IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 南亞塑膠工業股▲分▼有限公司の特許一覧

<>
  • 特許-繊維布の脱色方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】繊維布の脱色方法
(51)【国際特許分類】
   D06L 4/70 20170101AFI20230613BHJP
   B01D 11/02 20060101ALI20230613BHJP
   D06L 1/02 20060101ALI20230613BHJP
   D06B 19/00 20060101ALI20230613BHJP
   D06B 21/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
D06L4/70
B01D11/02 A
D06L1/02
D06B19/00 B
D06B21/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021115682
(22)【出願日】2021-07-13
(65)【公開番号】P2022129344
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】110106481
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】▲荘▼ 榮仁
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 章鑑
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-046192(JP,A)
【文献】特開2020-133089(JP,A)
【文献】特開昭58-219005(JP,A)
【文献】特開2015-048570(JP,A)
【文献】特公昭53-007198(JP,B2)
【文献】特公昭53-027309(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B1/00-23/30、
D06C3/00-29/00、
D06G1/00-5/00、
D06H1/00-7/24、
D06J1/00-1/12、
D06L1/02、D06L4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料をつけた繊維布を提供する工程S1と、
抽出溶媒を用いて前記繊維布につけた前記染料を抽出する工程S2と、
マイクロ波を印加することで前記抽出溶媒を気化させ、乾燥且つ脱色した繊維布を得ると共に、気化した前記抽出溶媒を収集・凝結する工程S4と、を含み、
前記工程S4において、抽出溶媒の熱伝導方向及び抽出溶媒の物質移動の方向は同一であり、前記抽出溶媒の回収率は、90%以上であることを特徴とする繊維布の脱色方法。
【請求項2】
前記工程S2において、70~130℃の温度において前記抽出溶媒で抽出を行う、請求項1に記載の繊維布の脱色方法。
【請求項3】
前記工程S2と前記工程S4との間に、ろ過で一部の前記抽出溶媒を分離する工程S3をさらに含む、請求項1に記載の繊維布の脱色方法。
【請求項4】
前記工程S3を行った後に、ろ過で一部の前記抽出溶媒を分離した後の、前記繊維布及び前記繊維布に残留する前記抽出溶媒の総重量を100重量%として、前記繊維布に残留する前記抽出溶媒は、5~70重量%である、請求項3に記載の繊維布の脱色方法。
【請求項5】
前記工程S4を行った後に、マイクロ波を印加した後の、前記繊維布及び前記繊維布に残留する前記抽出溶媒の総重量を100重量%として、前記繊維布に残留する前記抽出溶媒は、0~5重量%である、請求項1に記載の繊維布の脱色方法。
【請求項6】
前記抽出溶媒と前記繊維布との重量比(前記抽出溶媒の重量/前記繊維布の重量)は、10~30である、請求項1に記載の繊維布の脱色方法。
【請求項7】
前記工程S4において、マイクロ波を印加した後に、前記繊維布の温度は、前記抽出溶媒の沸点より高い、請求項1に記載の繊維布の脱色方法。
【請求項8】
