(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型チョコレート及びそれを含む食品
(51)【国際特許分類】
A23G 1/36 20060101AFI20230613BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
A23G1/36
A23D9/00 500
(21)【出願番号】P 2019158750
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 成和
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-006635(JP,A)
【文献】特開2010-268749(JP,A)
【文献】特開2012-000039(JP,A)
【文献】特開2010-148385(JP,A)
【文献】特開2009-284899(JP,A)
【文献】特開2016-189773(JP,A)
【文献】特許第6793280(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G1
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノーテンパリング型チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12~40重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを38~86重量%含有するノーテンパリング型チョコレートであって、
該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6~10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、且つ炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下であり、
前記油脂全体中、XYUを0.6~6.5重量%、PYUを0.5~6.0重量%、Y2Uを0.1~1.4重量%、および、YU2を0.2~3.6重量%含有し、
XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7~11.4重量%であり、YYYの含有量が0.21重量%以下であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下である、ノーテンパリング型チョコレート。
X:炭素数16~18の飽和脂肪酸
P:炭素数16の飽和脂肪酸
Y:炭素数20以上の飽和脂肪酸
U:シス型不飽和脂肪酸
XYU:X,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド
PYU:P,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド
Y2U:Yが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
YU2:Yが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
XXX:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2Y:Xが2分子、Yが1分子結合しているトリグリセリド
XY2:Xが1分子、Yが2分子結合しているトリグリセリド
YYY:Yが3分子結合しているトリグリセリド
ただし、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が25重量%未満で、20℃のSFC(固体脂含量)が25%以上かつ50℃のSFCが5%以下である、チョコレート用油脂のことをいう。
【請求項2】
請求項1に記載のノーテンパリング型チョコレートを含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラウリン系油脂の含有量が少ないノーテンパリング型ハードバターを含むノーテンパリング型チョコレート及びそれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートを製造する際にココアバター(以下、CBともいう)と共に配合する油脂、所謂ハードバターは、チョコレート製造時のテンパリングの要否によって、テンパリング型ハードバターとノーテンパリング型ハードバターに大別される。ここで、テンパリングとは、油脂の結晶形を調節するために、溶解したチョコレート類に対し強制的に冷却と再加温を所定の温度下で行なう操作のことをいう。
【0003】
テンパリング型ハードバターは、CBと類似したSUS型トリグリセリドが主な構成成分であり、チョコレート風味への寄与度が高いCBの配合量に制限がないため、風味の良好なチョコレートを作製できる反面、スナップ性や口溶けを良くするためにテンパリング作業を施す必要があり、また、融点、固化速度、柔らかさ等の物性の調整が難しいという難点がある。
【0004】
一方、ノーテンパリング型ハードバターは、ラウリン系油脂の含有量が少ないCBR(CB Replacer)と、ラウリン系のCBS(CB Substitute)に大別される。これらノーテンパリング型ハードバターは、テンパリング型ハードバターと比べると、CBの配合量が少なくなるものの、安価で、かつチョコレート製造時にテンパリングが不要で、融点、固化速度、柔らかさ等の物性調整が容易という利点がある。
【0005】
このうちCBRは、主に植物油脂の部分水素添加油が主成分であり、CBSと比較するとCBとの相溶性が高いため、ノーテンパリング型チョコレート油脂に多く配合することができ、チョコレート風味が良好となる。
【0006】
