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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】容量式電磁流量計
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/58 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
G01F1/58 Z
G01F1/58 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019089690
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020186933
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 修
(72)【発明者】
【氏名】間々田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 広行
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-298402(JP,A)
【文献】特開平08-271304(JP,A)
【文献】特開2018-063239(JP,A)
【文献】特開2008-026005(JP,A)
【文献】特開2004-226394(JP,A)
【文献】特開平05-072008(JP,A)
【文献】特開昭61-066122(JP,A)
【文献】特開平05-107091(JP,A)
【文献】特表2017-524953(JP,A)
【文献】実開平03-004223(JP,U)
【文献】韓国登録特許第10-511148(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/56-1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象となる流体が流れる誘電体の測定管と、
前記測定管を挟んで前記測定管の外周面に互いに対向して配置されて、前記流体に生じた起電力を検出する一対の面電極と、
前記一対の面電極で検出された起電力を増幅するプリアンプが実装されたプリアンプ基板と、
前記測定管の外周面に前記一対の面電極とそれぞれ一体で形成されて、前記一対の面電極と前記プリアンプとをそれぞれ電気的に接続する一対の管側配線パターンと、
少なくとも前記一対の面電極の外表面のすべて、および前記一対の管側配線パターンを覆うように形成された誘電体の薄膜と
を備えることを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項2】
請求項1に記載の容量式電磁流量計において、
前記一対の面電極は、前記測定管の外周面にパターン形成された導体からなり、
前記薄膜は、前記一対の面電極のすべてを覆うように、前記測定管の外周面に貼り付けられるフィルムからなる
ことを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の容量式電磁流量計において、
前記測定管の外周面に互いに対向して形成されて、前記一対の面電極と電気的にそれぞれ接続された一対の管側配線パターンをさらに備え、
前記薄膜は、前記一対の管側配線パターンの外表面を覆うように形成されている
ことを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の容量式電磁流量計において、
前記薄膜は、樹脂フィルムを基材とした絶縁テープからなることを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の容量式電磁流量計において、
前記薄膜は、樹脂フィルムの基材と粘着剤の2層構造を有する絶縁テープからなることを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項6】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の容量式電磁流量計において、
前記薄膜は、絶縁性を有する液状のコーティング剤を塗布して乾燥させて形成した皮膜からなることを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項7】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の容量式電磁流量計において、
前記薄膜は、前記一対の面電極のすべてを前記測定管の全周にわたって環状に覆う絶縁皮膜からなることを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項8】
