(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】金属板ラミネート用樹脂フィルムおよびそれを用いたラミネート金属板
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20230613BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20230613BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C08L67/02
B32B15/09 A
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021519922
(86)(22)【出願日】2019-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2019019974
(87)【国際公開番号】W WO2020234979
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由実
(72)【発明者】
【氏名】池渕 雅志
(72)【発明者】
【氏名】田中 健二朗
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-256630(JP,A)
【文献】特開平8-67808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L67/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度(Tg)が70℃以上90℃以下の熱可塑性ポリエステル中に、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが分散してなる樹脂組成物からなる金属板ラミネート用樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性ポリエステルが、エチレンテレフタレートおよび/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするものであり、
前記熱可塑性エラストマーが、ポリブチレンテレフタレートとポリオキシアルキレングリコールを主たる構成成分とするポリエーテルエステルであり、
該フィルム中の前記熱可塑性エラストマーの含有量が2~50重量%であり、
該フィルム中の前記熱可塑性エラストマーの含有量(重量%)をWとしたとき、前記熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度と該フィルムのガラス転移温度の差の絶対値ΔTgが下記式(1)を満たすことを特徴とする金属板ラミネート用樹脂フィルム。
ΔTg<0.5×W (1)
【請求項2】
前記ΔTgが下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項
1に記載の金属板ラミネート用樹脂フィルム。
ΔTg<0.2×W (2)
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーが
、ポリエーテル単位を50重量%以上含むことを特徴とする請求項1
または2に記載の金属板ラミネート用樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、金属板ラミネート用樹脂フィルム中において、島状に分散してなり、
該フィルム中に島状に分散した熱可塑性エラストマーの平均長径が0.1~5.0μm、平均短径が0.01~2μmである請求項1~
3のいずれかに記載の金属板ラミネート用樹脂フィルム。
【請求項5】
弾性率300MPa以下のポリオレフィンを1~10重量%の割合で含むことを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の金属板ラミネート用樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の金属板ラミネート用樹脂フィルムに、樹脂層を積層してなる積層フィルム。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載の金属板ラミネート用樹脂フィルム、または請求項
6に記載の積層フィルムで金属面を被覆していることを特徴とするラミネート金属板。
【請求項8】
請求項
7に記載のラミネート金属板を、前記金属板ラミネート用樹脂フィルムまたは前記積層フィルムが内面側となるように加工してなる容器または蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板ラミネート用樹脂フィルムおよびそれを用いたラミネート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板、ブリキ板あるいはティンフリースチール板等の金属板に予め樹脂フィルムをラミネートしたラミネート金属板を、絞り加工、曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)および/またはしごき加工に付して成形されたラミネート側面無継目缶(シームレス缶)が広く実用化されている。
【0003】
近年、ラミネートシームレス缶の用途拡大に伴い加工も多様化し、樹脂フィルムに対しても従来よりも高度な加工性が要求されている。
【0004】
例えば、厚ゲージの鋼板を高絞り比で缶胴側壁を高板厚減少率(リダクション率)で加工する場合は、加工発熱を受けながら缶周方向への強い圧縮加工を受ける。さらに、近年の傾向としては、デザイン性やパネリング強度向上を目的とした、ビード加工や周状多面体壁加工、エンボス加工など、ボデー成形で缶体を成形した後に行われる2次加工が好んで行われているが、2次加工は、一度加工、熱を受けた後に缶胴の限られた領域に局所的な加工を受ける。こうした加工に対応するためには、従来の要求性能に加えて、さらなる強度、柔軟性密着性を兼ね備えた材料が求められる。
【0005】
ラミネートシームレス缶に使用される樹脂としては、環境負荷が少なく、製缶加工性に優れ、フレーバー特性などの内容物保護性能に優れた熱可塑性ポリエステルが好適であり、広く使用されている。しかしながら、熱可塑性ポリエステルは成形加工後の耐衝撃性が劣っていて、成形加工後に衝撃を受けて亀裂が生じた場合は、缶詰の内容物の腐食性によって金属が腐食し、内容物中に金属が溶出したり、変色して外観を損ねたりすることがある。
【0006】
熱可塑性ポリエステルフィルムの耐衝撃性を改善するための方策として、ポリエステルフィルムと金属板の間に接着用プライマーを介在させる方法が開示されている(たとえば特許文献1)。
【0007】
また、熱可塑性ポリエステル中に柔軟な樹脂を溶融混練し、粒子状に分散させることで、柔軟な樹脂が衝撃を吸収することにより耐衝撃性を向上させたフィルムが開示されている(たとえば、特許文献1~13)。
【0008】
