IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オムニセック インコーポレイテッドの特許一覧

<>
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図1
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図2
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図3
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図4
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図5
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図6
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図7
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図8
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図9
  • 特許-個別化治療を決定するための方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】個別化治療を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230613BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230613BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230613BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/48 P
C12Q1/6869 Z
G01N33/53 Y
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019518486
(86)(22)【出願日】2017-10-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 US2017055545
(87)【国際公開番号】W WO2018067937
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】62/405,609
(32)【優先日】2016-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/456,072
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519118245
【氏名又は名称】オムニセック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】OMNISEQ,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】モリソン、カール
(72)【発明者】
【氏名】パブラ、サラブジョット
(72)【発明者】
【氏名】コンロイ、ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ネスライン、メアリー
(72)【発明者】
【氏名】ガードナー、マーク
(72)【発明者】
【氏名】ヘ、ジ
(72)【発明者】
【氏名】グレン、ショーン
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/081947(WO,A2)
【文献】Jonathan E Rosenberg et al.,Atezolizumab in patients with locally advanced and metastatic urothelial carcinoma who have progressed following treatment with platinum-based chemotherapy: a single-arm, multicentre, phase 2 trial,THE LANCET,2016年05月07日,Vol.387, No.10031,p.1909-1920,Supplementary appendix;1-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 ー 33/98
C12Q 1/6869
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を分析するための方法であって、前記方法は、
試料中の腫瘍浸潤リンパ球の定性的評価および定量的評価の少なくとも一方を決定するステップであって、腫瘍浸潤リンパ球に関連する複数の遺伝子のRNA発現を決定することを含む、ステップと、
前記試料中のT細胞受容体シグナル伝達の定性的評価および定量的評価の少なくとも一方を決定するステップであって、抗癌免疫応答および/または免疫療法標的に関連する複数のT細胞受容体シグナル伝達遺伝子(TCRS)のRNA発現を決定することを含む、ステップと、
前記試料中の変異負荷の定性的評価および定量的評価の少なくとも一方を決定するステップであって、前記試料のDNA配列決定および分析を含む、ステップと、
腫瘍浸潤リンパ球の決定された定性的評価および決定された定量的評価の少なくとも一方、T細胞受容体シグナル伝達の決定された定性的評価および決定された定量的評価の少なくとも一方、ならびに変異負荷の決定された定性的評価および決定された定量的評価の少なくとも一方に基づいて、治療に対するレスポンダーまたは治療に対するノンレスポンダーとして前記試料に分類指標を提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記分類指標に基づいて、1つ以上の可能な治療療法に対する腫瘍の応答を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料は治療に対する鑑別困難レスポンダーとして前記分類指標が提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
治療に対するノンレスポンダーとして分類指標が提供された試料は、癌の急速な進行のリスクがあるものとしての分類指標がさらに提供れる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試料の前記分類指標を第2の分類指標と相関させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記相関に基づいて、1つ以上の可能な治療療法に対する腫瘍の応答を決定するステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
試料についての免疫組織化学データを決定するステップをさらに含み、前記分類指標を提供するステップはさらに、決定された免疫組織化学データに基づいている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記腫瘍浸潤リンパ球に関連する複数の遺伝子は、少なくとも、CD163、CD2、CD3D、CD3E、CD3G、CD4、CD68、CD8A、CD8B、FOXP3およびCD20を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記腫瘍浸潤リンパ球に関連する複数の遺伝子は、CD163、CD2、CD3D、CD3E、CD3G、CD4、CD68、CD8A、CD8B、FOXP3およびCD20のみからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍浸潤リンパ球に関連する複数の遺伝子および/または前記抗癌免疫応答および/または免疫療法標的に関連する複数のT細胞受容体シグナル伝達遺伝子は、CD163、CD2、CD3D、CD3E、CD3G、CD4、CD68、CD8A、CD8B、FOXP3およびCD20のみからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記抗癌免疫応答および/または免疫療法標的に関連する複数のT細胞受容体シグナル伝達遺伝子は、ADORA2A、CD40LG、TIM3、PD-L2、BTLA、CD80(B7-1)、ICOS、STAT1、VISTA(B7-H5)、CD86(B7-2)、ICOSLG、TBX21、CCL2、CSF1R、IDO1、TGFB1、CCR2、CTLA4、IFNG、TNF、SLAMF4、CXCL10、IL10、TNFRSF14、CD27(TNFRSF27)、CXCR6、IL1B、GITR、PD-L1、DDX58、KLRD1、OX40、CD28、ENTPD1、LAG3、CD137、CD38、GATA3、MX1、OX-40L、CD40、GZMBおよびPD-1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記抗癌免疫応答および/または免疫療法標的に関連する複数のT細胞受容体シグナル伝達遺伝子は、ADORA2A、CD40LG、TIM3、PD-L2、BTLA、CD80(B7-1)、ICOS、STAT1、VISTA(B7-H5)、CD86(B7-2)、ICOSLG、TBX21、CCL2、CSF1R、IDO1、TGFB1、CCR2、CTLA4、IFNG、TNF、SLAMF4、CXCL10、IL10、TNFRSF14、CD27(TNFRSF27)、CXCR6、IL1B、GITR、PD-L1、DDX58、KLRD1、OX40、CD28、ENTPD1、LAG3、CD137、CD38、GATA3、MX1、OX-40L、CD40、GZMBおよびPD-1のみからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記抗癌免疫応答および/または免疫療法標的に関連する複数のT細胞受容体シグナル伝達遺伝子および/または前記腫瘍浸潤リンパ球に関連する複数の遺伝子は、CD163、CD2、CD3D、CD3E、CD3G、CD4、CD68、CD8A、CD8B、FOXP3、CD20、ADORA2A、CD40LG、TIM3、PD-L2、BTLA、CD80(B7-1)、ICOS、STAT1、VISTA(B7-H5)、CD86(B7-2)、ICOSLG、TBX21、CCL2、CSF1R、IDO1、TGFB1、CCR2、CTLA4、IFNG、TNF、SLAMF4、CXCL10、IL10、TNFRSF14、CD27(TNFRSF27)、CXCR6、IL1B、GITR、PD-L1、DDX58、KLRD1、OX40、CD28、ENTPD1、LAG3、CD137、CD38、GATA3、MX1、OX-40L、CD40、GZMBおよびPD-1から選択される遺伝子のうちの少なくともいくつかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記抗癌免疫応答および/または免疫療法標的に関連する複数のT細胞受容体シグナル伝達遺伝子および/または前記腫瘍浸潤リンパ球に関連する複数の遺伝子は、CD163、CD2、CD3D、CD3E、CD3G、CD4、CD68、CD8A、CD8B、FOXP3、CD20、ADORA2A、CD40LG、TIM3、PD-L2、BTLA、CD80(B7-1)、ICOS、STAT1、VISTA(B7-H5)、CD86(B7-2)、ICOSLG、TBX21、CCL2、CSF1R、IDO1、TGFB1、CCR2、CTLA4、IFNG、TNF、SLAMF4、CXCL10、IL10、TNFRSF14、CD27(TNFRSF27)、CXCR6、IL1B、GITR、PD-L1、DDX58、KLRD1、OX40、CD28、ENTPD1、LAG3、CD137、CD38、GATA3、MX1、OX-40L、CD40、GZMBおよびPD-1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記試料のDNA配列決定および分析は、全エクソームシーケンシングまたは部分エクソームシーケンシングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記試料のDNA配列決定および分析は、全エクソームシーケンシングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記試料中の変異負荷は、DNAのメガベースあたりの変異の数である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
