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特許7294882再生炭素繊維を含有する成形体および成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】再生炭素繊維を含有する成形体および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/77 20060101AFI20230613BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230613BHJP
   B29B 7/42 20060101ALI20230613BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20230613BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20230613BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B29C45/77
C08L101/00
B29B7/42
B29B7/48
B29C70/06
C08K3/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019095502
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020189916
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】長田 華穂
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-007212(JP,A)
【文献】特表2012-533503(JP,A)
【文献】特開2015-227051(JP,A)
【文献】特開2015-214143(JP,A)
【文献】特開2020-143228(JP,A)
【文献】特表2016-521295(JP,A)
【文献】特開2000-318004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
B29C 45/00 - 45/24
B29C 45/46 - 45/63
B29C 45/70 - 45/72
B29C 45/74 - 45/84
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂および再生炭素繊維を含有する炭素繊維複合材料を射出成形することにより成形された成形体であって、
前記炭素繊維複合材料における前記再生炭素繊維の含有量が58~70重量%であり、
射出成形時における流れ方向をMD、前記流れ方向に対する直角方向をTDとしたとき、引張強度の比(TD/MD)が0.75以上、および/または引張弾性の比(TD/MD)が0.85以上であることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記再生炭素繊維のアスペクト比の平均が3.4~4.0である
請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記再生炭素繊維の繊維長(D50)が100~150μmである
請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂である
請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
部に通路を備えたスクリュ本体の外周面に沿って、再生炭素繊維を58~70重量%含有する原料を搬送する際、
前記外周面に設けられた障壁部により前記原料の搬送を制限して、前記スクリュ本体により前記原料にせん断力を加えるとともに、前記外周面に設けられた前記通路の入口から前記通路の出口へ通過させて前記原料に伸長力を加え炭素繊維複合材料とし、
前記炭素繊維複合材料を射出成形して請求項1に記載の成形体とする、成形体の製造方法。
【請求項6】
前記通路が、前記スクリュ本体の内部に並行して複数設けられている
請求項5に記載の成形体の製造方法
【請求項7】
前記スクリュ本体の回転数が200~500(回転/分間)であり、前記原料の搬送を制限する回数が2~4回である
請求項5に記載の成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機や自動車の廃棄物等から取り出した再生炭素繊維を含有する導電性を備えた炭素繊維複合材料成形体および当該成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を含有する炭素繊維強化材料(CFRP)は、高強度、高剛性であり軽量化に有利であることから、航空機や自動車等の部品として利用されている。炭素繊維強化材料に含まれる炭素繊維は高価であるため、使用済みのCFRPに含まれる炭素繊維を取り出し、再生炭素繊維を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-82037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高価な未使用炭素繊維(以下、適宜「炭素繊維」という)の代わりに、安価な再生炭素繊維を用いて、高い強度および弾性を有する炭素繊維複合材料を製造できれば、経済性および環境への負担軽減の観点から好ましい。しかし、使用済みのCFRPから製造された再生炭素繊維は、製造工程の影響により、一般に、未使用炭素繊維と比較して機械的な特性が低い。このため、未使用炭素繊維の代わりに再生炭素繊維を用いて、強度および弾性に優れる樹脂複合材料を製造することは困難であった。また、再生炭素繊維は複合材料中における分散性が悪いため、従来、50重量%を超える高濃度の再生炭素繊維を配合することが困難であった。高濃度に配合された再生炭素繊維の分散性が悪いと、再生炭素繊維が凝集した部分から初期破壊を誘発し、複合材料の強度および弾性が低下する原因になるという問題があった。
