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特許7294784作業車のための駆動システムの運転方法及び作業車のための駆動システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】作業車のための駆動システムの運転方法及び作業車のための駆動システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/12 20120101AFI20230613BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20230613BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B60W10/12
B60W10/184
B60W10/00 150
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018187114
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2019073270
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】A 50840/2017
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(73)【特許権者】
【識別番号】597083976
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AVL LIST GMBH
【住所又は居所原語表記】HANS-LIST-PLATZ 1,A-8020 GRAZ,AUSTRIA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】藤本 義知
(72)【発明者】
【氏名】北村 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・パックマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ・ヘンペル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ベイヤー
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-43284(JP,A)
【文献】実開昭56-56429(JP,U)
【文献】特開昭63-90434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B60K 23/00-23/08
B60K 17/28-17/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの左駆動輪と少なくとも1つの右駆動輪との間の一体的な回転連結が生み出されて、双方の駆動輪が同一の回転数で回転する有効化と、駆動輪間の回転数同期が中止される無効化と、に切り換え可能なディファレンシャルロック(DL)を装備した作業車(1)のための駆動システム(2)の運転方法であって、
前記作業車(1)の少なくとも1つの操向ブレーキモードにおいて、前記作業車の左ブレーキ(5)と右ブレーキ(6)とが互いに独立に操作される場合に、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は自動的に無効化され、
前記作業車(1)の少なくとも1つの直進走行モードにおいて、前記作業車(1)の前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが共通して有効化されるかまたは共通して無効化される場合に、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は有効化されたままであるかまたは有効化されるように構成した方法において、
少なくとも1つの第一センサ(5a、6a)によって、前記左ブレーキ(5)または前記右ブレーキ(6)が有効化されているか否かが検出されて、ブレーキの有効化を示すステータス(BSL、BSR)に関する第一情報が電子制御ユニット(ECU)に送信され、
第二センサ(10a)によって、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが一体化されているか否かが検出されて、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)との間の一体化を示すステータス(BSK)に関する第二情報が前記電子制御ユニット(ECU)に送信され、
前記第一情報および前記第二情報に基づいて、前記電子制御ユニット(ECU)によって、前記ディファレンシャルロック(DL)が有効化されたままであるかまたは無効化されるか否かが決定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
少なくとも1つの左駆動輪と少なくとも1つの右駆動輪との間に切換式ディファレンシャルロック(DL)を装備した作業車(1)のための駆動システム(2)の運転方法であって、
