(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】転舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230613BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230613BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230613BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20230613BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230613BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D117:00
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2019002356
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】511056585
【氏名又は名称】ジェイテクト・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】JTEKT EUROPE
【住所又は居所原語表記】Z.I. du Broteau, 69540 IRIGNY, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】スラーマ タヘル
(72)【発明者】
【氏名】ムレア パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ラミニ ピエール
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222356(JP,A)
【文献】特開2010-098810(JP,A)
【文献】特開2014-213779(JP,A)
【文献】特開2016-107711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 117/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機が内蔵されて且つ転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを操作対象とし、
運転者が入力する操舵トルクに基づき前記転舵輪を転舵させるための前記電動機の操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である操舵側操作量を算出する操舵側操作量算出処理と、
外部から運転者の運転を支援するための指令値であって前記転舵輪の転舵角に換算可能な換算可能角度の指令値である角度指令値が入力される場合、前記換算可能角度を角度指令値に制御する操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である角度側操作量を算出する角度側操作量算出処理と、
外部から前記角度指令値が入力されていないときに、前記操舵側操作量に応じたトルク指令値に前記電動機のトルクを制御すべく前記電動機の駆動回路を操作する第1操作処理と、
外部から前記角度指令値が入力されている
状態において、定常的に、前記操舵側操作量および前記角度側操作量の双方に応じた前記トルク指令値に前記電動機のトルクを制御すべく前記電動機の駆動回路を操作する第2操作処理と、を実行する転舵制御装置。
【請求項2】
前記第2操作処理は、前記トルク指令値に対する前記操舵側操作量のゲインと前記トルク指令値に対する前記角度側操作量のゲインとの2つのゲインのうちの少なくとも1つのゲインを可変とする可変処理を含む請求項
1記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記操舵側操作量は、前記操舵トルクを目標トルクにフィードバック制御するための操作量である請求項1
または2記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵側操作量と前記操舵トルクとを同一の物体に働く力に換算した量同士の和に基づき、前記目標トルクを算出する目標トルク算出処理を実行する請求項
3記載の転舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機が内蔵されて且つ転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを操作対象とする転舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、運転者による操舵トルクの検出値を目標操舵トルクにフィードバック制御するための操作量によって、転舵輪を転舵させるための動力源である電動機を操作する転舵制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)などの運転者の運転を支援する運転支援装置を構築することが検討されている。