そこで、本発明は、高い強度および弾性を備えた再生炭素繊維を含有する炭素繊維複合材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、せん断力と伸長力と加える方法により、50重量%を超える高濃度の再生炭素繊維を分散性良く炭素繊維複合材料に配合することが可能になるという知見に基づいており、以下の構成を備えている。
本発明の成形体は、樹脂および再生炭素繊維を含有する炭素繊維複合材料を射出成形することにより成形されたものであり、前記炭素繊維複合材料における前記再生炭素繊維の含有量が58~70重量%であり、射出成形時における流れ方向をMD、前記流れ方向に対する直角方向をTDとしたとき、引張強度の比(TD/MD)が0.75以上、および/または引張弾性の比(TD/MD)が0.85以上であることを特徴としている。
【0006】
本発明の成形体の製造方法は、内部に通路を備えたスクリュ本体の外周面に沿って再生炭素繊維を58~70重量%含有する原料を搬送する際、前記外周面に設けられた障壁部により前記原料の搬送を制限して、前記スクリュ本体により前記原料にせん断力を加えるとともに、前記外周面に設けられた前記通路の入口から前記通路の出口へ通過させて前記原料に伸長力を加えて炭素繊維複合材料とし、前記炭素繊維複合材料を射出成形して成形体とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
樹脂と再生炭素繊維とを溶融混練する際、せん断力とともに伸長力を加えることにより、高濃度の再生炭素繊維を樹脂中に分散させることが可能になる。このため、高い分散性を維持したままで、炭素繊維複合材料における再生炭素繊維の含有量を高くすることができる。再生炭素繊維の含有量を高くすることで、強度および弾性が高い炭素繊維複合材料となる。また、高濃度の再生炭素繊維を含有する炭素繊維複合材料を射出成形することにより、機械的特性の異方性が抑制された、等方性に優れる成形品を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の製造方法に用いる連続式高せん断加工装置を概略的に示す斜視図
図2】連続式高せん断加工装置における第1の押出機の断面図
図3】第1の押出機の二本のスクリュが互いに噛み合った状態を示す斜視図
図4】連続式高せん断加工装置における第3の押出機の断面図
図5】連続式高せん断加工装置における第2の押出機の断面図
図6】第2の押出機において、バレルおよびスクリュを共に断面で示す第2の押出機の断面図
図7図6のF15-F15線に沿う断面図
図8】筒体の斜視図
図9】スクリュに対する原料の流動方向を示す側面図
図10】スクリュが回転した時の原料の流動方向を概略的に示す第2の押出機の断面図
図11】複数の通路が平行に設けられた例を示す、図7に相当する部分の断面図
図12】実施例および比較例の(a)引張強度と曲げ弾性率とを示すグラフ、(b)比剛性と比強度とを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
[炭素繊維複合材料]
本発明の炭素繊維複合材料は、樹脂および50~70重量%の再生炭素繊維を含有している。連続式高せん断加工装置を用いる本発明の製造方法により、50~70重量%の高濃度の再生炭素繊維が良好な状態で分散された炭素繊維複合材料を製造することが可能になる。再生炭素繊維を高濃度で含有することにより、強度および弾性などの機械的特性が良好な炭素繊維複合材料となる。本発明において、数値範囲「A~B」は「A以上B以下」を意味する。
【0010】
炭素繊維複合材料における再生炭素繊維の含有量は、複合材料の強度および弾性を高くする観点から、53重量%以上が好ましく、58重量%以上がより好ましい。また、連続加工性に優れた炭素繊維複合材料とする観点から、再生炭素繊維の含有量は、68重量%以下が好ましく、63重量%以下がより好ましい。
【0011】
再生炭素繊維とは、航空機の部品などに用いられた炭素繊維強化材料(CFRP)から回収された炭素繊維を含むものをいう。炭素繊維を回収(再生)する際に、炭素繊維強化材料中に含まれる炭素繊維から樹脂を分離する方法は限定されないが、例えば、熱分解法や化学溶解法等が挙げられる。なお、再生炭素繊維は、炭素繊維強化材料(CFRP)から回収されたものに加えて、製造工程において生じた未使用炭素繊維の端材(織物材やノンクリンプ織物など)を含んでいてもよい。
【0012】
炭素繊維複合材料の引張強度を高くする観点から、再生炭素繊維のアスペクト比は3.4~4.0が好ましく、3.5~3.9がより好ましい。同様の観点から、再生炭素繊維の繊維長(D50)は、100μm以上が好ましく、105μm以上がより好ましい。また、炭素繊維複合材料を射出成形した成形体の機械的特性の異方性を小さくする観点から、再生炭素繊維の繊維長(D50)は、150μm以下が好ましく、120μm以下がより好ましい。
【0013】
炭素繊維複合材料に含まれる樹脂は、特に限定されないが、加熱条件下において再生炭素繊維と容易に混練できることから、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリスルホン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、芳香族ポリアミド(PA)、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドである。これらの樹脂は、1種類を用いても、2種以上併用しても良い。
【0014】
炭素繊維複合材料は、上述した樹脂および再生炭素繊維以外の成分を含有してもよい。含有してもよい成分としては、例えば、酸化防止剤(硫黄系、リン系)、無水カルボン酸、マレイン酸、可塑剤、UV吸収剤、難燃剤、結晶核剤などの添加剤や各種フィラー(カーボンブラック、タルク、金属粉、CNT、シリカ粒子、マイカ)等が挙げられ、配合量は、炭素繊維複合材料が用途に応じた強度および弾性を維持することができる範囲とする。
