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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】熱処理方法および熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/22 20060101AFI20230613BHJP
   H01L 21/26 20060101ALI20230613BHJP
   H01L 21/225 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01L21/22 P
H01L21/26 F
H01L21/225 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019074404
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020174092
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 晃頌
(72)【発明者】
【氏名】布施 和彦
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-194524(JP,A)
【文献】特開2018-098316(JP,A)
【文献】特開2010-258359(JP,A)
【文献】特開2013-026579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/22
H01L 21/26
H01L 21/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に光を照射することによって該基板を加熱する処理方法であって、
自然酸化膜を挟み込んでドーパントおよび炭素を含む薄膜が形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、
前記チャンバー内に酸化性ガスを供給して酸化雰囲気を形成する酸化雰囲気形成工程と、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、
を備え
前記加熱工程は、
連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、
前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、
前記予備加熱工程の前に前記連続点灯ランプからの光照射によって前記予備加熱工程での前記基板の温度よりも低い温度に前記基板を維持するアニール工程と、
を含み、
前記アニール工程が前記チャンバー内に水素雰囲気を形成して行われることにより、前記薄膜に含まれる前記ドーパントの原子を前記自然酸化膜中に拡散させて前記基板の表面と前記自然酸化膜との界面に集積させることを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理方法において、
記予備加熱工程の途中で前記チャンバー内への前記酸化性ガスの供給を開始することを特徴とする熱処理方法。
【請求項3】
請求項または請求項記載の熱処理方法において、
前記フラッシュ加熱工程では、紫外光を含むフラッシュ光を前記基板に照射することを特徴とする熱処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記酸化性ガスは、酸素、オゾンおよび窒素酸化物からなる群から選択された1のガスを含むことを特徴とする熱処理方法。
【請求項5】
基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
自然酸化膜を挟み込んでドーパントおよび炭素を含む薄膜が形成された基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内に酸化性ガスを供給して酸化雰囲気を形成するガス供給部と、
前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、
を備え
前記光照射部は、
前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、
前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
を含み、
前記予備加熱の前に、前記チャンバー内に水素雰囲気を形成しつつ前記連続点灯ランプからの光照射によって前記予備加熱での前記基板の温度よりも低い温度に前記基板を維持することにより、前記薄膜に含まれる前記ドーパントの原子を前記自然酸化膜中に拡散させて前記基板の表面と前記自然酸化膜との界面に集積させることを特徴とする熱処理装置。
【請求項6】
請求項記載の熱処理装置において、
記ガス供給部は、前記予備加熱の途中で前記チャンバー内への前記酸化性ガスの供給を開始することを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項または請求項記載の熱処理装置において、
前記フラッシュランプは、紫外光を含むフラッシュ光を前記基板に照射することを特徴とする熱処理装置。
【請求項8】
請求項から請求項のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記酸化性ガスは、酸素、オゾンおよび窒素酸化物からなる群から選択された1のガスを含むことを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハー等の薄板状精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法および熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、単結晶のシリコンまたはゲルマニウムへのドーパントの導入は必要不可欠な工程である。ドーパントを導入することによって、n型半導体またはp型半導体が作成される。ドーパントの導入は、典型的にはシリコン等の半導体基板にボロン(B)、ヒ素(As)、リン(P)等のドーパント原子をイオン打ち込み法によって注入し、その半導体基板にアニール処理を施してドーパント原子を活性化させることによって実現される。ところが、イオン打ち込み法には単結晶シリコン等に結晶欠陥を生じさせるという問題がある。
【0003】