決定された前記変異負荷は、参照母集団との比較に基づいて分類されたものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
決定された前記変異負荷は、前記比較に基づいて、(1)非常に高い;(2)高い;(3)中程度の;(4)低い;および(5)非常に低い、のうちの1つとして分類される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
治療に対するレスポンダーまたは治療に対するノンレスポンダーとして前記試料に前記分類指標を提供するステップは、腫瘍浸潤リンパ球の決定された定性的評価および決定された定量的評価の少なくとも一方、T細胞受容体シグナル伝達の決定された定性的評価および決定された定量的評価の少なくとも一方、ならびに変異負荷の決定された定性的評価および決定された定量的評価の少なくとも一方のベイジアンモデル平均化を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、腫瘍治療の推奨を生成するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
黒色腫および非小細胞肺癌(NSCLC)患者では、体細胞変異の割合が高いこと-いわゆる「変異負荷」(MuB)-および、免疫抑制分子CD274(プログラム死-リガンド1タンパク質(PD-L1)として最もよく知られている)を含むチェックポイント遮断の腫瘍内発現の上昇は、免疫チェックポイントブロッカー(ICB)ベースの免疫療法に対する改善された臨床応答と相関することが示されている。しかしながら、免疫療法に対する他の悪性腫瘍に罹患した患者の応答を予測すること-そしておそらく免疫療法と免疫チェックポイント遮断のための他の標的との組み合わせ-は、免疫学的腫瘍微小環境のより深いデコンボリューションが必要である。同様に、悪性腫瘍の免疫学的構成の詳細な特徴付けは、特に標準的なICBに基づく免疫療法に失敗した患者にとって、臨床上の意思決定を支援するために必要であり得る。
【0003】
例えば、免疫チェックポイント分子を標的とする治療用抗体は、いくつかの種類の癌の治療に関してFDAによって承認されている。しかしながら、腫瘍チェックポイント遮断の評価は、プログラム死-リガンド1(PD-L1)タンパク質の状態を測定するFDAに承認されたIHCアッセイに限定されており、これは主観的で分析的に確固たるものではない。免疫チェックポイントを標的とする抗体の数が増えるにつれて、これらの薬物に対する患者の応答を正確に予測するために、腫瘍標本中のさらなるバイオマーカを評価することができるアッセイが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、治療上の決定のための指針として免疫学的腫瘍微小環境を特徴付けることができるアッセイに対する必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、1つ以上の個別化された腫瘍治療に対する癌細胞感受性の有無を決定するための進歩的な方法に関する。
本発明の一態様に従うのは免疫スコアを生成するための方法であり、同方法は、以下のステップ:(i)試料中の腫瘍浸潤リンパ球の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(ii)試料中のT細胞受容体シグナル伝達の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(iii)試料中の変異負荷の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(iv)予測アルゴリズムを用いて、腫瘍浸潤リンパ球の決定された定性的および/または定量的評価、T細胞受容体シグナル伝達の決定された定性的および/または定量的評価、ならびに変異負荷の決定された定性的および/または定量的評価、に基づいて免疫スコアを生成するステップと、を含む。
【0006】
一実施形態によれば、同方法は、免疫スコアに基づいて、1つ以上の可能な治療療法を決定するステップをさらに含む。
一実施形態によれば、予測アルゴリズムは機械学習を使用して訓練され、かつ更新される。
【0007】
本発明の一態様に従うのは腫瘍を分析する方法であり、同方法は、以下のステップ:(i)試料中の腫瘍浸潤リンパ球の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(ii)試料中のT細胞受容体シグナル伝達の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(iii)試料中の変異負荷の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(iv)腫瘍浸潤リンパ球の決定された定性的および/または定量的評価、T細胞受容体シグナル伝達の決定された定性的および/または定量的評価、ならびに変異負荷の決定された定性的および/または定量的評価に基づいて、治療に対するレスポンダー(responder)または治療に対するノンレスポンダー(non-responder)として試料を分類するステップと、を含む。
【0008】
一実施形態によれば、同方法は、決定された分類に基づいて、1つ以上の可能な治療療法に対する腫瘍の応答を決定するステップをさらに含む。
一実施形態によれば、試料は治療に対する鑑別困難レスポンダー(indeterminate responder)として分類される。一実施形態によれば、治療に対するノンレスポンダーとして分類された試料および治療に対するノンレスポンダーは、癌の急速な進行のリスクがあるものとしてさらに分類されてもよい。
【0009】
一実施形態によれば、同方法は、決定された試料の分類を第2の分類と相関させるステップをさらに含む。
一実施形態によれば、方法は、相関に基づいて、1つ以上の可能な治療療法に対する腫瘍の応答を決定するステップをさらに含む。
【0010】
一実施形態によれば、同方法は、試料の免疫組織化学データを決定するステップをさらに含み、前記分類するステップはさらに、決定された免疫組織化学データに基づいている。
【0011】
別の態様に従うのは腫瘍を分析するための方法であり、同方法は以下のステップ:(i)試料中の少なくとも4個の遺伝子の発現レベルの定量的評価を決定するステップ、(ii)4個の遺伝子のうちの最初の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値を超える場合、治療に対するレスポンダーとして試料を分類するか、あるいは、4個の遺伝子のうちの最初の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値を超えない場合、次のステップへ進む、ステップと、(iii)4個の遺伝子のうちの2番目の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値より大きい場合、治療に対するノンレスポンダーとして試料を分類するか、あるいは、4個の遺伝子のうちの2番目の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値を超える場合、次のステップへ進む、ステップと、(iv)4個の遺伝子のうちの3番目の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値を超える場合、治療に対するレスポンダーとして試料を分類するか、あるいは、4個の遺伝子のうちの3番目の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値を超える場合、次のステップへ進む、ステップと、(v)4個の遺伝子のうちの4番目の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値を超える場合、治療に対するノンレスポンダーとして試料を分類するか、あるいは、4個の遺伝子のうちの4番目の遺伝子の発現レベルの決定された定量的評価が所定の閾値を超える場合、治療に対するレスポンダーとして試料を分類するステップと、を含む。
【0012】
別の態様に従うのは腫瘍を分析するための方法であり、同方法は以下のステップ:(i)試料中の免疫細胞浸潤に関連する複数の遺伝子の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(ii)試料中のT細胞活性化に関連する複数の遺伝子の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(iii)試料中のサイトカインシグナル伝達に関連する複数の遺伝子の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(iv)試料中の免疫応答調節に関連する複数の遺伝子の定性的および/または定量的評価を決定するステップと、(v)決定された定性的および/または定量的評価のそれぞれを正規化するステップと、(vi)免疫細胞浸潤の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を超える場合、試料中のT細胞活性化の正規化された定性的および/または定量的評価の分析に進むステップであって、ここで、T細胞活性化の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を超える場合、試料はレスポンダーとして分類され、T細胞活性化の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を超えない場合、試料はノンレスポンダーとして分類される、前記ステップと、(vii)免疫細胞浸潤の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を下回る場合、次のステップに進むステップと、(viii)免疫調節応答の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を超える場合、試料は鑑別困難レスポンダーとして分類されるか、或いは、免疫調節応答の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を超えない場合は次のステップへ進む、ステップと、(ix)サイトカインシグナル伝達の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を超える場合、試料は鑑別困難レスポンダーとして分類されるか、或いは、サイトカインシグナル伝達の正規化された定性的および/または定量的評価が所定の閾値を超えない場合、試料はノンレスポンダーとして分類される、ステップと、を含む。
【0013】
