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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
B62D5/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020004464
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021109625
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】桝上 浩和
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】生地 正
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一史
(72)【発明者】
【氏名】小山 真澄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】仁田野 雅秀
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104488(JP,A)
【文献】特開2019-182266(JP,A)
【文献】特開2008-105604(JP,A)
【文献】特開2015-89717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
F16H 7/00,55/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトと、
前記転舵シャフトに設けられたボールねじ部に複数のボールを介して螺合するボールナットと、
前記転舵輪を転舵させるための駆動力を発生するモータと、
前記モータと一体的に回転する駆動プーリと、
前記ボールナットと一体的に回転する従動プーリと、
前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻き掛けられた歯付きのベルトと、
前記転舵シャフトの位置を検出するためのセンサと、
前記モータを制御するとともに、定められた判定条件が成立するとき、前記ベルトの歯飛びが発生した旨判定する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記転舵シャフトの位置と、前記ベルトの回転方向において区画される複数の領域のうち前記駆動プーリに噛み合う領域とを関連付けて記憶していて、前記ベルトの歯飛びが発生した旨判定されるとき、前記転舵シャフトの位置に基づき前記ベルトの歯飛びが発生した領域を特定する転舵装置。
【請求項2】
前記センサは、前記転舵シャフトの絶対位置を検出する絶対位置センサである請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ベルトの領域ごとに歯飛びの発生回数を計測し、前記ベルトの複数の領域のうちいずれか1つの領域における歯飛びの発生回数が、前記ベルトの滑りが発生するおそれがある旨判定する際の基準として定められた回数しきい値よりも大きい値であるとき、定められた報知動作を実行する請求項1または請求項2に記載の転舵装置。
【請求項4】
前記転舵シャフトとステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されている請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵輪を転舵させる転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1の電動パワーステアリング装置は、モータの回転を転舵シャフトに伝達する構成としてベルト伝動機構を有している。ベルト伝動機構は、モータの出力軸に設けられる駆動プーリ、転舵シャフトに螺合されたボールナットに設けられる従動プーリ、および2つのプーリに巻き掛けられるベルトを有している。電動パワーステアリング装置の制御装置は、ステアリングホイールの操舵速度およびモータの回転速度に基づきベルト伝動機構の異常としてベルトのスリップを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-105604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転舵装置にはより高い信頼性が要求される。このため、ベルトの滑りが発生するおそれがある旨適切に検出することが求められていた。
