(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置及びワイヤ放電加工装置における通電体の固定方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/10 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
B23H7/10 E
B23H7/10 B
(21)【出願番号】P 2021203944
(22)【出願日】2021-12-16
【審査請求日】2023-01-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】坂口 昌志
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-315520(JP,A)
【文献】特開平03-277423(JP,A)
【文献】特開昭63-212419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平線に対して垂直に張架されるワイヤ電極を位置決め案内するワイヤガイドと、
ワイヤ電極に通電する通電体と、
前記ワイヤガイドと前記通電体を収容するガイドアセンブリと、
前記ガイドアセンブリに設けられ前記通電体を前記ワイヤ電極の方向に押し出す押出部材と、
前記押出部材を水平1軸方向に往復移動させる駆動装置と、を備え、
前記押出部材によって前記通電体を前記ガイドアセンブリ内の所定の位置で固定する固定装置と、
前記固定装置の前記押出部材に対して同軸に設けられ前記通電体が前記ガイドアセンブリに着脱可能な状態で前記通電体を前記ワイヤ電極の方向に常時押し出す弾性部材と、
を備えてなるワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
前記弾性部材が、前記通電体を前記ワイヤ電極方向に常時押し出して、前記通電体が前記アセンブリに着脱可能な状態では、
前記通電体を通電体軸方向に着脱可能である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
前記ワイヤ放電加工装置がガイドアセンブリにおいて、
前記ワイヤ電極に対して前記通電体が接触する加工位置と、
前記通電体が接触しない退避位置と、の間で通電体を進退させる開閉装置を備え、
前記通電体を進退させる退避スライドを駆動する駆動装置が前記固定装置における駆動装置を共用し、
前記通電体が前記加工位置にあるときには、前記押出部材によって前記通電体が前記ガイドアセンブリ内の前記所定の位置で固定され、
前記通電体が前記退避位置にあるときには、前記押出部材によって前記通電体が前記所定の位置に固定されない状態で前記弾性部材によって前記ワイヤ電極の方向に常時押し出される構成である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
加工開始時に前記固定装置によって前記通電体が前記所定の位置で固定されていない場合、ワイヤ放電加工装置が警報を発し加工を中止する構成である、
ことを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項3に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
加工開始時に前記固定装置によって前記通電体が前記所定の位置で固定されていない場合、ワイヤ放電加工装置が前記固定装置を作動させて自動的に前記通電体を所定の位置で固定する状態に切り替えて加工を開始する、
ことを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項3に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
前記駆動装置は流体シリンダである、請求項1、請求項2、または請求項3に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
前記ワイヤ放電加工装置がガイドアセンブリにおいて、
前記通電体を前記垂直方向に張架された前記ワイヤ電極に対して直交する水平1軸方向に通電体を所定量スライドさせる通電体のスライド装置を含んでなり、
前記通電体を前記ガイドアセンブリ内の前記所定の位置で前記固定装置によって固定していない状態であって、
前記弾性部材によって前記通電体を前記ワイヤ電極の方向に押し出して、前記通電体をガイドアセンブリに着脱可能な状態で前記スライド装置を動作させ、予め設定されている前記所定量スライドさせて自動的に前記通電体の前記ワイヤ電極に対する接触位置を変更するように制御する制御装置、
を備えてなる請求項1、請求項2、または請求項3に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項8】
ワイヤガイドと通電体を収容するガイドアセンブリと、
前記ガイドアセンブリに設けられ前記通電体を水平線に対して垂直に張架されるワイヤ電極の方向に押し出す押出部材と、
前記押出部材を水平1軸方向に往復移動させる駆動装置と、
前記押出部材に対して同軸に設けられ前記通電体が前記ガイドアセンブリに着脱可能な状態で前記通電体を前記ワイヤ電極の方向に常時押し出す弾性部材と、
を備えてなるワイヤ放電加工装置における通電体の固定方法であって、
前記通電体を前記ガイドアセンブリ内の所定の位置において固定するときには、
前記弾性部材が前記通電体を押し出す力を超える力で前記通電体を前記ワイヤ電極の方向に押し出して前記通電体が外力を受けたときに振動しないで、前記通電体が押
出部材の押圧力によって破損しない適切な力で前記通電体を固定するように前記駆動装置を操作するとともに、
