(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】抗CD24組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20230613BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230613BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230613BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230613BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P43/00 121
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020564389
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 US2019031983
(87)【国際公開番号】W WO2019222082
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-11
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521449809
【氏名又は名称】オンコシーフォー、インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】514262417
【氏名又は名称】チルドレンズ ナショナル メディカル センター
【氏名又は名称原語表記】CHILDREN’S NATIONAL MEDICAL CENTER
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、パン
(72)【発明者】
【氏名】フロレス、ロンダ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、フン-イェン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ、チーホン
(72)【発明者】
【氏名】イェ、ペイン
(72)【発明者】
【氏名】デーヴェンポート、 マーティン
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】Clinical and Experimental Immunology,1993年,93,279-285
【文献】Oncotarget,2017年,8,51238-51252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/30
C07K 16/46
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 43/00
C12N 15/13
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号31又は配列番号30に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号35に示される配列を含む軽鎖可変領域;又は
(b)配列番号6に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号16に示される配列を含む軽鎖可変領域
を含む抗CD24抗体。
【請求項2】
一本鎖抗体である、請求項1に記載の抗CD24抗体。
【請求項3】
前記重鎖可変領域が配列番号31に示される配列を含
み、前記軽鎖可変領域が配列番号35に示される配
列を含む、請求項
1又は請求項2に記載の
抗CD24抗体。
【請求項4】
前記重鎖可変領域が配列番号30に示される配列を含
み、前記軽鎖可変領域が配列番号35に示される配
列を含む、請求項
1又は請求項2に記載の
抗CD24抗体。
【請求項5】
前記重鎖可変領域が配列番号6に示される配列を含
み、前記軽鎖可変領域が配列番号16に示される配
列を含む、請求項
1又は請求項2に記載の
抗CD24抗体。
【請求項6】
請求項1~請求項
5のいずれか一項に記載の
抗CD24抗体を含む第1の抗体ドメイン及び第2の抗体又はその抗原結合断片を含む第2の抗体ドメインを含む、二重特異性抗体。
【請求項7】
前記第2の抗体ドメインががん免疫療法のために免疫エフェクターT細胞
をがん細胞に引き付ける、
及び/又は
前記第2の抗体ドメインがCD3、TCR-α鎖、TCR-β鎖、TCR-γ鎖又はTCR-δ鎖に結合する、請求項6に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記第2の抗
体ドメインがCD3に結合する、請求項
7に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記第2の抗体ドメインが配列番号18に示される配列を含む、請求項
8に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
抗体介在性細胞傷害(ADCC)活性
又は抗体介在性細胞貪食(ADCP)活性を有する、請求項1~請求項
9のいずれか一項に記載の抗体又は二重特異性抗体。
【請求項11】
請求項
1~請求項
5のいずれか一項に記載の
抗CD24抗体を含む一本鎖抗体を含む、キメラ抗原受容体。
【請求項12】
細胞傷害性薬、タンパク質毒素、及び放射性核種からなる群より選択されるエフェクター部分に結合している請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の抗CD24抗体を含む、抗体薬物複合体。
【請求項13】
請求項1~請求項
12のいずれか一項に記載の抗体、二重特異性抗体
、キメラ抗原受容体
、又は抗体薬物複合体及び第二の抗がん治療剤を含む、組成物。
【請求項14】
前記第二の抗がん治療剤が抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体又はLAG3を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1~請求項
14のいずれか一項に記載の抗体、二重特異性抗体、キメラ抗原受容体
、抗体薬物複合体、又は組成物
を含む、がんの処置に使用
するための医薬組成物。
【請求項16】
前記がんが肺がん、卵巣がん、乳がん、肝臓がん、脳がん、子宮頸がん
、腎がん、精巣がん、前立腺がん又は神経芽細胞腫である、請求項
15に記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、がん細胞で発現されるヒトCD24に選択的に結合するが、非がん性細胞で発現されるヒトCD24には結合しない抗CD24抗体に関する。本開示はまた、がん治療におけるかかる抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CD24は、高度にグリコシル化された小さなムチン様グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidyl-inositol、GPI)結合細胞表面タンパク質である。CD24は、B細胞、T細胞、好中球、好酸球、樹状細胞、及びマクロファージなどの造血細胞、並びに神経細胞、神経節細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、筋肉細胞、膵細胞、及び上皮幹細胞などの非造血細胞で高レベルで発現する。通常、CD24は、前駆細胞及び代謝的に活性な細胞では発現のレベルがより高く、最終分化細胞では発現のレベルがより低い傾向がある。CD24の機能はほとんどの細胞タイプで不明であるものの、CD24の多様な免疫学的機能が報告されている。
【0003】
CD24は多くの正常組織や細胞タイプに見られるが、CD24はヒトのがんの70%近くで過剰発現している。免疫組織化学によって検出された高レベルのCD24発現が、上皮性卵巣がん(83%)、乳がん(85%)、非小細胞肺がん(45%)、前立腺がん(48%)、及び膵臓がん(72%)で認められている。CD24は、がん細胞で最も過剰発現しているタンパク質の1つである。CD24の発現は腫瘍形成中に上方制御されており、腫瘍の進行及び転移におけるその役割を示唆している。がんにおけるCD24の過剰発現は、がん患者の予後不良及び疾患のよりアグレッシブな経過を暗示するマーカーとしても特定されている。乳がんでは、CD24の発現は、良性又は前がん性の病変よりも浸潤がんにおいて有意に高い。非小細胞肺がんでは、CD24の発現が患者の全生存期間の独立したマーカーとして特定されている。さらに、食道扁平上皮がんでは、CD24の過剰発現は、腫瘍リンパ節転移、腫瘍グレードの悪化、及び生存期間の短縮を示唆している。同様の観察結果は、結腸がん、肝細胞がん、神経膠腫、卵巣がん、及び前立腺がんを含む他の多くのがんでも見出されている。CD24はがんの予後マーカーとして多用されてきたが、正常な細胞型における発現及び潜在的毒性のため、がん治療の可能性のある標的となり得る新抗原としては利用されていない。
【0004】
成熟したCD24は、31個のアミノ酸である小さな高度にグリコシル化されたシアロ糖タンパク質であり、16個の潜在的なO-グリコシル化部位と2個の予測されるN-グリコシル化部位を有する。グリコシル化は、タンパク質の最も複雑な翻訳後修飾の1つである。通常のグリコシル化経路からのシフトが多くのがん細胞において発生することが知られており、これは糖鎖(グリカン)発現の変化をもたらし、多くの細胞タンパク質の高グリコシル化又は低グリコシル化(hypo-glycosylation)をもたらす。がん細胞に見られるグリコシル化パターンの変化は、転写レベルでの調節不全、グリコシル化中のシャペロンタンパク質の調節不全、グリコシダーゼ及びグリコトランスフェラーゼの活性の変化を含む多くの要因の結果である。腫瘍に関連する糖鎖の変化には、N型糖鎖の分岐の長化又は短化、O型糖鎖の密度の高低、通常の同等物(Tn抗原、sTn抗原、及びT抗原)の短縮バージョンの生成、及びシアル酸及びフコース(sLeaエピトープ及びsLexエピトープ)を有する異常な形態の末端構造の生成が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、当技術分野では、がんを識別及び処置する改善された方法、特にがん性細胞を非がん性細胞から区別することができる方法及び組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で提供されるのは、正常細胞では生じるががん細胞では生じないグリコシル化によってCD24への結合がブロックされるモノクローナル抗CD24抗体である。前記抗体は、がん細胞上には露出しているが非がん性細胞上には露出していない糖鎖で遮蔽されているエピトープ(glycan-shielded epitope)に結合し得る。前記抗体は、配列番号48に示される配列を含むペプチドに結合し得る。
【0007】
別の態様では、前記モノクローナル抗体は、非がん性細胞に対する反応性が最小限であるか全く有さず、がん性細胞に結合し得る。
【0008】
別の態様では、前記モノクローナル抗体は、非腫瘍細胞に対する反応性が最小限であるか全く有さず、腫瘍細胞に結合し得る。
【0009】
別の態様では、前記モノクローナル抗体は、造血細胞に対する反応性が最小限であるか全く有さず、循環がん細胞に結合し得る。
【0010】
別の態様では、前記モノクローナル抗体は、がん特異的なグリコシル化パターンを欠く細胞上のCD24には結合し得ないが、がん特異的なグリコシル化パターンを持つ細胞上のCD24には結合し得る。
【0011】
別の態様では、医薬組成物であり得る組成物は、モノクローナル抗体、又はその1又は複数の抗原結合断片を含む。
【0012】
別の態様では、前記組成物は、抗体介在性細胞傷害(antibody mediated cellular cytotoxicity)(ADCC)を介してがん細胞を死滅させるために使用される。
【0013】
別の態様では、前記組成物は、抗体介在性細胞貪食(antibody-mediated cellular phagocytosis)(ADCP)を介してがん細胞を死滅させるために使用される。
【0014】
別の態様では、前記組成物は、ADCCとADCPとの組み合わせを介してがん細胞を死滅させるために使用される。
【0015】
別の態様では、前記組成物は、がん細胞特異性をT細胞に付与するために使用され得るキメラ抗原受容体T細胞を含む。
【0016】
別の態様では、前記組成物はモノクローナル抗体3B6を含む。
【0017】
別の態様では、前記組成物は、配列番号1に示される配列及び配列番号2に示される配列を含むモノクローナル抗体を含む。
【0018】
別の態様では、前記組成物は、モノクローナル抗体3B6の親和性成熟によって生成されたモノクローナル抗体を含む。
【0019】
別の態様では、前記組成物は、配列番号3~配列番号10に示される配列のいずれか1つから選択される重鎖を含むモノクローナル抗体を含む。
【0020】
別の態様では、前記組成物は、配列番号11~配列番号16に示される配列のいずれか1つから選択される軽鎖を含むモノクローナル抗体を含む。
【0021】
別の態様では、前記組成物は、モノクローナル抗体3B6の親和性成熟(affinity maturation)によって生成されたモノクローナル抗体PP6373を含む。
【0022】
