(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】エッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
(21)【出願番号】P 2019219595
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】西原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】鰍場 真樹
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-261451(JP,A)
【文献】特開2013-140684(JP,A)
【文献】国際公開第2006/077891(WO,A1)
【文献】特開2007-027567(JP,A)
【文献】特開2018-056465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成されたエッチング対象膜を水蒸気およびフッ化水素ガスでエッチングするエッチング方法であって、
前記基板をチャンバ内に載置する基板載置工程と、
前記チャンバ内に水蒸気を供給する水蒸気供給工程と、
前記チャンバ内にフッ化水素ガスを供給するフッ化水素ガス供給工程と
、
基板用の加熱機構を用いて前記基板の温度を40℃以上50℃以下とし、かつ、前記チャンバ内の圧力を80Torr以下とする制御工程と
を備え、
前記水蒸気供給工程において、前記基板の表面における水蒸気の圧力が飽和水蒸気圧未満となるように水蒸気の流量を制御する、エッチング方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のエッチング方法であって、
チャンバ用の加熱機構を用いて前記チャンバの温度を100℃以上とするチャンバ温度制御工程をさらに備える、エッチング方法。
【請求項3】
請求項
1または請求項2に記載のエッチング方法であって、
前記フッ化水素ガス供給工程においてフッ化水素ガスの供給を開始するよりも先に、前記水蒸気供給工程において、水蒸気の供給を開始する、エッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、エッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フッ化水素ガスおよび水蒸気を基板に供給して、当該基板に形成されたシリコン酸化膜をエッチングする基板処理装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板に形成されるパターンは近年、ますます微細化し、また、そのアスペクト比もますます高くなっている。このような微細かつ高アスペクト比のパターンが形成された基板に対しても、フッ化水素ガスおよび水蒸気を供給することで、基板の酸化膜に対するエッチング処理を行うことはできる。しかしながら、そのエッチング処理中に水蒸気がパターン表面で液化することが考えられる。パターン間で水蒸気が液化すると、その高い表面張力によって両パターンが互いに引き寄せられ、パターンが倒壊する可能性があった。
【0005】
そこで、本願は、パターンが倒壊する可能性を低減できるエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
エッチング方法の第1の態様は、基板に形成されたエッチング対象膜を水蒸気およびフッ化水素ガスでエッチングするエッチング方法であって、前記基板をチャンバ内に載置する基板載置工程と、前記チャンバ内に水蒸気を供給する水蒸気供給工程と、前記チャンバ内にフッ化水素ガスを供給するフッ化水素ガス供給工程と、基板用の加熱機構を用いて前記基板の温度を40℃以上50℃以下とし、かつ、前記チャンバ内の圧力を80Torr以下とする制御工程とを備え、前記水蒸気供給工程において、前記基板の表面における水蒸気の圧力が飽和水蒸気圧未満となるように水蒸気の流量を制御する。
【0008】
エッチング方法の第2の態様は、第1の態様にかかるエッチング方法であって、チャンバ用の加熱機構を用いて前記チャンバの温度を100℃以上とするチャンバ温度制御工程をさらに備える。
【0009】
エッチング方法の第3の態様は、第1または第2の態様にかかるエッチング方法であって、前記フッ化水素ガス供給工程においてフッ化水素ガスの供給を開始するよりも先に、前記水蒸気供給工程において、水蒸気の供給を開始する。
【発明の効果】
【0010】