柔軟な樹脂としてポリオレフィンを溶融混練したフィルムとしては、エチレン-プロピレン共重合体等の極性基を有さないポリオレフィンを溶融混練したフィルム(特許文献1)、アイオノマーや、カルボキシル基等の極性基を有する化合物を共重合等により導入したポリオレフィンを溶融混練したフィルム(特許文献2、3)や、さらに、極性基を有さないポリオレフィンと熱可塑性ポリエステルを溶融混練する際、アイオノマーや、カルボンキシル基等の極性基を有する化合物を共重合等により導入したポリオレフィンを相溶化剤として添加したフィルム(特許文献4、5)などが開示されている。
【0009】
さらに柔軟樹脂としてポリエステル系熱可塑性エラストマーを熱可塑性ポリエステルに溶融混練したフィルムも知られている(特許文献7~13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-347176号公報
【文献】特開2001-353814号公報
【文献】特開2003-226762号公報
【文献】特開2005-194473号公報
【文献】特開2004-149790号公報
【文献】特公昭61-52179号公報
【文献】特開平7-290644号公報
【文献】特開平8-66988号公報
【文献】特開平8-67808号公報
【文献】国際公開第97/45483号
【文献】特開平10-77397号公報
【文献】特開2001-253032号公報
【文献】特開2001-301091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、熱可塑性ポリエステルフィルムの耐衝撃性を改善するための方策として、ポリエステルフィルムと金属板の間に接着用プライマーを介在させる方法が開示されている(たとえば特許文献1)が、この方法は接着用プライマーの塗布工程が必要でコストアップの要因になる。
【0012】
また、熱可塑性ポリエステル中に柔軟な樹脂を溶融混練し、粒子状に分散させることで、柔軟な樹脂が衝撃を吸収することにより耐衝撃性を向上させたフィルムにおいて、柔軟な樹脂としてポリオレフィンを溶融混練したフィルムとしては、エチレン-プロピレン共重合体等の極性基を有さないポリオレフィンを溶融混練したフィルム(特許文献1)があるが、これらのポリオレフィンは熱可塑性ポリエステルと相溶性、混和性が低いため、熱可塑性ポリエステル中のポリオレフィン粒子が大きく、さらにポリオレフィン粒子と熱可塑性ポリエステルの界面の密着性が低い。このため、このフィルムをラミネートしたラミネート金属板をラミネート側面無継目缶(シームレス缶)に加工する際、絞り加工、曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、しごき加工のようなフィルムに大きな剪断が加わる加工において、ポリオレフィンと熱可塑性ポリエステルの界面剥離により、フィルムの削れが発生しやすくなる。
【0013】
このため、ポリオレフィンと熱可塑性ポリエステルの相溶性、混和性を向上させるため、アイオノマーや、カルボキシル基等の極性基を有する化合物を共重合等により導入したポリオレフィンを溶融混練したフィルム(特許文献2、3)や、さらに、極性基を有さないポリオレフィンと熱可塑性ポリエステルを溶融混練する際、アイオノマーや、カルボンキシル基等の極性基を有する化合物を共重合等により導入したポリオレフィンを相溶化剤として添加したフィルム(特許文献4、5)などが開示されている。
【0014】
これらのフィルムでは、熱可塑性ポリエステル中のポリオレフィン粒子は細かくなり、界面密着性も向上している。しかしながら、アイオノマーやカルボキシル基等の極性基を有する化合物を共重合等により導入したポリオレフィンは、熱可塑性ポリエステルと反応してゲル化しやすいことが知られており(特許文献6)、これらのポリオレフィンと熱可塑性ポリエステルを押出機内で溶融混練する際、ゲルが生じやすく、特にフィルム中の異物を除去するため、フィルターを適用すると、フィルター内でゲルが発生し、フィルターが詰まりやすくなり、生産性が著しく低下する。
【0015】
また、柔軟樹脂としてポリエステル系熱可塑性エラストマーを熱可塑性ポリエステルに溶融混練したフィルムも知られている(特許文献7~13)。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは熱可塑性ポリエステルとの混和性が高いため、熱可塑性ポリエステル中のポリエステル系熱可塑性エラストマー粒子が小さくなり、これらの界面の密着性も高くなる。このため、フィルムに大きな剪断が加わる加工においてもフィルムの削れが発生しにくい。
【0016】
しかしながら、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリエステルと相溶化しやすい。相溶化すると、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが熱可塑性ポリエステル中に粒子状に分散しなくなり、その衝撃吸収性が低下する。さらに、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと熱可塑性ポリエステルからなるフィルムのガラス転移温度が低下することで、フィルムを金属板にラミネート後の、加工時の発熱に耐えられず、フィルムの破断等が起こりやすくなる。
【0017】
さらに、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを熱可塑性ポリエステルに溶融混練してなるフィルムは、フィルムの滑り性が低く、フィルムを巻き取る際にフィルムどうしが固着しやすい。これを防ぐために無機粒子等からなる滑材を添加することが行われているが、ラミネート側面無継目缶(シームレス缶)に加工する際の厳しい加工に耐えるためには、粒径が細かく、かつ粒度分布が狭い、高価な滑材を使用しなければならない。また、滑材によっては、添加することでフィルムの耐衝撃性を低下させる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、熱可塑性ポリエステルからなり、耐衝撃性に優れ、かつゲルの発生が少ない、さらに加工時のフィルム削れが少ないフィルムとして、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを溶融混練したフィルムに着目し、さらにその耐衝撃性の向上および、成形時の加工発熱に耐えられるフィルムについて鋭意、検討を行った。さらに、上述したフィルムの滑りを低コストで改善し、かつ耐衝撃性を維持できるフィルムについても検討し、特定の熱可塑性ポリエステルに特定のポリエステル系熱可塑性エラストマーを溶融混練することで、耐衝撃性が向上し、かつ成形時の加工発熱に耐えられるフィルムとなることを見出した。さらに、特定の弾性率のポリオレフィンを混合することで、フィルムの滑りが改善され、耐衝撃性も維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明によれば、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上90℃以下の熱可塑性ポリエステル中に、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが分散してなる樹脂組成物からなる金属板ラミネート用樹脂フィルムであって、該フィルム中の前記熱可塑性エラストマーの含有量が2~50重量%であり、該フィルム中の熱可塑性エラストマーの含有量(重量%)をWとしたとき、前記熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度と該フィルムのガラス転移温度の差の絶対値ΔTgがΔTg<0.5×Wを満たすことを特徴とする金属板ラミネート用樹脂フィルムが提供される。さらに、弾性率300MPa以下のポリオレフィンを1~10重量%含むことで、フィルムの滑りが改善され、耐衝撃性も維持できるため好ましい。
