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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20230613BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20230613BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230613BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230613BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/16
C09D7/63
C09D7/61
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021123726
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2022028627
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2020131359
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501481724
【氏名又は名称】関西ペイントマリン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 寛
(72)【発明者】
【氏名】池田 創
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
(72)【発明者】
【氏名】河合 弘幸
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-090019(JP,A)
【文献】特開2019-090020(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069777(WO,A1)
【文献】特開2020-100794(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045211(WO,A1)
【文献】特開昭60-028456(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203182(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂(A)、ロジン系化合物(B)、メデトミジン(C)及びタルクを含み、
前記アクリル樹脂(A)が、メトキシエチルアクリレート及びメチルメタクリレートを含む重合性不飽和モノマー成分を共重合してなる共重合体であって、溶解性パラメータが、8.5~10.5の範囲内にあり、
前記重合性不飽和モノマー成分が、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートを含まず、
前記アクリル樹脂(A)の重合に使用される前記重合性不飽和モノマー中の前記メトキシエチルアクリレートの共重合割合が5質量%以上であり、
前記アクリル樹脂(A)/前記ロジン系化合物(B)の不揮発分質量比が10/90~90/10である、防汚塗料組成物(ただし、前記防汚塗料組成物は、下記(あ)、(い)、(う)、(え)及び(お)で示される成分をいずれも含まず、前記溶解性パラメータは下記式により算出される)。
(あ):(A)Tg0℃以下を有する(メタ)アクリレートコポリマーであって、コモノマーとして、
i)式(I)
【化1】
(式中、Rは、HまたはCHであり、RはC~C20のヒドロカルビルである)の少なくとも1つの(メタ)アクリレート、および
ii)コポリマー(A)の総重量に基づいて、0.70~8.6重量%の少なくとも1つのカルボン酸含有コモノマーを含み、
コモノマー(i)および(ii)を組み合わせたものは、前記コポリマー(A)中に存在する前記モノマーの少なくとも80重量%を呈する、(メタ)アクリレートコポリマー;(い):少なくとも15重量%のシリルエステルモノマー含むシリルエステルコポリマーおよび/または10重量%未満の下記式(I)のモノマーを含む非親水性(メタ)アクリルポリマー;
【化2】
(式中、Rは、HまたはCHであり、Rは、少なくとも1つの酸素または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を有するC3~C18置換基であるか、またはRはポリ(アルキレングリコール)鎖である)
(う):下記化学式(1)~(5)で表される少なくとも1つのエステル化合物。
【化3】
(式中、X及びRは、それぞれ、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、この炭化水素基は、脂肪族又は芳香族であり、直鎖状、分岐鎖状、又は環状構造を有する。2つのRは、同一又は異なる。)
【化4】
(式中、X及びRは、それぞれ、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、この炭化水素基は、脂肪族又は芳香族であり、直鎖状、分岐鎖状、又は環状構造を有する。3つのRは、同一又は異なる。)
【化5】
(式中、R及びRは、それぞれ、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、脂肪族又は芳香族であり、直鎖状、分岐鎖状、又は環状構造を有する。R、又はRがヒドロキシル基、アセチル基、又はフェニルオキシラニル基を含むか、Rが環状構造、又は2つ以上の分岐構造を有するか、若しくはR、又はRがヘテロ原子を含む芳香環を有する。)
【化6】
(式中、X及びRは、それぞれ、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、この炭化水素基は、脂肪族又は芳香族であり、直鎖状、分岐鎖状、又は環状構造を有する。3つのRは、同一又は異なる。)
【化7】
(式中、X及びRは、それぞれ、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、この炭化水素基は、脂肪族又は芳香族であり、直鎖状、分岐鎖状、又は環状構造を有する。2つのRは、同一又は異なる。)

(え)4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル
(お)下記重合体A。
前記重合体Aは、単量体(a)と、前記単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体であり、
前記単量体(a)は、一般式(1)で表される。
【化8】
