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  • 特許-焼菓子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】焼菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20230613BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20230613BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230613BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D2/18
A21D13/80
A23D7/00 506
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019067896
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162523
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 圭一
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-088374(JP,A)
【文献】特開平09-084510(JP,A)
【文献】特開平08-289715(JP,A)
【文献】特開昭62-115230(JP,A)
【文献】特開2014-073079(JP,A)
【文献】特開2015-080441(JP,A)
【文献】特開2019-037145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23D 7/00- 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸カゼイン、レンネットカゼイン及びカゼインの塩から選択される1種又は2種以上のカゼイン原料を含有する油中水型乳化物と、粉体原料と、糖類とを含有する焼菓子生地を焼成する、焼菓子の製造方法であって、
前記油中水型乳化物中の前記カゼイン原料の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して0.3~5質量部であり、前記糖類の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して15~100質量部であり、焼菓子の水分が20質量%以下であることを特徴とする前記焼菓子の製造方法。
【請求項2】
糖類が、単糖類及び/又は二糖類であることを特徴とする請求項1に記載の焼菓子の製造方法。
【請求項3】
カゼイン原料が、油中水型乳化物中の油脂100質量部に対して0.5~14質量部含まれることを特徴とする請求項1又は2記載の焼菓子の製造方法。
【請求項4】
焼菓子生地に、さらに膨張剤を添加することを特徴とする請求項1~のいずれか記載の焼菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なボリューム、口溶け、食感の軽さを有する焼菓子の製造方法に関し、更に詳しくは、酸カゼイン、レンネットカゼイン及びカゼインの塩から選択される1種又は2種以上のカゼイン原料を含有する油中水型乳化物と、粉体原料と、糖類とを含有する焼菓子生地であって、前記油中水型乳化物中の前記カゼイン原料の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して0.3~5質量部であり、前記糖類の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して15~100質量部である焼菓子生地を焼成することを特徴とする焼菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼菓子等の焼成物の内層の空隙や目の開き(気泡)をよくするため、乳化剤や増粘剤を用いる方法、或いはこれらの添加剤の使用とホイップ工程を設けて生地の比重を小さくする方法が採用されていた。例えば、食用油脂10~65質量%、糖質20~60質量%、水分10~40質量%、及び乳化剤0.1~5質量%を水中油型に乳化してなる焼菓子用改質剤(例えば、特許文献1参照)や、平均粒子径が20μm以下の増粘安定剤を含有する製菓・製パン用品質改良剤(例えば、特許文献2参照)や、卵白、乳化剤及び増粘剤を混合し、起泡させた起泡組成物を用いて焼成する焼成菓子の製造方法(例えば、特許文献3参照)や、所定量の小麦粉に対して、A)所定量の油脂、B)所定量の保湿剤、C)所定量の乳化剤、D)所定量の糖類を配合し、予め含気させ、クリーム状に組成物を調製した後、他の副材料及び小麦粉と混合して得られる生地を用いて、成形、焼成する焼菓子類(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0003】
また、本出願人は、トランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質を所定量含有する改良素材を焼菓子用の生地に添加し、焼成することで、目の開き(気泡)、サク味、ソフトな食感等を向上させた焼菓子を報告している(特許文献5)。