前記工程S2を1~6回繰り返す、請求項1に記載の繊維布の脱色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維布の脱色方法に関し、特に、抽出溶媒を効果的に回収することができる、繊維布の脱色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する意識の高まりにより、産業廃棄物や住宅廃棄物をどのようにリサイクルするかが今日の重要な課題及びビジネスチャンスとなっている。多くのリサイクル可能な製品の中で、繊維布は重要である。繊維布のリサイクルの過程では、染料を完全に除去できないと、その後の精製処理を行うことができないので、染料をどのように効果的に除去するかが重要な課題とみなされる。
【0003】
繊維布につけた染料を除去するために、抽出溶媒を添加することにより染料を抽出することは一般的である。従来の技術において、抽出効果を高めることに関する大量な文献が提出され、例えば、特定の溶媒を選択することや、特定の抽出方式を利用することが挙げられる。
【0004】
全体の繊維布の脱色過程において、抽出溶媒の染料に対する抽出効果は重要であるが、環境保護の面から、抽出溶媒の回収率を高めること、及び抽出溶媒の排出量を低減することも重要とみなされる。抽出溶媒を任意に排出すると、環境を汚染することは必至となり、企業の持続可能性の初心に反することになる。従って、本発明は、抽出溶媒回収率を高める改良方法に着目し、それによって、環境への負担を低減した上で、抽出溶媒の使用コストを低減することができる。
【0005】
従来の繊維布の脱色方法において、抽出工程を行った後に、熱風乾燥(hot-air drying)または真空乾燥(vacuum drying)で繊維布を乾燥し、熱風回収や真空ポンピングを行う際に収集されたガスで抽出溶媒を回収することは通常である。熱風乾燥または真空乾燥においてはいずれも、ガスで残留の溶媒を除去することにより、繊維布を乾燥する効果を達成する。しかしながら、抽出溶媒は、全体の乾燥工程において容易に散逸するので、抽出溶媒の回収率を効果的に高めることができず、通常、従来の繊維布の脱色方法において、抽出溶媒の回収率は80%に止まる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、繊維布の脱色方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的問題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、繊維布の脱色方法を提供することである。繊維布の脱色方法は、染料をつけた繊維布を提供する工程と、抽出溶媒を用いて前記繊維布につけた前記染料を抽出する工程と、マイクロ波を印加することで前記抽出溶媒を気化させ、乾燥且つ脱色した布を得る工程とを含む。
【0008】
本発明の一つの実施形態において、70~130℃の温度において前記抽出溶媒で抽出を行う。
【0009】
本発明の一つの実施形態において、マイクロ波を印加する前に、ろ過で一部の前記抽出溶媒を分離する。
【0010】
本発明の一つの実施形態において、ろ過で一部の前記抽出溶媒を分離した後の、前記繊維布及び前記繊維布に残留する前記抽出溶媒の総重量を100重量%として、前記繊維布に残留する前記抽出溶媒は、5~70重量%である。
【0011】
本発明の一つの実施形態において、前記繊維布及び前記繊維布に残留する前記抽出溶媒の総重量を100重量%として、前記繊維布に残留する前記抽出溶媒は、0~5重量%である。
【0012】
本発明の一つの実施形態において、気化した前記抽出溶媒を収集・凝結すると共に、前記抽出溶媒の回収率は、90%以上である。
【0013】
本発明の一つの実施形態において、前記抽出溶媒と前記繊維布との重量比は、10~30である。
【0014】
本発明の一つの実施形態において、マイクロ波を印加する工程において、抽出溶媒の熱伝導方向及び物質移動の方向は同一である。
【0015】
本発明の一つの実施形態において、マイクロ波を印加した後に、前記繊維布の温度は、前記抽出溶媒の沸点より高い。
【0016】
本発明の一つの実施形態において、前記抽出溶媒を用いて、前記繊維布につけた前記染料を1~6回に抽出する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有利な効果として、本発明に係る繊維布の脱色方法は、「マイクロ波を印加することで前記抽出溶媒を気化させる」といった技術特徴により、抽出溶媒の散逸を低減すると共に、抽出溶媒の回収率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る繊維布の脱色方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0020】