本発明の目的は、ベルトの滑りが発生するおそれがある旨適切に検出することができる転舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成し得る転舵装置は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトと、前記転舵シャフトに設けられたボールねじ部に複数のボールを介して螺合するボールナットと、前記転舵輪を転舵させるための駆動力を発生するモータと、前記モータと一体的に回転する駆動プーリと、前記ボールナットと一体的に回転する従動プーリと、前記駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻き掛けられた歯付きのベルトと、前記転舵シャフトの位置を検出するためのセンサと、前記モータを制御するとともに、定められた判定条件が成立するとき、前記ベルトの歯飛びが発生した旨判定する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記転舵シャフトの位置と、前記ベルトの回転方向において区画される複数の領域のうち前記駆動プーリに噛み合う領域とを関連付けて記憶していて、前記ベルトの歯飛びが発生した旨判定されるとき、前記転舵シャフトの位置に基づき前記ベルトの歯飛びが発生した領域を特定する。
【0006】
この構成によれば、歯飛びが発生した旨判定されるときの転舵シャフトの位置に基づき、ベルトにおける歯飛びの発生領域を特定することが可能である。歯飛びはベルトの駆動プーリと噛み合う領域において発生する。このため、歯飛びが発生したときの転舵シャフトの位置が分かれば、その転舵シャフトの位置と駆動プーリに噛み合うベルトの領域との関係に基づき、駆動プーリに噛み合うベルトの領域、すなわちベルトにおける歯飛びの発生領域も分かる。ベルトの歯飛びが繰り返し発生することによってベルトの歯面の磨耗が進行し、やがてベルトの滑りに至るおそれがあるところ、ベルトにおける歯飛びの発生領域を特定することができるため、ベルトの滑りが発生するおそれがある旨適切に判定することができる。
【0007】
上記の転舵装置において、前記センサは、前記転舵シャフトの絶対位置を検出する絶対位置センサであってもよい。
この構成によれば、歯飛びが発生した旨判定されるときに絶対位置センサを通じて検出される転舵シャフトの絶対位置に基づき、ベルトにおける歯飛びの発生領域を特定することが可能である。
【0008】
上記の転舵装置において、前記制御装置は、前記ベルトの領域ごとに歯飛びの発生回数を計測し、前記ベルトの複数の領域のうちいずれか1つの領域における歯飛びの発生回数が、前記ベルトの滑りが発生するおそれがある旨判定する際の基準として定められた回数しきい値よりも大きい値であるとき、定められた報知動作を実行するようにしてもよい。
【0009】
この構成によれば、ベルトに滑りが発生するおそれがある旨適切に報知することができる。たとえばベルトの歯飛びが繰り返し発生することに起因してベルトの摩耗が進行し、やがてベルトの滑りが発生するところ、このベルトの滑りが発生する前に運転者に対して注意を喚起することが可能である。また、ベルトの滑りが発生するおそれがあることを運転者に対して早期に報知することによって、より信頼性の高い転舵装置を構築することができる。
【0010】
上記の転舵装置において、前記転舵シャフトとステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されていてもよい。
この構成によるように、転舵装置として、転舵シャフトとステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された構成を採用することもできる。ただし、この構成が採用される場合、ベルトの滑りなどの異常が発生したとき、運転者がステアリングホイールを介して転舵装置の異常を把握することが困難である。このため、ベルトの滑りが発生するおそれがあるときに所定の報知動作を実行する制御装置を備える転舵装置は、特に、転舵シャフトとステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された構成が採用される場合に好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転舵装置によれば、ベルトの滑りが発生するおそれがある旨適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】転舵装置の一実施の形態の構成図。
