(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】主軸の工具クランプ装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/117 20060101AFI20230613BHJP
B23Q 3/12 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B23B31/117 601A
B23Q3/12 B
(21)【出願番号】P 2019099502
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】519063473
【氏名又は名称】橋立 昭武
(73)【特許権者】
【識別番号】595025707
【氏名又は名称】矢口 完洋
(74)【代理人】
【識別番号】100104488
【氏名又は名称】杉本 良夫
(72)【発明者】
【氏名】橋立 昭武
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-507662(JP,A)
【文献】特開平08-066809(JP,A)
【文献】特開2003-305604(JP,A)
【文献】特開平11-090708(JP,A)
【文献】特開2015-136783(JP,A)
【文献】米国特許第5284229(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00-33/00
B23Q 3/00-3/154
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回動自在に取り付けられるとともに先端部に工具ホルダーを固定可能な主軸(1)と、
該主軸(1)の軸芯位置に形成された挿入孔(5)に内挿されたドローバー(9)と、
該ドローバー(9)の先端側に拡縮径自在に配置され、拡径又は縮径することで前記主軸(1)内に一部が挿入された工具ホルダー(7)を主軸(1)に固定可能なクランプ手段(11)と、
前記ドローバー(9)を進退するためのドローバー駆動手段(21)と、を具備し、ドローバー(9)を基端側へ後退させることでクランプ手段(11)によって工具ホルダー(7)を固定し、ドローバー(9)を前進することで、クランプ手段(11)による工具ホルダー(7)の固定を解除可能とした主軸の工具クランプ装置において、
前記ドローバー(9)の基端部分にドローバー側テーパー部(19)を形成するとともに、前記主軸(1)の挿入孔(5)における前記ドローバー側テーパー部(19)に対向する箇所に主軸側テーパー部(20)を形成し、
ドローバー(9)を後退させて工具を固定している状態では前記ドローバー側テーパー部(19)と主軸側テーパー部(20)間に嵌合して主軸(1)にドローバー(9)を固定し、前進することで、ドローバー側テーパー部(19)と主軸側テーパー部(20)間の嵌合から外れて主軸(1)に対するドローバー(9)の固定を解除可能とした楔部材(16)
と、
前記ドローバー(9)の後方に配置した楔ホルダー(14)と、を具備し、
前記楔部材(16)は、前記ドローバー側テーパー部(19)と主軸側テーパー部(20)間に嵌合して主軸(1)にドローバー(9)を固定するセルフロック可能なテーパー状とした先端部と、該先端部に連続した中間部と、中間部に連続した基端部を具備するとともに、基端部が前記楔ホルダー(14)に連結され、
楔ホルダー(14)の進退に伴って、楔部材(16)が進退して、主軸(1)に対してドローバー(9)を固定しあるいは固定を解除することとし、
楔ホルダー(14)の配置に際しては、楔ホルダー(14)を後退させることで楔部材(16)を後退させて楔部材(16)のテーパー状の先端部をドローバー側テーパー部(19)と主軸側テーパー部(20)間に嵌合させて主軸(1)にドローバー(9)を固定した状態においては、ドローバー(9)の基端との間にわずかな空間(25)が形成され、この状態において楔ホルダー(14)が空間(25)の距離分だけ前進することで、楔部材(16)を前進させて楔部材(16)をドローバー側テーパー部(19)と主軸側テーパー部(20)間の嵌合から解除されることとした、ことを特徴とする主軸の工具クランプ装置。
【請求項2】
前記ドローバー駆動手段(21)がシリンダーであり、シリンダー(21)の進退に伴って前記楔部材(16)を進退することとしたことを特徴とする請求項1に記載の主軸の工具クランプ装置。
【請求項3】