以下、所定の具体的な実施態様によって「繊維布の脱色方法」を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つまたは複数の組み合わせを含むことがある。
【0021】
従来の技術における、溶媒を回収し難い問題を解決するために、本発明は、染色された繊維布を提供すること(工程S1)と、繊維布につけた染料を抽出すること(工程S2)と、繊維布を乾燥すること(工程S3、S4)といった3つの段階を主に含む、繊維布の脱色方法を提供する。
【0022】
注目すべきことは、本発明は、繊維布を乾燥する段階において、他の熱源(例えば、熱風)で間接的に繊維布を加熱することではなく、エネルギー(例えば、マイクロ波)を繊維布に印加することで、繊維布を直接加熱し乾燥する効果を達成するものである。
【0023】
繊維布の温度が抽出溶媒の沸点より高いときに、繊維布に含まれた、若しくは残留された抽出溶媒は気化するので、気化した抽出溶媒を収集・凝結することにより、抽出溶媒を回収する効果を達成する。本発明では、他のガス媒体で繊維布を加熱することはないので、抽出溶媒の濃度がガス媒体で希釈されることはなく、高濃度の抽出溶媒ガスを直接収集して、抽出溶媒が散逸するリスクを低減することができる。
【0024】
図1に示すように、本発明は、染色された繊維布を提供する工程(工程S1)と、抽出溶媒を用いて繊維布につけた染料を抽出する工程(工程S2)と、ろ過で一部の抽出溶媒を分離する工程(工程S3)と、気密タンクにおいてマイクロ波を印加することで他の部分の抽出溶媒を気化させ、乾燥且つ脱色した繊維布を得る工程(工程S4)とを含む、繊維布の脱色方法を提供する。本発明に係る繊維布の脱色方法は、繊維布を脱色するだけでなく、90%以上の抽出溶媒を回収して、抽出溶媒による環境汚染を回避することができる。
【0025】
工程S1において、染色された繊維布は、染料をつけた繊維布である。
【0026】
繊維布は、ポリエステルで製造された繊維布であってもよく、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、またはポリアリレート(PAR)であってもよい。また、ポリエステルに他の成分を配合することができ、例えば、綿、ナイロンが挙げられるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0027】
工程S2において、抽出溶媒を用いて繊維布につけた染料を抽出する。抽出溶媒と繊維布との混合方式について制限されるものではなく、抽出の効果を達成できれば、本発明の請求の範囲に含まれる。
【0028】
一つの実施形態において、抽出溶媒は、液態で繊維布と接触することで、繊維布につけた染料を抽出する。具体的に、抽出溶媒及び繊維布を脱色タンクに入れて撹拌・混合し続けることで、抽出溶媒と繊維布とを接触させ続けることにより、繊維布につけた染料を抽出する効果を達成する。このような操作方式において、抽出溶媒における染料濃度は、時間の経過と共に徐々に増加し、抽出溶媒における染料濃度は飽和すると、抽出溶媒の抽出効果は低減すると共に、繊維布が再び染色される問題を起こすこともある。よって、抽出の過程において、きれいな抽出溶媒を補充する必要がある。
【0029】
他の実施形態において、抽出溶媒は気態で繊維布と接触することで、繊維布につけた染料を抽出する。具体的に、抽出溶媒を抽出ガスになるまでに加熱し、次に、抽出ガスと繊維布とを接触させることで、繊維布につけた染料を抽出する。このような操作方式において、高純度の抽出ガスと繊維布とを接触させるので、抽出効果は抽出溶媒における染料の濃度によって制限されなく、繊維布が再び染色される問題も起こさない。
【0030】
本発明では、抽出温度が70~130℃になるように更に制御し、好ましくは、抽出温度は110~130℃である。前記温度範囲で抽出を行うと、より良好な抽出効果を果たせる。なお、繊維布に対して1~6回に抽出を行うことで、繊維布を徹底的に脱色させることができ、それによって、白色度(L値)が75を超える繊維布を得られる。
【0031】
一つの実施形態において、抽出溶媒と繊維布との重量比は、10~30である。抽出溶媒の含有量は低すぎると、長い抽出時間がかかり、且つ新たな抽出溶媒を補充し続ける必要があるので、製造工程の進行として不利である。抽出溶媒の含有量は高すぎると、この後の工程において、大量の染料が含まれた抽出溶媒を処理する必要があるので、コストを高めることとなる。
