は、1℃/分以上の速度で降温する降温ステップを有することが好ましい。これにより、融解しているホスト材料をガラス転移させてガラス状態のホスト材料を得ることができる。降温ステップにおける降温速度は、該ステップの全体にわたって一定であってもよいし、経時的に変化させてもよい。また、降温ステップを採用する場合、エマルジョンの冷却工程は、工程全体にわたって1℃/分以上の速度で降温する工程であってもよいし、冷却工程の一部として、1℃/分以上の速度で降温する降温ステップを有していてもよい。降温ステップの降温速度は、1~50℃/分であることが好ましく、1~20℃/分であることがより好ましく、1~10℃/分であることがさらに好ましい。
【0037】
以上の工程で得られた発光性粒子は、分散媒として使用した水中に分散しており、その水中や発光性粒子の表面には界面活性剤が存在している。この界面活性剤は、発光性粒子の安定化に寄与するが、その量が過剰である場合には、発光性粒子の分散液から除去することが好ましい。界面活性剤の除去方法としては、遠心分離、限外濾過、透析、ゲルカラムクロマトグラフィーなどの手法を用いることができる。
【0038】
以上の工程で得られた発光性粒子は、分散媒として使用した水中に分散しているが、長期保存や使用目的に応じたサンプル調整を目的として、凍結乾燥を行い、乾燥粉末として得ることができる。凍結乾燥後の発光性粒子は界面活性剤によって安定化されているため、バッファ溶液などの任意の水媒体へ再分散可能であり、凍結乾燥前と同等の水分散性を有する。
【0039】
[4]粒子選別工程
この工程では、粒径によって発光性粒子を選別する。この粒子選別工程は、必要に応じて行われる工程であり、一定の粒径範囲の発光性粒子のみを選別する工程であってもよいし、粒径範囲毎に発光性粒子を分別する工程であってもよい。
粒子選別工程は、冷却工程の完了後に行ってもよいし、上記の粒径制御工程[2]のように、冷却工程の前に行ってもよいし、冷却工程の途中で行ってもよい。また、冷却工程の前や途中と、冷却工程の完了後の両方で粒子選別工程を行ってもよい。
例えば、冷却工程の前や途中で、目の粗いフィルターにエマルジョンを通して粒径が大きいものを先に除去しておき、該フィルターを通過した濾液を冷却することによって粒径がそろった粒子を得ることができる。冷却工程の前や途中で行う粒子の選別は、リポソーム製造装置やエクストルーダー等に搭載されたフィルターを利用して行うことができ、冷却工程の完了後に行う粒子の選別は、遠心分離、限外濾過等の手法を用いて行うことができる。
粒子選別工程で選別する発光性粒子の粒径は、その発光性粒子の用途によっても異なるが、例えば発光性粒子をバイオイメージング材料に用いる場合には、平均粒径で10~500nmであることが好ましく、10~350nmであることがより好ましく、10~200nmであることがさらに好ましく、10~100nmであることがさらにより好ましく、10~30nmであることが特に好ましい。
ここで、発光性粒子の「平均粒径」とは、簡便には動的光散乱法によりクムラント解析によって求められる流体力学的半径を指す。体積頻度分布解析によって求められる平均粒径を用いてもよい。ただし、動的光散乱法により平均粒径を測定できない場合には、走査型電子顕微鏡写真を用いた画像イメージング法による体積頻度分布解析によって求められる平均粒径を発光性粒子の「平均粒径」とする。
【0040】
[発光性粒子の製造雰囲気]
以上の発光性粒子の製造工程は、大気よりも酸素濃度が低い低酸素雰囲気で行うことが好ましく、特に、冷却工程以前の工程は、有機発光材料がホスト材料のマトリックスで保護されていないことから、低酸素雰囲気で行うことが好ましい。これにより、発光効率および光安定性が高い発光性粒子を得ることができる。さらに、上記のような脱気水を用いてエマルジョンを調製し、少なくとも冷却工程以前の全工程を低酸素雰囲気で行うといった、徹底した低酸素条件で製造を行うと、得られる発光性粒子の光安定性を一層向上させることができる。低酸素雰囲気としては、大気をアルゴンや窒素等の不活性ガスで置換した空間、これらの不活性ガスが流れる不活性ガス気流下等が挙げられる。
発光性粒子の製造に用いる低酸素雰囲気の酸素濃度は、5ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
<発光性粒子>
次に、本発明の発光性粒子について説明する。
本発明の発光性粒子は、本発明の発光性粒子の製造方法により製造されることを特徴とする。
本発明の発光性粒子の製造方法の説明については、<発光性粒子の製造方法>の項の記載を参照することができる。