【0015】
[成形体]
再生炭素繊維を高濃度で含有する炭素繊維複合材料は、一般的に固く、溶融粘度が高いため、射出成形に向いていない。しかし、本実施形態の炭素繊維複合材料には、高濃度の再生炭素繊維が分散性良く配合されているから、適度な流動性を備えている。このため、射出成形により成形体を形成することが可能である。
【0016】
本発明の炭素繊維複合材料は、原料にせん断力および伸長力を加える本発明の製造方法によって、樹脂と再生炭素繊維との分散状態が良好なまま、再生炭素繊維を50~70重量%という高い濃度で配合することができる。再生炭素繊維が高濃度で配合された複合材料を成形することにより、強度および弾性率の高い成形体を得ることができる。
【0017】
本発明の炭素繊維複合材料を射出成形して形成された成形体の機械的特性は、未使用炭素繊維を含有するCFRPと比較して、異方性が抑制された(等方性に優れた)ものとなる。これは、本発明の製造方法によって樹脂と混練する際、再生炭素繊維の繊維長が短くなることに関係していると考えられる。すなわち、繊維長が比較的短い再生炭素繊維を50重量%以上の高濃度で含有していることにより、射出成形時における再生炭素繊維の流れ方向への配向性が低下し、ランダムに近い配向となったためと考えられる。成形体の異方性を小さくする観点から、再生炭素繊維の繊維長(D50)は、150μm以下が好ましく、120μm以下がより好ましい。
【0018】
本発明の炭素繊維複合材料により、射出成形時における流れ方向(MD、機械的特性が高い方向)に対する直角方向(TD、機械的特性が低い方向)の機械的特性の比(TD/MD)が大きい(異方性の小さい)成形体が得られる。成形体の機械的特性としては、引張強度や引張弾性が挙げられる。本発明の炭素繊維複合材料を射出成形することにより、引張強度の比(TD/MD)が0.75以上であり、引張弾性の比(TD/MD)が0.85以上である、異方性が抑制された成形体が得られる。機械的特性の比は、実施例に記載の測定方法により得られる値をいい、機械的特性の比(TD/MD)が1.0に近い程、成形体の異方性が低い(等方性が高い)。
【0019】
[炭素繊維複合材料の製造方法]
上述した本発明の炭素繊維複合材料は、樹脂および再生炭素繊維を含む原料を溶融混練して連続的に吐出する連続式高せん断加工装置を用いて、内部に通路を備えたスクリュ本体の外周面に沿って、再生炭素繊維を50~70重量%含有する原料を搬送する際、外周面に設けられた障壁部により原料の搬送を制限して、スクリュ本体により原料にせん断力を加えるとともに、外周面に設けられた通路の入口から通路の出口へ通過させて原料に伸長力を加えることによって製造できる。
【0020】
本発明の製造方法について、連続式高せん断加工装置を参照しつつ、以下に説明する。
図1には、第1の実施形態に係る連続式高せん断加工装置(混練装置)1の構成が概略的に示されている。高せん断加工装置1は、第1の押出機(処理機)2、第2の押出機3および第3の押出機(脱泡機)4を備えている。第1の押出機2、第2の押出機3および第3の押出機4は、互いに直列に接続されている。
【0021】
第1の押出機2は、樹脂および再生炭素繊維を含む原料を、予備的に混練し、溶融するための処理機である。これら原料は、樹脂なら例えばペレットや粉末などの状態で、再生炭素繊維なら3~10mmに切断された短繊維チョップなどの状態で、第1の押出機2に供給される。
【0022】
本実施形態では、原料の混練・溶融の度合いを強化するため、第1の押出機2として同方向回転型の二軸混練機を用いている。図2および図3は、二軸混練機の一例を開示している。二軸混練機は、バレル6と、バレル6の内部に収容された二本のスクリュ7a,7bと、を備えている。バレル6は、二つの円筒を組み合わせた形状を有するシリンダ部8を含んでいる。前記樹脂は、バレル6の一端部に設けた供給口9からシリンダ部8に連続的に供給される。さらに、バレル6は、樹脂を溶融するためのヒータを内蔵している。
【0023】
スクリュ7a,7bは、互いに噛み合った状態でシリンダ部8に収容されている。スクリュ7a,7bは、図示しないモータから伝わるトルクを受けて互いに同方向に回転される。図3に示すように、スクリュ7a,7bは、それぞれ、フィード部11、混練部12およびポンピング部13を備えている。フィード部11、混練部12およびポンピング部13は、スクリュ7a,7bの軸方向に沿って一列に並んでいる。
【0024】
フィード部11は、螺旋状に捩じれたフライト14を有している。スクリュ7a,7bのフライト14は、互いに噛み合った状態で回転するとともに、供給口9から供給された再生炭素繊維と樹脂を含む材料を混練部12に向けて搬送する。
【0025】
混練部12は、スクリュ7a,7bの軸方向に並んだ複数のディスク15を有している。スクリュ7a,7bのディスク15は、互いに向かい合った状態で回転するとともに、フィード部11から送られた再生炭素繊維と樹脂を含む材料を予備的に混練する。混練された材料は、スクリュ7a,7bの回転によりポンピング部13に送り込まれる。
【0026】
ポンピング部13は、螺旋状に捩じれたフライト16を有している。スクリュ7a,7bのフライト16は、互いに噛み合った状態で回転するとともに、予備的に混練された材料をバレル6の吐出端から押し出す。
【0027】
このような二軸混練機によると、スクリュ7a,7bのフィード部11に供給された材料中の樹脂は、スクリュ7a,7bの回転に伴うせん断発熱およびヒータの熱を受けて溶融する。二軸混練機での予備的な混練により溶融された樹脂と再生炭素繊維は、ブレンドされた原料を構成する。原料は、図1に矢印Aで示すように、バレル6の吐出端から第2の押出機3に連続的に供給される。
【0028】