【0032】
一つの実施形態において、抽出溶媒は、繊維布及び染料に基づいて選択することができる。例えば、抽出溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル(EM、沸点124℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DEM、沸点194℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(TEM、沸点122℃/10mmHg)、エチレングリコールモノエチルエーテル(EE、沸点135.6℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DE、沸点201.9℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(EB、沸点171℃)、エチレングリコールプロピルエーテル(EP、沸点151.3℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM、沸点120℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM、沸点190℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PE、沸点132.8℃)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(DPE、沸点223.5℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(PNB、沸点171.1℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(DPNB、沸点222℃)、プロピレングリコールプロピルエーテル(PP、沸点149℃)、及びジプロピレングリコールプロピルエーテル(DPP、沸点243℃)が挙げられるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0033】
抽出溶媒は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルのうちの一つ以上であることは好ましい。一つの好ましい実施形態において、抽出溶媒はプロピレングリコールモノメチルエーテルであり、プロピレングリコールモノメチルエーテルを用いてポリエステル材料の繊維布に対する抽出を行うときに、より良好な抽出効果を果たせる。
【0034】
繊維布を乾燥する段階において、本発明では、ろ過で一部の抽出溶媒を分離する工程(工程S3)を行った後に、マイクロ波加熱で他の部分の抽出溶媒を分離する工程(工程S4)を行う。このように、回収にかかる時間を全体的に低減し、且つ極めて優れた抽出溶媒の回収率を達成することができる。説明すべきことは、工程S3は、選択的な工程であり、実際的な操作過程に応じて、工程S3を省略するか否かについて調整できる。
【0035】
一つの実施形態において、抽出溶媒は、液態で繊維布に直接的に接触させて抽出を行う時に、通常、ろ過で一部の前記抽出溶媒を分離する工程(工程S3)により、一部の抽出溶媒を分離した後に、マイクロ波を印加することで、繊維布を完全乾燥させる(工程S4)ことにより、エネルギー消費を低減することができる。
【0036】
他の実施形態において、抽出溶媒は、気態で繊維布に接触させて繊維布に凝結することで、繊維布につけた染料を抽出する時に、ろ過工程(工程S3)を行わなくてもよく、マイクロ波を直接印加することで、繊維布を完全乾燥させること(工程S4)ができる。
【0037】
工程S3において、ろ過で一部の抽出溶媒を分離する。一つの実施形態において、孔径が1cm以下であるフィルタを用いて、重力ろ過で固態の繊維布と液態の抽出溶媒とを分離させる。他の実施形態において、遠心ろ過で繊維布と抽出溶媒とを分離させることもあるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0038】
ろ過工程(工程S3)を行った後に、繊維布及び繊維布に残留する抽出溶媒の総重量を100重量%(wt%)として、繊維布に残留する抽出溶媒は、5~70重量%である。好ましい実施形態において、繊維布に残留する抽出溶媒は、5~60重量%である。
【0039】
