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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】計測機器用の超音波振動子
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
H04R17/00 330K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021526772
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2021005621
(87)【国際公開番号】W WO2022176002
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】流田 賢治
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特許第6828944(JP,B1)
【文献】特開2019-114958(JP,A)
【文献】特開平08-065792(JP,A)
【文献】国際公開第2012/011256(WO,A1)
【文献】特開平03-112540(JP,A)
【文献】特開昭60-112397(JP,A)
【文献】特開2020-141250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
G01S 7/521
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、
略円形状の外形を有し、音響整合層を兼ねる基材と、略円形状の外形を有し、前記基材に対して接合された前面及びその反対側にある背面を有する圧電素子とを備え、
前記圧電素子には、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部が前記基材に及ばない深さで形成されるとともに、前記溝部を介して16個以上の略扇状の振動部が配設され
前記振動部の高さは前記振動部の外周方向における最大幅の0.8倍以上であり、かつ前記振動部の半径方向長さは前記振動部の高さよりも大きく、
前記複数の溝部同士の交点が、前記圧電素子の外径の1%以上10%以下の長さだけ前記圧電素子の中心から偏心しており、
前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で前記振動部の半径方向に振動する
ことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【請求項2】
前記圧電素子は、前記中央部に貫通孔を有する略円環状をなしており、前記貫通孔の内壁面は、複数の前記振動部における前記中央部側の端面を構成していることを特徴とする請求項1に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項3】
記振動部は、
第1の径方向長さを有する1つ以上の第1の振動部と、
前記第1の径方向長さよりも短い第2の径方向長さを有する1つ以上の第2の振動部と、
前記第1の径方向長さよりも長い第3の径方向長さを有する1つ以上の第3の振動部と
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項4】
前記圧電素子は略楕円状の外形を有していることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の計測機器用の超音波振動子。
【請求項5】
前記圧電素子の外径は、前記圧電素子の厚さの2倍以上であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の計測機器用の超音波振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】

従来、超音波の送受信によって魚群などの被探知物を検知するソナーが知られている。ソナーは、超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動や回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を超音波振動子に行わせる機構とを備えた計測機器である。そして、超音波振動子を運動させながら超音波の送受信を行うことにより、水中が探知できるようになっている。そして、水中を探知した探知結果は、探知画像として画面に表示される。なお、超音波振動子は、一般的に、音響整合層と、同音響整合層に接合された圧電素子とを備えている。
【0003】

ところで、ソナー用の超音波振動子は、円板状の圧電素子を用いており、超音波の周波数帯域が狭い。近年、同様のソナーを搭載した船舶が増加しているため、他の船舶との混信が生じやすくなってきている。混信を避けるためには、付近の船舶が使用している駆動周波数を外して超音波を送受信すればよいが、周波数帯域が狭い場合には、変更できる周波数の選択肢が少なくなってしまう。このため、超音波の周波数帯域が広い超音波振動子を用いることが求められている。
【0004】

なお、超音波を広帯域にする手法としては、図20図21に示されるように、超音波振動子191を構成する圧電素子192に、同一方向に延びる複数の溝部193を形成し、溝部193を介して複数の振動部194を配設することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようにすれば、各振動部194のそれぞれが圧電素子192の厚さ方向に変形しやすくなるため、圧電素子192が各部位において変形しやすくなる。その結果、圧電素子192が振動しやすくなるため、電気機械結合係数が高くなり、周波数帯域も広くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】

【文献】特開2016-213666号公報(段落[0023]、図1図3図4A等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】

ところが、特許文献1は、圧電素子192を主として厚さ方向に振動しやすくする技術であるため、超音波の送受信に適した周波数帯域が十分に得られているとは言い難い。ゆえに、超音波の周波数帯域をより広くすることが求められている。
【0007】

本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、超音波の送受信に適した周波数帯域を広げることが可能な計測機器用の超音波振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を送受信する計測機器用の超音波振動子であって、略円形状の外形を有し、音響整合層を兼ねる基材と、略円形状の外形を有し、前記基材に対して接合された前面及びその反対側にある背面を有する圧電素子とを備え、前記圧電素子には、中央部にて互いに連通しかつ放射状に延びる複数の溝部が前記基材に及ばない深さで形成されるとともに、前記溝部を介して16個以上の略扇状の振動部が配設され、前記振動部の高さは前記振動部の外周方向における最大幅の0.8倍以上であり、かつ前記振動部の半径方向長さは前記振動部の高さよりも大きく、前記複数の溝部同士の交点が、前記圧電素子の外径の1%以上10%以下の長さだけ前記圧電素子の中心から偏心しており、前記圧電素子は、第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、前記第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で前記振動部の半径方向に振動することを特徴とする計測機器用の超音波振動子をその要旨とする。
【0009】

従って、請求項1に記載の発明によれば、圧電素子に溝部を形成することにより複数の振動部を得ているため、各振動部のそれぞれが高さ方向に変形しやすくなる。その結果、圧電素子が厚さ方向に振動しやすくなるため、電気機械結合係数が高くなり、厚さ方向振動の周波数帯である第1の周波数帯の送受感度が高くなり、第1の周波数帯の範囲も広くなる。しかも、圧電素子に放射状の溝部を形成することにより略扇状の振動部を得ているため、半径方向振動の共振周波数で駆動したときに、振動部における中央部側の端部、即ち、略円形状の超音波振動子の中央部で振幅が大きくなる。その結果、振動部の半径方向振動の周波数帯である第2の周波数帯の送受感度が高くなる。以上のことから、厚さ方向振動及び半径方向振動の双方において、高感度な送受信を行うことができる。
【0010】

なお、「略円形状の外形を有する基材」とは、円形状の外形を有する基材だけでなく、楕円形状の外形を有する基材や、長円形状の外形を有する基材なども含むものとする。同様に、「略円形状の外形を有する圧電素子」も、円形状の外形を有する圧電素子だけでなく、楕円形状の外形を有する圧電素子や、長円形状の外形を有する圧電素子なども含むものとする。
【0011】