別の態様に従うのは、包括的な免疫プロファイリング臨床報告を患者の臨床医に提供するための方法であり、同方法は、以下のステップ:(i)患者の腫瘍から1つ以上の試料を取得するステップと、(ii)1つ以上の試料から、複数の腫瘍浸潤リンパ球タンパク質および複数のT細胞受容体シグナル伝達タンパク質の発現についての情報を含むRNAシーケンスデータを生成するステップと、(iii)1つ以上の試料から、複数の遺伝子についての変異負荷情報を含むDNAシーケンスデータを生成するステップと、(iv)1つ以上の試料から、他のタンパク質の中でも、PD-L1タンパク質発現およびコピー数増加ならびにCD3およびCD8についての腫瘍浸潤リンパ球タンパク質発現のパターンを測定するための免疫組織化学データおよび蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)データを生成するステップと、(v)RNAシーケンスデータ、DNAシーケンスデータ、ならびに免疫組織化学およびFISHデータから、患者の腫瘍が複数の可能な治療に応答する可能性を計算するステップと、(vii)患者の臨床医に包括的な免疫プロファイリング臨床報告を提供するステップであって、同報告は患者の腫瘍が複数の可能な治療に応答する可能性の計算値を含む前記ステップと、含む。
【0014】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下に記載される実施形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に従う、訓練のために遡及的試料(retrospective samples)のパネルを用いた54遺伝子モデルについての結果のグラフである。
図2】一実施形態に従う、54個の遺伝子および変異負荷(MuB)を利用するモデルの特徴空間の概略図である。
図3】一実施形態に従う、4遺伝子モデルに対する決定木の概略図である。
図4】一実施形態に従う、訓練のために遡及的試料のパネルを使用した4遺伝子モデルについての結果のグラフである。
図5】一実施形態に従う、免疫機能モデルの決定木の概略図である。
図6】一実施形態に従う、訓練のために遡及的試料のパネルを使用した免疫機能モデルの結果のグラフである。
図7】一実施形態に従う、54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、および免疫機能モデルからの出力を用いた最終予測のためのベイジアンモデル平均化(BMA)の概略図である。
図8】一実施形態に従う、訓練のために87の遡及的試料のパネルを使用したベイジアンモデル平均化の結果、および54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、および免疫機能モデルからの結果のグラフである。
図9】一実施形態に従う、1つ以上の個別化腫瘍治療に対する癌細胞の感受性を決定するための4個の異なるモデルからの全体的な結果の表である。
図10】一実施形態に従う、患者の臨床医に報告を提供する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面において、同様の参照文字は、一般に、異なる図を通して同じ部分を指す。また、図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、代わりに本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【0017】
本開示は、1つ以上の個別化腫瘍治療に対する癌細胞の感受性を決定するための方法およびシステムの実施形態に関する。
一実施形態によれば、本開示は、治療有効性を予測するためのアルゴリズム分析アプローチを用いた多検体アッセイ(MAAA)を適用するための方法に関する。
【0018】
Immune Advance(IA)は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、変異負荷(MuB)、T細胞受容体シグナル伝達(TCRS)、免疫関連薬物標的スコア(IRDTS)、および全体的な免疫活性化状態(すなわち、免疫スコア)についての情報を提供するように設計された次世代シーケンシング(NGS)アッセイである。TILの評価はCD8+T細胞に焦点を当てているが、T細胞の他のサブセットおよびB細胞やマクロファージなどの関連する免疫エフェクター細胞に関するさらなる情報を提供している。MuBの評価は、腫瘍内の体細胞変異の総数(高い 対 低い)についての情報を提供するように設計されており、特定の変異について遺伝子レベルで報告するように意図されていない。TCRS、または新生物細胞および他の免疫関連細胞の両方を用いたT細胞のシグナル伝達は、これらの様々な細胞型の相互作用において受容体およびリガンドの両方を表す遺伝子からの発現情報を利用する。IRDTSは、CTLA4およびイピリムマブのような1つ以上の免疫調節剤の直接の標的である一連の遺伝子である。免疫スコア(IS)は、1つ以上のチェックポイント阻害剤(CPI)で治療された患者に関する以前の臨床転帰の参照データベースの文脈で、TIL、MuB、およびTCRSからの情報を利用して、検査した腫瘍の免疫状態の活性化の評価を提供する。
【0019】
Immune Advance(IA)は、RNA配列を使用して多数の免疫関連(IR)遺伝子および複数の発現制御遺伝子のmRNA発現を評価し、DNA配列を使用して1.5Mbターゲットキャプチャにおける変異負荷を評価する次世代シーケンシングアッセイである。RNA配列コンポーネントは最も臨床的に重要な遺伝子の発現を検証し、DNA配列コンポーネントは関与する特定の遺伝子を参照せずに非同義変異(non-synonymous mutations)の数を報告する。例えば、RNA配列、DNA配列および変異負荷分析のうちの1つ以上において利用され得る767個の遺伝子の代表的な表は、本明細書において表2として提供される。
【0020】
IAのRNA配列コンポーネントは、最高レベルで40を超える独自の(unique)遺伝子機能を表す多数の遺伝子を調べる。IAは最も臨床的に重要な遺伝子に焦点を当てており、その多くはT細胞受容体シグナル伝達(TCRS)および腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を分類するための他のいくつかに直接関係している。すべての同定された臨床的に重要な遺伝子のIAの臨床検証部分では、複数のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本のRNA配列データを、カスタムTaqManアッセイの結果、並びに、Cancer Genome Atlasプロジェクト(TCGA)による全トランスクリプトーム分析用の同じ試料セットについての公開されている情報と、比較する。
【0021】
TCRSに関連する遺伝子は、免疫浸潤細胞または新生物細胞上に発現させることができ、典型的には受容体と関連リガンドの対として分類される。TCRSに関連するものとしてIAに分類された全ての遺伝子について、リガンドまたは受容体のいずれかがT細胞の1つ以上のサブセットによって発現される。このTCRS遺伝子リストへの現在のアプローチは、それらを共刺激性もしくは共阻害性T細胞機能、またはチェックポイント経路に分割することである。TCRSに関連する遺伝子は、1つ以上のチェックポイント阻害薬の直接の標的である遺伝子とそうでない遺伝子にさらに分類することができる。チェックポイント阻害薬の直接的な標的は、受容体またはリガンドのいずれかであり得るが、同時に両方ではない。チェックポイント阻害薬および標的の例は、イピリムマブおよび活性化T細胞上に発現される受容体CTLA-4である。
【0022】
TILに関連する遺伝子は多種多様の浸潤性免疫細胞を包含し、IAは既存の分類および関連する遺伝子発現マーカを採用している。古典的には、「免疫スコア」は、3つ以下のTILのマーカを用いて複数の腫瘍型における予後マーカとして報告されている。IAは、CPIへの応答について患者を層別化するためにTILに関連する3つ以上の遺伝子を利用している。
【0023】
IAのDNA配列コンポーネントは、例えば、多くの異なる癌関連遺伝子の1.5Mb AmpliSeqキャプチャである。IAについては、特定の変異は報告されないかもしれないが、むしろ非同義変異の数が報告されるかもしれない。したがって、IAのDNA配列コンポーネントの出力は、変異負荷の評価である。
【0024】
薬物-標的遺伝子発現分析は、1つ以上のチェックポイント阻害薬によって標的とされる各遺伝子に焦点を当てており、そして特定の薬物標的についての予め定められた閾値に基づいてそれぞれの結果を、高い関連性、中間または中程度の関連性、または低い関連性として分類する。各薬物標的についての高い関連性、中間または中程度の関連性、または低い関連性は、標的遺伝子についての100万当たりのリード(read)の単純な評価よりも多く、そしてその標的遺伝子についての上流および下流エフェクターを包含する。例えば、CTLA-4シグナル伝達の主な機能は、第2の受容体であるCD28によって送達される共刺激シグナルに対抗することによってT細胞活性化を下方制御することである。CTLA-4およびCD28の両方は同じリガンド、CD80(B7.1としても知られる)およびCD86(B7.2としても知られる)を共有する。CTLA-4は、リガンド結合に関してCD28よりもこれらのリガンドの両方に対して高い親和性を有し、同等のレベルで発現された場合に全体的な共阻害シグナルを生じる。臨床的には、これはCTLA-4チェックポイント阻害剤のイピリムマブを投与することによって打ち消される。
【0025】
TIL分析は、TILの半定量的評価および/または定量的評価、ならびに免疫エフェクター細胞のさらなるサブセットの定性的および/または定量的評価に焦点を当てている。第1の例において、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は発現されたCD3+およびCD8+転写物の数(リード(read))として報告されている。TILの発現レベルの解釈を助けるために、Aperio画像分析プラットフォームを用いてCD3およびCD8について直接免疫組織化学的比較が行われる。第2の例において、T-調節細胞についてFOXP3、マクロファージについてCD163およびCD68、T-ヘルパー細胞についてICOSおよびCD28、ならびに免疫細胞のサブセットのいくつかの他のマーカのようなTiicのさらなる定性的および/または定量的マーカは、予め定められた転写物のリード閾値に基づいて、高、中、または低として相対的な発現結果として、各々が分類される。薬物-標的評価とは対照的に、Tiicのさらなる様々なマーカについての分析はより簡単であり、そして以前に観察された値に対するランク付けを反映する。
【0026】
変異負荷分析は、エクソームシーケンシングと同等の非同義変異の数に焦点を当てている。1.5Mbターゲットキャプチャ配列の結果は、IAのDNA配列コンポーネントの検証におけるエクソームシーケンシングの状況において提供される。これらの結果は、高い、中程度の、または低い、変異負荷として提供される。200のエクソンの非同義変異に相当するものより大きい変異負荷は高いと報告され、200未満かつ150以上は中程度と報告され、そして150未満が低いと報告される。カットオフ値は任意であり、1つ以上のチェックポイント阻害剤に対する臨床的応答に関してこれまでに文献に報告されているものの要約を反映している。従って、他の多くの閾値が可能である。
【0027】
薬物-標的遺伝子発現、免疫細胞浸潤、および変異負荷の結果をまとめるために、IAは、免疫活性化の全体的評価のために0~100のスケールで単一の免疫スコア(「Immune Score」)を提供する。ISは、この検証における臨床的有用性について試験された単一の患者の結果を表す。
【0028】
別の実施形態によれば、本開示は、比較目的および任意選択的にベイジアンモデリングに利用することができる、独立して開発された少なくとも3つの独自のモデルまたはアプローチを使用して腫瘍治療推奨を生成する方法およびシステムに関する。複数のモデルは、腫瘍治療への機械学習アプローチおよび生物学的アプローチの両方を扱う。一実施形態によれば、少なくとも3つのモデルはチェックポイント阻害剤に対して同様の応答を提供し、ベイジアン平均モデルを利用して最良の適合を表すことができる。