前記クランプ手段(11)は、ドローバー(9)を後退することで拡径して工具ホルダー(7)を主軸(1)のクランプ孔(6)内に固定し、ドローバー(9)を前進することで縮径して主軸(1)のクランプ孔(6)内に対する固定を解除することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の主軸の工具クランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械における主軸の工具クランプ装置に係り、より詳しくは、主軸の回転を継続した場合でも、バランスが崩れることが無い主軸の工具クランプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械における主軸の工具クランプ装置は、主軸の軸芯位置に形成した挿入孔にドローバーを内挿し、このドローバーの先端には、工具をクランプするためのクランプ手段を具備し、更に、主軸の軸芯位置に形成した挿入孔におけるドローバーの周囲には多層の皿バネを内挿している。
【0003】
そして、皿バネの付勢力によってドローバーを主軸の基端側に強力に引き込むことで、ドローバー先端のクランプ手段が、主軸先端のクランプ孔に挿入した工具又は工具ホルダーをクランプする構成としている。
【0004】
また、ドローバーの後端には、アンクランプ装置を備え、このアンクランプ装置によりドローバーを主軸の先端側に押し出すことで、コレットによる工具又は工具ホルダーのクランプを解除するようになっている。
【0005】
即ち、図7が従来の工具クランプ装置を説明するための図であり、主軸の長手方向に沿った構造を示した一部断面図としている。そして図において51が主軸であり、この主軸51は、いわゆるビルトインタイプの主軸であり、ベアリング52によって、図示しないハウジングに回動自在に支持され、モーター66によって回動される。
【0006】
また、主軸51には軸芯位置に挿入孔53が形成されており、この挿入孔53内にはドローバー54が内挿され、更に、挿入孔53において前記ドローバー54の周囲には皿バネ55が内挿され、この皿バネ55によってドローバー54は主軸51の基端側に付勢されている。即ち、前記挿入孔53は、多層の皿バネ55を収容するための大径部分を有しており、この大径部分の先端部を段差部56としている。
【0007】
一方、前記ドローバー54の基端部分には、ドローバー54の径を大径にすることで着座面57が形成されている。そして、前記皿バネ55は、段差部56と着座面57間においてドローバー54の周囲に配置されており、これにより、ドローバー54は、皿バネ55によって常に基端側に引き込まれている状態とされている。
【0008】
次に、図において58は、工具が装着される工具ホルダーであり、この工具ホルダー58は、基端側に嵌合部60を具備している。一方、前記主軸51の先端部には、挿入孔53に連続したクランプ孔59が形成されており、このクランプ59内に、工具ホルダー58の基端側の嵌合部60が嵌合している。
【0009】
そして、工具ホルダー58の嵌合部60の内周側には嵌合溝61が形成されており、この嵌合溝61にクランプ部材を嵌合することで、工具ホルダー58をクランプ孔59内に固定してクランプすることが可能となる。
【0010】
ここで、クランプ部材について説明すると、図において62、63がクランプ部材であり、このクランプ部材62、63は、ドローバー54の先端部に配置されており、クランプ手段としてのコレット62と、このコレット62を稼働するためのテーパーカム63で構成されている。そして、コレット62は、ドローバー54の先端側に配置されており拡縮径自在とされ、一方、テーパーカム63は、コレット62を拡縮径するために用いられるものであり、コレット62の内周側において、ドローバー54の先端に連結されている。
【0011】
そして、コレット62は、テーパーカム63のテーパー部に乗り上げることで、拡径して嵌合溝61に嵌合し、テーパーカム63のテーパー部から降りることで縮径して嵌合溝61との嵌合が解除されることとしており、ドローバー54が皿バネ55の付勢力によって基端側に引き込まれている通常の状態では、コレット62がテーパーカム63のテーパー部に乗り上げており、これにより、工具ホルダー58が主軸51にクランプされていることとしている。
【0012】
一方、このクランプ状態において、皿バネを圧縮しながらドローバー54を先端側に移動することで、テーパーカム63も前進し、それにより、コレット62は、テーパーカム63のテーパー部から降りることで縮径して嵌合溝61との嵌合が解除され、それにより、工具ホルダー58のクランプが解除されることとしている。
【0013】
そして、このアンクランプ状態において、ドローバー54を基端側に引き込むことで、テーパーカム63も後退し、それによって、コレット62の先端側がテーパーカム63のテーパー部に乗り上げて拡径して嵌合溝61に嵌合し、工具ホルダー58が主軸51にクランプされクランプ状態に戻る。
【0014】
