(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ショーツ及びショーツのマチ部縫着部の縫製方法
(51)【国際特許分類】
A41B 9/04 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
A41B9/04 C
A41B9/04 E
(21)【出願番号】P 2019157571
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】柏原 佑美
(72)【発明者】
【氏名】岡島 信子
(72)【発明者】
【氏名】田中 文
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特許第4416793(JP,B2)
【文献】登録実用新案第3107714(JP,U)
【文献】実開昭53-155423(JP,U)
【文献】国際公開第00/72707(WO,A1)
【文献】特開2018-204170(JP,A)
【文献】特開2000-325396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解れ止め加工された編地を用いて前身頃とマチ部と後身頃が構成され、前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部が其々腹部側で縫着された脇部縫着部と、凸円弧状に形成されたマチ部の後縁部と凹円弧状に形成された後身頃の下縁部が縫着されたマチ部縫着部とを備えているショーツであって、
マチ部の後縁部の曲率が後身頃の下縁部の曲率より大に設定されるとともに、マチ部の左右縁部と後縁部が交差する角部の角度が85~95°の範囲に設定され、後身頃の下縁部と左右脚刳り部が交差する下角部の角度が90~110°の範囲に設定されているショーツ。
【請求項2】
前身頃の左右縁部と左右脚刳り部が交差する上角部の角度が85~95°の範囲に設定され、後身頃の左右縁部と左右脚刳り部が交差する上角部の角度が85~95°の範囲に設定されるとともに、後身頃の上角部と下角部で挟まれる左右脚刳り部の中央部が凸円弧状に形成されている請求項1記載のショーツ。
【請求項3】
凸円弧状に形成されたマチ部の後縁部の曲率C1、凹円弧状に形成された後身頃の下縁部の曲率C2とするときに、0.003≦C1≦0.0065の範囲に設定されるとともに、曲率比C1/C2が、1.3≦C1/C2≦2.1の範囲に設定されている請求項1または2記載のショーツ。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載されたショーツのマチ部縫着部の縫製方法であって、
マチ部の後縁部と後身頃の下縁部を、偏平縫いを用いた重ね接ぎで接合し、
縫い始めまたは縫い終わりに生じる空環をマチ部縫着部に沿って折返し、角部から延出する縁部と下角部から延出する脚刳りで形成される直線状の縁に沿って閂止め処理するショーツのマチ部縫着部の縫製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショーツ及びショーツのマチ部縫着部の縫製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、持続的にヒップ裾ラインのずり上がりを防止することを目的としたショーツが提案されている。当該ショーツは、下方開放状の足口を左右対称に形成した伸縮性を有する前身頃と、伸縮性を有する後身頃と、前身頃の下端の内股前部と後身頃の下端の内股後部との間に配設されて股間部を覆うマチ部とを備え、前身頃の左右端縁と後身頃の左右端縁とが縫合され、マチ部の前端部が前身頃の下端の内股前部に縫合され、マチ部の凸円弧状に形成した後端部が後身頃の下端の凹円弧状に形成した内股後部に縫合され、足口まわりに伸縮性を有する帯状材料または紐状材料が設けられている。
【0003】
そして、マチ部の凸円弧状に形成した後端部の曲率を後身頃の下端の凹円弧状に形成した内股後部の曲率よりも大きくし、これら後端部と内股後部とを縫合してヒップ下部の膨らみ体形に合うよう立体化するダーツが形成されている。
【0004】