前記通電体を前記ガイドアセンブリ内において固定しないときは、
前記弾性部材によって前記通電体が前記ガイドアセンブリ内において位置がずれない状態で前記通電体を固定した状態から解放するように前記駆動装置を操作して、前記通電体を前記ワイヤ電極の軸線方向に対して直交する水平1軸方向に所定量スライドさせて前記通電体が前記ワイヤ電極と接触する前記通電体の接触面における前記ワイヤ電極と接触する位置を変更し、または前記通電体を前記ガイド
アセンブリに着脱する、
ことを特徴とするワイヤ放電加工における通電体の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ電極を工具電極として被加工物に対して所望の形状に放電加工を行うワイヤ放電加工装置、及びワイヤ放電加工装置における通電体の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工は、ワイヤ電極と被加工物との間に形成される所定の加工間隙に電圧パルスを印加して繰返し放電を発生させながらワイヤ電極と被加工物とを相対移動させ、放電エネルギによって被加工物を所望の形状に加工する放電加工方法である。そのため、ワイヤ放電加工においては、ワイヤ電極と被加工物とのそれぞれを放電加工用の電源に接続して給電する必要がある。一般的なワイヤ放電加工装置は、被加工物を挟んでワイヤガイドを対向配置し、ワイヤ電極を所定の供給経路(走行経路)に沿って加工間隙に送り出し走行させながら、一対のワイヤガイド間に所定の張力をもって張架する構成である。そして、この種のワイヤ放電加工装置においては、一対のワイヤガイドをそれぞれガイドアセンブリ内に組み込んでいるとともに、通電体もガイドアセンブリ内に一体的に収容して、通電体を通してワイヤ電極に電流を供給するようにされている。
【0003】
通電体は、走行するワイヤ電極と接触しワイヤ電極との間に生じる接触抵抗による摩擦熱によって摩耗する。長時間加工をし続けると、通電体のワイヤ電極と接触している部位に溝が形成されるようになり、通電体とワイヤ電極との間の接触圧が低下して、ワイヤ電極に十分に電流を供給できなくなる。そのため、通電体の摩耗の程度に対応して通電体を水平方向にスライドさせることができるようにして、通電体のワイヤ電極と接触している部位をずらして通電体とワイヤ電極との接触状態を初期の状態に戻すようにしたり、通電体をガイドアセンブリから抜き出したりガイドアセンブリに挿し込んだりできるようにして、新しい通電体に交換することができるように、通電体がガイドアセンブリ内に収容されている。例えば、特許文献1には、板状の通電体が止めネジあるいはボルトのような固定具によってガイドアセンブリ内の所望の位置に強固に押圧固定され、加工中に動かないようにされるとともに、ワイヤ電極の挿通時にはアクチュエータによってワイヤ電極と通電体との接触状態を解除するワイヤカット放電加工機用ワイヤガイド装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1に開示されるような通電体を止めネジあるいはボルトのような固定具を用いてガイドアセンブリに強固に固定する構成のワイヤ放電加工装置においては、通電体におけるワイヤ電極との接触位置をずらしたり、通電体を新品と交換したりするときに、作業者が所定の工具を使用して固定具を緩めて、強固に固定されている通電体を動かせるようにガイドアセンブリから解放し、スライドさせる必要がある。
【0006】
ガイドアセンブリの周囲には、加工槽壁、加工ヘッド、ワークスタンドのような部材が配設されており、このような部材が所定の工具によって固定具を操作して通電体をスライドさせる作業の障害となって、作業者の大きな負担になっている。通電体を十分に締め付けて固定することができないと、加工中に通電体ががたついて、通電体またはワイヤガイドとの間で二次放電の発生を誘発し、通電体またはワイヤガイドを破損させるおそれがある。反対に、通電体を強く締め付けすぎると、固定具が通電体を破損させるおそれがある。
【0007】
本発明は、所定の工具を使用しないでも通電体を比較的容易に安定して適切な固定力で固定することができるとともに、摩耗した通電体を交換またはスライドさせることのできるワイヤ放電加工装置を提供することを目的とする。本発明のワイヤ放電加工装置のいくつかの優れる点は、発明を実施するための形態の説明において詳細に記述する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、水平線に対して垂直に張架されるワイヤ電極を位置決め案内するワイヤガイドと、ワイヤ電極に通電する通電体と、ワイヤガイドと通電体を収容するガイドアセンブリと、ガイドアセンブリに設けられ通電体をワイヤ電極の方向に押し出す押出部材と、押出部材を水平1軸方向に往復移動させる駆動装置と、を備え、押出部材によって通電体を前記ガイドアセンブリ内の所定の位置で固定する固定装置と、固定装置の押出部材に対して同軸に設けられ通電体がガイドアセンブリに着脱可能な状態で通電体をワイヤ電極の方向に常時押し出す弾性部材と、を備えてなるワイヤ放電加工装置、が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のワイヤ放電加工装置および通電体の固定方法によると、通電体を固定するときは、押出部材が常に予め設定されている適切な力によって通電体をガイドアセンブリの固定面に押し付ける。そのため、人手に依らずに通電体を適切にガイドアセンブリ内に固定することができ、固定するときに通電体を破損するおそれがなく、固定している間に通電体が振動したり、がたついたりすることがなく、しっかりと固定される。一方、通電体を仮固定するときは、押出部材が通電体を固定しないが、人力で動かせる程度の比較的小さい力によって弾性部材とガイドアセンブリの固定面との間で通電体が保持されている。そのため、通電体が自然には動かない状態で作業者が通電体をスライドさせることができる。したがって、本発明によると、通電体を取り付けたり、取り外したり、または通電体のワイヤ電極と接触する位置を変えたりするときには、作業者の負担が軽減され、通電体またはワイヤガイドを破損させるおそれがなく、安定して適切な力で通電体を装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のワイヤ放電加工装置を示す概略側面図