【0020】
また、本発明によれば、上記の樹脂フィルムを、金属板の少なくとも一方の面にラミネートしてなるラミネート金属板が提供される。
さらに、本発明によれば、上記のラミネート金属板を、前記樹脂フィルムが内面側となるように加工してなる容器および蓋が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フレーバー特性などの内容物保護性能に優れた熱可塑性ポリエステルからなり、耐衝撃性に優れ、またゲルの発生等による生産性低下が少なく、さらに金属板にラミネートしてラミネート金属板とした際に、製缶加工時におけるフィルム削れの発生を抑制でき、かつ、加工時の発熱にも耐えられる耐熱性を有するフィルム、およびそれを用いたラミネート金属板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムを用いたラミネート金属板の一実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<金属板ラミネート用樹脂フィルム>
本実施形態の金属板ラミネート用樹脂フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上90℃以下の熱可塑性ポリエステル中に、ポリエステル系熱可塑性エラストマーが分散してなる樹脂組成物からなり、金属板ラミネート用樹脂フィルム中における、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量が2~50重量%の範囲内にあるものである。
【0024】
熱可塑性ポリエステルとしては、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上90℃以下のであり、フィルム状に成形し得る熱可塑性のポリエステルであればよく、特に限定されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレートおよび、これらにイソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等のジカルボン酸成分;エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール;ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール等;を共重合したポリエステルが挙げられる。さらに、熱可塑性ポリエステルとしては、上述したポリエステルを1種単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
この熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は70℃以上90℃以下である必要がある。熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは72~85℃、より好ましくは74~80℃である。Tgが70℃未満である場合は、得られる金属板ラミネート用樹脂フィルムの耐熱性が低くなり、耐衝撃性と加工時の発熱にも耐えられる耐熱性が両立できない。一方、Tgが90℃を超えると、得られるフィルムの耐衝撃性が低下する。
【0026】
熱可塑性ポリエステルのなかでも、エチレンテレフタレートおよび/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とする熱可塑性ポリエステルがコスト、フレーバー性等の観点から好ましい。この場合、主たる構成成分とは、エチレンテレフタレートおよび/またはエチレンイソフタレートのうち、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸成分、イソフタル酸成分に由来の単位が、全ジカルボン酸成分に由来の単位のうち、50モル%以上を占めることをいう。
【0027】
また、本実施形態で用いる熱可塑性ポリエステルには、3官能以上の多塩基酸および多価アルコールから選択される多官能成分が共重合されていてもよい。多官能成分が共重合されることで、フィルムを高速で製造する際や溶融したフィルムを高速で直接金属板にラミネートしてラミネート金属板を製造する際に、フィルムの端部(耳)が揺れて、膜厚が変動するドローレゾナンス(耳揺れ)が低減されるため好ましい。3官能以上の多塩基酸および多価アルコールから選択される多官能成分としては、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの多官能成分の含有量は、熱可塑性ポリエステル中、0.05~3.0モル%、好ましくは0.1~2.0モル%、特に好ましくは0.2~1.0モル%である。多官能成分の含有量が上記範囲であると、熱可塑性ポリエステル中におけるゲル化の発生を抑制しながら、ドローレゾナンス低減効果を適切に高めることができる。
【0028】
本実施形態で用いる熱可塑性ポリエステルは、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=1/1の混合溶媒に溶解させて、30℃で測定した極限粘度〔η〕が0.5~1.4dl/gであることが好ましく、0.7~1.2dl/gであることがより好ましく、0.8~1.0dl/gであることがさらに好ましい。極限粘度〔η〕を上記範囲とすることにより、得られるフィルムの耐衝撃性を良好なものとしながら、フィルムとする際における成形性をより高めることができる。
【0029】