さらに、第1の押出機2を二軸混練機として構成することで、樹脂を溶融させるだけでなく、樹脂および再生炭素繊維にせん断作用を付与することができる。このため、原料が第2の押出機3に供給される時点で、当該原料は、第1の押出機2での予備的な混練により溶融されて最適な粘度に保たれる。また、第1の押出機2を二軸混練機として構成することで、第2の押出機3に連続して原料を供給する際、単位時間当たりに、所定量の原料を安定して供給することができる。したがって、原料を本格的に混練する第2の押出機3の負担を軽減することができる。
【0029】
第2の押出機3は、原料の樹脂成分中に再生炭素繊維が高分散した混練物を生成するための要素である。本実施形態では、第2の押出機3として単軸押出機を用いている。単軸押出機は、バレル20と、一本のスクリュ21と、を備えている。スクリュ21は、溶融された原料にせん断作用および伸長作用を繰り返し付与する機能を有している。スクリュ21を含む第2の押出機3の構成に関しては、後で詳細に説明する。
【0030】
第3の押出機4は、第2の押出機3から吐出された混練物に含まれるガス成分を吸引・除去するための要素である。本実施形態では、第3の押出機4として単軸押出機を用いている。図4に示すように、単軸押出機は、バレル22と、バレル22に収容された一本のベントスクリュ23と、を備えている。バレル22は、真っ直ぐな円筒状のシリンダ部24を含んでいる。第2の押出機3から押し出された混練物は、シリンダ部24の軸方向に沿う一端部からシリンダ部24に連続的に供給される。
【0031】
バレル22は、ベント口25を有している。ベント口25は、シリンダ部24の軸方向に沿う中間部に開口されているとともに、真空ポンプ26に接続されている。さらに、バレル22のシリンダ部24の他端部は、ヘッド部27で閉塞されている。ヘッド部27は、混練物を吐出させる吐出口28を有している。
【0032】
ベントスクリュ23は、シリンダ部24に収容されている。ベントスクリュ23は、図示しないモータから伝わるトルクを受けて一方向に回転される。ベントスクリュ23は、螺旋状に捩じれたフライト29を有している。フライト29は、ベントスクリュ23と一体的に回転するとともに、シリンダ部24に供給された混練物をヘッド部27に向けて連続的に搬送する。混練物は、ベント口25に対応する位置に搬送された時に、真空ポンプ26のバキューム圧を受ける。すなわち、真空ポンプによってシリンダ部24内を負圧に引くことで、混練物に含まれるガス状物質やその他の揮発成分が混練物から連続的に吸引・除去される。ガス状物質やその他の揮発成分が取り除かれた混練物は、ヘッド部27の吐出口28から高せん断加工装置1の外に炭素繊維複合材料として連続的に吐出される。
【0033】
次に、第2の押出機3について説明する。
図5図6に示すように、第2の押出機3のバレル20は、真っ直ぐな筒状であって、水平に配置されている。バレル20は、複数のバレルエレメント31に分割されている。
【0034】
各バレルエレメント31は、円筒状の貫通孔32を有している。バレルエレメント31は、それぞれの貫通孔32が同軸状に連続するようにボルト締結により一体的に結合されている。バレルエレメント31の貫通孔32は、互いに協働してバレル20の内部に円筒状のシリンダ部33を規定している。シリンダ部33は、バレル20の軸方向に延びている。
【0035】
バレル20の軸方向に沿う一端部に供給口34が形成されている。供給口34は、シリンダ部33に連通するとともに、当該供給口34に第1の押出機2でブレンドされた原料が連続的に供給される。
【0036】
バレル20は、図示しないヒータを備えている。ヒータは、バレル20の温度が原料の混練に最適な値となるようにバレル20の温度を調整する。さらに、バレル20は、例えば水あるいは油のような冷媒が流れる冷媒通路35を備えている。冷媒通路35は、シリンダ部33を取り囲むように配置されている。冷媒は、バレル20の温度が予め決められた上限値を超えた時に冷媒通路35に沿って流れ、バレル20を強制的に冷却する。
【0037】
バレル20の軸方向に沿う他端部は、ヘッド部36で閉塞されている。ヘッド部36は、吐出口36aを有している。吐出口36aは、供給口34に対しバレル20の軸方向に沿う反対側に位置されるとともに、第3の押出機4に接続されている。
【0038】
スクリュ21は、スクリュ本体37を備えている。本実施形態のスクリュ本体37は、一本の回転軸38と、複数の円筒状の筒体39と、で構成されている。
【0039】
回転軸38は、第1の軸部40および第2の軸部41を備えている。第1の軸部40は、バレル20の一端部の側である回転軸38の基端に位置されている。第1の軸部40は、継手部42およびストッパ部43を含んでいる。継手部42は、図示しないカップリングを介してモータのような駆動源に連結される。ストッパ部43は、継手部42に同軸状に設けられている。ストッパ部43は、継手部42よりも径が大きい。
【0040】
第2の軸部41は、第1の軸部40のストッパ部43の端面から同軸状に延びている。第2の軸部41は、バレル20の略全長に亘る長さを有するとともに、ヘッド部36と向かい合う先端を有している。第1の軸部40および第2の軸部41を同軸状に貫通する真っ直ぐな軸線O1は、回転軸38の軸方向に水平に延びている。
【0041】
第2の軸部41は、ストッパ部43よりも径が小さいソリッドな円柱状である。図7に示すように、第2の軸部41の外周面に一対のキー45a,45bが取り付けられている。キー45a,45bは、第2の軸部41の周方向に180°ずれた位置で第2の軸部41の軸方向に延びている。
【0042】
図7図8に示すように、各筒体39は、第2の軸部41が同軸状に貫通するように構成されている。筒体39の内周面に一対のキー溝49a,49bが形成されている。キー溝49a,49bは、筒体39の周方向に180°ずれた位置で筒体39の軸方向に延びている。
【0043】
筒体39は、キー溝49a,49bを第2の軸部41のキー45a,45bに合わせた状態で第2の軸部41の先端の方向から第2の軸部41の上に挿入される。本実施形態では、第2の軸部41の上に最初に挿入された筒体39と第1の軸部40のストッパ部43の端面との間に第1のカラー44が介在されている。さらに、全ての筒体39を第2の軸部41の上に挿入した後、第2の軸部41の先端面に第2のカラー51を介して固定ねじ52がねじ込まれている。