CBRを多く含むノーテンパリング型チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸においては、トランス脂肪酸を増やすことで、CBとの相溶性が向上していることが一般的である。トランス脂肪酸を多く含むトリグリセリドは、CBに含まれるトリグリセリドSUSと混在することで、2鎖長の結晶状態が維持されやすく、そのためトランス脂肪酸量が増えるほどグレイニングが生じにくく、CBとの相溶性が向上すると考えられる。しかし、昨今の健康志向からトランス脂肪酸量を増やすことは望ましくない。
【0007】
そこでトランス脂肪酸含量を減らすためにCBRの組成を変更すると、CBとの相溶性が低下し、経時的にCBの粗大結晶が析出(グレイニング)しやすくなる。これを避けるため、CBの使用量を減らすと、チョコレート風味が損なわれてしまう。チョコレートにおいてグレイニングが発生すると、ざらついた食感になり口溶けが悪化すると共に、艶がなくなったり白いブツブツが発生したりして外観も損なわれる。
【0008】
特許文献1および特許文献2では、低トランスでラウリン系油脂の含有量が少ないノーテンパリング型ハードバター組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-284899号公報
【文献】特開2010-148385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2に記載のハードバター組成物はココアバター(CB)との相溶性が比較的高いと記載されているものの、その効果は不十分であり、幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングを抑制することが困難であった。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、低トランス脂肪酸量であり、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター(CBR)を多く含有するノーテンパリング型チョコレートであるにもかかわらず、テンパリング型チョコレート並みにココアバターを多く配合しても幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングが起こり難く、かつ、従来のCBR配合チョコレートと比較して口溶けの良さ、室温(20℃)での固化速度の速さ、および良好なスナップ性を維持しているチョコレート、及びそれを使用した食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、低トランス脂肪酸量であっても、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量と、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量を特定量以下とし、かつ、チョコレートに含まれる油脂全体中、炭素数20以上という長鎖の飽和脂肪酸Yとシス型不飽和脂肪酸Uを含むトリグリセリドであるXYU、Y2U、およびYU2の各含有量および合計含有量、並びに、PYUの含有量を特定範囲とし、さらに、YYYの含有量、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量を特定値以下に抑えたトリグリセリド組成を含み、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを特定量含むチョコレートは、ココアバターを多く配合しても幅広い温度帯でグレイニングが起こり難く、かつ、口溶けの良さ、室温での固化速度の速さ、および良好なスナップ性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、ノーテンパリング型チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12~40重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを38~86重量%含有するノーテンパリング型チョコレートであって、
該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6~10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、且つ炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下であり、
前記油脂全体中、XYUを0.6~6.5重量%、PYUを0.5~6.0重量%、Y2Uを0.1~1.4重量%、および、YU2を0.2~3.6重量%含有し、
XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7~11.4重量%であり、YYYの含有量が0.21重量%以下であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下である、ノーテンパリング型チョコレートに関する。
X:炭素数16~18の飽和脂肪酸
P:炭素数16の飽和脂肪酸
Y:炭素数20以上の飽和脂肪酸
U:シス型不飽和脂肪酸
XYU:X,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド
PYU:P,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド
Y2U:Yが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
YU2:Yが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
