(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】高粘度材料の塗布方法および塗布装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20230613BHJP
B05D 1/34 20060101ALI20230613BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230613BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20230613BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D1/34
B05D7/24 301K
B05C5/00 101
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2020048850
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】318007580
【氏名又は名称】アトラスコプコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083091
【氏名又は名称】田渕 経雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141416
【氏名又は名称】田渕 智雄
(72)【発明者】
【氏名】小倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】杉野 弘宜
(72)【発明者】
【氏名】関口 智彦
(72)【発明者】
【氏名】足立 新伍
(72)【発明者】
【氏名】桑原 亨貴
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200095(JP,A)
【文献】特表2009-509734(JP,A)
【文献】特開2000-343006(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0147590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00-7/26
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘度材料をワークに塗布する方法であって、
ノズル径が0.5mm~0.7mmの塗布ノズルからワークの端部およびワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出し、
糸状の高粘度材料を、ワークのおもて面に付着させるとともに、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込ませて付着させる、高粘度材料の塗布方法。
【請求項2】
高粘度材料をワークに塗布する方法であって、
塗布ノズルからワークの端部およびワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の、せん断速度15s
-1
での粘度が300Pa・s以上の高粘度材料を吐出し、
糸状の高粘度材料を、ワークのおもて面に付着させるとともに、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込ませて付着させる、高粘度材料の塗布方法。
【請求項3】
塗布ノズルを円運動させながら、高粘度材料を吐出する、請求項1または請求項2記載の高粘度材料の塗布方法。
【請求項4】
塗布ノズルをワークの端の延び方向に移動させながら、高粘度材料を吐出する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の高粘度材料の塗布方法。
【請求項5】
塗布ノズルの下方にワークの端部を配置した状態で、高粘度材料を吐出する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の高粘度材料の塗布方法。
【請求項6】
高粘度材料をワークに塗布する装置であって、
ワークの端部および該ワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出する塗布ノズルを有し、
前記塗布ノズルのノズル径は、0.5mm~0.7mmである、高粘度材料の塗布装置。
【請求項7】
高粘度材料をワークに塗布する装置であって、
ワークの端部および該ワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出する塗布ノズルを有