別の態様では、前記組成物は、配列番号6に示される配列及び配列番号16に示される配列を含むモノクローナル抗体を含む。
【0023】
別の態様では、前記組成物は、モノクローナル抗体PP6373をヒト化することによって生成されたモノクローナル抗体を含む。
【0024】
別の態様では、前記組成物は、配列番号29~配列番号32に示される配列のいずれか1つから選択される重鎖を含むモノクローナル抗体を含む。
【0025】
別の態様では、前記組成物は、配列番号33~配列番号36に示される配列のいずれか1つから選択される軽鎖を含むモノクローナル抗体を含む。
【0026】
別の態様では、前記医薬組成物は、モノクローナル抗体PP6373をヒト化することによって生成されたモノクローナル抗体H2L3を含む。
【0027】
別の態様では、前記医薬組成物は、モノクローナル抗体PP6373をヒト化することによって生成されたモノクローナル抗体H3L3を含む。
【0028】
別の態様では、前記組成物は、配列番号30に示される配列を含む重鎖可変配列と、配列番号35に示される配列を含む軽鎖可変領域とを含む、モノクローナル抗体を含む。
【0029】
別の態様では、前記組成物は、配列番号31に示される配列を含む重鎖可変領域と、配列番号33に示される配列を含む軽鎖可変領域とを含む、モノクローナル抗体を含む。
【0030】
別の態様では、前記組成物は、配列番号17に示される配列を含む一本鎖モノクローナル抗体を含む。
【0031】
別の態様では、前記組成物は、前記抗CD24抗体又はその抗原結合断片を含む第1の抗体ドメインと、第2の抗体又は抗原結合断片を含む第2の抗体ドメインとを含む、二重特異性抗体を含む。前記二重特異性抗体は、がんの処置又は予防を必要とする患者においてがんと免疫エフェクターT細胞とを橋渡しするために使用され得る。
【0032】
別の態様では、前記第2の抗体ドメインは、前記第1の抗体ドメインとは異なる結合特異性を有する。
【0033】
別の態様では、前記第2の抗体ドメインは、免疫エフェクターT細胞を前記がん細胞に引き付ける。
【0034】
別の態様では、前記第2の抗体又はその抗原結合断片はCD3に結合する。
【0035】
別の態様では、前記第2の抗体又はその抗原結合断片は、TCR-α鎖、TCR-β鎖、TCR-γ鎖、又はTCR-δ鎖に結合する。
【0036】
別の態様では、前記第1の抗体ドメインは、配列番号17に示される配列を含む抗体を含み、前記第2の抗体ドメインは、配列番号18に示される配列を含む。
【0037】
別の態様では、前記第1の抗体ドメインは、配列番号23~配列番号27及び37~配列番号41に示される配列のいずれか1つを含む抗体を含む。
【0038】
別の態様では、二重特異性抗体を含む前記組成物は、抗体介在性細胞傷害(antibody-mediated cellular cytotoxicity)(ADCC)を介してがん細胞を処置するために使用され得る。
【0039】
別の態様では、前記組成物は、ADCC活性が増強された二重特異性抗体を含む。
【0040】
別の態様では、前記組成物は、抗体介在性細胞貪食(antibody-mediated cellular phagocytosis)(ADCP)を介してがん細胞を処置するために使用される二重特異性抗体を含む。
【0041】
別の態様では、二重特異性抗体を含む前記組成物は、増強されたADCP活性を有する。
【0042】
別の態様では、前記組成物は、免疫治療剤(immunotherapy)において使用するためのキメラ抗原受容体を含み、この受容体は、配列番号1~配列番号36に示される配列のいずれか1つを含む一本鎖抗体を含む。
【0043】
別の態様では、前記キメラ抗原受容体は免疫治療剤で使用され、前記受容体は、配列番号28に示される配列を含む一本鎖抗体を含む。
【0044】
別の態様では、前記医薬組成物は、第二の抗がん治療剤と組み合わせて使用される。
【0045】
本明細書で提供されるのは、がん処置を必要としている患者のがんを処置する方法であって、本明細書に記載の抗体、二重特異性抗体、キメラ抗原受容体又は組成物のいずれか1又は複数を前記患者に投与することを含み、前記がんは、肺がん、肝臓がん、脳がん、子宮頸がん、卵巣がん、腎がん、精巣がん、前立腺がん又は神経芽細胞腫である、前記方法である。前記がんは、本明細書に記載の抗CD24抗体組成物に結合し得る。
【0046】
本明細書でさらに提供されるのは、前記抗CD24抗体組成物を使用することによって悪性組織又は転移性病変を診断する方法である。前記抗CD24抗体組成物は、閾値量を超えるレベルで悪性組織又は転移性病変に結合し得ることから、悪性組織又は転移性病変を示し得る。
【0047】
前記抗CD24抗体組成物を使用して循環がん細胞を識別する方法も本明細書で提供される。前記抗CD24抗体組成物は、閾値量を超えるレベルで循環がん細胞に結合し得ることから、循環がん細胞を示し得る。本明細書でさらに提供されるのは、本明細書に記載の疾患又は状態を処置するための薬剤の製造における本明細書に記載の組成物の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】抗CD24モノクローナル抗体3B6の結合が糖鎖(グリカン)の存在によって妨げられるのに対し、市販の抗CD24モノクローナル抗体ML5はそうでないことを示すELISA結果の棒グラフである。3B6は、N-グリカン修飾及びシアル酸修飾が除去されたCD24(N-SA-CD24)及びN-グリカン修飾、シアル酸修飾、及びO-グリカン修飾が除去されたCD24(N-SA-O-CD24)には強く結合するが、N-グリカン修飾が除去されたCD24(N-CD24)又は完全に修飾された(N-グリカン修飾+シアル酸修飾+O-グリカン修飾)CD24の双方への結合は非常に弱い。CD24GSTは、陰性対照のCD24-GST融合を表す。
【0049】
【
図2A】結合アッセイは、3B6が神経芽細胞腫細胞株及び髄芽腫腫瘍に結合することを示す。
図2Aは、6つの神経芽細胞腫細胞株IMR32、SK-N-SH、SH-SY5Y、SK-N-BE(2)、SK-N-AS、及びSK-N-BE(2)Cに対して試験された抗CD24モノクローナル抗体ML5、3B6、及びSN3並びに対照抗体の正規化された親和性プロットである。3B6はSK-N-ASを除く全ての神経芽細胞腫細胞株に対してある程度の親和性を有するが、3B6の親和性は市販の抗CD24抗体ML5(BD Bioscience社、カタログ番号555426)及びSN3(Thermo Fisher社、カタログ番号MA5-11833)と比較してかなり低かった。
【
図2B】
図2Bは、4つの髄芽腫腫瘍の3B6処置のX線蛍光撮影像を示す。3B6は4つの腫瘍のうち3つに結合した。
【0050】
【
図3】CD24-GST融合タンパク質への3B6の結合をブロックする3B6変異体の能力を比較する競合ELISAのプロットを示す。PP6226は3B6と同じ可変領域を有する。
【0051】
【
図4】CD24-GST融合タンパク質への3B6の結合をブロックする能力について3B6変異体の能力を比較する競合ELISAのプロットを示す。PP6226は3B6と同じ可変領域を有する。
【0052】
【
図5】CD24-GST融合タンパク質への3B6の結合をブロックする能力について3B6変異体の能力を比較する競合ELISAのプロットを示す。PP6226は3B6と同じ可変領域を有する。
【0053】
【
図6】CHO細胞によって発現されたCD24に対しての親和性成熟キメラ抗CD24抗体の相対的親和性を示すELISA結果の棒グラフである。クローンのうち12個は、3B6(PP6226)と較べると、完全にグリコシル化されたCD24、N-CD24、SA-CD24、及びN-SA-CD24に対する親和性が増加しており且つ特異性が異なっていた。
【0054】
【
図7】肺がん細胞株NCI-H727(左パネル)及び神経芽細胞腫細胞株IMR32(右パネル)に対して試験した様々な親和性成熟キメラ抗CD24抗体の滴定アッセイを示す。最小濃度0.01μg/mLに対して滴定係数(titration factor)を2×として試験した最大抗体濃度は5μg/mLであった。未染色(0μg/mL)陰性対照も示されている。
【0055】
【
図8】異なるCD24グリコフォーム(glycoform)と抗CD24抗体(親PP6229及び親和性成熟PP6373)と間の結合の定量的比較を示す。Fcを除去したCD24をELISAプレートにコーティングし、緩衝液(CD24)、NanA(SA-)、又はNanA+N-グリカナーゼ(SA-N-)のいずれかで処理した後、PP6626(左パネル)又はPP6373(右パネル)を所定の用量で添加した。最小濃度0.02ng/mLに対して滴定係数を5×として試験した最大抗体濃度は7812.50ng/mLであった。
【0056】
【
図9】ペプチド阻害アッセイによる3B6結合部位のマッピングを示す。試験した5つの重複するCD24ペプチドのうち、1つ(ペプチド4)のみが抗原性エピトープを含んでいる。
【0057】
【
図10】ペプチド阻害アッセイによるPP6373結合部位のマッピングを示す。試験した5つの重複するCD24ペプチドのうち、1つ(SNSGLAPNT(配列番号46))のみが抗原性エピトープを含んでいる。
【0058】
【
図11】ペプチド4抗原性エピトープ配列からの短縮ペプチドを用いたPP6373エピトープのマッピングを示す。データは、最適なエピトープが配列SNSGLAPN(配列番号48)内に含まれていることを示す。
【0059】
【
図12】PP6373がマウスモデルにおいてインビボでの腫瘍増殖を減少させることを示すプロットである。触知可能な肺がん異種移植片を有するヌードマウスに、矢印で示された2つの時点で対照ヒトIgG又はPP6373のいずれかを投与し、その後、腫瘍増殖を毎週測定した。
【0060】
【
図13】PP6373がヒトがん細胞株H727に対して細胞傷害(ADCC)を誘発したことを示すプロットである。PP6373及びヒトIgGFCを用いてエフェクター細胞PBLと5μg/mLで共培養したH727細胞はADCCを誘導した。
【0061】
【
図14】コアフコシル化のないPP6373(d6873)は、PP6373よりも、ヒトがん細胞株H727に対しての強いADCCを誘導することを示すプロットである。d6373、PP6373、及びヒトIgGFCを用いてエフェクター細胞PBLと5μg/mLで共培養したH727細胞はADCCを誘導した。
【0062】
【
図15】PP6373-ホールとOKT3-ノブとの組み合わせが、PP6373-ノブとOKT3-ホールとの組み合わせよりも高い二重特異性を呈することを示すフローサイトメトリープロットである。Jurkat細胞を、PP6373、OKT3、PP6373-ノブ&OKT3-ホール、又はPP6373-ホール&OKT3-ノブでトランスフェクトされた293T細胞の組織培養上清と共に染色した後、ビオチン化SA-N-CD24タンパク質とインキュベートした。PE-ストレプトアビジンシグナルをフローサイトメトリーで測定した。3つの独立した実験を実施した。
【0063】
【
図16】PP6373-OKT3がOKT3-PP6373よりも高い二重特異性活性を誘導することを示すフローサイトメトリープロットである。Jurkat細胞を、空のプラスミド(陰性対照)、PP6373-OKT3、又はOKT3-PP6373でトランスフェクトされた293T細胞の組織培養上清と共に染色した後、ビオチン化SA-N-CD24タンパク質とインキュベートした。PE-ストレプトアビジンシグナルをフローサイトメトリーで測定した。3つの独立した実験を実施した。
【0064】
【
図17】二重特異性抗体PP6373-OKT3が抗腫瘍活性を有することを示すフローサイトメトリープロットである。肺がん細胞H727と活性化ヒトT細胞とを1:5で、未処理293T細胞の組織培養上清又は空のプラスミド(未トランスフェクト)、PP6373、OKT3若しくはPP6373-OKT3でトランスフェクトされた293T細胞の組織培養上清と共に、12時間インキュベートした。組織培養培地中のサイトカイン(IFNr、TNF、IL10、IL6、IL4、及びIL2)をフローサイトメトリーで測定した。3つの独立した実験を実施した。
【0065】
【
図18】二重特異性抗体PP6373-OKT3がT細胞による腫瘍細胞の細胞傷害性を誘発したことを示すフローサイトメトリープロットである。肺がん細胞H727と活性化ヒトT細胞とを1:5で、未処理の293T細胞の組織培養上清又は空のプラスミド(未トランスフェクト)、PP6373、OKT3若しくはPP6373-OKT3でトランスフェクトされた293T細胞の組織培養上清と共に、12時間インキュベートした。肺がん細胞及びヒトT細胞を採取し、抗ヒトCD45及びLIVE/DEAD試薬Aquaで染色した。腫瘍細胞数としては、抗CD45及びAquaの二重陰性であるものをプロットした。3つの独立した実験を実施した。
【0066】
【
図19】FIT-Igにより誘導される高い二重特異性活性の、フローサイトメトリー分析を示す。Jurkat細胞を陰性対照(未トランスフェクト293T上清)又はFIT-Igと共に染色した後、ビオチン化SA-N-CD24タンパク質とインキュベートした。PE-ストレプトアビジンシグナルをフローサイトメトリーで測定した。3つの独立した実験を実施した。
【0067】
【