【0029】
54遺伝子モデルと呼ばれ、以下でより詳細に論じる第1のモデルは、多項式機械学習回帰モデル(polynomial machine learning regression model)である。一実施形態によれば、54遺伝子モデルまたはアプローチは、予測のためにMuBと組み合わせて、TILを表す11個の遺伝子およびTCRSについて43個の遺伝子を使用するが、他の遺伝子および組み合わせも可能である。
【0030】
4遺伝子モデルと呼ばれ、以下でより詳細に論じられる第2のモデルは、遺伝子レベルでの生物学的アプローチを表す。一実施形態によれば、4遺伝子モデルまたはアプローチは、予測のためにTILまたはT細胞活性化遺伝子の最良の最小セットを選択するために決定木(decision tree)モデルを利用する。
【0031】
免疫機能モデルまたは遺伝子機能群モデルと呼ばれ、そして以下により詳細に議論される第3のモデルは、機能レベルでの生物学的アプローチを表す。一実施形態によれば、このモデルまたはアプローチは、免疫細胞浸潤を表す13個の遺伝子、T細胞活性化について23個の遺伝子、サイトカインシグナル伝達について10個の遺伝子、および免疫応答調節について8個の遺伝子を利用するが、他の遺伝子および組み合わせも可能である。
【0032】
任意選択である第4のモデルは、一次免疫マーカモデルまたはアプローチと呼ばれる。一次免疫マーカモデルまたはアプローチは、1つ以上の免疫マーカを分析する。一実施形態によれば、一次免疫マーカモデルまたはアプローチは、免疫組織化学を使用してPD-L1タンパク質発現および/または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現(CD3および/またはCD8を含むがこれらに限定されない)を分析する。別の実施形態によれば、一次免疫マーカモデルまたはアプローチは、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)方法論を利用してPD-L1および/またはPD-L2コピー数増加を分析する。
【0033】
別の実施形態によれば、同方法はまた、他の可能性のある要因の中でも特に、マイクロサテライト不安定性(MSI)を分析するためにPCR分析または任意の他の方法論を任意に利用し得る。
【0034】
2つのアプローチの各々は以下により詳細に説明される。
アプローチ1-アルゴリズム分析を用いたIA多検体アッセイ(MAAA)
個別化された腫瘍治療法を導き出すための第1のアプローチによれば、Immune Advance(IA)と呼ばれる多因子分析は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、変異負荷(MuB)、およびT細胞受容体シグナル伝達(TCRS)の定性的および/または定量的評価を提供する。3つの値は、免疫スコアと呼ばれる全体的なスコアを導き出すために使用され、同免疫スコアは、1つ以上のチェックポイント阻害剤(CPI)に対する腫瘍の応答の予測因子である。ほんの一例として、免疫スコアは1~100のスケールで報告することができ、他の多くの可能な報告メカニズムの中でも、CPIに対する高い、中程度の、または低い全体的奏効率(response rate)のような3つの臨床的に関連性のある群として分類できる。
【0035】
IAは、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、変異負荷(MuB)、およびT細胞受容体シグナル伝達(TCRS)の定性的および/または定量的評価を提供するために独自のアルゴリズム分析を利用する。次に、これら3つの値は、全体の免疫スコアを導き出すために使用される。これらの分析のすべては、将来の評価のためにこの検証を通じて開発された以前のIAの結果の参照データベースを利用する。この参照データベースは、以前の臨床結果が既存の結果に追加されるにつれて、例えば四半期ごとに更新される。参照データベースへのこの更新は、更新時より前の臨床結果には影響を与えることはないであろう。TIL、MuB、およびTCRSの評価は既知の臨床転帰とは無関係であるが、以前のIAの結果の参照データベースにおけるこれらのパラメータの観察値に依存する。対照的に、免疫スコアは、現在のFDA承認チェックポイント阻害薬(CPI)に対する応答に関して、参照データベースの臨床転帰の利用を必要とする。
【0036】
IA分析のためのアプローチは、標本のコホートからのRNA配列データを用いて発見された一群の同時発現されたTCRS遺伝子を最初に分析することによって開発された。TILおよびMuBを使用するという概念は、CPIへの応答およびさまざまな腫瘍タイプにおける予後結果に関する査読文献に提供されている情報に基づく評価に追加された。査読文献およびRPCI TCGAコホートからのRNA配列データの分析に基づいて、いくつかの遺伝子をTIL評価に利用することができる。このアプローチは、TILおよびTCRSが高度に関連しており、そして同時発現されているのに対して、MuBはこれら2つのパラメータといくらかは一致するが、それほどではないことを示している。
【0037】
IA分析の最後のアプローチは、CPIに対する応答の患者層別化の文脈においてTIL、MuB、TCRSおよびIASの評価に使用できる数式(つまり、アルゴリズム)を開発することであった。この分析のエンドポイントは、これらの各パラメータを100のスコアに正規化して結果の数値基準(numerical reference)を提供することであった。アルゴリズムは、CPIへの応答のための最終的な患者層別化を導き出すために独特の順序で3つの異なる分析またはステップを利用する。
【0038】
アルゴリズム分析のステップ1は、観察された試験結果のTIL、MuBおよびTCRSについての参照データベースへのランク付けまたはスコアに基づいている。患者の結果を報告する目的のためには、TCRSスコアは報告されていない中間値であるが、TILスコアおよびMuBスコアは報告された値である。このランク付けまたはスコアに使用される数式は、以下のとおりである。
【0039】
TILスコアは、試験試料に対するTIL同定遺伝子の平均の百万当たりの正規化log2リード(reads)以下の参照試料の数/参照試料の総数*100を意味し、最も近い整数に四捨五入されている。
【0040】
TCRSスコアは、試験試料に対するTCRS同定遺伝子の平均の百万当たりの正規化log2リード以下の参照試料の数/参照試料の総数*100を意味し、最も近い整数に四捨五入されている。
【0041】
MuBスコアは、試験試料に対する体細胞変異の数以下の参照試料の数/参照試料の総数*100を意味し、最も近い整数に四捨五入されている。
アルゴリズム分析のステップ2では、TIL、MuB、およびTCRSのスコアは、これらの各パラメータの加重値を使用して、単一の値、すなわち免疫活性化加重スコア(IAWS)に結合される。この免疫加重スコア(IWS)に使用される数式は次のとおりである。
【0042】
IWSスコア=(TILスコア×TILの加重値)+(MuBスコア×MuBの加重値)+(TCRSスコア×TCRSの加重値)であり、かつ最も近い整数に四捨五入されている。
【0043】
TIL、MuBおよびTCRSに対する加重値は、例えば、参照データセット中の既知の治療リスポンダー対ノンリスポンダーに対する最適なIWS(ステップ3参照)を生成するために分類器を訓練する機械学習アプローチに基づくことができる。この分類器は、2つのクラスのIWSが最もよく区別され、TILの加重値+MuBの加重値+TCRの加重値=1.0となるように機能する。レスポンダー/ノンレスポンダーの指示がある参照データセットのランク付けされたIWS内で、高/低スコアを呼び出すために2つの閾値がさらに決定されるため、高閾値を超えるすべての参照試料はレスポンダーを予測する上で95%PPV以上になり、低閾値を下回るすべての参照試料はノンレスポンダーを予測する上で95%NPV以上になる。
【0044】
アルゴリズム分析の任意のステップ3は、観察された試験IWS結果のランク付けまたはスコアに基づいて、IWSを参照データベースへの免疫スコア(IS)に変換することを含む。患者の結果を報告する目的のために、IWSは報告されない中間値であるが、ISは報告された値である。このランク付けまたはスコアに使用される数式は、以下のとおりである。
【0045】
IS=(試験試料のIWSスコア以下である参照データセット内の試料数)/参照試料の総数*100であり、最も近い整数に四捨五入される。
IAアルゴリズムは変わらないが、CPIに対する患者の応答の参照データベースは、将来の臨床試験および患者の応答の追跡調査によって拡大し続けるであろう。TIL、MuB、TCRS、IWS、またはISの定性的および/または定量的評価のいずれかにスコアが割り当てられると、その値は今後の参照データベースへの追加によって変わることはないであろう。
【0046】
アプローチ2-3つ以上のモデルの統合
個別化された腫瘍治療法を導き出すための第2のアプローチによれば、3つの独立したモデル(54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、そして免疫機能モデル)は、個々にまたは1つ以上の可能な組み合わせで利用される。例えば、3つのモデルのうちの2つ以上が比較目的で利用されてもよく、および/またはベイジアン(Bayesian)または他の種類のモデル化のために使用されてもよい。3つのモデルのそれぞれは、1つ以上のチェックポイント阻害剤に対する腫瘍の応答の予測を提供し、そして高度な比較およびモデリング技術は、3つのモデルのうちの2つ以上からの出力を使用して平均または全体予測を提供し得る。
【0047】
個別化された腫瘍治療法を導き出すための第2のアプローチによれば、3つの独立したモデル(54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、そして免疫機能モデル)は、個々にまたは1つ以上の可能な組み合わせで利用される。54遺伝子モデルと呼ばれる第1のモデルは、予測のためにMuBと組み合わせて、TILを表す11個の遺伝子およびTCRSについて43個の遺伝子を使用する多項式機械学習回帰モデルである。4遺伝子モデルと呼ばれる第2のモデルは、遺伝子レベルでの生物学的アプローチを表し、予測のためにTILまたはT細胞活性化遺伝子の最良の最小セットを選択するために決定木モデルを利用する。免疫機能モデルと呼ばれる第3のモデルは、機能レベルでの生物学的アプローチを表し、免疫細胞浸潤を表す13個の遺伝子、T細胞活性化について23個の遺伝子、サイトカインシグナル伝達について10個の遺伝子、および免疫応答調節について8個の遺伝子を利用する。以下に記載されるように、3つのモデルは、個別化された腫瘍治療法を生成または導き出すために独立しておよび/または共同して利用され得る。
【0048】
第2のアプローチのさらなる実施形態によれば、一次免疫マーカモデルまたはアプローチと呼ばれる第4のモデルもまた利用される。第4のモデルは、本明細書に記載されているかまたはそうでなければ想定されるように、免疫組織化学を使用して1つ以上の免疫マーカを分析する。
【0049】
モデル1-54遺伝子モデル
一実施形態によれば、54遺伝子モデルは、予測のためにMuBと組み合わせて、TILを表す11個の遺伝子およびTCRSについて43個の遺伝子を使用する多項式機械学習回帰モデルであるが、他の遺伝子の組み合わせも可能である。
【0050】
54遺伝子モデルは、治療方法および腫瘍応答が知られている複数の遡及的試料(retrospective samples)に基づいて訓練および試験データサイズの異なる組み合わせをベンチマークすること(benchmarking)によって導き出された。N個の試料の訓練サイズに対して、それぞれ無作為に引き出されたN個の試料を使用し、残り((遡及的試料の総数)-N)の試験試料を使用して分類器の性能を評価して、2万回の反復の訓練が行われた。