(式中、R は水素又はメチル基を示し、R は、水素、メチル基、フェニル基を示し、R は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、2-メトキシエチル基、4-メトキシブチル基、ビニル基、又はアリル基を示し、nは、2~10の整数を示す。)
溶解性パラメータ(SP値)は下記式により計算して求める。
SP値=SP1×fw1+SP2×fw2+………+SPn×fwn
上記式中、SP1、SP2、………SPnは、各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値を表し、fw1、fw2、………fwnは、各重合性不飽和モノマーのモノマー総量に対する質量分率を表す。
ここで、重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成した試料の濁点滴定法[K.W.Suh,J.M.Corbett:J.ApplyPolym.Sci.,12〔10〕,p.2359-2370(1968)]によるSP値とする。
【請求項2】
前記重合性不飽和モノマー成分がその成分の一部としてカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを含む、請求項1記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記アクリル樹脂(A)のガラス転移温度が、10~60℃の範囲内にある、請求項1または2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記ロジン系化合物(B)が、ロジン金属塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
亜酸化銅、酸化亜鉛、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の防汚剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物からなる塗膜を有する塗装物品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船体は鉄鋼構造であり常に海浜環境に曝されていることから、主要部分に対しては通常、下地に錆止め塗料を塗装し、その上に仕上げ用の上塗り塗料を塗り重ねる施工がされている。
【0003】
しかしながら船体の中でも船底部分、つまり海水に直接接触する喫水線付近から下の部分に対しては、下地の錆止め塗料を塗装した後、上塗りとして防汚塗料組成物[AF(Anti-Fouling)塗料]と呼ばれる特殊な塗料が塗装されている。
【0004】
このような防汚塗料組成物を塗装する理由は、船が港などに停泊している間に、カキやフジツボなどの貝類や海藻類などの水中生物が船底に付着して水中抵抗が増加するため、船体のスピードや燃料効率の低下を抑制するために、船底部分の表面はこれら水中生物が付着しにくい性質であることが必要となるためである。
【0005】
防汚塗料組成物として近年、加水分解性を有する樹脂を含む加水分解型防汚塗料組成物が種々開発されてきた。例えば、特許文献1~3にはトリイソプロピルシリルアクリレート又はトリイソプロピルシリルメタクリレートを共重合した加水分解性を有する樹脂を含む防汚塗料組成物が開示されている。
【0006】
また、ロジンはアルカリ溶液に対し微溶解性を持ち、弱アルカリ性である海水に溶解するため、加水分解型防汚塗料組成物に広く用いられている。しかしながら、ロジンはそれ単体では物性的に脆弱であるため、それを補うために、他の合成樹脂などをブレンドする必要がある。
【0007】
加水分解型防汚塗料組成物により形成された塗膜が海水に接触すると、前記加水分解性を有する樹脂が徐々に加水分解して海水中に塗膜が溶解していき、塗膜表面が更新され続けることによって、水中生物の付着が抑制されて長期にわたって防汚性能を維持することが可能となると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平5-32433号公報
【文献】特開昭63-215780号公報
【文献】特開平7-102193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加水分解型の防汚塗料組成物は長期間にわたる防汚性能に優れているものの、加水分解性を有する樹脂は貯蔵時の水分の混入により変質しやすく、また、海水の種類や状態によって、その防汚性能を発揮するのが難しい場合がある。
【0010】
したがって、本発明は、貯蔵安定性が良好で、且つ防汚性能に優れた防汚塗料組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した。その結果、トリイソプロピルシリル基のような加水分解性基を有さない樹脂を使用しても貯蔵安定性が良好であるのは勿論、防汚性能にも優れた塗料が得られることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、以下に関する。
項1.
アクリル樹脂(A)、ロジン系化合物(B)及びメデトミジン(C)を含み、
前記アクリル樹脂(A)が、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含む重合性不飽和モノマー成分を共重合してなる共重合体であって、
前記親水性モノマーがアルコキシ(メタ)アクリレート、水酸基含有重合性不飽和モノマー及びカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーから選ばれる少なくとも1種であり、
前記疎水性モノマーが、アルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル化合物から選ばれる少なくとも1種であって、
前記重合性不飽和モノマー成分が、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートを含まず、
前記アクリル樹脂(A)の重合に使用される前記重合性不飽和モノマー中の前記親水性モノマーの共重合割合が5質量%以上であり、
前記アクリル樹脂(A)/前記ロジン系化合物(B)の不揮発分質量比が10/90~90/10である、防汚塗料組成物。
項2.
前記親水性モノマーがその成分の一部としてアルコキシ(メタ)アクリレートを含む、項1に記載の防汚塗料組成物。
項3.
前記親水性モノマーがその成分の一部としてカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを含む、項1または2記載の防汚塗料組成物。
項4.
前記アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータが、8.0~11.0の範囲内にある、項1~3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項5.