図20】FIT-IgがPP6373-OKT3及びOKT3-PP6373よりも高い抗腫瘍活性を有することを示すフローサイトメトリー分析である。肺がん細胞H727と活性化ヒトT細胞とを1:5で、陰性対照(未トランスフェクト293T上清)、PP6373-OKT3、OKT3-PP6373、又はFIT-Igと共に、12時間インキュベートした。組織培養培地中のサイトカイン(IFNr、TNF、IL10、IL6、IL4、及びIL2)をフローサイトメトリーで測定した。3つの独立した実験を実施した。
【0068】
【
図21】FIT-IgがT細胞による腫瘍細胞の細胞傷害性を誘導することを示すフローサイトメトリー分析である。肺がん細胞H727と活性化ヒトT細胞とを1:5で、陰性対照(未トランスフェクト293T上清)、PP6373-OKT3、OKT3-PP6373、又はFIT-Igと共に、12時間インキュベートした。肺がん細胞及びヒトT細胞を採取し、抗ヒトCD45及びLIVE/DEAD試薬Aquaで染色した。腫瘍細胞数としては、抗CD45及びAquaの二重陰性であるものをプロットした。3つの独立した実験を実施した。
【0069】
【
図22】FIT-IgがPP6373-OKT3及びOKT3-PP6373よりも高い熱安定性を有することを示すフローサイトメトリー分析である。全ての二重特異性抗体PP6373-OKT3、OKT3-PP6373、及びFIT-Igを表示した温度で20分間インキュベートし、14000gで5分間回転させた後の上清をJurkat細胞の染色に使用した。次に、ビオチン化SA-N-CD24タンパク質をJurkat細胞とインキュベートし、PE-ストレプトアビジンシグナルをフローサイトメトリーで測定した。
【0070】
【
図23】抗CD24-scFvを含むCarT構築物の概略図を示す。
【0071】
【
図24】肺がん細胞株A549に対しての、CD24 CARTによる細胞傷害性の誘発のプロットを示す。
【0072】
【
図25】IFNγの産生によって示される、腫瘍細胞株によるCART活性化のプロットを示す。
【0073】
【
図26】様々な腫瘍タイプに対するCD24 CARTの抗腫瘍活性の棒グラフを示す。示されたデータのE/T比は5である。
【0074】
【
図27】キメラPP6373(FR:白色、CDR:薄灰色)及びhuVHv1VLv1(FR:灰色、CDR:濃灰色)の3次元構造アラインメントのリボンダイアグラムを示す。
【0075】
【
図28】発現及びCD24-GSTへの結合に対する様々な抗体ペアの相対的な有効性のプロットを示す。
【0076】
【
図29】ヒトがん細胞株NCI-H727(上)及びIMR32(下)に結合するH2L3及びH3L3のプロットを示す。図示したデータは、広範囲の抗体を使用した場合の平均蛍光強度である。
【0077】
【
図30】低濃度ではHL33がPP6373よりもADCCにおいて強力であることを示す細胞死プロットである。肺がん細胞株A549を標的として使用し、ヒトPBLをエフェクターとして使用した。使用した抗体の用量は、3μg/mL(上パネル)又は9μg/mL(下パネル)であった。
【0078】
【
図31】肺がん細胞株A549及びNCI-H727並びに神経芽細胞腫細胞株IMR-32を含む複数の腫瘍細胞株に強力なADCC活性をH3L3が付与することを示す細胞死プロットである。エフェクター細胞としてヒトPBMCを使用した。
【0079】
【
図32】肺がん細胞株A549及びNCI-H727並びに神経芽細胞腫細胞株IMR-32を含む複数の腫瘍細胞株に対する強力なADCC活性をH3L3が付与することを示す細胞死プロットである。ヒトPBMCから精製したNK細胞をエフェクター細胞として使用している。
【0080】
【
図33】糖鎖で遮蔽されているエピトープを認識した抗体がB細胞、赤血球を認識せず、好中球との相互作用が不十分であることを示すフローサイトメトリー分析である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
がん発現エピトープの標的化は、がんの処置に広く採用されているアプローチである。しかし、かかるエピトープの多くは、正常組織でも発現し、毒性の問題を引き起こす可能性があるため、優れた薬剤標的にはならない。理想的な腫瘍特異的抗原(Tumor-Specific Antigen、TSA)は、がんでは幅広い発現を示すが、必須の宿主臓器では発現が最小限であるか、全く発現しない。あまり理想的ではないが同等に機能し得るTSAの属性は、正常組織及びがん組織で発現しているが異なって修飾される属性であり、いわゆる腫瘍関連抗原(Tumor-Associated Antigen、TAA)である。よく特徴解析されている腫瘍抗原の例は、MAGE-A3、MUC-1、及びNY-ESO1である。
【0082】
特に腫瘍抗原が現時点で存在しないがんの場合、新しい又はより効果的ながん治療剤の開発における限定因子は、新規なTSA及びTAAの同定である。CD24は、以下の理由から優れたがん標的である:CD24は全てのヒトがんの70%以上で広く過剰発現されており、がんでは異なってグリコシル化されていること、CD24は発がん性であるように思われ、様々ながんの予後不良及び患者の生存期間の大幅な短縮に関連していること、そしてCD24は新たな腫瘍を引き起こすことによって再発や転移を引き起こす可能性のあるがん幹細胞のマーカーであること。本発明者らは、CD24への結合が正常細胞で生じるががん細胞では生じないグリコシル化によってブロックされる抗CD24抗体を発見した。その結果、前記抗体はがん細胞株及びがん組織に結合するが、様々な正常組織及び造血細胞への反応性は最小限に抑えられる。
【0083】
本明細書で提供されるのは、抗体及びその抗原結合断片である。前記抗体は、モノクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体であり得る。前記抗体は、単一特異性、二重特異性、三重特異性、又は多重特異性であり得る。前記抗体の抗原結合断片は、CD24、特にヒトCD24に免疫特異的に結合し得るものであり、好ましくは、内部に生じる濃度又はトランスフェクトされた濃度で生細胞の表面に発現される。前記抗原結合断片はCD24に結合し得る。前記抗体は、検出可能に標識されてもよく、又は結合毒素、薬物、受容体、酵素、又は受容体リガンドを含んでもよい。
【0084】
免疫系は、直接的に腫瘍を標的とすることに加えて、実験モデル系及び患者におけるがんを認識して排除する能力も有する。その結果、がん免疫治療剤は、がん処置の最も有望な分野の1つとして新興している。能動的がん免疫治療剤には、自然免疫応答を増幅する薬剤(PD-1、PD-L1、又はCTLA-4に対する抗体を含む)、がんと免疫エフェクターT細胞とを橋渡しする抗体などの二重特異性分子、又はエクスビボで刺激された腫瘍浸潤リンパ球(Tumor Infiltrating Lymphocyte、TIL)、活性化ナチュラルキラー(Natural Killer、NK)細胞、若しくは遺伝子操作されたT細胞(キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor、CAR)及びT細胞受容体(T cell Receptor、TCR)修飾T細胞)を使用した養子細胞移植(Adoptive Dell Transfer、ACT)が含まれる。これらの技術の多くは、特異性及び有効性において腫瘍標的化コンポーネントを必要とする。
【0085】
1.定義
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していない。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるとき、「a」、「an」、および「the」という単数形は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を包含する。数値と関連付けられた「約」という語は、その値の妥当な近似値を示す。ある場合には、「約」はそれが付された特定の値の10%以内であるものとして解釈されてもよい。例えば、「100μm」という語句は、90と110との間の任意の値を包含する。
【0086】
本明細書における数値範囲への言及に関して、それらの間に介在する各数値は、同程度の精度で明示的に想定される。例えば、6~9の範囲に関しては6と9に加えて数字7と8が想定され、6.0~7.0の範囲に関しては数字6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0が明示的に想定される。
【0087】
「処置(treatment)」または「処置すること(treating)」は、疾患から動物を守ることを指す場合、疾患を防止(preventing)、抑制(suppressing)、制圧(repressing)、または完全に排除(eliminating)することを意味する。疾患を予防することは、疾患の発症前に本発明の組成物を動物に投与することを含む。疾患を抑制することは、疾患の誘発後であるがその臨床的出現の前に、本発明の組成物を動物に投与することを含む。疾患を抑制することは、疾患の臨床的出現後に本発明の組成物を動物に投与することを含む。疾患を防止することは、疾患の発症前に本発明の組成物を動物に投与することを含む。疾患を抑制することは、疾患の誘発後であるがその臨床的出現の前に、本発明の組成物を動物に投与することを含む。疾患を制圧することは、疾患の臨床的出現後に本発明の組成物を動物に投与することを含む。
【0088】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、「可変領域」抗原認識部位を有する免疫グロブリン分子を指す。「可変領域」という用語は、抗体によって広く共有されるドメイン(抗体Fcドメインなど)とは異なる免疫グロブリンのドメインを指す。可変領域は、その残基が抗原結合の能力を担う「超可変領域」を含む。超可変領域は、「相補性決定領域(Complementarity Determining Region)」又は「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、典型的には軽鎖可変ドメインのおよそ24~34番目(L1)、50~56番目(L2)、及び89~97番目(L3)の残基並びに重鎖可変ドメインのおよそ27~35番目(H1)、50~65番目(H2)、及び95~102番目(H3)の残基)及び/又は「超可変ループ」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインの26~32番目(L1)、50~52番目(L2)、及び91~96番目(L3)の残基並びに重鎖可変ドメインの26~32番目(H1)、53~55番目(H2)、及び96~101番目(H3)の残基)を含み得る。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。本明細書に開示される抗体は、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、ラクダ化抗体、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、イントラボディ、又は抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体及び抗抗Id抗体を含む)。特に、前記抗体は、任意のタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA、又はIgY)、クラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、又はIgA2)又はサブクラスの免疫グロブリン分子であってよい。
【0089】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語は、抗体の相補性決定領域(CDR)及び所望により抗体の「可変領域」抗原認識部位を含むフレームワーク残基抗体を含み、抗原を免疫特異的に結合する能力を示す、抗体の1又は複数の部分を指す。かかるフラグメントには、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖(ScFv)、及びそれらの変異体、天然に存在するバリアント、並びに抗体の「可変領域」抗原認識部位及び異種タンパク質(例えば、毒素、異なる抗原の抗原認識部位、酵素、受容体、又は受容体リガンドなど)を含む融合タンパク質が含まれる。本明細書中で使用される場合、「フラグメント」という用語は、少なくとも5個の連続したアミノ酸残基、少なくとも10個の連続したアミノ酸残基、少なくとも15個の連続したアミノ酸残基、少なくとも20個の連続したアミノ酸残基、少なくとも25個の連続したアミノ酸残基、少なくとも40個の連続したアミノ酸残基、少なくとも50個の連続したアミノ酸残基、少なくとも60個の連続したアミノ酸残基、少なくとも70個の連続したアミノ酸残基、少なくとも80個の連続したアミノ酸残基、少なくとも90個の連続したアミノ酸残基、少なくとも100個の連続したアミノ酸残基、少なくとも125個の連続したアミノ酸残基、少なくとも150個の連続したアミノ酸残基、少なくとも175個の連続したアミノ酸残基、少なくとも200個の連続したアミノ酸残基、又は少なくとも250個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチド又はポリペプチドをいう。
【0090】
ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体は、ヒトにおけるインビボでの使用に特に好ましいが、マウス抗体又は他の種の抗体は、多くの用途(例えば、インビトロ検出アッセイ又はインサイチュ検出アッセイ、緊急のインビボでの使用など)に有利に使用され得る。