次に、本実施形態で用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーについて説明する。ポリエステル系熱可塑性エラストマーとはジカルボン酸とジオールがエステル結合でつながったポリエステルからなり、熱を加えると軟化して流動性を示し、室温(25℃)まで冷却すればゴム状に戻る性質を持つ樹脂である。具体的には、本実施形態で用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーは、室温(25℃)においてゴム弾性を有するという観点より、ガラス転移温度(Tg)が室温(25℃)以下であるものが好ましく、20℃未満であるものがより好ましく、10℃以下であるものがさらに好ましい。なお、本実施形態で用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーのガラス転移温度(Tg)の下限は、特に限定されないが、好ましくは-50℃以上である。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの構造は、硬い結晶構造を形成するハードセグメントと柔らかいソフトセグメントからなる。そして、熱を加えるとハードセグメントが溶融することで流動性を示し、冷却すると結晶となったハードセグメントが分子鎖の絡み合い点となることでゴム状の性質を示す。ハードセグメントを構成する成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ビスフェノールA、ビスフェノールS,2,6-ナフタレンジカルボン酸、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる、またソフトセグメントを構成する成分としては、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、および1,6-ヘキサンジオール、1,8―オクタンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルが挙げられ、これらのなかでもポリエーテルが好ましく、ポリエーテルの中でも特にポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0030】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、室温(25℃)においてゴム状の性質を示すものであれば特に構造は限定されない、室温(25℃)においてゴム状の性質を示す指標としては、ポリエステル系熱可塑性エラストマーのガラス転移温度が室温(25℃)以下、好ましくは20℃以下であることが挙げられる。そして、好ましいポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ポリエーテル単位からなるソフトセグメントと、ジカルボン酸からなるハードセグメントとがエステル結合を介して結合されてなるポリエーテルエステルが挙げられ、ポリエーテル単位をポリエステル系熱可塑性エラストマー中において、50重量%以上含むものが好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリエーテル単位の含有割合は、より好ましくは50~70重量%であり、さらに好ましくは52~65重量%である。ポリエーテル単位は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー中に、少なくとも1つ含まれていればよく、複数含まれていてもよい。ポリエーテルエステル以外のポリエステル系熱可塑性エラストマーあるいは、ポリエーテルエステルであってもポリエーテル単位の含有量が50重量%未満の場合は、熱可塑性ポリエステルと溶融混練した際、相溶化しやすくなり、フィルムの耐熱性が低下する。特にポリエーテルエステルの場合、ポリエーテル単位の含有量が20重量%以下では、相溶化が顕著となり、フィルムの耐熱性のみならず耐衝撃性も低下する。特に好ましいポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレートとポリオキシアルキレングリコールを主たる構成成分とする樹脂であり、ポリブチレンテレフタレートにポリテトラメチレングリコール(PTMG)を共重合した樹脂が市販されている。
【0031】
ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリエーテル単位(ポリエーテルセグメント)の分子量は特に限定されないが、分子量が500~5000のものが好ましく用いられる。さらに、金属との密着性向上のため、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸等で変性されていてもよい。
【0032】
本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルム中のポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は2~50重量%であり、好ましくは2.5~25重量%、より好ましくは4~18重量%である。2重量%未満ではフィルムの耐衝撃性が低くなる。一方、50重量%を超えると、熱可塑性ポリエステルに、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等を溶融混練した際の溶融粘度が低くなり、フィルムに成形できなくなる他、フィルム成形できたとしても、その耐熱性が低下し、このフィルムを金属板に貼り合わせたラミネート金属板を加工する際の加工発熱に耐えられない。
【0033】
本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムは、フィルム中の熱可塑性エラストマーの含有量(重量%)をWとしたとき、フィルムに含まれる熱可塑性ポリエステルのガラス転移温度と該フィルムのガラス転移温度の差の絶対値ΔTgが、ΔTg<0.5×Wを満たすものである。ΔTgが0.5×W以上の場合は、耐衝撃性を向上させるためにポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量を増やすと、フィルムのTgが低下して耐熱性が低下するため、フィルムの耐衝撃性と耐熱性を両立できない。特に好ましくはΔTg<0.2×Wを満たす範囲である。
【0034】
また、本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルム中では、熱可塑性ポリエステル中にポリエステル系熱可塑性エラストマーが島状に分散していることが好ましく、その大きさは、平均長径が0.1~5.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.7~3.2μmであり、平均短径が0.01~2μmであることが好ましく、より好ましくは0.15~1μmである。
【0035】
本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムには、弾性率300MPa以下のポリオレフィンが1~10重量%含まれていてもよい。この場合、フィルムの耐衝撃性を低下させることなく、低コストでフィルムの滑り性が向上し、フィルム巻取時の固着を防ぐことができる。ポリオレフィンの弾性率が300MPaを超えるとフィルムの耐衝撃性が低下する。好ましいポリオレフィンの弾性率は100MPa以下である。また、ポリオレフィンの含有量が1重量%未満の場合はフィルムの滑り性が向上せず、10重量%を超えると、このフィルムを金属板に貼り合わせたラミネート金属板を加工する際にフィルムが削れやすくなる。弾性率300MPa以下のポリオレフィンの含有量は、好ましくは2~8重量%であり、より好ましくは3~7重量%である。
