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  • 特許-電気化学装置及びそれを含む電子装置 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】電気化学装置及びそれを含む電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230613BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230613BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230613BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20230613BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230613BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230613BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230613BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230613BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230613BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230613BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230613BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230613BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20230613BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20230613BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20230613BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20230613BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/451
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/131
H01M50/489
H01M4/36 D
H01G11/06
H01G11/64
H01G11/62
H01G11/30
H01G11/52
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021523451
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 CN2020081846
(87)【国際公開番号】W WO2021189477
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-04-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉俊飛
(72)【発明者】
【氏名】張水蓉
(72)【発明者】
【氏名】唐超
(72)【発明者】
【氏名】鄭建明
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-294397(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110660962(CN,A)
【文献】中国特許第105845983(CN,B)
【文献】特開2016-081609(JP,A)
【文献】特開2014-035953(JP,A)
【文献】特開2008-270086(JP,A)
【文献】特開2014-160568(JP,A)
【文献】特開2012-174340(JP,A)
【文献】特開2018-6046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/052、10/0566
H01M4/00-4/62
H01M50/434、50/443、50/451、50/489
H01G11/06、11/30、11/52、11/64、11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、
負極、
前記正極と前記負極との間に位置するセパレータ、及び
電解液を含む電気化学装置であって、
前記正極は、正極集電体、及び前記正極集電体に設ける正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、前記正極活物質は元素Aを含み、前記元素Aは、Al、B、Ca、Mg、Ti、Cu、Nb、Si、Zr、Y及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記電解液は式(I)で示される化合物の少なくとも1種を含み、
【化12】
式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立して、H、F、Cl、Br、I、フェニル基、及び、無置換又は置換基を有するC1-C8炭化水素基からなる群から選ばれる1種であり、
前記正極活物質における前記元素Aと前記式(I)で示される化合物との質量比は1:0.2~1:50であり、
前記式(I)で示される化合物は、
【化13】
の少なくとも一種であり、
前記電解液は、前記式(I-1)で示される化合物~前記式(I-7)で示される化合物の少なくとも1種、及び前記式(I-8)で示される化合物を含み、前記式(I-1)で示される化合物~前記式(I-7)で示される化合物の総質量と前記式(I-8)で示される化合物の質量との比は2:1より大きく、
前記電解液は、さらに、第一添加剤を含み、前記第一添加剤は、フルオロエチレンカーボネートおよび1,3,6-ヘキサントリカルボニトリルを含み、且つ、前記第一添加剤の含有量は、前記電解液の総質量の0.1%~20%を占める、電気化学装置。
【請求項2】
前記電解液は、さらに、LiPO2F2を含み、且つ、前記元素Aと前記LiPO2F2との質量比は、1:0.01~1:20である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記電解液は、さらに、式(II)で示される化合物を含み、
【化14】
式中、R17は無置換又は置換基を有するC1-C8アルキル基であり、pは0又は1であり、
式(II)で示される化合物の含有量が前記電解液の総質量に占める百分率は20%以下である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記電解液は、さらに、第二添加剤を含み、前記第二添加剤は、テトラフルオロほう酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム4,5-ジシアノ-2-トリフルオロメチルイミダゾール、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラート、及びリチウムビス(オキサラト)ボラートの少なくとも1種を含み、且つ、前記第二添加剤の含有量は、前記電解液の総質量の0.1%~5%を占める、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記正極活物質層は第一粒子を含み、前記第一粒子の円形度は0.4以上であり、前記第一粒子の断面積は20μm2以上であり、前記正極の前記集電体に垂直な断面の総面積に対して、前記第一粒子の断面の総面積の割合は、10%~50%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記第一粒子は破砕粒子を含み、前記第一粒子の総面積に対して、前記破砕粒子の総面積は30%以下である、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記正極活物質層は第二粒子を含み、前記第二粒子の円形度は0.4未満であり、前記第二粒子の断面積は20μm2未満であり、前記正極の前記集電体に垂直な断面の総面積に対して、前記第二粒子の断面の総面積は、10%~60%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記正極活物質は、式IIIで示される化合物及び式IVで示される化合物の少なくとも1種を含み、