【0091】
「キメラ抗体(chimeric antibody)」は、抗体の異なる部分(different portions of the antibody)が異なる免疫グロブリン分子に由来する分子であり、例えば非ヒト抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する抗体などである。非ヒト種由来の1又は複数のCDRとヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域とを含むキメラ抗体は、例えばCDRグラフティング(欧州特許第239,400号、国際公開第91/09967号、並びに米国特許第5,225,539号、第5,530,101号、及び第5,585,089号、これら全ての内容は、参照により本明細書に援用される)、ベニア化(veneering)又は表面再仕上げ(resurfacing)(欧州特許第592,106号、欧州特許第519,596号、これら全ての内容は、参照により本明細書に援用される)、及びチェーンシャフリング(chain shuffling)(米国特許第5,565,332号、これら全ての内容は、参照により本明細書に援用される)などの当技術分野で公知の様々な技法を使用して製造可能である。
【0092】
本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」という用語は、ヒトフレームワーク領域及び非ヒト(通常はマウス又はラット)免疫グロブリンからの1又は複数のCDRを含む免疫グロブリンを指す。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と称され、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と称される。定常領域は存在しなくてもよいが、存在する場合、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち、少なくとも約85%~90%、好ましくは約95%以上同一でなければならない。したがって、おそらくCDRを除いて、ヒト化免疫グロブリンの全ての部分は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。ヒト化抗体は、ヒト化軽鎖免疫グロブリン及びヒト化重鎖免疫グロブリンを含む抗体である。例えば、典型的なキメラ抗体は、キメラ抗体の可変領域全体が非ヒトであるなどのため、ヒト化抗体には包含されないであろう。ドナー抗体が「ヒト化(humanization)」のプロセスによって「ヒト化(humanized)」されたものとされるのは、得られるヒト化抗体がCDRを提供するドナー抗体と同じ抗原に結合すると予想されるためである。概ね、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域残基が、望ましい特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)からの超可変領域残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(Framework Region(FR))残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの改変は抗体の性能をさらに向上させるためになされる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み得、超可変領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変領域に対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を所望により含み得、これは、1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、又は付加(すなわち、変異)の導入によって変更された、FcγRIIBポリペプチドに免疫特異的に結合するヒト免疫グロブリンのものであり得る。
【0093】
2.抗CD24抗体組成物
本明細書に記載されるのは、CD24のがん特異的グリコフォームを特異的に標的とし得る抗CD24抗体である。前記抗CD24抗体は、抗体薬物複合体、ADCC強化治療用抗体、二重特異性抗体、CAR-T治療剤、及びTCR治療剤を含むがこれらに限定されないがん治療剤を開発するために使用され得る。具体的には、前記抗CD24抗体又はその抗原結合断片は非がん性細胞上にはないががん細胞上には露出している糖鎖で遮蔽されているエピトープに結合し得る。特に、前記抗CD24抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列SNSGLAPN(配列番号48)を含むCD24ペプチドに結合し得る。
【0094】
前記抗CD24抗体は、配列番号1に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号2に示される配列を含む軽鎖可変領域を含み得る、3B6であり得る。前記抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号3~10に示される配列のいずれか1つを含む重鎖可変領域及び配列番号11~16に示される配列のいずれか1つを含む軽鎖可変領域を含み得る、3B6の親和性成熟バージョンであってよい。前記抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号6に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号16に示される配列を含む軽鎖可変領域を含み得る、PP6373であってよい。ヒトでの治療用途の場合、前記抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントは、PP6373のヒト化バージョンであってよく、配列番号29~32に示される配列のいずれか1つを含む重鎖可変領域及び配列番号33~36に示される配列のいずれか1つを含む軽鎖可変領域を含み得る。特に、前記ヒト化抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号30に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号35に示される配列を含む軽鎖可変領域を含み得るH2L3、又は配列番号31に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号35に示される配列を含む軽鎖可変領域を含み得るH3L3であり得る。
【0095】
3.抗体薬物複合体組成物
腫瘍標的化抗体は、腫瘍の生態に影響を与えることにより、腫瘍増殖を直接的に阻止又は制限するために使用され得る。例えば、ヒト化抗VEGFモノクローナル抗体(一般名:ベバシズマブ(Bevacizumab);アバスチン(Avastin))は、VEGF誘発腫瘍血管新生を阻止することによって腫瘍増殖をブロックする。他の腫瘍標的化抗体は、抗体自体の修飾を通じて腫瘍細胞増殖を阻害したり、がん細胞を死滅させたりするために使用される。例えば、腫瘍を標的とした免疫複合体は、共有結合架橋又は遺伝子融合のいずれかによって結合された抗体とエフェクター部分とからなる。エフェクター部分は、細胞傷害性薬(抗体薬物複合体)、タンパク質毒素(免疫毒素)、又は放射性核種(放射性免疫複合体)でありうる。抗体薬物複合体の例として、ブレンツキシマブベドチン(Brentuximab Vedotin)(ADCETRIS(登録商標)、Seattle Genetics社)が挙げられ、これは3~5単位の有糸分裂阻害剤モノメチルオーリスタチンE(Monomethyl auristatin E、MMAE(薬剤名の「ベドチン」に反映))に結合したキメラモノクローナル抗体であるブレンツキシマブ(細胞膜タンパク質CD30を標的とするcAC10)からなる。
【0096】
前記抗CD24抗体又はその抗原結合断片は、抗体薬物複合体、免疫毒素、又は放射性免疫複合体に含まれてよい。かかる組成物の抗CD24標的化成分は、正常な細胞及び組織の曝露を制限し、それにより標的外毒性を阻止しながら、がん細胞及び組織へ前記複合体を特異的に送達することを可能にし得る。
【0097】
4.ADCC抗体組成物
前記抗CD24抗体若しくはその抗原結合断片又は前述のうち1つを含む抗体組成物を使用して、抗体介在性細胞傷害(antibody-mediated cellular cytotoxicity)(ADCC)及び抗体介在性細胞貪食(antibody-mediated cellular phagocytosis)(ADCP)のうち少なくとも1つを介したがん細胞死を誘発する(stimulate)ことができる。ADCCは免疫防御メカニズムであり、身体の特定の免疫細胞(エフェクター細胞)のセットが標的細胞(例えば、病原体)に積極的に関与して溶解する。ADCCは、重要な細胞性自然免疫応答として識別されており、病原体に対する身体の第一線の防御として機能し、感染を制限し封じ込める作用を持つ。ADCCプロセスは、非食細胞プロセス(non-phagocytic process)を介して抗体でコーティングされた標的細胞を死滅させるように設計されており、標的を定めた細胞傷害性顆粒の放出又は細胞死誘導分子の発現のいずれかを特徴とする。ADCCは典型的には、宿主の特定の抗体(主にIgGクラス)が標的細胞の膜表面抗原を認識して結合し、同時にエフェクター細胞表面のFc受容体(FcR)に関与する時点で開始される。ADCCを媒介する最も一般的なエフェクター細胞はナチュラルキラー(NK)細胞であるが、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、樹状細胞もADCC応答を媒介することができる。ADCCはある程度速い応答であるが、有効性は、標的細胞の表面の抗原密度及び抗原抗体相互作用の親和性並びにFc受容体ファミリーの様々なメンバーとの抗体相互作用を決定するFc断片の特性など、いくつかのパラメーターによって異なる。
【0098】
前記抗体の標的細胞上の特定の細胞表面受容体への結合である、オプソニン作用と呼ばれるプロセスは、ADCCプロセスの重要なイベントである。オプソニン作用プロセスは、食細胞を標的細胞に引き付け、食作用を開始することができる。食細胞上のFcRへの抗体Fc領域の結合は、抗体オプソニン化標的細胞の飲み込みを開始する重要なタンパク質である補体成分3の切断産物であるC3bの形成も促進する。抗体を介した食作用は、抗体依存性細胞介在性細胞貪食(antibody-dependent cell-mediated phagocytosis)(ADCP)とも称される。ただし、ADCCの場合、病原体を貪食して破壊する必要はない。上記のように、細胞傷害性エフェクター細胞の表面のFcRは、ADCCを誘発するための鍵となる。ヒトにおいて、ADCCを誘発可能な最も重要なFcRクラスは、FcγRI(CD64)、FcγRIIa、及びFcγRIIc(CD32)、並びにFcγRIIIa(CD16)である。ただし、FcγRIIb受容体はADCC応答を抑制する。したがって、FcγRからの活性化シグナルと抑制性シグナルとのバランスは、ADCC応答の大きさの重要な決定要因となる。標的が認識されると、分化した(specialized)細胞内顆粒(分泌リソソームとも称される)が、カルシウム依存性の分極した細胞外放出プロセスで細胞傷害性エフェクター細胞によって放出される。顆粒から放出される重要な成分はパーフォリン、細胞溶解素、及びグランザイムBである。パーフォリンは、標的細胞膜内に細孔を挿入及び形成する。このプロセスにはカルシウムが必要である。グランザイムBは標的細胞のDNAの断片化を引き起こす。ADCCによって機能する治療用抗体の例として、トラスツズマブ(Trastuzumab)(ハーセプチン(Herceptin)、Genentech社)が挙げられる。トラスツズマブは、多数の乳がんで異常に高レベルで発現し、しばしばHER2陽性乳がんと称されるHER2を標的とし、宿主にADCCを誘導することによりHER2陽性乳がんの増殖を抑制する。
【0099】
ADCC媒介性活性に使用される抗体には、通常、ADCC活性を強化するために何らかの修飾が必要となる。前記抗体のFc領域のオリゴ糖がフコース糖単位を持たないように抗体を改変してFcγIIIa受容体への結合を改善することを通常は含む、いくつかの利用可能な技術がある。抗体がアフコシル化されている場合、抗体依存性細胞毒性(antibody-dependent cellular cytotoxicity)(ADCC)を増加させる効果がある。例えば、BioWa社のPOTELLIGENT(登録商標)テクノロジーは、FUT8遺伝子ノックアウトCHO細胞株を使用して、100%アフコシル化抗体を生成するものである。FUT8は、複合型オリゴ糖の1,6結合におけるGDP-フコースからGlcNAcへのフコースの転移を触媒する1,6-フコシルトランスフェラーゼをコードする、唯一の遺伝子である。ProBioGen社は、MAb上のフコシル化グリカンの産生が低レベルであるように改変されたCHO株を開発したが、FUTノックアウトによるものではない。ProBioGen社のシステムは、細胞によって代謝され得ない糖ヌクレオチドへとデノボフコース合成経路をリダイレクトする細菌酵素を導入するものである。代替のアプローチとして、Seattle Genetics社は、CHO(及びおそらく他の)細胞株において産生するMAb上のフコシル化グリカンの産生が低レベルである独自のフィードシステムを所有する。Xencor社は、腫瘍や他の病理細胞の免疫系の排除を改善するように設計したXmAb Fcドメインテクノロジーを開発した。このFcドメインには2つのアミノ酸変化があり、FcγRIIIaに対して40倍の親和性が得られる。また、FcγRIIaとの親和性が高まり、異物を貪食して消化することで免疫における役割を果たすマクロファージなどの他のエフェクター細胞を動員する可能性がある。