また、近年、従来の平面型(プレーナ型)のデバイス構造を立体的な構造としてデバイス性能を高める試みがなされている(例えば、FinFET等)。このような立体的な構造の場合、従来より主流であったイオン打ち込み法では必要な箇所へのドーパント注入が困難なことがある。このため、イオン打ち込み法とは異なるドーパント導入技術として、ボロンやリン等のドーパントを添加した薄膜を半導体ウェハー上に成膜し、それにアニール処理を施すことによってドーパント原子を当該薄膜から半導体中に拡散させるSSD(Solid source doping)が提案されている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-201337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的には、ドーパントを添加した薄膜をスピンコータによって成膜する場合、半導体ウェハーに塗布される塗布材料の主成分は炭素(C)を含む有機物系である。よって、半導体ウェハー上にはドーパントおよび炭素を含む薄膜が形成されることとなる。しかしながら、炭素を含む薄膜は高温のアニール処理によって硬化し、その後の剥離処理時に硬化した薄膜が剥離困難になるという問題が発生する。特に、ドーパントがボロンである場合、アニール処理によってボロンと炭素とが結合して超硬素材であるボロンカーバイトが生成され、薄膜が容易には剥離できなくなる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、炭素を含む薄膜を容易に剥離することができる熱処理方法および熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する処理方法において、自然酸化膜を挟み込んでドーパントおよび炭素を含む薄膜が形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、前記チャンバー内に酸化性ガスを供給して酸化雰囲気を形成する酸化雰囲気形成工程と、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する加熱工程と、を備え、前記加熱工程は、連続点灯ランプから前記基板に光を照射する予備加熱工程と、前記予備加熱工程の後にフラッシュランプから前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュ加熱工程と、前記予備加熱工程の前に前記連続点灯ランプからの光照射によって前記予備加熱工程での前記基板の温度よりも低い温度に前記基板を維持するアニール工程と、を含み、前記アニール工程が前記チャンバー内に水素雰囲気を形成して行われることにより、前記薄膜に含まれる前記ドーパントの原子を前記自然酸化膜中に拡散させて前記基板の表面と前記自然酸化膜との界面に集積させることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理方法において、前記予備加熱工程の途中で前記チャンバー内への前記酸化性ガスの供給を開始することを特徴とする。
【0010】
また、請求項の発明は、請求項または請求項の発明に係る熱処理方法において、前記フラッシュ加熱工程では、紫外光を含むフラッシュ光を前記基板に照射することを特徴とする。
【0011】
また、請求項の発明は、請求項1から請求項のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記酸化性ガスは、酸素、オゾンおよび窒素酸化物からなる群から選択された1のガスを含むことを特徴とする。
【0012】
また、請求項の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、自然酸化膜を挟み込んでドーパントおよび炭素を含む薄膜が形成された基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内に酸化性ガスを供給して酸化雰囲気を形成するガス供給部と、前記基板に光を照射して前記基板を加熱する光照射部と、を備え、前記光照射部は、前記基板に光を照射して前記基板を予備加熱する連続点灯ランプと、前記予備加熱の後に前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、を含み、前記予備加熱の前に、前記チャンバー内に水素雰囲気を形成しつつ前記連続点灯ランプからの光照射によって前記予備加熱での前記基板の温度よりも低い温度に前記基板を維持することにより、前記薄膜に含まれる前記ドーパントの原子を前記自然酸化膜中に拡散させて前記基板の表面と前記自然酸化膜との界面に集積させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項の発明は、請求項の発明に係る熱処理装置において、前記ガス供給部は、前記予備加熱の途中で前記チャンバー内への前記酸化性ガスの供給を開始することを特徴とする。
【0015】
また、請求項の発明は、請求項または請求項の発明に係る熱処理装置において、前記フラッシュランプは、紫外光を含むフラッシュ光を前記基板に照射することを特徴とする。
【0016】
また、請求項の発明は、請求項から請求項のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記酸化性ガスは、酸素、オゾンおよび窒素酸化物からなる群から選択された1のガスを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1から請求項の発明によれば、ドーパントおよび炭素を含む薄膜が形成された基板を収容したチャンバー内に酸化性ガスを供給して酸化雰囲気を形成し、当該基板に光を照射して当該基板を加熱するため、薄膜中の炭素の酸化を促進して炭素を薄膜から排出して薄膜の硬化を防止することができ、炭素を含む薄膜を容易に基板から剥離することができる。
【0018】
特に、請求項の発明によれば、フラッシュ加熱工程では、紫外光を含むフラッシュ光を基板に照射するため、紫外光の化学反応によって薄膜の灰化処理を行って炭素を含む薄膜をより容易に基板から剥離することができる。
【0019】
請求項から請求項の発明によれば、ドーパントおよび炭素を含む薄膜が形成された基板を収容したチャンバー内に酸化性ガスを供給して酸化雰囲気を形成し、当該基板に光を照射して当該基板を加熱するため、薄膜中の炭素の酸化を促進して炭素を薄膜から排出して薄膜の硬化を防止することができ、炭素を含む薄膜を容易に基板から剥離することができる。
【0020】
