(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】シアン含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20230613BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20230613BHJP
B01J 41/14 20060101ALI20230613BHJP
B01J 47/12 20170101ALI20230613BHJP
B01J 47/127 20170101ALI20230613BHJP
B01J 47/014 20170101ALI20230613BHJP
B01J 47/02 20170101ALI20230613BHJP
B01J 49/57 20170101ALI20230613BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20230613BHJP
【FI】
C02F1/42 L
B01J41/05
B01J41/14
B01J47/12
B01J47/127
B01J47/014
B01J47/02
B01J49/57
C02F1/58 N
(21)【出願番号】P 2019153344
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2018159656
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】天田 隼人
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069227(JP,A)
【文献】特開2018-039004(JP,A)
【文献】特開2005-296892(JP,A)
【文献】米国特許第04115260(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/28,1/42、1/58-1/64
B01J39/00-49/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[Fe(CN)
5(CO)]
3-及び[Fe(CN)
4(CO)
2]
2-のいずれか一方又は両方の鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水
に銅化合物を添加することなく、前記被処理水と、陰イオン交換樹脂とを接触させる工程を含
み、
前記陰イオン交換樹脂は、前記被処理水中の前記鉄カルボニルシアノ錯体とイオン交換作用するイオン交換基を重合体母体の構造に有するとともに、前記イオン交換基が第4級アンモニウム基であり、前記重合体母体がスチレン・ジビニルベンゼン共重合体又はスチレン系重合体である強塩基性I型陰イオン交換樹脂であるシアン含有水の処理方法。
【請求項2】
前記陰イオン交換樹脂が粒状又は繊維状であり、その粒状又は繊維状の前記陰イオン交換樹脂を前記被処理水に添加することにより、前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを接触させる工程を含み、前記被処理水に対する前記陰イオン交換樹脂の添加量が250~2500mg/Lである請求項1に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項3】
前記陰イオン交換樹脂が粒状又は繊維状であり、その粒状又は繊維状の前記陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換塔に前記被処理水を通過させることにより、前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを接触させる工程を含む請求項1に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項4】
前記陰イオン交換樹脂が膜状であり、その膜状の前記陰イオン交換樹脂に前記被処理水を通過させることにより、前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを接触させる工程を含む請求項1に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項5】
前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを接触させるときの前記被処理水のpHが5~10である請求項1
~4のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項6】
前記被処理水がシアン化物イオンを含有し、
前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを、接触させる前、又は接触させると同時期に、前記被処理水にさらに2価の鉄化合物を添加して、前記被処理水中の前記シアン化物イオンと反応させ、前記シアン化物イオンをフェロシアン化物イオンに変換する請求項1~
5のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【請求項7】
前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを接触させる工程によって前記鉄カルボニルシアノ錯体を前記陰イオン交換樹脂に吸着させた後、
前記鉄カルボニルシアノ錯体を吸着した前記陰イオン交換樹脂と、塩化物イオンを含有する水溶液とを接触させて、前記鉄カルボニルシアノ錯体を吸着した前記陰イオン交換樹脂から前記鉄カルボニルシアノ錯体を脱離させる工程をさらに含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載のシアン含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン含有水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキを行う工場、石炭工場、コークス工場、及びコークスを大量に使用する工場等から排出される廃水には、シアン成分が含有されている場合がある。そのシアン成分は、シアン化ナトリウム等のシアン化物、シアン化物イオン(遊離シアン;CN-)、並びにフェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)6]3-)等の鉄シアノ錯体(錯イオン)等を含む。
【0003】
シアン含有廃水中のシアン化物イオンの処理方法としては、アルカリ塩素法等に代表される酸化分解法が古くから行われてきている。そのアルカリ塩素法では、一般的に次亜塩素酸ナトリウムをシアン含有廃水にアルカリ性下で添加することで、廃水中のシアン化物、シアン化物イオン、亜鉛シアノ錯体、銅シアノ錯体、及び銀シアノ錯体等を処理することができる。その一方、例えば鉄シアノ錯体等のように、金属イオンと大きな結合力をもって錯体化したシアン化合物の分解は難しい。
【0004】