また、本発明の発光性粒子は、ガラス状のホスト材料と、重金属元素を含まない有機発光材料と、界面活性剤とを含むことを特徴とする、最大径が100μm未満の発光性粒子である。
ホスト材料、重金属元素を含まない有機発光材料、界面活性剤、必要に応じて添加されるその他の材料、発光性粒子の最大径についての説明と好ましい範囲、具体例については、<発光性粒子の製造方法>の項における、対応する記載を参照することができる。
本発明における「ガラス状のホスト材料」とは、少なくとも一部がガラス状をなしているホスト材料のことをいい、発光性粒子を構成するホスト材料の全てがガラス状であってもよいし、発光性粒子を構成するホスト材料の一部がガラス状であってもよい。なかでも、発光性粒子を構成するホスト材料に結晶や微結晶が含まれていないものであることが好ましい。ホスト材料がガラス状であることは、示差走査熱量分析法により判定することができる。ホスト材料がガラス状であることにより、ホスト材料にて、有機発光材料を外部環境の影響から遮断しつつ、該ホスト材料における光の散乱を抑えて、有機発光材料からの放射光を外部へ効率よく取り出すことができる。これにより、本発明の発光性粒子は高い発光効率と高い光安定性を有する。
また、本発明の発光性粒子では、発光材料として重金属元素を含まない有機発光材料を使用するため、量子ドットやランタノイド錯体、重金属錯体を含むりん光材料を使用する発光性粒子で生じるような、重金属元素による生体への悪影響や細胞毒性の問題を回避することができる。
本発明の発光性粒子において、ホスト材料と界面活性剤のモル濃度での含有比(ホスト材料/界面活性剤)は20以上であることが好ましい。これにより、発光性粒子はより高い光安定性を有する。
ホスト材料/界面活性剤のモル濃度での含有比は、元素分析により測定することができる。
【0042】
[最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差ΔEST
本発明の発光性粒子の製造方法および本発明の発光性粒子で用いる遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差ΔESTは、最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)を以下の方法で算出し、ΔEST=ES1-ET1により求められる。
(1)最低励起一重項エネルギー準位(ES1
測定対象化合物とポリメチルメタクリレートを含む溶液を調製し、この溶液を、Si基板上にスピンコートすることで、測定対象化合物の濃度が0.5重量%である厚さ100nmの試料を作製する。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定し、励起光入射直後から入射後100ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の蛍光スペクトルを得る。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を、検出器にストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いることができる。
(2)最低励起三重項エネルギー準位(ET1
最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と同じ試料を5[K]に冷却し、励起光(337nm)を燐光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、燐光強度を測定する。励起光入射後1ミリ秒から入射後10ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の燐光スペクトルを得る。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0043】
[遅延蛍材料およびホスト材料の化合物例]
以下に、本発明の発光性粒子の製造方法および本発明の発光性粒子に用いることができる好ましい遅延蛍光材料およびホスト材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。
【0044】
本発明において、有機発光材料やアシストドーパントとして用いることができる遅延蛍光材料の種類や構造は、特に制限されない。例えば、ドナー性基(典型的にはハメットのσp値が負の基)とアクセプター性基(典型的にはハメットのσp値が正の基)がリンカー(典型的には芳香族基などの共役系連結基)に結合した構造をもつ遅延蛍光材料を採用することができる。特に、ドナー性基としてジアリールアミノ基(2つのアリール基はヘテロアリール基であってもよく、2つのアリール基は互いに結合してカルバゾリル基等の構造となっていてもよい)を有する化合物、アクセプター性基としてシアノ基かヘテロアリール環を含む基を有する化合物を好ましく採用することができるが、本発明において用いることができる遅延蛍光材料はこれらの化合物に限定されるものではない。