し、
前記高粘度材料は、せん断速度15s
-1
での粘度が300Pa・s以上の材料である、高粘度材料の塗布装置。
【請求項8】
前記塗布ノズルは、前記高粘度材料のうち、前記ワークの端部に向けて吐出される高粘度材料部分が前記ワークの端部に付着し、前記ワークの側方の空間に向けて吐出される高粘度材料部分が前記ワークの端を支点にして前記ワークの裏面に回り込んで付着するように、前記高粘度材料を吐出する、
請求項6または請求項7記載の高粘度材料の塗布装置。
【請求項9】
前記塗布ノズルは、円運動しながら前記高粘度材料を吐出する、
請求項6~請求項8のいずれか1項に記載の高粘度材料の塗布装置。
【請求項10】
前記塗布ノズルは、前記ワークの端の延び方向に移動しながら前記高粘度材料を吐出する、請求項
6~請求項9のいずれか1項に記載の高粘度材料の塗布装置。
【請求項11】
前記塗布ノズルは、前記ワークの端部の上方に配置されている、請求項
6~請求項10のいずれか1項に記載の高粘度材料の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤などの高粘度材料をワークに塗布する塗布方法および塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークのおもて面と裏面の両面に接着剤を塗布する方法として、つぎの(i)~(iii)がある。
(i)特許文献1に開示される方法
図13に示すように、塗布装置1を用いてワーク2のおもて面2aに接着剤3を塗布した後、ワーク2を裏返して、同一の塗布装置1を用いてワーク2の裏面2bに接着剤3を塗布する。
(ii)
図14に示す方法
ワーク2のおもて面2aに接着剤3を塗布するための塗布装置1aと、ワーク2の裏面2bに接着剤3を塗布するための塗布装置1bと、を用いて、ワーク2のおもて面2aと裏面2bに同一工程で接着剤3を塗布する。
(iii)
図15に示す方法
塗布装置1cを用いてワーク2のおもて面2aに接着剤3を塗布した後、後工程で塗布装置1dを用いてワーク2の裏面2bに接着剤3を塗布する。
【0003】
しかし、上記(i)~(iii)の方法には、つぎの問題点がある。
上記(i)の方法
ワーク2を裏返す必要がある。そのため、1工程でワーク2の両面に接着剤を塗布することが困難である。
上記(ii)の方法
複数の塗布装置1a、1bが必要である。そのため、コスト上不利である。
上記(iii)の方法
おもて面2aの塗布と裏面2bの塗布の2工程が必要である。そのため、1工程でワーク2の両面に接着剤を塗布することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ワークのおもて面側から高粘度材料を吐出する1工程で、ワークのおもて面と裏面の両面に高粘度材料を塗布できる、高粘度材料の塗布方法および塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 高粘度材料をワークに塗布する方法であって、
塗布ノズルからワークの端部およびワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出し、
糸状の高粘度材料を、ワークのおもて面に付着させるとともに、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込ませて付着させる、高粘度材料の塗布方法。
(2) 塗布ノズルを円運動させながら、高粘度材料を吐出する、(1)記載の高粘度材料の塗布方法。
(3) 塗布ノズルをワークの端の延び方向に移動させながら、高粘度材料を吐出する、(1)または(2)記載の高粘度材料の塗布方法。
(4) 塗布ノズルの下方にワークの端部を配置した状態で、高粘度材料を吐出する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の高粘度材料の塗布方法。
(5) ノズル径が0.5mm~0.7mmの塗布ノズルから、高粘度材料を吐出する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の高粘度材料の塗布方法。
(6) 前記高粘度材料は、せん断速度15s-1での粘度が300Pa・s以上の材料である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の高粘度材料の塗布方法。
(7) 高粘度材料をワークに塗布する装置であって、
ワークの端部および該ワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出する塗布ノズルを有する、高粘度材料の塗布装置。