【化15】
式中、0.90≦n≦1.10、0.05≦a≦0.3、0.002≦b≦0.3、0.001≦c≦0.1、0≦m≦0.05、且つ0.60<1-b-c<0.95であり、
【化16】
式中、0.001≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、Dは、S、F、N、Cl、及びIからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記セパレータは、基材層及び表面処理層を含み、前記表面処理層は無機セラミック粒子を含み、前記基材層と前記表面処理層との厚さの比は2:1~20:1である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵技術分野に関し、より具体的には、電気化学装置及びそれを含む電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマート製品の普及と使用に伴い、携帯電話、ノートパソコン、カメラなどの電子製品に対する需要は年々増加している。電気化学装置は、電子製品の電源として、日常生活においてますます重要な役割を担っている。その中で、リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、動作電圧が高く、軽量で、自己放電率が低く、サイクル寿命が長く、メモリー効果がなく、環境に優しいなどの利点を備えるため、スマート製品、電気自動車、電動工具、無人機、インテリジェントロボット、先進武器装備、大規模なエネルギー貯蔵などの分野に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、各分野での電気化学装置の幅広い使用に伴い、電気化学装置に対する要求はますます厳しくなっている。例えば、電気化学装置に対して、長い使用寿命が求められるだけでなく、電気化学装置の使用安全性を確保することも求められる。特に、市場で、電池膨張、一定使用期間後の電子製品の自動電源オフ、及び燃焼爆発の問題が頻繁に発生した後、使用中の電気化学装置の安全性に対する要求は新しいレベルに高まっている。つまり、長い使用寿命を備えながら、高い安全性を備える電気化学装置の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、少なくともある程度で、関連分野に存在した少なくとも一つの問題を解決することを意図するように、電気化学装置及び前記電気化学装置を使用する電子装置を提供する。
【0005】
本発明の一態様によれば、本発明は、正極、負極、前記正極と前記負極との間に位置するセパレータ、及び電解液を含む電気化学装置であって、前記正極は、正極集電体、及び前記正極集電体に設ける正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、前記正極活物質は元素Aを含み、前記元素Aは、Al、B、Ca、Mg、Ti、Cu、Nb、Si、Zr、Y及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記電解液は式(I)で示される化合物の少なくとも1種を含み、
【化1】
式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立して、H、F、Cl、Br、I、フェニル基、及び、無置換又は置換基を有するC-C炭化水素基からなる群から選ばれる1種であり、前記正極活物質における前記元素Aと前記式(I)で示される化合物との質量比は1:0.2~1:50である電気化学装置を提供する。
【0006】
本発明の実施例によれば、前記式(I)で示される化合物は、
【化2】
の少なくとも一種である
【0007】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、前記式(I-1)で示される化合物~前記式(I-7)で示される化合物の少なくとも1種、及び前記式(I-8)で示される化合物を含み、前記式(I-1)で示される化合物~前記式(I-7)で示される化合物の少なくとも1種の総質量と前記式(I-8)で示される化合物の質量との比は2:1より大きい。
【0008】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、さらに、LiPOを含み、且つ、前記元素Aと前記LiPOとの質量比は、1:0.01~1:20である。
【0009】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、さらに、式(II)で示される化合物を含み、
【化3】
式中、R17は無置換又は置換基を有するC-Cアルキル基であり、pは0又は1であり、式(II)で示される化合物の含有量が前記電解液の総質量に占める百分率は20%以下である。
【0010】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、さらに、第一添加剤を含み、前記第一添加剤は、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルファイト(ES)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート(TMSPi)、トリス(トリメチルシリル)ボラート(TMSB)、トリアリルホスフェート(TPP)、アジポニトリル(AND)、スクシノニトリル(SN)、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル(HTCN)、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル及び1,3,5-ペンタントリカルボニトリルの少なくとも1種を含む。
【0011】
本発明の実施例によれば、前記第一添加剤の含有量が前記電解液の総質量の0.1%~20%を占める。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、さらに、第二添加剤を含み、前記第二添加剤は、テトラフルオロほう酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウム4,5-ジシアノ-2-トリフルオロメチルイミダゾール(LiTDI)、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(LiDFOP)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラート(LiDFOB)、及びリチウムビス(オキサラト)ボラート(LiBOB)の少なくとも1種を含む。
【0013】
本発明の実施例によれば、前記第二添加剤の含有量が前記電解液の総質量の0.1%~5%を占める。
【0014】
本発明の実施例によれば、前記正極活物質層は第一粒子を含み、前記第一粒子の円形度は0.4以上であり、前記第一粒子の断面積は20μm以上であり、前記正極の前記集電体に垂直な断面の総面積に対して、前記第一粒子の断面の総面積の割合は、10%~50%である。
【0015】
本発明の実施例によれば、前記第一粒子は破砕粒子を含み、前記第一粒子の総面積に対して、前記破砕粒子の総面積は30%以下である。
【0016】
本発明の実施例によれば、前記正極活物質層は第二粒子を含み、前記第二粒子の円形度は0.4未満であり、前記第二粒子の断面積は20μm未満であり、前記正極の前記集電体に垂直な断面の総面積に対して、前記第二粒子の断面の総面積は、10%~60%である。
【0017】
いくつかの実施例において、前記正極の空隙率は25%以下である。
【0018】
いくつかの実施例において、前記正極の前記集電体に垂直な方向の断面積に対して、前記正極集電体の断面積の割合は5%~20%である。
【0019】
本発明の実施例によれば、前記正極活物質は式IIIで示される化合物及び式IVで示される化合物の少なくとも1種を含み、
【化4】
式中、0.90≦n≦1.10、0.05≦a≦0.3、0.002≦b≦0.3、0.001≦c≦0.1、0≦m≦0.05、且つ0.60<1-b-c<0.95であり、
【化5】
式中、0.001≦e≦0.1、0≦f≦0.1であり、Dは、S、F、N、Cl及びIからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
本発明の実施例によれば、前記セパレータは、基材層及び表面処理層を含み、前記表面処理層は無機セラミック粒子を含み、前記基材層と前記表面処理層との厚さの比は2:1~20:1である。
【0021】