前記アクリル樹脂(A)のガラス転移温度が、10~60℃の範囲内にある、項1~4のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項6.
前記ロジン系化合物(B)が、ロジン金属塩である、項1~5のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項7.
亜酸化銅、酸化亜鉛、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の防汚剤を含む、項1~6のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項8.
項1~7のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物からなる塗膜を有する塗装物品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防汚塗料組成物は貯蔵安定性に優れ、形成された塗膜は安定した防汚性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[アクリル樹脂(A)]
本発明の防汚塗料組成物は、アクリル樹脂(A)を含有する。前記アクリル樹脂(A)は、(メタ)アクリレートを主成分とする重合性不飽和モノマーの共重合体であり、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含む重合性不飽和モノマー成分を共重合してなる共重合体である。
【0015】
本発明において、重合性不飽和モノマーとは、1個以上(例えば、1~4個)の重合性不飽和基を有するモノマーを示す。重合性不飽和基とは、ラジカル重合しうる不飽和基を意味する。かかる重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、マレイミド基等が挙げられる。
【0016】
また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0017】
本発明において、前記親水性モノマーはアルコキシ(メタ)アクリレート、水酸基含有重合性不飽和モノマー及びカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーから選ばれる少なくとも1種である。
【0018】
アルコキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート及びエトキシエチル(メタ)アクリレート並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0019】
水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体、アリルアルコ-ル及び分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸及び(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
前記親水性モノマーの共重合割合は、アクリル樹脂(A)の重合に使用される全重合性不飽和モノマー中5質量%以上であり、好ましくは10~70質量%の範囲内である。親水性モノマーの共重合割合が前記範囲内にあることによって、塗膜の更新度合いが適度でありながら防汚性能に優れる効果が得られる。
【0022】
防汚性を向上する点から、本発明では前記親水性モノマーがその成分の一部としてアルコキシ(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。前記親水性モノマーがその成分の一部としてアルコキシ(メタ)アクリレートを含有する場合、その含有量は、アクリル樹脂(A)の重合に使用される全重合性不飽和モノマー中5~70質量%であることが好ましく、より好ましくは10~60質量%である。アルコキシ(メタ)アクリレートの含有量を前記範囲とすることにより、防汚性、耐クラック性を向上できる。
【0023】
また、防汚性を向上する点から、前記親水性モノマーはその成分の一部としてカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー、特に(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。前記親水性モノマーがその成分の一部としてカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを含有する場合、その場合の含有量は、アクリル樹脂(A)の重合に使用される全重合性不飽和モノマー中0~13質量%であることが好ましく、より好ましくは0~8質量%である。カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーの含有量を前記範囲とすることにより、防汚性、耐クラック性を向上できる。
【0024】
一方、疎水性モノマーはアルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル化合物から選ばれる少なくとも1種である。アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン及びα-メチルスチレン並びにこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0026】
アクリル樹脂(A)の重合に使用される重合性不飽和モノマー中の前記疎水性モノマーの共重合割合は、95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30~85質量%の範囲内である。疎水性モノマーの共重合割合が前記範囲内にあることによって、塗膜の更新度合いが適度でありながら防汚性能に優れる効果がある。
【0027】
上記アクリル樹脂(A)を製造するための重合性不飽和モノマーは前記親水性モノマー及び疎水性モノマー以外の他の重合性不飽和モノマーを必要に応じて含んでいてもよい。前記他のモノマーとしては、例えば、片方の分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート、片方の分子末端がアルコキシ基であるポリオキシプロピレン鎖を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸プロピレングリコールモノメチル等の(メタ)アクリル酸アルキレングリコールアルキル化合物;