請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記圧電素子は、前記中央部に貫通孔を有する略円環状をなしており、前記貫通孔の内壁面は、複数の前記振動部における前記中央部側の端面を構成していることをその要旨とする。
【0012】

従って、請求項2に記載の発明によると、圧電素子が中央部に貫通孔を有する略円環状をなすことにより、振動部における中央部側の端部が面で構成されて尖らないようになるため、振動部の欠けを防ぐことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記振動部は、第1の径方向長さを有する1つ以上の第1の振動部と、前記第1の径方向長さよりも短い第2の径方向長さを有する1つ以上の第2の振動部と、前記第1の径方向長さよりも長い第3の径方向長さを有する1つ以上の第3の振動部とを含むことをその要旨とする。
【0014】

従って、請求項3に記載の発明では、複数の振動部が、径方向長さが異なる3種類の振動部を含んでいる。この場合、各振動部に半径方向振動が生じるものの、個々の共振周波数が異なり、当該半径方向振動が生じる周波数帯が上下に少しずつずれるため、個々の周波数帯同士が合成されることで周波数帯(第2の周波数帯)の幅が広くなる。よって、超音波の周波数帯域がよりいっそう広くなる。
【0015】
上記発明では、前記複数の溝部同士の交点が、前記圧電素子の中心から偏心していることをその要旨とする。
【0016】
従って径方向長さが異なる複数種類の振動部を得ることができる。この場合、各振動部に半径方向振動が生じるものの、個々の共振周波数が異なり、当該半径方向振動が生じる周波数帯が少しずつずれるため、個々の周波数帯同士が合成されることで周波数帯(第2の周波数帯)の幅が広くなる。よって、超音波の周波数帯域がよりいっそう広くなる。また、溝部同士の交点を偏心させることにより、外形が円形状であっても、径方向長さが異なる複数種類の振動部を得ることができる。
【0017】
上記発明では、前記交点は、前記圧電素子の外径の1%以上10%以下の長さだけ前記圧電素子の中心から偏心していることをその要旨とする。
【0018】
従って径方向長さが異なる複数種類の振動部を得ることができる。この場合、各振動部に半径方向振動が生じるものの、個々の共振周波数が異なり、当該半径方向振動が生じる周波数帯が少しずつずれるため、個々の周波数帯同士が合成されることで周波数帯(第2の周波数帯)の幅が広くなる。よって、超音波の周波数帯域がよりいっそう広くなる。
【0019】
請求項に記載の発明は、請求項1乃至のいずれか1項において、前記圧電素子は略楕円状の外形を有していることをその要旨とする。
【0020】
従って、請求項に記載の発明によると、圧電素子が略楕円形状の外形を有することにより、複数の振動部が、径方向長さが異なる複数種類の振動部を含むようになる。この場合、各振動部に半径方向振動が生じるものの、個々の共振周波数が異なり、当該半径方向振動が生じる周波数帯が少しずつずれるため、個々の周波数帯同士が合成されることで周波数帯(第2の周波数帯)の幅が広くなる。よって、超音波の周波数帯域がよりいっそう広くなる。また、複数の溝部同士の交点を圧電素子の中心から偏心させなくても、径方向長さが異なる複数種類の振動部を得ることができる。
【0021】
請求項に記載の発明は、請求項1乃至のいずれか1項において、前記圧電素子の外径は、前記圧電素子の厚さの2倍以上であることをその要旨とする。
【0022】
従って、請求項に記載の発明によると、圧電素子の外径が圧電素子の厚さの2倍以上であるため、圧電素子の中央部から外周側に向けて延びる振動部が半径方向に振動しやすい細長形状となる。その結果、電気機械結合係数が確実に高くなるため、半径方向振動の周波数帯である第2の周波数帯の範囲を確実に広くすることができる。
【0023】
上記発明では、前記圧電素子には、前記溝部を介して16個以上の前記振動部が配設されていることをその要旨とする。
【0024】
従って1個当りの振動部の幅が小さくなるため、各振動部のそれぞれが高さ方向に振動しやすい形状となる。つまり、圧電素子が厚さ方向に振動しやすい形状となるため、電気機械結合係数を高くすることができ、厚さ方向振動の周波数帯である第1の周波数帯の感度を高め、帯域を広くすることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳述したように、請求項1~に記載の発明によると、超音波の送受信に適した周波数帯域を広げることが可能な計測機器用の超音波振動子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】

図1】第1実施形態のソナーを示す概略断面図。
図2】ソナーを示す概略断面図。
図3】ケースに収容した状態の超音波振動子を示す概略断面図。
図4】超音波振動子を示す平面図。
図5】超音波振動子を示す側面図。
図6】振動部を示す断面図。
図7】振動部を示す斜視図。
図8】第2実施形態における超音波振動子を示す平面図。
図9】第2実施形態の振動部を示す斜視図。
図10】サンプルAにおいて、周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフ。
図11】サンプルBにおいて、周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフ。
図12】(a)は、実施例1の超音波振動子を概念的に示す斜視図、(b)は、実施例2の超音波振動子を概念的に示す斜視図、(c)は、比較例における超音波振動子を概念的に示す斜視図。
図13】(a)は、実施例1において、周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフ、(b)は、実施例2において、周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフ、(c)は、比較例において、周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフ。
図14】サンプル1~4において、周波数と送受感度との関係を示すグラフ。
図15】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
図16】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
図17】(a),(b)は、他の実施形態における超音波振動子を示す概略平面図。
図18】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
図19】基材側から見たときの超音波振動子を示す斜視図。
図20】従来技術における圧電素子を示す要部平面図。
図21】従来技術における振動部を示す断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】

[第1実施形態]

以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0028】

図1図2に示されるように、本実施形態のソナー11は、船舶(図示略)の船底部に搭載されて使用される。ソナー11は、水中に超音波を照射することにより、水中に存在する魚群などの被探知物を探知する計測機器である。
【0029】