XXX:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2Y:Xが2分子、Yが1分子結合しているトリグリセリド
XY2:Xが1分子、Yが2分子結合しているトリグリセリド
YYY:Yが3分子結合しているトリグリセリド
ただし、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が25重量%未満で、20℃のSFC(固体脂含量)が25%以上かつ50℃のSFCが5%以下である、チョコレート用油脂のことをいう。
また本発明は、前記ノーテンパリング型チョコレートを含む食品にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従えば、低トランス脂肪酸量であり、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター(CBR)を多く含有するノーテンパリング型チョコレートであるにもかかわらず、テンパリング型チョコレート並みにココアバターを多く配合しても幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングが起こり難く、かつ、従来のCBR配合チョコレートと比較して遜色がない口溶けの良さ、室温(20℃)での固化速度の速さ、および良好なスナップ性を維持しているチョコレート、及びそれを使用した食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
本発明のノーテンパリング型チョコレートは、ココアバター(CB)とラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター(CBR)を特定量含有し、チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が特定量以下、炭素数6~10の飽和脂肪酸含量が特定量以下、炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が特定量以下であり、かつ、チョコレートに含まれる油脂が特定のトリグリセリド組成を有することを特徴とする。
【0016】
前記ココアバターの含有量は、本発明のノーテンパリング型チョコレートに含まれる油脂全体中、12~40重量%であることが好ましく、12~35重量%がより好ましく、12~25重量%がさらに好ましい。12重量%より少ないと、チョコレートの風味が弱すぎる場合があり、40重量%より多いと、経時的にCBの粗大結晶が析出し(グレイニング)、チョコレートの品質を損ねてしまう場合がある。本発明のチョコレートは、ノーテンパリング型でありながら、ココアバターの含有量が多いにも関わらず、本発明の効果を奏する。なお、ココアバターとは、カカオ豆から得られた固形脂で、一般にチョコレート原料として用いられるものである。
【0017】
本発明におけるラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、ノーテンパリング型ハードバターのうち所謂CBRを指し、正確には、該ハードバターに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が25重量%未満で、20℃のSFC(固体脂含量)が25%以上かつ50℃のSFCが5%以下であるチョコレート用油脂であり、本願では単にCBRともいう。
【0018】
炭素数12~14の飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸が挙げられる。なお、本発明における油脂の構成脂肪酸の組成は、基準油脂分析法2.4.2.1-2013により決定できる。またSFCは、IUPAC 2.150(a)に定められた方法に従い、20℃又は50℃で、NMR法により測定できる。
【0019】
前記ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、従来公知のものであってよく、上述した定義を満足する限り特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、米ぬか油、コーン油等の液体脂、あるいはパーム油、シア油、及びこれらの分別油などの少なくとも一種を配合した油脂を硬化および/または分別したものや、菜種油、大豆油、米ぬか油、コーン油等の液体脂、あるいはパーム油、シア油、及びこれらの分別油などの少なくとも一種を配合した油脂をエステル交換油および/または分別したものが挙げられる。
【0020】
前記ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターの含有量は、前記ノーテンパリング型チョコレートに含まれる油脂全体中、38~86重量%であることが好ましく、40~80重量%がより好ましく、42~74重量%がさらに好ましく、44~68重量%が特に好ましい。38重量%より少ないと、ノーテンパリング型チョコレートのスナップ性や固化速度を損ねる場合があり、86重量%より多いと、ノーテンパリング型チョコレートにグレイニングが生じる場合がある。
【0021】
本発明のチョコレートには、規格面では、「チョコレート類の表示に関する公正取引競争規約」におけるチョコレート規格、準チョコレート規格及びチョコレート利用食品が該当する。配合面では、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートなどを例示できる。用途面からは、コーティングチョコレート、固形チョコレート、センターチョコレートなどが例示できる。
【0022】