【0036】
さらに本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムには、上記以外の樹脂層を積層し、積層フィルムとしてもよい。このような層は本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムの上層、下層のいずれに設けてもよいし、あるいは、上層および下層の両方に設けてもよい。この層を形成する樹脂としては、当該層の役割に応じた樹脂を選定すればよい。たとえば、金属板ラミネート用樹脂フィルムの金属板と貼り合わせる面に低融点のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート層や接着性ポリオレフィン層を設けることで金属板との接着性を向上させたり、金属板と貼り合わせる面の反対面にポリエチレンテレフタレート層を設けることで、フィルムのフレーバー性を向上させたり、ポリエチレンナフタレート層を設けることでフィルムのバリア性を向上させることができる。またこの樹脂層の厚さは、本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムの耐衝撃性等を損ねない範囲とすべきである。たとえば、金属板と貼り合わせる面に、熱可塑性ポリエステルとポリエステル系熱可塑性エラストマーと、必要に応じて用いられるポリオレフィンを溶融混練した層(下層)を設け、その反対面に、フレーバー性に優れるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンイソフタレート共重合体(PET/I)層(上層)を設けた2層フィルムとする場合、下層と上層との厚み比率は、下層:上層=1:4~24:1の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1:1~19:1、さらに好ましくは4:1~9:1の範囲である。このような厚み比率とすることで、フィルムの耐衝撃性を良好に維持しながら、フレーバー性を好適に高めることができる。
【0037】
また、本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムには、光安定剤、耐衝撃改良剤、相溶化剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、反応触媒、着色防止剤、ラジカル禁止剤、可塑剤、帯電防止剤、末端封鎖剤、酸化防止剤、熱安定剤、離型剤、難燃剤、抗菌剤、抗黴剤等の添加剤を添加してもよい。特に、酸化防止剤は、フィルムと貼り合わせる金属板の表面の防錆にも有効であり、食品衛生の観点からビタミンEが好ましく用いられる。これらの添加剤の含有量としては、好ましくは0.005~5重量%であり、より好ましくは0.01~2重量%、さらに好ましくは0.05~1重量%である。含有量をこのような範囲とすることにより、フィルム強度を良好に保ちながら、その添加効果を十分なものとすることができる。
【0038】
本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されるものではなく、熱可塑性ポリエステル、およびポリエステル系熱可塑性エラストマー、ならびに必要に応じて用いられるポリオレフィンを押出機に供給して溶融混練した後、Tダイより膜状に押出して、ロール状で冷却固化して製造する方法が挙げられる。溶融混練する温度については、熱可塑性ポリエステルが溶融混練できる範囲であればよいが、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの熱安定性が低いため、可能な限り低温で行うべきである。さらに、熱可塑性ポリエステルとポリエステル系熱可塑性エラストマーを溶融状態で長時間混練するとこれらの樹脂間でエステル交換反応が進んで相溶化しやすくなるため、混練は短時間で行う方がよい。このため、熱可塑性ポリエステルのみを溶融させ、溶融後、温度を下げつつ、押出機の途中からポリエステル系熱可塑性エラストマーを供給して混練する方法(サイドフィード)が好ましく用いられる。
【0039】
熱可塑性ポリエステル、およびポリエステル系熱可塑性エラストマー、ならびに必要に応じて用いられるポリオレフィンからなる樹脂層に加えて他の樹脂層を積層し、積層フィルムとする場合は、もう1台の押出機に樹脂を供給し、フィードブロックあるいはマルチマニフォールドTダイで合流させて、共押出しすることで積層フィルムを製造する。
【0040】
本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムは、たとえば、
図1に示すラミネート金属板10の、ラミネートフィルム12を形成するために用いられる。ここで、
図1は、本実施形態に係るラミネート金属板10を示す断面図であり、金属板11の一方の面上に、ラミネートフィルム12が被覆して形成される。
図1に示すラミネート金属板10は、たとえば、側面無継目缶(シームレス缶)などを形成するための材料として用いられる。ラミネートフィルム12を金属板11に被覆する方法については、公知の方法で実施可能で、金属板11を予備加熱してラミネートフィルム10を熱接着で貼り合わせる方法や、ラミネートフィルム12を形成するための樹脂組成物を溶融させ、溶融状態の樹脂組成物を金属板11に押し出しコートする方法等も適用可能である。
【0041】
<ラミネート金属板>
次いで、本実施形態のラミネート金属板について、
図1に示すラミネート金属板10を参照しながら、説明する。
図1に示すラミネート金属板10は、ラミネートフィルム12を、金属板11の一方の面上に張り合わせることにより製造される。本実施形態においては、ラミネートフィルム12として、上述した本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムを用いる。
【0042】
金属板11としては、特に限定されず、通常の缶用素材として広汎に使用されている電解クロム酸処理鋼板(ティンフリースチール、以下、適宜、「TFS」とする。)や錫めっき鋼板(ぶりき、以下、適宜、「ぶりき」とする。)などの各種表面処理鋼板や、アルミニウム合金板を使用することができる、表面処理鋼板としては10~200mg/m2の皮膜量の金属クロムからなる下層と、クロム換算で1~30mg/m2の皮膜量のクロム水和酸化物からなる上層とからなる2層皮膜を鋼板上に形成させたTFSが好ましく、このような構成を有するTFSによれば、本実施形態の金属板ラミネート用樹脂フィルムに対し十分な密着性を有し、さらに耐食性をも兼ね備えるものである。
【0043】
