(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】赤外線カットフィルター構造
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20230613BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20230613BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20230613BHJP
H01L 31/0232 20140101ALN20230613BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
G02B5/22
H01L31/02 D
(21)【出願番号】P 2021180130
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519355563
【氏名又は名称】晶瑞光電股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄒 政興
(72)【発明者】
【氏名】鄭▲うぇはお▼
(72)【発明者】
【氏名】倪 培元
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/051867(WO,A1)
【文献】特開2017-062479(JP,A)
【文献】特開2020-173294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/26
G02B 5/22
H01L 31/0232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の上側面に設置され、複数の高屈折率材料及び複数の低屈折率材料が交互に堆積されて形成され、入射角0度及び30度について900nm~1100nmの波長範囲内の光の光学密度がOD3~OD7である第1多層膜と、
前記ガラス基板の下側面に設置され、複数の高屈折率材料及び複数の低屈折率材料が交互に堆積されて形成され、700nm~900nmの波長範囲内の光線の光学密度がOD3~OD6である第2多層膜と、
を含み、
前記第1多層膜の構造は、下表のとおりであり、
前記第2多層膜の構造は次のとおりである
赤外線カットフィルター構造。
【請求項2】
前記ガラス基板は、白ガラスである請求項1に記載の赤外線カットフィルター構造。
【請求項3】
前記ガラス基板は、青ガラスである請求項1に記載の赤外線カットフィルター構造。
【請求項4】
前記ガラス基板は、白ガラス上に一層の赤外線を吸収する有機膜層をコーティングした青系ガラス基板である請求項1に記載の赤外線カットフィルター構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線カットフィルター構造の技術分野に関し、特に、赤外線を効果的にフィルタリングし、可視光を透過し、更に正常なカラー画像を生成することができる赤外線カットフィルター構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイエンドなスマートフォンの開発に伴い、携帯電話のカメラモジュールの要件は、益々高くなり、カメラモジュールでは、通常、CCD(CCD=Charge-Coupled Device)又はCMOS(CMOS=Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサの前に赤外線カットフィルターが設置され、赤外線をフィルタリングし、可視光を透過し、正常なカラー画像の生成を可能にさせる。従って、赤外線カットフィルターはカメラモジュールの重要な部材であり、携帯電話の画素が高くなるにつれて、赤外線カットフィルターに対して厳しい要求がされ、特に、結像の色彩再現性及び鮮明さについての要求はより厳しくなっている。一般に、人の目で認識できる可視光の波長範囲は、320nm~760nmであり、320nm~760nmの範囲を超える光波は、人の目では見ることができないが、カメラの結像部材CCD又はCMOSでは、ほとんどの波長の光を見ることができる。さまざまな光の関与により、カメラモジュールによって再現される色は、肉眼で見ることができる色と偏差があり、例えば、緑の植物は灰色になり、赤い物体は、明るい赤になり、黒色は紫色になる等であり、上述のように、優れた赤外線カットフィルターの赤外線カット機能を用いて、結像色を元の色に完全に近づけることが非常に重要である。
【0003】
従来の赤外線カットフィルター構造は、台湾の公告第I557439号及び第I557440号特許に示されるように、その構造設計の最大の効果は、波長850~1300nmの光(赤外線)の透過率を1%程度まで小さくさせることであり、この透過率の範囲は、初期の要件の低い携帯電話のカメラモジュールでは許容されるが、携帯電話の画素は、益々高くなり、それにつれて現在のカメラモジュールによって再現される色と肉眼で見る色では、相当大きな偏差があるため、従来の赤外線カットフィルター構造によって達成される赤外線フィルター効果では、現在のハイエンド携帯電話のカメラモジュールにとっては、もはや十分ではない。
【0004】
これに鑑み、本願発明者は、上記の問題に対して、深く思考し、且つ積極的に研究改良を試み、本発明を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】台湾公告第I557439号
【文献】台湾公告第I557440号特許
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、赤外線を効果的にフィルタリングし、可視光を透過し、更に現在の高画素の携帯電話のカメラモジュールに正常なカラー画像を再現させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による赤外線カットフィルター構造は、ガラス基板と、前記ガラス基板の上側面に設置され、複数の高屈折率材料及び複数の低屈折率材料が交互に堆積されて形成され、入射角0度及び30度について900nm~1100nmの波長範囲内の光の光学密度(OD; Optical Density)がOD3~OD7である第1多層膜と、前記ガラス基板の下側面に設置され、複数の高屈折率材料及び複数の低屈折率材料が交互に堆積されて形成され、700nm~900nmの波長範囲内の光線の光学密度がOD3~OD6である第2多層膜と、を含
み、前記第1多層膜の構造は、下表のとおりであり、
前記第2多層膜の構造は次のとおりである