【0100】
前記抗CD24抗体又はその抗原結合断片は、ADCCを介してがんを死滅させる抗体に組み込まれ得る。かかる組成物の抗CD24標的化成分は、正常な細胞及び組織を温存しながら、ADCC媒介性破壊のためのがん細胞の特異的送達標的化を可能にし得る。前記抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントのADCC活性は、本明細書に記載の1又は複数の修飾によって増強され得る。
【0101】
5.二重特異性抗体組成物
本明細書でさらに提供されるのは、第2の抗体又はその抗原結合断片に架橋された第1の抗体又はその抗原結合断片を含む第1の抗体ドメインを含む二重特異性抗体である。前記第1の抗体ドメインは、本明細書に記載の抗CD24抗体又はその抗原結合断片を含み得、前記第2の抗体又はその抗原結合断片は、他の免疫刺激分子に結合し得る。特定の実施形態では、前記第2の抗体ドメインは、抗CD3抗体又はその抗原結合断片を含む。この場合、前記二重特異性抗体は、CD24のがん特異的グリコフォームを発現する腫瘍細胞を特異的に標的とし、同時に細胞傷害性T細胞上のCD3に結合し、それによってT細胞を腫瘍部位に引き付け、前記T細胞が腫瘍に浸潤して腫瘍の細胞傷害性を引き起こす。細胞傷害性T細胞又は他のエフェクター細胞を腫瘍部位に引き付ける目的で二重特異性抗体で使用するためのパートナー抗体の他の例は、当技術分野で公知である。
【0102】
前記第2の抗体又はその抗原結合断片は、相補的な(complementary)抗腫瘍経路又はメカニズムを標的とし得る。前記第2の抗体ドメインは、自然の免疫応答を増幅するがん免疫治療剤抗体又はその抗原結合断片を含み得る。このようながん免疫治療剤抗体の例として、抗PD-1、抗B7-H1、抗B7-H3、抗B7-H4、抗LIGHT、抗LAG3、抗TIM3、抗TIM4、抗CD40、抗OX40、抗GITR、抗BTLA、抗CD27、抗ICOS、又は抗4-1BBが挙げられる。かかる抗体は、がんを処置するために使用され得る。前記第2の抗体又はその抗原結合断片は、TCR-α鎖、TCR-β鎖、TCR-γ鎖、又はTCR-δ鎖に結合し得る。
【0103】
前記二重特異性抗体は、配列番号17及び18に示される配列、又は配列番号23~27及び37~41に示される配列のうちいずれか1つを含み得る。
【0104】
当技術分野で公知の多くの異なる二重特異性抗体技術が存在する。これらのほとんどは、2つの部分が単一の構築物で発現可能であるように、2成分抗体が一本鎖フォーマットである必要がある。好ましい方法は、前記抗体を一本鎖可変フラグメント(scFv)として発現させることである。二重特異性抗体技術の非限定的な例として、二重特異性T細胞誘導(Bispecific T-cell Engager、BiTE)法、デュアルアフィニティリターゲティング(Dual-Affinity Re-Targeting、DART)法、タンデム型Fab免疫グロブリン(Fabs-in-tandem Immunoglobulin、FIT-Ig)法、及びノブ・イントゥ・ホール(Knobs-into-Holes)法が挙げられる。前記抗CD24抗体又はその抗原結合断片を含むかかる二重特異性抗体は、本明細書で具体的に企図される。
【0105】
6.CAR-T治療剤組成物
キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor、CAR)T細胞治療剤、又はCAR-T治療剤は、がん患者のT細胞がエクスビボで遺伝子改変されて、CARタンパク質を発現し、がん細胞を攻撃する細胞処置の一種である。具体的には、T細胞が患者の血液(特に患者自身の血液(自家))から採取され、組換えCAR受容体を発現する遺伝子構築物でトランスフェクトされる。次に、多数のCAR-T細胞を実験室で増殖して患者に注入し、患者のがん細胞を標的にして破壊することができる。T細胞はまた、マッチしたドナーからの、又は、同種異系T細胞の1又は複数のTCR遺伝子及びHLAクラスI遺伝子座が破壊され、結果として生じるT細胞は同種異系抗原を認識できない、ユニバーサルT細胞株若しくは「在庫の既製品から入手可能な(off-the-shelf)」T細胞株に由来する、同種異系T細胞である。
【0106】
CARタンパク質構築物は、典型的には、以下のコア成分を含むモジュラー構造を有する:抗体に由来する細胞外一本鎖可変断片(scFv)、これはヒンジ/スペーサーペプチドと膜貫通ドメインに結合し、さらにT細胞受容体の細胞内T細胞シグナル伝達ドメインに連結している。前記scFvは標的化要素(targeting element)であり、CAR-T細胞の表面に発現して、抗原特異性を付与する。前記スペーサーは細胞外の前記標的化要素を膜貫通ドメインに接続し、CAR機能及びscFvの柔軟性に影響を与える。前記膜貫通ドメインは細胞膜を横断しており、CARを細胞表面に固定し、細胞外ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインに接続することで、細胞表面でのCARの発現に影響を与える。共刺激ドメインは、サイトカイン産生を増強するCD28や4-1BBなどの共刺激タンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインに由来する。CD3ζドメインは、T細胞受容体の細胞内シグナル伝達部分に由来し、T細胞活性化中に下流のシグナル伝達を媒介する。CAR-T治療剤の例として、B細胞表面抗原CD19(JCAR017及びJCAR014など[Juno Therapeutics社])、CTL019(チサゲンレクロイセル-T(tisagenlecleucel-T)(Kymriah(商標))[Novartis社])、及びKTE-C19(アキシカブタゲン シロロイセル(axicabtagene ciloleucel)(Yescarta(登録商標))[Kite Pharma社])、及びCD22(JCAR014[Juno Therapeutics社])を標的とするものが挙げられる。CAR-T治療剤の他の例として、L1-CAM(JCAR023[Juno Therapeutics社])、ROR-1(JCAR024[Juno Therapeutics社])、及びMUC16(JCAR020[Juno Therapeutics社])を標的とするものが挙げられる。
【0107】
CARのscFv部分は、重要な成分であり、標的外への毒性に関連し、正常細胞に対する活性を防ぎながら、がん細胞に対する特異性を確保する。よって典型的には、がん細胞上で特異的に発現するが他の細胞や組織上では頻度が低いか理想的には全く発現しない標的タンパク質を認識する抗体の部分に、scFv部分は由来する。したがって、本明細書に記載の抗CD24抗体のいずれかに由来するscFv断片は、組換えCARタンパク質のがん標的化成分(cancer targeting component)として使用され得る。特に、scFvタンパク質は、配列番号28に示される配列を含み得る。
【0108】
CAR-T細胞は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、B細胞急性リンパ芽球性白血病、成人骨髄性白血病(AML)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、原発性縦隔B細胞リンパ腫(PMBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、及び多発性骨髄腫(MM)などの血液腫瘍に対して優れた効果を示している。しかしながら、CAR-T治療剤は、これまで固形腫瘍に対しては限られた効果しか示してこなかった。腫瘍及び正常組織におけるCD24の特徴的な発現パターンにより、CD24CAR-Tを使用して生成されたデータで実証された標的となり得るがん種としては、脳腫瘍、頭頸部がん、肉腫、肺がん、消化器がん、乳がん、精巣がん、前立腺がん、膵臓がん、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、又は血液悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
7.TCR治療剤組成物
CAR-T治療剤と同様に、遺伝子改変T細胞受容体治療剤(TCR)は、がん患者のT細胞をエクスビボで遺伝子改変して、改変TCRを発現させ、T細胞を患者に注入した際にT細胞受容体が特定の抗原性細胞抗原を認識して攻撃する能力を向上させる細胞処置の一種である。ただし、表面に発現するタンパク質を認識するCAR-T細胞とは異なり、遺伝子改変TCRを使用したT細胞免疫治療剤は、固形腫瘍をより標的としてきた。TCRは、細胞内部の腫瘍特異的タンパク質を認識し得る。腫瘍特異的タンパク質が断片に分解されると、それらは主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex)又はMHCと呼ばれる別のタンパク質と共に細胞表面に現れる。TCRは、腫瘍特異的タンパク質断片/MHCの組み合わせを認識するように設計されている。TCR改変T細胞の標的の例として、KITE-718(Kite Pharma社)などMAGE-A3を標的とするもの、JTCR016 (Juno Therapeutics)などのウィルムス腫瘍抗原1(WT-1)、及びNY-ESO 1が挙げられる。
【0110】
TCRは、TCRα及びTCRβの2つのサブユニットからなるヘテロダイマーである。各サブユニットには、T細胞膜に隣接し、受容体を細胞膜に固定する定常領域と、抗原認識で機能する超可変領域とを含む。したがって、本明細書に記載の抗CD24抗体のいずれかに由来するscFv断片は、組換えTCRタンパク質のがん標的化成分として使用され得る。特に、scFvタンパク質は、配列番号28に示される配列を含み得る。
【0111】
8.ペプチド組成物
本明細書に記載の抗CD24抗体又はその抗原結合断片は、がん細胞上に露出しているが非がん性細胞上には露出していない、糖鎖で遮蔽されているエピトープに結合し得る。具体的には、前記抗CD24抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列SNSGLAPN(配列番号48)を含むCD24ペプチドに結合し得る。したがって、配列番号48に示される配列を含むペプチドを使用して、配列番号48に示される配列のコア配列を含むエピトープに結合する抗CD24抗体を中和し得る。これは、中和抗体を検出するための抗薬物抗体アッセイで使用され得る。配列番号48に示される配列を含むペプチドは、配列番号48に示される配列のコアを含むエピトープに結合する抗体に関連する潜在的な有害作用を阻害するために使用されうる。前記ペプチドは当技術分野で公知の方法を使用して、インビボ使用のためのより良い安定性のために修飾されてもよく、前記方法としてはD-アミノ酸の使用、1又は複数のペプチド結合におけるOからSへの置換、溶解性又は半減期を改善するための融合配列の追加(例えば、アルブミン融合)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに別の実施形態では、配列番号48に示すアミノ酸配列を含む分子は、がんの処置及び予防のためのワクチンとして使用され得る。
【0112】
9.処置法
本明細書に記載の抗CD24抗体組成物又はかかる抗体組成物を含む細胞治療剤は、がん又は別の異常な増殖性疾患を処置又は予防するために使用され得る。本明細書に提供されるのは、かかる使用を必要とする患者におけるかかる使用の方法であり、抗CD24抗体又はその抗原結合断片、あるいは前述の抗体又は断片を含む医薬組成物を、患者に投与することを含み得る。かかる分子及び医薬組成物はまた、がん又は他の異常な増殖性疾患を処置又は予防するための薬剤の製造において使用され得る。本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、細胞の異常な、制御されていない増殖に起因する新生物又は腫瘍を意味する。本明細書で使用される場合、がんには、白血病及びリンパ腫が明示的に含まれる。前記用語は、遠位部位に転移する可能性のある細胞が関与する疾患を意味する。前記患者はヒトであり得る。
【0113】