本発明の一態様によれば、本発明は、本発明に記載の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0022】
少なくとも1つの一態様において、本発明は、式(I)で示される化合物を電解液に添加し、元素Aを正極活物質にドープし、そして、正極活物質における元素Aと式(I)で示される化合物との質量比を調整することによって、電気化学装置のサイクル安定性を効果的に改善することができるとともに、電気化学装置のガス発生の程度を効果的に低減することができる。
【0023】
本発明の他の態様及び利点は、部分的に以下の説明において説明され、示され、又は、本発明の実施例の実施を通じて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下では、本発明の実施例を説明するために、本発明の実施例又は先行技術を説明するための必要な図面を概略的に説明する。明らかなことに、以下に説明される図面は、本発明の実施例の一部にすぎない。当業者にとって、創造的な労働なしに、依然として、これらの図面に例示される構造から、他の実施例の図面を得ることができる。
【0025】
図1A図1A図1Bは、それぞれ多結晶の正極活物質と擬単結晶の正極活物質の形態を示す。
図1B図1A図1Bは、それぞれ多結晶の正極活物質と擬単結晶の正極活物質の形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の明細書では、同じ又は類似の部件及び同じ又は類似的な機能を備える部件は、類似的な符号で示される。本発明に説明される図面と関連する実施例は、例示的なものであり、図式的なものであり、本発明に対する基本的な理解を提供するために使用されるものである。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0027】
本発明で使用されるように、用語「約」は小さな変化を表示及び説明するためのものである。事例又は状況と組み合わせて使用する場合に、前記用語はその中での事例又は状況が精確に発生する例、並びにその中での事例又は状況と極めて類似的に発生する例を指し得る。例を挙げると、数値と組み合わせて使用する時場合に、用語は、前記数値の±10%以下の変化範囲、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下の変化範囲を指し得る。例を挙げると、2つの数値の差が前記数値の平均値の±10%以下である場合(例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下)、前記2つの数値は「約」同じであると考える。
【0028】
なお、本発明では、範囲の形で量、比率及び他の数値を表すことがある。当業者にとって理解できるように、このような範囲の形は、便宜上及び簡潔にするためのものであり、当該範囲に明確に限定されている数値を含むだけでなく、前記範囲に含まれるすべての各々の値又はサブ範囲も含み、それは、各々の値又はサブ範囲を明確に限定することに相当する。
【0029】
具体的な実施形態及び請求の範囲において、用語「の一方又は多方」、「の一つ又は複数」、「の1種又は複数種」、又は、他の類似な用語で接続される項のリストは、リストされる項の任意の組み合わせを意味する。例えば、項A及びBがリストされている場合、「A及びBの少なくとも一方」という短句は、Aのみ、Bのみ、又はA及びBを意味する。他の具体的な例では、項A、B、及びCがリストされている場合、「A、B、及びCの少なくとも一方」という短句は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB(Cを除く)、A及びC(Bを除く)、B及びC(Aを除く)、又はA、B、及びCのすべてを意味する。項Aは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項Bは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。項Cは、単一の素子又は複数の素子を含んでいてもよい。
【0030】
用語「円形度」とは、粒子の横断面が真円に近づく程度を指す。円形度R=(4π×面積)/(周囲長×周囲長)であり、Rが1の場合、横断面は真円であり、Rが小さいほど、横断面は不規則になり、真円との差が大きくなる。本発明は、円度計を使用して正極活物質粒子の円形度を測定する。具体的な試験方法は、以下の具体的な実施例を参考し得る。
【0031】
用語「破砕粒子」とは、走査型電子顕微鏡下での画像中の粒子の断面に割れがある粒子を指す。割れとは、長さが0.1μm以上、幅が0.01μm以上の連続パターンを指す。
【0032】
用語「炭化水素基」とは、炭素及び水素を含有する基を指す。例えば、炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基を含み得る。ここで、炭化水素基は直鎖及び分岐状炭化水素基を含む。例えば、炭化水素基は、C-C50炭化水素基、C-C40炭化水素基、C-C30炭化水素基、C-C20炭化水素基、C-C12炭化水素基、C-C10炭化水素基、C-C炭化水素基、C-C炭化水素基、C-C炭化水素基、C-C炭化水素基であり得る。なお、炭化水素基は、任意に、置換されてもよい。
【0033】
用語「アルキル基」は直鎖及び分岐状アルキル基を含む。例えば、アルキル基は、C-C50アルキル基、C-C40アルキル基、C-C30アルキル基、C-C20アルキル基、C-C12アルキル基、C-C10アルキル基、C-Cアルキル基、C-Cアルキル基、C-Cアルキル基であり得る。いくつかの実施例において、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどを含む。なお、アルキル基は、任意に、置換されてもよい。
【0034】
前記基が置換された場合、置換基は、独立して、シリル基、シロキサン基、アミノ基、エーテル基、エステル基、カルボキシル基、スルホン酸基、メルカプト基、シアノ基、ハロゲン基、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれることができる。
【0035】
一、電気化学装置
電気化学装置は、それを高温環境に放置した場合、又は、充放電サイクル中に、ガスが発生し、電気化学装置が膨張する。ガス発生の現象がひどい場合、電子製品の使用安全性に影響を及ぼし、消費者に否定的な使用体験をもたらし、消費者の人身安全を脅かす。従って、電気化学装置の安全性を向上させる重要な要素の一つは、電気化学装置のガス発生を低減することである。
【0036】
本発明は、電気化学装置でのガス発生の主な原因は、電解液が正極活物質や負極活物質と副反応を起こし、ガス状の副生成物を生成することであることを発見する。また、本発明は、以下のことも発見する。正極シートの冷間プレス及び電気化学装置の充放電サイクル中に、正極活物質粒子が破砕しやすい。粒子が破砕した後、新しい界面が露出し、電解液が割れを通って粒子内部に浸透し、かつ、新しい界面での正極活物質と副反応を起こす。その結果、ガスの発生が促進され、そして、電気化学装置の容量は、充放電サイクルの進行と伴い、急速に減衰する。また、電気化学装置の充電中に、リチウムイオンが正極活物質からどんどん脱離するにつれて、正極活物質中の活性金属(例えば、ニッケル元素又はコバルト元素)と酸素との結合力が弱まり、酸素が放出され、放出された酸素が電解液を酸化し、ガスの発生を促進する。
【0037】
少なくとも上記のガス発生現象の検討に基づいて、本発明は、電解液系と正極活物質を同時に改良し、かつ電解液系と正極活物質とのマッチング関係の検討に着目し、電解液系と正極活物質との間の相乗効果を十分に発揮させて、ガス発生の程度が小さく、サイクル特性が良い電気化学装置が得られる。
【0038】
本発明のいくつかの実施例において、本発明は、正極、負極、前記正極と前記負極との間に位置するセパレータ、及び電解液を含む電気化学装置であって、前記正極は、正極集電体、及び前記正極集電体に設ける正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、前記正極活物質は元素Aを含み、前記元素Aは、Al、B、Ca、Mg、Ti、Cu、Nb、Si、Zr、Y及びWの少なくとも1種を含むか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記電解液は式(I)で示される化合物の少なくとも1種を含み、
【化6】
式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立して、H、F、Cl、Br、I、フェニル基、及び、無置換又は置換基を有するC-C炭化水素基からなる群から選ばれる1種であり、前記正極活物質における前記元素Aと前記式(I)で示される化合物との質量比は1:0.2~1:50である電気化学装置を提供する。