【0044】
このねじ込みにより、全ての筒体39が、第1のカラー44と第2のカラー51との間で第2の軸部41の軸方向に締め付けられ、隣り合う筒体39の端面が隙間なく密着されている。
【0045】
スクリュ本体37は、原料を搬送するための複数の搬送部81と、原料の流動を制限するための複数の障壁部82と、を有している。すなわち、バレル20の一端部に対応するスクリュ本体37の基端に複数の搬送部81が配置され、バレル20の他端部に対応するスクリュ本体37の先端に複数の搬送部81が配置されている。さらに、これら搬送部81の間において、スクリュ本体37の基端から先端に向かって、搬送部81と障壁部82とが軸方向に交互に並べて配置されている。搬送部81と障壁部82とを一組として配置する数により、樹脂と再生炭素繊維との混練工程を繰り返す回数が決定される。
なお、バレル20の供給口34は、スクリュ本体37の基端の側に配置された搬送部81に向けて開口している。
【0046】
回転軸38は、第1の軸部40および第2の軸部41を備えている。第1の軸部40は、バレル20の一端部の側である回転軸38の基端に位置されている。第1の軸部40は、継手部42およびストッパ部43を含んでいる。継手部42は、図示しないカップリングを介してモータのような駆動源に連結される。ストッパ部43は、継手部42に同軸状に設けられている。ストッパ部43は、継手部42よりも径が大きい。
【0047】
各搬送部81は、螺旋状に捩じれたフライト84を有している。フライト84は、筒体39の周方向に沿う外周面から搬送路53に向けて張り出している。フライト84は、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転した時に、当該スクリュ本体37の基端から先端に向けて原料を搬送するように捩じれている。すなわち、フライト84は、当該フライト84の捩じれ方向が右ねじと同じように右に捩じれている。
【0048】
各障壁部82は、螺旋状に捩じれたフライト86を有している。フライト86は、筒体39の周方向に沿う外周面から搬送路53に向けて張り出している。フライト86は、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転した時に、スクリュ本体37の先端から基端に向けて原料を搬送するように捩じれている。すなわち、フライト86は、当該フライト86の捩じれ方向が左ねじと同じように左に捩じれている。
【0049】
各障壁部82のフライト86の捩じれピッチは、搬送部81のフライト84の捩じれピッチと同じか、それよりも小さく設定されている。さらに、フライト84、86の頂部とバレル20のシリンダ部33の内周面との間には、僅かなクリアランスが確保されている。
【0050】
図5図6図9に示すように、スクリュ本体37は、スクリュ本体37の軸方向に延びる複数の通路88を有している。通路88は、一つの障壁部82と、当該障壁部82を挟んだ二つの搬送部81とを一つのユニットとすると、双方の搬送部81の筒体39に各ユニットの障壁部82を跨いで形成されている。この場合、通路88は、スクリュ本体37の軸方向に沿った同一の直線上において、所定の間隔(例えば、等間隔)で一列に整列されている。
【0051】
さらに、通路88は、筒体39の内部において、回転軸38の軸線O1から偏心した位置に設けられている。言い換えると、通路88は、軸線O1から外れており、スクリュ本体37が回転した時に、軸線O1の回りを公転するようになっている。
【0052】
図7に示すように、通路88は、例えば円形の断面形状を有する孔である。通路88は、原料の流通のみを許容する中空の空間として構成されている。通路88の壁面89は、スクリュ本体37が回転した時に、軸線O1を中心に自転することなく軸線O1の回りを公転する。
【0053】
通路88を円形の断面形状を有する孔とする場合、円の直径は、例えば2~6mm程度に設定すればよい。また、通路88の距離(長さ)は、例えば15~90mm程度に設定すればよい。再生炭素繊維を円滑に通過させると共に、通過させる際に十分なせん断力を付与し再生炭素繊維を分散させる観点から、通路88断面の円の直径は3~5mmが好ましく、通路88の距離は20~40mmが好ましい。
【0054】
図10に示すように、各通路88は、入口91、出口92、入口91と出口92との間を連通する通路本体93を有している。入口91および出口92は、一つの障壁部82の両側に接近して設けられている。別の捉え方をすると、隣り合う二つの障壁部82の間に隣接した一つの搬送部81において、入口91は、当該搬送部81の下流端の付近の外周面に開口されているとともに、出口92は、当該搬送部81の上流端の付近の外周面に開口されている。一つの搬送部81の外周面において開口されている入口91と出口92とは、通路本体93によって連通されていない。入口91は障壁部82を介して隣り合う下流側の搬送部81の出口92と連通されており、出口92は障壁部82を介して隣り合う上流側の搬送部81の入口91と連通されている。
【0055】
図10には、搬送部81のうちスクリュ本体37の搬送部81に対応した箇所の原料の充満率がグラデーションで表されている。すなわち、当該搬送部81において、色調が濃くなる程に原料の充満率が高くなっている。図10から明らかなように、搬送部81において、障壁部82に近づくに従い原料の充満率が高まっており、障壁部82の直前で、原料の充満率が100%となっている。
【0056】
このため、障壁部82の直前で、原料の充満率が100%となる「原料溜まりR」が形成される。原料溜まりRでは、原料の流動が堰き止められたことで、当該原料の圧力が上昇している。圧力が上昇した原料は、図10に破線の矢印で示すように、搬送部81の外周面に開口された入口91から通路88に連続的に流入し、当該通路88内を連続的に流通する。
【0057】