(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン化合物との付加物等の窒素含有重合性不飽和モノマー;
(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸芳香族化合物;
塩化ビニル;塩化ビニリデン;(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル;ブチルビニルエーテル;ラウリルビニルエーテル;N-ビニルピロリドン;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;
グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;
2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート及びこれらのナトリウム塩又はアンモニウム塩等のスルホン酸基含有重合性不飽和モノマー;
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基含有重合性不飽和モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、4~7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー;及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0028】
本発明において、防汚塗料組成物の貯蔵安定性の点から上記アクリル樹脂(A)の共重合成分となる重合性不飽和モノマー成分はトリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートを含まない。重合性不飽和モノマー成分がトリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートを含むと本発明防汚塗料組成物が貯蔵時に増粘する傾向があり好ましくない。
【0029】
アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータ(Solubility Parameter、「SP値」とも記載する)は、貯蔵安定性、防汚性及び耐クラック性の点から、8.0~11.0であることが好ましく、より好ましくは8.5~10.5である。
【0030】
アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tgとも記載する)は、貯蔵安定性、防汚性及び耐クラック性の点から、10~60℃であることが好ましく、より好ましくは20~50℃である。
【0031】
本発明においては、アクリル樹脂(A)の溶解性パラメータおよび/またはガラス転移温度が前記範囲となるように、アクリル樹脂(A)の重合に使用される重合性不飽和モノマー成分の種類と量を選択することが好ましい。
【0032】
溶解性パラメータは一般に液体分子の分子間相互作用の尺度を表すものであるが、ポリマーのSP値も種々の計算方法が知られている。本明細書においてアクリル樹脂(A)のSP値は下記式により計算して求めるものとする。
SP値=SP×fw+SP×fw+………+SP×fw
上記式中、SP、SP、………SPは、各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値を表し、fw、fw、………fwは、各重合性不飽和モノマーのモノマー総量に対する質量分率を表す。
ここで、重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成した試料の濁点滴定法によるSP値とする。
【0033】
濁点滴定法はポリマーのSP値を測定できる方法の一つとして知られており、例えばK.W.Suh, J.M.Corbett:J.Apply Polym.Sci.,12〔10〕,p.2359-2370 (1968)に記載されている。
【0034】
本発明では、真空吸引により揮発成分を除去した試料0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを加え、マグネティックスターラーにより溶解し、これに対して測定温度20℃で、高SP貧溶媒又は低SP貧溶媒を別々に滴下し、濁りが生じた点を各貧溶媒の滴下量(体積)とし、下記式から試料のSP値を求める。
δ=(Vml1/2・δml+Vmh1/2・δmh)/(Vml1/2+Vmh1/2
Vml,Vmh:それぞれSP値の低い貧溶媒と高い貧溶媒の滴下量
δml,δmh:それぞれSP値の低い貧溶媒と高い貧溶媒のSP値
δ:試料のSP値
ここで貧溶媒には、高SP貧溶媒としてイオン交換水(SP値23.4)を用い、低SP貧溶媒としてn-ヘキサン(SP値7.3)を使用する。
【0035】
また、ガラス転移温度は以下のようにして算出する。
1/Tg(K)=W/T+W/T+・・・W/T
Tg(℃)=Tg(K)-273
式中、W、W、・・・Wは各モノマーの質量分率であり、T、T・・・Tは各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tg(K)である。なお、各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成したときの静的ガラス転移温度とする。
【0036】
静的ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計「DSC-50Q型」(島津製作所製、商品名)を用い、真空吸引により揮発成分を除去した試料を用いて、3℃/分の昇温速度で-100℃~+100℃の範囲で熱量変化を測定し、低温側の最初のベースラインの変化点を観察することにより決定される。
【0037】