しかし、上記転舵制御装置の場合、運転を支援するための運転支援指令値として外部から転舵角の指令値が与えられる場合には、これに対処することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.電動機が内蔵されて且つ転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを操作対象とし、運転者が入力する操舵トルクに基づき前記転舵輪を転舵させるための前記電動機の操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である操舵側操作量を算出する操舵側操作量算出処理と、外部から運転者の運転を支援するための指令値であって前記転舵輪の転舵角に換算可能な換算可能角度の指令値である角度指令値が入力される場合、前記換算可能角度を角度指令値に制御する操作量であって前記電動機に要求されるトルクに換算可能な操作量である角度側操作量を算出する角度側操作量算出処理と、外部から前記角度指令値が入力されていないときに、前記操舵側操作量に応じたトルク指令値に前記電動機のトルクを制御すべく前記電動機の駆動回路を操作する第1操作処理と、外部から前記角度指令値が入力されているときに、前記操舵側操作量と前記角度側操作量とのうちの少なくとも前記角度側操作量に応じた前記トルク指令値に前記電動機のトルクを制御すべく前記電動機の駆動回路を操作する第2操作処理と、を実行する転舵制御装置である。
【0006】
上記第1操作処理によって操舵側操作量に応じたトルク指令値に電動機のトルクが制御されているときに、外部から角度指令値が入力されたとしても、これに応じて電動機のトルクの制御を変更することは困難である。そこで上記構成では、角度側操作量算出処理を実行し、換算可能角度を角度指令値に制御するための角度側操作量が算出される。そして、第2操作処理によって、角度側操作量に応じて駆動回路を操作することにより、角度指令値に応じて電動機のトルクを制御することができ、ひいては運転を支援するための指令値の入力に対処することができる。
【0007】
2.前記第2操作処理は、前記操舵側操作量および前記角度側操作量の双方に応じた前記トルク指令値に前記電動機のトルクを制御すべく前記電動機の駆動回路を操作する処理を含む上記1記載の転舵制御装置である。
【0008】
上記構成では、外部から角度指令値が入力されているときに、第2操作処理によって、操舵側操作量および角度側操作量の双方に応じたトルク指令値に電動機のトルクが制御されることにより、電動機のトルクを、運転者による操舵の意思に応じたトルクに外部からの運転の支援のためのトルクが重畳された値に制御することができる。
【0009】
3.前記第2操作処理は、前記トルク指令値に対する前記操舵側操作量のゲインと前記トルク指令値に対する前記角度側操作量のゲインとの2つのゲインのうちの少なくとも1つのゲインを可変とする可変処理を含む上記1または2記載の転舵制御装置である。
【0010】
上記構成では、可変処理を実行することにより、運転を支援するための指令値と、運転者による操舵とのいずれを優先するかを状況に応じて変更することができる。
4.前記操舵側操作量は、前記操舵トルクを目標トルクにフィードバック制御するための操作量である上記1~3のいずれか1つに記載の転舵制御装置である。
【0011】
上記構成では、操舵トルクを目標トルクにフィードバック制御することにより、フィードバック制御しない場合と比較して、目標トルクへの制御性を向上させることができ、ひいては運転者の操舵フィーリングが良好となるように制御することができる。
【0012】
5.前記操舵側操作量と前記操舵トルクとを同一の物体に働く力に換算した量同士の和に基づき、前記目標トルクを算出する目標トルク算出処理を実行する上記4記載の転舵制御装置である。
【0013】
操舵側操作量は、電動機に要求されるトルクに換算可能であることから、操舵側操作量と操舵トルクとによって、転舵輪を転舵させるために車両側から加える力が定まり、この力から、横力が定まる。一方、運転者による操舵フィーリングを良好とする上で要求される目標トルクは、横力に応じて定まる傾向がある。このため、上記構成では、上記和に基づき目標トルクを定めることにより、目標トルク算出処理の設計が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態にかかる電動パワーステアリング装置を示す図。
【
図2】同実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理を示すブロック図。
【
図3】同実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図。
【
図4】第2の実施形態にかかる転舵制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態にかかる転舵制御装置について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、運転者のステアリングホイール22の操作に基づいて転舵輪12を転舵させる操舵機構20、および転舵輪12を電動で転舵させる転舵アクチュエータ30を備えている。