エッチング方法の第1の態様によれば、水蒸気が基板の表面で液化する可能性を低減することができる。よって、水の表面張力に起因した基板のパターンの倒壊の可能性を低減することができる。
【0011】
しかも、高い選択比でエッチング対象膜をエッチングできる。
【0012】
エッチング方法の第2の態様によれば、チャンバが腐食する可能性を低減できる。
【0013】
エッチング方法の第3の態様によれば、意図しない非エッチング対象膜がエッチングされる可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】エッチング装置の構成の一例を概略的に示す側面図である。
【
図2】エッチング装置における基板処理(エッチング処理)の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図3】基板の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【
図4】基板の温度とチャンバの圧力を示すグラフである。
【
図5】エッチング装置の構成の他の一例を概略的に示す側面図である。
【
図6】エッチング装置における基板処理(エッチング処理)の流れの他の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しながら、実施の形態について説明する。なお、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本開示の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法または数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0016】
相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば「一方向に」「一方向に沿って」「平行」「直交」「中心」「同心」「同軸」など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。等しい状態であることを示す表現(例えば「同一」「等しい」「均質」など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。形状を示す表現(例えば、「四角形状」または「円筒形状」など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲で、例えば凹凸または面取りなどを有する形状も表すものとする。一の構成要素を「備える」「具える」「具備する」「含む」または「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。「A,BおよびCの少なくともいずれか一つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A,BおよびCのうち任意の2つ、ならびに、A,BおよびCの全てを含む。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1は、エッチング装置1の構成の一例を概略的に示す側面図である。エッチング装置1は、半導体ウェハ等の基板Wを一枚ずつエッチング処理する枚葉式のエッチング装置であり、例えばプラズマを用いない気相エッチング装置である。エッチング装置1は、半導体デバイスを製造する装置の一部に適用され得る。なお、基板Wは必ずしも半導体デバイス用の基板に限らない。基板Wは、例えば、液晶ディスプレイ基板、プラズマディスプレイ用基板、有機EL用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスプレイ用基板、有機EL用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板または太陽電池用基板であってもよい。
【0018】
エッチング装置1はチャンバ2および制御部3を備える。チャンバ2は、内部に基板Wを収容可能な中空状に形成されている。チャンバ2の内部空間は、基板Wに対して所定の処理を行う処理室に相当する。制御部3は、バルブ(後述)の開閉など、エッチング装置1に備えられた要素の動作を制御する。
【0019】
チャンバ2内には、基板ホルダー4、基板W用の加熱機構5、ガス分散板6および圧力センサ10が設けられている。
【0020】