請求項7に記載の容量式電磁流量計において、
前記絶縁皮膜は、熱収縮チューブからなることを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれかに記載の容量式電磁流量計において、
前記薄膜は、前記測定管の全周にわたって環状に形成されていることを特徴とする容量式電磁流量計。
【請求項10】
請求項1~請求項8のいずれかに記載の容量式電磁流量計において、
前記薄膜は、前記測定管の周方向で2つに分割して形成されていることを特徴とする容量式電磁流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定管の外周面に形成した面電極に発生する起電力に基づいて、測定管内を流れる流体の流量を計測する流量計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁流量計の1つとして、測定管の外周面に形成した面電極に発生する起電力に基づいて、測定管内を流れる流体の流量を計測する容量式電磁流量計が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。図10は、従来の容量式電磁流量計の検出部を示す正面図である。図11は、従来の容量式電磁流量計の検出部を示す側面図である。図12は、従来の容量式電磁流量計の検出部を示す上面図である。
【0003】
図10図12に示すように、従来の容量式電磁流量計50は、測定管51の外周面に形成した一対の面電極52A,52Bを備え、一対の励磁コイル53A,53Bに流す励磁電流の極性を交互に切り替えながら、面電極52A,52B間に発生する起電力を検出することにより、測定管51内を流れる流体の流量を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-077118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の容量式電磁流量計において、測定管51は樹脂やセラミックなどの誘電性材料からなり、電気を蓄える性質を持つ誘電体であるため、測定管51の外周面に次のような3種類の帯電を起こす場合がある。
【0006】
[流体温度変化による帯電]
測定管51内を流れる流体の温度が短時間に大きく変化すると、焦電効果によって測定管51の外周面に帯電を起こす場合がある。焦電効果とは、誘電体結晶を加熱すると、結晶構造が変化して、表面に焦電気と呼ばれる電荷が現れる現象である。この加熱には、例えば人体から出る赤外線による加熱も含まれ、このような僅かな加熱であっても、焦電効果により電荷が発生する場合もある。発生した電荷は、通常、表面に付着した空気中のイオンなどにより中和されるが、流体の温度が短時間に大きく変化すると多くの電荷が発生して、測定管51の外周面に帯電することになる。
【0007】
[流体圧力変化による帯電]
測定管51内を流れる流体の圧力が変化すると、測定管51に歪みが発生し、圧電効果によって測定管51の外周面に帯電を起こす場合がある。圧電効果とは、誘電体に圧力が加わると、結晶構造が変化して分極し、表面に圧電気と呼ばれる電荷が現れる現象である。発生した電荷は、測定管51の外周面に帯電することになる。
[流体摩擦による帯電]
測定管51内に超純水のような低導電率の流体を流すと、測定管51の内周面と流体との摩擦によって静電気が発生し、測定管51の外周面に帯電することになる。
【0008】
これら帯電は、測定管51の外周面に発生するため、面電極52A,52Bの電極間(さらには配線パターン間)に、直流電圧(電位差)となって現れる場合がある。また、このとき発生する直流電圧は、条件によっては数十mV以上となる場合がある。一方、流体の流速に応じて面電極52A,52Bの間に発生する起電力(交流電圧信号)は、数mV(p-p)以内である。このため、帯電によって面電極52A,52B間に発生した直流電圧の影響を受けて、流量計測値がドリフトを起こしてしまう恐れがある。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、測定管の外周面に発生した帯電による流量計測への影響を低減できる容量式電磁流量計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明にかかる容量式電磁流量計は、計測対象となる流体が流れる誘電体の測定管と、前記測定管を挟んで前記測定管の外周面に互いに対向して配置されて、前記流体に生じた起電力を検出する一対の面電極と、少なくとも前記一対の面電極の外表面のすべてを覆うように形成された誘電体の薄膜とを備えている。