また、ソナー11はソナードーム20を備えている。ソナードーム20は、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)などの樹脂材料を用いて形成されており、上ケース21、下ケース22及び蓋体23によって構成されている。上ケース21は、下端にて開口する有底円筒状のケースであり、下ケース22は、上端にて開口する有底円筒状のケースである。なお、下ケース22の下端部はドーム状(半球状)をなしている。また、蓋体23は、円板状をなし、上ケース21の下端側開口及び下ケース22の上端側開口を閉塞するためのものである。なお、蓋体23と上ケース21とによって上側収容空間24が形成されるとともに、蓋体23と下ケース22とによって下側収容空間25が形成される。
【0030】

また、ソナードーム20には、超音波を送受信するソナー11用の超音波振動子41と、超音波振動子41を収納するケース40と、超音波振動子41を移動させる駆動機構30とが収容されている。駆動機構30は、スキャンモータ31及びチルトモータ32等を備えている。スキャンモータ31は、上側収容空間24内において蓋体23の中央部に設置されている。本実施形態のスキャンモータ31としては、ステッピングモータが用いられている。そして、スキャンモータ31の回転軸31aは、鉛直方向に沿って延びており、蓋体23の中央部に設けられた貫通孔33を挿通して下側収容空間25内に突出している。さらに、回転軸31aの先端は、円板状をなす支持板34の中央部に接続され、支持板34の下面には支持フレーム35が取り付けられている。支持フレーム35は、一対の腕部35aを有するコ字状をなしている。
【0031】

図1図2に示されるように、ケース40は、ABS樹脂などの樹脂材料を用いて一端が開口する有底円筒状に形成されている。また、ケース40には、回転軸31aに直交する傾動軸36が設けられている。傾動軸36は、2つの傾動軸部36aに分断されており、両傾動軸部36aは、ケース40の両端部(図2では左側部及び右側部)から互いに反対方向に突出している。そして、両傾動軸部36aは、ベアリング(図示略)を介して支持フレーム35の両腕部35aに設けられた貫通孔にそれぞれ嵌め込まれている。よって、スキャンモータ31の回転軸31aが回転すると、支持板34、支持フレーム35、ケース40及び超音波振動子41は、回転軸31aを中心とした旋回運動を行う。これに伴い、超音波振動子41から出力される超音波の照射方向は、回転軸31aの周方向に沿って変化する。
【0032】

図1図2に示されるように、チルトモータ32は、支持フレーム35の上端部に取り付けられている。本実施形態のチルトモータ32としては、ステッピングモータが用いられている。チルトモータ32の出力軸32aは、一対の傾動軸部36aと平行に配置されており、その先端部にはピニオンギヤ32bが取り付けられている。ピニオンギヤ32bは、ケース40に取り付けられた略半円状のチルト歯車37に噛合している。よって、チルトモータ32の出力軸32aが回転すると、ピニオンギヤ32b及びチルト歯車37が回動するのに伴い、ケース40及び超音波振動子41は、傾動軸36(傾動軸部36a)を中心とした傾動運動を行う。これに伴い、超音波振動子41から出力される超音波の照射角度も、超音波振動子41の傾動に伴って変化する。
【0033】

図3図5に示されるように、超音波振動子41は、基材42及び圧電素子43を備えている。基材42は、略円形状の外形を有し、音響整合層を兼ねる樹脂製板状物である。そして、基材42の外周部には4つの張出部44が設けられ、各張出部44にはそれぞれネジ孔45が設けられている。各ネジ孔45は、圧電素子43(超音波振動子41)の中心O1を基準として等角度間隔で配置されている。また、各ネジ孔45には、基材42の裏面42b側の開口部に座繰り加工が施されている。よって、ネジ孔45にネジ(図示略)を挿通したとしても、ネジの頭部は基材42の裏面42bから突出しないため、ネジと超音波振動子41を収容するソナードーム20との干渉を避けることができる。
【0034】

そして、各ネジ孔45にネジを挿通し、挿通したネジの先端部をケース40に螺着させる。その結果、超音波振動子41がケース40に固定される。なお、超音波振動子41をケース40に固定した際には、ケース40と基材42との間に隙間が生じるようになる。そして、この隙間が、ケース40内外を連通する連通口48となる。
【0035】

また、圧電素子43は、真円状の外形を有し、例えば、圧電セラミックスであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて形成されたセラミックス製板状物である。図3図5に示されるように、圧電素子43の外径D1は基材42の外径よりも小さいため、基材42の面積は圧電素子43の面積よりも大きくなる。また、圧電素子43は、基材42に対して接合された前面51と、前面51の反対側にある背面52と、前面51及び背面52に直交する外周面53とを有している。さらに、図3図6に示されるように、圧電素子43の前面51には前面側電極54が形成され、圧電素子43の背面52には背面側電極55が形成されている。なお、本実施形態では、圧電素子43の前面51の全体が、前面側電極54及び接着層56(図6参照)を介して基材42に接合されている。また、圧電素子43は、前面側電極54及び背面側電極55の間に電圧を印加することにより、厚さ方向に分極されている。
【0036】

図4図7に示されるように、圧電素子43には、24本の溝部K1が形成されるとともに、溝部K1を介して24個の振動部90が配設されている。各溝部K1は、圧電素子43の中央部57にて互いに連通しかつ放射状に延びている。そして、各溝部K1は、圧電素子43の中心O1を基準として等角度間隔で配置されている。つまり、各溝部K1同士の交点は中心O1と一致している。また、各溝部K1の幅は、互いに等しくなっている。さらに、各溝部K1内には、樹脂材料(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等)や接着剤(エポキシ系接着剤等)などからなる充填材が何ら充填されていないため、各溝部K1は全体的に空隙K0となっている。
【0037】

図4に示されるように、各振動部90は、背面視で略扇状をなしている。具体的に言うと、図7に示されるように、振動部90の表面91(背面52)は、3つの辺92,93,94によって構成されており、辺92が背面視で円弧状をなし、辺93,94が背面視で直線状をなしている。なお、各振動部90の外側面95は、圧電素子43の外周面53を構成している。
【0038】