特許文献2には、端始末不要の生地からなる本体布とクロッチ布とからなり、前記クロッチ布は本体布より難伸縮性として、本体布の股部の内面に溶融接着させて裏打ちしており、前記クロッチ布の背面側の幅方向端縁に、前記本体布の背面側の脚ぐり端縁に沿って延在させる左右一対の突出部を設けている一方、正面側の幅方向端縁は前記左右両側端縁を円弧状あるいは直線状に連続させて前記突出部を設けていないショーツが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4416793号公報
【文献】実用新案登録第3107714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したショーツは、マチ部の凸円弧状に形成した後端部と左右の側縁部とが交差する角部の角度、及び、後身頃の下端の凹円弧状に形成した内股後部と下端と内股後部とをつなぐ傾斜下端縁とが交差する角度の何れもが110°以上の鈍角に形成されているため、後端部と内股後部とを縫合した場合に、マチ部の側縁部と後身頃の傾斜下端縁とが直線状に連ならずに鈍角で交差するように連なっている。
【0007】
当該ショーツでは、マチ部の側縁部と後身頃の傾斜下端縁との交差部を含む足口周りに伸縮性を有する帯状材料または紐状材料が設けられているために、肌当たりに違和感が生じるような不都合は生じていない。また、マチ部の後端部と後身頃の内股後部とを縫合する際に生じる端糸も帯状材料などを設けることにより特段の処理を行なわなくても解れが生じることが無い。
【0008】
しかし、ヘム部である足口まわりに帯状材料または紐状材料を配して解れ止め処理すると、厚肉となったヘム部の輪郭が外衣から浮き出て見映えが悪くなる。
【0009】
そのため、特許文献2に示すように、解れ止め加工された編地を用いて前身頃とマチ部と後身頃とを一体に構成し、前身頃及び後ろ見頃の側縁部同士を接合することで、外衣からヘム部の輪郭が浮き出るような不都合を軽減或いは解消したショーツが提案されているが、平坦な身生地で脇部が接合されたショーツでは立体的な体型に良好にマッチさせることが困難で、ヒップ裾ラインのずり上がりを十分に防止するのは困難であった。
【0010】
そこで、特許文献1に開示されたショーツの身生地に解れ止め加工された編地を採用することが考えられるが、上述したようにマチ部の側縁部と後身頃の傾斜下端縁とが直線状に連ならずに鈍角で交差するように連なるため、見栄えが悪くまた着用時の肌当たりに違和感が生じるという問題や、マチ部の後端部と後身頃の内股後部とを縫合する際に生じる端糸の解れ止め処理や、縫合部の破断回避のための止め縫い処理が見映えよく良好に行なうことができないという問題があった。
【0011】
また、前身頃の左右端縁と後身頃の左右端縁とが臀部側で縫合されるため、縫合部の形状が外衣から浮き出て見栄えが悪くなるという問題もあった。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、身生地に解れ止め加工された編地を採用しながらも、ヒップ裾ラインのずり上がりを抑制するとともに、縫着する際に生じる端糸の解れ止め処理や、縫着部の破断回避のための止め縫い処理が見映えよく行なえるショーツ及びショーツのマチ部縫着部の縫製方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明によるショーツの第一の特徴構成は、解れ止め加工された編地を用いて前身頃とマチ部と後身頃が構成され、前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部が其々腹部側で縫着された脇部縫着部と、凸円弧状に形成されたマチ部の後縁部と凹円弧状に形成された後身頃の下縁部が縫着されたマチ部縫着部とを備えているショーツであって、マチ部の後縁部の曲率が後身頃の下縁部の曲率より大に設定されるとともに、マチ部の左右縁部と後縁部が交差する角部の角度が85~95°の範囲に設定され、後身頃の下縁部と左右脚刳り部が交差する下角部の角度が90~110°の範囲に設定されている点にある。
【0014】