赤外線カットフィルター構造。
【発明の効果】
【0008】
本発明が提供する赤外線カットフィルター構造は、その特殊な構造設計で構成される赤外線カットフィルターにより、700nm~1100nmの波長範囲の光(赤外線)の透過率を0.1%~0.00001%に到達させることができ、従って、赤外線を効果的にフィルタリングし、可視光を透過し、更に、正常なカラー画像を生成し、ハイエンドの携帯電話のカメラモジュールの要求を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態を示す構造説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示す第1多層膜の透過率のスペクトログラムである。
【
図3】本発明の一実施形態を示す第1多層膜の光学密度のスペクトログラムである。
【
図4】本発明の一実施形態を示す第2多層膜の透過率のスペクトログラムである。
【
図5】本発明の一実施形態を示す第2多層膜の光学密度のスペクトログラムである。
【
図6】本発明の一実施形態を示すガラス基板が従来の白ガラスである場合の透過率のスペクトログラムである。
【
図7】本発明の一実施形態を示すガラス基板は、白ガラスである場合の光学密度のスペクトログラムである。
【
図8】本発明の一実施形態を示す青ガラスの透過率のスペクトログラムである。
【
図9】本発明の一実施形態を示すガラス基板が青ガラスである場合の透過率のスペクトログラムである。
【
図10】本発明の一実施形態を示すガラス基板が青ガラスである場合の光学密度のスペクトログラムである。
【
図11】本発明の一実施形態を示す青系ガラスの透過率のスペクトログラムである。
【
図12】本発明の一実施形態を示すガラス基板が青系ガラスである場合の光学密度のスペクトログラムである。
【
図13】本発明の一実施形態を示すガラス基板が青系ガラスである時の光学密度のスペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照し、本発明の一実施形態を示す赤外線カットフィルター構造は、ガラス基板10、第1多層膜20及び第2多層膜30を含む。
【0011】
前記ガラス基板10は、厚さが0.1mm~1.1mmであり、従来の白ガラス(第1実施形態)、青ガラス(第2実施形態)、又は白ガラスに一層の赤外線を吸収する吸気膜層をコーティングした青系ガラス(第3実施形態)のいずれかであることができる。
【0012】
前記第1多層膜20は、物理真空蒸着(PVD= Physical Vapor Deposition)により前記ガラス基板10の上側面に形成され、複数の高屈折率材料及び複数の低屈折率材料が交互に積層されて形成され、前記第1多層膜20は、入射角0度及び30度について900nm~1100nmの波長範囲内の光の光学密度がOD3~OD7である(
図2及び
図3参照)。前記高屈折率材料は、300nm~1100nmの波長範囲内の屈折率が2~3であり、吸光係数が0に近い1つ又は複数の酸化物であり、例えば、Ti
3O
5、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5等である。前記低屈折率材料は、300nm~1100nmの波長範囲内の屈折率が1.3~2であり、且つ吸光係数が0に近い1つ又は複数の酸化物であり、例えば、SiO
2、MgF
2等である。好適な実施形態における前記第1多層膜20の構造は、下表の通りである。
【0013】
【0014】
前記第2多層膜30は、物理真空蒸着(PVD)により、前記ガラス基板10の下側面に形成され、複数の高屈折率材料及び複数の低屈折率材料が交互に堆積されて形成され、前記第2多層膜30の700nm~900nmの波長範囲内の光線の光学密度がOD3~OD6である(
図4及び
図5参照)。前記高屈折率材料は、300nm~1100nmの波長範囲内の屈折率が2~3であり、吸光係数が0に近い1つ又は複数の酸化物であり、例えば、Ti
3O
5、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5等である。前記低屈折率材料は、300nm~1100nmの波長範囲内の屈折率が1.3~2であり、吸光係数が0に近い1つ又は複数の酸化物であり、例えば、SiO
2、MgF
2等である。好適な実施形態における前記第2多層膜30の構造は、下表のとおりである。
【0015】
【0016】
このように構成される赤外線カットフィルターは、700nm~1100nmの波長範囲内の光(赤外線)の透過率を0.1%~0.00001%に到達させることができるため、効果的に赤外線をフィルタリングし、可視光を透過し、更に正常なカラー画像を生成することができ、ハイエンドの携帯電話のカメラモジュールの要求を満たすことができる。
【0017】
第1の実施形態において、前記ガラス基板10は、従来の白ガラスであり、前記ガラス基板10の上側面に前記第1多層膜20が設けられ、前記ガラス基板10の下側面に前記第2多層膜30が設けられる場合、構成される赤外線カットフィルターの透過率のスペクトログラムは、
図6に示すとおりであり、光学密度のスペクトログラムは、
図7に示すとおりである。
【0018】
第2の実施形態において、前記ガラス基板10は、青ガラスであり、前記ガラス基板10の上側面に前記第1多層膜20が設けられ、前記ガラス基板10の下側面に前記第2多層膜30が設けられる場合、前記青ガラス自体の材料特性は、近赤外線に吸収効果を有し、T(透過率)50%は約640nm±10nmの位置の0度及び30度において、極めて小さい偏移を有し、その透過率のスペクトログラムは、
図8に示すとおりであり、構成される赤外線カットフィルターの透過率のスペクトログラムは、
図9に示すとおりであり、光学密度のスペクトログラムでは、
図10に示すとおりである。
【0019】
第3の実施形態において、前記ガラス基板10が青系ガラスであり、前記ガラス基板10の上側面に前記第1多層膜20が設けられ、前記ガラス基板10の下側面に前記第2多層膜30が設けられる場合、前記青系ガラス自体の材料特性は、近赤外光領域に吸収効果を有し、T50%は約640nm±10nmの位置の0度及び30度において、極めて小さい偏移を有し、その透過率のスペクトログラムは、
図11に示すとおりであり、構成される赤外線カットフィルターは、700nm~1100nmの波長範囲内の光カット率OD3~OD6であり、T50%の偏移量は5nm未満であり、その透過率のスペクトログラムは、
図12に示すとおりであり、光学密度のスペクトログラムは、
図13に示すとおりである。
【符号の説明】
【0020】
10 ガラス基板
20 第1多層膜
21 第2多層膜