次に、図において65は、クランプ状態においてドローバー54を前進させることで工具ホルダー58をアンクランプ状態にするためのアンクランプ装置としてのシリンダーである。そして、このシリンダー65は、シリンダーケース64内に進退自在に内挿されており、このシリンダー65を前進することでドローバー54を前進可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2015-136783号公報
【文献】特開2013-208659号公報
【文献】特開2010-000554号公報
【文献】特開2004-050324号公報
【文献】特開2004-243459号公報
【文献】特開2001-269804号公報
【文献】特開2000-246573号公報
【文献】特開2000-246520号公報
【文献】特開2000-126911号公報
【文献】特開2000-15506号公報
【文献】再表2011-121793号公報
【文献】再表2004-112999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように従来の工具クランプ装置は、ドローバーの周囲に配設した皿バネの付勢力によって、ドローバーを主軸の基端側に引き込んでいたが、この構成によると、皿バネとドローバーとの間に隙間が形成されてしまっていた。
【0017】
そのために、皿バネを用いた従来の工具クランプ装置では、主軸の回転を繰り返すと、バネとドローバーとの間の隙間が不均一になってしまい、それにより、主軸のバランスが崩れて振動が大きくなってしまうという問題点が指摘されていた。
【0018】
そこで、本発明は、回転運動を重ねた場合でもバランスが崩れることが無く安定している工具クランプ装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の主軸の工具クランプ装置は、
ハウジングに回動自在に取り付けられるとともに先端部に工具ホルダーを固定可能な主軸と、
該主軸の軸芯位置に形成された挿入孔に内挿されたドローバーと、
該ドローバーの先端側に拡縮径自在に配置され、拡径又は縮径することで前記主軸内に一部が挿入された工具ホルダーを主軸に固定可能なクランプ手段)と、
前記ドローバーを進退するためのドローバー駆動手段と、を具備し、ドローバーを基端側へ後退させることでクランプ手段によって工具ホルダーを固定し、ドローバーを前進することで、クランプ手段による工具ホルダーの固定を解除可能とした主軸の工具クランプ装置において、
前記ドローバーの基端部分にドローバー側テーパー部を形成するとともに、前記主軸の挿入孔における前記ドローバー側テーパー部に対向する箇所に主軸側テーパー部を形成し、
ドローバーを後退させて工具を固定している状態では前記ドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間に嵌合して主軸にドローバーを固定し、前進することで、ドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間の嵌合から外れて主軸に対するドローバーの固定を解除可能とした楔部材と、
前記ドローバーの後方に配置した楔ホルダーと、を具備し、
前記楔部材は、前記ドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間に嵌合して主軸にドローバーを固定するセルフロック可能なテーパー状とした先端部と、該先端部に連続した中間部と、中間部に連続した基端部を具備するとともに、基端部が前記楔ホルダーに連結され、
楔ホルダーの進退に伴って、楔部材が進退して、主軸に対してドローバーを固定しあるいは固定を解除することとし、
楔ホルダーの配置に際しては、楔ホルダーを後退させることで楔部材を後退させて楔部材のテーパー状の先端部をドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間に嵌合させて主軸にドローバーを固定した状態においては、ドローバーの基端との間にわずかな空間が形成され、この状態において楔ホルダーが空間の距離分だけ前進することで、楔部材を前進させて楔部材をドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間の嵌合から解除されることとした、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の主軸の工具クランプ装置では、従来の工具クランプ装置でドローバーを基端側に引き込むために用いていた皿バネを無くし、ドローバーに形成したドローバー側テーパー部と、主軸の挿入孔におけるドローバー側テーパー部に対向する箇所に形成した主軸側テーパー部間に楔部材を嵌合することで、ドローバーを主軸に固定することとしている。