(8) 前記塗布ノズルは、前記高粘度材料のうち、前記ワークの端部に向けて吐出される高粘度材料部分が前記ワークの端部に付着し、前記ワークの側方の空間に向けて吐出される高粘度材料部分が前記ワークの端を支点にして前記ワークの裏面に回り込んで付着するように、前記高粘度材料を吐出する、(7)記載の高粘度材料の塗布装置。
(9) 前記塗布ノズルは、円運動しながら前記高粘度材料を吐出する、(7)または(8)記載の高粘度材料の塗布装置。
(10) 前記塗布ノズルは、前記ワークの端の延び方向に移動しながら前記高粘度材料を吐出する、(7)~(9)のいずれか1つに記載の高粘度材料の塗布装置。
(11) 前記塗布ノズルは、前記ワークの端部の上方に配置されている、(7)~(10)のいずれか1つに記載の高粘度材料の塗布装置。
(12) 前記塗布ノズルのノズル径は、0.5mm~0.7mmである、(7)~(11)のいずれか1つに記載の高粘度材料の塗布装置。
(13) 前記高粘度材料は、せん断速度15s-1での粘度が300Pa・s以上の材料である、(7)~(12)のいずれか1つに記載の高粘度材料の塗布装置。
【発明の効果】
【0007】
上記(1)の高粘度材料の塗布方法によれば、高粘度材料を、ワークのおもて面に付着させるとともに、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込ませて付着させるため、ワークのおもて面側からのみ高粘度材料を吐出する1工程で、ワークのおもて面と裏面の両面に高粘度材料を塗布できる。
【0008】
上記(2)の高粘度材料の塗布方法によれば、塗布ノズルを円運動させながら、高粘度材料を吐出するため、高粘度材料が螺旋状にワークに向うようになり、ワークのおもて面の端部とワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出できる。
【0009】
上記(3)の高粘度材料の塗布方法によれば、塗布ノズルをワークの端の延び方向に移動させながら高粘度材料を吐出するため、高粘度材料をワークの端に沿って延びて、ワークのおもて面と裏面に塗布することができる。
【0010】
上記(4)の高粘度材料の塗布方法によれば、塗布ノズルの下方にワークの端部を配置した状態で高粘度材料を吐出するため、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料にかかる重力を利用して、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの裏面に回り込ませることができる。そのため、ワークの裏面に回り込ませるのに要する、塗布ノズルの吐出圧力を抑えることができる。
【0011】
上記(5)の高粘度材料の塗布方法によれば、ノズル径が0.5mm~0.7mmであるため、塗布ノズルから吐出される高粘度材料を一続きの糸状にすることができる。
【0012】
上記(6)の高粘度材料の塗布方法によれば、高粘度材料が、せん断速度15s-1での粘度が300Pa・s以上の材料であるため、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料がワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込む際に、高粘度材料がワークの裏面に回り込まずに千切れてしまうことを抑制できる。
【0013】
上記(7)の高粘度材料の塗布装置によれば、ワークの端部およびワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出する塗布ノズルを有するため、塗布ノズルから吐出された高粘度材料を、ワークのおもて面に付着させるとともに、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込ませて付着させることができる。よって、ワークのおもて面側からのみ高粘度材料を吐出する1工程で、ワークのおもて面と裏面の両面に高粘度材料を塗布できる。
【0014】
上記(8)の高粘度材料の塗布装置によれば、塗布ノズルが、高粘度材料のうち、ワークの端部に向けて吐出される高粘度材料部分がワークの端部に付着し、ワークの側方の空間に向けて吐出される高粘度材料部分がワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込んで付着するように、高粘度材料を吐出する。そのため、塗布ノズルから吐出された高粘度材料を、ワークのおもて面に付着させるとともに、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込ませて付着させることができる。よって、ワークのおもて面側からのみ高粘度材料を吐出することで、ワークのおもて面と裏面の両面に高粘度材料を塗布できる。