上述のアルカリ塩素法では分解が困難な鉄シアノ錯体を含有する廃水を処理する方法としては、例えば、銅塩を使用する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、遊離シアン及びシアン錯塩を含有する廃水に硫酸銅(CuSO4)及び亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)を存在させ、難溶性の沈殿を生成させて分離する方法が開示されている。また、特許文献2には、フェリシアン化ナトリウムを含有する原水に硫酸第一鉄(FeSO4)、硫酸銅(CuSO4)、及び亜硫酸ナトリウム(Na2SO4)を添加した後、アルカリ性下に難溶性塩を生成させ、固液分離する方法が開示されている。
【0005】
さらに、シアン含有廃水に、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン以外の他の鉄-シアン化合物が含有されている場合、そのような鉄-シアン化合物を有効に除去しきれない場合があり、シアンの除去処理がより困難となる。そのような鉄-シアン化合物を含有する廃水に対しても、有効に処理を行うことが可能な方法が特許文献3及び4に提案されている。特許文献3には、シアン化物イオン、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及び鉄カルボニルシアノ錯体を含有する廃水に、銅化合物、還元剤、及び第4級アンモニウム化合物を添加し、廃水中のシアン成分を難溶化する工程と、難溶化されたシアン成分を固液分離する工程と、を含む廃水の処理方法が開示されている。特許文献4には、シアン化物イオン、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及び鉄カルボニルシアノ錯体を含有する廃水に、過酸化水素、銅化合物、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-39693号公報
【文献】特開平1-30693号公報
【文献】特開2018-039004号公報
【文献】特開2018-069227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3及び4で提案されたような処理方法によれば、それらで提案されるまでの従来の不溶化処理技術によってはシアン含有廃水中から除去困難であった鉄カルボニルシアノ錯体を有効に除去処理することができる。一方、特許文献3及び4で提案されたような処理方法によって、被処理水中の鉄カルボニルシアノ錯体等の錯体を高いレベルで除去するためには、銅化合物を比較的多めに使用する必要がある。
【0008】
上述の特許文献3及び4で提案された方法も有用であるものの、銅化合物の使用を避けたいような事情がある場合や、処理にかかるコストを考慮して、銅化合物を使用しないか、使用しても少量に抑えることができるような別オプションの処理技術も望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、従来、処理が困難であった鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水について、銅化合物の多量使用に頼らずに、被処理水から鉄カルボニルシアノ錯体を除去することが可能な処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、[Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のいずれか一方又は両方の鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水と、陰イオン交換樹脂とを接触させる工程を含む、シアン含有水の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来、処理が困難であった鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水について、銅化合物の多量使用に頼らずに、被処理水から鉄カルボニルシアノ錯体を除去することが可能な処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理システム及び処理フローの一例の概略構成を表す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理システム及び処理フローの別の一例の概略構成を表す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理システム及び処理フローのさらに別の一例の概略構成を表す説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を適用することを想定した場合の排出ガスの洗浄廃水の処理システム及び処理フローの一例の概略構成を表す説明図である。
【
図5】試験例1~3において、液体クロマトグラフィー-誘導結合プラズマ質量分析(LC-ICP-MS)により測定された、被処理水中の鉄化合物のクロマトグラムである。
【
図6】試験例1で得られた処理水の全シアン(T-CN)濃度の測定結果と、陰イオン交換樹脂の添加濃度との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法は、[Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のいずれか一方又は両方の鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水と、陰イオン交換樹脂とを接触させる工程を含むことにある。以下では、上記鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水を、単に「被処理水」と記載することがある。
【0015】
被処理水と、陰イオン交換樹脂とを接触させる工程によって、被処理水中の[Fe(CN)5(CO)]3-及び/又は[Fe(CN)4(CO)2]2-を、陰イオン交換樹脂にそのイオン交換作用により吸着させることができる。それにより、被処理水に存在する[Fe(CN)5(CO)]3-及び/又は[Fe(CN)4(CO)2]2-を被処理水から除去することができる。
【0016】
上述のような鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水については、従来の不溶化処理技術では除去処理が困難であった。そのような被処理水から鉄カルボニルシアノ錯体を十分に除去し得るように、被処理水に、銅化合物、還元剤、及び第4級アンモニウム化合物を添加する方法や、銅化合物、過酸化水素、及び還元剤を添加する方法がある(前述の特許文献3及び4参照)。これらの方法では、被処理水への銅化合物の添加が必須であったところ、本発明の一実施形態の処理方法では、被処理水と陰イオン交換樹脂とを接触させることによって、銅化合物の添加を必須とせずとも、被処理水から鉄カルボニルシアノ錯体を除去し得る。したがって、前述の特許文献3及び4で提案された方法とは別の処理方法のオプションとして、例えば、銅化合物の使用を避けたいような事情がある場合や、処理コストが低減し得る場合等に、本発明の一実施形態の処理方法の利用が期待できる。また、本方法では、被処理水と陰イオン交換樹脂とを接触させることによる処理方法であるため、処理作業の環境面でも利点がある。