前記トランス型不飽和脂肪酸の含有量は、健康面から、本発明のチョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、3.25重量%以下であることが好ましく、2重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。トランス型不飽和脂肪酸の含有量を少なくするには、水素添加した原料油脂を使用しない、又はその使用量を減らすことで達成できる。本発明のチョコレートは、ノーテンパリング型でありながら、トランス型不飽和脂肪酸の含有量を少なくしたにも関わらず、本発明の効果を奏する。なお、前記トランス型不飽和脂肪酸の含有量は、AOCS Ce 1f-96に準じて測定できる。
【0023】
前記炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量は、前記ノーテンパリング型チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、5.5重量%以下であることが好ましく、5.0重量%以下がより好ましく、4.0重量%以下がさらに好ましい。下限値は特に限定されず、0重量%であってもよいし、例えば0.1重量%以上であってもよい。このように短鎖の飽和脂肪酸の含有量を少なくすることで、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを含むチョコレートにおいて、室温での固化速度が低下することがなく、また、スナップ性も損ねることもない。炭素数6~10の飽和脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸が挙げられる。
【0024】
前記炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量は、前記ノーテンパリング型チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中5重量%以下であることが好ましく、4重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。下限値は特に限定されず、0重量%であってもよいし、例えば1重量%以上であってもよい。5重量%より多いと、ノーテンパリング型チョコレートにグレイニングが生じる場合がある。
【0025】
本発明のチョコレートに含まれる油脂は、前記油脂全体中、XYUを0.6~6.5重量%、PYUを0.5~6.0重量%、Y2Uを0.1~1.4重量%、および、YU2を0.2~3.6重量%含有し、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7~11.4重量%であり、YYYの含有量が0.21重量%以下であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下であることが好ましい。
【0026】
より好ましくは、XYUを1.0~6.0重量%、PYUを0.6~5.5重量%、Y2Uを0.2~1.3重量%、および、YU2を0.3~3.3重量%含有し、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が1.5~10.6重量%であり、YYYの含有量が0.15重量%以下であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が13重量%以下であることが好ましい。
【0027】
さらに好ましくは、XYUを1.4~5.5重量%、PYUを0.9~5.0重量%、Y2Uを0.4~1.2重量%、および、YU2を0.6~2.0重量%含有し、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が2.4~9.7重量%であり、YYYの含有量が0.1重量%以下であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が12重量%以下である。
【0028】
XYU、PYU、Y2U、YU2の各表記は以下のことを意味する。X:炭素数16~18の飽和脂肪酸。P:炭素数16の飽和脂肪酸、Y:炭素数20以上の飽和脂肪酸。U:シス型不飽和脂肪酸。XYU:X,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。PYU:P,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。Y2U:Yが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。YU2:Yが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。
【0029】
前記炭素数16~18の飽和脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸が挙げられる。炭素数20以上の飽和脂肪酸としては、例えば、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。シス型不飽和脂肪酸とは、シス体の不飽和脂肪酸を指し、炭素数は特に限定されない。具体的には、オレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0030】
XYUは炭素数16~18の飽和脂肪酸Xと炭素数20以上という長鎖の飽和脂肪酸Yとシス型不飽和脂肪酸Uを含むトリグリセリドであり、PYUは炭素数16の飽和脂肪酸Pと炭素数20以上という長鎖の飽和脂肪酸Yとシス型不飽和脂肪酸Uを含むトリグリセリドであり、Y2UおよびYU2は、炭素数20以上という長鎖の飽和脂肪酸Yとシス型不飽和脂肪酸Uを含むトリグリセリドであり、これらを上述のように特定量含有させることで、チョコレート中で2鎖長の結晶状態が維持されやすくなるため、グレイニングの発生を抑制することができる。
【0031】