【
図2】本発明の第1実施形態における固定装置を示す概略側面図
【
図3】本発明の第2実施形態による退避機構を兼用する固定装置を示す概略側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明のワイヤ放電加工装置の全体の構成の概容を示す。
図1では、ワイヤ電極の規定の走行径路が分かるように、ワイヤ放電加工装置を模式的に示している。
図1において、自動結線装置とワイヤ供給機構、およびワイヤガイド機構は、本機正面から見た状態で示されていて、ワイヤ回収機構は、本機側面から見た状態で示されている。以下、
図1を参照して、本実施形態によるワイヤ放電加工装置の構成を説明する。
【0012】
図1に示される実施形態のワイヤ放電加工装置において、ワイヤ電極WEは、水平面に対して垂直に張架されている。ワイヤ電極WEと被加工物WPとの間に所定の加工間隙が形成されるように、ワイヤ電極WEと被加工物WPとが対向配置される。ワイヤ電極WEと被加工物WPは、図示しない移動装置によって水平面上の任意の方向に相対移動する。ワイヤ電極WEを被加工物WPに対して傾斜させる、いわゆるテーパ装置は、図示省略されている。
【0013】
ワイヤ放電加工装置は、自動結線装置1と、ワイヤ供給機構2と、ワイヤ回収機構3と、ワイヤガイド機構4と、加工電源装置50と、圧縮空気供給装置6と、加工液供給装置7と、制御装置8とを含んで構成されている。ワイヤ電極WEは、被加工物WPを挟んで設けられる一対のワイヤガイド4U,4Lの間に、規定の走行径路に沿って所定のテンションが付与された状態で張架される。
【0014】
自動結線装置1は、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通して自動的に一対のワイヤガイド4U,4L間に張架する手段である。
【0015】
ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEの規定の走行径路に沿って、水平面に対して略垂直に設けられている。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEが規定の走行径路から逸脱しないように、ワイヤ電極WEを自動結線装置1の上位から上側ワイヤガイド4Uまで案内する手段である。ガイドパイプ11は、昇降装置によって上下方向に往復移動する。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEを焼き鈍すときと切断するときは、上限位置に移動する。ガイドパイプ11は、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通するときは、下限位置である上側ワイヤガイド4Uの入口まで移動する。
【0016】
図示しないワイヤ振動装置は、ガイドパイプ11の入口の直上に設けられている。ワイヤ振動装置は、ワイヤ電極WEに上下方向の微小な振動を与える手段である。ワイヤ振動装置は、電磁弁を切り換えることによって圧縮空気供給装置6から送られてくる所定の圧力の圧縮空気を一対の導入口から交互に入力して、圧縮空気の圧力を規定の走行径路に沿って直接または間接的にワイヤ電極WEに加える。その結果、ワイヤ電極WEが微小に上下動してワイヤ電極WEを下穴に通しやすくすることができる。
【0017】
ワイヤ供給機構2は、加工に供されていない新しいワイヤ電極WEを、規定の走行径路に沿って加工間隙に連続的に供給する手段である。ワイヤ供給機構2は、テンション装置10を含む。ワイヤ供給機構2は、主に、リール21と、ブレーキ装置22と、サーボプーリ23と、送出モータ10Bによって自転する送出ローラ10Aとを有する。また、ワイヤ供給機構2には、リミットスイッチのような断線検出器24と、歪ゲージのような張力検出器10Cとが設けられている。
【0018】
リール21と、サーボプーリ23と、送出ローラ10Aとを含むワイヤ供給機構2の各回転体は、走行するワイヤ電極WEを規定の走行径路に沿って案内するガイドである。以下の説明では、各回転体がワイヤ電極WEを送り出すときに回転する方向を正転方向とし、正転方向とは反対の方向を逆転方向とする。
【0019】
リール21には、ワイヤ電極WEを貯蔵するワイヤボビン25が回転可能に取り付けられる。ワイヤ電極WEは、ワイヤボビン25に巻回して貯蔵されるため、ワイヤ電極WEには巻き癖が付いている。ブレーキ装置22は、リール21の逆転方向に所要のトルクを加えて、ワイヤ電極WEにバックテンションを付与する。ブレーキ装置22は、リール21に装填されているワイヤボビン25の空転を阻止して、ワイヤ供給機構2におけるワイヤ電極WEの弛みを防止する。
【0020】