【0016】
操舵機構20は、ステアリングホイール22と、ステアリングホイール22に固定されたステアリングシャフト24と、ラックアンドピニオン機構27と、を備えている。ステアリングシャフト24は、ステアリングホイール22と連結されたコラムシャフト24aと、コラムシャフト24aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト24bと、インターミディエイトシャフト24bの下端部に連結されたピニオンシャフト24cとを有している。ピニオンシャフト24cの下端部は、ラックアンドピニオン機構27を介してラック軸26に連結されている。ラック軸26の両端には、タイロッド28を介して、左右の転舵輪12が連結されている。したがって、ステアリングホイール22、すなわちステアリングシャフト24の回転運動は、ピニオンシャフト24cおよびラック軸26からなるラックアンドピニオン機構27を介してラック軸26の軸方向(
図1の左右方向)の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸26の両端にそれぞれ連結されたタイロッド28を介して、転舵輪12にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪12の転舵角が変化する。
【0017】
一方、転舵アクチュエータ30は、ラック軸26を操舵機構20と共有し、また、電動機32や、インバータ33、ボールねじ機構34、ベルト式減速機構36を備えている。電動機32は、転舵輪12を転舵させるための動力の発生源であり、本実施形態では、電動機32として、3相の表面磁石同期電動機(SPMSM)を例示する。ボールねじ機構34は、ラック軸26の周囲に一体的に取り付けられており、ベルト式減速機構36は、電動機32の出力軸32aの回転力をボールねじ機構34に伝達する。電動機32の出力軸32aの回転力は、ベルト式減速機構36およびボールねじ機構34を介して、ラック軸26を軸方向に往復直線運動させる力に変換される。このラック軸26に付与される軸方向の力によって、転舵輪12を転舵させることができる。
【0018】
転舵制御装置40は、転舵輪12を制御対象とし、その制御量である転舵角を制御すべく、転舵アクチュエータ30を操作する。転舵制御装置40は、制御量の制御に際し、トルクセンサ50によって検出される、運転者がステアリングホイール22を介して入力するトルクである操舵トルクThや、車速センサ52によって検出される車速Vを参照する。また、転舵制御装置40は、回転角度センサ54によって検出される出力軸32aの回転角度θmや、電動機32を流れる電流iu,iv,iwを参照する。なお、電流iu,iv,iwは、インバータ33の各レッグに設けられたシャント抵抗における電圧降下として検出されるものとすればよい。
【0019】
また転舵制御装置40は、上位ECU60と通信線62を介して通信が可能となっている。上位ECU60は、運転者の運転を支援するための指令値を転舵制御装置40に出力する機能を有する。
【0020】
転舵制御装置40は、CPU42、ROM44および周辺回路46を備え、それらが通信線48を介して接続されているものである。なお、周辺回路46は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。
【0021】
図2に、転舵制御装置40が実行する処理の一部を示す。
図2に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42が実行することにより実現される。
ベース目標トルク算出処理M10は、後述する軸力Tafに基づき、ステアリングホイール22を介して運転者がステアリングシャフト24に入力すべき目標トルクTh*のベース値であるベース目標トルクThb*を算出する処理である。ここで、軸力Tafは、ラック軸26に加わる軸方向の力である。軸力Tafは、転舵輪12に作用する横力に応じた量となることから、軸力Tafによって横力を把握することができる。一方、ステアリングホイール22を介して運転者がステアリングシャフト24に入力すべきトルクは、横力に応じて定めることが望ましい。したがって、ベース目標トルク算出処理M10は、軸力Tafから把握される横力に応じてベース目標トルクThb*を算出する処理となっている。
【0022】
詳しくは、ベース目標トルク算出処理M10は、軸力Tafの絶対値が同一であっても車速Vが小さい場合に大きい場合よりも、ベース目標トルクThb*の絶対値をより小さい値に算出する処理である。これは、たとえば、軸力Tafまたは軸力Tafから把握される横加速度および車速Vを入力変数とし、ベース目標トルクThb*を出力変数とするマップデータが予めROM44に記憶された状態でCPU42によりベース目標トルクThb*をマップ演算することによって実現できる。ここで、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。またマップ演算は、たとえば、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とするのに対し、一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。