がん又は他の異常な増殖性疾患はまた、以下のうち一種または複数種(がこれらに限定されない)を含みうる:膀胱、乳房、結腸、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部、甲状腺、及び皮膚のがんを含むがん腫;扁平上皮がんを含む;白血病、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫を含むリンパ系の造血器腫瘍;急性及び慢性骨髄性白血病並びに前骨髄球性白血病を含む、骨髄系の造血性腫瘍;線維肉腫及び横紋筋肉腫を含む間葉起源の腫瘍;黒色腫、セミノーマ(精上皮腫)、テラトカルシノーマ(胚性奇型腫)、神経芽細胞腫、神経膠腫を含む他の腫瘍;星細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、神経鞘腫を含む中枢及び末梢神経系の腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫を含む間葉系腫瘍;及び黒色腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマ(角化棘細胞腫)、セミノーマ、甲状腺濾胞がん、及びテラトカルシノーマ(奇形がん)を含む他の腫瘍。アポトーシスの異常によって引き起こされるがんもまた、本発明の方法及び組成物によって処置されると考えられる。そのようながんには、濾胞性リンパ腫、p53変異を伴うがん腫、乳房、前立腺、及び卵巣のホルモン依存性腫瘍、家族性腺腫性ポリポーシスなどの前がん性病変、並びに骨髄異形成症候群が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、悪性腫瘍又は増殖異常性変化(化生及び異形成など)、又は過剰増殖性障害は、卵巣、膀胱、乳房、結腸、肺、皮膚、膵臓、又は子宮において本発明の方法及び組成物によって処置又は予防される。前記がんは、肉腫、黒色腫、又は白血病でありうる。
【0114】
前記抗CD24抗体及びその抗原結合フラグメントは、現在の標準的及び実験的化学治療剤、ホルモン治療剤、生物学的治療剤、免疫治療剤、放射線治療剤、又は手術から選択され得るがこれらに限定されない別の抗腫瘍治療剤と共に使用されてもよい。いくつかの実施形態では、前記抗CD24抗体及びその抗原結合フラグメントは、がん、自己免疫疾患、感染症、又は中毒の治療又は予防のために当業者に公知の治療的又は予防的有効量の1又は複数の薬剤、治療用抗体、又は他の薬剤と組み合わせて投与され得る。かかる薬剤には、例えば、上記の生物学的応答修飾因子、細胞毒素、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗生物質、有糸分裂阻害剤、又は免疫治療剤のいずれかが含まれる。
【0115】
前記抗CD24抗体及びその抗原結合フラグメントは、別の抗腫瘍免疫治療剤と共に使用されてもよい。抗腫瘍免疫治療剤は、免疫調節効果を増強するために、代替免疫調節経路(TIM3、TIM4、OX40、CD40、GITR、4-1-BB、B7-H1、PD-1、B7-H3、B7-H4、LIGHT、BTLA、ICOS、CD27、又はLAG3など)を妨害又は増強するか、又はサイトカイン(例えば、IL-4、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、GF-β、IFNg、Flt3、BLys)及びケモカイン(例えば、CCL21)などのエフェクター分子の活性を調節する分子を含みうる。特定の実施形態は、抗PD-1(ペンブロリズマブ(Keytruda(登録商標))又はニボルマブ(Opdivo(登録商標)))、抗B7-H1(アテゾリズマブ(Tecentriq(登録商標))又はデュルバルマブ(Imfinzi))、抗B7-H3、抗B7-H4、抗LIGHT、抗LAG3、抗TIM3、抗TIM4、抗CD40、抗OX40、抗GITR、抗BTLA、抗CD27、抗ICOS、又は抗4-1BBと組み合わせて、本明細書に記載される抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、二重特異性抗体を含む。さらに別の実施形態では、前記抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントは、より広範な免疫応答を達成するために、免疫応答の異なる段階又は側面を活性化する分子と組み合わせて投与される。より好ましい実施形態では、前記抗CD24抗体及びその抗原結合フラグメントは、自己免疫副作用を悪化させることなく、抗PD-1又は抗4-1BB抗体と組み合わされる。
【0116】
10.産生
前記抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントは、真核生物発現系を使用して作製されてもよい。発現系は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞におけるベクターからの発現を伴っていてもよい。発現系はまた、真核細胞に感染するために使用され得る複製欠損レトロウイルスベクターなどの、ウイルスベクターであってもよい。前記抗CD24抗体又はその抗原結合フラグメントは、細胞ゲノムに組み込まれたベクター又はベクターの一部から前記抗体を発現する安定細胞株から産生されてもよい。安定細胞株は、組み込まれた複製欠損レトロウイルスベクターから前記抗体を発現してもよい。発現系は、GPEx(商標)であってもよい。
【0117】
本明細書に記載の抗CD24抗体及びその抗原結合フラグメントは、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、DEAEイオン交換、ゲル濾過、及びヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法を使用して精製できる。いくつかの実施形態では、ポリペプチドが親和性マトリックス上に捕獲されることを可能にするアミノ酸配列を含む追加のドメインを含むように融合タンパク質を設計してもよい。例えば、免疫グロブリンドメインのFc領域を含む本明細書に記載される抗体は、プロテインA又はプロテインGカラムを使用して、細胞培養上清又は細胞質抽出物から単離されてもよい。さらに、ポリペプチドの精製を補助するために、c-myc、ヘマグルチニン、ポリヒスチジン、又はFlag(商標)(Kodak社)などのタグを使用することができる。そのようなタグは、カルボキシル基又はアミノ末端のいずれかを含む、ポリペプチド内の任意の位置に挿入可能である。有用であり得る他の融合体としては、アルカリホスファターゼなどの、ポリペプチドの検出を補助する酵素が挙げられる。ポリペプチドの精製には免疫親和性クロマトグラフィーが使用されてもよい。
【0118】
ワクチン
患者においてがんを処置する又は本明細書に記載されるがんの予防(prophylaxis)を提供する方法が、本明細書で提供される。前記方法では、がんに対抗して患者に予防接種(vaccinate)してもよい。前記方法は、配列番号48に示される配列を含む組成物を、それを必要とする患者に投与することを含み得る。前記組成物はまた、抗CD24抗体又はCD24に結合する受容体を発現する細胞の使用を含む治療に関連する有害作用を処置する必要がある患者に投与され得る。前記組成物はまた、がんを処置するための又はがんの予防を提供するための薬剤の製造において使用され得る。
【0119】
11.医薬組成物
治療有効量の上述の抗CD24抗体、細胞治療剤、又はペプチド組成物のいずれか、及び生理学的に許容される担体又は添加剤(excipient)を含む医薬組成物が本明細書で提供される。前記医薬組成物は、予防的有効量又は治療的有効量の抗CD24抗体又はその抗原結合断片、及び薬学的に許容される担体を含み得る。
【0120】
特定の実施形態では、「医薬的に許容される」という用語は、連邦政府又は州政府の規制機関、又は動物、より具体的にはヒトでの使用のために米国薬局方又は他の一般に認められた薬局方によって承認されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全及び不完全))、添加剤、又は媒体を指す。そのような医薬担体は、水や、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む油などの、無菌の液体であり得る。前記医薬組成物が静脈内投与される場合、水は好ましい担体である。生理食塩水、デキストロース水溶液、及びグリセロール溶液も、特に注射剤のための液体担体として使用することができる。適切な医薬添加剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。前記組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤を含んでいてもよい。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの形態をとることができる。
【0121】
一般に、前記医薬組成物の成分は、例えば、活性剤の量を示すアンプル又は分包などの密閉容器内の乾燥凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として、別々に又は混合して単位剤形で供給することができる。前記組成物が注入によって投与される場合、無菌の医薬品グレードの水又は生理食塩水を含む注入ボトルを用いて分注可能である。前記組成物が注射により投与される場合、投与前に成分が混合され得るように、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルが提供されてもよい。
【0122】
前記医薬組成物は、中性又は塩の形態として製剤化され得る。医薬的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどのアニオンで形成されたもの、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどのカチオンで形成されたもの含まれるが、これらに限定されない。
【0123】
12.投与方法
前記組成物及び前記医薬組成物を投与する方法は、非経口投与(例えば、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、及び皮下)、硬膜外投与、及び経粘膜投与(例えば、鼻腔内及び経口経路)を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記組成物は、筋肉内、静脈内、又は皮下に投与される。前記組成物は、例えば、注入又はボーラス注射、上皮又は粘膜皮膚ライニング(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を介した吸収によってなど、任意の簡便な経路によって投与することができ、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与してもよい。投与は全身的又は局所的であり得る。
【実施例】
【0124】
本開示は、以下の非限定的な実施例によって示されるように、複数の態様を有する。
【0125】
実施例1
低グリコシル化CD24に対するモノクローナル抗体の生成
腫瘍におけるNEU1及びCD24の過剰発現は、グリコシダーゼの調節不全を示唆する。グリコシダーゼの調節不全は、MUC1と同様にCD24が腫瘍で低グリコシル化されている(hypoglycosylated)可能性があることを示唆している。抗体である3B6の、CD24に対する結合は、シアル酸糖鎖によって妨げられる(
図1)。ELISAで検出されるように、市販の抗CD24抗体であるML5(BD bioscience社)と比べて、3B6は、N-SA-CD24及びN-SA-O-CD24には強く結合するが、N-CD24又は完全にグリコシル化されたCD24への結合は弱い。これは、3B6が結合するエピトープが実際にタンパク質主鎖であり、3B6の結合がエピトープのグリコシル化によって妨げられていることを示唆した。
【0126】
蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)及び免疫蛍光(IFA)染色の結果は、3B6が神経芽細胞腫及び髄芽腫を含む複数のがん細胞株に結合することを示している(
図2A~
図2B)。3B6は神経芽細胞腫細胞株IMR32、SK-N-SH、SH-SY5Y、SK-N-BE(2)、及びSK-N-BE(2)Cに結合するが、SK-N-ASには結合していない(
図2A)。3B6はまた、IFA染色で評価した患者から得られた髄芽腫腫瘍の4つのうち3つに結合している(
図2B)。これらのデータは、3B6ががん性細胞株及び腫瘍に結合可能であることを示唆している。
【0127】
実施例2
親和性成熟
CD24に対する3B6の結合親和性は、市販の抗体ML5(BD Bioscience社)及びSN3(Thermo Fisher社)と比較してかなり低かった。3B6のその抗原への結合の親和性及び特異性を高めるために、3B6の親和性成熟を行った。最初に、3B6抗体の重鎖(IgH)及び軽鎖(IgL)のクローンを作成し、Ig可変領域配列を以下のとおりに特定した。
【0128】
3B6のIgH(配列番号1、CDRは下線太字表示)
【0129】
【0130】
3B6のIgL(配列番号2、CDRは下線太字表示)
【0131】
【0132】
親抗体3B6からのVH断片及びVL断片を、scFv形式に変換し、ファージディスプレイベクターにクローン化した。scFvはファージ上に一価で提示されたため、より高い親和性を有するファージクローンの選択が可能となった。scFvの提示レベルを検証するために、scFvをFlag-6xHis検出タグと融合させた。ファージELISAを実施して、ファージディスプレイ形式での抗原への親抗体の結合を検証した。ファージ上清からの結合シグナルは顕著であったため、本企画はライブラリー構築に進んだ。
【0133】