ブレーキ装置22は、具体的に、例えばヒステリシスモータのようなブレーキモータ、もしくは電磁クラッチのような電磁ブレーキである。ブレーキ装置22がブレーキモータである場合は、送出モータ10Bと同期して動作させることができる。ブレーキ装置22が電磁ブレーキである場合は、電磁クラッチの摩擦力によってブレーキ力を得る構成上、送出モータ10Bとは別に独立して制御される。ただし、電磁ブレーキは、制御装置8によって電磁ブレーキを作動させるタイミングとブレーキ力を制御することができるので、自動結線装置1の各装置の動作タイミングに合わせて動作させることが可能である。
【0021】
サーボプーリ23は、リール21と送出ローラ10Aとの間に設けられている。サーボプーリ23は自重によって、リール21と送出ローラ10Aとの間のワイヤ電極WEに対して、下向きに一定の荷重を加える。サーボプーリ23は、上下に自由に移動できるように設けられている。そのためサーボプーリ23は、テンションの微小な変動に合わせて上下に移動する。その結果、サーボプーリ23は、ワイヤボビン25から繰り出されるワイヤ電極WEに発生する微小な振動を吸収してテンションを安定させる。
【0022】
テンション装置10は、ワイヤ電極WEに所定のテンション(張力)を付与する手段、すなわち張力装置である。テンション装置10は、ワイヤ供給機構2に含まれている。テンション装置10は、主に、送出ローラ10Aと、送出モータ10Bと、張力検出器10Cと、ピンチローラ10Dと、モータ制御装置10Eとで構成されている。
【0023】
送出ローラ10Aは、送出モータ10Bによって自転する。送出ローラ10Aは、ピンチローラ10Dがワイヤ電極を送出ローラ10Aの外周面に押し付けることによって、ワイヤ電極WEを移動させる駆動力を得る。送出ローラ10Aは、ピンチローラ10Dを含む複数のローラによってワイヤ電極WEを弛ませないようにして、ワイヤ電極WEを断線させることなく円滑に走行させる。
【0024】
送出モータ10Bは、サーボモータである。送出モータ10Bは、制御装置8の指令信号に従ってモータ制御装置10Eを通して制御される。送出モータ10Bは、モータ制御装置10Eによって張力検出器10Cの検出信号に基づいてサーボ動作する。そのため、設定張力値が小さいときでもワイヤ電極WEのテンションが安定し、ワイヤ電極WEが弛んだり、断線したりするおそれがより小さい。制御装置8は、ワイヤ回収機構3の巻取装置30におけるトルクに合わせて送出モータ10Bを制御することができる。
【0025】
送出ローラ10Aは、ワイヤ電極WEが一対のワイヤガイド4U,4Lとの間に張架されているときは、送出ローラ10Aと巻取装置30の巻取ローラ30Aとの間の回転速度差によって、ワイヤ電極WEを実質的に停止させた状態で、またはワイヤ電極WEを所定の走行速度で加工間隙に連続して送り出しながら、ワイヤ電極WEに所定のテンションを付与する。
【0026】
送出ローラ10Aは、ワイヤ電極WEを結線するときは、送出モータ10Bによって正転方向に定速回転し、ワイヤ電極WEの先端を下穴に挿通、通過させてワイヤ回収機構3に捕捉させる。また、送出ローラ10Aは、自動結線のリトライを行なうときは、送出モータ10Bによって逆転方向に定速回転し、ワイヤ電極WEを所定位置まで巻き上げる。
【0027】
ワイヤ回収機構3は、加工に供されて消耗したワイヤ電極WEを、規定の走行径路に沿って加工間隙から回収する手段である。ワイヤ回収機構3は、巻取装置30と、方向転換用のローラ(プーリ)31と、搬送パイプ32と、アスピレータ33と、バケット34と、ワイヤ裁断機35とを有する。巻取装置30は、主に、巻取ローラ30Aと、巻取モータ30Bと、ピンチローラ30Cとから構成される。巻取ローラ30Aは、巻取装置30の駆動ローラを構成し、ピンチローラ30Bは、巻取装置30の従動ローラを構成する。
【0028】
下穴を抜けて下側ワイヤガイド4Lに通されたワイヤ電極WEは、ローラ31によって進行方向を水平方向に変えられて、搬送パイプ32に挿入される。搬送パイプ32の中のワイヤ電極WEは、アスピレータ33によって吸引され推進力を得る。
【0029】
搬送パイプ32を抜け出たワイヤ電極WEは、巻取装置30の巻取ローラ30Aとピンチローラ30Cとの間に捕捉、挟持される。巻取ローラ30Aは、定速回転モータである巻取モータ30Bによって正転方向に所定の回転速度で回転し、使用済のワイヤ電極WEを所定の走行速度で走行させながらバケット34の直上まで引き込む。本実施形態のワイヤ放電加工装置では、バケット34の上に引き込まれたワイヤ電極WEを、ワイヤ裁断機35で細断してバケット34に収容する。
【0030】
ワイヤガイド機構4は、被加工物WPを挟んで設けられる上下一対のワイヤガイド4U,4Lから構成されている。ワイヤガイドはガイドアセンブリ40に組み込まれている。上側ワイヤガイド4Uは、上側ガイドアセンブリ40Aの中に、下側ワイヤガイド4Lは下側ガイドアセンブリ40Bの中に、それぞれ組み込まれている。一対のワイヤガイド4U,4Lは、ワイヤ電極WEを規定の走行径路上に位置決めするとともに、走行するワイヤ電極WEを案内する。一対のワイヤガイド4U,4Lは、共にダイス形状を有する“ダイスガイド”であって、各ワイヤガイド4U,4Lとワイヤ電極WEとの間に数μmのクリアランスがあるので、自動結線時にワイヤ電極WEの先端をワイヤガイド4U,4Lの中に通すことができる。
【0031】
ガイドアセンブリ40には、加工電源装置50からワイヤ電極WEに加工電流を供給するための通電体5が収容されている。上側ガイドアセンブリ40Aには上側通電体5Uが、下側ガイドアセンブリ40Bには下側通電体5Lが、それぞれ収容されている。また、上下ガイドアセンブリ40A,40Bには、加工液供給装置7から供給されている所定圧力の加工液噴流を、加工間隙に噴射供給するための上下加工液噴流ノズル7U,7Lがそれぞれ組み込まれている。
【0032】