マチ部の後縁部に形成される凸円弧状と後身頃の下縁部に形成される凹円弧状とを縫着するマチ部縫着部で、双方の円弧状の曲率の違いにより形成されるダーツによって、マチ部から後身頃に連なる部位が脚部上方から臀部下方に連なる着用者の体形に沿うような立体形状となるため、ヒップ裾ラインのずり上がりや食い込みが効果的に抑制される。
【0015】
また、マチ部の左右縁部と後縁部が交差する角部の角度が85~95°の範囲に設定され、後身頃の下縁部と左右脚刳り部が交差する下角部の角度が90~110°の範囲に設定されているので、マチ部の左右縁部と後身頃の左右脚刳り部とが略直線状で、且つ、マチ部縫着部の縫着線とが略直交する姿勢で連なるようになる。そのため、マチ部の左右縁部と後身頃の左右脚刳り部とで形成される脚刳りが滑らかな見栄えの良い形状となり、着用時の肌当たりに違和感を与えることもない。さらには、マチ部の後縁部と後身頃の下縁部とを縫着する際に生じる端糸の解れ止め処理と、縫着部の破断回避のための止め縫い処理が脚刳りに沿うように見映えよく良好に行なうことができる。
【0016】
さらに、前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部を縫着する脇部縫着部が腹部側に位置するので、脇部縫着部が臀部側に位置する場合に生じる脇部縫着部の形状が外衣から浮き出るような不都合な事態も生じない。
【0017】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前身頃の左右縁部と左右脚刳り部が交差する上角部の角度が85~95°の範囲に設定され、後身頃の左右縁部と左右脚刳り部が交差する上角部の角度が85~95°の範囲に設定されるとともに、後身頃の上角部と下角部で挟まれる左右脚刳り部の中央部が凸円弧状に形成されている点にある。
【0018】
脚刳りのうち脇部縫着部の下端近傍で前身頃の脚刳り部と後身頃の脚刳り部が略直線状で、且つ、脇部縫着部の縫着線とが略直交する姿勢で連なるようになる。そのため、前身頃の脚刳り部と後身頃の脚刳り部とで形成される脚刳りが滑らかな見栄えの良い形状となり、着用時の肌当たりに違和感を与えることもない。しかも、後身頃の上角部と下角部で挟まれる左右脚刳り部の中央部が凸円弧状に形成されているので、臀部を覆う十分な生地量を確保することができるようになる。
【0019】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、凸円弧状に形成されたマチ部の後縁部の曲率C1、凹円弧状に形成された後身頃の下縁部の曲率C2とするときに、0.003≦C1≦0.0065の範囲に設定されるとともに、曲率比C1/C2が、1.3≦C1/C2≦2.1の範囲に設定されている点にある。
【0020】
マチ部の後縁部の曲率を後身頃の下縁部の曲率より大に設定する際に、曲率C1を、0.003≦C1≦0.0065の範囲に設定し、曲率比C1/C2を、1.3≦C1/C2≦2.1の範囲に設定することにより、ヒップ裾ラインのずり上がりや食い込みを効果的に抑制しつつ、良好な着用感を得ることができるようになる。
【0021】
本発明によるショーツのマチ部縫着部の縫製方法の第一の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成を備えたショーツのマチ部縫着部の縫製方法であって、マチ部の後縁部と後身頃の下縁部を、偏平縫いを用いた重ね接ぎで接合し、縫い始めまたは縫い終わりに生じる空環をマチ部縫着部に沿って折返し、角部から延出する縁部と下角部から延出する脚刳りで形成される直線状の縁に沿って閂止め処理する点にある。
【0022】
マチ部の左右縁部と後身頃の左右脚刳り部とが略直線状で、且つ、マチ部縫着部の縫着線とが略直交する姿勢で連なるようになる。当該マチ部縫着部に沿って折返された空環が閂止め処理により身生地に縫着固定される。その結果、略直線状に配されたマチ部の左右縁部と後身頃の左右脚刳り部の連接縁に沿うように閂止め縫いができるようになり、見映えのよい脚刳りが形成されるようになる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した通り、本発明によれば、身生地に解れ止め加工された編地を採用しながらも、ヒップ裾ラインのずり上がりを抑制するとともに、縫着する際に生じる端糸の解れ止め処理や、縫着部の破断回避のための止め縫い処理が見映えよく行なえるショーツ及びショーツのマチ部縫着部の縫製方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は本発明によるショーツの正面視の説明図、(b)は背面視の説明図、(c)はマチ部縫着部の説明図