【0011】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記一対の面電極が、前記測定管の外周面にパターン形成された導体からなり、前記薄膜は、前記一対の面電極のすべてを覆うように、前記測定管の外周面に貼り付けられるフィルムからなるものである。
【0012】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記測定管の外周面に互いに対向して形成されて、前記一対の面電極と電気的にそれぞれ接続された一対の管側配線パターンをさらに備え、前記薄膜は、前記一対の管側配線パターンの外表面を覆うように形成されているものである。
【0013】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記薄膜が、樹脂フィルムを基材とした絶縁テープからなるものである。
【0014】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記薄膜が、樹脂フィルムの基材と粘着剤の2層構造を有する絶縁テープからなるものである。
【0015】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記薄膜が、絶縁性を有する液状のコーティング剤を塗布して乾燥させて形成した皮膜からなるものである。
【0016】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記薄膜が、前記一対の面電極のすべてを前記測定管の全周にわたって環状に覆う絶縁皮膜からなるものである。
【0017】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記絶縁皮膜が、熱収縮チューブからなるものである。
【0018】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記薄膜が、前記測定管の全周にわたって環状に形成されているものである。
【0019】
また、本発明にかかる上記容量式電磁流量計の一構成例は、前記薄膜が、前記測定管の周方向で2つに分割して形成されているものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、測定管の外周面に、面電極の外表面のすべてを覆う誘電体の薄膜を形成したので、帯電による電荷が面電極の外表面には発生せず、その外側の薄膜へ移動することになる。このため、帯電が、面電極の電極間に、直流電圧となって現れなくなり、流量計測値のドリフトを抑制することができる。したがって、測定管の外周面に発生した帯電による流量計測への影響を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、第1の実施の形態にかかる容量式電磁流量計の回路構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施の形態にかかる検出部の正面図である。
図3図3は、第1の実施の形態にかかる検出部の側面図である。
図4図4は、第1の実施の形態にかかる検出部の上面図である。
図5図5は、プリアンプを用いた差動増幅回路の構成例である。
図6図6は、第2の実施の形態にかかる検出部の側面図である。
図7図7は、第2の実施の形態にかかる検出部の上面図である。
図8図8は、第3の実施の形態にかかる検出部の正面図である。
図9図9は、第3の実施の形態にかかる検出部の側面図である。
図10図10は、従来の容量式電磁流量計の検出部を示す正面図である。
図11図11は、従来の容量式電磁流量計の検出部を示す側面図である。
図12図12は、従来の容量式電磁流量計の検出部を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
次に、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる容量式電磁流量計100について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかる容量式電磁流量計の回路構成を示すブロック図である。
【0023】
[容量式電磁流量計]
容量式電磁流量計100は、励磁コイルから印加した磁束により、測定管内を流れる計測対象である流体に生じた起電力を、測定管の外周面に設けられた面電極で、流体と電極との間の静電容量を介して検出し、得られた起電力を増幅した後、サンプリングして信号処理することにより、電極を流体に接液させることなく、流体の流量を測定する。
【0024】
図1に示すように、容量式電磁流量計100は、主な回路部として、検出部20、信号増幅回路21、信号検出回路22、励磁回路23、伝送回路25、設定・表示回路26、および演算処理回路(CPU)27を備えている。このうち、演算処理回路27は、CPUとその周辺回路を備え、予め設定されているプログラムをCPUで実行することにより、ハードウェアとソフトウェアを協働させることにより、励磁制御部27Aや流量算出部27Bなどの各種処理部を実現する。