【0051】
N個の訓練-試料(N-training-sample)に対する分類器の全体的なパフォーマンスは、2万回のベンチマークの平均から計算した。内部ベンチマークから、Nが最初の遡及的母集団(population)の合計の約50%に達すると、分類器のROC/AUC性能は収束することが観察された。公開されているパフォーマンスメトリクス(ROCプロット、AUCスコア、PPV、NPVなど)は、より明示的な一個抜きの(leave-one-out)試験、つまり、各反復(each iteration)が、試験目的のために1つの一意の(unique)試料を残しながら訓練のために86の試料を使用する、一意のN=86テストの87の反復(87 iterations of unique N=86 tests)で計算される。しかしながら、将来の試験目的のための最終予測モデルは、訓練のためにすべての遡及的試料を使用し、それは1つの実験的研究において合計87試料であった。
【0052】
図1を参照すると、一実施形態において、訓練のために遡及的試料のパネルを用いた54遺伝子モデルについての結果のグラフである。グラフに示されるように、結果は、母集団の26%について96%の正の予測値(PPV)、母集団の49%について90%の負の予測値(NPV)、および母集団の25%を表す鑑別困難群を有する。
【0053】
図1には示されていない一実施形態によれば、54遺伝子モデルは、治療に対するレスポンダー、鑑別困難レスポンダー、またはノンレスポンダーとして腫瘍を分類するように決定または設計することができ、かつ癌の急速な進行(hyper-progression)のリスクを予測するように決定または設計することができる。例えば、54遺伝子モデルは、急速進行性(hyper-progressive)疾患のリスクを有するノンレスポンダーのサブセットを同定するように決定または設計することができる。急速進行性疾患のリスクは定性的および/または定量的であり得る。
【0054】
一実施形態によれば、54遺伝子モデルは、54個の異なる遺伝子についての発現情報、および/または409個の遺伝子における変異数の合計としての変異負荷を利用する。表1は、54遺伝子モデルにおいて発現情報を利用することができる遺伝子の代表的なリストを含む。しかしながら、表2で同定された遺伝子を含むがこれに限定されない他の多くの遺伝子がこのモデルにおける発現分析のために可能である。
【0055】
【表1】
【0056】
図2を参照すると、一実施形態において、さらなる特徴としての変異負荷(MuB)と組み合わされた、54個の遺伝子または54個の特徴を利用するモデルの特徴空間の概略図である。一実施形態によれば、個々の特徴としてのMuBは、54個の遺伝子または54個の特徴と等しく扱われる。
【0057】
54遺伝子モデルに適している可能性がある遺伝子を列挙することに加えて、表2はまた、本明細書に記載の免疫機能モデルにおいて発現情報を利用することができる遺伝子を提供する。したがって、表2に列挙された遺伝子は、RNA配列、DNA配列、および変異負荷分析のうちの1つ以上において利用され得る。
【0058】
【表2】
モデル2-4遺伝子モデル
一実施形態によれば、4遺伝子モデルは決定木モデルを利用して、予測のためにTILまたはT細胞活性化遺伝子の最良の最小セットを選択する。4遺伝子モデルは、例えば、54個の遺伝子(他の遺伝子も可能ではあるが)の最初の選択から独立した決定木機械学習アプローチを用いて導き出された。機械学習アルゴリズムは遺伝子のサブセットを選択し、87の訓練試料の全母集団からレスポンダーとノンレスポンダーを最もよく区別する、人間が解釈可能な決定木を構築した。自動的に選択された4個の遺伝子は、T細胞活性化に関連する2個の遺伝子、免疫応答調節に関連する遺伝子およびサイトカインシグナル伝達に関連する遺伝子を含む。
【0059】
図3を参照すると、一実施形態において、4遺伝子モデルに対する決定木の概略図である。4遺伝子モデルにおいて、利用される4個の遺伝子の同一性および特定のカットオフ値は変わり得る。一実施形態によれば、4個の遺伝子はPD-L1、TGFB1、TBX21、およびBTLAであり、これらの遺伝子のそれぞれに対するカットオフ値はそれぞれ171、2043、70.56、および26.38である。さらなる実施形態によれば、第1の遺伝子はPD-L1であり、第2の遺伝子はTGFB1であり、第3の遺伝子はTBX21であり、そして第4の遺伝子はBTLAである。決定木は、各遺伝子の(100万あたりの正規化リード(nRPM)における)発現レベルを利用して一連のYESまたはNO決定を提供する。例えば、遺伝子1のnRPMが特定の閾値またはカットオフ未満である場合、その腫瘍はレスポンダーであると決定される。遺伝子1のnRPMが閾値またはカットオフよりも大きい場合、決定木は次の遺伝子に進む。決定木の結果は、図3に示すように、腫瘍をレスポンダーまたはノンレスポンダーのいずれかとして分類する。
【0060】
図3には示されていない一実施形態によれば、4遺伝子モデルは、治療に対するレスポンダーまたはノンレスポンダーとして腫瘍を分類するように決定または設計することができ、また癌の急速な進行のリスクを予測するように決定または設計することができる。例えば、4遺伝子モデルは、急速進行性疾患のリスクを有するノンレスポンダーのサブセットを同定するように決定または設計することができる。急速進行性疾患のリスクは定性的および/または定量的であり得る。
【0061】
図4を参照すると、一実施形態において、訓練のために87の遡及的試料のパネルを用いた4遺伝子モデルについての結果のグラフである。グラフに示されているように、結果は、母集団の43%に対して72%のPPV、母集団の49%に対して92%のNPVを有し、そして鑑別困難群はなかった。
【0062】
モデル3-免疫機能モデル
一実施形態によれば、免疫機能モデルは、免疫細胞浸潤を表す13個の遺伝子、T細胞活性化について23個の遺伝子、サイトカインシグナル伝達について10個の遺伝子、および免疫応答調節について8個の遺伝子を利用するが、他の遺伝子も可能である。免疫機能モデルは、4遺伝子モデルと同様に、決定木学習法を利用する。しかしながら、個々の遺伝子の予測的重要性を評価する代わりに、免疫機能モデルは、免疫細胞浸潤、免疫応答調節、T細胞活性化、およびサイトカインシグナル伝達を含む所与の免疫機能群における複数の遺伝子の加重平均相対ランクをとる。相対ランクは、遺伝子の正規化発現値(nRPM)を参照母集団のものに対してランク付けし、さらにランクを0~100までの同じ範囲に正規化することによって確立される。免疫機能相対ランクは、参照母集団と比較して同じ機能を有する複数の遺伝子の発現の程度をまとめて反映する。
【0063】
図5を参照すると、一実施形態において、免疫機能モデルの決定木の概略図が示されている。遺伝子セットの同一性は変わり得る。決定木は、4つの異なる免疫機能群(免疫細胞浸潤、免疫応答調節、T細胞活性化、およびサイトカインシグナル伝達)のそれぞれについて相対ランクカットオフ値を利用して一連のYESまたはNO決定を提供し、そして、治療に対するレスポンダー、治療に対するノンレスポンダー、または治療に対する鑑別困難レスポンダーとして、腫瘍を分類することができる。
【0064】
図5に示されていない一実施形態によれば、免疫機能モデルは、治療に対するレスポンダー、鑑別困難レスポンダー、またはノンレスポンダーとして腫瘍を分類するように決定または設計することができ、癌の急速な進行のリスクを予測するように決定または設計することもできる。一実施形態によれば、4つの機能は免疫細胞浸潤、免疫応答調節、T細胞活性化、およびサイトカインシグナル伝達であり、これらの各機能のカットオフ値はそれぞれ58.9、60.25、42.98および69.78である。例えば、免疫機能モデルは、急速進行性疾患のリスクを有するノンレスポンダーのサブセットを同定するように決定または設計することができる。急速進行性疾患のリスクは定性的および/または定量的であり得る。
【0065】
図6を参照すると、一実施形態において、訓練のために87の遡及的試料のパネルを用いた免疫機能モデルについての結果のグラフである。グラフに示されるように、結果は、母集団の21%について72%のPPV、母集団の55%について85%のNPV、および母集団の24%を表す鑑別困難群を有する。
【0066】
一実施形態によれば、免疫機能モデルは、54個の遺伝子(免疫細胞浸潤を表す13個の遺伝子、T細胞活性化について23個の遺伝子、サイトカインシグナル伝達について10個の遺伝子、および免疫応答調節について8個の遺伝子)の発現情報を利用するが、表2に同定された遺伝子を含むがこれらに限定されない多くの他の遺伝子の組み合わせも可能である。表3は、免疫機能モデルにおいて発現情報を利用することができる遺伝子のリストを含む。
【0067】
【表3】
【0068】
モデル4-一次免疫マーカモデル
一次免疫マーカモデルまたはアプローチは任意であり、そして免疫組織化学を利用して1つ以上の免疫マーカを分析する。一実施形態によれば、一次免疫マーカモデルまたはアプローチは、免疫組織化学を使用してPD-L1タンパク質発現および/または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)発現(CD3および/またはCD8を含むがこれらに限定されない)を分析する。別の実施形態によれば、一次免疫マーカモデルまたはアプローチは、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)方法論を利用してPD-L1および/またはPD-L2コピー数増加を分析する。
【0069】
多重モデル相関(Multiple Model Correlation)
一実施形態によれば、54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、および免疫機能モデルのうちの2つ以上からの出力が組み合わされて、個別化腫瘍療法のための最終的な推奨が提供される。
【0070】
例えば、図7を参照すると、一実施形態において、54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、および免疫機能モデルからの出力は、最終予測のためにベイジアンモデル平均化(BMA)を使用して組み合わされた。一実施形態に従って、BMAアルゴリズムは多数決投票の概念に類似しているが、アルゴリズムはまた、最終予測を最適化するために各個々のモデルの性能の事前確率分布(prior probability distribution)を利用する。
【0071】
図7に示されるようなさらなる実施形態によれば、54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、免疫機能モデル、および一次免疫マーカモデルからの出力は、最終予測のためにBMAを使用して組み合わされた。
【0072】
図8を参照すると、一実施形態において、訓練のために87の遡及的試料のパネルを使用したBMAについての結果、および54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、および免疫機能モデルからの結果のグラフである。グラフに示されるように、結果は、母集団の30%について96%のPPV、母集団の70%について90%のNPVを有し、そして鑑別困難群を有さない。
【0073】
図9を参照すると、一実施形態において、54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、免疫機能モデル、およびベイジアンモデル平均化(BMA)のそれぞれからの全体的な結果の表である。
【0074】
本明細書に記載されるかまたはそうでなければ想定される様々なアプローチおよびモデルは、遡及的訓練パネルおよび機械学習を利用して、54遺伝子モデル、4遺伝子モデル、および免疫機能モデルを導き出す。様々なアプローチおよびモデルがより大きくおよび/または異なる遡及的訓練パネルを利用するので、様々な遺伝子およびモデルは変わり得る。