【0004】
カゼインは、乳タンパク質の主体をなすリンタンパク質であり、乳に酸を加えて等電点であるpH4.6付近にすることによって、又は凝乳作用を有するプロテアーゼであるレンネットによって部分的に蛋白分解が行われることによって、沈殿物として得られる。また、カゼインのナトリウム塩であるカゼインナトリウムは、乳化作用、結着作用を有する食品添加物であり、焼菓子においては例えばシューパフの製造を容易にするための添加剤としても用いられているが、カゼインナトリウムを添加した場合、シューパフの食感が悪くなるという欠点がある(特許文献6)。また、栄養補給食品を製造するために、焼菓子にカゼインナトリウムを添加する試みもなされているが(非特許文献1)、焼菓子の食感を改善するために、カゼイン又はその塩を使用したとの報告は、本発明者らの知る限りなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-327738号公報
【文献】特開2002-291396号公報
【文献】特開2003-199536号公報
【文献】特開2006-166909号公報
【文献】特許第6301577号
【文献】特開平5-161445
【非特許文献】
【0006】
【文献】J Food Sci Technol (September 2015) 52(9):5718-5726
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
焼菓子の製造方法において、ベーキングパウダーや重曹などの膨張剤の配合率を増やすことで生地を強制的に膨化させ焼菓子の空隙や目を開かせる方法もあるが、焼菓子の生地はガス保持力が弱いため、生地表面からガスが抜けてしまい、焼成中あるいは焼成後に窯落ちしてしまう問題があった。本発明の課題は、新たに特別な製造機械や製造工程を必要とせず、従来から広く用いられている食品添加物を用いながらも、良好なボリューム、口溶け、食感を有する新規な焼菓子や、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、風味良好な焼菓子を得るべく、従来の乳化剤、増粘剤等の食品添加剤、その他種々の食品素材を検討し、鋭意研究した結果、酸カゼイン、レンネットカゼイン及びカゼインの塩から選択される1種又は2種以上のカゼイン原料を含有する油中水型乳化物と、粉体原料と、前記粉体原料100質量部に対して15~100質量部の糖類とを含有する焼菓子生地を焼成して、焼菓子を製造したところ、意外にも内層に不均一な空隙(目開き)が生じ、しかもこれら空隙が安定に維持され、良好なボリューム、口溶け、食感の軽さを有する焼菓子が得られることを見いだした。さらに、本発明者らは、カゼイン原料を、粉体原料に直接配合するのではなく、油中水型乳化物に含有させてから粉体原料に混ぜ合わせて焼菓子生地を製造することで、カゼイン原料の含有量が少なくても上記の効果を発揮することができることを見いだした。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の事項により特定されるとおりのものである。
(1)酸カゼイン、レンネットカゼイン及びカゼインの塩から選択される1種又は2種以上のカゼイン原料を含有する油中水型乳化物と、粉体原料と、糖類とを含有する焼菓子生地を焼成する、焼菓子の製造方法であって、
前記油中水型乳化物中の前記カゼイン原料の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して0.3~5質量部であり、前記糖類の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して15~100質量部であることを特徴とする前記焼菓子の製造方法。
(2)糖類が、単糖類及び/又は二糖類であることを特徴とする上記(1)に記載の焼菓子の製造方法。
(3)カゼイン原料が、油中水型乳化物中の油脂100質量部に対して0.5~14質量部含まれることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の焼菓子の製造方法。
(4)焼菓子の水分が、20質量%以下であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の焼菓子の製造方法。
(5)焼菓子生地に、さらに膨張剤を添加することを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の焼菓子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新たに特別の製造機械や製造工程を必要とせず、食品に広く用いられている従来の食品添加物を用いながらも、内層が不均一な空隙に富み、これら空隙が安定に維持され、軽く、且つ口溶けが良い、サクサク感を有する食感に優れた焼菓子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例3及び比較例3のクッキーの断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の焼菓子の製造方法としては、酸カゼイン、レンネットカゼイン及びカゼインの塩から選択される1種又は2種以上のカゼイン原料を含有する油中水型乳化物と、粉体原料と、糖類とを含有する焼菓子生地を焼成する、焼菓子の製造方法であって、前記油中水型乳化物中の前記カゼイン原料の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して0.3~5質量部であり、前記糖類の含有量が、前記粉体原料100質量部に対して15~100質量部であることを特徴とする前記製造方法であれば特に制限されない。