【
図3】マチ部縫着部を構成する凸円弧状の後縁部を備えたマチ部と、凹円弧状の下縁部を備えた後身頃の下縁部の形状を示すパターン図であり、(a)は後縁部と下縁部の曲率が適正範囲にある場合のパターン図、(b)は後縁部の曲率が大き過ぎる場合のパターン図であり、(c)は後縁部の曲率が小さ過ぎる場合のパターン図
【
図4】凸円弧状の後縁部を備えたマチ部と、凹円弧状の下縁部を備えた後身頃の其々の曲率C1,C2の説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明によるショーツ及びショーツのマチ部縫着部の縫製方法を説明する。
図1(a),(b)には本発明によるショーツ1の外観が示され、
図2には当該ショーツ1のパターン図が示されている。
【0026】
ショーツ1は、前身頃2と、後身頃3と、マチ部4を備えて構成され、前身頃2の左右側縁部2b,2cと後身頃3の左右側縁部3b,3cが其々腹部側に位置する脇部縫着部Aで縫着されている。マチ部4の肌側面にはマチ部4の左右幅より幅狭に形成された当て布5が配されている。
【0027】
前身頃2の下端側縁部2d,2eと、マチ部4の左右側縁部4b,4cと、後身頃3の下端側縁部(脚刳り部)3d,3eにより左右の脚部開口6,7が形成され、前身頃2の上縁部2a及び後身頃3の上縁部3aにより胴部開口8が形成されている。また、胴部開口8の端部には、着用時のずれ下がり防止のための伸縮テープ9が縫着されている。
【0028】
パターン図から理解されるように、前身頃2とマチ部4は一体となるように裁断され、凸円弧状に形成されたマチ部4の後縁部4dと凹円弧状に形成された後身頃3の下縁部3fとがマチ部縫着部Bで縫着される。
図2では、マチ部4の上に当て布5が配置されているが、これは単に重ね合わせるように図示しているだけで、実際はマチ部4と当て布5とは個別の編地片で構成されている。
【0029】
図1(c)にはマチ部4と当て布5の縫着状態及びマチ部縫着部Bの要部が示されている。当て布5の前縁部5aが前身頃2に縫着され、当て布5の後縁部5dがマチ部縫着部Bでマチ部4の後縁部4dとともに後身頃3の下縁部3fに縫着されている。
【0030】
詳述すると、マチ部縫着部Bでは、当て布5の後縁部5d及びマチ部4の後縁部4dと、後身頃3の下縁部3fとが、三本針偏平縫い(両面飾り)を用いた重ね接ぎで接合され、縫い始めまたは縫い終わりに生じる空環10,11(
図1(c)では破線で示されている。)をマチ部縫着部Bに沿って身生地側に折返し、マチ部4の角部41から延出する側縁部4b,4cと後身頃3の下角部31から延出する下端側縁部(脚刳り)3d,3eで連なり形成される直線状の縁部に沿って閂止め処理されている。なお、三本針偏平縫い以外の偏平縫いを採用することも可能である。
【0031】
即ち、マチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の左右脚刳り部3d,3eとが略直線状で、且つ、マチ部縫着部Bの縫着線とが略直交する姿勢で連なるようになる。当該マチ部縫着部Bに沿って折返された空環10,11が閂止め処理により身生地に縫着固定される。その結果、略直線状に配されたマチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の左右脚刳り部3d,3eの連接縁に沿うように閂止め縫いができるようになり、見映えのよい脚刳りが形成されるようになる。
【0032】
上述したマチ部4の後縁部4dの曲率C1は、後身頃3の下縁部3fの曲率C2より大に設定され、マチ部4の左右縁部4b,4cと後縁部4dが交差する左右の角部41,41の角度が85~95°の範囲、好ましくは87~93°の範囲に設定され、後身頃3の下縁部3fと左右脚刳り部3d,3eが交差する左右の下角部31,31の角度が90~110°の範囲、好ましくは95~105°の範囲に設定されている。