工程S4において、気密タンクにおいてマイクロ波を印加することで、他の部分の抽出溶媒を気化させ、乾燥且つ脱色した布を得る。乾燥工程(工程S4)を行った後に、繊維布及び繊維布に残留する抽出溶媒の総重量を100重量%として、繊維布に残留する抽出溶媒は、0~5重量%である。
【0040】
本発明に係るマイクロ波を印加することで繊維布及び抽出溶媒を加熱する方法は、繊維布を乾燥するだけでなく、抽出溶媒の回収率を向上させることができる。
【0041】
本発明においてマイクロ波加熱により、他の媒体を介する必要がなく、繊維布及び抽出溶媒を加熱する効果を達成することができる。具体的に、抽出溶媒がマイクロ波を吸収した後に、電磁エネルギーを熱エネルギーに転換することができ、熱エネルギーを貯めると、抽出溶媒の温度が徐々に向上し、抽出溶媒の沸点を達すると、抽出溶媒が気化してガスとなり、繊維布と分離し、それによって、繊維布を乾燥する効果を果たせる。
【0042】
マイクロ波を印加することで繊維布を乾燥する方法は、他のガス媒体(例えば、熱風)を介してエネルギーを転送する必要がないので、エネルギーの転送損失を低減し、より良好な乾燥効率を達成できる。
【0043】
また、気化した抽出溶媒を収集するときに、ガス媒体を使用しないので、気化した抽出溶媒は、ガス媒体で運ぶ過程による散逸が発生し難いので、従来の抽出溶媒の回収率が低い問題を改良する。
【0044】
微視的に言えば、マイクロ波を印加する操作で、抽出溶媒自体の温度は、周囲の環境より高くなるように向上することから、熱伝導方向は外部へ向かう。抽出溶媒が気化した後に、抽出溶媒の物質移動の方向も、外部へ向かう。即ち、抽出溶媒にとって、熱伝導方向及び物質移動の方向は同一である。このように、マイクロ波を印加する操作は、乾燥を加速すると共に、伝熱媒体を使用する必要がない。
【0045】
一方、従来の熱風で繊維布を乾燥する方法において、熱風を導入することで、抽出溶媒を加熱してその温度を高めることができるが、抽出溶媒にとって、熱伝導方向は内部へ向かう。抽出溶媒の温度を高めると、抽出溶媒が気化してガスになるので、抽出溶媒の物質移動の方向は、外部へ向かう。即ち、抽出溶媒にとって、熱伝導方向及び物質移動の方向は逆である。
【0046】
本実施形態において、マイクロ波のパワーは、50~500Wであり、好ましくは100~400Wである。本実施形態において、マイクロ波を印加する時間は、5~30分であり、好ましくは、10~30分であるが、本発明はこれに制限されるものではない。マイクロ波を印加する時間は、マイクロ波のパワーに応じて調整することができる。
【0047】
本実施形態において、マイクロ波を印加した後に、繊維布の温度は、抽出溶媒の沸点より高い。具体的に、マイクロ波を印加した後に、繊維布の温度は130~160℃である。好ましくは、マイクロ波を印加した後に、繊維布の温度は140~150℃である。
【0048】
[抽出溶媒の回収率試験]
本発明に係るマイクロ波を印加する方法は、抽出溶媒の回収率を高める効果を有することを証明するために、以下の実施例1~8及び比較例1~4を参酌する。
【実施例
【0049】
[実施例1~4]
PET繊維布100g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(抽出溶媒)1500gをフラスコに入れて、120℃の温度で1時間撹拌することで抽出を行い、それによって、PET繊維布につけた染料を抽出した。次に、ろ過でプロピレングリコールモノメチルエーテルとPET繊維布とを分離させた。なお、前記抽出及びろ過工程を2回繰り返して、染料を徹底的に除去した。
【0050】
ろ過工程(工程S3)を行った後に、PET繊維布の重量を測定すると共に、PET繊維布における抽出溶媒の残留量を算出した。実施例1~4のろ過後のPET繊維布の重量及び抽出溶媒の残留量は、表1に示す通りである。表1から明らかなように、PET繊維布に残留するプロピレングリコールモノメチルエーテルの残留量は、25~150gである。即ち、ろ過工程を行った後に、PET繊維布及びPET繊維布に残留するプロピレングリコールモノメチルエーテルの総重量を100重量%として、PET繊維布における抽出溶媒の残留量は、20~60重量%である。
【0051】
次に、300Wのパワーでマイクロ波を印加すると共に、PET繊維布の表面を145℃の温度で20分間保持させることで、プロピレングリコールモノメチルエーテルを気化させ、それによって、PET繊維布を乾燥して、乾燥且つ脱色した繊維布を得た。乾燥且つ脱色した繊維布の白色度(L値)は、75%を超える。