前記アクリル樹脂(A)は、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、前記重合性不飽和モノマーを共重合させることにより得られる。上記の共重合反応において使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド化合物;ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオクトエート等のt-ブチルパーオキサイド化合物;t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシアセテート、ジ(t-アミルパーオキサイド)、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のt-アミルパーオキサイド化合物;t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシ-イソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート等のt-ヘキシルパーオキサイド化合物などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
アクリル樹脂(A)を得るための重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられる。これらの中でも、前記アクリル樹脂(A)を簡便に、かつ、精度良く合成できるという点で、溶液重合法が特に好ましい。
【0039】
上記の共重合反応においては、必要に応じて重合溶媒として有機溶剤を用いてもよい。そのような有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0040】
前記共重合反応における反応温度は、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常は70~160℃の範囲内の温度、好ましくは80~140℃の範囲内の温度である。前記共重合反応における反応時間は、反応温度や重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常4~8時間程度である。
【0041】
本発明において、アクリル樹脂(A)は、ランダム共重合体、グラフト共重合体、傾斜構造型共重合体、ブロック共重合体等いずれのタイプの共重合体であってもよい。前記防汚塗料組成物から得られる塗膜の防汚性の点からアクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、1,000~150,000であることが好ましく、特に好ましくは3,000~80,000である。
【0042】
本明細書においてアクリル樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」及び「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RIの条件下で測定することができる。
【0043】
防汚塗料組成物におけるアクリル樹脂(A)の不揮発分含有量は、防汚性、耐クラック性の点から、防汚塗料組成物中の樹脂固形分(アクリル樹脂+ロジン)の不揮発分を基準として、10~90質量%であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは30~70質量%である。
【0044】
[ロジン系化合物(B)]
また、本発明の防汚塗料組成物は、防汚性の点からロジン系化合物を含む。ロジンとは樹木から採取される樹脂酸の混合物である。樹脂酸としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、レボピマール酸などが挙げられる。
【0045】
本発明においてロジン系化合物には前記ロジンのみならず、ロジン誘導体、ロジン金属塩等も包含される。
【0046】
前記ロジン誘導体としては、例えば、水添ロジン、ロジンとマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を反応させた不飽和カルボン酸変性ロジン、ロジンを重合してなる重合ロジン等が挙げられる。ロジン金属塩としては、例えば、亜鉛ロジネート、カルシウムロジネート、銅ロジネート、マグネシウムロジネート、その他金属化合物とロジンとの反応物等が挙げられる。
【0047】
以上に述べたロジン系化合物は、特に限定されず、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、特に高い防汚性が求められる場合にはロジン金属塩の使用が好ましい。
【0048】
防汚塗料組成物におけるロジン系化合物(B)の不揮発分含有量は、防汚性、耐クラック性の点から、防汚塗料組成物中の樹脂固形分(アクリル樹脂+ロジン)の不揮発分を基準として、10~90質量%であることが好ましく、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは30~70質量%である。
【0049】
本発明では、防汚塗料組成物の貯蔵安定性、塗膜の長期防汚性、耐クラック性の点からアクリル樹脂(A)/ロジン系化合物(B)の不揮発分質量比が10/90~90/10の範囲内であり、20/80~80/20の範囲内にあることが好ましい。
【0050】
[メデトミジン(C)]
本発明の防汚塗料組成物は、貯蔵安定性と長期の防汚性の両立の点から、メデトミジン(C)を含有する。メデトミジンは体系名:(±)4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾールである。
【0051】
メデトミジン(C)の含有量は、前記アクリル樹脂(A)及びロジン系化合物(B)の合計不揮発分質量を基準として、0.05~7質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~3質量%である。
【0052】
[防汚剤]
本発明では必要に応じて、メデトミジン(C)のほかに、他の防汚剤を併用することができる。他の防汚剤としては、従来より公知のもの、例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物などが挙げられる。
【0053】
上記無機化合物としては、例えば、亜酸化銅、銅粉、チオシアン酸第一銅、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅等の銅化合物;硫酸亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物;硫酸ニッケル、銅-ニッケル合金等のニッケル化合物;などが挙げられる。
【0054】
上記金属を含む有機化合物としては、例えば、有機銅系化合物、有機ニッケル系化合物、有機亜鉛系化合物などを用いることができ、その他、マンネブ、マンセブ、プロピネブなども用いることができる。
【0055】