【0017】
本明細書において、「被処理水」とは、本発明の一実施形態の処理方法による処理が行われる対象となる液体であって、少なくとも水と、[Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のいずれか一方又は両方を含有する液体をいう。この被処理水は、上記鉄カルボニルシアノ錯体のほか、シアン成分として、シアン化物イオン(CN-;遊離シアン)、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-;ヘキサシアノ鉄(II)酸イオン)、及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)6]3-;ヘキサシアノ鉄(III)酸イオン)からなる群より選択される1種又は2種以上を含有していてもよい。また、被処理水は、上述の各錯体(錯イオン)の塩(錯塩)及びその水和物等を含有してもよい。
【0018】
上記鉄カルボニルシアノ錯体は、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)等の鉄カルボニル錯体と、シアン化水素(HCN)又はCN-とが共存する環境;鉄(II)イオン(Fe2+)、一酸化炭素(CO)、及びHCN又はCN-が共存する環境;[Fe(CN)6]4-及びCOが共存する環境;等のような環境下でそれらが反応して生成すると考えられる。例えば、メッキを行う工場から排出される廃水では、CN-と鉄塩が共存する可能性はあるものの、COやペンタカルボニル鉄が存在する可能性は低いと考えられ、上述のような環境はまれであると考えられる。それゆえ、従来のシアン含有水の処理技術においては、上述のような環境から生じ得る鉄カルボニルシアノ錯体が処理対象となることもまれであったと考えられる。本発明者らの検討により、コークスを燃料とする炉から発生する排出ガス中にペンタカルボニル鉄が含有されていたことが確認され、それは、炉の操業状態に応じて大きく変動し得ることがわかった。ペンタカルボニル鉄は100℃以下の低温領域で分解を開始する性質があるとされているため、炉内の温度分布によってペンタカルボニル鉄の排出ガス中の含有量が変動するものと考えられる。この温度分布はコークスの性状(及びコークス原料である石炭の性状)が支配因子の一つとなっている可能性がある。上述のようなことから、好適な被処理水の一例としては、排出ガスの洗浄廃水を挙げることができる。
【0019】
被処理水中の[Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-の存在は、液体クロマトグラフィー-誘導結合プラズマ質量分析(LC-ICP-MS)装置を用いた分析により、確認することができる。このLC-ICP-MS装置は、液体クロマトグラフィー(LC)の検出器として、金属を種類別に定量可能な分析装置である誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)装置を備えるため、金属の種類ごとにクロマトグラムを得ることができるものである。前述の特許文献3及び4に開示されているように、LC-ICP-MSにより、以下の測定条件で測定される、被処理水中の鉄化合物のクロマトグラムにおいて、[Fe(CN)5(CO)]3-は保持時間460~520秒の間に、[Fe(CN)4(CO)2]2-は保持時間540~600秒の間に検出される。また、[Fe(CN)6]4-は保持時間390~410秒の間に、[Fe(CN)6]3-は保持時間600~620秒の間に検出される。
【0020】
LC-ICP-MSの測定条件は次の通りである。
カラム;ODSカラム(粒子径5μm、内径4.6mm、カラム長150mm、2連)
移動相;アセトニトリルと25mMリン酸緩衝液(pH7.0、イオンペア試薬として15mMリン酸二水素テトラブチルアンモニウムを含む)との体積比40:60の混合物
流速;0.8mL/分
カラム温度;40℃
注入量;50~100μL
【0021】
被処理水と接触させる陰イオン交換樹脂は、被処理水と接触した際に、被処理水中の[Fe(CN)5(CO)]3-及び/又は[Fe(CN)4(CO)2]2-とイオン交換作用するイオン交換基を重合体母体の構造に有する。重合体母体としては、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、アクリル酸エステル・ジビニルベンゼン共重合体、メタクリル酸エステル・ジビニルベンゼン共重合体等を挙げることができる。これらの共重合体は、ポリスチレンや(メタ)アクリル系ポリマーの分子鎖がジビニルベンゼンで架橋結合したことによる立体的網目構造をもつ。これらのなかでも、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体を母体とする陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0022】
陰イオン交換樹脂が有するイオン交換基としては、例えば、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、及び第4級アンモニウム基等を挙げることができる。陰イオン交換樹脂としては、例えば、第1級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂、第2級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂、及び第3級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂等の弱塩基性陰イオン交換樹脂;並びに第4級アンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂等の強塩基性陰イオン交換樹脂等を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらのなかでも、第4級アンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂(換言すれば、第4級アンモニウムカチオンを有する陰イオン交換樹脂)を用いることがさらに好ましい。
【0023】
被処理水と陰イオン交換樹脂とを接触させるときの被処理水のpHは、5~10であることが好ましく、6~9であることがより好ましい。被処理水に、pH調整剤(例えば塩酸及び硫酸等の酸;並びに例えば水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ)を加えて、被処理水のpHを調整してもよい。
【0024】
被処理水に接触させるときの陰イオン交換樹脂の形態としては、粒状、繊維状、及び膜状(イオン交換膜と称される。)が好ましく、粒状がより好ましい。被処理水と陰イオン交換樹脂との接触は、被処理水に陰イオン交換樹脂を接触させてもよく、陰イオン交換樹脂に被処理水を接触させてもよく、それら両方を行ってもよい。例えば、被処理水に粒状や繊維状の陰イオン交換樹脂を添加することにより、被処理水に陰イオン交換樹脂を接触させることができる。また、例えば、粒状や繊維状の陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換塔や、膜状の陰イオン交換樹脂(イオン交換膜)に、被処理水を通過させることにより、陰イオン交換樹脂に被処理水を接触させることができる。