図2】一実施の形態における制御装置のブロック図。
図3】一実施の形態におけるベルトの複数の領域を示す展開図。
図4】一実施の形態における異常検出回路の記憶領域を示すブロック図。
図5】一実施の形態における転舵シャフトの要部を示す正面図。
図6】一実施の形態における異常検出処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、車両の転舵装置を具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、転舵装置10は、図示しない車体に固定されるハウジング11を有している。ハウジング11の内部には車体の左右方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト12が収容されている。転舵シャフト12の両端には、それぞれタイロッド13,13を介して転舵輪14,14が連結される。転舵シャフト12がその軸線方向に沿って移動することにより転舵輪14,14の転舵角θw,θwが変更される。
【0014】
転舵装置10は、モータ15、伝動機構16、回転角センサ17および制御装置18を有している。また、転舵装置10は、転舵シャフト12の絶対位置Pxを検出する絶対位置センサ19も有している。
【0015】
モータ15は、転舵輪14,14を転舵させるための動力である転舵力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。モータ15は、ハウジング11の外側の部分に固定される。モータ15の出力軸15aは転舵シャフト12に対して平行に延びている。
【0016】
伝動機構16は、ボールナット20、歯付きの駆動プーリ21、歯付きの従動プーリ22、および歯付きの無端状のベルト23を有している。
ボールナット20は、転舵シャフト12のボールねじ部12aに対して図示しない複数のボールを介して螺合されている。ボールねじ部12aは、転舵シャフト12における第1の端部(図1中の左端部)に寄った所定範囲にわたって設けられている。駆動プーリ21は、モータ15の出力軸15aに固定されている。従動プーリ22は、ボールナット20の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト23は、駆動プーリ21と従動プーリ22との間に巻き掛けられている。したがって、モータ15の回転は、駆動プーリ21、ベルト23および従動プーリ22を介してボールナット20に伝達される。
【0017】
回転角センサ17はモータ15に設けられている。回転角センサ17は、モータ15の絶対回転位置、すなわちモータ15の360°を超える多回転にわたる回転角θmを絶対値で検出する。回転角センサ17としては、たとえばレゾルバが採用される。モータ15は伝動機構16を介して転舵シャフト12、ひいては転舵輪14,14に連結されている。このため、モータ15の回転角θmは、転舵シャフト12の軸方向における絶対位置、ひいては転舵輪14,14の転舵角を反映する値である。
【0018】
制御装置18は、モータ15の制御を通じて転舵輪14,14を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置18は、たとえば車載される上位の制御装置が車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に応じて演算する目標転舵角θを取り込む。また、制御装置18は、回転角センサ17を通じて検出されるモータ15の回転角θmを取り込み、この取り込まれるモータ15の回転角θmに基づき転舵シャフト12の絶対位置を演算する。また、制御装置18は、目標転舵角θに基づき転舵シャフト12の目標絶対位置を演算する。制御装置18は、転舵シャフト12の目標絶対位置と実際の絶対位置との差を求め、この差を無くすようにモータ15に対する給電を制御する。
【0019】
つぎに、制御装置18について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置18は、位置検出回路41、位置制御回路42、および電流制御回路43を有している。
【0020】
位置検出回路41は、回転角センサ17を通じて検出されるモータ15の回転角θmを取り込み、この取り込まれる回転角θmに基づき転舵シャフト12の絶対位置を演算する。ちなみに、位置検出回路41により演算される転舵シャフト12の絶対位置の演算範囲の中点が原点、すなわち車両が直進走行しているときの転舵シャフト12の位置である転舵中立位置(転舵角θw=0°)として設定される。