前記有機銅系化合物としては、例えば、オキシン銅、銅ピリチオン、ノニルフェノールスルホン酸銅、カッパービス(エチレンジアミン)-ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)、酢酸銅、ナフテン酸銅、ビス(ペンタクロロフェノール酸)銅等が挙げられる。
【0056】
前記有機ニッケル系化合物としては、例えば、酢酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル等が挙げられる。前記有機亜鉛系化合物としては、例えば、酢酸亜鉛、カルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジンクピリチオン、エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0057】
上記金属を含まない有機化合物としては、例えば、N-トリハロメチルチオフタルイミド、ジチオカルバミン酸、N-アリールマレイミド、3-置換化アミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、ジチオシアノ系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
【0058】
前記N-トリハロメチルチオフタルイミドとしては、例えば、N-トリクロロメチルチオフタルイミド、N-フルオロジクロロメチルチオフタルイミド等が挙げられる。前記ジチオカルバミン酸としては、例えば、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、N-メチルジチオカルバミン酸アンモニウム、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)アンモニウム、ミルネブ等が挙げられる。
【0059】
前記N-アリールマレイミドとしては、例えば、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、N-4-トリルマレイミド、N-3-クロロフェニルマレイミド、N-(4-n-ブチルフェニル)マレイミド、N-(アニリノフェニル)マレイミド、N-(2,3-キシリル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’,6’-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’-エチル-6’-メチルフェニル)マレイミド等が挙げられる。
【0060】
前記3-置換化アミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンとしては、例えば、3-ベンジリデンアミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(4-メチルベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(2-ヒドロキシベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(4-ジメチルアミノベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリン-2,4-ジオン、3-(2,4-ジクロロベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン等が挙げられる。
【0061】
前記ジチオシアノ系化合物としては、例えば、ジチオシアノメタン、ジチオシアノエタン、2,5-ジチオシアノチオフエン等が挙げられる。前記トリアジン系化合物としては、例えば、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン等が挙げられる。
【0062】
また、上記金属を含まない有機化合物としては、上記に例示した有機化合物のほか、例えば、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルジクロロフェニル尿素、4,5-ジクロロ-2-N-オクチル-3-(2H)イソチアゾロン、N,N-ジメチル-N’-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾール、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、ジヨードメチルパラトリルスルホン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、フェニル(ビスピリジン)ビスマスジクロライド、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン・アミン錯体、ジクロロ-N-((ジメチルアミノ)スルフォニル)フルオロ-N-(p-トリル)メタンスルフェンアミド、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド等が挙げられる。
【0063】
上記その他の防汚剤としては、特に安定した防汚性能を発揮するという観点から、亜酸化銅、酸化亜鉛、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオンから選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0064】
これらその他の防汚剤を使用する場合の合計含有量としては、塗料中のアクリル樹脂(A)及びロジン系化合物(B)不揮発分合計量を基準として、75~400質量%であることが好ましく、より好ましくは100~375質量%である。
【0065】
[防汚塗料組成物]
本発明の防汚塗料組成物には、上記アクリル樹脂(A)、ロジン系化合物(B)及びメデトミジン(C)の他に、顔料、可塑剤、粘性調整剤、消泡剤、酸化防止剤、アクリル樹脂(A)以外の樹脂、溶剤などの一般的な塗料組成物に用いられている各種成分を、必要に応じて配合することができる。これらの成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
前記顔料としては、例えば、ベンガラ、酸化チタン、黄色酸化鉄、酸化カルシウム、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の着色顔料;タルク、シリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛等の体質顔料;及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0067】