選択及びスクリーニングを3ラウンド実施した。スクリーニングにおいて抗原CD24-GST及びビオチン化CD24-GSTの濃度を下げて、より高次のバインダークローンを選択した。各CDR突然変異誘発ライブラリーから48個のクローンを選択し、培養し、結合についてアッセイを行って配列決定した。親和性成熟scFvクローンの配列を確認してから、親和性成熟クローンのscFvを完全長抗体遺伝子に再フォーマットし、哺乳動物細胞で一過的に発現させた。全てのアフィニティー成熟抗体を、0.01リットルで小規模産生した。親抗体もまた直接比較するためにスケールアップした。表に示す重鎖及び軽鎖(表1)のプラスミドを、血清の非存在下で既知組成培地を使用して懸濁液HEK293細胞にトランスフェクトして、抗体を作製した。トランスフェクションの5日後、馴化培地を収集して清澄化した。馴化培地中の全抗体を、MabSelect SuRe(商標)Protein A培地(GE Healthcare社)を使用して精製した。
【0134】
【0135】
精製した親和性成熟抗体及び親抗体を、抗原に対するそれらの親和性について競合ELISAによって評価した。抗体PP6226(親3B6可変領域)を2μg/mLでプレートにコーティングした。アフィニティー成熟抗体を最初にCD24-GSTとインキュベートし、次にプレートとインキュベートし、続いて二次検出抗体をインキュベートした。
図3~
図5に示すように、親クローンと競合する能力が様々である16個の抗体を生成した。これらの抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号3~10(重鎖)及び配列番号11~16(軽鎖)である。
【0136】
親和性成熟クローンがCD24により強く結合するかどうか、及び相互作用が糖鎖で調節される(glycan-regulated)かどうかを判断するために、CD24をN-グリカナーゼ(N-CD24)、シアリダーゼNanA(SA-CD24)、又はその両方(N-SA- CD24)で処理した。
図3~
図5に記載の16個のクローンを、ELISAを使用して試験した。
図6に示すように、CD24-GSTに対する有意な親和性にもかかわらず、PP6231及びPP6230は、グリコシル化に関係なく、哺乳動物細胞によって発現されるCD24に結合できなかった。一方、他のほとんどのクローンは、シアリダーゼ及び/N-グリカナーゼで処理したCD24への優先的結合を維持していた。しかしながら、抗体結合に対するシアリダーゼ及びN-グリカナーゼの相対的な影響はクローンによってかなり異なるため、グリカンによる妨害に対する感受性を決定するためには各クローンを個別に試験する必要がある。
【0137】
SA-N-CD24に強く結合するが、CD24への結合が最小限である、6つのクローンを選択し、2つのがん細胞株である肺がん細胞株H727及び神経芽細胞腫細胞株IMR32への結合について試験した。
図7に示すように、6つのクローンが示すSA-N-CD24への結合は同様であるにもかかわらず、がん細胞への結合は有意に異なっていた。重要なことに、PP6373は、試験した両方のがん細胞株に対して有意に強い結合を示す。したがって、このクローンをさらなる研究のために選択する。PP6373の重鎖配列を配列番号6に示し、軽鎖配列は配列番号16に示す。親配列と比較して、重鎖はCDR2に3つの変異を有し、軽鎖は軽鎖のCDR3に1つの変異を有する。
図8に示すように、これらの変異はSA-N-CD24への結合をほぼ100倍に増加させるだけでなく、脱シアル化によって相互作用をより厳密に制御する。PP6373が得た、脱グリコシル化を伴わないCD24への結合能力は、SA-N-CD24への結合能力の1/1000レベルであったことも注目される。しかしながら、CHO細胞は不完全なグリコシル化を有することが公知であるため、前記結合は、CHO細胞から調製された組換えCD24中のマイナーなグリコフォームを検出する抗体のより高い感度を反映するものであろう。
【0138】
実施例3
3B6及びPP6373によって認識される抗原性エピトープ
3B6及び親和性成熟クローンPP6373によって認識される抗原性エピトープを決定するために、成熟CD24アミノ酸配列(配列番号42)をカバーする重複ペプチドを合成して3B6抗体と事前にインキュベートしてから、N-O-CD24タンパク質(N-グリコシダーゼ、NanA、及びO-グリコシダーゼで順次前処理したCD24Fc)で予めコーティングしたプレートに3B6を添加した。
図9に示すように、試験した5つのペプチド(配列番号43~47)のうち、ペプチド4(配列番号46)のみが3B6-CD24相互作用の有意なブロッキングを示したことは、CD24結合エピトープがこの配列に含まれることを示唆する。PP6373が同じエピトープを認識することを確認するために、5つのペプチドを広い用量範囲で滴定した。
図10に示すように、ペプチド4のみが、PP6373のSA-N-CD24への結合を用量依存的に阻害した。
【0139】
最小のPP6373結合部位を確定するために、一度に1アミノ酸ずつペプチド4を切り詰め、SA-N-CD24へのPP6373結合の阻害を比較した。
図11に示すように、C末端から3個のアミノ酸を欠失させると阻害が無効になったが、1又は2個のアミノ酸を欠失させると阻害が大幅に改善された(左パネル)。さらに、ペプチド4のN末端からアミノ酸を欠失させると、阻害も無効になった(右パネル)。これらのデータにより、SNSGLAPN(配列番号48)がPP6373によって認識される最適なエピトープとして同定される。
【0140】
抗原性エピトープの同定により、同様の特性を有するさらなる抗体を生成できる。一実施形態では、配列SNSGLAPN(配列番号48)を含む合成ペプチドを使用して、当業者は新しい抗体を生成することができるであろう。前記ペプチドは、別の免疫原性タンパク質担体に結合させるか、アジュバントと組み合わせて使用してもよい。別の実施形態では、当業者は前記ペプチドを使用して、同じエピトープを認識する他の抗CD24mAbを同定して、がんの診断及び処置のためのがん特異的抗体を生成することができるであろう。さらに別の実施形態では、前記抗原ペプチドを使用して、配列番号48のコア配列を含むエピトープに結合する抗体に関連する潜在的な有害作用を中和又は阻害することができる。前記ペプチドは、D-アミノ酸の使用、1又は複数のペプチド結合におけるOからSへの置換、溶解性又は半減期を改善する融合配列の追加(例えば、アルブミン融合)を含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の方法を使用して、インビボ使用に向けて安定性をより良くするために修飾され得る。さらに別の実施形態では、配列番号48のアミノ酸配列を含む分子は、がんワクチンの処置及び予防のためのワクチンとして使用することができる。
【0141】
実施例4
正常組織と悪性組織における抗原性エピトープの発現の対比
PP6373によって認識されるエピトープが正常組織に比してがん組織で優先的に提示されるかどうかを判断するために、ビオチン化PP6373を使用した免疫蛍光法による組織結合を分析した。正常組織のデータを表2に要約し、がん組織のデータを表3に要約する。さらに、正常な良性脳腫瘍及び悪性脳腫瘍に対する抗体の結合を評価している。データは表4に要約されている。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
表2に示すように、膵臓及びおそらく脾臓を除いて、PP6373は正常組織を染色しなかった。膵臓の染色のほとんどが細胞内に認められることが注目される。脾臓では、染色を示した細胞が稀な数あった。対照的に、表3に示すように、試験したほとんどのがんはPP6373への強い結合を示している。表4に示すように、正常なCNS組織にはCD24が全くないが、良性髄膜腫では細胞表面の染色ではなく細胞内に見られる。重要なことに、星状細胞腫、神経膠芽腫、乏突起膠腫などの悪性脳腫瘍は、細胞表面染色を8%~70%の範囲で示し、さらに、一部のがん組織は細胞内染色を示した。
【0146】
一実施形態では、PP6373を使用して、悪性脳腫瘍を正常又は良性の脳組織から区別することができる。別の実施形態では、PP6367を使用して、肝臓、肺、乳房、及び卵巣などの固形臓器のがん組織を識別することができる。
【0147】
実施例5
PP6373はインビボで肺がんの増殖を遅らせる
PP6373がインビボで腫瘍増殖を遅らせることができるかどうかを試験するために、ヌードマウスにヒト肺がん細胞株H727を皮下投与した。腫瘍が触知可能になった時点で、担がんマウスに5mg/kgのPP6373を2回注射した(H727接種の14日後及び21日後)。
図12に示すように、IgG対照と比較して、PP6373で処理した腫瘍では増殖の速度が大幅に減少していた。これらのデータは、未修飾PP6373がインビボで抗腫瘍活性を示し得ることを示している。
【0148】
我々のインビトロ研究では、PP6367が強力な抗体依存性細胞傷害(antibody-dependent cellular cytotoxicity)を媒介することが、
図13におけるように示されており、インビボでの腫瘍増殖遅延と一致する。
【0149】
ADCCはグリコシル化、特にフコシル化の影響を受けるため、抗体工学を用いて、コアFCフコシル化がないPP6373(d6373)を生成した。
図14に示すように、フコシル化はPP6373のADCC活性を増加させた。
【0150】
本データは、PP6373ががんの処置に使用され得ることを示す。一実施形態では、PP6373 WT IgG1は、がん患者に投与されるがん治療抗体として使用され得る。別の実施形態において、前記抗体は、化学的に糖工学により修飾するか、又はフコシルトランスフェラーゼを欠く細胞株で産生することができる。
【0151】
実施例6
PP6373及びOKT3配列に基づく二重特異性抗体
抗CD24抗体を兵器化(weaponize)するために、CD24及びCD3の両方に結合する二重特異性抗体を作成した。一実施形態では、抗CD24抗体及び抗CD3(OKT3)抗体は、それぞれ、CD24及びCD3に対する反応性を有する一本鎖抗体に変換され、可撓性リンカー配列GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号49)によって連結される。PP6373一本鎖抗体の配列を配列番号17に示し、OKT3一本鎖配列を配列番号18に示す。
【0152】
一実施形態では、二重特異性分子の2つのパートナーがFc領域に相補的突然変異を有し、ノブ・アンド・ホール(knob and hole)を作成して二重特異性ヘテロダイマーの形成を促進するノブ・アンド・ホール技術によって、二重特異性抗体が生成される。PP6373及びOKT3のノブ・アンド・ホールバリアントの配列を、配列番号19~22に示す。様々なノブ・アンド・ホール構成の二重特異性を評価するために、様々なノブ・アンド・ホール産物のコトランスフェクション(同時形質移入)の産物と共にJurkat細胞を染色することからなるアッセイを開発した。簡潔に述べると、CD3+Jurkat細胞はまず、トランスフェクトされた293T細胞の組織培養上清と共に染色された。未結合の抗体を洗い流した後、細胞をビオチン化SA-N-CD24と共にインキュベートした。Jurkat細胞上のSA-N-CD24の量を、PE-ストレプトアビジンによって検出した。
図15に示すように、PP6373ホールとOKT3ノブとの組み合わせは、Jurkat細胞へのCD24結合が最も高く、PP6373ホールとOKT3ノブとのペアリングがノブ・アンド・ホール戦略に最適であることを示している。
【0153】
別の実施形態では、前記二重特異性抗体は、2つの一本鎖結合モチーフのタンデムリピートによって生成される。ここでも、配列番号23及び24にそれぞれ示されるように、PP6373-OKT3及びOKT3-PP6373という反対の順序で異なる結合モチーフを持つ2つの構成の活性を比較した。
図16に示すように、N末端にPP6373一本鎖を有する構築物(PP6373-OKT3、配列番号23)は、より高い二重特異性活性を示す。
【0154】
前記二重特異性抗体が抗腫瘍細胞活性を有するかどうかを決定するために、肺がん細胞株H727を、抗CD3及び抗CD28で2日間活性化したT細胞と共培養した。最初に、がん細胞がサイトカインの産生を特異的に誘発できるかどうかを試験した。
図17に示すように、重要なサイトカインは二重特異性抗体によれば誘導されるが、PP6373-FcのOKT3-Fcによっては誘導されない。さらに重要なことに、前記二重特異性抗体は、T細胞及び腫瘍細胞の両方が共存しない限り、サイトカイン産生を誘導しない。これらのデータは、前記二重特異性抗体がT細胞及び腫瘍細胞の両方に関与することによってT細胞の活性化を引き起こすことを示している。
【0155】
サイトカイン放出アッセイと同時に、フローサイトメトリーによって生存色素標識腫瘍細胞をビーズに基づき計数することに基づいて、腫瘍細胞に対する細胞傷害性も評価した。
図18に示すように、前記二重特異性抗体は、T細胞が存在する場合にのみ腫瘍細胞の喪失を引き起こす。
【0156】
さらに別の実施形態として、前記二重特異性抗体は、FIT-Ig技術によって産生され得る。簡潔に述べると、二重特異性抗体は、VL
6373-CL-VH
OKT3-CH1-Fc(配列番号25)、VH
6373-CH1(配列番号26)、及びVL
OKT3-CL(配列番号27)をそれぞれコードする3つの構築物の共発現によって形成される。
図19に示すように、FIT-Ig抗体はOKT3及びSA-N-CD24の両方に対して良好な二重特異性結合活性を示した。結合に加えて、この二重特異性抗体が有意なサイトカイン応答(
図20)及び腫瘍細胞に対する細胞傷害性(
図21)を誘導することも見出された。さらに、この二重特異性抗体(FIT-Ig)は、先の二重特異性抗体PP6373-OKT3及びOKT3-PP6373と比較して高い熱安定性を示した(
図22)。
【0157】
実施例7