基板ホルダー4は、チャンバ2内において、基板Wを略水平姿勢に保持する。「水平姿勢」とは、基板Wが水平面に対して平行な状態をいう。基板Wは、不図示の搬送系によって外部からチャンバ2内に搬入され、基板ホルダー4の上に載置される。基板ホルダー4は、基板Wを吸着保持してもよく、あるいは、複数のチャックピンで基板Wの周縁を挟持してもよい。なお、基板ホルダー4は必ずしも基板Wを保持する必要はなく、単に基板Wを支持してもよい。つまり、基板ホルダー4は、基板Wを載置する載置台であってもよい。
【0021】
加熱機構5は、基板ホルダー4によって保持された基板Wを加熱する。
図1の例では、加熱機構5は基板ホルダー4に内蔵されている。加熱機構5は、例えば抵抗加熱式の電気ヒータである。なお、加熱機構5は、電気ヒータの代わりに、例えばランプを備えていてもよい。当該ランプが赤外線を基板Wに照射することにより、基板Wを所定温度に温調してもよい。
【0022】
ガス分散板6は、チャンバ2内において基板ホルダー4よりも上側の位置に配設されている。ガス分散板6は、チャンバ2内において水平方向に広がる板状に形成されている。ガス分散板6には、厚さ方向に貫通する複数の開口6Hが、水平方向に分散して形成されている。
【0023】
チャンバ2には、排気配管7が接続されている。
図1の例では、排気配管7は、チャンバ2内と連通状態でチャンバ2の底部に接続されている。排気配管7には、真空ポンプ8も接続されている。真空ポンプ8は、排気配管7を通じてチャンバ2内の気体を吸引することにより、チャンバ2内を減圧する。
【0024】
排気配管7には、APC(Auto Pressure Controller)バルブ9が介装されている。APCバルブ9は、排気配管7内の開度を調節することにより、チャンバ2内の気体の排気流量を調節する。これにより、チャンバ2内の圧力を調節することができる。
【0025】
圧力センサ10は、チャンバ2に連結されており、チャンバ2内の圧力を検出する。圧力センサ10は、検出したチャンバ2内の圧力を示す電気信号を制御部3に出力する。圧力センサ10によって検出される圧力が所定の圧力範囲内となるように、制御部3がAPCバルブ9を制御してチャンバ2内の圧力を調節する。
【0026】
基板Wが基板ホルダー4に保持された後、真空ポンプ8が作動してチャンバ2内の真空引きが開始される。本実施の形態においてはチャンバ2内の減圧の手段を真空ポンプ8で記載しているが、これに限るものではない。例えば工場ユーティリティ排気により減圧を行うことも可能である。要するに、チャンバ2内の気体を排出する排気部の具体的な構成は適宜に変更可能である。
【0027】
チャンバ2には、ガス供給配管11が接続される。
図1の例では、ガス供給配管11は、チャンバ2内と連通状態でチャンバ2の上部に接続されている。
図1の例では、ガス供給配管11は共通管111と枝管112~114とを含む。共通管111の一端はチャンバ2の上部に接続されている。枝管112は共通管111と気化器12とを接続する。気化器12は水蒸気を生成するための水を貯留している。水蒸気流量コントローラ13は枝管112に介装されている。水蒸気流量コントローラ13はいわゆるマスフローコントローラであって、チャンバ2内に供給される水蒸気の供給流量を調節する。
【0028】
枝管112には、開閉バルブ16も介装される。この開閉バルブ16が開動作されることによって、気化器12で気化された水蒸気がガス供給配管11(枝管112および共通管111)からチャンバ2内に供給される。気化器12には、キャリアガスとして不図示の窒素ガス供給配管から気化器12へ窒素ガスが供給される。窒素ガスは、気化器12内で気化された水蒸気をガス供給配管11を介してチャンバ2内に搬送する。
【0029】
枝管113は共通管111とHF(フッ化水素)供給源(不図示)とを接続する。枝管113には、HFガス流量コントローラ14が介装される。HFガス流量コントローラ14はいわゆるマスフローコントローラであって、チャンバ2内に供給されるHFガスの供給流量を制御する。
【0030】
枝管113には、開閉バルブ17が介装される。開閉バルブ17が開動作されることによって、HFガスがガス供給配管11(枝管113および共通管111)からチャンバ2内に供給される。HFガスの供給流量は、HFガス流量コントローラ14によって調節される。チャンバ2への水蒸気とHFガスの供給は、並行して行われる。
【0031】
枝管114は共通管111と窒素供給源(不図示)とを接続する。枝管114には、開閉バルブ18および窒素ガス流量コントローラ15が介装される。開閉バルブ18が開動作されることによって、窒素ガスがガス供給配管11(枝管114および共通管111)からチャンバ2内に供給される。窒素ガスの供給流量は、窒素ガス流量コントローラ15により調節される。窒素ガスは、チャンバ2内の圧力調節のため、あるいは、減圧下でのエッチング処理後のチャンバ2内のパージのために、チャンバ2内に供給される。