本発明の防汚塗料組成物中の前記顔料の含有量は、アクリル樹脂(A)及びロジン系化合物(B)の不揮発分合計量を基準として、1~500質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5~350質量%の範囲内である。
【0068】
前記可塑剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、ジオクチルフタレート、塩素化パラフィン、流動パラフィン、n-パラフィン、ポリブテン、テルペンフェノール、トリクレジルフォスフェート(TCP)及びポリビニルエチルエーテル並びにこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0069】
なお、本発明の防汚塗料組成物に可塑剤を配合する場合、可塑剤の含有量は、アクリル樹脂(A)の質量を基準として0.5~30質量%であることが好ましく、より好ましくは1~20質量%の範囲内である。
【0070】
前記粘性調整剤としては、例えば、有機系ワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス等)、有機粘土系化合物(Al、Ca、Znのアミン塩、ステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等)、ベントナイト、合成微粉シリカ等が挙げられる。これらの粘性調整剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
防汚塗料組成物中に前記粘性調整剤を配合する場合、その場合の含有量は、例えば、アクリル樹脂(A)及びロジン系化合物(B)不揮発分合計量を基準として、0.25~50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3~20質量%である。
【0072】
本発明の防汚塗料組成物に必要に応じて配合される前記アクリル樹脂(A)以外の樹脂としては、例えば、防汚塗料用基体樹脂として広く使用されている金属カルボキシレート構造を有する樹脂、アクリルシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、シリコーンゴム、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、塩化ゴム、塩素化オレフィン樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、ケトン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、クマロン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等が挙げられる。
【0073】
本発明の防汚塗料組成物は、脂肪族溶剤、芳香族溶剤(例えば、キシレン、トルエン等)、ケトン溶剤(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル溶剤、エーテル溶剤(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、アルコール溶剤(例えば、イソプロピルアルコール等)などの、防汚塗料用の溶剤として一般的な有機溶剤を用いることができる。なお、有機溶剤の配合量は適宜調整することができるが、例えば、防汚塗料組成物の全不揮発分率が好ましくは20~90質量%の範囲内となるような割合であり、塗装作業性に応じて塗装時にさらに添加してもよい。
【0074】
本発明の防汚塗料組成物は、公知の防汚塗料組成物と同様の方法により調製することができる。例えば、アクリル樹脂(A)、ロジン系化合物(B)、メデトミジン(C)及び必要に応じて前記添加剤や有機溶剤等とを、攪拌槽に一度にまたは順次添加して、撹拌、混合して製造できる。
【0075】
本発明の塗装物品は、本発明の防汚塗料組成物によって基材の表面が被覆されてなる物品である。上記塗装物品は、基材の表面に、上記防汚塗料組成物を1回~複数回塗布あるいは含浸させる工程、および上記防汚塗料組成物を乾燥させることにより得られる。
【0076】
基材としては、例えば、海水または真水と(例えば、常時または断続的に)接触する基材、具体的には、水中構造物、船舶外板又は船底、発電所の導水管や冷却管、養殖用又は定置用の漁網、漁具これらに用いられる浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。
【0077】
なお、本発明の防汚塗料組成物から得られる塗膜の膜厚は、塗膜の消耗速度等を考慮して適宜調整することができるが、例えば、好ましくは30~250μm/回、より好ましくは75~150μm程度/回とすればよく、必要に応じて2回以上塗り重ねてもよい。
【0078】
本発明では、上記基材の表面にプライマー又は錆止め塗料、及び必要に応じてバインダー塗料を塗装した表面に、刷毛塗り、吹付け塗り、ローラー塗り、浸漬等の手段で本発明の防汚塗料組成物を塗装してもよい。また、本発明の防汚塗料組成物は、既存の防汚塗膜表面に重ね塗りしてもよい。塗膜の乾燥は室温で行なうことができるが、必要に応じて約100℃までの温度で加熱乾燥を行なってもよい。
【実施例
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、下記実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0080】
[アクリル樹脂(A)の製造]
製造例1
攪拌機付きのフラスコに、キシレン40部を仕込んだ後、液相温度を100℃に維持し、メトキシエチルアクリレート40部、メチルメタクリレート60部、キシレン68部、アゾビスイソブチロニトリル2.0部の混合溶液を、フラスコの中へ3時間で滴下した。滴下終了後、同温度で30分間保持した。次いでキシレン10部と「パーブチルO」(商品名、日本油脂社製、t-ブチルパーオキシオクトエート)1部との混合物を20分間で滴下し、同温度で2時間攪拌を続けてから、液相の冷却を開始した。生成した樹脂の不揮発分濃度が50質量%となるように、フラスコの中にキシレンを加えて樹脂溶液を調製し、重量平均分子量が50000のアクリル樹脂(A-1)の樹脂溶液を得た。