【0052】
乾燥工程(工程S4)を行った後に、PET繊維布の重量を測定すると共に、繊維布における抽出溶媒の残留量を算出した。実施例1~4のろ過後のPET繊維布の重量及び抽出溶媒の残留量は、表1に示す通りである。
【0053】
気化したプロピレングリコールモノメチルエーテルをコンデンサーで凝結・収集し、凝縮液を25℃に冷却した後に、収集した抽出溶媒の重量を測定すると共に、気化・凝結の過程において散逸した抽出溶媒の量を算出することができる。
乾燥後の抽出溶媒の散逸量=(ろ過後の抽出溶媒の残留量-乾燥後の抽出溶媒の残留量-乾燥後の抽出溶媒の凝結量)。
実施例1~4のろ過後のPET繊維布における抽出溶媒の凝結量及び抽出溶媒の散逸量は、表1に示す通りである。
【0054】
最後に、本発明に係るマイクロ波を印加する方法は、抽出溶媒の回収率を高めることを証明するために、下式で抽出溶媒の回収率を算出した。
乾燥後の抽出溶媒の凝結量/ろ過後の抽出溶媒の残留量 ×100%。
実施例1~4の抽出溶媒の回収率は、表1に示す通りである。
【0055】
【表1】
【0056】
[実施例5~8]
実施例5~8は、実施例1~4と類似しており、それらの相違点については、実施例5~8では、乾燥工程(工程S4)において、PET繊維布の表面を145℃の温度で10分間保持させた。
【0057】
PET繊維布100g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(抽出溶媒)1500gをフラスコに入れて、120℃の温度で1時間撹拌することで抽出を行い、それによって、PET繊維布につけた染料を抽出した。次に、ろ過でプロピレングリコールモノメチルエーテルとPET繊維布とを分離させた。なお、前記抽出及びろ過工程を2回繰り返して、染料を徹底的に除去した。
【0058】
ろ過工程(工程S3)を行った後に、PET繊維布の重量を測定すると共に、PET繊維布における抽出溶媒の残留量を算出した。実施例5~8のろ過後のPET繊維布の重量及び抽出溶媒の残留量は、表2に示す通りである。表2から明らかなように、PET繊維布に残留するプロピレングリコールモノメチルエーテルの残留量は、25~150gである。即ち、ろ過工程を行った後に、PET繊維布及びPET繊維布に残留するプロピレングリコールモノメチルエーテルの総重量を100重量%として、PET繊維布における抽出溶媒の残留量は、20~60重量%である。
【0059】
次に、300Wのパワーでマイクロ波を印加すると共に、PET繊維布の表面を145℃の温度で10分間保持させることで、プロピレングリコールモノメチルエーテルを気化させ、それによって、PET繊維布を乾燥し、乾燥且つ脱色した繊維布を得た。乾燥且つ脱色した繊維布の白色度(L値)は、75%を超える。
【0060】
乾燥工程(工程S4)を行った後に、PET繊維布の重量を測定すると共に、PET繊維布における抽出溶媒の残留量を算出した。実施例5~8のろ過後のPET繊維布の重量及び抽出溶媒の残留量は、表2に示す通りである。
【0061】
気化したプロピレングリコールモノメチルエーテルをコンデンサーで凝結・収集し、凝縮液を25℃に冷却した後に、収集した抽出溶媒の重量を測定すると共に、気化・凝結の過程において散逸した抽出溶媒の量を算出することができる。
乾燥後の抽出溶媒の散逸量=(ろ過後の抽出溶媒の残留量-乾燥後の抽出溶媒の残留量-乾燥後の抽出溶媒の凝結量)。
実施例5~8のろ過後のPET繊維布における抽出溶媒の凝結量及び抽出溶媒の散逸量は、表2に示す通りである。
【0062】
最後に、本発明に係るマイクロ波を印加する方法は、抽出溶媒の回収率を高めることを証明するために、下式で抽出溶媒の回収率を算出した。
乾燥後の抽出溶媒の凝結量/ろ過後の抽出溶媒の残留量 ×100%。
実施例5~8の抽出溶媒の回収率は、表2に示すとおりである。
【0063】
【表2】
【0064】
表1及び表2の結果によると、マイクロ波を印加することで抽出溶媒を気化する方法は、抽出溶媒の散逸量を大幅に低減し、抽出溶媒の回収率を高める。具体的に、乾燥工程(工程S4)を行った後に、抽出溶媒の散逸量は、1g以下であり、好ましくは0.5g以下である。なお、抽出溶媒の回収率は、90%以上であり、好ましくは95%以上であり、更に好ましくは96%以上である。
【0065】