ぶりきとしては、鋼板表面に錫を0.1~11.2g/m2のめっき量でめっきし、その上にクロム換算で1~30mg/m2の皮膜量の金属クロムとクロム水和酸化物からなる2層皮膜を形成させたもの、またはクロム水和酸化物のみからなる単層皮膜を形成させたものが好ましい。いずれの場合も基板となる鋼板は、缶用素材として一般的に使用されている低炭素冷延鋼板であることが好ましい。鋼板の板厚は0.1~0.32mmであることが好ましい。アルミニウム合金板に関しては、JIS 3000系、またはJIS 5000系のものが好ましく、表面に電解クロム酸処理を施して、0~200mg/m2の皮膜量の金属クロムからなる下層と、クロム換算で1~30mg/m2の皮膜量のクロム水和酸化物からなる上層とからなる2層皮膜を形成させたものか、またはリン酸クロメート処理を施してクロム換算で1~30mg/m2のクロム成分と、リン換算で0~30mg/m2のリン成分が付着しているものが好ましい。アルミニウム合金板の板厚は0.15~0.4mmであることが好ましい。
【0044】
そして、本発明のラミネート金属板10は、たとえば、次の方法により製造することができる。すなわち、本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムを、公知のラミネーターを用いて、ラミネートフィルム12中の熱可塑性ポリエステルの融点より20℃~40℃高い温度に加熱された金属板11に、1対のラミネートロールで圧着、冷却することで、ラミネート金属板10を製造することができる。この際、ラミネートフィルム12と金属板11との接着性を向上させるため、ラミネートフィルム12と金属板11との間にプライマー層を設けることもできる。密着性と耐腐食性とに優れたプライマー塗料の代表的なものとして、種々のフェノール類とホルムアルデヒドから誘導されるレゾール型フェノールアルデヒド樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂とからなるフェノールエポキシ系塗料が挙げられる。特に、レゾール型フェノールアルデヒド樹脂とビスフェノール型エポキシ樹脂とを、50:50~5:95の重量比で含有する塗料が好ましく、40:60~10:90の重量比で含有する塗料がより好ましい。接着プライマー層は、一般に0.01~10μmの厚みとすることが好ましい。接着プライマー層は予め金属板11上に設けてもよい。
【0045】
あるいは、ラミネート金属板10は、溶融混練した後、Tダイより膜状に押出した本発明の金属板ラミネート用樹脂フィルムを、直接金属板11上にラミネートする方法により、製造してもよい。この方法によれば、直接ラミネート金属板10を製造できるので、コストの低減を図ることができる。
【0046】
なお、ラミネート金属板10における、ラミネートフィルム12の厚みは、特に限定されないが、好ましくは8~35μm、より好ましくは15~30μmである。
【0047】
<容器(シームレス缶)>
本発明のラミネート金属板10は、種々の容器に適用が可能である。たとえば、側面無継目缶(シームレス缶)とすることができる。具体的には、ラミネートフィルム12が内面側となるように、ラミネート金属板10を、絞り加工、曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)および/またはしごき加工に付すことで、側面無継目缶(シームレス缶)を得ることができる。なお、本実施形態の容器としては、側面無継目缶(シームレス缶)に特に限定されるものではなく、飲料物や食物、医薬品を収容し得る他の缶や箱、蓋などにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0049】
<熱可塑性エラストマーのソフトセグメントの種類、含有量>
熱可塑性エラストマーを重トリフルオロ酢酸に溶解し、さらに重クロロホルム(トリメチルシラン0.1重量%含有)で希釈し、核磁気共鳴分析装置(商品名「JNM-ECZ400S」、日本電子社製)にて、プロトンNMRスペクトルを測定して、ソフトセグメント成分の種類、含有量を評価した。
【0050】
<熱可塑性ポリエステル、金属板ラミネート用樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)>
示差走査熱量計(商品名「DSC8500」、パーキンエルマー社製)にて、280℃で溶融後、200℃/分で-50℃まで冷却した。そして-50℃から280℃まで10℃/分で昇温したときに観測されるガラス転移の補外開始温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0051】
<ポリエステル系熱可塑性エラストマーのガラス転移温度(Tg)>
示差走査熱量計(商品名「DSC8500」、パーキンエルマー社製)にて、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを溶融させた後、200℃/分で-50℃まで冷却した。そして-50℃から280℃まで10℃/分で昇温したときに観測されるガラス転移の補外開始温度をガラス転移温度(Tg)とした。なお、この際における溶融温度は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)、(A6)は200℃、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A2)は230℃、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A3)、(A4)、(A5)は250℃とした。
【0052】
<ポリオレフィン成分の弾性率>
動的粘弾性自動測定器(商品名「RHEOVIBRON DDV-01FP」、オリエンテック社製)にて、40℃、10Hzにおける貯蔵弾性率(E’)を、弾性率として評価した。
【0053】
<フィルム中に分散したポリエステル系可塑性エラストマーの長径、短径>
フィルムの断面を走査電子顕微鏡で観察し、10μm四方中に分散しているポリエステル系熱可塑性エラストマーの長径と短径を測定し、それぞれを平均することで、平均長径および平均短径を求めた。
【0054】
<加工性>
ラミネーターにて、厚さ0.225mmのTFS(ティンフリースチール)を260℃に加熱後、1対のラミネートロールで、金属板ラミネート用樹脂フィルムを圧着、冷却することで、ラミネート金属板を作製した。次いで、ボディーメーカーにて、以下の条件でしごき加工に付して側面無継目缶である絞りしごき缶(DI缶(食缶7号缶))を成形した。
・絞りしごき加工直前の金属板ラミネート用樹脂フィルムの温度:常温
・ブランク径:147.5mm
・絞り条件:1段絞り比 1.62
2段絞り比 1.39
・パンチ径:65.55mmφ
・リダクション:50%
そして、ボデー成形後の開口端付近における、金属板ラミネート用樹脂フィルムの微小剥離(フィルム浮き)、削れ、ヘアの発生有無を下記の基準で評価した。
○:100缶中、フィルム浮き、削れ、ヘアが発生した缶なし
△:100缶中、10缶以内のフィルム浮き、削れ、ヘアの発生あり
×:100缶中、11缶以上のフィルム浮き、削れ、ヘアの発生あり
【0055】
<耐衝撃性(デントERV)>
レトルト処理後の缶壁について、以下の条件でデントERV評価を実施した。