【0021】
そのために、本発明の主軸の工具クランプ装置では、主軸に対してドローバーを確実に固定することができ、皿バネを用いてドローバーを基端側に付勢している従来の方式と異なり、主軸の回転を繰り返した場合でも、主軸のバランスが崩れて振動が大きくなってしまうことが無いという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の主軸の工具クランプ装置の実施例を説明するための図であり、長手方向に沿った構造を示している。
【
図2】本発明の主軸の工具クランプ装置の実施例におけるクランプ手段を説明するための図であり、クランプ孔の周囲を拡大した図である。
【
図3】本発明の主軸の工具クランプ装置の実施例における楔部材の作用を説明するための図である。
【
図4】本発明の主軸の工具クランプ装置の実施例における楔部材の作用を説明するための図である。
【
図5】本発明の主軸の工具クランプ装置の実施例における楔部材の近傍を拡大して示した図である。
【
図6】本発明の主軸の工具クランプ装置の実施例の作用を説明するためのイメージ図である。
【
図7】
従来の主軸の工具クランプ装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の主軸の工具クランプ装置では、ベアリングによってハウジングに回動自在に取り付けられる主軸を有しており、この主軸は、軸芯位置に挿入孔が形成されている。
【0024】
そして、挿入孔にはドローバーが内挿されるとともに、主軸の先端部には、工具ホルダーを固定可能としており、工具ホルダーは、挿入部に一部が挿入されることで、主軸に固定可能としている。
【0025】
また、ドローバーの先端部には、工具ホルダーを主軸に固定するためのクランプ手段が配置されており、このクランプ手段は、拡縮径自在とされており、拡径又は縮径することで、挿入部に一部が挿入された工具ホルダーを主軸に固定可能としている。
【0026】
更に、本発明の主軸の工具クランプ装置では、ドローバーを進退するためのドローバー駆動手段を具備しており、ドローバーを基端側へ後退させることで、クランプ手段によって工具ホルダーを主軸に固定し、一方、ドローバーを前進することで、クランプ手段による工具ホルダーの固定を解除可能としている。
【0027】
また、本発明の主軸の工具クランプ装置では、ドローバーの基端部分にドローバー側テーパー部が形成されており、一方、主軸の挿入孔において前記ドローバー側テーパー部に対向する箇所には、主軸側テーパー部が形成されている。
【0028】
そして、本発明の主軸の工具クランプ装置では、ドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間に嵌合する楔部材を有しており、この楔部材は、ドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間に嵌合している状態では、主軸にドローバーを固定し、ドローバー側テーパー部と主軸側テーパー部間における嵌合を解除することで、主軸に対するドローバーの固定を解除する。
【0029】
ここで、ドローバー駆動手段としてシリンダーを用いて、シリンダーの進退に伴って楔部材を進退させることとするとよく、これにより、楔部材の進退動作を容易にすることが可能である。
【0030】
また、クランプ手段は、ドローバーを後退することで拡径して工具ホルダーを主軸の挿入孔内で固定し、ドローバーを前進することで縮径して主軸の挿入孔内に対する固定を解除することにするとよい。
【0032】
また、楔部材は、先端部の形状をセルフロック可能なテーパー状にするとよく、これにより、主軸が回転しているときに楔部材が外れてしまい、工具のクランプが弱くなり、それにより、振動が大きくなり切削が不能になってしまうことを防止することができる。
【実施例1】
【0033】
本発明の主軸の工具クランプ装置(以下単に「工具クランプ装置」と言う。)の実施例について図面を参照して説明すると、
図1は、本実施例の工具クランプ装置を説明するための一部断面図であり、図において1は、工作機械の主軸であり、HSKタイプであり、いわゆるビルトインタイプの主軸としている。
【0034】
そして、前記主軸1は、周知のように、一対個のアンギュラ玉軸受け2を介して、図示しないハウジングの内周側に回動自在に支持されており、モーター4により回動することとしている。なお、図において3は、アンギュラ玉軸受2の内輪間に配置された内輪間座である。
【0035】
また、前記主軸1には、軸芯位置に挿入孔5が形成され、挿入孔5の先端部分、即ち主軸1の開口部分は大径とされ、この大径とされた部分が、工具ホルダー7を固定するクランプ孔6とされている。
【0036】