【0032】
チャンバ2の内部空間に連通接続されたガス供給配管11を介してチャンバ2内に供給された水蒸気(キャリアガスとしての窒素ガスを含む)とHFガスは、ガス分散板6を通過して基板Wに到達する。具体的には、チャンバ2内のガス分散板6よりも上側に供給された水蒸気(キャリアガスとしての窒素ガスを含む)およびHFガスの混合ガスは、ガス分散板6に設けられた複数の開口6Hを通過することによってガス分散板6よりも下側へ移動し、基板W上に均一に供給される。開口6Hの内径は、例えば0.1mmである。また、隣接する開口6H,6Hの間隔は、例えば5mmである。なお、開口6Hの内径および間隔は、これらに限定されない。また、
図1に示す例では、チャンバ2に1つのガス分散板6だけが設置されているが、複数のガス分散板6が上下多段に重なるように設置されてもよい。また、チャンバ2内に供給される水蒸気およびHFガスが基板Wに対して均一に作用する必要性が低い場合、あるいは、ガス分散板6以外の構成によって、水蒸気およびHFガスを整流できる場合には、ガス分散板6は不要である。
【0033】
水蒸気およびHFガスが基板Wのシリコン酸化膜の表面に流れると、シリコン酸化膜がエッチングされる。このシリコン酸化膜のエッチングには、主にHF2
-(フッ化水素イオン)が寄与することが知られている。このHF2
-は、HFガスと水蒸気(H2O)との反応により生成される。
【0034】
制御部3は、加熱機構5、真空ポンプ8、APCバルブ9、圧力センサ10、水蒸気流量コントローラ13、HFガス流量コントローラ14、窒素ガス流量コントローラ15および開閉バルブ16~18を制御する。
【0035】
制御部3は電子回路機器であって、例えばデータ処理装置および記憶媒体を有していてもよい。データ処理装置は例えばCPU(Central Processor Unit)などの演算処理装置であってもよい。記憶媒体は非一時的な記憶媒体(例えばROM(Read Only Memory)またはハードディスク)および一時的な記憶媒体(例えばRAM(Random Access Memory))を有していてもよい。非一時的な記憶媒体には、例えば制御部3が実行する処理を規定するプログラムが記憶されていてもよい。処理装置がこのプログラムを実行することにより、制御部3が、プログラムに規定された処理を実行することができる。もちろん、制御部3が実行する処理の一部または全部が、論理回路などのハードウェア回路によって実行されてもよい。
【0036】
基板Wに形成されたシリコン酸化膜をエッチングするためのHFガス、水蒸気および窒素ガスの供給流量はそれぞれ、例えば、数千sccm以下(例えば3000sccm)、数千sccm以下(例えば2000sccm)、数万sccm以下(例えば10000sccm)である。これらの供給流量は適宜に変更し得る。
【0037】
制御部3は、圧力センサ10によって検出されたチャンバ2内の圧力が所定の圧力範囲内となるようにAPCバルブ9の開度を調節する。これにより、チャンバ2内の圧力が適宜に調節される。基板Wの処理中、チャンバ2内の圧力は、例えば5~80Torrに維持される。
【0038】
本実施の形態では、制御部3は、チャンバ2内に載置された基板Wの表面における水蒸気の圧力が飽和水蒸気圧未満となるように、水蒸気の供給流量などを制御する。具体的には、基板Wの表面における水蒸気の圧力は、チャンバ2内に供給される各種ガスの供給流量と、チャンバ2から排出されるガスの排気流量とによって制御可能である。
【0039】
基板Wの表面における水蒸気の圧力が飽和水蒸気圧未満を維持できれば、水蒸気が液化して基板Wの表面に付着する可能性を低減することができる。よって、水の表面張力によって基板Wのパターンが倒壊する可能性を低減することができる。理想的には、水蒸気の液化を防止でき、ひいては、当該液化に起因したパターンの倒壊を防止することができる。
【0040】
<基板処理の流れ>
図2は、実施の形態のエッチング装置1における基板処理(エッチング処理)の流れの一例を示す図である。以下に説明するエッチング処理は、半導体デバイスの製造工程の一部に適用され得る。
【0041】
まず、エッチング処理対象である基板Wが準備される(ステップS1:準備工程)。この基板Wの上面には、エッチング対象膜の一例であるシリコン酸化膜と、そのシリコン酸化膜の下層の一例たるシリコン窒化膜とが形成されている。