加工電源装置50は、図示省略されている、少なくとも、直流電源と、スイッチング回路と、リレースイッチとを備えている。本実施形態のワイヤ放電加工装置では、加工電源装置50は、加工間隙に加工電流を供給する加工電源回路を含んでいる。
【0033】
加工電源装置50の直流電源の正極は、上下ガイドアセンブリ40A,40Bにそれぞれ収容されている上側通電体5Uと下側通電体5Lに接続され、負極は被加工物WPに接続されている。加工中、加工電源装置50は、上下各通電体5U,5Lと被加工物WPとを通して加工間隙に繰返し電圧パルスを印加して、加工間隙に間欠的に所定の加工電流を供給する。
【0034】
圧縮空気供給装置6は、自動結線装置1のワイヤ振動装置に作動用の圧縮空気を供給する手段である。圧縮空気供給装置6は、図示しないエアコンプレッサのような圧縮空気供給源と、複数の電磁弁と、レギュレータとを含んでいる。圧縮空気供給装置6は、圧縮空気供給源の高圧の圧縮空気をレギュレータで所定の圧力に調整し、電磁弁を定期的に切り換えることによって、ワイヤ振動装置の一対の導入口に交互に所定圧力の圧縮空気を供給する。
【0035】
加工液供給装置7は、加工間隙に所定の圧力の加工液噴流を供給する手段である。加工液供給装置7は図示外の噴流ポンプによって、サービスタンクに貯留されている清浄な加工液を、上下ガイドアセンブリ40A,40Bにそれぞれ設けられている上下加工液噴流ノズル7U,7Lに供給する。それにより各加工液噴流ノズル7U,7Lから所定圧力の加工液噴流が、ワイヤ電極WEの規定の走行径路の軸線方向に対して同軸に加工間隙に向けて噴射される。なお
図1では、加工液供給装置7からワイヤガイド機構4に至る加工液の経路を途中は省略して示しているが、加工液供給装置7から出たこの経路の(A)表示部分が、ワイヤガイド機構4に入る経路の(A)表示部分に繋がっている。
【0036】
制御装置8は、ワイヤ放電加工装置の動作を制御する手段である。以下、制御装置8の制御動作のうち、主要な制御について説明する。本実施形態のワイヤ放電加工装置において、制御装置8は、自動結線装置1の動作を制御する。制御装置8は特に、加工電源装置50とテンション装置10を制御する。
【0037】
一般に、ワイヤ放電加工装置は、一対のワイヤガイド間に張架されているワイヤ電極WEと通電体5とが接触する加工位置と、ワイヤ電極WEと通電体5とが接触しない退避位置との間で通電体5を進退させる通電体の開閉装置を備えている。図示省略されている通電体の開閉装置は、ガイドアセンブリ40に備えられている機構である。通電体の開閉装置は、図示しないエアシリンダのような駆動源を含む駆動装置を作動させて通電体5を保持する保持体ごと通電体5を所定の加工位置と所定の退避位置との間で所定距離往復移動させることができる。自動結線時には上記保持体の駆動装置を作動させて、通電体5をワイヤ電極WEから離れた退避位置に移動させる。自動結線完了後には上記保持体の駆動装置を作動させて、再び通電体5をワイヤ電極WEの走行経路上の、通電体5がワイヤ電極WEと接触する加工位置まで移動させる。なお、本発明においては、通電体の開閉装置において、通電体5が加工位置にあるときを通電体5が閉の状態にあるとし、通電体5が退避位置にあるときを通電体5が開の状態にあるとする。また、通電体の開閉装置において、通電体5が加工位置に向かう移動を前進といい、退避位置に向かう移動を後退という。自動結線時に通電体5がワイヤ電極WEの走行経路から退避するのは、通電体5がワイヤ電極WEの走行経路上に配置されている場合には、通電体5がワイヤ電極WEの挿通を妨げるためである。
【0038】
通電体5の開閉装置は、少なくとも、図示しない通電体5を保持する保持体と、保持体を往復移動させる駆動装置とを備えている。上記保持体の駆動装置の駆動源は、例えば、空気や油圧による流体シリンダである。流体シリンダを駆動源とする場合は、流体シリンダに直結する連結部材によって直接的に保持体を動かして通電体5を移動させる構成だけではなく、流体シリンダにリンク機構のような公知の伝達機構を組み合わせて保持体を動かして通電体5を移動させるようにすることができる。また、
図1に示される実施形態においては、例えば、圧縮空気供給装置6から圧縮空気の供給を受けて駆動源のエアシリンダを作動させることも可能である。
【0039】
以下に、ガイドアセンブリ内の通電体の固定装置について、より詳しく説明する。実施形態において、通電体5は、例えば、タングステンカーバイト(超硬合金)のような導電性で耐摩耗性が高い材質の金属体であって平板形状に形成されている。通電体5は、ガイドアセンブリ40の側面に開口する横穴からガイドアセンブリ40内に挿入される。主に固定装置9によって、通電体5が外力を受けたときに振動しないとともに通電体5が押出部材91の押圧力によって破損しないような一定の適切な固定力で通電体5を安定して固定することができる。また、固定装置9によって、作業者が工具を使用して通電体を固定する作業が不要になり、作業者がより簡単に比較的短時間に摩耗した使用済の通電体5を新品の通電体5と交換することができ、または通電体5をスライドさせて通電体5のワイヤ電極WEと接触する部位を変えることを可能にする。
【0040】
