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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】油性インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/36 20140101AFI20230613BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230613BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C09D11/36
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019135021
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021017512
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 直史
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-313917(JP,A)
【文献】特開2010-085452(JP,A)
【文献】特開2019-019233(JP,A)
【文献】特開2015-124355(JP,A)
【文献】特開2017-160289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-13/00
B41J 2/01- 2/215
B41M 5/00- 5/52
C09C 1/00-17/00
C09K23/00-23/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、
非水系溶剤と、
水溶性樹脂と、を含み、
前記水溶性樹脂は、主鎖にベンゼン環及びアミンを有し、前記主鎖に対して水酸基が結合された有機化合物(A)を含む、ことを特徴とする油性インク。
【請求項2】
前記有機化合物(A)は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする請求項1に記載の油性インク。
【化1】

ここで、X~Xは、炭素数0~3の直鎖状のアルキレン基である。また、Yは、炭素数0~3の直鎖状のアルキレン基であり、Yは、炭素数1~3の直鎖状のアルキレン基である。直鎖状のX~X、Y、或いは、Yに、側鎖として、官能基が結合されていてもよい。また、n=0の一般式(1)を含む場合、n≧1の一般式(1)を満たす有機化合物(A)も含む。
【請求項3】
前記有機化合物(A)は、エポキシドを有する化合物(C)と、アミン化合物(D)との反応物であり、前記反応物を含む反応組成物(B)は、前記顔料に対する質量比で、0.1~0.3の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油性インク。
【請求項4】
インクジェットインクであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の油性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式等の記録方式に用いるインクには、水性インク、紫外線硬化型インク(UVインク)、ホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系インクが知られている。水性インクは、水を主溶媒として含有する。紫外線硬化型インクは、重合性モノマーを主成分として含有する。ホットメルトインクは、ワックスを主成分として含有する。非水系インクは、非水系溶剤を主溶媒として含有する。
【0003】
非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性、或いは、不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)と、に分類できる。
【0004】
ソルベントインクは、主に、有機溶剤の蒸発によって記録媒体上で乾燥するのに対し、油性インクは、記録媒体上への浸透が主となって乾燥する。
【0005】
油性インクは、記録媒体として紙を用いた場合、紙の構成成分であるパルプの繊維間結合に対する影響が小さいために、印刷後の紙のカールやコックリングが発生し難く、また、紙への浸透が速いために見かけ上の乾燥性に優れる。一方、油性インクは、インク中の色材が紙中へ浸透するために高い画像濃度を得ることが困難であるいう課題を有する。
【0006】
特許文献1には、裏抜けを抑制し、高い画像濃度を実現する非水系顔料インクに関する発明が開示されている。特許文献1に記載の非水系顔料インク(油性インク)は、顔料と、非水系溶剤と、非水溶性樹脂と、水溶性樹脂と、を含み、例えば、水溶性樹脂に、ポリエチレンイミンを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-15491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水溶性樹脂として、ポリエチレンイミンを含む油性インクを用いたところ、印刷物の耐擦過性が低下することがわかった。
【0009】
本発明は、印刷物の耐擦過性を向上させることが可能な油性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の形態としての油性インクは、顔料と、非水系溶剤と、水溶性樹脂と、を含み、前記水溶性樹脂は、主鎖にベンゼン環及びアミンを有し、前記主鎖に対して水酸基が結合された有機化合物(A)を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の油性インクを用いることで、印刷物の耐擦過性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(本実施の形態という)に係る油性インクについて説明する。なお、以下では、油性インクを、単に「インク」と称する場合がある。