【0033】
マチ部4の後縁部4dに形成される凸円弧状と後身頃3の下縁部3fに形成される凹円弧状とを縫着するマチ部縫着部Bで、双方の円弧状の曲率C1,C2の違いにより形成されるダーツによって、マチ部4から後身頃3に連なる部位が脚部上方から臀部下方に連なる着用者の体形に沿うような立体形状となるため、座位から立位に姿勢変更するような場合でもヒップ裾ラインのずり上がりや脚部への食い込みが効果的に抑制される。
【0034】
凸円弧状に形成されたマチ部4の後縁部4dの曲率C1、凹円弧状に形成された後身頃の下縁部の曲率C2とするときに、0.003≦C1≦0.0065の範囲に設定されるとともに、曲率比C1/C2が、1.3≦C1/C2≦2.1の範囲に設定されていることが好ましい。
【0035】
マチ部4の後縁部4dの曲率C1を後身頃3の下縁部3fの曲率C2より大に設定する際に、曲率C1を、0.003≦C1≦0.0065の範囲に設定し、曲率比C1/C2を、1.3≦C1/C2≦2.1の範囲、好ましくは1.4≦C1/C2≦1.7の範囲に設定することにより、ヒップ裾ラインのずり上がりや食い込みを効果的に抑制しつつ、良好な着用感を得ることができるようになる。
【0036】
図4に示すように、マチ部4の後縁部4dの頂点(左右幅方向中央部)と角部41を結ぶ線分l1と角部41で後縁部4dに接する接線t1とのなす角度をθ1、当該線分l1の長さをS1とすると、マチ部4の後縁部4dの曲率C1は、sinθ1/S1と表すことができる。
【0037】
また、後身頃3の下縁部3fの頂点(左右幅方向中央部)と下角部31を結ぶ線分l2と下角部31で下縁部3fに接する接線t2とのなす角度をθ2、当該線分l1の長さをS2とすると、後身頃3の下縁部3fの曲率C2は、sinθ2/S2と表すことができる。
【0038】
このとき、14°≦θ1≦23°、60mm≦S1≦75mmの範囲に設定され、5°≦θ2≦15°、60mm≦S2≦75mmの範囲に設定され、曲率比C1/C2が、1.3≦(sinθ1/S1)/(sinθ2/S2)≦2.1の範囲、好ましくは、1.4≦(sinθ1/S1)/(sinθ2/S2)≦1.7の範囲に設定されている。
なお、このときの曲率C1がとり得る範囲は、0.003≦C1≦0.0065、曲率C2がとり得る範囲は、0.016≦C2≦0.043となる。
【0039】
図3(a)には、このような値に設定されたパターン図が例示されている。
図3(b)には、曲率比C1/C2が2.1より大きな値に設定されたパターン図が例示され、
図3(c)には、曲率比C1/C2が1.3より小さな値に設定されたパターン図が例示されている。
【0040】
図3(b)の例に依れば、脚刳りの長さが短くなり、着用時に脚回りが締め付けられて着用感が悪くなる。また、
図3(c)の例に依れば、ダーツの効果があまり出ずに臀部に浮きが生じて裾部がずり上がるようになる。
【0041】
また、マチ部4の左右縁部4b,4cと後縁部4dが交差する角部41,41の角度が85~95°の範囲、好ましくは87~93°の範囲に設定され、後身頃3の下縁部3fと左右脚刳り部3d,3eが交差する下角部31,31の角度が90~110°の範囲、好ましくは95~105°の範囲に設定されているので、マチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の左右脚刳り部3d,3eとが略直線状で、且つ、マチ部縫着部Bの縫着線とが略直交する姿勢で連なるようになる。
【0042】
そのため、マチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の左右脚刳り部3d,3eとで形成される脚刳りが滑らかな見栄えの良い形状となり、着用時の肌当たりに違和感を与えることもない。さらには、マチ部4の後縁部4dと後身頃3の下縁部3fとを縫着する際に生じる端糸の解れ止め処理と、縫着部の端部からの破断回避のための止め縫い処理が脚刳りに沿うようになり、見映えよく良好に行なうことができる。
【0043】
さらに、前身頃2の左右縁部2b,2cと後身頃3の左右縁部3b,3cを縫着する脇部縫着部Aが着用者の腹部側に位置するので、脇部縫着部Aが臀部側に位置する場合に生じる脇部縫着部Aの形状が外衣から浮き出るような不都合な事態も生じない。