図3は、基板Wの一部の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図3では、基板Wの断面図が示されている。
図3の例では、基板Wの上面においては、パターン状にシリコン窒化膜21が形成され、そのシリコン窒化膜21を覆うようにシリコン酸化膜20が形成されている。シリコン窒化膜21のパターン幅およびパターン間の隙間は例えば数十nm(例えば30nm)程度であり、そのアスペクト比は例えば10以上かつ50以下である。シリコン酸化膜20はシリコン窒化膜21のパターン間を充填しつつ、シリコン窒化膜21の上面も覆っている。
【0042】
シリコン酸化膜20およびシリコン窒化膜21の成膜方法としては任意の方法を採用できるものの、例えば、シリコン酸化膜20はSOD(Spin on Dielectric)法等によって形成され、シリコン窒化膜21はプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法等によって形成される。ここでは、シリコン酸化膜20をエッチングにより除去し、シリコン窒化膜21を残留させる。
【0043】
ステップS1において、基板Wが準備されると、不図示の搬送系が、基板Wをチャンバ2内に搬送し、基板ホルダー4に載置する(ステップS2:基板載置工程)。
【0044】
制御部3は、基板Wが基板ホルダー4に載置された後、真空ポンプ8を制御することにより、チャンバ2内を高真空状態にまで減圧する(ステップS3:処理室内減圧工程)。減圧の程度は、用いる真空ポンプ8の能力および許容される減圧時間に応じて適宜に決定される。チャンバ2をできるだけ減圧することによって、チャンバ2内の雰囲気をできるだけ排気でき、もって、チャンバ2内の清浄度を高めることができる。
【0045】
一旦、チャンバ2内が高真空状態に減圧されると、制御部3は、開閉バルブ18を開けることにより、チャンバ2内に窒素ガスを供給する。また、制御部3は、圧力センサ10によって検出された圧力に基づいて、窒素ガス流量コントローラ15を制御して窒素ガスの供給流量を調節するとともに、APCバルブ9の開度を調節する。これらの調節により、制御部3は、チャンバ2内の圧力を所定の圧力範囲内に調節する(ステップS4:圧力制御工程)。チャンバ2内の圧力値については後に詳述する。
【0046】
また、制御部3は、加熱機構5を制御することにより、基板Wの温度を所定の温度範囲に温調する(ステップS5:温度制御工程)。制御部3は、例えばステップS3にてチャンバ2内の減圧を開始するのと略同時に、基板ホルダー4の温調(加熱)を開始するとよい。
【0047】
基板Wの温度は、後に詳述するように、シリコン窒化膜21に対するシリコン酸化膜20の選択比に影響する。この選択比は、シリコン窒化膜21のエッチング速度に対するシリコン酸化膜20のエッチング速度である。ステップS5の温度制御工程では、選択比が所定範囲内となるように、基板Wの温度が所定の温度範囲内に調節される。基板Wの具体的な温度値については後に詳述する。
【0048】
ステップS5の温度制御開始後、基板Wの温度が所定の温度範囲内となると、制御部3は、開閉バルブ16を開けることにより、水蒸気(キャリアガスを含む)をチャンバ2内に供給する(ステップS6:水蒸気供給工程)。このとき、制御部3は、水蒸気流量コントローラ13を制御して、水蒸気の供給流量を所定の流量範囲内に調節する。この水蒸気の供給流量は後に詳述するように、シリコン酸化膜20のエッチング速度および水蒸気の液化に影響する。よって、水蒸気の供給流量は所定のエッチング速度でシリコン酸化膜20をエッチングでき、かつ、水蒸気の圧力が飽和水蒸気圧未満となるように制御される。
【0049】
ステップS6の水蒸気供給工程の開始後、第1所定時間が経過すると、制御部3は、開閉バルブ17を開けることにより、HFガスをチャンバ2内に供給する(ステップS7:HFガス供給工程)。これにより、チャンバ2内には、水蒸気およびHFガスの両方が供給される。チャンバ2内に供給された水蒸気およびHFガスの混合ガスは、ガス分散板6に形成された複数の開口6Hを通過して、基板Wの全面に略均一に接触する。このとき、水蒸気およびHFガスにより、エッチング対象膜であるシリコン酸化膜20がシリコン窒化膜21に対して選択的にエッチングされる(エッチング処理)。なお、このエッチング処理において、開閉バルブ17を開いて窒素ガスを適宜にチャンバ2内に供給しても構わない。
【0050】