【0025】
検出部20は、主な構成として、測定管2、励磁コイル3A,3B、面電極10A,10B、およびプリアンプ5Uを備え、測定管2内の流路1を流れる流体の流速に応じた起電力Va,Vbを面電極10A,10Bで検出し、これら起電力Va,Vbに応じた交流の検出信号Vinを出力する機能を有している。
【0026】
信号増幅回路21は、検出部20から出力された検出信号Vinに含まれるノイズ成分をフィルタリングした後、増幅して得られた交流の流量信号VFを出力する。
信号検出回路22は、信号増幅回路21からの流量信号VFをサンプルホールドし、得られた直流電圧を流量振幅値DFにA/D変換して、流量算出部27Bへ出力する。
【0027】
流量算出部27Bは、信号検出回路22からの流量振幅値DFに基づいて流体の流量を算出し、流量計測結果を伝送回路25へ出力する。
伝送回路25は、伝送路Lを介して上位装置との間でデータ伝送を行うことにより、演算処理回路27で得られた流量計測結果や空状態判定結果を上位装置へ送信する。
【0028】
励磁制御部27Aは、励磁コイル3A,3Bの励磁切替を制御するための励磁制御信号Vexを励磁回路23へ出力する。
励磁回路23は、励磁制御部27Aからの励磁制御信号Vexに基づいて、交流の励磁電流Iexを励磁コイル3A,3Bへ供給する。
設定・表示回路26は、例えば作業者の操作入力を検出して、流量計測、伝導率測定、空状態判定などの各種動作を演算処理回路27へ出力し、演算処理回路27から出力された、流量計測結果や空状態判定結果をLEDやLCDなどの表示回路で表示する。
【0029】
[検出部の構成]
次に、図2図4参照して、検出部20の構成について詳細に説明する。図2は、第1の実施の形態にかかる検出部の正面図である。図3は、第1の実施の形態にかかる検出部の側面図である。図4は、第1の実施の形態にかかる検出部の上面図である。
【0030】
図2に示すように、測定管2は、円筒形状をなすセラミックや樹脂などの絶縁性および誘電性に優れた材料からなり、測定管2の外側には、測定管2の長手方向(第1の方向)Xに対して磁束方向(第2の方向)Yが直交するよう、略C字形状のヨークと、一対の励磁コイル3A,3Bが測定管2を挟んで対向配置されている。なお、図2図4では、図を見易くするため、対向するヨーク端面だけ、すなわちヨーク面4A、4Bだけを図示している。
【0031】
一方、測定管2の外周面2Aには、長手方向Xおよび磁束方向(第2の方向)Yと直交する電極方向(第3の方向)Zに、薄膜導体からなる一対の面電極(第1の面電極)10Aと面電極(第2の面電極)10Bが対向配置されている。
これにより、交流の励磁電流Iexを励磁コイル3A,3Bに供給すると、励磁コイル3A,3Bの中央に位置するヨーク面4A,4B間に磁束Φが発生して、流路1を流れる流体に、電極方向Zに沿って流体の流速に応じた振幅を持つ交流の起電力Va,Vbが発生し、この起電力Va,Vbが、流体と面電極10A,10Bとの間の静電容量を介して面電極10A,10Bで検出される。
【0032】
この静電容量は数pF程度と非常に小さく、流体と面電極10A,10Bとの間のインピーダンスが高くなるため、ノイズの影響を受けやすくなる。このため、オペアンプICなどを用いたプリアンプ5Uにより、面電極10A,10Bで得られた起電力Va,Vbを低インピーダンス化している。
本実施の形態では、図3~4に示すように、測定管2の外周面2Aに形成した配線パターンを含む、接続配線11Aおよび接続配線11Bからなる一対の接続配線により、面電極10A,10Bとプリアンプ5Uとをそれぞれ電気的に接続している。
【0033】
すなわち、接続配線11Aは、外周面2Aに形成されて一端が面電極10Aに接続された管側配線パターン12Aと、プリアンプ基板5に形成されて一端がプリアンプ5Uに接続された基板側配線パターン5Aと、管側配線パターン12Aと基板側配線パターン5Aとを接続するジャンパー線15Aとから構成されている。ジャンパー線15Aは、管側配線パターン12Aの他端に形成されたパッド16Aと、基板側配線パターン5Aの他端に形成されたパッド5Cとに半田付けされる。
【0034】
また、接続配線11Bは、外周面2Aに形成されて一端が面電極10Bに接続された管側配線パターン12Bと、プリアンプ基板5に形成されて一端がプリアンプ5Uに接続された基板側配線パターン5Bと、管側配線パターン12Bと基板側配線パターン5Bとを接続するジャンパー線15Bとから構成されている。ジャンパー線15Bは、管側配線パターン12Bの他端に形成されたパッド16Bと、基板側配線パターン5Bの他端に形成されたパッド5Dとに半田付けされる。