【0021】
位置制御回路42は、前述した上位の制御装置が演算する目標転舵角θに基づき転舵シャフト12の目標絶対位置を演算する。転舵シャフト12と転舵輪14,14とは互いに連動するため、転舵シャフト12の絶対位置と転舵輪14,14の転舵角θwとの間には相間関係がある。この相間関係を利用して目標転舵角θから転舵シャフト12の目標絶対位置を求めることができる。位置制御回路42は、転舵シャフト12の目標絶対位置と位置検出回路41により演算される転舵シャフト12の実際の絶対位置との差を求め、この差を無くすようにモータ15に対する電流指令値Iを演算する。
【0022】
電流制御回路43は、位置制御回路42により演算される電流指令値Iに応じた電力をモータ15へ供給する。これにより、モータ15は、電流指令値Iに応じたトルクを発生する。
【0023】
ここで、転舵装置10には、つぎのような事象が発生するおそれがある。すなわち、車両の縁石乗り上げなどに起因して大きな逆入力荷重が転舵シャフト12に作用した場合、転舵シャフト12がその軸方向へ移動することにより転舵シャフト12の端部がハウジング11に当接する、いわゆる端当てが生じるおそれがある。この場合、転舵シャフト12の移動が物理的に規制されることによって、ボールナット20およびベルト23の回転が規制される。これに対して、モータ15および駆動プーリ21は、その慣性力によって回転し続けようとする。このため、ベルト23には、いわゆる歯飛びが生じるおそれがある。ちなみに、歯飛びとは、ベルトの歯とプーリの歯とが適切に噛み合わないことに起因して、ベルトの歯がプーリの歯を乗り越える現象をいう。プーリの歯を乗り越えたベルトの歯が再びプーリの歯に噛み合う際、ベルトの歯にはより大きな力が加わる。このため、この歯飛びが繰り返し発生するとベルト23の歯の摩耗が進行し、やがてベルト23の滑りが発生するおそれがある。ベルト23の滑りが発生することに伴い伝動機構16の静粛性能あるいはトルク伝達性能が低下することが懸念される。
【0024】
そこで、制御装置18には、伝動機構16の異常としてベルト23の歯飛びを検出する異常検出回路44が設けられている。
異常検出回路44は、回転角センサ17を通じてモータ15の回転角θmを検出する。また、異常検出回路44は、モータ15に対する給電経路に設けられた電流センサ45を通じてモータ15へ供給される実際の電流Imを検出する。異常検出回路44は、モータ15の回転角θmおよびモータ15の電流Imを使用して、ベルト23の歯飛びを検出する。
【0025】
異常検出回路44は、つぎの2つの判定条件(Y1),(Y2)のすべてが成立するとき、ベルト23の歯飛びが発生した旨判定する。ただし、この歯飛びの判定条件は製品仕様などに応じて適宜変更してもよい。
【0026】
(Y1)電流センサ45を通じて検出されるモータ15の電流Imの値が定められた電流しきい値よりも小さいこと。
電流しきい値は、実験あるいはシミュレーションを通じて、ベルト23の歯飛びが発生したときのモータ15の電流Imの値を基準として設定される。ベルト23に歯飛びが発生した場合、モータ15の負荷トルクが一時的に急激に減少するため、モータ15の電流Imの値が急激に減少する。
【0027】
(Y2)モータ15の回転速度の値が定められた速度しきい値より大きいこと。モータ15の回転速度は、回転角センサ17を通じて検出されるモータ15の回転角θmを微分することにより得られる。
【0028】
速度しきい値は、実験あるいはシミュレーションを通じて、ベルト23の歯飛びが発生したときのモータ15の回転速度の値を基準として設定される。ベルト23に歯飛びが発生した場合、モータ15の負荷トルクが一時的に急激に減少するため、モータ15の回転速度が急激に増加する。
【0029】
異常検出回路44は、歯飛びの検出頻度に基づき伝動機構16の異常を検出する。すなわち、異常検出回路44は、ベルト23の歯飛びが検出された回数を計測するカウンタ46を有している。異常検出回路44は、カウンタ46によって計測される歯飛びの回数が定められた回数しきい値を超えたとき、伝動機構16の異常としてベルト23の滑りが発生するおそれがある旨検出する。回数しきい値は、実験あるいはシミュレーションを通じて設定される。
【0030】
異常検出回路44は伝動機構16の異常が検出されるとき、たとえば車室内に設けられる報知装置50に対する報知指令信号S1を生成する。報知指令信号S1は、報知装置50に対して所定の報知動作を実行させるための命令である。報知装置50は、報知指令信号S1に基づき報知動作を行う。報知動作としては、たとえば警告音を発したり、ディスプレイに警告を表示したりすることが挙げられる。