【0075】
免疫報告カード
図10を参照すると、患者の腫瘍微小環境が免疫療法に応答する可能性を含む報告を作成するための方法100が示されている。一実施形態によれば、報告はまた、患者の包括的な免疫プロファイルに基づく1つ以上の個別化治療オプションを含む。一実施形態によれば、この方法は、5つのデータ入力のうちの3つ以上を利用して、可能性(単数または複数)および個別化された治療オプションを決定するために必要なデータを生成する。一実施形態によれば、これら5つのデータ入力は少なくとも以下を含むことができる。
【0076】
1.腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に関連する遺伝子および抗癌免疫応答および免疫療法標的に関連するT細胞受容体シグナル伝達(TCRS)遺伝子の相対転写産物レベルを測定するためのRNA配列。
【0077】
2.変異負荷(MUB)を推定するためのDNA配列。
3.PD-L1タンパク質の発現および腫瘍浸潤リンパ球(TILS)の発現(CD3およびCD8)のパターンを測定するための免疫組織化学(IHC)。
【0078】
4.マイクロサテライト不安定性(MSI)を評価するためのPCR、および/または
5.PD-L1/L2コピー数増加を検出するための蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)。
【0079】
したがって、方法のステップ110において、1つ以上の腫瘍試料または標本が収集される。試料は、現在知られているかまたは将来開発される任意の方法を使用して収集され得る。試料は、患者および/または腫瘍から直接取得されてもよく、または患者および/または腫瘍から以前に取得された試料から得られてもよい。試料は、腫瘍試料であり得るか、または個体から取得された非腫瘍試料であり得る。試料は直ちに分析されてもよく、および/または将来の分析のために保管されてもよい。したがって、試料は、出荷、保管、および/または他の現在もしくは将来の使用のために処理されてもよい。
【0080】
方法のステップ120において、RNA配列データ入力が得られる。一実施形態によれば、RNA配列データ入力は、デジタル遺伝子発現検出のためのアンプリコンベースの標的NGSを使用して免疫関連遺伝子機能を表す395個の遺伝子を調べる次世代シーケンシング(NGS)アッセイを含む。一実施形態は、これらの395個の遺伝子のうち54個に集中し、追加の10個の遺伝子を対照として使用することができる。この実施形態または他の実施形態において、1つ以上の追加の遺伝子(本明細書の1つ以上の表に挙げられている遺伝子のようなもの)を分析して方法の結果において提供することができる。
【0081】
一実施形態によれば、RNA配列データ入力のTIL遺伝子コンポーネントは、浸潤性免疫細胞のサブセットを分類するために同定された遺伝子を含む。遺伝子は、本明細書で同定された11個の遺伝子(CD163、CD2、CD3D、CD3E、CD3G、CD4、CD68、CD8A、CD8B、FOXP3およびCD20)であり得るか、または異なるおよび/または追加の遺伝子を含み得る。予測的免疫バイオマーカまたは生存の予後マーカとしてのTILの適用は、多種多様な腫瘍型において研究されてきた。エビデンスは、CD3+ CD8+細胞傷害性リンパ球がCPIに対する応答と正に関連しているのに対して、FOXP3+ Tregsは負の関連性を有していることを示している。腫瘍におけるTILのパターンもまた重要性を有することが示されている。
【0082】
一実施形態によれば、RNA配列データ入力のT細胞受容体シグナル伝達(TCRS)コンポーネントは、免疫浸潤細胞、新生物細胞、または腫瘍微小環境の他の細胞上で発現される遺伝子を含み、免疫表現型によって、チェックポイント遮断に直接関与するものとして、または適応免疫応答に関連する他の機能に関与するものとして、分類される。遺伝子は、本明細書中で同定された43個の遺伝子(例えば、表1参照)であり得るか、または異なるおよび/またはさらなる遺伝子を含み得る。
【0083】
一実施形態によれば、チェックポイント遮断に関連する免疫表現型は、典型的には受容体および関連リガンドとして分類される。TCRS関連遺伝子のサブセットによれば、リガンドまたは受容体のいずれかが1つ以上のT細胞サブセットによって発現される。チェックポイント遮断に関連する遺伝子は、1つ以上のチェックポイント阻害薬の直接の標的であるものとそうでないものとにさらに分類することができる。チェックポイント阻害薬の直接の標的は、受容体またはリガンドのいずれかであり得るが、同時に両方ではない。チェックポイント阻害薬および標的の例は、イピリムマブおよび活性化T細胞上に発現される受容体CTLA-4である。一実施形態によれば、可能性の報告および個別化された治療オプションはまた、表3に示すように、チェックポイント遮断(PD-1、CTLA-4)、チェックポイント遮断(その他)、またはプライムされたT細胞(T-cell Primed)として、チェックポイント遮断に関連する遺伝子を報告する。チェックポイント遮断およびチェックポイント遮断(その他)は、エフェクターT細胞に対する共阻害シグナル伝達に関連しているが、プライムされたT細胞は共刺激性である。TCRSに間接的に影響を及ぼす適応免疫応答に関連する他の免疫表現型には、骨髄抑制、炎症促進性応答、抗炎症性応答、および代謝免疫回避が含まれる。
【0084】
【表4】
【0085】
各遺伝子の発現は参照母集団(reference population)と比較され、1~100の間の値に正規化され、そして相対ランクと呼ばれる。一実施形態によれば、この方法の基準となる参照母集団は、167の固有の腫瘍に由来するRNA配列の結果からなっていた。95以上の値であるスコア(または相対ランク)の上位95パーセンタイルは非常に高い発現と解釈され、85~94パーセンタイルは高い発現と解釈される。49未満の値であるスコア(または相対ランク)の下位50パーセンタイルは、低いまたは非常に低い発現と見なされる。50~85のスコアは中程度の発現と見なされる。免疫表現型の解釈は、そのクラスの全遺伝子の平均に由来し、個々の遺伝子の発現と同じ方法で正規化値としてランク付けされている。
【0086】
方法のステップ130において、同方法のうち、DNA配列データ入力が得られる。一実施形態によれば、DNA配列データ入力は、全エクソン変異プロファイリングアッセイにおいて、一意のエクソンDNAの1,165,294塩基対をカバーする合計6,602エクソンを評価する完全なエクソンのカバレッジ(coverage)を備えた409個の癌遺伝子の1.75Mb AmpliSeq(登録商標)キャプチャを含む。変異負荷(MUB)は、エクソンDNAのメガベース(Mb)あたりの変異の数として報告されている。MuBは、IRCパネル内の一意のエクソンDNAの90%以上で20倍のカバレッジを提供するバリアントコーリングパイプライン(variant calling pipeline)の開発のための全エクソームシーケンシングを用いて試料のサブセットに対して較正することができる。一実施形態に従って、MuBは、黒色腫におけるチェックポイント阻害剤への応答との高い変異負荷の相関関係を報告する4つの臨床的に関連する査読付き刊行物に対して較正した。同等の全エクソームおよびこれらの4つの参考文献をキャリブレータとして使用して、MbDNAあたりの変異の数によって測定されるMuBのカットオフ値を、167人の患者の内部参照母集団を使用して確立した。これに関して、MuBは、「非常に高い」、「高い」、「中程度の」、「低い」、および「非常に低い」として分類される。高いMuBおよび非常に高いMuBの分類は単一バイオマーカとしてのレスポンダーである可能性が高いが、この測定は感度および特異性を欠いており、IRCにおける他のアッセイ結果から独立して使用されるべきではない。
【0087】
方法のステップ140において、免疫組織化学データ入力が得られる。一実施形態によれば、免疫組織化学データ入力は、PD-L1タンパク質発現および腫瘍浸潤リンパ球(TILS)発現(CD3およびCD8)の測定値を含む。一実施形態によれば、免疫組織化学データ入力は、PD-L1、CD3およびCD8についての発現データを提供するために自動DAKOプラットフォームおよび市販の抗体を利用して得られる。同方法は、3つの全ての分析物についてのタンパク質発現パターンを報告して、腫瘍微小環境において生じる多次元相互作用、ならびにPD-L1に関する発現の半定量的(semi-quantitative)測定をより明確にすることができる。
【0088】
一実施形態によれば、黒色腫について、PD-L1は、PD-L1 IHC 28-8 FDA承認アッセイを使用して行われ、任意の強度の膜染色を示す新生物細胞の割合を報告するためのスコアリングガイドラインに従う。PD-L1 22 C3 FDA承認アッセイは、非小細胞肺癌および他の腫瘍型を試験するために使用され、PD-L1タンパク質発現は、任意の強度で部分的または完全な膜染色を示す生存腫瘍細胞の百分率である腫瘍比率スコア(Tumor Proportion Score)(TPS)を用いて決定される。
【0089】
一実施形態によれば、TILS発現パターン(IHCによって測定される場合のCD3およびCD8)は、「浸潤」、「非浸潤」、または「最小から不在(minimal to absent)」として報告される。「浸潤」パターンは、検査された腫瘍の大部分における新生物細胞の群内のTILの染色を指す。「非浸潤」は、存在するが、検査された腫瘍の大部分において新生物細胞の浸潤群のパターンと矛盾するTILを指す。CD3およびCD8の染色の非浸潤パターンには、腫瘍の前縁に豊富なTILがあるが新生物細胞の浸潤はない場合が含まれる。最小から不在のパターンは、腫瘍の任意の部分内に存在するTILが本質的に最小からゼロである。
【0090】
一実施形態によれば、CD3はT細胞(このアッセイではTILと呼ばれる)を強調し、そして新生物に関連するT細胞集団を同定するために有用である。CD8は、(新生物細胞の真ん中に見いだされたときに)チェックポイント阻害剤(CPI)に対する応答を反映する傾向がある細胞傷害性T細胞を強調している。このレポートで提供されている情報は、FDAが承認した1つ以上のチェックポイント阻害剤による免疫療法がこの患者に有益かどうかを判断するために医師が使用することがある。
【0091】
一実施形態によれば、本方法のPCRコンポーネントは、マイクロサテライト不安定性(MSI)を検出するために、2つのモノヌクレオチド反復マーカ(BAT-25、BAT-26)および3つのジヌクレオチド反復マーカ(D2S123、D5S346およびD17S250)を含む5つのマーカを使用する。別の実施形態によれば、同方法のNGSコンポーネントは、マイクロサテライト不安定性(MSI)を検出するために100個までのホモポリマー、ジヌクレオチド、トリヌクレオチドおよび/またはテトラヌクレオチドマーカを使用する。いずれの場合も、結果は「MSI-高」、「MSI-低」、または「MSS」(マイクロサテライト安定)として報告される。遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)とも呼ばれるリンチ症候群の設定における生存の予後マーカとして通常使用されるMSIは、他の治療オプションのない大腸癌におけるチェックポイント阻害薬および固形癌における二次治療に対する応答のFDAマーカである。
【0092】