【0023】
ヒステリシス処理M14は、転舵輪12の転舵角に換算可能な換算可能角度であるピニオンシャフト24cの回転角度(ピニオン角θp)に基づき、ベース目標トルクThb*を補正するヒステリシス補正量Thysを算出して出力する処理である。詳しくは、ヒステリシス処理M14は、ピニオン角θpの変化等に基づき、ステアリングホイール22の切り込み時および切り戻し時を識別し、切り込み時において切り戻し時と比較して目標トルクTh*の絶対値がより大きくなるように、ヒステリシス補正量Thysを算出する処理を含む。詳しくは、ヒステリシス処理M14は、車速Vに応じてヒステリシス補正量Thysを可変設定する処理を含む。
【0024】
加算処理M12は、ベース目標トルクThb*にヒステリシス補正量Thysを加算することによって、目標トルクTh*を算出する処理である。
トルクフィードバック処理M16は、操舵トルクThを目標トルクTh*にフィードバック制御するための操作量である操舵側操作量Ts0*を算出する処理である。操舵側操作量Ts0*は、操舵トルクThを目標トルクTh*にフィードバック制御するための操作量を含んだ量である。フィードバック操作量は、たとえば操舵トルクThおよび目標トルクTh*の符号がともに正の場合、操舵トルクThが目標トルクTh*よりも大きい場合に、電動機32に対する要求トルクの絶対値を増加させるための量となる。なお、操舵側操作量Ts0*は、電動機32に対する要求トルクに応じた量であるが、本実施形態では、操舵側操作量Ts0*は、ステアリングシャフト24に加わるトルクに換算された量となっている。
【0025】
軸力算出処理M18は、操舵側操作量Ts0*に操舵トルクThを加算することによって、軸力Tafを算出する処理である。なお、操舵トルクThは、ステアリングシャフト24に加わるトルクのため、本実施形態において軸力Tafは、ラック軸26の軸方向に加わる力を、ステアリングシャフト24に加わるトルクに換算した値となっている。
【0026】
積算処理M20は、電動機32の回転角度θmの積算値Inθを算出する処理である。なお、本実施形態では、車両が直進するときの転舵輪12の転舵角を「0」としており、転舵角が「0」であるときの積算値Inθを「0」とする。換算処理M22は、積算値Inθを、ステアリングシャフト24から電動機32までの減速比Kmで除算することによって、ピニオン角θpを算出する処理である。
【0027】
角度側操作量算出処理M30は、ピニオン角θpを、上位ECU60から入力されるピニオン角指令値θp*に制御するための操作量である角度側操作量Tt0*を算出する処理である。角度側操作量Tt0*は、電動機32に対する要求トルクに応じた量であるが、本実施形態では、ステアリングシャフト24に加わるトルクに換算された量となっている。
【0028】
角度側操作量算出処理M30は、角度側操作量Tt0*が後述する処理によって補正された角度側操作量Tt*以外に、ピニオン角θpに影響するトルクを、外乱トルクTldとしてこれを推定する外乱オブザーバM32を含む。
【0029】
なお、本実施形態では、外乱トルクTldをステアリングシャフト24に加わるトルクに換算しており、外乱オブザーバM32は、ステアリングシャフト24のトルクに換算された角度側操作量Tt*を用いて、以下の式(c2)によって、外乱トルクTldを推定する。
【0030】
J・θp*’’=Tt*+Tld …(c2)
詳しくは、本実施形態では、ピニオン角θpの推定値θpe、角度側操作量Tt*およびオブザーバゲインl1,l2,l3を規定する3行1列の行列Lを用いて以下の式(c3)にて、外乱トルクTldや推定値θpeを算出する。
【0031】
【数1】
微分演算処理M34は、ピニオン角指令値θp*の微分演算によってピニオン角速度指令値を算出する処理である。
【0032】
フィードバック項算出処理M36は、ピニオン角指令値θp*と推定値θpeとの差を入力とする比例要素の出力値および微分要素の出力値の和であるフィードバック操作量Ttfbを算出する処理である。
【0033】
2階微分処理M38は、ピニオン角指令値θp*の2階時間微分値を算出する処理である。フィードフォワード項算出処理M40は、2階微分処理M38の出力値に慣性係数Jを乗算することによってフィードフォワード操作量Ttffを算出する処理である。2自由度操作量算出処理M42は、フィードバック操作量Ttfbと、フィードフォワード操作量Ttffとの和から、外乱トルクTldを減算して、角度側操作量Tt0*を算出する処理である。
【0034】
操舵側ゲイン処理M50は、操舵側操作量Ts0*に「0」以上「1」以下の値を有する操舵側ゲインKsを乗算した値である操舵側操作量Ts*を出力する処理である。角度側ゲイン処理M52は、角度側操作量Tt0*に「0」以上「1」以下の値を有する角度側ゲインKtが乗算された値である角度側操作量Tt*を出力する処理である。
【0035】
加算処理M54は、操舵側操作量Ts*と角度側操作量Tt*とを加算して、電動機32に対する要求トルクTdを算出する処理である。