例えば、以下の構造を有する遅延蛍光材料を本発明において好ましく用いることができ、中でもジシアノベンゼンが1つ以上の9-カルバゾリル基で置換された構造を有する化合物であることが好ましく、実施例で使用している4CzIPNであることが最も好ましい。
【0045】
【化4-1】
【化4-2】
【0046】
好ましい遅延蛍光材料として、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落0007~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076に記載される一般式に包含される化合物、特に例示化合物であって、遅延蛍光を放射するものを挙げることができる。また、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射するものも好ましく採用することができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0047】
次に、発光性粒子のホスト材料として用いることができる好ましい化合物を挙げる。ホスト材料には、以下の例示化合物のアルキル化誘導体も好ましく用いることができる。
【0048】
【化5】
【0049】
【化6】
【0050】
【化7】
【0051】
【化8】
【0052】
【化9】
【0053】
<バイオイメージング材料>
次に、本発明のバイオイメージング材料について説明する。
本発明のバイオイメージング材料は、本発明の発光性粒子からなることを特徴とする。
本発明の発光性粒子の説明については、上記の<発光性粒子>および<発光性粒子の製造方法>の項の記載を参照することができる。
上記のように、本発明の発光性粒子は、重金属元素による生体への影響や細胞毒性の問題がなく、また、高い発光効率と高い光安定性を有する。そのため、本発明のバイオイメージング材料は、in vitroの他、in vivoにおいても安全に用いることができ、これにより、生体細胞や生体物質の分布や動態を明瞭に画像化することができる。
例えば、本発明のバイオイメージング材料を、癌細胞や神経細胞、幹細胞等の生体細胞に導入して励起光を照射すると、細胞内に導入された発光性粒子が発光する。この発光を指標にして細胞の分布や動態を画像化し、解析することが可能である。また、本発明のバイオイメージング材料を酵素や抗体、レクチン等のタンパク質、DNA等の生体物質に結合させて生体や生体細胞に導入し、あるいは、その標識した生体物質を生体細胞に作用させて励起光を照射すると、生体物質に結合している発光性粒子が発光する。この発光を指標にして、生体物質の分布や局在、動態を画像化し、解析することが可能である。さらに、本発明のバイオイメージング材料はアビジン・ビオチンシステムの標識マーカーとしても用いることできる。これにより、免疫組織化学染色、組織の多重染色等、アビジン・ビオチンシステムの応用分野でも利用することができる。
【実施例
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、光学分光器(浜松ホトニクス(株)製:PMA-12)、粒子の形状観察は走査型電子顕微鏡(FEI製Inspect S)を用いて行った。発光性粒子の平均粒径および多分散指数の測定は、動的光散乱測定装置(大塚電子社製DLS-8000DL)を用いてクムラント法を用いて解析を行った。
【0055】
(実施例1) mCP(ホスト材料)、4CzIPN(有機発光材料)、およびDSPE-PEG2K(界面活性剤)を用いた発光性粒子の製造
ホスト材料であるmCP(融点:178℃)と、有機発光材料である4CzIPNと、界面活性剤であるDSPE-PEG2K(distearoylphophatidyl ethanolamineーpolyethylene glycol 2000)をバイアルに入れて液状混合物を調製した。ここで、各材料の配合量は、調製するエマルジョンにおける終濃度で、mCPが0.52mM、4CzIPNが0.019mM(mCPと4CzIPNの合計量に対して6重量%)、DSPE-PEG2Kが0.053mMとした。この液状混合物をバイアルの壁面に膜を形成させるように乾燥させ、さらに一晩乾燥させた。この混合物に、20mLの水を加え、振盪しながらインキュベートを10分間行うことで壁面の膜を剥がし、分散水溶液を調製した。