ろ過工程(工程S3)後の抽出溶媒の残留量が少ないほど、乾燥工程(工程S4)後の抽出溶媒の残留量は少ない。具体的に、ろ過工程(工程S3)後の抽出溶媒の残留量を、20~60重量%に制御することによって、乾燥工程(工程S4)後の抽出溶媒の残留量を、0~5重量%に低減することができる。
【0066】
[比較例1~4]
比較例1~4は、実施例1~4と類似しており、それらの相違点については、比較例1~4では、マイクロ波の印加でPET繊維布を乾燥する代わりに、熱風を導入することでPET繊維布を乾燥する。
【0067】
比較例1~4では、PET繊維布100g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(抽出溶媒)1500gをフラスコに入れて、120℃の温度で1時間撹拌することで抽出を行い、それによって、PET繊維布につけた染料を抽出した。次に、ろ過でプロピレングリコールモノメチルエーテルとPET繊維布とを分離させた。なお、前記抽出及びろ過工程を2回繰り返して、染料を徹底的に除去した。
【0068】
ろ過工程を行った後に、PET繊維布の重量を測定すると共に、PET繊維布における抽出溶媒の残留量を算出した。比較例1~4のろ過後のPET繊維布の重量及び抽出溶媒の残留量は、表3に示す通りである。ろ過工程を行った後に、PET繊維布及びPET繊維布に残留するプロピレングリコールモノメチルエーテルの総重量を100重量%として、PET繊維布における抽出溶媒の残留量は、20~60重量%である。
【0069】
次に、10Nm/minの体積流量で熱風を導入することで、PET繊維布の表面を145℃の温度で20分間維持させることで、プロピレングリコールモノメチルエーテルを気化させ、それによって、PET繊維布を乾燥して、乾燥且つ脱色した繊維布を得た。乾燥且つ脱色した繊維布の白色度(L値)は、75%を超える。
【0070】
乾燥工程を行った後に、PET繊維布の重量を測定すると共に、繊維布における抽出溶媒の残留量を算出した。比較例1~4のろ過後のPET繊維布の重量及び抽出溶媒の残留量は、表3に示す通りである。
【0071】
気化したプロピレングリコールモノメチルエーテルをコンデンサーで凝結・収集し、凝縮液を25℃に冷却した後に、収集した抽出溶媒の重量を測定すると共に、気化・凝結の過程において散逸した抽出溶媒の量を算出することができる。
乾燥後の抽出溶媒の散逸量=(ろ過後の抽出溶媒の残留量-乾燥後の抽出溶媒の残留量-乾燥後の抽出溶媒の凝結量)。
比較例1~4のろ過後のPET繊維布における抽出溶媒の凝結量及び抽出溶媒の散逸量は、表3に示す通りである。
【0072】
最後に、本発明に係るマイクロ波を印加する方法は、抽出溶媒の回収率を高めることを証明するために、下式で抽出溶媒の回収率を算出した。
乾燥後の抽出溶媒の凝結量/ろ過後の抽出溶媒の残留量 ×100%。
比較例1~4の抽出溶媒の回収率は、表3に示すとおりである。
【0073】
【表3】
【0074】
表3によると、熱風を導入して抽出溶媒を気化させる方法は、より多くの抽出溶媒が散逸するため、抽出溶媒の回収率を向上させることができない。具体的に、乾燥工程を行った後に、抽出溶媒の散逸量は4~21gであり、抽出溶媒の回収率は80~86%である。
【0075】
よって、表1~3によると、本発明に係るマイクロ波を印加することで抽出溶媒を気化し且つ繊維布を乾燥する方法は、抽出溶媒の散逸を効果的に低減すると共に、抽出溶媒の回収率を向上させることができる。従来の熱風乾燥で繊維布を乾燥する方法に比べて、より良好な抽出溶媒の回収率を達成する。
【0076】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る繊維布の脱色方法は、「マイクロ波を印加することで前記抽出溶媒を気化させる」といった技術特徴により、抽出溶媒の散逸を低減すると共に、抽出溶媒の回収率を高めることができる。
【0077】
更に言うと、本発明に係る繊維布の脱色方法は、「マイクロ波を印加する前に、ろ過で一部の前記抽出溶媒を分離する」といった技術特徴により、一部の抽出溶媒を抽出することで、その後のマイクロ波の印加によるエネルギー消費を低減することができる。
【0078】
更に言うと、本発明に係る繊維布の脱色方法は、「マイクロ波を印加する工程において、抽出溶媒の熱伝導方向及び物質移動の方向は同一である」といった技術特徴により、抽出溶媒の散逸を低減すると共に、抽出溶媒の回収率を高めることができる。
【0079】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
図1