エッチング処理の開始後、エッチング対象膜が除去されるのに適した第2所定時間が経過すると、制御部3は、開閉バルブ16,17を閉じることにより、HFガスおよび水蒸気の供給を停止する。これにより、実質的なエッチング処理が終了する。
【0051】
水蒸気およびHFガスの供給停止から第3所定時間が経過すると、制御部3は、窒素ガスにより、チャンバ2内をパージする(ステップS8:パージ工程)。このとき、制御部3は、窒素ガス流量コントローラ15を制御して、窒素ガスの供給流量を調節する。このように、制御部3は、減圧状態であったチャンバ2内を窒素ガスでパージすることにより、チャンバ2内を大気圧に戻して、基板Wを搬出可能な状態とする。搬出可能となった基板Wは、不図示の搬送系によって、基板ホルダー4から適宜に搬出される。
【0052】
<選択的エッチングの説明>
次に、シリコン酸化膜20をシリコン窒化膜21に対して選択的にエッチングするためのエッチング条件について述べる。エッチング条件は、基板Wの温度、HFガスの供給流量、窒素ガスの供給流量、水蒸気の供給流量およびチャンバ2内の圧力を含む。
【0053】
出願人は、エッチング条件を異ならせつつ、シリコン酸化膜のエッチング量およびシリコン窒化膜のエッチング量を測定する実験を行った。具体的には、上面の全面にシリコン酸化膜が形成された第1基板と、上面の全面にシリコン窒化膜が形成された第2基板に対して、それぞれ、同じ処理時間だけエッチング処理を行って、そのエッチング量を測定した。エッチング条件としては、HFガスの供給流量、水蒸気の供給流量および窒素ガスの供給流量をそれぞれ2000sccm、3000sccm、10000sccmとし、基板Wの温度およびチャンバ2内の圧力を変化させた。基板Wの温度は加熱機構5によって調節され、チャンバ2内の圧力は、排気部によるチャンバ2からの気体の排気流量を制御することで調節される。
【0054】
図4は、エッチング条件を示すグラフである。
図4では、横軸が基板Wの温度を示し、縦軸がチャンバ2内の圧力を示している。
図4の例では、水の飽和水蒸気圧曲線G1も示されている。
図4では、第1条件C1(80℃、80Torr)、第2条件C2(50℃、80Torr)、第3条件C3(40℃、40Torr)および第4条件C4(30℃、20Torr)が黒色の菱形でプロットされている。
【0055】
各条件C1~C4における第1基板および第2基板に対するエッチング処理の結果を下表に示す。
【0056】
【0057】
第1条件C1では、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のエッチング量はそれぞれ2.0nmおよび4.2nmであった。なお、ここでいうエッチング量は、各膜のエッチング処理の前後での膜厚の差で示されている。エッチング処理の処理時間は互いに等しいので、このエッチング量はエッチング速度に比例する。よって、選択比はおおよそ0.5(=2.0/4.2)である。つまり、第1条件C1では、エッチング対象膜であるシリコン酸化膜よりも、非エッチング対象膜であるシリコン窒化膜がエッチングされた。
【0058】
第2条件C2では、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のエッチング量はそれぞれ197.4nmおよび7.9nmであった。よって、選択比はおおよそ24.9である。つまり、第2条件C2では、エッチング対象膜であるシリコン酸化膜を、非エッチング対象膜であるシリコン窒化膜よりもエッチングすることができた。これは、基板Wの温度が低いほど、水蒸気が基板Wの表面に滞在できる確率が高いからである。言い換えれば、基板Wの温度が低いほど、基板Wの表面での水蒸気の滞在時間が長いからである。つまり、水蒸気がシリコン酸化膜の表面で滞在するほど、水蒸気とHFガスとの反応を伴ってシリコン酸化膜をエッチングできる一方で、水蒸気がシリコン窒化膜の表面で滞在するほど、シリコン窒化膜のエッチングを阻害できるからである。
【0059】
第3条件C3では、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のエッチング量はそれぞれ158.5nmおよび1.7nmであった。よって、選択比はおおよそ92.6である。つまり、第3条件C3では、第2条件C2での選択比よりも高い選択比でシリコン酸化膜をエッチングすることができる。これは、上述のように、基板Wの温度が低いほど、水蒸気が基板Wの表面に滞在できる確率が高いからである。
【0060】