XXX、X2Y、XY2、YYYの各表記は以下のことを意味する。XXX:Xが3分子結合しているトリグリセリド。X2Y:Xが2分子、Yが1分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。XY2:Xが1分子、Yが2分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。YYY:Yが3分子結合しているトリグリセリド。
【0032】
これらXXX、X2Y、XY2およびYYYが多く配合されると、チョコレートの口溶けが悪化する傾向がある。そのため、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量は14.4重量%以下であることが好ましい。当該合計含有量の下限値は特に限定されず、0重量%であってもよいし、例えば1重量%以上であってもよい。
【0033】
なお、本願においてトリグリセリド組成は、基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013に準拠して高速液体クロマトグラフ法により測定できる。
【0034】
本発明のチョコレートは、テンパリングを行なわずに製造することができる。その製造方法は一般的なノーテンパリング型チョコレートの製造方法と同様であってよい。例えば、各原料成分を任意の割合で混合し、既知の方法によりロール処理及びコンチング処理して得ることができる。また、上述した油脂成分に加えて、一般的にチョコレートに配合される材料を配合してもよい。そのような材料としては、カカオマス、ココアパウダー、糖類、乳製品、シロップ、洋酒等の呈味材、乳化剤、香料、着色料、酸化防止剤等が挙げられる。
【0035】
本発明のノーテンパリング型チョコレートは、これを含む食品とすることもできる。そのような食品としては、例えば、ケーキ、パン、ビスケット、パイ、饅頭等の種々の和洋菓子、ベーカリー製品、菓子類や、果物を用いた菓子類が挙げられる。またチョコレートの用途には限定はないが、コーティング用、チョコチップ用、ベーカリー生地練り込み用、菓子生地練り込み用、センタークリーム用、サンドクリーム用、ディップクリーム用等が挙げられる。本発明の相溶性向上剤は、幅広い温度帯でグレイニングを抑制できることから、上記食品の中でも特に、常温で流通する食品に好適である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(脂肪酸組成の測定方法)
油脂の構成脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法2.4.2.1-2013により決定した。
【0038】
(トリグリセリド組成の測定方法)
トリグリセリド組成は、基準油脂分析法2.4.6.2-2013に準拠して高速液体クロマトグラフ法により測定した。
【0039】
<チョコレートの評価>
実施例及び比較例で得られたチョコレートを、以下に示す各評価に供した。
【0040】
(相溶性の評価方法)
熟練したパネラー1人が、各温度条件(10℃、15℃、又は、20℃)で1ヶ月間保管したチョコレート(n=3)の表面を観察し、以下の基準に従って評価した。
5点:白い斑点(ブツブツ)が無く、艶がある
4点:白い斑点(ブツブツ)が無く、艶が無い
3点:白い斑点(ブツブツ)は無いが、表面に若干の凸凹が見られる
2点:白い斑点(ブツブツ)が生じている
1点:白い斑点(ブツブツ)が多数生じている。
【0041】
(作業性(チョコレートの乾き)の評価方法)
チョコレートを作製する際に、コンチング直後の融解状態のチョコレートを20℃で10分間静置した後の乾きについて、10人の熟練したパネラーが以下の基準に従って評価し、その平均点を記載した。
5点:触れてもチョコレートが手に全く付着せず、乾きが非常に良い
4点:触れてもチョコレートがほとんど付着せず、乾きが良い
3点:触れるとチョコレートがわずかに付着し、乾きは普通
2点:触れるとチョコレートがやや付着し、乾きが悪い
1点:触れるとチョコレートが多く付着し、乾きが非常に悪い
【0042】
(口溶けの評価方法)
型に流し入れ、20℃の恒温槽に入れて1週間静置して固化させた後のノーテンパリング型チョコレートの口溶けについて、10人の熟練したパネラーが以下の基準に従って評価し、その平均点を記載した。
5点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートと同等で口溶けが非常に良い
4点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートとほぼ同等で口溶けが良い
3点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートにはやや劣り口溶けがやや悪いが許容範囲内
2点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣り口溶けが悪い
1点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣り口溶けが非常に悪い
【0043】
(スナップ性の評価方法)
型に流し入れ、20℃の恒温槽に入れて1週間静置して固化させた後のノーテンパリング型チョコレートのスナップ性について、10人の熟練したパネラーが以下の基準に従って評価し、その平均点を記載した。ここでいうスナップ性とは、チョコレートを食した時にパリッと割れる食感のことである。
5点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートと同等でスナップ性が非常に良い
4点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートとほぼ同等でスナップ性が良い
3点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートにはやや劣りスナップ性がやや悪いが許容範囲内