結腸直腸癌、子宮内膜癌、およびMSI-Hを伴う他の種類の新生物は散発性である可能性があり(すなわち、マイクロサテライト不安定性は新生物においてのみ見出され、したがって遺伝による疾患の一部ではない)、または遺伝による疾患である(すなわち、DNA修復遺伝子における家族性の遺伝的変異、典型的にはMLH1、PMS2、MSH2、またはMSH6に関連する)リンチ症候群に二次的である。MSI試験ではマイクロサテライト不安定性の存在を判断できるが、どの特定のDNA修復遺伝子が影響を受けているのかを判断することはできない。MLH1、PMS2、MSH2、またはMSH6に対する免疫組織化学を使用して、影響を受ける特定のタンパク質を見つけることができる。発現喪失パターンおよび起源の癌腫組織に応じて、わずかに異なる戦略が示される。具体的には、全米総合癌センターネットワーク(National Comprehensive Cancer Network、NCCN)のガイドラインを検討することを推奨する。リンチ症候群の存在は、病原性のDNA修復遺伝子変異が患者の非腫瘍性組織に見いだされたときに確実に決定される。このような場合、遺伝カウンセリングは、リンチ症候群を患うリスクがある家族の一員の関与を伴って推奨される。MSI-H結腸直腸癌(散発性およびリンチ症候群関連)は、MSS(マイクロサテライト安定)結腸直腸癌とは異なる臨床プロファイル(予後および化学療法応答性)を有することが知られている。
【0093】
一実施形態によれば、同方法のFISHコンポーネントは、増幅されたときにPD-L1発現と関連する2つのPD-1リガンドであるPD-L1(CD274)およびPD-L2(PDCD1LG2)のコピー数を測定する。2個の遺伝子は9p24.1上で40kb離れて位置し、そして遺伝子領域にマッピングする蛍光標識されたBACクローンのプールを用いて検出される(RP11-635N21、RP11-812M23およびRP11-485M14)。結果は、コピー数を増幅している、曖昧である、または増幅していないと判断するためのASCO-CAP HER2テストガイドライン推奨を使用して報告される。増幅されたという結果は、PD-L1/2の任意のコピー数の値について、CEP9に対するPD-L1/2の比が2.0以上の場合、またはCEP9に対するPD-L1/2の比が2.0未満であり、かつPD-L1/2のコピー数の値が6.0以上の場合、である。曖昧であるという結果は、CEP9に対するPD-L1/2の比率が2.0未満で、かつPD-L1/2のコピー数の値が4.0以上6.0未満の場合に発生する。増幅されていないという結果は、CEP9に対するPD-L1/2の比が2.0未満であり、かつPD-L1/2のコピー数の値が4.0以上の場合に生じる。IRCは、PD-L1/2コピー数試験について、従来のNYS-CLEPが承認したOmniSeqの「PD-L1およびPD-L2増幅および検証データSOP」を使用する。
【0094】
方法のステップ150において、ステップ120、130および140のうちの1つまたは複数から入力されたデータが照合され分析される。例えば、一実施形態によれば、出力は、個別化された腫瘍治療に対する最終的な推奨を提供するために組み合わされる。例えば、一実施形態によれば、出力は、最終予測のためにベイジアンモデル平均化(BMA)を使用して組み合わされる。一実施形態によれば、BMAアルゴリズムは多数決投票の概念に類似しているが、アルゴリズムはまた、最終予測を最適化するために各個々のモデルの性能事前確率分布を利用する。しかしながら、2つ以上のデータ入力からデータを照合するための他の多くの方法が可能である。
【0095】
方法のステップ160において、臨床報告が患者の臨床医に提供される。報告は、少なくとも、患者の腫瘍微小環境が特定の免疫療法、および/または組み合わせ免疫療法、および/または免疫療法の臨床試験に応答する可能性を含む。一実施形態によれば、方法のステップ170で、データ入力、照合データ、および/または最終分析を利用して、患者の包括的な免疫プロファイルに基づいて1つ以上の個別化治療オプションを生成する。したがって、患者に提供される報告はまた、1つ以上の個別化された治療オプションを含み得る。
【0096】
一実施形態によれば、患者の臨床医に提供される報告は、以下のうちの1つまたは複数を含むことができる。
・優先免疫マーカ - PD-L1発現、腫瘍浸潤リンパ球(TILS)のパターンおよび発現、マイクロサテライト不安定性(MSI)変異負荷(MUB)、およびPD-L1/L2コピー数増加、を含むがこれらに限定されない、治療管理のための臨床的に関連する免疫マーカについての一目でわかる情報。各マーカについての治療上の関連性についてのエビデンスは、試験した腫瘍の種類に文脈において提供することができる。
【0097】
・要約の解釈 - 優先的免疫マーカおよびTCRS遺伝子発現の両方に基づくこの腫瘍の全体的な免疫状態の病理学者による解釈および特徴付け。要約の解釈は、FDAが承認したチェックポイント阻害剤に対する応答の可能性の主張と免疫表現型評価に基づく臨床治験機会の試験(clinical trial opportunities trials)の概要を提供することができる。
【0098】
・免疫表現型の要約 - 適用可能な各表現型内で高度に発現された遺伝子を示す、いくつかの免疫表現型についての遺伝子発現の概要。各免疫表現型に関連する遺伝子は、類似または同一の作用を有する遺伝子をすべて含むことを意図するものではなく、むしろ発現が厳密に検証された遺伝子である。所与の免疫表現型内のいくつかの遺伝子は、FDA承認治療法または臨床治験のいずれかとして利用可能な関連免疫療法剤である。
【0099】
・免疫表現型の詳細 - 免疫表現型によるTCRS遺伝子の遺伝子レベルの発現ランクと解釈。各遺伝子の発現は、RNA配列コンポーネントにおいて以前に記載されたようにランクおよび解釈として提供される。遺伝子に関連する免疫療法は、試験した腫瘍の種類に関係なく列挙されている。PD-L1を除いて、あらゆる免疫表現型遺伝子の過剰発現および関連するあらゆる免疫療法に対する応答を裏付けるエビデンスは限られているかもしれない。
【0100】
・腫瘍浸潤リンパ球 - さまざまな免疫関連細胞の分化に関連するTILS遺伝子の遺伝子レベルの発現ランクと解釈。
・臨床治験 - 臨床治験は、試験された腫瘍の種類、臨床開発中の治療が「高い」または「非常に高い」にランク付けられる過剰発現マーカについて表示される。「高い」または「非常に高い」にランク付けられるマーカが存在しない場合は、「中程度に高い」にランク付けられるマーカについて臨床治験が表示される。腫瘍へのリンパ球の動員に関する治験は、腫瘍が炎症を起こしていないと見なされる場合に常に表示される。
【0101】
実施例-固形腫瘍における免疫応答の分析
一実施形態によれば、免疫学的腫瘍微小環境の特徴付けを、固形腫瘍に罹患した患者に対する治療上の決定の指針として提供するために、本明細書に記載または他の方法で想定された方法論を利用してホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍標本における免疫応答を分析した。
【0102】
本明細書中に記載されるように、分析は、RNA配列データを利用して、抗癌免疫応答に関連する転写物のレベルおよび腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の相対存在量を反映する転写物のレベル、並びに、変異負荷を推定するためにDNA配列データについて、半定量的に測定した。この実施例には記載されていないが、分析は、本明細書に記載されているかまたはそうでなければ想定されているような一次マーカ免疫データを含み得る。
【0103】
RNA配列データおよびDNA配列データを取得および/または分析するための方法論の実施形態は、以下に記載される。しかしながら、これは単に1つの可能な実施形態であり、したがって決して限定的ではないことが理解される。RNA配列データおよびDNA配列データを取得および/または分析するための他の方法論が可能である。
【0104】
このアッセイは、既存の変異プロファイリングアッセイとは異なり、広範囲のバイオマーカを用いて、患者の腫瘍の免疫学的構成に基づいて免疫療法的治療に患者を正確に一致させる。
【0105】
方法
アッセイの分析性能を評価するために、NSCLC、黒色腫、腎細胞癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、および膀胱癌患者由来の167個のFFPE標本および一致する新鮮凍結(FF)組織のサブセットを得た。標本は、患者の同意を得た機関のバンキングポリシーの下で収集され、この研究は、非ヒト対象研究のための機関のポリシーに従い、内部審査委員会の審査(IRBプロトコル番号BDR073116)によって承認された。
【0106】
標本には、2002年から2016年の、細針吸引生検、パンチ生検、針コア生検、切開生検、切除生検、および切除標本が含まれていた。標本のサブセットについては、全エクソームシーケンシングおよび全トランスクリプトームRNA配列データが、比較の目的ためにThe Cancer Genome Atlas(TCGA)プロジェクトの一部として利用可能であった。4つのヒト細胞株、リンパ芽球体GM12878細胞(ATCC、バージニア州マナッサス)、結腸直腸癌KM-12細胞(NCI-Frederick Cancer DCTD、メリーランド州ベセスダ)、NSCLC HCC-78細胞(DSMZ、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)、およびFFPEブロックとして処理された大細胞リンパ腫SU-DHL-1細胞(ATCC)もまた、開発のためにおよび内部試験対照として使用された。
【0107】
認定解剖病理学者が、試験されるべき領域を同定するために、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した腫瘍切片を検査した。H&E染色切片上の腫瘍表面積はスライドあたり≧2mmであり、腫瘍細胞性は≧50%、そして壊死は≦50%であった。潜在的な分析前干渉の検査のために、核酸抽出のために、非悪性組織および壊死組織も対応する未染色スライドから巨視的に解剖された。病理学者によって同定された領域を、3~5個の未染色スライドから組織を掻き取るためのガイドとして使用した。ゲノムDNAおよび全RNAを、turXTRAC FFPE抽出キット(コバリス社(Covaris,Inc.)マサチューセッツ州ウーバン)を用いて、製造者の指示に従っていくつかの修正を加えて、この材料から同時に抽出した。精製後、RNAおよびDNAをそれぞれ30および50μLの水中に溶出し、収率をQuant-iT RNA HSアッセイおよびQuantifilerヒトDNA定量キット(ともにサーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、マサチューセッツ州、ウォルサム)によって、製造元の推奨事項に従って、決定した。適切なライブラリー調製を確実にするための許容基準として、10ngRNAおよび30ngDNAの予め定められた収量を使用した。
【0108】
ライブラリー調製、濃縮およびNGSのために運転管理が確立され、そして使用された。それらは、陽性(MuB-DNA、GEX-RNA)対照および陰性(MuB-DNA陰性、GEX-RNA陰性)対照の両方、ならびにテンプレートなしの対照(NTC、水)を含んでいた。陽性対照は、認定と下流の正規化の目的のためのすべての標的のためのテンプレートを提供する一方で、陰性対照はアッセイの特異性を監視する。RNA配列では、NTCを使用して個々の試料レベルでの検出限界を同定する。DNA配列については、ランレベルで偽陽性の閾値を同定するためにNTCが使用される。これら5つのラン対照(run controls)の性能特性を複数週にわたって評価して、ランおよび試料の日々のQCパラメータとして機能する閾値およびフィルタを開発した。
【0109】
アッセイは、GEXについてはOncomine Immune Response Researchアッセイ(OIRRA)を、MuBについてはComprehensive Cancer Panel(CCP)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を利用した。これらのパネルは両方とも、FFPEスライドから抽出された核酸を増幅するために、多重化された遺伝子特異的プライマーペアおよびNGSを使用する。OIRRAは、正規化因子(normalizers)として10個の構成的発現ハウスキーピング(HK)遺伝子を使用して54個の標的遺伝子の発現を定量化するように適合された。CCPパネルに含まれる409個の癌関連遺伝子のすべてを用いて、ゲノムDNAからMuBを推定した。