【0013】
<本実施の形態の油性インクの概要>
油性インクを、例えば、記録媒体としての紙に印刷してなる印刷物において、機械的或いは人為的な擦れによって、顔料が紙の表面から脱粒する、いわゆる耐擦過性の低下が懸念される。耐擦過性は、紙の表面に留まる顔料の量が増えるほど悪化する。すなわち、顔料を紙の表面に留めることで、高い画像濃度を実現できる一方、耐擦過性が悪化しやすい。
【0014】
耐擦過性は、顔料の紙への吸着性が高いほど、高めることができると推測される。
そこで、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、油性インク中に、顔料及び非水系溶剤とともに、所定の化学構造を有する水溶性樹脂を含めることで、印刷物の耐擦過性を向上させるに至った。
【0015】
すなわち、本実施の形態の油性インクは、顔料と、非水系溶剤と、水溶性樹脂と、を含み、前記水溶性樹脂は、主鎖にベンゼン環及びアミンを有し、前記主鎖に対して水酸基が結合された有機化合物(A)を含む、ことを特徴とする。
【0016】
上述の有機化合物(A)の主鎖に含まれるベンゼン環は、顔料及び紙の双方に対する親和性が高く、また、水酸基は、主に、紙との親和性が高いと推測される。例えば、主鎖に含まれる窒素とベンゼン環は、紙の成分に含まれる填料やサイズ剤と、水素結合や、π-πスタッキングを生じさせると考えられる。特定の理論に拘束されるわけではないが、このようなメカニズムにより、顔料と紙との吸着性を高めることができ、耐擦過性を向上させることができると推測される。
【0017】
また、本実施の形態の油性インクによれば、高い画像濃度を得つつ、耐擦過性を向上させることが可能である。特定の理論に拘束されるわけではないが、顔料の分散安定性や、顔料と非水系溶剤との離脱性の改善により、高い画像濃度を実現できると推測される。ここで、本実施の形態の油性インクに含まれる有機化合物(A)は、顔料の分散安定性の向上にも寄与しているものと推測される。また、限定されるものではないが、所定の顔料分散剤を添加したり、所定の表面処理がなされた顔料(自己分散型の顔料など)を用いたりすることが可能である。これにより、本実施の形態では、より効果的に、高い画像濃度と優れた耐擦過性の両方を得ることができる。
【0018】
次に、本実施の形態の油性インクに含まれる水溶性樹脂、顔料、及び、非水系溶剤についてそれぞれ、詳細に説明する。まずは、水溶性樹脂について説明する。
【0019】
[1.水溶性樹脂]
本実施の形態では、水溶性樹脂として、上述した、主鎖にベンゼン環及びアミンを含み、前記主鎖に対して水酸基が結合された有機化合物(A)を必須成分として含む。
【0020】
有機化合物(A)のベンゼン環は、主鎖に、フェニレン基として組み込まれる。フェニレン基の結合位は、限定されるものではないが、例えば、メタ位である。
【0021】
また、水酸基は、主鎖に側鎖として直接結合されていることが耐擦過性を向上させるうえで好ましい。ベンゼン環と水酸基との間の距離は近いことが、耐擦過性を向上させるうえで好ましく、例えば、ベンゼン環と水酸基の間は、2級アミンの両側に、炭素数0~3の炭素鎖が結合された直鎖であることが好ましい。
【0022】
アミンは、主鎖に、1級アミン、及び/又は、2級アミンとして結合されていることが好ましい。具体的には、ベンゼン環と水酸基の間に、2級アミン、及び、主鎖の両末端に、1級アミン(アミノ基)を有することが好ましい。これにより、顔料への吸着性を効果的に向上させることができ、画像濃度の向上を、より図ることができる。
【0023】
本実施の形態における有機化合物(A)は、下記一般式(1)で示されることが好ましい。
【化1】

ここで、X~Xは、炭素数0~3の直鎖状のアルキレン基である。また、Yは、炭素数0~3の直鎖状のアルキレン基であり、Yは、炭素数1~3の直鎖状のアルキレン基である。前記した直鎖状のX~X、Y或いはYに、側鎖として、水酸基やメチル基等の官能基が結合されていてもよい。
【0024】
~X、Y、Yの炭素数を、上述の範囲内で調整することで、顔料に対する有機化合物(A)の配合量を一定値としたとき、ベンゼン環、水酸基及びアミンを多く含めることができる。これにより、顔料と紙との吸着性をより効果的に高めることができ、より優れた耐擦過性を得ることができる。
【0025】
限定するものではないが、X~Xは、いずれも同じであることが好ましい。また、YとYとは、同じであることが好ましい。これにより、ベンゼン環とアミンとの間の距離を等しくでき、また、ベンゼン環と水酸基との間の距離を等しくでき、一般式(1)中に、ベンゼン環、アミン、水酸基をバランスよく配置できる。以上により、紙と顔料との親和性を安定的に保つことができ、より優れた耐擦過性を得ることができる。
【0026】
また、一般式(1)のnは、0~12の範囲内であるが、n=0のみを含むことはなく、n=0の一般式(1)を含む場合、n≧1の一般式(1)を満たす有機化合物(A)も含む。すなわち、有機化合物(A)は、一般式(1)のn値が異なる複数種を含むことができる。
【0027】
有機化合物(A)は、下記一般式(2)であることがより好ましい。
【化2】
【0028】
また、一般式(2)のnは、0~12の範囲内であるが、n=0のみを含むことはなく、n=0の一般式(2)を含む場合、n≧1の一般式(2)を満たす有機化合物(A)も含む。すなわち、有機化合物(A)は、一般式(2)のn値が異なる複数種を含むことができる。
【0029】