【0044】
さらに、前身頃2の左右縁部2b,2cと左右脚刳り部2d,2eが交差する上角部21,21の角度が85~95°の範囲、好ましくは87~93°の範囲に設定され、後身頃3の左右縁部3b,3cと左右脚刳り部3d,3eが交差する上角部32,32の角度が85~95°の範囲、好ましくは87~93°の範囲に設定されるとともに、後身頃3の上角部32,32と下角部31,31で挟まれる左右脚刳り部3d,3eの中央部が凸円弧状に形成されることが好ましい。なお、本明細書で用いる角部の角度とは、各角部を構成する二辺に対して角部で接する二本の接線の交差角度をいう。
【0045】
脚刳りのうち脇部縫着部Aの下端近傍で前身頃2の脚刳り部2d,2eと後身頃3の脚刳り部3d,3eが略直線状で、且つ、脇部縫着部Aの縫着線とが略直交する姿勢で連なるようになる。
【0046】
そのため、前身頃2の脚刳り部2d,2eと後身頃の脚刳り部3d,3eとで形成される脚刳りが滑らかな見栄えの良い形状となり、着用時の肌当たりに違和感を与えることもない。しかも、後身頃3の上角部32,32と下角部31,31で挟まれる左右脚刳り部3d,3eの中央部が凸円弧状に形成されているので、臀部を覆う十分な生地量を確保することができるようになる。
【0047】
身頃2,3及びマチ部4,5を構成する身生地は解れ止め加工されたフライス編地が用いられ、編地のコース方向が腹囲に沿うように配置されている。身生地を編成する原糸として綿などの天然繊維以外に、キュプラ、ビスコースレーヨン等の再生セルロース繊維、ポリエステルなどの合成繊維などを用いることができ、また、編地としてフライス編の他にスムース編や天竺編みなどを採用することも可能である。
【0048】
解れ止め加工された編地とは、熱融着弾性糸とそれ以外の糸、例えば綿糸をプレーティング編みで編成した後にヒートセット加工を施すことにより熱溶融または熱変形した熱融着弾性糸が糸の交編部で絡めた編地をいい、編地の裁断部位で糸の解れが回避される特性を備えている。
【0049】
プレーティング編みは、複数本の糸をそれぞれ別の給糸口から、編み針に給糸する方法で、編成ループそれぞれの糸の配置が安定的に定まる。従って、熱融着弾性糸とそれ以外の糸とを別の給糸口から編み針に給糸して編み立てられたプレーティング編地は、各編成ループにおける熱融着弾性糸とそれ以外の糸との配置が安定しているため、全てのループに熱融着弾性糸を隣接させることができ、ヒートセット加工等により熱融着弾性糸を溶融すれば、編地の全てのループで確実に解れ止め機能が実現できる。
【実施例】
【0050】
図5には、曲率C1,C2を異ならせた複数のサイズ(M,L,LL)のショーツを製作し、複数の被験者が各ショーツを着用して様々な姿勢に姿勢変更した場合に、ヒップ裾ラインのずり上がりや食い込みの有無を確認するとともに、着用感を評価した結果が示されている。
【0051】
サイズの違いにかかわらず、曲率比C1/C2が1.3以上、2.1以下で、ヒップ裾ラインのずり上がりや食い込みが無く、しかも良好な着用感が得られることが確認され、曲率比C1/C2が1.4以上、1.7以下でその効果がさらに優れていることが確認された。
【0052】
上述した説明は本発明の一例であり、該記載により本発明の範囲が限定されることはなく、編地を構成する糸の種類、太さ編組織等は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、身生地に解れ止め加工された編地を採用しながらも、ヒップ裾ラインのずり上がりを抑制するとともに、縫着する際に生じる端糸の解れ止め処理や、縫着部の破断回避のための止め縫い処理が見映えよく行なえるショーツが実現できる。
【符号の説明】
【0054】
1:ショーツ
2:前身頃
2a:上縁部
2b,2c:側縁部
2d,2e:下端側縁部(脚刳り部)
21:上角部
3:後身頃
3a:上縁部
3b,3c:側縁部
3d,3e:下端側縁部(脚刳り部)
3f:下縁部
31:下角部
32:上角部
4:マチ部
4b,4c:側縁部
4d:後縁部
41:角部
5:当て布
6,7:脚部開口
A:脇部縫着部
B:マチ部縫着部