ここで、粉体原料としては、焼菓子の製造に用いられるものであれば特に制限されず、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、大豆粉、小豆粉、そば粉、片栗粉、くず粉、ココアパウダー、ふすま、焙焼粉等や、これらから精製された澱粉(小麦澱粉、コーンスターチ等)、セルロース、結晶セルロース等の水不溶性の食物繊維粉末、おから、インゲン豆、エンドウ豆、サトウキビ、竹、アーモンド、柑橘類の果皮(シトラス)、ヨモギ、しそ、パセリ、アボガド、グリーンピース、モロヘイヤ、オクラ、ゆり根、ゴボウ、紅茶、及び抹茶等の水不溶性食物繊維を含む素材の粉末等の、澱粉や食物繊維類を含有する水不溶性の粉末類を例示することができ、中でも小麦粉が好ましく、単独でも、2種以上を配合して用いてもよい。2種以上の粉体原料を配合して用いる場合、「粉体原料100質量部」とは、焼菓子生地中の2種以上の粉体原料の質量の合計を100質量部としたことを意味する。本発明において、水に溶解性である糖類、塩類、膨張剤等は粉体原料に含まない。
【0013】
本発明の焼菓子の製造方法において、上記糖類の含有量は、上記粉体原料100質量部に対して100質量部以下、好ましくは80質量部以下、より好ましくは65質量部以下、さらに好ましくは60質量部以下含有することができ、15質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上含有することができ、より具体的には、15~80質量部、15~65質量部、15~60質量部、20~100質量部、20~80質量部、20~65質量部、20~60質量部、25~100質量部、25~80質量部、25~65質量部、25~60質量部を挙げることができる。上記糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類や、マルトース、ショ糖、麦芽糖、トレハロース等の二糖類が好ましく、これらを単独で用いても、2種以上を配合して用いてもよい。
【0014】
本発明の焼菓子としては、例えば、ビスケット、クッキー、タルト、クラッカー、乾パン、プレッツェル、パイ(パフ)、ウエファース、バターケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、マドレーヌ等を挙げることができる。これらのうち好ましくは、ビスケット、クッキー、タルト、クラッカー、バターケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、マドレーヌが挙げられ、より好ましくはビスケット、クッキー、タルトが挙げられる。上記ビスケットには、ハードビスケットと、ソフトビスケットがあり、ハードビスケットとして、カッチングビスケットがあり、ソフトビスケットとして、カッチングビスケット(エンボス)、ロータリービスケット、ワイヤーカットビスケット、ルートプレスビスケット、ドロップビスケット、ハンドメイクビスケット、その他ステンシルクッキー等がある。上記クラッカーとしては、ソーダクラッカー、クリームクラッカー、酵素タイプクラッカー、スナッククラッカー等がある。本発明の焼菓子は、糖類が上記範囲内のものであればシューケースを含んでもよいが、好ましい態様において、本発明はシューケースを含まない。また、本発明において、焼菓子生地は60℃、55℃、50℃、又は45℃を上回らない温度で混錬されることが好ましく、55℃以上又は60℃以上の湯水を加えて練り上げる湯ごね工程は含んでも含まなくてもよい。
【0015】
本発明の焼菓子の製造方法において、酸カゼイン、レンネットカゼイン及びカゼインの塩から選択される1種又は2種以上のカゼイン原料は、油中水型乳化物に含有された形で焼菓子生地に混合される。ここで、酸カゼインとは、乳を酸によって沈殿させて得られたカゼイン原料を意味する。レンネットカゼインとは、乳をレンネットを用いて凝固させることで得られたカゼイン原料を意味する。カゼインの塩とは、乳を酸によって沈殿させて得られた酸カゼインを、アルカリによって中和させたカゼイン原料を意味する。これらのカゼイン原料のうち、酸カゼイン、カゼインの塩を好ましく用いることができる。また、カゼインの塩としては、例えばカゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム等を挙げることができ、中でもカゼインナトリウム、カゼインカリウムが好ましい。上記カゼイン原料は、粉体原料100質量部に対して0.3質量部以上、好ましくは0.4質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上含まれてもよく、また、例えば5質量部以下、好ましくは4質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2.5質量部以下含まれてもよく、中でも0.5~4質量部が好ましい。