(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】発泡ゴム組成物、発泡加硫物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20230613BHJP
C08C 19/20 20060101ALI20230613BHJP
C08J 9/06 20060101ALI20230613BHJP
C08K 5/372 20060101ALI20230613BHJP
C08K 5/46 20060101ALI20230613BHJP
C08L 15/02 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08C19/20
C08J9/04 103
C08J9/06 CEQ
C08K5/372
C08K5/46
C08L15/02
(21)【出願番号】P 2019102411
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敦典
(72)【発明者】
【氏名】砂田 貴史
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-003120(JP,A)
【文献】特開昭48-094786(JP,A)
【文献】特開2014-070214(JP,A)
【文献】特開2014-169378(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102898(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08K
C08L
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00,301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して、スルフェンアミドを0.0005~0.01質量部と、
化学発泡剤を3~16質量部と、を含有する発泡ゴム組成物。
【請求項2】
前記スルフェンアミドは、下記化学式(1)で表わされるものである、請求項1記載の発泡ゴム組成物。
【化1】
(化学式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素あるいは炭素数1~10のアルキル基を示す。R
1とR
2のそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)
【請求項3】
前記硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して、キサントゲンジスルフィドを0.1~1.5質量部含有する、請求項1又は2に記載の発泡ゴム組成物。
【請求項4】
前記キサントゲンジスルフィドは、下記化学式(2)で表わされるものである、請求項3記載の発泡ゴム組成物。
【化2】
(化学式(2)中、R
3とR
4はそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示す。R
3とR
4のそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)
【請求項5】
前記スルフェンアミドの含有量(A)と、前記キサントゲンジスルフィドの含有量(B)の比(B/A)が20~2000である、請求項3又は請求項4に記載の発泡ゴム組成物。
【請求項6】
硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度が20~80である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の発泡ゴム組成物。
【請求項7】
前記化学発泡剤が、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルヒドラジド化合物、アジド化合物及び無機発泡剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の発泡ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の発泡ゴム組成物からなる発泡加硫物。
【請求項9】
請求項8に記載の発泡加硫物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
クロロプレン系ゴムは、その優れた動的特性を生かし、一般産業用の伝動ベルトやコンベヤベルト、自動車用空気バネ、防振ゴムなどの材料として使用されている。また、クロロプレンゴムは、発泡剤を配合して加熱発泡させてクロロプレンゴムスポンジとすることができ、得られたクロロプレンゴムスポンジは、自動車部品、建築分野、レジャー用品など、様々な分野で使用されている。
クロロプレンゴムスポンジは、空隙を有する成形体であるため、引き裂き強度や、経年変化により収縮するという問題がある。このため、引裂き強度が高く、収縮率が小さいクロロプレンゴムスポンジの開発が要望されていた。
【0002】
クロロプレンゴムスポンジを得る手段としては、クロロプレンゴムに有機酸化物と発泡剤、軟化剤、充填剤、補強剤を配合して加熱発泡させて得られるもの(例えば、特許文献1参照。)や、クロロプレンゴムに、ブタジエンゴム、軟化剤、発泡剤を配合して無圧オープン加硫させて発泡させて得られるもの(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-067235号公報