【0031】
ただし、ベルト23の歯飛びは、転舵シャフト12の端部がハウジング11に当接する端当て、あるいは転舵輪14,14が縁石などの障害物に当接する縁石当てなどのように、転舵シャフト12の移動が急激に止められる場合に発生する。このため、歯飛びは必ずしもベルト23の同じ箇所で発生するとは限らない。したがって、異常検出回路44として、ベルト23における歯飛びの発生箇所にかかわらずトータルとしての歯飛びの発生回数を計測する構成を採用する場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、ベルト23がその全体としてみれば未だ使用できる状態であるにもかかわらず、トータルとしての歯飛びの発生回数が回数しきい値を超えたことをもって伝動機構16の異常として報知されるおそれがある。
【0032】
そこで、本実施の形態では、伝動機構16の異常をより適切に検出する観点に基づき、異常検出回路44として、つぎの構成を採用している。
すなわち、異常検出回路44は、ベルト23がその回転方向において複数の領域に区画されることを前提として、これら区画された領域ごとに歯飛びの発生回数を計測する。ベルト23の区画数は、たとえば駆動プーリ21の歯とベルト23の歯との噛み合い枚数に基づき設定されるところ、ここでは説明を簡単にするためにベルト23が3つの領域に区画される場合を一例として挙げる。
【0033】
図3に示すように、ベルト23の一箇所をその幅方向において切断して展開した状態において、ベルト23はその回転方向X1において第1の領域A1、第2の領域A2および第3の領域A3に区画されている。第1の領域A1、第2の領域A2および第3の領域A3の回転方向X1における長さは、すべて同じ長さである。
【0034】
図4に示すように、異常検出回路44はベルト23の領域ごとに歯飛びの発生回数を計測するところ、異常検出回路44の記憶領域47にはベルト23の第1の領域A1における歯飛びの発生回数N1、ベルト23の第2の領域A2における歯飛びの発生回数N2、およびベルト23の第3の領域A3における歯飛びの発生回数N3が記憶される。
【0035】
また、異常検出回路44の記憶領域47には、転舵シャフト12の絶対位置Pxと、駆動プーリ21に噛み合うベルト23の領域(A1~A3)とが関連付けられて記憶される。具体的には、つぎの通りである。
【0036】
図5に示すように、転舵シャフト12の転舵中立位置P0を基準とする最大移動範囲Raは、ベルト23が1つの領域分だけ回転するときの転舵シャフト12の移動量ごとに複数の領域B,B,B・・・Bn-2,Bn-1,Bに区画される。これら領域B~Bには、ベルト23の第1の領域A1、第2の領域A2および第3の領域A3が循環するかたちで、かつ一対一で対応する。たとえば、転舵シャフト12が領域Bの分だけ移動する期間においてベルト23は第1の領域A1の分だけ回転する。したがって、この転舵シャフト12の移動に伴い駆動プーリ21に噛み合うベルト23の領域は3つの領域(A1~A3)の間で遷移する。
【0037】
こうした観点に基づき、表1に示されるテーブルが設定される。このテーブルは、異常検出回路44の記憶領域47に格納される。
表1に示すように、テーブルは、転舵シャフト12の絶対位置Pxと駆動プーリ21に噛み合うベルト23の領域との関係を、転舵シャフト12の領域B~Bごとに規定する。
【0038】
【表1】
したがって、歯飛びが検出された場合、転舵シャフト12の絶対位置Pxが分かれば、表1に示されるテーブルを使用して、ベルト23のどの領域で歯飛びが発生したのかを検出することができる。たとえば、歯飛びが検出された場合、絶対位置センサ19を通じて検出される転舵シャフト12の絶対位置Pxが領域Bに対応する位置であるとき、ベルト23の第1の領域A1が駆動プーリ21と噛み合うタイミングで歯飛びが発生したことがわかる。
【0039】
すなわち、異常検出回路44は、歯飛びが検出された時点における転舵シャフト12の絶対位置Pxに基づき歯飛びが発生したベルト23の領域を特定することができる。異常検出回路44は、ベルト23の3つの領域(A1~A3)のうちいずれか1つの領域において、定められた回数以上の歯飛びが検出されるとき、ベルト23の滑りが発生するおそれがあるとして、報知装置50に対する報知指令信号S1を生成する。
【0040】
<異常検出処理の手順>