【0015】
上記(9)の高粘度材料の塗布装置によれば、塗布ノズルが円運動しながら高粘度材料を吐出するため、高粘度材料が螺旋状にワークに向うようになり、ワークのおもて面の端部とワークの側方の空間に向けて一続きの糸状の高粘度材料を吐出できる。
【0016】
上記(10)の高粘度材料の塗布装置によれば、塗布ノズルが、ワークの端の延び方向に移動しながら高粘度材料を吐出するため、高粘度材料をワークの端に沿って延びて、ワークのおもて面と裏面に塗布することができる。
【0017】
上記(11)の高粘度材料の塗布装置によれば、塗布ノズルが、ワークの端部の上方に配置されているため、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料にかかる重力を利用して、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料をワークの裏面に回り込ませることができる。そのため、ワークの裏面に回り込ませるのに要する、塗布ノズルの吐出圧力を抑えることができる。
【0018】
上記(12)の高粘度材料の塗布装置によれば、ノズル径が0.5mm~0.7mmであるため、塗布ノズルから吐出される高粘度材料を一続きの糸状にすることができる。
【0019】
上記(13)の高粘度材料の塗布装置によれば、高粘度材料が、せん断速度15s-1での粘度が300Pa・s以上の材料であるため、ワークの側方の空間に吐出された糸状の高粘度材料がワークの端を支点にしてワークの裏面に回り込む際に、高粘度材料がワークの裏面に回り込まずに千切れてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明実施例の高粘度材料の塗布装置の模式側面図である。
【
図4】
図1に示す装置を使用して行われる高粘度材料の塗布方法によってワークに塗布された高粘度材料の拡大模式透視斜視図である。
【
図5】本発明実施例の高粘度材料の塗布方法および塗布装置に用いられる高粘度材料の粘度を異ならせた場合の、ワークの裏面への塗布状態を示す背面図である。
【
図6】本発明実施例の高粘度材料の塗布方法および塗布装置で得られる効果の第1例を示す模式断面図である。
【
図7】
図6に示す効果の第1例の比較例(本発明実施例ではない)を示す模式断面図である。
【
図8】本発明実施例の高粘度材料の塗布方法および塗布装置で得られる効果の第2例を示す模式断面図である。
【
図9】
図8に示す効果の第2例の比較例(本発明実施例ではない)を示す模式断面図である。
【
図10】本発明実施例の高粘度材料の塗布方法および塗布装置で得られる効果の第3例を示す模式透視斜視図である。
【
図12】
図10、
図11に示す効果の第3例の比較例(本発明実施例ではない)を示す模式透視斜視図である。
【
図13】従来のワークのおもて面と裏面の両面に接着剤を塗布する方法を示す模式図である。
【
図14】従来のワークのおもて面と裏面の両面に接着剤を塗布する方法を示す模式図である。
【
図15】従来のワークのおもて面と裏面の両面に接着剤を塗布する方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明の高粘度材料の塗布方法および塗布装置を説明する。なお、図中UPは、上方を示している。
【0022】
まず、本発明の高粘度材料の塗布装置10を説明する。
【0023】
塗布装置10は、
図1に示すように、高粘度材料30をワーク20に塗布する装置である。塗布装置10は、塗布機11に取付けられる塗布ノズル12を有する。塗布機11は、ロボット13に取付けられている。塗布ノズル12は、ワーク20のおもて面(上面、塗布ノズル12に対向する面)21の端部21aの上方に配置されている。塗布ノズル12は、ワーク20のおもて面21側と裏面22側のうち、ワーク20のおもて面21側から(片側から)のみ、高粘度材料30を吐出する。
【0024】
塗布ノズル12のノズル径は、0.5mm~0.7mmである。ただし、ノズル径は、0.5mm~0.7mmに限定されるものではなく、高粘度材料30の粘度に応じて適切に調整を行ってもよい。また、塗布ノズル12は、高粘度材料30を連続的に吐出することができるようになっている。そのため、塗布ノズル12は、高粘度材料30を一続きの糸状に吐出できる。
【0025】
塗布ノズル12は、