換算処理M56は、要求トルクTdを減速比Kmで除算することによって、要求トルクTdを、電動機32に対するトルクの指令値であるトルク指令値Tm*に換算する処理である。
【0036】
操作信号生成処理M58は、電動機32のトルクをトルク指令値Tm*に制御するためのインバータ33の操作信号MSを生成して出力する処理である。なお、操作信号MSは、実際には、インバータ33の各レッグの各アームの操作信号となる。
【0037】
図3に、操舵側ゲインKsおよび角度側ゲインKtの設定処理の手順を示す。
図3に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0038】
図3に示す一連の処理において、CPU42は、まず、ADASフラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。ADASフラグFは、「1」である場合に、上位ECU60からピニオン角指令値θp*が入力されていることを示し、「0」である場合にピニオン角指令値θp*が入力されていないことを示す。CPU42は、「0」であると判定する場合(S10:NO)、ピニオン角指令値θp*の入力がない状態からある状態に切り替わった時点であるか否かを判定する(S12)。CPU42は、
図3に示す一連の処理の前回の実行タイミングにおいて、ピニオン角指令値θp*が入力されておらず、今回の実行タイミングにおいて入力されている場合、切り替わった時点であると判定して(S12:YES)、ADASフラグFに「1」を代入する(S14)。そしてCPU42は、操舵側ゲインKsに「1」を代入するとともに、角度側ゲインKtに「1」を代入する(S16)。
【0039】
これに対し、CPU42は、ADASフラグFが「1」であると判定する場合(S10:YES)、ピニオン角指令値θp*が入力されている状態から入力されていない状態に切り替わった時点であるか否かを判定する(S18)。そしてCPU42は、切り替わった時点ではないと判定する場合(S18:NO)、S16の処理に移行する。これに対しCPU42は、
図3に示す一連の処理の前回の実行タイミングにおいて、ピニオン角指令値θp*が入力されており、今回の実行タイミングにおいてピニオン角指令値θp*が入力されていない場合、切り替わった時点であるとして(S18:YES)、ADASフラグFに「0」を代入する(S20)。CPU42は、S20の処理が完了する場合や、S12の処理において否定判定する場合には、操舵側ゲインKsに「1」を代入するとともに、角度側ゲインKtに「0」を代入する(S22)。
【0040】
なお、CPU42は、S16,S22の処理が完了する場合、
図3に示す一連の処理を一旦終了する。
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
【0041】
CPU42は、転舵制御装置40の外部からピニオン角指令値θp*が入力されない場合、操舵トルクThを目標トルクTh*にフィードバック制御するための操作量である操舵側操作量Ts0*から定まるトルク指令値Tm*に電動機32のトルクを制御する。これにより、操舵トルクThが目標トルクTh*になるように電動機32のトルクが制御されることから、操舵フィーリングを良好とすることができる。
【0042】
一方、CPU42は、転舵制御装置40の外部からピニオン角指令値θp*が入力されると、ピニオン角θpをピニオン角指令値θp*にフィードバック制御するための操作量である角度側操作量Tt0*と操舵側操作量Ts0*との和から定まるトルク指令値Tm*となるように電動機32のトルクを制御する。これにより、ピニオン角θpがピニオン角指令値θp*に追従するように制御されることから、上位ECUからの運転の支援を反映することができる。
【0043】
ちなみに、操舵側ゲインKsおよび角度側ゲインKtの双方が「1」である場合、外乱オブザーバM32によって推定される外乱トルクTldは、操舵トルクThと、操舵側操作量Ts0*とを含む。これにより、たとえばピニオン角指令値θp*の2階時間微分値がゼロとは異なる場合、2自由度操作量算出処理M42において、ピニオン角θpに必要な加速度を生じさせるためのトルクであるフィードフォワード操作量Ttffから、少なくとも操舵トルクThと、操舵側操作量Ts0*とが差し引かれることとなる。
【0044】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0045】
上記第1の実施形態では、外部からピニオン角指令値θp*が転舵制御装置40に入力される場合、操舵側ゲインKsおよび角度側ゲインKtの双方を「1」とした。これに対し本実施形態では、状況に応じてゲインを可変とする。
【0046】
図4に、本実施形態にかかる操舵側ゲインKsおよび角度側ゲインKtの設定処理の手順を示す。
図4に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、
図4において、
図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付してその説明を省略する。
【0047】