図4図7に示されるように、各振動部90は、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がっている。また、略扇状の振動部90の半径方向長さL0は振動部90の高さH1よりも大きくなっている。なお、振動部90の高さH1は、溝部K1の深さと等しくなっている。さらに、上述した基材42の厚さは、振動部90の高さH1よりも小さくなっている。また、圧電素子43において振動部90同士が繋がる部分の厚さH2は、基材42の厚さよりも小さくなっている。さらに、本実施形態では、圧電素子43の外径D1が、圧電素子43の厚さH3の2倍以上となっている。また、溝部K1の深さは、圧電素子43の厚さH3よりも小さく、かつ、振動部90の外周方向における最大幅の0.8倍以上となっている。
【0039】

図6に示されるように、各振動部90の表面91上には、それぞれ背面側電極55が形成されている。そして、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして、略円形状の導電性部材である金属箔60(例えば、銅箔、黄銅箔、アルミニウム箔など)が貼付されている。また、金属箔60は、はんだ等の導電金属や、従来周知の導電性フィラーを含む接着剤などにより、各背面側電極55に貼付されている。なお、金属箔60の貼付により、金属箔60は、各振動部90の表面91の共通電極となる。
【0040】

そして、図3に示されるように、前面側電極54には第1のリード線62が接続され、背面側電極55には第2のリード線63が接続されている。第1のリード線62は、前面側電極54から外側に延出された側面端子(図示略)に対してはんだ付けなどにより接続されている。第2のリード線63は、複数の背面側電極55のいずれか1つに対してはんだ付けなどにより接続されている。そして、第1のリード線62及び第2のリード線63は、配線チューブ64によって結束され、ケース40の上部に設けられた配線挿通孔49を通ってケース40外に引き出される。なお、第1のリード線62は側面端子に接続されているが、前面側電極54及び基材42の表面42aに銅箔等の金属箔(図示略)を貼付し、金属箔に対して第1のリード線62をはんだ付けなどにより接続してもよい。
【0041】

また、圧電素子43の背面52側には、シート状の防音材65(バッキング材)が貼付されている。防音材65は、残響を抑えるためのものであり、ケース40の内周面にも貼付されている。なお、防音材65としては、樹脂材料やゴムに対して、金属やセラミックスからなる粒子または繊維を含有させたものや、樹脂材料に対して空孔を分散的に設けたもの(スポンジなど)を用いることができる。
【0042】

そして、図1図2に示されるソナードーム20内には、超音波を伝搬させる超音波伝搬液体(図示略)が充填されている。また、超音波伝搬液体の一部は、ケース40に設けられた連通口48を介してケース40内に流入し、圧電素子43において隣接する振動部90間の空隙K0(溝部K1)に流入し、空隙K0を満たしている。なお、本実施形態の超音波伝搬液体は流動パラフィンである。また、上述した基材42の固有音響インピーダンスは、圧電素子43の固有音響インピーダンスよりも小さく、かつ超音波伝搬液体の固有音響インピーダンスや水の固有音響インピーダンスよりも大きくなっている。
【0043】

次に、ソナー11を用いて被探知物を探知する方法を説明する。
【0044】

まず、ソナー11の電源(図示略)をオンする。次に、制御装置(図示略)は、超音波振動子41に対して発振信号を出力させる制御を行い、超音波振動子41を駆動させる。このとき、圧電素子43の各振動部90は、収縮と伸長とを繰り返す。なお、振動部90が高さ方向に収縮した際には、振動部90が幅方向、具体的には、振動部90の外周側(図7の矢印f1参照)に、収縮した体積分だけ太くなるように変形する。そして、振動部90が高さ方向に伸長すると、振動部90が幅方向、具体的には、振動部90の中央部側(図7の矢印f2参照)に変形する。その結果、圧電素子43が振動し、超音波振動子41から水中に対して超音波が照射(送信)される。
【0045】

そして、超音波が魚群などの被探知物(図示略)に到達すると、超音波は、被探知物で反射して反射波となり、ソナー11に向かって伝搬して超音波振動子41に入力(受信)される。その後、超音波振動子41が受信した超音波(反射波)は、受信信号に変換されて制御装置に入力される。この時点で、被探知物が探知される。
【0046】

さらに、制御装置は、スキャンモータ31を駆動させる制御を行い、回転軸31aを中心とした旋回運動を超音波振動子41に行わせる。また、制御装置は、チルトモータ32を駆動させる制御を行い、傾動軸36を中心とした傾動運動を超音波振動子41に行わせる。その結果、超音波の照射方向が徐々に変化し、これに伴って探知範囲も徐々に変化する。その後、作業者が電源をオフすると、超音波の照射及び反射波の受信が終了する。
【0047】

次に、超音波振動子41の製造方法を説明する。
【0048】

まず、基材42を準備する。具体的には、ガラスエポキシ(FR-4)からなる樹脂製板状物を円形状に切削加工する。また、圧電素子43となるべきセラミックス製板状物を準備する。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる円板状のセラミックス製焼結体を作製した後、表面研磨を行うことにより、セラミックス製板状物を得る。次に、セラミックス製板状物の前面51に前面側電極54を形成するとともに、セラミックス製板状物の背面52に背面側電極55を形成する。具体的には、セラミックス製板状物の前面51及び背面52にそれぞれ銀ペーストを塗布し、塗布した銀ペーストを焼成することにより、電極54,55を形成する。そして、前面側電極54及び背面側電極55の間に電圧を印加することにより、セラミックス製板状物を厚さ方向に分極させる分極処理を行う。
【0049】

次に、基材42の片面に対して、セラミックス製板状物を前面側電極54を介して接合する。具体的には、前面側電極54の表面及び基材42の表面42aのいずれか一方に対して、接着層56となる接着剤(エポキシ系接着剤など)を塗布し、基材42に対してセラミックス製板状物を接着固定する。なお、接着剤を塗布する代わりに、はんだ等を用いてロウ付けを行ってもよい。
【0050】

その後、切削加工等を行うことにより、セラミックス製板状物における背面52側に24本の溝部K1を形成する。その結果、セラミックス製板状物が24個の振動部90に分割されるとともに、セラミックス製板状物の背面52に形成された背面側電極55も24枚(振動部90と同数)に分割される。この時点で、圧電素子43が完成する。なお、各振動部90は、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がった状態で分割されるため、前面51に形成された前面側電極54までが分割されることはない。その後、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして金属箔60を貼付し、各背面側電極55を、各振動部90の表面91の共通電極とする。そして、この時点で、超音波振動子41が完成する。
【0051】