図2に示すように、塗布ノズル12の軸まわりに円運動可能となっている。塗布ノズル12は円運動しながら高粘度材料30を吐出する。そのため、高粘度材料30は、螺旋状(スワール状)にワーク20に向う。
【0026】
塗布ノズル12は、吐出される高粘度材料30の一部がワーク20のおもて面21の端部21aに向い、吐出される高粘度材料30の残部がワーク20の側方の空間Sに向かうように、高粘度材料30を吐出する。塗布ノズル12は、ワーク20のおもて面21の端部21aに向けて吐出される高粘度材料部分31がワーク20のおもて面21の端部21aに付着し、ワーク20の側方の空間Sに向けて吐出される高粘度材料部分32がワーク20のおもて面21の端21bを支点にしてワーク20の裏面22に回り込んで付着するように、高粘度材料30を吐出する。
【0027】
塗布ノズル12からワーク20の端部21aに向けて吐出される高粘度材料部分31と塗布ノズル12からワーク20の側方の空間Sに向けて吐出される高粘度材料部分32には、それぞれ、吐出圧力が作用するとともに鉛直下方へ重力が作用する。そして、ワーク20のおもて面21の端部21aに高粘度材料部分31が付着すると、空間Sに向けて吐出された高粘度材料部分32にはモーメントがかかるため、高粘度材料部分32はワーク20の端21bを支点にしてワーク20の裏側に回り込みワーク20の裏面22に付着する。その結果、高粘度材料30は、ワーク20のおもて面21、裏面22およびおもて面21と裏面22を連結するワーク20の端面23に塗布される。
【0028】
図3に示すように、塗布ノズル12は、ワーク20の端21bの延び方向Dに移動しながら高粘度材料30を吐出する。これは、ワーク20の端21bに沿って延びて高粘度材料30をおもて面21と裏面22に塗布するためである。塗布ノズル12の移動は、ロボット13を移動させることで行われる。なお、
図3は、延び方向Dに移動する塗布ノズル12から吐出される高粘度材料30を表している。
【0029】
高粘度材料30は、熱硬化性樹脂製の接着剤である。高粘度材料30は、二液性熱硬化型エポキシ系構造用接着剤であってもよいが、一液性熱硬化型エポキシ系構造用接着剤であることが望ましい。一液性エポキシ樹脂の場合、加熱するまで接着剤の硬化を抑制することができ、塗布ノズル12から高粘度材料30を比較的容易に一続きの糸状に吐出できるからである。
【0030】
高粘度材料30は、せん断速度15s-1での粘度が300Pa・s以上の材料である。これは、粘度が低いと、ワーク20の裏面22に回り込んで付着する際に高粘度材料30が裏面22に回り込まずに千切れてしまうおそれがあるからである。すなわち、粘度が高い方がワーク20の裏面22への回り込みが良好に行われるからである。
【0031】
つぎに、上記塗布装置10を使用した塗布方法について説明する。
本発明の高粘度材料の塗布方法は、
(i)塗布ノズル12の下方に、ワーク20のおもて面21の端部21aが位置するように、ワーク20と塗布ノズル12を配置する工程と、
(ii)塗布ノズル12からワーク20のおもて面21の端部21aおよびワーク20の側方の空間Sに向けて一続きの糸状の高粘度材料30を吐出し、吐出された糸状の高粘度材料30を、ワーク20のおもて面21に付着させるとともに、ワーク20の側方の空間Sに吐出された糸状の高粘度材料部分32をワーク20の端21bを支点にしてワーク20の裏面22に回り込ませて付着させる工程と、
をこの順に有する。
【0032】
上記(i)の工程について
上記(i)の工程では、
図2に示すように、塗布ノズル12の鉛直下方にワーク20の端部21aの端21bが位置するように、ワーク20と塗布ノズル12を配置する。これは、塗布ノズル12から吐出される高粘度材料30が螺旋状にワーク20に向うことで、吐出される高粘度材料30の一部がワーク20のおもて面21の端部21aに向い、吐出される高粘度材料30の残部がワーク20の側方の空間Sに向かうようにするためである。
【0033】
上記(ii)の工程について
(ii-1) 塗布ノズル12からの高粘度材料30の吐出は、塗布ノズル12を円運動させながら行われる。これは、塗布ノズル12から吐出される高粘度材料30が螺旋状にワーク20に向うようにするためである。
(ii-2) 塗布ノズル12からの高粘度材料30の吐出は、塗布ノズル12をワーク20の端21bの延び方向Dに移動させながら行われる。これは、高粘度材料30をワーク20の端21bに沿って延びて塗布するためである。