固定装置9は、主に、水平1軸方向に往復移動する移動体91と、駆動源92と伝達機構95とを含んでなる駆動装置9Aを有する。以下、移動体91と、駆動源92と、伝達機構95について、別の名称を用いる場合は、同一の符号を付して説明する。固定装置9は、駆動装置9Aを動作させて、ガイドアセンブリ40内に設けられた移動体である押出部材91を往復移動させることによって通電体5に対して一定の力を加えてガイドアセンブリ40内の固定面に通電体を押圧して通電体5を固定状態にする機構である。なお、本発明のワイヤ放電加工装置の固定装置9において、より詳しくは、通電体5は、ガイドアセンブリ40内に設けられ通電体の開閉装置の移動体として機能する通電体5を保持する保持体の固定面に固定される。通電体5を固定している状態では、押出部材91が一定の力でワイヤ電極WEの方向に通電体5を押し出している。このとき、押出部材91がワイヤ電極WEの方向に通電体5を押し出す押圧力は、弾性部材93が通電体5を押し出してガイドアセンブリ40との間で通電体5を保持する保持力よりも大きい。通電体5は、押出部材91の押圧力によって一定の適切な押圧力で固定されるので、加工中に通電体5が振動したり、がたついたりすることがない。
【0041】
固定装置9は、駆動源92を作動させ駆動装置9Aを動作させて、押出部材91をワイヤ電極WEから離れる方向に移動させることによって、通電体5に加えられている押圧力をなくし、通電体5を押出部材91が固定していない状態である“仮固定状態”にする。固定装置9は、通電体5がガイドアセンブリ40に着脱可能な状態で通電体5をワイヤ電極WEの方向に常時押し出す弾性部材93を備えている。弾性部材93は、押出部材91が往復移動する方向に対して平行な方向に伸縮する。弾性部材93は、押出部材91の内部に押出部材91の軸線方向に沿って穿設されている穴90Hの底に一端が固定され他端が押出部材91の端面において上記穴90Hの端面から突出可能であって通電体5の側面と常時直接または間接的に接触するように設けられる。特に、
図2および
図3に示す固定装置9において、弾性部材93は、押出部材91とほぼ同軸に押出部材91の中に設けられている。弾性部材93は、具体的には、例えば、ゴムまたは圧縮コイルばねである。弾性部材93は、押出部材91が往復移動する方向に対して平行な方向に通電体5を押し出してガイドアセンブリ40内の固定面に通電体5を押し付けることによって、通電体5をガイドアセンブリ40との間で保持する。このとき、弾性部材93が通電体5をガイドアセンブリ40内に保持する保持力は、作業者によって通電体5がスライドする方向に押し出されるときの外力よりも小さい。したがって、本発明のワイヤ放電加工装置の通電体の固定装置においては、通常の通電体5が非固定状態にあるときに、通電体5がいわゆる“仮固定状態”になっている。そのため、通電体5が仮固定状態にあるとき、通電体5が弾性部材93によってガイドアセンブリに保持されて、脱落したり、スライドする方向に位置がずれたりすることがなく、作業者によって通電体5を新品と交換したり、スライドさせて通電体5のワイヤ電極WEと接触する部位を変えることができる。
【0042】
固定装置9の駆動装置9Aは、押出部材91をワイヤ電極WEの方向に移動させて通電体5に一定の押圧力を付与する。駆動装置9Aは、駆動源92の動力を直接押出部材91に伝えて押出部材91を移動させるか、または、例えば、リンク機構のような伝達機構95を介在させて押出部材91を移動させる。駆動装置9Aの駆動源92は、具体的に、例えば、圧縮空気による流体シリンダである。本実施形態においては、エアコンプレッサのような圧縮空気の供給源を新たに追加することなく、
図1に示される圧縮空気供給装置6から圧縮空気を供給するようにすることができる。
【0043】
実施形態における駆動装置9Aの駆動源92は、駆動装置9Aのリンク機構95と組み合わされている。そのため、実施形態の駆動装置9Aにおいては、リンク機構95によって駆動源92を押出部材91が往復移動する方向と直列に設置する必要がなく、比較的自由な位置に配置することができる点で有利である。また、リンク機構95のてこ比によって、動力がより小さい小型のシリンダによって十分な押圧力を得ることができる点でも有利である。そのため、実施形態における駆動装置9Aは、固定装置9の全体をコンパクトにすることを可能にする。また、例えば、上側ガイドアセンブリ40Aにおいて、駆動装置9Aの駆動源92を上側ガイドアセンブリ40Aの上に設置することによって、駆動源92を加工槽に供給される放電加工液に浸からないようにすることができる。
【0044】
固定装置9の弾性部材93は、例えば圧縮ばね(圧縮コイルばね)、引張ばね(引張コイルばね)、天然ゴム、あるいはシリコンゴム等の伸縮する物を適用することができる。
弾性部材93が小さい保持力で通電体5をガイドアセンブリ40側に保持するので、通電体5がガイドアッセンブリ40の横穴から外に脱落したり、スライドする方向に位置がずれることを防ぐ。例えば、通電体5をスライドさせてワイヤ電極WEと接触する部位を変えるようにした後に、通電体5を固定する際にずれてしまい、通電体5の摩耗した部分とワイヤ電極WEが意図せず再び接触するようになることが無くなる。
また、弾性部材93の材質や形状等を変更することで通電体5をガイドアセンブリ40に保持する力を容易に変更することができる。そのため、通電体5の大きさに関わらずにガイドアセンブリ40の構成を通電体5が仮固定状態で着脱可能である構成にすることができ、通電体5が脱落、あるいは位置がずれることなく、同時に通電体5に外力を与えた際には通電体5が通電体の軸方向にスライド可能に保持する状態を容易にもたらすことが可能になる。
【0045】
〔第1実施形態〕
図2は、本発明のワイヤ放電加工装置の第1実施形態の固定装置9を示す。
図2(a)は通電体5の仮固定状態を模式的に表している。第1実施形態において、押出部材91は、具体的には、押圧シリンダであり、駆動装置9Aの駆動源92は、エアシリンダである。エアシリンダ92の動作がリンク機構95を介して押圧シリンダ91を解放方向(図右方向)に移動させる。押圧シリンダ91が解放方向に移動すると、押圧シリンダ91の前進側端面90Sがプッシャ94から離れて、プッシャ94は弾性部材93の弾性力で通電体5を保持するようになる。この時、通電体5が押圧シリンダ91による押圧から解放されて通電体5が仮固定状態になる。通電体5の仮固定状態では、通電体5に外力を与えた際に通電体5が通電体5の軸方向(図の奥行方向)にスライド可能に、弾性部材93が通電体5を保持する。