【0035】
これにより、接続配線11A,11Bのうち、面電極10A,10Bからプリアンプ基板5の近傍位置までの区間で、外周面2Aに形成された管側配線パターン12A,12Bが用いられることになる。このため、配線ケーブルの取り回しや固定などの取付作業を簡素化でき、接続配線のコストおよび配線作業負担が軽減される。
【0036】
さらに、面電極10A,10Bと管側配線パターン12A,12Bとは、銅などの非磁性金属薄膜からなり、測定管2の外周面2Aに一体で形成されるため、製造工程を簡素化することができ、製品コストの低減にもつながる。
【0037】
[薄膜について]
次に、面電極10A,10Bの外表面に形成された薄膜7について説明する。
図2図4に示すように、本実施の形態において、測定管2の外周面2Aには、少なくとも面電極10A,10Bの外表面のすべてを覆う誘電体の薄膜7が、測定管2の全周にわたって環状に形成されている。具体的には、面電極10A,10Bが外周面2Aにパターン形成された導体であるため、薄膜7として、これら面電極10A,10Bのすべてを覆うように、外周面2Aに貼り付けられる誘電性のフィルムを用いてもよい。
【0038】
前述したように、測定管2として、樹脂やセラミックなどの誘電性材料からなり、電気を蓄える性質を持つ誘電体を用いた場合、測定管2の外周面2Aには、流体温度変化に伴う焦電効果による帯電、流体圧力変化による圧電効果に伴う帯電、あるいは、超純水のような低導電率の流体を流した際の流体摩擦による帯電が発生する。
【0039】
これら帯電は、測定管2の外周面2Aに発生するため、面電極10A,10Bの電極間(さらには配線パターン間)に、直流電圧(電位差)となって現れる場合がある。また、このとき発生する直流電圧は、条件によっては数十mV以上となる場合がある。一方、流体の流速に応じて面電極10A,10Bの間に発生する起電力Va,Vbは、数mV(p-p)以内である。このため、帯電によって面電極10A,10B間に発生した直流電圧の影響を受けて、流量計測値がドリフトを起こしてしまう恐れがある。
【0040】
本実施の形態では、測定管2の外周面2Aに、面電極10A,10Bの外表面のすべてを覆う誘電体の薄膜7を形成したので、帯電による電荷が面電極10A,10Bの外表面には発生せず、その外側の薄膜7へ移動することになる。このため、帯電が、面電極10A,10Bの電極間に、直流電圧となって現れなくなり、流量計測値のドリフトを抑制することができる。したがって、測定管2の外周面2Aに発生した帯電による流量計測への影響を低減することが可能となる。
【0041】
薄膜7については、ポリエステル、アクリル、エポキシ、フッ素、シリコンなど、耐熱温度範囲が広く入手性の良い樹脂フィルムを基材とした絶縁テープであってもよく、具体的には、上記樹脂フィルムの基材と熱硬化型ゴム系などの粘着剤の2層構造を有する絶縁テープであってもよい。また、薄膜7として厚みが薄いフィルムや絶縁テープを用いる場合、薄膜7の外表面に帯電した電荷と面電極10A,10Bとの距離を十分確保するため、一定の厚さとなるよう重ねて張り付けてもよい。
【0042】
なお、薄膜7は、面電極10A,10Bの外表面に貼り付けるシート部材に限定されるものではなく、例えば、電気絶縁ワニスなど、絶縁性を有する液状のコーティング剤を塗布して乾燥させて形成した皮膜であってもよい。また、面電極10A,10Bのすべてを測定管2の全周にわたって環状に覆う熱収縮チューブなどの絶縁皮膜であってもよい。
【0043】
[配線パターンについて]
図3図4に示すように、管側配線パターン12Aは、測定管2の外周面2Aに長手方向Xに沿って直線状に形成された長手方向配線パターン13Aと、面電極10Aのうち、長手方向Xに沿った端部から上記長手方向配線パターン13Aの一端まで、測定管2の外周面2Aに測定管2の周方向Wに沿って形成された周方向配線パターン14Aとを含んでいる。
また、管側配線パターン12Bは、測定管2の外周面2Aに長手方向Xに沿って直線状に形成された長手方向配線パターン13Bと、面電極10Bのうち、長手方向Xに沿った端部から上記長手方向配線パターン13Bの一端まで、測定管2の外周面2Aに測定管2の周方向Wに沿って形成された周方向配線パターン14Bとを含んでいる。
【0044】
接続配線11A,11Bの一部は、磁束領域Fの内側あるいはその近傍に配置されるため、接続配線11A,11Bとして一対の配線ケーブルを用いた場合には、磁束方向Yから見た両配線間の位置ズレにより、信号ループが形成されてしまい、前述したように磁束微分ノイズが発生する要因となる。
本実施の形態のように、測定管2の外周面2Aに形成した配線パターンを用いれば、接続配線11A,11Bの位置を正確に固定化することができる。このため、磁束方向Yから見た両配線間の位置ズレを回避でき、磁束微分ノイズの発生を容易に抑制することができる。