【0025】
上述のように、被処理水に陰イオン交換樹脂を添加すること等により接触させる場合、その工程の後段に、被処理水と陰イオン交換樹脂との混合物から、鉄カルボニルシアノ錯体をイオン交換作用により吸着した陰イオン交換樹脂を分離除去するための固液分離処理を行うことが好ましい。この固液分離処理の際には、凝集剤を用いてもよい。
【0026】
また、上述のように、イオン交換塔やイオン交換膜等によって、陰イオン交換樹脂に被処理水を接触させる場合、その工程の後段で、固液分離処理を行うことを要しない。陰イオン交換樹脂に接触させた後の被処理水中に、懸濁物質(SS)が含有されている場合には、そのSSを除去するための固液分離処理を行うことが好ましい。この固液分離処理の際にも、凝集剤を用いてもよい。
【0027】
上述した各固液分離処理としては、例えば、沈殿処理、凝集・沈殿処理、膜分離処理、砂ろ過処理等を挙げることができる。また、上述した各凝集剤としては、特に限定されず、例えば、ポリ塩化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、及びポリ硫酸第二鉄等の無機凝集剤、並びにアニオン性高分子凝集剤、及びカチオン性高分子凝集剤等の高分子凝集剤を用いることができる。
【0028】
被処理水と、陰イオン交換樹脂とを接触させる工程(吸着工程)において、鉄カルボニルシアノ錯体をイオン交換作用により吸着した陰イオン交換樹脂は、再生して繰り返し使用することも可能である。陰イオン交換樹脂の再生は、例えば、鉄カルボニルシアノ錯体が吸着している状態の陰イオン交換樹脂を、再生液に接触させることによって行い得る。再生液としては、被処理水と接触させる前の陰イオン交換樹脂が有していた元の交換陰イオン(例えば、塩化物イオン、水酸化物イオン、炭酸イオン、及び炭酸水素イオン等)を含む水溶液を挙げることができる。そのような再生液としては、例えば、NaCl水溶液、NaOH水溶液、KOH水溶液、Na2CO3水溶液、NaHCO3水溶液、及びNa2SO4水溶液、並びにこれらの混合液等を挙げることができる。
【0029】
本発明の一実施形態の処理方法は、上記吸着工程によって鉄カルボニルシアノ錯体を陰イオン交換樹脂に吸着させた後、鉄カルボニルシアノ錯体を吸着した陰イオン交換樹脂と、上述の再生液とを接触させて、鉄カルボニルシアノ錯体を吸着した陰イオン交換樹脂から鉄カルボニルシアノ錯体を脱離させる工程(再生工程)をさらに含むことが好ましい。この陰イオン交換樹脂の再生工程によって、再生された陰イオン交換樹脂を再度吸着工程で利用することができる。この再生工程で用いる再生液としては、鉄カルボニルシアノ錯体を吸着した陰イオン交換樹脂からの鉄カルボニルシアノ錯体の脱離性能が高い観点から、塩化物イオンを含有する水溶液(例えば、塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液等)が好ましい。この水溶液中の塩化物イオン濃度は、1~30質量%が好ましく、2.5~30質量%がより好ましく、5~25質量%がさらに好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態の処理方法では、被処理水がシアン化物イオンを含有する場合に、被処理水にさらに2価の鉄化合物(第一鉄化合物)を添加して、被処理水中のシアン化物イオンと反応させ、シアン化物イオンをフェロシアン化物イオンに変換することが好ましい。2価の鉄化合物による鉄(II)イオン(Fe2+)と、被処理水中のシアン化物イオン(CN-)との反応により、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)を生成することができる。シアン化物イオンから変換されたフェロシアン化物イオンも陰イオン交換樹脂にイオン交換作用により吸着させることができ、被処理水からのシアン成分の除去効率をさらに高めることができる。被処理水への2価の鉄化合物の添加は、被処理水と陰イオン交換樹脂とを接触させる前、又はそれらを接触させるのと同時期に行うのが良い。
【0031】
なお、本明細書において、「同時期」とは、厳密な同時を意味するものではなく、ほぼ同時であることや同じタイミングであることを意味する。例えば、被処理水に陰イオン交換樹脂を添加する場合には、被処理水に、陰イオン交換樹脂と上記2価の鉄化合物を同時に添加したり、それらのうちの一方を添加している間に他方を添加したり、一方を添加した後すぐに他方を添加したりすること等が上記「同時期」に含まれる。また、例えば、上述したイオン交換塔やイオン交換膜に被処理水を通過させる場合には、イオン交換塔やイオン交換膜を配置した箇所において、上記2価の鉄化合物を添加すること等が上記「同時期」に含まれる。
【0032】
2価の鉄化合物としては、被処理水に添加された際に、鉄(II)イオン(Fe2+)を生じさせるものが好ましい。好適な2価の鉄化合物としては、例えば、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、及び硝酸鉄(II)等の鉄(II)塩を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。被処理水への2価の鉄化合物の添加量は、特に限定されず、被処理水中のシアン化物イオン(遊離シアン)濃度や、全シアン濃度に応じて、適宜調整することができる。
【0033】
次に本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理システムについて、説明する。
図1に本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理システム及び処理フローの一例の概略構成を表す説明図を示す。
【0034】
図1に示す処理システム10は、[Fe(CN)
5(CO)]
3-及び[Fe(CN)
4(CO)
2]
2-のいずれか一方又は両方の鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水W
1と、陰イオン交換樹脂とを接触させる反応槽11を備える。この反応槽11には、反応槽11内の被処理水W
1に対して、陰イオン交換樹脂を添加するための装置111(例えば、タンク、ポンプ、及び供給管等)を設けることができる。また、反応槽11で被処理水W
1と陰イオン交換樹脂とを接触させる際に、被処理水W
1に、前述の2価の鉄化合物等を添加してもよい。その場合、反応槽11には、2価の鉄化合物を添加するための装置を設けてもよい。
【0035】
処理システム10は、被処理水W1を反応槽11に送る前の段階において、被処理水W1を貯留させる調整槽12を備えることが好ましい。この調整槽12を設けることによって、被処理水W1の性状が変動する場合のその性状の平均化、及び被処理水W1の流入量が変動する場合に反応槽11に安定して一定程度の量を送る効果が期待できる。
【0036】