前記作業車(1)の少なくとも1つの操向ブレーキモードにおいて、前記作業車の左ブレーキ(5)と右ブレーキ(6)とが互いに独立に操作される場合に、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は自動的に無効化され、
前記作業車(1)の少なくとも1つの直進走行モードにおいて、前記作業車(1)の前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが共通して有効化されるかまたは共通して無効化される場合に、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は有効化されたままであるかまたは有効化されるように構成した方法において、
少なくとも1つの第一センサ(5a、6a)によって、前記左ブレーキ(5)または前記右ブレーキ(6)が有効化されているか否かが検出されて、ブレーキの有効化を示すステータス(BSL、BSR)に関する第一情報が電子制御ユニット(ECU)に送信され、
第二センサ(10a)によって、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが一体化されているか否かが検出されて、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)との間の一体化を示すステータス(BSK)に関する第二情報が前記電子制御ユニット(ECU)に送信され、
前記第一情報および前記第二情報に基づいて、前記電子制御ユニット(ECU)によって、前記ディファレンシャルロック(DL)が有効化されたままであるかまたは無効化されるか否かが決定され、
実車速が所定の閾車速を超えている場合に、前記電子制御ユニット(ECU)によって、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は無効化されることを特徴とする方法。
【請求項3】
少なくとも1つの左駆動輪と少なくとも1つの右駆動輪との間に切換式ディファレンシャルロック(DL)を装備した作業車(1)のための駆動システム(2)の運転方法であって、
前記作業車(1)の少なくとも1つの操向ブレーキモードにおいて、前記作業車の左ブレーキ(5)と右ブレーキ(6)とが互いに独立に操作される場合に、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は自動的に無効化され、
前記作業車(1)の少なくとも1つの直進走行モードにおいて、前記作業車(1)の前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが共通して有効化されるかまたは共通して無効化される場合に、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は有効化されたままであるかまたは有効化されるように構成した方法において、
少なくとも1つの第一センサ(5a、6a)によって、前記左ブレーキ(5)または前記右ブレーキ(6)が有効化されているか否かが検出されて、ブレーキの有効化を示すステータス(BSL、BSR)に関する第一情報が電子制御ユニット(ECU)に送信され、
第二センサ(10a)によって、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが一体化されているか否かが検出されて、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)との間の一体化を示すステータス(BSK)に関する第二情報が前記電子制御ユニット(ECU)に送信され、
前記第一情報および前記第二情報に基づいて、前記電子制御ユニット(ECU)によって、前記ディファレンシャルロック(DL)が有効化されたままであるかまたは無効化されるか否かが決定され、
前記作業車の実際のステアリング角が所定の閾角度を越えている場合に、前記電子制御ユニット(ECU)によって、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は無効化されることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記第二情報に基づいて、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)との一体化および前記左ブレーキ(5)および/または前記右ブレーキ(6)の有効化が確認される場合に、前記電子制御ユニット(ECU)によって、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は有効化されたままであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記第一情報に基づいて、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)との同時有効化または無効化が確認される場合に、前記電子制御ユニット(ECU)によって、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は有効化されたままであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの第一情報と前記第二情報に基づいて、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)との切り離しおよび前記双方のブレーキの一方(5、6)の有効化と前記他方のブレーキ(6、5)の無効化が確認される場合に、前記電子制御ユニット(ECU)によって、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は無効化されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの左駆動輪と少なくとも1つの右駆動輪との間の一体的な回転連結が生み出されて、双方の駆動輪が同一の回転数で回転する有効化と、駆動輪間の回転数同期が中止される無効化と、に切り換え可能なディファレンシャルロック(DL)を装備した作業車(1)のための駆動システム(2)であって、
前記作業車(1)の少なくとも1つの操向ブレーキモードにおいて、前記作業車(1)の左ブレーキ(5)と右ブレーキ(6)とが互いに独立に操作される場合に、動作中の前記ディファレンシャルロック(DL)は自動的に無効化可能であり、
前記作業車(1)の少なくとも1つの直進走行モードにおいて、前記作業車(1)の前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが共通して有効化されるかまたは無効化される場合に、前記ディファレンシャルロック(DL)は有効化されたままであるように構成した駆動システムにおいて、
少なくとも1つの第一センサ(5a、6a)によって、前記左ブレーキ(5)または前記右ブレーキ(6)が有効化となっているか否かが検出可能であって、ブレーキの有効化のステータス(BSL、BSR)に関する第一情報が少なくとも1つの第一情報送信路(5b、6b)を介して電子制御ユニット(ECU)に送信可能であり、
第二センサ(10a)によって、前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)とが一体化されているか否かが検出可能であって、前記左ブレーキ(5)と右ブレーキ(6)との間の一体化を示すステータス(BSK)に関する第二情報が第二情報送信路(10b)を介して前記電子制御ユニット(ECU)に送信可能であり、
前記電子制御ユニット(ECU)が、前記第一情報および前記第二情報に応じて前記ディファレンシャルロック(DL)の有効化または無効化に関する決定を行なうためのロジックユニットを有することを特徴とする駆動システム。
【請求項8】
前記左ブレーキ(5)と前記右ブレーキ(6)のステータス(BSL、BSR)を検出するためにそれぞれ第一センサ(5a、6a)が設けられていることを特徴とする請求項7記載の駆動システム(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの左駆動輪と少なくとも1つの右駆動輪との間の切換式ディファレンシャルロックを装備した作業車、特にトラクタのための駆動システムの運転方法であって、作業車の少なくとも1つの操向ブレーキモードにおいて、作業車の左ブレーキと右ブレーキとが互いに独立に操作される場合に、動作中のディファレンシャルロックが自動的に無効化され、作業車の少なくとも1つの直進走行モードにおいて、作業車の左ブレーキと右ブレーキとが共同有効化されるかまたは共同無効化される場合に、動作中のディファレンシャルロックは有効化されたままであるかまたは有効化されるように構成した方法に関する。本発明はさらに、上記方法を実施するための駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
標準的に、トラクタのブレーキシステムは次のように、つまり、低速の車速において小さな回転半径を描くための操舵を支援するため、操向ブレーキモードにおいてトラクタの片側の車輪のみを制動することができるように構成されている。そのため、ほとんどの場合に、たとえば道路走行用に、ブレーキモードにおいて両側車輪を制動するために、通例、機械的もしくは電子的にも一体化可能な二体式のブレーキペダルが設けられる。双方のブレーキペダルが切り離されている場合には、トラクタは、左ブレーキペダルのみまたは右ブレーキペダルのみが操作されることにより、操向ブレーキによる操向が可能である。
【0003】
トラクタは加えてさらに、少なくとも1つの左駆動輪と少なくとも1つの右駆動輪との間に一体駆動する回転連結を形成して駆動輪の回転数を同期させるために、ほとんどの場合、ディファレンシャルロックを標準装備している。これによって、特に、地面が固くない場合、たとえば農作業に際して、車両の直進走行挙動およびトラクションが向上する。さらに、ブレーキ時において、たとえば不均等なブレーキ摩耗によって生じる車両の左側と右側との間の制動力の相違は、ディファレンシャルロックを有効化することによって解消できる。
【0004】
ただし、特にグリップの良い地面でのカーブ走行に際し、駆動トレインの応力を低下させ、車両の操向性を向上させると共に、駆動輪のタイヤ摩耗を減少させるために、ディファレンシャルロックの無効化が好適である。同じ理由から、通例、操向ブレーキが無効化となっている場合にのみ、ディファレンシャルロックの有効化が可能である。
【0005】