このエマルジョン材料をマイクロ波照射により20bar以下の高圧下で180℃に加熱しながら、600rpmで10分間攪拌することでエマルジョンを形成した後、冷却して懸濁液を得た。この懸濁液を目視で観察したところ、散乱光が認められ、液中に粒状体が形成されているのを確認することができた。この懸濁液に1500rpmで30分間の遠心分離を行って上清を回収し、その上清に、さらに1500rpmで30分間の遠心分離を行うことで、粗大粒子を沈殿物として除去した。続いて、回収した上清に6000rpmで30分間の遠心分離を行って上清を除去し、さらに、水を加えて、6000rpmで30分間の遠心分離を行うことで、微細粒子である沈殿物を洗浄し、発光性粒子(実施例粒子1)とした。ここで、以上の工程は大気下で行い、エマルジョン材料の分散水溶液の調製および微細粒子の洗浄には、超純水装置(ミリポア社製)で作製した超純水(ミリQ水)を使用した。得られた実施例粒子1の走査型電子顕微鏡写真(SEM像:7500倍)を図1に示す。実施例粒子1の粒径を動的光散乱法によって測定したところ、平均粒径が517nm、多分散指数が0.213であった。
また、mCPの代わりにmCBP(融点:267℃)を用い、上記と同じ工程を行ったところ、同様に発光性粒子を得ることができたが、水への分散性が非常に悪いものであった。この粒子は微結晶状の構造が観察され、エマルションを経た粒子形成が水への分散性の高い、球状粒子を得るうえで重要であることがわかった。
【0056】
(実施例2) 4CzIPNの含有量を変えて行った発光性粒子の製造
液状混合物における4CzIPNの配合量を、mCPと4CzIPNの合計量に対して2重量%としたこと以外は、実施例1と同様にして発光性粒子(実施例粒子2)を作製した。製造した発光性粒子の中には最大径が1000nm未満の粒子が含まれていた。
【0057】
(実施例3) mCP/DSPE-PEG2Kを変えて行った発光性粒子の製造
エマルジョンにおけるmCPとDSPE-PEG2Kのモル濃度での配合比(mCP/DSPE-PEG2K)を1.0、10、20、または100に変えたこと以外は、実施例1と同様にして発光性粒子を作製した。実施例3で製造した発光性粒子の中には、配合比が1.0のもので最大径が1000nm未満の粒子が含まれており、今回の作成した配合比において大きな違いは認められなかった。
【0058】
(実施例4) 低酸素条件での発光性粒子の製造
エマルジョン材料の分散水溶液を、凍結脱気により作製した脱気水を使用して調製し、エマルジョンを冷却して粒状体を得るまでの全工程を窒素雰囲気下で行うこと以外は、実施例1と同様の工程で発光性粒子(実施例粒子4)を作製した。ただし、エマルジョンにおけるmCPとDSPE-PEG2Kのモル濃度での配合比(mCP/DSPE-PEG2K)は10とした。また、凍結脱気による脱気水の作製は、(1)容器に入れた水を液体窒素で凍結させた後、(2)容器内を減圧状態にし、(3)室温に戻して水を融解させるという、(1)~(3)の工程を5回繰り返した後、容器内をアルゴンで置換することにより行った。
実施例4で製造した発光性粒子の中には最大径が1000nm未満の粒子が含まれていた。また、その発光性粒子のPL量子収率は94%であり、非常に高い値であった。
【0059】
(実施例5) 超音波照射による粒径制御
実施例4において、エマルジョン材料の分散水溶液を調製した後、その分散水溶液に超音波(20kHz、強度100W)を60分間照射してから、高圧下で加熱処理を行った点だけを変更し、その他は実施例4と同様にして発光性粒子を製造した。
実施例5で製造した発光性粒子の中には、最大径が200nm未満の粒子が多く認められ、最大径が100nm未満の粒子も認められた(図4参照)。実施例1や実施例4で製造した発光性粒子に比べて最大径が小さい発光性粒子の割合が高く、超音波照射によって粒径を制御できることが確認された。
【0060】
(実施例6) 界面活性剤の濃度調整による粒径制御
実施例5において、ホスト材料であるmCPと、有機発光材料である4CzIPNと、界面活性剤であるDSPE-PEG2Kをバイアルに入れて液状混合物を調製する際に、溶媒としてメタノールとクロロホルムの混合溶媒(容積比1:9)を使用した。また、使用するホスト材料と界面活性剤のモル比を種々変更して実施した。その他は実施例5と同じ手順にて発光性粒子を製造した。
その結果、水分散させる前の混合膜作成時に混合溶媒を用いることにより、水分散後のレイリー散乱が抑えられ、発光性粒子の粒径の減少と分散性が良好になることが確認された。また、実施例5に比べてホスト材料の濃度を1/10にし、ホスト材料と界面活性剤のモル比を1:5にすることにより、最大径が100nm未満の発光性粒子を多く製造することができた。このことから、ホスト材料と界面活性剤のモル比を制御することにより、発光性粒子の粒径を制御できることがわかった。また、発光性粒子の粒径は、混合溶媒に溶解したときの系全体の濃度によって制御できることもわかった。