特に、請求項の発明によれば、フラッシュランプは紫外光を含むフラッシュ光を基板に照射するため、紫外光の化学反応によって薄膜の灰化処理を行って炭素を含む薄膜をより容易に基板から剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
図2】保持部の全体外観を示す斜視図である。
図3】サセプタの平面図である。
図4】サセプタの断面図である。
図5】移載機構の平面図である。
図6】移載機構の側面図である。
図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
図8】本発明に係る熱処理方法の手順を示すフローチャートである。
図9】ドーパントを含む薄膜が成膜された半導体ウェハーの断面構造を模式的に示す図である。
図10】半導体ウェハーの表面温度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明に係る熱処理装置について説明する。図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0024】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。熱処理装置1は、チャンバー6内に処理ガスを供給するガス供給部90を備える。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0025】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0026】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0027】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0028】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0029】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aが穿設されている。チャンバー側部61の外壁面の貫通孔61aが設けられている部位には放射温度計20が取り付けられている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を放射温度計20に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aは、その貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。放射温度計20は、半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を透明窓21を介して受光し、その赤外光の強度から半導体ウェハーWの温度を測定する。
【0030】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給部90の供給配管83に連通接続されている。供給配管83は二叉に分岐され、そのうちの一方は酸素供給源93に接続され、他方は水素供給源94に接続されている。供給配管83から分岐されて酸素供給源93に接続された配管にはバルブ91が設けられ、水素供給源94に接続された配管にはバルブ92が設けられている。バルブ91が開放されると酸素供給源93から供給配管83に酸素ガス(O)が送り出される。一方、バルブ92が開放されると水素供給源94から供給配管83に水素ガス(H)が送り出される。酸素供給源93、水素供給源94、バルブ91、バルブ92および供給配管83によって熱処理装置1のガス供給部90が構成される。ガス供給部90は、図示を省略する窒素供給源も備えており、供給配管83に窒素ガス(N)または酸素、水素と窒素との混合ガスを送給することもできる。供給配管83から送給された処理ガスは緩衝空間82に流入し、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。なお、酸素および水素のそれぞれの供給流量は分岐された配管に設けられた図示省略の流量調整バルブ等によって調整可能とされている。
【0031】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。
【0032】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0033】
排気部190は、排気ポンプを備える。排気部190を作動させつつ、バルブ89,192を開放することによって、チャンバー6内の雰囲気がガス排気管88,191から排気部190へと排出される。ガス供給孔81から何らのガス供給を行うことなく、排気部190によって密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を大気圧未満の気圧に減圧することができる。すなわち、排気部190は、チャンバー6内を減圧する減圧部としても機能するものである。
【0034】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0035】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0036】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。図3は、サセプタ74の平面図である。また、図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0037】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0038】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0039】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0040】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0041】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0042】
また、図2および図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61aに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0043】