2点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣りスナップ性が悪い
1点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣りスナップ性が非常に悪い
【0044】
<チョコレートの総合評価>
チョコレートの各評価結果のうち最低点数を四捨五入して総合評価とした。
【0045】
<実施例及び比較例で使用した原料>
1)ADM社製「Dezaan cocoamas」(ココアバター含有量55%)
2)ADM社製「Dezaan cocoapowder」(ココアバター含有量22.5%)
3)PT.ASIA.COCOA.INDONESIA社製「Deodorised cocoa butter」
4)(株)カネカ製「HBハイベルF40LT」:(株)カネカ製ヨウ素価63のパーム分別軟質部のランダムエステル交換油=80:20の混合物、炭素数12~14の飽和脂肪酸含量=1.3重量%、20℃のSFC=69.6%、50℃のSFC=0.1%)
5)(株)カネカ製「ハイエルシン菜種油の極度硬化油」
6)よつ葉乳業(株)製「全粉乳」(乳脂肪含有量26%)
7)よつ葉乳業(株)製「脱脂粉乳」(乳脂肪含有量1%)
8)愛国産業(株)製「粉糖」
9)ADM社製「Yelkin TS」
10)高砂香料工業(株)製「リグニンバニリン」
【0046】
(製造例1)油脂Aの作製
原料油脂として、ヨウ素価63のパーム分別軟質部((株)カネカ製)80重量部およびハイエルシン菜種油の極度硬化油((株)カネカ製)20重量部とをセパラブルフラスコに入れ、100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行い、前記油脂中の水分を100ppmに調整した。その後、前記混合油脂(パーム分別軟質部:ハイエルシン菜種油の極度硬化油=80:20)100重量部に対しナトリウムメチラートを0.2重量部添加し、真空状態のまま90℃で20分間撹拌した。撹拌を停止し、真空を開放した後、前記混合油脂100重量部に対し100重量部の中性水(pH7.6(以下、全て同じpH))を、油層の上からシャワーリングしながら注いで、該油脂と中性水とを接触させた。そのまま60分間静置して油層、乳化層、及び水層を十分に分離させた後に、フラスコ下部から水層と乳化層とを排出し、油層を得た。得られた油層100重量部に対し白土(水澤化学工業(株)製「NF-X」)を2重量部加え100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行った後、ろ紙(アドバンテック東洋(株)製「定性ろ紙No1」)を通過させ、脱色油を得た。得られた脱色油を常法の通り水蒸気蒸留(250℃、200Pa、60分)により脱臭処理し、油脂Aを得た。
【0047】
(製造例2)油脂Bの作製
ヨウ素価63のパーム分別軟質部80重量部を67重量部に、ハイエルシン菜種油の極度硬化油20重量部を33重量部に変更した以外は、製造例1と同様にして油脂Bを得た。
【0048】
(製造例3)油脂Cの作製
原料油脂として、ローエルシン菜種油の極度硬化油((株)カネカ製)50重量部と中鎖脂肪酸トリグリセライド(理研ビタミン(株)製「アクターM2」)50重量部を使用した以外は、製造例1と同様にして油脂Cを得た。
【0049】
(実施例1) ノーテンパリング型チョコレートの作製
表1の配合にて、定法に従ってチョコレートを作製した。即ち、カカオマス7.0重量部、ココアパウダー3.0重量部、ココアバター3.52重量部、ラウリン系油脂低含有ハードバター14.70重量部、油脂A7.35重量部、全脂粉乳8.0重量部、脱脂粉乳6.0重量部、砂糖50.0重量部、レシチン0.40重量部、及び、バニリン0.03重量部を混合、微粒化(リファイニング)、精練(コンチング)を行った後、φ50mmの丸型皿に流し入れ、20℃の恒温槽に入れて1週間静置して固化させ、ノーテンパリング型チョコレートを得た。得られたチョコレートの評価結果を表1に示した。
【0050】
【0051】
(実施例2) ノーテンパリング型チョコレートの作製
油脂Aを油脂Bに変更した以外は、実施例1と同様にして、ノーテンパリング型チョコレートを得た。得られたチョコレートの評価結果を表1に示した。
【0052】
(実施例3) ノーテンパリング型チョコレートの作製
油脂A7.35重量部のうち、半量を油脂Bに変更した以外は、実施例1と同様にして、ノーテンパリング型チョコレートを得た。得られたチョコレートの評価結果を表1に示した。
【0053】
(比較例1) ノーテンパリング型チョコレートの作製
油脂Aを油脂Cに変更した以外は、実施例1と同様にして、ノーテンパリング型チョコレートを得た。得られたチョコレートの評価結果を表1に示した。
【0054】
(比較例2) ノーテンパリング型チョコレートの作製
油脂Aをハイエルシン菜種油の極度硬化油に変更した以外は、実施例1と同様にして、ノーテンパリング型チョコレートを得た。得られたチョコレートの評価結果を表1に示した。
【0055】
表1から明らかなように、チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6~10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下で、油脂全体中、ココアバターを12~40重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを38~86重量%含有し、かつ、XYUを0.6~6.5重量%、PYUを0.5~6.0重量%、Y2Uを0.1~1.4重量%、および、YU2を0.2~3.6重量%、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7~11.4重量%であり、YYYの含有量が0.21重量%以下であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下のノーテンパリング型チョコレート(実施例1~3)は、いずれも相溶性、作業性、口溶け、及び、スナップ性の評価は良好であった。