【0039】
前記式(I)で示される化合物は、1,3-プロパンスルトン及びその誘導体の少なくとも1種である。前記式(I)で示される化合物を添加剤として電解液に加えることにより、正極活物質粒子の表面に安定な固体電解質界面膜(SEI膜)を形成して、正極活物質と電解液との間の副反応を減少することができる。そして、正極活物質に元素Aをドープ又は被覆することにより、材料自体の構造安定性を向上させ、酸素放出を低減することができる一方、式(I)で示される化合物と相互に連動し、正極活物質粒子の表面を安定化させ、副反応の発生を減少することができる。
【0040】
また、前記正極活物質における前記元素Aと前記式(I)で示される化合物との質量比を調整することにより、サイクルの初期段階での抵抗の過剰増加を抑制し、サイクル容量の損失を低減するだけでなく、サイクルの後期段階での材料の破砕によるガス発生の問題を改善することができる。前記正極活物質における前記元素Aと前記式(I)で示される化合物との質量比が1:0.2~1:50であると、電気化学装置に優れた電気化学的性能を発揮させることができる。
【0041】
ドープ又は被覆された元素Aに対して、前記式(I)で示される化合物の添加量が多すぎると、充放電サイクルの初期段階で、過量の式(I)で示される化合物がSEI膜の形成に関与して、SEI膜が過剰に厚くなる可能性がある。SEI膜は正極活物質の保護を実現することに役立つが、厚すぎるSEI膜は正極活物質の表面での電荷移動抵抗の急速な増大を招くとともに、サイクル容量の損失を引き起こす。ドープ又は被覆された元素Aに対して、前記式(I)で示される化合物の添加量が少なすぎると、充放電サイクルの後期段階で、正極活物質粒子が破砕した場合、電解液中の式(I)で示される化合物の含有量は、新しい界面でのSEI膜の形成に関与するのに十分ではない可能性があり、これにより、サイクルの後期段階での電気化学装置のサイクル安定性を改善することが困難であるとともに、ガス発生を抑制することが困難である。
【0042】
非限定的な例として、前記式(I)で示される化合物は、
【化7】
の少なくとも一種である
【0043】
いくつかの実施例において、前記電解液は、1,3-プロパンスルトン(即ち、式(I-8)で示される化合物)及び1,3-プロパンスルトンの誘導体の少なくとも1種を同時に含む。いくつかの実施例において、前記1,3-プロパンスルトンの誘導体は、前記式(I-1)で示される化合物~前記式(I-7)で示される化合物の少なくとも1種を含むか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0044】
1,3-プロパンスルトンの誘導体を採用することにより、有機物分子全体の構造を維持しながら、置換基を増加することで、SEI膜の組成を変更するため、電気化学装置のサイクル安定性を基本的に低下させず、ガス発生量を増加させなく、1,3-プロパンスルトンの使用量を低減することができる。いくつかの実施例において、電解液で添加された1,3-プロパンスルトンの誘導体と1,3-プロパンスルトンとの質量比は、2:1より大きい。いくつかの実施例において、電解液で、前記式(I-1)で示される化合物~前記式(I-7)で示される化合物の少なくとも1種の総質量と前記式(I-8)で示される化合物の質量との比は2:1より大きい。前記質量比がこの範囲内にあることにより、電気化学装置のサイクル安定性を維持するとともに、1,3-プロパンスルトンの使用量を低減することができる。
【0045】
いくつかの実施例において、前記電解液は、さらに、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を含み、且つ、前記正極活物質における元素Aと前記LiPOとの質量比は1:0.01~1:20である。LiPOを添加することにより、電気化学装置のサイクル安定性をさらに改善することかできる。これは、LiPOを添加することで、SEI膜におけるLiF成分が増加して、SEI膜の安定性が向上し、副反応の発生がさらに減少するためである。また、前記正極活物質における元素Aと前記LiPOとの質量比を1:0.01~1:20の範囲内に調節することにより、LiPOがより良い役割を果たすように促進し、元素Aが電解液におけるHFに攻撃されるのを防ぎ、同時に正極表面の抵抗値を増加しないことができる。
【0046】
いくつかの実施例において、前記電解液は、さらに、式(II)で示される化合物を含み、式中、R17は無置換又は置換基を有するC-Cアルキル基であり、pは0又は1である。
【化8】
【0047】
前記式(II)で示される化合物を添加することにより、電気化学装置の充放電中のリチウムイオンの移動抵抗を低減し、電気化学装置の常温サイクル特性、レート特性及び低温環境下での放電表現を改善することができる。
いくつかの実施例において、前記式(II)で示される化合物は、
【化9】
の少なくとも一方を含み得る。
【0048】
しかしながら、式(II)で示される化合物は反応活性が高いので、正極活物質粒子の表面に形成されたSEI膜を破壊する。特に、充放電サイクルの後期段階で、式(II)で示される化合物によるSEI膜の持続的な破壊は、ガス発生を促進し、かつ電気化学装置のサイクル安定性を低下させる。従って、式(II)で示される化合物の含有量を一定の範囲に制御することにより、電気化学装置のサイクル安定性を改善し、ガス発生を低減するとともに、電気化学装置のレート特性と低温表現を両立させることができる。いくつかの実施例において、式(II)で示される化合物の含有量が前記電解液の総質量に占める百分率は20%以下である。いくつかの実施例において、式(II)で示される化合物の含有量が前記電解液の総質量に占める百分率は15%以下である。
【0049】
いくつかの実施例において、前記式(II)で示される化合物は、ジエチルカーボネート、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸エチル、酢酸プロピルの分解生成物に由来する可能性がある。
【0050】
いくつかの実施例において、前記電解液は、さらに、第一添加剤を含み、前記第一添加剤は、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンサルファイト、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリス(トリメチルシリル)ボラート、アジポニトリル、スクシノニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル及び1,3,5-ペンタントリカルボニトリルの少なくとも1種を含むか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0051】
いくつかの実施例において、前記電解液の総質量に対して、前記第一添加剤の含有量は、0.01%~30%、0.01%~20%、0.01%~10%、0.01%~5%、0.1%~30%、0.1%~20%、0.1%~10%、0.1%~5%、1%~30%、1%~20%、1%~10%、又は1%~5%である。
【0052】
いくつかの実施例において、前記電解液は、さらに、第二添加剤を含み、前記第二添加剤は、テトラフルオロほう酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム4,5-ジシアノ-2-トリフルオロメチルイミダゾール、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラート、及びリチウムビス(オキサラト)ボラートの少なくとも1種を含むか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0053】
いくつかの実施例において、前記電解液の総質量に対して、前記第二添加剤の含有量は、0.01%~20%、0.01%~10%、0.01%~5%、0.01%~3%、0.1%~20%、0.1%~10%、0.1%~5%、0.1%~3%、1%~20%、1%~10%、1%~5%、又は1%~3%である。
【0054】
本発明の前記第一添加剤及び前記第二添加剤は、より高い還元電位又はより低い酸化電位を有し、式(I)で示される化合物及び式(II)で示される化合物に優先して、正極活物質の表面にSEI膜を形成することができる。従って、電解液と正極活物質の表面との副反応を低減して、サイクルの初期段階での電気化学装置のサイクル安定性を改善するとともに、ガス発生を低減することができる。同時に、前記第一添加剤及び前記第二添加剤を添加することにより、化成段階とサイクルの初期段階での式(I)で示される化合物の消費を低減し、サイクルの後期段階で、前記式(I)で示される化合物が正極活物質粒子の破裂部に形成された新しい界面に安定なSEI膜を形成することを保証し、電気化学装置のサイクルの後期段階での電気化学的安定性を保障することができる。