図4に示す一連の処理において、CPU42は、S14の処理が完了する場合や、S18の処理において否定判定する場合には、操舵トルクThの絶対値が所定値Tth未満であるか否かを判定する(S24)。ここで所定値Tthは、運転者が緊急回避等のために急激にステアリングホイール22を切った場合に生じうる操舵トルクThの絶対値に設定されている。CPU42は、所定値Tth以上であると判定する場合(S24:NO)、運転者による操舵を尊重すべく、操舵側ゲインKsに「1」を代入して且つ角度側ゲインKtに「0」を代入する(S22)。
【0048】
これに対しCPU42は、所定値Tth未満であると判定する場合(S24:YES)、ピニオン角指令値θp*とピニオン角θpとの差の絶対値が所定値Δθth未満であるか否かを判定する(S26)。ここで、所定値Δθthは、操舵トルクThが過度に大きくない場合であって且つ運転者の操舵と上位ECU60の意図する操舵とに大きな乖離がない場合に生じうるピニオン角指令値θp*とピニオン角θpとの差の絶対値の最大値よりも大きい値に設定されている。そして、CPU42は、所定値Δθth以上であると判定する場合(S26:NO)、操舵側ゲインKsに、「0」よりも大きく「1」よりも小さい所定値δを代入するとともに、角度側ゲインKtに「1」を代入する(S28)。なお、CPU42は、S26の処理において肯定判定する場合、S16の処理に移行する。
【0049】
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
CPU42は、外部からピニオン角指令値θp*が入力されているときであっても、操舵トルクThが過度に大きくなる場合、操舵側ゲインKsを「1」として且つ角度側ゲインKtを「0」とする。これにより、CPU42は、操舵側操作量Ts0*によって定まるトルク指令値Tm*に電動機32のトルクを制御する。そのため、運転者が緊急回避のためにステアリングホイール22を大きく切った場合に、運転者の意図する操舵をアシストすることができる。
【0050】
一方、CPU42は、操舵トルクThが過度に大きくない場合において、ピニオン角指令値θp*とピニオン角θpとの間に大きな乖離がある場合、操舵側ゲインKsを「1」よりも小さい値として、トルク指令値Tm*の設定にとって角度側操作量Tt0*の影響を支配的とする。これにより、ピニオン角指令値θp*をピニオン角θpに追従させやすくなる。
【0051】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,2,4]操舵側操作量算出処理は、ベース目標トルク算出処理M10、加算処理M12、ヒステリシス処理M14、トルクフィードバック処理M16に対応する。換算可能角度は、ピニオン角θpに対応する。第1操作処理は、角度側ゲインKtが「0」である場合における加算処理M54、換算処理M56および操作信号生成処理M58に対応する。第2操作処理は、角度側ゲインKtが「0」よりも大きい場合における加算処理M54、換算処理M56および操作信号生成処理M58に対応する。駆動回路は、インバータ33に対応する。[3]可変処理は、
図4におけるS26の処理に応じたS16,S28の処理に対応する。[5]目標トルク算出処理は、ベース目標トルク算出処理M10、加算処理M12およびヒステリシス処理M14に対応する。
【0052】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態の各事項の少なくとも1つを、以下のように変更してもよい。
・「可変処理について」
図4のS24の処理において否定判定する場合、角度側ゲインKtに「0」を代入することは必須ではない。たとえば「1」よりも小さく「0」よりも大きい値としてもよい。
【0053】
また、操舵側ゲインKsや角度側ゲインKtを操作することも必須ではない。たとえば、
図4のS24の処理において否定判定する場合に、角度側操作量Tt0*の絶対値のガード値を小さい値に縮小させる処理であってもよい。この処理によって、加算処理M54の入力となる角度側操作量Tt0*が角度側操作量算出処理M30の出力する角度側操作量Tt0*よりも小さくなることは、角度側ゲインKtが「1」から「1」よりも小さい値に変更されることと等価である。
【0054】
・「外乱オブザーバについて」
たとえば、上記実施形態における2自由度操作量算出処理M42において操舵側操作量Ts*を減算し、外乱オブザーバM32の入力を角度側操作量Tt*から「Tt*+Ts*」に変更してもよい。その場合、外乱トルクTldは、ピニオン角θpに影響するトルクのうちの電動機32のトルク以外のトルクとなる。
【0055】
またたとえば、上記実施形態における2自由度操作量算出処理M42において操舵側操作量Ts*および操舵トルクThを減算し、外乱オブザーバM32の入力を角度側操作量Tt*から「Tt*+Ts*+Th」に変更してもよい。その場合、外乱トルクTldは、ピニオン角θpに影響するトルクのうちの電動機32のトルクと操舵トルクThとの和以外のトルクとなる。
【0056】
外乱トルクTldの算出手法としては、上記実施形態において例示したものに限らない。たとえば、ピニオン角指令値θp*の2階時間微分値、ピニオン角θpの2階時間微分値または推定値θpeの2階時間微分値に慣性係数Jを乗算した値から角度側操作量Tt*、操舵側操作量Ts*および操舵トルクThを減算することによって算出してもよい。