つぎに、異常検出回路44により実行される異常検出処理の手順を図6のフローチャートに従って説明する。このフローチャートの処理は、定められた制御周期で実行される。
【0041】
図6のフローチャートに示すように、異常検出回路44は、モータ15の電流Imおよびモータ15の回転速度に基づき、ベルト23の歯飛びが発生したかどうかを判定する(ステップS101)。
【0042】
異常検出回路44は、ベルト23の歯飛びが発生していない旨判定されるとき(ステップS101でNO)、処理を終了する。異常検出回路44は、ベルト23の歯飛びが発生している旨判定されるとき(ステップS101でYES)、その歯飛びの発生箇所がベルト23の第1の領域A1であるかどうかを判定する(ステップS102)。
【0043】
異常検出回路44は、歯飛びがベルト23の第1の領域A1で発生したものである旨判定されるとき(ステップS102でYES)、ベルト23の第1の領域A1における歯飛びの発生回数N1の計測値をインクリメントする(ステップS103)。インクリメントとは、カウンタ46の計測値に所定数(ここでは、「1」)を加算することをいう。
【0044】
つぎに、異常検出回路44は、ベルト23の第1の領域A1における歯飛びの発生回数N1の値が回数しきい値Nth1よりも大きい値であるかどうかを判定する(ステップS104)。回数しきい値Nth1は、たとえばベルト23の同一の領域に歯飛びが繰り返し発生することによって当該領域の摩耗が進行してベルト23に滑りが発生する蓋然性が高いとして定められた回数を基準として設定される。回数しきい値Nth1は、ベルト23の滑りが実際に発生する歯飛び回数の値よりも小さい値である。
【0045】
異常検出回路44は、ベルト23の第1の領域A1における歯飛びの発生回数N1の値が回数しきい値Nth1よりも大きい値である場合(ステップS104でYES)、報知装置50に対する報知指令信号S1を生成して(ステップS105)、処理を終了する。報知装置50は、報知指令信号S1の受信を契機として、定められた報知動作を行う。車両の運転者は、報知装置50の報知動作を通じて、ベルト23の歯飛びが繰り返し発生していること、ひいてはベルト23に滑りが発生するおそれがあることを認識することが可能である。
【0046】
なお、異常検出回路44は、ベルト23の第1の領域A1における歯飛びの発生回数N1の値が回数しきい値Nth1よりも大きい値ではない場合(ステップS104でNO)、処理を終了する。
【0047】
異常検出回路44は、歯飛びがベルト23の第1の領域A1で発生したものではない旨判定されるとき(ステップS102でNO)、その歯飛びの発生箇所がベルト23の第2の領域A2であるかどうかを判定する(ステップS106)。
【0048】
異常検出回路44は、歯飛びがベルト23の第2の領域A2で発生したものである旨判定されるとき(ステップS106でYES)、ベルト23の第2の領域A2における歯飛びの発生回数N2の計測値をインクリメントする(ステップS107)。
【0049】
つぎに、異常検出回路44は、ベルト23の第2の領域A2における歯飛びの発生回数N2の値が回数しきい値Nth2よりも大きい値であるかどうかを判定する(ステップS108)。回数しきい値Nth2は、先の回数しきい値Nth1と同様の観点に基づき設定される。また、回数しきい値Nth2は、ベルト23の滑りが実際に発生する歯飛び回数の値よりも小さい値である。
【0050】
異常検出回路44は、ベルト23の第2の領域A2における歯飛びの発生回数N2の値が回数しきい値Nth2よりも大きい値である場合(ステップS108でYES)、報知装置50に対する報知指令信号S1を生成して(ステップS105)、処理を終了する。
【0051】
なお、異常検出回路44は、ベルト23の第2の領域A2における歯飛びの発生回数N2の値が回数しきい値Nth2よりも大きい値ではない場合(ステップS108でNO)、処理を終了する。
【0052】
異常検出回路44は、歯飛びがベルト23の第2の領域A2で発生したものではない旨判定されるとき(ステップS106でNO)、その歯飛びがベルト23の第3の領域A3で発生したものであるとして(ステップS109)、ベルト23の第3の領域A3における歯飛びの発生回数N3の計測値をインクリメントする(ステップS110)。
【0053】
つぎに、異常検出回路44は、ベルト23の第3の領域A3における歯飛びの発生回数N3の値が回数しきい値Nth3よりも大きい値であるかどうかを判定する(ステップS111)。回数しきい値Nth3は、先の回数しきい値Nth1と同様の観点に基づき設定される。また、回数しきい値Nth3は、ベルト23の滑りが実際に発生する歯飛び回数の値よりも小さい値である。