従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0052】

(1)本実施形態の超音波振動子41では、圧電素子43に溝部K1を形成することにより複数の振動部90を得ているため、各振動部90のそれぞれが高さ方向に変形しやすくなる。その結果、圧電素子43が厚さ方向F1(図7参照)に振動しやすくなるため、電気機械結合係数が高くなり、厚さ方向振動の周波数帯である第1の周波数帯の送受感度が高くなり、第1の周波数帯の範囲も広くなる。しかも、圧電素子43に放射状の溝部K1を形成することにより略扇状の振動部90を得ているため、半径方向振動の共振周波数で駆動したときに、振動部90における中央部57側の端部、即ち、略円形状の超音波振動子41の中央部で振幅が大きくなる。その結果、振動部90の半径方向振動の周波数帯である第2の周波数帯の送受感度が高くなる。以上のことから、厚さ方向振動及び半径方向振動の双方において、高感度な送受信を行うことができる。
【0053】

(2)本実施形態の圧電素子43は、第1の周波数帯で厚さ方向F1に振動するだけでなく、第1の周波数帯とは異なる周波数帯、具体的には、第1の周波数帯よりも低い第2の周波数帯で半径方向F2(図7参照)にも振動する。そこで、厚さ方向F1に振動する第1の周波数帯(例えば200kHz付近)と、半径方向F2に振動する第2の周波数帯(例えば50kHz付近)とに切り替えて超音波振動子41を駆動すれば、それぞれの周波数帯で超音波を送受信することが可能となる。また、ソナー11に1つの超音波振動子41を設けるだけで、2つの周波数帯において超音波の送受信が可能となるため、ソナー11の軽量化、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0054】

なお、第2の周波数帯で超音波振動子41を駆動(低周波駆動)する場合には、高周波に比べて減衰しにくく深い探知が可能であって、広指向角となるという特長がある反面、受信信号(反射波)の分解能は低下する。一方、第1の周波数帯で超音波振動子41を駆動(高周波駆動)すれば、減衰が大きく探知深度は浅くなるが、高分解能で狭い指向角の探知が可能となる。このように、1つの超音波振動子41で周波数を切り替えて駆動できることから、状況に応じた探知が選択できるようになる。
【0055】

(3)本実施形態では、音響整合層を兼ねる基材42の面積が圧電素子43の面積よりも大きくなっているため、超音波を、基材42を介して確実に送受信させることができる。また、基材42を、ケース40の支持体としても用いることができる。
【0056】

(4)本実施形態では、圧電素子43を構成する各振動部90が、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がっているため、前面51に形成された前面側電極54が分割されることはない。この場合、前面側電極54(側面端子)に第1のリード線62を接続すれば、前面側電極54全体との導通を確実に図ることができるため、ソナー11を容易に作製することができる。また、各振動部90が圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がることにより、圧電素子43の前面51全体が基材42の表面42aに接触する。このため、両者の接触面積が確保され、圧電素子43と基材42との接合強度が向上する。その結果、超音波振動子41の信頼性が高くなる。
【0057】

[第2実施形態]

以下、本発明を具体化した第2実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、前記第1実施形態と相違する部分を中心に説明する。本実施形態では、超音波振動子の構造が第1実施形態とは異なっている。
【0058】

詳述すると、図8に示されるように、本実施形態の超音波振動子41では、複数の溝部K1の中心線(図示略)同士の交点C1が、圧電素子43の中心O1から偏心している。具体的に言うと、交点C1は、圧電素子43の外径D1の1%以上10%以下の長さだけ中心O1から偏心している。このため、各溝部K1は、交点C1を中心として等角度間隔で配置されている。
【0059】

また、図9に示されるように、各振動部90は、半径方向長さが異なる12種類の振動部90をそれぞれ2つずつ有している。そして、本実施形態では、各振動部90のうち、半径方向長さL0が最小及び最大となるものを除いた任意の2つを選択し、これらを第1の振動部101と定義している(図9では、例えば短い方から7番目のもの)。なお、各第1の振動部101は、第1の径方向長さL1を有している。さらに、本実施形態では、各振動部90の中から、第1の径方向長さL1よりも短い第2の径方向長さL2を有する任意の2つを選択し、これらを第2の振動部102と定義している(図9では、例えば短い方から1番目(最小値)のもの)。また、本実施形態では、各振動部90の中から、第1の径方向長さL1よりも長い第3の径方向長さL3を有する任意の2つを選択し、これらを第3の振動部103と定義している(図9では、例えば短い方から12番目(最大値)のもの)。なお、各振動部101~103の径方向長さL1~L3は、振動部101~103の高さよりも大きくなっている。
【0060】

従って、本実施形態では、各溝部K1同士の交点C1が圧電素子43の中心O1から偏心しているため、各振動部90が、半径方向長さL0が異なる12種類の振動部となる。この場合、各振動部90に半径方向振動が生じるものの、個々の共振周波数が異なり、当該半径方向振動が生じる周波数帯が少しずつずれるため、個々の周波数帯同士が合成されることで周波数帯(第2の周波数帯)の幅が広くなる。よって、超音波の周波数帯域がよりいっそう広くなる。
【0061】

[超音波振動子の評価]

以下、超音波振動子の評価方法及びその結果を説明する。
【0062】

まず、真円状の外形を有する圧電素子の一部である扇状の振動部を準備した。具体的には、中心角は等しいものの、半径及び厚さが異なる2つの振動部を作製し、これらをサンプルA,Bとした。
【0063】

次に、サンプルA,Bに対して、振動部のインピーダンスを測定した。具体的には、各測定用サンプルにおいて、インピーダンスアナライザを用いて30kHz~300kHzの間で周波数をスイープし、インピーダンスを測定した。
【0064】