【文献】特開平10-298328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や2に記載される技術では、発泡倍率の高いクロロプレンゴムスポンジが得られる。しかしながら、得られたクロロプレンゴムスポンジは、引き裂き強度は低いものであった。このため、ウェットスーツなど、高い引き裂き強度が必要な製品に使用できるクロロプレンゴムスポンジの開発が要望されていた。
【0005】
本発明は、引裂き強度が高く収縮率が小さく外観に優れたスポンジの原料となる発泡ゴム組成物、これを用いて得られる発泡加硫物及び成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究を行った結果、硫黄変性クロロプレンゴムにスルフェンアミド系化合物及び特定の発泡剤を含有させることで引裂き強度が高く収縮率が小さく外観に優れた発泡ゴム組成物が得られることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して、スルフェンアミドを0.0005~0.01質量部と、
化学発泡剤を3~16質量部と、を含有するゴム組成物である。
前記スルフェンアミドは、下記化学式(1)で表わされるスルフェンアミドを用いることができる。
【化1】
(化学式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素あるいは炭素数1~10のアルキル基を示す。R
1とR
2のそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)
【0008】
硫黄変性クロロプレンゴム組成物には、その100質量部に対して、キサントゲンジスルフィドを0.1~1.5質量部含有させることもできる。
前記キサントゲンジスルフィドとしては、下記化学式(2)で表わされるキサントゲンジスルフィドを用いることができる。
【化2】
(化学式(2)中、R
3とR
4はそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示す。R
3とR
4のそれぞれは同一のものでもよく異なるものでもよい。)
キサントゲンジスルフィドを用いる場合、前記スルフェンアミドの含有量(A)と、前記キサントゲンジスルフィドの含有量(B)の比(B/A)を20~2000とすることができる。
前記硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度は、20~80とすることができる。
【0009】
本発明では、前述した発泡ゴム組成物を加硫させた発泡加硫物、及び、発泡ゴム組成物を成形後又は成形時に加硫して得た成形品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、引裂き強度が高く収縮率が小さく外観に優れた発泡加硫物が得られる発泡ゴム組成物、その加硫体及び成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
<硫黄変性クロロプレンゴム>
硫黄変性クロロプレンゴムは、硫黄の存在下で、2-クロロ-1,3-ブタジエン(以下「クロロプレン」とも称する)単独又はクロロプレンと他の単量体とを乳化重合して主鎖に硫黄を導入した硫黄変性クロロプレン重合体を、スルフェンアミドを用いて可塑化したラテックス、及び、このラテックスを一般的な方法で乾燥洗浄して得られた硫黄変性クロロプレンゴムを包含する。以下、硫黄変性クロロプレンゴムの製造工程に沿って、詳細に説明する。
【0013】
<重合工程>
重合工程では、クロロプレンと硫黄、必要に応じてクロロプレンと共重合可能な単量体を乳化重合して重合液を得る。
【0014】
クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、並びにメタクリル酸及びこれらのエステル類などがあり、2種以上を併用することもできる。これらの単量体を用いる場合は、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの特性を損なわない範囲で用いることが好ましく、クロロプレンを含む全単量体中10質量%以下とすることが好ましい。これらの単量体の使用量が10質量%を超えると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの耐熱性が向上しない場合や、加工特性が低下する場合もある。
【0015】
これらの単量体のうち、例えば、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを用いると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの結晶化速度を遅くすることができる。結晶化速度が遅い硫黄変性クロロプレンゴムは、低温環境下においてもゴム弾性を維持することができ、例えば、低温圧縮永久歪みを改善することが可能となる。
【0016】
乳化重合に際して、添加する硫黄(S8)の量は、重合させる単量体の合計100質量部に対して、0.01~0.6質量部が好ましく、0.1~0.5質量部がより好ましい。硫黄(S8)の量が0.01質量部未満であると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの機械的特性や動的特性が得られない場合がある。一方、硫黄(S8)の量が0.6質量部を超えると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの金属への粘着性が強くなりすぎて加工できなくなる場合がある。
【0017】