【0055】
いくつかの実施例において、正極活物質粒子を正極に調製する過程において、冷間プレスプロセスを用いて正極活物質粒子を密接にプレスする必要がある。それによって、正極活物質層の圧縮密度を高めて、電気化学装置の直流抵抗(DCR)を低減する。また、前記冷間プレスプロセスは、正極活物質層と正極集電体を密接にプレスして、電気化学装置の充放電中で、正極活物質層と正極集電体との分離を防ぐ。しかしながら、冷間プレスプロセスで採用される圧力が大きいほど、正極活物質層の圧縮密度が大きくなって、正極活物質粒子が割れやすくなる。なお、電気化学装置の充放電過程は、リチウムイオンが正極活物質粒子に吸蔵放出される過程であり、この過程は正極活物質粒子の急激な体積変化を伴って、粒子の破砕を引き起こす。
【0056】
電極の調製の冷間プレス段階及び電気化学装置の充放電中での正極活物質の破砕の程度を軽減するために、本発明は、正極活物質として、異なる粒子のサイズを有する正極活物質の混合物を採用する。ここで、正極活物質粒子は、異なる円形度及び断面積を有する。大粒子と小粒子との配合により、正極の圧縮密度を高めるだけでなく、冷間プレス段階及びサイクル中の正極活物質の破砕を軽減して、それにより、電気化学装置のサイクル特性を改善するとともに、ガス発生を低減することができる。
【0057】
いくつかの実施例において、前記正極活物質層は第一粒子を含み、前記第一粒子の円形度は0.4以上であり、前記第一粒子の断面積は20μm以上である。
【0058】
いくつかの実施例において、第一粒子は多結晶粒子である。多結晶粒子は、多数の単結晶粒子の集合体であり、ここで、単結晶は、その内部の微粒子が三次元空間に規則的に周期的に配列される結晶体である。本発明の図1Aに示されるように、多結晶粒子の形態は球形又は楕円形であり、その円形度が大きく、かつ、断面積が大きい。
【0059】
小さな粒子径の粒子と比較して、大きな粒子径の粒子は、冷間プレスプロセス及び電気化学装置の充放電中で破砕される可能性が高い。いくつかの実施例において、正極活物質中の大きな粒子径の粒子の含有量を減少することにより、破砕の程度を効果的に緩和し、さらに副反応の発生を減少させることができる。いくつかの実施例において、前記正極の前記集電体に垂直な断面の総面積に対して、前記第一粒子の断面の総面積の割合は、10%~50%である。
【0060】
いくつかの実施例において、前記第一粒子は破砕粒子を含み、前記正極活物質層の断面における前記第一粒子の総面積に対して、前記破砕粒子の総面積は30%以下、28%以下、24%以下、20%以下、18%以下、15%以下、10%以下又は5%以下である。いくつかの実施例において、電気化学装置の放電容量が初期放電容量の80%~90%に減衰すると、前記正極活物質層の断面における前記第一粒子の総面積に対して、前記破砕粒子の総面積は20%以下、15%以下、10%以下又は5%以下である。
【0061】
いくつかの実施例において、前記正極活物質層は第二粒子を含み、前記第二粒子の円形度は0.4未満であり、前記第二粒子の断面積は20μm未満である。
【0062】
いくつかの実施例において、第二粒子は擬単結晶粒子を含む。擬単結晶粒子とは、数は少ないが結晶粒子のサイズが大きい単結晶の集合体である。本発明の図1Bに示されるように、擬単結晶粒子Bは、形態が不規則であり、円形度が小さく、断面積が小さい。
【0063】
第二粒子を添加することにより、第一粒子の破砕の程度を効果的に低減することができる。これは、第二粒子の形態が不規則で粒子の粒子径が小さいので、複数の第一粒子の間に充填して緩衝効果を発揮し、第一粒子の間の剛体衝突を減少させ、第一粒子の破砕の程度と副反応の発生を低減することができるためである。いくつかの実施例において、前記正極の前記集電体に垂直な断面の総面積に対して、前記第二粒子の断面の総面積の割合は、10%~60%である。
【0064】
いくつかの実施例において、前記正極の空隙率は25%以下である。
【0065】
いくつかの実施例において、前記正極の前記集電体に垂直な方向の断面積に対して、前記正極集電体の断面積の割合は5%~20%である。いくつかの実施例において、本発明に記載の正極活物質は、リチウム、少なくとも1種の活性金属及び元素Aを含み、ここで、活性金属元素は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、及びジルコニウム(Zr)の少なくとも1種を含むか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種である。本発明に記載の正極活物質の具体的な種類は、特に限定されず、必要に応じて選択すればよい。
【0066】
いくつかの実施例において、本発明に記載の正極活物質は、三元系材料を含む。用語「三元系材料」とは、当分野で公知の三元系材料であり、例えば「リチウムイオン電池三元系材料-プロセス技術及び生産応用」(王偉東、仇衛華、丁倩倩など編著、化学工業出版社、2015年5月)に記載の三元系材料である。いくつかの実施例において、本発明に記載の三元系材料は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む。
【0067】
いくつかの実施例において、本発明に記載の正極活物質は、下記式IIIで示される化合物を含み、
【化10】
式中、0.90≦n≦1.10、0.05≦a≦0.3、0.002≦b≦0.3、0.001≦c≦0.1、0≦m≦0.05、且つ0.60<1-b-c<0.95であり、元素Dは、S、F、N、Cl及びIの少なくとも1種を含むか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0068】
いくつかの実施例において、本発明に記載の正極活物質は、コバルト酸リチウムを含む。いくつかの実施例において、本発明に記載の正極活物質は、下記式IVで示される化合物を含み、
【化11】
式中、0.001≦e≦0.1,0≦f≦0.1であり、元素Dは、S、F、N、Cl及びIの少なくとも1種を含むか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0069】
前記正極集電体は、当分野で一般的に使用される正極集電体であり得る。いくつかの実施例において、前記正極集電体は、アルミニウム箔又はニッケル箔を含むが、これらに限定されない。
【0070】
いくつかの実施例において、前記正極活物質層は、本発明に記載の正極活物質に加えて、バインダー及び導電剤をさらに含む。
【0071】
バインダーは、正極活物質粒子同士の結合を高めるだけでなく、正極活物質と正極集電体との結合を高めることができる。いくつかの実施例において、バインダーは、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、カルボキシル化ポリビニルクロリド、ポリビニルフルオリド、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化スチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロンなどを含むが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施例において、前記正極活物質層の総質量に対して、前記バインダーの含有量は、1%~5%の範囲にある。本発明のいくつかの実施例において、前記正極活物質層の総質量に対して、前記バインダーの含有量は、1.25%~5%の範囲にある。
【0072】
導電剤は、電極の導電性を高めるために使用し得る。本発明は、導電剤として、望ましくない化学変化を引き起こさない限り、任意の導電材を採用しても良い。いくつかの実施例において、導電材は、炭素による材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維など)、金属による材料(例えば、金属粉末、金属繊維など、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などを含む)、導電性ポリマー(例えば、ポリフェニレン誘導体)、及びそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0073】