その一方で、第3条件C3でのシリコン酸化膜のエッチング量(158.5nm)は、第2条件C2でのシリコン酸化膜のエッチング量(197.4nm)よりも小さい。つまり、第3条件C3でのシリコン酸化膜のエッチング速度は第2条件C2でのエッチング速度よりも低い。これは、第3条件C3でのチャンバ2内の圧力(40Torr)が第2条件C2でのチャンバ2内の圧力(80Torr)よりも小さいからである。つまり、チャンバ2からの気体の排気流量を大きくしてチャンバ2内の圧力を低減させるので、エッチングに必要なチャンバ2内の水蒸気およびHFガスの量が低減してしまうからである。
【0061】
第4条件C4では、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のエッチング量はそれぞれ82.9nmおよび0.6nmであった。よって、選択比はおおよそ128.3である。つまり、第4条件C4では、第3条件C3での選択比よりも高い選択比でシリコン酸化膜をエッチングすることができる。これは、上述のように、基板Wの温度が低いほど、水蒸気が基板Wの表面に滞在できる確率が高いからである。
【0062】
その一方で、第4条件C4でのシリコン酸化膜のエッチング量(82.9nm)は、第3条件C3でのシリコン酸化膜のエッチング量(158.5nm)よりも小さい。これは、上述のように、チャンバ2内の圧力が小さく、エッチングに必要なチャンバ2内の水蒸気およびHFガスの量が低減してしまうからである。
【0063】
上述の説明から理解できるように、選択比を高めつつも、高いエッチング量でシリコン酸化膜をエッチングするには、基板Wの温度を低くしつつ、チャンバ2内の圧力をある程度維持することが重要である。例えば、第1条件C1および第2条件C2では、チャンバ2内の圧力は80Torrであり、基板Wの温度のみを異ならせている。基板Wの温度が低い第2条件C2では、第1条件C1に比して、選択比が高く、シリコン酸化膜20のエッチング速度も高い。
【0064】
そこで、チャンバ2内の圧力を80Torrに維持しつつ、基板Wの温度を第2条件C2よりも低い30℃を採用することを考える(第5条件C5、
図4参照)。しかしながら、温度30℃での飽和水蒸気圧は、おおよそ30Torrである(
図4も参照)ので、この第5条件C5では、チャンバ2内の圧力が飽和水蒸気圧よりも高くなる。チャンバ2内の水蒸気の圧力(分圧)はチャンバ2内の圧力(80Torr)よりも小さいものの、第5条件C5では、飽和水蒸気圧(30Torr)よりも高くなり得る。したがって、水蒸気が液化して基板Wの表面に付着し得る。このように水蒸気が液化すると、その表面張力により基板Wの表面に形成されたパターンの倒壊を招き得る。
【0065】
これに対して、第1条件C1から第4条件C4では、チャンバ2内の圧力は飽和水蒸気圧よりも小さい(
図4参照)。よって、第1条件C1から第4条件C4のいずれにおいても、水蒸気が液化して基板Wの表面に付着する可能性を低減することができる。理想的には、水蒸気の液化を防止できる。したがって、第1条件C1から第4条件C4のいずれにおいても、当該液化に起因してパターン倒壊が生じる可能性を低減でき、理想的には当該液化に起因したパターン倒壊を防止できる。
【0066】
上述の説明から理解できるように、チャンバ2内に供給されるHFガス、水蒸気および窒素ガスの供給流量、チャンバ2から排気される気体の排気流量ならびに基板Wの温度は、選択比、エッチング量(エッチング速度)および水の飽和蒸気圧に基づいて決定される。例えば、選択比の観点からは基板Wの温度は50℃以下が望ましい。言い換えれば、加熱機構5は温度制御工程(ステップS5)において、基板Wの温度が50℃以下となるように基板Wの温度を制御することが望ましい。選択比に着目すると、基板Wの温度は、より好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは30℃以下である。
【0067】
また、水蒸気の液化という観点からはチャンバ2内の圧力は80Torr以下で飽和水蒸気圧未満となることが望ましい。言い換えれば、APCバルブ9、水蒸気流量コントローラ13、HFガス流量コントローラ14および窒素ガス流量コントローラ15は、チャンバ2内の圧力が80Torr以下で飽和水蒸気圧未満となるように、それぞれ排気流量、水蒸気の供給流量、HFガスの供給流量および窒素ガスの供給流量を制御する。
【0068】