そして、工具ホルダー7は、従来の工具クランプ装置の場合と同様に、基端側が小径とされており、この小径とされた部分を嵌合部8とし、この嵌合部8を主軸1におけるクランプ孔6内に挿入して固定することとしている。
【0037】
次に、図において9はドローバーである。即ち、本実施例において前記挿入孔5内にはドローバー9が内挿されている。そして、このドローバー9の進退動作によって、工具ホルダー7を主軸1に固定し、あるいは固定を解除することとしている。
【0038】
この関係について
図2を参照して簡単に説明すると、
図2は、本実施例の工具クランプ装置の先端部分を拡大して示した図であり、前述した従来の工具クランプ装置と同様に、ドローバー9の先端には、工具ホルダー7をクランプするためのクランプ部材が連結され、このクランプ部材は、クランプ手段としてのコレット11を有しており、このコレット11は拡縮径自在としている。また、クランプ部材10は、コレット11を拡縮径するためのテーパーカム12を有しており、テーパーカム12は前記ドローバー9の先端に連結され、コレット11は、テーパーカム12の外周側においてドローバー9の先端側に配置されている。
【0039】
従ってこれにより、前記ドローバー9を基端側に引き込んで後退させることで、テーパーカム12も後退し、それによって、コレット11の先端側がテーパーカム12のテーパー部に乗り上げて拡径する。そうすると、コレット11の先端が工具ホルダー7の挿入部8の内周側に形成したクランプ溝13に嵌合し、それにより、挿入部8が主軸1のクランプ孔6内に固定され、主軸1に工具をクランプすることが可能となる。この状態が
図1及び
図2の上半分で示した部分である。
【0040】
一方、この
図1、2の上半分で示すクランプ状態において、ドローバー9を先端側に前進させると、テーパーカム12も前進し、それによって、コレット11の先端側がテーパーカム12のテーパー部から降りることで縮径する。
【0041】
そうすると、
図1及び
図2の下半分で示すように、コレット11の先端がクランプ溝13から外れて、それにより、主軸1のクランプ孔6に対する挿入部8の固定が解除され、工具のクランプが解除される。従って、本実施例における工具クランプ装置では、ドローバー9の進退動作のみで工具のクランプ、アンクランプを行うことが可能となる。なお、工具ホルダー7をクランプあるいはアンクランプするためのドローバー9の先端部分の構成は、一般的なHSKタイプの主軸と同様である。
【0042】
次に、
図1において16は楔部材である。即ち、本実施例の工具クランプ装置では、楔部材16を具備しており、この楔部材16を進退することで、楔部材16によって、主軸1に対してドローバーを固定することとしている。
【0043】
ここで、楔部材16の作用について
図3及び4を参照して説明すると、
図3及び4は、ドローバー9の基端側近傍の構造を示しており、図に示されるように、本実施例の工具クランプ装置では、ドローバー9の基端部分に細径のくびれ部17を形成するとともに、主軸1における前記くびれ部17の周の径を大きくし、それにより、くびれ部17の周囲を挿入空間18としている。
【0044】
また、くびれ部17の前後はテーパー状としており、基端側のテーパー部は、ドローバー9の先端側に向けて径を小さくしていったドローバー側テーパー部19としている。
【0045】
一方、前記主軸1は、ドローバー側テーパー部19に対向する内壁に、基端側に向けて径を大きくしていった主軸側テーパー部20が形成されている。即ち、主軸1において、挿入空間18よりも基端側の径を大きくするとともに、挿入空間18の部分と径を大きくした部分の境をテーパー状として、これにより、主軸1におけるドローバー側テーパー部19に対向する内壁に、基端側に向けて径を大きくしていった主軸側テーパー部20を形成している。
【0046】
そして、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の空間は、前記楔部材16の先端が嵌合する嵌合空間としており、楔部材16を後退することで、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間に楔部材16が嵌合し、それにより、主軸1に対してドローバー9が固定されることとしている。この状態が
図3に示した状態である。
【0047】
一方、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間に楔部材16が嵌合している状態において、楔部材16を前進することで、楔部材16は、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合から解除され、それにより、主軸1に対するドローバー9の固定が解除されることとしている。この状態が