たとえばブレーキシリンダに接続されたセンサを介して、左または右のブレーキが互いに独立してまたは共通して操作されるか否かを確認することが可能である。ただし、何らかの理由から、左側または右側のセンサがブレーキステータスを検知するために機能しない場合には、たとえ操向ブレーキが動作中でなくとも、ディファレンシャルロックは当然無効化されたままである。これは、摩擦状態が異なるせいで左駆動輪と右駆動輪との間の回転数差がもはや補整されないために、特に、地面が固くない場合に、トラクタの作業能力、トラクションおよび直進走行挙動を大幅に劣化させる。逆に、センサが故障している場合には、操向ブレーキを実施するための片側ブレーキの操作に際するディファレンシャルロックの自動による無効化は保証されず、そのため、駆動トレインの機械的ストレスによる損傷が起こり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した短所を回避し、できるだけ簡単に、操向ブレーキモードにおける駆動トレインの損傷を防止すると共に、車両の信頼度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、本発明により、好ましくは少なくとも1つの第一センサによって、左ブレーキまたは右ブレーキが有効化となっているか否かが検出されて、ブレーキの有効化を示すステータスに関する第一情報が電子制御ユニットに送信され、好ましくは第二センサによって、左ブレーキと右ブレーキとが一体化されているか否かが検出されて、左ブレーキと右ブレーキとの間の一体化を示すステータスに関する第二情報が電子制御ユニットに送信され、第一情報および第二情報に基づいて電子制御ユニットによって、ディファレンシャルロックが有効化されたままであるかまたは無効化されるか否かが決定されることによって達成される。
【0008】
ここで、マニュアル操作によるディファレンシャルロックの切換えとは、ドライバーによる、ディファレンシャルロックの有効化または無効化に関する要求が、入力装置たとえばスイッチを介して、電子制御ユニットに伝達されることを意味する。したがって、入力装置を介したマニュアル操作によるディファレンシャルロックの動作状態(動作中)または非動作状態とは、ディファレンシャルロックの有効化または無効化と同等ではない。ディファレンシャルロックの有効化または無効化は、ドライバーの要求および1つまたは複数の所定の基本条件(単数/複数)、たとえばステアリンクブレーキモードが有効化となっているかまたは無効化されているか否かに基づいて、電子制御ユニットによって行なわれる。その他の基本条件として、車両速度および/または車両のステアリング角変位を考慮することが可能である。
【0009】
基本条件(単数/複数)のチェックは、たとえば、第一情報および/または第二情報および、必要に応じて、実際の車速および実際のステアリング操作に関するその他の情報に基づいて行なわれる。
【0010】
ここで、ディファレンシャルロックの有効化とは、ドライバーの要求によって、少なくとも1つの左駆動輪と少なくとも1つの右駆動輪との間の一体的な回転連結が生み出されて、双方の駆動輪が同一の回転数で回転することを意味する。反対に、ディファレンシャルロックの無効化に際しては、駆動輪間の回転数同期は中止される。
【0011】
第一と第二情報の組み合わせによって、たとえば第一センサが故障している場合にも、ドライバーによって要求されたブレーキモードを確実に認識することが保証される。
【0012】
第二情報に基づいて、第一ブレーキと第二ブレーキとの一体化および左ブレーキおよび/または右ブレーキの有効化が確認される場合には、好ましくは、動作中のディファレンシャルロックは電子制御ユニットによって有効化されたままである。
【0013】
本発明の一実施態様において、第一情報に基づいて、第一ブレーキと第二ブレーキの同時の有効化または無効化が確認される場合には、動作中のディファレンシャルロックは電子制御ユニットによって有効化されたままである。
【0014】
本発明の一実施形態において、少なくとも1つの第一情報および第二情報に基づいて、第一ブレーキと第二ブレーキの切り離しおよび双方のブレーキのいずれか一方の有効化と他方のブレーキの無効化が確認される場合には、動作中のディファレンシャルロックは電子制御ユニットによって無効化される。こうして、第一情報ならびに第二情報の双方によって片側ブレーキの操作が判明する場合には、実際のドライバーの要求とは無関係に、自動での切り離しが行なわれる。
【0015】
本発明のさらに別な一実施形態において、車両の実際のステアリング角が所定の閾角度を超えている場合にも、動作中のディファレンシャルロックは電子制御ユニットによって無効化される。したがって、ステアリング操作が確認されるとすぐに、車両の支障のない方向変更を可能とするために、ディファレンシャルロックは自動的に無効化される。
【0016】
さらに、本発明の範囲において、車両の実際の車速が所定の閾車速を超えている場合に、動作中のディファレンシャルロックは電子制御ユニットによって無効化されてもよい。これによって、ディファレンシャルロックの有効化は低速走行運転中にのみ可能である。これによって、駆動トレインの過度な機械的ストレスの回避が可能である。
【0017】