【0054】
異常検出回路44は、ベルト23の第3の領域A3における歯飛びの発生回数N3の値が回数しきい値Nth3よりも大きい値である場合(ステップS111でYES)、報知装置50に対する報知指令信号S1を生成して(ステップS105)、処理を終了する。
【0055】
なお、異常検出回路44は、ベルト23の第3の領域A3における歯飛びの発生回数N3の値が回数しきい値Nth3よりも大きい値ではない場合(ステップS111でNO)、処理を終了する。
【0056】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)異常検出回路44は、ベルト23の歯飛びが検出されたとき、転舵シャフト12の絶対位置Pxに基づきベルト23の歯飛びが発生した領域を特定することができる。このため、異常検出回路44は、ベルト23の領域ごとに歯飛びの発生回数を計測することが可能となる。ベルト23の滑りは、ベルト23の歯飛びが繰り返し発生してベルト23の歯面の磨耗が進行することにより発生する。したがって、異常検出回路44は、ベルト23の領域ごとに歯飛びの発生回数を計測することによって、伝動機構16の異常としてベルト23に滑りが発生するおそれがあることを適切に検出することができる。また、伝動機構16の異常の推定精度を向上させることができる。
【0057】
(2)異常検出回路44は、3つの領域のうちいずれか1つの領域における歯飛びの発生回数が回数しきい値を超えるとき、伝動機構16の異常としてベルト23に滑りが発生するおそれがある旨報知する。このため、たとえばベルト23におけるトータルとしての歯飛びの発生回数に基づきベルト23の異常を検出する場合と異なり、ベルト23が全体としては未だ使用できる状態であるにもかかわらず、伝動機構16に異常が発生したとして報知されることが抑制される。
【0058】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本実施の形態において、制御装置18は、転舵輪14,14を転舵させる転舵制御を実行する際、モータ15の回転角θmに基づき転舵シャフト12の絶対位置を演算するようにしたが、この演算に代えて絶対位置センサ19を通じて転舵シャフト12の絶対位置を得るようにしてもよい。
【0059】
・本実施の形態では、制御装置18は、転舵輪14,14を転舵させる転舵制御として、目標転舵角θに基づく転舵シャフト12の目標絶対位置とモータ15の回転角θmに基づく転舵シャフト12の実際の絶対位置との差を求め、この差を無くすようにモータ15に対する給電を制御するようにしたが、つぎのようにしてもよい。すなわち、制御装置18は、目標転舵角θに基づきモータ15の目標回転角を演算し、この演算されるモータ15の目標回転角と回転角センサ17を通じて検出されるモータ15の実際の回転角θmとの差を求め、この差を無くすようにモータ15に対する給電を制御する。
【0060】
・本実施の形態では、異常検出回路44は、絶対位置センサ19を通じて検出される転舵シャフト12の絶対位置に基づきベルト23の歯飛びが発生した領域を特定するようにしたが、転舵シャフト12の絶対位置をつぎの(Z1)~(Z3)のようにして取得してもよい。
【0061】
(Z1)異常検出回路44は、位置検出回路41と同様に、回転角センサ17を通じて検出されるモータ15の回転角θmに基づき転舵シャフト12の絶対位置を演算するようにしてもよい。また、異常検出回路44は、位置検出回路41によって演算される転舵シャフト12の絶対位置を取り込むようにしてもよい。これらの構成を採用する場合、回転角センサ17は転舵シャフト12の位置を検出するためのセンサとしても機能する。このため、転舵装置10として絶対位置センサ19を割愛した構成を採用することが可能となる。
【0062】
(Z2)転舵装置10には、たとえば伝動機構16と共に転舵シャフト12をハウジング11の内部に支持するためにピニオンシャフトが設けられることがある。この場合、ピニオンシャフトのピニオン歯は転舵シャフト12に設けられるラック歯に噛み合わされる。ピニオンシャフトは転舵シャフト12の移動に連動して回転するため、転舵シャフト12の絶対位置とピニオン角の回転角との間には相間関係がある。そこで、転舵装置10にピニオンシャフトの回転角を検出する回転角センサを設けたうえで、異常検出回路44は回転角センサを通じて検出されるピニオンシャフトの回転角に基づき転舵シャフト12の絶対位置を演算するようにしてもよい。この構成を採用する場合、ピニオンシャフトの回転角を検出する回転角センサは、転舵シャフト12の位置を検出するためのセンサとしても機能する。このため、転舵装置10として絶対位置センサ19を割愛した構成を採用することが可能となる。