図4に示した状態である。
【0048】
次に、楔部材16を進退させる方法について
図5を参照して説明すると、
図5は、楔部材16の近傍の構造を拡大して示した図である。そして、図において楔部材16は、嵌合空間に嵌合する先端部と、この先端部に連続した中間部と、中間部に連続した基端部を具備しており、基端部は、楔ホルダー14に連結されており、楔ホルダー14の進退に伴って、楔部材16が進退し、それにより、ドローバー9を固定し、あるいは固定を解除可能としている。また、楔部材16の先端部は、セルフロックが可能なテーパー状としており、これにより、主軸の回転中に楔部材の先端部が嵌合空間から外れてしまうことを防止している。
【0049】
ここで、
図5において14が楔ホルダーであり、楔ホルダー14は、ドローバー9の後方に配置されており、後退することで、楔部材16を後退させて、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間に楔部材16を嵌合させて主軸1に対してドローバー9が固定することとしており(
図3の状態)、更にこの状態においては、ドローバー9の基端との間にわずかな空間25が形成されるようにしている。そして、楔ホルダー14は、後退した状態で空間25の距離分だけ前進することで、楔部材16を前進させて楔部材16をドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合から解除させて、主軸1に対するドローバー9の固定を解除する(
図4の状態)。
【0050】
次に、
図5において21は、ドローバー9を進退するためのドローバー駆動装置であり、本実施例においてはシリンダーを用いている。そして、本実施例において前記シリンダー21は、シリンダーケース22内に収容されたスリーポジションシリンダーとしており、楔ホルダー14を進退するための第1シリンダー21aと、後退した第1シリンダー21aをわずかに押し戻すための第2シリンダー21bを備えている。
【0051】
即ち、前述したように、前記ドローバー9の基端には楔ホルダー14が配置されており、この楔ホルダー14は、基端側で前記第1シリンダー21aに係止され、前記シリンダー21を後退させることで、楔ホルダー14を介してドローバー9を基端側に引き込んで後退させ、これにより工具ホルダー7をクランプすることとしている。
【0052】
一方、このクランプした状態では、楔ホルダー14は、楔ホルダー14を後退させた第1シリンダー21aに当接し、それにより第1シリンダー21aに係止されているため、この状態では楔ホルダー14を回転させることができず、従って、楔部材16、ドローバー9及び主軸1を回転させることができない。
【0053】
そこで、本実施例では、楔ホルダー14を後退させた後に、第1シリンダー21aを前進させて第1シリンダー21aに対する楔ホルダー14の係止を解除するための第2シリンダー21bを備えている。即ち、第1シリンダー21aを後退させ、楔ホルダー14を介してドローバー9を基端側に引き込んで工具ホルダー7をクランプした後に、第2シリンダー21bによって第1シリンダー21aをわずかに押し戻すことで、第1シリンダー21aと楔ホルダー14との当接を解除し、第1シリンダー21aに対して楔ホルダー14をリリースし、これにより、主軸1を回転可能としている。
【0054】
この関係をイメージとして示した図が
図6である。そして、
図6において(a)は、楔ホルダー14と第1シリンダー21aとの係止が解除されて主軸が回転可能で、工具を使用可能な状態を示している。なおこの状態においては、楔部材16はドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間に嵌合し、主軸1に対してドローバー9が固定されている。
【0055】
次に、(a)の状態において、第1シリンダー21aを前進させて楔ホルダー14を空間25の距離分だけ前進させると、楔部材16は、楔ホルダー14とともに前進し、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間への嵌合から解除される。そしてその状態で更に第1シリンダー21aによって楔ホルダー14を前進させると、ドローバー9が前進して、前述したように、工具がアンクランプされる。この状態を示した図が(b)である。
【0056】
次に、(b)の状態で工具を交換した後に第1シリンダー21aを後退させると、ドローバー9が後退して工具をクランプする。そしてそれとともに、楔ホルダー14が後退して、楔部材16がドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間に嵌合して、主軸に対してドローバー9が固定される。この状態が(c)の状態であり、この状態では、楔ホルダー14は第1シリンダー21(a)に当接して係止されているため、主軸1を回転することはできない。