【0056】
一方、チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数6~10の飽和脂肪酸含量が9.5重量%と多く、油脂全体中、XYUの含有量、PYUの含有量、Y2Uの含有量、YU2の含有量、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量、YYYの含有量が何れも0重量%で少ないノーテンパリング型チョコレート(比較例1)は、相溶性、口溶けは良好であったものの、作業性及びスナップ性の評価が悪かった。
【0057】
また、チョコレートに含まれる油脂全体中、XYUの含有量、PYUの含有量、Y2Uの含有量、YU2の含有量、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が何れも0重量%と少なく、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が29.0重量%と多いノーテンパリング型チョコレート(比較例2)は、作業性は良好であったものの、相溶性、口溶け、及び、スナップ性の評価が悪かった。
【0058】
(実施例4及び5、比較例3及び4) ノーテンパリング型チョコレートの作製
実施例2において、カカオマス7.0重量部を1.75重量部に、ココアパウダー3.0重量部を6.0重量部に、ココアバター3.52重量部を1.55重量部に変更し、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターと油脂Bを、全体が100重量部になるように配合量を変更して添加した以外は、実施例2と同様にして、ノーテンパリング型チョコレートを得た。得られたチョコレートの評価結果を表1に示した。
【0059】
表1から明らかなように、チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6~10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、炭素数12~14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下で、油脂全体中、ココアバターを12~40重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを38~86重量%含有し、かつ、XYUを0.6~6.5重量%、PYUを0.5~6.0重量%、Y2Uを0.1~1.4重量%、および、YU2を0.2~3.6重量%、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7~11.4重量%であり、YYYの含有量が0.21重量%以下であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下のノーテンパリング型チョコレート(実施例4及び5)は、実施例4のチョコレートではPYUの含有量が0.67重量%と、下限値に近接しているため相溶性が若干劣り、また、実施例5のチョコレートではYYYの含有量が0.18重量%と、上限値に近接しているため口溶けが若干劣ったものの、どちらも商品として販売できるレベルのものであった。
【0060】
一方、チョコレートに含まれる油脂全体中、PYUの含有量が0.48重量%と少ないノーテンパリング型チョコレート(比較例3)は、相溶性が悪く、商品性がないものであった。また、チョコレートに含まれる油脂全体中、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターの含有量が28.6重量%と少なく、かつ、XYUの含有量が7.81重量%、Y2Uの含有量が1.74重量%、YU2の含有量が4.44重量%、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が13.99重量%、YYYの含有量が0.23重量%、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が15.2重量%といずれも多いノーテンパリング型チョコレート(比較例4)は、口溶けとスナップ性が悪く、商品性がないものであった。
【0061】
(実施例6) チョコレートコーティングクッキーの作製
室温に調整したマーガリン((株)カネカ製「ノヴァコンセブールガトーSP」):55重量部、上白糖(東洋精糖(株)製「上白糖」):45重量部、食塩(公益財団法人塩事業センター製「精製塩」):0.5重量部、重曹(Church&Dwiht製「Sodium BicarbonateUSP-FCC rade5」):0.2重量部を溶かした殺菌全卵(キュピータマゴ(株)製「液全卵(殺菌)」):15重量部をミキサーボールに投入し、低速で30秒間、中速で30秒間混合した。篩を通した薄力粉(日清製粉(株)製「バイオレット):100重量部を投入し、低速で1分間混合してクッキー用生地を得た。得られた生地をシーターで4mmの厚さに伸ばした後、直径40mmの円形のセルクルで型抜きし、180℃の固定窯で12分間焼成し、クッキーを得た。得られた型抜きクッキーを20℃で24時間冷却し、型抜きクッキーに対して3重量倍のノーテンパリング型チョコレート(実施例2)中に埋設させ、更に20℃で1時間冷却してチョコレートを固化させ、チョコレートコーティングクッキーを得た。チョコレートコーティングクッキーの作業性は良好で、20℃で1ヶ月保存後においても、白い斑点(ブツブツ)が無く、艶があり、口溶けとスナップ性も良かった。