通路88の口径によって規定される通路断面積は、シリンダ部33の径方向に沿う搬送部81の円環断面積よりも遥かに小さい。別の捉え方をすると、通路88の口径に基づく広がり領域は、円環形状の搬送路53の広がり領域よりも遥かに小さい。このため、入口91から通路88に流入する際に、原料が急激に絞られることで、当該原料に伸長作用が付与される。
【0058】
図11に示すように、スクリュ本体37の内部に複数の通路88が並行して設けられた構成としてもよい。複数の通路88を設ける場合、スクリュ本体37に均等に配置することが好ましい。複数の通路88を均等に配置することにより、混練される樹脂及び再生炭素繊維に加わる圧力およびせん断力を均一化し、局所的な温度上昇により樹脂が劣化することを抑制できる。複数の通路88を均等に設ける場合、通路88の入口91および出口92(図8参照)もそれぞれ、スクリュ本体37の外周面に均等に設けられる。
【0059】
図11には、スクリュ本体37の内部に4つの通路88a,88b,88c,88dが並行して、設けられた例を示している。同図に示すように、複数の通路88が均等に配置されるとは、スクリュ本体37の断面の軸線(中心点)O1と隣り合う通路88を結ぶ線の角度が等しいことをいう。O1と隣り合う通路88を結ぶ線の角度は、通路88が4つの場合90°であり、通路88が2つの場合180°である。なお、D1はスクリュ本体37の外径を示している。
【0060】
第2の押出機3に供給された原料は、図9に矢印Cで示すように、スクリュ本体37の基端の側に位置された搬送部81の外周面に投入される。このとき、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転すると、搬送部81のフライト84は、当該原料を、図9に実線の矢印で示すように、スクリュ本体37の先端に向けて連続的に搬送する。
【0061】
本実施形態では、複数の搬送部81および複数の障壁部82がスクリュ本体37の軸方向に交互に並んでいるとともに、複数の通路88がスクリュ本体37の軸方向に間隔を存して並んでいる。このため、供給口34からスクリュ本体37に投入された原料は、図9および図10に矢印で示すように、せん断作用および伸長作用を交互に繰り返し受けながらスクリュ本体37の基端から先端の方向に連続的に搬送される。よって、原料の混練の度合いが強化され、原料における樹脂と再生炭素繊維の分散化が促進される。
【0062】
樹脂と再生炭素繊維との分散化を促進する際に、再生炭素繊維の繊維長が短くなりすぎると、複合材料の引張強度が低くなることがある。そこで、引張強度の高い複合材料とする観点から、再生炭素繊維のアスペクト比が3.4~4.0、好ましくは3.5~3.9となるように、再生炭素繊維の繊維長(D50)が、100μm以上、好ましくは105μm以上となるように、分散化を促進する際の条件を調整する。
【0063】
当該条件として、通路88の内径、距離、せん断作用および伸長作用を交互に繰り返す回数などが挙げられる。例えば、内径4mm、距離30mmの通路を4つ備えたスクリュ本体37を用いて、回転数200~500(回転/分間)、搬送を制限する回数(繰り返し回数)2回~4回とすれば、高い強度および弾性を備えた炭素繊維複合材料を製造することができる。本発明において、搬送を制限する回数は、第2の押出機3に設けられている障壁部82の数と同じである。
【0064】
スクリュ21は、駆動源からのトルクを受けて回転する。機械的特性の良好な炭素繊維複合材料を製造するために好適なスクリュ21の回転数は、スクリュ21の外径によって異なる。一般に、スクリュ21の外径が小さくなるにしたがって、好適な回転数が大きくなる傾向にある。外径が30mm以上50mm以下のスクリュ21を用いる場合、スクリュ21の回転数は、100rpmから1000rpmが好ましく、150rpmから600rpmがより好ましく、200rpmから400rpmがさらに好ましい。
【0065】
本実施形態では、図9に示すように、実線の矢印で示した搬送部81における原料の搬送方向と、破線の矢印で示した通路88内における原料の流通方向とが同じである。また、通路88の入口91が搬送部81における下流側(先端側、図9に向かって左側)の端部近傍に設けられ、出口92は障壁部82を介して隣り合う下流側の搬送部81の上流側の端部近傍に設けられている。このように、障壁部82を跨ぐ通路88の長さL2が短く構成されているから、原料が通路88を通過する際の流動抵抗が低くなる。したがって、本実施形態の製造方法は、粘度の高い原料を用いた樹脂の製造に適しており、再生炭素繊維を高濃度で含有する炭素繊維複合材料の製造方法として好適である。また、再生炭素繊維に代えて、未使用炭素繊維、ガラスファイバー(GF)等の繊維材料を高濃度で含有する炭素繊維複合材料を製造することもできる。
【0066】
通路88の長さL2は、当該通路88が跨ぐ障壁部82の長さL1よりも大きい必要があるが、原料が通路88を通過する際の流動抵抗を低くする観点から、当該通路88が跨いでいる障壁部82の長さL1の2倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましく、1.3倍以下がさらに好ましい。
【0067】
そして、スクリュ本体37の先端に達した原料は、十分に混練された混練物となって、吐出口36aから第3の押出機4に連続的に供給され、当該混練物に含まれるガス状物質やその他の揮発成分が混練物から連続的に除去される。
【実施例
【0068】
[実施例1~14、比較例1]
図1図11を参照して実施の形態で説明した連続式高せん断加工装置を用いて、再生炭素繊維(適宜、RCFという)と熱可塑性樹脂原料を混練して炭素繊維複合材料を製造した。表1に示すように、再生炭素繊維には市販品(カーボンリサイクル工業(株)製、東レT800相当のグレード-1次加熱品)を使用して、熱可塑性樹脂として、ポリアミド6樹脂(PA6、商品名:アミランCM1017、東レ(株)製)またはポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS、商品名:トレリナA900B1、東レ(株)製)を用いた。