さらに、液状混合物における界面活性剤の濃度と、エマルジョン材料の分散水溶液を調製した後に超音波を照射する時間を種々変更して製造することにより、製造される発光性粒子の粒径がどのように変わるかを調べた。その結果、界面活性剤の濃度を高くしたときには、超音波を照射する時間を短縮しても、粒径が小さい発光性粒子が得られることがわかった。
【0061】
(比較例1) 4CzIPN(有機発光材料)とDSPE-PEG2K(界面活性剤)を用いた発光性粒子の製造
有機発光材料である4CzIPN(1.3μmol)と、界面活性剤であるDSPE-PEG2K(0.71μmol)とを溶解したテトラヒドロフラン溶液(1mL)をバイアルに入れ、窒素雰囲気下で4時間撹拌した。この溶液に、テトラヒドロフラン:水=4:1の混合溶媒(2mL)を加えて超音波処理を3分間行った後、超音波処理を行いながら、水(7mL)を加えてさらに超音波処理を行った。この溶液からテトラヒドロフランを揮発させて除去した後、孔径0.22μmのフィルターでろ過し、その残渣を凍結乾燥させて乾燥粒子を得た。この乾燥粒子に水を加えて超音波処理を2分間行い、微細粒子(比較粒子1)の水分散液を得た。
【0062】
(比較例2)
水溶性量子ドットであるQD450(発光波長450nm,Aldrich製CdSe/ZnS core-shell type quantum dots PEG functionalized)を用意し、比較粒子2とした。
【0063】
[発光特性の評価]
実施例粒子1、2および比較例粒子1をそれぞれ水に分散させて調製した各水分散液(0.05μg/L)および4CzIPNのトルエン溶液(1.0×10-5mol/L)について、340nm励起光による発光極大波長、PL量子収率(フォトルミネッセンス量子収率)および発光寿命τ、τを測定した。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示したように、mCPを含まない比較粒子1の水分散液は、4CzIPNのトルエン溶液に比べて発光波長が大きく長波長化しており、PL量子収率が大幅に低下していた。これは、4CzIPNがアモルファス状に会合していること、水と接触していることにより、その極性の影響を受けたためと考えられた。一方、mCPを含む実施例粒子1、2の水分散液では、発光波長の大幅な長波長化が防止されており、高いPL量子収率を得ることができた。このことから、ホスト材料と有機発光材料で発光性粒子を構成することにより、分子会合および水の極性の影響が抑えられ、発光性粒子の発光特性が大きく向上することがわかった。また、脱気水を用いて作成した実施例粒子4の水分散液ではPL量子収率が94%と発光性粒子の発光特性が非常に高いことがわかった。これは、粒子内にトラップされる酸素の影響が非常に大きいことを示している。
【0066】
[細胞試験]
実施例粒子1をHEK293細胞(ヒト繊維芽細胞由来癌細胞)へ導入し、その取り込みと細胞毒性を評価した。
まず、HEK293細胞を培地に播種し、37℃の5%CO存在下で、サブコンフルエント(細胞密度が飽和密度の4/5程度になった状態)になるまで培養した。この培地に、実施例粒子1を添加し、37℃の5%CO存在下で、一昼夜インキュベートを行った。インキュベート後の細胞を2分割し、一方の細胞を16倍に希釈して顕微鏡で観察し、他方の細胞を継代して37℃の5%CO存在下で、サブコンフルエントになるまで培養し、第1継代細胞を得た。その後、培養した細胞を2分割して一方の細胞を顕微鏡で観察し、他方の細胞を継代してサブコンフルエントになるまで培養(37℃の5%CO存在下)する操作を3回繰り返すことで第2継代細胞~第4継代細胞を順に培養した。ここで、第1継代から第4継代までの期間は7日間であった。
実施例粒子1を添加して1昼夜インキュベートした後のHEK293細胞の顕微鏡写真を図2(a)~(c)に示し、実施例粒子1を添加して7日間(4継代)培養した後のHEK293細胞の顕微鏡写真を図2(d)~(f)に示す。図2において、(a)、(d)は励起光を照射する前のHEK203細胞の明視野像であり、(b)、(e)はHEK293細胞に400nmの励起光を照射して撮影した蛍光像であり、(c)は(a)の視野において励起光を照射しながら撮像した明視野-蛍光像であり、(f)は(d)の視野において励起光を照射しながら撮像した明視野-蛍光像である。