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0044】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0045】
図1に戻り、チャンバー6には酸素濃度計99が設けられている。酸素濃度計99は、チャンバー6内の雰囲気中における酸素濃度を測定する。
【0046】
チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0047】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。複数のフラッシュランプFLが配列される領域は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きい。
【0048】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された円筒形状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0049】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0050】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0051】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0052】
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0053】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0054】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0055】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0056】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0057】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0058】
次に、本発明に係る熱処理方法について説明する。図8は、本発明に係る熱処理方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態において処理対象となる半導体基板はシリコン(Si)の半導体ウェハーWである。まず、シリコンの半導体ウェハーWの表面にドーパントを含む薄膜を成膜する(ステップS1)。ステップS1の成膜処理は上述した熱処理装置1とは異なる成膜装置によって実行される。具体的には、スピンコータによって、半導体ウェハーWを回転させつつ、その表面にドーパントを含む塗布液を滴下し、遠心力によって半導体ウェハーWに表面に当該塗布液を薄く拡布する。塗布液には、例えばPGMEA(プロピレングリコールメチルエーテルアセテート)等の炭素を含む有機溶剤が用いられている。そして、半導体ウェハーWの表面に形成された塗布膜を乾燥させることによってドーパントおよび炭素を含む薄膜が成膜される。なお、ステップS1の成膜工程の前に、半導体ウェハーWの表面にフッ酸等による洗浄処理を行うようにしても良い。
【0059】
図9は、ドーパントを含む薄膜が成膜された半導体ウェハーWの断面構造を模式的に示す図である。シリコンの半導体ウェハーWの表面には二酸化ケイ素(SiO)の自然酸化膜101が形成されている。この自然酸化膜101は意図して形成されたものではなく、フッ酸等による半導体ウェハーWの表面洗浄処理を行って除去したとしても除去処理後に直ちに再成長を開始して不可避的に形成されるものである。従って、必然的にドーパントを含む薄膜102は自然酸化膜101の上に成膜される。すなわち、ドーパントを含む薄膜102と半導体ウェハーWの表面との間に自然酸化膜101が挟み込まれることとなる。なお、自然酸化膜101の膜厚は例えば約1nmであり、成膜された薄膜102の膜厚は例えば約10nmである。
【0060】
次に、ドーパントおよび炭素を含む薄膜102が成膜された半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー6内に搬入される(ステップS2)。具体的には、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。このときに、ガス供給部90からチャンバー6内に窒素ガスを供給し、搬送開口部66から窒素ガスを流出させて半導体ウェハーWの搬入にともなう外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制するようにしても良い。
【0061】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0062】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、ドーパントを含む薄膜102が成膜された表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0063】
また、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖されて熱処理空間65が密閉空間とされた後、チャンバー6内に水素を含む雰囲気が形成される(ステップS3)。具体的には、バルブ92が開放されてガス供給孔81から熱処理空間65に水素ガスが供給される。このときに窒素ガスも同時に供給され、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスが処理ガスとしてガス供給部90から供給されることとなる。また、バルブ89が開放されてガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された処理ガスが下方へと流れて熱処理空間65の下部から排気され、チャンバー6内が水素を含む雰囲気に置換される。チャンバー6内に形成された水素を含む雰囲気中における水素の濃度は例えば約4vol%である。また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。
【0064】