好適には、左ブレーキのために第一センサおよび右ブレーキのために1つの第一センサが設けられている。第一センサはそれぞれ、たとえば、第一ブレーキないし第二ブレーキの油圧系に接続された圧力センサまたは変位センサ、たとえば誘導センサ、ホールセンサまたは接触センサであってよく、該センサは二つの切換え状態に関する情報、つまり、無効化状態を表す“0”および有効化状態を表す“1”を与える。第二センサはシンプルな接触センサ、誘導センサまたはホールセンサであってよく、該センサは第一と第二ブレーキ間の一体化状態に関する情報、たとえば、切り離しを表す“0”および一体化を表す“1”を電子制御ユニットに出力する。第三センサにも同じことが当てはまり、該センサは出力信号、無効化されたハンドブレーキを表す“0”および有効化されたハンドブレーキを表す“1”を電子制御ユニットに送信する。
【0018】
本発明の方法を実施するには、左ブレーキ用の第一センサと右ブレーキ用のさらに別の第一センサとを備え、その際、第一センサによって、左ブレーキまたは右ブレーキが有効化となっているか否かを検出し得るように構成した駆動システムが適している。さらに、第一ブレーキと第二ブレーキの間の一体化を示すステータスを検出することのできる第二センサが設けられている。
【0019】
第一と第二センサは第一と第二情報送信路を介して電子制御ユニットと接続されている。電子制御ユニットは、第一情報および第二情報に応じて、全輪駆動の有効化または無効化に関する決定を行うために、ハードウェアまたはソフトウェアとして実現された決定構造体を有している。
【0020】
一体化センサによって、左ブレーキと右ブレーキ間の一体化が有効化となっているかまたは無効化となっているかが検出されることにより、スイッチセンサが故障している場合にも、操向ブレーキが行なわれているか否かを確認することが可能である。操向ブレーキが行なわれている場合には、ディファレンシャルロックは無効化される。操向ブレーキの認識は、本発明によれば、一体化センサの情報によって行なわれる。
【0021】
一方のブレーキ、したがって左ブレーキまたは右ブレーキが有効化となっていると共に、それぞれ他方のブレーキ、したがって右ブレーキないし左ブレーキが無効化されていれば、電子制御ユニットによって、作業車のドライバーが操向ブレーキを実行しようとしていることが認識される。場合、駆動トレインを保護するために、左駆動輪と右駆動輪との間の一体的な回転連結が中止される。第一および第二ブレーキの非同期操作が終了させられ、場合により、その他の基本条件、たとえば、車速およびステアリング角も満たされていれば、ディファレンシャルロックの動作中に関するこれに関連したドライバーの要求がなお存続している限りで、左および右の駆動輪間の回転数を同期させるために、再びディファレンシャルロックの有効化が行なわれる。
【0022】
以下、本発明を制限するものではない図面によって示した実施形態に依拠して、本発明を詳細に説明する。各図は以下を示している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による方法を実施するための駆動トレインを概略的に示す図である。
図2】本発明による方法を実施するための決定行列を示す図である。
図3】第一センサが故障の際の、本発明による方法を実施するための全輪駆動の有効化または無効化に関する決定行列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、切換式ディファレンシャルロックDLを備えた駆動システム2を有する作業車1たとえばトラクタを概略的に示す図であり、その際、車軸、本実施形態において、後車軸3の車輪4a、4bは機械式ブレーキ5、6を有する。機械式ブレーキ5、6はブレーキペダル7、8を介して油圧式操作、または、ハンドブレーキ9を介してマニュアル操作が可能である。制御線11bを介して電子制御ユニットECUと接続されたスイッチ11を介して、ドライバーはディファレンシャルロックDLをマニュアル操作によって動作状態または非動作状態にすることができる。その際、ドライバーがスイッチ11を介してディファレンシャルロックDLを動作状態にする場合、電子制御ユニットECUによって、ディファレンシャルロックDLの無効化に関する所定の基本条件が満たされているか否かがチェックされる。基本条件が満たされている場合にのみ、電子制御ユニットECUによって、ディファレンシャルロックDLの実際の有効化が行なわれる。ディファレンシャルロックDLを有効化するための基本条件とは、操向ブレーキが無効化されていること、ステアリング角が所定の閾値よりも小さいことおよび/または車両速度が所定の閾値を下回っていることである。
【0025】
操向ブレーキモードを実現するために、左ブレーキ5および右ブレーキ6は、左ブレーキペダル7ないし右ブレーキペダル8を介して別々に有効化可能である。これは、作業車1の低速走行運転中の操向性を向上させる。左ブレーキ5と右ブレーキ6は、作業車1をたとえば道路走行運転中に通常ブレーキモードで運転するために、一体化装置10によって互いに一体化可能である。一体化装置10は、たとえば、左ブレーキペダル7と右ブレーキペダル8とを一体化するための機械式連結要素によって構成可能である。
【0026】