一態様において、油中水型乳化物には、上記カゼイン原料が、油中水型乳化物中の油脂100質量部に対して0.5~14質量部、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.5~8質量部、さらに好ましくは0.5~6質量部、さらにより好ましくは1~5質量部含まれる。上記カゼイン原料は、油中水型乳化物に含有された形で焼菓子生地に混合されることにより、少ない添加量で軽さ、口溶けの良さという本発明の効果を発揮することができる。カゼイン原料が、粉体原料100質量部に対して5質量部を超えて添加されると、焼菓子としてのショートネス性が失われ、硬く、口溶けが悪くなり、さらには独特の「カゼイン臭」と呼ばれる加熱された乳様の風味が付与される等、食感、風味が損なわれるおそれもある。また、酸カゼイン及び/又はカゼインの塩が、粉体原料100質量部に対して0.3質量部未満であると、軽さ、口溶けの良さという本発明の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0016】
本発明の焼菓子は、焼成後の水分量が好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、最も好ましくは7質量%以下である。また、焼成後の水分量の下限を定める必要はないが、好ましい態様においては焼成後の水分量は0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。水分含量が上記上限よりも多い場合には、食感の軽さの効果が得られにくくなる。
【0017】
上記油中水型乳化物とは、油脂を連続相として水相を乳化したエマルションをいう。ここで、油相と水相の質量比は、好ましくは90:10~10:90、より好ましくは90:10~50:50、さらに好ましくは80:20~50:50である。上記油脂としては、食用油脂であればよく、例えば、アマニ油、エゴマ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、やし油、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、魚油、乳脂、又はこれらの脱臭油、分別油、水素添加油、エステル交換油等の加工油脂等を挙げることができる。また、油相に水相を乳化する目的や、その他の目的で乳化剤を用いてもよく、乳化剤としてはグリセリン脂肪酸エステル(蒸留モノグリセリド等)、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン(大豆レシチン、卵黄レシチン等)、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。また、任意でピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ウルトラポリリン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム等の各種リン酸塩を添加することができる。
【0018】
本発明の焼菓子生地は、さらに油脂、膨張剤等を必要に応じて含有することができる。上記油脂としては、食用油脂であればよく、例えば、アマニ油、エゴマ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、やし油、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、魚油、乳脂、又はこれらの脱臭油、分別油、水素添加油、エステル交換油等の加工油脂等を挙げることができる。また、チーズ、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の油脂含有原料を用いてもよい。上記膨張剤としては、ベーキングパウダー、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、酒石酸、クリームオブターター、酸性リン酸カルシウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、グルコノデルタラクトンを例示することができる。上記膨張剤の添加量としては、膨張剤の種類にもよるが、概ね合計で、粉体原料に対して0.1~6.0質量%、好ましくは0.2~4.0質量%加えることができる。その他、必要に応じて、牛乳、濃縮乳、生クリーム、全粉乳、脱脂粉乳、練乳、チーズ、チーズパウダーなどの乳製品、果実及び果実加工品、ココアやチョコレート類、ナッツ類、洋酒類、乳化剤、膨張剤、液卵、卵黄、オリゴ糖、糖アルコール、乳原料、重曹、果実片、スパイス、フレーバー、着色料などの製菓材料、カルシウム、鉄分、ビタミン等のミネラル、食物繊維などの有用栄養成分、保存料等を添加混合することができる。
【0019】