これらのHFガス、水蒸気および窒素ガスの供給流量、チャンバ2からの気体の排気流量ならびに基板Wの温度は例えば予め実験またはシミュレーションにより、設定されてもよい。制御部3は基板Wに対するエッチング処理において、これらの諸量を目標値として、加熱機構5、APCバルブ9、水蒸気流量コントローラ13、HFガス流量コントローラ14および窒素ガス流量コントローラ15を制御する。これにより、水蒸気の液化を低減しつつ、高い選択比でシリコン酸化膜20をエッチングすることができる。
【0069】
また、上述の一例では、HFガス供給工程(ステップS7)においてHFガスの供給を開始するよりも先に、水蒸気供給工程(ステップS6)において、水蒸気の供給を開始している。これによれば、チャンバ2内に水蒸気が供給された状態で、HFガスがチャンバ2内に供給され始める。水蒸気の供給開始からHFガスの供給開始までの第1所定時間は例えば1秒程度から5秒程度の範囲内に設定され得る。
【0070】
もしチャンバ2内に水蒸気が存在しない状態でHFガスが供給された場合、意図しない非エッチング対象膜(例えばシリコン窒化膜)がHFガスによってエッチングされる可能性がある。これに対して、上述の例では、まず水蒸気をチャンバ2内に供給し、水蒸気の供給から第1所定時間(例えば1~5秒)の経過後にHFガスをチャンバ2内に供給している。よって、非エッチング対象膜がエッチングされる可能性を低減できる。言い換えれば、当該非エッチング対象膜を保護することができる。
【0071】
なお、上述の例では、チャンバ2内の圧力が飽和水蒸気圧未満となるように設定された。しかるに、水蒸気の圧力(分圧)が飽和水蒸気圧未満となればよい。そこで、設計者はHFガス、水蒸気および窒素ガスの供給流量とチャンバ2内の圧力とに基づいて水蒸気の分圧を算出し、当該水蒸気の分圧が飽和水蒸気圧未満となるように、各供給流量、排気流量および温度を設定してもよい。
【0072】
<第2の実施の形態>
図5は、エッチング装置1Aの構成の一例を概略的に示す図である。エッチング装置1Aは、チャンバ2用の加熱機構30の有無を除いてエッチング装置1と同様の構成を有している。加熱機構30はチャンバ2を加熱する。
図5の例では、加熱機構30はチャンバ2の側壁に取り付けられている。より具体的な例として、加熱機構30は、チャンバ2の側壁の外壁面に全周に亘って取り付けられている。
【0073】
加熱機構30は、例えば抵抗加熱式の電気ヒータである。なお、加熱機構30は、電気ヒータの代わりに、例えばランプを備えていてもよい。当該ランプが赤外線を基板Wに照射することにより、基板Wを所定温度に温調してもよい。あるいは、加熱機構30は、熱媒体とチャンバ2との間で熱を交換するヒートポンプユニットであってもよい。加熱機構30は制御部3によって制御される。加熱機構30はチャンバ2の温度を水の沸点以上に昇温する。例えば、加熱機構30はチャンバ2の温度が100℃以上かつ200度以下となるようにチャンバ2を加熱する。
【0074】
図6は、エッチング装置1Aの動作の一例を示すフローチャートである。この動作によれば、エッチング装置1の動作に比してステップS5Aがさらに実行される。ステップS5Aは例えばステップS5,S6の間で実行される。ステップS5Aでは、制御部3は加熱機構30を制御してチャンバ2の温度を100℃以上とする(チャンバ温度制御工程)。チャンバ2の温度は、より具体的には、例えばチャンバ2の内壁面の温度である。なお、チャンバ温度制御工程(ステップS5A)は圧力制御工程(ステップS3)と略同時に開始してもよい。
【0075】
これによれば、チャンバ2内の水蒸気が液化してチャンバ2の内壁面に付着する可能性を低減することができる。これにより、チャンバ2が腐食する可能性を低減することができる。
【0076】
以上のように、このエッチング装置1,1Aは詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、このエッチング装置1,1Aがそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【0077】
例えば、上述の例では、エッチング対象膜は酸化膜であるものの、必ずしもこれに限らない。エッチング対象膜は例えばタングステンなどの他の膜であってもよい。要するに、エッチング対象膜は、水蒸気およびHFガスによってエッチングされる膜であればよい。
【0078】
また、上述の例では、チャンバ2内に窒素ガスを供給しているものの、必ずしもこれに限らない。窒素ガスに替えて、アルゴンガスなどの不活性ガスを採用してもよい。水蒸気のキャリアガスについても同様である。
【符号の説明】
【0079】
1,1A エッチング装置
2 チャンバ
5,30 加熱機構
W 基板