処理システム10は、反応槽11における処理工程後、被処理水W1と陰イオン交換樹脂との混合物から、鉄カルボニルシアノ錯体をイオン交換作用により吸着した陰イオン交換樹脂を分離除去するための固液分離槽14を備えることが好ましい。鉄カルボニルシアノ錯体が吸着している状態の陰イオン交換樹脂を固液分離槽14で分離することにより、鉄カルボニルシアノ錯体が除去処理された処理水W2を得ることができる。固液分離槽14による固液分離処理の際には、凝集剤を添加してもよい。その場合、固液分離槽14には、凝集剤を添加するための装置を設けてもよい。
【0037】
処理システム10は、固液分離槽14において処理水W2とは分離された、鉄カルボニルシアノ錯体が吸着している状態の陰イオン交換樹脂等を含むスラリーS1を脱水処理し、脱水ケーキCを得る脱水機16や濃縮槽を備えることが好ましい。脱水処理にて生じた脱水ろ液W3を反応槽11又は調整槽12に戻し、連続的な処理を行うことが好ましい。また、脱水処理により得られた脱水ケーキCから、陰イオン交換樹脂を分取して、それを再生することも期待できる。
【0038】
図2には、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理システム及び処理フローの別の一例の概略構成を表す説明図を示す。この処理システム20は、陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換塔21を備える。このイオン交換塔21において、[Fe(CN)
5(CO)]
3-及び[Fe(CN)
4(CO)
2]
2-のいずれか一方又は両方の鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水W
1を通過させる。それにより、イオン交換塔21内の陰イオン交換樹脂に上記鉄カルボニルシアノ錯体を吸着させる。
【0039】
イオン交換塔21には、陰イオン交換樹脂の再生液(例えば、NaCl水溶液、NaOH水溶液、KOH水溶液、Na2CO3溶液、及びNaHCO3溶液、並びにこれらの混合液等)等を供給してもよく、その場合、再生液供給装置211を設けてもよい。また、その場合、イオン交換塔21に供給された再生液の廃液(再生廃液)をイオン交換塔21から排出してもよく、再生廃液の処理槽212を設けてもよい。
【0040】
イオン交換塔21を通過したイオン交換処理水W4に懸濁物質(SS)等が含まれている場合を考慮して、イオン交換処理水W4を固液分離処理することが好ましく、その場合、処理システム20に、イオン交換処理水W4を固液分離処理する固液分離槽24を設けることが好ましい。この固液分離槽24でSS等が除去された処理水W2を得ることができる。
【0041】
イオン交換塔21に被処理水W1を通過させる前、又は通過させるのと同時期には、被処理水W1に、2価の鉄化合物を添加してもよい。その場合、処理システム20は、2価の鉄化合物を添加するための装置を備えていてもよい。
【0042】
図2に示す処理システム20も、前述と同様の調整槽12を備えることが好ましい。また、被処理水W
1に懸濁物質(SS)が含有されている場合もあることを考慮して、イオン交換塔21の前段階に、固液分離槽等のSSを除去するためのSS除去装置23を設けることが好ましい。その場合、SS除去装置23で分離されたSSを含むスラリーS
2を脱水処理し、脱水ケーキCを得る脱水機26や濃縮槽を設けることが好ましく、脱水処理にて生じた脱水ろ液W
3を調整槽12に戻し、連続的な処理を行うことが好ましい。さらに、SS除去装置23にてSSを除去する際には、その前段階やそのSS除去装置23にて凝集剤を添加してもよく、その場合、凝集剤を添加するための装置を設けてもよい。
【0043】
図3には、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を実行し得る処理システム及び処理フローのさらに別の一例の概略構成を表す説明図を示す。この処理システム30は、陰イオン交換樹脂の流動槽31を備える。この流動槽31には、陰イオン交換樹脂を、プラスチックやゼオライト等の、良好な流動性を有するイオン交換樹脂担体に担持させたものが含まれている。この流動槽31における陰イオン交換樹脂に鉄カルボニルシアノ錯体をイオン交換作用により吸着させることができる。
【0044】
流動槽31には、固液分離槽34を連結し、その固液分離槽34において、鉄カルボニルシアノ錯体が吸着している状態の陰イオン交換樹脂を分離し、それが分離された処理水W2を得ることが好ましい。固液分離槽34には、凝集剤を添加してもよい。また、固液分離槽34の後段には、固液分離槽34にて得られた、鉄カルボニルシアノ錯体が吸着している状態の陰イオン交換樹脂を濃縮する濃縮槽37を設けることが好ましい。そして、その濃縮槽37での処理物(濃縮物)を陰イオン交換樹脂の再生槽313に移し、その再生槽313に再生液供給装置311から再生液を供給することにより再生された陰イオン交換樹脂を再度、流動槽31に戻して連続的な処理を行うことが好ましい。再生槽313には、前述の再生廃液の処理槽312を設けてもよい。
【0045】
図3に示す処理システム30も、
図2に示す処理システム20の説明で挙げたものと同様の、調整槽12、SS除去装置23、及び脱水機(濃縮槽)26等を備えていてもよい。
【0046】
なお、
図1~
図3に示した処理システム10、20、30のいずれの例においても、被処理水W
1と陰イオン交換樹脂とが接触する前段階において、酸化剤や還元剤等を添加してもよい。酸化剤としては、例えば、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩、次亜臭素酸ナトリウム等の次亜臭素酸塩、及びオゾン等を挙げることができる。還元剤としては、チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、重亜硫酸ナトリウム等の重亜硫酸塩、塩化第一鉄、並びに硫化ナトリウム及び四硫化ナトリウム等のアルカリ金属硫化物等を挙げることができる。上記に挙げた酸化剤及び還元剤等は、それぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、
図1~
図3に示した処理システム10、20、30における固液分離槽14、24、34やSS除去装置23には、シックナー等の沈殿槽や、砂ろ過等のろ過器、スクリーン、並びに膜分離機等を用いることができ、適当な固液分離装置を適宜選択して用いることができる。
【0048】
前述の通り、被処理水としては、排出ガスの洗浄廃水が好適であることから、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を、排出ガスの洗浄廃水の処理システムに適用することもできる。
図4は、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法を適用することを想定した場合の排出ガスの洗浄廃水の処理システム及び処理フローの一例の概略構成を表す説明図である。
【0049】
図4に示す排出ガスGの洗浄廃水の処理システム40は、排出ガスGを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)43と、湿式集塵機43から得られた集塵水W