その結果、サンプルAでは、振動部の半径方向振動の共振領域(谷になっている領域)が70kHz付近にあり、振動部の厚さ方向振動の共振領域が200kHz付近にあることが確認された(図10参照)。一方、サンプルAよりも半径及び厚さが大きいサンプルBでは、振動部の半径方向振動の共振領域が50kHz付近にあり、振動部の厚さ方向振動の共振領域が160kHz付近にあることが確認された(図11参照)。従って、サンプルA,Bのいずれにおいても、これらの振動部は、厚さ方向に振動する際の周波数よりも低い周波数で半径方向に振動することが確認された。また、半径方向振動での変位量は、両端部(中心部及び外周部)に行くに従って大きくなり、厚さ方向振動での変位量は、中間部の表面側及び裏面側に行くに従って大きくなることが確認された。さらに、サンプルAよりも振動部の半径が大きいサンプルBでは、半径方向振動の周波数のピーク(共振領域)がサンプルAよりも低いことが確認された。また、サンプルAよりも振動部の厚さが厚いサンプルBでは、厚さ方向振動の周波数のピーク(共振領域)がサンプルBよりも低いことも確認された。なお、サンプルA,Bは、いずれも同様の波形を有することが確認された。
【0065】

次に、圧電素子と基材とからなる超音波振動子を準備した。詳述すると、真円状の外形を有する圧電素子122に対して放射状に延びる溝部123を形成することにより、扇状の振動部124が形成された超音波振動子121(即ち、第1実施形態の超音波振動子41と同様の超音波振動子)を作製し、これを実施例1とした(図12(a)参照)。具体的には、外径50mm、厚さ7.2mmの圧電素子122を、外径54mm、厚さ3.6mmの基材125(ガラスエポキシ板)に接着し、24本の溝部123を15°のピッチで等角度間隔に形成した。
【0066】

また、真円状の外形を有する圧電素子132に対して放射状に延びる溝部133を形成し、かつ溝部133同士の交点を圧電素子132の中心から偏心させることにより、扇状の振動部134が形成された超音波振動子131(即ち、第2実施形態の超音波振動子41と同様の超音波振動子)を作製し、これを実施例2とした(図12(b)参照)。具体的には、外径50mm、厚さ7.2mmの圧電素子132を、外径54mm、厚さ3mmの基材135(ガラスエポキシ板)に接着し、24本の溝部133を15°のピッチで等角度間隔に形成した。また、溝部133同士の交点を、5mm(即ち、圧電素子132の外径の10%)だけ圧電素子132の中心から偏心させた。
【0067】

一方、真円状の外形を有する圧電素子142に対して一方向に延びる溝部143を複数形成することにより、複数の帯状の振動部144が形成された超音波振動子141を作製し、これを比較例とした(図12(c)参照)。具体的には、外径50mm、厚さ7.2mmの圧電素子142を、外径54mm、厚さ3.6mmの基材145に接着し、12本の溝部143を等間隔かつ平行に形成した。
【0068】

次に、実施例1,2及び比較例に対して、超音波振動子121,131,141のインピーダンスを測定した。具体的には、各測定用サンプルにおいて、インピーダンスアナライザを用いて30kHz~300kHzの間で周波数をスイープし、インピーダンスを測定した。
【0069】

その結果、実施例1では、超音波振動子121の半径方向振動の共振領域が80kHz付近にあり、超音波振動子121の厚さ方向振動の共振領域が170kHz付近にあることが確認された(図13(a)参照)。また、実施例2では、超音波振動子131の半径方向振動の共振領域が70kHz付近にあり、超音波振動子131の厚さ方向振動の共振領域が170kHz付近にあることが確認された(図13(b)参照)。一方、比較例では、超音波振動子141の半径方向振動の共振領域が30kHz付近にあり、超音波振動子141の厚さ方向振動の共振領域が180kHz付近にあることが確認された(図13(c)参照)。
【0070】

以上のことから、実施例1,2及び比較例の超音波振動子121,131,141は、いずれも厚さ方向振動の周波数よりも低い周波数で半径方向に振動することが確認された。また、厚さ方向振動では、実施例1,2及び比較例2の全てにおいて、周波数及びインピーダンスが同等であることが確認された。一方、半径方向振動では、比較例の周波数が実施例1,2の周波数よりも低く、かつ比較例のインピーダンスが実施例1,2のインピーダンスよりも高いことが確認された。従って、圧電素子142に対して一方向に延びる溝部143を形成した超音波振動子141(比較例)は、厚さ方向振動の周波数が超音波の送受信に適しているものの、半径方向振動の周波数は、超音波の送受信には適さないことが確認された。
【0071】

次に、以下の測定用サンプルを試作した。真円状の外形を有する圧電素子に対して放射状に延びる溝部を形成することにより、扇状の振動部が形成された超音波振動子(即ち、第1実施形態の超音波振動子41と同様の超音波振動子)を試作し、これをサンプル1(図14参照)とした。そして、サンプル1の超音波振動子に対して、各振動部の表面上にある電極の各々を架け渡すようにして略円形状の金属箔をはんだ付けし、これをケースに収容した。
【0072】

また、真円状の外形を有する圧電素子に対して放射状に延びる溝部を形成し、かつ溝部同士の交点を圧電素子の中心から3mm(ここでは、圧電素子の外径の6%)だけ偏心させることにより、扇状の振動部が形成された超音波振動子(即ち、第2実施形態の超音波振動子41と同様の超音波振動子)を試作し、これをサンプル2(図14参照)とした。そして、サンプル2の超音波振動子に対して、各振動部の表面上にある電極の各々を架け渡すようにして略円形状の金属箔をはんだ付けし、これをケースに収容した。
【0073】

さらに、真円状の外形を有する圧電素子に対して一方向に延びる溝部を複数形成することにより、複数の帯状の振動部が形成された超音波振動子を試作し、これをサンプル3(図14参照)とした。具体的には、まず、圧電素子を基材に接着し、複数の溝部を等間隔かつ平行に形成した。そして、各振動部の表面上にある電極の各々を架け渡すようにして、帯状の金属箔をはんだ付けし、これをケースに収容した。
【0074】