チャンバー6内に水素を含む雰囲気が形成された後、ハロゲン加熱部4のハロゲンランプHLによって半導体ウェハーWの水素アニールが実行される(ステップS4)。図10は、半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。チャンバー6内に水素を含む雰囲気が形成された後、時刻t1にハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して半導体ウェハーWの加熱が開始される。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの裏面から照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0065】
ハロゲンランプHLによる加熱処理を行うときには、半導体ウェハーWの温度が放射温度計20によって測定されている。すなわち、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から開口部78を介して放射された赤外光を透明窓21を通して放射温度計20が受光して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定のアニール温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度がアニール温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。水素アニールのアニール温度T1は、300℃以上600℃以下であり、より好ましくは400℃以上500℃以下である。
【0066】
時刻t2に半導体ウェハーWの温度がアニール温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをそのアニール温度T1に予め設定された水素アニール時間の間維持する。具体的には、放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度がアニール温度T1に到達した時刻t2に制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、時刻t3まで半導体ウェハーWの温度をほぼアニール温度T1に維持する。時刻t2から時刻t3までの水素アニール時間は、1秒以上1時間以下であり、より好ましくは1分以上30分以下である。
【0067】
ハロゲンランプHLによる加熱時には、半導体ウェハーWの全体が均一にアニール温度T1に昇温している。ハロゲンランプHLによる加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0068】
表面に自然酸化膜101を挟んでドーパントを含む薄膜102が成膜された半導体ウェハーWを水素雰囲気中にてアニール温度T1に加熱することにより、二酸化ケイ素中におけるドーパント原子の拡散速度が増加する。その結果、薄膜102に含まれるドーパント原子が自然酸化膜101中を拡散して半導体ウェハーWの表面と自然酸化膜101との界面に高濃度に集積するものと考えられる。
【0069】
アニール温度T1が600℃以下であれば、薄膜102に含まれるドーパント原子が自然酸化膜101を超えて半導体ウェハーWの表面に拡散するおそれはない。また、アニール温度T1が300℃以上であれば、ドーパント原子が自然酸化膜101中を拡散することは可能である。このような理由により、水素アニールのアニール温度T1は、300℃以上600℃以下に限定される。
【0070】
所定の水素アニール時間が経過した時刻t3に、チャンバー6内が減圧される(ステップS5)。具体的には、バルブ91およびバルブ92が閉止されてチャンバー6へのガス供給が行われることなく、バルブ89が開放されてチャンバー6内の水素雰囲気が排出されてチャンバー6内が大気圧未満の気圧に減圧される。
【0071】
続いて時刻t4に半導体ウェハーWの予備加熱(アシスト加熱)が開始される(ステップS6)。予備加熱工程に移行すると、制御部3がハロゲンランプHLの出力を水素アニール工程のときよりも高めて半導体ウェハーWの裏面に照射されるハロゲン光の強度を強くする。これにより、半導体ウェハーWの温度がアニール温度T1からさらに上昇する。
【0072】
また、半導体ウェハーWの予備加熱が開始された後、バルブ91が開放されてガス供給孔81からチャンバー6内に酸素ガスが供給される(ステップS7)。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65は水素雰囲気から酸素雰囲気に置換されることとなる。水素雰囲気のチャンバー6内を一旦減圧して水素を排出してからチャンバー6内に酸素ガスを供給して酸素雰囲気を形成しているため、円滑かつ迅速に雰囲気置換を行うことができる。チャンバー6内における酸素の濃度は適宜のものとすることができ、例えば100%であっても良い。チャンバー6内における酸素の濃度は酸素濃度計99によって測定されている。
【0073】
水素アニール工程と同様に予備加熱時にも、制御部3は、放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T2となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。予備加熱温度T2は、水素アニールのアニール温度T1よりも高く、600℃以上1100℃以下である。半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T2に到達した後、制御部3はハロゲンランプHLの出力を調整して半導体ウェハーWをその予備加熱温度T2に暫時維持する。
【0074】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T2に到達して所定時間が経過した時刻t5にてフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う(ステップS8)。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0075】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射により、薄膜102および自然酸化膜101を含む半導体ウェハーWの表面は瞬間的にピーク温度T3にまで昇温した後、急速に降温する。ピーク温度T3は、予備加熱温度T2よりも高く、シリコンの半導体ウェハーWの融点未満である。
【0076】