【0057】
・「角度フィードバック処理について」
上記実施形態では、フィードフォワード操作量Ttffを、ピニオン角指令値θp*の2階時間微分値に基づき算出したが、これに限らず、たとえばピニオン角θpの2階時間微分値に基づき算出したり、たとえばピニオン角指令値θp*とピニオン角θpとの差の2階時間微分値に基づき算出したりしてもよい。
【0058】
フィードバック項算出処理M36の入力となるフィードバック制御量としては、推定値θpeやその1階時間微分値に限らない。たとえば、推定値θpeやその1階時間微分値に代えて、ピニオン角θpやその時間微分値自体としてもよい。
【0059】
フィードバック項算出処理M36としては、比例要素および微分要素の各出力値の和を出力する処理に限らない。たとえば比例要素の出力値を出力するものとしてもよく、またたとえば微分要素の出力値を出力するものとしてもよい。さらにたとえば、比例要素の出力値および微分要素の出力値の少なくとも一方と、積分要素の出力値との和を出力する処理としてもよい。
【0060】
・「角度側操作量算出処理について」
角度側操作量算出処理としては、フィードバック項算出処理M36や外乱オブザーバM32を備えることは必須ではない。たとえばフィードフォワード操作量Ttffを角度側操作量Tt*とする処理であってもよい。
【0061】
・「操舵側操作量算出処理について」
操舵側操作量算出処理としては、操舵トルクThを目標トルクTh*にフィードバック制御するための操作量として、操舵側操作量Ts*を算出することは必須ではない。たとえば、操舵トルクThに基づき操舵をアシストするためのアシストトルクを操舵側操作量Ts*として算出する処理のみとしてもよい。この場合であっても、操舵側操作量Ts*によってユーザが意図するように転舵輪12を転舵させるのをアシストすることから、操舵側操作量Ts*は、転舵輪12を転舵させるための電動機32の操作量である。
【0062】
・「換算可能角について」
上記実施形態では、換算可能角度として、ピニオン角θpを用いたが、これに限らない。たとえば、転舵輪の転舵角自体としてもよい。
【0063】
・「操舵側操作量について」
上記実施形態では、操舵側操作量Ts*を、ステアリングシャフト24のトルクに換算したが、これに限らない。たとえば、電動機32のトルクに換算してもよい。
【0064】
・「角度側操作量について」
上記実施形態では、角度側操作量Tt*をステアリングシャフト24のトルクに換算したが、これに限らない。たとえば、電動機32のトルクに換算してもよい。
【0065】
・「目標トルク算出処理について」
ベース目標トルク算出処理としては、軸力Tafと車速Vとに応じてベース目標トルクThb*を算出する処理に限らない。たとえば軸力Tafのみに基づきベース目標トルクThb*を算出する処理であってもよい。
【0066】
ベース目標トルクThb*をヒステリシス補正量Thysで補正すること自体必須ではない。
・「ベース目標トルクについて」
軸力Tafに基づきベース目標トルクThb*を求めることは必須ではない。たとえば、操舵トルクThに基づき、操舵をアシストするためのアシストトルクを算出し、アシストトルクと操舵トルクとの和に基づきベース目標トルクThb*を算出してもよい。
【0067】
・「転舵制御装置について」
転舵制御装置としては、CPU42とROM44とを備えてソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、転舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【0068】
・「電動機、駆動回路について」
電動機としては、SPMSMに限らず、IPMSM等であってもよい。また、同期機に限らず誘導機であってもよい。さらに、たとえばブラシ付きの直流電動機であってもよい。その場合、駆動回路としては、Hブリッジ回路を採用すればよい。
【0069】
・「転舵アクチュエータについて」
転舵アクチュエータとしては、上記実施形態において例示したものに限らない。たとえば、ピニオンシャフト24cとは別に、電動機32の動力をラック軸26に伝達させるための第2のピニオンシャフトを備えるいわゆるデュアルピニオン型のものであってもよい。またたとえば、ステアリングシャフト24に電動機32の出力軸32aが機械的に連結された構成であってもよい。その場合、転舵アクチュエータは、ステアリングシャフト24やラックアンドピニオン機構27を操舵機構20と共有する。
【符号の説明】
【0070】
10…電動パワーステアリング装置、12…転舵輪、20…操舵機構、22…ステアリングホイール、24…ステアリングシャフト、24a…コラムシャフト、24b…インターミディエイトシャフト、24c…ピニオンシャフト、26…ラック軸、27…ラックアンドピニオン機構、28…タイロッド、30…転舵アクチュエータ、32…電動機、32a…出力軸、33…インバータ、34…ボールねじ機構、36…ベルト式減速機構、40…転舵制御装置、42…CPU、44…ROM、46…周辺回路、48…通信線、50…トルクセンサ、52…車速センサ、54…回転角度センサ、60…上位ECU、62…通信線。