【0045】
この際、長手方向配線パターン13Bは、測定管2を挟んで長手方向配線パターン13Aとは反対側の外周面2Aのうち、磁束方向Yから見て長手方向配線パターン13Aと重なる位置に形成されている。すなわち、外周面2Aのうち、管軸Jを通過する電極方向Zに沿った平面を挟んで対称となる位置に、長手方向配線パターン13A,13Bが形成されている。
【0046】
図3および図4の例では、磁束方向Yに沿って測定管2の管軸Jを通過する平面が外周面2Aと交差する交差線JA,JB上に、長手方向配線パターン13A,13Bがそれぞれ形成されている。また、周方向配線パターン14Aの一端は、面電極10Aの端部17Aのうち、長手方向Xにおける面電極10Aの中央位置に接続されている。同じく、周方向配線パターン14Bの一端は、面電極10Bの端部17Bのうち、長手方向Xにおける面電極10Bの中央位置に接続されている。
【0047】
これにより、長手方向配線パターン13A,13Bが、磁束方向Yから見て重なる位置に形成されているため、前述したような信号ループの形成を正確に回避することができ、磁束微分ノイズの発生を容易に抑制することができる。
【0048】
また、交差線JA,JB上に長手方向配線パターン13A,13Bを形成することにより、周方向配線パターン14A,14Bの長さが等しくなって、管側配線パターン12A,12B全体の長さが等しくなるため、管側配線パターン12A,12Bの長さの違いに起因して発生する、面電極10A,10Bからの起電力Va,Vbの位相差や振幅などのアンバランスを抑制できる。なお、計測精度上、これらアンバランスが無視できる程度であれば、長手方向配線パターン13A,13Bは、交差線JA,JB上でなくてもよく、磁束方向Yから見て重なる位置に形成されていればよい。
【0049】
[プリアンプ基板について]
プリアンプ基板5は、電子部品を実装するための一般的なプリント配線基板であり、図2に示すように、プリアンプ基板5のほぼ中央位置に、測定管2を貫通させるための管孔5Hが形成されている。したがって、プリアンプ基板5は測定管2と交差する方向に沿って取り付けられていることになる。管孔5Hに貫通させた測定管2の外周面2Aと、管孔5Hの端部とを接着剤で固定することにより、測定管2にプリアンプ基板5を容易に取り付けることができる。図2の例では、管孔5Hは、プリアンプ基板5の基板端部に向けて開口していないが、管孔5Hの周部の一部が、プリアンプ基板5の基板端部に向けて直接開口していてもよく、あるいはスリットを介して間接的に開口していてもよい。
【0050】
また、図3および図4の例において、プリアンプ基板5の取付位置は、長手方向X(矢印方向)に流れる流体の下流方向に、磁束領域Fから離間した位置である。また、プリアンプ基板5の取付方向は、前述したように、基板面が測定管2と交差する方向、ここでは、磁束方向Yおよび電極方向Zからなる2次元平面に沿った方向である。なお、プリアンプ基板5の取付位置は、磁束領域Fの外側位置であればよく、磁束領域Fから下流方向とは反対の上流方向に離間した位置であってもよい。また、プリアンプ基板5の取付方向は、上記2次元平面に沿った方向に厳密に限定されるものではなく、上記2次元平面と傾きを持っていてもよい。
【0051】
また、面電極10A,10B、接続配線11A,11B、および、プリアンプ5Uは、接地電位に接続された金属板からなるシールドケース6で電気的にシールドされている。シールドケース6は、長手方向Xに沿って伸延する略矩形状をなし、測定管2が内側を貫通するための開口部が、磁束領域Fから上流方向と下流方向に設けられている。
【0052】
これにより、インピーダンスの高い回路部分全体がシールドケース6でシールドされることにより、外部ノイズの影響を抑制される。この際、プリアンプ基板5のうちプリアンプ5Uの実装面とは反対側の半田面に、接地電位に接続された接地パターン(べたパターン)からなるシールドパターン5Gを形成してもよい。これにより、シールドケース6を構成する平面のうち、プリアンプ基板5と当接する平面はすべて開口していてもよく、シールドケース6の構造を簡素化できる。
【0053】
図5は、プリアンプを用いた差動増幅回路の構成例である。図5に示すように、プリアンプ5Uは、面電極10A,10Bからの起電力Va,Vbをそれぞれ個別に低インピーダンス化して出力する2つのオペアンプUA,UBを備えている。これらオペアンプUA,UBは、同じICパッケージ内に封止されている(デュアルオペアンプ)。また、これらは、入力されたVa,Vbを差動増幅し、得られた差動出力を検出信号Vinとして、図1の信号増幅回路21へ出力する。
【0054】