43を沈降分離処理する沈殿槽44と、沈降分離により得られた上澄み液W
44を一次処理水として貯留する一次処理水槽42とを備える。また、一次処理水槽42に送られた上澄み液の一部は、循環水W
42として、補給水W
45が加えられつつ湿式集塵機43に戻されて、排出ガスGの洗浄に循環使用されてもよい。さらに、沈殿槽44で沈降分離により得られた沈殿物S
44を脱水処理する脱水機46を設けてもよく、脱水機46により処理された一部は脱水ケーキCとして処理され、また別の一部は脱水ろ液W
46として沈殿槽44に再送されてもよい。
【0050】
上述の一次処理水槽42における一次処理水に、前述の鉄カルボニルシアノ錯体が含有されている場合に、その一次処理水を、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法における処理対象である被処理水W
1とすることができる。
図4では、一次処理水槽42内の一次処理水(W
42)をブロー水(被処理水W
1)として、前述した処理システム10、20、30に送り、鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水W
1と陰イオン交換樹脂とを接触させて処理を行う場合が例示されている。
図4に示す脱水機46は、
図1~3に示した脱水機16、26と兼用してもよいし、別個としてもよい。
【0051】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法は、次の構成をとることが可能である。
[1][Fe(CN)5(CO)]3-及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のいずれか一方又は両方の鉄カルボニルシアノ錯体を含有する被処理水と、陰イオン交換樹脂とを接触させる、シアン含有水の処理方法。
[2]前記陰イオン交換樹脂が、第4級アンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂を含む上記[1]に記載のシアン含有水の処理方法。
[3]前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを接触させるときの前記被処理水のpHが5~10である上記[1]又は[2]に記載のシアン含有水の処理方法。
[4]前記被処理水がシアン化物イオンを含有し、前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを、接触させる前、又は接触させると同時期に、前記被処理水にさらに2価の鉄化合物を添加して、前記被処理水中の前記シアン化物イオンと反応させ、前記シアン化物イオンをフェロシアン化物イオンに変換する上記[1]~[3]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
[5]前記被処理水と前記陰イオン交換樹脂とを接触させる工程によって前記鉄カルボニルシアノ錯体を前記陰イオン交換樹脂に吸着させた後、前記鉄カルボニルシアノ錯体を吸着した前記陰イオン交換樹脂と、塩化物イオンを含有する水溶液とを接触させて、前記鉄カルボニルシアノ錯体を吸着した前記陰イオン交換樹脂から前記鉄カルボニルシアノ錯体を脱離させる工程をさらに含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のシアン含有水の処理方法。
【実施例】
【0052】
以下、試験例を挙げて、本発明の一実施形態のシアン含有水の処理方法の効果等をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0053】
<試験例1>
(被処理水)
排出ガスの洗浄設備から排出された廃水を採取し、これを被処理水とした。その被処理水について、性状の分析を行った。具体的には、5種Cろ紙を用いて、被処理水をろ過して得られたろ液について、液体クロマトグラフィー(LC;商品名「Alliance 2695」、日本ウォーターズ社製)に、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS;商品名「ICP-MS7500」、アジレント・テクノロジー社製)を検出器として結合させた装置(LC-ICP-MS)を用い、以下の測定条件にて、[Fe(CN)
6]
4-、[Fe(CN)
6]
3-、[Fe(CN)
5(CO)]
3-、及び[Fe(CN)
4(CO)
2]
2-のそれぞれの濃度を分析した。この測定で得られた鉄化合物のクロマトグラムを
図5に示す。
(測定条件)
カラム;ODSカラム(商品名「L-Column2」;粒子径5μm、内径4.6mm、カラム長150mm、2連;化学物質評価研究機構製)
移動相;アセトニトリルと25mMリン酸緩衝液(pH7.0、イオンペア試薬として15mMリン酸二水素テトラブチルアンモニウムを含む)との体積比40:60の混合物
流速;0.8mL/分
カラム温度;40℃
検出器;ICP-MS及びフォトダイオードアレイ(PDA)(検出波長:210~400nm)
ICP-MSにおける検出対象元素:Fe(原子量56)、Cu(原子量63)、Ni(原子量60)、Co(原子量59)、Zn(原子量66)
注入量;50~100μL
【0054】
また、上記ろ液について、JIS K0102:2013における全シアンの測定方法により、全シアン(T-CN)濃度を測定し、JIS K0102:2013におけるシアン化物の測定法のうちの通気法により、遊離シアン(F-CN)濃度を測定した。さらに、pH、懸濁物質(SS)、CODMn(COD)、アンモニウムイオン(NH4
+-N)についても、JIS K0102:2013に記載の方法により測定した。このとき、pH及び懸濁物質(SS)以外については、5種Cろ紙を用いて、被処理水をろ過して得られたろ液について分析を行った。
【0055】
以上の分析結果を表1に示す。表1及び
図5に示す通り、被処理水には、シアン成分として、CN
-(F-CN)、[Fe(CN)
6]
4-、[Fe(CN)
6]
3-、[Fe(CN)
5(CO)]
3-、及び[Fe(CN)
4(CO)
2]
2-が含まれていた。
【0056】
【0057】
(試験例1.1)
上記被処理水のうちの300mLを300mL容量のビーカーに入れ、マグネティックスターラーを用いて撹拌しながら50℃に加温した。このビーカーを撹拌しながら、第4級アンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂(商品名「ダウエックス 1×4」、100-200メッシュ強塩基性I型陰イオン交換樹脂(Cl形)、母体:スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、総交換容量:1.0meq/mL、密度:0.70g/cm3、ダウ・ケミカル社製)を被処理水に対して250mg/L添加した。次いで、その被処理水のpHを6.5に調整し、30分間反応させる処理を行い、反応液を得た。得られた反応液をろ過したろ液(処理水)について、JIS K0102:2013で規定される全シアンの分析方法に基づいて、全シアン(T-CN)濃度を測定した。
【0058】
(試験例1.2及び1.3)