図2(b)は通電体5の固定状態を模式的に表している。エアシリンダ92の動作がリンク機構95を介して押圧シリンダ91を押圧方向(図左方向)に移動させる。押圧シリンダ91が押圧方向に移動すると、弾性部材93は押圧シリンダ91の力を受けて弾性変形して、押圧シリンダ91の前進側端面90Sがプッシャ94に当接して、プッシャ94を直接押圧する。この時、通電体5が押圧シリンダ91の押圧を直接受けたプッシャ94によって押圧固定されて通電体5が固定状態になる。
【0046】
固定装置制御部90は、固定装置9を制御する。固定装置制御部90は、固定装置9の駆動装置9Aに指令信号を出力し、駆動装置9Aに所定の動作を行わせることによって、ガイドアセンブリ40の中における通電体5の設置状態を固定状態と仮固定状態との間で切り替える。なお、
図2は、固定装置制御部90の実際の設置位置を示すものではなく、固定装置制御部90は、実際には、ガイドアセンブリ40から離れた位置に配置される。また、本発明のワイヤ放電加工においては、数値制御装置を含む制御装置8によって固定装置制御部90を通して固定装置9を制御するように構成することができ、あるいは、制御装置8が固定装置制御部90を含む構成として、制御装置8から固定装置9を直接制御するようにすることができる。
【0047】
第1実施形態のワイヤ放電加工装置においては、通電体の固定装置9の駆動装置9Aを図示しない通電体の開閉装置の駆動装置として利用することができる。開閉装置が固定装置9の駆動装置9Aを共用する構成である場合、固定装置9の駆動装置9Aが作動して通電体5の押圧を解放し通電体5を仮固定状態にするときは、同時に駆動装置9Aが開閉装置を駆動して通電体5をワイヤ電極WEの走行経路から所定の退避位置まで退避させる。一方、固定装置9の駆動装置9Aが作動して通電体5を押圧し通電体5を固定状態にするときは、同時に駆動装置9Aが開閉装置を駆動して通電体5をワイヤ電極WEの走行経路上の加工位置まで移動させる。
開閉装置が固定装置9の駆動装置9Aを共用する構成である場合は、通電体5の固定と通電体5の開閉を1つのアクチュエータで行うことによって、固定装置9の駆動装置9Aと開閉装置の駆動装置がそれぞれ設けられる構成に比べてガイドアセンブリ40をより小さいサイズにして固定装置9をより設置しやすくするとともに、固定装置9のいくつかの構成部材と開閉装置のいくつかの構成部材も共用するようにすることができ、固定装置9の設置に要求される部品点数を減らすことによって固定装置9の設置をより容易にする利点がある。
【0048】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明のワイヤ放電加工装置の第2実施形態の固定装置9を示す。なお、
図2と同じ符号が付された部材または部位は、
図2に示される部材または部位と実質同一であって、詳しい説明を省略することがある。
図3に示される第2実施形態において、通電体の固定装置9は、固定部制御装置90と、押出部材91と、駆動源92とリンク機構95を含んでなる駆動装置9Aと、を備えてなる。また、通電体の固定装置は、押出部材91と、駆動源92とリンク機構95を含んでなる駆動装置9Aとを固定装置9と共用し、通電体5を保持する保持体である退避スライド96を備えてなる。
図3(a)は通電体5が仮固定状態にあって、同時に通電体5が所定の退避位置に移動している状態を模式的に表している。第2実施形態において、押出部材91は、具体的には押圧シリンダであり、駆動装置9Aの駆動源92は、具体的にはエアシリンダである。固定装置9のエアシリンダ92の動作がリンク機構95を介して押圧シリンダ91を通電体の開閉装置の退避スライド96の中空部位の内面に形成された押圧溝90Pに沿って解放方向(図右方向)に移動させる。押圧シリンダ91が解放方向に移動すると、押圧シリンダ91の前進側端面90Sがプッシャ94から離れて、プッシャ94は弾性部材93の弾性力で通電体5を保持するようになる。押圧シリンダ91が移動し続けると、押圧シリンダ91のフランジが押圧溝90Pの後退側端部に当接して押圧シリンダ91が停止する。さらに、エアシリンダ92が動作し続けることによって退避スライド96がガイドアセンブリ40内に形成されている退避溝90Eに沿って上記通電体5の解放方向と同じ退避方向(図右方向)に移動する。そして、退避スライド96のフランジが退避溝90Eの後退側端部に当接したときに、通電体5の所定の退避位置で退避スライド96が停止する。通電体の開閉装置において、通電体5をワイヤ電極WEの走行経路上の加工位置から退避位置まで後退させたとき、固定装置9においては、通電体5が駆動装置9Aによって押圧された状態から解放されて通電体5が仮固定状態になる。
図3(b)は通電体5が固定状態にあって、同時に通電体5が加工位置に移動した状態を模式的に表している。固定装置9のエアシリンダ92の動作がリンク機構95を介して押圧シリンダ91を押圧溝90Pに沿って通電体を固定する固定方向(図左方向)に移動させる。押圧シリンダ91が上記固定方向に移動することができなくなる位置まで前進したとき、弾性部材93は押圧シリンダ91の力を受けて弾性変形して、押圧シリンダ91の前進側端面90Sがプッシャ94に当接して、プッシャ94を直接押圧する。さらに、エアシリンダ92が動作し続けることによって、退避スライド96が退避溝90Eに沿って上記固定方向と平行な通電体5とワイヤ電極WEとが接触するワイヤ電極WEの走行経路上の加工位置の方向(図左方向)に移動する。退避スライド96のフランジが退避溝90Eの前進側端部に当接すると、通電体5の所定の加工位置で退避スライド96が停止する。開閉装置において、通電体5を所定の退避位置からワイヤ電極WEの走行経路上の加工位置まで前進させたとき、固定装置9においては、通電体5が押圧シリンダ91によってプッシャ94を介在させて退避スライド96の中空内の前進側内面に押圧固定されて固定状態になる。