【0110】
OIRRAライブラリーは、Ion AmpliSeq標的配列決定技術(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して調製した。簡単に説明すると、10ngのRNAをcDNAに逆転写し、標的を多重プライマープールで増幅した。DNA配列については、30ngのDNAを用いてCCPライブラリーを調製した。バーコードアダプターを部分的に消化されたアンプリコンにリゲートし、精製し、そして50pMに標準化した。Ion Chefシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いた濃縮およびテンプレート調製の前に、最大16等モルのRNAおよびDNAライブラリーをプールした。Ion S5XL540チップで200bp配列決定を実施して、試料あたり1.5~2.5MのRNA配列マッピングリードおよび100~150X DNA配列平均深さを得た。
【0111】
すべての試料について報告されているすべての遺伝子についてはqRT-PCRとの比較により、そして(適切な材料を含む57試料のサブセットについては自動画像分析に基づいて)CD8AについてはIHCとの比較によりRNA配列の精度を評価した。直交qRT-PCR分析のために、QuantStudio7リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ(AppliedBioSystems)、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いて54個の標的および10個のHK遺伝子をモニタするTaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイによって100ngのRNAを逆転写し、増幅し、そして三連で測定した。IHCについては、腫瘍ごとに配列された3つの0.6mm組織コアを有する組織マイクロアレイ(TMA)からの5μmの厚さの切片を、標準的な手順に従ってCD8Aに特異的な抗体(C8/144B、Dako、アジレントテクノロジーズ(Agilent Technologies)、カリフォルニア州サンタクララ)で染色し、そしてPD-L1は、FDAガイドラインに従って、腫瘍組織学(22C3、Dako、または28-8Dako、またはSP142 Ventana)に特異的に実施される。CD8A+T細胞数に関する定量的IHCデータは、20倍明視野光学顕微鏡法に基づき、Aperio Scanscope(アペリオテクノロジーズ社(Aperio Technologies,Inc.)、カリフォルニア州ビスタ)を用いて得た。画像はeSlide Manager v12.2.1(アペリオテクノロジーズ社)を用いて分析し、そして、各TMAコアについて1平方ミリメートル(sqmm)あたりの陽性細胞の数を計数した。PD-L1の定量的IHC発現データは、腫瘍比率スコア(TPS)、Hスコア(HS)、および修正Hスコア(MHS)を解釈する訓練を受けた病理医によって得られた。最終分析に含めるには、3つのうち2つ以上の評価可能なコア(cores)が必要であった。1平方ミリメートル当たりのCD8A+細胞の平均数、TPS、HS、およびMHSは、少なくとも2つのコアの個々の分析時に各試料から導き出された。
【0112】
配列決定データは、参照マッピングおよびベースコール(base calling)のためにTorrent Suiteソフトウェア(v5.2.0)を使用して最初に処理され、その間に、マッピングされたリード、オンターゲットリード、平均リード長、平均深度、均一性、および有効パーセントリードに対する検証定義QC仕様(validation-defined QC specifications)を許容基準として使用した。高品質の結果を保証するために、検証時に生成されたNGSデータに基づいてQCシステムが開発された。QC基準は、配列決定の1つ以上の態様を許容または棄却するために定義された値を用いて、各核酸の種類およびラン対照閾値に対するラン、試料、アンプリコンおよび塩基対レベルでいくつかの測定基準に対して確立された。同様に、特定のQC測定基準を長期間にわたってモニタして、潜在的な長期アッセイドリフトを検出する。品質フィルタは、アンプリコンレベルで検出のための閾値を下回るカウントを削除するために使用され、低品質のバリアントコールのために塩基対レベルで使用される。
【0113】
RNA配列絶対リードは、Torrent SuiteのプラグインimmunResponseRNA(v5.2.0.0)を使用して生成した。各転写物について、NTCからの絶対リード数(counts)をライブラリー調製のバックグラウンドとみなし、そしてそれ故に同じ調製バッチ中の他の全ての試料の同じ転写物の絶対リード数から差し引いた。ラン間のNGS測定値を評価および解釈に匹敵させることを可能にするために、バックグラウンドを差し引いたリード数を続いて以下のように100万回あたりの正規化リード(nRPM)値に正規化した。各HK遺伝子のバックグラウンドを差し引いたリード値を、100万回あたりの所定のHKリード(HPM)プロファイルと比較した。HKのRPMプロファイルは、検証の異なる配列決定ランにわたるGM12878試料の複数の複製の平均RPMに基づいて確立された。これにより、各HK遺伝子について倍率変化比(fold-change ratio)が得られた。
【0114】
【数1】
【0115】
この後、すべてのHK比の中央値を特定の試料の正規化比として使用した。
正規化比=中央値(すべてのHK比)
特定の試料(S)の全遺伝子(G)のnRPMを次のように計算した。
【0116】
【数2】
【0117】
DNA配列バリアントコール(variant calling)は、Ion Torrent Suiteソフトウェア(バージョン5.2.0)のvariant Caller(バージョン5.2.0.34)プラグインを使用して実施され、これは0.1の最小マイナー対立遺伝子頻度(MAF)および20倍の最小範囲を必要とする。以下の基準を満たすMuB修飾(MuB-qualified)バリアントサブセットを生成したバリアントに一連のフィルタを適用した:少なくとも1つのマイナー対立遺伝子が両方の鎖を読み、1,000ゲノム、Exome Aggregation Consortium(ExAC)およびExome Sequencing Project(ESP)データベースでMAFが<0.2%;ミスセンスまたはナンセンス;は、Ensemblチームの精選データベースにおけるように共存した体細胞バリアントを有している。MuB修飾バリアントの数は、入力BAMファイルに反映されているように、20倍以上の範囲で、エクソン塩基の数に対してさらに正規化され、100万エクソン塩基当たりの突然変異の数として解釈される、正規化されたMuBスコアを生成する。高MuBは、変化する組織型の腫瘍参照母集団におけるメガベースDNAあたりの平均変異数の2倍を超える標準偏差として定義された。
【0118】
RNA配列については、FFPE標本から得られたRNA配列の結果を対応するFF試料と比較することによって、FFPE標本の適合性が確立された。主成分分析(PCA)を用いて、所与のFFPE試料から得られた異なる切片は異なるRNA配列の結果をもたらさないこと、間質の量または質などの潜在的な交絡因子がアッセイによって十分に許容されること、および試験する転移性腫瘍の多発性病巣または原発性病変のいずれも、結果に対する影響は最小限である(データは示さず)、ことを示した。MuBについては、バリアント検出の感度を使用して、腫瘍性核の割合の最低閾値を評価した。
【0119】
RNA配列をゴールドスタンダードのTaqman qRT-PCRと比較するために、標的遺伝子のnRPM値をlog2変換し、これによりqRT-PCR測定からのΔCt値との適切な比較が可能になった。対数変換されたGEX測定値およびΔCt値に基づいて、各遺伝子についてピアソン積率相関係数(R)を計算した。低い相関値(<0.7)を有する遺伝子はいずれも最終報告から除外した。分析前、分析および再現性試験のためのGEX相関を評価するために、54個の標的遺伝子のnRPMについてのR値を変数の一部として使用した。Rは、FFPE対未染色切片、FF対FFPE切片、様々な割合の非腫瘍性組織含有量、壊死性組織含有量、投入(input)RNA量(ng)、ゲノムDNA(gDNA)混入、バッチサイズ、発現の直線性、ラン間での(inter-run)再現性、ラン内での(intra-run)再現性、作業者間での(inter-operator)再現性および日にち間での(inter-day)再現性について計算した。さらに、異なるライブラリー希釈に対する絶対リードにおける直線性を実証するために、決定係数(R2)を使用した。また、54個の標的遺伝子のnRPMについての平均変動係数(CV)を、様々なバッチサイズについてのGEX測定値の分散の尺度として計算した。
【0120】
MuB数とゴールドスタンダードのTCGA全エクソームデータとの相関を評価するために、TCGA全エクソーム数をフィルタリングしてMuBパネルからゲノム領域を選択した。パネルのブラウザ拡張データ(BED)ファイルにマップされたTCGAバリアント数は、ピアソンの積率相関を使用してMuB数と相関していた。未染色切片に対するFFPEの平均MuB値の間の両側スチューデントt検定を用いてDNA安定性を試験した。平均CVは、未染色切片に対するFFPEについてのMuB測定における変動性の尺度として計算した。CVはまた、MuB測定に対するDNA入力量(ng)の効果を実証するためにも使用された。
【0121】
本明細書では様々な実施形態について説明および図示してきたが、当業者は、機能を実行するための、および/または本明細書に記載されている結果および/または利点を得るための様々な他の手段および/または構造を容易に想起するだろう。そして、そのような変形および/または修正の各々は、本明細書に記載の実施形態の範囲内にあると見なされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は特定の用途あるいはその教示が使用される用途に依存することを容易に理解するであろう。当業者は、本明細書に記載の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識し、または単なる日常的な実験を使用して確かめることができるであろう。したがって、前述の実施形態は例としてのみ提示されており、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内であり、実施形態は具体的に説明および特許請求されている以外の方法で実施できることを理解されたい。本開示の実施形態は、本明細書に記載されている個々の各特徴、システム、物品、材料、および/または方法を対象としている。さらに、そのような特徴、システム、物品、材料、および/または方法が互いに矛盾しない場合、そのような特徴、システム、物品、材料、および/または方法の2つ以上の任意の組み合わせは、本開示の範囲内に含まれる。
【0122】
特許請求の範囲は、その旨が記載されていない限り、記載された順序または要素に限定されると解釈されるべきではない。添付の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更が当業者によってなされ得ることが理解されるべきである。以下の特許請求の範囲およびその均等物の精神および範囲内にあるすべての実施形態が特許請求されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10