【0057】
次に、(c)に示す状態で、第2シリンダー21bをわずかに前進させて第1シリンダー21aを押し戻すと、第1シリンダー21(a)と楔ホルダー14の当接が解除され、楔ホルダー14が第1シリンダー21(a)の係止から解放されてフリーになり主軸1がリリースされる。この状態を示した図が(d)であり、この(d)は(a)と同じ状態であり、工具がクランプされているとともに主軸1が回転可能であり、これにより、工具の使用が可能な状態である。
【0058】
次に、このように構成される本実施例の工具クランプ装置の作用を説明すると、工具をクランプしているとともに主軸1が回転可能な
図1の上半分の状態において工具の交換を行う場合には、第1シリンダー21(a)を用いて楔ホルダー14を前進させる。そうすると、空間25の距離分だけ前進した段階で、楔部材16がドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間への嵌合から解除される。
【0059】
そして、更に楔ホルダー14を前進させ、それによりドローバー9を前進させると、前述したように、工具がアンクランプ状態になり、これにより工具の交換が可能となる。
【0060】
次に、工具を交換した後に楔ホルダー14を後退させると、ドローバー9も後退して工具をクランプするとともに、楔部材16は、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20間の嵌合空間に嵌合し、ドローバー9が主軸1に固定される。この状態が
図6(c)のクランプ状態であり、この状態では、楔ホルダー14が第1シリンダー21(a)に当接して係止されているため、主軸1を回転することができない。
【0061】
そして次に、第2シリンダー21bを駆動して第1シリンダー21aを押し戻すと、第1シリンダー21aと楔ホルダー14の係止が解除され、リリース状態になって、主軸を回転可能になる。
図6(a)(d)の状態であり、これにより、工具の使用が可能となる。また、この状態において工具を使用しているときには、スプリング15が楔ホルダー14を基端側に付勢しているため、楔ホルダー14が前進してしまい、それにより楔部材16が嵌合から外れてしまう事態を防止することができる。更に、楔部材16の先端部は、セルフロックが可能なテーパー状としているために、これによっても、主軸の回転中に楔部材の先端部が嵌合空間から外れてしまうことを防止することができる。
【0062】
このように、本実施例の工具クランプ装置では、ドローバー9の基端側に形成したドローバー側テーパー部19と、主軸1におけるドローバー側テーパー部19に対向する内壁に形成した主軸側テーパー部20間に楔部材16の先端を嵌合することで、主軸1に対してドローバー9を固定しているために、ドローバーの周囲に配設した皿バネの付勢力によってドローバーを主軸の基端側で固定していた従来の工具クランプ装置と異なり、ドローバーを確実に主軸に固定することができるために、主軸の回転を繰り返した場合でも、主軸のバランスが崩れて振動が大きくなってしまうことが無い。
【0068】
なお、本発明の工具クランプ装置は、ドローバー9の基端側に形成したドローバー側テーパー部19と、主軸1におけるドローバー側テーパー部19に対向する内壁に形成した主軸側テーパー部20間に楔部材16の先端を嵌合することで、主軸1に対してドローバー9を固定することを特徴としているために、ドローバー側テーパー部19と主軸側テーパー部20を有するととともに、このドローバー側テーパー部19主軸側テーパー部20間に嵌合する楔部材16を有していればよく、工具ホルダーをクランプ又はアンクランプする方法や、ドローバーを進退するための方法は特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の工具クランプ装置は、主軸の工具クランプ装置において、回転運動を重ねた場合でもバランスが崩れることが無く安定していることを特徴としているために、工作機械の主軸に工具や工具ホルダーをクランプするための装置の全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 主軸
2 ベアリング
3 内輪間座
4 モーター
5 挿入孔
6 クランプ孔
7 工具ホルダー
8 嵌合部
9 ドローバー
10 クランプ部材
11 コレット
12 テーパーカム
13 クランプ溝
14 楔ホルダー
15 スプリング
16 楔部材
17 ドローバーのくびれ部
18 挿入空間
19 ドローバー側テーパー部
20 主軸側テーパー部
21a、21b シリンダー
22 シリンダーケース
25 空間