いくつかの実施例において、本発明に記載の電気化学装置は、さらに、負極を含み、前記負極は、負極活物質層及び負極集電体を含み、前記負極活物質層は本発明に記載の負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出できる。負極活物質の具体的な種類は、特に限定されず、必要に応じて選択すればよい。いくつかの実施例において、負極活物質は、炭素材料、ケイ素材料、合金系材料、リチウム金属を含む複合酸化物材料の1種又は複数種を含み得るか、又はそれらからなる群から選ばれる1種又は複数種であり得る。いくつかの実施例において、炭素材料は、結晶性炭素、非晶質炭素及びそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。結晶性炭素は、アモルファス又はシート状、フレーク形状、球状もしくは繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛であり得る。非晶質炭素は、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチカーバイド、仮焼コークス等であり得る。
【0074】
いくつかの実施例において、前記負極活物質の例は、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMBと呼ばれる)、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン、ケイ素-炭素複合体、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のリチウム化TiO-LiTi12、Li-Al合金の少なくとも1種を含むが、これらに限定されない。
【0075】
いくつかの実施例において、前記負極集電体は、当分野で一般的に使用される負極集電体であり得る。前記負極集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケルフォーム、銅フォーム、導電性金属で被覆されたポリマー基質、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0076】
いくつかの実施例において、本発明に記載の負極活物質層は、負極活物質に加えて、バインダーと導電剤をさらに含む。負極におけるバインダーと導電剤は、前記のような同じ材料を採用することができ、ここでは過多な説明はしない。
【0077】
いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、短絡を防止するために、正極と負極の間に設けるセパレータを含む。本発明の電気化学装置に使用されるセパレータの材料と形状は、特に制限はなく、先行技術で開示された任意の材料と形状であってもよい。いくつかの実施例において、セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料から形成されたポリマー又は無機物等を含む。
【0078】
いくつかの実施例において、セパレータは、基材層及び表面処理層を含む。基材層は、多孔質構造を有する不織布、フィルム又は複合フィルムである。いくつかの実施例において、基材層の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリイミドの少なくとも1種を含み得るか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種であり得る。具体的には、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜などを選択して使用することができる。
【0079】
いくつかの実施例において、表面処理層は、ポリマー層、無機物層、又はポリマーと無機物で形成された混合層であり得るが、これらに限定されない。
【0080】
無機物層は、無機セラミック粒子を含み得る。いくつかの実施例において、無機セラミック粒子は、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び硫酸バリウムの1種又は複数種の組み合わせを含み得るか、又はそれらからなる群から選ばれる1種又は複数種の組み合わせであり得る。
【0081】
いくつかの実施例において、無機物層は、バインダーをさらに含む。いくつかの実施例において、バインダーは、ポリビニリデンフルオリド、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンの1種又は複数種の組み合わせを含み得るか、又はそれらからなる群から選ばれる1種又は複数種の組み合わせであり得る。
【0082】
いくつかの実施例において、ポリマー層は、ポリマーを含み得る。いくつかの実施例において、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニリデンフルオリド、ポリ(ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレン)の少なくとも1種を含み得るか、又はそれらからなる群から選ばれる少なくとも1種であり得る。
【0083】
いくつかの実施例において、前記基材層と前記表面処理層との厚さの比は2:1~50:1、2:1~40:1、2:1~30:1、又は2:1~20:1である。
【0084】
当業者は、本発明の電気化学装置がリチウムイオン電池であってもよく、他の任意の適切な電気化学装置であってもよいことを理解すべきである。本発明の実施例における電気化学装置は、本開示の内容から逸脱することなく、電気化学反応を起こる任意の装置を含み、その具体例としては、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又はコンデンサが含まれる。特に、前記電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、又はリチウムイオンポリマー二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0085】
本発明の電気化学装置の使用は、特に制限はなく、先行技術で公知の任意の用途に使用することができる。本発明のいくつかの実施例によれば、本発明の電気化学装置は、電子装置に使用することができる。ここで、前記電子装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子ノートブック、計算機、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、家庭用大型バッテリー、及びリチウムイオンコンデンサー等を含むが、これらに限定されない。
【0086】
以下では、リチウムイオン電池を例として挙げて、比較例と実施例を結合して、本発明の技術案を更に説明するが、これに限定されるものではない。当業者は、本発明に記載された調製方法が例示的な実施例にすぎず、本発明の技術案の範囲を逸脱することなく、本発明の技術案に対する任意の修正又は置換は本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
【実施例
【0087】
リチウムイオン電池の調製
以下の調製方法を採用して、実施例と比較例における正極活物質をリチウムイオン全電池に調製した。
【0088】
(1)正極の調製:以下の実施例及び比較例で調製した正極活物質、導電剤Super P、及びポリビニリデンフルオリド(PVDF)を、重量比97.7:1.3:1.0でN-メチルピロリドンに十分に攪拌し、均一に混合して、正極スラリーを制作した。そして、得られた正極スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔に均一に塗布し、85℃で乾燥して、正極活物質層を得た後、冷間プレスし、スリットし、切片し、正極のタブを溶接して、正極が得られた。
【0089】
(2)負極の調製:人造黒鉛、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を、重量比97:1:2で脱イオン水に十分に攪拌し、均一に混合して、負極スラリーを制作した。そして、得られた負極スラリーを負極集電体である銅箔に均一に塗布し、85℃で乾燥して、負極活物質層を得た後、冷間プレスし、スリットし、切片し、負極のタブを溶接して、負極が得られた。
【0090】
(3)電解液の調製:乾燥したアルゴン雰囲気のグローブボックスに、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びジエチルカーボネート(DEC)を質量比15:25:60で混合し、続いて、添加剤を加え、溶解させて十分に攪拌し、その後、リチウム塩であるLiPFを加え、均一に混合して、電解液が得られた。ここで、LiPFの濃度は1.20mol/Lである。電解液に使用された添加剤の具体的な種類と含有量を表1~表3に示す。