【0063】
(Z3)転舵装置10には、タイヤ角としての転舵角θwを検出する転舵角センサが設けられることが考えられる。この場合、異常検出回路44は転舵角センサを通じて検出される転舵輪14の転舵角θwに基づき転舵シャフト12の絶対位置を演算するようにしてもよい。この構成を採用する場合、転舵角センサは転舵シャフト12の位置を検出するためのセンサとしても機能する。このため、転舵装置10として絶対位置センサ19を割愛した構成を採用することが可能となる。
【0064】
・本実施の形態では、ベルト23を3つの領域に区画したが、ベルト23は2つ以上の領域に区画すればよい。ベルト23の区画数は、要求される歯飛びの検出精度に応じて適宜設定される。ただし、ベルト23をより多くの領域に区画するほど、ベルト23における歯飛びの発生箇所をより正確に特定することが可能となる。
【0065】
・転舵装置10は、ステアリングホイールと転舵輪14,14との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置に適用してもよい。この場合、ステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力装置と転舵装置10とが機械的に連結されないため、転舵装置10に異常が発生した場合であれ運転者がステアリングホイールを介した手応えを通じて転舵装置10の異常を事前に把握することが困難である。この点、本実施の形態の転舵装置10によれば、伝動機構16に異常が発生した場合、その旨報知装置50を通じて報知される。このため、本実施の形態の転舵装置10は、ステアバイワイヤ式の操舵装置に好適である。ちなみに、転舵装置10をステアバイワイヤ式の操舵装置に適用する場合、反力装置の制御装置として車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に基づきステアリングホイールの目標操舵角を演算するものが存在する。この場合、制御装置18は、上位の制御装置としての反力装置の制御装置により演算される目標操舵角を目標転舵角θとして取り込んでもよい。また、転舵装置10は、ステアリングホイールと転舵輪14,14との間の動力伝達がクラッチなどを介して断接可能とされた構成を有するステアバイワイヤ式の操舵装置に適用してもよい。
【0066】
・また、転舵装置10は、ステアリングホイールに対して操舵を補助するための力であるアシストを付与する電動パワーステアリング装置に適用してもよい。この場合、転舵シャフト12にはステアリングシャフトを介してステアリングホイールが連結される。ステアリングホイールの操作に伴い転舵シャフト12はその軸線方向に沿って移動する。制御装置18は、ステアリングホイールに加えられる操舵トルクに応じた電流をモータ15へ供給する。このモータ15のトルクが伝動機構16を介して転舵シャフト12に伝達されることによりステアリングホイールの操作が補助される。
【0067】
<他の技術的思想>
つぎに、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記制御装置は、転舵シャフトの位置と、駆動プーリに噛み合うベルトの領域との関係を規定するテーブルを記憶していること。
【0068】
(ロ)前記ベルトの滑りが発生するおそれがある旨判定する際の基準として定められた回数しきい値は、ベルトの滑りが発生する歯飛び回数の値よりも小さい値であること。
(ハ)前記センサは前記転舵シャフトに連動する構成要素の位置を検出するものであって、前記制御装置は前記センサを通じて検出される前記構成要素の位置に基づき前記転舵シャフトの位置を演算すること。
【符号の説明】
【0069】
10…転舵装置、12…転舵シャフト、12a…ボールねじ部、14…転舵輪、15…モータ、17…回転角センサ、18…制御装置、19…絶対位置センサ、20…ボールナット、21…駆動プーリ、22…従動プーリ、23…ベルト、A1…ベルトの第1の領域、A2…ベルトの第2の領域、A3…ベルトの第3の領域、B~B…転舵シャフトの領域、Nth1,Nth2,Nth3…回数しきい値、Px…転舵シャフトの絶対位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6