フラッシュ加熱時のフラッシュ光照射時間は100ミリセカンド以下の極めて短い時間である。よって、半導体ウェハーWの表面温度がピーク温度T3となっている時間は1秒未満である。すなわち、フラッシュ加熱は、半導体ウェハーWの表面をピーク温度T3に1秒未満加熱するミリセカンドアニールである。
【0077】
半導体ウェハーWを酸素雰囲気中で予備加熱温度T2に予備加熱してからフラッシュ加熱することによって、半導体ウェハーWの表面と自然酸化膜101との界面に集積されていたドーパント原子が半導体ウェハーWの表面に拡散するとともに、その拡散したドーパント原子が活性化される。その結果、半導体ウェハーWの表面にはドーパントの拡散層が形成される。
【0078】
また、それと同時に、ドーパントおよび炭素を含む薄膜102が成膜された半導体ウェハーWを酸素雰囲気中で予備加熱温度T2に予備加熱してからフラッシュ加熱することによって、薄膜102中の炭素と雰囲気中の酸素との結合が促進され、薄膜102中の炭素は二酸化炭素(CO)として薄膜102から排出される。その結果、加熱処理による薄膜102の硬化を防ぐことができる。
【0079】
このように本実施形態においては、酸素雰囲気中でのフラッシュ加熱により、ドーパントの導入および活性化と薄膜102中の炭素と酸素との結合とを同時に行っている。これにより、半導体ウェハーWの表面にドーパントの拡散層を形成するとともに、薄膜102の硬化を防止することができる。
【0080】
フラッシュ加熱処理が終了した後、ハロゲンランプHLも消灯することにより、半導体ウェハーWの温度が急速に降温する。また、チャンバー6内を再度減圧して酸素雰囲気を排出するとともに、チャンバー6内を窒素雰囲気に置換する。降温中の半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する(ステップS9)。
【0081】
熱処理装置1のチャンバー6から搬出された半導体ウェハーWに対しては不要となった薄膜102の剥離処理が行われる(ステップS10)。剥離処理としては、湿式または乾式の公知の種々の手法を採用することができる。薄膜102中の炭素を雰囲気中の酸素と結合させて薄膜102の硬化を防止しているため、薄膜102を容易に剥離することができる。
【0082】
本実施形態においては、ドーパントおよび炭素を含む薄膜102が成膜された半導体ウェハーWを酸素雰囲気中にて加熱することにより、ドーパントの活性化とともに薄膜102中の炭素と雰囲気中の酸素との結合を促進して炭素を薄膜102から排出し、薄膜102の硬化を防止している。その結果、炭素を含む薄膜102を容易に半導体ウェハーWから剥離することができる。
【0083】
また、酸素雰囲気中での加熱処理を行う前に、水素雰囲気中にて半導体ウェハーWのアニール処理を行っている。これにより、フラッシュ加熱を行う前に半導体ウェハーWの表面と自然酸化膜101との界面にドーパントを高濃度に集積させることができ、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWの表面に容易にドーパントを導入することができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、チャンバー6内にガス供給部90から酸素ガスを供給して酸化雰囲気を形成していたが、これに代えて、ガス供給部90からオゾン(O)または窒素酸化物(NO)を供給して酸化雰囲気を形成するようにしても良い。窒素酸化物は、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)を含む。すなわち、酸素、オゾンおよび窒素酸化物からなる群から選択された1のガスを含む酸化性ガスをチャンバー6内に供給して酸化雰囲気を形成するようにすれば良い。或いは、ラジカル酸素、水蒸気等をチャンバー6内に供給して酸化雰囲気を形成するようにしても良い。ドーパントおよび炭素を含む薄膜102が成膜された半導体ウェハーWを上記酸化雰囲気中にて加熱することにより、薄膜102中の炭素の酸化を促進して炭素を薄膜102から排出して薄膜102を容易に半導体ウェハーWから剥離することができる。
【0085】
また、フラッシュランプFLは紫外光を含むフラッシュ光を薄膜102が成膜された半導体ウェハーWに照射するようにしても良い。紫外光を含むフラッシュ光とは、分光分布にて波長400nm以下のピークを有するフラッシュ光である。薄膜102が成膜された半導体ウェハーWに酸化雰囲気中にて紫外光を含むフラッシュ光を照射することにより、炭素の酸化が促進されるとともに、紫外光の化学反応によって薄膜102の灰化処理を行うことができる。これにより、炭素を含む薄膜102をより容易に半導体ウェハーWから剥離することができる。
【0086】
適切な酸化性ガスを選択するとともに、酸化雰囲気中での加熱処理の条件を最適化することにより、炭素を含む薄膜102の全体を加熱処理によって分解することもできる。このようにすれば、ステップS10の剥離処理を省略して工程数を削減することができる。
【0087】
また、上記実施形態においては、予備加熱およびフラッシュ加熱の前に、水素雰囲気中にて半導体ウェハーWのアニール処理を行っていたが、これに代えて、窒素雰囲気中にて半導体ウェハーWのアニール処理を行うようにしても良い。もっとも、水素雰囲気であれば、二酸化ケイ素中におけるドーパント原子の拡散速度が増加するため、ドーパント原子は自然酸化膜101中をより迅速に拡散することができる。
【0088】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0089】
また、上記実施形態においては、1秒以上連続して発光する連続点灯ランプとしてフィラメント方式のハロゲンランプHLを用いて半導体ウェハーWの水素アニールおよび予備加熱を行っていたが、これに限定されるものではなく、ハロゲンランプHLに代えて放電型のアークランプ(例えば、キセノンアークランプ)を連続点灯ランプとして用いて水素アニールおよび予備加熱を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0090】
1 熱処理装置
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
65 熱処理空間
74 サセプタ
75 保持プレート
77 基板支持ピン
83 供給配管
90 ガス供給部
93 酸素供給源
94 水素供給源
99 酸素濃度計
101 自然酸化膜
102 薄膜
190 排気部
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10