【0091】
(4)セパレータの調製:セパレータとして厚さ9μmのポリエチレン(PE)を使用し、無機粒子(シート状ベーマイトとAlとの質量比は70:30である)をポリビニリデンフルオリド(PVDF)に均一に分散させて、スラリーが得られた。スラリーをセパレータの両面にそれぞれ塗布し、乾燥して、セパレータが得られた。コーティングの総厚さは3μmである。
【0092】
(5)リチウムイオン電池の組立:セパレータが正極と負極の間に介在して隔離の役割を果たすように、正極、セパレータ、負極を順に積層して、次に、巻回して、タブを溶接した後、ベアセルが得られた。ベアセルを外装であるアルミプラスチックフィルムに置き、調製された電解液を注入し、真空パッケージ、静置、化成、整形、容量測定などの工程を経って、ソフトパックリチウムイオン電池が得られた。
【0093】
電解液の質量の測定方法
電池を0.1Cの定電流で2.8Vまで放電し、電池の重量を秤量し、m0と記し、その後、電池を分解し、すぐに分解して得られたベアセル及び外装であるアルミプラスチックフィルムを高純度のアセトニトリル(純度≧99.9%)に入れて抽出し、ガスクロマトグラフィーを用いて、得られた清液を測定し、電解液における各成分の相対含有量が得られた。抽出した後のベアセル及び外装であるアルミプラスチックフィルムを真空オーブンに乾燥して、総質量を秤量し、m1と記す。電池における各成分の実際の質量は、(m0-m1)と各成分の相対含有量の積である。
【0094】
正極における元素Aの含有量の測定方法
前記電解液の質量の測定で乾燥したベアセルにおける正極を取り出し、分解して得られた正極の重量を秤量し、m2と記し、両面に正極活物質が塗布された領域を選択し、直径18mmの小さなディスクに打ち抜き、その重量を秤量し、m3と記す。この小さなディスクを10枚取って王水で完全に溶解し、その後真空で吸引濾過し、20mLの純水で洗浄し、このステップを2回繰り返して、ろ液が得られた。その後、このろ液を容量フラスコに移して、100mLの標線まで液体を満たし、標準曲線法を使用して誘導結合プラズマICPによって測定したところ、元素Aの濃度がc0(mg/L)である。使用した正極の厚さと正極の長さから、得られたこの正極中の基材の総質量をm4として算出し、直径18mmの小さなディスクに対応する正極集電体の質量をm5として算出した。電池中の元素Aの質量はc0×100×(m2-m4)/(m3-m5)である。
【0095】
正極活物質が片面に塗布された領域の正極について、単位面積あたりの活物質の質量は、両面に塗布された領域の正極活物質の重量の半分として算出された。
【0096】
正極活物質粒子の断面積及び断面積の割合の測定
イオンポリッシャー(型番:日本電子-IB-09010CP)を使用して、正極集電体に垂直な方向に正極を切断し、断面が得られた。走査型電子顕微鏡を使用して、前記断面を適切な倍率で観察し、後方散乱モードで写真を撮り、Image Jソフトウェアの画像認識機能を使用して粒子A、粒子Aにおける破砕粒子、集電体を識別し、それぞれそれらの対応する面積を算出した。正極シートの断面の総面積はSであり、粒子Aの総面積はS1(破砕粒子を含む)であり、粒子Aにおける破砕粒子の総面積はS2であり、正極集電体の面積はS3であり、空隙率はPであり、導電剤とバインダーの面積を無視する。本発明において、粒子Aの円形度は0.4以上であり、単一の粒子Aの断面積は20μm以上である。
【0097】
粒子Aの総面積の割合=S1/S×100%
粒子Aにおける破砕粒子の総面積の割合=S2/S×100%
粒子Aの総面積に対する破砕粒子の総面積の割合=S2/S1×100%
粒子Bの総面積の割合=(S-S1-S3)/S×100%-P
【0098】
セパレータの基材層及び表面処理層の厚さの測定
イオンポリッシャー(型番:IB-19530CP)を使用して、イオン源でアルゴンガスをイオン化し、加速して、合焦した後、セパレータの断面を研磨し、走査型電子顕微鏡で研磨面に垂直な方向に沿ってセパレータ及び表面コーティングの厚さを観察した。
【0099】
リチウムイオン電池の厚さ変化率とサイクル特性の測定
実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池を45℃の恒温箱に入れ、30分間静置した。そして、リチウムイオン電池を1.0Cの電流にて定電流で電圧4.2Vまで充電し、その後、4.2Vにて定電圧で電流0.05Cまで充電し、4Cの電流にて定電流で電圧2.8Vまで放電し、これは一つの充放電サイクルである。上記のステップに従って、この充放電サイクルを600サイクル繰り返した。初期放電容量と600サイクル後の放電容量をそれぞれC及びC600と記し、式(C600/C)×100%により、サイクル容量維持率を算出した。これは、高温サイクル容量維持率である。
【0100】
同時に、マイクロメーターを使用して、実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池の初期厚さをηとして、600充放電サイクル後の実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池の厚さをηとして、測定した。式(η/η)×100%により、リチウムイオン電池の厚さ変化率を算出した。
【0101】
常温サイクル容量維持率の測定方法は、温度が25℃であること以外、高温サイクル容量維持率の測定方法と同じである。
【0102】
リチウムイオン電池のインターバルサイクル(Interval Cycle,ITC)の測定
実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池を45℃の恒温箱に入れ、30分間静置した。そして、リチウムイオン電池を0.5Cの電流にて3.0Vまで放電し、その後、1Cの電流にて4.2Vまで充電し、24時間静置して、これは一つの充放電サイクルである。上記のステップに従って、この充放電サイクルを100サイクル繰り返した。初期放電容量と100サイクル後の放電容量をそれぞれC及びC100と記し、式(C100/C)×100%により、サイクル容量維持率を算出した。
【0103】
同時に、マイクロメーターを使用して、実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池の初期厚さをηとして、100充放電サイクル後の実施例及び比較例におけるリチウムイオン電池の厚さをηとして、測定した。式(η/η)×100%により、リチウムイオン電池の厚さ変化率を算出した。
【0104】
リチウムイオン電池の放電容量維持率
リチウムイオン電池を高温・低温箱に入れ、まず、25℃に調節し、30分間静置した。その後、リチウムイオン電池を0.5Cの電流にて4.2Vまで充電し、定電圧で電流0.02Cまで充電し、10分間静置し、0.5Cの電流にて3.0Vまで放電し、放電容量をD0として記した。その後、0.5Cの電流にて定電流で4.2Vまで充電し、定電圧で電流0.02Cまで充電し、高温・低温箱の温度を-20℃に調節し、30分間静置し、0.5Cにて定電流で3.0Vまで放電し、容量をD1として記した。放電容量維持率=D1/D0×100%
【0105】
以下、本発明の具体的な実施態様を詳細に説明する。
【0106】
実施例1-1~実施例1-33及び比較例1-1~比較例1-3
表1中の実施例及び比較例で採用された正極活物質はLi(Ni0.8Co0.1Mn0.1)Aであり、ここで、元素Aのコーナーマークcは、元素Aの含有量に基づいて決定される。なお、表1中の実施例及び比較例で採用された正極活物質は、いずれも円形度が0.4以上である第一粒子及び円形度が0.4未満である第二粒子を含む。
【0107】
その中、実施例1-1~実施例1-33及び比較例1-1~比較例1-3では、正極の集電体に垂直な方向の断面を走査型電子顕微鏡で分析し、この正極の断面の総面積に対して、第一粒子の断面の総面積の割合は22.4%であり、第二粒子の断面の総面積の割合は44.3%である。
【0108】
表1
【表1-1】
【表1-2】
注1:表1中の元素Aの含有量は、電池に添加された元素Aの総質量を指し、単位はgであり;表1中の構造式Iで示される化合物の添加量は、電池に添加された構造式Iで示される化合物の総質量を指し、単位はgである。
【0109】