板の圧延方向に対して0°、45°、90°の3方向、カップの底から40mmの高さ位置にデュポン衝撃試験機を用いて高さ50mmから172gの錘を先端径0.5mmのポンチに落下させ、デントを付与し、デント部のERV(Enamel Rater Value)を測定した。
電解液には、1%塩化ナトリウム水溶液に界面活性剤(ラピゾールA-80、日油)を200mg/L添加した液とエタノールを2:1の割合で混合した液を用い、6Vの電圧を印可し、4秒後の電流値を読み取り測定値とした。
評価は、1種サンプルにつき3点の平均値を算出し下記基準にて判定した。
○;0.05mA以下
△;0.05mAを超え0.1mA以下
×;0.1mA超
【0056】
<フィルムの滑り性>
表面性測定機(商品名「表面性測定機 TYPE:14、新東科学製」にて、ASTM平面圧子(63mm四方(40cm2))を使用し、荷重200gf、試験速度100mm/分)で、ポリエステルフィルム(滑材無添加)との動摩擦係数を評価した。
評価は、1種サンプルにつき3点の平均値を算出し下記基準にて判定した。
○:1.0以下
△:1.0未満
【0057】
<実施例1>
イソフタル酸が2モル%共重合された、極限粘度〔η〕(フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=1/1の混合溶媒に溶解させて、30℃で測定、以下、同様。)が0.8(dl/g)、ガラス転移温度(Tg)が76.9℃のポリエチレンテレフタレート(熱可塑性ポリエステル(P1)(商品名「BK6180B」、三菱ケミカル社製)89.5重量部を二軸押出機のホッパーより供給し、285℃~275℃で溶融した。さらにポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)(商品名「モディックGQ430」、三菱ケミカル社製、ガラス転移温度(Tg):-26℃)5重量部、ポリオレフィン(B1)として、エチレン-プロピレン共重合体樹脂(商品名「アドフレックスQ100F」、LyondelBasell社製、弾性率98MPa)5重量部、および酸化防止剤としてビタミンE(商品名「Irganox E201」、BASF社製)0.5重量部を二軸押出機の途中に設けた投入口より供給し、これらを、ホッパーから供給した熱可塑性ポリエステル(P1)と、270℃から255℃で溶融混練し、Tダイにより膜状に押出してキャストロールで冷却固化することで、厚さ20μmの金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。このフィルムのガラス転移温度(Tg)は76.4℃であり、原料である熱可塑性ポリエステル(熱可塑性ポリエステル(P1))とのTgの差の絶対値ΔTgは0.5℃であった。ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)のソフトセグメントの種類、含有量、およびポリオレフィン(B1)の弾性率、および試作した金属板ラミネート用樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)以外の評価結果を表1に示す。表1に示す通り、加工性、耐衝撃性、フィルムの滑り性とも良好であった。なお、表1に示すように、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)としては、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、分子量:1000)の単位を56重量%の割合で共重合してなるポリブチレンテレフタレート系エラストマーを使用した。
【0058】
<実施例2,3>
実施例2においては、熱可塑性ポリエステル(P1)の使用量を84.5重量部、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)の使用量を10重量部とし、実施例3においては、熱可塑性ポリエステル(P1)の使用量を79.5重量部、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)の使用量を15重量部として、熱可塑性ポリエステル(P1)およびポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)の使用量を変更した以外は実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。これらのフィルムのガラス転移温度(Tg)は75.9℃、75.4℃であり、熱可塑性ポリエステルに対するTg(ΔTg)は表1に示す通りであった。そして表1に示す通り、加工性、耐衝撃性、フィルムの滑り性とも良好であった。
【0059】
<実施例4>
ポリオレフィン(B1)に代えて、ポリオレフィン(B2)を用いたこと以外は、実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。ポリオレフィン(B2)としては、メタロセンプラストマー(商品名「カーネル KF380」、日本ポリエチレン社製)を使用し、その弾性率は102MPaであった。このフィルムの加工性、耐衝撃性、フィルムの滑り性については、表1に示す通り、いずれも良好であった。
【0060】
<実施例5,6>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)の代わりに、ポリエステル系エラストマー(A2)を用い、表1に示す樹脂組成としたこと以外は、実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A2)としては、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、分子量:5000)の単位を34重量%の割合で共重合してなるポリブチレンテレフタレート系エラストマー(商品名「ハイトレル 5557」、デュポン社製、ガラス転移温度(Tg):-1℃)を使用した。フィルムのTgはやや低くなり、加工性がやや低下したが、耐衝撃性、フィルムの滑り性は表1のとおり良好であった。
【0061】
<実施例7>
ポリオレフィンを添加せず、熱可塑性ポリエステル(P1)の使用量を89.5重量部とした以外は、実施例2と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。フィルムの滑りがやや低下したこと以外は、加工性、耐衝撃性とも表1のとおり良好であった。
【0062】
<実施例8>
ポリオレフィン(B1)に代えて、ポリオレフィン(B3)を用いたこと以外は、実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。ポリオレフィン(B3)としては、ブロックポリプロピレン(商品名「ノバテックPP BC6DRF」、日本ポリプロ社製)を使用し、その弾性率は580MPaと高かった。このフィルムの加工性、フィルムの滑り性については、表1に示すとおり、良好であったが、耐衝撃性がやや低下した。