乳化重合に用いる乳化剤としては、クロロプレンの乳化重合に用いることが可能な公知の乳化剤や脂肪酸類を、1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。乳化剤としては、具体的には、ロジン酸類、芳香族スルフォン酸ホルマリン縮合物の金属塩、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム等がある。この中でも特に、ロジン酸類を用いることが好ましい。なお、ここにロジン酸類とは、ロジン酸又は不均化ロジン酸、あるいは不均化ロジン酸のアルカリ金属塩、もしくはこれらの化合物などを意味する。好適に用いられる乳化剤としては、不均化ロジン酸のアルカリ金属塩と、炭素数が6~22である飽和又は不飽和の脂肪酸の混合物からなるアルカリ石鹸水溶液である。不均化ロジン酸の構成成分としては、例えば、セスキテルペン、8,5-イソピマル酸、ジヒドロピマル酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、デイソプロピルデヒドロアビエチン酸、デメチルデヒドロアビエチン酸などがある。
【0018】
乳化重合開始時の水性乳化液のpHは、10.5以上であることが望ましい。ここで、水性乳化液とは、乳化重合開始直前の、クロロプレン及びクロロプレンと共重合可能な単量体、乳化剤、硫黄(S8)等との混合液である。これらの単量体や硫黄(S8)等の後添加、分割添加等によりその組成が変わる場合も包含される。pH10.5以上にすることで、乳化剤としてロジン酸類を用いた場合に、重合中のポリマー析出等を防止し、安定的に重合を制御することが可能となる。なお、水性乳化液のpHは、乳化重合時に存在している水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ成分量により調整できる。
【0019】
乳化重合の重合温度は重合制御性と生産性の観点から0~55℃、好ましくは30~55℃である。
【0020】
重合開始剤としては通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを用いることができる。重合は重合率60~95%、好ましくは70~90%の範囲で行われ、ついで重合禁止剤を加えて停止させる。
【0021】
生産性の面から、重合率は60%以上が好ましい。また、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの加工性に影響を及ぼす分岐構造の発達やゲルの生成を抑制する観点から、重合率は95%以下が好ましい。重合体の重合禁止剤としては、例えばチオジフェニルアミン、4-第三ブチルカテコール、2,2’-メチレンビス-4-メチル-6-第三-ブチルフェノールなどがある。重合禁止剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
<可塑化工程>
可塑化工程は、前記重合工程で得られた重合液に、スルフェンアミドを添加して、重合液中の重合体を可塑化する工程である。
【0023】
添加するスルフェンアミドの種類は、本技術の効果を損なわない限り、公知のスルフェンアミドを1種又は2種以上、自由に用いることができる。本技術では特に、前記化学式(1)で表されるスルフェンアミドを用いることが好ましい。
【0024】
添加するスルフェンアミドの量は、重合液中の重合体100質量部に対して、0.2~3.0質量部である。スルフェンアミドの添加量を0.2質量部以上とすることで、加硫物の引裂き強度を向上させ、収縮率が低減し、外観が優れた加硫物が得られる。また、スルフェンアミドの添加量を3.0質量部以下とすることで、得られる硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度が適切になり、その結果、加硫成形性を向上させることができる。
【0025】
可塑化工程では、任意の置換基を有してもよいキサントゲンジスルフィドを併用することも可能である。キサントゲンジスルフィドを用いることで、硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度制御が容易となり、得られる加硫物の収縮率の低減に資する。添加するキサントゲンジスルフィドの種類は、本技術の効果を損なわない限り、公知のキサントゲンジスルフィドを1種又は2種以上、自由に用いることができる。本技術では特に、前記化学式(2)で表されるキサントゲンジスルフィドを用いることが好ましい。
【0026】
キサントゲンジスルフィドを用いる場合、その添加量は特に限定されないが、本技術では、重合液中の重合体100質量部に対して、0.3~6.0質量部添加することが好ましい。キサントゲンジスルフィドの添加量を該範囲内とすることで、硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度制御が一層容易となり、引裂き強度を向上させ、収縮率が低減し、外観が優れた加硫物が得られる。
【0027】
また、スルフェンアミドの添加量(a)と、キサントゲンジスルフィドの添加量(b)の比(b/a)を、0.2~30.0にすることが好ましい。添加量の比(b/a)を、該範囲内とすることで、引裂き強度を向上させ、収縮率が低減し、外観が優れた加硫物が得られる。
【0028】
前記可塑化工程を経た重合液を、一般的な方法で、冷却、pH調整、凍結、乾燥等を行って、硫黄変性クロロプレンゴムを得る。得られた硫黄変性クロロプレンゴム中には、未反応のスルフェンアミドが、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して、0.0005~0.01質量部含有することを特徴とする。スルフェンアミドの含有量を該範囲内とすることで、加硫物の引裂き強度が向上し、収縮率の低減に資する。