具体的には、UAの非反転入力端子(+)にVaが入力され、UBの非反転入力端子(+)にVbが入力されている。また、UAの反転入力端子(-)は、抵抗素子R1を介してUAの出力端子に接続されており、UBの反転入力端子(-)は、抵抗素子R2を介してUBの出力端子に接続されている。そして、UAの反転入力端子(-)は、抵抗素子R3を介してUBの反転入力端子(-)に接続されている。この際、R1,R2の値を等しくすることによりUA,UBの増幅率は一致する。これらR1,R2の値とR3の値によって増幅率が決定される。
【0055】
面電極10A,10Bからの起電力Va,Vbは、互いに逆相を示す信号であるため、UA,UBを用いてこのような差動増幅回路をプリアンプ基板5上で構成することにより、励磁コイル3A,3Bや測定管2から熱の影響を受けてVa,Vbに温度ドリフトが発生したとしても、Va,Vbが差動増幅される。これにより、検出信号Vinにおいて、これら同相の温度ドリフトはキャンセルされるとともに、Va,Vbが加算されることになり、良好なS/N比を得ることができる。
【0056】
[第1の実施の形態の効果]
容量式電磁流量計100において、測定管2として、樹脂やセラミックなどの誘電性材料からなり、電気を蓄える性質を持つ誘電体を用いた場合、測定管2の外周面2Aには、流体温度変化に伴う焦電効果による帯電、流体圧力変化による圧電効果に伴う帯電、あるいは、超純水のような低導電率の流体を流した際の流体摩擦による帯電が発生する。
【0057】
本実施の形態では、測定管2の外周面2Aに、面電極10A,10Bの外表面のすべてを覆う誘電体の薄膜7を形成したので、帯電による電荷が面電極10A,10Bの外表面には発生せず、その外側の薄膜7へ移動することになる。このため、帯電が、面電極10A,10Bの電極間に、直流電圧となって現れなくなり、流量計測値のドリフトを抑制することができる。したがって、測定管2の外周面2Aに発生した帯電による流量計測への影響を低減することが可能となる。
【0058】
また、本実施の形態において、一対の面電極10A,10Bは、測定管2の外周面2Aにパターン形成された導体からなり、薄膜7として、面電極10A,10Bのすべてを覆うように、測定管2の外周面2Aに貼り付けられるフィルムを用いてもよい。これにより、薄膜7の膜厚がばらつく心配がなくなる。また、予め必要なサイズにカットしておくことが可能となり、容易に貼付け作業を行うことができる。
【0059】
また、本実施の形態において、薄膜7として、樹脂フィルムを基材とした絶縁テープを用いてもよい。具体的には、薄膜7として、樹脂フィルムの基材と粘着剤の2層構造を有する絶縁テープを用いてもよい。これにより、薄膜7の膜厚がばらつく心配がなくなる。また、貼付け作業が容易となり、貼付け後の薄膜7の剥がれも防止できる。さらに面電極10A,10Bの防湿対策も兼ねることができるため、湿度影響による電極10A,10B間の絶縁性の劣化を防止できる。
【0060】
また、本実施の形態において、薄膜7として、絶縁性を有する液状のコーティング剤を塗布して乾燥させて形成した皮膜を用いてもよい。これにより、塗布後の薄膜7の剥がれが防止できる。さらに面電極10A,10Bの防湿対策も兼ねることができるため、湿度影響による電極10A,10B間の絶縁性の劣化を防止できる。
【0061】
また、本実施の形態において、薄膜7を、測定管2の全周にわたって環状に形成してもよい。これにより、貼付け後の皮膜7の剥がれを防止できる。
【0062】
また、本実施の形態において、薄膜7として、一対の面電極10A,10Bのすべてを測定管2の全周にわたって環状に覆う絶縁皮膜を用いてもよい。具体的には、薄膜7として、熱収縮チューブを用いてもよい。これにより、薄膜7の膜厚がばらつく心配がなくなる。また、貼付け作業が容易となり、貼付け後の薄膜7の剥がれも防止できる。さらに面電極10A,10Bの防湿対策も兼ねることができるため、湿度影響による電極10A,10B間の絶縁性の劣化を防止できる。
【0063】
[第2の実施の形態]
次に、図6および図7を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる容量式電磁流量計100について説明する。図6は、第2の実施の形態にかかる検出部の側面図である。図7は、第2の実施の形態にかかる検出部の上面図である。
第1の実施の形態では、長手方向Xに沿った薄膜7の幅が、面電極10A,10Bの幅より少し長めにして、薄膜7で面電極10A,10Bのみを覆った場合を例として説明した。本実施の形態では、薄膜7で面電極10A,10Bに加えて管側配線パターン12A,12Bも覆う場合について説明する。
【0064】
すなわち、本実施の形態において、容量式電磁流量計100は、測定管2の外周面2Aに互いに対向して形成されて、一対の面電極10A,10Bと電気的にそれぞれ接続された一対の管側配線パターン12A,12Bをさらに備え、薄膜7を、一対の管側配線パターン12A,12Bの外表面を覆うように形成したものである。