図2(b)、(c)、(e)、(f)における発光は実施例粒子1に由来するものであり、図2(c)、(f)における細胞の存在領域と発光領域が重なっていることから、実施例粒子1がHEK293細胞中によく取り込まれていることがわかる。また、第1~3継代細胞の顕微鏡観察においても細胞の存在領域と発光領域が重なった画像を見ることができた。このことから、HEK293細胞に取り込まれた実施例粒子1は、4継代7日間にわたり細胞中に安定に存在し、細胞毒性を示さず、トレーサビリティーに優れていることが確認された。
一方、比較粒子1について、HEK293細胞への導入試験を行ったところ、2時間で大半のHEK293細胞がシャーレ壁面から剥離してしまい、細胞毒性が高いことが示された。
また、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来細胞)に対する細胞試験では、実施例粒子1および比較粒子1の両方で細胞への取り込みが認められたが、実施例粒子1の方が比較粒子1よりも取り込みが大きく、発光も強い傾向が認められた。
【0067】
[光安定性の評価]
実施例3、4で作製した各発光性粒子、比較粒子1およびQD450(比較粒子2)に300~400nmにスペクトル分布を有する光を5mW/cmで2時間照射し、その間の発光強度の経時変化を調べた。その結果を図3に示す。ここで、検出光波長は、実施例3、4および比較例1で製造した発光性粒子については515nmとし、QD450については450nmとした。図3中、F/Fは、その経過時点における発光強度Fの初期発光強度Fに対する比を表す。また、グラフの右側に示した数値は、実施例3で製造した各発光性粒子の、mCPとDSPE-PEG2Kのモル濃度での配合比(mCP/DSPE-PEG2K)である。
図3から示されるように、実施例3、4で製造したmCPを含む発光性粒子は、mCPを含まない比較粒子1に比べて高い光安定性を有していた。また、図3を見ると、発光性粒子の光安定性は、mCP/DSPE-PEG2Kの比に依存して高くなることがわかる。この傾向から、ホスト材料/界面活性剤比は1以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましいことが示された。さらに、脱気水を使用して窒素雰囲気で製造した実施例4の発光性粒子(実施例粒子4)は、超純水を使用して大気下で製造した実施例3の発光性粒子に比べて光安定性が高く、その光安定性はQD450をも上回るものであった。このことから、発光性粒子の製造は、脱気水や低酸素雰囲気を用いて行うことが好ましいことがわかった。
【0068】
(実施例6) mCP(ホスト材料)、4CzBN(アシストドーパント)、DABNA2(有機発光材料)、およびDSPE-PEG2K(界面活性剤)を用いた発光性粒子の製造
ホスト材料であるmCP(融点:178℃)と、アシストドーパントである4CzBNと、有機発光材料であるDABNA2と、界面活性剤であるDSPE-PEG2K(distearoylphophatidyl ethanolamineーpolyethylene glycol 2000)を用いて実施例1と同じ方法にしたがって、発光性粒子を作製した。4CzBNはmCPの15重量%となる量で用い、DABNA2はmCPの1重量%となる量で用いた。
得られた発光性粒子には、最大径が1000nm未満の粒子が含まれていた。得られた発光性粒子を水に分散させて調製した水分散液(0.05μg/L)について、340nm励起光による発光スペクトルを測定した結果を図5に示し、過渡減衰曲線を図6に示す。図5より、極大波長は467nmでDABNA2からの発光が認められた一方で、4CzBNからの発光は認められなかった。半値幅(FWHM)は29nmで極めて狭く、また、図6から遅延蛍光の放射も確認された。PL量子収率(フォトルミネッセンス量子収率)は45%であった。このことから、アシストドーパントである4CzBNから発光材料であるDABNA2へ効率よくエネルギー移動がなされていることが確認された。
【0069】
【化10】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の発光性粒子の製造方法によれば、重金属元素を含まない発光性粒子でありながら、水中においても高い発光効率を発現するとともに、光安定性が高い発光性粒子を製造することができる。また、発光材料として遅延蛍光材料を用いることにより発光性粒子に長寿命の発光性を付与することができる。こうして製造された発光性粒子を用いることにより、安全性が高く、且つ、生体細胞や生体物質の分布や動態を明瞭に画像化できるバイオイメージング材料が実現する。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6