(ii-3) 高粘度材料30は、ノズル径が0.5mm~0.7mmの塗布ノズル12から、一続きの糸状に吐出される。ただし、ノズル径は、0.5mm~0.7mmに限定されるものではなく、高粘度材料30の粘度に応じて適切に調整を行ってもよい。一続きにするのは、高粘度材料30をワーク20にムラなく塗布するためである。また、糸状にするのは、ワーク20の側方の空間Sに向けて吐出された高粘度材料部分32の単位長さ当たりの質量が大になりすぎてしまい、高粘度材料部分32がワーク20の裏面22に回り込む際に千切れてしまうことを抑制するためである。
(ii-4) 塗布ノズル12は、ワーク20のおもて面21側と裏面22側のうち、ワーク20のおもて面21側からのみ、高粘度材料30を吐出する。すなわち、本発明の塗布方法では、塗布ノズル12をワーク20の裏面22側に移動させることも、ワーク20を反転させることも、行われない。
【0034】
本発明の高粘度材料30のワーク20への塗布方法および塗布装置によれば、つぎの作用、効果を得ることができる。
(A)高粘度材料30を、ワーク20のおもて面21に付着させるとともに、ワーク20の側方の空間Sに吐出された糸状の高粘度材料部分32をワーク20の端21bを支点にしてワーク20の裏面22に回り込ませて付着させるため、ワーク20のおもて面21側からのみ高粘度材料30を吐出する1工程で、ワーク20のおもて面21と裏面22の両面に高粘度材料30を塗布できる。
【0035】
(B)塗布ノズル12を円運動させながら、高粘度材料30を吐出するため、高粘度材料30が螺旋状にワーク20に向うようになり、ワーク20のおもて面21の端部21aとワーク20の側方の空間Sに向けて一続きの糸状の高粘度材料30を吐出できる。
【0036】
(C)塗布ノズル12をワーク20の端21bの延び方向に移動させながら高粘度材料30を吐出するため、高粘度材料30をワーク20の端21bに沿って延びて、ワーク20のおもて面21と裏面22に塗布することができる。
【0037】
(D)塗布ノズル12の下方にワーク20の端部21aを配置した状態で高粘度材料30を吐出するため、ワーク20の側方の空間Sに吐出された糸状の高粘度材料部分32にかかる重力を利用して、ワーク20の側方の空間Sに吐出された高粘度材料部分32をワーク20の裏面22に回り込ませることができる。そのため、ワーク20の裏面22に回り込ませるのに要する、塗布ノズル12の吐出圧力を抑えることができる。
【0038】
(E)ノズル径が0.5mm~0.7mmであるため、塗布ノズル12から吐出される高粘度材料30を一続きの糸状にすることができる。
【0039】
(F)高粘度材料30が、せん断速度15s-1での粘度が300Pa・s以上の材料であるため、ワーク20の側方の空間Sに吐出された高粘度材料部分32がワーク20の端21bを支点にしてワーク20の裏面22に回り込む際に、高粘度材料30がワーク20の裏面22に回り込まずに千切れてしまうことを抑制できる。
【0040】
(G)ワーク20のおもて面21側からのみ高粘度材料30を吐出する1工程で、ワーク20のおもて面21と裏面22の両面に高粘度材料30を塗布できるため、つぎの効果を得られる。
図7は、本発明の比較例(現状)を示している。比較例では、車体のサイドフレームアウター100とサイドフレームインナー101の間に配置されるサイドフレームレインフォース102を、サイドフレームアウター100とサイドフレームインナー101の両方に接着させる場合、サイドフレームレインフォース102の片側面102aに接着剤300を塗布し、さらに別工程でサイドフレームインナー101の片側面101aに接着剤300を塗布していた。そのため、接着剤300を塗布するのに2工程を要していた。
それに対して、
図6に示すように、本発明の塗布方法および塗布装置を用いることで、サイドフレームレインフォース102の両面102a、102bに高粘度材料である接着剤300を1工程で塗布できるため、接着剤300を塗布する工程を1工程にまとめることができる。
【0041】
(H)高粘度材料部分32がワーク20の端21bを支点にしてワーク20の裏側に回り込みワーク20の裏面22に付着するため、高粘度材料30を、ワーク20のおもて面21、裏面22およびおもて面21と裏面22を連結するワークの端面23に塗布すること0ができる。そのため、つぎの効果(H1)、(H2)を得られる。
【0042】
(H1)
図9は、本発明の比較例(現状)を示している。比較例では、第1の被着材103の片側面103aのみを第2の被着材104に接着させる場合、第1の被着材103の片側面103aのみに接着剤300を塗布して第1の被着材103と第2の被着材104とを接着させていた。そのため、接着剤300が第1の被着材103と第2の被着材104との間に存在するとともに、第1の被着材103と第2の被着材104の間からはみ出した接着剤部分301が第1の被着材103の端面103cの少なくとも一部を覆っていた。しかし、接着剤部分301が第1の被着材103の端面103cの全体を完全に覆うとは限らない。そのため、端面103cからの腐食を抑制するために、塗装工程でシーラー105を塗布する必要があった。