また、真円状の外形を有する圧電素子に溝部が形成されていない超音波振動子を試作し、これをサンプル4(図14参照)とした。具体的には、まず、圧電素子を基材に接着した。そして、圧電素子の背面上にある電極に対して配線を施し、これをケースに収容した。
【0075】

次に、各測定用サンプル(サンプル1~4)に対して、超音波振動子の送受感度を算出した。具体的には、超音波振動子の放射面を水中に浸漬し、放射面から170mm離れた位置にあるSUS板に対して超音波を垂直に照射した。そして、SUS板で反射した超音波(反射波)は、超音波振動子で受信され、超音波振動子の両端に電圧信号を生じる。このとき、超音波振動子の送信時及び受信時の電圧振幅をオシロスコープにより測定し、送信電圧波形及び受信電圧波形の双方の周波数成分解析と演算とを行うことにより、送受感度を算出した。なお、送受感度は、送信電圧の振幅Vsに対する受信電圧の振幅Vrの比であり、20×log(Vr/Vs) の式から算出されるものである。また、図14のグラフは、サンプル1~4における周波数と送受感度との関係を示している。
【0076】

その結果、真円状の外形を有する圧電素子に対して放射状に延びる溝部を形成したサンプル1では、圧電素子が、210kHzで送受感度がピークとなる第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、第1の周波数帯よりも低く、80kHzで送受感度がピークとなる第2の周波数帯で振動部の半径方向に振動することが確認された。そして、送受感度が例えば-33dB以上となる範囲は、第1の周波数帯で135kHz~325kHz付近となり、第2の周波数帯で80kHz~90kHz付近となることが確認された。以上のことから、サンプル1は、第1の周波数帯及び第2の周波数の両方が、超音波の送受信に適していることが確認された。また、溝部を放射状に形成すると、200kHz付近で広帯域となる一方、80kHz付近では狭帯域となる超音波振動子となることが確認された。
【0077】

また、真円状の外形を有する圧電素子に対して放射状に延びる溝部を形成し、かつ溝部同士の交点を圧電素子の中心から偏心させたサンプル2では、圧電素子が、220kHzで送受感度がピークとなる第1の周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、90kHzで送受感度がピークとなる第2の周波数帯で振動部の半径方向に振動することが確認された。そして、送受感度が例えば-33dB以上となる範囲は、第1の周波数帯で140kHz~325kHz付近となり、第2の周波数帯で80kHz~90kHz付近となることが確認された。以上のことから、サンプル2は、サンプル1と同様に、第1の周波数帯及び第2の周波数帯の両方が、超音波の送受信に適していることが確認された。
【0078】

一方、真円状の外形を有する圧電素子に対して一方向に延びる溝部を形成したサンプル3では、圧電素子が、220kHzで送受感度がピークとなる周波数帯で厚さ方向に振動することが確認された。そして、送受感度が例えば-33dB以上となる範囲は、220kHzをピークとする周波数帯で140kHz~340kHz付近となることが確認された。なお、サンプル3では、半径方向振動のピークは認められなかった。以上のように、比較例であるサンプル3では、厚さ方向振動で広帯域となっているものの、切込み(溝部)の長手方向振動による送受感度が弱いことが確認された。それに対して、実施例であるサンプル1,2では、サンプル3と同様の厚さ方向の送受感度と帯域特性を持つことに加えて、振動部の半径方向振動による低周波での送受信も可能となることが確認された。
【0079】

また、真円状の外形を有する圧電素子に対して何ら溝部が形成されていないサンプル4では、圧電素子が、205kHzで送受感度がピークとなる周波数帯で厚さ方向に振動するとともに、50kHzで送受感度がピークとなる周波数帯で径方向(直径方向)に振動することが確認された。そして、送受感度が例えば-33dB以上となる範囲は、第1の周波数帯で195kHz~230kHz付近となり、第2の周波数帯で45kHz~55kHz付近となることが確認された。比較例としたサンプル4は、50kHzと200kHzとの2周波切替タイプの魚群探知機用振動子として、広く市場に浸透しているものである。一方、実施例であるサンプル1,2は、200kHz付近の厚さ方向振動がサンプル4よりも高感度かつ広帯域であることに加えて、低周波の径方向振動の送受感度もサンプル4と同等の感度が得られており、サンプル4と同様に両周波数帯で使用することが可能である。
【0080】

なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0081】

図15に示されるように、圧電素子43は、中央部57に円形状の貫通孔151を有する略円環状をなしており、貫通孔151の内壁面は、各振動部90における中央部57側の端面152を構成していてもよい。このようにすれば、振動部90における中央部57側の端部が面で構成されて尖らないようになるため、振動部90の欠けを防ぐことができる。また、貫通孔151を設けることにより、圧電素子43を構成するセラミックスの体積が減少するため、材料費の削減にもなる。なお、貫通孔151の内径は、例えば、圧電素子43の外径D1の1%以上20%以下の長さであることが好ましい。
【0082】

さらに、図16の超音波振動子41に示されるように、圧電素子43が貫通孔151を有する略円環状をなすのに加えて、基材42も、中央部57に円形状の貫通孔153を有する略円環状をなしていてもよい。なお、貫通孔153は、配線作業等のやり易さを考慮して、超音波の送受信を妨げない程度の大きさに形成される。
【0083】

・上記各実施形態の超音波振動子41は、真円状の外形を有する圧電素子43を備えていたが、圧電素子は、楕円状の外形を有する圧電素子43(図17(a)参照)であってもよいし、長円状の外形を有する圧電素子43(図17(b)参照)であってもよい。
【0084】

図18に示されるように、圧電素子43は、中央部57に楕円形状の貫通孔161を有する略円環状をなしていてもよいし、中央部57に長円形状の貫通孔(図示略)を有する略円環状をなしていてもよい。即ち、貫通孔は、真円でない形状(矩形など)であってもよい。これらのようにすれば、各振動部90が、半径方向長さが異なる複数種類の振動部90を含むようになる。この場合、各振動部90に半径方向振動が生じるものの、個々の共振周波数が異なり、当該半径方向振動が生じる周波数帯が少しずつずれるため、個々の周波数帯同士が構成されることで周波数帯(第2の周波数帯)の幅が広くなる。よって、超音波の周波数帯域がよりいっそう広くなる。
【0085】