【0029】
前記可塑化工程において、任意の置換基を有してもよいキサントゲンジスルフィドを用いる場合、得られた硫黄変性クロロプレンゴム中に存在する未反応のキサントゲンジスルフィドの含有量は特に限定されない。例えば、前記可塑化工程において、重合液中の重合体100質量部に対して、キサントゲンジスルフィドを0.3~6.0質量部添加した場合、得られた硫黄変性クロロプレンゴム中には、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して、未反応のキサントゲンジスルフィドが0.1~1.5質量部含有する。キサントゲンジスルフィドの含有量を該範囲内とすることで、引裂き強度を向上させ、収縮率が低減し、外観が優れた加硫物が得られる。
【0030】
また、スルフェンアミドの含有量(A)と、キサントゲンジスルフィドの含有量(B)の比(B/A)は、20~2000であることが好ましい。含有量の比(B/A)を該範囲内とすることで、収縮率の低減に資する。
【0031】
[可塑化剤(化学式(1)及び化学式(2)で表される化合物)の含有量の分析]
化学式(1)及び化学式(2)で表される化合物の硫黄変性クロロプレンゴム中の含有量は以下の手順にて定量できる。
得られた硫黄変性ポリクロロプレンゴム1.5gをベンゼン30mlで溶解した後、メタノール60mlを滴下し、ゴム成分を析出させ溶媒から分離し非ゴム分を溶媒可溶成分として回収する。析出したポリマー分に対し、再度、同様の手順でベンゼン溶解及びメタノール滴下を行い、ゴム成分を分離し、非ゴム分を同様に溶媒可溶成分として回収し、1回目と2回目の溶媒を混合して200mlに定容、これを測定用試料とする。測定用試料を液体クロマトグラフ(LC 日立製作所製 ポンプ:L-6200、L-600 UV検出器:L-4250)に20μL注入する。LCの移動相はアセトニトリル及び水の比率を変化させながら使用し、1ml/minの流量で流す。カラムはInertsil ODS-3(φ4.6×150mm 5μm GLサイエンス製)を用いる。スルフェンアミド(測定波長:300nm)、キサントゲンジスルフィド(測定波長:280nm)のピーク検出時間を標準液で確認し、そのピーク面積から求めた検量線により定量値を求める。本定量値と、分析に用いたサンプル量の比較により、化学式(1)及び(2)の含有量を求める。
【0032】
硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度は、特に限定されないが、20~80の範囲に調整することが好ましい。硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度を該範囲に調整することによって、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの加工性を維持することができる。
硫黄変性クロロプレンゴムのムーニー粘度を調整するには、可塑化剤の添加量や可塑化工程の時間及び可塑化温度を調整すれば良い。
【0033】
硫黄変性クロロプレンゴムには、貯蔵時のムーニー粘度変化を防止するため、少量の安定剤を含有させることもできる。本発明に用いることができる安定剤の種類は、クロロプレンゴムに用いることが可能な公知の安定剤を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、フェニル-α-ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,6-ジ-ターシャリー-ブチル-4-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ターシャリー-ブチルフェノール)、及び4,4’-チオビス-(6-ターシャリー-ブチル-3-メチルフェノール)などがある。これらの安定剤のうち、4,4’-チオビス-(6-ターシャリー-ブチル-3-メチルフェノールが好ましい。
【0034】
<化学発泡剤>
化学発泡剤は、化学発泡剤、無機発泡剤のどちらも使用することができる。化学発泡剤としては、例えばアゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルヒドラジド化合物、アジド化合物、カルボンジアミド化合物等が挙げられる。より好ましくは、スルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物が挙げられる。
【0035】
化学発泡剤の分解温度は、好ましくは120℃~200℃、より好ましくは130℃~170℃にするとよい。化学発泡剤の分解温度をこのような範囲内にすることにより、化学発泡及び加硫の制御が容易になり、収縮率が低減し、外観が優れた加硫物が得られる。
【0036】
化学発泡剤の添加量は硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して3~16質量部である。化学発泡剤の配合量が3質量部に満たないと発泡剤量の不足から発泡体を得るのに十分な分解ガス量が得られず、16質量部を超えると発泡と加硫のバランスが取りにくく、発泡体の外観が優れたものが得られず、引裂き強度も劣ったものになってしまう。
【0037】
<スポンジ>
得られた硫黄変性クロロプレンゴム組成物は、金属化合物、可塑化剤、充填剤などと共に、ロールやバンバリーミキサー、押出機などで混合し、発泡剤を加えて発泡させながら加硫することによりスポンジとすることができる。
【0038】