比較例1-1~比較例1-3と比較して、実施例1-1~実施例1-9では、正極活物質に元素Alと元素Zrをドープし、実施例1-10では、正極活物質に元素Alと元素Tiをドープするとともに、実施例1-1~実施例1-10では、電解液に式(I-8)で示される化合物を添加し、かつ、ドープされた元素の質量と式(I-8)で示される化合物の質量との比が1:0.2-1:50の範囲内にあった。電気化学データに示されるように、一般的な高温サイクル測定でも、ITC測定でも、比較例1-1~比較例1-3と比較して、実施例1-1~実施例1-10の電気化学装置のサイクル安定性はより良く、かつ、サイクル前後の電池の厚さの変化はより小さい(ガス発生の程度が低いことを示す)。これは、正極活物質にドープされた元素と電解液中の構造式Iで示される分子が相互作用し、正極活物質粒子の表面に効果的な保護膜が形成され、正極活物質粒子と電解液との副反応を減少させ、電気化学装置のサイクル安定性を改善することを十分に示す。
実施例1-11~実施例1-16は、実施例1-6と比較して、実施例1-11~実施例1-16の電解液に、一定の含有量のLiPOをさらに添加した。電気化学データに示されるように、実施例1-6と比較して、実施例1-11~実施例1-16の電気化学装置は、より優れたサイクル安定性、及びより低いガス発生の程度を示す。類似的に、実施例1-27~実施例1-29は、実施例1-23に対応して、その改善点も、電解液に一定の含有量のLiPOをさらに添加したことである。電気化学データに示されるように、実施例1-23と比較して、実施例1-27~実施例1-29の電気化学装置の電気化学的性能はより優れる。これは、LiPOを添加することにより、正極と負極の表面に保護層を効果的に形成し、且つ抵抗を低減し、イオン伝達を促進することができるためである。
【0110】
実施例1-17では、電解液中の式(I-8)で示される化合物を式(I-3)で示される化合物に置き換えた。実施例1-18~実施例1-26は、電解液に式(I-1)~式(I-3)で示される化合物の一つと式(I-8)で示される化合物とを同時に含む混合物を含んだ。電気化学データに示されるように、全体的なレベルから、実施例1-17~実施例1-26の電気化学装置の電気化学的性能は、実施例1-1~実施例1-10の電気化学装置の電気化学的性能と基本的に同じである。しかしながら、実施例1-17~実施例1-26の利点は、式(I-8)で示される化合物の使用量を低減することができることである。従って、それは重要な商業的応用価値がある。
【0111】
実施例1-30~実施例1-33では、正極活物質に他の元素がドープされた。電気化学データに示されるように、実施例1-30~実施例1-33の電気化学装置は、優れたサイクル安定性、及び低いガス発生の程度を示す。
【0112】
実施例2-1~実施例2-11
実施例2-1~実施例2-11は、実施例1-6に対応する。その改善点は、電解液に式IIで示される化合物をさらに添加したことである。電気化学データに示されるように、実施例1-6と比較して、実施例2-1~実施例2-5の電気化学装置は、常温でのサイクル安定性がわずかに低下するが、低温での放電性能がさらに改善される。実施例2-6~実施例2-8のデータに示されるように、電気化学装置の電解液に式(I-8)で示される化合物と式(I-3)で示される化合物との混合物を採用することにより、実施例1-6と比較して、電気化学装置のサイクル安定性及び低温放電性能を高めることができる。さらに、実施例2-9~実施例2-11のデータに示されるように、電解液にLiPOをさらに添加することにより、電気化学装置の電気化学的性能をさらに改善することができる。これは、式IIで示される化合物を添加することにより、前記電気化学装置の低温放電性能と常温サイクル特性をさらに改善することができ、この上で、式Iで示される化合物及びLiPOと組み合わせることにより、電気化学装置のサイクル特性を効果的に向上させるとともに、抵抗を低減して、放電容量維持率をさらに向上させることができることを示す。
【0113】
【表2】
【0114】
実施例3-1~実施例3-11
実施例3-9と実施例1-19の違いは、実施例3-9の電解液に第一添加剤をさらに添加したことである。実施例1-19と比較して、実施例3-9の電気化学装置は、より優れたサイクル安定性、及びより低いガス発生の程度を示す。実施例3-1~実施例3-8及び実施例3-10~実施例3-11では、電解液に、第一添加剤及び/又は第二添加剤と式IIで示される化合物との組み合わせを同時に添加した。電気化学データに示されるように、これらの実施例に対応する電気化学装置は、すべて、優れた電気化学的性能、特に、優れたサイクル安定性及び低いガス発生の程度を示すことができる。これは、主に、第一添加剤及び/又は第二添加剤の酸化電位が式Iで示される化合物の酸化電位よりも低く、第一添加剤及び/又は第二添加剤の還元電位が式Iで示される化合物の還元電位よりも高いので、式Iで示される化合物に優先して、電極の表面に保護層を形成して、副反応を低減し、サイクル中の界面の安定性を確保することができるためである。
【0115】
【表3】
【0116】
実施例4-1~実施例4-14及び比較例4-1~比較例4-2
表4-1における実施例では、異なる正極活物質に対して、異なる元素Aが添加された。ドーピング前の正極活物質の分子式、元素Aの種類と含有量、ならびに正極活物質層における第一粒子の割合及び第二粒子の割合を表4-1に示す。比較例4-1と比較して、実施例4-1及び実施例4-2は、正極活物質において、LiNi0.6Co0.2Mn0.2に対して、元素をドープした。電気化学データを比較すると、正極活物質に元素をドープし、電解液に式(I)で示される化合物を添加し、ドープされた元素の質量と式(I)で示される化合物の質量との比が1:0.2-1:50の範囲内にあるように調整することにより、正極活物質中の第一粒子の粒子破砕率をさらに低下し、対応する電気化学装置のサイクル安定性を大幅に改善し、かつ、ガス発生の程度を低減することがわかる。比較例4-2と実施例4-3~実施例4-5とを比較しても、同じ結論を得ることができる。
【0117】
実施例1-19及び実施例4-6~実施例4-10は、LiNi0.8Co0.1Mn0.1に対して、元素をドープした。電気化学データに示されるように、これらの実施例に対応する電気化学装置は、すべて、優れたサイクル安定性及び低いガス発生の程度を示すことができる。また、正極活物質における第一粒子の割合を適切に低減することにより、電極シートの調製及び電気化学装置の充放電中の第一粒子の破砕の程度を低減するとともに、サイクル特性を改善し、ガス発生を低減することができる。
【0118】
実施例3-3及び実施例4-11~実施例4-14は、LiNi0.8Co0.1Mn0.1に対して、元素をドープした。実施例3-3と実施例4-11~実施例4-14との違いは、第一粒子の総面積の割合と第二粒子の総面積の割合である。実施例3-3及び実施例4-11~実施例4-12と実施例4-13及び実施例4-14とを比較すると、第一粒子の割合及び第二粒子の割合が一定の範囲にあることにより、より優れたサイクル特性を得るとともに、ガス発生を低減することができる。
【0119】
【表4-1】
【表4-2】
【0120】
以上の実施例により、コバルト酸リチウム(LiCoO)系に元素をドープしても、三元系材料(LiNi0.6Co0.2Mn0.2及びLiNi0.8Co0.1Mn0.1)に元素をドープしても、ドープした正極活物質は電解液中の構造式Iで示される分子と相互作用することができ、電気化学装置の全使用過程における長寿命と低ガス発生レベルを保証することができることを十分に説明する。
【0121】
なお、正極活物質に第一粒子と第二粒子との混合物を同時に採用することにより、第二粒子が第一粒子の破砕を効果的に緩和することができるため、正極活物質粒子と電解液との副反応を減少するとともに、電気化学装置のサイクル安定性を改善することができる。
【0122】
明細書全体では、「いくつかの実施例」、「実施例の一部」、「一つの実施例」、「他の一例」、「例」、「具体例」又は「例の一部」による引用は、本発明の少なくとも一つの実施例又は例は、当該実施例又は例に記載された特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。従って、明細書全体の各場所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「他の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」又は「例」は、必ずしも本発明での同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、任意の好適な形態で組み合わせることができる。
【0123】
例示的な実施例が開示及び説明されるが、当業者は、上述実施例が本発明を限定するものとして解釈されることができないこと、かつ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例を変更、置換及び変更することができること、を理解すべきである。
図1A
図1B