それに対して、
図8に示すように、本発明の塗布方法および塗布装置を用いることで、第1の被着材103の両面103a、103bおよび端面103cに高粘度材料である接着剤300を塗布できるため、接着剤300が第1の被着材103と第2の被着材104との間に存在するだけでなく、接着剤300が確実に第1の被着材103の端面103cを覆う。そのため、第1の被着材103の端面103cからの腐食を抑制するためのシーラー105(
図9)の塗布が不要になる。
【0043】
(H2)
図12は、本発明の比較例(現状)を示している。鉄板106の端106a-1にバリ107が発生することがある。そのため、比較例では、鉄板106の近傍を通るワイヤハーネス108がバリ107によって傷つくことを抑制するために、ワイヤハーネス108に保護材109を巻く必要があった。
それに対して、
図10、
図11に示すように、本発明の塗布方法および塗布装置を用いることで、鉄板106の両面106a、106bおよび端面106cに高粘度材料である接着剤300を塗布できるため、鉄板106に存在するバリ107を接着剤300で覆うことができる。そのため、ワイヤハーネス108をバリ107から保護するための保護剤109(
図12)が不要になる。
【実施例】
【0044】
塗布装置10を用いて高粘度材料30をワーク20へ両面塗布する評価を実施した。
〔粘度評価〕
高粘度材料30として一液性熱硬化型エポキシ系構造用接着剤を用いた。そして、接着剤の室温(15℃以上25℃以下)およびせん断速度15s-1での粘度を100Pa・s、300Pa・s、500Pa・sと変えたときの、ワーク20の裏面22への塗布状態を、調べた。
【0045】
得られた結果を表1に示す。また、
図5は、ワーク20の裏面22に塗布された接着剤の状態を示している。
【0046】
【0047】
表1と
図5から、接着剤の粘度が高い方がワーク20の裏面22への回り込み性が良好であることがわかった。また、粘度の低下とともに裏面22に付着する接着剤が伸びることがわかった。また、接着剤の粘度が100Pa・sでは、接着剤が裏面22に回り込まずに千切れることがわかった。したがって、高粘度材料30として一液性熱硬化型エポキシ系構造用接着剤を用いる場合、高粘度材料30は、室温(15℃以上25℃以下)およびせん断速度15s
-1での粘度が300Pa・s以上が望ましいことがわかった。
【0048】
〔ノズル径および流量の評価〕
高粘度材料30として、室温(15℃以上25℃以下)およびせん断速度15s-1での粘度が300Pa・s以上の一液性熱硬化型エポキシ系構造用接着剤を用いた。そして、塗布ノズル12のノズル径(mm)と流量(cc/秒)を変えてワーク20に塗布した。
得られた結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
表2から、つぎのことがわかった。
(a)ノズル径が0.6mmの場合、吐出流量が1.0cc/秒、1.2cc/秒、1.4cc/秒および1.6cc/秒の全てで、ワーク20の両面に接着剤を千切れることなく塗布できた。
(b)ノズル径が0.5mmの場合、吐出流量が1.0cc/秒と1.2cc/秒では、ワーク20の両面に接着剤を千切れることなく塗布できたが、吐出流量が1.4cc/秒と1.6cc/秒では、ワーク20の両面に接着剤を千切れることなく塗布することはできなかった。
(c)ノズル径が0.7mmの場合、吐出流量が1.2cc/秒、1.4cc/秒および1.6cc/秒では、ワーク20の両面に接着剤を千切れることなく塗布できたが、吐出流量が1.0cc/秒では、ワーク20の両面に接着剤を千切れることなく塗布することはできなかった。
(d)ノズル径が1.0mmの場合、吐出流量が1.0cc/秒、1.2cc/秒、1.4cc/秒および1.6cc/秒の全てで、ワーク20の両面に接着剤を千切れることなく塗布することはできなかった。
(e)以上より、高粘度材料30として一液性熱硬化型エポキシ系構造用接着剤を用いる場合、ノズル径は0.6mmが望ましく、0.5mmまたは0.7mmは流量によっては許容範囲であることがわかった。
【符号の説明】
【0051】
10 塗布装置
11 塗布機
12 塗布ノズル
13 ロボット
20 ワーク
21 ワークのおもて面
21a ワークのおもて面の端部
21b ワークの端
22 ワークの裏面
23 ワークの端面
30 高粘度材料
D ワークの端の延び方向
S ワークの側方の空間