金属化合物は、ゴム組成物の加硫速度の調整や、ゴム組成物の脱塩酸反応によって生じる塩化水素などの塩素源を吸着して、ゴム組成物が劣化することを抑制するために添加するものである。金属化合物としては、例えば、亜鉛、チタン、マグネシウム、鉛、鉄、ベリリウム、カルシウム、バリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、バナジウム、モリブテン、タングステンなどの酸化物や水酸化物を用いることができる。これらの金属化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
金属化合物の添加量は、特に限定されないが、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して、3~15質量部の範囲が好ましい。金属化合物の添加量をこの範囲に調整することにより、得られるゴム組成物の機械的強度を向上させることができる。
【0040】
可塑剤は、ゴム組成物の硬度を下げて、その低温特性を改良するために添加するものである。また、ゴム組成物を用いてスポンジを製造する際に、その風合いを向上させることもできる。可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート{アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)}、ホワイトオイル、シリコンオイル、ナフテンオイル、アロマオイル、トリフェニルフォスフェート、及びトリクレジルフォスフェートなどがある。これらの可塑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
可塑剤の添加量は、特に限定されないが、硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に対して、50質量部以下の範囲が好ましい。可塑剤の添加量をこの範囲に調整することにより、得られるゴム組成物の引き裂き強度を維持しつつ、上述の効果を発揮することができる。
【0042】
以下、ゴム組成物の用途例を説明する。
(ウェットスーツ)
得られたスポンジは、所望する厚さにスライス加工した後、少なくともその一方の面に、ポリエステル繊維やナイロン繊維のジャージ布をラミネートして、ウェットスーツ用の生地とすることができ、これを縫製することで、ウェットスーツを得ることができる。ウェットスーツは製品の信頼性向上のため、引裂き強度や収縮性、外観に優れた材料が求められている。
【0043】
本発明のゴム組成物は、従来の硫黄変性クロロプレンゴムを用いたウェットスーツよりも引裂き強度が高く、収縮率が小さい、かつ外観が優れたウェットスーツを提供することが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0045】
<実施例1>
<硫黄変性クロロプレンゴム>
内容積30リットルの重合缶に、クロロプレン100質量部、硫黄0.55質量部、純水120質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)4.00質量部、水酸化ナトリウム0.60質量部、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名デモールN:花王株式会社製)0.6質量部を添加した。重合開始前の水性乳化剤のpHは12.8であった。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で重合を行った。転化率85%となった時点で重合停止剤であるジエチルヒドロキシアミンを加えて重合を停止させ、クロロプレンの重合液を得た。
【0046】
得られた重合液に、溶剤としてクロロプレン単量体5質量部、可塑化剤としてN-シクロヘキシルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド(商品名「ノクセラーCZ」大内新興化学工業株式会社製)1.5質量部及びジイソプロピルキサントゲンジスルフィド(商品名「サンビットDIX」三新化学工業株式会社製)3.2質量部、分散剤としてβ―ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.05質量部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.05質量部からなる可塑化剤乳化液を添加し、可塑化前の硫黄変性クロロプレン重合体ラテックスを得た。
【0047】
ここで、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩は、汎用に用いられる分散剤であり、少量添加することで安定性が向上し、製造過程において凝集や析出をすることなく、安定的にラテックスを製造することができる。また、本実施例では、乳化重合後の重合液に可塑化剤を添加しているが、その際、より安定した可塑化を可能とするため、溶剤として添加したクロロプレンに可塑化剤を溶解させた可塑化剤液に、ラウリル硫酸ナトリウムを添加して乳化状態にしたものを添加した。
【0048】
得られた硫黄変性クロロプレン重合体ラテックスを減圧蒸留して未反応の単量体を除去し、撹拌しながら温度50℃で1時間保持して可塑化し、可塑化後のラテックスを得た(以下、この可塑化後のラテックスを「ラテックス」と略称する。)。
【0049】
得られたラテックスを冷却し、常法の凍結-凝固法で重合体を単離して硫黄変性クロロプレンゴムを得た。
【0050】
<ムーニー粘度の測定>
前記で得られた硫黄変性クロロプレンゴムについて、JIS K 6300-1に準拠して、L型ロータの予熱時間1分、回転時間4分、試験温度100℃にてムーニー粘度の測定を行った。