【0063】
<比較例1>
ポリエステル系熱可塑性エラストマーを添加せず、熱可塑性ポリエステル(P1)の使用量を94.5重量部とした以外は、実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。このフィルムは表2に示す通り、耐衝撃性が低かった。
【0064】
<比較例2>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)の使用量を55重量部、熱可塑性ポリエステル(P1)の使用量を40.5重量部とした以外は、実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造したが、Tダイから膜状に樹脂が押出すことができず、フィルムを成形できなかった。
【0065】
<比較例3~8>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)に代えて、表2に示すポリエステル系熱可塑性エラストマー(A3)~(A5)を添加し、樹脂組成を表2に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。熱可塑性エラストマー(A3)としては、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、分子量:5000)の単位を16重量%の割合で共重合してなるポリブチレンテレフタレート系エラストマー(商品名「ハイトレル 7427」、デュポン社製、ガラス転移温度(Tg):5℃)を使用し、熱可塑性エラストマー(A4)としては、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、分子量:500)の単位を19重量%の割合で共重合してなるポリブチレンテレフタレート系エラストマー(商品名「ノバデュラン 5510S」、三菱エンジニアリングプラスチック社製、ガラス転移温度(Tg):2℃)を使用し、熱可塑性エラストマー(A5)としては、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、分子量:500)の単位を10重量%の割合で共重合してなるポリブチレンテレフタレート系エラストマー(商品名「ノバデュラン 5505S」、三菱エンジニアリングプラスチック社製、ガラス転移温度(Tg):5℃)を使用した。これらのフィルムは、用いた熱可塑性ポリエステル(P1)に比べ、Tgが低く、フィルムの加工性が悪かった。さらに、フィルム中に分散しているポリエステル系熱可塑性エラストマーが不明瞭(島状構造の形成が不十分)であり、耐衝撃性も低かった。
【0066】
<比較例9,10>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)に代えて、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A6)(商品名「エコフレックス F Blend C1200」、BASF社製、ガラス転移温度(Tg):-24℃)を添加し、樹脂組成を表2に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。ポリエステル系熱可塑性エラストマー(A6)は、アジピン酸を50モル%共重合したPBTであった。これらのフィルムは、用いた熱可塑性ポリエステル(P1)に比べ、Tgが低く、フィルムの加工性が悪かった。
【0067】
<比較例11>
熱可塑性ポリエステル(P1)に代えて、ガラス転移温度(Tg)が119℃のポリエチレンナフタレート(熱可塑性ポリエステル(P2)、商品名「TN8065S」、帝人社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。このフィルムは表3に示す通り、加工性と耐衝撃性が低かった。
【0068】
<比較例12>
熱可塑性ポリエステル(P1)に代えて、イソフタル酸が12モル%とダイマー酸が6モル%共重合された、極限粘度〔η〕(フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=1/1の混合溶媒に溶解させて、30℃で測定、以下、同様。)が1.0(dl/g)、ガラス転移温度(Tg)が50℃の共重合ポリエチレンテレフタレート(熱可塑性ポリエステル(P3))を用いたこと以外は、実施例1と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。このフィルムは表3に示す通り、加工性が低かった。
【0069】
<実施例9>
イソフタル酸が2モル%共重合された、極限粘度〔η〕(フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=1/1の混合溶媒に溶解させて、30℃で測定、以下、同様。)が0.8(dl/g)、ガラス転移温度(Tg)が76.9℃のポリエチレンテレフタレート(熱可塑性ポリエステル(P1))89.5重量部を二軸押出機Aのホッパーより供給し、285℃~275℃で溶融した。さらにポリエステル系熱可塑性エラストマー(A1)5重量部、ポリオレフィン(B1)5重量部、および酸化防止剤としてビタミンE(商品名「Irganox E201」、BASF社製)0.5重量部を二軸押出機Aの途中に設けた投入口より供給し、これらを、ホッパーから供給した熱可塑性ポリエステル(P1)と、270℃から255℃で溶融混練した。また、二軸押出機Bのホッパーに熱可塑性ポリエステル(P1)を供給し、285~260℃で溶融混練した。これらの二軸押出機A、Bから押出された樹脂をマルチマニフォールドTダイに供給し、膜状に押出してキャストロールで冷却固化することで、厚さ20μmの、二軸押出機Aに供給された樹脂を下層、二軸押出機Bに供給された樹脂を表層とする金属板ラミネート用2層樹脂フィルムを製造した。このフィルムの、熱可塑性ポリエステルとポリエステル系エラストマー、ポリオレフィンがブレンドされた樹脂層と熱可塑性ポリエステル層の厚さ比率(下層:表層)は4:1であった。このフィルムの熱可塑性ポリエステルとポリエステル系エラストマー、ポリオレフィンがブレンドされた樹脂層(下層)がTFS(ティンフリースチール)に接着するようにラミネート金属板を作製し、加工性、耐衝撃性を評価したところ、表4に示す通り、いずれも良好であった。
【0070】
<実施例10>
熱可塑性ポリエステル(P1)に代えて、ガラス転移温度(Tg)が119℃のポリエチレンナフタレート(熱可塑性ポリエステル(P2)、(商品名「TN8065S」、帝人社製)を二軸押出機Bに供給して表層としたこと以外は、実施例9と同様に金属板ラミネート用樹脂フィルムを製造した。このフィルムの加工性、耐衝撃性、フィルムの滑り性については、表4に示す通り、いずれも良好であった。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【符号の説明】
【0075】
10…ラミネート金属板
12…ラミネートフィルム
11…金属板