がん治療のためのキメラ抗原受容体(CAR)修飾T細胞(CAR-T)に対するPP6373の使用
前記抗CD24抗体は広域スペクトルのがん細胞と反応し、キメラ抗原受容体を産生してT細胞に抗がん活性を付与するために使用され得る。一実施形態では、PP6373一本鎖Fv配列(配列番号28)又は他の抗CD24 mAb一本鎖(αCD24SC)が、
図23に示されるように、当技術分野で公知のCAR-Tベクターに挿入される。続いて、構築物は、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、又はアデノウイルスベクターに由来するものを含む、当技術分野で公知の遺伝子ベクターに挿入される。
【0158】
CARの活性を試験するために、Pan T Cell Isolation Kit, human(Miltenyl Biotec社)を使用して、健康なドナーからのPBMCを濃縮してT細胞を得た(0日目)。ヒト汎T細胞を抗CD3及び抗CD28で24時間刺激し、IL-2で2日間培養した。活性化T細胞を模擬処理(対照T)するか、CD24-CARを担持するレンチウイルスに感染させた(2日目)。CAR-Tの抗腫瘍活性を試験するために、対照T細胞又はCD24 CAR-T細胞をCellTraceViolet(Thermo Fisher社)標識腫瘍細胞と一晩共培養した。腫瘍細胞の溶解は、Fixable Viability DyeeFluor(商標)660(eBioscience社)で染色することにより測定し、下記式で計算した。
【0159】
溶解%=(死細胞%-自己消化細胞%)/(1-自己消化細胞%)
【0160】
図24に示すように、CD24 CAR-Tは、エフェクター細胞とターゲット細胞の比率(E/T)の広い範囲内で、肺がん細胞株A549に対して強力な細胞傷害性を示す。
【0161】
CAR-Tががん細胞によって活性化されるかどうかを試験するために、4×104個のCAR-T細胞又は対照T細胞をA549腫瘍細胞と一晩インキュベートし、上清中のIFNγを測定した。
図25に示すように、CAR-Tは、対照T細胞ではなく、A549腫瘍細胞刺激に応答してIFNγを産生した。
CD24はがん種の複数の系統間で広く発現している。
図26に示すように、CD24 CAR-Tは、肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がん、神経芽細胞腫、及び神経膠腫など、多くのがん種に対して幅広い細胞傷害性を示す。
【0162】
まとめると、本開示のデータは、本開示の抗体に基づくCD24CAR-Tががん処置に大きな可能性を秘めていることを示している。標的となり得るがん種としては、脳腫瘍、頭頸部がん、肉腫、肺がん、消化器がん、乳がん、精巣がん、前立腺がん、膵臓がん、肝臓がん、又は血液悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【0163】
実施例8
がん治療のためのPP6373のヒト化
pdb4PB0の構造をモデル構造として用いて、PP6373 Fvホモロジーモデルを構築した。VH及びVLの両方が90%を超える4PB0との相同性を共有している。ヒトIgデータベースの検索で、ヒト生殖細胞系V領域配列IGHV3-73*01及びJ領域配列IGHJ4*01が適切な構造として特定され、重鎖のCDR領域(Onc-1 VH)のヒトアクセプターフレームワークとして使用された。ヒト生殖細胞系V領域IGKV2-29*02及びJ領域配列IGKJ4*01は、軽鎖(Onc-1 VL)のCDR領域のヒトアクセプターフレームワークとして適用された。4つのVH配列及び4つのVL配列を設計した(配列番号29~36)。新たな産物は、ヒト化スコアをVHにおいて73%から83%超に、VLにおいて80%から83%超に改善する。PP6373マウスFvの構造アラインメント及びヒト化バージョンのPP6373のFv(hu-VHv1VLv1、配列番号29及び33)は、高度の類似性を示した(
図27)。
【0164】
CD24結合に最適なHuVH及びHuVLの組み合わせを選択するために、様々な組み合わせを293細胞に72時間コトランスフェクトした。次に、発現培地を使用して2つのELISAを実施した。ELISA1:96ウェルプレートを精製ヤギ抗ヒトポリクローナルIgG(GAH)でコーティングし、ブロッキング後、発現培地又は精製対照IgGを添加し、ヤギ抗ヒトIgG-HRPを検出抗体として使用した。ELISA2:96ウェルプレートをCD24-GSTタンパク質でコーティングし、ブロッキング後、発現培地又は精製対照IgGを添加し、ヤギ抗ヒトIgG-HRPを検出抗体として使用した。キメラPP6373抗体の結合が両方のELISAで100%であると考えられる場合は、異なる結合度を示す様々なVH及びVLの組み合わせをキメラ抗体の組み合わせと比較し、相対結合によってランク付けする(事前スクリーニングから選択したリードは精製後に再度比較する)。第1ラウンドの事前スクリーニングデータを
図28に要約する。この実験のデータは、a)L3は、L3をリードにする単位タンパク質あたりの結合能力が高いこと、及びb)H1L3(配列番号29及び35)、H2L3(配列番号30及び35)、H3L3(配列番号31及び35)、及びH4L3(配列番号32及び35)が、PP6373に対する4つのヒト化リードであることを示唆した。
【0165】
リード抗体であるH2L3及びH3L3が腫瘍細胞に結合する能力を保持しているかどうかを試験するために、PP6373とともに当該ヒト化抗体をビオチン化した。
図29に示すように、試験した2つのヒトがん細胞への結合はPP6373の方が良好であったが、H2L3及びH3L3の両方がIC
50がnM範囲内にある強い結合を示している。
【0166】
PBL(
図30、
図31)又はPBLから精製したNK細胞(
図32)をエフェクターとして使用し、A549細胞を標的細胞として使用してADCCアッセイを実施した。驚いたことに、H2L3及びH3L3は腫瘍細胞への結合が不十分であるが(
図29)、低濃度の抗体を使用した場合は、ADCCにおいてより強力なエフェクターとなる(
図30)。予測した通り、脱フコシル化PP6373(d6373)はADCCにおいてより強力である(
図31、
図32)。
【0167】
まとめると、本開示のデータは、PP6373のヒト化クローンがヒトがん細胞への有意な結合と驚くほど強力なADCC活性を示すことを実証した。一実施形態では、がんを処置するために前記抗体を使用しうる。別の実施形態において、前記ヒト化抗体は、二重特異性抗体の重要な成分として使用され得る。この活性を調べるために、H3及びL3を含む2つの構築物を生成して、FIT-Ig技術に基づく二重特異性抗体を産生した。ヒト化FIT-Ig抗体の配列は、配列番号37及び38に示されており、配列番号27と併せて使用される。さらに、ヒト化FIT-Ig配列を最適化するためにいくつかの変異を作成した。それらを配列番号39~41示す。具体的には、3つの配列すべてが、タンパク質の精製と合成のためにN末端にシグナル配列を含む。配列番号39では、ADCCを阻止するためにFc領域に変異(DからAへの変異)が導入された。配列番号27では、構築中に制限酵素部位によってもたらされた(induced)1つの余分なRが、VLOKT3とCLの間に存在する。配列番号41では、その余分なRは欠失していた。
【0168】
さらに別の実施形態では、ヒト化抗体は、当技術分野で公知の方法を使用して、がん治療のためのCAR-Tの重要な構成要素として使用されうる。
【0169】
実施例9
糖鎖で遮蔽されているエピトープを有する抗CD24抗体は、CD24を高発現する正常細胞には結合しない
抗体に基づく免疫治療剤の重要な要件は、正常組織に対する反応性が最小限であることである。CD24は造血細胞、特に顆粒球、B細胞、赤血球の一部、単球の一部に豊富に発現しているため、PP6373並びにその2つのヒト化クローンH2L3及びH3L3を従来の抗CD24 mAbであるML5と比較した。
図33に示すように、ML5は通常高レベルのCD24を発現する細胞に強い結合を示すが、H2L3及びH3L3はB細胞や赤血球には結合せず、顆粒球にはほとんど結合しない。この結果は、マクロファージ及び非Bリンパ球の一部などの他の細胞種への結合が最小限であることを示している。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1>
非がん性細胞上では糖鎖で遮蔽されている(glycan-shielded)ががん細胞上では露出するエピトープに結合する抗体を含む、組成物。
<2>
前記抗体がCD24に結合する、<1>に記載の組成物。
<3>
前記抗体が、配列番号48に示される配列を含むペプチドに結合する、<1>に記載の組成物。
<4>
前記抗体が、配列番号1に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号2に示される配列を含む軽鎖可変領域を含む、<1>に記載の組成物。
<5>
前記抗体が、配列番号3~配列番号10のいずれか1つに示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号11~配列番号16のいずれか1つに示される配列を含む軽鎖可変領域を含む、<1>に記載の組成物。
<6>
前記抗体が、配列番号6に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号16に示される配列を含む軽鎖可変領域を含む、<5>に記載の組成物。
<7>
前記抗体が、配列番号29~配列番号32のいずれか1つに示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号33~配列番号36のいずれか1つに示される配列を含む軽鎖可変領域を含む、<1>に記載の組成物。
<8>
前記抗体が、配列番号30に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号35に示される配列を含む軽鎖可変領域を含む、<7>に記載の組成物。
<9>
前記抗体が、配列番号31に示される配列を含む重鎖可変領域及び配列番号35に示される配列を含む軽鎖可変領域を含む、<7>に記載の組成物。
<10>
<1>~<9>のいずれか一つに記載の組成物を含む第1の抗体ドメイン及び第2の抗体又はその抗原結合断片を含む第2の抗体ドメインを含む、二重特異性抗体。
<11>
前記第2の抗体ドメインががん免疫療法のために免疫エフェクターT細胞を前記がん細胞に引き付ける、<10>に記載の二重特異性抗体。
<12>
前記第2の抗体又はその抗原結合断片がCD3に結合する、<10>に記載の二重特異性抗体。
<13>
配列番号17に示される配列及び配列番号18に示される配列を含む、<10>に記載の二重特異性抗体。
<14>
配列番号23~配列番号27及び配列番号37~配列番号41のいずれか1つに示される配列を含む、<10>に記載の二重特異性抗体。
<15>
前記第2の抗体又はその抗原結合断片がTCR-α鎖、TCR-β鎖、TCR-γ鎖又はTCR-δ鎖に結合する、<10>に記載の二重特異性抗体。
<16>
抗体介在性細胞傷害(ADCC)活性を有する、<1>~<15>のいずれか一つに記載の抗体又は二重特異性抗体。
<17>
増強されたADCC活性を有するように設計されている、<16>に記載の抗体又は二重特異性抗体。
<18>
抗体介在性細胞貪食(ADCP)活性を有する、<1>~<17>のいずれか一つに記載の抗体又は二重特異性抗体。
<19>
増強されたADCP活性を有するように設計されている、<18>に記載の抗体又は二重特異性抗体。
<20>
<4>~<9>のいずれか一つに記載の組成物を含む一本鎖抗体を含む、キメラ抗原受容体。
<21>
配列番号28に示される配列を含む、<20>に記載のキメラ抗原受容体。
<22>
<1>~<21>のいずれか一つに記載の抗体、二重特異性抗体又はキメラ抗原受容体及び第二の抗がん治療剤を含む、組成物。
<23>
<1>~<22>のいずれか一つに記載の抗体、二重特異性抗体、キメラ抗原受容体又は組成物を、がん処置を必要としている患者に投与することを含む、前記患者におけるがんを処置する方法。
<24>
前記がんが肺がん、卵巣がん、乳がん、肝臓がん、脳がん、子宮頸がん、腎がん、精巣がん、前立腺がん又は神経芽細胞腫である、<23>に記載の方法。
<25>
抗CD24抗体又はCD24に結合する受容体を発現する細胞を含む治療に関連する有害作用を処置する必要がある患者に、配列番号48に示される配列を含む組成物を投与することを含む、前記患者における前記有害作用を処置する方法。
<26>
がんを処置又は予防(prophylaxis)する必要がある患者に、配列番号48を含む組成物を投与することを含む、前記患者におけるがんを処置又は予防する方法。
<27>
<1>に記載の抗体の使用を含む、悪性組織又は転移性病変を診断する方法。
<28>
<1>に記載の抗体の使用を含む、循環がん細胞を識別する方法。
<29>
がんを処置するための薬剤の製造における、<1>~<22>のいずれか一つに記載の抗体、二重特異性抗体、キメラ抗原受容体又は組成物の使用。
<30>
前記がんが肺がん、卵巣がん、乳がん、肝臓がん、脳がん、子宮頸がん、卵巣がん、腎がん、精巣がん、前立腺がん又は神経芽細胞腫である、<29>に記載の方法。
<31>
抗CD24抗体又はCD24に結合する受容体を発現する細胞の治療的使用に関連する有害作用を処置するための薬剤の製造における、配列番号48に示される配列を含む組成物の使用。
<32>
がんを処置又は予防するための薬剤の製造における、配列番号48を含む組成物の使用。
【配列表】