【0051】
<評価用のサンプルの作製>
前記で得られた硫黄変性クロロプレンゴムと、表1に記載した化合物を、8インチロールを用いて混合し、得られた未加硫コンパウンドをJIS K 6299に準拠して、プレス加硫を2度行ってスポンジを作製した。なお、1度目のプレス加硫を1次加硫、2度目のプレス加硫を2次加硫という。
【0052】
1次加硫は、キャビティー領域が縦100mm、横95mm、高さ8mmの金型に未加硫コンパウンド102g(充填率105%)を入れ、キャビティー領域を圧力3.5Mpa以上、145℃の条件下で20分間行った。その後、大気圧下、23℃の条件下で10分間静置した。静置して得られた1次加硫コンパウンドをキャビティー領域が縦175mm、横170mm、高さ16mmの金型に入れ、キャビティー領域を圧力3.5Mpa以上、155℃の条件下で20分間行った。
【0053】
表1に記載した化合物は以下の通り
滑剤・加工助剤1:新日本理化株式会社製 ステアリン酸50S
滑剤・加工助剤2:エスアンドエス・ジャパン株式会社製 ストラクトールWB212
老化防止剤1:大内新興化学工業製 ノクラックAD-F
老化防止剤2:大内新興化学工業製 ノクラックNBC
酸化マグネシウム:協和化学工業株式会社製 キョーワマグ150
カーボンブラック:旭カーボン社製 アサヒサーマル
充填剤1:白石カルシウム株式会社製 デキシクレー
充填剤2:白石カルシウム株式会社製 クラウンクレー
可塑剤1:出光興産株式会社製 NP-24
可塑剤2:出光興産株式会社製 AH-16
ワックス:日本精蝋株式会社製 パラフィンワックス130°F
加硫剤:堺化学工業株式会社製 酸化亜鉛2種
発泡剤1:三協化成株式会社製 セルマイクS(p,p’-オキシビスベンゼンスルホニル・ヒドラジド)
【0054】
<実施例2~6及び比較例1~4>
下記表1及び2に示した配合により、実施例1と同様の方法にて、硫黄変性クロロプレンゴムを得た。
なお、本実施例で使用した各材料は、以下の通りである。
N-tert-ブチルベンゾチアゾール-2-スルフェンアミド:(商品名「サンセラーNS-G」三新化学工業株式会社製)
ジエチルキサントゲン ジスルフィド:(Sigma-Aldrich社製)
テトラエチルチウラムジスルフィド:(商品名「ノクセラーTET」大内新興化学工業株式会社製)
【0055】
<実施例7>
発泡剤1を発泡剤2(商品名「セルマイクC」三協化成株式会社製 アゾジカルボンアミド)に変更し、添加量を5質量部にした以外は、実施例1と同様の方法にて評価サンプルを作製した。
【0056】
<実施例8>
発泡剤1の添加量を4質量部とし、発泡剤2の添加量を2.5質量部にした以外は、実施例1と同様の方法にて評価サンプルを作製した。
【0057】
<比較例5>
発泡剤1の添加量8質量部から2質量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて評価サンプルを作製した。
【0058】
<比較例6>
発泡剤1の添加量8質量部から20質量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法にて評価サンプルを作製した。
【0059】
<引裂き強度の評価>
得られたスポンジを、JIS K 6400-1に準拠して打ち抜き冶具を用いて4号形切込みなしアングル形試験片を作製した後、JIS K6400-5に準拠して定速引張試験機で試験速度500mm/分にて測定し、試験片が破断するまでの間に示した最大引裂き荷重を膜厚で除することにより求めた。
【0060】
<収縮率の評価>
得られたスポンジを、大気圧下、23℃の条件下で168時間静置したのち、スポンジの表層を厚さ2mm±0.20mmにスライスしてスポンジシートを作製した。スライス直後のスポンジシートの縦横の大きさを測定して基準とし、その後、大気圧下、23℃の条件下で168時間静置した時のスポンジシートの縦横の大きさを再度測定する。収縮率はスライス直後のスポンジシートの縦の長さをH0(mm)、横の長さをL0(mm)、168時間静置後のスポンジシートの縦の長さをH1(mm)、横の長さをL1(mm)として以下の式で算出した。
収縮率(%)=(H0×L0-H1×L1)÷(H0×L0)×100
【0061】
<外観の評価>
得られたスポンジを、大気圧下、23℃で24時間静置した後、その表面状態を目視で観察した。観察は以下の3項目について行い、全ての項目で○評価であったサンプルを○、○評価が一つでもなかったものを△評価とした。
項目1 クレーターの有無
ガス抜け等によって生じるクレーター状の凸凹の有無を確認した。
全く確認されなかったものを○とした。
項目2 爪痕の有無
スポンジの表面に爪を立てて軽く押した後、開放したときの爪痕の有無を観察した。
全く残らなかったものを○とした。
項目3 コーナー部分の観察
スポンジのコーナーに収縮によるしわよりを確認した。
角がしっかり残っていたものを○とした。
【0062】
<結果>
実施例の結果を下記の表1に、比較例の結果を下記の表2に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
<考察>
表1~表2に示す通り、実施例1~8の評価サンプルは、引裂き強度や収縮率及び外観が優れた加硫物が得られることを確認した。スルフェンアミドを用いていても、硫黄変性クロロプレンゴム中の含有量が0.01質量部を超える比較例2については、ムーニー粘度が低すぎて、評価サンプルを作製することができなかった。また、発泡剤の添加量が3質量部に満たない比較例5は発泡せず評価サンプルを作製することが出来なかった。