【0081】
製造例2~18
製造例1において各成分の配合量を表1のとおりとする以外は製造例1と同様にしてアクリル樹脂(A-2)~(A-18)の樹脂溶液を得た。
【0082】
<Tg>
Tgは下記式により算出した。
1/Tg(K)=W/T+W/T+・・・W/T
Tg(℃)=Tg(K)-273
式中、W、W、・・・Wは各モノマーの質量分率であり、T、T・・・Tは各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tg(K)である。なお、各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成したときの静的ガラス転移温度とした。静的ガラス転移温度は、示差走査熱量計「DSC-50Q型」(島津製作所製、商品名)を用い、真空吸引により揮発成分を除去した試料を用いて、3℃/分の昇温速度で-100℃~+100℃の範囲で熱量変化を測定し、低温側の最初のベースラインの変化点を観察することにより決定した。
【0083】
<SP値>
アクリル樹脂(A)のSP値は下記式により計算して求めた。
SP値=SP×fw+SP×fw+………+SP×fw
上記式中、SP、SP、………SPは、各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値を表し、fw、fw、………fwは、各重合性不飽和モノマーのモノマー総量に対する質量分率を表す。
ここで、重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成した試料の濁点滴定法[K.W.Suh,J.M.Corbett:J.Apply Polym.Sci.,12〔10〕,p.2359-2370(1968)]によるSP値とした。
【0084】
真空吸引により揮発成分を除去した試料0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを加え、マグネティックスターラーにより溶解し、これに対して測定温度20℃で、高SP貧溶媒又は低SP貧溶媒を別々に滴下し、濁りが生じた点を各貧溶媒の滴下量(体積)とし、下記式から試料のSP値を求めた。
δ=(Vml1/2・δml+Vmh1/2・δmh)/(Vml1/2+Vmh1/2
Vml,Vmh:それぞれSP値の低い貧溶媒と高い貧溶媒の滴下量
δml,δmh:それぞれSP値の低い貧溶媒と高い貧溶媒のSP値
δ:試料のSP値
ここで貧溶媒には、高SP貧溶媒としてイオン交換水(SP値23.4)を用い、低SP貧溶媒としてn-ヘキサン(SP値7.3)を使用した。
【0085】
【表1】
【0086】
[防汚塗料組成物の製造]
実施例1~34及び比較例1~10
アクリル樹脂(A-1)~(A-18)の樹脂溶液、ロジンのキシレン溶液、メデトミジン(「selectope」:商品名、I-Tech AB社製)、防汚剤、酸化チタン、タルク、塩素化パラフィン等を、表2-1~2-4に示す配合組成にて配合し、ホモミキサーを用いて約2,000rpmの攪拌速度により混合分散した。分散後、20%粘性調整剤として「ディスパロンA630-20XN」(注:商品名、楠本化成社製、ポリアミドワックス、20%キシレン希釈品)及びキシレンを添加し、ディスパー撹拌して防汚塗料組成物(X-1)~(X-44)を調製した。調製した塗料組成物を、下記の貯蔵安定性試験、防汚性能試験、消耗膜厚及び耐クラック性試験に供した。これらの各試験の結果も表2-1~2-4に併せて示す。
【0087】
【表2-1】
【0088】
【表2-2】
【0089】
【表2-3】
【0090】
【表2-4】
【0091】
<貯蔵安定性試験>
実施例及び比較例で得られた各防汚塗料組成物を密閉容器内に40℃で12ヶ月間貯蔵し、下記基準にて評価した。
◎:貯蔵前後で全く変化なし。
〇:使用上問題ないがわずかに増粘あり。
△:使用上支障がある程度に増粘あり。
×:分離。
【0092】
<防汚性能試験>
サンドブラスト処理鋼板(100mm×300mm×2mm)の両面に、エポキシ系錆止め塗料を200μmの乾燥膜厚となるようにスプレー塗装し、さらに、エポキシ系バインダーコートを、乾燥膜厚が100μmとなるように塗装した。この塗装板の両面に、各防汚塗料組成物を、乾燥膜厚が片面480μmとなるようにスプレー塗装により4回塗装し、温度20℃、湿度75%の恒湿室にて1週間乾燥させて、試験片を作製した。この試験片を用いて静岡県駿河湾にて24ケ月の海水浸漬を行い、6ヶ月後、12ヶ月後、24ヶ月後の試験片上の付着生物の占有面積の割合(付着面積)を測定した。
◎:付着生物が観察されなかった、
○:付着生物の占有面積が5%未満、
△:付着生物の占有面積が5%以上、30%未満、
×:付着生物の占有面積が30%以上。
【0093】
<消耗膜厚>
各防汚塗料組成物を、あらかじめ錆止め塗料が塗布されたブラスト板に乾燥膜厚が300μmとなるように夫々塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて、防汚塗膜を有する試験板を得た。この試験板を直径750mm、長さ1200mmの円筒側面に貼り付け、海水中、周速15ノットで12ヶ月間連続回転させ、試験板の塗膜消耗量(塗膜厚みの累積減少量[μm])を測定した。表2-1~表2-4における「消耗膜厚」の数値が大きいほど防汚塗膜が消耗されており、塗膜の更新速度が速いことを示す。
【0094】
<耐クラック性試験>
上記防汚性能試験に供した試験片にて、その塗膜を目視観察し、12ヶ月後、24ヶ月後のクラックの発生の有無を調べた。
◎:クラックが観察されなかった、
○:微細なクラックが塗膜表面の一部の範囲で観察された、
△:微細又は明確なクラックが塗膜表面の広い範囲で観察された、
×:下地に至るクラックが観察された。
【0095】
表2-1~表2-3に示すように、実施例1~34の防汚塗料組成物はいずれも優れた貯蔵安定性及び防汚性を示すとともに、耐クラック性も良好であった。一方、表2-4に示すように、比較例1~10はいずれも実施例と比して防汚性能が低かった。比較例1~3はアクリル樹脂(A)の重合に使用される重合性不飽和モノマー成分中の親水性モノマーの含有量が5質量%未満である例である。比較例4~6は、防汚塗料組成物にメデトミジン(C)を含有していない例である。比較例7、9及び10は、アクリル樹脂(A)/ロジン系化合物(B)の不揮発分質量比が10/90~90/10の範囲外である例である。