試験例1.2及び1.3では、被処理水に対する上記強塩基性陰イオン交換樹脂の添加量を、それぞれ、500mg/L及び2500mg/Lに変更したこと以外は、試験例1.1と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。
【0059】
(試験例1.4)
試験例1.4では、比較として、被処理水に、試験例1.1で使用した強塩基性陰イオン交換樹脂を添加することなく、その代わりに、塩化鉄(II)(FeCl2)を10.0mg-Fe/L添加した。それ以外は、試験例1.1と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。なお、被処理水にはシアン化物イオン(CN-)が含まれていたため、これに反応させてフェロシアン化物イオンに変換するために塩化鉄(II)を添加した。塩化鉄(II)を添加する際には、31質量%の塩化鉄(II)水溶液を用いた(後述する塩化鉄(II)を用いた試験例においても同様である。)。
【0060】
(試験例1.5~1.9)
試験例1.5~1.9では、試験例1.4で使用した塩化鉄(II)10.0mg-Fe/Lとともに、被処理水に対して、上記強塩基性陰イオン交換樹脂を、それぞれ、100mg/L、250mg/L、500mg/L、1000mg/L、及び2500mg/L添加した。それ以外は、試験例1.4と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。なお、被処理水にはシアン化物イオン(CN-)が含まれていたため、これに反応させてフェロシアン化物イオンに変換するために塩化鉄(II)を添加した。
【0061】
上記の試験例1.1~1.9の処理条件及びT-CN濃度の測定結果を表2に示す。また、塩化鉄(II)を添加しなかった(0mg-Fe/L)系と、塩化鉄(II)を添加した(10mg-Fe/L)系とに分けて、横軸に陰イオン交換樹脂の添加濃度をとり、縦軸に処理水のT-CN濃度をとったグラフを
図6に示す。
【0062】
【0063】
試験例1(試験例1.1~1.9)の結果より、陰イオン交換樹脂の添加によって、また、その添加量の増大に伴って、処理水のT-CN濃度が低下することが確かめられ、鉄カルボニルシアノ錯体を除去し得ることが確認された。
【0064】
<試験例2>
試験例2では、試験例1で使用した廃水と同一の廃水を被処理水として用い、試験例1で使用した強塩基性陰イオン交換樹脂とは異なる陰イオン交換樹脂を用いた場合の効果を確認する試験を行った。
【0065】
(試験例2.1~2.5)
試験例2.1~2.5では、それぞれ、試験例1.5~1.9で使用した強塩基性陰イオン交換樹脂(表3中「A」と記す)を、第3級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂(商品名「ダウエックス 66」、弱塩基性陰イオン交換樹脂(遊離塩型)、母体:スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、総交換容量:1.6meq/mL、密度:0.64g/cm3、ダウ・ケミカル社製;表3中「B」と記す)に変更したこと以外は、試験例1.5~1.9と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。
【0066】
(試験例2.6~2.10)
試験例2.6~2.10では、それぞれ、試験例1.5~1.9で使用した強塩基性陰イオン交換樹脂(表3中「A」と記す)を、第3級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂(商品名「ダウエックス モノスフィアー 77」、弱塩基性陰イオン交換樹脂(遊離塩型)、母体:スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、総交換容量:1.7meq/mL、密度:0.64g/cm3、ダウ・ケミカル社製;表3中「C」と記す)に変更したこと以外は、試験例1.5~1.9と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。
【0067】
上記の試験例2.1~2.10の処理条件及びT-CN濃度の測定結果を表3に示す。なお、表3には、陰イオン交換樹脂の種類別による効果を確認しやすいように、前述の試験例1.4~1.9を再度示した。
【0068】
【0069】
試験例2.1~2.10の結果から、陰イオン交換樹脂として、弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いた場合にも、処理水中のT-CN濃度を低減し得ることが確認された。また、試験例1.4~1.9と、試験例2.1~2.10との対比から、陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いることがさらに好ましいことが確認された。
【0070】
<試験例3>
試験例3では、試験例1で使用した廃水と同一の廃水を被処理水として用い、試験例1において30分間反応させる処理をpH6.5で行っていたところ、pHを5.5、7.5、8.5、及び9.5に変更した場合の効果を確認する試験を行った。
【0071】
(試験例3.1及び3.2)
試験例3.1及び3.2では、それぞれ、試験例1.6及び1.8と比較して、被処理水のpHを5.5に調整して処理を行ったこと以外は、試験例1.6及び1.8と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。
【0072】
(試験例3.3及び3.4)
試験例3.3及び3.4では、それぞれ、試験例1.6及び1.8と比較して、被処理水のpHを7.5に調整して処理を行ったこと以外は、試験例1.6及び1.8と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。
【0073】
(試験例3.5及び3.6)
試験例3.5及び3.6では、それぞれ、試験例1.6及び1.8と比較して、被処理水のpHを8.5に調整して処理を行ったこと以外は、試験例1.6及び1.8と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。
【0074】
(試験例3.7及び3.8)
試験例3.7及び3.8では、それぞれ、試験例1.6及び1.8と比較して、被処理水のpHを9.5に調整して処理を行ったこと以外は、試験例1.6及び1.8と同様の手順及び方法にて、処理を行い、T-CN濃度を測定した。
【0075】
上記の試験例3.1~3.8の処理条件及びT-CN濃度の測定結果を表4に示す。なお、表4には、被処理水の処理時におけるpHの違いによる効果を確認しやすいように、前述の試験例1.6及び1.8を再度示した。
【0076】
【0077】
試験例3(試験例3.1~3.8)の結果から、処理性能のpH依存性はほとんど見られず、pH5.5~9.5の範囲において、被処理水への陰イオン交換樹脂の添加によって、処理水のT-CN濃度が低下することが確かめられた。
【0078】
<試験例4>
試験例4では、本発明の一実施形態の処理方法による効果について、被処理水中の錯体の種類ごとに確認する試験を行った。
【0079】
(被処理水)