本発明の焼菓子生地は、最終的に粉体原料100質量部に対して、好ましくは水分が1~150質量部、好ましくは5~50質量部、さらに好ましくは10~40質量部となるように、水分量が調整され、ミキサーで混合される。その後、成型(ロール、ワイヤーカット、ルートプレス、ロータリーモルダー、デポジッター、ステンシル等)し、焼成に供される。例えば、ハードビスケットは、ソフトビスケットに比べて油脂類や砂糖などの糖分含量を低くし、クラッカー、プレッツェル、ウエファースも同様に油脂類含量は低くし、砂糖含量はさらに低くする。ある種のクラッカー、乾パン、プレッツェルには、イーストを用いて発酵させることもできる。焼成温度は、170~300℃、より好ましくは180~250℃、さらに好ましくは200~230℃であることが好ましく、焼成時間は、2分~30分、より好ましくは3分~25分、さらに好ましくは3分~12分であることが好ましい。
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例
【0021】
1.本発明による油中水型乳化物(油中水型乳化物A)の製造
60℃に加温した油脂に対して大豆レシチン、蒸留モノグリセリドを添加、溶解し油相とした。60℃に加温した水に食塩、カゼインNa、リン酸塩を溶解し、水相とした。油相を撹拌しながら水相を加えて乳化し、定法に従って冷却、練りを加えて可塑性の油中水型乳化物A及びBを得た。原料の配合比は、以下の表1に記載のとおりである。ここで、油脂としてパーム油、豚脂、なたね油の混合物を用いた。
【0022】
【表1】
【0023】
2.油中水型乳化物Aを用いたビスケットの製造
2-1 製造方法
以下の(1)~(7)の手順により、ビスケットを製造した。
(1)表2に示す原料を、5倍量となるよう用意した。ここで、酵素製剤としてプロテアーゼを含む酵素製剤を用いた。
(2)油中水型乳化物A、マーガリン、上白糖、ココアパウダー、及び全卵を混合、撹拌した。
(3)さらに、水20質量部に食塩、炭安、GDL(グルコノデルタラクトン)を溶解した物を加え、混合、撹拌した。
(4)さらに、薄力粉と重曹を加えて混合、撹拌した。
(5)さらに、水1質量部に酵素を分散させたものを加えて混合、撹拌した。
(6)4つ折り、2つ折りにした生地を2mmのシート状に延ばし、ピケ(穴あけ)を行って型抜きをした。
(7)天板に並べ、230℃で5分焙焼した。
【0024】
2-2 官能評価方法
訓練された5名のパネラーにより、食感の軽さ、口溶けについて以下の基準により官能評価を行った。
【0025】
(食感の軽さ)
2点 比較例2よりも非常に軽い
1点 比較例2よりも軽い
0点 比較例2と同等
-1点 比較例2よりもやや劣っている
-2点 比較例2よりも劣っている
【0026】
(口溶け)
2点 比較例2よりも非常に口溶けが良い
1点 比較例2よりも口溶けが良い
0点 比較例2と同等
-1点 比較例2よりもやや劣っている
-2点 比較例2よりも劣っている
【0027】
2-3 結果
結果を表2に示す。なお、表中の原材料の配合量は、質量比を表す。
【0028】
【表2】
【0029】
焼成品の水分はいずれも1.2~1.5質量%の範囲内であった。
【0030】
表2に示される結果より、実施例1のビスケットは、比較例2のビスケットよりも軽く、口溶けがよいことが示された。
【0031】
3.油中水型乳化物A又はBを用いたクッキーの製造
3-1 製造方法
以下の(1)~(6)の手順により、ビスケットを製造した。
(1)表3に示す原料を、5倍量となるよう用意した。
(2)油中水型乳化物A又はB、マーガリン、上白糖を混合、撹拌した。
(3)さらに、全卵、卵黄、水に溶解した食塩及び炭安を加え、混合、撹拌した。
(4)さらに、薄力粉、重曹を加え、混合撹拌した。
(5)3mmの厚さのシート状に成型し、型抜きした。
(6)天板に並べ、210℃で9分焙焼した。
【0032】
3-2 官能評価方法
訓練された5名のパネラーにより、食感の軽さ、口溶けについて以下の基準により官能評価を行った。
【0033】
(食感の軽さ)
2点 比較例3よりも非常に軽い
1点 比較例3よりも軽い
0点 比較例3と同等
-1点 比較例3よりもやや劣っている
-2点 比較例3よりも劣っている
【0034】
(口溶け)
2点 比較例3よりも非常に口溶けが良い
1点 比較例3よりも口溶けが良い
0点 比較例3と同等
-1点 比較例3よりもやや劣っている
-2点 比較例3よりも劣っている
【0035】
3-3 結果
結果を、図1及び表3に示す。なお、表中の原材料の配合量は、質量比を表す。
【0036】
【表3】
【0037】
焼成品の水分はいずれも1.8~2.0質量%の範囲内であった。
【0038】
図1は、実施例3及び比較例3のクッキーの断面を撮影した写真である。写真より、実施例3のクッキーが、比較例3のクッキーより良く膨らんでいることがわかる。また表3より、実施例2、3及び実施例4のクッキーは、比較例3のビスケットよりも厚みがあり、食したときに軽く、口溶けがよい食感を有することが示された。実施例4は実施例2よりも油中水型乳化物由来のカゼインNa量を多く添加したが、クッキーがややかたく感じられたことから、実施例2と比較して、軽さや口溶けの良さがやや劣ると認識されたものと考えられた。また、実施例4に関しては、ややカゼイン臭様の風味が感じられた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、新たに特別の製造機械や製造工程を必要とせず、食品に広く用いられている従来の食品添加物を用いながらも、内層が不均一な空隙に富み、これら空隙が安定に維持され、軽く、且つ口溶けが良い、サクサク感を有する食感に優れた焼菓子を得ることができるため、食品分野における産業上の利用可能性は極めて高い。
図1