本実施の形態にかかる容量式電磁流量計100のこれ以外の構成については、第1の実施の形態と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0065】
図6および図7に示すように、薄膜7は、長手方向Xに沿って、面電極10A,10Bの上流側端部から、管側配線パターン12A,12Bの下流側端部、すなわちパッド16A,16Bまでの範囲で、測定管2の全周にわたって環状に形成されている。
これにより、帯電による電荷が面電極10A,10Bだけでなく管側配線パターン12A,12Bの外表面にも発生せず、その外側の薄膜7へ移動することになる。
【0066】
このため、帯電が、面電極10A,10Bの電極間および管側配線パターン12A,12Bの電極間に、直流電圧となって現れなくなり、流量計測値のドリフトを抑制することができる。したがって、測定管2の外周面2Aに発生した帯電による流量計測への影響を、さらに低減することが可能となる。
【0067】
[第3の実施の形態]
次に、図8および図9を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかる容量式電磁流量計100について説明する。図8は、第3の実施の形態にかかる検出部の正面図である。図9は、第3の実施の形態にかかる検出部の側面図である。
第1および第2の実施の形態では、薄膜7を、測定管2の全周にわたって環状に形成した場合を例として説明した。本実施の形態では、薄膜7を測定管2の周方向Wで2つに分割して形成する場合について説明する。
【0068】
すなわち、本実施の形態において、薄膜7は、測定管2の周方向Wで薄膜7Aと薄膜7Bの2つに分割して形成されている。
本実施の形態にかかる容量式電磁流量計100のこれ以外の構成については、第1または第2の実施の形態と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0069】
図8および図9に示すように、薄膜7Aは、周方向Wのうち面電極10Aを含む角度範囲に形成されており、薄膜7Bは、周方向Wのうち面電極10Bを含む角度範囲に形成されている。これにより、測定管2の外周面2Aに面電極10A,10Bを形成した後、薄膜7A,7Bを貼り付ける場合、2つに分割されているため、測定管2の全周にわたって環状に張り付ける場合と比較して、貼り付け時の作業負担を軽減することができる。また、薄膜7A,7Bを、面電極10A,10Bを覆うのに必要となる面積に縮小でき、部材コストを削減できる。
【0070】
なお、図8および図9では、長手方向Xに沿った薄膜7A,7Bの幅を面電極10A,10Bの下流側端部までの範囲とし、面電極10A,10Bのみを薄膜7A,7Bで覆う場合を例として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図6および図7に示したように、長手方向Xに沿った薄膜7A,7Bの幅を、管側配線パターン12A,12Bの下流側端部、すなわちパッド16A,16Bまでの範囲としてもよい。
【0071】
これにより、帯電が、面電極10A,10Bの電極間および管側配線パターン12A,12Bの電極間に、直流電圧となって現れなくなり、流量計測値のドリフトを抑制することができる。したがって、測定管2の外周面2Aに発生した帯電による流量計測への影響を、さらに低減することが可能となる。
【0072】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0073】
100…容量式電磁流量計、1…流路、2…測定管、3A,3B…励磁コイル、4A,4B…ヨーク面、5…プリアンプ基板、5A,5B…基板側配線パターン、5C,5D…パッド、5G…シールドパターン、5H…管孔、5U…プリアンプ、6,6A,6B…シールドケース、7,7A,7B…薄膜、10A,10B…面電極、11A,11B…接続配線、12A,12B…管側配線パターン、13A,13B…長手方向配線パターン、14A,14B…周方向配線パターン、15A,15B…ジャンパー線、16A,16B…パッド、17A,17B…端部、20…検出部、21…信号増幅回路、22…信号検出回路、23…励磁回路、25…伝送回路、26…設定・表示回路、27…演算処理回路、27A…励磁制御部、27B…流量算出部、UA,UB…オペアンプ、R1,R2,R3…抵抗素子、L…伝送路、Va,Vb…起電力、Vin…検出信号、Φ…磁束、F…磁束領域、X…長手方向、Y…磁束方向、Z…電極方向、W…周方向、J…管軸、JA,JB,JC,JD…交差線。
図1
図2
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図12