特開2019-111528号公報の[実施例](試験例1~3)に記載された「気液固混合物の調製方法」の内容を参考にした合成によって、[Fe(CN)6]4-、[Fe(CN)6]3-、[Fe(CN)5(CO)]3-、及び[Fe(CN)4(CO)2]2-を含有する模擬廃水を得た。この模擬廃水を試験例4で用いる被処理水とした。この模擬廃水について、試験例1で用いたものと同じLC-ICP-MSを用い、以下の測定条件にて、[Fe(CN)6]4-、[Fe(CN)6]3-、[Fe(CN)5(CO)]3-、及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のそれぞれの濃度を分析した。その結果を表5に示す。
(測定条件)
カラム;TSKgel ODSカラム(商品名「TSKgel ODS-120H」;粒子径3μm、内径4.6mm、カラム長15cm;東ソー社製)
移動相;アセトニトリル:水=35/65(体積比)の混合液、リン酸二水素ナトリウム13.5mM、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド3.25mMを含む液
流速;0.7mL/分
カラム温度;40℃
注入量;30μL
検出器;UV検出器(波長215nm;商品名「SPD-20A」、島津製作所社製)
【0080】
なお、LC-ICP-MSにより、上記測定条件で測定される、被処理水中の鉄化合物のクロマトグラムにおいて、[Fe(CN)6]4-は保持時間7.5~7.7分の間に、[Fe(CN)6]3-は保持時間8.8~9.0分の間に、[Fe(CN)5(CO)]3-は保持時間7.9~8.2分の間に、[Fe(CN)4(CO)2]2-は保持時間8.5~8.7分の間に検出された。
【0081】
【0082】
(陰イオン交換樹脂)
試験例4では、5種類の陰イオン交換樹脂A~Eを用いた。陰イオン交換樹脂A~Cは、試験例2で述べた通りのものである。陰イオン交換樹脂Dには、第4級アンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA400CL」、強塩基性I型陰イオン交換樹脂、母体:スチレン系重合体、総交換容量:1.4meq/mL、密度:0.71g/cm3、デュポン社製)を用いた。また、陰イオン交換樹脂Eには、第3級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA96SB」、弱塩基性陰イオン交換樹脂(遊離塩型)、母体:スチレン系重合体、総交換容量:1.3meq/mL、密度:0.67g/cm3、デュポン社製)を用いた。
【0083】
(試験手順)
上記被処理水100mLをビーカーに取り、被処理水の温度を50℃に加温し、後記表6に示すpH(pH:6.5、7.5、又は8.5)に調整した。調整した所定pH及び50℃の被処理水に対して、後記表6に示す通り、5種類の陰イオン交換樹脂A~Eのいずれかを、各試験例で用いる樹脂の当量(meq/L)が同一となる量にて添加し、上記pH及び温度を維持しながら、3時間撹拌した。その後、処理した液を、5種Cろ紙を用いてろ過し、得られたろ液を処理水として、処理水中の各錯体濃度を上記と同様の測定条件にて測定した。各所定の錯体について、得られた処理水中の濃度測定値と、元の被処理水中の濃度値(表5参照)から、下記式により、除去率(%)を算出した。その結果を表6に示す。
除去率(%)=(被処理水中の濃度値-処理水中の濃度測定値)÷被処理水中の濃度値×100
【0084】
【0085】
試験例4の結果から、強塩基性陰イオン交換樹脂は、いずれの錯体種に対しても、弱塩基性陰イオン交換樹脂に比べて、除去率が高く、高い処理性能を有することが確認された。また、弱塩基性陰イオン交換樹脂による錯体の除去性能は、処理条件としてのpHが低い程、高くなる傾向が認められた。
【0086】
<試験例5>
試験例5では、鉄カルボニルシアノ錯体を含む錯体を吸着した陰イオン交換樹脂から、錯体を脱離させ、陰イオン交換樹脂を再生するために用い得る前述の再生液について、より有効なものを確認、評価する試験を行った。
【0087】
(吸着工程)
試験例5においても、上記試験例4で用いた模擬廃水を被処理水(処理対象)とした。この被処理水800mLに、前述の第4級アンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂(強塩基性陰イオン交換樹脂)Aを80mg添加し、被処理水に対する陰イオン交換樹脂Aの添加濃度を100mg/Lとした。次に、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、陰イオン交換樹脂Aを添加した被処理水(以下、「樹脂懸濁液」と記載することがある。)のpHを8.5に調整した後、室温(26℃)で14時間撹拌し、鉄カルボニルシアノ錯体を含む鉄シアノ錯体を陰イオン交換樹脂Aに吸着させた。その吸着工程後、樹脂懸濁液を100mLずつ6本の遠沈管に分取し、6本の遠沈管のそれぞれを、遠心力10,000gで5分間遠心分離の操作を行った。この操作によって得られた遠沈管内の上清液を回収するとともに、各錯体を吸着した陰イオン交換樹脂Aを含む沈殿物を遠沈管内に残し、その沈殿物を陰イオン交換樹脂の再生工程を行う再生対象物とした。
【0088】
上記上清液について、上清液中の各錯体濃度を、上記試験例4で述べた方法と同様の測定条件で測定した。その結果を表7の「CN濃度」欄に示す。また、得られた各錯体濃度の測定値と、元の被処理水中の濃度値(表5参照)から、下記式により、陰イオン交換樹脂1g当たりに陰イオン交換樹脂が吸着した錯体吸着量を算出した。その結果を表7の「CN吸着量」欄に示す。
錯体吸着量(mg-CN/g-樹脂)=[被処理水中の濃度値(mg-CN/L)-処理水中の濃度測定値(mg-CN/L)]÷陰イオン交換樹脂の添加量(g-樹脂/L)
【0089】
【0090】
(再生工程)
一方、上記の各再生対象物(沈殿物)各10mgを残した遠沈管内に、それぞれ、表8に示す再生液(同表中に示す成分を同表中に示す濃度で含有する水溶液)1~6のいずれかの再生液2mLを添加して懸濁液を得た後、その懸濁液を2時間、振盪撹拌した。その後、懸濁液を遠心力10,000gで5分間遠心分離処理し、上清の液相と樹脂(陰イオン交換樹脂A)とを分離した。なお、この液相に、鉄カルボニルシアノ錯体を含む鉄シアノ錯体が含有されている場合、陰イオン交換樹脂に吸着されていた錯体が脱離したことを表し、その液相は脱離液といえる。上記液相(脱離液)を回収し、その液相中の各錯体濃度を上記試験例4で述べた方法と同様の条件で測定し、その測定値を用いて、下記式により、脱離量(mg-CN/g-樹脂)、脱離率(%)を算出した。その結果を表9に示す。
・錯体脱離量(mg-CN/g-樹脂)=液相(脱離液)中の錯体濃度測定値(mg-CN/L)×脱離液量(L)÷再生に供した樹脂量(g-樹脂)
・錯体脱離率(%)=錯体脱離量(mg-CN/g-樹脂)÷錯体吸着量(mg-CN/g-樹脂)×100
【0091】
【0092】
【0093】
試験例5の結果から、NaCl水溶液を用いることにより、いずれの錯体についても、陰イオン交換樹脂から概ね40~70%程度脱離できる結果が得られたことから、再生液として、塩化物イオンを含有する水溶液を用いることが好ましいことが確かめられた。