【0049】
すでに詳しく説明された実施形態のワイヤ放電加工装置は、制御装置8において加工開始指令が与えられた際に、例えば、固定装置制御部90から情報を得ることによって、もしくは、押圧シリンダ91の位置を検出する図示しない位置検出器の信号を得ることによって、固定装置9によって通電体5が固定状態になっていないと判断される場合、制御装置8または固定装置制御部90が警報を発し作業者に異常を報知すると共に、加工を中止するように構成することができる。この構成によると、通電体5の固定を忘れて加工を行うトラブルを防止することができる。
【0050】
実施形態のワイヤ放電加工装置は、制御装置8において加工開始指令が与えられた際に、固定装置9によって通電体5が固定状態になっていないと判断される場合、制御装置8または固定装置制御部90によって固定装置9を起動して、自動的に固定状態になるように構成することができる。この構成によると、通電体5を固定状態へと切り替えた後に加工を開始することにより、通電体5の固定を忘れて加工を行うトラブルを防止することができる。
【0051】
実施形態のワイヤ放電加工装置は、通電体5を垂直方向に張架されたワイヤ電極WEに対して直交する水平1軸方向に通電体5を所定量スライドさせる通電体のスライド装置と組み合わせて実施することができる。
上記スライド装置は、通電体5をワイヤ電極WEに対して直交する水平方向に所定量移動させることができる駆動装置を含んでなる。例えば、通電体5とワイヤ電極WEとの間の接触圧を電気的に測定する検出器を設けて、制御装置8において、検出器によって検出される接触圧が所定の基準圧力よりも低下したと判断したとき、制御装置8が通電体の固定装置9と図示しない通電体の開閉装置を操作して、通電体5をガイドアセンブリ40内の所定の位置で固定装置9によって固定していない状態であって、弾性部材93によって通電体5をワイヤ電極WEの方向に押し出して通電体5をガイドアセンブリ40に着脱可能な状態にして、上記スライド装置を動作させ、通電体5を予め設定されている所定量スライドさせて自動的に通電体5のワイヤ電極WEに対する接触位置を変更するようにすることができる。このように、通電体のスライド装置を実施形態のワイヤ放電加工装置の通電体の固定装置と組み合わせることで、加工途中で通電体5の接触位置を新しくすることが必要な、長時間の加工においても無人での作業が可能となる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、すでにいくつかの変形例が示されているとおり、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、実施形態の通電体の固定装置における駆動装置の駆動源は、具体的に示されたエアシリンダに限定されず、例えば、リニアモータ、回転型モータ、電磁モータを駆動源とすることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 :自動結線装置
2 :ワイヤ供給機構
3 :ワイヤ回収機構
4 :ワイヤガイド機構
4U :上側ワイヤガイド
4L :下側ワイヤガイド
5 :通電体
5U :上側通電体
5L :下側通電体
6 :圧縮空気供給装置
7 :加工液供給装置
7U、7L:上下加工液噴流ノズル
8 :制御装置
9 :固定装置
9A :駆動装置
10 :テンション装置
10A :送出ローラ
10B :送出モータ
10C :張力検出器
10D :ピンチローラ
10E :モータ制御装置
11 :ガイドパイプ
21 :リール
22 :ブレーキ装置
23 :サーボプーリ
24 :断線検出器
25 :ワイヤボビン
30 :巻取装置
30A :巻取ローラ
30B :巻取モータ
30C :ピンチローラ
31 :方向転換用のローラ(プーリ)
32 :搬送パイプ
33 :アスピレータ
34 :バケット
35 :ワイヤ裁断機
40 :ガイドアセンブリ
40A :上側ガイドアセンブリ
40B :下側ガイドアセンブリ
50 :加工電源装置
90 :固定装置制御部
91 :押出部材(押圧シリンダ)
92 :駆動源(エアシリンダ)
93 :弾性部材
94 :プッシャ
95 :伝達機構(リンク機構)
96 :退避スライド
90E :退避溝
90P :押圧溝
90H :穴
90S :前進側端面
WE :ワイヤ電極
WP :被加工物
【要約】
【課題】一定の固定力で通電体を固定すると共に、工具を使用せず簡単に通電体を交換またはスライドすることが可能なワイヤ放電加工装置及びワイヤ放電加工方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、水平線に対して垂直に張架されるワイヤ電極を位置決め案内するワイヤガイドと、ワイヤ電極に通電する通電体と、ワイヤガイドと通電体を収容するガイドアセンブリと、ガイドアセンブリに設けられ通電体をワイヤ電極の方向に押し出す押出部材と、押出部材を水平1軸方向に往復移動させる駆動装置と、を備え、押出部材によって通電体をガイドアセンブリ内の所定の位置で固定する固定装置と、固定装置の押出部材に対して同軸に設けられ通電体がガイドアセンブリに着脱可能な状態で通電体をワイヤ電極の方向に常時押し出す弾性部材と、を備えてなるワイヤ放電加工装置が提供される。
【選択図】
図2