【0069】
炭素繊維複合材料の製造においては、スクリュ有効長(スクリュ長/スクリュ径)48に対する混練部12のスクリュ有効長を8に設定した第1の押出機2に供給し、予備的に混練することで溶融状態の材料を生成した。そして、その溶融状態の材料を、第2の押出機3の原料として、第1の押出機2から第2の押出機3に連続的に供給し、炭素繊維複合材料を製造した。
【0070】
炭素繊維複合材料の製造には、以下の仕様のスクリュ21を備えた第2の押出機3を用い、RCFの含有量(wt%)、通路長(mm)、並列に設けられている通路数、処理回数(回)および回転速度(回転/分間)を表1および表2に記載の設定とした。
スクリュ径(外径):48mm
スクリュ有効長(L/D):6.25~18.75
原料供給量:10kg/時間
バレル設定温度:250℃
入口、出口および通路本体の断面形状:直径4mmの円形
【0071】
上述した条件で製造した炭素繊維複合材料により試験片を作製し、以下の方法により、引張強度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率、複合材料中のRCFの平均繊維長(D50)およびアスペクト比を測定した。結果を表1および表2に示す。
<引張強度>
JIS K 7161に準拠して測定した。
試験片は射出成形により、中央幅が10mm、長さが175mm、厚み4mmのダンベル形状の試験片を作製した。試験片の形状はダンベル状1A号形とした。引張試験は、卓上形精密万能試験機(島津製作所(株)製オートグラフAG-50kN型)を用い、クロスヘッド速度を5mm/分とし、試験片の破断まで荷重を負荷した。引張強度について以下の計算式から算出した。
F=P/W×D
F:強度(MPa)
P:破壊荷重(MPa)
W:試験片の幅(mm)
D:試験片の厚さ(mm)
【0072】
<引張弾性率>
引張試験は,JIS K 7161に準拠して実施した。引張弾性率は、試験で得られた応力-歪の関係から、ε1及びε2の歪み2点間に対応する応力/歪み曲線の傾きから求めた。尚、歪は測定前に校正した伸び計(イプシロン社製)にて計測した。
E=((σ2-σ1)/(ε2-ε1))/1000
E:弾性率(GPa)
ε1:歪み0.1%(0.001)
ε2:歪み0.3%(0.003)
σ1:ε1における応力(MPa)
σ2:ε2における応力(MPa)
【0073】
<曲げ強度>
JIS K 7171に準拠して測定した。
試験片は射出成形により、幅が10mm、長さが80mm、厚み4mmのダンベル形状の試験片を作製した。曲げ試験は3点曲げとし、卓上形精密万能試験機(島津製作所(株)製オートグラフAG-50kN型)を用いて試験した。クロスヘッド速度を2mm/分とし、試験片の破断まで荷重を負荷した。曲げ強度について以下の計算式から算出した。
F=3×P×L/2×W×D
F:強度(MPa)
P:破壊荷重(MPa)
L:支点間距離 64mm
W:試験片の幅(mm)
D:試験片の厚さ(mm)
【0074】
<曲げ弾性率>
曲げ試験は,JIS K 7171に準拠して実施した。曲げ弾性率は、試験で得られた応力-歪み(伸び)の関係から、ε1及びε2の歪み2点間に対応する応力/歪み曲線の傾きから求めた。
E=((σ2-σ1)/(ε2-ε1))/1000
E:弾性率(GPa)
ε1:歪み0.05%(0.0005)
ε2:歪み0.25%(0.0025)
σ1:ε1における応力(MPa)
σ2:ε2における応力(MPa)
【0075】
<平均繊維長(D50)・アスペクト比>
各条件で得られた混練物を500℃以上の不活性雰囲気下で樹脂を飛ばし、炭素繊維を採取した。得られた炭素繊維をレーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製MT3300II)に投入して、繊維分布を測定しメジアン径(D50)を求め、画像解析して、円相当径と長径を測定しアスペクト比を求めた。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
連続式高せん断加工装置の代わりに、TEM二軸混練押出機(東芝機械(株)製)を用いて、表1の実施例1~3と同じ原料および配合量として、再生炭素繊維(RCF)と熱可塑性樹脂原料を混練した。しかし、炭素繊維複合材料を安定的に連続製造することができなかったため、これらの結果(比較例2~4)は、表1および表2に記載していない。
実施例1(RCF:50重量%)と同じ原料を用いた場合、炭素繊維複合材料(比較例2)を調製することができ、引張強度が265(MPa)、引張弾性率が31(GPa)であったが、試験中はタブ部での破壊が多かった。また、製造中も吐出した炭素繊維複合材料が途中で切れてしまうなど、安定した連続製造はできなかった。結果、一般的なTEM二軸混練押出機では、実施例1~3(RCF:50~65重量%)と同じ原料を用いた炭素繊維複合材料は、連続して製造することができなかった(比較例2~4)。このように、本発明の炭素繊維複合材料は、一般的なTEM二軸混練押出機を用いて製造することは困難であった。
【0079】
表1の実施例1~14に示したように、連続式高せん断加工装置を用いることにより、再生炭素繊維の含有量が50~65重量%の炭素繊維複合材料を連続して製造することができた。同じ原料について、連続式高せん断加工装置を用いて調製した実施例1と、TEM二軸混練押出機との比較から、連続式高せん断加工装置を用いて得られた炭素繊維複合材料は、TEM二軸混練押出機を用いて製造した炭素繊維複合材料よりも引張強度が低下する傾向があった(実施例1:197MPa、比較例2:265MPa)。これは、樹脂と再生炭素繊維を高分散する工程において、再生炭素繊維の繊維長が短くなったためと考えられる。ただし、再生炭素繊維の含有量を大きくすることによって、炭素繊維複合材料の引張弾性率を向上させることができた。
【0080】
炭素繊維複合材料の引張強度は、繰り返し数や、回転速度等の製造条件に影響される。製造条件のなかでは、回転速度の影響が大きかった。