一般式(2)の有機化合物(A)、或いは、有機化合物(A)を含む反応組成物(B)として、具体的には、三菱ガス化学(株)製のガスカミン328を挙げることができる。 ここで、「有機化合物(A)を含む反応組成物(B)」とは、有機化合物(A)の他、有機化合物(A)を生成する際に使用される原料の一部が未反応のまま残されたものも含む。すなわち、有機化合物(A)は、後述するように、エポキシドを有する化合物(C)と、アミン化合物(D)との反応物であるため、反応組成物(B)は、有機化合物(A)のみ、或いは、有機化合物(A)と、エポキシドを有する化合物(C)、及び/又は、アミン化合物(D)を含む混合物である。また、混合物には、反応中間体を含むことができる。
【0030】
有機化合物(A)を含む反応組成物(B)は、顔料に対する質量比で、0.01~0.5の範囲であることが好ましい。これにより、効果的に、耐擦過性の向上を図ることができる。有機化合物(A)を含む反応組成物(B)は、顔料に対する質量比で、0.1~0.3の範囲であることがより好ましい。これにより、より優れた耐擦過性を得ることができる。
【0031】
有機化合物(A)を含む反応組成物(B)のアミン価は、200~1000であることが好ましい。これにより、顔料への吸着性を向上させることができ、優れた顔料の分散安定性を得ることができ、耐擦過性のみならず、高い画像濃度を得ることができる。アミン価は、400~800であることが、より高い画像濃度を得るうえで好ましい。ガスカミン328のアミン価は、670程度である。
【0032】
限定されるものではないが、有機化合物(A)は、エポキシドを有する化合物(C)と、下記一般式(3)で示されるアミン化合物(D)との反応物であり、反応組成物(B)は、該反応物とともに、エポキシドを有する化合物(C)やアミン化合物(D)を未反応物として含むことができる。
【0033】
【化3】
ここで、X、Xは、炭素数0~3の直鎖状のアルキレン基である。前記した直鎖状のX、或いは、Xに、側鎖として、水酸基やメチル基等の官能基が結合されていてもよい。
【0034】
エポキシドを有する化合物(C)としては、エチレンオキシド、エピクロロヒドリン、ブチレンオキシド、エポキシペンタン、ジエポキシブタン等を挙げることができる。このうち、エピクロロヒドリンを用いることが好ましい。
【0035】
一般式(3)で示されるアミン化合物(D)は、メタキシリレンジアミンであることが好ましい。
【0036】
エピクロロヒドリンと、メタキシリレンジアミンとの反応物(有機化合物(A))を含む反応組成物(B)には、上述のガスカミン328が該当する。このとき、反応組成物(B)中に、一般式(2)で示される有機化合物(A)は、60質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、75質量%以上、さらにより好ましくは、85質量%以上である。また、一般式(2)で示される有機化合物(A)の中でも、n=1の化合物が占める割合が高いことが好ましい。反応組成物(B)中の、上記一般式(2)で示されるn=1の有機化合物(A)の含有量としては、好ましくは15質量%以上、より好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、25質量%以上である。また、反応組成物(B)中の一般式(3)で示されるアミン化合物(D)の含有量は、35質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
反応組成物(B)中の有機化合物(A)の含有量、及び有機化合物(A)の組成は、GC分析及びゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)分析により求めることができる。
【0038】
水溶性樹脂としては、上述の有機化合物(A)、或いは、有機化合物(A)を含む反応組成物(B)以外の水溶性樹脂を含むことができる。例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン等の塩基性高分子電解質、又は、それらの誘導体を含むことができる。
【0039】
[2.顔料]
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料;及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
顔料の平均粒子径は、吐出安定性と保存安定性の観点から、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは、200nm以下であり、さらに好ましくは、150nm以下である。
【0041】
顔料は、インク全量に対し、通常、0.01~20質量%であり、画像濃度とインク粘度の観点から1~15質量%であることが好ましく、5~10質量%であることが一層好ましい。
【0042】
顔料には、表面処理がなされた顔料を使用することができる。これにより、画像濃度を一層高めることができる。
【0043】
[3.非水系溶剤]
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤のいずれも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り、2種以上を組み合わせて使用することもできる。本実施の形態において、非水系溶剤には、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0044】
非極性有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。
【0045】
脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができる。市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンN-15H、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN-16、テクリーンN-20、テクリーンN-22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJXTGエネルギー(株)製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製);モレスコホワイトP-40、モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-350P(いずれも(株)MORESCO製)等を好ましく挙げることができる。
【0046】
芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJXTGエネルギー(株)製)、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製)等を好ましく挙げることができる。
【0047】
石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが一層好ましく、250℃以上であることがさらに一層好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0048】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。
【0049】
極性有機溶剤としては、例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2-オクチルデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16~30の脂肪酸エステル系溶剤;
イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12~20の高級アルコール系溶剤;
ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α-リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14~20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
【0050】
脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0051】
本実施の形態の油性インクに含まれる成分として、顔料、非水系溶剤及び、アミン化合物(水溶性樹脂)以外に、顔料分散剤を含めることができる。
【0052】
[4.顔料分散剤]
限定されるものではないが、顔料分散剤は、塩基性分散剤であることが、顔料の分散性を高めるうえで好ましい。
【0053】
特に、顔料分散剤には、β-ジカルボニル基を含むことが好ましい。β-ジカルボニル基を含むことで、画像濃度をより効果的に向上させることが可能になる。
【0054】
一例であるが、顔料分散剤は、アクリロイル基又はメタクリロイル基とエポキシ基とを有するモノマーa、炭素数8以上のアルキル基を有するモノマーb、及び、β-ジカルボニル基を有するモノマーcを有することが好ましい。或いは、顔料分散剤は、少なくとも、モノマーb、及び、モノマーcを有する構成であってもよい。
【0055】
例えば、モノマーaとして、グリシジルメタクリレート、モノマーbとして、ステアリルメタクリレート、モノマーcとして、アセトアセトキシエチルメタクリレートを選択することができる。
【0056】
顔料分散剤を合成する際の具体的な反応条件、及び、好適な反応フローの一例は、以下のとおりである。
(1)合成用の容器内で、非水系溶剤を50~150℃に加熱する。
(2)モノマー、及び重合開始剤の混合液を1~5時間かけて添加し、その後、更に、1~3時間攪拌を続け、樹脂溶液を得る。
(3)必要に応じて、非水系溶剤で希釈する。
なお、顔料分散剤は、上記のものに限定されることなく、既存の市販品を使用することもできる。
【0057】
[5.その他]
その他、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤等を添加することができる。界面活性剤としては、例えば、アニオン性、カチオン性、両性、もしくは、ノニオン性の界面活性剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及び、ノルジヒドログアヤレチック酸等が挙げられる。
【0058】
油性インクの製造方法は、特に限定されない。例えば、顔料、非水系溶剤、及び水溶性樹脂を、一括又は分割して混合又は撹拌してもよい。また、顔料、非水系溶剤、及び水溶性樹脂に加えて、他の成分を混合してもよい。例えば、顔料、非水系溶剤、及び水溶性樹脂以外に、顔料分散剤を混合する。そして、ボールミル、ビーズミル等の任意の分散手段を用いて顔料を分散させる。所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより、調製することができる。
【0059】
本実施の形態の油性インクは、インクジェットインクであることが好ましい。インクの粘度は、インクジェット記録システム用の場合、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましく、10mPa・s程度であることが、一層好ましい。
【0060】
インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから本実施の形態に係る油性インクを吐出させ、吐出されたインク液滴を、記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