左ブレーキ5および右ブレーキ6にはそれぞれ第一センサ5a、6aが配備され、該センサは、左ブレーキ5のステータスBSLおよび右ブレーキ6のステータスBSRに関する第一情報を、それぞれ一本の第一情報送信路5b、6bを介して、電子制御ユニットECUに送信する。さらに、たとえば、左ブレーキペダル7と右ブレーキペダル8のための一体化装置10の領域には第二センサ10aが配置されており、該センサは、左ブレーキ5と右ブレーキ6との一体化のステータスBSKに関する第二情報を検出し、それを第二情報送信路10bを介して電子制御ユニットECUに供給する。情報送信路5b、6b、10bは有線であっても無線であってもよい。
【0027】
電子制御ユニットECUは、スイッチ11によってプリセットされたドライバーの要求と第一、第二および第三情報とに基づいて駆動スイッチ要素11を用いて全輪駆動3を有効化または無効化するように構成されたロジックユニット12を有する。ロジックユニット12はソフトウェアによって実現されても、ハードウェアによって実現されてもよい。ロジックユニット12は図2に示した決定行列を基礎としており、該決定行列中では、ディファレンシャルロックDLの有効化ないし無効化の作動条件として、左ブレーキ5のステータスBSL、右ブレーキ6のステータスBSR、一体化装置10のステータスBSKが考慮されている。図2において、“0”はそれぞれ無効化状態を表し、“1”はそれぞれ有効化状態を表している。
【0028】
ディファレンシャルロックDLの有効化ないし無効化に関するさらに別の基本条件として、作業車のステアリング角および/または車速を考慮することが可能である。
【0029】
図2には、第1縦列の数字1~8によって、左ブレーキ5のステータス、右ブレーキ6のステータス、左ブレーキ5と右ブレーキ6との間の一体化のステータス、BSL、BSR、BSKに関するセンサ5a、6a、10aの情報のさまざまな組み合わせ、ならびにそれからの結果である、ディファレンシャルロックDLを動作状態にすることを求めるドライバーの要求が存在する場合の、ディファレンシャルロックDLの有効化に関する決定が示されている。さらに、決定条件として、車両速度VSおよびステアリング角SAが考慮されており、その際、それぞれ“-”は、車両速度VSないしステアリング角SAの実際値が所定の閾速度ないし所定の閾ステアリング角を下回っていることを意味している。“+”は、車両速度VSないしステアリング角SAの実際値が所定の閾速度ないし所定の閾ステアリング角を上回っていることを意味している。“X”は、BSL、BSR、VS、SA、BSKのステータスないし値は任意であることを意味している。表2の第9および第10横行から、車両速度VSまたはステアリング角SAの値がそれぞれの所定の閾値を超えると直ちに、ディファレンシャルロックは無効化されることがわかる。
【0030】
左ブレーキ5に関するステータスBSL=0および/または右ブレーキ6に関するステータスBSR=0は、第一ブレーキ5ないし第二ブレーキ6の無効化を示している。ただし、これらは第一センサ5aまたは6aの誤作動に基づく可能性もある。それゆえ、付加的な決定条件として、第一ブレーキ5と第二ブレーキ6との間の一体化のステータスBSKに関する第二センサ10aの第二情報が援用される。
【0031】
ドライバーによってスイッチ11を介して動作中のディファレンシャルロックDLの無効化には、ブレーキの少なくとも一方、したがって、左ブレーキ5および/または右ブレーキ6が無効化となっていると共に、加えてさらに一体化装置10も無効化、したがって、開放されていなければならず(図2、横第6、7行、参照)および/または車速VSおよび/またはステアリング角SAが所定の閾値を上回っていなければならない。
【0032】
その他のいずれの場合にも、ドライバーによって動作中のディファレンシャルロックDLは有効化されるかまたは有効化されたままである(図2、横第1~5行および第8行、参照)。
【0033】
操向ブレーキモードにて相対的に大きなステアリング角変位時ならびに相対的に高速の車速VS時におけるディファレンシャルロックDLの無効化により、駆動システム2の駆動トレイン2の損傷が防止されると共に、支障のない走行方向変更を行なうことが可能である。低速直進走行にて、ブレーキペダル7、8が同期操作されるかまたはされない場合におけるディファレンシャルロックDLの有効化により、駆動輪4a、4bの回転数が同期されることによって、特に、地面が固くない場合、作業車1のトラクションおよびドライバビリティーが高められる。
【0034】
ディファレンシャルロックDLの有効化に関する付加的な決定条件としての第二センサ10aの使用により、作業車1の駆動の堅牢性および信頼度を向上させることが可能となる。
【0035】
図3から明らかなように、双方の第一センサ5a、6aのいずれか一方が少なくとも1つのブレーキペダルの操作を示し(BSL=1またはBSR=1)、さらに第二センサ10aが、第一ブレーキ5と第二ブレーキ6とが一体化されていること(BSK=1)を示す場合には、ディファレンシャルロックDLは、第一センサ5a、6aの一方が故障している場合にも、有効化となっている(DL=1)。反対に、第二センサ10aが、第一ブレーキ5と第二ブレーキ6とが切り離されていること(BSK=0)示すと、直ちにディファレンシャルロックDKは無効化される(DL=0)。
図1
図2
図3