原料にせん断力を付与するための通路の数を増やすことにより、炭素繊維複合材料の引張強度が向上する傾向が認められた。引張強度が高い炭素繊維複合材料を製造するためには、通路を複数設けて、高せん断加工時の回転数を低くすることが好ましい。
【0081】
炭素繊維複合材料中に含まれるRCFのアスペクト比および繊維長(D50)は、炭素繊維複合材料の引張強度を評価する指標となる。高せん断加工により、RCFの繊維長が短くなりすぎないようにすることが、炭素繊維複合材料の引張強度を高くするために有効であった。
引張強度および引張弾性率が良好な炭素繊維複合材料は、曲げ強度および曲げ弾性率も良好であった。
【0082】
実施例12の炭素繊維複合化材料を用いて作製した成形体について、以下の方法により異方性を測定した。測定結果を表3に示す。
【0083】
<異方性評価>
射出成形により、200mm×200mmの厚み4mmの平板を作製し、金型内を溶融樹脂が流れる方向(MD)および、その直角方法(TD)に、中央部分から引張試験に用いたダンベル形状の試験片を機械加工にて切出し、上述した方法により引張強度(JIS K 7161)および引張弾性率(JIS K 7161)を測定した。
【0084】
[比較例5]
実施例12の炭素繊維複合材料の代わりに、市販の炭素繊維複合材料(製品名:PYLOFIL、三菱ケミカル(株)製、未使用炭素繊維が30%、PA6が70%)を用いて射出成形により同じ形状の平板を作製し、実施例12と同様の条件・方法により異方性を測定した。測定結果を表4に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
成形体の異方性は、異なる方向に切り出した成形体の特性の違いで評価することができ、縦(MD)と横(TD)の特性の比(TD/MD)が1.0に近い程、成形品の異方性が小さい。表3および表4に示すように、実施例12の成形体は、比較例5の成形体よりも、引張強度および引張弾性の異方性が小さかった。連続式高せん断加工装置を用いることで、RCFを高濃度で配合しても高分散し、炭素繊維複合化材料の異方性が抑制されたものといえる。
【0088】
(実施例12、14および比較例5~9)
上述した実施例12、14の成形品の曲げ弾性率、引張強度、比剛性および比強度を測定した。また、未使用炭素繊維:30%とPA6:70%との炭素繊維複合材料(比較例5)、ガラス繊維とPPSとの複合材料(比較例6)、PPSの成形品(比較例7)、アルミダイキャスト(比較例8、Al-DC)およびマグネシウムダイキャスト(比較例9、Mg-DC)それぞれの成形品についても同様にして、曲げ弾性率、引張強度、比剛性および比強度を測定した。これらの曲げ弾性率、引張強度、比剛性および比強度とあわせて、表5、図12(a)および図12(b)に示す。比剛性は、曲げ弾性率の3乗根を比重で割って規格化した値であり、比強度は引張強度を比重で割って規格化した値である。
【0089】
<導電性の評価>
実施例12および比較例5の炭素繊維複合材料の導電率をJIS K 7194に準拠して測定した。結果を表5に示す。
導電率測定では、測定用の試験片として、射出成形により平板を作製した。導電率は、低抵抗抵抗率計を用いて各試験片について5点測定した。1個の試験片から5個の抵抗率が算出されるので、15個の抵抗率が算出される。この15個の抵抗率を平均した値を導電率とした。
作製条件:温度260℃、
試験片 :長さ60mm、幅60mm、厚み4mm
【0090】
【表5】

【0091】
表5、図12(a)および図12(b)に示すように、実施例12、14の炭素繊維複合材料は、再生炭素繊維の含有量を60重量%とすることにより、200(MPa)を超える高い引張強度を実現できた。また、実施例12の炭素繊維複合材料の比強度および比剛性は、アルミニウムダイキャスト(Al-DC)およびマグネシウムダイキャスト(Mg-DC)と同等以上であった。
【0092】
また、実施例12の炭素繊維複合材料は、非常に高い導電率を有していた。これは、実施例12の炭素繊維複合材料が60重量%という高濃度の再生炭素繊維を含有することによると考えられる。すなわち、上述したように再生炭素繊維(RCF)は、未使用炭素繊維(CF)よりも樹脂との親和性が低く、その表面が樹脂の層で覆われていない。このため、再生炭素繊維を用いることにより、導電性を有する再生炭素繊維同士が直接的に接触する面積が広くなる。したがって、再生炭素繊維(RCF)を60重量%含有する実施例1の炭素繊維複合材料が、未使用炭素繊維(CF)を30重量%含有する比較例5の炭素
繊維複合材料の約40倍という極めて高い導電性を実現できたといえる。
【0093】
以上のように本発明の炭素繊維複合材料は、従来の未使用炭素繊維(CF)を用いた材料と比べて非常に高い導電性を有している。このため、例えば、静電気防止、電磁波シールド性、あるいは放熱性が要求される成形品の材料として有用である。
【符号の説明】
【0094】
1:高せん断加工装置 2:第1の押出機 3:第2の押出機 4:第3の押出機
6:バレル 7a,7b:スクリュ 8:シリンダ部 9:供給口 11:フィード部
12:混練部 13:ポンピング部 14:フライト 15:ディスク 16:フライト
20:バレル 21:スクリュ 22:バレル 23:ベントスクリュ
24:シリンダ部 25:ベント口 26:真空ポンプ 27:ヘッド部 28:吐出口
29:フライト 31:バレルエレメント 32:貫通孔 33:シリンダ部
34:供給口 35:冷媒通路 36:ヘッド部 36a:吐出口 37:スクリュ本体
38:回転軸 39:筒体 40:第1の軸部 41:第2の軸部 42:継手部
43:ストッパ部 44:第1のカラー 45a,45b:キー
49a,49b:キー溝 51:第2のカラー 52:固定ねじ 53:搬送路
81:搬送部 82:障壁部 84,86:フライト
88,88a,88b,88c,88d:通路 89:壁面 91:入口 92:出口
93:通路本体 O1:軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12