【0061】
記録媒体として、上記では紙を例に挙げたが、特に限定されるものではなく、例えば、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0062】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm~数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0063】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0064】
以上の実施の形態によって本発明を説明したが、本発明は、上述の実施の形態には限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更や応用を行うことが可能である。上述の実施の形態において、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【実施例
【0065】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
<樹脂溶液の作製方法>
四つ口フラスコに、エキセパールEH-S(脂肪酸エステル系溶剤;花王(株)製)130質量部を仕込み、窒素ガスを通気し攪拌しながら、110℃まで昇温した。次に、下記表1に記載した組成のモノマー混合物100質量部に、エキセパールEH-Sを27.5質量部、パーブチルO(t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、日油(株)製)を4.8質量部混合したものを、3時間かけて滴下した。110℃で1時間攪拌した後、パーブチルOを、0.2質量部添加し、さらに1時間攪拌し、固形分40質量%の樹脂溶液aを得た。得られた樹脂の重量平均分子量は、12000であった。重量平均分子量は、ゲルパーミエーション(GPC法)で、ポリスチレン換算による値である。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、樹脂溶液aは、ステアリルメタクリレートを65質量%、アセトアセトキシエチルメタクリレートを20質量%、グリシジルメタクリレートを15質量%含む。
【0069】
また、上述した製造方法に基づいて、表1に示す樹脂溶液bを作製した。樹脂溶液bは、ステアリルメタクリレートを85質量%、グリシジルメタクリレートを15質量%含む。
【0070】
<インクの作製方法>
下記表2に示す各組成の混合物を、ジルコニアビーズ(直径0.5mm)を充填率85%にて充填したビーズミル「ダイノーミルMulti Lab」((株)シンマルエンタープライゼス製)により分散した。分散後、希釈用溶剤を加えて希釈することで、各実施例、及び比較例のインクを作製した。なお、表2に示す水溶性樹脂の含有量に関し、顔料に対する質量比を、括弧内の数値で示した。
【0071】
<評価方法>
(1)印刷物の耐擦過性
インクジェットプリンター「オルフィスGD9630」に搭載されているインクジェットヘッドを用いて、普通紙(理想用紙マルチ、理想科学工業(株)製)にベタを印刷した。そして、一日経過後のベタ部分を、クロックメーター「CM-1」(アトラス・エレクトリック・デバイス社製)を用い白綿布で擦り、紙の汚れ部分を目視で評価した。評価は、以下の通りとした。
A.汚れが目立たない。
B.汚れがわずかに目立つ。
C.汚れが目立つ。
【0072】
(2)画像濃度
インクジェットプリンター「オルフィスGD9630」に搭載されているインクジェットヘッドを用いて、普通紙(理想用紙マルチ、理想科学工業(株)製)にベタを印刷した。そして、一日経過後のベタ部分のOD値を、分光濃度・測色計「X-Rite eXact」(ビデオジェット・エックスライト(株)製)で測定した。OD値により、画像濃度の評価を以下の通りとした。
A.1.15以上1.20未満
B.1.10以上1.15未満
C.1.05以上1.10未満
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、実施例1~実施例6では、水溶性樹脂として、ガスカミン328を用いた。したがって、各実施例には、上述の一般式(2)の有機化合物(A)を含む反応組成物(B)が添加されている。この結果、各実施例では、耐擦過性の評価が、AかBとなり、印刷物の耐擦過性に優れることがわかった。一方、水溶性樹脂として、ポリエチレンイミンを用いた比較例1では、上述の一般式(1)或いは一般式(2)の有機化合物(A)を含まないため、耐擦過性の評価は、Cとなり、印刷物の耐擦過性が悪化することがわかった。
【0075】
また、各実施例では、顔料に対する反応組成物(B)の量は、0.08~0.24であった。各実施例のうち、実施例2~実施例6の耐擦過性の評価は、Aであったが、実施例1の耐擦過性の評価はBであった。このため、反応組成物(B)の顔料に対する質量比の好ましい範囲を、0.1~0.3とした。
【0076】
また、実施例1~実施例4では、画像濃度の評価がAであるのに対し、実施例5、及び実施例6では、画像濃度の評価がBであった。これは、実施例1~実施例4では、非水溶性樹脂(顔料分散剤)として、β―ジカルボニル基を含む樹脂溶液aを用いたのに対し、実施例5、及び実施例6で用いた非水溶性樹脂には、β―ジカルボニル基が含まれていないためと考えられる。なお、β―ジカルボニル基は、アセトアセトキシエチルメタクリレートに含まれる(表1参照)。以上により、画像濃度を高めるべく、顔料分散剤には、β―ジカルボニル基を含むことが好ましいとわかった。
【0077】
このほか、実施例では、顔料や非水系溶剤の種類を変えた実験を行ったが、印刷物の耐擦過性及び画像濃度に特に影響はなかった。