・上記各実施形態では、基材42の面積が圧電素子43の面積よりも大きくなっていた。しかし、基材42の面積は、圧電素子43の面積と等しくてもよい。また、例えば、基材42に切り欠き171を設ける等することにより(図19参照)、基材42の面積を圧電素子43の面積よりも小さくしてもよい。なお、圧電素子43の前面51(基材42との接着面)のうち切り欠き171を介して露出する領域には、第1のリード線62(図3図19参照)がはんだ付けにより接続される。
【0086】

・上記各実施形態の圧電素子43には、溝部K1を介して24個の振動部90(中心角15°)が配設されていた。しかし、圧電素子43には、溝部K1を介して25個以上(例えば、30個,36個等)の振動部90が配設されていてもよいし、23個以下(例えば、16個,12個,10個,8個等)の振動部90が配設されていてもよい。また、上記各実施形態では、圧電素子43が同じ中心角(15°)の振動部90を有していたが、圧電素子43は、中心角が異なる複数種類の振動部を有していてもよい。
【0087】

・上記各実施形態の超音波振動子41では、溝部K1が全体的に空隙K0となっていたが、溝部K1の一部に充填材が充填されていてもよい。例えば、それぞれの溝部K1について、溝部K1の内部領域が、充填材(図示略)が充填される充填領域と、充填材が充填されない非充填領域とからなっていてもよい。具体的に言うと、各溝部K1の外周側の端部に充填領域が設定され、各溝部K1において外周側の端部を除く部分に非充填領域が設定されることが考えられるが、充填領域及び非充填領域の位置は、特に限定される訳ではなく、適宜変更可能である。また、非充填領域の体積は、充填領域の体積よりも大きくてもよいし、充填領域の体積より小さくてもよいし、充填領域の体積と等しくてもよい。また、各溝部K1の内部領域の全体に充填材が充填されていてもよい。
【0088】

なお、充填材の比重は1.5以下であることが好ましい。このようにすれば、充填材が比較的軽くなるため、充填材が振動部90の振動の負荷になりにくくなる。その結果、充填材に起因する送受感度の低下を防止することができる。
【0089】

・上記各実施形態の圧電素子43は、分割された複数の振動部90が前面51側の端部において互いに繋がった構造を有していた。しかし、圧電素子は、複数の振動部が完全に分割された構造を有していてもよい。この場合、各振動部を基材42に対してそれぞれ貼付することにより、超音波振動子が構成される。
【0090】

・上記各実施形態の超音波振動子41では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子43を用いたが、圧電素子43の形成材料は特に限定されるものではない。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウム系(ニオブ酸アルカリ系)、チタン酸バリウム系、PMN-PT(Pb(Mg
1/3Nb2/3)O-PbTiO)単結晶、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O-PbTiO)単結晶、LiNbO単結晶の圧電セラミックスからなる圧電素子を用いてもよい。
【0091】
・上記各実施形態の超音波振動子41では、ガラスエポキシ(FR-4)からなる基材42を用いたが、基材42の形成材料は、固有音響インピーダンス、超音波の周波数、機械的強度等を考慮して適宜変更することができる。例えば、ガラスエポキシ(CEM-3)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、ジュラトロン(QUADRANTグループの登録商標)、フルオロシント(QUADRANTグループの登録商標)、アルミナの多孔体からなる基材を用いてもよい。
【0092】
・上記各実施形態の超音波振動子41では、分割した背面側電極55の電気的接続に金属箔60が用いられていたが、銅線などの線材のはんだ付けにより、分割した背面側電極55の電気的接続を行ってもよい。
【0093】
・上記各実施形態の超音波振動子41は、超音波の照射方向を機械的に変更するソナー11に用いられていたが、他の計測機器に用いられていてもよい。例えば、超音波振動子を、超音波の照射方向を電気的に変更するソナーに用いてもよい。また、超音波振動子を、超音波の照射方向を変更しない、即ち、駆動機構30を有しない魚群探知機に用いてもよい。さらに、超音波振動子を、例えば、水の深さを計測する測探機や、空気中で距離を計測する空中センサなどの計測機器に用いてもよい。
【0094】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0095】
(1)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記基材の面積は前記圧電素子の面積よりも大きいことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0096】
(2)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記基材の面積は前記圧電素子の面積と等しいことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0097】
(3)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記基材の面積は前記圧電素子の面積よりも小さいことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0098】
(4)請求項1乃至8のいずれか1項において、複数の前記振動部が、前記圧電素子の前記前面側の端部において互いに繋がっていることを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0099】
(5)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記溝部の深さは前記圧電素子の厚さよりも小さいことを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0100】
(6)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記溝部の深さは、前記振動部の外周方向における最大幅の0.8倍以上であることを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0101】
(7)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記溝部が全体的に空隙となっていることを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0102】
(8)請求項1乃至8のいずれか1項において、1本の前記溝部について、前記溝部の内部領域が、充填材が充填される充填領域と、前記充填材が充填されない非充填領域とからなることを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0103】
(9)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記溝部の内部領域の全体に充填材が充填されていることを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【0104】
(10)請求項1乃至8のいずれか1項において、前記充填材の比重が1.5以下であることを特徴とする計測機器用の超音波振動子。
【符号の説明】
【0105】
11…計測機器としてのソナー
41…超音波振動子
42…基材
43…圧電素子
51…圧電素子の前面
52…圧電素子の背面
57…圧電素子の中央部
90…振動部
101…第1の振動部
102…第2の振動部
103…第3の振動部
151,161…貫通孔
152…振動部における中央部側の端面
C1…複数の溝部同士の交点
D1…圧電素子の外径
F1…厚さ方向
F2…半径方向
H3…圧電素子の厚さ
K1…溝部
L1…第1の径方向長さ
L2…第2の径方向長さ
L3…第3の径方向長さ
O1…圧電素子の中心
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